(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/344 20060101AFI20240117BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
F04C2/344 331D
F04C15/00 E
(21)【出願番号】P 2020092179
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一成
(72)【発明者】
【氏名】矢加部 新司
(72)【発明者】
【氏名】栗田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】進藤 翔太
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-303773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に連結されたロータと、
前記ロータに対して径方向に往復動自在に設けられる複数のベーンと、
前記ロータの回転に伴って前記ベーンの先端が摺動する内周面を有するカムリングと、
前記ロータと前記カムリングと一対の隣り合う前記ベーンとによって区画されるポンプ室と、
前記ポンプ室に作動流体を導く吸込ポートと、
前記ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、
前記吸込ポートの開口縁部から前記ロータの回転方向とは逆方向に向かって形成されるノッチと、を備え、
前記ポンプ室の容積が収縮する吐出領域から前記ポンプ室の容積が拡大する吸込領域へと前記ロータの回転に伴い遷移する領域である遷移領域では、前記ポンプ室は
、前記吐出ポートに連通し、かつ、前記ノッチを通じて
のみ前記吸込ポートに連通していることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ロータの中心に対する隣り合う前記ベーン間の角度間隔は、前記吸込ポートと前記吐出ポートとの間の角度間隔以下に設定されると共に、前記ノッチと前記吐出ポートとの間の角度間隔は、隣り合う前記ベーンの角度間隔より小さく設定されることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転駆動されるロータと、ロータに放射状に形成される複数のスリットと、スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、ベーンの先端部が摺接する内周カム面と、内周カム面と隣り合うベーンとの間に画成されるポンプ室と、ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、を備えるベーンポンプが開示されている。
【0003】
このベーンポンプでは、ロータの回転に伴ってポンプ室の容積が拡大する吸込領域4bと、ポンプ室の容積が収縮する吐出領域4cと、吸込領域4bと吐出領域4cとの間の遷移領域4dと、が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるようなベーンポンプでは、ポンプ室が吸込ポート及び吐出ポートのいずれにも連通せずに閉じ込まれると、ポンプ室内の圧力が急激に上昇し振動や異音の原因となることがある。よって、このようなベーンポンプでは、遷移領域4dにおいてポンプ室を吸込ポートと吐出ポートの両方に連通させて、ポンプ室の閉じ込みを防ぐことがある。
【0006】
しかしながら、ポンプ室を吸込ポートと吐出ポートとの両方に連通させると、相対的に高圧である吐出ポートの作動流体がポンプ室を通じて吸込ポートに導かれるおそれがある。このような吐出ポートから吸込ポートへの作動流体の流れが生じると、ベーンポンプから吐出される作動流体の流量が減少するため、ポンプの容積効率が低減する。
【0007】
したがって、ポンプ室の閉じ込みを防止しつつポンプの容積効率を確保するには、ベーンポンプに対する設計精度や加工精度が高い水準で求められることになり、困難なものであった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ポンプ室の閉じ込みを防止しつつポンプの容積効率を向上させることができるベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ベーンポンプであって、駆動軸に連結されたロータと、ロータに対して径方向に往復動自在に設けられる複数のベーンと、ロータの回転に伴ってベーンの先端が摺動する内周面を有するカムリングと、ロータとカムリングと一対の隣り合うベーンとによって区画されるポンプ室と、ポンプ室に作動流体を導く吸込ポートと、ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、吸込ポートの開口縁部からロータの回転方向とは逆方向に向かって形成されるノッチと、を備え、ポンプ室の容積が収縮する吐出領域からポンプ室の容積が拡大する吸込領域へとロータの回転に伴い遷移する領域である遷移領域では、ポンプ室は、吐出ポートに連通し、かつ、ノッチを通じてのみ吸込ポートに連通していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、ロータの中心に対する隣り合うベーン間の角度間隔は、吸込ポートと吐出ポートとの間の角度間隔以下に設定されると共に、ノッチと吐出ポートとの間の角度間隔は、隣り合うベーンの角度間隔より小さく設定されることを特徴とする。
【0011】
これらの発明では、ポンプ室が吐出ポートに連通した状態から遮断される状態に切り換わる際にはノッチを通じて吸込ポートに連通しているため、ポンプ室の閉じ込みが防止される。また、ポンプ室はノッチを通じて吸込ポートに連通するものであるため、吐出ポートからポンプ室を通じて吸込ポートへ向かう作動流体の流れには、ノッチによって抵抗が付与される。よって、吐出ポートから吸込ポートへ向かう作動流体の流量が抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベーンポンプのポンプ室の閉じ込みを防止しつつ容積効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るベーンポンプの断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るベーンポンプのロータ、カムリング、及びサイドプレートの側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るベーンポンプのサイドプレートの側面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るベーンポンプの遷移領域におけるポンプ室の周辺を示す第1拡大図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るベーンポンプの遷移領域におけるポンプ室の周辺を示す第2拡大図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るベーンポンプの遷移領域におけるポンプ室の周辺を示す第3拡大図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るベーンポンプの遷移領域におけるポンプ室の周辺を示す第4拡大図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るベーンポンプの圧力室の圧力変動を模式的に示すグラフ図である。
【
図9】
図8において回転角がθ3付近を拡大したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るベーンポンプ100について説明する。
【0015】
ベーンポンプ100は、車両や産業機械に搭載される流体圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の流体圧供給源として用いられる。本実施形態では、作動油を作動流体とする固定容量型のベーンポンプ100について説明する。なお、ベーンポンプ100は、可変容量型のベーンポンプであってもよい。
【0016】
ベーンポンプ100は、駆動軸1の端部にエンジン等の駆動源(図示省略)の動力が伝達され、駆動軸1に連結されたロータ2が回転するものである。ロータ2は、
図2において時計回りに回転する。ベーンポンプ100の駆動源は、エンジンに代えて、電動モータであってもよい。
【0017】
図1及び2に示すように、ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動自在に設けられる板状の複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共にロータ2の回転に伴って内周面であるカム面4aにベーン3の先端部が摺接するカムリング4と、ロータ2及びカムリング4を収容するハウジング5と、を備える。
【0018】
ロータ2、カムリング4、及び一対の隣り合うベーン3によって、複数のポンプ室6が区画される(
図2参照)。
【0019】
ロータ2は環状部材であり、駆動軸1の先端部にスプライン結合によって連結される。ロータ2には、外周面に開口するスリット2aが放射状に形成され、スリット2aにはベーン3が摺動自在に挿入される。スリット2aの底部には、ベーン3の底面によって背圧室2bが区画される。
【0020】
カムリング4は、カム面4aが短径と長径を有する略楕円形状をした環状部材である。カムリング4は、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6の容積を拡張する2つの吸込領域4bと、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6の容積を収縮する2つの吐出領域4cと、吸込領域4bと吐出領域4cとの間に形成される4つの遷移領域4dと、を有する。つまり、ロータ2が1回転する間に、ベーン3は2往復しポンプ室6は収縮と拡張を2回繰り返す。吸込領域4b、吐出領域4c、及び遷移領域4dは、カム面4aの形状によって規定される。
【0021】
図1に示すように、ロータ2及びカムリング4の一側面には、第1サイドプレート10が当接して配置される。
【0022】
ロータ2、カムリング4、及び第1サイドプレート10は、ハウジング5に凹状に形成されたポンプ収容部5aに収容される。ポンプ収容部5aは、ポンプカバー7によって封止される。ポンプカバー7は、ロータ2及びカムリング4の他側面に当接して配置される。第1サイドプレート10とポンプカバー7は、ロータ2及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置され、ポンプ室6を密閉する。第1サイドプレート10及びポンプカバー7は、ロータ2及びカムリング4の一側面に当接して配置されるサイド部材として機能する。
【0023】
ポンプ収容部5aの底面5bには、ポンプ室6から吐出される作動油が導かれる高圧室8が環状に形成される。高圧室8は、底面5bに配置される第1サイドプレート10によって区画される。高圧室8は、ハウジング5の外面に開口して形成される吐出通路(図示省略)に連通する。
【0024】
ポンプカバー7におけるロータ2が摺動する端面7aには、カムリング4の2つの吸込領域4bに対応して開口し、ポンプ室6に作動油を導く円弧状の2つの吸込ポート(図示省略)が形成される。また、ポンプカバー7の端面7aには、カムリング4の吐出領域4cに対応して開口する円弧状の2つの吐出ポート7bが溝状に形成される。さらに、ポンプカバー7には、吸込ポートを通じてタンクの作動油をポンプ室6へと導く吸込通路(図示省略)が形成される。
【0025】
図3は、第1サイドプレート10におけるロータ2が摺動する端面10aの平面図である。
図3に示すように、第1サイドプレート10は、円板状部材であり、2つの吸込ポート11と2つの吐出ポート12とを有する。
【0026】
吸込ポート11は、カムリング4の2つの吸込領域4bに対応して開口し、ポンプ室6に作動油を導くように、第1サイドプレート10の端面10aに溝状に形成される。吸込ポート11は、ポンプ収容部5aの内周面に形成された通路(図示省略)を通じてポンプカバー7の吸込ポートと連通している。したがって、吸込通路からの作動油は、ポンプカバー7の吸込ポート及び第1サイドプレート10の吸込ポート11を通じてポンプ室6に導かれる。
【0027】
吐出ポート12は、第1サイドプレート10に円弧状に貫通して形成される。吐出ポート12は、カムリング4の吐出領域4cに対応して形成され、ポンプ室6の作動油を高圧室8へ吐出する。
【0028】
また、第1サイドプレート10の端面10aには、吸込ポート11の端部に連通するノッチ20と、吐出ポート12の端部に連通するノッチ21と、がそれぞれ溝状に形成される。
【0029】
ノッチ20は、2つの吸込ポート11のそれぞれに形成される。ノッチ20は、
図3に示すように、吸込ポート11における回転方向の後方にある開口縁部(端部)から、回転方向とは逆方向に向かって形成される。
【0030】
ノッチ20は、ロータ2の回転方向に向かって開口面積が徐々に大きくなるように溝状に形成される。ノッチ20の開口面積とは、ロータ2の径方向に沿う面のノッチ20の断面積である。ロータ2の径方向に沿う面のノッチ20の断面形状は、V字状に形成される。ノッチ20の溝深さは、ロータ2の回転方向に向かって徐々に大きくなるように形成される。また、ノッチ20は、吸込ポート11の径方向内側の内壁面に接続される。
【0031】
ノッチ21は、2つの吐出ポート12のそれぞれに形成される。ノッチ21は、吸込ポート11のノッチ20と同様に、ロータ2の回転方向に向かって開口面積が徐々に大きくなるように溝状に形成される。
【0032】
第1サイドプレート10には、高圧室8からロータ2の背圧室2b(
図2参照)へ作動油を導く2つの背圧通路15が貫通して形成される。また、第1サイドプレート10の端面10aには、背圧室2bが連通する円弧溝16が4つ形成される。
【0033】
カムリング4、第1サイドプレート10、及びポンプカバー7は、2つの位置決めピン(図示省略)によって相対回転が規制される。これにより、カムリング4の吸込領域4b及び吐出領域4cに対する第1サイドプレート10の吸込ポート11及び吐出ポート12の位置決め、及びポンプカバー7の吸込ポート及び吐出ポート7bの位置決めが行われる。また、第1サイドプレート10の吸込ポート11とポンプカバー7の吸込ポートは、互いに対応した位置に形成される。第1サイドプレート10の吐出ポート12とポンプカバー7の吐出ポート7bは、互いに対応した位置に形成される。
【0034】
エンジンの駆動により駆動軸1が回転すると、駆動軸1に連結されたロータ2が回転し、それに伴ってカムリング4内の各ポンプ室6は、吸込領域4bにおいてポンプカバー7の吸込ポート及び第1サイドプレート10の吸込ポート11を通じて作動油を吸込み、吐出領域4cにおいてポンプカバー7の吐出ポート7b及び第1サイドプレート10の吐出ポート12を通じて作動油を高圧室8に吐出する。高圧室8の作動油は、吐出通路を通じて流体圧機器へ供給される。このように、カムリング4内の各ポンプ室6は、ロータ2の回転に伴う拡縮によって作動油を給排する。
【0035】
以下、
図4~7を参照して、ベーンポンプ100の作用について説明する。
【0036】
図4~7は、吐出領域4cから吸込領域4bに遷移する際の遷移領域4dにおけるポンプ室6の周辺を拡大して示す図である。
図4~7における矢印は、ロータ2の回転方向を示している。
【0037】
図4に示す状態では、ポンプ室6は、吐出ポート12と連通する一方、吸込ポート11とは連通していない。
【0038】
図4に示す状態からロータ2がさらに回転すると、ポンプ室6は、吐出ポート12と連通し、かつ、吸込ポート11とは直接は連通せずにノッチ20のみを通じて連通した状態となる(
図5参照)。このように、遷移領域4dでは、ポンプ室6は、吐出ポート12及び吸込ポート11の両方に連通した状態となるように構成され、吐出ポート12及び吸込ポート11のいずれとも連通しない状態が生じないように構成される。これにより、遷移領域4dにおいてポンプ室6内での作動油の閉じ込みが防止される。なお、詳細な説明は省略するが、吸込領域4bから吐出領域4cに遷移する際の遷移領域4dにおいても、吐出ポート12のノッチ21によって、吸込ポート11と吐出ポート12とが連通し、ポンプ室6の閉じ込みが防止される。
【0039】
図5に示す状態からさらにロータ2が回転すると、ポンプ室6は、ノッチ20のみを通じて吸込ポート11と連通した状態を維持しつつ、吐出ポート12との連通が遮断された状態となる(
図6参照)。つまり、ロータ2の回転に伴いポンプ室6が吐出ポート12に連通した状態(
図5に示す状態)から遮断される状態(
図6に示す状態)に遷移する過程において、ポンプ室6は、吸込ポート11に直接連通はせずにノッチ20のみを通じて吸込ポート11に連通する状態が維持される。
【0040】
そして、この状態からさらにロータ2が回転すると、ポンプ室6は、ノッチ20を通じてのみならず、吸込ポート11に直接連通する状態となる(
図7参照)。ポンプ室6が吸込ポート11と直接連通する際には、ポンプ室6と吐出ポート12との連通は遮断されている。
【0041】
なお、図示は省略するが、ポンプカバー7に形成される吸込ポート及び吐出ポート7bには、それぞれノッチ20及びノッチ21は形成されていない。よって、ポンプカバー7における吸込ポートと吐出ポート7bとは、ポンプ室6を通じて互いに連通することはない。
【0042】
以上のように、ポンプ室6は、吐出ポート12に連通する状態では、吸込ポート11には直接連通せず、ノッチ20を通じてのみ吸込ポート11に連通する。言い換えれば、吐出ポート12は、ポンプ室6及びノッチ20を通じてのみ吸込ポート11に連通する。具体的には、
図6に示すように、ロータ2(カムリング4)の中心に対する隣り合うベーン3の角度間隔α1は、吸込ポート11と吐出ポート12との角度間隔(カムリング4の内周に開口する端部間の角度間隔)α2以下に設定される(α1≦α2)。ノッチ20と吐出ポート12との角度間隔α3は、ベーン3の角度間隔α1より小さく設定される(α3<α1)。これにより、吐出ポート12は、ノッチ20を通じてのみ吸込ポート11に連通するように構成される。
【0043】
よって、吐出ポート12と吸込ポート11とが互いに連通した状態であっても、ノッチ20による流路抵抗(圧力損失)が生じることで、吐出ポート12から吸込ポート11へ向かう作動油の流量が抑制される。つまり、吐出ポート12から吸込ポート11へ向かう作動油の流量をノッチ20によって制御することができる。これにより、吐出ポート12から高圧通路を通じて外部に吐出されるベーンポンプ100の吐出流量を確保することができ、容積効率を向上させることができる。
【0044】
図8は、吐出領域4cから吸込領域4bへと遷移する遷移領域4dを通過するポンプ室6の圧力を模式的に表すグラフ図である。
図8のグラフ図の縦軸はポンプ室6内の圧力P[MPa]、横軸はロータ2の回転方向におけるポンプ室6の回転角(角度位置)θ[deg]である。縦軸の0MPaは、基準圧(本実施形態では大気圧)を示すものである。
図8のグラフ図において、実線は本実施形態におけるベーンポンプ100のポンプ室6の圧力を示す。
図8のグラフ図において、破線は、ノッチ20が形成されず、吐出領域4cから吸込領域4bへの遷移領域4dにおいてポンプ室6が吐出ポート12と吸込ポート11とのそれぞれに直接連通する比較例を示すものである。また、
図9は、
図8のグラフ図において回転角θ=θ3付近を拡大したグラフ図である。
【0045】
図8に示すように、比較例では、吐出ポート12に連通するポンプ室6が吸込ポート11に連通すると(回転角θ=θ2)、ポンプ室6の圧力は急激に低下する。この際、相対的に高圧であるポンプ室6の作動油は、低圧である吸込ポート11に向けて急激に流入し噴流が生じることがある。このような噴流の発生によって、比較例では、
図9に示すように、ポンプ室6の圧力が基準圧を下回るまで低下(オーバーシュート)するおそれがある。なお、
図8中の回転角θ=θ3は、ポンプ室6と吐出ポート12との連通が遮断された位置を示す。
【0046】
これに対し、本実施形態では、ポンプ室6が吸込ポート11と直接連通する前にノッチ20を通じて吸込ポートに連通する。具体的には、比較例においてポンプ室6が吸込ポート11に連通する回転角θ2よりも小さいθ1において、ポンプ室6がノッチ20に連通する。これにより、本実施形態では、比較例よりも早い段階でノッチ20を通じて少しずつ噴流を発生させるので
図8に示すように、比較例よりも圧力低下の傾きがなだらかとなり、ポンプ室6から吸込ポート11への急激な噴流の発生が抑制される。つまり、ポンプ室6から吸込ポート11への噴流の流速を抑制することができる。よって、
図9に示すように、基準圧を下回るようなポンプ室6の圧力低下が抑制される。
【0047】
以上のように、本実施形態では、ポンプ室6から吸込ポート11への急激な噴流の発生を抑制することで、吐出領域4cから吸込領域4bへと遷移する遷移領域4dにおけるポンプ室6の圧力変動を抑制することができる。
【0048】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0049】
ベーンポンプ100では、ポンプ室6が吐出ポート12に連通した状態から遮断される状態に切り換わる際にはノッチ20を通じて吸込ポート11に連通しているため、ポンプ室6の閉じ込みが防止される。また、ポンプ室6はノッチ20を通じて吸込ポート11に連通するものであるため、吐出ポート12からポンプ室6を通じて吸込ポート11へ向かう作動油の流れには、ノッチ20によって抵抗が付与される。よって、吐出ポート12から吸込ポート11へ向かう作動油の流量が抑制され、ポンプ室6の閉じ込みを防止しつつ容積効率を向上させることができる。さらに、ポンプ室6から吸込ポート11への急激な噴流の発生を抑制することができる。
【0050】
次に、本実施形態の変形例について説明する。以下のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0051】
ノッチ20の形状は、上記実施形態で説明した構成に限られず、ポンプ室6の閉じ込みの防止と容積効率の向上とにおいてそれぞれ所望の効果を得られるように、ベーンポンプ100の仕様等に応じて適宜設計される。例えば、ノッチ20は、その一部又は全部が、ロータ2の回転方向に向かって開口面積が変化せずに一定の形状に形成されてもよい。例えば、ノッチ20の溝深さは、一部が、ロータ2の回転方向に沿って一定に形成されてもよい。また、ロータ2の径方向に沿う面のノッチ20の断面形状は、矩形や弧状など、V字状以外の形状でもよい。また、ノッチ20は、吸込ポート11の径方向における幅の中央部に接続されてもよいし、径方向外側の内壁面に接続されてもよい。さらに、2つ以上の複数のノッチ20が1つの吸込ポート11に接続するように形成されてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、吐出ポート12にはノッチ20が形成されていないが、吐出ポート12に接続されるノッチ20が形成されてもよい。
【0053】
また、ロータ2及びカムリング4の一側面に当接して配置されるサイド部材としての第1サイドプレート10に加えて、ロータ2及びカムリング4の他側面にも、サイド部材としての第2サイドプレートを当接して配置してもよい。つまり、2つのサイドプレート(サイド部材)によってロータ2及びカムリング4を両側から挟んでポンプ室6を区画するようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、第1サイドプレート10の端面10aに形成され、吸込ポート11の端部に連通するノッチ20について説明した。これに対し、ロータ2及びカムリング4の他側面に設けられるポンプカバー7又は第2サイドプレートに形成される吸込ポートに、上記実施形態で説明したものと同様にノッチ20を設けてもよい。この場合、ロータ2の一側面側(第1サイドプレート10)と他側面側(ポンプカバー7又は第2サイドプレート)の両方にノッチ20を設けてもよいし、いずれか一方にのみノッチ20を設けてもよい。いずれの場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0055】
なお、「吐出ポート12がノッチ20を通じてのみ吸込ポート11に連通する」とは、厳密な意味ではない。加工誤差等の影響により、吸込ポート11に直接連通するポンプ室6を通じて吐出ポート12が吸込ポート11に連通することを本発明の技術的範囲から除外する意図ではない。
【0056】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0057】
ベーンポンプ100は、駆動軸1に連結されたロータ2と、ロータ2に対して径方向に往復動自在に設けられる複数のベーン3と、ロータ2の回転に伴ってベーン3の先端が摺動するカム面4aを有するカムリング4と、ロータ2とカムリング4と一対の隣り合うベーン3とによって区画されるポンプ室6と、ポンプ室6に作動油を導く吸込ポート11と、ポンプ室6から吐出される作動油を導く吐出ポート12と、吸込ポート11の開口縁部からロータ2の回転方向とは逆方向に向かって形成されるノッチ20と、を備え、ポンプ室6は、ロータ2の回転に伴い吐出ポート12に連通した状態から吐出ポート12との連通が遮断される過程では、ノッチ20を通じて吸込ポート11に連通している。
【0058】
また、ベーンポンプ100では、ロータ2の中心に対する隣り合うベーン3間の角度間隔α1は、吸込ポート11と吐出ポート12との間の角度間隔α2以下に設定されると共に、ノッチ20と吐出ポート12との間の角度間隔α3は、隣り合うベーン3の角度間隔α1より小さく設定される。
【0059】
これらの構成では、ポンプ室6が吐出ポート12に連通した状態から遮断される状態に切り換わる際にはノッチ20を通じて吸込ポート11に連通しているため、ポンプ室6の閉じ込みが防止される。また、ポンプ室6はノッチ20を通じて吸込ポート11に連通するものであるため、吐出ポート12からポンプ室6を通じて吸込ポート11へ向かう作動油の流れには、ノッチ20によって抵抗が付与される。よって、吐出ポート12から吸込ポート11へ向かう作動油の流量が抑制される。したがって、ベーンポンプ100のポンプ室6の閉じ込みを防止しつつ容積効率を向上させることができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0061】
100…ベーンポンプ、1…駆動軸、2…ロータ、3…ベーン、4…カムリング、4a…カム面(内周面)、6…ポンプ室、11…吸込ポート、12…吐出ポート、20…ノッチ