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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/023 20060101AFI20240117BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20240117BHJP
   F16F 9/10 20060101ALI20240117BHJP
   F16C 27/00 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
F16F15/023 A
F16F15/06 A
F16F9/10
F16C27/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020102877
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021195996
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武内 遼太
(72)【発明者】
【氏名】石丸 英嗣
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-262222(JP,A)
【文献】特開2007-056976(JP,A)
【文献】特表平07-505945(JP,A)
【文献】特開2015-124838(JP,A)
【文献】特開平11-141545(JP,A)
【文献】特開2019-100414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0116200(US,A1)
【文献】特開平10-054208(JP,A)
【文献】特開2000-055036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/023
F16F 15/06
F16F 9/10
F16C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心状に配置された内環及び外環と、前記内環と前記外環との間に配置され円周方向に並んだ複数の円弧バネと、前記内環及び前記外環と前記複数の円弧バネとを隔てる複数のスリットとを有し、円筒状を呈するダンパ部材と、
前記ダンパ部材の軸線方向の両側に配置され、前記複数のスリットの開放端と隙間を開けて前記軸線方向に対峙するシール面を有するシール部材と、
前記複数のスリット及び前記隙間に充填された粘性流体とを備え、
前記複数の円弧バネは前記円周方向に並ぶ第1円弧バネと第2円弧バネとを含み、
前記複数のスリットの各々は、前記第1円弧バネと前記内環との間を隔てる内側スリット部と、前記第2円弧バネと前記外環との間を隔てる外側スリット部と、前記内側スリット部と前記外側スリット部とを接続する接続部とを有し、前記接続部に前記内側スリット部と前記外側スリット部との間の前記粘性流体の移動を制限する制限部が設けられており、
前記制限部は、前記接続部の一部又は全部に配置されて前記粘性流体の前記円周方向及び径方向のうち少なくとも一方の流れを阻害する阻害部材を有する
ダンパ。
【請求項2】
前記ダンパ部材は、前記外環の外面から径方向に延び、前記複数のスリットのうち少なくとも1つと連通されて当該スリットへ前記粘性流体を供給する少なくとも1つの流体供給穴を有し、当該スリットから前記流体供給穴への前記粘性流体の逆流を防止する逆流防止部が前記流体供給穴に設けられている、
請求項1記載のダンパ。
【請求項3】
前記逆流防止部は前記粘性流体の流れを絞る絞りである、
請求項に記載のダンパ。
【請求項4】
前記シール部材は、前記ダンパ部材の前記外環又は前記内環に結合された結合面と、前記結合面よりも前記外環又は前記内環から後退した前記シール面とを有する、
請求項又はに記載のダンパ。
【請求項5】
前記シール部材は、前記隙間の隙間寸法と対応する厚さを有する薄板部材を介して前記ダンパ部材の前記外環又は前記内環に結合されている、
請求項又はに記載のダンパ。
【請求項6】
前記複数の円弧バネの内周縁と外周縁との径方向中間を通る円の直径を円弧バネ中心径としたときに、前記円弧バネ中心径に対する前記スリットの少なくとも一部分のスリット幅の比(スリット幅/円弧バネ中心径)が1/100以上である、
請求項1~のいずれか一項に記載のダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジン、ターボ圧縮機、ターボチャージャなどの各種回転機械において回転軸と支持体との間に設けられて、回転軸から支持体へ伝わる振動を減衰するダンパの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種回転機械において、回転軸から支持体へ伝わる振動を減衰するために、回転軸と支持体との間にスクイーズフィルムダンパ(或いは、スクイーズフィルムダンパ軸受)を設けることが知られている。スクイーズフィルムダンパは、回転軸(又は軸受)とそれを支持する固定面との間に粘性流体膜を形成するものであり、この粘性流体の流動及び圧縮により回転軸の振動が減衰する。特許文献1、2は、この種のスクイーズフィルムダンパを開示する。
【0003】
特許文献1は、軸受のダンパ要素を開示する。軸受のダンパ要素は、回転軸と支持体との間に配置され、支持体に固定された筒状体を備える。筒状体の内面と外面との間には、ワイヤカット放電加工又はレーザ加工によりスリットが形成され、このスリット内に粘性流体が充填される。筒状体の軸線方向の両端面に隣接してシール部材が配設されており、筒状体の端面とシール部材との間に微小な隙間が設けられる。シール部材によってスリットの軸線方向の開放端からの粘性流体の流出が抑えられ、粘性流体の流動抵抗の増大により減衰力の向上が図られている。
【0004】
特許文献2は、スクイーズフィルムダンパ軸受を開示する。このスクイーズフィルムダンパ軸受は、回転軸又は軸受を支持する中空円筒形の内輪と、軸受又は固定面に密着して固定される中空円筒形の外輪と、内輪と外輪との間にスリットを隔てて位置し周方向に同一間隔を隔てる3以上の中間円弧部とからなる。各中間円弧部は、周方向の一端が外輪と一体的に連結され、周方向の他端が内輪と一体的に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-56976号公報
【文献】特開2010-203504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなスクイーズフィルムダンパにおいては、スリット幅(即ち、スリットの径方向の寸法)を小さくして粘性流体の粘性抵抗を高めることにより、振動減衰効果を高めることができる。しかし、スリット幅が小さいことは、例えば以下のようなデメリットがある。第1に、ダンパの減衰特性が、回転軸の静的偏心や振動振幅に影響を受けやすくなる。第2に、特許文献1に記載されているようにワイヤカット放電加工によって円筒体にスリットを形成する場合に、スリット幅に合わせてワイヤの線径が細くなるために加工電流を抑えなければならない。その結果、加工時間が長くなって、製造コストの上昇を招くことになる。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、ダンパにおいて、振動減衰特性を維持又は向上しつつ従来と比較してスリット(即ち、粘性流体膜を形成するための隙間)のスリット幅の拡大を可能とする構造を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るダンパは、
同心状に配置された内環及び外環と、前記内環と前記外環との間に配置され円周方向に並んだ複数の円弧バネと、前記内環及び前記外環と前記複数の円弧バネとを隔てる複数のスリットとを有し、円筒状を呈するダンパ部材と、
前記ダンパ部材の軸線方向の両側に配置され、前記複数のスリットの開放端と隙間を開けて前記軸線方向に対峙するシール面を有するシール部材と、
前記複数のスリット及び前記隙間に充填された粘性流体とを備え、
前記複数の円弧バネは前記円周方向に並ぶ第1円弧バネと第2円弧バネとを含み、
前記複数のスリットの各々は、前記第1円弧バネと前記内環との間を隔てる内側スリット部と、前記第2円弧バネと前記外環との間を隔てる外側スリット部と、前記内側スリット部と前記外側スリット部とを接続する接続部とを有し、前記接続部に前記内側スリット部と前記外側スリット部との間の前記粘性流体の移動を制限する制限部が設けられており、
前記制限部は、前記接続部の一部又は全部に配置されて前記粘性流体の前記円周方向及び径方向のうち少なくとも一方の流れを阻害する阻害部材を有することを特徴としている。
【0009】
上記構成のダンパでは、スリットと隙間(以下、エンドシール隙間)とに連続した流体膜が形成されている。回転軸が回転して振動すると、スリットに形成された流体膜内に粘性流体の粘性による圧力が発生して、振動の減衰(所謂、スクイーズ減衰)が生じる。また、回転軸が回転して振動すると、エンドシール隙間に形成された流体膜に粘性抵抗が生じ、エネルギーの消散による振動の減衰(所謂、ダッシュポット減衰)が生じる。上記構成のダンパではスリットの接続部の制限部によって、内側スリット部から外側スリット部へ(又はその逆へ)の粘性流体の移動が制限されていることから、回転軸の振動によってスリット内の粘性流体はエンドシール隙間へ導かれ、効果的に振動の減衰を生じさせることができる。よって、従来のダンパと比較してスリットのスリット幅を拡大することによってスリットにおけるスクイーズ減衰効果が低下しても、エンドシール隙間におけるダッシュポット減衰により不足分の振動減衰効果を補う、或いは、振動減衰効果をより高めることができる。換言すれば、上記構成のダンパでは、従来のダンパと比較して振動減衰特性を維持又は向上しつつ従来のダンパと比較してスリットのスリット幅の拡大が可能となる。
【0010】
また、本発明の別の一態様に係るダンパは、
同心状に配置された内環及び外環と、前記内環と前記外環との間に配置され円周方向に並んだ複数の円弧バネと、前記内環及び前記外環と前記複数の円弧バネとを隔てる複数のスリットとを有し、円筒状を呈するダンパ部材と、
前記ダンパ部材の軸線方向の両側に配置され、前記複数のスリットの開放端と隙間を開けて前記軸線方向に対峙するシール面を有するシール部材と、
前記複数のスリット及び前記隙間に充填された粘性流体とを備え、
前記ダンパ部材は、前記外環の外面から径方向に延び、前記複数のスリットのうち少なくとも1つと連通されて当該スリットへ前記粘性流体を供給する少なくとも1つの流体供給穴を有し、当該スリットから前記流体供給穴への前記粘性流体の逆流を防止する逆流防止部が前記流体供給穴に設けられていることを特徴としている。
【0011】
上記構成のダンパでは、スリットと隙間(以下、エンドシール隙間)とに連続した流体膜が形成されている。回転軸が回転して振動すると、スリットに形成された流体膜内に粘性流体の粘性による圧力が発生して、振動の減衰(所謂、スクイーズ減衰)が生じる。また、回転軸が回転して振動すると、エンドシール隙間に形成された流体膜に粘性抵抗が生じ、エネルギーの消散による振動の減衰(所謂、ダッシュポット減衰)が生じる。上記構成のダンパではスリット内の粘性流体の流体供給穴への逆流が制限されていることから、回転軸の振動によってスリット内の粘性流体はエンドシール隙間へ導かれ、効果的に振動の減衰を生じさせることができる。よって、従来のダンパと比較してスリットのスリット幅を拡大することによってスリットにおけるスクイーズ減衰効果が低下しても、エンドシール隙間におけるダッシュポット減衰により不足分の振動減衰効果を補う、或いは、振動減衰効果をより高めることができる。換言すれば、上記構成のダンパでは、従来のダンパと比較して振動減衰特性を維持又は向上しつつ従来のダンパと比較してスリットのスリット幅の拡大が可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ダンパにおいて、振動減衰特性を維持又は向上しつつ従来と比較してスリットのスリット幅を拡大することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るダンパを含む回転機械の回転軸支持部の側断面図である。
図2図2は、ダンパ部材を軸線方向から見た図である。
図3図3は、スリット幅を説明するダンパ部材の側断面図である。
図4図4は、エンドシール隙間の第1構成例を説明するダンパの一部断面図である。
図5図5は、エンドシール隙間の第2構成例を説明するダンパの一部断面図である。
図6図6は、エンドシール隙間の第3構成例を説明するダンパの一部断面図である。
図7図7は、エンドシール隙間の第4構成例を説明するダンパの一部断面図である。
図8図8は、制限部の第1例を説明するダンパ部材の一部を軸線方向から見た図である。
図9図9は、制限部の第2例を説明するダンパ部材の一部を軸線方向から見た図である。
図10図10は、制限部の第3例を説明するダンパ部材の一部を軸線方向から見た図である。
図11図11は、円弧バネ及びスリットの数の異なるダンパ部材を軸線方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、各図において共通する部材(部分)には図面に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るダンパ2を備えた回転機械1の回転軸支持部10の側断面図である。なお、本発明に係るダンパ2は、例えば、ジェットエンジン、ターボ圧縮機、ターボチャージャなどの各種の回転機械に適用可能である。
【0016】
図1に示す回転機械1は、回転軸11と、その支持体としてのハウジング12と、軸受13とを備える。回転軸11は、回転軸11とハウジング12との間に設けられた軸受13によってハウジング12に回転自在に支持されている。軸受13は、転がり軸受及び滑り軸受のうちいずれか一方であってよい。
【0017】
回転機械1は、ダンパ2を更に備える。ダンパ2は、回転軸11のセンタリング機能と、回転軸11の振動減衰機能とを併せ備える。本実施形態において、ダンパ2は軸受13の外周とハウジング12の内周との間に配置されている。但し、ダンパ2は、回転軸11の外周と軸受13の内周との間に配置されてもよい。或いは、軸受13が内輪、外輪、及び転動体からなる転がり軸受である場合には、ダンパ2が軸受13の外輪又は内輪の一部分として構成されていてもよい。或いは、軸受13が滑り軸受の場合には、ダンパ2が軸受13の一部分として構成されていてもよい。
【0018】
ダンパ2は、ダンパ部材20と、シール部材30と、粘性流体5とを備える。ダンパ部材20は、中空円筒形状を呈する。以下では、説明の便宜を図って、立体図形(回転体)としてのダンパ部材20の回転の軸を「ダンパ軸線A」と称する。ダンパ軸線Aの軸線方向Xは、回転軸11の軸線方向と平行である。ダンパ軸線Aを中心とする円の径方向(放射方向)を「径方向」と称し、ダンパ軸線Aを中心とする円周方向を「円周方向」と称する。
【0019】
ダンパ部材20の外面は、ハウジング12の円筒形の支持部12aに密着して固定されている。ダンパ部材20は、回転軸11と共回りすることなく、回転軸11がその軸心を中心に所定の高速回転ができるようになっている。ダンパ部材20は、内環21と、外環22と、4つの円弧バネ23とを有する。内環21及び外環22はいずれも中空円筒形状を呈する。外環22と内環21とはダンパ軸線Aを中心として同心状に配置されて、内環21の外周と外環22の内周とは径方向に離間されている。
【0020】
図2は、ダンパ部材20を軸線方向Xから見た図である。図1及び図2に示すように、径方向に離間された内環21と外環22との間に4つの円弧バネ23が配置されている。4つの円弧バネ23は、略同一間隔で円周方向に並んでいる。各円弧バネ23は、その内面及び外面がダンパ軸線Aを中心とする円弧面からなる円弧状部材である。内環21と外環22と円弧バネ23とは、4本のスリット4によって部分的に分離されているが、全体として一体の部材である。円弧バネ23の内面はスリット4を間に挟んで内環21の外面と対峙している。円弧バネ23の外面は、スリット4を間に挟んで外環22の内面と対峙している。円弧バネ23の各々は、円周方向の一方の端部である第1端部23aと、円周方向の他方の端部である第2端部23bとを有する。各円弧バネ23の第1端部23aは内環21と接続されている。各円弧バネ23の第2端部23bは外環22と接続されている。
【0021】
各スリット4は、第1端孔41と、内側スリット部42と、接続部43と、外側スリット部44と、第2端孔45とを有し、これらはこの順番で連なっている。スリット4は、ダンパ部材20を軸線方向Xに貫いている。第2端孔45は、第1端孔41よりも外周側に位置する。第1端孔41及び第2端孔45は、ダンパ部材20に発生する応力を低減する役割を担う。また、第1端孔41及び第2端孔45は、ダンパ部材20となる円筒状素材にワイヤカット放電加工でスリット4を形成する際に、ワイヤが最初に挿通される孔となる。
【0022】
内側スリット部42は、第1端孔41から円周方向に延びる円弧状を呈する。外側スリット部44は、内側スリット部42から円周方向に延びる円弧状を呈する。複数の円弧バネ23のうち円周方向に隣接して並ぶものを「第1円弧バネ」及び「第2円弧バネ」とする場合、1本のスリット4において、内側スリット部42は第1円弧バネと内環21との間を隔てており、外側スリット部44は第2円弧バネと外環22との間を隔てている。このように1本のスリット4において内側スリット部42と外側スリット部44とは円周方向にずれており且つ径方向にずれている。内側スリット部42と外側スリット部44との円周方向の間は接続部43で接続される。接続部43の延伸方向は、径方向成分及び円周方向成分を有する。
【0023】
各スリット4は「スクイーズ隙間G1」をであって、スリット4内に満たされた粘性流体5によって流体膜(スクイーズフィルム)が形成されている。粘性流体5は、特に限定されないが、潤滑油が例示される。
【0024】
ダンパ部材20の外面には、径方向に延びる流体供給穴27が形成されている。本実施形態では、ダンパ部材20の外面の4か所に流体供給穴27が周方向に等間隔で設けられている。各流体供給穴27は、少なくとも1つのスリット4と連通されている。本実施形態では、1つの流体供給穴27が、周方向に隣接する2つのスリット4のうち一方のスリット4の内側スリット部42と、他方のスリット4の外側スリット部44とを通過している。各流体供給穴27は、ハウジング12の支持部12aに設けられた流体供給通路12bと連通されている。流体供給通路12bを通じて送られてきた粘性流体5は、流体供給穴27を通じてスリット4へ供給される。
【0025】
スリット4のスリット幅C(即ち、スリット4の径方向の寸法)は、回転軸11の軸振動によりスリット幅Cが0にならない、即ち、内環21、外環22、及び円弧バネ23が接触しないように設定される。
【0026】
図3は、スリット幅Cを説明するダンパ部材20の側断面図である。図3に示すように、円弧バネ23の内周縁と外周縁との径方向中間を通る円の直径を「円弧バネ中心径D」とする。スリット4の少なくとも1か所のスリット幅C(即ち、スリット4の径方向の寸法)と、円弧バネ中心径Dとの比(C/D)は、1/100以上であることが望ましい。但し、本発明のダンパ2のスリット幅Cはこれに限定されるものではない。
【0027】
シール部材30は、ダンパ部材20の軸線方向Xの両側にそれぞれ配置されている。各シール部材30は、中空円盤板状を呈する。シール部材30は、スリット4の開放端と微小な隙間(以下、「エンドシール隙間G2」と称する)を開けて軸線方向Xに対峙するシール面31を有する。即ち、シール部材30のシール面31とダンパ部材20の軸線方向Xの端面との間には、エンドシール隙間G2が形成される。ダンパ部材20の各スリット4とエンドシール隙間G2とは連通している。エンドシール隙間G2内は、粘性流体5で満たされている。
【0028】
ダンパ部材20とシール部材30との間にエンドシール隙間G2が形成され得る構造として、以下の通り第1~4構成例が例示される。図4~7は、エンドシール隙間G2の構成例を説明するダンパ2の一部断面図である。
【0029】
図4に示すエンドシール隙間G2の第1構成例では、シール部材30の外側部分に設けられた結合面32がダンパ部材20の外環22に結合されている。シール部材30のうち、ダンパ部材20の内環21、円弧バネ23及びスリット4と対峙している部分に、結合面32よりもダンパ部材20から軸線方向Xへ後退したシール面31が形成されている。このように、シール部材30のダンパ部材20との対峙面に形成された段差によってエンドシール隙間G2が形成されている。
【0030】
図5に示すエンドシール隙間G2の第2構成例では、シール部材30の内側部分に設けられた結合面33がダンパ部材20の内環21に結合されている。シール部材30のうち、ダンパ部材20の外環22、円弧バネ23及びスリット4と対峙している部分は、結合面33よりもダンパ部材20から軸線方向Xへ後退したシール面31となっている。このように、シール部材30のダンパ部材20との対峙面に形成された段差によってエンドシール隙間G2が形成されている。
【0031】
図6に示すエンドシール隙間G2の第3構成例では、シール部材30の外側部分に設けられた結合面32が薄板部材35を介してダンパ部材20の外環22に結合されている。このようにシール部材30とダンパ部材20とが薄板部材35で離間されることによって、エンドシール隙間G2が形成される。薄板部材35の厚みは即ちエンドシール隙間G2の隙間寸法となる。シール部材30の結合面32よりも内側がシール面31となっており、シール面31はエンドシール隙間G2を開けてダンパ部材20の内環21、円弧バネ23及びスリット4と軸線方向Xに対峙している。
【0032】
図7に示すエンドシール隙間G2の第4構成例では、シール部材30の内側部分に設けられた結合面33が薄板部材36を介してダンパ部材20の内環21に結合されている。このようにシール部材30とダンパ部材20とが薄板部材36で離間されることによって、エンドシール隙間G2が形成される。薄板部材36の厚みは即ちエンドシール隙間G2の隙間寸法となる。シール部材30の結合面33よりも外側がシール面31となっており、シール面31はエンドシール隙間G2を開けてダンパ部材20の外環22、円弧バネ23及びスリット4と軸線方向Xに対峙している。
【0033】
エンドシール隙間G2で粘性流体5の流動抵抗を効果的に発生させるためには、スリット4内の粘性流体5をエンドシール隙間G2へ積極的に流入させることが望ましい。そのために次の第1及び第2の方策が考え得る。第1及び第2の方策は、双方が同時に適用されてもよいし、いずれか一方が適用されてもよい。
【0034】
第1の方策では、スリット4内での粘性流体5の円周方向の移動を制限する。このために、スリット4の接続部43に粘性流体5の円周方向及び径方向の少なくとも一方の移動を制限する制限部Rが設けられる。制限部Rによって内側スリット部42から外側スリット部44へ(又は、その逆へ)の粘性流体5の移動が制限される結果、スリット4内の粘性流体5はエンドシール隙間G2へ積極的に流れる。制限部Rの構造として、以下に示す通り第1例~第3例が例示される。図8~10は、制限部Rの構成例を説明するダンパ部材20の一部を軸線方向Xから見た図である。
【0035】
図8に示す第1例に係る制限部R(R1)は、接続部43内の一部又は全部に配置された阻害部材51を有する。この例では、内側スリット部42、接続部43、及び外側スリット部44のスリット幅は略同一である。阻害部材51は、接続部43のスリット壁に沿って配置されていてもよいし、接続部43のスリット幅の中間部に設けられていてもよい。阻害部材51は、耐熱性の高いエラストマー製、或いは、金属製であってよい。この阻害部材51は、接続部43を円周方向及び径方向に流れる流路の断面積を実質的に狭める。
【0036】
図9に示す第2例に係る制限部R(R2)は、第3スリット幅C3を有する。ここで、内側スリット部42が第1スリット幅C1を有し、外側スリット部44が第2スリット幅C2を有する。第1スリット幅C1及び第2スリット幅C2は同一であってもよい。第3スリット幅C3は第1スリット幅C1及び第2スリット幅C2よりも小さい。制限部R2は、接続部43の一部分であってもよいし、接続部43の全体であってもよい。このような制限部R2によって、内側スリット部42と外側スリット部44との間で粘性流体5の流れが絞られる。
【0037】
図10に示す第3例に係る制限部R(R3)は、直線的又は滑らかな曲線的流路ではなく、少なくとも1か所の屈曲部を含む。制限部R(R3)は、2か所以上の屈折部を含むジグザグ(直線が鋭角に折れ曲がった形)の流路を有していてもよい。制限部R3は、接続部43の一部分であってもよいし、接続部43の全体であってもよい。このような制限部R3によって、内側スリット部42から外側スリット部44へ(又は、その逆へ)の粘性流体5の移動が阻害される。
【0038】
第2の方策では、スリット4内の粘性流体5を、流体供給穴27へ逆流しないようにする。このために、流体供給穴27とスリット4(そのうち外側スリット部44)との接続部に逆流防止部28が設けられている(図1、参照)。回転軸11の回転時に振動によってスリット4から押し出される粘性流体5の流体供給穴27への逆流が阻害されるので、粘性流体5はエンドシール隙間G2へ積極的に流れる。本実施形態において、逆流防止部28は粘性流体5の流れを絞る「絞り」である。絞りとしては、流体供給穴27の流路断面積が徐々に小さくなるように形成された自成絞りや、流体供給穴27内に配置されたオリフィス部材によるオリフィス絞りなどが例示される。逆流防止部28が絞りである場合、絞りの流路断面積の総和は、エンドシール隙間G2の出口の流路断面積と同じ又はそれ以下であることが望ましい。
【0039】
以上に説明した通り、本実施形態に係るダンパ2は、回転軸11と支持体(ハウジング12)との間に挿入され、回転軸11の振動を減衰するとともに回転軸11をセンタリングするダンパであって、ダンパ部材20と、シール部材30と、粘性流体5とを備える。ダンパ部材20は、同心状に配置された内環21及び外環22と、内環21と外環22との間に配置され円周方向に並んだ複数の円弧バネ23と、内環21及び外環22と複数の円弧バネ23とを隔てる複数のスリット4とを有し、全体として円筒状を呈する。複数の円弧バネ23は円周方向に並ぶ第1円弧バネと第2円弧バネとを含み、スリット4は、第1円弧バネと内環21との間を隔てる内側スリット部42と、第2円弧バネと外環22との間を隔てる外側スリット部44と、内側スリット部42と外側スリット部44とを接続する接続部43とを有する。そして、接続部43に内側スリット部42と外側スリット部44との間の粘性流体5の移動を制限する制限部R(R1,R2,R3)が設けられている。
【0040】
制限部R1は、接続部43の一部又は全部に配置されて粘性流体5の円周方向及び径方向のうち少なくとも一方の流れを阻害する阻害部材51を有していてよい。
【0041】
或いは、制限部R2は第1スリット幅C1及び第2スリット幅C2よりも小さい第3スリット幅C3を有していてよい。ここで、内側スリット部42は第1スリット幅C1を有し、外側スリット部44は第2スリット幅C2を有する。
【0042】
或いは、制限部R3は少なくとも1か所の屈折部を有していてよい。
【0043】
上記構成のダンパ2では、スリット4とエンドシール隙間G2とに連続した流体膜が形成される。回転軸11が回転して振動すると、スリット4(即ち、スクイーズ隙間G1)に形成された流体膜内に粘性流体5の粘性による圧力が発生して、振動の減衰(所謂、スクイーズ減衰)が生じる。複数の円弧バネ23は回転軸11を柔らかく支持するとともにセンタリングする。また、回転軸11が回転して振動すると、エンドシール隙間G2に形成された流体膜に粘性抵抗が生じ、エネルギーの消散による振動の減衰(所謂、ダッシュポット減衰)が生じる。ここで、上記の制限部R(R1,R2,R3)は、回転軸11が回転している間にスリット4内を内側スリット部42から外側スリット部44へ(又はその逆へ)移動しようとする粘性流体5の流れを制限する。そのため、スリット4内の粘性流体5は、エンドシール隙間G2へ導かれて振動の減衰を生じさせる。よって、従来のスクイーズフィルムダンパと比較してスリット4のスリット幅Cを拡大することによってスリット4におけるスクイーズ減衰効果が低下しても、エンドシール隙間G2におけるダッシュポット減衰により不足分の振動減衰効果を補う、或いは、振動減衰効果をより高めることができる。
【0044】
上記構成のダンパ2において、ダンパ部材20は、外環22の外面から径方向に延び、複数のスリット4のうち少なくとも1つと連通されて当該スリット4へ粘性流体5を供給する少なくとも1つの流体供給穴27を有し、当該スリット4から流体供給穴27への粘性流体5の逆流を防止する逆流防止部28が流体供給穴27に設けられていてよい。上記実施形態において、逆流防止部28は粘性流体5の流れを絞る絞りである。
【0045】
上記構成のダンパ2では、スリット4内の粘性流体5の流体供給穴27への逆流が制限されていることから、回転軸11の振動によってスリット4内の粘性流体5はエンドシール隙間G2へ導かれ、効果的に振動の減衰を生じさせることができる。
【0046】
上記のように本実施形態に係るダンパ2では、エンドシール隙間G2で振動の減衰が生じるので、従来のスクイーズフィルムダンパと比較してスリット4のスリット幅Cを拡大することによってスリット4におけるスクイーズ減衰効果が低下しても、エンドシール隙間G2におけるダッシュポット減衰により不足分の振動減衰効果を補う、或いは、振動減衰効果をより高めることができる。換言すれば、本実施形態に係るダンパ2では、従来のスクイーズフィルムダンパと比較して振動減衰特性を維持又は向上しつつ従来のスクイーズフィルムダンパと比較してスリット4のスリット幅Cの拡大が可能となる。
【0047】
上記のように、ダンパ2の減衰特性が回転軸11の静的偏心や振動振幅に影響を受けにくくなる程度にまでスリット4のスリット幅Cを拡大することが可能となる。スリット幅Cの拡大によってダンパ2の減衰特性の回転軸11の静的偏心への依存性が低下することから、ダンパ2の適切な設計が容易となる。また、スリット幅Cの拡大によってダンパ2の減衰特性の振動振幅への依存性が低下することから、回転軸11の振動の急激な変化に起因するジャンプ現象などの好ましくない現象の発生を抑えることができる。更に、スリット4をワイヤカット放電加工で形成する場合には、加工電流を増加させることが可能となり、加工時間が短縮される結果、ダンパ2の製造コストを抑えることができる。
【0048】
上記実施形態に係るダンパ2において、シール部材30は、ダンパ部材20の外環22又は内環21に結合された結合面32,33と、結合面32,33から後退したシール面31とを有している。
【0049】
このように、シール部材30のダンパ部材20との対峙面に形成された段差によってエンドシール隙間G2が形成されているので、安定した隙間寸法のエンドシール隙間G2を形成することができる。但し、ダンパ部材20のシール部材30との対峙面に形成された段差によってエンドシール隙間G2が形成されていてもよい。
【0050】
また、シール部材30は、エンドシール隙間G2の隙間寸法と対応する厚さを有する薄板部材35,36を介してダンパ部材20の外環22又は内環21に固定されていてもよい。
【0051】
このように、薄板部材35,36によってエンドシール隙間G2が形成されている場合は、薄板部材35,36の厚さによってエンドシール隙間G2の隙間寸法を容易に調整することができる。
【0052】
また、本実施形態に係るダンパ2において、複数の円弧バネ23の内周縁と外周縁との径方向中間を通る円の直径を円弧バネ中心径Dとしたときに、円弧バネ中心径Dに対するスリット4の少なくとも一部分のスリット幅Cの比(スリット幅C/円弧バネ中心径D)が1/100以上であってよい。
【0053】
このようなスリット幅Cは、従来のスクイーズフィルムダンパのスリット幅(例えば、特許文献1に記載されている0.2mm)と比較して十分に大きい。このようなスリット幅Cを有するダンパ2では、ダンパ部材20となる円筒状素材にワイヤカット放電加工でスリット4を形成する際に、従来と比較して線径を太くして、加工電流を増加させることができる。その結果、加工時間が短くなって、製造コストを削減することができる。また、このようなスリット幅Cを有するダンパ2では、振動減衰性能に対する静的偏心や振動振幅の影響を抑えることができる。ダンパ2の減衰特性の回転軸11の静的偏心への依存性が低下すれば、ダンパ2の適切な設計が容易となる。また、ダンパ2の減衰特性の振動振幅への依存性が低下すれば、回転軸11の振動の急激な変化に起因するジャンプ現象などの好ましくない現象の発生を抑えることができる。
【0054】
以上に本発明の好適な実施の形態(及び変形例)を説明したが、本発明の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0055】
例えば、上記実施形態に係るダンパ2では、円弧バネ23及びスリット4の数は4つであるが、円弧バネ23及びスリット4の数はこれに限定されない。例えば図11に示すように、円周方向に並ぶ2つの円弧バネ23が設けられており、スリット4の数が2であるダンパ部材20Aがダンパ2に採用され得る。
【符号の説明】
【0056】
2,2A :ダンパ
4 :スリット
5 :粘性流体
11 :回転軸
12 :ハウジング(支持体)
12b :流体供給通路
13 :軸受
20,20A:ダンパ部材
20A :ダンパ部材
21 :内環
22 :外環
23 :円弧バネ
27 :流体供給穴
28 :逆流防止部
30 :シール部材
31 :シール面
32,33:結合面
35,36:薄板部材
41 :第1端孔
42 :内側スリット部
43 :接続部
44 :外側スリット部
45 :第2端孔
51 :阻害部材
C,C1~C3:スリット幅
D :円弧バネ中心径
G1 :スクイーズ隙間
G2 :エンドシール隙間
R,R1~R3:制限部
X :軸線方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11