(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】MEMS型半導体式ガス検知素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
G01N27/12 B
(21)【出願番号】P 2020134713
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 忠司
(72)【発明者】
【氏名】中尾 祥一郎
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-264995(JP,A)
【文献】特開2005-164570(JP,A)
【文献】特開2009-282024(JP,A)
【文献】特開平09-033470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられる電極と、
前記基板に設けられるヒータと、
前記電極に電気的に接続し、前記ヒータに熱的に接続するように前記基板に設けられるガス感応部と
を備えるMEMS型半導体式ガス検知素子であって、
前記MEMS型半導体式ガス検知素子が、前記ガス感応部よりも緻密な第1の緻密膜および第2の緻密膜を備え、
前記第1および第2の緻密膜が、前記ヒータと前記ガス感応部とを熱的に接続し、
前記第1および第2の緻密膜が、前記ヒータを覆うように前記ヒータに
熱的に接続され、
前記第1の緻密膜が、前記第2の緻密膜と比較して前記ガス感応部に対する密着性が高く、
前記第2の緻密膜が、前記第1の緻密膜と比較して前記基板に対する密着性が高く、
前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部に
直接接続され、
前記第2の緻密膜が、前記基板に
直接接続され
、
前記第1の緻密膜が、前記ヒータの少なくとも一部の上面に直接接続される、
MEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項2】
前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部に含まれる金属酸化物半導体の金属元素と同一の金属元素を含む金属酸化物半導体を主成分として構成され、
前記第2の緻密膜が、前記基板に含まれる絶縁性酸化物の金属元素または半導体元素と同一の金属元素または半導体元素を含む絶縁性酸化物を主成分として構成される、
請求項1に記載のMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項3】
前記第1の緻密膜の少なくとも一部が、前記第2の緻密膜の上に設けられる、
請求項1または2に記載のMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項4】
前記ヒータが、前記電極を兼ねており、
前記ヒータが、一方のリード線に接続される第1の端部と他方のリード線に接続される第2の端部とを結ぶ経路に沿って延び、
前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部よりも電気抵抗が小さく、導電性を有し、
前記第2の緻密膜が、前記ガス感応部よりも電気抵抗が大きく、絶縁性を有し、
前記第1および第2の緻密膜は、前記ヒータの経路とは異なる経路で前記ヒータを電気的に短絡させないように、前記ヒータに
電気的に接続される、
請求項1~
3のいずれか1項に記載のMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項5】
前記ヒータが、一方のリード線に接続される第1の端部を含む第1の端部領域と、他方のリード線に接続される第2の端部を含む第2の端部領域と、前記第1の端部領域と前記第2の端部領域との間に延び、前記第1の端部領域と前記第2の端部領域とを接続する本体領域とを備え、
前記第1の緻密膜は、前記第1の端部領域および前記第2の端部領域に接続される、
請求項1~
4のいずれか1項に記載のMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項6】
基板と、
前記基板に設けられる電極と、
前記基板に設けられるヒータと、
前記電極に電気的に接続し、前記ヒータに熱的に接続するように前記基板に設けられるガス感応部と
を備えるMEMS型半導体式ガス検知素子であって、
前記MEMS型半導体式ガス検知素子が、前記ガス感応部よりも緻密な第1の緻密膜および第2の緻密膜を備え、
前記第1および第2の緻密膜が、前記ヒータと前記ガス感応部とを熱的に接続し、
前記第1および第2の緻密膜が、前記ヒータを覆うように前記ヒータに熱的に接続され、
前記第1の緻密膜が、前記第2の緻密膜と比較して前記ガス感応部に対する密着性が高く、
前記第2の緻密膜が、前記第1の緻密膜と比較して前記基板に対する密着性が高く、
前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部に直接接続され、
前記第2の緻密膜が、前記基板に直接接続され、
前記ヒータが、前記電極を兼ねており、
前記ヒータが、一方のリード線に接続される第1の端部と他方のリード線に接続される第2の端部とを結ぶ経路に沿って延び、
前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部よりも電気抵抗が小さく、導電性を有し、
前記第2の緻密膜が、前記ガス感応部よりも電気抵抗が大きく、絶縁性を有し、
前記第1および第2の緻密膜は、前記ヒータの経路とは異なる経路で前記ヒータを電気的に短絡させないように、前記ヒータに電気的に接続される、
MEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項7】
基板と、
前記基板に設けられる電極と、
前記基板に設けられるヒータと、
前記電極に電気的に接続し、前記ヒータに熱的に接続するように前記基板に設けられるガス感応部と
を備えるMEMS型半導体式ガス検知素子であって、
前記MEMS型半導体式ガス検知素子が、前記ガス感応部よりも緻密な第1の緻密膜および第2の緻密膜を備え、
前記第1および第2の緻密膜が、前記ヒータと前記ガス感応部とを熱的に接続し、
前記第1および第2の緻密膜が、前記ヒータを覆うように前記ヒータに熱的に接続され、
前記第1の緻密膜が、前記第2の緻密膜と比較して前記ガス感応部に対する密着性が高く、
前記第2の緻密膜が、前記第1の緻密膜と比較して前記基板に対する密着性が高く、
前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部に直接接続され、
前記第2の緻密膜が、前記基板に直接接続され、
前記ヒータが、一方のリード線に接続される第1の端部を含む第1の端部領域と、他方のリード線に接続される第2の端部を含む第2の端部領域と、前記第1の端部領域と前記第2の端部領域との間に延び、前記第1の端部領域と前記第2の端部領域とを接続する本体領域とを備え、
前記第1の緻密膜は、前記第1の端部領域および前記第2の端部領域に接続される、
MEMS型半導体式ガス検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS型半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス検知器用のガス検知素子として、たとえば特許文献1に開示されるように、検知対象ガスを検知するためのガス感応部を備えたMEMS型半導体式ガス検知素子が用いられている。特許文献1のMEMS型半導体式ガス検知素子は、基板と、基板に設けられた電極およびヒータと、電極に電気的に接続され、ヒータに熱的に接続されたガス感応部とを備えている。
【0003】
このようなMEMS型半導体式ガス検知素子では、ガス感応部は、たとえば特許文献1に示されるように印刷法により設けられると、スパッタリングやCVDにより設けられるのと比べてポーラスとなる。たとえばポーラスなガス感応部をヒータに直接接続すると、ヒータの昇温時にマイグレーションなどにより劣化するため、ヒータの熱耐久性が劣ってしまう。ヒータのマイグレーションを抑制して熱耐久性を向上させるためには、たとえば特許文献1に開示されるように、ガス感応部よりも緻密なSiO2絶縁膜を、ヒータを覆うように設けることが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、SiO2絶縁膜に対するガス感応部の密着性が十分でないために、ヒータをSiO2絶縁膜で覆うことで、ガス感応部とヒータとの間に良好な熱的接続を確保することが難しい。そのため、ガス感応部は、安定して所望の温度に昇温することができないために、所望のガス検知感度が得られないだけでなく、たとえば高温高湿環境下に曝された場合に、経時的にガス検知感度が劣化するなどの問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、ヒータの熱耐久性が優れ、ガス感応部の密着性が優れたMEMS型半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のMEMS型半導体式ガス検知素子は、基板と、前記基板に設けられる電極と、前記基板に設けられるヒータと、前記電極に電気的に接続し、前記ヒータに熱的に接続するように前記基板に設けられるガス感応部とを備えるMEMS型半導体式ガス検知素子であって、前記MEMS型半導体式ガス検知素子が、前記ガス感応部よりも緻密な第1の緻密膜および第2の緻密膜を備え、前記第1および第2の緻密膜が、前記ヒータと前記ガス感応部とを熱的に接続し、前記第1および第2の緻密膜が、前記ヒータを覆うように前記ヒータに接続され、前記第1の緻密膜が、前記第2の緻密膜と比較して前記ガス感応部に対する密着性が高く、前記第2の緻密膜が、前記第1の緻密膜と比較して前記基板に対する密着性が高く、前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部に接続され、前記第2の緻密膜が、前記基板に接続されることを特徴とする。
【0008】
また、前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部に含まれる金属酸化物半導体の金属元素と同一の金属元素を含む金属酸化物半導体を主成分として構成され、前記第2の緻密膜が、前記基板に含まれる絶縁性酸化物の金属元素または半導体元素と同一の金属元素または半導体元素を含む絶縁性酸化物を主成分として構成されることが好ましい。
【0009】
また、前記第1の緻密膜の少なくとも一部が、前記第2の緻密膜の上に設けられることが好ましい。
【0010】
また、前記第1の緻密膜が、前記ヒータの少なくとも一部の上面に接続されることが好ましい。
【0011】
また、前記第1の緻密膜が、前記ガス感応部よりも電気抵抗が小さく、導電性を有し、前記第2の緻密膜が、前記ガス感応部よりも電気抵抗が大きく、絶縁性を有し、前記第1および第2の緻密膜は、前記ヒータの経路とは異なる経路で前記ヒータを電気的に短絡させないように、前記ヒータに接続されることが好ましい。
【0012】
また、前記ヒータが、一方のリード線に接続される第1の端部を含む第1の端部領域と、他方のリード線に接続される第2の端部を含む第2の端部領域と、前記第1の端部領域と前記第2の端部領域との間に延び、前記第1の端部領域と前記第2の端部領域とを接続する本体領域とを備え、前記第1の緻密膜は、前記第1の端部領域および前記第2の端部領域に接続されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ヒータの熱耐久性が優れ、ガス感応部の密着性が優れたMEMS型半導体式ガス検知素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子の上面図である。
【
図3】
図2のMEMS型半導体式ガス検知素子の変形例の断面図である。
【
図4】実施例および比較例のサンプルのヒータへの投入電力と、ヒータが断線するまでの断線寿命との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例および比較例のMEMS型半導体式ガス検知素子のガス濃度変化に対するセンサ出力変化を示すグラフであり、(a)は、実施例のグラフであり、(b)は、比較例のグラフである。
【
図6】実施例および比較例のMEMS型半導体式ガス検知素子を20℃、60%RHの標準環境で放置したときの経過日数と、ガス検知器が警報を発するメタン濃度との関係を示すグラフであり、(a)は、実施例のグラフであり、(b)は、比較例のグラフである。
【
図7】実施例および比較例のMEMS型半導体式ガス検知素子を40℃、85%RHの高温高湿環境で放置したときの経過日数と、ガス検知器が警報を発するメタン濃度との関係を示すグラフであり、(a)は、実施例のグラフであり、(b)は、比較例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るMEMS型半導体式ガス検知素子を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例に過ぎず、本発明のMEMS型半導体式ガス検知素子は以下の例に限定されることはない。
【0016】
本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子は、たとえば大気などの環境雰囲気において、環境雰囲気に含まれる検知対象ガスを検知するために用いられる。MEMS型半導体式ガス検知素子は、表面に吸着した酸素と環境雰囲気中の検知対象ガスとの化学反応に伴って抵抗値(または電気伝導度)が変化することを利用して、検知対象ガスを検知する。検知対象ガスとしては、特に限定されることはなく、たとえば、メタン、ブタン、イソブタン、プロパン、一酸化炭素、水素、エタノールなどが例示される。
【0017】
MEMS型半導体式ガス検知素子1は、
図1および
図2に示されるように、MEMS(Micro Electro Mechanical System)構造を有している。MEMS構造とは、シリコン基板などの基板の上に微細加工技術によって素子構成要素の少なくとも一部を集積化したデバイス構造のことを意味する。MEMS型半導体式ガス検知素子1は、MEMS構造を有することにより、コイル型の半導体式ガス検知素子と比べて、小型化が可能で、低消費電力での駆動が可能である。
【0018】
MEMS型半導体式ガス検知素子1は、
図1および
図2に示されるように、基板2と、基板2に設けられる電極3と、基板2に設けられるヒータ4と、電極3に電気的に接続し、ヒータ4に熱的に接続するように基板2に設けられるガス感応部5とを備える。MEMS型半導体式ガス検知素子1は、任意で、ガス感応部5を被覆する機能層7を備えていてもよい。なお、
図1においては、電極3およびヒータ4の配置を見やすくするために、ガス感応部5および機能層7の図示を省略するとともに、後述する第1の緻密膜6および第2の緻密膜8を2点鎖線で示している。
【0019】
MEMS型半導体式ガス検知素子1は、たとえば、公知のブリッジ回路(図示せず)に組み込まれて、ガス感応部5の表面の吸着酸素と環境雰囲気中の検知対象ガスとの化学反応に伴う抵抗値の変化が検出される。MEMS型半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部5の抵抗値の変化を検出するために、電極3を介してブリッジ回路に組み込まれる。ブリッジ回路は、MEMS型半導体式ガス検知素子1における抵抗値の変化によって生じる回路内の電位差の変化を電位差計によって測定して、その電位差の変化を検知対象ガスの検知信号として出力する。ただし、MEMS型半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部5の表面の吸着酸素と検知対象ガスとの化学反応に伴って生じる抵抗値の変化を検出することができれば、ブリッジ回路に限定されることはなく、ブリッジ回路とは異なる回路に組み込まれて使用されてもよい。
【0020】
基板2は、基板2に対して電気的に絶縁状態となるように、電極3、ヒータ4、ガス感応部5、ならびに後述する第1の緻密膜6および第2の緻密膜8を支持する部材であり、機能層7が設けられる場合は機能層7も含んで支持する部材である。以下、電極3、ヒータ4、ガス感応部5、第1の緻密膜6、第2の緻密膜8(機能層7が設けられる場合は機能層7も含む)をまとめて「集積部A」ともいう。基板2は、基板2に対して電気的に絶縁状態で集積部Aを支持することができればよく、その構成は特に限定されることはない。基板2は、本実施形態では、
図1および
図2に示されるように、基板本体21と、基板本体21に支持される絶縁支持膜22と、基板本体21と絶縁支持膜22との間に設けられる空洞部23とを備えている。
【0021】
基板本体21は、絶縁支持膜22を支持し、絶縁支持膜22を介して集積部Aを支持する部材である。基板本体21は、
図2に示されるように、絶縁支持膜22の下方(集積部Aが設けられる側の反対側)に設けられ、下方から絶縁支持膜22を支持する。基板本体21は、絶縁支持膜22との間に空洞部23を形成するために、凹部21aが形成されている。ただし、基板本体21は、絶縁支持膜22との間に空洞部が設けられるように形成されていればよく、たとえば
図3の変形例に示されるように、凹部21aを有することなく、絶縁支持膜22の端部を下方から支持しながら、絶縁支持膜22の中央部分の下方には基板本体21が全く存在しない構造を有していてもよい。基板本体21は、絶縁支持膜22を支持することができれば、特に限定されることはなく、たとえばシリコンなどにより形成される。
【0022】
絶縁支持膜22は、集積部Aと基板本体21との間が電気的に絶縁状態となるように、集積部Aを支持する部材である。絶縁支持膜22は、
図2に示されるように、基板本体21に設けられて、基板本体21により支持される。絶縁支持膜22は、絶縁物により膜状に形成される。絶縁支持膜22は、本実施形態では、基板本体21に接続される酸化シリコン膜22aと、酸化シリコン膜22a上に設けられる窒化シリコン膜22bと、窒化シリコン膜22b上に設けられる酸化シリコン膜22cとを備え、これらの3層が積層されて形成される。絶縁支持膜22は、たとえばCVDなどの公知の成膜技術により形成することができる。
【0023】
絶縁支持膜22は、基板本体21との間を電気的に絶縁するように集積部Aを支持することができればよく、その層構造、構成材料、膜厚は特に限定されない。たとえば、絶縁支持膜22は、本実施形態では3層構造を有しているが、単層構造や3層以外の複層構造を有していてもよい。また、絶縁支持膜22は、本実施形態では酸化シリコン膜や窒化シリコン膜により形成されているが、酸化アルミニウムなどの他の絶縁物により形成されてもよい。また、絶縁支持膜22の膜厚は、特に限定されることはなく、基板本体21との間を電気的に絶縁して集積部Aを支持することができるように適宜設定することができる。
【0024】
絶縁支持膜22は、本実施形態では、
図1および
図2に示されるように、集積部Aを支持する本体部221と、基板本体21上に設けられる基部222と、本体部221と基部222とを接続する接続部223とを備えている。絶縁支持膜22は、基部222を介して基板本体21に支持され、本体部221を介して集積部Aを支持する。本体部221、基部222および接続部223は、たとえば、基板本体21上に均一な絶縁支持膜22を形成した後に、公知のエッチング加工技術により形成することができる。
【0025】
本体部221は、接続部223を介して基部222に接続され、接続部223および基部222を介して基板本体21に支持される。本体部221は、基板本体21との間に形成された空洞部23を介して基板本体21から離間して設けられる。MEMS型半導体式ガス検知素子1では、基板本体21から離間して設けられる本体部221に集積部Aが設けられることで、集積部Aに加えられる熱が基板本体21に伝導するのを抑制することができる。それによって、MEMS型半導体式ガス検知素子1では、集積部Aをより効率よく加熱することができ、低消費電力の駆動が可能になる。本体部221は、本実施形態では、
図1に示されるように、上面視で略円形状に形成されている。しかし、本体部221は、基板本体21から離間して設けられ、集積部Aを支持することができれば、特に限定されることはなく、上面視で略矩形状など他の形状に形成されてもよい。
【0026】
基部222は、
図1および
図2に示されるように、基板本体21上に設けられ、基板本体21に支持される。また、基部222は、接続部223を介して本体部221に接続され、接続部223を介して本体部221を支持する。基部222は、本実施形態では、中央部分が略矩形状にくり抜かれた枠状に形成され、その枠内に空洞部23が形成されている。しかし、基部222は、基板本体21上に設けられて、接続部223を介して本体部221を支持することができれば、特に限定されることはなく、略円形状など他の形状でくり抜かれた枠状に形成されてもよい。
【0027】
接続部223は、
図1に示されるように、本体部221と基部222とに接続されて、基部222に支持されながら本体部221を支持する。接続部223は、基板本体21との間に形成された空洞部23を介して基板本体21から離間して設けられる。本体部221を基部222に接続する接続部223が基板本体21から離間して設けられることにより、集積部Aに加えられる熱が基板本体21に伝導するのを抑制することができる。接続部223は、基部222の枠の内側面に接続され、基部222の枠の内側面から、基部222の枠の内側の略中央に位置する本体部221に向かって延びるように形成される。接続部223は、本実施形態では、基部222の枠の4つの内側面のそれぞれに接続され、隣り合う接続部223同士の間の角度が略等角度となる4方向から略等しい長さで本体部221を支持している。したがって、接続部223は、本体部221をバランスよく支持することができる。ただし、接続部223は、本体部221と基部222とを接続し、本体部221を支持することができればよく、図示された例に限定されることはない。
【0028】
電極3は、ガス感応部5の抵抗値変化を検出するための部材である。電極3は、
図1および
図2に示されるように、基板2の絶縁支持膜22の本体部221上に設けられ、その少なくとも一部がガス感応部5に電気的に接続される。電極3は、第1の端部3aおよび第2の端部3bを備え、第1の端部3aが一方のリード線L1に接続され、第2の端部3bが他方のリード線L2に接続される。リード線L1、L2は、電極3と比べて低い電気抵抗を有するように形成される。一方および他方のリード線L1、L2を、たとえば公知のブリッジ回路(図示せず)に接続して、電極3の第1の端部3aと第2の端部3bとの間の抵抗値を測定することにより、電極3とガス感応部5との合成抵抗値を測定することができる。そして、電極3とガス感応部5との合成抵抗値の変化を測定することにより、ガス感応部5の抵抗値変化を検出することができる。
【0029】
電極3は、本実施形態では、通電により発熱して、ガス感応部5を(機能層7が設けられる場合は機能層7も)加熱するヒータ4としても機能する。つまり、本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子1では、電極3は、ヒータ4を兼ねており、逆に、ヒータ4は、電極3を兼ねている。したがって、電極3およびヒータ4は、ガス感応部5の抵抗値変化を検出することができるとともに、通電によって、ガス感応部5を、検知対象ガスの検知に適した温度に加熱することができる。ただし、電極3は、少なくともガス感応部5の抵抗値変化を検出することができればよく、ガス感応部5を加熱するためのヒータ4とは別に設けられてもよい。また、ヒータ4は、少なくともガス感応部5を加熱することができればよく、ガス感応部5の抵抗値変化を検出する電極3とは別に設けられてもよい。以下では、電極3の詳細を説明することで、ヒータ4の詳細な説明を省略する。電極3およびヒータ4がそれぞれ別に設けられる場合には、電極3およびヒータ4の両方を以下で説明する構成と同じ構成とすることもできるし、電極3およびヒータ4のいずれか一方を以下で説明する構成と同じ構成とし、電極3およびヒータ4の他方を以下で説明する構成と異なる構成とすることもできるし、電極3およびヒータ4の両方を以下で説明する構成と異なる構成とすることもできる。
【0030】
電極3は、ガス感応部5の抵抗値変化を検出することができればよく、その構成材料は特に限定されない。電極3は、たとえば白金、白金-ロジウム合金などの貴金属などにより形成することができる。電極3は、たとえば、電極3用材料により均一な膜を形成した後に、公知のエッチング加工技術により形成することができる。なお、電極3は、たとえば
図2に示されるように、任意で、基板2の絶縁支持膜22の本体部221との密着性を高めるために、また、後述する第2の緻密膜8との密着性を高めるために、酸化タンタルなどにより形成される接着層9を介して本体部221および第2の緻密膜8に接続されてもよい。
【0031】
電極3は、ガス感応部5の抵抗値変化を検出することができるように配置されていればよく、その配線経路は特に限定されない。電極3は、本実施形態では、
図1に示されるように、一方のリード線L1に接続される第1の端部3aを含む第1の端部領域31と、他方のリード線L2に接続される第2の端部3bを含む第2の端部領域32と、第1の端部領域31と第2の端部領域32との間に延び、第1の端部領域31と第2の端部領域32とを接続する本体領域33とを備えている。電極3は、第1の端部領域31、第2の端部領域32および本体領域33を備え、単一の電極として構成される。ただし、電極は、ガス感応部の抵抗値変化を検出することができれば、本実施形態に限定されることはなく、互いに分離した2つ以上の電極により構成されてもよい。
【0032】
第1の端部領域31は、第1の端部3aを含む、第1の端部3aに隣接する電極3の一部の領域である。第1の端部領域31は、第1の端部3aから所定の長さの範囲の電極3の一部により構成される。本実施形態では、第1の端部領域31は、
図1に示されるように、基板2(本体部221)の端部近傍に配置された第1の端部3aと、第1の端部3aから基板2の中心に向かって延び、基板2の中心に最も近づいた部位である第1の近接部3cとの間の領域である。第1の端部領域31は、本実施形態では、第1の端部3aから基板2の中心に向かって略直線的に略最短距離で延びている。ただし、第1の端部領域31は、第1の端部3aから、少なくとも基板2の中心から遠ざかることなく、基板2の中心に近づくように延びていれば、図示された例に限定されることはなく、湾曲して延びていてもよい。また、第1の端部領域31は、基板2の中心近傍に第1の端部3aが配置されて、第1の端部3aから、基板2の中心から離れる方向に延びる電極3の一部により構成されてもよい。
【0033】
第2の端部領域32は、第2の端部3bを含む、第2の端部3bに隣接する電極3の一部の領域である。第2の端部領域32は、第2の端部3bから所定の長さの範囲の電極3の一部により構成される。第2の端部領域32は、本実施形態では、
図1に示されるように、基板2(本体部221)の端部近傍に配置された第2の端部3bと、第2の端部3bから基板2の中心に向かって延び、基板2の中心に最も近づいた部位である第2の近接部3dとの間の領域である。第2の端部領域32は、本実施形態では、第2の端部3bから基板2の中心に向かって略直線的に略最短距離で延びている。ただし、第2の端部領域32は、第2の端部3bから、少なくとも基板2の中心から遠ざかることなく、基板2の中心に近づくように延びていれば、本実施形態に限定されることはなく、湾曲して延びていてもよい。また、第2の端部領域32は、本実施形態では第1の端部領域31と略平行かつ略一直線上に延び、第1の端部領域31と略同一の長さを有しているが、第1の端部領域31に対して傾斜して設けられていてもよく、第1の端部領域31とは異なる長さを有していてもよい。また、第2の端部領域32は、基板2の中心近傍に第2の端部3bが配置されて、第2の端部3bから、基板2の中心から離れる方向に延びる電極3の一部により構成されてもよい。
【0034】
第1の端部領域31および第2の端部領域32は、本実施形態では、
図1に示されるように、第1の端部領域31および第2の端部領域32の単位長さ当たりの面積が本体領域33の単位長さ当たりの面積よりも大きくなるように(本体領域33よりも幅広に)形成されている。したがって、第1の端部領域31および第2の端部領域32に、後述する第1の緻密膜6を容易に設けることができ、また広い接続面積を確保することができる。また、第1の端部領域31および第2の端部領域32は、本実施形態では、
図1に示されるように、互いに接近して設けられている。より具体的には、第1の端部領域31および第2の端部領域32は、第1の端部領域31と第2の端部領域32との間の距離が、基板2(本体部221)の中心から外縁までの距離の1/2の距離よりも短くなるように、互いに接近して設けられている。したがって、第1の端部領域31および第2の端部領域32に電気的に接続するように設けられるガス感応部5をより小さく形成することができる。そして、ガス感応部5を小さく形成しても、電極3とガス感応部5との合成抵抗値が、電極3のほぼ全体の電気抵抗値とガス感応部5の電気抵抗値の並列合成抵抗値となるため、ガス感応部5のわずかな抵抗値変化を検出することができ、検知対象ガスの高い検出感度を確保することができる。ガス感応部5をより小さく形成するという観点から、第1の端部領域31と第2の端部領域32との間の距離は、たとえば、基板2の中心から外縁までの距離の2/3以下であることが好ましく、基板2の中心から外縁までの距離の1/2以下であることがより好ましく、基板2の中心から外縁までの距離の1/3以下であることがよりさらに好ましい。
【0035】
また、第1の端部領域31および第2の端部領域32は、本実施形態では、
図1に示されるように、基板2(本体部221)の中心近傍まで延びている。より具体的には、第1の端部領域31および第2の端部領域32は、基板2の外縁までの距離の1/2の距離よりも短い距離まで、基板2の中心に接近して延びている。したがって、ガス感応部5は、基板2の中心近傍において、より小さく形成することができる。さらに、ガス感応部5が基板2の中心近傍にだけ設けられることで、ガス感応部5の端部の全体において機能層7を十分な厚さで形成することができるので、機能層7の機能をより高めることができる。ガス感応部5を基板2の中心近傍に設けるという観点から、第1の端部領域31および第2の端部領域32のそれぞれと基板2の中心との間の距離は、たとえば、基板2の中心から外縁までの距離の2/3以下であることが好ましく、基板2の中心から外縁までの距離の1/2以下であることがより好ましく、基板2の中心から外縁までの距離の1/3以下であることがよりさらに好ましい。
【0036】
本体領域33は、第1の端部領域31と第2の端部領域32とを接続する電極3の一部の領域である。本体領域33は、第1の端部領域31と第2の端部領域32とを接続するように第1の端部領域31と第2の端部領域32との間に延びていれば、その配置は特に限定されることはない。本体領域33は、本実施形態では、
図1に示されるように、基板2(本体部221)上の第1の端部3aと第2の端部3bとを結ぶ直線Sに対して垂直方向の一方側(第1の領域221a)と、基板2上の第1の端部3aと第2の端部3bとを結ぶ直線Sに対して垂直方向の他方側(第2の領域221b)とに延びている。本体領域33が、基板2(本体部221)上の対向する2つの領域221a、221bに設けられることにより、ガス感応部5を加熱するために電極3(ヒータ4)を昇温しても、基板2がより均一に加熱されるので、基板2が熱により湾曲することが抑制される。
【0037】
本体領域33は、本実施形態では、
図1に示されるように、基板2(本体部221)の第1の領域221aに設けられる第1の本体領域331と、基板2の第2の領域221bに設けられる第2の本体領域332と、第1の本体領域331と第2の本体領域332との間に設けられる中間領域333とを備えている。
【0038】
第1の本体領域331は、
図1に示されるように、基板2(本体部221)の第1の領域221a上において、第1の端部領域31の一方側の端部である第1の端部3aとは反対側の他方側の端部(第1の近接部3c)から中間領域333まで延びている。より具体的には、第1の本体領域331は、第1の端部領域31の他方側の端部から、基板2の端部に(図中、上側に)向かって蛇行しながら延び、基板2の端縁に沿って延びた後、基板2の中心に向かって延び、中間領域333にまで延びている。それによって、第1の本体領域331は、第1の領域221a内において高い密度で配置されるので、長い配線長さを確保し、高い電気抵抗値を確保することができる。
【0039】
第2の本体領域332は、
図1に示されるように、基板2(本体部221)の第2の領域221b上において、第2の端部領域32の一方側の端部である第2の端部3bとは反対側の他方側の端部(第2の近接部3d)から中間領域333まで延びている。より具体的には、第2の本体領域332は、第2の端部領域32の他方側の端部から、基板2の端部に(図中、下側に)向かって蛇行しながら延び、基板2の端縁に沿って延びた後、基板2の中心に向かって延び、中間領域333にまで延びている。それによって、第2の本体領域332は、第2の領域221b内において高い密度で配置されるので、長い配線長さを確保し、高い電気抵抗値を確保することができる。
【0040】
第1の本体領域331および第2の本体領域332は、本実施形態では、
図1に示されるように、互いに略同一の長さに形成され、互いに略同一の電気抵抗を有している。それにより、ガス感応部5を加熱するために電極3(ヒータ4)を昇温しても、基板2がより均一に加熱されるので、基板2が熱により湾曲するのが抑制される。また、第1の本体領域331および第2の本体領域332は、基板2の略中心を中心として、互いに略点対象に配置されている。それにより、電極3(ヒータ4)を昇温した際に、基板2がよりさらに均一に加熱されるので、基板2が熱により湾曲するのがよりさらに抑制される。
【0041】
中間領域333は、
図1に示されるように、第1の本体領域331と第2の本体領域332とを接続する。中間領域333は、基板2(本体部221)の第1の領域221aと第2の領域221bとの間の境界において、第1の端部3aと第2の端部3bとを結ぶ直線Sと交差(図示された例では直交)して、第1の領域221aと第2の領域221bとの間に延びるように設けられている。本実施形態では、中間領域333の両側に設けられる第1の本体領域331および第2の本体領域332が互いに略同一の長さに形成されているので、中間領域333は、本体領域33の延びる方向における本体領域33の略中間の長さの位置にある。中間領域333は、基板2の略中心において、第1の端部領域31および第2の端部領域32の間に設けられている。第1の端部領域31および第2の端部領域32の間には、第1の本体領域331および第2の本体領域332が設けられることなく、中間領域333のみが設けられている。
【0042】
ガス感応部5は、表面の吸着酸素と検知対象ガスとの化学反応に伴って電気抵抗が変化する部位である。ガス感応部5は、検知対象ガスの接触によって電気抵抗が変化する材料であれば、特に限定されることはなく、たとえば金属酸化物半導体を主成分とする材料により構成することができる。ガス感応部5は、
図1および
図2に示されるように、電極3に電気的に接続し、ヒータ4に熱的に接続するように基板2上に設けられる。ガス感応部5が電極3に電気的に接続するように設けられることで、電極3を介してガス感応部5の電気抵抗の変化を検出することができる。また、ガス感応部5がヒータ4に熱的に接続するように設けられることで、ヒータ4を介してガス感応部5を検知対象ガスの検知に適した温度に加熱することができる。
【0043】
ガス感応部5の金属酸化物半導体としては、吸着酸素と検知対象ガスとの化学反応に伴って電気抵抗が変化するものであれば、特に限定されることはない。たとえば、ガス感応部5の金属酸化物半導体としては、酸素吸着、および吸着酸素とガス成分との化学反応を促進し、ガス検知感度を向上させるという観点から、n型半導体を用いることが好ましく、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化タングステンの中から選択される少なくとも1種を含む金属酸化物半導体を用いることがさらに好ましく、酸化スズおよび酸化インジウムの中から選択される少なくとも1種を含む金属酸化物半導体を用いることがよりさらに好ましい。
【0044】
ガス感応部5の金属酸化物半導体は、電気抵抗を調整するために、ドナーとして金属元素が添加されていてもよい。添加される金属元素としては、金属酸化物半導体中にドナーとして添加可能であり、金属酸化物半導体の電気抵抗を調整することが可能であれば、特に限定されることはないが、たとえば、アンチモン、ニオブおよびタングステンの中から選択される少なくとも1種が例示される。また、ガス感応部5の金属酸化物半導体は、電気抵抗を調整するために、金属酸化物半導体中に酸素欠損が導入されてもよい。金属元素濃度や酸素欠損濃度は、要求される電気抵抗に応じて、適宜設定することができる。
【0045】
ガス感応部5は、基板2上において、電極3によって抵抗変化を検出できるように、またヒータ4によって加熱されるように設けられればよく、その形成方法は特に限定されない。ガス感応部5は、たとえば、金属酸化物半導体の微粉体を溶媒に混ぜてペースト状としたものを、予め電極3およびヒータ4が設けられた基板2上に塗布して乾燥させることにより形成することが可能である。
【0046】
ガス感応部5に任意で被覆するように設けられる機能層7は、ガス感応部5における検知対象ガスの選択性を向上させる機能や、ガス感応部5の劣化を抑制する機能など、ガス感応部5のガス検知特性を向上させる機能を有する層である。機能層7は、ガス感応部5を被覆するようにガス感応部5上に設けられる。本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子1では、ガス感応部5が、基板2の一部に設けられている。それにより、ガス感応部5上に設けられる機能層7は、ガス感応部5の端部領域においても、必要な厚さで形成することができるので、機能の低下を抑制することができる。したがって、本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子1では、ガス感応部5が基板2の全体に設けられる場合と比べて、機能層7の全体の機能を向上させることができる。
【0047】
本実施形態では、機能層7として、ガス感応部5の劣化を抑制し、ガス感応部5を保護する機能を有する2種類の層(以下、第1機能層、第2機能層という)が例示される。ただし、機能層7としては、ガス感応部5のガス検知特性を向上させる機能を有するものであれば、特に限定されることはなく、半導体式ガス検知素子において、ガス感応部を被覆することでガス感応部のガス検知特性を向上させる機能を有する公知の層を採用することができる。
【0048】
第1の例である第1機能層は、環境雰囲気中に含まれる検知対象ガス以外の特定のガス成分(たとえば有機シリコーンガス)からガス感応部5を保護し、ガス感応部5の耐久性を向上させる。第1機能層は、たとえば、環境雰囲気中に含まれる有機シリコーンガス(たとえば、ヘキサメチルジシロキサンなど)がガス感応部5に付着することによってガス感応部5が被毒する(ガス感応部5の検知感度が変化してMEMS型半導体式ガス検知素子1が誤作動する)のを抑制する。
【0049】
第1機能層は、ガス感応部5を保護し、ガス感応部5の耐久性を向上させるという目的のために、金属酸化物半導体に金属酸化物が担持されて形成される。金属酸化物半導体としては、特に限定されることはなく、たとえば、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化タングステンの中から選択される少なくとも1種を含む金属酸化物半導体を用いることができる。金属酸化物としては、特定のガス成分からガス感応部5を保護し得る金属酸化物であり、たとえば、酸化クロム、酸化パラジウム、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ロジウム、酸化銅、酸化セリウム、酸化白金、酸化タングステンおよび酸化ランタンの中から選択される少なくとも1種を用いることができる。金属酸化物は、上に例示された中でも、ガス感応部5の劣化をよりさらに抑制する観点から、酸化クロムおよび酸化パラジウムの中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
第1機能層は、特定のガス成分からガス感応部5を保護し、ガス感応部5の耐久性を向上させることができれば、その形成方法は特に限定されない。第1機能層は、たとえば、金属酸化物半導体の微粉体と金属酸化物の微粉体との混合物を溶媒に混ぜてペースト状としたものをガス感応部5に塗布して乾燥させることによって形成することができる。
【0051】
第2の例である第2機能層は、第1機能層と同様の目的のために、絶縁性酸化物により構成される。第2機能層は、絶縁性酸化物により特定のガス成分を捕捉することで、ガス感応部5を保護する。また、第2機能層が絶縁性酸化物により構成されることで、第2機能層中に電流が流れることが抑制され、検知対象ガス検知時のガス感応部5の抵抗値変化に及ぼす影響を抑えることができるので、検知対象ガスの検知感度が低下するのを抑えることができる。絶縁性酸化物としては、特に限定されることはないが、たとえば酸化アルミニウムおよび酸化シリコンの中から選択される少なくとも1種が例示される。
【0052】
第2機能層は、絶縁性酸化物に、酸化活性を有する金属酸化物が担持されて形成されてもよい。第2機能層は、酸化活性を有する金属酸化物が絶縁性酸化物に担持されて形成されることにより、ガス感応部5の劣化をより抑制することができる。酸化活性を有する金属酸化物としては、たとえば、酸化クロム、酸化パラジウム、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ロジウム、酸化銅、酸化セリウム、酸化白金、酸化タングステンおよび酸化ランタンの中から選択される少なくとも1種が例示される。金属酸化物は、上に例示された中でも、ガス感応部5の劣化をよりさらに抑制する観点から、酸化クロムおよび酸化パラジウムの中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0053】
第2機能層は、特定のガス成分からガス感応部5を保護し、ガス感応部5の耐久性を向上させることができれば、その形成方法は特に限定されない。第2機能層は、たとえば、絶縁性酸化物の微粉体と金属酸化物の微粉体との混合物を溶媒に混ぜてペースト状としたものをガス感応部5に塗布して乾燥させることによって形成することができる。
【0054】
MEMS型半導体式ガス検知素子1は、
図1および
図2に示されるように、ガス感応部5よりも緻密な第1の緻密膜6および第2の緻密膜8を備えている。第1の緻密膜6および第2の緻密膜8は、(本実施形態では一部が接着層9を介して)ヒータ4を覆うようにヒータ4に接続され、ヒータ4とガス感応部5とを熱的に接続する。MEMS型半導体式ガス検知素子1では、ガス感応部5よりも緻密な第1および第2の緻密膜6、8によりヒータ4が覆われることで、ガス感応部5によりヒータ4が覆われる場合と比べて、ヒータ4の熱耐久性が向上する。これは、緻密な第1および第2の緻密膜6、8によって、ヒータ4の昇温時にマイグレーションなどが発生することが抑制されるためだと考えられる。MEMS型半導体式ガス検知素子1は、ヒータ4の熱耐久性が向上することで、長期の使用が可能になる。
【0055】
また、第1の緻密膜6は、第2の緻密膜8と比較してガス感応部5に対する密着性が高く、ガス感応部5に接続される。そして、第2の緻密膜8は、第1の緻密膜6と比較して基板2に対する密着性が高く、基板2に接続される。これにより、ヒータ4を覆うように接続される第1および第2の緻密膜6、8は、ガス感応部5および基板2に強固に密着される。MEMS型半導体式ガス検知素子1では、ガス感応部5および基板2に強固に密着される第1および第2の緻密膜6、8がヒータ4を覆うことによって、ヒータ4とガス感応部5との間に良好な熱的接続を確保することができる。そして、ヒータ4とガス感応部5との間に良好な熱的接続が確保されることで、ガス感応部5を検知対象ガスの検知に適した温度に正確に加熱することができるので、検知対象ガスに対して高い感度を得ることができる。さらに、ヒータ4とガス感応部5との間に良好な熱的接続が確保されることで、たとえばMEMS型半導体式ガス検知素子1が高温高湿環境下に曝された場合にも、熱的接続の経時劣化が抑制される。MEMS型半導体式ガス検知素子1は、ヒータ4とガス感応部5との間の熱的接続の経時劣化が抑制されることで、経時後もガス感応部5を安定して加熱することができ、それによってガス検知感度の劣化を抑制することができる。
【0056】
第1の緻密膜6は、上述したように、ガス感応部5よりも緻密に構成され、第2の緻密膜8とともにヒータ4を覆うようにヒータ4に接続される。また、第1の緻密膜6は、第2の緻密膜8と比較してガス感応部5に対して高い密着性を有し、好ましくはヒータ4と比較してガス感応部5に対して高い密着性を有し、また好ましくはガス感応部5と比較してヒータ4に対して高い密着性を有し、ヒータ4とガス感応部5との間に介在して、ヒータ4とガス感応部5とを互いに接続する。
【0057】
第1の緻密膜6は、ガス感応部5よりも緻密であり、すなわちガス感応部5よりも高い密度を有し、第2の緻密膜8と比較してガス感応部5に対する密着性が高ければよく、その構成材料は特に限定されることはない。本実施形態では、第1の緻密膜6は、ガス感応部5に含まれる金属酸化物半導体の金属元素と同一の金属元素を含む金属酸化物半導体を主成分として形成される。具体的には、たとえばガス感応部5の主成分が酸化スズである場合、第1の緻密膜6は酸化スズを主成分として含み、ガス感応部5の主成分が酸化インジウムである場合、第1の緻密膜6は酸化インジウムを主成分として含む。ガス感応部5に含まれる金属酸化物半導体の金属元素と同一の金属元素を含む金属酸化物半導体を主成分として第1の緻密膜6が形成されることにより、ガス感応部5と第1の緻密膜6とが互いに馴染みやすく、ガス感応部5と第1の緻密膜6との間の密着性をより高めることができる。第1の緻密膜6の膜厚は、特に限定されることはなく、第2の緻密膜8とともにヒータ4を被覆し、ヒータ4とガス感応部5とを接続することができるように適宜設定可能である。
【0058】
第1の緻密膜6は、ガス感応部5よりも緻密であり、第2の緻密膜8と比較してガス感応部5に対する密着性が高くなるように形成することができれば、その形成方法は特に限定されない。本実施形態では、第1の緻密膜6は、スパッタリングや真空蒸着により形成することができる。第1の緻密膜6は、スパッタリングや真空蒸着により形成されることで、塗布などにより形成される場合と比べて、より緻密な膜として形成される。第1の緻密膜6は、たとえば、基板2を300℃などの高温で加熱しながら、ターゲットである酸化スズや酸化インジウムなどの金属酸化物半導体をアルゴンイオンでスパッタリングすることにより、金属酸化物半導体を主成分として形成することができる。この方法によれば、第1の緻密膜6をより緻密な膜として形成できるとともに、ガス感応部5、ヒータ4、第2の緻密膜8に対する密着性をより高めることができる。
【0059】
ここで、第1の緻密膜6は、ガス感応部5よりも電気抵抗が小さく、導電性を有していてもよい。この場合、第1の緻密膜6は、以下に述べるように、第2の緻密膜8とともに、ヒータ4の経路とは異なる(よりも短い)経路でヒータ4を電気的に短絡させないように、ヒータ4に接続されることが好ましい。これにより、第1の緻密膜6が導電性を有していても、第1の緻密膜6によるヒータ4の短絡が抑制されることで、ヒータ4を正常または正常に近い状態で機能させることができる。また、本実施形態のようにヒータ4が電極3を兼ねる場合には、第1の緻密膜6は、導電性を有することで、電極3とガス感応部5とを電気的に接続するように機能する。そして、第1の緻密膜6は、ガス感応部5に対して高い密着性を有しているので、電極3に対するガス感応部5の密着性を高めることができる。それによって、電極3とガス感応部5との間に良好な電気接続を確保することができ、検知対象ガスがガス感応部5に接触した際に生じるガス感応部5の抵抗値の変化をより正確に検知することができる。さらに、MEMS型半導体式ガス検知素子1のガス検知能力の経時的な変化を抑制し、たとえば高温高湿環境下に曝された場合に生じる経時的なガス検知感度の劣化を抑制することができる。
【0060】
第1の緻密膜6は、第2の緻密膜8とともに、ヒータ4を覆うようにヒータ4に接続され、ヒータ4とガス感応部5とを熱的に接続することができれば、その配置は特に限定されることはない。第1の緻密膜6は、本実施形態では、
図1および
図2に示されるように、ヒータ4の少なくとも一部の上面に接続される。これにより、ヒータ4の上面から接続されるガス感応部5の密着性をより高めることができ、ヒータ4とガス感応部5との間により良好な熱的接続を確保することができる。第1の緻密膜6が導電性を有する場合には、第1の緻密膜6がヒータ4の上面に設けられて、ヒータ4の経路とは異なる(よりも短い)経路でヒータ4を電気的に短絡させないことで、ヒータ4を正常または正常に近い状態で機能させることができる。また、第1の緻密膜6の少なくとも一部は、
図2に示されるように、第2の緻密膜8の上に設けられる。これにより、第2の緻密膜8と比較してガス感応部5に対する密着性の高い第1の緻密膜6のガス感応部5に対する接続面積を大きくすることができるので、ヒータ4とガス感応部5との密着性をより高め、ヒータ4とガス感応部5との間により良好な熱的接続を確保することができる。
【0061】
本実施形態では、第1の緻密膜6は、
図1および
図2に示されるように、ヒータ4の第1の端部領域31および第2の端部領域32に接続されている。これにより、ガス感応部5がヒータ4の両方の端部領域31、32に熱的に接続されることとなる。この場合、たとえばヒータ4の延びる方向に熱勾配が生じたとしても、両方の端部領域31、32の平均の温度でガス感応部5が加熱されるので、熱勾配の影響を抑えることができる。また、本実施形態のようにヒータ4が電極3を兼ね、第1の緻密膜6が導電性を有する場合には、第1の緻密膜6は、電極3の第1の端部領域31および第2の端部領域32に接続される。この場合、ガス感応部5が第1の端部領域31および第2の端部領域32に電気的に接続することとなり、電極3とガス感応部5との合成抵抗値が、電極3の長さ方向に亘って全体の電気抵抗値とガス感応部5の電気抵抗値との並列合成抵抗値となる。これにより、電極3とガス感応部5との合成抵抗値は、ガス感応部5の電気抵抗値の変化に応じて大きく変化するので、検知対象ガスに対して高い感度を得ることができる。
【0062】
より具体的に説明すると、第1の緻密膜6は、本実施形態では、
図1および
図2に示されるように、第1の端部領域31に接続される第1の緻密部61と、第2の端部領域32に接続される第2の緻密部62とを備えている。第1の緻密部61および第2の緻密部62は、ヒータ4を介して互いに接続されている以外には、互いに分離するように設けられている。これによって、第1の緻密膜6は、導電性を有していても、ヒータ4の経路とは異なる経路でヒータ4を電気的に短絡させない。
【0063】
第1の緻密部61および第2の緻密部62はそれぞれ、
図1および
図2に示されるように、ヒータ4(電極3)と接続するヒータ(電極)接続部61a、62aと、ガス感応部5と接続するガス感応部接続部61b、62bとを備えている。ヒータ(電極)接続部61a、62aは、ガス感応部5側からヒータ4(電極3)の第1の端部領域31および第2の端部領域32に向かって、第2の緻密膜8および接着層9に設けられた貫通孔を通って延びるように設けられている。ヒータ(電極)接続部61a、62aの一端は、ヒータ4(電極3)の第1の端部領域31および第2の端部領域32に接続され、ヒータ(電極)接続部61a、62aの他端は、ガス感応部接続部61b、62bに接続される。ガス感応部接続部61b、62bは、基板2(本体部221)の表面に沿って、ヒータ(電極)接続部61a、62aのヒータ4(電極3)との接続面積よりも広く、またヒータ4(電極3)の表面積よりも広い面積で面状に広がるように設けられている。ガス感応部接続部61b、62bの一方の面は、ガス感応部5に接続され、ガス感応部接続部61b、62bの他方の面は、ヒータ(電極)接続部61a、62aおよび第2の緻密膜8に接続される。このように、第1の緻密膜6の少なくとも一部が、第2の緻密膜8の上に設けられることにより、ガス感応部5に対する接続面積を大きくして、ヒータ4とガス感応部5との密着性をより高めることができ、結果として、ヒータ4とガス感応部5との間により良好な熱的接続を確保することができる。また、本実施形態のようにヒータ4が電極3を兼ね、第1の緻密膜6が導電性を有する場合には、電極3を短絡させることなく第1の緻密膜6を基板2の表面に沿って面状に広がるように設けることが可能になる。それによって、ガス感応部5と第1の緻密膜6との間の接続面積を大きくして、ガス感応部5と第1の緻密膜6との間の密着力を向上させ、結果として、電極3とガス感応部5との間の密着性をより向上させることができる。さらに、ヒータ(電極)接続部61a、62aの電極3との接続面積よりも広く、また電極3の表面積よりも広い面積を有するガス感応部接続部61b、62bがガス感応部5と接続することで、第1の緻密膜6とガス感応部5との導通、ひいては電極3とガス感応部5との導通をより確実に確保することができ、ガス感応部5の抵抗値変化をより確実に検知することができる。さらに、MEMS型半導体式ガス検知素子1のガス検知能力の経時的な変化をより抑制し、たとえば高温高湿環境下に曝された場合に生じる経時的なガス検知感度の劣化をより抑制することができる。ガス感応部接続部61b、62bはそれぞれ、基板2(本体部221)の略半分の面積を有し、略半円状に形成されている。そして、ガス感応部接続部61b、62bは、ヒータ4(電極3)の第1の端部3aと第2の端部3bとを結ぶ直線Sに沿って互いに対向するように、それぞれの略半円の直線部分同士の間に設けられたギャップGを介して互いに離間して設けられている。
【0064】
第2の緻密膜8は、上述したように、ガス感応部5よりも緻密に構成され、第1の緻密膜6とともにヒータ4を覆うようにヒータ4に接続される。また、第2の緻密膜8は、第1の緻密膜6と比較して基板2に対して高い密着性を有し、好ましくはガス感応部5と比較して基板2に対して高い密着性を有し、基板2とヒータ4との間に介在して、基板2とヒータ4とを互いに接続する。
【0065】
第2の緻密膜8は、ガス感応部5よりも緻密であり、すなわちガス感応部5よりも高い密度を有し、第1の緻密膜6と比較して基板2に対する密着性が高くなるように形成されていれば、その構成材料は特に限定されることはなく、たとえば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化タンタルなどの絶縁性材料を主成分として構成することができる。本実施形態では、第2の緻密膜8は、基板2(本体部221)に含まれる絶縁性酸化物の金属元素または半導体元素と同一の金属元素または半導体元素を含む絶縁性酸化物を主成分として構成される。具体的には、たとえば基板2に含まれる絶縁性酸化物が酸化シリコンである場合、第2の緻密膜8は酸化シリコンを主成分として構成される。基板2に含まれる絶縁性酸化物の金属元素または半導体元素と同一の金属元素または半導体元素を含む絶縁性酸化物を主成分として第2の緻密膜8が構成されることにより、基板2と第2の緻密膜8とが互いに馴染みやすく、基板2と第2の緻密膜8との間の密着性を高めることができる。第2の緻密膜8の膜厚は、特に限定されることはなく、第1の緻密膜6とともにヒータ4を被覆し、基板2との密着性を確保できるように適宜設定可能である。
【0066】
第2の緻密膜8は、ガス感応部5よりも緻密であり、第1の緻密膜6と比較して基板2に対する密着性が高くなるように形成することができれば、その形成方法は特に限定されない。本実施形態では、第2の緻密膜8は、たとえばCVDやスパッタリングなどの公知の成膜技術により形成することができる。第2の緻密膜8は、CVDやスパッタリングにより形成されることで、塗布などにより形成される場合と比べて、より緻密な膜として形成される。
【0067】
ここで、上述したように、第2の緻密膜8は、ガス感応部5よりも電気抵抗が大きく、絶縁性を有してもよい。この場合、第1および第2の緻密膜6、8は、
図1および
図2に示されるように、ヒータ4の経路とは異なる(よりも短い)経路でヒータ4を電気的に短絡させないように、ヒータ4に接続されることが好ましい。これにより、第1の緻密膜6が導電性を有していても、第1の緻密膜6によるヒータ4の短絡が抑制されることで、ヒータ4を正常または正常に近い状態で機能させることができる。また、本実施形態のようにヒータ4が電極3を兼ねる場合には、第1および第2の緻密膜6、8は、電極3の経路とは異なる(よりも短い)経路で電極3を電気的に短絡させないように、電極3に接続されることが好ましい。この場合、電極3の電気抵抗値とガス感応部5の電気抵抗値との合成抵抗値は、導電性を有する第1の緻密膜6による電極3の短絡が抑制されることで、ガス感応部5が接続する電極3の全体の電気抵抗値とガス感応部5の電気抵抗値との並列合成抵抗値となる。これにより、第1の緻密膜6を設けても、電極3の電気抵抗値とガス感応部5の電気抵抗値との合成抵抗値は、ガス感応部5の電気抵抗値の変化に応じて大きく変化するので、検知対象ガスに対して高い感度を得ることができる。
【0068】
ここで、「ヒータ4(電極3)の経路とは異なる経路でヒータ4(電極3)を短絡させる」とは、たとえば基板2上のヒータ4(電極3)の配線経路とは異なる経路で、導電性を有する第1の緻密膜6が配置されて、その第1の緻密膜6が、ヒータ4(電極3)の配線経路とは異なる経路でヒータ4(電極3)の一部同士を橋渡しするようにして短絡させることを意味する。なお、「ヒータ4(電極3)の経路とは異なる経路でヒータ4(電極3)を電気的に短絡させない」とは、ヒータ4(電極3)の経路の少なくとも一部に亘って短絡させないことを意味し、必ずしもヒータ4(電極3)の経路のいずれにおいても短絡させないことを意味するものではない。ただし、ヒータ4を正常に機能させるためには、ヒータ4の経路の全体に亘って短絡させないことが好ましい。また、本実施形態のようにヒータ4が電極3を兼ねる場合には、検知対象ガスに対して高い検知感度を得るために、電極3の経路の全体に亘って短絡させないことが好ましい。
【0069】
第2の緻密膜8は、第1の緻密膜6とともに、ヒータ4を覆うようにヒータ4に接続され、ヒータ4とガス感応部5とを熱的に接続することができれば、その配置は特に限定されることはない。第2の緻密膜8は、本実施形態では、
図1および
図2に示されるように、ヒータ4の異なる2点間の隙間に形成される。より具体的には、第2の緻密膜8は、基板2(本体部221)上においてヒータ4が設けられてない領域を充填するように設けられる。これにより、第1の緻密膜6が導電性を有し、第2の緻密膜8が絶縁性を有する場合には、より確実に第1の緻密膜6がヒータ4の経路とは異なる経路でヒータ4を電気的に短絡させないようにすることができるので、ヒータ4をより正常に機能させることができる。そして、ヒータ4が電極3を兼ねる場合には、より確実に電極3を短絡させることがないので、検知対象ガスに対してより高い感度を得ることができる。
【0070】
第2の緻密膜8は、本実施形態では、
図1および
図2に示されるように、ヒータ4(電極3)間の隙間に設けられるヒータ(電極)間緻密部8aと、(本実施形態では、接着層9を介して)ヒータ4(電極3)の表面上に設けられるヒータ(電極)表面緻密部8bとを備えている。ヒータ(電極)間緻密部8aは、ヒータ4(電極3)間の隙間において、ガス感応部5側から基板2(本体部221)に向かって延びるように設けられている。ヒータ(電極)間緻密部8aの一端は、基板2に接続され、ヒータ(電極)間緻密部8aの他端は、ヒータ(電極)表面緻密部8bに接続される。基板2表面に沿う方向のヒータ(電極)間緻密部8aの側面は、隣接するヒータ4(電極3)の側部に接続される。また、ヒータ(電極)表面緻密部8bは、基板2の表面に沿って面状に広がるように設けられる。ヒータ(電極)表面緻密部8bの一方の面は、ガス感応部5および第1の緻密膜6に接続され、ヒータ(電極)表面緻密部8bの他方の面は、(本実施形態では、接着層9を介して)ヒータ4(電極3)およびヒータ(電極)間緻密部8aに接続される。ヒータ(電極)表面緻密部8bは、ヒータ4(電極3)の第1の端部領域31および第2の端部領域32に接続される第1の緻密膜6のヒータ(電極)接続部61a、62aが貫通するための貫通孔が設けられている以外は、基板2の表面の略全体に亘って面状に広がるように設けられている。
【実施例】
【0071】
以下において、実施例をもとに本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子の優れた効果を説明する。ただし、本発明のMEMS型半導体式ガス検知素子は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
図1および
図2に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1のヒータ4(電極3)の熱耐久性を評価しやすくするために、MEMS型半導体式ガス検知素子1からガス感応部5および機能層7を除いたサンプルを以下の手順で作製した。まず、公知の微細加工技術により、基板2を作成し、基板2上に接着層9/ヒータ4(電極3)/接着層9を配線した。その際、接着層9としては、酸化タンタルを用い、ヒータ4(電極3)としては、白金を用いた。接着層9およびヒータ4(電極3)はそれぞれ、スパッタリングにより形成した。接着層9およびヒータ4(電極3)の膜厚はそれぞれ、20nmおよび300nmとした。つぎに、公知の微細加工技術により、第1の緻密膜6/第2の緻密膜8を接着層9/ヒータ4(電極3)/接着層9上に配置した。第1の緻密膜6としては、酸化スズを用い、第2の緻密膜8としては、酸化シリコンを用いた。第1の緻密膜6は、スパッタリングにより形成し、第2の緻密膜8は、CVDにより形成した。第1の緻密膜6および第2の緻密膜8の膜厚はそれぞれ、500nmおよび1000nmとした。以上のサンプルを、後述する熱耐久性試験に供した。
【0073】
(実施例2)
実施例1のサンプルに以下の手順でガス感応部5および機能層7を設けることで、
図1および
図2に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。アンチモンをドナーとして0.1wt%添加した酸化スズ半導体の微粉体のペーストを、実施例1のサンプルの第1の緻密膜6/第2の緻密膜8を覆って最大厚さが20μmになるように塗布して、乾燥後、電気炉にて650℃で2時間加熱して焼結することにより、ガス感応部5を形成した。引き続いて、ガス感応部5を被覆するように機能層7を設けた。機能層7は、酸化パラジウムの微粉体を混ぜたアルミナの微粉体のペーストを、ガス感応部5を覆って最大厚さが30μmになるように塗布して、乾燥後、電気炉にて650℃で2時間加熱して焼結することにより形成した。以上のMEMS型半導体式ガス検知素子を、後述する検出感度試験および高温高湿耐久性試験に供した。
【0074】
(比較例1)
熱耐久性評価の比較例として、
図1および
図2に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1から第1の緻密膜6、第2の緻密膜8、上層の接着層9、ガス感応部5および機能層7を除いたサンプルを以下の手順で作製した。まず、公知の微細加工技術により、基板2を作成し、基板2上にヒータ4(電極3)/接着層9を配線した。その際、接着層9としては、酸化タンタルを用い、ヒータ4(電極3)としては、白金を用いた。接着層9およびヒータ4(電極3)はそれぞれ、スパッタリングにより形成した。接着層9およびヒータ4(電極3)の膜厚はそれぞれ、20nmおよび300nmとした。以上のサンプルを、後述する熱耐久性試験に供した。
【0075】
(比較例2)
比較例1のサンプルに以下の手順でガス感応部5および機能層7を設けることで、
図1および
図2に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1から第1の緻密膜6、第2の緻密膜8および上層の接着層9を除いたMEMS型半導体式ガス検知素子を作製した。アンチモンをドナーとして0.1wt%添加した酸化スズ半導体の微粉体のペーストを、比較例1のサンプルのヒータ4(電極3)/接着層9を覆って最大厚さが20μmになるように塗布して、乾燥後、電気炉にて650℃で2時間加熱して焼結することにより、ガス感応部5を形成した。引き続いて、ガス感応部5を被覆するように機能層7を設けた。機能層7は、酸化パラジウムの微粉体を混ぜたアルミナの微粉体のペーストを、ガス感応部5を覆って最大厚さが30μmになるように塗布して、乾燥後、電気炉にて650℃で2時間加熱して焼結することにより形成した。以上のMEMS型半導体式ガス検知素子を、後述する検出感度試験および高温高湿耐久性試験に供した。
【0076】
(熱耐久性試験)
実施例1および比較例1のサンプルのヒータ4に所定の電力を投入して、ヒータ4が断線するまでの時間(断線寿命)を測定した。
【0077】
(検出感度試験)
実施例2および比較例2のMEMS型半導体式ガス検知素子を、公知のブリッジ回路に組み込んで、検知対象ガスを含む大気環境下でセンサ出力を測定した。検知対象ガスとしては、メタン、エタノール、水素を用いた。
【0078】
(高温高湿耐久性試験)
実施例2および比較例2のMEMS型半導体式ガス検知素子を、公知のガス検知器に組み込んで、20℃、60%RHの標準環境および40℃、85%RHの高温高湿環境のそれぞれで放置した後に、メタンに対して所定のセンサ出力に達した際に警報を発するように設定されたガス検知器が警報を発するメタンの濃度を測定した。
【0079】
(熱耐久性試験結果)
実施例1および比較例1のサンプルのヒータ4に所定の電力を投入して、ヒータ4が断線するまでの時間(断線寿命)を測定した結果を
図4に示す。
図4では、実施例1および比較例1ともに、投入電力の増加に伴って断線寿命が短くなっているが、比較例1と比べて実施例1の方が、断線寿命が大幅に長くなっている。これは、第1の緻密膜6および第2の緻密膜8がヒータ4を覆うようにヒータ4に接続されたことで、ヒータ4の昇温時にマイグレーションなどの発生が抑制されたためだと考えられる。このように、第1の緻密膜6および第2の緻密膜8がヒータ4を覆うようにヒータ4に接続して、ヒータ4の熱耐久性を向上させることで、MEMS型半導体式ガス検知素子1の長期使用が可能になる。
【0080】
(検出感度試験結果)
実施例2および比較例2のMEMS型半導体式ガス検知素子について、メタン、エタノール、水素の濃度を変化させたときのセンサ出力の変化を調べた結果を
図5に示す。
【0081】
図5(b)の比較例2の検出感度試験結果では、メタン、エタノール、水素のそれぞれの濃度の増加に伴ってそれぞれのセンサ出力が増加している。それに対して、
図5(a)の実施例2の検出感度試験結果では、
図5(b)の比較例2の結果と比べて、いずれのガス濃度でもセンサ出力が増加している。これは、ガス感応部5および基板2に強固に密着された第1および第2の緻密膜6、8がヒータ4を覆うことによって、ヒータ4とガス感応部5との間に良好な熱的接続が確保されたことによるものと考えられる。つまり、ヒータ4とガス感応部5との間に良好な熱的接続が確保されたことで、ガス感応部5を検知対象ガスの検知に適した温度に正確に加熱することができるので、検知対象ガスに対して高い感度を得ることができたものと考えられる。さらに、この例では、ヒータ4が電極3を兼ねており、上記結果が得られたのは、ガス感応部5に対する密着性が高い第1の緻密膜6を介して電極3とガス感応部5とが接続されることで、電極3に対するガス感応部5の密着性が高まり、電極3とガス感応部5との間に良好な電気接続が確保されたためだと考えられる。このように、検知対象ガスに対するガス感応部5の検知感度を向上させることで、検知対象ガスがガス感応部5に接触した際に生じるガス感応部5の抵抗値の変化をより正確に検知し、検知対象ガスをより正確に検知することができる。
【0082】
(高温高湿耐久性試験)
公知のガス検知器に組み込まれた実施例2および比較例2のMEMS型半導体式ガス検知素子について、20℃、60%RHの標準環境および40℃、85%RHの高温高湿環境のそれぞれに放置したときの、ガス検知器が警報を発するメタンの濃度の経時変化を調べた結果を
図6および
図7に示す。ガス検知器は、所定のセンサ出力が得られたときに警報を発するように設定されているので、ガス検知器が警報を発するメタンの濃度の経時変化は、MEMS型半導体式ガス検知素子のメタンに対する検知感度の経時変化を表している。たとえば、ガス検知器が警報を発するメタンの濃度が高ければ高いほど、MEMS型半導体式ガス検知素子のメタンに対する検知感度が低いことを示している。
【0083】
20℃、60%RHの標準環境に実施例2および比較例2のMEMS型半導体式ガス検知素子を放置した結果(
図6)では、実施例2(
図6(a))および比較例2(
図6(b))ともに、経過日数の増加に伴って、わずかにメタン濃度が低下する(メタン検知感度が増加する)傾向が見られるものの、メタン濃度(メタン検知感度)は概してほぼ一定である。それに対して、40℃、85%RHの高温高湿環境に実施例2および比較例2のMEMS型半導体式ガス検知素子を放置した結果(
図7)では、比較例2(
図7(b))において、経過日数の増加に伴って、メタン濃度が大幅に増加している(メタン検知感度が大幅に低下している)のに対して、実施例2(
図7(a))において、メタン濃度の増加(メタン検知感度の低下)が抑制されている。つまり、実施例2では、高温高湿環境下に曝された場合に生じる経時的なガス検知感度の劣化が抑制されている。これは、ガス感応部5および基板2に強固に密着された第1および第2の緻密膜6、8がヒータ4を覆うことによって、ヒータ4とガス感応部5との間に良好な熱的接続が確保されたことによるものと考えられる。つまり、ヒータ4とガス感応部5との間に良好な熱的接続が確保されたことで、MEMS型半導体式ガス検知素子1が高温高湿環境下に曝されても、熱的接続の経時劣化が抑制されて、経時後もガス感応部5を安定して加熱することができ、それによってガス検知感度の劣化を抑制することができたものと考えられる。さらに、この例では、ヒータ4が電極3を兼ねており、上記結果が得られたのは、ガス感応部5に対する密着性が高い第1の緻密膜6を介して電極3とガス感応部5とが接続されることで、電極3に対するガス感応部5の密着性が高まり、電極3とガス感応部5との間に良好な電気接続が確保されたためだと考えられる。つまり、電極3とガス感応部5との間に良好な電気接続が確保されたことで、MEMS型半導体式ガス検知素子1が高温高湿環境下に曝されても、電気接続の経時劣化が抑制されて、経時後もガス感応部5の抵抗値変化を安定して検知することができ、それによってガス検知感度の劣化を抑制することができたものと考えられる。
【符号の説明】
【0084】
1 MEMS型半導体式ガス検知素子
2 基板
21 基板本体
21a 凹部
22 絶縁支持膜
22a 酸化シリコン膜
22b 窒化シリコン膜
22c 酸化シリコン膜
221 本体部
221a 第1の領域
221b 第2の領域
222 基部
223 接続部
23 空洞部
3 電極
3a 第1の端部
3b 第2の端部
3c 第1の近接部
3d 第2の近接部
31 第1の端部領域
32 第2の端部領域
33 本体領域
331 第1の本体領域
332 第2の本体領域
333 中間領域
4 ヒータ
5 ガス感応部
6 第1の緻密膜
61 第1の緻密部
61a ヒータ(電極)接続部
61b ガス感応部接続部
62 第2の緻密部
62a ヒータ(電極)接続部
62b ガス感応部接続部
7 機能層
8 第2の緻密膜
8a ヒータ(電極)間緻密部
8b ヒータ(電極)表面緻密部
9 接着層
A 集積部
G ギャップ
L1 一方のリード線
L2 他方のリード線
S 第1の端部と第2の端部とを結ぶ直線