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特許7421447リアクトル及びその製造方法、リアクトル用コイル被覆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】リアクトル及びその製造方法、リアクトル用コイル被覆体
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20240117BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20240117BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20240117BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
H01F37/00 J
H01F37/00 M
H01F27/32 170
H01F41/12 C
H01F41/04 A
H01F37/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020140000
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035571
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】堀野 優介
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011019(JP,A)
【文献】特開2014-220457(JP,A)
【文献】特開2020-021854(JP,A)
【文献】特開2011-199080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 41/04
H01F 27/32
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアの外周に配設されたコイルと、前記コア及び前記コイルを部分的に覆いつつ一体化する樹脂モールド部とを備え、前記コイルの巻線の外周面が絶縁被膜で被覆されたリアクトルであって、
前記コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように、前記コイルの表面の少なくとも一部が保護膜であるフィルムで被覆されていることを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記コイルの表面のうち前記樹脂モールド部で覆われていない領域の少なくとも一部は、前記フィルムで被覆されていないことを特徴とする請求項に記載のリアクトル。
【請求項3】
コアの外周に配設されるコイルを備え、前記コイルの巻線の外周面が絶縁被膜で被覆され、前記コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように、前記コイルの表面の少なくとも一部が保護膜であるフィルムで被覆されていることを特徴とするリアクトル用コイル被覆体。
【請求項4】
コアと、前記コアの外周に配設されたコイルと、前記コア及び前記コイルを部分的に覆いつつ一体化する樹脂モールド部とを備え、前記コイルの巻線の外周面が絶縁被膜で被覆されたリアクトルの製造方法であって、
前記コイルの表面の少なくとも一部に対して保護膜を前記コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように被覆してなるコイル被覆体を準備するコイル被覆体準備工程と、
前記コアと前記コイル被覆体とを組み立ててなるコイルアセンブリを準備するコイルアセンブリ準備工程と、
成形型内に前記コイルアセンブリをセットした後、射出成形を行って前記樹脂モールド部を成形する樹脂モールド部成形工程と
を含み、
前記コイル被覆体準備工程後かつ前記コイルアセンブリ準備工程前に、成形型に前記コイル被覆体をセットした後、射出成形を行うことにより、前記樹脂モールド部の一部を構成する樹脂部を成形する樹脂部成形工程を行う
ことを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項5】
コアと、前記コアの外周に配設されたコイルと、前記コア及び前記コイルを部分的に覆いつつ一体化する樹脂モールド部とを備え、前記コイルの巻線の外周面が絶縁被膜で被覆されたリアクトルの製造方法であって、
前記コイルの表面の少なくとも一部に対して保護膜であるフィルムを前記コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように被覆してなるコイル被覆体を準備するコイル被覆体準備工程と、
前記コアと前記コイル被覆体とを組み立ててなるコイルアセンブリを準備するコイルアセンブリ準備工程と、
成形型内に前記コイルアセンブリをセットした後、射出成形を行って前記樹脂モールド部を成形する樹脂モールド部成形工程と
を含むことを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項6】
前記コイル被覆体準備工程後かつ前記コイルアセンブリ準備工程前に、成形型に前記コイル被覆体をセットした後、射出成形を行うことにより、前記樹脂モールド部の一部を構成する樹脂部を成形する樹脂部成形工程を行うことを特徴とする請求項5に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項7】
前記コイル被覆体準備工程では、前記コイルの表面のうち少なくとも前記成形型が当接する部分を前記フィルムで被覆することを特徴とする請求項5または6に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂モールド部成形工程後、前記コイル被覆体のうち前記樹脂モールド部で覆われていない部分にある前記フィルムの少なくとも一部を剥す剥離工程を行うことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項9】
前記フィルムは、ミシン目が形成されたフィルムであり、前記剥離工程では、前記フィルムを前記ミシン目に沿って切断することを特徴とする請求項に記載のリアクトルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバータ等の構成部品として用いられるリアクトル及びその製造方法、リアクトル用コイル被覆体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド自動車や電気自動車には、バッテリ電圧を昇圧するためのコンバータが搭載され、コンバータは、リアクトル等の部品を備えている。リアクトルは、例えば、コアと、コアの外周に巻線を巻回してなるコイルとを備えたコイルアセンブリを金型内にインサートし、金型内に溶融した樹脂材料を充填して射出成形することにより製造される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-74150号公報([0049],[0071]~[0077]、図2図4等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、コイルを構成する巻線間の隙間に異物(例えば、コアの焼結金属粒子や金属屑)が挟まってしまうことがある。また、コアが挿入されたコイルを金型内に配置する際や、金型を閉じる際に、コイルの表面に金型が接触してしまうこともある。そして、これらの場合は巻線が傷付きやすいため、巻線を被覆する絶縁被膜(エナメル被膜)が剥れてしまう可能性がある。その結果、巻線間で短絡し、発熱するおそれがある。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、巻線の外周面に被覆された絶縁被膜の剥れを防止することができるリアクトル及びその製造方法、リアクトル用コイル被覆体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、コアと、前記コアの外周に配設されたコイルと、前記コア及び前記コイルを部分的に覆いつつ一体化する樹脂モールド部とを備え、前記コイルの巻線の外周面が絶縁被膜で被覆されたリアクトルであって、前記コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように、前記コイルの表面の少なくとも一部が保護膜であるフィルムで被覆されていることを特徴とするリアクトルをその要旨とする。
【0007】
従って、手段1に記載の発明によると、コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように、コイルの表面の少なくとも一部が保護膜で被覆されているため、隣接するターン間に生じた隙間に異物(例えば、コアの焼結金属粒子や金属屑)が挟まることを防止できる。また、コイルの表面に他の部材(例えば、樹脂モールド部を成形する成形型等)が接触することも防止できる。その結果、コイルに傷が付きにくくなるため、巻線の外周面に被覆された絶縁被膜の剥れを防止することができる。
【0009】
また、コイルの表面をフィルムで被覆することにより、コイルの隣接するターン間に生じた隙間をフィルムで塞ぐことができるため、隙間への異物の侵入を防止することができる。
【0010】
手段に記載の発明は、手段において、前記コイルの表面のうち前記樹脂モールド部で覆われていない領域の少なくとも一部は、前記保護膜で被覆されていないことをその要旨とする。
【0011】
従って、手段に記載の発明によると、コイルの表面のうち、樹脂モールド部で覆われず、保護膜で被覆されずに外部に露出している領域から熱が放出されるため、所定の放熱性を確保することができる。
【0012】
手段に記載の発明は、コアの外周に配設されるコイルを備え、前記コイルの巻線の外周面が絶縁被膜で被覆され、前記コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように、前記コイルの表面の少なくとも一部が保護膜であるフィルムで被覆されていることを特徴とするリアクトル用コイル被覆体をその要旨とする。
【0013】
従って、手段に記載の発明によると、コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように、コイルの表面の少なくとも一部が保護膜であるフィルムで被覆されているため、隣接するターン間に生じた隙間に異物が挟まることを防止できる。また、コイルの表面に他の部材が接触することも防止できる。その結果、コイルに傷が付きにくくなるため、巻線の外周面に被覆された絶縁被膜の剥れを防止することができる
手段4に記載の発明は、コアと、前記コアの外周に配設されたコイルと、前記コア及び前記コイルを部分的に覆いつつ一体化する樹脂モールド部とを備え、前記コイルの巻線の外周面が絶縁被膜で被覆されたリアクトルの製造方法であって、前記コイルの表面の少なくとも一部に対して保護膜を前記コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように被覆してなるコイル被覆体を準備するコイル被覆体準備工程と、前記コアと前記コイル被覆体とを組み立ててなるコイルアセンブリを準備するコイルアセンブリ準備工程と、成形型内に前記コイルアセンブリをセットした後、射出成形を行って前記樹脂モールド部を成形する樹脂モールド部成形工程とを含み、前記コイル被覆体準備工程後かつ前記コイルアセンブリ準備工程前に、成形型に前記コイル被覆体をセットした後、射出成形を行うことにより、前記樹脂モールド部の一部を構成する樹脂部を成形する樹脂部成形工程を行うことを特徴とするリアクトルの製造方法をその要旨とする。
【0014】
手段5に記載の発明は、コアと、前記コアの外周に配設されたコイルと、前記コア及び前記コイルを部分的に覆いつつ一体化する樹脂モールド部とを備え、前記コイルの巻線の外周面が絶縁被膜で被覆されたリアクトルの製造方法であって、前記コイルの表面の少なくとも一部に対して保護膜であるフィルムを前記コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように被覆してなるコイル被覆体を準備するコイル被覆体準備工程と、前記コアと前記コイル被覆体とを組み立ててなるコイルアセンブリを準備するコイルアセンブリ準備工程と、成形型内に前記コイルアセンブリをセットした後、射出成形を行って前記樹脂モールド部を成形する樹脂モールド部成形工程とを含むことを特徴とするリアクトルの製造方法をその要旨とする。
【0015】
従って、手段5に記載の発明によると、コイルの隣接するターン同士の境目を覆うように、コイルの表面の少なくとも一部が保護膜であるフィルムで被覆されたコイル被覆体を準備するため、隣接するターン間に生じた隙間に異物(例えば、コアの焼結金属粒子や金属屑)が挟まることを防止できる。また、成形型内にコイルアセンブリを配置する際や型閉め時等において、コイルの表面に成形型が接触することも防止できる。その結果、コイルに傷が付きにくくなるため、巻線の外周面に被覆された絶縁被膜の剥れを防止することができる。また、コイルの表面をフィルムで被覆することにより、コイルの隣接するターン間に生じた隙間をフィルムで塞ぐことができるため、隙間への異物の侵入を防止することができる。
【0016】
手段6に記載の発明は、手段5において、前記コイル被覆体準備工程後かつ前記コイルアセンブリ準備工程前に、成形型に前記コイル被覆体をセットした後、射出成形を行うことにより、前記樹脂モールド部の一部を構成する樹脂部を成形する樹脂部成形工程を行うことをその要旨とする。
【0017】
従って、手段6に記載の発明によると、コイルを成形型に配置する際や型閉めする時点で、コイルが保護膜で被覆されたコイル被覆体となっているため、コイルの表面に成形型が直接接触することを防止できる。その結果、コイルに傷が付きにくくなるため、樹脂モールド部成形工程時だけでなく、樹脂部成形工程時においても、巻線の外周面に被覆された絶縁被膜の剥れを防止することができる。
【0020】
手段に記載の発明は、手段5または6において、前記コイル被覆体準備工程では、前記コイルの表面のうち少なくとも前記成形型が当接する部分を前記フィルムで被覆することをその要旨とする。
【0021】
従って、手段に記載の発明によると、コイルの表面のうち、成形型が当接するために傷付きやすい部分をフィルムで被覆するため、コイルが傷付きにくくなる。
【0022】
手段に記載の発明は、手段5乃至7のいずれか1つにおいて、前記樹脂モールド部成形工程後、前記コイル被覆体のうち前記樹脂モールド部で覆われていない部分にある前記フィルムの少なくとも一部を剥す剥離工程を行うことをその要旨とする。
【0023】
従って、手段に記載の発明によると、剥離工程後に、フィルムで覆われていない部分からコイルの熱が放出されるため、所定の放熱性を確保することができる。
【0024】
手段に記載の発明は、手段において、前記フィルムは、ミシン目が形成されたフィルムであり、前記剥離工程では、前記フィルムを前記ミシン目に沿って切断することをその要旨とする。
【0025】
従って、手段に記載の発明によると、容易に保護膜を剥すことができる。
【発明の効果】
【0026】
以上詳述したように、請求項1~に記載の発明によると、巻線の外周面に被覆された絶縁被膜の剥れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態におけるリアクトルを示す概略斜視図。
図2図1のA-A線断面図。
図3図5のB-B線断面図。
図4】(a)は、コイル及びコイル被覆体を表側から見たときの状態を示すコイル被覆体準備工程の説明図、(b)は、コイル及びコイル被覆体を裏側から見たときの状態を示すコイル被覆体準備工程の説明図。
図5】コア部、スペーサ、コイル被覆体及びボビンを示す分解斜視図。
図6】コイルアセンブリ準備工程を示す説明図。
図7】コイルアセンブリを示す概略斜視図。
図8】樹脂モールド部成形工程を示す概略断面図(図7のC-C断面相当図)。
図9】樹脂モールド部が成形されたコイルアセンブリを示す概略斜視図。
図10】剥離工程を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0029】
図1に示されるように、本実施形態のリアクトル11は、コア12と、コア12の外周に配設されたコイル21とを備えている。また、図5に示されるように、コア12は、第1端部13及び第2端部14を備えたU字状のコア部15,16を一対有している。両コア部15,16は、第1端部13同士を矩形板状の第1スペーサ17を介して向かい合わせるとともに、第2端部14同士を矩形板状の第2スペーサ18を介して向かい合わせた状態に配置されている。なお、コア部15,16は軟磁性材料からなる。軟磁性材料としては、鉄や鉄合金(Fe-Si合金、Fe-Ni合金等)からなる軟磁性粉末、絶縁被覆された軟磁性粉末、軟磁性粉末と樹脂との複合材料などを用いることができる。また、スペーサ17,18は、コア部15,16よりも比透磁率が小さい材料(例えば、アルミナなどの非磁性材料)を用いて形成されている。
【0030】
図1図5に示されるように、コイル21は、コア部15,16の第1端部13の外周に配設される第1巻線部22と、コア部15,16の第2端部14の外周に配設される第2巻線部23とによって構成されている。本実施形態の巻線部22,23は、断面略矩形状の巻線24を螺旋状に巻回してなる略矩形筒状のエッジワイズコイルである。また、図2図3に示されるように、本実施形態の巻線24は、外周面24aが厚さ10μmのエナメル被膜25(絶縁被膜)で被覆されたエナメル線である。なお、両巻線部22,23は、1本の連続する巻線24によって構成されている。また、図4に示されるように、第1巻線部22を構成する巻線24及び第2巻線部23を構成する巻線24は、連結部26を介して互いに接続されている。
【0031】
図1に示されるように、リアクトル11は、コア12とコイル21との間に介在される樹脂材料製のボビン31を備えている。ボビン31は、コア12及びコイル21を位置決めする機能を有するとともに、コア12とコイル21とを絶縁する機能を有している。また、図5図6に示されるように、ボビン31は、ボビン本体32とフランジ部材33とによって構成されている。ボビン本体32は、一対の筒部34,35をフランジ36で連結した構造を有している。第1筒部34内には、コア部15,16の第1端部13が挿入され、第2筒部35内には、コア部15,16の第2端部14が挿入されるようになっている。また、フランジ部材33には、第1端部13及び第2端部14を挿通させるための一対の挿通孔37が設けられている。
【0032】
図1に示されるように、リアクトル11は、コア12及びコイル21を部分的に覆いつつ一体化する樹脂モールド部41を備えている。樹脂モールド部41は、例えば、PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)、PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)等の熱可塑性樹脂(樹脂材料)を用いて形成された射出成形品である。なお、樹脂モールド部41の厚さは、例えば2mm程度となっている。
【0033】
また、図2図3に示されるように、本実施形態では、コイル21の隣接するターン27同士の境目B1を覆うように、コイル21の表面28の大部分がフィルム51(保護膜)で被覆されている。これにより、コイル21がリアクトル用コイル被覆体61(以下「コイル被覆体61」という)となる。また、コイル21の表面28のうち、ボビン31にも樹脂モールド部41にも覆われていない領域の一部は、フィルム51で被覆されておらず、放熱面となっている(図1参照)。詳述すると、コイル21の表側の部位(図2参照)において、フィルム51は、コイル21の内側面28a全体、上面28cの大部分及び下面28dの大部分を被覆している。しかし、コイル21の外側面28b全体、上面28cの一部及び下面28dの一部は、フィルム51に被覆されておらず、放熱面となっている。一方、コイル21の裏側(図3参照)の部位において、フィルム51は、コイル21の内側面28a全体、外側面28b全体、上面28c全体及び下面28d全体を被覆している。これにより、コイル21には、隣接するターン27同士を密着させる方向に、フィルム51のテンションがかかっている。
【0034】
また、フィルム51はコイル21の表面28に密着している。具体的に言うと、コイル21の上面28c及び下面28dを被覆するフィルム51は、全体が上面28c及び下面28dに密着している。一方、コイル21の内側面28a及び外側面28bを被覆するフィルム51は、内側面28a及び外側面28bにおいて境目B1付近を除く領域に密着している。なお、フィルム51は、境目B1付近の領域にも密着していてもよい。本実施形態のフィルム51は、例えば、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂)やPI樹脂(ポリイミド樹脂)等の耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成された灰色のフィルムである。また、フィルム51の厚さは、500μm以上であり、巻線24のエナメル被膜25の厚さ(10μm)よりも厚くなっている。
【0035】
次に、リアクトル11を製造するための成形型71について説明する。
【0036】
図8に示されるように、成形型71は、上型72、下型73及びスライド型74,75を有している。本実施形態では、上型72を上下方向に駆動することにより、上型72及び下型73を互いに接離させることが可能となる。また、スライド型74,75を左右方向に駆動することにより、スライド型74,75を互いに接離させることが可能となる。そして、成形型71の型閉めを行うと、成形型71内には成形空間であるキャビティが形成される。
【0037】
次に、リアクトル11の製造方法を説明する。
【0038】
まず、コイル被覆体準備工程を行い、コイル21の表面28に対してフィルム51を被覆してなるコイル被覆体61を準備する(図4図5参照)。具体的に言うと、コイル21の隣接するターン27同士を密着させた状態で、コイル21の表面28全体をフィルム51で被覆し、コイル被覆体61を形成する。本実施形態では、コイル21の表面28のうちスライド型74,75が当接する部分であるコイル21の外側面28b全体に加えて、コイル21の内側面28a全体、上面28c全体及び下面28d全体にもフィルム51を被覆する。なお、フィルム51には、4本のミシン目52が形成されている。各ミシン目52は、治具などでフィルム51に切り込みを入れることにより形成される。詳述すると、本実施形態では、第1巻線部22を覆うフィルム51及び第2巻線部23を覆うフィルム51のそれぞれに対して、ミシン目52が2本ずつ形成されている。各ミシン目52は、コイル21の表側(図4(a)参照)に配置されており、コイル21の高さ方向(巻線部22,23の軸線方向)に沿って延びている。
【0039】
続くコイルアセンブリ準備工程では、コア12とコイル被覆体61とを組み立ててなるコイルアセンブリ62(図7参照)を準備する。具体的に言うと、まず、第1巻線部22に対してボビン本体32の第1筒部34を挿通させるとともに、第2巻線部23に対してボビン本体32の第2筒部35を挿通させる。次に、ボビン本体32に対してフランジ部材33を取り付ける(図6参照)。そして、コア部15の端部13,14の先端面に接着剤を塗布し、第1端部13の先端面に第1スペーサ17を接着するとともに、第2端部14の先端面に第2スペーサ18を接着する。また、コア部16の端部13,14の先端面にも接着剤を塗布する。そして、コア部15,16の第1端部13を第1筒部34(第1巻線部22)内に挿入するとともに、コア部15,16の第2端部14を第2筒部35(第2巻線部23)内に挿入する。その結果、コア部15とコア部16とがスペーサ17,18を介して互いに接着され、コイルアセンブリ62が完成する。
【0040】
続く樹脂モールド部成形工程では、成形型71のキャビティ内にコイルアセンブリ62をセットした後、射出成形を行って樹脂モールド部41を成形する(図8参照)。具体的に言うと、まず、成形型71を構成する上型72、下型73及びスライド型74,75を開いた状態にして、下型73上にコイルアセンブリ62を載置する。そして、上型72を下方に駆動させながら、スライド型74,75を互いに接近させる方向に駆動させることにより、上型72、下型73及びスライド型74,75の型閉めを行う。その結果、上型72、下型73及びスライド型74,75の内部に、樹脂材料が充填される部分であるキャビティが構成される。また、この時点で、コイル21の裏側部分の外側面28bにスライド型74が当接するとともに、コイル21の表側部分の外側面28bにスライド型75が当接する。
【0041】
次に、キャビティ内に溶融した樹脂材料63を充填して射出成形する。具体的には、成形型71の樹脂注入口(図示略)からキャビティ内に樹脂材料63を注入する。そして、溶融した樹脂材料63を冷却して固化させることにより、コア部15,16の表面とボビン31の表面とに接合する樹脂モールド部41を成形する。その結果、コア12、コイル21及びボビン31が、樹脂モールド部41で部分的に覆われるとともに、樹脂モールド部41を介して一体化される。
【0042】
樹脂モールド部成形工程後、上型72、下型73及びスライド型74,75を型開きし、樹脂モールド部41で被覆されたコイルアセンブリ62を取り出す(図9参照)。さらに、剥離工程を行い、コイル被覆体61のうち樹脂モールド部41で覆われていない部分にあるフィルム51の一部を剥す作業を行う(図10参照)。具体的に言うと、作業者は、コイル21の上面28cに密着しているフィルム51のタブ53を起こし、起こしたタブ53をつまんでコイル21の下側に引くことにより、フィルム51をミシン目52に沿って切断する。本実施形態では、放熱部分となるコイル21の表側(図9では正面側)にあるフィルム51をミシン目52に沿って剥離する。なお、コイル21の裏側のうち、ボビン31にも樹脂モールド部41にも覆われていない領域は、主な放熱部分ではないため、フィルム51を剥離しなくてもよい。
【0043】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0044】
(1)本実施形態のリアクトル11では、コイル21の隣接するターン27同士の境目B1を覆うように、コイル21の表面28の大部分がフィルム51で被覆されているため、隣接するターン27間に生じた隙間に異物(例えば、コア12の焼結金属粒子や金属屑)が挟まることを防止できる。その結果、コイル21に傷が付きにくくなるため、巻線24の外周面24aに被覆されたエナメル被膜25の剥れを防止することができる。ゆえに、エナメル被膜25の剥れに起因する、巻線24間での短絡を防止することができる。
【0045】
(2)本実施形態の樹脂モールド部成形工程では、成形型71のキャビティ内にコイルアセンブリ62をセットする際に、コイル21の外側面28に成形型71が接触する虞がある。また、成形型71の型閉めを行う際には、コイル21の外側面28bに成形型71が接触する。しかし、本実施形態では、樹脂モールド部成形工程を行う時点で、コイル21の表面28全体がフィルム51で被覆されているため、成形型71が接触したとしても、巻線24の外周面24aに被覆されたエナメル被膜25の傷付きを防止することができる。
【0046】
(3)本実施形態では、特にコイル21の裏側部分(図3参照)において、コイル21の内側面28a全体、外側面28b全体、上面28c全体及び下面28d全体がフィルム51で被覆されている。これにより、コイル21がフィルム51に包み込まれた状態で固定されるため、コイル21の隣接するターン27間に生じた隙間を広がりにくくすることができる。
【0047】
(4)本実施形態の剥離工程では、コイル被覆体61のうち樹脂モールド部41で覆われていない部分にあるフィルム51の一部を剥している。その結果、剥離工程後に、フィルム51で覆われていない部分(例えば、コイル21の外側面28b)からコイル21の熱が放出されるため、所定の放熱性を確保することができる。しかも、残したフィルム51により、コイル21の隣接するターン27間に生じた隙間に異物が侵入することを防止することができる。
【0048】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0049】
・上記実施形態の保護膜は灰色のフィルム51であったが、白色や黒色等の他の色のフィルムであってもよいし、透明なフィルムであってもよい。なお、フィルムが透明である場合には、フィルムで被覆されたコイル21の状態を確認することができる。また、フィルムにはマーキングが付されていてもよい。このようにすれば、フィルムが透明であったとしても、作業者がマーキングの有無を確認することにより、フィルムの有無を確認することができる。ここで、マーキングとしては、フィルムの表面に描かれた文字(例えば、品番、ロット、形式等を表したもの)、記号、図形などを挙げることができる。また、マーキングは、フィルムにおいて、剥離工程時に剥される箇所に付与されていてもよいし、剥離工程後に残る箇所に付与されていてもよい。
【0050】
・上記実施形態のコイル被覆体準備工程では、コイル21の表面28全体を保護膜であるフィルム51で被覆していたが、他の手法を用いて、コイル21の表面28を保護膜で被覆してもよい。例えば、コイル21の表面28の少なくとも一部にポリアミドイミド系の接着剤を吹き付けたり塗布したりして硬化させることにより、保護膜を形成してもよい。このようにすれば、簡単に保護膜を形成することができる。なお、保護膜がフィルム51である場合には、コイル21の隣接するターン27同士を密着させる方向に、フィルム51のテンションをかけることができる。
【0051】
・上記実施形態では、コイル21の表面28の一部(大部分)がフィルム51で被覆されていた。しかし、コイル被覆体61のうちボビン31や樹脂モールド部41で覆われていない部分にあるフィルム51を全て剥離してもよい。一方、フィルム51の熱伝導性が良いために、コイル21の表面28からフィルム51を介して熱を放出できるのであれば、フィルム51を剥さずに、コイル21の表面28全体をフィルム51で被覆してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、コイルアセンブリ準備工程後の樹脂モールド部成形工程において、成形型71内にコイルアセンブリ62をセットした後、射出成形を行うことにより、樹脂モールド部41を成形していた。しかし、コイル被覆体準備工程後かつコイルアセンブリ準備工程前に予め樹脂部成形工程を行い、樹脂モールド部41の一部を構成する樹脂部を成形してもよい。
【0053】
例えば、上記実施形態の成形型71とは別の成形型に対してコイル被覆体61をセットした後、射出成形を行うことにより、上記実施形態のボビン31と同様のボビンを樹脂部として成形してもよい。そして、コイルアセンブリ準備工程において、コイル被覆体61に成形されたボビンの筒部内に、コア部15,16の端部13,14を挿入することにより、コイルアセンブリ62を形成してもよい。
【0054】
また、上記実施形態の成形型71とは別の成形型にコア12をセットした後、射出成形を行うことにより、上記実施形態のボビン31と同様のボビンを樹脂部として成形してもよい。例えば、コア12を構成するコア部15を第1の成形型にセットした後、射出成形を行うことにより、上記実施形態のフランジ部材33と同様のフランジ部材を樹脂部として成形してもよい。また、コア12を構成するコア部16を第2の成形型にセットした後、射出成形を行うことにより、上記実施形態のボビン本体32と同様のボビン本体を樹脂部として成形してもよい。そして、コイルアセンブリ準備工程において、コイル21の巻線部22,23に対してコア部16に成形されたボビン本体の筒部を挿通した後、コア部15に成形されたフランジ部材をボビン本体に接続することにより、コイルアセンブリ62を形成してもよい。
【0055】
・上記実施形態では、コイル21の巻線部22,23が、断面略矩形状の巻線24を巻回することにより構成されていた。しかし、巻線部22,23を構成する巻線24は、例えば、断面円形状、断面楕円形状、断面六角形状などの他の形状をなしていてもよい。
【0056】
・上記実施形態のコイル21は、第1巻線部22と第2巻線部23とによって構成されていた。しかし、1つの巻線部のみでコイルを構成してもよいし、3つ以上の巻線部でコイルを構成してもよい。
【0057】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0058】
(1)請求項1乃至3のいずれか1項において、前記保護膜は、耐熱性を有するフィルムであることを特徴とするリアクトル。この構成によると、射出成形時の熱に耐えることができる。
(2)請求項1乃至3のいずれか1項において、前記保護膜はフィルムであり、前記コイルの内側面及び外側面が前記フィルムで被覆されていることを特徴とするリアクトル。この構成によると、フィルムでコイルを包み込んで固定できるため、コイルの隣接するターン間に生じた隙間を広がりにくくすることができる。
(3)請求項2において、前記フィルムの厚さは、前記絶縁被膜の厚さよりも厚いことを特徴とするリアクトル。
(4)請求項2において、前記フィルムは前記コイルの表面に密着していることを特徴とするリアクトル。
(5)請求項1乃至3のいずれか1項において、前記保護膜は透明なフィルムであることを特徴とするリアクトル。この構成によると、フィルムで被覆されたコイルの状態を確認することができる。
(6)技術的思想(5)において、前記フィルムにはマーキングが付されていることを特徴とするリアクトル。この構成によると、フィルムが透明であったとしても、作業者がマーキングの有無を確認することにより、フィルムの有無を確認することができる。
(7)請求項5において、前記コイル被覆体準備工程後かつ前記コイルアセンブリ準備工程前に、成形型に前記コアをセットした後、射出成形を行うことにより、前記樹脂モールド部の一部を構成する樹脂部を成形する樹脂部成形工程を行うことを特徴とするリアクトルの製造方法。
(8)請求項7または8において、前記コイル被覆体準備工程では、前記コイルの隣接するターン同士を密着させた状態で、前記コイルの表面全体を前記フィルムで被覆することを特徴とするリアクトルの製造方法。
(9)請求項5乃至10のいずれか1項において、前記コイル被覆体準備工程では、前記コイルの表面の少なくとも一部にポリアミドイミド系の接着剤を吹き付けて硬化させることにより、前記保護膜を形成することを特徴とするリアクトルの製造方法。この構成によると、簡単に保護膜を形成することができる。
(10)請求項9または10において、前記剥離工程では、前記コイル被覆体のうち前記樹脂モールド部で覆われていない部分にある前記保護膜の一部を剥すことを特徴とするリアクトルの製造方法。この構成によると、保護膜の一部を剥すことにより、保護膜で覆われていない部分からコイルの熱を放出させることができるとともに、残した保護膜により、コイルの隣接するターン間に生じた隙間に異物が侵入することを防止できる。
【符号の説明】
【0059】
11…リアクトル
12…コア
21…コイル
24…巻線
24a…巻線の外周面
25…絶縁被膜としてのエナメル被膜
27…ターン
28…コイルの表面
41…樹脂モールド部
51…保護膜としてのフィルム
52…ミシン目
61…リアクトル用コイル被覆体(コイル被覆体)
62…コイルアセンブリ
71…成形型
B1…境目
図1
図2
図3
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図5
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図9
図10