(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】吸引式患者固定具リーク検出器、検出システム、及び検出方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
A61N5/10 T
(21)【出願番号】P 2020204818
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2022-12-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】松林 史泰
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-164220(JP,A)
【文献】特開2016-086935(JP,A)
【文献】特開2013-017491(JP,A)
【文献】特開2005-091042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0101800(US,A1)
【文献】特表2017-511745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療に用いる吸引式患者固定具に、
吸引式患者固定具リーク検出器と処理部とを備えた吸引式患者固定具リーク検出システムを接続し、
前記吸引式患者固定具リーク検出器は、測定器と耐圧チューブと接続コネクタを備え、
吸引式患者固定具の吸引ポートに前記接続コネクタを接続することによって前記測定器と接続し、前記測定器により前記吸引式患者固定具内の圧を測定し、
前記処理部は、測定された圧力を記憶部に記憶させる制御部と、測定された圧力を記憶する記憶部と、経時的な圧力を表示する表示部を備えているものであり、
記憶部に記憶されている前記吸引式患者固定具内の
吸引完了直後の圧力
と、
吸引完了後定常状態に達した後の圧力を比較し、
リークの有無を判定することを特徴とする吸引式患者固定具リーク検出方法。
【請求項2】
前記吸引式患者固定具リーク検出システムにより測定された吸引完了直後の前記吸引式患者固定具内の圧力、及び吸引
完了後定常状態に達した前記吸引式患者固定具内の圧力を比較することにより、吸引式患者固定具のリークを判定する請求項1記載の吸引式患者固定具リーク検出方法。
【請求項3】
前記吸引式患者固定具リーク検出器は切り替え装置を備え、
前記切り替え装置は、
吸引式患者固定具の吸引ポート、前記接続コネクタ、及び吸引ポンプを互いに切り替え可能に接続するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の吸引式患者固定具リーク検出方法。
【請求項4】
前記吸引式患者固定具リーク検出器の前記測定器が圧力センサであることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の吸引式患者固定具リーク検出方法。
【請求項5】
前記圧力センサが、
差圧計、ゲージ圧又は絶対圧計であることを特徴とする請求項4記載の吸引式患者固定具リーク検出方法。
【請求項6】
前記接続コネクタが脱着可能であることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の吸引式患者固定具リーク検出方法。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項記載の吸引式患者固定具リーク検出方法によってリークをチェックしたリークチェック済み吸引式患者固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
放射線治療において患者を固定するために用いる吸引式患者固定具の空気漏れを検出する検出器、検出システム、及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、放射線を体外あるいは体内から照射する治療法であり、外科療法、薬物療法(化学療法)と並ぶがんに対する主要な治療法の1つである。放射線治療は、がん細胞内の遺伝子にダメージを与え、がん細胞を死滅させる治療法である。正常細胞はがん細胞に比べて修復力が高く、放射線の影響を受けにくいものの、照射部位によって様々な副作用が起こり得る。
【0003】
照射野内に一定の強度の放射線を照射する従来の放射線治療だけではなく、近年は、腫瘍の形に合わせてリニアックの照射野の形をコンピュータ制御によって変化させ、腫瘍に集中した放射線を照射する強度変調放射線治療(Intensity modulated radiation therapy:IMRT)や回転型強度変調放射線治療(volumetric modulated arc therapy:VMAT)を行う施設が増加している。IMRTやVMATは、計画標的体積(planning target volume)や危険臓器(organ at risk:OAR)の形状に合わせた急峻な線量分布を形成可能な照射技術であり、それら照射技術の使用によってOARの線量低減や有害事象の減少が報告されている。
【0004】
放射線治療は、がんの部位、正常組織の部位を考慮して、線量分布を計算して治療計画を立てて行われる。通常、週5日間、何週かにわたって治療を行うことになるが、毎回の照射の際に、正確に照射部位に放射線を照射する必要がある。特に、IMRTやVMATで形成される線量分布は線量勾配が急峻であるため、照射野が少しでもずれると腫瘍に放射線が照射されず、周囲の正常部位に放射線が照射されることになる。そのため、IMRTやVMATでは、適切な位置に照射を行うことがより重要になってくる。
【0005】
定位置に放射線を照射するために、患者に一定の体位を再現してもらい放射線照射の準備をすることを患者セットアップ、あるいは単にセットアップという。小さなセットアップエラーが大きな線量変化をもたらすことがあるため、治療期間中、照射時の体位が常に同じになるように再現する必要がある。これを実現するために、「強度変調放射線治療における物理・技術的ガイドライン2011」(非特許文献1)では、吸引式患者固定具やバイトブロック式固定具、熱可塑性樹脂素材によるシェルを用いてのセットアップが推奨され、多くの施設でこれらを利用している。
【0006】
吸引式患者固定具は、主に頭頚部や体幹部、骨盤部で使用する固定具で気密性が高いクッション内に、スチロールなどの微小ビーズが封入されており、吸引ポンプを使用して空気を抜くことによって、患者の体型に沿った形状に形成する。そのため個々の患者に合わせた形状の固定具を、治療期間中使用することになる。吸引式患者固定具は個々の患者に沿った形状であることから、患者に同じ体位を取らせやすい。しかしながら、クッション内に微小な穿孔がある場合、吸引によって一時は形状が保たれるが、クッション内に空気が徐々に流入し、陰圧が低下することにより軟化し形状の変化が生じる場合がある。
【0007】
非特許文献2では、前立腺癌に対する放射線治療において、水硬化性ポリウレタン樹脂製の患者固定具と吸引式患者固定具のinter-fractional setup errorを比較している。治療回数20回目以降では固定具の違いによって2.5mmのセットアップエラーが発生し、このセットアップエラーは吸引式患者固定具のリークが原因であると結論付けている。形状変化の程度によっては、吸引式患者固定具の再作成やシミュレーションの再施行が必要となるため、使用前や使用中にリークをチェックすることが理想である。吸引式患者固定具のリークをチェックする方法としては、水中に沈めることや石鹸水の塗布などでリークの原因を検知できる可能性がある。しかし、吸引式患者固定具内を陽圧にする必要が有るため使用中の吸引式患者固定具では不可能であること、浸水の可能性があること等の理由により現実的な方法ではない。吸引式患者固定具を触感によってその軟化を確認する方法もあるが、軟化の判定が主観的であること、吸引式患者固定具の形状や容積によって触感が変化すること等の理由により、その方法を一般化することは不可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本放射線腫瘍学会QA委員会編、強度変調放射線治療における物理・技術的ガイドライン2011、2011、日本放射線腫瘍学会誌
【文献】Inui S., et al.,2018, J. Med. Phys. Vol. 43(4), pp.230-235.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、吸引式患者固定具のリークを検知する現実的、かつ客観的な方法や装置はなく、医療従事者の触感などの感覚に頼っているのが現状である。本発明は、吸引式患者固定具のリークを検出する検出器、検出システムを提供し、リークをチェックすることができる客観的な検出方法を提供することを課題とする。以下の実施例で示すリーク検出器、検出システムは、医療施設において吸引式患者固定具の漏れをチェックすることにより、放射線治療期間にわたってセットアップエラーを検出し、安心して吸引式患者固定具を使用するために用いるだけではなく、吸引式患者固定具の出荷時に検査を行い、品質保証をするためにも用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の吸引式患者固定具の空気漏れを検出する検出器、検出システム、及び検出方法に関する。
(1)放射線治療に用いる吸引式患者固定具リーク検出器であって、測定器と耐圧チューブと接続コネクタを備え、吸引式患者固定具の吸引ポートに前記接続コネクタを接続することによって測定器と接続し、測定器により圧力を測定することを特徴とする吸引式患者固定具リーク検出器。
(2)前記吸引式患者固定具の吸引ポート、前記接続コネクタ、及び吸引ポンプを切り替え可能に接続することができる切り替え装置を備えている(1)に記載の吸引式患者固定具リーク検出器。
(3)前記測定器が圧力センサであることを特徴とする(1)又は(2)記載の吸引式患者固定具リーク検出器。
(4)前記圧力センサが、差圧計、ゲージ圧又は絶対圧計であることを特徴とする(3)記載の吸引式患者固定具リーク検出器。
(5)前記接続コネクタが脱着可能であることを特徴とする(1)~(4)いずれか1つ記載の吸引式患者固定具リーク検出器。
(6)(1)~(5)いずれか1つ記載の吸引式患者固定具リーク検出器と、処理部を備えていることを特徴とする吸引式患者固定具リーク検出システム。
(7)前記処理部は、制御部、記憶部及び表示部を備えていることを特徴とする(6)記載の吸引式患者固定具リーク検出システム。
(8)予めポンプによって空気を吸引した吸引式患者固定具に(1)~(5)いずれか1つ記載の吸引式患者固定具リーク検出器を接続し、圧を測定することによる吸引式患者固定具リーク検出方法。
(9)吸引直後、及び圧が定常状態に達した後に圧を測定し、両者を比較することにより、吸引式患者固定具のリークを判定する(8)の吸引式患者固定具リーク検出方法。
(10)(1)~(5)いずれか1つ記載の吸引式患者固定具リーク検出器、又は(6)若しくは(7)の吸引式患者固定具リーク検出システムを用いて、(8)又は(9)の吸引式患者固定具リーク検出方法によってリークをチェックしたリークチェック済み吸引式患者固定具。
(11)患者セットアップの前に、(1)~(5)いずれか1つ記載の吸引式患者リーク検出器、又は(6)若しくは(7)記載の吸引式患者固定具リーク検出システムを用いて吸引式患者固定具に漏れが生じないことを確認し、患者セットアップを行う放射線治療補助具作成方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施態様1及び2の吸引式患者固定具リーク検出器を模式的に示す図。
【
図2】実施態様3の吸引式患者固定具リーク検出システムを模式的に示す図。
【
図3】壁掛式吸引器FA型の基準圧力計の指示値と、本検出器の測定値との比較を示す図。
【
図4】本検出器を用いて測定した吸引式患者固定具のP
vacuum、P
later、V
long-termを示す図。
【
図5】リーク履歴のある吸引式患者固定具とリーク履歴のない吸引式患者固定具のV
short-termを示す図。
【
図6】他の固定具も含めた吸引式患者固定具のV
short-termを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
吸引式患者固定具リーク検出器、リーク検出システムは、Vac-Lok(CIVCO Medical Solutions)、BlueBAG(Elekta)、Vac-Qfix Cushions(Qfix)、エスフォーム ESF-19(エンジニアリングシステム株式会社)、バキュームバック(orfix)など市販されているどのような吸引式患者固定具(以下、単に固定具ということもある。)であっても対応することができる。以下、図面を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【実施態様1】
【0013】
吸引式患者固定具リーク検出器1は、測定器11、耐圧チューブ12、及び接続コネクタ13からなる(
図1(A))。測定器11は、耐圧チューブ12及び接続コネクタ13を介して、吸引式患者固定具Aの吸引ポートBに接続することができる。吸引ポートBは、固定具から空気を抜くために吸引ポンプに接続するポートである。上述のように、吸引式患者固定具は、いくつかの製品が市販されており、吸引ポートBの形状も異なっている。接続コネクタ13は、いずれの固定具にも接続可能に伸縮性の素材で構成されている。あるいは、吸引ポートBの形状に合わせた複数の接続コネクタ13が用意されており、測定する固定具に合わせて交換することができるように、耐圧チューブから着脱可能に設計されている。
【0014】
測定器11は圧力センサであり、差圧計、ゲージ圧計又は絶対圧計を使用することができる。圧力センサとしては、ひずみゲージ式、金属ゲージ式、半導体ゲージ式などのゲージ式圧力センサ、あるいは、静電容量型、光ファイバー型など、どのような圧力センサを用いても良く、圧力レンジは大気圧に対して+10kPa~-100kPaの範囲で測定可能であり、圧力分解能1kPa以下の圧力センサを好ましく使用することができる。
【0015】
耐圧チューブ12は、空気を吸引された状態の固定具を測定器11に接続した際の陰圧に耐えることができればよく、例えば、耐圧性-100kPa程度の耐圧チューブを使用することができる。
【0016】
固定具のリークチェックは以下のようにして行うことができる。吸引式患者固定具Aを予めポンプにより陰圧にし、吸引式患者固定具リーク検出器1を吸引式患者固定具Aの吸引ポートBに接続コネクタ13を介して接続させる。固定具内の陰圧を測定器11によって測定する。この検出方法は、測定対象の固定具の容積に制限はなく、様々な大きさの固定具のリークチェックに対応できる。また、以下の実施例で示すように、吸引後の圧力が定常状態になった時点、例えば、Vac-Lokでは、120分以降、BlueBAGでは180分以降では圧力が定常状態になることから、吸引直後の圧力と120分以降、又は180分以降の圧力をチェックすることにより空気漏れが生じるか否かを判断することができる。また、吸引30分後には、陰圧の低下が緩やかになり定常状態に近づくことから、吸引後30分を目安として空気漏れが生じる固定具か否かを判断することもできる。吸引式患者固定具リーク検出器による測定を終え、接続コネクタを外すときには、吸引ポート側の開閉機構を閉じればよく、また、接続コネクタを外さない限り外気が流通しないため、測定によって固定具の陰圧が変化することはない。したがって、患者に使用中の固定具であっても、リークチェックを行うことができる。
【0017】
治療期間中の固定具のリークをチェックする場合には、照射前後に圧を測定し、前回の照射時の測定結果と比較することによって、リークが生じたかを検知することができる。漏れが生じた固定具の場合には、その固定具の治療期間中の継続的な吸引や、漏れの無い固定具に代えて吸引式固定具の再作成やシミュレーションを行うことによって、適切な部位に放射線を照射することができる。
【実施態様2】
【0018】
実施態様2の吸引式患者固定具リーク検出器1’は、吸引式患者固定具Aと吸引ポンプCを接続可能とする切り替え装置14を備えている他は実施態様1の吸引式患者固定具リーク検出器1と同様である(
図1(B))。吸引ポンプCによって固定具から空気を抜くときは、P1、P2、P3全てのポートが開口されている。そのため、吸引ポンプによって吸引しながら吸引式患者固定具Aの圧力を測定器によって測定することができる。吸引時の圧を測定することによって、一定の圧力で形状を固定した固定具を形成することができる。吸引完了後、吸引ポンプ側のポートP3は閉じ、
吸引式患者固定具A及び測定器11間のポートP1、P2は開口したままにしておくことにより、継続して圧の測定を行うことができる。
【実施態様3】
【0019】
さらに、吸引式患者固定具リーク検出器1を制御するとともに、測定した圧力を記憶、表示する処理部2を有する吸引式患者固定具リーク検出システム3としてもよい。なお、ここでは実施態様1の吸引式患者固定具リーク検出器1を接続する態様を例示しているが、実施態様2の吸引式患者固定具リーク検出器1’を接続してもよい。処理部2は、制御部15、記憶部16、表示部17を備えている。制御部15は、測定器11の圧力センサが測定した圧力を固定具毎に経時的に記憶部16に記憶させる、あるいは、測定器11がデータログ機能を備えている場合には、固定具毎にデータを振り分けて記憶部16に記憶させるなど、固定具毎のデータが比較できるように制御する機能を有する。吸引式患者固定具リーク検出器1によって測定された固定具の圧力は、記憶部16に記憶され、患者の治療期間中において、圧力に変化が生じていないか表示部17に表示させ経時的な圧力を確認することができる。記憶部16や表示部17を備えた吸引式患者固定具リーク検出システム3とすることによって、日常の固定具のリークチェックをより簡便に行うことができる。
【実施例】
【0020】
圧力センサは、測定対象の圧力と大気圧との差を1kPaの分解能で表示する電池式デジタル圧力センサ(TMPS-V60DL-R1、TRUSCO Nakayama Corporation社製)を使用した。固定具内の陰圧は、圧力センサの電源を入れた状態で固定具の吸引ポートと接続コネクタとを接続することで即時に測定される。
【0021】
基準となる圧力計の指示値と本検出器の測定値を比較することによって、精度評価を行った。基準圧力計は、医療用吸引器(壁掛式吸引器FA型、Central Uni社製)に搭載されている日本工業規格 B7505に基づき確認、試験が行われた圧力計を使用した。Head & Neck Vac-Lok cushion(型番MTVLTYS01CX、CIVCO社製)について、吸引アウトレットに接続した壁掛式吸引器FA型の基準圧力計をもとに-40kPaから-70kPaまで10kPaごとに変化させて吸引し、直後に実施態様1の検出器で圧力を測定して基準圧力計の指示値と検出器の測定値とを比較した。それぞれの圧力において、実施態様1の検出器の測定値は基準圧力計の指示値に対して2kPa程度の違いがあるものの、両者を直線近似するとその比例定数は0.99となる比例関係にあった(
図3)。したがって、本検出器の測定値自体には一定の誤差は含まれているものの、固定具内部の圧力の変化を検知するには十分な性能を持っていることが示された。
【0022】
実施態様1の検出器を用いて固定具のリークチェックの検討を行った。検討を行った25個のHead & Neck Vac-Lok cushionのうち、18個はリークの経験がない固定具(no leak群、以下NL群)であり、7個は過去にリークによって患者の再シミュレーション、または医療従事者の触感による固定具の軟化を確認した上で治療期間中に複数回の再吸引が必要となった固定具(careful watching群、以下CW群)である。壁掛式吸引器を用いてこれらの固定具を規定の陰圧に吸引し、直後に本検出器を用いて固定具内の陰圧を測定して吸引時圧力(Pvacuum)として記録した。Pvacuumを測定したのち、固定具の吸引ポートに専用のキャップを施して平置き状態で半日(約12時間)保管した。保管後の陰圧を再度測定し、経時圧力(Plater)とした。固定具ごとにPlaterとPvacuumの差分を長時間リーク圧(Vlong-term)として算出した。PlaterとPvacuum、ならびにVlong-termは群ごとに平均値と標準偏差を求め、Vlong-termに対して有意水準を1%としてwelchのt検定を用いて両群の有意差検定を行った。また、吸引直後からの圧力の短時間変化を調べるために、一部の固定具に対しては吸引直後から3時間経過時までの陰圧を経時的に測定し、吸引時圧力との差分を求めて短時間リーク圧(Vshort-term)として記録した。
【0023】
全ての固定具のP
vacuum(pressure measured at suction)とP
later(pressure measured later)、V
long-term(leakage pressure)を示す(
図4)。case1からcase7までの固定具はリークした履歴のあるCW群、case8からcase25までの固定具は、今までリークした履歴のないNL群の固定具である。P
laterは全ての固定具でP
vacuumより大きくなり、過去のリークの有無に関わらず固定具は吸引直後から大気圧との圧力差が減少していた。V
long-termはNL群で最大31kPaであったが、CW群では54kPaであった。
【0024】
【0025】
表1に、NL群、CW群のPvacuum、Plater、Vlong-termの平均値と標準偏差、Vlong-termに対して有意差検定を実施した際のp値を示す。Pvacuumは両群ともに-60kPa程度であったが、Platerの平均値はNL群で-38.2kPa、CW群で-18.9kPaであった。CW群のPlaterの標準偏差は、固定具によってリークの程度が異なるためにNL群のそれと比較して大きくなった。群間のPlaterの平均値の違いにともない、Vlong-termの平均値はNL群で22.1kPa、CW群で-43.7kPaとなり、両群のVlong-termの平均値には有意な差が見られた。
【0026】
上述のように、NL群は、リークによる軟化が今まで検出されていない固定具である。一方で、CW群は過去に術者の触感によってリークがあると判定された固定具である。NL群におけるP
laterの最大値とCW群におけるP
laterの最小値との差は
図4に示すように約5kPaである。つまり、医療従事者の触感で固定具の軟化を検知することできるのは5kPa程度の圧力変化があった場合であることが分かる。ここで使用した圧力センサの測定分解能は上述のように1kPaであり、実施態様の検出器、システムは術者の感覚より優れたリークチェックシステムであることが示された。
【0027】
表1に示すように、NL群とCW群にはVlong-termの平均値に有意な差が見られた。したがって、本システムを用いてリークの有無を確認できると言える。NL群において、Vlong-termが正規分布に従うと仮定した場合、95%信頼区間の上限値は34.0kPaとなる。今回はリークの有無が既知である固定具のチェックを実施したが、それが未知である場合の判定基準として、この95%信頼区間の上限値を利用可能である。すなわち、Vlong-termがおよそ34kPaを上回る固定具は、使用によってリーク関連した何らかのトラブルが発生する可能性が高いと判断できる。客観的な数値によって、リークの可能性があるか否かを判断できることは非常に有用である。
【0028】
次に、CW群のcase1とcase2、NL群のcase8とcase9のV
short-termを示す(
図5)。吸引直後からV
short-termはcaseごとに違いが生じた。固定具内の圧力は吸引直後から上昇し120分程度経過するとその後はほぼ一定となる。全ての固定具は吸引後120分程度でV
short-termの変化は小さくなり、定常状態となった。したがって,V
long-termの測定においては固定具を半日放置したが、120分程度の放置によってリークを確認できると考えられる。
【0029】
他の固定具であるBlueBAGを用いて、V
short-termを測定した(
図6)。A1、A2ともにリークの履歴のない固定具である。
図5に示した4つの固定具の圧変化と重ねて示している。A1及びA2は、吸引180分後にはほぼ定常状態の圧を示す。したがって、吸引直後、吸引から180分後に圧を測定することによって、漏れをチェックすることができる。また、固定具によらず、いずれの固定具も吸引30分後には、陰圧の低下が緩やかになり測定値は定常状態の圧に近づく。したがって、吸引後30分経過時に圧を測定することによりリークの有無を判断してもよい。他の固定具も多少の差はあるものの、ほぼ同様の時間経過の後に定常状態に達する。
【0030】
実際の放射線治療の工程において固定具作成前にリークチェックを行う事を想定した場合、固定具作成前に30分から3時間程度の時間があればリークチェックを実施した固定具を患者に使用することが可能となる。固定具作成前に使用する固定具のチェックを行うことによって、固定具の漏れによるトラブルを未然に防止することができる。
【0031】
上記実施例で示したように、今までは主観的に行われていたリークによる固定具の軟化の確認を本システムによって数値化することで一般化された基準として判定できる。その結果、ヒトの感覚よりも鋭敏に固定具の軟化を検出することが可能となり、適切な照射位置で患者に放射線照射を行うことができる。また、CW群の中には,判定基準を下回るVlong-termを観測する固定具、すなわちリークが検出されないものもあった。リークは穿孔のみではなく、保管方法等、取扱いによって一過性に発生する場合がある。使用している固定具のみならず、過去にリークがあった固定具に対して本システムを用いてリークチェックを行うことにより、リークの原因特定が可能になり、固定具の再利用の判断を行うことができる。
【符号の説明】
【0032】
1、1’…吸引式患者固定具リーク検出器、2…処理部、3…吸引式患者固定具リーク検出システム、11…測定器、12…耐圧チューブ、13…接続コネクタ、14…切り替え装置、15…制御部、16…記憶部、17…表示部、A…吸引式患者固定具、B…吸引ポート、C…吸引ポンプ