(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物および照明部品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240117BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20240117BHJP
C08K 11/00 20060101ALI20240117BHJP
F21V 3/06 20180101ALI20240117BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/42
C08K11/00
F21V3/06 110
(21)【出願番号】P 2020214918
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】濱島 宣幸
(72)【発明者】
【氏名】入江 康行
(72)【発明者】
【氏名】山内 哲
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-043495(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084180(WO,A1)
【文献】特開2020-200373(JP,A)
【文献】特開平02-251561(JP,A)
【文献】特開平10-292038(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105838055(CN,A)
【文献】特開2020-132666(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203916(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
F21V 3/00-3/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が10,000~16,500のポリカーボネート樹脂(A1)と、粘度平均分子量が50,000~95,000のポリカーボネート樹脂(A2)を、(A1)と(A2)の合計100質量%基準で、(A1)を30~32質量%、(A2)を68~70質量%含有するポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウムを0.03~0.05質量部、(C)ソルベントブルー97およびソルベントバイオレット36を、両者の合計で0~0.3質量ppm含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂温度260℃、引取速度20m/minで測定された溶融張力が、35mN以上、37mN以下である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物により形成された照明部品。
【請求項4】
前記照明部品が、LEDを光源とし、LEDの前面に配置された、カバーあるいはレンズである請求項3に記載の照明部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる照明部品に関し、詳しくは、難燃性と成形性に優れ、且つ透明性にも優れるポリカーボネート樹脂組成物および照明部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、耐候性、難燃性等の物性が優れ、高い光線透過率を有する高機能性樹脂であり、その特性を活かして、例えば自動車、電気電子機器、住宅、照明機器、光学用途その他の工業分野における部品製造用材料等として幅広く利用されている。
特にその優れた光学特性と難燃性を活かし、近年ではLED光源が主流となりつつある照明機器用の透光性カバー部品等として利用されるようになってきた。
【0003】
中でもLEDを光源として用いた照明カバー、照明看板、スクリーン、各種ディスプレイ、表示用カバーやレンズなどの照明用の部品では、照明効率を落とさないよう高い光透過性を維持することが求められる。またオフィスや家庭用の照明部品では高い難燃性が求められることから、種々の難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂が使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、難燃剤として有機金属塩系化合物が配合されたポリカーボネート樹脂組成物を提案しているが、難燃性と成形性のバランス並びに厚肉での透明性と光透過性は必ずしも十分であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて創案されたもので、難燃性と成形性のバランス並びに透明性(光透過性)に優れたポリカーボネート樹脂組成物、およびこのポリカーボネート樹脂組成物を用いた照明部品を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の粘度平均分子量のポリカーボネート樹脂と、高い粘度平均分子量のポリカーボネート樹脂(A2)を特定の量比で組み合わせた上で、パーフロロブタンスルホン酸カリウム、さらに特定の染料2種を特定の量で組み合わせて含有するポリカーボネート樹脂組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物、およびこのポリカーボネート樹脂組成物を用いた照明部品に関する。
【0008】
[1]粘度平均分子量が10,000~16,500のポリカーボネート樹脂(A1)と、粘度平均分子量が50,000~95,000のポリカーボネート樹脂(A2)を、(A1)と(A2)の合計100質量%基準で、(A1)を30~32質量%、(A2)を68~70質量%含有するポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウムを0.03~0.05質量部、(C)ソルベントブルー97およびソルベントバイオレット36を、両者の合計で0~0.3質量ppm含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[2]樹脂温度260℃、引取速度20m/minで測定された溶融張力が、35mN以上、37mN以下である上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物により形成された照明部品。
[4]前記照明部品が、LEDを光源とし、LEDの前面に配置された、カバーあるいはレンズである上記[3]に記載の照明部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性と成形性、特に射出成形時の成形性に優れ、且つ透明性、特に厚肉で透明性(光透過性)にも優れる。
また、前記ポリカーボネート樹脂組成物を用いて照明部品を成形し、照明器具として使用することで、耐燃焼性に優れ、厚肉でも透明性に優れた照明器具を提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、粘度平均分子量が10,000~16,500のポリカーボネート樹脂(A1)と、粘度平均分子量が50,000~95,000のポリカーボネート樹脂(A2)を、(A1)と(A2)の合計100質量%基準で、(A1)を30~32質量%、(A2)を68~70質量%含有するポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウムを0.03~0.05質量部、(C)ソルベントブルー97およびソルベントバイオレット36を、両者の合計で0~0.3質量ppm含有することを特徴とする。
【0012】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明の(A)成分であるポリカーボネート樹脂(A)は、上記したポリカーボネート樹脂(A1)とポリカーボネート樹脂(A2)を含有する。
【0013】
[ポリカーボネート樹脂(A1)]
ポリカーボネート樹脂(A1)の分子量は、粘度平均分子量(Mv)で、10,000~16,500であり、好ましくは11,000以上、より好ましくは11,500以上であり、好ましくは16,000以下、15,000以下、なかでも14,500以下であることが好ましい。
【0014】
[ポリカーボネート樹脂(A2)]
ポリカーボネート樹脂(A2)の粘度平均分子量(Mv)は50,000~95,000のポリカーボネート樹脂である。ポリカーボネート樹脂(A2)の粘度平均分子量は、好ましくは55,000以上であり、より好ましくは60,000以上、中でも61,000以上、特には62,000以上が好ましく、また、好ましくは90,000以下であり、より好ましくは85,000以下、さらには80,000以下、中でも75,000以下、特には70,000以下が好ましい。
【0015】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A1)とポリカーボネート樹脂(A2)を、ポリカーボネート樹脂(A1)と(A2)の合計100質量%基準で、(A1)を30~32質量%、(A2)を68~70質量%の範囲で含有する。
このような範囲で含有することにより、ポリカーボネート樹脂(A2)が有する滴下防止効果による難燃性と成形性をバランスよく良好にすることが可能となり、さらに(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウムを併せて含有することにより、より高度な難燃性を達成することができる。
【0016】
本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、ウベローデ粘度計を用いて、温度25℃にて、ポリカーボネート樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定して極限粘度([η])を求め、次のSchnellの粘度式から算出される粘度平均分子量(Mv)である。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0017】
ポリカーボネート樹脂(A1)及び(A2)の種類に制限はなく、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族-脂肪族ポリカーボネート樹脂が挙げられるが、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂であり、具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が好ましく用いられる。
上記芳香族ポリカーボネート重合体は分岐を有していてもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。
【0018】
芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとしては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0019】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物の中では、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が特に好ましい。
また、上記芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0020】
[(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウム]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウムを含有する。(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウムを含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の炭化層形成を促進し難燃性をより高めることができ、さらに、ポリカーボネート樹脂(A2)が有する滴下防止効果との相乗効果により、高度の難燃性を達成すると共に、厚肉での高い透明性(光透過性)を可能とし、また、ポリカーボネート樹脂(A)そのものが有する耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性、電気的特性などの性質を良好に維持できる。
【0021】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウムの含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.03~0.05質量部である。(B)パーフロロブタンスルホン酸カリウムの含有量が少なすぎると得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の透明性、特に厚肉での透明性(光透過性)が低下しやすく、並びに、成形品の外観不良及び機械的強度の低下が生じやすい。
【0022】
[(C)ソルベントブルー97及びソルベントバイオレット36]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、橙色ないし黄色の光線を吸収することにより青色ないし紫色を呈するブルーイング染料として、(C)ソルベントブルー97及びソルベントバイオレット36を0~0.3質量ppm含有する。すなわち、含有しなくてもよいし、含有する場合は両者を併せて合計が0.3質量ppm以下の量で含有する。
【0023】
一般名がソルベントブルー97(Solvent Blue97)の染料としては、具体的にはランクセス株式会社製の商品名「マクロレックスブルーRR」を挙げることができる。
また、一般名がソルベントバイオレット36(Solvent Violet36)の染料としては、具体的にはランクセス株式会社製の商品名「マクロレックスバイオレット3R」を挙げることができる。
【0024】
(C)ソルベントブルー97及びソルベントバイオレット36の含有量が0.3質量ppmを超えると、光透過性が低下し、LED照明カバー等にした場合の明るさ(照度)や光束が低下する。
【0025】
[(D)安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤を含有することが好ましく、特にリン系安定剤を含有することが好ましい。リン系安定剤を含有することにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の色相をさらに良好なものとし、熱安定性も高めることができる。
【0026】
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0027】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
【0028】
安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.0001質量部以上、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0029】
[(E)紫外線吸収剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オキザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましく、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0030】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等が挙げられ、中でも2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましく、特に2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0031】
紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性(耐光性)の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
【0032】
[(F)離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0033】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0034】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0035】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0036】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0037】
数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがより好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5000以下である。
【0038】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0039】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0040】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによってポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0041】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、溶融張力が高いことを特徴とし、樹脂温度260℃、引取速度20m/minで測定された溶融張力が、35mN以上、37mN以下であることが好ましい。溶融張力がこのような範囲にあることで、難燃性と高い成形性(特に射出成形時の成形性)に優れたものとすることができるので好ましい。溶融張力が35mNを下回ると難燃性が低下する傾向があり、37mNを超えると成形性が悪化しやすい。
【0042】
[成形品]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、成形して任意の形状に賦形され、成形品とされる。
成形品を製造する方法は、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられ、また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
これらのなかでも、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法などの射出成形法が好ましく、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は射出成形時の成形性に特に優れる。
【0043】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形品は照明部品として、好適に使用される。照明部品は、シーリングライトなどの住宅用照明器具、ベースライトなどの施設用照明器具、ダウンライトなどの店舗用照明器具など、各種照明器具に用いられる部品であり、特に任意形状の各種の透光性部品が挙げられ、特にLEDを光源とするLED照明用の各種照明部品、例えば、特にLEDを光源とし、LEDの前面に配置された、カバーあるいはレンズ等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
実施例および比較例に使用した各成分は、以下の表1の通りである。
【0045】
【0046】
(実施例1~7、比較例1~5)
[樹脂ペレットの製造]
表1に記載した各成分を、後記表3以下に記した割合(全て質量部で表示)となるように配合し、タンブラーミキサーで均一に混合して、混合物を得た。この混合物を、2軸押出機(東芝機械社製「TEM26SX」)に供給し、スクリュー回転数150rpm、吐出量20kg/時、バレル温度280℃の条件で混練し、押出ノズル先端からストランド状に押し出した。押出物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてカットしてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0047】
[難燃性]
上記で得られた樹脂組成物のペレットについて、住友重機械工業社製射出成形機「SE100DU」を用い、樹脂温度300℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、長さ127mm、幅12.7mm、肉厚0.8mmのUL試験用試験片を得た。
得られたUL試験用試験片を、23℃、相対湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して試験を実施した。
UL94Vとは、鉛直に保持した試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V-0、V-1及びV-2の難燃性を有するためには、以下の表2に示す基準を満たすことが必要となる。
【0048】
【0049】
燃焼性結果は、良好な順からV-0、V-1、V-2、HBとし規格外のものをNGと分類した。また、5試料の全残炎時間(単位:秒)とドリップによる綿着火本数を記載した。
【0050】
[厚肉透明性]
得られた各樹脂組成物のペレットについて、日本製鋼所社製射出成形機「J85AD」を用い、樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、長さ50×50mm、肉厚18mmのブロック片を試験片として得た。
このブロック片をD65光源下で、目視により透明性を評価した。
○:透明
△:芯部が僅かに白濁
×:明らかに白濁
【0051】
[溶融張力(単位:mN)]
得られた各樹脂組成物のペレットについて、ペレットを120℃で4時間以上乾燥し、東洋精機社製キャピログラフ1Dを用い、シリンダー温度260℃、オリフィス径1.0mm、長さ10mm、ピストン降下速度10mm/min、ストランド引取速度20m/minにて溶融張力(mN)を測定した。
溶融張力は35mN以上、37mN以下であることが好ましい。
【0052】
[射出成形性]
得られた各樹脂組成物のペレットについて、日本製鋼所社製射出成形機「J50AD」を用い、樹脂温度280℃、金型温度80℃、保圧80MPaの条件下で射出成形を行い、長さ90mm、幅50mm、肉厚1、2、3mmの3段プレートを試験片として得た。このプレートの外観を、目視により評価した。
○:良好
△:僅かにフローマーク、湯ジワあり
×:明らかにフローマーク、未充填、シルバーストリークあり
【0053】
[LED電球全光束(単位:lm)]
得られた各樹脂組成物のペレットについて、住友重機械工業社製射出成形機「SE100DU」を用い、樹脂温度300℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、半径25.5mmの半球状で厚み1mmの半球状成形品を得た。
市販のLED電球(PANASONIC社製、「EVERLEDS LDA7D-G」)の照明カバーを取り外し、上記半球状成形品を取り付け、全光束を、Labsphere社製全光束分光測定システムCSLMS-2021型(積分球20インチ、分光器CDS-2100)により、測定した。全光束は、680lm以上であることが好ましい。
以上の評価結果を、以下の表3に示す。
【0054】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性と成形性に優れ、透明性にも優れるポリカーボネート樹脂材料であるので、各種の照明部品等に広く好適に利用でき、産業上の利用性は非常に高い。