(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】耳栓及び耳栓の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 11/10 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
A61F11/10 100
(21)【出願番号】P 2020540640
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020005968
(87)【国際公開番号】W WO2020170998
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019026975
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593148804
【氏名又は名称】川本産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100191190
【氏名又は名称】池田 直文
(72)【発明者】
【氏名】永松 芳晴
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-509786(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0112404(KR,A)
【文献】特表2010-527400(JP,A)
【文献】特開平11-357(JP,A)
【文献】特表平11-514559(JP,A)
【文献】特開2006-169152(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104224443(CN,A)
【文献】特開昭54-36094(JP,A)
【文献】特開2010-196029(JP,A)
【文献】特開2012-46589(JP,A)
【文献】特開平10-218641(JP,A)
【文献】特開平6-219771(JP,A)
【文献】特開2018-76481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 11/08-12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指で圧縮しながら外耳道に挿入される防音耳栓であって、
無機系抗菌剤を分散含有した軟質ウレタンフォームからなり、且つ、指で限界まで圧縮した状態でその圧縮を瞬時に完全に解除した時点から元の形状に復元するまでの所要時間が15秒~60秒であり、
前記無機系抗菌剤は、二酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化ナトリウム及び酸化銀により組成され、粒径が10μm、比重が2.5、1%懸濁液のpHが8.8の銀系無機抗菌剤であることを特徴とする防音耳栓。
【請求項2】
前記無機系抗菌剤を0.05重量%~1重量%含んでいる、請求項1に記載の防音耳栓。
【請求項3】
ウレタン樹脂原料と発泡剤とを含む耳栓原料を調製する原料調製工程と、
前記原料調製工程を経ることにより得られた耳栓原料と無機系抗菌剤とを混合する混合工程と、
前記混合工程を経ることにより得られた混合物を金型に注入して耳栓形状に成型し硬化させる成型・硬化工程と、
前記成型・硬化工程を経ることにより得られた成型物を前記金型から脱型する脱型工程と、
を含み、
前記原料調製工程は、前記成型物の形状復元所要時間が15秒~60秒になるように前記耳栓原料を調製する工程であり、
前記形状復元所要時間は、前記成型物を指で限界まで圧縮した状態でその圧縮を瞬時に完全に解除した時点から前記成型物が元の形状に復元するまでの所要時間であり、
前記無機系抗菌剤は、二酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化ナトリウム及び酸化銀により組成され、粒径が10μm、比重が2.5、1%懸濁液のpHが8.8の銀系無機抗菌剤であることを特徴とする防音耳栓の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程において、前記混合物に対する前記無機系抗菌剤の分量が0.05重量%~1重量%になるように、前記耳栓原料と前記無機系抗菌剤とを混合する、請求項3に記載の防音耳栓の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性能を有する防音用の耳栓及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大音量の騒音は人の聴覚機能の低下を招く原因の一つである。また、騒音が原因となって、平衡障害、精神不安定、思考力・記憶力の低下といった症状が生じることもある。そのため、所定の騒音レベルを超える作業場においては、防音保護具を使用することが求められる。防音保護具として、一般に、耳栓が多く使用される。耳栓には、フランジタイプの固形耳栓とスポンジタイプの耳栓とがある。スポンジタイプの耳栓には、ウレタンフォーム製のものとPVC(Polyvinyl Chloride)製のもとがある。
【0003】
エラストマーやシリコーンなどからなるフランジタイプの耳栓やPVC製のスポンジタイプの耳栓は、吸水性が低いため洗って再使用できる。また、フランジタイプの耳栓やPVC製のスポンジタイプの耳栓には抗菌性を有するものがある(特許文献1参照)。
【0004】
これに対し、弾性発泡ポリマ又はウレタンからなるスポンジタイプの耳栓は、水分を含むと乾燥し難いため、洗って再利用することはできないとされている。特に、ウレタンからなるスポンジタイプの耳栓は、水分を含むと加水分解反応を起こして短時間で劣化してしまうため洗浄不可能である。
【0005】
このように、フランジタイプの耳栓やPVC製のスポンジタイプの耳栓は、洗って再利用できるため衛生的な使用が可能であり、この点においては、弾性発泡ポリマ又はウレタンからなるスポンジタイプの耳栓よりも優れているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、スポンジタイプの耳栓は、柔軟性と形状復元性とを併せ持つため、外耳道を隙間なく塞ぐことができ、フランジタイプの耳栓よりも高い遮音性を発揮し得る。このため、騒音から耳を保護するという耳栓本来の機能において、スポンジタイプの耳栓はフランジタイプの耳栓よりも優れているといえる。
【0008】
しかし、ウレタンフォーム製のスポンジタイプの耳栓は、指で圧縮してから外耳道に挿入する必要があるため、指を介してばい菌が付着しやすく、しかも、洗うことができないため、ばい菌が残存し大量に繁殖しやすい。それにもかかわらず、抗菌性を有するウレタンフォーム製のスポンジタイプの耳栓は実現されていなかった。
【0009】
本発明は、抗菌性を有するウレタンフォーム製のスポンジタイプの耳栓及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る耳栓は、指で圧縮しながら外耳道に挿入される耳栓であって、無機系抗菌剤を分散含有した軟質ウレタンフォームからなり、且つ、指で略限界まで圧縮した状態でその圧縮を瞬時に完全に解除した時点から元の形状に復元するまでの所要時間が40秒~120秒であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る耳栓の製造方法は、ウレタン樹脂原料と発泡剤とを含む耳栓原料を調製する原料調製工程と、前記原料調製工程を経ることにより得られた耳栓原料と無機系抗菌剤とを混合する混合工程と、前記混合工程を経ることにより得られた混合物を金型に注入して耳栓形状に成型し硬化させる成型・硬化工程と、前記成型・硬化工程を経ることにより得られた成型物を前記金型から脱型する脱型工程と、を含み、前記原料調製工程は、前記成型物の形状復元所要時間が40秒~120秒になるように前記耳栓原料を調製する工程であり、前記形状復元所要時間は、前記成型物を指で略限界まで圧縮した状態でその圧縮を瞬時に完全に解除した時点から前記成型物が元の形状に復元するまでの所要時間であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抗菌性を有するウレタンフォーム製のスポンジタイプの耳栓及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の係る耳栓の製造方法の一実施形態を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0015】
[耳栓の構成]
まず、本発明に係る耳栓の一実施形態について説明する。
ここでは、一実施形態として、下記要件(A)~(D)をすべて満たす耳栓を例示する。
(A) 指で圧縮しながら外耳道に挿入される軟質ウレタンフォームからなる耳栓である。
(B) 指で略限界まで圧縮した状態でその圧縮を瞬時に完全に解除した時点から元の形状に復元するまでの所要時間(形状復元所要時間)が40秒~120秒である。「略限界まで圧縮した状態」とは、例えば、自然状態で直径8mm~13mm程度の略円柱形であったものを直径5mm~6mm程度の略円柱形になるように圧縮した状態をいう。
(C) 無機系抗菌剤を0.05重量%~2重量%分散含有している。
(D) (C)の無機系抗菌剤は表1の内容で特定される粉末状の銀系無機抗菌剤である。
【0016】
【0017】
上記要件(A)~(D)をすべて満たすことにより、一実施形態として例示された耳栓は、下記の有利な効果(I)及び(II)を奏する。
(I) 上記要件(A)及び(B)により、外耳道への装着性及び騷音遮断性が良好である。
(II) 上記要件(C)及び(D)により、十分な抗菌性を有する。
【0018】
一実施形態の耳栓には、その形状によって吊り鐘型、弾丸型、円柱型、等に分類されるものが含まれる。また、一実施形態の耳栓には、グリップが付いていてそのまま外耳道に挿入されるタイプの耳栓、ヘッドバンド等に取り付けられるセミインサートと呼ばれるタイプの耳栓が含まれる。
【0019】
[耳栓の製造方法]
次に、本発明に係る耳栓の製造方法の一実施形態について説明する。
図1に示すように、一実施形態の耳栓の製造方法は、原料調製工程P1と、混合工程P2と、成型・硬化工程P3と、脱型工程P4と、を含む。
【0020】
原料調製工程P1は、ウレタン樹脂原料すなわちポリオール及びポリイソシアネートを主成分とし、これに副成分として発泡剤、整泡剤、触媒、着色剤等を混合した耳栓原料を調製する工程である。
【0021】
ウレタン樹脂原料であるポリオール及びポリイソシアネートの分量、並びに耳栓原料における発泡剤など副成分の含有量、等は、最終的に得られる成型物である耳栓の形状復元所要時間が40秒~120秒になるように調整される。形状復元所要時間が40秒未満であると、耳栓を圧縮してから外耳道に挿入するまでの間にその耳栓が元の形状に復元してしまう可能性が高くなるため、耳栓を外耳道に装着し難くなる。この問題は、耳栓の装着教育を受けていない人の場合に顕著である。形状復元所要時間が120秒を超えると、耳栓の装着教育を受けていない人であっても、耳栓を外耳道に挿入し終えてからその耳栓が外耳道を密閉するまでに要する時間が長くなり過ぎることになる。このように、形状復元所要時間が40秒~120秒の範囲を外れると、本来の遮音性能を迅速に発揮し得る使い勝手の良い耳栓の実現が困難になる。
【0022】
混合工程P2は、原料調製工程P1を経ることにより得られた耳栓原料と無機系抗菌剤とを混合する工程である。無機系抗菌剤は、表1の内容で特定される粉末状の銀系無機抗菌剤である。すなわち、無機系抗菌剤は、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ホウ素(B2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)及び酸化銀(Ag2O)により組成され、平均粒径が10μm、比重が2.5、1%懸濁液のpHが8.8の銀系無機抗菌剤である。
【0023】
耳栓原料及び無機系抗菌剤の総量に対する無機系抗菌剤の分量は0.05重量%~2重量%とする。無機系抗菌剤の分量が0.05重量%未満であると、十分な抗菌性を有する耳栓の実現が困難になる。無機系抗菌剤の分量が2重量%を超えると、所望の装着性及び遮音性能を有する耳栓が得られなくなるとともに、抗菌剤を含有していることによる耳栓の変色が生じやすくなるため、耳栓の商品としての価値の低下を招くことになる。
【0024】
成型・硬化工程P3は、混合工程P2を経ることにより得られた混合物を金型に注入して耳栓形状に成型し硬化させる工程である。この工程は、耳栓原料及び無機系抗菌剤の組成に応じた温度範囲及び時間で実施される。当該温度範囲及び時間は、所望の耳栓形状及び遮音性能を有する耳栓に成型可能な値に選定される。
【0025】
脱型工程P4は、成型・硬化工程P3を経ることにより得られた成型物を金型から脱型する工程である。
【0026】
上記の製造方法により、上記要件(A)~(D)をすべて満たす耳栓が製造される。製造される耳栓の自由発泡密度は耳栓着用及び騷音遮断特性に適合した値となる。当該自由発泡密度の範囲は、例えば0.13g/cc~0.14g/ccである。
【0027】
[耳栓の抗菌性]
次に、一実施形態として例示された耳栓の抗菌性に関する試験結果について説明する。
無機系抗菌剤には、抗菌化研社製の銀系無機抗菌剤(BIOSURE SGI)を使用した。試験は、JISL1902に準拠する方法で実施した。
【表2】
【表3】
【0028】
表2及び表3は、耳栓原料に無機系抗菌剤が0.05重量%~0.3重量%添加されたときの抗菌活性値を示すものである。表2は黄色ブドウ球菌に対する試験結果を示している。表3は大腸菌に対する試験結果を示している。
【0029】
黄色ブドウ球菌に対しては、無機系抗菌剤の添加率が0.05重量%以上の場合に、抗菌活性値が2.2以上となり抗菌効果があることが確かめられた。大腸菌に対しては、さらに高い抗菌効果が確かめられた。また、無機系抗菌剤の添加率に略比例して抗菌効果が高くなることが確かめられた。
【0030】
以上説明したように、本実施形態によれば、抗菌性を有するウレタンフォーム製のスポンジタイプの耳栓及びその製造方法を実現することができる。
【符号の説明】
【0031】
P1…原料調製工程、P2…混合工程、P3…成型・硬化工程、P4…脱型工程。