(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】能動雑音制御方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
G10K11/178 120
G10K11/178 140
(21)【出願番号】P 2020547301
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2018082980
(87)【国際公開番号】W WO2019106077
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-10
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】520177998
【氏名又は名称】フォルシア クレオ アーベー
【氏名又は名称原語表記】FAURECIA CREO AB
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】白井 達哲
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ ピニエ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ マッティ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト リスベルグ
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-541222(JP,A)
【文献】特開2009-258472(JP,A)
【文献】特開平07-248784(JP,A)
【文献】特開2012-247738(JP,A)
【文献】特開平04-011291(JP,A)
【文献】特開平07-261774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の1以上の制御位置において、雑音源から1次音響経路(Pm、m=1、2、3、・・・)のそれぞれを介して前記制御位置のそれぞれに伝達された音響雑音信号に起因した、1次音響雑音信号(dm(n)、m=1、2、3、・・・)のパワーを低減する方法であって、
前記音響雑音信号を表す電気基準信号(x(n))と、前記制御位置において、それぞれの音響センサにより検出されるそれぞれの音響信号を表す少なくとも1つの電気誤差信号(em(n)、m=1、2、3、・・・)と、を含む入力信号を受信する適応フィルタを配置し、
前記車室内に配置された少なくとも1つの音響変換器に、少なくとも1つの電気制御信号(y’k(n)、k=1、2、3、・・・)を提供し、伝達する前記適応フィルタを配置し、
それぞれの前記電気誤差信号(em(n)、m=1、2、3、・・・)を最小化するように、前記制御位置に、それぞれ2次音響反雑音として到達する反雑音信号を、前記少なくとも1つの電気制御信号(y’k(n)、k=1、2、3、・・・)の応答として、前記少なくとも1つの音響変換器と前記制御位置との間のそれぞれの2次音響経路(Skm、k=1、2、3、・・・)を介して、提供し、伝達するために、前記少なくとも1つの音響変換器を配置し、
それぞれの2次音響経路モデル(cfSkm、k=1、2、3、・・・、m=1、2、3、・・・)からそれぞれのモデル化された2次反雑音信号(cfym(n)、m=1、2、3、・・・)を提供し、
それぞれの前記電気誤差信号(em(n)、m=1、2、3、・・・)および前記それぞれのモデル化された2次反雑音信号(cfym(n)、m=1、2、3、・・・)の間のそれぞれの平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3)を計算し、
前記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3)の少なくとも1つを、少なくとも1つの所定のしきい値(α、 β)と比較し、
または、前記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3)の
少なくとも1つの平均値(γ(n))を、少なくとも1つの所定のしきい値(α、 β)と比較する、方法。
【請求項2】
モデル化された2次反雑音信号(cfy(n))を提供することは、電気基準信号(x(n))を2次音響経路モデル(cfS)に通し、次に、前記適応フィルタのディジタルフィルタ(W)に続けて通すことを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
モデル化された2次反雑音信号(cfy(n))を提供することは、電気基準信号(x(n))を前記適応フィルタのディジタルフィルタ(W)に通し、次に、2次音響経路モデル(cfS)に続けて通すことを含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
最新の時間ステップにおける平均相関係数(γ(n))は、前記最新の時間ステップにおける相関係数(r(n))および過去の時間ステップにおける平均相関係数(γ(n-1))の関数として計算され、
相関係数(r(n))は、誤差信号(e(n))のN個の連続したサンプルおよびモデル化された反雑音信号(cfy(n))から計算され、
サンプル数Nは、100~10000の範
囲の範囲にある、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の振幅、もしくは、前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の前記平均値(γ(n))の振幅が、第1しきい値αよりも小さい場合、これは、最適に実施される方法を示し、
前記第1しきい値αは、0.01~0.03の範
囲にある、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・
)、もしくは、前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の前記平均値(γ(n))が、第2しきい値β以上である場合、これは、発散する方法を示し、
前記第2しきい値βは、0.4~0.9の範
囲にある、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の振
幅、もしくは、前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の前記平均値(γ(n))の振幅が、第2しきい値β以上である場合、これは、発散する方法を示し、
前記第2しきい値βは、0.4~0.9の範
囲にある、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の振幅、もしくは、前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の前記平均値(γ(n))の振幅が、第1しきい値α以上であり、前記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)
、もしくは、前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の前記平均値(γ(n))が、第2しきい値βよりも小さい場合、これは、非最適に実施される方法を示し、
前記第1しきい値αは、0.01~0.03の範
囲にあり、前記第2しきい値βは、0.4~0.9の範
囲にある、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の振幅、もしくは、前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の前記平均値(γ(n))の振幅が、第1しきい値α以上であり、前記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の振
幅、もしくは、前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の前記平均値(γ(n))の振幅が、第2しきい値βよりも小さい場合、これは、非最適に実施される方法を示し、
前記第1しきい値αは、0.01~0.03の範
囲にあり、前記第2しきい値βは、0.4~0.9の範
囲にある、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
ステップサイズ(μ)、ステップサイズ(μ)の符号、ステップサイズ(μ)の位相および漏れ係数から選択された1以上のフィルタパラメータを変更することをさらに備えた、請求項6~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記ステップサイズ(μ)および漏れ係数の少なくとも1つは、前記平均相関係数
の振幅に負の依存性を有する相関要素との乗算により変更される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
変更されたステップサイズ(μ)および漏れ係数の
回復率は、所定の値に限定される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法に用いられる2次音響経路モデル(cfSkm, k=1、2、3、・・・、m=1、2、3、・・・)を、予め測定された2次音響経路モデルの組から選択された2次音
響経路モデルに変更することをさらに備えた、請求項6~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記方法に2以上の音響センサが使用される場合、前記車室内における音響変換器および/または音響センサの空間的分布を、1以上の音響変換器および/または音響センサをオンオフすることにより変更することをさらに備えた請求項6~13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記方法を停止することをさらに備えた請求項6~14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
前記
適応フィルタは、Filtered-x-LMS, leaky-Filtered-x-LMS, Filtered-error-LMSおよび Modified-Filtered-x-LMSにより構成される群から選択されたフィルタである請求項1~15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
前記方法が最適に実行されているとき、車の運転条件および方法のパラメータは、データベースに登録される請求項5記載の方法。
【請求項18】
車室内の1以上の制御位置において、雑音源からそれぞれの1次音響経路(Pm、m=1、2、3、…)を介して前記制御位置のそれぞれに伝達される音響雑音信号に起因する1次音響雑音信号(dm(n)、m=1、2、3、・・・)のパワーを低減する能動雑音制御システムであって、
前記システムは、前記音響雑音信号を表す電気基準信号(x(n))と、前記制御位置においてそれぞれの音響センサにより検知されたそれぞれの音響信号を表す少なくとも1つの電気誤差信号(em(n)、m=1、2、3、・・・)と、を入力とするように配置された適応フィルタを備え、
前記適応フィルタは、前記車室内に配置された少なくとも1つの音響変換器に少なくとも1つの電気制御信号(y’k(n)、k=1、2、3、・・・)を提供し、伝達し、
前記少なくとも1つの音響変換器は、前記少なくとも1つの電気
誤差信号(em(n)、m=1、2、3、・・・)に応答して、前記少なくとも1つの音響変換器と前記制御位置との間のそれぞれの2次音響経路(Skm、k=1、2、3、・・・、m=1、2、3、・・・)を介して、それぞれの音響反雑音信号を提供し、伝達し、
前記音響反雑音信号は、前記電気誤差信号(em(n)、m=1、2、3、・・・)を最小化するように、それぞれの2次音響反雑音信号(ym(n)、m=1、2、3、・・・)として前記制御位置に到達し、
前記システムは、性能監視部をさらに備え、
前記性能監視部は、それぞれの2次音響経路モデル(cfSkm、k=1、2、3、・・・、m=1、2、3、・・・)からそれぞれのモデル化された2次反雑音信号(cfym(n)、m=1、2、3、・・・)を提供し、前記電気誤差信号(em
(n)、m=1、2、3、・・・)と前記それぞれのモデル化された2次反雑音信号(cfym(n)、m=1、2、3、・・・)との間のそれぞれの平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)を計算するように配置され、
前記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の少なくとも1つを、少なくとも1つの所定のしきい値(α、β)と比較するか、
前
記平均相関係数(γm(n)、m=1、2、3、・・・)の
少なくとも1つの平均値(γ(n))を、少なくとも1つの少なくとも1つの所定のしきい値(α、β)と比較するように配置されたことを特徴とする、能動雑音制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車室内の制御位置における1次音響雑音信号のパワーを、適応フィルタを用いて低減するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室内には、エンジンもしくはそれに機械的に結合された部品(例えば、ファン)の機械的振動、車両の周囲を通過する風、または、舗装面に接するタイヤにより発生する音響雑音が騒音として放射されるであろう。
【0003】
車室内の聞き取り可能な空間に放射されるそのような雑音を、特に低周波数領域において、除去もしくは少なくとも低減する能動雑音制御(ANC)システムおよび方法が知られている。
【0004】
一般的なANCシステムの基本原理は、雑音(1次音場)の逆位相像(2次音場)を提供するように、車室内に2次音源を導入することである。2次音場が1次音場に一致する度合いが、ANCシステムの有効性を決定する。1次および2次音場が空間的にも時間的にも正確に一致すると、少なくとも車室内の特定の領域で雑音が完全に除去される。実際には、そのような一致を完全に得ることはできず、雑音制御の実現可能な範囲は、その不整合により制限される。
【0005】
最新のANCシステムは、デジタル信号処理およびデジタルフィルタリング技術を導入している。典型的には、車室内の特定の領域における騒音ノイズ信号を表す基準電気信号を提供するために、ノイズセンサ(例えば、マイクロフォンまたは非音響センサ)が車室内で使用される。基準信号は、適応したフィルタに送られ、フィルタを通過した基準信号が、2次音源である音響変換器(例えば、スピーカ)に供給される。音響変換器は、車室内の特定された領域において、1次音場の位相とは反対の位相を有する2次音場を生成する。1次音場および2次音場は相互作用し、これにより、車室内の特定の領域における騒音雑音を除去または少なくとも低減する。この特定領域において、マイクロフォンを用いて残留ノイズを検出しても良い。その結果として得られるマイクロフォン出力信号は、「誤差信号」として使用され、適応フィルタに提供される。適応フィルタのフィルタリング係数は、誤差信号の大きさ(たとえば、パワー)が最小化され、これにより、車室内の特定の領域における残留ノイズが最小化されるように、変更される。
【0006】
雑音源からマイクロフォンへの音響伝達経路は、通常、ANCシステムの「1次経路」と呼ばれる。スピーカとマイクロフォンとの間の音響伝達経路は、「2次経路」と呼ばれる。2次経路の伝達機能を特定するためのプロセスは、「2次経路識別」と呼ばれる。
【0007】
2次経路の応答(すなわち、振幅応答および/または位相応答)は、ANCシステムの動作中の変動にさらされる可能性がある。2次経路における伝達関数の変化は、適応フィルタの収束動作に影響し、結果として、その動作の安定性および質、および、適応速度にも影響し、能動雑音制御の性能にかなりの悪影響を与える可能性がある。
【0008】
車室内の温度変化、乗客数、窓もしくはサンルーフの開閉などの車両の運転条件は、ANCシステム内で使用される所定の2次経路の伝達機能にもはや一致しないなど、2次経路伝達機能に悪影響を与える可能性がある。これは、ANCシステムの実現可能な減衰能力を制限する。
【0009】
したがって、能動雑音制御のロバスト性と同様に、適応速度および品質を維持しながら、選択可能な相殺特性を備えるANCシステムが広く求められている。
【発明の概要】
【0010】
本開示の目的は、乗用車室内の少なくとも1つの制御位置において雑音を低減する改善された方法を提供することである。
【0011】
また、改良された能動雑音制御システムを提供することも目的である。
【0012】
本発明は、添付の独立請求項によって定義される。実施形態は、従属請求項、添付図面、および以下の説明に記載されている。なお、以下の説明では、一部の符号を表1にしたがって記載する。
【表1】
【0013】
第1の態様によれば、車室内の1以上の制御位置における1次音響雑音信号のパワーを低減する方法が提供される。前記1次音響雑音信号は、1次音響経路を通じてそれぞれの前記制御位置に伝達されるそれぞれの音響雑音信号に起因する。この方法は、前記音響雑音信号を表す基準電気信号およびそれぞれの前記制御位置においてそれぞれの音響センサにより検出されるそれぞれの音響信号を表す少なくとも1つの電気誤差信号を含む入力信号を受け取るように適応フィルタを配置し、前記車室内に配置された少なくとも1つの音響変換器に少なくとも1つの制御電気信号を提供および送信するように前記適応フィルタを配置し、前記少なくとも1つの制御電気信号に応答して、前記少なくとも1つの音響変換器とそれぞれの前記制御位置との間のそれぞれの2次音響経路を通る反雑音信号を提供および伝達する前記少なくとも1つの音響変換器を配置し、それぞれの前記電気誤差信号を最小化するように、それぞれの2次音響反雑音信号としてそれぞれの前記制御位置に到達すること、および、それぞれの2次音響経路モデルからそれぞれのモデル化された2次反雑音信号を提供すること、を含む。前記方法はさらに、前記それぞれの電気誤差信号と前記それぞれのモデル化された2次反雑音信号との間のそれぞれの平均相関係数を計算し、前記平均相関係数の少なくとも1つを少なくとも1つの所定のしきい値と比較するか、または、少なくとも1つの所定のしきい値と前記少なくとも1つの相関係数の平均値と比較する。
【0014】
上記の方法は、いわゆる、ANC、能動雑音制御(もしくは相殺)法である。
【0015】
ここでの雑音源は、例えば、風切り音、エンジン音、ロードノイズ、または、そのような雑音のいずれかの組み合わせを意味する。
【0016】
制御位置は、車室内の音響雑音信号の抑制が望まれる位置、例えば、乗客の耳の近くの位置である。そのような位置では、雑音信号は、除去されるか、もしくは、少なくとも低減されるべきである。典型的な用途において、前記システムは、前後の乗客の頭上にいくつかの制御位置を備える。
【0017】
前記方法で使用される音響変換器と音響センサの数は、1から10の間で変化しても良い。車内の典型的な配置は、4つから6つの間の音響変換器と、4つから8つの間の音響センサと、を含む。使用される音響変換器は、前記方法で使用されるすべての音響センサにおいて前記音響パワーを最小化する音響信号を送信するように配置される。
【0018】
前記少なくとも1つの音響変換器は、例えば、スピーカまたはシェーカでもよい。
【0019】
前記少なくとも1つの音響センサは、例えば、マイクロフォンでもよい。
【0020】
それぞれの音響センサは、制御位置において、前記1次音響雑音信号およびそれぞれの2次音響反雑音信号を含む組み合わされた音響信号を検出するように配置される。前記2次音響反雑音信号のねらいは、前記1次音響雑音信号の逆位相像になることである。2次音響反雑音信号が前記1次音響雑音信号と一致する程度は、制御位置において音響センサにより検出される前記音響信号を表す前記電気誤差信号として測定される。前記1次音響雑音信号と前記2次音響反雑音信号が空間的にも時間的にも正確に一致すれば、前記1次雑音信号は制御位置において完全に除去されるであろう。実際には、そのような一致を完全に得ることはできず、この不整合は、雑音制御の実現可能なレベルを制限する。
【0021】
本方法は、(それぞれの2次音響経路モデルから)それぞれのモデル化された2次反雑音信号を提供するステップを含む。前記それぞれの電気誤差信号と前記それぞれのモデル化された2次反雑音信号との間において、それぞれの平均相関係数が計算される。前記平均相関係数の少なくとも1つは、少なくとも1つの所定のしきい値と比較され、これにより、前記方法の性能指標を得る。あるいは、前記方法の性能指標を得るために、前記少なくとも1つの相関係数の平均値は、前記少なくとも1つの所定のしきい値と比較される。
前記平均相関係数の前記平均値、もしくは、前記平均相関係数のいずれかが、前記少なくとも1つの所定のしきい値と比較される場合、フィルタパラメータの更新、前記方法に使用される音響変換器および/または音響センサの交換、モデル化された2次反雑音信号の変更などのために、異なる測定が実施されてもよい。
【0022】
モデル化された2次反雑音信号を提供するために使用される2次音響経路モデルは、音響変換器と音響センサとの間の伝達関数を表す。較正ステップにおけるオフライン(騒音音響ノイズ信号がない場合)、もしくは、オンライン(騒音音響ノイズ信号が存在する場合)は、いわゆる2次オンライン経路モデリング技術を介して測定されてもよい。
【0023】
したがって、前記方法のこれらのステップを通して、前記方法の性能を評価する迅速で感度の良い方法があり、前記平均相関係数と前記少なくとも1つの所定のしきい値との比較に基づいて、前記方法の欠陥の初期の兆候を得る。ここで、欠陥とは、前記車内の制御位置において、1次音響雑音信号のパワーが減少しないか、または、減少が十分でないこと、もしくは、前記方法が発散し、前記1次音響雑音と比較して、音響制御信号が過剰に大きな振幅を有することである。
【0024】
欠陥の原因は、2次音響経路が前記方法の動作中の変動にさらされることであるかもしれない。これにより、前記制御位置における前記2次音響反雑音信号もまた変動にさらされる可能性がある。前記2次音響経路の伝達関数の変動は、前記適応フィルタの収束動作に影響し、結果として、その動作の安定性および質、および、前記フィルタの適応速度に影響を与え、前記能動雑音制御の性能にかなりの悪影響を与える可能性がある。
【0025】
車室内温度の変化、乗客数、窓もしくはサンルーフの開閉などの車両の運転条件は、前記2次経路伝達関数が前記ANC法に用いられる所定の2次経路伝達関数(2次経路モデル)にもはや一致しないといった悪影響を与える可能性がある。これは、ANC法における実現可能な減衰性能を制限する。
【0026】
前記平均相関係数は、前記少なくとも1つの所定のしきい値と比較される。相関係数の発散は、前記制御位置において聞き取れる前であるとしても、2次反雑音信号の発散の始まりに近い初期段階において検出可能である。
【0027】
背景音場における突然のレベル上昇(ドアを閉める、音楽、会話)は、前記モデル化された2次反雑音信号には存在しないため、前記相関係数の振幅を減少させることはあっても、増加させることはないであろう。
【0028】
前記音響雑音信号を表す基準電気信号は、例えば、前記エンジン速度、加速度計信号などを測定する非音響センサから生成されてもよい。
【0029】
前記方法に用いられる前記音響センサおよび音響変換器は、能動雑音制御のために特別に配置され、使用されるユニットであってもよい。また、それらは、前記車両のオーディオシステムおよび前記車両のハンズフリーコミュニケーションシステムなどにも使用されてよい。
【0030】
平均相関係数の値がゼロであることは、前記電気誤差信号と前記モデル化された2次反雑音信号が相関していないことを示す。平均相関係数の値が1であることは、前記信号が完全に相関していることを示す。
【0031】
前記平均相関係数γは、例えば、式(1)のピアソン相関係数(PCC)として定義された相関係数から計算することができる。
【数1】
ここで、「e」は電気誤差信号であり、「cfy」はモデル化された2次反雑音信号である。略語「cov」および「var」は、前記信号の共分散および分散を指す。ピアソン相関係数のさらなる詳細は、例えば、「Benesty, Jacob, et al. "Pearson correlation coefficient. Noise reduction in speech processing." Springer Berlin Heidelberg, 2009. 1-4」を参照のこと。
【0032】
また、例えば、ウェーブレットコヒーレンスの概念に基づいた前記相関係数の別の定義を用いることもできる。詳細は、「Jean-Philippe Lachaux, Antoine Lutz, David Rudrauf, Diego Cosmelli, Michel Le Van Quyen, Jacques Martinerie, Francisco Varela, "Estimating the time-course of coherence between single-trial brain signals: an introduction to wavelet coherence", In Neurophysiologie Clinique/Clinical Neurophysiology, Volume 32, Issue 3, 2002, Pages 157-174, ISSN 0987-7053, https://doi.org/10.1016/S0987-7053(02)00301-5」を参照のこと。 「r」は、式(2)の値を使用して、式(3)のように移動時間フレーム上で評価できる。
【数2】
【数3】
ここで、
【数4】
および「cfy」に対応する定義を伴う。指数「n」は、最新の時間ステップにおける変数の値を指している。Nは、「r」を評価するサンプルの数である。通常、Nは、100~10000の範囲にある。Nが大きいほど、前記相関係数rがより正確に決定される。一方、Nが小さいほど、前記信号の時間変化により反応するようになる。次に、漸化式(5)を用いて、「r」の値とその履歴から前記平均相関係数γを計算する。
【数5】
【0033】
ここで、η≪1は、最新の相関係数rの平均値γ(n)への寄与を測る更新係数である。ηの典型的な値は、0.0001~0.01の範囲にある。φは、φ(x)=|x|a、もしくは、φ(x)=xaの形の関数であって良い。ここで、「a」は正の整数である。「a」は、「r」の小さな変動に対する前記平均相関係数の感度に影響する。「a」の典型的な値は、1または2である。
【0034】
このように定義された前記平均相関係数γは、環境の突然変化により生じる前記2次音響経路の急激な変化に対して安定である。前記適応フィルタが新条件に適応するために要する時間中の「r」の突然の増加は、「γ」の評価における係数ηにより緩和される。
モデル化された2次反雑音信号を提供することは、基準電気信号が2次音響経路モデルを連続して通過し、次に、前記適応フィルタのデジタルフィルタを通過することを含んでもよい。
【0035】
あるいは、モデル化された2次反雑音信号を提供することは、基準電気信号が連続的に適応フィルタのデジタルフィルタを通過し、次に、2次音響経路モデルを通過することを含んでもよい。
【0036】
前記2次音響経路モデルは、2次経路システム識別技術を用いて、較正ステップにおいて取得されたオフラインであってもよい。所謂オンライン2次経路モデリング技術を用いて取得されたオンラインであってもよい。
【0037】
前記最新の時間ステップにおいて、平均相関係数は、前記最新の時間ステップにおける相関係数と過去の時間ステップにおける平均相関係数との関数として計算できる。相関係数は、誤差信号の最後のN個のサンプルおよびモデル化された2次反雑音信号から計算される。サンプル数Nは、100~10000の範囲、好ましくは500~5000の範囲にある。
【0038】
少なくとも1つの平均相関係数の振幅、または、前記少なくとも1つの平均相関係数の前記平均値の振幅が第1しきい値αよりも小さい場合、これは、最適に実行する方法を示している可能性がある。第1しきい値αは、0.01~0.3の範囲、好ましくは、0.05~0.2の範囲にある。
【0039】
平均相関係数の振幅もしくは平均相関係数の平均値の振幅がαより小さい場合、これは、使用されているフィルタが最適、または、少なくとも最適に近い動作をしていることを示している。そして、前記2次音響反雑音信号は、前記制御位置において、前記1次音響雑音の低減に十分に寄与する。また、前記電気誤差信号は、前記2次反雑音信号と弱い相関を有する。
【0040】
少なくとも1つの平均相関係数もしくは前記少なくとも1つの平均相関係数の平均値が第2しきい値β以上である場合、これは方法の発散を示している可能性がある。ここで、第2しきい値βは、0.4~0.9の範囲、好ましくは、0.5~0.8の範囲にある。
【0041】
前記平均相関係数の振幅または前記少なくとも1つの平均相関係数の平均値の振幅の少なくとも1つが前記第2しきい値以上である場合、これは方法の発散を示している可能性がある。ここで、第2しきい値は0.4~0.9の範囲、好ましくは0.5~0.8の範囲にある。
【0042】
平均相関係数または平均相関係数の平均値がβ以上の場合、この方法に使用されているフィルタは適応しておらず、前記適応フィルタの発散動作があることを示している。前記2次音響反雑音信号の振幅は、前記制御位置において1次音響雑音を相殺するために必要とされる振幅よりも大きく、前記電気誤差信号は、前記2次音響反雑音と高度に相関している。
【0043】
少なくとも1つの平均相関係数の振幅もしくは前記少なくとも1つの平均相関係数の平均値の振幅が前記第1しきい値α以上であり、平均相関係数もしくは前記少なくとも1つの平均相関係数の平均値が前記第2しきい値βよりも小さい場合、これは最適に実行されない方法を示している。ここで、第1しきい値αは、0.01~0.3の範囲、好ましくは0.05~0.2の範囲にあり、第2しきい値βは、0.4~0.9の範囲、好ましくは、0.5~0.8の範囲である。
【0044】
前記少なくとも1つの平均相関係数の振幅もしくは前記少なくとも1つの平均相関係数の平均値の振幅が前記第1しきい値α以上であり、前記平均相関係数の振幅もしくは前記少なくとも1つの平均相関係数の平均値の振幅のうちの少なくとも1つが前記第2しきい値よりも小さい場合、これは、最適に実行されていない方法を示す可能性がある。ここで、第1しきい値αは、0.01~0.3の範囲、好ましくは、0.05~0.2の範囲であり、第2しきい値βは、0.4~0.9の範囲、好ましくは、0.5~0.8の範囲である。
【0045】
この状況では、前記方法は、最適に実施されていないことが示されている。前記2次音響反雑音信号は、前記制御位置における1次音響雑音の低減に部分的に寄与する。前記電気誤差信号は、前記2次反雑音信号と部分的に相関する。このような状況は、前記方法の最小化された電気誤差信号を提供しない局部的最小への収束がある場合に発生する可能性がある。
【0046】
前記方法が発散もしくは最適に実行されない場合、前記方法は、ステップサイズの振幅(μ)、ステップサイズの符号(μ)、ステップサイズの位相(μ)および漏れ係数から選択された1以上のフィルタパラメータを変更することを含む。
【0047】
前記ステップサイズ(μ)および漏れ係数の少なくとも1つは、前記平均相関係数の振幅に対して負の依存性を有する補正要素との乗算により変更できる。
【0048】
変更されたステップサイズ(μ)および漏れ係数の少なくとも1つの回復率は、正の変化率として定義できる。前記回復率は、所定の値に制限される場合がある。
【0049】
単一入力単一出力の漏れFXLMSアルゴリズムの場合、前記適応フィルタの係数は、式(6)に従って各時間ステップで更新できる。
【数6】
ここで、ベクトルwおよびx′は、以下のように定義される。
【数7】
【数8】
【0050】
この式では、Lwは、前記フィルタWの長さであり、μは、所謂、ステップサイズであり、(1-λμ)は、所謂、漏れ係数である。前記方法が発散している場合、または、最適に実行されていない場合、ステップサイズの振幅が半分に減少し、漏れ係数が2倍になる可能性がある。前記方法が機能している場合、それらは、初期値に戻ることがある。
【0051】
前記方法が発散している場合、または、最適に実行されていない場合、前記ステップサイズの振幅は、所定の要素により低減されるか、前記少なくとも1つの平均相関係数の値に基づいて、動的に低減できる。前記漏れ係数も同様に減少させることができる。
【0052】
このようなパラメータを変更することは、前記フィルタの前記適応アルゴリズムの動作を向上させ、より最適な解への収束を可能性とする。
【0053】
前記方法が発散している場合、または、最適に実行されていない場合、前記方法は、使用される2次音響経路モデルを、予め測定された2次音響経路モデルの組から選択される2次音響経路モデルに変更することを含むことができる。
【0054】
そのような2次経路モデル/伝達関数は、異なる動作条件において測定または取得できる。
【0055】
前記方法が発散している場合、または、最適に実行されておらず、2以上の音響センサが前記方法に使用されている場合、前記方法は、1以上の音響変換器および/または音響センサをオンオフさせることにより、車室内の音響変換器および/または音響センサの空間分布を変更することを含む。
【0056】
音響変換器および音響センサの分布は、所与の騒音雑音に対して空間的に最適であるとしても、前記騒音雑音が変化したり、前記車室内の条件が変化したりすると、適応できないこともある。そのような場合、音響変換器および音響センサの異なる空間分布を用いることにより、前記システムの性能を向上させることが可能である。
【0057】
あるいは、変換器/センサが、欠陥を有する場合や、前記車室内に置かれた物体に覆われている場合など、適正に機能しない可能性もある。そのような場合には、動作させないことにより、音場をより適切に制御できる可能性がある。
【0058】
前記方法が機能していない場合、または、最適に実行されていない場合、前記方法は、前記方法を停止するステップを含むことができる。
【0059】
前記適応フィルタは、Filtered-x-LMS、leaky-Filtered-x-LMS、Filtered-error-LMSおよびModified-Filtered-x-LMSからなるグループから選択された方法を用いて更新できる。
ここで、LMSは、最小二乗平均を意味する。
【0060】
前記フィルタの前記適応アルゴリズムは、LMS、正規化LMS(NLMS)および再帰最小二乗(RLS)からなるグループから選択されたアルゴリズムであっても良い。
【0061】
前記方法が最適に実行されている場合、動作条件と方法パラメータとをデータベースに登録しても良い。
【0062】
車両の運転条件は、コンパートメントの温度、乗客の数、窓またはサンルーフの開閉などのパラメータであってもよい。方法パラメータは、使用される前記フィルタパラメータ、前記2次経路モデルである。一旦、可能なすべての車両動作パラメータの状態がデータベースにマッピングされると、すなわち、前記方法が自己学習されると、前記方法は、データベースから最適な方法パラメータを自動的に選択する。
【0063】
第2の態様によれば、車室内の1以上の前記制御位置において、1次音響雑音信号のパワーを低減するための能動雑音制御システムが提供される。前記1次音響雑音信号は、雑音源から1次音響経路のそれぞれを介して、それぞれの制御位置へ伝わる音響雑音信号に起因する。前記システムは、前記音響雑音信号を表す基準電気信号と、それぞれの制御位置において、それぞれの音響センサにより検出されるそれぞれの音響信号を表す少なくとも1つの電気誤差信号と、を入力信号とするように配置された適応フィルタを備える。前記適応フィルタは、前記車室内に配置された少なくとも1つの音響変換器に、少なくとも1つの電気制御信号を提供し、伝達するように配置される。前記電気制御信号に応答する、前記少なくとも1つの音響変換器は、それぞれの音響反雑音信号を、前記少なくとも1つの音響変換器と前記それぞれの制御位置との間のそれぞれの二次音響経路を介して提供し、伝達するように配置される。前記それぞれの電気誤差信号を最小化するように、それぞれの2次音響反雑音信号は、前記少なくとも1つの制御位置に到達する。前記システムは、それぞれの2次音響経路モデルからそれぞれのモデル化された2次反雑音信号を提供するように配置された性能監視部をさらに含む。前記性能監視部は、前記それぞれの電気誤差信号と前記それぞれのモデル化された2次反雑音信号との間のそれぞれの平均相関係数を計算し、前記平均相関係数の少なくとも1つを、少なくとも1つの所定のしきい値(α、β)と比較するか、前記少なくとも1つの相関係数の平均値を、少なくとも1つの所定のしきい値と比較する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、性能監視部を備えた能動雑音制御システムを図示する。
【
図2】
図2は、FXLMS適応制御システムに設けられた性能監視部を備えた、
図1の能動雑音制御システムを図示する。
【
図3】
図3は、モデル化された制御信号を測定するために代替的に設けられる、FXLMS適応システムに設けられた性能監視部を備えた、
図1の能動雑音制御システムを図示する。
【
図4】
図4は、性能監視部を伴う能動雑音制御システムを例示するブロック図である。
【
図5】
図5(a)および(b)は、制御信号の時間変化および安定した能動雑音制御システムの平均相関係数を例示する。
【
図6】
図6(a)および(b)は、制御信号の時間変化と、発散した制御信号を伴う発散した能動雑音制御システムの平均相関係数と、を例示する。
【
図7】
図7は、性能監視部がLMSユニットのステップサイズおよび漏れ係数を制御する、
図3の能動雑音制御システムを図示する。
【
図8】
図8は、
図7に示す性能監視部を備えた場合の、発散制御信号を伴う発散した能動雑音制御システムのステップサイズの時間変化を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1~4は、性能監視部を備えた能動雑音制御(ANC)システムを例示し、対応するANC法も示す。そのようなANCシステムは、雑音源から自動車の車室内に放射される騒音雑音を除去または低減するために使用できる。そのような雑音は、エンジンおよび/またはそれに機械的に結合された部品(例えば、ファン)の機械的振動、車両の周りを通過する風、および/または、舗装面などに接触するタイヤによって発生するであろう。
【0066】
車室内において音響雑音信号の抑制が望まれる位置、M箇所の制御位置では、1次音響雑音信号dm(n)のパワーが低減されるべきである。1次音響騒音信号は、雑音源からそれぞれの1次音響経路Pmを介して制御位置に伝達される音響雑音信号から生じる。
【0067】
このシステムは、車室内の制御位置に配置されたマイクロフォンなどのM個の音響センサ、車室内に配置されたスピーカなどのK個の音響変換器、および、デジタルフィルタWを有する適応フィルタを含む。システムで使用されるM個の音響センサとK個の変換器の数は、1~10であってもよい。音響センサにおいて音響パワーを低減するために、音響センサおよび変換器はすべて一緒に使用される。
【0068】
適応フィルタは、音響雑音信号を表す基準電気信号x(n)および電気誤差信号em(n)(m=1、2、3、・・・、M)を入力信号とするように配置される。電気誤差信号em(n)は、制御位置においてそれぞれの音響センサによって検出されるそれぞれの音響信号を表す。基準電気信号は、例えば、エンジン速度、加速度計信号などから決められてもよい。
【0069】
適応フィルタは、Filtered-x-LMS、leaky-Filtered-x-LMS、Filtered-error-LMS、またはModified-Filtered-x-LMSの形式であることができ、車室内に配置された音響変換器へ電気制御信号y’k(n)を提供し、伝達するように配置される。変換器は、電気制御信号y’k(n)に応答して、音響変換器と制御位置との間のそれぞれの2次音響経路Skmを介してそれぞれの音響反雑音信号ym(n)を提供し、伝達するように配置される。音響反雑音信号ym(n)は、それぞれの電気誤差信号em(n)を最小化するように、それぞれの2次音響反雑音信号ym(n)として制御位置に到達する。フィルタWは、既知の適応アルゴリズム、例えば、LMS、NLMS、RLSなどを使用することにより、例えば、最小二乗平均的に電気誤差信号em(n)を低減するために更新される。
【0070】
制御位置において、それぞれの音響センサは、1次音響雑音信号dm(n)およびそれぞれの2次音響反雑音信号ym(n)を含む合成音信号を検出するように配置される。2次音響反雑音信号ym(n)のねらいは、1次音響雑音信号d(n)の逆位相像になることである。2次音響反雑音信号ym(n)が1次音響雑音信号dm(n)と一致する程度により、電気誤差信号em(n)が決定される。1次音響雑音信号と2次音響反雑音信号が空間的にも時間的にも正確に一致する場合、1次雑音信号は、制御位置で完全に除去され、電気誤差信号em(n)はゼロになるであろう。
【0071】
このシステムは、それぞれの2次音響経路をモデル化するフィルタcfSkm(w)、以下、2次音響経路モデルを提供することにより、それぞれのモデル化された2次反雑音信号cfym(n)を提供するように配置された性能監視部を備える。
【0072】
性能監視部は、さらに、それぞれの電気誤差信号em(n)とそれぞれのモデル化された2次反雑音信号cfym(n)との間のそれぞれの平均相関係数γm(n)を計算し、平均相関係数γm(n)の平均値γ(n)を必要に応じて計算するように配置される。
【0073】
したがって、監視部は、それぞれの電気誤差信号em(n)とそれぞれのモデル化された2次反雑音信号cfym(n)との間の相関関係、すなわち、それぞれの信号間の依存の程度をリアルタイムで測定する。
【0074】
モデル化された2次反雑音信号cfym(n)を提供するために用いられる2次音響経路モデルcfSkmは、音響変換器と音響センサの間の伝達関数を表す。これは、所謂、オンライン2次経路モデリング技術を介して測定される、較正ステップにおけるオフライン(騒音となる音響雑音信号がない場合)、または、オンライン(騒音となる音響雑音信号が存在する場合)であっても良い。
【0075】
モデル化された2次反雑音信号cfym(n)を提供することは、電気基準信号が、連続的に、2次音響経路モデルcfSkmを通過し、次に、フィルタWを通過することを含んでもよい。
【0076】
あるいは、モデル化された二次反雑音信号cfym(n)を提供することは、電気基準信号が、連続的に、フィルタWを通過し、次に、2次音響経路モデルcfSkmを通過することを含んでもよい。
【0077】
平均相関係数の値がゼロであることは、電気誤差信号とモデル化された2次反雑音信号が相関していないことを示す。平均相関係数の値が1であることは、信号が完全に相関していることを示す。
平均相関係数γは、例えば、ピアソン相関係数(PCC)として式(1)に定義された相関係数から計算することができる。
【数1】
ここで、「e」は、電気誤差信号、「cfy」は、モデル化された2次反雑音信号である。
平均相関係数は、最新の相関係数r(n)および過去の時間ステップγ(n-1)における平均相関係数の関数から計算できる。相関係数r(n)は、誤差信号e(n)およびモデル化された2次反雑音信号cfy(n)のN個の連続したサンプルから計算され、サンプル数Nは、100~10000の範囲、好ましくは、500~5000の範囲にある。
「r」は、最新の時間ステップnにおいて、式(2)の値を用い、式(3)のように見積もることができる。
【数2】
【数3】
ここで、
【数4】
および「cfy」に対する関連した定義を伴う。Nが大きいほど、相関係数r(n)は、より正確に決定される。一方、Nが小さいほど、信号の時間的変化に対する反応性が高くなる。次に、「r」の値、および、再帰的関係式(5)を用いるその履歴から平均相関係数γを計算する。
【数5】
ここで、η≪1は、平均値γ(n)に対する最新の相関係数rの寄与を決める更新係数である。ηの典型的な値は、0.0001~0.01の範囲にある。φは、φ(x)=|x|
aまたは代替的にφ(x)=x
aの形の関数である。「a」は、正の整数である。「a」は、「r」の小さな変動に対する平均相関関数の感度に影響する。「a」の典型的な値は、1または2である。
【0078】
性能監視部は、平均相関係数γm(n)または代替的にそれらの平均値γ(n)を、第1しきい値αおよび/または第2しきい値βと比較する。通常、αおよびβは、それぞれ0.01~0.3の範囲および0.4~0.9の範囲にあり、代表的な動作条件における初期のトレーニング期間中に、オペレーターにより値の選択がなされる。
【0079】
すべての平均相関係数の振幅が|γm(n)|<α、または代替的に、それらの平均値の振幅が|γ(n)|<αの場合、これは、使用された適応フィルタが最適に機能しているか、もしくは、少なくとも最適に近い状態で機能する最適動作システムを示している。結果として、2次音響反雑音信号y(n)は、制御位置における1次音響雑音d(n)の低減に十分に寄与する。また、電気誤差信号e(n)は、2次反雑音信号y(n)と弱い相関を有するか、まったく相関しない。
【0080】
平均相関係数がγm(n)≧βの場合、または代替的に、平均相関係数の平均値がγ(n)≧βの場合、これは、発散するシステムを示している可能性がある。平均相関係数の振幅がγm(n)≧β、または代替的に、平均相関係数の平均値の振幅がγ(n)≧βの場合、これは発散するシステムを示している可能性がある。使用されるフィルタは適応しておらず、適応フィルタに発散動作がある。また、2次音響反雑音信号y(n)は、制御位置において、1次音響雑音d(n)を相殺するために必要な振幅よりも大きく、電気誤差信号e(n)は、2次音響反雑音信号y(n)と高度に相関する。
【0081】
平均相関係数のすべてまたは一部の振幅がα≦|γm(n)|<β、または代替的に、平均相関係数の平均値がα≦|γ(n)|<βである場合、これは最適でないシステムを示している可能性がある。
【0082】
この時、2次音響反雑音信号は、制御位置において1次音響雑音の低減に部分的に寄与する。電気誤差信号は、2次反雑音信号と部分的に相関する。このような状況は、例えば、最小化された電気誤差信号を提供しない極小値へ収束する場合に発生する可能性がある。
平均相関係数γ(n)としきい値との比較に基づいて、フィルタパラメータを更新し、方法/システムに用いられる変換器および/または音響センサの選択を変更し、2次経路モデルを変更し、方法を終了させ/システムをスイッチオフするなどの異なる方法がとられてもよい。
【0083】
平均相関係数が|γm(n)|≧β、または代替的に、平均相関係数の平均値がγ(n)≧βの場合、ステップサイズμおよび適応アルゴリズムの漏れ係数は、それぞれ、平均相関係数に負の依存性を有する係数μ
corr(n)およびleak
corr(n)により補正される。
図7は、性能監視部がLMSユニットのステップサイズおよび漏れ係数の値を制御するアルゴリズムを示している。
【0084】
μcorr(n)は、μcorr(n)=1-δμγ(n)として表すことができる。leakcorr(n)は、leakcorr(n)=1-δleakγ(n)として表すことができる。δμとδleakの典型的な値は、それぞれ0.99および0.001である。
【0085】
μcorr(n)およびleakcorr(n)の回復率をそれぞれの最大の所定値に制限する追加のステップを実施してもよい。μcorr(n)およびleakcorr(n)は、正の変化率μcorr(n+1)-μcorr(n)およびleakcorr(n+1)-leakcorr(n)として、それぞれ定義される。追加のステップは、ステップサイズや漏れ係数の初期値への回復が早過ぎないように使用することが可能であり、システムが安定化するのに十分な時間を確保できる。回復率の典型的な値は、サンプリング周波数の5分の1であってもよい。
【0086】
図8は、この方法を適用した期間中のステップサイズμの変化を例示している。この例では、0.5秒と6.5秒の間で、性能監視部が発散を繰り返し検出し、発散を防ぐためにステップサイズが縮小されている。6.5~10秒の間、ステップサイズは、制限された回復率で、ゆっくりと初期値に回復している。
【0087】
音響変換器および音響センサの分布は、所与の騒音雑音に対して空間的に最適であっても、騒音雑音が変化するか、車室内の条件が変化すると、適応できないことがある。このような場合、この分布の変更は、システムの性能を向上できる可能性がある。あるいは、変換器/センサは、欠陥があるか、または、車室内に置かれた物体に覆われているなど、正常に機能しない可能性がある。このような場合、変換器/センサを非動作状態にすることが、音場をより適切に制御することがある。
【0088】
図2は、K個の音響変換器およびM個の音響センサを使用する、周知のFiltered-XLMS(FXLMS)ANCシステムに設けられた性能監視部を例示している。LMS適応ユニットは、電気誤差信号em(n)と、2次経路モデルcfS
kmを通過した後の基準信号x(n)から提供されるろ過された基準信号x’
km(n)と、を受信するように配置されている。LMS適応ユニットは、基準信号x(n)を受信し、電気制御信号y’
k(n)を音響変換器に送信するフィルタWを制御する。結果として、2次経路cfS
kmを介して制御位置に2次反雑音信号y
m(n)を生成する。監視部は、誤差信号e
m(n)と、フィルタWのコピーを通過した後のろ過された入力x’
km(n)から取得されるモデル化された2次反雑音信号cfy
mを受信する。
【0089】
図3は、FXLMSシステムにおける性能監視部の別の実装を示している。ここで、モデル化された2次反雑音信号cfy
mは、2次経路モデルcfS
kmを通過した後の電気制御信号y’
m(n)から取得される。
【0090】
図5(a)および(b)には、安定した能動雑音制御システムを例示する。
図5(a)は、反雑音信号y(n)を示し、
図5(b)は、関連した平均相関係数γ(n)を示す。この例では、N=1000、η=0.0002、a=2であり、1次雑音信号d(n)は、時間変化する。γの値は小さいままであり(γ<0.1)、制御は、25000から60000の時間ステップで最適と見なすことができる。
【0091】
図6(a)および(b)には、発散する2次反雑音信号y(n)、
図6(a)、および、関連した平均相関係数γ(n)、
図6(b)、を伴う発散した能動雑音制御システムが例示されている。この例では、N=1000、η=0.0002、a=2であり、システムが安定している限り、平均相関係数γ(n)は比較的低い値になる。約35000の時間ステップ後に、制御信号は発散し始める。y(n)のプロットだけを見ると、約50000の時間ステップの前には、発散は明確に現れない。一方、γ(n)のプロットは、10000ステップ以上前の明らかな発散動作を示している。この例では、βを0.6と定義することにより、発散の始まり近くで、聞き取り可能となる前に、システムの発散を検出し、システムが反応し、パラメータを調整するために十分な時間を残している。
【0092】
図4には、上記の能動雑音制御システムをブロック図として示す。性能監視部は、監視ループにおいて使用され、発散または非最適な動作が検出されたときに、能動雑音制御システムのパラメータを調整する。