(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】フィルム状接着剤、積層シート、複合シート、及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/30 20180101AFI20240117BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20240117BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240117BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240117BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240117BHJP
C09J 161/06 20060101ALI20240117BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240117BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240117BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240117BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J133/04
C09J163/00
C09J11/06
C09J11/04
C09J161/06
B32B27/00 M
B32B27/18 Z
B32B27/30 A
B32B27/38
(21)【出願番号】P 2020563233
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050260
(87)【国際公開番号】W WO2020137934
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018246837
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽輔
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-063551(JP,A)
【文献】特開2015-198120(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109212(WO,A1)
【文献】特開2003-277481(JP,A)
【文献】特開2004-083834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/30
B32B 27/00
B32B 27/18
B32B 27/30
B32B 27/38
C09J 11/04
C09J 11/06
C09J 133/04
C09J 161/06
C09J 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、
充填材(d)、及びリン系酸化防止剤(z)を含有するフィルム状接着剤であって、
前記リン系酸化防止剤(z)は、脂肪族系化合物であり、
前記充填材(d)の平均粒子径が、10~100nmであり、
260℃で加熱する前の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、90%以上であり、
260℃で10分加熱した後の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、85%以上であり、
前記フィルム状接着剤の厚さが10~40μmである、フィルム状接着剤。
【請求項2】
前記エポキシ化合物(b1)が脂肪族系化合物である、請求項1に記載のフィルム状接着剤。
【請求項3】
前記フィルム状接着剤が、さらにフェノール樹脂(b2)を含有し、
前記フィルム状接着剤における、前記フィルム状接着剤の総質量に対する、前記フェノール樹脂(b2)の含有量の割合が、10質量%以下である、請求項1又は2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
前記リン系酸化防止剤(z)が、脂肪族系亜リン酸エステルである、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤。
【請求項5】
前記フィルム状接着剤が、さらに脂肪族系多価イソシアネート架橋剤を含有し、
前記アクリル系樹脂(a)が、前記架橋剤と結合可能な官能基を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤と、前記フィルム状接着剤の一方の面上に設けられた樹脂フィルムと、を備えた、積層シート。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤と、前記フィルム状接着剤の一方の面上に設けられたダイシングシートと、を備えており、
前記ダイシングシートが、基材と、前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層と、を備えており、
前記粘着剤層が、前記基材と前記フィルム状接着剤との間に配置されている、複合シート。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤の一方の面に、チップの回路形成面を貼り合わせ、前記フィルム状接着剤の他方の面に、光透過性カバーを貼り合わせることにより、前記チップと、前記フィルム状接着剤と、前記光透過性カバーと、がこの順に積層されて構成された積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状接着剤、積層シート、複合シート、及び積層体の製造方法に関する。
本願は、2018年12月28日に日本に出願された特願2018-246837号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
電子機器を構成する各種部品の製造又は加工時には、目的に応じて種々のフィルム状接着剤が使用される。
例えば、半導体チップを基板の回路形成面に装着する場合には、半導体チップの裏面にフィルム状接着剤を貼付しておき、このフィルム状接着剤を介して、半導体チップを基板の回路形成面に接着(ダイボンディング)する。また、センサー等のチップの回路形成面を保護する場合には、光透過性を有するフィルム状接着剤を介して、前記回路形成面を光透過性カバーで被覆する。
【0003】
一方で、このようなフィルム状接着剤を備えた部品は、はんだリフロー工程等の加熱工程によって、高温下に晒されることがある。その場合、熱の影響による、フィルム状接着剤の変質が問題となることがある。例えば、光透過性を有するフィルム状接着剤が変色すると、このフィルム状接着剤を介した情報の読み取りが、困難になってしまう。フィルム状接着剤は、接着性を発現するために樹脂成分を含有しており、場合によっては、熱硬化性を付与するために、熱硬化性成分を含有しているが、これらの成分は、熱に対して不安定なものがある。すなわち、従来のフィルム状接着剤は、加熱によって変色し易い。
【0004】
光透過性を有するフィルム状接着剤としては、例えば、半導体チップのダイボンディング用であり、波長1065nmにおける光線透過率が80%以上であるダイボンドフィルムが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には、ダイボンドフィルムの加熱後の色など、加熱後の物性については開示されていない。
【0007】
本発明は、加熱前後で光透過性を有し、加熱後の着色が抑制されるフィルム状接着剤と、前記フィルム状接着剤を用いた積層シート及び複合シートと、前記フィルム状接着剤を用いた積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、及びリン系酸化防止剤(z)を含有するフィルム状接着剤であって、260℃で加熱する前の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、90%以上であり、260℃で10分加熱した後の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、85%以上であり、前記フィルム状接着剤の厚さが10~40μmである、フィルム状接着剤を提供する。
本発明のフィルム状接着剤においては、前記エポキシ化合物(b1)が脂肪族系化合物であってもよい。
本発明のフィルム状接着剤においては、前記フィルム状接着剤が、さらにフェノール樹脂(b2)を含有し、前記フィルム状接着剤における、前記フィルム状接着剤の総質量に対する、前記フェノール樹脂(b2)の含有量の割合が、10質量%以下であってもよい。
【0009】
本発明のフィルム状接着剤においては、前記リン系酸化防止剤(z)が、脂肪族系亜リン酸エステルであってもよい。
本発明のフィルム状接着剤においては、前記フィルム状接着剤が、さらに脂肪族系多価イソシアネート架橋剤を含有し、前記アクリル系樹脂(a)が、前記架橋剤と結合可能な官能基を有していてもよい。
本発明は、前記フィルム状接着剤と、前記フィルム状接着剤の一方の面上に設けられた樹脂フィルムと、を備えた、積層シートを提供する。
本発明は、前記フィルム状接着剤と、前記フィルム状接着剤の一方の面上に設けられたダイシングシートと、を備えており、前記ダイシングシートが、基材と、前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層と、を備えており、前記粘着剤層が、前記基材と前記フィルム状接着剤との間に配置されている、複合シートを提供する。
本発明は、前記フィルム状接着剤の一方の面に、チップの回路形成面を貼り合わせ、前記フィルム状接着剤の他方の面に、光透過性カバーを貼り合わせることにより、前記チップと、前記フィルム状接着剤と、前記光透過性カバーと、がこの順に積層されて構成された積層体を得る、積層体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフィルム状接着剤は、その加熱前後で光透過性を有し、加熱後の着色が抑制される。
本発明のフィルム状接着剤を備えた、本発明の積層シート又は複合シートを用いることにより、前記フィルム状接着剤を、その適用対象である部品に設けることができる。
本発明の積層体の製造方法により、チップと、フィルム状接着剤と、光透過性カバーと、がこの順に積層されて構成された積層体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルム状接着剤及び積層シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る積層シートの他の例を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る複合シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るフィルム状接着剤を用いて製造された積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る複合シートの使用方法の一例を模式的に説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
◇フィルム状接着剤
本発明の一実施形態に係るフィルム状接着剤は、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、及びリン系酸化防止剤(z)を含有するフィルム状接着剤であって、260℃で加熱する前の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光(本明細書においては、「光(400~800nm)」と略記することがある)の直線透過率(本明細書においては、「加熱前直線透過率」と略記することがある)が、90%以上であり、260℃で10分加熱した後の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率(本明細書においては、「加熱後直線透過率」と略記することがある)が、85%以上であり、前記フィルム状接着剤の厚さが10~40μmである。
本実施形態のフィルム状接着剤は、その260℃等での加熱前後において、濁りと着色が抑制され、光(400~800nm)の直線透過率が高い。
【0013】
本実施形態のフィルム状接着剤は、電子機器を構成する各種部品の製造又は加工時に、目的物の接着用に使用できる。
例えば、センサー等のチップの回路形成面を、前記フィルム状接着剤を介して、光透過性カバー(保護カバー)で被覆できる。すなわち、前記フィルム状接着剤は、チップの回路形成面に対してカバーを接着するためのフィルムとして使用できる。
その場合、フィルム状接着剤が上記のように、加熱前後で光透過性が高く、着色が抑制されるため、光透過性カバー及びフィルム状接着剤越しに、チップの回路形成面に存在する視覚情報を安定して高精度に視認可能である。
【0014】
前記光透過性カバー(保護カバー)の被覆対象であるセンサーとしては、例えば、指紋センサーが挙げられる。ただし、これはセンサーの一例である。
【0015】
本明細書においては、基板及びチップの回路が形成されている面を「回路形成面」と称する。
なお、本明細書において、単なる「チップ」との記載は、半導体チップのみを意味するものではなく、半導体チップ以外のチップも含む。
【0016】
本実施形態のフィルム状接着剤は、熱硬化性を有しており、さらに感圧接着性を有することが好ましい。熱硬化性及び感圧接着性をともに有するフィルム状接着剤は、未硬化状態では各種被着体に軽く押圧することで貼付できる。また、フィルム状接着剤は、加熱して軟化させることで各種被着体に貼付できるものであってもよい。フィルム状接着剤は、硬化によって最終的には耐衝撃性が高い硬化物となり、この硬化物は、厳しい高温・高湿度条件下においても十分な接着特性を保持し得る。
【0017】
本実施形態のフィルム状接着剤は、リン系酸化防止剤(z)を含有していることにより、加熱前後における着色が抑制される。
【0018】
260℃で加熱する前の本実施形態のフィルム状接着剤の、光(400~800nm)の直線透過率(すなわち前記加熱前直線透過率)は、90%以上であり、92%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。前記加熱前直線透過率が前記下限値以上であることで、加熱前の前記フィルム状接着剤は、このフィルム状接着剤越しに像を見たときに、像を正しく認識できる性質(本明細書においては、「像認識性」と略記することがある)が高い。
【0019】
光(400~800nm)の前記加熱前直線透過率の上限値は、特に限定されず、100%であってもよい。
例えば、前記加熱前直線透過率が99.8%以下であるフィルム状接着剤は、その製造がより容易である。
【0020】
光(400~800nm)の前記加熱前直線透過率は、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。例えば、一実施形態において、前記加熱前直線透過率は、90~99.8%であることが好ましく、92~99.8%であることがより好ましく、94~99.8%であることがさらに好ましく、95~99.8%であることが特に好ましい。ただし、これらは、前記加熱前直線透過率の一例である。
【0021】
260℃で10分加熱した後の本実施形態のフィルム状接着剤の、光(400~800nm)の直線透過率(すなわち前記加熱後直線透過率)は、85%以上であり、86%以上であることが好ましく、87%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましく、例えば、89%以上、91%以上及び93%以上のいずれかであってもよい。前記加熱後直線透過率が前記下限値以上であることで、加熱後の前記フィルム状接着剤は、その像認識性が高い。
【0022】
光(400~800nm)の前記加熱後直線透過率の上限値は。特に限定されず、100%であってもよい。
例えば、前記加熱後直線透過率が99.8%以下であるフィルム状接着剤は、その製造がより容易である。
【0023】
光(400~800nm)の前記加熱後直線透過率は、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。例えば、一実施形態において、前記加熱後直線透過率は、85~99.8%であることが好ましく、86~99.8%であることがより好ましく、87~99.8%であることがさらに好ましく、88~99.8%であることが特に好ましく、例えば、89~99.8%、91~99.8%、及び93~99.8%のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記加熱後直線透過率の一例である。
【0024】
光(400~800nm)の前記加熱前直線透過率及び加熱後直線透過率は、分光光度計を用いて、公知の方法で測定できる。
【0025】
前記加熱後直線透過率を規定するときの、260℃、10分という前記フィルム状接着剤の加熱条件は、はんだリフロー工程等の加熱工程での条件を考慮して、設定されている。
【0026】
本実施形態のフィルム状接着剤のせん断強度は、特に限定されないが、20N/2mm□以上であることが好ましく、50N/2mm□以上であることがより好ましく、例えば、60N/2mm□以上であってもよい。フィルム状接着剤のせん断強度が前記下限値以上であることで、その貼付対象物に対する接着力が、より強くなる。
なお、本明細書において、単位「N/2mm□」は「N/(2mm×2mm)」と同義である。
【0027】
前記フィルム状接着剤のせん断強度の上限値も、特に限定されない。
例えば、せん断強度が300N/2mm□以下であるフィルム状接着剤は、その製造がより容易である。
【0028】
前記フィルム状接着剤のせん断強度は、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。例えば、一実施形態において、前記せん断強度は、20~300N/2mm□であることが好ましく、50~300N/2mm□であることがより好ましく、例えば、60~300N/2mm□であってもよい。ただし、これらは、前記せん断強度の一例である。
【0029】
本実施形態における、前記フィルム状接着剤のせん断強度は、以下に示す方法で測定されたものである。
(フィルム状接着剤のせん断強度の測定方法)
大きさが2mm×2mmで、厚さが20μmであるフィルム状接着剤と、大きさが30mm×30mmで、厚さが300μmである銅板と、シリコンチップとを用い、前記フィルム状接着剤の、一方の面全面が前記シリコンチップの表面に貼付され、他方の面全面が前記銅板の表面に貼付されて構成された試験片を作製する。この試験片のうち、少なくとも一の側面においては、前記フィルム状接着剤と前記シリコンチップとの側面の位置合わせを行う。
23℃の温度条件下で、前記試験片中の、前記位置合わせを行った側面において、前記フィルム状接着剤と前記シリコンチップの両方に対して、前記フィルム状接着剤の前記他方の面に対して平行な方向に、200μm/sの速度で力を加え、前記フィルム状接着剤が破壊されるまでに加えられていた力の最大値を、前記フィルム状接着剤のせん断強度(N/2mm□)として採用する。
【0030】
前記フィルム状接着剤は1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0031】
なお、本明細書においては、フィルム状接着剤の場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよいし、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0032】
前記フィルム状接着剤の厚さは、10~40μmであり、例えば、10~35μm、10~30μm、及び10~25μmのいずれかであってもよいし、13~40μm、16~40μm、及び19~40μmのいずれかであってもよいし、13~35μm、16~30μm、及び19~25μmのいずれかであってもよい。フィルム状接着剤の厚さが前記下限値以上であることで、フィルム状接着剤の接着対象物に対する接着力がより強くなる。フィルム状接着剤の厚さが前記上限値以下であることで、加熱の有無によらず、フィルム状接着剤の光(例えば、光(400~800nm))の直線透過率が高くなる。
ここで、「フィルム状接着剤の厚さ」とは、フィルム状接着剤全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなるフィルム状接着剤の厚さとは、フィルム状接着剤を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0033】
<<接着剤組成物>>
前記フィルム状接着剤は、その構成材料(すなわち、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、及びリン系酸化防止剤(z))を含有する接着剤組成物を用いて形成できる。例えば、フィルム状接着剤の形成対象面に接着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、目的とする部位にフィルム状接着剤を形成できる。
接着剤組成物中の、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、フィルム状接着剤の前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。なお、本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0034】
接着剤組成物の塗工は、公知の方法で行えばよく、例えば、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター等の各種コーターを用いる方法が挙げられる。
【0035】
接着剤組成物の乾燥条件は、特に限定されないが、接着剤組成物は、後述する溶媒を含有している場合、加熱乾燥させることが好ましい。溶媒を含有する接着剤組成物は、例えば、70~130℃で10秒~5分の条件で乾燥させることが好ましい。
以下、フィルム状接着剤及び接着剤組成物の含有成分について、詳細に説明する。
【0036】
<アクリル系樹脂(a)>
アクリル系樹脂(a)は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上が、重合反応して形成されたとみなせる成分である。
なお、本明細書において「誘導体」とは、特に断りのない限り、元の化合物の1個以上の基がそれ以外の基(置換基)で置換された構造を有するものを意味する。ここで、「基」とは、複数個の原子が結合して構成された原子団だけでなく、1個の原子も包含するものとする。
アクリル系樹脂(a)は、フィルム状接着剤に造膜性や可撓性等を付与すると共に、前記チップ等の接着対象への接着性(貼付性)を向上させるための樹脂成分である。
【0037】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念とする。(メタ)アクリル酸と類似の用語についても同様である。
【0038】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有するアクリル系樹脂(a)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0039】
アクリル系樹脂(a)としては、公知のアクリル重合体が挙げられる。
アクリル系樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)は、10000~2000000であることが好ましく、100000~1500000であることがより好ましい。アクリル系樹脂(a)の重量平均分子量がこのような範囲内であることで、フィルム状接着剤と被着体との間の接着力を好ましい範囲に調節することが容易となる。
一方、アクリル系樹脂(a)の重量平均分子量が前記下限値以上であることで、フィルム状接着剤の形状安定性(保管時の経時安定性)が向上する。また、アクリル系樹脂(a)の重量平均分子量が前記上限値以下であることで、被着体の凹凸面へフィルム状接着剤が追従し易くなり、被着体とフィルム状接着剤との間でボイド等の発生がより抑制される。
なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。
【0040】
アクリル系樹脂(a)のガラス転移温度(Tg)は、-60~70℃であることが好ましく、-30~50℃であることがより好ましい。アクリル系樹脂(a)のTgが前記下限値以上であることで、フィルム状接着剤と被着体との間の接着力が抑制されて、ピックアップ時において、フィルム状接着剤を備えた前記チップの、後述するダイシングシートからの引き離しがより容易となる。アクリル系樹脂(a)のTgが前記上限値以下であることで、フィルム状接着剤と被着体との間の接着力が向上する。
【0041】
アクリル系樹脂(a)を構成する前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル((メタ)アクリル酸ラウリル)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル((メタ)アクリル酸ミリスチル)、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル((メタ)アクリル酸パルミチル)、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル((メタ)アクリル酸ステアリル)等の、アルキルエステルを構成するアルキル基が、炭素数が1~18の鎖状構造である(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;
(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;
(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルエステル等の(メタ)アクリル酸シクロアルケニルエステル;
(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチルエステル等の(メタ)アクリル酸シクロアルケニルオキシアルキルエステル;
(メタ)アクリル酸イミド;
(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸N-メチルアミノエチル等の置換アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。ここで、「置換アミノ基」とは、アミノ基の1個又は2個の水素原子が水素原子以外の基で置換された構造を有する基を意味する。
【0042】
アクリル系樹脂(a)は、例えば、前記(メタ)アクリル酸エステル以外に、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン及びN-メチロールアクリルアミド等から選択される1種又は2種以上のモノマーが共重合して得られた樹脂であってもよい。
【0043】
アクリル系樹脂(a)を構成するモノマーは、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0044】
アクリル系樹脂(a)は、上述の水酸基以外に、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基等の他の化合物と結合可能な官能基を有していてもよい。アクリル系樹脂(a)の水酸基をはじめとするこれら官能基は、後述する架橋剤(f)を介して他の化合物と結合してもよいし、架橋剤(f)を介さずに他の化合物と直接結合していてもよい。アクリル系樹脂(a)が前記官能基により他の化合物と結合することで、フィルム状接着剤を用いて得られたパッケージの信頼性が向上する傾向がある。
【0045】
アクリル系樹脂(a)で好ましいものとしては、例えば、後述する架橋剤(f)と結合可能な官能基を有するものが挙げられる。
【0046】
接着剤組成物において、溶媒以外の全ての成分の総含有量に対するアクリル系樹脂(a)の含有量の割合(すなわち、フィルム状接着剤における、フィルム状接着剤の総質量に対する、アクリル系樹脂(a)の含有量の割合)は、10~90質量%であることが好ましく、15~70質量%であることがより好ましく、20~65質量%であることがさらに好ましく、例えば、30~65質量%であってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、フィルム状接着剤の構造がより安定化する。前記割合が前記上限値以下であることで、エポキシ化合物(b1)及びリン系酸化防止剤(z)等の、アクリル系樹脂(a)以外の成分の使用量を増やすことが容易となり、アクリル系樹脂(a)以外の成分を用いたことによる効果が、より容易に得られる。
【0047】
<エポキシ化合物(b1)>
エポキシ化合物(b1)は、樹脂成分及び非樹脂成分のいずれであってもよい。
エポキシ化合物(b1)としては、公知のものが挙げられ、例えば、多官能系エポキシ樹脂、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂、トリアジン型脂環式エポキシ化合物等、2官能以上のエポキシ化合物が挙げられる。
【0048】
エポキシ化合物(b1)としては、不飽和炭化水素基を有するエポキシ化合物を用いてもよい。不飽和炭化水素基を有するエポキシ化合物は、不飽和炭化水素基を有しないエポキシ化合物よりも、アクリル系樹脂(a)との相溶性が高い。そのため、不飽和炭化水素基を有するエポキシ化合物(b1)を用いることで、フィルム状接着剤を用いて得られたパッケージの信頼性が向上する。
【0049】
不飽和炭化水素基を有するエポキシ化合物(b1)としては、例えば、多官能系エポキシ化合物のエポキシ基の一部が不飽和炭化水素基を有する基に変換された構造を有する化合物が挙げられる。このような化合物は、例えば、エポキシ基へ(メタ)アクリル酸又はその誘導体を付加反応させることにより得られる。
【0050】
また、不飽和炭化水素基を有するエポキシ化合物(b1)としては、例えば、エポキシ化合物を構成する芳香環等に、不飽和炭化水素基を有する基が直接結合した化合物等が挙げられる。
不飽和炭化水素基は、重合性を有する不飽和基であり、その具体的な例としては、エテニル基(ビニル基)、2-プロペニル基(アリル基)、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられ、アクリロイル基が好ましい。
【0051】
樹脂成分であるエポキシ化合物(b1)(換言するとエポキシ樹脂(b1))の数平均分子量は、特に限定されないが、フィルム状接着剤の硬化性、並びにフィルム状接着剤の硬化物の強度及び耐熱性の点から、300~30000であることが好ましく、400~10000であることがより好ましく、500~3000であることが特に好ましい。
エポキシ化合物(b1)のエポキシ当量は、100~1000g/eqであることが好ましく、120~600g/eqであることがより好ましい。
【0052】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有するエポキシ化合物(b1)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0053】
エポキシ化合物(b1)は、脂肪族系化合物であることが好ましい。
本明細書において、「脂肪族系化合物」とは、脂肪族基を有し、かつ芳香族基を有しない化合物を意味する。また、「脂肪族基」には、鎖状脂肪族基及び脂肪族環式基(別名:脂環式基)が含まれる。また、「芳香族基」には、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環式基が含まれる。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、エポキシ化合物(b1)として、脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、芳香族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0054】
エポキシ化合物(b1)は、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)、シアノ基(-C≡N)及び芳香族基からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、エポキシ化合物(b1)として、これら結合又は基を有しないものを含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しないもののみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有するものを含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0055】
エポキシ化合物(b1)は、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)及びシアノ基(-C≡N)からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、エポキシ化合物(b1)として、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有する脂肪族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0056】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤において、エポキシ化合物(b1)の含有量は、アクリル系樹脂(a)の含有量100質量部に対して、5~500質量部であることが好ましく、例えば、5~200質量部、5~150質量部、5~110質量部、及び5~100質量部のいずれかであってもよい。エポキシ化合物(b1)の前記含有量がこのような範囲であることで、フィルム状接着剤と、後述する樹脂フィルム又はダイシングシートと、の間の接着力を調節することがより容易となる。
【0057】
<リン系酸化防止剤(z)>
リン系酸化防止剤(z)は、その構成原子としてリン原子を有し、酸化防止作用を有するものであれば、特に限定されない。
リン系酸化防止剤(z)としては、例えば、リンの酸化数が3である化合物が挙げられる。
【0058】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有するリン系酸化防止剤(z)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0059】
リン系酸化防止剤(z)は、脂肪族系化合物であることが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、リン系酸化防止剤(z)として、脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、芳香族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0060】
リン系酸化防止剤(z)は、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)、シアノ基(-C≡N)及び芳香族基からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、リン系酸化防止剤(z)として、これら結合又は基を有しないものを含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しないもののみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有するものを含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0061】
リン系酸化防止剤(z)は、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)及びシアノ基(-C≡N)からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、リン系酸化防止剤(z)として、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有する脂肪族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0062】
リン系酸化防止剤(z)は、酸化防止作用を安定して示す点で、亜リン酸エステルであることが好ましい。
なかでも、リン系酸化防止剤(z)は、脂肪族系亜リン酸エステルであることがより好ましく、脂肪族系亜リン酸トリアルキルエステルであることがさらに好ましい。
【0063】
脂肪族系亜リン酸トリアルキルエステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト((C2H5O)3P)、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト((CH3CH2CH2CH2CH(CH2CH3)CH2O)3P)、トリデシルホスファイト((C10H21O)3P)、トリラウリルホスファイト((C12H25O)3P)、トリス(トリデシル)ホスファイト((C13H27O)3P)、トリステアリルホスファイト((C18H37O)3P)、ビス(デシル)ペンタエリスリトールジホスファイト(C10H21OP(OCH2)2C(CH2O)2POC10H21)、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト(C13H27OP(OCH2)2C(CH2O)2POC13H27)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(C18H37OP(OCH2)2C(CH2O)2POC18H37)、水添ビスフェノールA-ペンタエリスリトールホスファイトポリマー(式「-(OC6H12C(CH3)2C6H12OP(OCH2)2C(CH2O)2P)-」で表される繰り返し単位を有するポリマー)等が挙げられる。
【0064】
接着剤組成物において、溶媒以外の全ての成分の総含有量に対する、リン系酸化防止剤(z)の含有量の割合(すなわち、フィルム状接着剤における、フィルム状接着剤の総質量に対する、リン系酸化防止剤(z)の含有量の割合)は、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~3質量%であることがより好ましく、0.3~1.5質量%であることがさらに好ましく、例えば、0.3~1質量%であってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、リン系酸化防止剤(z)を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。前記割合が前記上限値以下であることで、リン系酸化防止剤(z)の過剰使用が抑制される。
【0065】
前記フィルム状接着剤は、その各種物性を改良するために、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、及びリン系酸化防止剤(z)以外に、さらに必要に応じて、これらのいずれにも該当しない他の成分を含有していてもよい。
前記フィルム状接着剤が含有する他の成分としては、例えば、フェノール樹脂(b2)、硬化促進剤(c)、充填材(d)、カップリング剤(e)、架橋剤(f)、エネルギー線硬化性樹脂(g)、光重合開始剤(h)、リン系酸化防止剤(z)以外の酸化防止剤(y)(本明細書においては、「他の酸化防止剤(y)」と略記することがある)、アクリル系樹脂(a)以外の熱可塑性樹脂(x)(本明細書においては、「熱可塑性樹脂(x)」と略記することがある)、汎用添加剤(i)等が挙げられる。
【0066】
<フェノール樹脂(b2)>
フェノール樹脂(b2)は、エポキシ化合物(b1)に対する熱硬化剤として機能する。
本実施形態において、エポキシ化合物(b1)及びフェノール樹脂(b2)を併用する場合、これらの組み合わせは、エポキシ系熱硬化性樹脂として機能する。本実施形態においては、このようなエポキシ系熱硬化性樹脂を「エポキシ系熱硬化性樹脂(b)」と称することがある。
【0067】
フェノール樹脂(b2)は、エポキシ基と反応し得る官能基として、フェノール性水酸基を1分子中に2個以上有するものであればよい。
【0068】
フェノール樹脂(b2)としては、例えば、多官能フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0069】
フェノール樹脂(b2)は、不飽和炭化水素基を有していてもよい。
不飽和炭化水素基を有する他のフェノール樹脂(b2)としては、例えば、フェノール樹脂の水酸基の一部が、不飽和炭化水素基を有する基で置換された構造を有する化合物、フェノール樹脂の芳香環に、不飽和炭化水素基を有する基が直接結合した構造を有する化合物等が挙げられる。
フェノール樹脂(b2)における前記不飽和炭化水素基は、上述の不飽和炭化水素基を有するエポキシ化合物における不飽和炭化水素基と同様である。
【0070】
フェノール樹脂(b2)は、フィルム状接着剤の接着力を調節することが容易となる点から、軟化点又はガラス転移温度が高いものが好ましい。
【0071】
フェノール樹脂(b2)の数平均分子量は、300~30000であることが好ましく、400~10000であることがより好ましく、500~3000であることが特に好ましい。
【0072】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有するフェノール樹脂(b2)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0073】
フェノール樹脂(b2)を用いる場合、接着剤組成物において、溶媒以外の全ての成分の総含有量に対する、フェノール樹脂(b2)の含有量の割合(すなわち、フィルム状接着剤における、フィルム状接着剤の総質量に対する、フェノール樹脂(b2)の含有量の割合)は、特に限定されないが、10質量%以下であることが好ましく、7.5質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。前記割合が前記上限値以下であることで、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなる。
【0074】
フェノール樹脂(b2)を用いる場合、接着剤組成物において、溶媒以外の全ての成分の総含有量に対する、フェノール樹脂(b2)の含有量の割合(すなわち、フィルム状接着剤における、フィルム状接着剤の総質量に対する、フェノール樹脂(b2)の含有量の割合)の下限値は、特に限定されない。
例えば、フェノール樹脂(b2)を用いたことによる効果が、より顕著に得られる点では、前記割合は、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0075】
フェノール樹脂(b2)を用いる場合、前記割合は、上述の下限値と、いずれかの上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。例えば、一実施形態において、前記割合は、0.5~10質量%であることが好ましく、0.5~7.5質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることがさらに好ましい。
【0076】
フェノール樹脂(b2)を用いる場合、接着剤組成物及びフィルム状接着剤において、フェノール樹脂(b2)の含有量は、エポキシ化合物(b1)の含有量100質量部に対して、例えば、3~30質量部、3~25質量部、及び3~20質量部のいずれかであってもよいし、5~30質量部、10~30質量部、及び15~30質量部のいずれかであってもよいし、5~25質量部、及び10~20質量部のいずれかであってもよい。
【0077】
<硬化促進剤(c)>
硬化促進剤(c)は、接着剤組成物及びフィルム状接着剤の硬化速度を調節するための成分である。
好ましい硬化促進剤(c)としては、例えば、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3級アミン;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類(1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換されたイミダゾール);トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類(1個以上の水素原子が有機基で置換されたホスフィン);テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩;前記イミダゾール類をゲスト化合物とする包接化合物等が挙げられる。
【0078】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有する硬化促進剤(c)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0079】
硬化促進剤(c)を用いる場合、接着剤組成物及びフィルム状接着剤において、硬化促進剤(c)の含有量は、エポキシ化合物(b1)及びフェノール樹脂(b2)の総含有量100質量部に対して、0.01~7質量部であることが好ましく、0.1~4質量部であることがより好ましい。硬化促進剤(c)の前記含有量が前記下限値以上であることで、硬化促進剤(c)を用いたことによる効果がより顕著に得られる。硬化促進剤(c)の含有量が前記上限値以下であることで、例えば、高極性の硬化促進剤(c)が、高温・高湿度条件下でフィルム状接着剤中において被着体との接着界面側に移動して偏析することを抑制する効果が高くなり、フィルム状接着剤を用いて得られたパッケージの信頼性がより向上する。なお、フェノール樹脂(b2)を用いない場合には、エポキシ化合物(b1)及びフェノール樹脂(b2)の総含有量は、エポキシ化合物(b1)の含有量を意味する。
【0080】
<充填材(d)>
フィルム状接着剤は、充填材(d)を含有することにより、その熱膨張係数の調整が容易となり、この熱膨張係数をフィルム状接着剤の貼付対象物に対して最適化することで、フィルム状接着剤を用いて得られたパッケージの信頼性がより向上する。また、フィルム状接着剤が充填材(d)を含有することにより、フィルム状接着剤の硬化物の吸湿率を低減したり、放熱性を向上させたりすることもできる。
【0081】
充填材(d)は、有機充填材及び無機充填材のいずれであってもよいが、無機充填材であることが好ましい。
好ましい無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等の粉末;これら無機充填材を球形化したビーズ;これら無機充填材の表面改質品;これら無機充填材の単結晶繊維;ガラス繊維等が挙げられる。
これらの中でも、無機充填材は、シリカ又はその表面改質品であることが好ましい。
【0082】
充填材(d)の平均粒子径は、特に限定されないが、10~100nmであることが好ましく、10~80nmであることがより好ましく、10~60nmであることがさらに好ましい。充填材(d)の平均粒子径が前記上限値以下であることで、前記フィルム状接着剤の濁りが高度に抑制され、前記フィルム状接着剤の、光(400~800nm)の前記加熱前直線透過率及び加熱後直線透過率が向上し、その結果、加熱前及び加熱後の前記フィルム状接着剤の像認識性がより高くなる。充填材(d)の平均粒子径が前記下限値以上であることで、充填材(d)を用いたことによる効果がより顕著に得られる。
なお、本明細書において「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、レーザー回折散乱法によって求められた粒度分布曲線における、積算値50%での粒子径(D50)の値を意味する。
【0083】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有する充填材(d)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0084】
充填材(d)を用いる場合、接着剤組成物において、溶媒以外の全ての成分の総含有量に対する充填材(d)の含有量の割合(すなわち、フィルム状接着剤における、フィルム状接着剤の総質量に対する、充填材(d)の含有量の割合)は、7.5~50質量%であることが好ましく、10~45質量%であることがより好ましく、12.5~40質量%であることが特に好ましい。充填材(d)の含有量がこのような範囲であることで、上記の熱膨張係数の調整がより容易となる。
【0085】
<カップリング剤(e)>
フィルム状接着剤は、カップリング剤(e)を含有することにより、被着体に対する接着性及び密着性が向上する。また、フィルム状接着剤がカップリング剤(e)を含有することにより、その硬化物は耐熱性を損なうことなく、耐水性が向上する。カップリング剤(e)は、無機化合物又は有機化合物と反応可能な官能基を有する。
【0086】
カップリング剤(e)は、アクリル系樹脂(a)、エポキシ系熱硬化性樹脂(b)等が有する官能基と反応可能な官能基を有する化合物であることが好ましく、シランカップリング剤であることがより好ましい。
好ましい前記シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジエトキシシラン、3-(フェニルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-アニリノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシラン、オリゴマー型又はポリマー型オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0087】
カップリング剤(e)は、脂肪族系化合物であることが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、カップリング剤(e)として、脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、芳香族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0088】
カップリング剤(e)は、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)、シアノ基(-C≡N)及び芳香族基からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、カップリング剤(e)として、これら結合又は基を有しないものを含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しないもののみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有するものを含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0089】
カップリング剤(e)は、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)及びシアノ基(-C≡N)からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、カップリング剤(e)として、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有する脂肪族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0090】
カップリング剤(e)のうち、脂肪族系化合物(脂肪族系カップリング剤)として、より具体的には、例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、オリゴマー型又はポリマー型オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0091】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有するカップリング剤(e)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0092】
カップリング剤(e)を用いる場合、接着剤組成物及びフィルム状接着剤において、カップリング剤(e)の含有量は、アクリル系樹脂(a)及びエポキシ系熱硬化性樹脂(b)の総含有量100質量部に対して、0.03~20質量部であることが好ましく、0.05~10質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることが特に好ましい。カップリング剤(e)の前記含有量が前記下限値以上であることで、充填材(d)の樹脂への分散性の向上や、フィルム状接着剤の被着体との接着性の向上など、カップリング剤(e)を用いたことによる効果がより顕著に得られる。カップリング剤(e)の前記含有量が前記上限値以下であることで、アウトガスの発生がより抑制される。
【0093】
<架橋剤(f)>
アクリル系樹脂(a)として、上述の他の化合物と結合可能なビニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、イソシアネート基等の官能基を有するものを用いる場合、接着剤組成物及びフィルム状接着剤は、前記官能基を他の化合物と結合させて架橋するための架橋剤(f)を含有していてもよい。架橋剤(f)を用いて架橋することにより、フィルム状接着剤の初期接着力及び凝集力を調節できる。
【0094】
架橋剤(f)としては、例えば、有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物、金属キレート系架橋剤(金属キレート構造を有する架橋剤)、アジリジン系架橋剤(アジリジニル基を有する架橋剤)等が挙げられる。
【0095】
前記有機多価イソシアネート化合物としては、例えば、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物及び脂環族多価イソシアネート化合物(以下、これら化合物をまとめて「芳香族多価イソシアネート化合物等」と略記することがある);前記芳香族多価イソシアネート化合物等の三量体、イソシアヌレート体及びアダクト体;前記芳香族多価イソシアネート化合物等とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。前記「アダクト体」は、前記芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物又は脂環族多価イソシアネート化合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン又はヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物を意味する。前記アダクト体の例としては、後述するようなトリメチロールプロパンのキシリレンジイソシアネート付加物、トリメチロールプロパンのイソホロンジイソシアネート付加物、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物、トリメチロールプロパンのヘキサメチレンジイソシアネート付加物等が挙げられる。また、「末端イソシアネートウレタンプレポリマー」とは、ウレタン結合を有するとともに、分子の末端部にイソシアネート基を有するプレポリマーを意味する。
【0096】
前記有機多価イソシアネート化合物として、より具体的には、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート;2,6-トリレンジイソシアネート;1,3-キシリレンジイソシアネート;1,4-キシリレンジイソシアネート;ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート;ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート;3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート;トリメチロールプロパン等のポリオールのすべて又は一部の水酸基に、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネートのいずれか1種又は2種以上が付加した化合物;リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0097】
前記有機多価イミン化合物としては、例えば、N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、N,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等が挙げられる。
【0098】
架橋剤(f)として有機多価イソシアネート化合物を用いる場合、アクリル系樹脂(a)としては、水酸基含有重合体を用いることが好ましい。架橋剤(f)がイソシアネート基を有し、アクリル系樹脂(a)が水酸基を有する場合、架橋剤(f)とアクリル系樹脂(a)との反応によって、フィルム状接着剤に架橋構造を簡便に導入できる。
【0099】
架橋剤(f)は、脂肪族系化合物であることが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、架橋剤(f)として、脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、芳香族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0100】
架橋剤(f)は、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)、シアノ基(-C≡N)及び芳香族基からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、架橋剤(f)として、これら結合又は基を有しないものを含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しないもののみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有するものを含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0101】
架橋剤(f)は、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)及びシアノ基(-C≡N)からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、架橋剤(f)として、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有する脂肪族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0102】
架橋剤(f)は、上記の着色の抑制効果が特に高く、かつ架橋剤として優れた特性を有する点では、脂肪族系有機多価イソシアネート化合物(脂肪族系多価イソシアネート架橋剤)であることが好ましい。
前記脂肪族系多価イソシアネート架橋剤として、より具体的には、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート;2,6-トリレンジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート;トリメチロールプロパン等のポリオールのすべて又は一部の水酸基に、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートのいずれか1種又は2種以上が付加した化合物;リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0103】
前記フィルム状接着剤は、アクリル系樹脂(a)及び架橋剤(f)に着目した場合、上記の着色の抑制効果が特に高く、かつ優れた特性を有する点では、架橋剤(f)として、前記脂肪族系多価イソシアネート架橋剤を含有し、かつ、アクリル系樹脂(a)として、前記脂肪族系多価イソシアネート架橋剤と結合可能な官能基を有するものを含有していることが好ましい。
【0104】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有する架橋剤(f)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0105】
架橋剤(f)を用いる場合、接着剤組成物及びフィルム状接着剤において、架橋剤(f)の含有量は、アクリル系樹脂(a)の含有量100質量部に対して、0.3~12質量部であることが好ましく、0.3~3.5質量部であることがより好ましく、0.3~2質量部であることがさらに好ましい。架橋剤(f)の前記含有量が前記下限値以上であることで、架橋剤(f)を用いたことによる効果がより顕著に得られる。また、架橋剤(f)の前記含有量が前記上限値以下であることで、架橋剤(f)の過剰使用が抑制される。
【0106】
<エネルギー線硬化性樹脂(g)>
接着剤組成物及びフィルム状接着剤は、エネルギー線硬化性樹脂(g)を含有していてもよい。フィルム状接着剤は、エネルギー線硬化性樹脂(g)を含有していることにより、エネルギー線の照射によって特性を変化させることができる。
【0107】
本明細書において、「エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味し、その例として、紫外線、放射線、電子線等が挙げられる。
紫外線は、例えば、紫外線源として高圧水銀ランプ、ヒュージョンランプ、キセノンランプ、ブラックライト又はLEDランプ等を用いることで照射できる。電子線は、電子線加速器等によって発生させたものを照射できる。
本明細書において、「エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射することにより硬化する性質を意味し、「非エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射しても硬化しない性質を意味する。
【0108】
エネルギー線硬化性樹脂(g)は、エネルギー線硬化性化合物を重合(硬化)して得られたものである。
前記エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、分子内に少なくとも1個の重合性二重結合を有する化合物が挙げられ、(メタ)アクリロイル基を有するアクリレート系化合物が好ましい。
【0109】
前記アクリレート系化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の鎖状脂肪族骨格含有(メタ)アクリレート;ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート等の環状脂肪族骨格含有(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;オリゴエステル(メタ)アクリレート;ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー;エポキシ変性(メタ)アクリレート;前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート以外のポリエーテル(メタ)アクリレート;イタコン酸オリゴマー等が挙げられる。
【0110】
エネルギー線硬化性樹脂(g)の重量平均分子量は、100~30000であることが好ましく、300~10000であることがより好ましい。
【0111】
接着剤組成物が含有するエネルギー線硬化性樹脂(g)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0112】
エネルギー線硬化性樹脂(g)を用いる場合、接着剤組成物において、接着剤組成物の総質量に対する、エネルギー線硬化性樹脂(g)の含有量の割合は、1~95質量%であることが好ましく、5~90質量%であることがより好ましく、10~85質量%であることが特に好ましい。
【0113】
<光重合開始剤(h)>
接着剤組成物及びフィルム状接着剤は、エネルギー線硬化性樹脂(g)を含有する場合、エネルギー線硬化性樹脂(g)の重合反応を効率よく進めるために、光重合開始剤(h)を含有していてもよい。
【0114】
前記光重合開始剤(h)としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール等のベンゾイン化合物;アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のアセトフェノン化合物;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド化合物;ベンジルフェニルスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のスルフィド化合物;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα-ケトール化合物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;チタノセン等のチタノセン化合物;チオキサントン等のチオキサントン化合物;パーオキサイド化合物;ジアセチル等のジケトン化合物;ベンジル;ジベンジル;ベンゾフェノン;2,4-ジエチルチオキサントン;1,2-ジフェニルメタン;2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン;1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン等のキノン化合物等が挙げられる。
また、光重合開始剤(h)としては、例えば、アミン等の光増感剤等も挙げられる。
【0115】
光重合開始剤(h)は、脂肪族系化合物であることが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、光重合開始剤(h)として、脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、芳香族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0116】
光重合開始剤(h)は、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)、シアノ基(-C≡N)及び芳香族基からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、光重合開始剤(h)として、これら結合又は基を有しないものを含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しないもののみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有するものを含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0117】
光重合開始剤(h)は、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)及びシアノ基(-C≡N)からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、光重合開始剤(h)として、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有する脂肪族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0118】
光重合開始剤(h)のうち、脂肪族系化合物(脂肪族系光重合開始剤)として、より具体的には、例えば、アシルフォスフィンオキサイド化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド等のスルフィド化合物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;パーオキサイド化合物;ジアセチル等のジケトン化合物;アミン等の光増感剤等が挙げられる。
ここで例示した化合物のうち、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)及びシアノ基(-C≡N)からなる群から選択される1種又は2種以上を有しない光重合開始剤(h)としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル以外の化合物が挙げられる。
【0119】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有する光重合開始剤(h)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0120】
光重合開始剤(h)を用いる場合、接着剤組成物において、光重合開始剤(h)の含有量は、エネルギー線硬化性樹脂(g)の含有量100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましく、2~5質量部であることが特に好ましい。
【0121】
<他の酸化防止剤(y)>
前記接着剤組成物及びフィルム状接着剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記他の酸化防止剤(y)を含有していてもよい。
他の酸化防止剤(y)は、リン系酸化防止剤(z)以外の酸化防止剤であれば、特に限定されず、有機化合物及び無機化合物のいずれであってもよい。
【0122】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有する他の酸化防止剤(y)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0123】
他の酸化防止剤(y)を用いる場合、接着剤組成物及びフィルム状接着剤において、他の酸化防止剤(y)の含有量は、リン系酸化防止剤(z)の含有量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。他の酸化防止剤(y)の前記含有量が前記上限値以下であることで、前記フィルム状接着剤の加熱前後における着色が、より抑制される。
【0124】
前記接着剤組成物及びフィルム状接着剤は、他の酸化防止剤(y)を含有しないことが好ましい。
【0125】
<熱可塑性樹脂(x)>
前記接着剤組成物及びフィルム状接着剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記熱可塑性樹脂(x)を含有していてもよい。
熱可塑性樹脂(x)を用いることで、例えば、ピックアップ時において、フィルム状接着剤を備えた前記チップの、後述するダイシングシートからの引き離しがより容易となったり、被着体の凹凸面へフィルム状接着剤が追従し易くなり、被着体とフィルム状接着剤との間でボイド等の発生がより抑制されることがある。
【0126】
熱可塑性樹脂(x)は、アクリル系樹脂(a)以外の熱可塑性樹脂であれば、特に限定されない。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、フェノキシ樹脂、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリスチレン等が挙げられる。
【0127】
熱可塑性樹脂(x)の重量平均分子量は1000~100000であることが好ましく、3000~80000であることがより好ましい。
【0128】
熱可塑性樹脂(x)のガラス転移温度(Tg)は、-30~150℃であることが好ましく、-20~120℃であることがより好ましい。
【0129】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有する熱可塑性樹脂(x)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0130】
熱可塑性樹脂(x)を用いる場合、接着剤組成物及びフィルム状接着剤において、熱可塑性樹脂(x)の含有量は、アクリル系樹脂(a)の含有量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(x)の前記含有量が前記上限値以下であることで、アクリル系樹脂(a)を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。
【0131】
前記接着剤組成物及びフィルム状接着剤は、熱可塑性樹脂(x)を含有しないことが好ましい。
【0132】
<汎用添加剤(i)>
汎用添加剤(i)は、公知のものでよく、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。好ましい汎用添加剤(I)としては、例えば、可塑剤、帯電防止剤、着色剤(染料、顔料)、ゲッタリング剤等が挙げられる。
【0133】
汎用添加剤(i)が有機化合物である場合、このような汎用添加剤(i)(本明細書においては、「有機汎用添加剤」と略記する)は、脂肪族系化合物であることが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、有機汎用添加剤として、脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、芳香族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0134】
有機汎用添加剤は、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)、シアノ基(-C≡N)及び芳香族基からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、有機汎用添加剤として、これら結合又は基を有しないものを含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しないもののみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有するものを含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0135】
有機汎用添加剤は、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合(C≡C)、炭素原子間の二重結合(C=C)及びシアノ基(-C≡N)からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないことが好ましい。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が、有機汎用添加剤として、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物を含有することにより、フィルム状接着剤の加熱(例えば、260℃での加熱)後の着色の抑制効果がより高くなり、これら結合又は基を有しない脂肪族系化合物のみを含有する(換言すると、これら結合又は基を有する脂肪族系化合物を含有しない)ことにより、上記の着色の抑制効果が顕著に高くなる。
【0136】
接着剤組成物及びフィルム状接着剤が含有する汎用添加剤(i)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
接着剤組成物及びフィルム状接着剤の汎用添加剤(i)の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0137】
<溶媒>
接着剤組成物は、さらに溶媒を含有することが好ましい。溶媒を含有する接着剤組成物は、取り扱い性が良好となる。
前記溶媒は特に限定されないが、好ましいものとしては、例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソブチルアルコール(2-メチルプロパン-1-オール)、1-ブタノール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド(アミド結合を有する化合物)等が挙げられる。
接着剤組成物が含有する溶媒は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0138】
接着剤組成物が含有する溶媒は、接着剤組成物中の含有成分をより均一に混合できる点から、メチルエチルケトン等であることが好ましい。
【0139】
<<接着剤組成物の製造方法>>
接着剤組成物は、これを構成するための各成分を配合することで得られる。
各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
溶媒を用いる場合には、溶媒を溶媒以外のいずれかの配合成分と混合してこの配合成分を予め希釈しておくことで用いてもよいし、溶媒以外のいずれかの配合成分を予め希釈しておくことなく、溶媒をこれら配合成分と混合することで用いてもよい。
【0140】
配合時に各成分を混合する方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサーを用いて混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
各成分の添加及び混合時の温度並びに時間は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、適宜調節すればよいが、温度は15~30℃であることが好ましい。
【0141】
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルム状接着剤を模式的に示す断面図である。なお、以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0142】
ここに示すフィルム状接着剤13は、その一方の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)13a上に第1剥離フィルム151を備え、前記第1面13aとは反対側の他方の面(本明細書においては、「第2面」と称することがある)13b上に第2剥離フィルム152を備えている。ここでは、このように、第1剥離フィルム151、フィルム状接着剤13及び第2剥離フィルム152がこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成されている積層シートに、符号109を付している。
このようなフィルム状接着剤13(積層シート109)は、例えば、ロール状として保存するのに好適である。
【0143】
フィルム状接着剤13は、上述の光透過性を有する。
フィルム状接着剤13の厚さは、10~40μmである。
フィルム状接着剤13は、上述の接着剤組成物を用いて形成できる。
【0144】
第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152は、いずれも公知のものでよい。
第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152は、互いに同じものであってもよいし、例えば、フィルム状接着剤13から剥離させるときに必要な剥離力が互いに異なるなど、互いに異なるものであってもよい。
【0145】
図1に示すフィルム状接着剤13は、第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152のいずれか一方が取り除かれ、生じた露出面が、その貼付対象物への貼付面となる。ここで、貼付対象物としては、例えば、前記チップ等が挙げられる。フィルム状接着剤13の貼付面は、前記チップの場合にはその回路形成面となる。
【0146】
好ましい前記フィルム状接着剤の一実施形態としては、例えば、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、及びリン系酸化防止剤(z)を含有するフィルム状接着剤であって、260℃で加熱する前の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、90%以上であり、260℃で10分加熱した後の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、85%以上であり、前記フィルム状接着剤の厚さが10~40μmであり、
大きさが2mm×2mmで、厚さが20μmである前記フィルム状接着剤と、大きさが30mm×30mmで、厚さが300μmである銅板と、シリコンチップとを用い、前記フィルム状接着剤の、一方の面全面が前記シリコンチップの表面に貼付され、他方の面全面が前記銅板の表面に貼付されて構成され、前記フィルム状接着剤と前記シリコンチップとの側面が位置合わせされた試験片を作製し、23℃の温度条件下で、前記試験片中の、前記位置合わせされた側面において、前記フィルム状接着剤と前記シリコンチップの両方に対して、前記フィルム状接着剤の前記他方の面に対して平行な方向に、200μm/sの速度で力を加え、前記フィルム状接着剤が破壊されるまでに加えられていた力の最大値を、前記フィルム状接着剤のせん断強度(N/2mm□)としたとき、前記せん断強度が20N/2mm□以上であるもの、が挙げられる。
【0147】
好ましい前記フィルム状接着剤の一実施形態としては、例えば、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、及びリン系酸化防止剤(z)を含有するフィルム状接着剤であって、260℃で加熱する前の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、90%以上であり、260℃で10分加熱した後の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、85%以上であり、前記フィルム状接着剤の厚さが10~40μmであり、
前記リン系酸化防止剤(z)が、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合と、炭素原子間の二重結合と、シアノ基と、からなる群から選択される1種又は2種以上を有さず、
前記フィルム状接着剤における、前記フィルム状接着剤の総質量に対する、前記リン系酸化防止剤(z)の含有量の割合が、0.1~5質量%であるもの、が挙げられる。
【0148】
好ましい前記フィルム状接着剤の一実施形態としては、例えば、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、及びリン系酸化防止剤(z)を含有するフィルム状接着剤であって、260℃で加熱する前の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、90%以上であり、260℃で10分加熱した後の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、85%以上であり、前記フィルム状接着剤の厚さが10~40μmであり、
前記エポキシ化合物(b1)及びリン系酸化防止剤(z)がいずれも、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合と、炭素原子間の二重結合と、シアノ基と、からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないもの、が挙げられる。
【0149】
好ましい前記フィルム状接着剤の一実施形態としては、例えば、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、架橋剤(f)、及びリン系酸化防止剤(z)を含有するフィルム状接着剤であって、260℃で加熱する前の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、90%以上であり、260℃で10分加熱した後の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、85%以上であり、前記フィルム状接着剤の厚さが10~40μmであり、
前記リン系酸化防止剤(z)及び架橋剤(f)がいずれも、脂肪族系化合物であり、かつ、炭素原子間の三重結合と、炭素原子間の二重結合と、シアノ基と、からなる群から選択される1種又は2種以上を有しないもの、が挙げられる。
【0150】
好ましい前記フィルム状接着剤の一実施形態としては、例えば、アクリル系樹脂(a)、エポキシ化合物(b1)、充填材(d)、及びリン系酸化防止剤(z)を含有するフィルム状接着剤であって、260℃で加熱する前の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、90%以上であり、260℃で10分加熱した後の前記フィルム状接着剤の、波長が400~800nmである光の直線透過率が、85%以上であり、前記フィルム状接着剤の厚さが10~40μmであり、
前記充填材(d)の平均粒子径が10~100nmであるもの、が挙げられる。
【0151】
◇積層シート及び複合シート
本発明の一実施形態に係る積層シートは、前記フィルム状接着剤と、前記フィルム状接着剤の一方の面上に設けられた樹脂フィルムと、を備えて構成されている。
また、本発明の一実施形態に係る複合シートは、前記フィルム状接着剤と、前記フィルム状接着剤の一方の面上に設けられたダイシングシートと、を備えており、前記ダイシングシートが、基材と、前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層と、を備えており、前記粘着剤層が、前記基材と前記フィルム状接着剤との間に配置されている。
【0152】
前記積層シートは、前記フィルム状接着剤の少なくも一方の面上に樹脂フィルムが設けられていればよく、片面上のみに樹脂フィルムが設けられていてもよいし、両面上(すなわち、前記一方の面上と、これとは反対側の他方の面上)に樹脂フィルムが設けられていてもよい。
【0153】
前記積層シートにおいて、前記フィルム状接着剤の両面上に前記樹脂フィルムが設けられている場合には、これら樹脂フィルムは、互いに同一でも異なっていてもよく、これら樹脂フィルムの組み合わせは特に限定されない。
【0154】
前記樹脂フィルムは1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0155】
前記樹脂フィルムは、樹脂のみを構成材料とするシートであってもよいし、樹脂とそれ以外の成分とを構成材料とし、樹脂を主たる構成材料とするシートであってもよい。
【0156】
前記樹脂フィルムの構成材料である前記樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン;ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ノルボルネン樹脂等のポリエチレン以外のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ノルボルネン共重合体等のエチレン系共重合体(モノマーとしてエチレンを用いて得られた共重合体);ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂(モノマーとして塩化ビニルを用いて得られた樹脂);ポリスチレン;ポリシクロオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート、すべての構成単位が芳香族環式基を有する全芳香族ポリエステル等のポリエステル;2種以上の前記ポリエステルの共重合体;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリウレタン;ポリウレタンアクリレート;ポリイミド;ポリアミド;ポリカーボネート;フッ素樹脂;ポリアセタール;変性ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリスルホン;ポリエーテルケトン等が挙げられる。
また、前記樹脂としては、例えば、前記ポリエステルとそれ以外の樹脂との混合物等のポリマーアロイも挙げられる。前記ポリエステルとそれ以外の樹脂とのポリマーアロイは、ポリエステル以外の樹脂の量が比較的少量であるものが好ましい。
また、前記樹脂としては、例えば、ここまでに例示した前記樹脂の1種又は2種以上が架橋した架橋樹脂;ここまでに例示した前記樹脂の1種又は2種以上を用いたアイオノマー等の変性樹脂も挙げられる。
【0157】
前記樹脂フィルムは、剥離フィルムであってもよいし、後述する基材であってもよい。 基材については、別途詳しく説明する。
【0158】
前記剥離フィルムとしては、例えば、樹脂層と、前記樹脂層の一方の面上に設けられた剥離処理層と、を備えて構成された、複数層からなるものが挙げられる。
【0159】
前記剥離フィルムは、前記樹脂層の一方の面を剥離処理することで製造できる。
前記樹脂層は、樹脂を含有する樹脂組成物を成形又は塗工し、必要に応じて乾燥させることで作製できる。
【0160】
前記樹脂層の構成材料である樹脂は、前記樹脂フィルムの構成材料である前記樹脂と同じである。
前記樹脂層の剥離処理は、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系又はワックス系等の、公知の各種剥離剤によって行うことができる。
前記剥離剤は、耐熱性を有する点では、アルキッド系、シリコーン系又はフッ素系の剥離剤であることが好ましい。
【0161】
前記樹脂層は、1層(単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0162】
前記フィルム状接着剤の両面上に、樹脂フィルムとして前記剥離フィルムが設けられて構成された積層シートとしては、例えば、
図1に示す積層シート109が挙げられる。
【0163】
前記フィルム状接着剤の片面上のみに樹脂フィルムが設けられて構成された積層シートとしては、例えば、
図2に示す積層シート108が挙げられる。
なお、
図2以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0164】
ここに示す積層シート108は、フィルム状接着剤13の第1面13a上に樹脂フィルム19を備えて、構成されている。
樹脂フィルム19は、上記のものであり、剥離フィルム(例えば、
図1中の第1剥離フィルム151又は第2剥離フィルム152)であってもよいし、後述する基材であってもよい。
【0165】
前記樹脂フィルムの厚さは、目的に応じて任意に設定でき、特に限定されない。
前記樹脂フィルムの厚さは、例えば、10~200μmであってもよい。
【0166】
本実施形態の積層シートは、
図2に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で、
図2に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。より具体的には、以下のとおりである。
【0167】
例えば、本実施形態の積層シートは、フィルム状接着剤の第2面に何も備えていなくてもよいが、フィルム状接着剤の第2面のうち、周縁部近傍の領域に、積層シートをリングフレーム等の治具に固定するための治具用接着剤層を備えていてもよい。
治具用接着剤層は、例えば、接着剤成分を含有する単層構造のものであってもよいし、芯材となるシートの両面に接着剤成分を含有する層が積層された複数層構造のものであってもよい。
【0168】
例えば、積層シートをそのフィルム状接着剤側又は樹脂フィルム側の上方から見下ろして平面視したときに、フィルム状接着剤及び樹脂フィルムの表面積は、同等又はほぼ同等であってもよいが、本実施形態の積層シートにおいては、フィルム状接着剤の表面積が樹脂フィルムの表面積よりも小さく、樹脂フィルムの一部領域が露出していてもよい。その場合、例えば、少なくとも樹脂フィルムの幅方向における周縁部が、フィルム状接着剤で被覆されずに露出していてもよい。このような積層シートは、上記の治具用接着剤層を、この樹脂フィルムの露出面に備えていてもよい。
【0169】
図3は、本発明の一実施形態に係る複合シートの一例を模式的に示す断面図である。
ここに示す複合シート101は、フィルム状接着剤13と、フィルム状接着剤13の第2面13b上に設けられたダイシングシート10と、を備えており、ダイシングシート10が、基材11と、基材11の一方の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)11a上に設けられた粘着剤層12と、を備えており、粘着剤層12が、基材11とフィルム状接着剤13との間に配置されて、構成されている。
換言すると、複合シート101は、基材11、粘着剤層12及びフィルム状接着剤13がこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成されている。
ダイシングシート10のフィルム状接着剤13側の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)10aは、粘着剤層12の基材11側とは反対側の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)12aと同じである。
【0170】
複合シート101は、さらにフィルム状接着剤13上に、剥離フィルム15を備えている。
複合シート101においては、基材11の第1面11aに粘着剤層12が積層され、粘着剤層12の第1面12aの全面又はほぼ全面に、フィルム状接着剤13が積層され、フィルム状接着剤13の第1面13aの全面又はほぼ全面に、剥離フィルム15が積層されている。
【0171】
ダイシングシート10は、公知のものであってよい。
ダイシングシート10中の基材11及び粘着剤層12について、順次説明する。
【0172】
ダイシングシート10中の基材11は、シート状又はフィルム状であり、その構成材料としては、例えば、各種樹脂が挙げられる。ダイシングシート10の構成材料である前記樹脂としては、前記積層シート中の前記樹脂フィルムの構成材料である樹脂と同じものが挙げられる。
【0173】
基材を構成する樹脂は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0174】
基材は1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0175】
基材11の厚さは、50~300μmであることが好ましく、60~150μmであることがより好ましい。基材11の厚さがこのような範囲であることで、複合シート101の可撓性と、貼付対象物への貼付性がより向上する。
ここで、「基材の厚さ」とは、基材全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる基材の厚さとは、基材を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0176】
基材11は、厚さの精度が高いもの、すなわち、部位によらず厚さのばらつきが抑制されたものが好ましい。上述の構成材料のうち、このような厚さの精度が高い基材を構成するのに使用可能な材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレン以外のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0177】
基材11は、前記樹脂等の主たる構成材料以外に、充填材、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒、軟化剤(可塑剤)等の公知の各種添加剤を含有していてもよい。
【0178】
基材11は、透明であってもよいし、不透明であってもよく、目的に応じて着色されていてもよいし、他の層が蒸着されていてもよい。
【0179】
基材11は、その上に設けられる他の層(ここでは粘着剤層12)等との密着性を向上させるために、サンドブラスト処理、溶剤処理等による凹凸化処理や、コロナ放電処理、電子線照射処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理等の酸化処理等が表面に施されたものであってもよい。
また、基材11は、表面がプライマー処理を施されたものであってもよい。
また、基材11は、帯電防止コート層;複合シートを重ね合わせて保存する際に、基材11が他のシートに接着することや、基材11が吸着テーブルに接着することを防止する層等を有するものであってもよい。
【0180】
基材11は、公知の方法で製造できる。例えば、樹脂を含有する基材11は、前記樹脂を含有する樹脂組成物を成形することで製造できる。
【0181】
ダイシングシート10中の粘着剤層12は、シート状又はフィルム状であり、粘着剤を含有する。
前記粘着剤としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルエーテル、ポリカーボネート、エステル系樹脂等の粘着性樹脂が挙げられ、アクリル系樹脂が好ましい。
【0182】
なお、本明細書において、「粘着性樹脂」には、粘着性を有する樹脂と、接着性を有する樹脂と、の両方が包含される。例えば、前記粘着性樹脂には、樹脂自体が粘着性を有するものだけでなく、添加剤等の他の成分との併用により粘着性を示す樹脂や、熱又は水等のトリガーの存在によって接着性を示す樹脂等も含まれる。
【0183】
粘着剤層12は1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0184】
粘着剤層12の厚さは、特に限定されないが、1~100μmであることが好ましく、1~60μmであることがより好ましく、1~30μmであることが特に好ましい。
ここで、「粘着剤層の厚さ」とは、粘着剤層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる粘着剤層の厚さとは、粘着剤層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0185】
粘着剤層12は、エネルギー線硬化性粘着剤を用いて形成されたものであってもよいし、非エネルギー線硬化性粘着剤を用いて形成されたものであってもよい。すなわち、粘着剤層12は、エネルギー線硬化性及び非エネルギー線硬化性のいずれであってもよい。エネルギー線硬化性の粘着剤層12は、硬化前及び硬化後での物性を容易に調節できる。例えば、エネルギー線硬化性の粘着剤層12を硬化させることにより、その貼付対象物への粘着力を容易に調節できる。
【0186】
粘着剤層12は、粘着剤を含有する粘着剤組成物を用いて形成できる。例えば、粘着剤層12の形成対象面に粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、目的とする部位に粘着剤層12を形成できる。粘着剤組成物における、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、粘着剤層12における前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0187】
粘着剤組成物の塗工は、公知の方法で行えばよく、例えば、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター等の各種コーターを用いる方法が挙げられる。
【0188】
基材11上に粘着剤層12を設ける場合には、例えば、基材11上に粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、基材11上に粘着剤層12を積層すればよい。また、基材11上に粘着剤層12を設ける場合には、例えば、剥離フィルム上に粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、剥離フィルム上に粘着剤層12を形成しておき、この粘着剤層12の露出面を、基材11の一方の表面(ここでは第1面11a)と貼り合わせることで、基材11上に粘着剤層12を積層してもよい。この場合の剥離フィルムは、複合シート101の製造過程又は使用過程のいずれかのタイミングで、取り除けばよい。
【0189】
粘着剤層12がエネルギー線硬化性である場合、エネルギー線硬化性の粘着剤組成物としては、例えば、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂(I-1a)(以下、「粘着性樹脂(I-1a)」と略記することがある)と、エネルギー線硬化性化合物と、を含有する粘着剤組成物(I-1);前記粘着性樹脂(I-1a)の側鎖に不飽和基が導入されたエネルギー線硬化性の粘着性樹脂(I-2a)(以下、「粘着性樹脂(I-2a)」と略記することがある)を含有する粘着剤組成物(I-2);前記粘着性樹脂(I-2a)と、エネルギー線硬化性化合物と、を含有する粘着剤組成物(I-3)等が挙げられる。
【0190】
粘着剤層12が非エネルギー線硬化性である場合、非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物としては、例えば、前記粘着性樹脂(I-1a)を含有する粘着剤組成物(I-4)等が挙げられる。
【0191】
フィルム状接着剤13は、上述の光透過性を有する。
フィルム状接着剤13の厚さは、10~40μmである。
フィルム状接着剤13は、上述の接着剤組成物を用いて形成できる。
【0192】
剥離フィルム15は、
図1に示す第1剥離フィルム151又は第2剥離フィルム152と同様のものである。
【0193】
複合シート101の場合に限らず、本実施形態の複合シートにおいては、剥離フィルム(例えば、
図3に示す剥離フィルム15)は任意の構成であり、本実施形態の複合シートは、剥離フィルムを備えていてもよいし、備えていなくてもよい。
【0194】
複合シート101は、剥離フィルム15が取り除かれた状態で、フィルム状接着剤13の第1面13aに、対象物(例えば、チップの回路形成面)が貼付されて、使用される。
【0195】
本実施形態の複合シートは、
図3に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で、
図3に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。より具体的には、以下のとおりである。
【0196】
ここまでは、基材及び粘着剤層が積層されて構成されたダイシングシートを備えた複合シートについて説明したが、本実施形態の複合シートは、基材のみからなるダイシングシートを備えていてもよい。すなわち、前記複合シートは、基材と、前記基材の一方の面上に設けられたフィルム状接着剤と、を備え、前記基材と前記フィルム状接着剤との間に、粘着剤層が配置されずに構成されていてもよい。このような複合シートとしては、
図2に示す積層シート108において、樹脂フィルム19が基材(例えば、
図3に示す基材11)であるものが挙げられる。
【0197】
ここまでは、基材及び粘着剤層が積層されて構成されたダイシングシートを備えた複合シートについて説明したが、本実施形態の複合シートは、基材及び粘着剤層以外に中間層を備えて構成されたダイシングシートを備えていてもよい。このようなダイシングシートとしては、例えば、基材と、前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層と、前記粘着剤層の前記基材側とは反対側の面上に設けられた中間層と、を備えたものが挙げられる。このようなダイシングシートを用いた場合、複合シートにおいては、前記粘着剤層と前記フィルム状接着剤との間に、中間層が配置される。
【0198】
例えば、本実施形態の複合シートは、フィルム状接着剤の第1面に、前記剥離フィルムのみを備えていてもよいが、フィルム状接着剤の第1面のうち、周縁部近傍の領域に、複合シートをリングフレーム等の治具に固定するための治具用接着剤層を備えていてもよい。
この場合の治具用接着剤層は、先に説明したものと同様である。
【0199】
例えば、複合シートをそのフィルム状接着剤側又はダイシングシート側の上方から見下ろして平面視したときに、フィルム状接着剤及びダイシングシートの表面積は、同等又はほぼ同等であってもよいが、本実施形態の複合シートにおいては、フィルム状接着剤の表面積がダイシングシートの表面積よりも小さく、ダイシングシート(例えば、粘着剤層)の一部領域が露出していてもよい。その場合、例えば、少なくともダイシングシートの幅方向における周縁部が、フィルム状接着剤で被覆されずに露出していてもよい。このような複合シートは、上記の治具用接着剤層を、このダイシングシートの露出面に備えていてもよい。
【0200】
ここまでは、複合シートを構成するものとして、基材、粘着剤層、中間層、フィルム状接着剤、治具用接着剤層及び剥離フィルムを示しているが、本実施形態の複合シートは、これらのいずれにも該当しない、他の層を備えていてもよい。
前記複合シートが前記他の層を備えている場合、その配置位置は、特に限定されない。
【0201】
本実施形態の複合シートにおいて、各層の大きさ及び形状は、目的に応じて任意に選択できる。
【0202】
◇積層シート(フィルム状接着剤)の使用方法
<<積層体及びその製造方法>>
本実施形態の積層シート中のフィルム状接着剤は、例えば、センサー等のチップの回路形成面に対して、光透過性カバーを接着するためのフィルムとして使用できる。
より具体的には、前記フィルム状接着剤を用いることにより、チップと、前記チップの回路形成面上に設けられたフィルム状接着剤と、前記フィルム状接着剤の前記チップ側と反対側の面上に設けられた光透過性カバーと、を備えて構成された積層体を製造できる。
【0203】
図4は、前記積層体の一例を模式的に示す断面図である。
ここに示す積層体801は、チップ8と、チップ8の回路形成面8a上に設けられたフィルム状接着剤13と、フィルム状接着剤13のチップ8側と反対側の面(第1面)13a上に設けられた光透過性カバー7と、を備えて構成されている。
【0204】
積層体801においては、チップ8とフィルム状接着剤13のそれぞれの対向する面、すなわち、チップ8の回路形成面8aと、フィルム状接着剤13のチップ8側の面(第2面)13bと、は直接接触している。また、フィルム状接着剤13と光透過性カバー7のそれぞれの対向する面、すなわち、フィルム状接着剤13の第1面13aと、光透過性カバー7のフィルム状接着剤13側の面(本明細書においては、「第2面」と称することがある)7bと、は直接接触している。
このように、積層体801は、チップ8と、フィルム状接着剤13と、光透過性カバー7と、がこの順に、これらの厚さ方向において積層され、チップ8の回路形成面8aがフィルム状接着剤13側に配置されて、構成されている。
【0205】
積層体801中のフィルム状接着剤13は、例えば、
図1に示す積層シート109において、第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152を取り除いたもの、又は、
図2に示す積層シート108において、樹脂フィルム19を取り除いたものである。
【0206】
なお、
図4においては、チップ8の回路の図示は省略している。また、符号7aは、光透過性カバー7の前記第2面7bとは反対側の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)を示す。
【0207】
光透過性カバー7は、チップ8の回路形成面8aを保護するとともに、その第2面7b側の外部を、その第1面7a側の外部から、視認可能とする。
一方、フィルム状接着剤13は、上述の光透過性を有する。そのため、積層体801においては、光透過性カバー7及びフィルム状接着剤13を介して(光透過性カバー7及びフィルム状接着剤13越しに)、チップ8の回路形成面8aに存在する視覚情報が、視認可能となっている。
さらに、フィルム状接着剤13は、上述のとおり、加熱前後で光透過性が高く、着色が抑制されている。したがって、積層体801は、チップ8上の視覚情報を安定して高精度に視認可能となっている。
【0208】
チップ8としては、例えば、指紋センサーを用いることができ、その場合、積層体801は指紋センサーモジュールとして利用可能である。
【0209】
前記フィルム状接着剤を用いた前記積層体は、
図4に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で、
図4に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。
【0210】
前記積層体は、例えば、前記フィルム状接着剤の一方の面(第2面)に、チップの回路形成面を貼り合わせ、前記フィルム状接着剤の他方の面(第1面)に、光透過性カバーを貼り合わせることにより、製造できる。
【0211】
◇複合シートの使用方法
<<積層体及びその製造方法>>
本実施形態の複合シートは、公知のダイシングダイボンディングシートの場合と同じ方法で使用できる。
図5は、本実施形態の複合シートの使用方法の一例を模式的に説明するための断面図である。ここでは、
図3に示す複合シート101を用いた場合について示している。
【0212】
ここに示すように、複合シート101は、剥離フィルム15を取り除いた後、フィルム状接着剤13の第1面13aを、チップ8の回路形成面8aに貼付して、使用される。
【0213】
複合シート101をチップ8に貼付した後は、例えば、チップ8をダイシングして個片化し、フィルム状接着剤13を個片化されたチップ8の外周に沿って切断する。このとき、チップ8の個片化と、フィルム状接着剤13の切断は、公知の方法で行うことができ、例えば、これらを同時に行ってもよいし、チップ8を個片化してから、別途、フィルム状接着剤13を切断してもよい。
【0214】
次いで、個片化後のチップ8を、切断後のフィルム状接着剤13ごと、ダイシングシート10から引き離してピックアップする。粘着剤層12がエネルギー線硬化性である場合には、粘着剤層12をエネルギー線硬化させて、フィルム状接着剤13に対する粘着力を低下させてから、ピックアップすることにより、ピックアップをより容易に行うことができる。
【0215】
次いで、切断及びピックアップ後のフィルム状接着剤13の第2面に、光透過性カバーを貼り合わせることにより、前記積層体(例えば、
図4に示す積層体801)を製造できる。
【0216】
ここでは、このように、複合シート中のフィルム状接着剤をチップに貼り合わせ、チップの個片化後及びフィルム状接着剤の切断後に、この切断後のフィルム状接着剤に光透過性カバーを貼り合わせる場合について、説明したが、フィルム状接着剤に対するチップ及び光透過性カバーの貼り合わせの順序は、逆であってもよい。すなわち、フィルム状接着剤の第1面を、光透過性カバーの第2面に貼付した後、光透過性カバーをダイシングして個片化し、フィルム状接着剤を切断して、必要に応じて粘着剤層をエネルギー線硬化させてから、個片化後の光透過性カバーを、切断後のフィルム状接着剤ごと、ダイシングシートから引き離してピックアップし、次いで、この切断及びピックアップ後のフィルム状接着剤の第1面に、チップを貼り合わせることでも、前記積層体(例えば、
図4に示す積層体801)を製造できる。
【実施例】
【0217】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0218】
<接着剤組成物の製造原料>
本実施例及び比較例において、接着剤組成物の製造に用いた原料を以下に示す。
【0219】
[アクリル系樹脂(a)]
(a)-1:アクリル酸メチル(85質量部)及びアクリル酸2-ヒドロキシエチル(15質量部)を共重合して得られたアクリル系樹脂(重量平均分子量800000、ガラス転移温度6℃)。
(a)-2:アクリル酸メチル(95質量部)及びアクリル酸2-ヒドロキシエチル(5質量部)を共重合して得られたアクリル系樹脂(重量平均分子量800000、ガラス転移温度9℃)。
(a)-3:エポキシ基を有するアクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量850000、ガラス転移温度12℃)。
[エポキシ化合物(b1)]
(b1)-1:アクリロイル基が付加されたクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製「CNA147」、エポキシ当量518g/eq、数平均分子量2100、不飽和基の含有量とエポキシ基の含有量とは等量)
(b1)-2:水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(共栄社化学社製「エポライト4000」、エポキシ当量310~340g/eq)
[フェノール樹脂(b2)]
(b2)-1:アラルキル型フェノール樹脂(エア・ウォーター・ケミカル社製「HE100C-10」)
[硬化促進剤(c)]
(c)-1:トリフェニルホスフィン(北興化学工業社製)
[充填材(d)]
(d)-1:メタクリル基で修飾された球状シリカ(アドマテックス社製「YA050C-MJE」、平均粒子径50nm)
(d)-2:エポキシ基で修飾された球状シリカ(アドマテックス社製「YA050C-MKK」、平均粒子径50nm)
(d)-3: エポキシ基で修飾されたシリカフィラー(アドマテックス社製「SC2050MA」、平均粒子径500nm)
[架橋剤(f)]
(f)-1:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート三量体付加物(東ソー社製「コロネートL」)
(f)-2:トリメチロールプロパンのイソホロンジイソシアネート三量体付加物(三井化学社製「D-140N」)
[リン系酸化防止剤(z)]
(z)-1:ビス(デシル)ペンタエリスリトールジホスファイト(城北化学工業社製「JPE-10」、脂肪族系亜リン酸エステル)
(z)-2:トリス(2-エチルへキシル)ホスファイト(城北化学工業社製「JP-308E」、脂肪族系亜リン酸エステル)
[他の酸化防止剤(y)]
(y)-1:1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(ADEKA社製「AO-20」、ヒンダードフェノール)
【0220】
[実施例1]
<<フィルム状接着剤の製造>>
<接着剤組成物の製造>
アクリル系樹脂(a)-1(58質量部)、エポキシ化合物(b1)-1(18質量部)、フェノール樹脂(b2)-1(3質量部)、充填材(d)-1(20質量部)、架橋剤(f)-1(0.5質量部)及びリン系酸化防止剤(z)-1(0.5質量部)をメチルエチルケトンに溶解又は分散させて、23℃で撹拌することにより、メチルエチルケトン以外のすべての成分の合計濃度が32質量%である接着剤組成物を得た。なお、ここに示すメチルエチルケトン以外の成分の配合量はすべて、溶媒成分を含まない目的物の配合量である。
【0221】
<フィルム状接着剤の製造>
ポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムの片面がシリコーン処理により剥離処理されている剥離フィルム(リンテック社製「SP-PET381031」、厚さ38μm)を用い、その前記剥離処理面に、上記で得られた接着剤組成物を塗工し、100℃で2分加熱乾燥させることにより、厚さ20μmのフィルム状接着剤を形成し、前記剥離フィルム及びフィルム状接着剤が、これらの厚さ方向において積層されて構成された接着シートを得た。
【0222】
<<フィルム状接着剤の評価>>
<せん断強度の測定>
テープマウンター(リンテック社製「Adwill RAD2500 m/12」)を用い、貼付温度23℃、貼付速度20mm/sの条件で、ダイシングシート(リンテック社製「Adwill D-678」)を6インチシリコンウエハ(厚さ350μm)に貼付し、このダイシングシート及びシリコンウエハの積層物を、リングフレームに固定した。
次いで、ダイシング装置(DISCO社製「DFD6362)を用い、ダイシングブレード(DISCO社製「NBC-ZH2050-SE27HECC」によって、ブレード回転数30000rpm、切断速度40mm/sの条件で、ダイシングを行い、大きさが2mm×2mmの複数個のシリコンチップ(以下、「シリコンチップ群」と称することがある)を得た。上記のダイシングシートは、基材と及び粘着剤層が積層されて構成されており、ダイシング時には、このダイシングシート中の基材の深さ20μmの領域まで、ダイシングブレードにより切り込んだ。
【0223】
次いで、上記で得られたシリコンチップ群に、上記で得られた接着シートを、60℃に加熱しながら、その中のフィルム状接着剤によって貼付した。このとき、接着シートは、シリコンチップ群中のシリコンチップのうち、ダイシングシートが貼付されている側とは反対側の面(露出面)に貼付した。そして、シリコンチップの外周に沿って、この貼付後の接着シートを切断した。
以上により、ダイシングシート、シリコンチップ及び接着シートがこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成され、大きさが2mm×2mmである積層物を得た。
【0224】
次いで、この積層物中のフィルム状接着剤から前記剥離フィルムを取り除き、マニュアルダイボンダーを用いて、新たに生じたフィルム状接着剤の露出面を、大きさが30mm×30mmで、厚さが300μmである銅板の表面に貼付した。このとき、フィルム状接着剤は、125℃に加熱しながら、2.45N(250gf)の力を加えて銅板に押し付けることにより、貼付した。さらに、これら貼り合わせたものを、175℃で5時間加熱することにより、試験片を得た。
【0225】
次いで、万能型ボンドテスター(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製「DAGE4000」)を用い、23℃の温度条件下で、シェアツールによって、200μm/sの速度で、前記試験片の側面において、フィルム状接着剤とシリコンチップの両方に対して、フィルム状接着剤の銅板への貼付面に対して平行な方向に力を加えた。そして、フィルム状接着剤が破壊されるまでに加えられていた力の最大値を確認し、これをフィルム状接着剤のせん断強度(N/2mm□)として採用した。結果を表1に示す。
【0226】
<光(400~800nm)の加熱前直線透過率の測定>
上記で得られたフィルム状接着剤を、40℃で加熱しながらガラス製プレパラート(厚さ0.9mm)の一方の面に貼付した。フィルム状接着剤は、その製造直後からこの貼付までの間、加熱処理を行わなかった。
次いで、貼付後のフィルム状接着剤のうち、ガラス製プレパラートからはみ出している部分を切断し、同じ大きさのフィルム状接着剤とガラス製プレパラートが、これらの周縁部の位置が一致した状態で、これらの厚さ方向において積層されて構成された試験片(以下、「加熱前試験片」と称する)を得た。
【0227】
前記加熱前試験片の作製に用いたガラス製プレパラートについて、加熱前試験片の作製前にあらかじめ、分光光度計(Shimadzu社製「UV-3101PC」)を用いて、光(400~800nm)の直線透過率(以下、「基準直線透過率」と称する)を測定した。
上記で得られた加熱前試験片についても、同じ方法で、光(400~800nm)の直線透過率を測定した。
加熱前試験片の、各波長での光(400~800nm)の直線透過率の測定値から、同じ波長での前記基準直線透過率の測定値を減じて得られた値を、加熱前のフィルム状接着剤の光(400~800nm)の直線透過率(すなわち、前記加熱前直線透過率)として採用した。結果を表1に示す。
【0228】
<光(400~800nm)の加熱後直線透過率の測定>
電気炉を用いて、上記の光(400~800nm)の加熱前直線透過率を測定後の試験片を、260℃で10分加熱した。
次いで、この加熱後の試験片を、室温と同じ温度になるまで放冷した。
次いで、この加熱及び放冷後の試験片(以下、「加熱後試験片」と称する)について、上述の加熱前試験片の場合と同じ方法で、光(400~800nm)の直線透過率を測定した。
加熱後試験片の、各波長での光(400~800nm)の直線透過率の測定値から、同じ波長での前記基準直線透過率の測定値を減じて得られた値を、加熱後のフィルム状接着剤の光(400~800nm)の直線透過率(すなわち、前記加熱後直線透過率)として採用した。結果を表1に示す。
【0229】
<RGBによる加熱前の指紋認識性の評価>
左手人差し指の腹の前に、デジタルカメラ(キャノン社製「IXY650」)を配置し、左手人差し指の腹の表面と、カメラレンズの表面と、の間の距離を50mmに調節して、この状態で左手人差し指の指紋の撮像データ(以下、「基準撮像データ」と称する)をマクロモードで取得した。
この左手人差し指とデジタルカメラの配置関係を維持したまま、左手人差し指の腹とデジタルカメラとの間に、さらに前記加熱前試験片を配置した。このとき、左手人差し指の腹とデジタルカメラとを結ぶ直線が、前記加熱前試験片中のガラス製プレパラートの露出面(すなわち、フィルム状接着剤との貼付面とは反対側の面)に対して直交し、かつ、前記露出面がデジタルカメラ側となるように、前記加熱前試験片を配置した。この条件で、前記基準撮像データの取得時と同じ方法で、左手人差し指の指紋の撮像データ(以下、「加熱前透過撮像データ」と称する)をマクロモードで取得した。
【0230】
グラフィックソフトウェア(マイクロソフト社製「ペイント」)を用いて、上記で得られた基準撮像データ及び加熱前透過撮像データを展開し、それぞれのデータから指紋の山部と谷部の色を抽出して、RGBで数値化した。
加熱前透過撮像データより取得した指紋の山部のR値から、基準撮像データより取得した指紋の山部のR値を減じて得られた値を、加熱前評価時の指紋の山部のR値として採用した。これと同様の方法で、加熱前評価時の指紋の山部のG値とB値を求めた。
上記と同様の方法で、加熱前透過撮像データより取得した指紋の谷部のR値から、基準撮像データより取得した指紋の谷部のR値を減じて得られた値を、加熱前評価時の指紋の谷部のR値として採用した。これと同様の方法で、加熱前評価時の指紋の谷部のG値とB値を求めた。
さらに、前記山部のR値と前記谷部のR値との差の絶対値(以下、「絶対値ΔR」と記載することがある)を算出し、前記山部のG値と前記谷部のG値との差の絶対値(以下、「絶対値ΔG」と記載することがある)を算出し、前記山部のB値と前記谷部のB値との差の絶対値(以下、「絶対値ΔB」と記載することがある)を算出した。
【0231】
これら算出値に基づいて、下記基準に従って、RGBによる加熱前のフィルム状接着剤の指紋認識性を評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:絶対値ΔR、絶対値ΔG及び絶対値ΔBのうち、少なくとも1種が10以上である。
B:絶対値ΔR、絶対値ΔG及び絶対値ΔBがすべて10未満であり、かつ、絶対値ΔR、絶対値ΔG及び絶対値ΔBのうち、少なくとも1種が5以上である。
C:絶対値ΔR、絶対値ΔG及び絶対値ΔBがすべて5未満である。
【0232】
<RGBによる加熱後の指紋認識性の評価>
前記加熱前試験片に代えて前記加熱後試験片を用いた点以外は、上述の「加熱前の指紋認識性の評価」の場合と同じ方法で、RGBによる加熱後のフィルム状接着剤の指紋認識性を評価した。
より具体的には、本評価時には、前記加熱前透過撮像データに代えて「加熱後透過撮像データ」を取得した。また、この加熱後透過撮像データを用いて、加熱前評価時の指紋の山部のR値、G値及びB値に代えて、加熱後評価時の指紋の山部のR値、G値及びB値を求め、加熱前評価時の指紋の谷部のR値、G値及びB値に代えて、加熱後評価時の指紋の谷部のR値、G値及びB値を求めた。さらに、これらR値、G値及びB値から、加熱前評価時の前記絶対値ΔR、絶対値ΔG及び絶対値ΔBに代えて、加熱後評価時の絶対値ΔR、絶対値ΔG及び絶対値ΔBを算出した。結果を表1に示す。
【0233】
<目視による加熱前の指紋認識性の評価>
無作為に5名の観察者を選定し、以下に示す方法で、1名ずつ、指紋を目視観察した。
すなわち、左手人差し指の腹の前に、1名の観察者を配置し、左手人差し指の腹の表面と、観察者の目と、の間の距離を150mmに調節して、この状態で左手人差し指の指紋を直接、目視観察した。
この左手人差し指と観察者の配置関係を維持したまま、左手人差し指の腹と観察者との間に、さらに前記加熱前試験片を配置した。このときの前記加熱前試験片の配置形態は、上述の「RGBによる加熱前の指紋認識性の評価」時における加熱前試験片の場合と同じとした。この条件で、上記のとおり直接目視観察した場合と同様に、左手人差し指の指紋を、前記加熱前試験片越しに、目視観察した。
【0234】
この方法により、5名の観察者全員で、指紋を直接、及び加熱前試験片越しに、目視観察し、加熱前試験片越しでの指紋の見え方と、直接目視での指紋の見え方と、の比較から、下記基準に従って、目視による加熱前のフィルム状接着剤の指紋認識性を評価した。結果を表1に示す。表1の「指紋認識性」の欄中のカッコ内の数値は、「指紋の見え方に差が無い、と判定した観察者の人数(人)」を示している。
A: 観察者5名全員が、指紋の見え方に差が無い、と判定した。
B: 観察者5名中4名が、指紋の見え方に差が無い、と判定した。
C: 観察者5名中2名以上が、指紋の色が互いに異なっており、見え方に差がある、と判定した。
【0235】
<目視による加熱後の指紋認識性の評価>
前記加熱前試験片に代えて前記加熱後試験片を用いた点以外は、上述の「目視による加熱前の指紋認識性の評価」の場合と同じ方法で、目視による加熱後のフィルム状接着剤の指紋認識性を評価した。結果を表1に示す。
【0236】
<<フィルム状接着剤の製造及び評価>>
[実施例2~4]
接着剤組成物の含有成分の種類及び含有量が、表1に示すとおりとなるように、接着剤組成物の製造時における、配合成分の種類及び配合量のいずれか一方又は両方を変更した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、フィルム状接着剤を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0237】
[比較例1~5]
接着剤組成物の含有成分の種類及び含有量が、表2に示すとおりとなるように、接着剤組成物の製造時における、配合成分の種類及び配合量のいずれか一方又は両方を変更した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、フィルム状接着剤の製造及び評価を試みた。結果を表2に示す。
【0238】
なお、表1及び2中の含有成分の欄の「-」との記載は、接着剤組成物がその成分を含有していないことを意味する。
【0239】
【0240】
【0241】
上記結果から明らかなように、実施例1~4においては、260℃で加熱前後のフィルム状接着剤は、いずれも光透過性が高く、着色が抑制されており、指紋認識性が高かった。実施例1~4においては、260℃で加熱前のフィルム状接着剤の光(400~800nm)の直線透過率が96%以上(96~98%)であり、260℃で加熱後のフィルム状接着剤の光(400~800nm)の直線透過率が89%以上(89~95%)であった。
【0242】
実施例1~4においては、フィルム状接着剤のせん断強度は、51N/2mm□以上(51~63N/2mm□)であり、フィルム状接着剤の接着力が十分に強かった。
【0243】
これに対して、比較例1~3においては、260℃で加熱前のフィルム状接着剤は、いずれも光透過性が高く、着色が抑制されていたものの、260℃で加熱後のフィルム状接着剤は、光透過性が低く、着色が抑制されておらず、指紋認識性が低かった。比較例1~3においては、260℃で加熱後のフィルム状接着剤の光(400~800nm)の直線透過率が77%以下であった。
比較例1~2においては、フィルム状接着剤が酸化防止剤を含有していなかったため、加熱による着色が抑制されなかったと推測された。
比較例3においては、フィルム状接着剤が酸化防止剤を含有していたものの、酸化防止剤がリン系酸化防止剤(z)ではなかったため、加熱による着色が抑制されなかったと推測された。
【0244】
比較例5においては、260℃で加熱前の段階のフィルム状接着剤は、すでに光透過性が低く、白く濁っており、指紋認識性が低かった。そのため、260℃で加熱後のフィルム状接着剤も、白く濁ったままであり、指紋認識性が低かった。
比較例5においては、平均粒子径が大きい充填材(d)-3を用いたため、フィルム状接着剤が白く濁ったと推測された。これは、用いた充填材(d)の種類のみが異なる、実施例1のフィルム状接着剤と比較例5のフィルム状接着剤との比較からも明らかであった。
【0245】
比較例4においては、フィルム状接着剤を形成できなかった。これは、接着剤組成物がアクリル系樹脂(a)等の造膜成分を含有していないためであった。比較例4においては、フィルム状接着剤の評価を行うことはできなかった。
【0246】
さらに、比較例1においては、フィルム状接着剤のせん断強度が44N/2mm□であり、フィルム状接着剤の接着力が、実施例1~4の場合よりも弱かった。
比較例2においては、フィルム状接着剤の接着力が弱過ぎて、フィルム状接着剤のせん断強度を測定できなかった。これは、接着剤組成物がエポキシ化合物(b1)等のエポキシ化合物を含有していないためであった。
【産業上の利用可能性】
【0247】
本発明は、電子機器を構成する各種部品の製造又は加工時に、接着剤として利用可能である。
【符号の説明】
【0248】
101・・・複合シート、108,109・・・積層シート、10・・・ダイシングシート、11・・・基材、11a・・・基材の第1面、12・・・粘着剤層、13・・・フィルム状接着剤、13a・・・フィルム状接着剤の第1面、13b・・・フィルム状接着剤の第2面、151・・・第1剥離フィルム、152・・・第2剥離フィルム、19・・・樹脂フィルム、7・・・光透過性カバー、8・・・チップ、8a・・・チップの回路形成面、801・・・積層体