(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ハンチントン病を治療するのに使用するための薬学的化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4738 20060101AFI20240117BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
A61K31/4738
A61P25/14
(21)【出願番号】P 2020564829
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2019063253
(87)【国際公開番号】W WO2019224269
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-26
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519345759
【氏名又は名称】アデプティオ ファーマシューティカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダッフィールド、アンドリュー、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】パンディヤ、アナント
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-501202(JP,A)
【文献】Chirality,1997年,Vol.9,pp.59-62
【文献】Neuron,2011年,Vol.69, No.3,pp.423-435 (page 1-25)
【文献】Journal of Psychopharmacology,2002年,Vol.16, No.4,pp.393-394
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物におけるハンチントン病による寿命短縮の病態を低減するための、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物。
【請求項2】
哺乳動物における疾患による寿命短縮の病態の低減のための医薬組成物であって、前記疾患が、前記哺乳動物のIT15遺伝子における変異によって特徴付けられている
、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩を含む、医薬組成物。
【請求項3】
変異が、IT15遺伝子において36以上のCAGリピートを生じる、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態低減のための医薬組成物であって、前記疾患がハンチンチンタンパク質の変異形態の存在によって特徴付けられている、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩を含む、医薬組成物。
【請求項5】
哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態低減のための医薬組成物であって、前記疾患が、ハンチンチンタンパク質の変異形態の存在によって引き起こされる、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩を含む、医薬組成物。
【請求項6】
ハンチンチンタンパク質の変異形態が、IT-15遺伝子にて38以上のCAGリピートの存在から生じる、請求項4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
哺乳動物がヒトである、請求項1~6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
スクリーニングされ、疾患に罹患している、又は前記疾患に罹患しているリスクがあると判定されている患者において、疾患の寿命短縮の病態の低減のための医薬組成物であって、前記疾患が、IT-15遺伝子における36以上のCAGリピートの存在によって特徴付けられている、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩を含む、医薬組成物。
【請求項9】
1mg~500mgの量で、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンを含む、請求項1~8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
(+)-α-ジヒドロテトラベナジンが60%より大きい異性体純度を有する、請求項1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
(+)-α-ジヒドロテトラベナジンが95%より大きい異性体純度を有する、請求項1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
薬学的に許容される塩が(+)-α-ジヒドロテトラベナジンのコハク酸塩である、請求項1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物におけるハンチントン病における寿命短縮の病態(life-shortening effect)を低減するのに使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(及び特に(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンチントン病(HD)は、以前はハンチントン舞踏病として公知であった、今のところ不治の遺伝性神経変性疾患である。この疾患は、4p16.3染色体短腕に位置付けられているIT15遺伝子において伸長されたCAGトリヌクレオチドのリピート伸長(HD変異と称される)によって引き起こされ、このリピート伸長によって、ハンチンチンと命名された、タンパク質の異常形態が産生される。異常タンパク質は、脳の線条体領域においてニューロンの死を生じるプロセスの引き金となる。これは多くの種類のニューロン内部にて異常タンパク質が凝集(clumping)又は凝集(aggregation)することによるものと考えられる。
【0003】
IT15遺伝子であるハンチンチンは、アミノ酸であるグルタミンをコードしているCAGヌクレオチドのリピート配列を含有するDNAのセグメントを含む。遺伝子内部のCAGリピートの数が30以下の場合、この遺伝子を保有するヒトはHDに罹患することはないということが判明している。通常、非患者においてはリピートは6~26の範囲である。ただし、40超のCAGリピートが存在する遺伝子を保有する人間は、この疾患に罹患する傾向がある。55以上のCAGリピートが若年性ハンチントン病に共通しており、通常より長いCAGリピートによってこの疾患は一般的に早期発症する。(Roos,「Huntington’s disease:a clinical review」,(2010),Orphanet Journal of Rare Diseases,5(40))。
【0004】
HDに罹患した両親の子供はそれぞれこの障害を遺伝する可能性を50%有するというように、ハンチントン病は常染色体優性の遺伝パターンによって遺伝される。ハンチントン病の症状は、通常約30~50歳で現れ、この疾患は10~25年間にわたって通例では進行する。この疾患の特性及び症状には、性格の変化、うつ病、気分変動、不安定歩行、不随意舞踏運動、単収縮運動及び痙攣運動ならびに振戦、認知症、不明瞭発語、判断力低下、嚥下障害及び酩酊した様子が含まれる。
【0005】
一度個体がハンチントン病の症状となった場合、この疾患の経過は、10~30年間の範囲で持続する可能性がある。通常、HDの経過は、初期、中期及び後期といった3つの段階に大まかには分けられ得る。
【0006】
初期段階では、患者は大半の通常行動を依然として行うことができる。患者は依然として働くことができ、運転も依然として行うことができる。患者は、わずかな制御不可能な運動、よろめき及び筋痛、集中力の欠如、短期記憶の欠如及びうつ病、ならびに気分変動を示すことがある一方、不随意運動は比較的軽度であり、発声は依然として明瞭であり、かつ認知症も仮に見られたとしても軽度である。
【0007】
中期の間、患者は初期に比べて身体に障害がある状態となり、通常、日常的なルーティン行動の一部については介助を必要とする。転倒、体重減少、及び嚥下障害は、この段階中の問題となり得、認知症は傍目にもより明らかとなる。加えて、制御不可能な運動は更に顕著となる。
【0008】
後期中、患者はほぼトータルケアを必要とするところまで悪化し、多くの患者は、病院又は診療所で継続的な注意が必要となる。この段階では、患者は歩いたり話したりすることはもはやできない。患者には不随意運動が以前ほど見られなくなっているが、更に硬直した状態となり得る。この段階の患者は、多くの場合食物を嚥下することが不可能である。この段階では、多くの患者には洞察が失われており、周囲の状況については明らかに自覚していない。最終的に患者が死亡する時、死亡原因は大抵、栄養失調又は肺炎といった、他の極度に衰弱した患者において死を引き起こすのと同様の自然死に関連している。
【0009】
ハンチントン病に罹患している患者は、寿命が減少する傾向がある。ハンチントン病はそれ自体については致死的な疾患ではないが、患者はこの疾患に関連している、生命に関わる合併症によって死亡する傾向がある(Complications of Huntington’s Disease,Stephanie Liou,26 Jun,2010 Lifestyle and HD)。死亡原因で最もありふれたものは肺炎である。これは、ハンチントン病患者の死亡の約1/3の原因である。運動に同調する能力が悪化するにつれ、肺洗浄における困難さ及び食物又は飲料の両方を吸引するリスクの上昇により、肺炎に罹患するリスクが上昇する。死亡原因の第2位は、心疾患である。これは、ハンチントン病患者の死亡数のおよそ1/4の原因となっている。(Walker,「Huntington’s disease」,Lancet,(2007),369(9557),pp.218-228)。自殺は死亡数原因の第3位であり、HD患者の7.3%は自殺し、最大27%は自殺を企図している。そうした自殺念慮はこの疾患の後期を回避したいという患者の願望を示すものだが、自殺念慮は行動上の症状又は医薬品によってどの程度影響されているかは定かではない。
【0010】
加えて、HD患者は、非HDの集団よりも窒息及び呼吸器系合併症ならびに胃腸疾患(すい臓がんなど)の高い発症率を有している。
【0011】
アメリカ国立衛生研究所(NIH)の一部門であるアメリカ国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)によれば、ハンチントン病の進行を止める又は元に戻す方法は現在のところ存在しない。
【0012】
HDの治療法を開発するために複数の試みが行われてきており、Karpuj et alによるNature Medicine,February 2002,vol.8,no.2,pp.143-149中の一研究には、シスタミンの投与が挙げられている。明白なことには、シスタミンは、この疾患の原因であると考えられているハンチンチンタンパク質の凝集生成を促進する酵素である、トランスグルタミナーゼを不活性化する。とは言え現在では、出願人が認識する限り、ハンチントン病の進行を治療又は抑止するための、一般的に利用可能な薬剤は今のところ存在していない。現在の治療法は、こうした疾患に関連している発症率又は症状の重症度(振戦など)を低減できるが、この治療法が疾患それ自体の進行を停止又は遅延させることはない。
【0013】
ハンチントン病の原因となる遺伝子の発見(the Huntington’s Disease Collaborative Group,Cell,Vol.72,March 26,1993,p.971による論文を参照されたい)により、遺伝子の変異形態の存在に関する診断検査の開発が可能となった。IT-15遺伝子におけるCAGリピートの数を検出するポリメラーゼ診断反応(PCR)を利用する診断検査は、現在広く利用することが可能であり、これにより、患者がハンチントン病の症状が進行するかどうかを予測することが可能である。例えば、M.Hayden et alによる、Am.J.Hum.Genet.55:606-617(1994)といった総説、S.Herschによる「The Neurogenetics Genie:Testing for the Huntington’s disease mutation」、Neurol.1994;44:1369-1373といった論文、及びR.R.Brinkman et al.による「The likelihood of being affected with Huntington disease by a particular age,for a specific CAG size」,1997,Am.J.Hum.Genet.60:1202-1210といった論文を参照されたい。
【0014】
R6/1及びR6/2遺伝子導入マウスは、ハンチントン病を研究するために開発された最初の遺伝子導入マウスモデルであった(Robert J.Ferrante,Biochim.Biophys.Acta.,2009,506-520)。両分類はそれぞれ、約115及び約150のCAGリピートを有するヒトHD遺伝子のエクソン1を発現する。(Li et al.,「The Use of the R6 Transgenic Mouse Models of Huntington’s Disease in Attempts to Develop Novel Therapeutic Strategies」,NeuroRx,(2005),2(3),pp.447-464)。これらのマウスにおける導入遺伝子の発現はヒトハンチンチンプロモータによって駆動され、生じた導入遺伝子の発現レベルは、R6/1及びR6/2モデルにおいて、それぞれ内因性ハンチンチンの約31%~75%である。R6/2マウスはR6/1マウスよりも迅速に症状を発症し、脳内でハンチンチン封入体がより広範にわたって発生する。Ferranteは、近年の発見が、R6/2HDモデルは以前に考えられていたよりもヒトHDにより密接に対応している、進行性HDといった行動表現型及び神経病理的表現型を示すこと、及びR6/2モデルはハンチントン病に対する考えられる治療を検査するには適切なモデルであると示唆することに言及している。
【0015】
R6/2マウスは、およそ3週齢にて運動症状(例えば運動亢進)の最初の兆候を示している。R6/2マウスは最初に活動亢進する一方、約8週齢にて活動性が低下するようにその運動活動は徐々に低減する。8~12週齢にて、R6/2マウスは通常、極度に障害される。R6/2マウスは、野生型マウスと比較して寿命が短く、約13~16週齢(Li et al.,ibid)又は14~21週齢(Ferrante,idem)、又は最大25週齢(https://www.criver.com/products-services/discovery-services/vivo-pharmacology/rare-disease-pharmacology-models/vivo-models-huntingtons-disease/r62-mouse?region=3696)まで生存するが、ただし105~120日間の平均寿命であったと様々に報告されている。
【0016】
テトラベナジン(化学名:1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-9,10-ジメトキシ-3-(2-メチルプロピル)-2H-ベンゾ(a)キノリジン-2-オン)は、1950年代後半から医薬品として使用されている。テトラベナジンは最初は統合失調症治療薬として使用されていたが、現在はハンチントン病ならびにヘミバリズム、老人性舞踏病、チック、遅発性ジスキネジア及びトゥレット症候群を含む、運動亢進性運動障害を治療するために使用されている。例えば、Jankovic et al.,Am.J.Psychiatry.(1999)Aug;156(8):1279-81 and Jankovic et al.,Neurology(1997)Feb;48(2):358-62を参照されたい。
【0017】
テトラベナジンの一次薬理作用は、ヒト小胞モノアミントランスポータアイソフォーム2(hVMAT2)を阻害することによって、中枢神経系にてモノアミン(例えばドーパミン、セロトニン、及びノルアドレナリン)の供給を低減させることである。この薬物はまた、シナプス後ドーパミン受容体を遮断する。
【0018】
テトラベナジンの中枢効果は、レセルピンの効果と非常に近似しているが、VMAT1トランスポータにて活性を欠いているという点でレセルピンとは異なる。VMAT1トランスポータにおける活性の欠如は、テトラベナジンがレセルピンよりも少ない末梢活性を有し、その結果、血圧低下といったVMAT1関連の副作用を生じることがないということを意味している。
【0019】
テトラベナジンは、2001年にハンチントン病に関連している舞踏運動の治療を目的として認可され(P.Diana,Neuropsychiatric Disease and Treatment,2007:3(5)545-551)、ハンチントン病に罹患している患者の治療を目的として、商標名XENAZINE(登録商標)にて2008年8月から販売されている。ただし、XENAZINEは舞踏運動の治療、すなわちこの疾患の症状のみに指示されたものであり(https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2008/021894lbl.pdf)、疾患の根底となる原因に向けられたものではない。Dianaによれば、この疾患の経過を治療又は遅延させることのできる治療は存在しておらず、利用可能な治療は、HDから生じるうつ病、精神障害及び舞踏運動の回復を主に目的としている。
【0020】
更に最近では、デュウテトラベナジン(2つのメトキシ基上の6個の水素原子が重水素と全て置換されているテトラベナジンの一形態)も又はンチントン病に関連している舞踏運動の治療のために認可されている。
【0021】
Wang et al.,(Molecular Neurodegeneration 2010,5:18(http://www.molecular neurodegeneration.com/content/5/1/18)は、テトラベナジンがハンチントン病のマウスにて神経保護していることを開示している。ただし、Wangらは治療された及び治療されなかったマウスの死亡数を検討することはせず、実験動物は行動検査の終局後、13月齢時点で全て終末麻酔を施された。
【0022】
テトラベナジンは、種々の運動亢進性運動障害の治療にとっては効果的かつ安全な薬物であるが、通常の神経遮断薬とは対照的に、遅発性ジスキネジアを引き起こすとは示されていない。それにも関わらず、テトラベナジンは、うつ病、パーキンソン病、眠気、神経過敏又は不安、不眠症及び稀な場合、悪性症候群を引き起こすことを含む、多数の用量関連の副作用を示す。例えば、国際公開2016/127133号(Neurocrine Biosciences)の序章部分を参照されたい。
【0023】
テトラベナジンの化学構造は、以下に示す通りである。
【化1】
【0024】
この化合物は、3及び11bの炭素原子にてキラル中心を有し、それ故に、以下に示されるように、理論的には合計で4つの異性体形態にて存在することができる。
【化2】
【0025】
カーン・インゴルド・プレローグ順位則によって示された「R及びS」命名法を用いて、各異性体の立体選択性が定義されており、これはJerry MarchによるAdvanced Organic Chemistry,4th Edition,John Wiley&Sons,New York,1992,pages 109-114を参照されたい。本出願では、「R」又は「S」という指示は、炭素原子の位置名の順に付与されている。したがって、例えばRSは、3R、11bSといった略記である。同様に、以下に記載されているジヒドロテトラベナジン中のもののように3つのキラル中心が存在している場合、「R」及び「S」という指示は、2、3及び11bの炭素原子の順に列挙されている。したがって、2R、3S、11bS異性体は、RSSなどといった略記にて指示されている。
【0026】
市販で入手可能なテトラベナジンは、RR異性体及びSS異性体のラセミ混合物であり、RR異性体及びSS異性体が熱力学的に最も安定した異性体であることを表し得る。
【0027】
テトラベナジンは、多少不十分であり、かつばらつきのあるバイオアベイラビリティを有する。これは初回通過代謝によって大幅に代謝され、通常、尿中ではほとんど変化していない又は全く変化していない状態のテトラベナジンが検出される。テトラベナジンの代謝物の少なくとも一部は、テトラベナジンの2-ケト群の還元によって形成されたジヒドロテトラベナジンであることが知られている。
【0028】
ジヒドロテトラベナジン(化学名:2-ヒドロキシ-3-(2-メチルプロピル)-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-9,10-ジメトキシ-ベンゾ(a)キノリジン)は、3つのキラル中心を有し、それにより以下の8つの光学異性体形態のうちいずれかで存在し得る。
【化3】
【0029】
8つのジヒドロテトラベナジン異性体全ての合成と特徴付けは、Sun et al.(Eur.J.Med.Chem.(2011),1841-1848)に記載されている。
【0030】
8つのジヒドロテトラベナジン異性体のうち、4つの異性体は親テトラベナジンのRR異性体及びSS異性体から誘導されており、RRR異性体、SSS異性体、SRR異性体及びRSS異性体と命名されている。
【0031】
RRR異性体及びSSS異性体は、「アルファ(α)」ジヒドロテトラベナジンと一般的には称されており、それぞれ(+)-α-ジヒドロテトラベナジン及び(-)-α-ジヒドロテトラベナジンと個別には称され得る。α異性体は、2位置及び3位置にて、ヒドロキシ及び2-メチルプロピル置換基の相対的なトランス配向によって特徴付けられている。例えば、Kilbourn et al.,Chirality,9:59-62(1997)及びBrossi et al.,Helv.Chim.Acta.,vol.XLI,No.193,pp1793-1806(1958)を参照されたい。
【0032】
SRR異性体及びRSS異性体は、「ベータ(β)」異性体として一般的には称されており、それぞれ(+)-β-ジヒドロテトラベナジン及び(-)-β-ジヒドロテトラベナジンと個別には称され得る。β異性体は、2位置及び3位置にて、ヒドロキシ及び2-メチルプロピル置換基の相対的なシス配向によって特徴付けられている。
【0033】
上記のように、テトラベナジンはうつ病及びパーキンソン病を引き起こすことを含む、多数の用量関連の副作用を示すことで知られている(国際公開2016/127133号を参照されたい)。これらの副作用はまた、VMAT2阻害によっても引き起こされ得、このことからこうした副作用とテトラベナジン及びテトラベナジン誘導化合物の治療効果を分離させることが困難であると考えられている(Muller,「Valbenazine granted breakthrough drug status for treating tardive dyskinesia」,Expert Opin.Investig.Drugs(2015),24(6),pp.737-742を参照されたい)。
【0034】
テトラベナジンに関連している副作用を回避又は低減する試みとして、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンのバリンエステルプロドラッグが開発されており、これはValbenazineといった国際一般名で公知である。Valbenazineの構造を以下に示す:
【化4】
【0035】
2017年に、Valbenazineは遅発性ジスキネジアの治療に使用することを目的として認可された。遅発性ジスキネジアの治療に使用することを前提として、Valbenazineは他のVMAT2介在疾患の治療に有用でもあり得ることが示唆されている。ただし、現在に至るまで、ハンチントン病を治療する場合のValbenazineの使用に関連している臨床研究は公開されていない。
【0036】
国際公開2007/007105号(Cambridge Laboratories(Ireland)Limited)は、ハンチントン病の1つ又は複数の症状の進行を停止又は遅延させるためのジヒドロテトラベナジン(テトラベナジンの代謝によってインビボで産生されたわけではない、ジヒドロテトラベナジンの異性体)のSSR異性体に関する研究を記載している。ただし、国際公開2007/007105号における実験結果には、実験動物の死亡数に関するデータは何ら含まれておらず、それ故に国際公開2007/007105号からは、動物の寿命に関するこの化合物の効果に関して、何の結論も引き出すことができていない。
【0037】
国際公開2006/053067号(Prestwick Pharmaceuticals,Inc.)は、ハンチントン病として与えられている例である、運動亢進性障害を治療するためのアマンタジンとテトラベナジン化合物の組合せを開示している。ジヒドロテトラベナジンは、テトラベナジン化合物の例として開示されており、一実施形態では、テトラベナジン化合物は(+)-α-ジヒドロテトラベナジンである。国際公開2006/053067号には、生物学的データが一切示されていない。実験部分は、アマンタジン単独、テトラベナジン単独、及びアマンタジンとテトラベナジンを合わせたもので治療された患者における、舞踏運動の絶対的な低減を比較しようと意図された研究についてのプロトコルを単に提示しただけであり、実験結果は何ら含まれていない。
【0038】
本出願人が認識する限り、現在に至るまで、ハンチントン病を治療する際の(+)-α-ジヒドロテトラベナジンの効果又はこの疾患に関連している症状(舞踏運動など)の管理を示す研究は存在していない。
【発明の概要】
【0039】
テトラベナジンは現在、ハンチントン病(舞踏運動など)に関連している症状の発症率及び/又は重症度を低減するのに使用されている一方、この物質は疾患自身を治療するわけではなく、それ故にテトラベナジンは患者の予後に関して有意な効果を有するわけではない。
【0040】
ただし、ここで驚くべきことに、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンで治療されたR6/2マウスは、治療されていないコントロールR6/2マウス及びテトラベナジンで治療されたR6/2マウスと比較して寿命を延ばしたことが判明した。
【0041】
こうした発見に基づくと、ハンチントン病に関連している症状を管理するためだけでなく、哺乳動物におけるこの疾患の寿命短縮の病態を低減するためにも、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン及び他の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体は有用であると想定される。
【0042】
後期ハンチントン病、及び/又は後期ハンチントン病の間に通常は示される生命を脅かす症状もしくは事象の発症を防止又は遅延させるという点で、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン及び他の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体が有用であることもまた想定される。
【0043】
したがって、第1の実施形態では、本発明は哺乳動物におけるハンチントン病における寿命短縮の病態を低減するのに使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を提供する。
【0044】
別の実施形態では、本発明は、後期ハンチントン病の発症を防止又は遅延させるのに使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を提供する。
【0045】
別の実施形態では、本発明は、後期ハンチントン病の間に示される生命を脅かす症状又は事象の発症を防止又は遅延させるのに使用するための、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を提供する。
【0046】
本発明にて使用されている用語(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体は、右旋性(+)の光学活性を有するそれらの異性体を指す。こうした活性は標準的な方法によって計測されることができる。右旋性の光学活性を有する(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体は分子の11b位置にてR構成を有するそれらの異性体、すなわち上記のRRR異性体、SRR異性体、SSR異性体及びRSR異性体であると考えられている。
【0047】
本発明の前述及び以下の実施形態のそれぞれにて使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体の1つのサブセットは、3位置及び11b位置での水素原子が、相対的なトランス構成にある異性体、すなわち、RRR異性体((+)-α-ジヒドロテトラベナジン)及びSRR異性体((+)-β-ジヒドロテトラベナジン)からなる。
【0048】
本発明の前述及び以下の実施形態のそれぞれにて使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体の別のサブセットは、3位置及び11b位置での水素原子が、相対的なシス構成にある異性体、すなわち、SSR異性体及びRSR異性体からなる。
【0049】
前述及び以下の実施形態内での特定の下位実施形態では、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体は、RRR異性体((+)-α-ジヒドロテトラベナジン)である。
【0050】
前述及び以下の実施形態内での別の特定の下位実施形態では、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体は、SRR異性体((+)-β-ジヒドロテトラベナジン)である。
【0051】
別の実施形態では、本発明は哺乳動物におけるハンチントン病における寿命短縮の病態を低減する方法を提供し、この方法は有効量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を、その必要がある哺乳動物の対象に投与することを含む。
【0052】
別の実施形態では、本発明は哺乳動物におけるハンチントン病における寿命短縮の病態を低減するための医薬品の製造のための、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩の使用を提供する。
【0053】
上記のように、ハンチントン病は4p16.3染色体短腕に位置付けられているIT15遺伝子における複数のCAGリピートによって引き起こされる。したがって、更なる実施形態では、
・疾患が哺乳動物のIT15遺伝子における変異によって特徴付けられている、哺乳動物におけるこの疾患の寿命短縮の病態を低減するのに使用するための、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩、
・哺乳動物のIT15遺伝子における変異によって特徴付けられている哺乳動物におけるこの疾患の寿命短縮の病態を低減する方法であって、有効量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を、その必要のある哺乳動物の対象に投与することを含む、方法、
・疾患が哺乳動物のIT15遺伝子における変異によって特徴付けられている、哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態を低減するための医薬品の製造における、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容される塩の使用、を提供する。
【0054】
この疾患の寿命短縮の病態は、疾患のモデルを保有している遺伝子改変された実験動物(例えば上にて記載されたR6/2HDモデルなどのマウスモデル)の寿命と、野生型動物とを比較することによって示され得る。(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩の寿命短縮低減効果は、疾患に罹患している又はその適切なモデルであるが、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩でこれまで治療されていない、哺乳動物のコントロール群の平均生存期間に対して、疾患に罹患している又はその適切なモデルであり、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩で治療されている群の平均生存期間を比較することによって表され得る。
【0055】
更なる実施形態では、
・変異によりIT15遺伝子において36以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において38以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において40以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において42以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において44以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において46以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において48以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において50以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において52以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、
・変異によりIT15遺伝子において54以上のCAGリピートを生じる、使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、上記のような方法又は使用、もまた提供する。
【0056】
IT15遺伝子はハンチンチンタンパク質をコードしており、これによりIT15における変異(及び特に過度のCAGリピート)は、ハンチンチンタンパク質の変異形態を生じる。したがって、更なる実施形態では、
・疾患がハンチンチンタンパク質の変異形態の存在によって特徴付けられている、哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態を低減するのに使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩、
・疾患がハンチンチンタンパク質の変異形態の存在によって特徴付けられている、哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態を低減する方法であって、有効量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を、その必要がある哺乳動物の対象に投与することを含む、方法、
・疾患がハンチンチンタンパク質の変異形態の存在によって特徴付けられている、哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態を低減するための医薬品の製造における(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容される塩の使用、
・疾患がハンチンチンタンパク質の変異形態の存在によって引き起こされる、哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態を低減するのに使用するための、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩、
・疾患がハンチンチンタンパク質の変異形態の存在によって引き起こされる、哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態を低減する方法であって、有効量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を、その必要がある哺乳動物の対象に投与することを含む、方法、
・疾患がハンチンチンタンパク質の変異形態の存在によって引き起こされる、哺乳動物における疾患の寿命短縮の病態を低減するための医薬品の製造における(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容される塩の使用、を提供する。
【0057】
上記実施形態では、ハンチンチンタンパク質の変異形態は、ハンチンチンタンパク質をコードしているIT15遺伝子におけるCAGリピートの数(上記にあるような)から生じ得る。例えば、ハンチンチンタンパク質の変異形態は、IT-15遺伝子にて、38以上、40以上、42以上、44以上、46以上、48以上、50以上、52以上又は54以上のCAGリピートが存在することによって生じ得る。
【0058】
更なる実施形態では、
・患者においてハンチントン病の進行を遅延又は停止させるのに使用するための、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩、
・患者においてハンチントン病の進行を遅延又は停止させる方法であって、有効量の(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩を患者に投与することを含む、方法、
・患者においてハンチントン病の進行を遅延又は停止させるための医薬品の製造における、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩の使用、を提供する。
【0059】
更なる実施形態では、
・患者においてハンチントン病に関連している1つ又は複数の症状の発症率又は重症度を低減するのに使用するための(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩、
・患者においてハンチントン病に関連している1つ又は複数の症状の発症率又は重症度を低減する方法であって、有効量の(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩を患者に投与することを含む、方法、
・ハンチントン病に関連している1つ又は複数の症状の発症率又は重症度を低減するのに使用するための医薬品の製造における、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容される塩の使用、
・患者においてハンチントン病に関連している1つ又は複数の症状の進行を停止又は遅延させるのに使用するための、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩、
・患者においてハンチントン病に関連している1つ又は複数の症状の進行を停止又は遅延する方法であって、有効量の(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容されるその塩を患者に投与することを含む、方法、
・患者においてハンチントン病に関連している1つ又は複数の症状の進行を停止又は遅延させる医薬品の製造における、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は薬学的に許容される塩の使用、を提供する。
【0060】
1つ又は複数の症状は、不随意舞踏運動、振戦、単収縮及び歩行運動の退化から選択され得る。
【0061】
代替的又は追加的には、症状は、後期ハンチントン病にて通常遭遇するものといったような、生命を脅かす症状又は事象であり得る。
【0062】
後期ハンチントン病にて遭遇する生命を脅かす症状又は事象により、筋肉制御の損失、それに付随する対象の運動制御の不能、及び/又は自発運動の損失が通常では生じる。運動制御の不能は、肺洗浄の不能及び食物又は飲料の吸引によるリスクの上昇から肺炎へとつながり得る。運動制御の不能によって深刻な嚥下障害も生じることがあり、その後飲食の不能が生じ、結果として場合によっては栄養失調へとつながる。ハンチントン病の患者はまた、窒息及び胃腸疾患(すい臓がんなど)の高い発症率も有している。
【0063】
後期ハンチントン病で多くの場合遭遇する他の生命を脅かす症状又は事象は、心疾患に関連しているものを含む。
【0064】
したがって、こうした症状又は事象の発症を防止又は遅延する能力により、疾患を有する患者の平均寿命は上昇する。
【0065】
本発明に従ってその発症を防止又は遅延させることができると想定される、生命を脅かす症状又は事象の特定の群は、
・肺洗浄の不能により発生する肺炎、ならびに/又は
・嚥下不能から生じる栄養失調及び/もしくは急性脱水症状、ならびに/又は
・窒息、ならびに/又は
・心疾患といった生命を脅かす症状からなる。
【0066】
特定の実施形態では、生命を脅かすものであって、本発明に従ってその発症を防止又は遅延させることができると想定される症状は、移動不能又は筋肉制御の提示不能、協調運動の不能、又は自発運動の実施不能から生じる症状である。こうした症状又は事象の例には、上記のような肺炎、窒息及び栄養失調が挙げられる。
【0067】
したがって更なる実施形態では、本発明は、
・対象にてハンチントン病に関連している1つ又は複数の生命を脅かす症状又は事象の発症を防止又は遅延させるのに使用するための、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩、
・対象にてハンチントン病に関連している1つ又は複数の生命を脅かす症状又は事象の発症を防止又は遅延させる方法であって、有効量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を対象に投与することを含む、方法、
・対象にてハンチントン病に関連している1つ又は複数の生命を脅かす症状又は事象の発症を防止又は遅延させるための医薬品の製造における、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容される塩の使用、
・ハンチントン病に罹患している対象における平均寿命の増加に使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩、
・ハンチントン病に罹患している対象における平均寿命を増加する方法であって、有効量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を対象に投与することを含む、方法、
・ハンチントン病に罹患している対象における平均寿命を増加させるための医薬品の製造における、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容される塩の使用、を提供する。
【0068】
以下の例1にて表されている実験結果は、ハンチントン病に関連している振戦を低減する(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)の効果を表している。したがって、本発明の特定の実施形態では、この患者におけるハンチントン病に関連している、停止又は遅延される症状は振戦である(又は振戦を含む)。
【0069】
更なる実施形態では、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、0.5mg~500mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、0.5mg~400mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、0.5mg~300mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、0.5mg~250mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、10mg~500mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、20mg~500mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、50mg~500mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、20mg~400mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、50mg~400mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、50mg~300mgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、0.5mg/kg~5mg/kgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、1mg/kg~5mg/kgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、1mg/kg~4mg/kgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、1.5mg/kg~3.5mg/kgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、
・使用するための(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)、1.5mg/kg~3mg/kgの量で(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)を哺乳動物に投与することを含む、本明細書に記載の方法又は使用、もまた提供する。
【0070】
上記での所与の量は、通常、投与される1日あたりの量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体である。
【0071】
本明細書に記載の実施形態では、本発明に従って治療される対象は、通常は哺乳動物である。この哺乳動物は、マウス及びラットといった非ヒト哺乳動物であってよく、又は例えばヒトであってもよい。
【0072】
(+)-α-ジヒドロテトラベナジンは、以下の式(I)に示された化学構造を有すると考えられている。
【化5】
【0073】
したがって、別の実施形態では、本発明は本明細書に定義されているような発明を提供し、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンは、式(I)に示された化学構造を有する。
【0074】
(+)-β-ジヒドロテトラベナジンは、以下の式(II)に示された化学構造を有すると考えられている。
【化6】
【0075】
したがって、別の実施形態では、本発明は本明細書に定義されているような発明を提供し、(+)-β-ジヒドロテトラベナジンは、式(II)に示された化学構造を有する。
【0076】
上記実施形態のそれぞれにて、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩は、通常60%超の異性体純度を有する。
【0077】
本発明の文脈における用語「異性体純度」は、すなわち、所与の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)に関連して使用される場合には、これは、合計量に対する存在する(+)-α-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン((+)-α-DHTBZ)))の量、又は全ての異性体形態のジヒドロテトラベナジンの濃度を指す。例えば、組成物中に存在する全ジヒドロテトラベナジンの90%が(+)-α-DHTBZジヒドロテトラベナジンである場合、異性体純度は90%である。
【0078】
したがって、発明の更なる実施形態では、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が60%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が65%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が70%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が75%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が80%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が85%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が90%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が91%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が92%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が93%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が94%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が95%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が96%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が97%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が98%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が99%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が99.5%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-DHTBZ又は(+)-β-DHTBZ)が99.9%超の異性体純度を有する、本明細書に定義されるような発明、を提供する。
【0079】
(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は(+)-β-ジヒドロテトラベナジン)の投与前に、ハンチンチン遺伝子における複数のCAGリピートの存在によって特徴付けられている症状の疾患に患者が罹患しているかどうかを判定するために、患者はスクリーニングされてよい。こうしたスクリーニング検査は、ポリメラーゼ診断反応(PCR)を利用してIT-15遺伝子におけるCAGリピートの数を検出し、患者がハンチントン病の症状が進行するかどうかを予測することができるよう、広く利用可能である。(例えば、M.Hayden et alによる、Am.J.Hum.Genet.55:606-617(1994)といった総説、S.Herschによる「The Neurogenetics Genie:Testing for the Huntington’s disease mutation」、Neurol.1994;44:1369-1373といった論文、及びR.R.Brinkman et al.による「The likelihood of being affected with Huntington disease by a particular age,for a specific CAG size」、1997、Am.J.Hum.Genet.60:1202-1210といった論文を参照されたい。)
【0080】
したがって更なる実施形態では、本発明は、
・スクリーニングされ、IT-15遺伝子における36以上のCAGリピートの存在によって特徴付けられる疾患に罹患しているか、又は疾患に罹患しているリスクがあるとして判定された患者において、疾患の寿命短縮の病態を低減するのに使用するための、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジンもしくは(+)-β-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩、
・スクリーニングされ、IT-15遺伝子における36以上のCAGリピートの存在によって特徴付けられる疾患に罹患しているか、又は疾患に罹患しているリスクがあるとして判定された患者において、疾患の寿命短縮の病態を低減するための医薬品の製造における、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジンもしくは(+)-β-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩の使用、
・診断方法及びIT-15遺伝子における36以上のCAGリピートの存在によって特徴付けられている疾患の寿命短縮の病態を低減するための方法であって、(i)この患者が罹患している又は罹患している可能性がある疾患が、IT-15遺伝子上の36以上のCAGリピートの存在によって特徴付けられる疾患であるかどうかを判定するために、患者をスクリーニングすること、及び(ii)疾患がそのようなものであると特徴付けられることが示された場合、その後にこの患者に有効量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は(+)-β-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を投与することを含む、方法、を提供する。
【0081】
この疾患は、IT-15遺伝子において38以上、40以上、42以上、44以上、46以上、48以上、50以上、52以上又は54以上のCAGリピートが存在していることによって特徴付けられてよい。一実施形態では、この疾患はハンチントン病である。
【0082】
遅発性ジスキネジアに罹患している統合失調症の患者においても、平均寿命の減少が報告されている(H.Inada et al.,による「The life expectancy of schizophrenic patients with tardive dyskinesia」と題された論文(Human Psychopharmacology:Clinical&Experimental,July/August 1992)を参照されたい)。本明細書に開示されているように、ハンチントン病を治療することに加え、ジヒドロテトラベナジン異性体は遅発性ジスキネジアといった他の運動障害を治療するのにも使用され得る(本明細書にその全体の内容が組み入れられている、本発明者らによる国際特許出願番号PCT/EP2018/058069、PCT/EP2018/05109及びPCT/EP2018/058088を参照されたい)。運動障害疾患(ハンチントン病に関連している本明細書に例示されている)において寿命短縮の病態の低減を引き起こす(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体の能力は、他の運動障害疾患にも適用することができ、特に遅発性ジスキネジアに罹患している統合失調症患者に適用可能であると想定される。
【0083】
したがって、更なる実施形態では、本発明は、統合失調症患者において遅発性ジスキネジアの寿命短縮の病態を低減するのに使用するための、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンもしくは(+)-β-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を提供する。
【0084】
別の実施形態では、本発明は統合失調症患者において遅発性ジスキネジアの寿命短縮の病態を低減する方法を提供し、この方法は、その必要がある患者に、有効量の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩を投与することを含む。
【0085】
別の実施形態では、本発明は、統合失調症患者において遅発性ジスキネジアの寿命短縮の病態を低減するための医薬品の製造のための、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンもしくは(+)-β-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩の使用を提供する。
【0086】
前述の3つの実施形態にて使用されている(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩の量は、ハンチントン病の治療に関連して以下又は上記のものである。
【0087】
本発明の前述の各態様及び各実施形態では、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩は、通常はアマンタジン又はその塩と組み合わせて使用されることはない。したがって、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)又は薬学的に許容されるその塩は、ハンチントン病に罹患している、又は上記のようなハンチントン病もしくは任意の他の治療目的に関するマーカのいずれかを保有している患者に、アマンタジン又はその塩と共に同時又は経時的のいずれかで投与されることは通常ではない。
【0088】
薬学的に許容される塩
文脈が別途要求しない限り、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は(+)-β-ジヒドロテトラベナジン)への本出願の言及は、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)の遊離塩基だけでなく、その塩、特に酸付加塩もこの範囲内で含んでいる。
【0089】
したがって、更なる実施形態では、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)が遊離塩基形態であるような、本明細書に記載の発明、
・(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)が薬学的に許容される塩形態であるような、本明細書に記載の発明、
・薬学的に許容される塩が、酸付加塩であるような、本明細書に記載の発明、を提供する。
【0090】
酸付加塩は、無機酸又は有機酸の両方といった、種々の酸によって形成されている。本発明の化合物の塩形態は、薬学的に許容される塩であり、薬学的に許容される塩の例は、Berge et al.,1977,「Pharmaceutically Acceptable Salts」,J.Pharm.Sci.,Vol.66,pp.1-19に記載されている。
【0091】
酸付加塩を形成している特定の酸には、3.5未満のpKa値及び更に通常では3未満のpKa値を有する酸が挙げられる。例えば、酸付加塩は、+3.5~-3.5の範囲であるpKaを有する酸から形成され得る。
【0092】
本明細書に記載の方法によって又はPharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,P.Heinrich Stahl(Editor),Camille G.Wermuth(Editor),ISBN:3-90639-026-8,Hardcover,388 pages,August 2002に記載の方法といった従来の化学的方法によって、酸付加塩は調製され得る。一般には、こうした塩は、水又は有機溶媒又はこの2つの混合物中の適切な塩基又は酸を有する化合物の遊離塩基形態と反応させることによって調製され得る。一般には、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール又はアセトニトリルといった非水性媒体が使用される。
【0093】
酸付加塩の特定の例としては、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸及びコハク酸からなる群から選択される酸を用いて形成される塩が挙げられる。こうした塩は、その内容が参照として本明細書に組み入れられている、本発明者らの国際特許出願である国際公開2018/178251号に記載されている方法によって形成され得る。
【0094】
一実施形態では、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンは、より高く増強された可溶性及び優れた熱安定性を理由に、コハク酸塩として患者に投与される。これは、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンの遊離塩基及び他の塩と比較すると多形を形成する傾向が低い。
【0095】
同位体
(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)は、1つ又は複数の同位体置換基を含んでいてよく、特定の元素への言及は、この元素の全ての同位体をこの範囲内で含む。例えば、水素への言及は1H、2H(D)、及び3H(T)をこの範囲内で含む。同様に、炭素及び酸への言及は、それぞれ11C、12C、13C及び14Cならびに16O及び18Oを含む。
【0096】
類似の方法では、特定の官能基への言及は、文脈が他の場合を指示しない限り、同位体の変化もまた含む。
【0097】
例えば、エチル基といったアルキル基への言及は、例えば、内部の5つ全ての水素原子が重水素同位体形態(ペルジュウテロエチル基)であるエチル基などのように、この基の1つ又は複数の水素原子が重水素又は三重水素同位体形態にあるという変化もまた包含する。
【0098】
同位体は放射性又は非放射性であってよい。本発明の一実施形態では、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)は、放射性同位体を含有しない。こうした化合物は治療用途に好ましい。ただし別の実施形態では、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)は、1つ又は複数の放射性同位体を含有してよい。こうした放射性同位体を含有している化合物は、診断といった状況下にて有用であり得る。
【0099】
本発明の前述の各実施形態のうち、1つのサブセットでは、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)は、存在している1つ又は両方のメトキシ基がトリジュウテロメトキシ基によって置換されているもの以外であってよい。
【0100】
溶媒和物
(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)は、溶媒和物を形成してよい。
【0101】
好ましい溶媒和物は、非毒性の薬学的に許容される溶媒の分子が、本発明の化合物の固体状態の構造(例えば結晶構造)へと組み入れられることによって形成された溶媒和物である(これは以下にて溶媒和溶媒として称される)。こうした溶媒の例には、水、アルコール(例えばエタノール、イソプロパノール及びブタノール)ならびにジメチルスルホキシドを含む。溶媒和物は、溶媒又は溶媒和溶媒を含有している溶媒の混合物を有する本発明の化合物を再結晶化することで調製され得る。溶媒和物が任意の所与の例にて形成されたかどうかは、熱重量分析(TGE)、示差走査熱量測定(DSC)及びX線結晶構造解析といった周知かつ標準的な技術を用いて、この化合物の結晶を解析することにより判定され得る。
【0102】
溶媒和物は化学量論的又は非化学量論的溶媒和物であり得る。
【0103】
特に好ましい溶媒和物は水和物であり、水和物の例には半水和物、一水和物及び二水和物を含む。
【0104】
溶媒和物ならびに溶媒和物を作製及び特徴付けするのに使用される方法のより詳細な記述については、Bryn et al.,Solid-State Chemistry of Drugs,Second Edition,published by SSCI,Inc of West Lafayette,IN,USA,1999,ISBN 0-967-06710-3を参照されたい。
【0105】
代替的には、水和物として存在する以外に、本発明の化合物は、無水和物であってよい。したがって、別の実施形態では、(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば(+)-α-ジヒドロテトラベナジン)は無水和物形態である。
【0106】
(+)-α-ジヒドロテトラベナジン及び(+)-β-ジヒドロテトラベナジンの調製方法
(+)-α-ジヒドロテトラベナジン及び他の(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体は、Yao et al.,「Preparation and evaluation of tetrabenazine enantiomers and all eight stereoisomers of dihydrotetrabenazine as VMAT2 inhibitors」,Eur.J.Med.Chem.,(2011),46,pp.1841-1848にしたがって調製され得る。
【0107】
(+)-α-ジヒドロテトラベナジン(式(I)の化合物)はまた、スキーム1に示されている合成経路に従ってテトラベナジンから調製され得る。
【化7】
【0108】
テトラベナジンのRR異性体及びSS異性体を含有するラセミテトラベナジン(3-イソブチル-9,10-ジメトキシ-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-2H-ピリド[2,1,a]イソキノリン-2-オン)は、水酸化ホウ素ナトリウムによって還元され、α-ジヒドロテトラベナジン(RRR異性体及びSSS異性体)のラセミ混合物が主要な生成物を構成し、β-ジヒドロテトラベナジン(SRR異性体及びRSS異性体)のラセミ混合物が微量の生成物を構成する4つのジヒドロテトラベナジン異性体の混合物を与える。β-ジヒドロテトラベナジンは、初期の精製手順中に、例えばクロマトグラフィ又は再結晶によって除去及び単離され得、その後ラセミα-ジヒドロテトラベナジンを分割(例えば、ジ-p-トルオイル-L-酒石酸もしくは(R)-(-)-カンファスルホン酸を用いた再結晶によって、又はキラルクロマトグラフィによって)し、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン(I)((2R,3R,11bR)-3-イソブチル-9,10-ジメトキシ-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-2H-ピリド[2,1,a]イソキノリン-2-オール)を提供する。例えば結晶形態のコハク酸塩などの塩の形成及びX線結晶構造解析によって特定された構造により、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンの立体化学構成は判定され得る。
【0109】
(+)-β-ジヒドロテトラベナジン(式(II)の化合物)はまた、スキーム2に示されている合成経路に従ってテトラベナジンから調製され得る。
【化8】
【0110】
テトラベナジンのRR異性体及びSS異性体を含有するラセミテトラベナジン(3-イソブチル-9,10-ジメトキシ-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-2H-ピリド[2,1,a]イソキノリン-2-オン)は、水酸化ホウ素ナトリウムによって還元され、β-ジヒドロテトラベナジン(SRR異性体及びRSS異性体)のラセミ混合物が主要な生成物を構成し、α-ジヒドロテトラベナジン(RRR異性体及びSSS異性体)のラセミ混合物が微量の生成物を構成する4つのジヒドロテトラベナジン異性体の混合物を与える。α-ジヒドロテトラベナジンは、初期の精製手順中に、例えばクロマトグラフィ又は再結晶によって除去され得、その後ラセミβ-ジヒドロテトラベナジンを分割(例えば、ジ-p-トルオイル-L-酒石酸もしくは(R)-(-)-カンファスルホン酸を用いた再結晶によって、又はキラルクロマトグラフィによって)し、(+)-β-ジヒドロテトラベナジン(III)((2S,3R,11bR)-3-イソブチル-9,10-ジメトキシ-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-2H-ピリド[2,1,a]イソキノリン-2-オール)を提供する。例えば結晶形態のメシル酸塩などの塩の形成及びX線結晶構造解析によって特定された構造により、(+)-β-ジヒドロテトラベナジンの立体化学構成は判定され得る。
【0111】
薬学的製剤及び治療方法
(+)-ジヒドロテトラベナジン異性体(例えば、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン又は(+)-β-ジヒドロテトラベナジン)は、純粋化合物として患者に投与され得るが、更に通常では、その物質は薬学的組成物の形態にて投与される。
【0112】
本発明の薬学的組成物は、経口投与、非経口投与、局所投与、鼻腔内投与、気管支内投与、点眼投与、耳内投与、直腸内投与、膣内投与、又は経皮投与に適した任意の形態であり得る。この製剤が経口投与を意図したものである場合、この製剤は胃腸管への送達のため、又は経粘膜での送達(例えば舌下投与又は頬側投与による)のために処方され得る。この組成物が非経口投与を意図したものである場合、この組成物は、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与のために、又は注射、点滴もしくは他の送達手段によって標的器官又は組織へと直接送達するために処方され得る。
【0113】
経口投与に適した薬学的剤形は、錠剤、カプセル剤、カプレット、ピル、トローチ、シロップ、溶液、スプレー、粉末、顆粒、エリキシル剤及び懸濁剤、舌下錠剤、舌下スプレー、オブラート又はパッチ及び頬側パッチを含む。
【0114】
本発明のジヒドロテトラベナジン化合物を含有する薬学的組成物は、公知の技術に従って処方され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PA,USAを参照されたい。
【0115】
したがって錠剤組成物は、例えばラクトース、スクロース、ソルビトール、もしくはマンニトールなどの糖又は糖アルコール、及び/又は炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、タルク、炭酸カルシウムといった非糖誘導希釈剤、又はセルロース、もしくはメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースといったその誘導体、及びコーンスターチといったスターチといった不活性希釈剤又は不活性担体と共に、活性化合物の単位剤形を含み得る。錠剤はまた、ポリビニルピロリドンなどの結合剤及び造粒剤、崩壊剤(例えば架橋カルボキシメチルセルロースといった膨潤可能な架橋ポリマー)、潤滑剤(例えばステアリン酸塩)、保存剤(例えばパラベン)、抗酸化剤(例えばBHT)、緩衝剤(例えばリン酸塩又はクエン酸塩緩衝剤)、及びクエン酸塩/重炭酸塩混合物といった発泡剤などの標準的な成分も含有し得る。こうした賦形剤は周知であり、ここで詳細に記述する必要はない。
【0116】
カプセル製剤は、硬質ゼラチン又は軟質ゼラチンといった種類のものであってよく、固体状、半固体状、又は液状で活性成分を含有し得る。ゼラチンカプセルは、動物性ゼラチン又は合成由来又は植物由来のその等価物から形成され得る。
【0117】
固体剤形(例えば錠剤、カプセル剤など)は、コーティングされていてもコーティングされていなくてもよい。ただし、通常は例えば保護フィルムコーティング(例えばワックス又はワニス)又は放出制御コーティングといったコーティングを有している。コーティング(例えばEudragit(商標)型ポリマー)は、胃腸管内部の所望位置にて活性成分を放出するように設計され得る。したがって、コーティングは胃腸管内部の特定のpH条件の下で分解するように選択され得る。これにより、胃又は回腸又は十二指腸内部でこの化合物を選択的に放出する。
【0118】
この薬物は、コーティングの代わりに、又はこれに加えて、例えば放出遅延剤といった放出制御剤を含む固体マトリックス中に存在することができ、胃腸管にて酸性度又はアルカリ度が変化する状況の下で化合物を選択的に放出するように適応され得る。代替的には、マトリックス材料又は放出遅延コーティングは、剤形が胃腸管を通過するにつれて実質的には継続的に浸食される浸食可能ポリマー(例えば無水マレイン酸)の形態をとることができる。
【0119】
局所使用のための組成物は、軟膏、クリーム、スプレー、パッチ、ゲル、液状ドロップ及び挿入物(例えば眼内挿入物)を含む。こうした組成物は、公知の方法に従って処方され得る。
【0120】
非経口投与のための組成物は、滅菌水溶液もしくは油性溶液又は微細懸濁液として通常存在しているか、又は注射のための滅菌水を用いて即時に作製するための微細に分割された滅菌粉末形態にて提供され得る。
【0121】
直腸内投与又は膣内投与のための製剤の例には、例えば、活性化合物を含有する、成形された変形可能材料又は蝋質材料から形成され得るペッサリー及び坐薬が含まれる。
【0122】
吸入による投与のための組成物は、吸入可能な粉末組成物又は液体又は粉末スプレーの形態をとり得る。又は、粉末吸入デバイス又はエアロゾル調剤デバイスを用いた標準形態にて投与され得る。こうしたデバイスは周知である。吸入による投与のために、粉末化された製剤は通常、ラクトースといった不活性固体粉末希釈剤を一緒に有する活性化合物を含む。
【0123】
本発明の特定の薬学的組成物は、
・舌下組成物、
・鼻腔内、
・活性化合物の0次放出に対応する放出速度を提供するように処方されたペレット又は錠剤、
・活性化合物の第1速度放出に続き、速度定数放出(0次)を提供するように処方されたペレット又は錠剤、
・活性化合物の1次及び0次放出の混合を提供するように処方されたペレット又は錠剤、ならびに
・活性化合物の0次及び1次放出の組合せ、ならびに任意選択的には、2次、3次及び4次放出及びその組合せから選択される更なる活性化合物の放出を提供するように処方されたペレット又は錠剤、から選択された組成物である。
【0124】
上記種類の放出速度を提供するよう処方されたペレット及び錠剤は、当業者に周知の方法、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(idem)及び「Remington-The Science and Practice of Pharmacy」,21st edition,2006,ISBN 0-7817-4673-6に記載されたようなものに従って調製され得る。
【0125】
本発明の化合物は単位剤形にて一般には存在する。そうしたことから、これは望ましいレベルの生物学的活性を提供するのに十分な化合物を通常は含有する。例えば、経口投与を目的とした製剤は、2ミリグラム~200ミリグラムの活性成分、更に通常では、例えば12.5ミリグラム、25ミリグラム及び50ミリグラムなど、10ミリグラム~100ミリグラムを含有してよい。
【0126】
活性化合物は、その必要がある患者(例えばヒト又は動物(例えば哺乳動物)患者)に、所望の治療効果を得るのに十分な量で投与される。
【0127】
化合物は一般には、例えばヒト又は動物(例えば哺乳動物)患者、好ましくはヒトといった、かかる投与の必要がある対象に投与される。
【0128】
本発明の化合物は、通常は治療的又は予防的に有用であり、かつ一般には非毒性である量で投与される。ただし、特定の状況では、本発明のジヒドロテトラベナジン化合物を投与する利点が任意の毒性作用又は副作用といった不利益よりも優ることがある。この場合、毒性度に関係する量で化合物を投与することが望ましいと考えられ得る。
【0129】
本発明の化合物の通常の1日あたりの用量は、必要とされる場合に上記より高い又は低い用量で投与されてよいが、例えば、体重1キログラムあたり最大で3ミリグラムであり、より典型的には体重1キログラムあたり0.15ミリグラム~5ミリグラムといった、体重1キログラムあたり0.025ミリグラム~5ミリグラムの範囲であり得る。
【0130】
一例としては、5mg~15mg(例えば10mg又は12.5mg)の初期開始用量が1日に2~3回投与されてよい。投与量は、医師によって決定された個人に対する最大耐量及び有効用量に達するまで3日~5日ごとに、1日あたり5mg~15mg(例えば10mg又は12.5mg)の範囲の量で増加し得る。最終的に、投与される化合物の量は、治療されている疾患又は生理学的症状の状態ならびに治療上の利点及び所与の用量投与計画によって生じる副作用の有無に見合うものとなり、医師の判断によるものでもある。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【
図1】ビヒクルで治療されたWTマウス及びビヒクル、1.5mg/kgの(+)-α-DHTBZ、3.0mg/kgの(+)-α-DHTBZ及び1.5mg/kgのTBZで治療されたR6/2マウスにおける10Hzの振戦パワースペクトル密度を示す。
【
図2】ビヒクルで治療されたWTマウス及びビヒクル、1.5mg/kgの(+)-α-DHTBZ、3.0mg/kgの(+)-α-DHTBZ及び1.5mg/kgのTBZで治療されたR6/2マウスにおける11Hzの振戦パワースペクトル密度を示す。
【
図3】ビヒクルで治療されたWTマウス及びビヒクル、1.5mg/kgの(+)-α-DHTBZ、3.0mg/kgの(+)-α-DHTBZ及び1.5mg/kgのTBZで治療されたR6/2マウスにおける12Hzの振戦パワースペクトル密度を示す。
【
図4】ビヒクルで治療されたWTマウス及びビヒクル、1.5mg/kgの(+)-α-DHTBZ、3.0mg/kgの(+)-α-DHTBZ及び1.5mg/kgのTBZで治療されたR6/2マウスにおける13Hzの振戦パワースペクトル密度を示す。
【
図5】ビヒクルで治療されたWTマウス及びビヒクル、1.5mg/kgの(+)-α-DHTBZ、3.0mg/kgの(+)-α-DHTBZ及び1.5mg/kgのTBZで治療されたR6/2マウスにおける14Hzの振戦パワースペクトル密度を示す。
【
図6】ビヒクルで治療されたWTマウス及びビヒクル、1.5mg/kgの(+)-α-DHTBZ、3.0mg/kgの(+)-α-DHTBZ及び1.5mg/kgのTBZで治療されたR6/2マウスにおける15Hzの振戦パワースペクトル密度を示す。
【
図7】ビヒクルで治療されたWTマウス及びビヒクル、1.5mg/kgの(+)-α-DHTBZ、3.0mg/kgの(+)-α-DHTBZ及び1.5mg/kgのTBZで治療されたR6/2マウスにおける16Hzの振戦パワースペクトル密度を示す。
【0132】
例
以下の非限定的な例は、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンの生物学的特性を説明するものである。
【0133】
例1
R6/2マウスモデルにおける(+)-α-ジヒドロテトラベナジンの効果
本研究の目的は、ハンチントン病のR6/2マウスモデルにおける(+)-α-ジヒドロテトラベナジンの効果を調査することであった。マウスは(+)-α-ジヒドロテトラベナジン((+)-α-DHTBZ)、テトラベナジン(TBZ)又はビヒクルを用いて4週齢目に開始し、13週齢まで継続して治療された。
【0134】
総計で、同腹子の38匹のオスのR6/2マウス及び9匹の野生型(WT)がこの研究に使用された。マウスは4週齢目から13週齢目まで投与された。本研究の経過中、マウスの体重は研究期間全体の間、1週間に2度計測された。研究の最後に、マウスを屠殺し、尾サンプルのみを収集した。
【0135】
動物実験は全て、フィンランドの国立動物実験委員会によって認可されたライセンスに規定された通りに、かつ研究所の動物の管理及び使用に関するアメリカ国立衛生研究所(Bethesda,MD,USA)ガイドラインにしたがって実施された。総計で、同腹子の38匹のオスのR6/2マウス及び9匹の野生型(WT)がこの研究に使用された。正常な血漿胆汁酸レベルを有するマウスのみをこの研究に使用した。
【0136】
動物は、食物と水を自由裁量で摂取できる状態で、標準温度(22±1℃)及び光を制御した環境(午前7時~午後8時に点灯)にて収容された。
【0137】
動物は以下の通り分類された。すなわち:
・グループ1:4~13週齢であり、ビヒクル(p.o.)にて治療された9匹のオスの野生型(WT)マウス、
・グループ2:4~13週齢であり、ビヒクル(p.o.)にて治療された9匹のオスのR6/2マウス、
・グループ3:4~13週齢であり、(+)-α-DHTBZ(1.5mg/kg、p.o.)にて治療された10匹のオスのR6/2マウス、
・グループ4:4~13週齢であり、(+)-α-DHTBZ(3mg/kg、p.o.)にて治療された10匹のオスのR6/2マウス、
・グループ5:4~13週齢であり、テトラベナジン(1.5mg/kg、p.o.)にて治療された9匹のオスのR6/2マウスであった。
【0138】
(+)-α-DHTBZ、TBZ及びビヒクルは、全てのマウスに対して1日のほぼ同時刻に各日で投与され(10ml/kg、p.o.、QD)、午前9時~午前11時に開始し、1日の投与は、検査の少なくとも1時間前に行われた。
【0139】
振戦モニターチャンバにおける振戦診断
マウスの振戦の程度を、7~13週齢に診断した。マウスは、順応させるために検査の少なくとも1時間前には試験空間に移動された。マウスは10分間の順応期間の間、Tremor Monitor(San Diego Instruments,SDI)チャンバ内部に配置され、その後マウスの振戦活動を約8分間計測した。記録された活動の周波数(1~64ヘルツ)及び振戦事象の数を電気的に取得した。
【0140】
データはTremor Monitorソフトウェア(San Diego Instruments)により、2部分のプロセスにて解析された。高速フーリエ変換(FFT)を用いて、各周波数にて記録された活動(エネルギー)の割合を示している結果が提供された。10Hzの帯域幅に加え、14~15Hzの間である活動の中央周波数を選択した。こうしたパラメータを用いて、振戦事象を短期事象、長期事象、及び全事象として表にした。短期事象は0.3~0.5秒間続いた事象であり、長期事象は、0.5秒超続いたものであった。
【0141】
7~13週齢である、ビヒクルで治療されたWTマウス及びR6/2マウスならびに(+)-α-DHTBZ及びテトラベナジンで治療されたR6/2マウスの身体の振戦図を
図1~
図7に示した。
【0142】
図1~
図7は、それぞれ10Hz、11Hz、12Hz、13Hz、14Hz、15Hz及び16Hzでの振戦におけるパワースペクトル密度を示す。これらの周波数における振戦は、基本的な振戦を示すものと考えられている。
【0143】
対比較t検定(非等分散であると想定)を使用し、各周波数での検査グループ間の有意差を測定した。有意差は、12Hzについて見いだされ、かつ標識された(
図3を参照されたい)。12Hzでは、R6/2ビヒクル群についての振戦パワースペクトル密度は、WTマウスと比較すると有意に異なっており、及びR6/2で3.0mg/kgの(+)-α-DHTBZ群についての結果は、R6/2ビヒクル群と比較して有意に異なっていた。
【0144】
生存率
動物の一般的な健康状態が有意に悪化した場合、マウスはCO2を過剰摂取させることによって屠殺され、断頭された。マウスは、屠殺時点又は安楽死条件を満たすまでモニタリングされた。
【0145】
研究経過の間死亡しなかった、又は上記安楽死条件を満たすとして安楽死させられなかったマウスの数を記録(「研究終了時生存していたマウスの数」)した。以下の表にこれを示す。
【表1】
【0146】
片側検定である、N-1の2つの比率の検定を用いて、治療群間の生存率における統計学的に有意な差異を測定した。生存率は、グループ1&2、グループ2&3及びグループ2&4に関しては有意に異なることが見いだされた(p値はそれぞれ0.0289、0.0233及び0.0233)。
【0147】
グループ2の生存しなかった3匹のマウスのうち、1匹は投与後に発作で死亡し、1匹は状態不良(ほぼ完全に移動不可能であった)であることから安楽死させ、1匹は死亡が確認された。
【0148】
グループ5の生存しなかった2匹のマウスのうち、1匹は死亡が確認され、もう1匹は発作で死亡した。
【0149】
結論
(+)-α-ジヒドロテトラベナジンは、R6/2マウスにおいて振戦を低減することに関して、テトラベナジンと同様の効果を有すると示された。加えて、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン(1.5mg/kg及び3.0mg/kgの両方)で治療されたR6/2マウスの生存率は、ビヒクル又はテトラベナジンで治療されたR6/2マウスの生存率よりも有意に長いことが示された。
【0150】
この結果は、(+)-α-ジヒドロテトラベナジンが単なる症状緩和以外も提供しており、疾患それ自身の経過も変性させ得ることを示唆している。
【0151】
同等物
本発明の基となる原理から逸脱することなく、上記の本発明の特定の実施形態に対して多数の改変及び変更を行うことができると容易に明らかになるであろう。かかる全ての改変及び変更は、本出願によって容認されるように意図されている。