(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】バナジウムで補償された光学グレードの4Hおよび6H単結晶
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240117BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20240117BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20240117BHJP
G02F 1/015 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
G02B1/00
G02F1/015 501
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021031418
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2021-07-01
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519146787
【氏名又は名称】ツー-シックス デラウェア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】II-VI Delaware,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】イリア,ツヴィーバック
(72)【発明者】
【氏名】ヴァラタラジャン,レンガラジャン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー,エヌ.スージス
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー,イー.ルーランド
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517451(JP,A)
【文献】特開2018-039715(JP,A)
【文献】特表平09-500861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/06
G02B 1/00
G02F 1/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6Hまたは4Hポリタイプの炭化ケイ素(SiC)単結晶であって、
前記SiC単結晶が、光エネルギーまたは光情報を伝送するように構成され、前記光エネルギーまたは前記光情報が、420nm~4.5μmの範囲の波長の光を有し、前記SiC単結晶が室温において抵抗率が1・10
5Ωよりも大きいことを特徴とする炭化ケイ素(SiC)単結晶。
【請求項2】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶がバナジウム補償4H-SiC単結晶であり、前記光の波長が420nmから450nm未満の範囲であることを特徴とするSiC単結晶。
【請求項3】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶が、6HポリタイプおよびNuタイプのバナジウム補償SiC単結晶であり、抵抗率が室温において1・10
10Ωcm以上であることを特徴とするSiC単結晶。
【請求項4】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶が、4HポリタイプおよびNuタイプのバナジウム補償SiC単結晶であり、抵抗率が室温において1・10
12Ωcm以上であることを特徴とするSiC単結晶。
【請求項5】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶が、6HポリタイプおよびNuタイプのバナジウム補償SiC単結晶であり、抵抗率が室温において1・10
11Ωcmより大きいことを特徴とするSiC単結晶。
【請求項6】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶が、浅い不純物バックグラウンドでホウ素が優勢な6HポリタイプおよびPiタイプのバナジウム補償SiC単結晶であり、抵抗率が室温において1・10
11Ωcmより大きいことを特徴とするSiC単結晶。
【請求項7】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶が、浅い不純物バックグラウンドでホウ素が優勢な4HポリタイプおよびPiタイプのバナジウム補償SiC単結晶であり、抵抗率が室温において1・10
13Ωcmより大きいことを特徴とするSiC単結晶。
【請求項8】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶が、浅い不純物バックグラウンドでホウ素が優勢な4HポリタイプおよびPiタイプのバナジウム補償SiC単結晶であり、抵抗率が室温において1・10
13Ωcmより高いことを特徴とするSiC単結晶。
【請求項9】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶が、浅い不純物バックグラウンドでホウ素が優勢な6HポリタイプおよびPiタイプのバナジウム補償SiC単結晶であり、抵抗率が室温において5・10
11Ωcmより高いことを特徴とするSiC単結晶。
【請求項10】
請求項1に記載のSiC単結晶において、
前記SiC単結晶が、浅い不純物バックグラウンドでアルミニウムが優勢なPiタイプのバナジウム補償6H-SiC単結晶であり、抵抗率が室温において1・10
5~1・10
8Ωcmであることを特徴とするSiC単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2020年3月2日に出願された米国仮特許出願第62/984,177号の優先権を主張する。この米国仮特許出願第62/984,177号の開示全体は、引用により本明細書に援用されるものとする。
【背景技術】
【0002】
本開示は、概して光エネルギーまたは情報を伝送するための光学デバイスに関し、それには、窓、レンズ、プリズムおよび導波路が含まれるが、それらに限定されるものではない。また、本開示は、概して光学デバイスを使用して光エネルギーまたは情報を伝送するためのシステムおよび方法にも関する。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、4Hおよび6Hの六方晶ポリタイプのバナジウムで補償された炭化ケイ素(SiC)単結晶であって、それらの基本的な透明度の範囲内で、特に、必ずしも限定されるものではないが、約420nm~約4.5μmの範囲の波長で、光吸収が小さいSiC単結晶に関する。本開示に係るSiC単結晶は、様々な光学用途、例えば、可視および近赤外(IR)スペクトル範囲で動作する、光学窓、レンズ、プリズムおよび導波路などで使用することができるが、それらに限定されるものではない。
【0004】
本開示は、6Hまたは4Hポリタイプのバナジウムで補償された高抵抗率のSiC単結晶であって、420nm~4.5μmの範囲の波長の光を透過するように構成されたSiC単結晶を含む光学デバイスにも関する。本開示の一態様によれば、光学デバイスは、420nm~4.5μmの範囲の波長の光を透過する、窓、レンズ、プリズムまたは導波路を含むことができる。
【0005】
また、本開示は、光伝送システムであって、420nm~4.5μmの範囲の波長の光を発生させるための光源と、光を送受信するための光学デバイスとを備え、光学デバイスが、6Hまたは4Hポリタイプのバナジウムで補償された高抵抗率のSiC単結晶を含む、光伝送システムにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示に従って構成された炭化ケイ素(SiC)ウェハの一例の上面図である。
【
図3】
図3は、本開示に従って構成された光伝送システムの一例の概略図である。
【
図4】
図4は、特定のバナジウム補償4H-SiCウエハの透過(T
mes)および反射(R
mes)曲線(波長の関数としてのT
mes、R
mes)のグラフである。
【
図5】
図5は、特定のバナジウム補償6H-SiCウェハの透過および反射曲線(波長の関数としてのT
mes、R
mes)のグラフである。
【
図6】
図6は、2枚のウェハの光吸収曲線(波長の関数としての吸収係数)を示すグラフである。
【
図7】
図7は、6枚のバナジウム補償6H-SiCウエハの透過曲線(波長の関数としての透過率)を示すグラフである。
【
図8】
図8は、4H-SiCウエハの可視範囲における光吸収(波長の関数としての吸収係数)のグラフである。
【
図9】
図9は、6H-SiCウエハの可視範囲における光吸収(波長の関数としての吸収係数)のグラフである。 図中、同じ符号または他の特徴指定子が、同じまたは類似の特徴を指すために使用されている。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1および
図2は、本開示に従って構成された炭化ケイ素(SiC)ウェハ10の一例を示している。ウエハ10は、面12および円筒状エッジ14を有することができる。後述するように、ウェハ10は、バナジウムで補償された高抵抗率の4Hまたは6Hの六方晶ポリタイプのSiC単結晶であってもよい。
図3は、本開示に従って構成された光伝送システムの一例を示す図である。伝送システムは、光20を生成するための光源18と、光20を送受信するための光学デバイス16と、光学デバイス16により光20が伝送される目的地22とを含むことができる。
【0008】
光20は、420nm~4.5μmの範囲の1または複数の波長を有することができる。光学デバイス16は、ウェハ10から製造することができ、例えば、光源18と目的地22との間に物理的な障壁を提供しながら光20を透過させるための窓、光20を集光または分散させるためのレンズ、光20のスペクトル成分を分離するためのプリズム、または光20を目的地22に向けて導くための導波路などであってもよい。
【0009】
SiC単結晶は、高出力および高周波のダイオードやトランジスタ、超高速の半導体光スイッチ、過酷な環境下で動作する検出器など、特定の半導体デバイスに使用されている。六方晶SiC単結晶は、SiCや窒化ガリウム(GaN)エピ層のエピタキシャル成長用基板として使用することができる。窒素ドープnタイプの4H-SiC結晶は、MOSFETなどの4H-SiCパワースイッチングダイオードおよびトランジスタのエピタキシャル基板として使用される。米国特許第8,507,986号を参照されたい。高抵抗(半絶縁)4H-SiCおよび6H-SiC結晶は、HEMTなどのGaNベースの高周波トランジスタのエピタキシャル基板として使用されている。米国特許第9,484,284号を参照されたい。
【0010】
大型のSiC単結晶は、昇華によって気相から成長させることができる。米国特許第5,746,827号を参照されたい。成長の準備として、黒鉛るつぼの高温領域に、SiCの粉末または粒子の形態のSiC源が提供される。単結晶SiCのプレートまたはウェハなどのSiCシードが、るつぼの低温領域に配置され、例えば、るつぼの蓋に取り付けられる。るつぼは、加熱され、それによりSiC源が昇華して、昇華のガス状生成物でるつぼ内が満たされる。得られた蒸気は、より低温のSiCシードに移動して、シード上に堆積し、適切な寸法のSiCブールを成長させる。
【0011】
特定の要件を満たすために、ドーパントを成長システムに導入して、成長したSiC結晶の電子パラメータ、例えば、導電性タイプや電気抵抗率などを変更することができる。低抵抗率のnタイプの4H-SiC単結晶は、窒素ドーピングを用いて製造することができる。補償された高抵抗SiC単結晶には、少なくとも2タイプ、すなわち、バナジウムドーピングを用いて製造されたバナジウム補償半絶縁(VCSI)SiC結晶(米国特許第5,611,955号を参照)と、高純度半絶縁(HPSI)SiC結晶(米国特許第7,601,441号を参照)とがある。後者は、ドーピングなしで製造することができ、深準位欠陥の導入によって補償される。
【0012】
様々な結晶性SiCの形態の光学的および分光学的特性が、紫外(UV)、可視および赤外領域で研究されている。Singh et al.,Nonlinear Optical Properties of Hexagonal Silicon Carbide,Appl.Phys.Lett,Vol.19,2(1971)53-56を参照されたい。4H-SiCおよび6H-SiCの基本的な光透過領域は、可視域のバンドエッジカットオフから赤外域のλ≒4.5μmまで伸びており、透明性が多光子吸収のバンドで終わっている(例えば、Singhの
図1を参照されたい)。
【0013】
SiCの機械的、化学的および熱的特性は、様々な光学用途にとって魅力的である。望ましい特性には、低密度、高強度および硬度、高耐摩耗性、高熱衝撃性、高熱伝導性および化学的安定性が含まれる。化学的気相成長(CVD)によって成長した多結晶3C-SiCは、過酷な環境での動作のための中赤外窓およびドームのための潜在的な材料として研究されている。Goela et al.,Transparent SiC for mid-IR windows and domes,SPIE Vol.2286(1994)46-59を参照されたい。
【0014】
六方晶単結晶SiCは、光導波路の材料として検討されている。Luan et al.,Optical ridge waveguides in 4H-SiC single crystal produced by combination of carbon ion irradiation and femtosecond laser ablation,Optical Materials Express,Vol.4,No.6(2014)1166-1171、特許公報第6002106号(Silicon Carbide Optical Waveguide Element)、並びに、中国特許公報第103472533号(Method for Preparing Er-Doped Silicon Carbide Optical Waveguide Through Ion Implantation)を参照されたい。
【0015】
昇華成長した4H-SiCおよび6H-SiC単結晶の可視(VIS)~IR領域での光吸収が研究されている。Wellmann et al.,Optical Quantitative Determination of Doping Levels and Their Distribution in SiC,Mat.Sci.Eng.B91-92(2002)75-78を参照されたい。これらの結晶は、N、B、Alが最大1・1018cm-3の量でドープされており、光透過率が低くなっている。4H-SiCおよび6H-SiC結晶の赤外域における光透過および反射が研究されている。Cuia et al.,Infrared Transmission and Reflectivity Measurements of 4H- and 6H-SiC Single Crystals,Mat.Sci.For.Vols.821-823,pp 265-268(2015)を参照されたい。研究対象のサンプルには、純粋(意図的なドーピングなし)、Nドープ、Bドープ、VCSIおよびHPSIが含まれていた。これらすべての研究において、NドープおよびBドープSiC結晶は、ドーパント濃度とともに増加する著しい光学損失を示した。純粋なSiC結晶では、特に可視領域において、損失が小さくなった。最も優れたIR光透過性は、半絶縁性のVCSIおよびHPSIサンプルで測定された。
【0016】
4H-SiCと6H-SiCは、6mm空間群に属する正単軸結晶である。昇華によって成長した半絶縁性の4H-SiCおよび6H-SiC単結晶について、波長、偏光(通常対異常)および温度に対する屈折率の依存性が研究されている。Xu et al.,Temperature Dependence of Refractive Indices for 4H and 6H,J.Appl.Phys.115,113501(2014)1-4を参照されたい。これらの測定のために、プリズムのエッジがc軸に平行な単結晶から、頂角の小さいプリズムを製造した。4H-SiCと6H-SiCの屈折率とその分散の値は、実質的に同じであることが分かった。
【0017】
大型の半絶縁性SiC単結晶は、VCSIとHPSIの両方が市販されているが、伝送光学分野での産業利用は知られていない。これは、これまで十分に理解も制御もされていなかった六方晶SiCの残留光学損失が原因であると考えられる。SiCの基本的な透明度の範囲内での光吸収の原因となる様々なメカニズムが文献で議論されている。それらは、ドーピングによって引き起こされるバンドギャップの狭まり、ドーパント、不純物または欠陥を含む遷移(例えば、Atabaev et al.,Spectral Dependence of Optical Absorption of 4H-SiC Doped with Boron and Aluminum,J.of Spectroscopy(2018)Article ID 8705658の
図1を参照)、バンド内遷移、および自由キャリアによる吸収を含む。
【0018】
図1~
図3に例示したウェハ10および光学デバイス16は、可視域の約420nmから近赤外域の約4.5μmまでの波長範囲で優れた光透過率を有する6Hまたは4Hポリタイプのバナジウムで補償されたSiC単結晶を含むことができる。本発明のSiC単結晶は、光学窓、レンズ、プリズム、導波路に限定されるものではないが、それらを含む伝送光学の用途で光学材料として使用することができる。
【0019】
本明細書に記載のSiC単結晶は、昇華によって成長したバナジウム補償4H-SiC結晶および6H-SiC結晶であってもよい。成長中、結晶は、二次イオン質量分析法(SIMS)によって測定されるように、9・1016cm-3~1.5・1017cm-3のレベルにバナジウムをドープ(補償)することができる。N、B、Alなどの浅い不純物の濃度は、SIMSで測定した場合、3・1016cm-3を超えないように制御することができる。バナジウムドーピングおよび浅い不純物制御のための技術は、米国特許第7,608,524号、第8,216,369号、第8,361,227号、第8,858,709号、第9,017,629号および第9,090,989号に記載されている。
【0020】
ウエハ10または光学素子16を構成するSiC結晶は、介在物やサブグレインなどの寸法的な結晶欠陥がなく、総転位密度が1・104cm-2未満である高い構造品質を有し得る。全体的な結晶品質は、X線ロッキングカーブの手法を用いて評価することができる。25秒角未満のFWHMを有するX線反射は、高い結晶品質の典型的な徴候である可能性がある。
【0021】
4H-SiCまたは6H-SiC単結晶で形成されたウェハ10は、化学機械研磨(CMP)され、150mmの直径および0.5mmの厚さを有する。ウェハ10は、「軸上」、すなわち、その面12が六角形のc軸に垂直となるように配向することができる。ウエハ10のスライス、ラッピングおよび研磨は、既知の製造技術に従って実行することができる。
【0022】
光学デバイス16に関連する光透過率および反射率は、Cary7000ユニバーサル測定分光光度計(UMS)を用いて、VIS-IR範囲で測定することができる。本開示による光学パラメータの計算のために展開される数学的形式は、式(A1a)~(A7)に関連して以下に記載されるようなものであってもよい。
【0023】
4H-SiCおよび6H-SiCは、六方晶単軸結晶である。このような結晶では、光軸が結晶学的な六角形のc軸と一致している。このような結晶のc面に対して垂直に光ビームが入射すると、その偏光が常に光軸に対して垂直になる。すなわち、このような光ビームは通常のビームであり、その伝播が通常の屈折率n
oによって支配される。(先に引用した)Xuの文献の表1と式(3)をn
oに用い、T=300Kを代入すると、室温でのn
o(λ)の式を得ることができる。
【0024】
六方晶単軸結晶のc面に対して垂直に入射する光ビームの場合、反射率(R)は次のように表される。
【0025】
平行な面を有するプレートの光透過率と反射率は、プレートの表裏の界面での多重反射を考慮して計算される。この近似により、測定した透過率(T
mes)と反射率(R
mes)について以下の式が得られる。Pankove J.,Optical Processes in Semiconductors,Dover Publ.NY 1971,p.93、並びに、F.Soler,Multiple Reflections in an Approximately Parallel Plate,Opt.Comm.139(1997)165-169を参照されたい。
【0026】
式(A3)、(A4)において、αは吸収係数(cm
-1)、dはプレートの厚さ(cm)である。反射率Rの値が既知であれば、式(A3)はαに関して次のように解くことができる。
【0027】
完全に透明なプレートである極端な場合の透過率と反射率は、α=0を代入することで、式(A3)、(A4)から次のように求めることができる。
【0028】
SiC単結晶の光吸収係数は、測定した透過率(Tmes)と反射率(R)を用いて、式(A5)から算出した。Rの値は、Xuの文献により決定される4Hおよび6Hの屈折率分散(A1a)および(A1b)から、式(A2)を用いて算出した。
【0029】
光の透過率および反射率に加えて、SiC単結晶の電気抵抗率を、感度が1・105~1・1012Ωcmの非接触機器COREMA-Wを用いて室温で測定した。温度可変型の非接触抵抗率計COREMA-VTを用いて、25~400℃の温度範囲における抵抗率の温度依存性を測定し、電気伝導率の活性化エネルギーの値(EA)を算出した。ウェハ抵抗率が1・1012Ωcmを超える場合は、EAの値を用いて、抵抗率をT=300Kに外挿して室温の抵抗率を評価した。本実施例のSiC結晶はすべて、抵抗率が1・106~1・1014Ωcmであった。
【0030】
いくつかの高抵抗バナジウム補償4H-SiCウエハ上で0.35~0.80μmの可視範囲で測定した透過曲線50(T
mes@0°AOI)と反射曲線52(R
mes@6°AOI)の例が、
図4に示されている。いくつかの高抵抗バナジウム補償6H-SiCウェハ上で0.35~0.80μmの可視範囲で測定した透過曲線54(T
mes@0°AOI)および反射曲線56(R
mes@6°AOI)の例が、
図5に示されている。
【0031】
式(A5)を使用して計算した2枚のウェハ、高抵抗率の4H-SiC(線60)および高抵抗率の6H-SiC(線58)についての可視範囲での吸収スペクトルα(λ)の例が、
図6に示されている。これらの吸収曲線60、58は、2つの異なる吸収領域を示しており、4H結晶では約0.40μm未満の波長で、6H結晶では約0.44μm未満の波長で、それぞれ吸収が急上昇する。この吸収上昇は、基本的なカットオフ、すなわち価電子帯から伝導帯への遷移によるものと考えられる。その傾きは、六方晶SiCのバンドギャップとフォノンアシスト電子遷移の間接的な性質により、λ
-2に比例する。Sridhara et al.,Absorption Coefficient of 4H Silicon Carbide from 3900 to 3250 A,J.Appl.Phys.Vol.84,No.5(1998)2963-2964を参照されたい。
【0032】
図6に示すように、0.45~0.7μmにバンドエッジ付近の吸収「ショルダ」があり、その振幅が、λが約0.7μmにおける約0.01cm
-1と、λが約0.45μmにおける約1cm
-1との間である。この残留吸収はワイドバンドギャップ半導体でよく見られるもので、結晶欠陥や不純物などの不特定の浅いレベルの電子遷移に起因していることが多い。λが約0.7μmを超える波長での光吸収は、非常に低く、0.1cm
-1未満である。
【0033】
今回の研究対象となったバナジウム補償SiC結晶はすべて光を透過したが、その透過率には大きなバラツキが見られる。そのようなバラツキの例を
図7に示すが、これは、6枚の異なるバナジウム補償6H-SiCウエハ上で測定したVIS-NIR範囲での光学透過率を示すものである。最も低い透過率の2つの曲線66は、2枚のNuタイプの6Hウエハ上で測定したものである。(Nuタイプとは、浅いドナー(窒素)が浅いアクセプタ(Al+B)よりも優勢な補償型のSiC結晶のタイプを指している)。このNuタイプのウェハの抵抗率は、9・10
9Ωcm~2・10
11Ωcmの範囲であった。
【0034】
図7の最高透過率の2つの曲線62(一方は実線で、他方は点線)は、Piタイプの2枚のウェハを示している。(Piタイプとは、浅いアクセプタ(この場合Al)が浅いドナー(N)よりも優勢な補償型のSiC結晶のタイプを意味している)。これらのウェハの抵抗率は、1・10
6Ωcm~1・10
7Ωcmの範囲であった。
【0035】
図7の2つの曲線64は、N(浅いドナー)を超える濃度のホウ素(浅いアクセプタ)を含むPiタイプの2枚の6H-SiCウエハの光透過率を示している。これらのウェハの抵抗率は、1・10
12Ωcm~1・10
14Ωcmであった。
【0036】
様々なドーピングおよび抵抗率を有するいくつかの4H-SiCおよび6H-SiCウェハについて、式(A5)を用いて計算した可視範囲での光吸収を、
図8および
図9に示している。
【0037】
図8および
図9の線68、76で示す最も強い吸収は、浅い不純物バックグラウンドで窒素が優勢なNuタイプのウェハの吸収である。4Hウェハは1・10
11Ωcmの抵抗率を有し、6Hウェハは1・10
9Ωcmの抵抗率を有していた。これらのウェハでは、可視範囲だけでなく、赤外域においても光吸収が最も高かった。
【0038】
また、線70、77で示すやや低い光吸収率もNuタイプのウェハのものである。しかしながら、これらのウェハは、4Hでは5・1012Ωcm、6Hでは5・1010Ωcmの高い抵抗率を有していた。
【0039】
図8および
図9の線72、74、78は、浅い不純物バックグラウンドでホウ素が優勢なPiタイプのウェハで測定した光吸収を示している。4Hウェハは、1・10
13Ωcm(線72)および1・10
14Ωcm(線78)の抵抗率を有していた。6Hウェハは、1・10
11Ωcm(線78)の抵抗率を有していた。これらのウェハにおける吸収は、バンドエッジショルダに限定され、赤外域には及ばなかった。
【0040】
最も低い光吸収は、
図9の曲線80、82で示されている。これは、浅い不純物バックグラウンドでAlが優勢なPiタイプの2枚の6H-SiCウエハ上で測定された。このウェハは、1・10
5Ωcmおよび1・10
7Ωcmの比較的低い抵抗率を有していた。
【0041】
バナジウム補償SiC結晶の光吸収率、そのタイプ、ドーピングおよび抵抗率の相関を以下の表1に示している。なお、λ=2.5μmで赤外域で測定した光吸収係数を最後の欄に加えた。
【0042】
【0043】
得られたデータは、可視および近赤外スペクトル範囲の伝送光学における用途のために、特定のタイプのバナジウム補償高抵抗SiC単結晶を選択するための指針となる可能性がある。
【0044】
6Hおよび4Hポリタイプのバナジウム補償高抵抗SiC単結晶は、特にドーピングと抵抗率が最適化されている場合に、可視域の420nmから赤外域の約4.5μmまでの波長範囲の伝送光学における要求の厳しい用途に適している。
【0045】
バンドギャップが広いため、バナジウム補償4H-SiC単結晶は、450nm未満の短波長の光学用途に好適である。
【0046】
Nuタイプのバナジウム補償SiC単結晶は、その抵抗率が6Hで1・1010Ωcm未満、4Hで1・1012Ωcm未満である場合、要求の厳しい光学用途には使用できない。そのような結晶は、可視域では1cm-1に近い、赤外域では最大0.1cm-1の光学損失を持つことになる。
【0047】
Nuタイプのバナジウム補償SiC単結晶は、その抵抗率が6Hで1・1011Ωcmを超え、4Hで5・1012Ωcmを超える場合、赤外域での光学用途に使用することができる。このような結晶の場合、赤外域での光吸収は0.01cm-1未満となる。
【0048】
浅い不純物バックグラウンドでホウ素が優勢なPiタイプのバナジウム補償SiC単結晶は、その抵抗率が6Hで1・1011Ωcmを超え、4Hで1・1013Ωcmを超える場合に、赤外域での光学用途に使用することができる。このような結晶の場合、赤外域での光吸収は0.01cm-1未満となる。
【0049】
浅い不純物バックグラウンドでホウ素が優勢なPiタイプのバナジウム補償SiC単結晶は、その抵抗率が4Hで1・1013Ωcmを超え、6Hで5・1011Ωcmを超える場合、可視域での光学用途に使用することができる。このような結晶の場合、光吸収は、λ=450nmで0.8cm-1未満、λ=750nmで0.01cm-1未満である必要がある。
【0050】
浅い不純物バックグラウンドでアルミニウムが優勢なPiタイプのバナジウム補償された6H-SiC単結晶は、その抵抗率が1・105~1・108Ωcmである場合、要求の厳しい光学用途に使用することができる。このような結晶は、可視範囲で最高の透過率を提供することができる。それらの光吸収は、λ=450nmで0.8cm-1未満、λ=750nmで0.01cm-1未満である必要がある。それらのバンドエッジ付近の吸収ショルダは、他のすべての結晶のタイプよりも低くて狭い。
【0051】
上述したものは例示である。本開示は、添付の特許請求の範囲を含む本願の範囲内に収まる、本明細書に記載の主題に対する変更、修正および変形を包含することを意図している。本明細書において、「~を含む」という用語は、~を含むが、~に限定されないことを意味している。「~に基づく」という用語は、少なくとも部分的に~基づくことを意味している。さらに、本開示または特許請求の範囲が、「a」、「an」、「第1」または「別の」要素、またはそれらと同等のものを記載している場合、それは、そのような要素を1または複数含むと解釈されるべきであり、2以上のそのような要素を必要とするものではなく、また2以上のそのような要素を除外するものではない。
【0052】
新規であり、米国の特許証によって保護されることが望まれると主張されるものは、以下の通りである。