(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F01P 5/10 20060101AFI20240117BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20240117BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20240117BHJP
F01P 11/00 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
F01P5/10 C
F01P3/20 A
F01P7/16 502A
F01P7/16 502J
F01P11/00 Z
(21)【出願番号】P 2021047655
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】青池 早紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 智明
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-138227(JP,A)
【文献】特開2007-231819(JP,A)
【文献】特開2006-266178(JP,A)
【文献】特開平11-148349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 5/10
F01P 7/16
F01P 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水ポンプを備えるエンジンであって、
前記冷却水ポンプは、冷却水の第1通路と、上部の第2通路とが形成されており、
前記第2通路は、エアが通ることが可能であ
り、
前記第2通路の下流にサーモスタットが設けられている、エンジン。
【請求項2】
前記第2通路は、シリンダヘッド及びシリンダブロックよりも下流の冷却水通路と連通する、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記サーモスタットの下流は外部配管を介してラジエータと連通する、請求項1又は2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記第2通路は、前記冷却水ポンプの左右方向において前記第1通路が設けられる方向と同じ方向に設けられる、請求項1から3のいずれか一つに記載のエンジン。
【請求項5】
前記第2通路における冷却水の流通断面積は、前記第1通路における冷却水の流通断面積より小さい、請求項1から4のいずれか一つに記載のエンジン。
【請求項6】
前記第2通路は、エンジン本体の冷却水通路と直接連通する、請求項1から5のいずれか一つに記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエンジンに関し、特に、冷却水ポンプを備えたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、エンジン各部に冷却水を送り出す冷却水ポンプ21(
図4)が開示されている。下記特許文献2及び3にも、エンジンの冷却水ポンプの構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5939921号公報
【文献】特開2017-187010号公報
【文献】特開2019-210822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷却水ポンプ内の上部には、エア(空気)が溜まる。エア抜きを行わないと、ポンプ圧送効率が悪くなる。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、冷却水ポンプを備えたエンジンの改善を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のある局面に従うと、冷却水ポンプを備えるエンジンにおいて、前記冷却水ポンプは、冷却水の第1通路と、上部の第2通路とが形成されており、前記第2通路は、エアが通ることが可能である。
【0007】
好ましくは前記第2通路は、シリンダヘッド及びシリンダブロックよりも下流の冷却水通路と連通する。
【0008】
好ましくは、前記第2通路の下流にサーモスタットが設けられ、前記サーモスタットの下流は外部配管を介してラジエータと連通する。
【0009】
好ましくは、前記第2通路は、前記冷却水ポンプの左右方向において前記第1通路が設けられる方向と同じ方向と同じ方向に設けられる。
【0010】
好ましくは、前記第2通路における冷却水の流通断面積は、前記第1通路における冷却水の流通断面積より小さい。
【0011】
好ましくは、前記第2通路は、エンジン本体の冷却水通路と直接連通する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態の1つにおけるエンジン100の側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態の1つにおけるエンジンの水冷機構を示すブロック図である。
【
図3】
図1のエンジンからファン、ベルト、及びプーリーを取り外した状態を示す斜視図である。
【
図4】
図3のポンプケーシング203(インペラ211を含む)の外観をポンプ回転軸方向から見た図である。
【
図5】
図3のポンプケーシング203の内側をポンプ回転軸方向から見た図である。
【
図6】
図3のポンプケーシング203の内側の斜視図である。
【
図7】
図3のエンジン100からポンプケーシング203を取り外した状態を示す斜視図である。
【
図8】ポンプケーシング203が取り付けられたエンジン100を
図5のA-A面(インペラ211の回転軸215を含む平面)で切った断面図である。
【
図9】ポンプケーシング203が取り付けられたエンジン100を
図5のB-B面(エア抜き穴107の伸長方向を含む平面)で切った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の1つにおける冷却水ポンプ、エンジン、及びエンジンの冷却機構について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態の1つにおけるエンジン100の側面図である。なお、
図1においては、冷却ファンが取り外された状態を示している。
【0015】
図を参照して、本発明の特徴部分である冷却水ポンプPは、ファンの後部に位置する。エンジン100のクランク軸の回転は、ベルトを介して冷却水ポンプPを駆動し、冷却水ポンプPの内部のインペラ211(
図5)が回転する。
【0016】
図2は、本発明の実施の形態の1つにおけるエンジンの水冷機構を示すブロック図である。
【0017】
図を参照して、エンジンの水冷機構には、冷却水ポンプPと、シリンダブロック153と、シリンダヘッド157と、サーモスタット111と、ラジエータ161とが含まれる。サーモスタット111の下流は、外部配管を介してラジエータ161と連通する。
【0018】
冷却水ポンプPによって送り出された冷却水は、ポンプ出口207,105を通ってシリンダブロック153に順に流入する。その後冷却水は、シリンダヘッド157に流入する。シリンダヘッド157を通った冷却水は、サーモスタット111に流入する。
【0019】
冷却水が所定温度以下の冷水であるときには、サーモスタット111から流出する冷却水は、ラジエータ161を介することなく冷却水ポンプPのポンプ入口103を通り、冷却水ポンプPに流れ込む。
【0020】
冷却水が所定温度より高い温水であるときには、サーモスタット111から流出する冷却水は、ラジエータ入口159を介してラジエータ161に流れ込み、ラジエータ出口163を通ってポンプ入口103に流入し、冷却水ポンプPに流れ込む。
【0021】
以上述べた冷却水の通路は、従来の技術であるメインとなる冷却水の通路であり、「第1通路」と呼ぶ。
【0022】
冷却水ポンプPは、冷却水ポンプPを構成するエンジン本体101(
図3)の部品内、及びポンプケーシング203(
図3)内に形成されたエア抜き穴205,209,107を備えている。エア抜き穴205,209,107は、エア抜き用の外部配管を新たに設けることなく、エンジン本体101の部品内、及びポンプケーシング203内に、通路として形成されている。エア抜き穴205,209,107は、サーモスタット111に通じている。これにより、エア抜き穴205,209,107を通ったエアや冷却水は、ポンプ出口207,105から始まるメインとなる冷却水通路(第1通路)を通ることなく、冷却水ポンプPの上流(ポンプ入口103側)に戻される。すなわち、エア抜き穴205,209,107は、シリンダブロック153及びシリンダヘッド157よりも下流の冷却水通路に連通している。
【0023】
以上述べたエア抜き穴205,209,107によって構成される冷却水の通路は、メインとなる冷却水の通路である第1通路とは異なる別の通路であり、「第2通路」と呼ぶ。
【0024】
エア抜き穴205,209,107の下流には、サーモスタット111が設けられており、サーモスタット111の下流は外部配管を介して、ラジエータ161と連通している。
【0025】
図3は、
図1のエンジンからファン、ベルト、及びプーリーを取り外した状態を示す斜視図である。
【0026】
図を参照して、冷却水ポンプPは、エンジン本体101の一部と、それにボルトで固定されるポンプケーシング203とから構成されている。
【0027】
図4は、
図3のポンプケーシング203(インペラ211を含む)の外観をポンプ回転軸方向から見た図である。
図4においてポンプケーシング203によって隠れている部分の一部は、点線で示されている。
【0028】
冷却水ポンプP内部のインペラ211(
図5)は、
図4では回転軸215を中心に時計回りに回転する。この回転により、エンジン本体101のポンプ入口103からインペラ211の中央部に導入された冷却水が遠心力によって回転軸215から遠ざかる方向に移動し、ポンプケーシング203の外壁部に沿って
図4の時計回りに流れ、ポンプ出口105(第1通路)を介してエンジン本体101側に向かって流れてゆく。
【0029】
ポンプケーシング203には、インペラ室213(
図4)と連通するエア抜き穴205、及びエア抜き穴205に連通するエア抜き穴209が設けられている。エア抜き穴205は、インペラ室213の最上部に接続され、水平方向に伸びる穴であり、エア抜き穴209は、エンジン本体101に設けられるエア抜き穴107(
図7)に連通する穴である。すなわちエア抜き穴205は、
図4の紙面の左から右にエアや冷却水を送る穴であり、エア抜き穴107(
図7)は、
図4の紙面の手前から奥にエアや冷却水を送るエア抜き穴107である。エア抜き穴209は、
図4の紙面の左から右方向に流れてきたエアや冷却水の流れる方向を、紙面の手前から奥方向に変える機能を果たす部分である。
【0030】
図5は、
図3のポンプケーシング203の内側をポンプ回転軸方向から見た図である。
図6は、
図3のポンプケーシング203の内側の斜視図である。
【0031】
図5は、
図4を裏側から見た図であるため、冷却水ポンプP内部のインペラ211は、
図5では回転軸215を中心に反時計回りに回転することとなる。エンジン本体101側に設けられるエア抜き穴107の位置が点線で示されている。エア抜き穴107の断面は円形であり、エア抜き穴209の断面は、上部がエア抜き穴107の断面に沿った弧を形成している。エア抜き穴209の下部は、エア抜き穴205に繋がる。エア抜き穴205を通ったエアは、エア抜き穴209内を上昇し、エア抜き穴107に送られる。
【0032】
インペラ室213のインペラ211の外周には、インペラ室213の一部である空間が設けられている。この空間は、
図5の下から反時計回りに進むごとにその幅が太くなっている。インペラ211の回転によりインペラ室213を反時計回りに流れる冷却水やエアは、最終的にはポンプケーシング203側のポンプ出口207とエンジン本体101側のポンプ出口105とを通って、エンジン本体101へ送り出される。
【0033】
また、インペラ室213においてエアは(冷却水よりも比重が軽いため)、上部に溜まる傾向がある。エアは、インペラ室213を反時計回りに流れる冷却水とともに押し出され、エア抜き穴205を通って、エア抜き穴209及びエア抜き穴107に送り出される。
【0034】
エア抜き穴205における冷却水の流通断面積は、冷却水ポンプPのポンプ出口207(冷却水吐き出し口)における冷却水の流通断面積より小さい。
【0035】
図7は、
図3のエンジン100からポンプケーシング203を取り外した状態を示す斜視図である。
【0036】
図を参照して、エンジン本体101には、ポンプ入口103、ポンプ出口105、及びエア抜き穴107が形成されている。また、エンジン本体101には、インペラ211の羽根と対向する、すり鉢状の傾斜面173と、傾斜面173の周囲に位置し、
図5の反時計回りに進むごとに幅が太くなっているインペラ室213の空間に向かい合う形状のインペラ室171が形成されている。
【0037】
図8は、ポンプケーシング203が取り付けられたエンジン100を、
図5のA-A面(インペラ211の回転軸215を含む平面)で切った断面図である。図において、断面部分は太線で示されている。
【0038】
図に示されるように、インペラ211の羽根部分は、エンジン本体101内のインペラ室171及び傾斜面173で構成される空間に入り込むように位置する。インペラ211の左端部(回転軸215の左端部)は、ポンプ入口103に位置する。インペラ211の右端部は、ポンプケーシング203内のインペラ室213に位置する。
図5で示したように、インペラ室213の空間は
図5では反時計回りに進むごとに幅が太くなっているので、
図8ではインペラ室213の回転軸215に直交する方向の断面幅は、
図8の下よりも上が太くなっている。
【0039】
エア抜き穴205は、
図8ではインペラ室213の最上部から紙面奥側に向かって伸びる穴である。
【0040】
図9は、ポンプケーシング203が取り付けられたエンジン100を
図5のB-B面(エア抜き穴107の伸長方向を含む平面)で切った断面図である。図において、断面部分は太線で示されている。
【0041】
図に示されるように、ポンプケーシング203に設けられたエア抜き穴209の上部は、エンジン本体101に設けられたエア抜き穴107と連通する。エア抜き穴107は、サーモスタット111が設けられる管(ボトムバイパス)に連通する。これにより、冷却水ポンプP内(インペラ室213内)のエアがサーモスタット111(ポンプ入口103側)に送られ、冷却水ポンプP内のエア抜きが可能となっている。
【0042】
エア抜き穴209、及びエア抜き穴107は、冷却水ポンプPにおいてメインとなる冷却水通路(第1通路)の冷却水吐き出し方向(
図9の左方向)に向かって伸びるように設けられる。エア抜き用冷却水通路を、メインの冷却水吐き出し口と同じ方向側に設けることで、冷却水ポンプPの外形をコンパクトに収めることができる。
【0043】
ポンプP内のエアは、一部泡(キャビテーション)となって冷却水とともにエンジン100内を循環し、リザーバータンク(ラジエータ)などのエア抜き構造で除去される。エア抜き構造を備える部品は任意である。例えば、ラジエータ161をエンジン100下部に設置せざるを得ない場合は、エンジン100上部にあるサーモスタット111にエア抜き構造を持たせてもよい。
【0044】
なお、ポンプケーシング203は、アルミダイキャストによって流路を形成することが望ましい。一般的にはアルミ鋳造で形成するが、砂を用いて形成するため鋳砂が残る可能性がある。鋳砂が流路に残るとエア抜けが悪くなり、ポンプの圧送効率低下に繋がる。ダイキャストによる形成では、金型に圧入し製造するため、細い経路を形成することが可能である。また、鋳砂残りの危険性がなく、低コストである。
【0045】
[実施の形態の効果]
【0046】
(1)上述の実施の形態によると、エンジン内部のエア溜りを改善するために、外部配管を用いることなく、インペラ室171の最上部にエア抜き穴205,209,107が設けられる。すなわち、メインとなる冷却水通路(第1通路)とは別に、冷却水ポンプの上部にエア抜き用冷却水通路(第2通路)が設けられる。このような構造により、エンジンのコンパクト化、部品点数を抑えての低コスト化、耐久性の向上が図られる。また、外部配管の他部品との干渉が発生する虞もなくなる。
【0047】
(2)上述の実施の形態によると、シリンダブロック、シリンダヘッドを冷却後の水路(エンジン冷却に影響の無い箇所)に冷却水ポンプP内の空気を逃す構造としている。仮にブロックとヘッドの間にエア抜き穴205,209,107を連通させた場合、エンジンで最も高温となり冷却が必要なヘッドの冷却水ジャケットにエアを逃す構造となってしまい、空気混入によりヘッド冷却効率が低下する。本実施の形態では、ブロック・ヘッドを冷却後の水路(エンジン冷却に影響の無い箇所)に冷却水ポンプP内の空気を逃すため、エンジンの冷却性能を維持したまま、冷却水ポンプP内の空気抜きを可能としている。
【0048】
(3)上述の実施の形態によると、エア抜き穴205,209,107の下流にサーモスタット111が設けられ、サーモスタット111の下流は外部配管を介してラジエータ161と連通する。エンジン冷態時(エンジン始動直後など)では、サーモスタット111が閉じてラジエータ161まで冷却水が回らないため、過剰な冷却を防止しながら冷却水を効率よく循環させることができる。反対にエンジン暖態時(エンジン通常運転状態)では、サーモスタット111が開いてラジエータ161まで冷却水が回るため、エンジンと熱交換して温度上昇した冷却水をラジエータ161によって冷却して循環させることができ、エンジンの冷却性能を保つことができる。
【0049】
(4)上述の実施の形態によると、エア抜き穴205,209,107(エア抜き用冷却水通路)は、冷却水ポンプPにおいてメインの冷却水吐き出し口側(
図7における左側)に設けられる。エア抜き用冷却水通路を冷却水吐き出し口と同じ方向側に設けることで、冷却水ポンプPの外形をコンパクトに収めることができる。
【0050】
(5)上述の実施の形態によると、エア抜き穴205,209,107(エア抜き用冷却水通路)における冷却水の流通断面積は、冷却水ポンプPの冷却水吐き出し口105における冷却水の流通断面積より小さい。エア抜き用冷却水通路の流通断面積を、メインの冷却水通路である冷却水吐き出し口の流通断面積よりも小さくすることで、メインの冷却水通路における冷却水流量を十分に確保してエンジン冷却を行いながら、エア抜き用冷却水通路によって冷却水を分岐させてエア抜きも行うことができる。
【0051】
上述の実施の形態及び変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
100 エンジン
101 エンジン本体
103 ポンプ入口
105 ポンプ出口
107 エア抜き穴
111 サーモスタット
153 シリンダブロック
157 シリンダヘッド
159 ラジエータ入口
161 ラジエータ
163 ラジエータ出口
171 インペラ室
173 傾斜面
203 ポンプケーシング
205,209 エア抜き穴(第2通路の具体例)
207 ポンプ出口(第1通路の具体例)
211 インペラ
213 インペラ室
215 回転軸
P 冷却水ポンプ