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特許7421544ニューラルネットワークに基づいている走行機能の監視
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ニューラルネットワークに基づいている走行機能の監視
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20240117BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240117BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W60/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021507478
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 DE2019200146
(87)【国際公開番号】W WO2020125875
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】102018222720.9
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399023800
【氏名又は名称】コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 友子
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ファイフェル・ハーラルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグナー・ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シュレブラー・ジクハルト
【審査官】佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131141(JP,A)
【文献】特開2018-190045(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030082(WO,A1)
【文献】特開2018-081080(JP,A)
【文献】特開2017-047694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自立化乃至自動化された車両(160)のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御するための制御システム(100)であって、以下を包含していることを特徴とする制御システム(100):
車両(160)の周辺部からオブジェクトを捕捉し、対応するオブジェクトデータ(111)を提供することができる様に構成されている捕捉手段(110);
オブジェクトデータ(111)から車両(160)を制御するための少なくとも一つの第一制御命令(121)を作成することができる様に構成されている人工知能モジュール(120);
確定論的な計算規則を用いてオブジェクトデータ(111)から車両(160)を制御するための少なくとも一つの車両用の第二制御命令(131)を作成することができる様に構成されている予備手段(130);
オブジェクトデータ(111)を基に、計算値を割り出し、それを基に、危険性値(141)を算出することができる様に構成されている安全手段(140);並びに、
人工知能モジュール(120)の第一制御命令(121)、予備手段(130)の第二制御命令(131)、及び、安全手段(140)の危険性値(141)を受け取ることができる様に構成されている安全ゲート(150)、
但し、安全ゲート(150)は、危険性値(141)を基に、第三制御命令(151)を車両(160)に送信することができる様にも構成されているが、該第三制御命令(151)は、人工知能モジュール(120)の第一制御命令(121)、或いは、予備手段(130)の第二制御命令(131)のいずれかである、乃至、これらのいずれかに相当している。
【請求項2】
人工知能モジュール(120)が、ニューラルネットワークを用いて、オブジェクトデータ(111)から、車両(160)用の少なくとも第一制御命令(121)を作成することができる様に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の制御システム(100)。
【請求項3】
安全ゲート(150)が、算出された危険性値(141)が、予め定められた第一閾値を超えた場合に、予備手段(130)の第二制御命令(131)を車両(160)に転送することができる様に構成されていることを特徴とする請求項1から2のうち何れか一項に記載の制御システム(100)。
【請求項4】
安全ゲート(150)が、算出された危険性値(141)が、予め定められた第二閾値を下回っている場合は、自動化された運転を終了させるマヌーバを行うように構成されていることを特徴とする請求項1から3のうち何れか一項に記載の制御システム(100)。
【請求項5】
自動化された運転を終了させるためのマヌーバが、車両(160)のドライバーへの運転引き継ぎ要請、或いは、最低リスク運転であることを特徴とする請求項4に記載の制御システム(100)。
【請求項6】
捕捉手段(110)が、車両(160)の周辺部のオブジェクトをカメラ、レーダセンサ、ライダセンサ、及び/或いは、超音波センサによって捕捉することができるように構成されていることを特徴とする請求項1から5のうち何れか一項に記載の制御システム(100)。
【請求項7】
第一制御命令(121)、第二制御命令(131)、及び、第三制御命令(151)が、少なくとも、車両(160)のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御できるように構成されていることを特徴とする請求項1から6のうち何れか一項に記載の制御システム(100)。
【請求項8】
安全手段(140)が、計算値として、車両(160)の自己速度、オブジェクト車両の速度、起こり得る衝突までの時間、必要となる制動マヌーバまでの時間乃至必要な減速を用いることができる様に構成されていることを特徴とする請求項1から7のうち何れか一項に記載の制御システム(100)。
【請求項9】
自立化乃至自動化された車両(160)のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御するための方法であって、以下のステップを包含していることを特徴とする方法:
-車両(160)の周辺部にあるオブジェクトを捕捉し、対応するオブジェクトデータ(111)を提供するステップ(S1)、
-車両(160)用の少なくとも一つの第一制御命令(121)を、オブジェクトデータ(111)から人工知能(120)を用いて作成するステップ(S2)、
-車両(160)用の少なくとも一つの第二制御命令(131)を、オブジェクトデータ(111)から確定論的計算規則を用いて作成するステップ(S3)、
-オブジェクトデータ(111)に基づいて計算値を割出し、それに基づいて危険性値(141)を算出するステップ(S4)、並びに、
-第一制御命令(121)、第二制御命令(131)、及び、危険性値(141)を受信し、危険性値(141)に基づいた第三制御命令(151)を車両(160)へ送信するステップ(S5)、
但し、第三制御命令(151)は、人工知能モジュール(120)の第一制御命令(121)、或いは、確定論的計算規則による第二制御命令(131)のいずれかである、或いは、これらのうちの一つに相当している。
【請求項10】
算出された危険性値(141)が、予め定められた第一閾値を超えている場合、確定論的計算規則によって割り出された第二制御命令(131)が、伝達されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
あるプロセッサー上において実行された場合、請求項1から8のうち何れか一項に記載の制御システム(100)に、請求項9或いは10の何れか一項に記載の方法を実施させるコンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自立化乃至自動化された車両を制御するための制御システム並びに方法及びコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自立化乃至自動化された車両を制御する場合、走行状況の認識を、人工知能が担うようになってきている。即ち、該走行状況に対してどのようなアクションを実施して対応すれば良いのかと言った判断も、人工知能の判断を基に実施されると言うことである。この目的を達成するために、現実における走行状況、並びに、それらへの対応として下されるべき判断からなるデータに基づいてトレーニングされるニューラルネットワークが頻繁に採用されている。しかしながら、道路交通において人工知能を使用する短所としては、人工知能が下した判断を追体験する方法が無い、乃至、例えそれが可能な場合でもそれが粗悪であることが挙げられる。即ち、これは、該システムがどのような判断が下されるのかを入力データによって確定することができない非確定論的システムであることを意味している。よって、エラーがあった場合、特に、自動運転された車両が事故に関与した場合、事故状況や自立化乃至自動化された車両が犯したかもしれない過失の再現は、不可能である。これは、特に重大な事故の場合、責任と保証の観点から、過失の有無は、一義的に解明されなければならないため、法的に重大な影響を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明の課題は、自立化乃至自動化された車両を制御するための改善された制御システムを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、上記目的は、独立請求項に記載されている対象によって達成される。尚、有利な実施形態は、従属請求項、以下の明細書、並びに、図の対象である。
【0005】
尚、記述されている実施形態は、自立化乃至自動化された車両のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動を制御するための制御システム、及び、自立化乃至自動化された車両のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動を制御するための方法、コンピュータープログラム、並びに、コンピューターによって読み取り可能な媒体に対して同様に、有効である。様々な実施形態の組み合わせによって、相乗効果は、それを詳細に記載していなくとも、得られことがある。
【0006】
更に、ある方法に係る本発明の全ての実施形態が、ステップの記載されている順序において実施可能であると言うことも指摘しておく。しかしながらこれは、該方法のステップの必ずしも唯一可能且つ必要な順序では無い。ここに記述されている方法は、以下に、明確にそれと相反することが記述されていない限り、該方法の対応する実施形態から逸脱することなく、開示されている順序とは別の順序でも実施可能である。
【0007】
本発明の第一アスペクトによれば、自立化乃至自動化された車両のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御するための制御システムを提供する。その際、制御システムは、オブジェクトを車両の周辺部から捕捉し、対応するオブジェクトデータを提供する様に構成されている一つの捕捉手段を有している。更に、該制御システムは、該オブジェクトデータから少なくとも一つの車両用の第一制御命令を作成する様に構成されている人工知能モジュール、並びに、確定論的な計算規則を用いて該オブジェクトデータから、少なくとも一つの車両用の第二制御命令を作成する様に構成されている予備手段も有している。また、該制御システムは、該オブジェクトデータを基に、計算値を割り出し、それを基に、危険性値を算出する様に構成されている安全手段、並びに、人工知能モジュールの第一制御命令、予備手段の第二制御命令、及び、安全手段の危険性値を受け取ることができる様に構成されている安全ゲートも有している。更に、該安全ゲートは、危険性値を基に、第三制御命令を車両に送信することができる様にも構成されているが、該第三制御命令は、人工知能モジュールの第一制御命令、或いは、予備手段の第二制御命令のいずれかである、乃至、これらのいずれかに相当している。
【0008】
即ち、本発明に係る自立化乃至自動化された車両用の制御システムでは、車両の周辺部を監視するためのセンサ類によって得られるオブジェクトデータは、少なくとも三つのサブユニットに転送される。第一サブユニットは、車両の自動化された制御を実施するためのユニットである。これは、オブジェクトデータを分析し、指示すべき走行アクションに関する判断を、人工知能をベースに下す。
第二サブユニットも車両の自動化された制御を実施するためのユニットではあるが、これが指示する走行アクションは、どの入力値の時にどの出力値がアウトプットされるのかが、厳密に予め定められている確定論的にプログラミングされたアルゴリズムを基にしている。第三サブユニットも、オブジェクトデータを分析するが、これは、容易に得られる計算値に関してのみ実施される。そして、これらの計算値を基に、その時点の走行状況における事故が起こる確立の尺度である危険性値が算出される。
三つのサブユニットの各々の出力値、即ち特に、第一乃至第二サブユニットの車両のブレーキ、ハンドル及び/或いは駆動系に対視する第一及び第二制御命令、並びに、第三サブユニットの危険性値は、安全ゲートに伝達される。該安全ゲートは、受け取った情報を処理した上で、第三制御命令を車両に伝達する。この第三制御命令は、好ましくは、第一制御命令、或いは、第二制御命令を基にしている、或いは、これらに相当している。該安全ゲートは、人工知能に基づいたサブユニットの第一制御命令を監視する役割を担っており、人工知能が、走行状況を明白に誤推定している場合に、該車両の制御が、確定論的にプログラミングされたアルゴリズムによって引き継がれることを確実なものとしている。こうすることにより、事故が起こった場合でも、事故原因を再現できることが、確実なものとなっている。しかしながら、危険性値が、通常の平均的な範囲で推移している多くの走行状況においては、該安全ゲートは、車両の制御を人工知能モジュールに任せておく。
【0009】
人工知能モジュールは、一つの或いは複数のインプットから、典型的にはフリーパラメータのグループを有する内部処理チェーンを用いて、一つの或いは複数のアウトプットを算出する。該内部処理チェーンは、一つのプロセスにおいてインプットからアウトプットまで順々に実行される互いにつながれた層に分割することもできる。多くの人工知能モジュールは、高い次元のインプットを、有意に低い次元のアウトプットに変換するように構成されている。人工知能モジュールにとって通常なタスクは、画像を、交通状況の一つの或いは複数のカテゴリーに帰属させ、これを、ある特定のオブジェクトを包含しているか否か、そして、それが、どこにあるかに基づいて、解釈することである。これらのオブジェクトは、道路の経路をマーキングするものであったり、道路上の他の交通参加者や障害物、或いは、交通標識や信号であったりすることができる。該タスクによれば、例えば、各々認識されたオブジェクト毎に対して、インプット画像内に描写されている該オブジェクトとそのオブジェクトが車両の周辺部のどの領域にあるのかに関する情報とを統合することにより確率を示し、車両がどのように反応するべきであるかと言う判断を下すことができる。この様なモジュールは、「トレーニングする」ことができるため、「知能」であると言うことができる。尚、該モジュールは、トレーイングデータ内のデータセットを用いることにより、トレーニングすることができる。該トレーイングデータ内のデータセットは、トレーニングインプットデータと対応するトレーニングアウトプットデータを包含している。尚、トレーイングデータのデータセットのトレーニングアウトプットデータとは、トレーイングデータのデータセットのトレーニングインプットデータが、インプットとして与えられたときに、該モジュールに期待される結果である。期待されている結果とモジュールが実際に作成した結果の誤差は、記録され、「損失関数」によって、評価される。この損失関数は、モジュールの内部処理チェーンのパラメータを適合させるために、フィードバックとして用いられる。このトレーニングの結果とは、「根本的真理」としてのトレーイングデータから与えられる比較的小さなデータセットを用いることにより、該モジュールが、タスクを実施することができる様になる、即ち、画像がどのオブジェクトを包含しているかに従って、インプットデータから得られる何桁も大きなデータセットにおいて、良好に画像を分類できる様になることである。人工知能モジュールは、例えば、ニューラルネットワーク、進化的アルゴリズム、サポートベクターマシン、k平均法、カーネル回帰法、或いは、判別分析であることができる。
【0010】
本発明のある実施形態では、人工知能モジュールは、ニューラルネットワークを用いて、オブジェクトデータから、車両用の少なくとも第一制御命令を作成することができる様に構成されている。
【0011】
ニューラルネットワークは、人工知能モジュールの内部処理チェーンの典型例である。これは、複数の層から形成されているが、各層が、一つの或いは複数のニューロンを包含している。隣接する層のニューロンは、第一層のニューロンの出力が、隣接する第二層の一つの或いは複数のニューロンの入力となるようにつながれている。各々のこの様な接続には、ニューロンのアウトプットを、それへのインプットの関数として与える「活性化関数」の対応する入力に考慮される「加重」が与えられる。該活性化関数は、典型的には、インプットの非線形関数である。例えば、該活性化関数は、加重された合計、乃至、インプットの他の線形関数である「プレ活性化関数」、並びに、閾値を形成する関数、乃至、プレ活性化関数の値からニューロンの最終アウトプットを作成する他の非線形関数も包含していることができる。
【0012】
本発明のこの実施形態は、ニューラルネットワークを、走行状況を基に、受信したオブジェクトデータを解釈し、車両の制御に関する判断を下すために採用されることができる。その際、該判断は、実際の状況をシミュレーションし、ニューラルネットワークを将来実際に下されるべき判断に対して準備するために先に実施されたニューラルネットワークのトレーニングに基づいている。
【0013】
本発明のある実施形態では、該安全ゲートは、算出された危険性値が、予め定められた第一閾値を超えた場合に、予備手段の第二制御命令を車両に転送することができる様に構成されている。
【0014】
該危険性値が、予め定められた第一閾値を超えていると言うことは、衝突が起こり得るクリティカルな走行状況であることを意味している。該安全ゲートは、この様なケースにおいて、対策の必要性を認識し、直接的に人工知能の第一制御命令をブロックし、確定論的アルゴリズムを有する予備手段に切り替える。或いは、該安全ゲートは、先ずは、状況に対する人工知能の反応が適したものであったか否かを検証し、場合によっては、第一及び第二制御命令を比較する。有意に制動した、或いは、適切に操舵に介入した、など反応が適していた場合には、本発明のこの実施形態では、車両の制御は、引き続き人工知能に、担当させる。しかしながら、クリティカルな走行状況に対する人工知能の適切な反応が実施されなかった場合、安全ゲートは、予備手段に車両制御を引き継がせる。
【0015】
本発明のある実施形態では、該安全ゲートは、算出された危険性値が、予め定められた第二閾値を下回っている場合は、自動化された運転を終了させるマヌーバを行うように構成されている。
【0016】
該危険性値が、予め定義されている第二閾値未満である場合は、有意にクリティカルな走行状況未満である、例えば、走行状況に適さないほど低速である、乃至、制動介入が強すぎる、などであることを意味している。該安全ゲートは、この様なケースにおいても、対策の必要性を認識し、直接的に人工知能の第一制御命令をブロックし、確定論的アルゴリズムを有する予備手段に切り替える。或いは、該安全ゲートは、先ずは、状況に対する人工知能の反応が適したものであったか否かを検証し、場合によっては、第一及び第二制御命令を比較する。例えば、加速や制動介入などの反応が適切な場合は、安全ゲートは、車両の制御を、引き続き、人工知能に任せる。しかしながら、クリティカルではない走行状況に対する人工知能の適切な反応が実施されなかった場合は、該安全ゲートは、予備手段に車両制御を引き継がせる。更に該安全ゲートは、本発明の実施形態においては、自動化された運転を終了させるマヌーバを作動させることもできる。
【0017】
本発明の実施形態における自動化された運転を終了させるためのマヌーバは、車両のドライバーへの運転引き継ぎ要請、或いは、最低リスク運転であることができる。
【0018】
自動化された運転を終了するために、該制御システムは、車両のドライバーに、車両の運転を引き継ぐことを要求することができる。しかしながら、ドライバーが、例えば、予め定められた時間内に、該要求に応えない場合、該制御システムは、車両が、例えば次の安全な場所へ接近する、最低リスクマヌーバによって車両に自動化された運転を終了させる指示を出すことができる。
【0019】
本発明のある実施形態では、捕捉手段は、車両の周辺部のオブジェクトをカメラ、レーダセンサ、ライダセンサ、及び/或いは、超音波センサによって捕捉することができるように構成されている。
【0020】
車両の周辺部と対応する走行状況を捕捉するためには、本発明の実施形態では、周辺部を、光学的、聴覚的、電磁波的、或いは、その他の方法によって走査する、或いは、対応する情報を記録することができる複数の様々なセンサ類やカメラが、車両に取付けられていることができる。
【0021】
本発明のある実施形態では、第一制御命令、第二制御命令、及び、第三制御命令は、少なくとも、車両のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御できるように構成されている。
【0022】
ブレーキ、ハンドル並びに駆動系は、車両を制御するに当たって、特に、事故を回避するための制御命令において最も重要な機能として挙げられている。しかしながら、当然のことではあるが、本発明のこの実施形態では、例えば、ウインカー、クラクション、或いは、ワイパーなどの車両の他の機能を制御命令によって制御することも可能である。
【0023】
本発明のある実施形態では、該安全手段は、計算値として、車両の自己速度、オブジェクト車両の速度、起こり得る衝突までの時間、必要となる制動マヌーバまでの時間乃至必要な減速を用いる様に構成されている。
【0024】
危険性値を計算するために該安全手段は、本発明のこの実施形態では、オブジェクトデータから容易に得られる計算値を用いている。これらの計算値は、例えば、画像を与える方法を用いる走行状況の詳細な分析を基にする必要は無く、有利なことに、例えば、速度センサや間隔センサのデータから容易に得られることができる。
【0025】
本発明の更なるアスペクトは、自立化乃至自動化された車両のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御するための方法を提供するが、該方法は、以下のステップを包含している:第一ステップは、車両の周辺部にあるオブジェクトを捕捉し、対応するオブジェクトデータを提供することを包含している。第二ステップは、該車両用の少なくとも一つの第一制御命令をオブジェクトデータから、人工知能モジュールを用いて作成することを包含している。第三ステップは、該車両用の少なくとも一つの第二制御命令をオブジェクトデータから、確定論的計算規則を用いて作成することを包含している。第四ステップは、オブジェクトデータに基づいて計算値を割出し、それに基づいた危険性値を算出することを包含している。第五ステップは、第一制御命令、第二制御命令、及び、危険性値を受信し、危険性値に基づいた第三制御命令を車両に送信しすることを包含しているが、該第三制御命令は、人工知能モジュールの第一制御命令、或いは、確定論的計算規則による第二制御命令のいずれかである、或いは、これらのうちの一つに相当している。
【0026】
要するに、自立化乃至自動化された車両の制御は、ステップに分割することのできる方法によって実施される。周辺部からオブジェクトデータを捕捉する第一ステップに続いては、好ましくは同時に、第二、第三及び第四ステップが、実施される。ここでは、オブジェクトデータがそれぞれ分析され、異なる方法で、更に処理される。第二ステップでは、第一制御命令の作成が、人工知能によって実施される。第三ステップでは、第二制御命令の作成が、確定論的計算規則によって実施される。そして、第四ステップでは、走行状況の危険性値が、算出される。好ましくは、第二、第三、及び、第四ステップと同時に実施される第五ステップでは、第三制御命令が、作成される。危険性値に応じて、且つ好ましくは、第一制御命令と走行状況に対する第一制御命令の適切な反応に応じて、第三制御命令は、第一制御命令、或いは、第二制御命令のいずれか、或いは、これらのいずれかに相当するものから構成されている。しかしながら、ここに示されているステップの順序は、異なっていても良いことは、注意されるべきである。特に、これは限定されていると解釈してはならない。
【0027】
本発明のある実施形態では、算出された危険性値が、予め定められた第一閾値を超えている場合、確定論的計算規則によって割り出された第二制御命令が、伝達される。
【0028】
危険性値の予め定義されている第一閾値を超えている場合、例えば、適切なブレーキ介入を作動させる、或いは、再現可能な制御挙動を得るために、本発明のこの実施形態では、直接的に第二制御命令が用いられ、第三制御命令として伝達されることができる。但し、第一制御命令の妥当性を、場合よっては第一及び第二制御命令を比較することによって、前もって検証することも可能である。この様なケースでは、第一制御命令の挙動が、妥当では無い場合にのみ、第二制御命令に切り替えられる。該状況に対して適切である第一制御命令に関しては、これが、第三制御命令として車両を制御するために用いられる。
【0029】
本発明の更なるアスペクトは、あるプロセッサー上において実行された場合、上述のいずれかの実施形態に係るある一つの制御システムに、上述のいずれかの実施形態に係るある一つの方法を実施させる様にするコンピュータープログラムを包含している。
【0030】
本発明の更なる実施例は、以下の図を参照しながら以下に説明される:
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、自立化乃至自動化された車両を制御するための本発明に係る制御システムの概略的な構造を示している。
図2図2は、自立化乃至自動化された車両を制御するための本発明に係る方法のブロック図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、自立化乃至自動化された車両160を制御するための本発明に係る制御システム100の概略的な構造を示している。捕捉手段110は、車両160の周辺部からオブジェクトを捕捉し、対応するオブジェクトデータ111を提供することができる様に構成されている。該オブジェクトデータ111は、人工知能モジュール120、予備手段130、並びに、安全手段140に提供される。該人工知能モジュール120は、該オブジェクトデータ111から車両160を制御するための少なくとも一つの第一制御命令121を作成する。該予備手段130は、該オブジェクトデータ111から、確定論的計算規則を用いて、車両160を制御するための少なくとも一つの第二制御命令131を作成する。そして、該安全手段140は、該オブジェクトデータ111から計算値を割出、これに基づいて危険性値141を算出する。これら第一制御命令121、第二制御命令131並びに危険性値141は、安全ゲート150に伝達される。これは、第三制御命令151を、危険性値141を基にして作成することができる様に構成されているが、該第三制御命令151は、人工知能モジュール120の第一制御命令121、或いは、予備手段130の第二制御命令131のいずれか、乃至、いずれかに相当している、或いは、これらのいずれかを基にしている。ここにおいて、人工知能モジュール120の第一制御命令121を監視することは、確定論的にプログラミングされた予備手段130の第二制御命令131をバックアップとして用いて、車両160の制御システム100が、クリティカルな走行状況に対して適切に反応すること、或いは、事故があった場合には、その事故の経緯を再現し、責任の所在を解明できることを確実なものとする役割を担っている。
【0033】
図2は、自立化乃至自動化された車両160を制御するための本発明に係る方法のブロック図を示している。車両160の周辺部から一つのオブジェクトを捕捉し、対応するオブジェクトデータ111を提供する第一ステップS1に続いては、ステップS2、S3及びS4が、好ましくは、同時に実施される。第二ステップS2では、車両160用の少なくとも一つの第一制御命令121が、人工知能120を用いて作成される。第三ステップS3では、車両160用の少なくとも一つの第二制御命令131の作成が、確定論的計算規則によって実施される。第四ステップS4では、オブジェクトデータ111に基づいた計算値の割出しと、それに基づいた危険性値141の算出が実施される。好ましくはS2、S3及びS4と同時に実施されるステップ第五ステップS5では、第一制御命令121、第二制御命令131、及び、危険性値141の受信、並びに、危険性値141に基づいた第三制御命令151の車両160への送信が実施されるが、該第三制御命令151は、人工知能モジュール120の第一制御命令121、或いは、確定論的計算規則による第二制御命令131のいずれかである、或いは、これらのうちの一つに相当している。
【0034】
尚、ここで使われている用語「包含する(原文=“umfassend”)」は、他のエレメントや他のステップが含まれないと言う意味で使われているのではなく、また、原文における“eine”や“ein”(対訳=「ひとつの」)によって、複数が排除されるものではないことを、捕捉として指摘しておく。更に、ひとつの、或いは、上述の実施例への参照と共に記述されている特徴やステップは、他の上述の実施例の他の特徴やステップとの組み合わせで使用されてもよいことも指摘しておく。請求項内の符号は、制限をかけるものではない。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の観点として以下を含む。
1.
自立化乃至自動化された車両(160)のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御するための制御システム(100)であって、以下を包含していることを特徴とする制御システム(100):
車両(160)の周辺部からオブジェクトを捕捉し、対応するオブジェクトデータ(111)を提供することができる様に構成されている捕捉手段(110);
オブジェクトデータ(111)から車両(160)を制御するための少なくとも一つの第一制御命令(121)を作成することができる様に構成されている人工知能モジュール(120);
確定論的な計算規則を用いてオブジェクトデータ(111)から車両(160)を制御するための少なくとも一つの車両用の第二制御命令(131)を作成することができる様に構成されている予備手段(130);
オブジェクトデータ(111)を基に、計算値を割り出し、それを基に、危険性値(141)を算出することができる様に構成されている安全手段(140);並びに、
人工知能モジュール(120)の第一制御命令(121)、予備手段(130)の第二制御命令(131)、及び、安全手段(140)の危険性値(141)を受け取ることができる様に構成されている安全ゲート(150)、
但し、安全ゲート(150)は、危険性値(141)を基に、第三制御命令(151)を車両(160)に送信することができる様にも構成されているが、該第三制御命令(151)は、人工知能モジュール(120)の第一制御命令(121)、或いは、予備手段(130)の第二制御命令(131)のいずれかである、乃至、これらのいずれかに相当している。
2.
人工知能モジュール(120)が、ニューラルネットワークを用いて、オブジェクトデータ(111)から、車両(160)用の少なくとも第一制御命令(121)を作成することができる様に構成されていることを特徴とする上記1に記載の制御システム(100)。
3.
安全ゲート(150)が、算出された危険性値(141)が、予め定められた第一閾値を超えた場合に、予備手段(130)の第二制御命令(131)を車両(160)に転送することができる様に構成されていることを特徴とする上記1から2のうち何れか一つに記載の制御システム(100)。
4.
安全ゲート(150)が、算出された危険性値(141)が、予め定められた第二閾値を下回っている場合は、自動化された運転を終了させるマヌーバを行うように構成されていることを特徴とする上記のうち何れか一つに記載の制御システム(100)。
5.
自動化された運転を終了させるためのマヌーバが、車両(160)のドライバーへの運転引き継ぎ要請、或いは、最低リスク運転であることを特徴とする上記4に記載の制御システム(100)。
6.
捕捉手段(110)が、車両(160)の周辺部のオブジェクトをカメラ、レーダセンサ、ライダセンサ、及び/或いは、超音波センサによって捕捉することができるように構成されていることを特徴とする上記のうち何れか一つに記載の制御システム(100)。
7.
第一制御命令(121)、第二制御命令(131)、及び、第三制御命令(151)が、少なくとも、車両(160)のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御できるように構成されていることを特徴とする上記のうち何れか一つに記載の制御システム(100)。
8.
安全手段(140)が、計算値として、車両(160)の自己速度、オブジェクト車両の速度、起こり得る衝突までの時間、必要となる制動マヌーバまでの時間乃至必要な減速を用いることができる様に構成されていることを特徴とする上記のうち何れか一つに記載の制御システム(100)。
9.
自立化乃至自動化された車両(160)のブレーキ、ハンドル、及び/或いは、駆動系を制御するための方法であって、以下のステップを包含していることを特徴とする方法:
-車両(160)の周辺部にあるオブジェクトを捕捉し、対応するオブジェクトデータ(111)を提供するステップ(S1)、
-車両(160)用の少なくとも一つの第一制御命令(121)を、オブジェクトデータ(111)から人工知能(120)を用いて作成するステップ(S2)、
-車両(160)用の少なくとも一つの第二制御命令(131)を、オブジェクトデータ(111)から確定論的計算規則を用いて作成するステップ(S3)、
-オブジェクトデータ(111)に基づいて計算値を割出し、それに基づいて危険性値(141)を算出するステップ(S4)、並びに、
-第一制御命令(121)、第二制御命令(131)、及び、危険性値(141)を受信し、危険性値(141)に基づいた第三制御命令(151)を車両(160)へ送信するステップ(S5)、
但し、第三制御命令(151)は、人工知能モジュール(120)の第一制御命令(121)、或いは、確定論的計算規則による第二制御命令(131)のいずれかである、或いは、これらのうちの一つに相当している。
10.
算出された危険性値(141)が、予め定められた第一閾値を超えている場合、確定論的計算規則によって割り出された第二制御命令(131)が、伝達されることを特徴とする上記9に記載の方法。
11.
あるプロセッサー上において実行された場合、上記1から8のうち何れか一つに記載の制御システム(100)に、上記9或いは10の何れか一つに記載の方法を実施させるコンピュータープログラム
【符号の説明】
【0035】
100 制御システム
110 捕捉手段
111 オブジェクトデータ
120 人工知能モジュール
121 第一制御命令
130 予備手段
131 第二制御命令
140 安全手段
141 危険性値
150 安全ゲート
151 第三制御命令
160 車両
図1
図2