(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】二量体ペプチド-リン脂質コンジュゲートのための最適化された方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/10 20060101AFI20240117BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20240117BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20240117BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C07K1/10 ZNA
C07K1/22
C07K1/20
C07K1/18
(21)【出願番号】P 2021533554
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 EP2019085459
(87)【国際公開番号】W WO2020127124
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-08-24
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519046281
【氏名又は名称】ブラッコ・スイス・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】クルエ アントニー
(72)【発明者】
【氏名】ラミー ベルナール
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-518448(JP,A)
【文献】特開2007-008933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(I)
または薬学的に許容できるその塩の調製方法であって、
(i)対応するスクシンイミジルエステル中間体(II)
を、DSPE-PEG
2000-NH
2リン脂質(III)
と、DIEAの存在下でカップリングするステップを含み、
ここで前記リン脂質(III)は、化合物(II)に対して過剰に存在
し、前記過剰は、化合物(II)の当量あたり1.1当量~5当量の間のリン脂質(III)である、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記カップリングは、化合物(II)の当量あたり2当量のリン脂質(III)で行われる、
方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
(ii)ステップ(i)の反応混合物から回収される粗生成物(I)を単離するステップ;
(iii)ステップ(ii)で得られる粗生成物を水で希釈してもよく、そして、pH6~8に到達するまで塩基を添加するステップ;および
(iv)ステップ(iii)の溶液から粗生成物を精製するステップ、
をさらに含む、
方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の方法であって、
ステップ(iii)の溶液は、pH7.0~7.5にされる、
方法。
【請求項5】
請求項
3に記載の方法であって、
ステップ(iv)の精製は、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって行われる、
方法。
【請求項6】
請求項
3に記載の方法であって、
ステップ(iv)の精製は、イオン交換クロマトグラフィーによって行われる、
方法。
【請求項7】
請求項
3に記載の方法であって、
ステップ(iv)の精製は、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)およびイオン交換クロマトグラフィーの両方によって行われる、
方法。
【請求項8】
請求項
5または
7に記載の方法であって、
RP-HPLC精製は、AcONH
4塩を含む移動相を用いて行われる、
方法。
【請求項9】
請求項
5または
6に記載の方法であって、
イオン交換クロマトグラフィーは、弱陰イオン交換樹脂およびpH7~8の緩衝液を用いて行われる、
方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の方法であって、
溶出溶液は、バッファー0.05M Tris・HCl+1.00M NaCl+35% iPrOHである、
方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、
化合物(II)は、式(IV)の対応する中間体
の、グルタル酸ジ(N-スクシンイミジル)を用いた活性化によって調製される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用および診断用組成物において有用であるKDR標的化ペプチド-リン脂質コンジュゲートの分野に関し、特に、その調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、既存の血管系からの新たな血管の形成を表わし、正常な生理学的プロセスだけでなく、がん、関節リウマチおよび糖尿病性微小血管障害のような疾患の病因においても重要な役割を果たしている。例えば、血管新生は、腫瘍の、過形成性から腫瘍性の増殖への移行に関与する。したがって、関連する病理学的プロセスの阻害は、治療的および診断的ながん研究において非常に重要である。
【0003】
血管新生増殖因子が血管新生阻害剤よりも多く産生されると、内皮細胞は増殖するように刺激される。公知でよく特徴付けられた血管新生誘導剤または増殖因子のうち、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリー、特にKDR(キナーゼ挿入ドメイン受容体、VEGFR-2またはFlk-1としても知られる)は、より大量の内皮細胞発現を示し血管新生応答を支配するものとして、より大きな興味の対象を示している1。KDRの発現は、血管新生性の血管、特に腫瘍において非常に上方調節され、強い血管新生応答を誘導する2。
【0004】
KDRのインビボでのVEGF結合活性は血管新生に重要であり、したがって、内皮細胞におけるその上方調節を検出する能力、または、VEGF/KDR結合複合体を検出する能力は、血管新生を検出または監視するのに非常に有益である。
【0005】
診断および治療目的のために、例えば血管および内臓のイメージングのために、ガス充填超音波造影剤内に、所望の標的(例えばKDR)に関して高い結合親和性を示す任意の標的化ベクター組成物を取り込むことは、特に有利であることが知られている。
【0006】
例えば、KDR標的化ペプチド-リン脂質コンジュゲートを用いて、標的化ガス充填超音波造影剤を調製することができる。
【0007】
実際、ガス充填超音波造影剤は、超音波検査のための格別に効率的な超音波反射物であることが知られている。例えば、生体の血流内に、担体液体中のガス充填微小気泡の懸濁液を注入することは、超音波診断イメージングを非常に増強させ、したがって、血管のような内部解剖的構造の可視化を助ける。
【0008】
標的KDR、すなわちVEGF/KDR複合体に関して高い結合親和性を示す標的化ベクター組成物の1つは、例えば以下の化合物(I)、コンジュゲート「標的化ペプチド-リン脂質」(リポペプチド)によって示され、それは、特許出願WO2007/067979A2において最初に記載されたものであり、KDR発現組織に対する高い結合能力を示した。
【0009】
以下に報告され、
図1により詳細に示される前記化合物(I)は、2つの異なる単量体ペプチド鎖によって形成されるヘテロ二量体のペプチドにより構造的に構成され、それらは両方とも23アミノ酸であり、グルタリルリンカーによって結合されており、第2のグルタリルリンカーを介してDSPE-PEG
2000-NH
2のようなポリエチレングリコール部分(PEG)にコンジュゲートされる。
【0010】
KDR結合ペプチド-リン脂質コンジュゲート(I)の調製方法は、WO2007/067979A2に記載されている(52~54頁の実施例5および
図4に詳細が報告されている)。
【0011】
コンジュゲートは、ペプチドモノマーの自動化固相合成からスタートして、そのあとに、それらをカップリングさせて、グルタル酸スクシンイミジル(DSG)を用いて活性化させて、そのあとに、得られた誘導体を、グルタリル結合を介してDSPE-PEG2000-NH2とコンジュゲートさせることによって調製される。
【0012】
最後のコンジュゲートのステップは、以下のスキーム1にも示される。
スキーム1
【0013】
上記開示から、コンジュゲートのステップは、最終生成物の収率および純度の観点からいくつかの欠点を伴い得ると考えられる(段落[0063]を参照:「任意のフリーのリン脂質が、最終生成物の精製および単離を複雑にさせ得る」)。実際に、リン脂質試薬DSPE-PEG2000-NH2(III)(公知の精製方法によって最終生成物(I)から分離することが難しい)は、汚染物質の形成および扱いにくい精製の必要を防ぐために、スクシンイミジル-ジペプチド(II)に対して不足(default)で添加される(DSPE-PEG2000-NH2とスクシンイミジル-ジペプチドの間の比:0.9~1当量)。
【0014】
しかしながら、このアプローチは、最終生成物における不純物を制限するが、費用のかかるヘテロ二量体(II)の損失をもたらし、コンジュゲートのステップの収率を60%以下、またはさらには30%以下にさせる。さらに、WO2007/067979の実施例5に開示されるように、予備HPLC精製後の最終化合物は、2%近い不純物がまだ残っていて、医薬製品当局によって設定される要件に従っていない純度プロファイルである。
【0015】
公知のプロセスの別の欠点は、可溶化のために合成中に添加される、および予備HPLC精製のための移動相中の、高含有量のトリフルオロ酢酸(TFA)の存在に関連する。実際に、TFAは、薬学的に許容されない塩であると考えられるという事実の他に、5℃で凍結乾燥物の形態で、または溶液中に、生成物をTFA塩として保管すると、WO2007/067979の段落[0065]~[0066]に記載されるように、TFAによって促進される、二量体コンジュゲートにおけるリン脂質脂肪酸エステルのうちの1つの、酸加水分解によって形成されると考えられる分解が観察され、望ましくない不純物としてリゾ化合物が生じる。したがって、別のより安定な塩に、「二量体ペプチド-リン脂質コンジュゲートのTFA塩を変換する」ために、さらに面倒で時間のかかる手順を行わなければならない。
【0016】
手短には、公知のプロセスの主な問題は、ペグ化リン脂質(III)とのコンジュゲートのステップ中の、高価なヘテロ二量体(II)の不利益な損失;最終生成物の純度および収率を損なう困難な精製ステップ;およびTFA塩として得られ保管される最終生成物の不安定性によって表される。
【0017】
したがって、開示されるアプローチは、かなり効果的ではあるが、非常に負荷となり得て、妥当かつ産業的に適用可能な方法とはならない。純度および生産効率のパラメータは、まだ満たされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
反対に、そのような標的化ペプチド-リン脂質コンジュゲートをインビボで血管および内臓のイメージングにおいて用いるためには、非常に精製された形態の生成物の大スケール生産に関する効率的な方法を有することが、特に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記に定義された、コンジュゲートおよび精製のステップの最適化された条件によって特徴付けられる、ペプチド-リン脂質化合物(I)の新規の調製方法を提供する。この方法は、ガス充填超音波造影剤の製造に関して特に有用性をもたらす。
【0020】
このコンテキストにおいて、副産物からの最終化合物の分離を著しく改善させる効率的な分析手順が見いだされ、それにより、コンジュゲート中の出発原料(III)の量を増大させて、プロセス全体のスケーラビリティに有用な最良の純度プロファイルおよび適切な安定性プロファイルで、より高い収率で化合物(I)を得ることが可能になる。
【0021】
したがって、本発明の第1の態様は、化合物(I)
または薬学的に許容できるその塩の調製方法であり、
(i)対応するスクシンイミジルエステル中間体(II)
を、DSPE-PEG
2000-NH
2リン脂質(III)
と、DIEAの存在下でカップリングするステップを含み、
ここで、前記リン脂質(III)は、化合物(II)に対して過剰に存在する。
【0022】
好ましい一実施態様では、カップリングは、化合物(II)の当量あたり1.1当量以上のリン脂質(III)で行われる。
【0023】
より好ましい一実施態様では、カップリングは、化合物(II)の当量あたり2当量のリン脂質(III)で行われる。
【0024】
別の態様では、本発明は、
(ii)ステップ(i)の反応混合物から回収される粗生成物(I)を単離するステップ;
(iii)ステップ(ii)で得られる粗生成物を水で希釈してもよく、そして、pH6~8に到達するまで塩基を添加するステップ;および
(iv)ステップ(iii)の溶液から粗生成物を精製するステップ、をさらに含む前記方法を提供する。
【0025】
ステップ(iii)における塩基の添加は、水中の粗生成物の完全な可溶化を促進することができ、溶液のpHを6~8に維持する。好ましくは、適切な量の0,1N NaOHが、pH6.5~7.5に到達するまで、より好ましくはpH7.3に到達するまで添加される。
【0026】
本発明によれば、ステップ(iv)の精製は、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって、またはイオン交換クロマトグラフィーによって、またはRP-HPLCとイオン交換クロマトグラフィーの両方によって行なうことができる。
【0027】
好ましい実施態様では、精製は、RP-HPLC精製のみによって行われる。本発明によれば、RP-HPLCによるクロマトグラフィー分離は、好ましくは、除去しやすい揮発性の塩を含む、pH6~8の溶離液を用いて達成される。最適な移動相は、例えば、水中10mM AcONH4からなる溶離液Aと、水/アセトニトリル1/9中10mM AcONH4からなる溶離液Bの組み合わせによって表され得る。
【0028】
別の好ましい実施態様では、精製は、イオン交換クロマトグラフィーによって行われる。好ましくは、そのようなクロマトグラフィーは、陰イオン交換樹脂(例えばANXセファロース樹脂)、および、好ましくはpH7~8でイオンクロマトグラフィーに一般に用いられるものから選択される緩衝液を用いて行われる(リン脂質部分の可溶化を改善する水混和性溶媒の添加を伴ってもよい)。
【0029】
本発明の好ましい一実施態様によれば、精製は、Tris・HCl/NaClバッファーを溶離液として用いることによって成功的に行われる。適切なクロマトグラフィー分離は、例えば、固定バッファーとして0.05M Tris・HCl+0.10M NaCl(pH7.5)+35% iPrOH、および、溶出バッファーとして0.05M Tris・HCl+1.00M NaCl(pH7.5)+35% iPrOHを用いることによって得られる。
【0030】
本発明のさらなる態様では、以下のスキーム2(ステップi’))に報告されるように、化合物(II)が、グルタル酸ジ(N-スクシンイミジル)(V)を用いた、式(IV)の対応する中間体の末端アルキル-アミノ部分の活性化によって調製される、上記方法が提供される。
スキーム2
【0031】
本発明の方法はしたがって、例えば、後の高価な中間体のいかなる損失も防ぐために、活性化されたヘテロ二量体(II)の全存在量と反応する過剰のリン脂質性(phospholipidic)試薬DSPE-PEG2000-NH2(III)を使用することを特徴とする。カップリングのステップ(i’)、特に(i)の収率は、この場合、以前に知られている手順を用いて得られるものと比較して有利により高い。
【0032】
実際に、以前の方法は、60%未満の収率の二量体ペプチドリン脂質コンジュゲートしか提供せず、それは、TFA塩から、より安定的な塩に変換されなければならないので、最終生成物の効果的な回収をさらに減少させる。
【0033】
反対に、本発明の方法は、少なくとも69%という改善された収率で化合物(I)を得ることを可能にし、最も重要なことに、望ましくない不純物からの最終生成物の分析的分離および予備精製ならびに過剰試薬の除去のより効率的な方法を提供し;したがって、最適化された精製条件によって、RP-HPLC後に、99%よりも高い純度で最終生成物を得ることが可能である。
【0034】
したがって、当該方法によって提供されるいくつかの利益によれば、化合物(I)の合成のための新規の手順は、以前に開示された手順の欠点を解決し、スケールアップおよび産業的生産に特に適切であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明に従って調製される化合物(I)の構造を示す。
【
図2】最終HPLC精製後の化合物(I)のUPLC-ELSDクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[定義]
本明細書において、別段の提供がない限り、以下の用語は以下の意味を有することが意図される。
【0037】
用語「ヘテロ二量体」は、組成(すなわち、それらのアミノ酸残基の順番、数、または種類)が異なる2つのポリペプチド鎖からなる分子を指す。特に、本明細書において、上記に定義される式(I)の化合物またはその前駆体(II)および(IV)に関して言及される。
【0038】
用語「ペグ化」は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖に共有結合される分子に対して言及する。ペグ化化合物は、PEGの反応性誘導体を、好ましくは一方または両方の末端を反応性部分で官能化させた後に、標的分子とインキュベートすることによって達成され得る。
【0039】
用語「陰イオン交換固相」は、接触する溶液または懸濁液と陰イオンの交換を行うことが可能な固体支持体を意味する。前記接触は、適切な固相が充填されたカラムを通した溶出によって得られてよい。
【0040】
[実施態様の詳細な説明]
本明細書中に記載の方法は、上記に定義された式(I)の化合物の調製に関し、高収率かつ最適な純度で最終生成物を提供しながら、高価な出発原料の量を節約する利点を有する。
【0041】
これらの結果は、とりわけ、別々または組み合わせて用いることのできる2つの効率的な精製方法を見いだしたことにより達成することができ、カップリングのステップ(i)において過剰に添加された未反応のリン脂質(III)を、任意の他の望ましくない副産物とともに効果的に除去することが可能である。
【0042】
WO2007/067979に記載される合成アプローチによる化合物(I)の調製は、グルタル酸ジ(N-スクシンイミジル)(V)を用いた、上記に定義されるヘテロ二量体(IV)(例えば公知の固相合成方法によって調製される)の活性化、および、その後のDSPE-PEG2000-NH2(III)と活性化ヘテロ二量体(II)のコンジュゲートを提供する。後者のステップは、上述のように、不足したリン脂質で行われ、したがって、カップリングは、低い収率の結果でしか達成されない。
【0043】
反対に、本発明によって示される最適化された方法は、以下に詳細に記載するように、著しく改善されたコンジュゲートのステップを提供する。
【0044】
ヘテロ二量体(IV)は、例えば、WO2007/067979の実施例5(段落[00124])において報告されるのと同じ手順に従って、すなわち、ヘテロ二量体の凝縮を避けるために、ヘテロ二量体前駆体を、過剰のグルタル酸ジ(N-スクシンイミジル)およびDIEAのような塩基、例えば5倍過剰の両反応物質と反応させることによって、活性化され得る。反応の完了後、ヘテロ二量体グルタル酸モノアミド・モノ-NHSエステル(II)を沈殿させて、それから回収して、洗浄して、残存する微量の反応物質を除去するために、混合物を適切な溶媒、例えば無水酢酸エチルで希釈してよい。あるいは、溶媒を除去するために混合物を濃縮してよく、粗乾燥物を、例えばEtOAcで洗浄し、遠心分離してよく、フラスコから固形物が回収される。
【0045】
リン脂質とのカップリング
本発明によれば、実験部分により詳細に記載されるように、式(II)の化合物は、DMF中に溶解された過剰量のDSPE-PEG2000-NH2(III)とともにDIEAのような塩基の存在下でインキュベートされる。ヘテロ二量体前駆体(II)の当量とリン脂質(III)の当量との間の比は少なくとも1:1.1であるが、より好適には1:1.1~1:5である。好ましくは、1:2である。
【0046】
カップリング反応の完了は、分析的HPLCによって監視され得る。
【0047】
生成物の単離
粗生成物は、反応混合物の濃縮後に回収することができる。例えば、過剰試薬の部分は、適切な溶媒を用いた粗乾燥物の洗浄および混合物の遠心分離によって除去され得る。あるいは、酢酸エチルのような溶媒を添加して最終生成物の沈殿を促進することができ、それから、濾過および乾燥によって単離することができる。
【0048】
好ましくは、混合物は、以下に記載されるようにクロマトグラフィーによって精製される。クロマトグラフィーステップの前に、粗生成物の回収のために減圧下で反応生成物を濃縮することができ、それから、水のような水性媒体中に溶解されて(例えばNH4OH 0.1Nのような塩基の添加によってもよい)、pH6~8、好ましくはpH約7.3で完全な可溶化を促進して;澄んだ溶液を0.2μmフィルター上で好ましく濾過する。
【0049】
クロマトグラフィー精製
本発明によれば、粗生成物は、RP-HPLCによって、イオン交換クロマトグラフィーによって、または両方の技術によって精製される。
【0050】
典型的に、RP-HPLCによる分離が、過剰試薬から純粋な生成物を分離するのにより効率的であるので好ましい。しかしながら、残存する微量のリン脂質(III)が最終生成物中に残っている場合は(典型的に1%を超える)、迅速かつ信頼性のあるイオン交換精製ステップも加えてよく、または代わりに行われてよい。
【0051】
本発明による予備HPLC精製は、好ましくは逆相C4予備カラム上で行われ、AcONH4塩を含む移動相を用いて溶出される。一実施態様では、移動相は、リン脂質から生成物を十分に分離することが可能な勾配組成で混合された、10mM AcONH4および10mM AcONH4/アセトニトリル1/9の水溶液によって表される。
【0052】
本発明によるイオン交換精製は、陰イオン交換樹脂、好ましくは、基材マトリックスに第3級アミン基が結合した弱陰イオン交換樹脂で好適に行われる。過剰の試薬および他の不純物からの最終生成物の分離は、固定相および溶出相に関する適切なバッファーの選択によって行われる。本発明によれば、最適な結果は、異なる塩濃度およびpH約7~約8のTris-HCl/NaCl緩衝液を用いて、あるパーセンテージの溶媒、例えばiPrOHを添加して得られた。
【0053】
バッファー中の塩濃度の調節は、全ての副産物を溶出させながら生成物を固相に固定させて、それから、純粋な生成物を溶出させて回収するのを可能にする。
【0054】
全ての微量のリン脂質(III)を除去するためのこの有用な方法は、ヘテロ二量体(II)とのコンジュゲート反応中に、この試薬を大過剰で使用することさえも可能にする。
【0055】
したがって、広く上述したように、本発明は、高い収率および純度で化合物(I)を調製するためのより便利で信頼できる方法を可能にし、その方法は、産業スケールにも適用され得る。
【0056】
実際に、本発明の方法を用いて得られる生成物は、副産物が実質的に存在せず、ガス充填超音波造影剤の製造において用いられるのに必要な純度仕様と一致している。
【0057】
本発明は、その範囲に対していかなる限定も課されることを意図しない実施例によって例示される。
【実施例】
【0058】
[実験部分]
材料および装置
DMFおよび酢酸エチルのような溶媒は、周囲空気に対する曝露時間を最小限にするために、常に適切に使用し乾燥させた。
【0059】
ヘテロ二量体酢酸(IV)は、Bachem(Bubendorf,Switzerland)によって提供された。DSPE-PEG2000-NH2アンモニウム塩は、Avanti Polar Lipids Inc.(USA)から購入した。
【0060】
分析的逆相HPLCを、UFLC二元溶媒マネージャー、UFLCコントローラー(CBM-20A)およびHPLC UV-VIS検出器(SPD-20A)からなるSHIMADZU UFLCシステム上で行なった。相A(H2O中10mM AcONH4)および相B(ACN/H2O 9/1中10mM AcONH4)の線形勾配を用いて分析を行なった(1.5mL/分、214nmでのUV検出)。40μLを注入し、カラム温度は25℃であった。
【0061】
予備RP-HPLCを、HPLC二元溶媒マネージャー、HPLC画分コレクター(FRC-10A)、HPLCコントローラー(SCL-10A)およびHPLC UV/VIS検出器(SPD-10AV)からなるShimadzu予備システム上で行なった。システムは、Kromasil C4 300Å(10×250mm)カラムを具備した。相A(H2O中10mM AcONH4)および相B(ACN/H2O 9/1中10mM AcONH4)の線形勾配を用いて溶出することによって精製を行なった(5mL/分、214nmでのUV検出)。3mLを注入し、カラム温度は25℃であった。
【0062】
TUV検出器とAcquity BEH Phenyl 1.7μm(2.1×150mm)カラムとを具備するAcquity(商標)Ultra Performance LC System(Waters)、または、UVおよび蒸発光散乱検出器(ELSD Sedex 85)とZorbax 300SB 3.5μm(3×150mm)カラムとを具備するAgilent 1100 LC Systemによって、最終生成物の純度を分析した。
【0063】
個々のアミノ酸残基に関する略称は従来どおりであり:例えば、AspまたはDはアスパラギン酸であり、GlyまたはGはグリシンであり、ArgまたはRはアルギニンである。本明細書において言及されるアミノ酸は、別段の記載がない限りL-異性体構造であることが理解されるべきである。
【0064】
【0065】
[実施例1:中間体(II)の調製]
ペグ化リン脂質とのコンジュゲートの前に、ヘテロ二量体(IV)を、結合剤としてのグルタル酸ジ(N-スクシンイミジル)部分とのカップリングによって活性化した。
【0066】
500μLのDMF中ヘテロ二量体酢酸(49.08mg)の溶液を、DIEAを含むグルタル酸ジスクシンイミジル溶液(130μL)へ2分ごとに少量ずつ(portionwise)(7×70μL)添加した。二量体の凝縮を避けるために、過剰のDSG(5eq.)およびDIEA(5eq.)を用いた。最終添加後30分間室温で攪拌した後、活性化されたヘテロ二量体を単離して、HPLCによって分析して反応の完了を確認した。これらの分析については、以下のクロマトグラフィー条件を適用した:
カラム:Phenomenex Luna 5μ C18(250×4.6mm)
溶離液A:H2O中10mM AcONH4
溶離液B:H2O/ACN(1/9)中10mM AcONH4
流速:1.5mL/分
検出器:UV214nm
勾配:25%から52%までの移動相A
保持時間:12.69分
【0067】
[実施例2:化合物(II)の単離]
実施例1において得られた化合物(II)を単離して、過剰のDSGを反応混合物から除去した。懸濁液を減圧下で濃縮してDMFを除去した。粗乾燥物を10mLのEtOAcで洗浄して、それから、2500gで3分遠心分離した。上清を100mL丸底フラスコ内に静かに移し、固形物を15mLのEtOAcで2回洗浄して、減圧下で乾燥させて47.02mgの白色粉末を得た。
【0068】
[実施例3:化合物(I)の合成]
化合物(I)の合成を、スキーム1において報告したステップに従って行なった。UV検出器(220nm)またはELSD検出器を具備する分析的逆相HPLCまたはUPLCを用いて反応の進行を追った。
【0069】
ステップi)~iii) 生成物(I)のコンジュゲートおよび単離
DSPE-PEG2000-NH2アンモニウム塩のサンプル(18μmol、50.23mg、2eq.)を、300μLの無水DMF中に溶解させて、それから、DIEAを添加して(2eq.)、315μLの合計容量に到達させた。
【0070】
化合物(II)を400μLのDMF中に可溶化させて、それから、5回のポーションで(in five portions)DSPE-PEG2000-NH2とDIEAの混合物に添加して、攪拌しながら一晩置いた。
【0071】
分析的HPLCの監視のためにアリコートを回収し、そのプロファイルは、約12.5分の保持時間で主なピーク溶出を示した。それから、混合物を減圧下で濃縮して、105.5mgの粗生成物を回収した。
【0072】
5mLの水を最初に添加してpH4.8に到達したが、完全な可溶化および澄んだ溶液を得るために、約20滴の0.1N NH4OHをさらに添加してpH7.3に到達した。それから、溶液を0.2μmで濾過してリンスし、予備HPLC精製のために準備された9mL近い最終容量を得た。
【0073】
[実施例4:RP-HPLCによる化合物(I)の精製]
最終粗生成物(I)の予備HPLC精製を、カップリング反応の分析的監視と同じ固定相を用いて行なった。したがって、Kromasil 10μ 300Å C4カラム(250×10mm)を、水:アセトニトリル(1:9)の混合物中10mM AcONH
4を用いて平衡化した後に、サンプルを3アリコート(3×3mL)に分けてローディングした。詳細には、精製に適用した液相および溶出条件を以下に報告する:
【0074】
回収を10mL画分において行ない、各ランについて30mLの精製された生成物をもたらした。それから、3ランから得られた90mLを減圧下で濃縮して、凍結乾燥前に大部分のアセトニトリルを除去した。最終生成物が、スタートのヘテロ二量体(IV)から69%の収率で、白色固形物(51.6mg)として回収された。
【0075】
UPLC-UV方法を用いて行なわれた精製された生成物(I)の分析により、99%の純度が確認された。微量のDSPE-PEG
2000-NH
2は検出されなかった(
図2参照)。
【0076】
[実施例5:イオン交換クロマトグラフィーによる化合物(I)の精製]
微量のDSPE-PEG2000-NH2が存在する場合に粗生成物(I)をさらに精製するために、イオン交換クロマトグラフィー方法を最適化した。
【0077】
この目的のために、ANX Sepharose 4 fast flow resin(GE Healthcare)を充填したカラムを、以下のバッファーとともに用いた:
-固定ステップについては:0.05M Tris・HCl-0.10M NaCl-pH7.5+35% iPrOH
-溶出ステップについては:0.05M Tris・HCl-1.00M NaCl-pH7.5+35% iPrOH
-脱塩ステップについては:0.02M Tris・HCl pH7.5
【0078】
化合物(I)の2つのサンプル(溶液AおよびB、それぞれ、0.5mgおよび1.5mgの化合物(I)を含む)を、ANXカラム上にローディングした。別個に、同じ実験を、DSPE-PEG2000-NH2(溶液CおよびD、それぞれ、0.5mgおよび1.5mgのDSPE-PEG2000-NH2を含む)を用いて行なった。
【0079】
画分分析によって、DSPE-PEG2000-NH2は、固定バッファーを用いた最初の2カラムボリューム(CV)で完全に溶出していることが明らかになった。一方で、化合物(I)は、最初の2画分においては検出されず、他方の化合物が樹脂に固定されたままであるときに一方が直接通過するので、分離が効果的であり得ることを意味する。
【0080】
実際に、合計で4CVの固定バッファーを通した後、溶出バッファーを導入することにより、化合物(I)を2CVにおいて画分を回収することが可能となる(表1a、溶液AおよびBを参照)。再度、第2の実験により、溶出バッファーを用いてさえ、第2の画分の後にDSPE-PEG2000-NH2は溶出しないことが確認された(表1b、溶液CおよびD)。
【0081】
回収した画分のプールを、凍結乾燥前に脱塩Sephadex G-25Mカラムを通過させた。
【0082】
【0083】
【0084】
全ての画分を、1100 LC/MSDシステム(Agilent)を通して分析して、化合物(I)についてはUV検出器を用いて、またはDSPE-PEG2000-NH2(III)についてはELSD検出器を用いて、校正標準から定量化した。
【0085】