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特許7421559金属の表面処理液およびその濃縮液、金属の表面処理液セットおよび表面処理方法ならびにプリント配線板の製造方法
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  • 特許-金属の表面処理液およびその濃縮液、金属の表面処理液セットおよび表面処理方法ならびにプリント配線板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】金属の表面処理液およびその濃縮液、金属の表面処理液セットおよび表面処理方法ならびにプリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/52 20060101AFI20240117BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C23C22/52
C23C26/00 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021543781
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033115
(87)【国際公開番号】W WO2021045055
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2019163233
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019238922
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722013405
【氏名又は名称】四国化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】山地 範明
(72)【発明者】
【氏名】古賀 達也
(72)【発明者】
【氏名】平尾 浩彦
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172759(JP,A)
【文献】特開2016-056449(JP,A)
【文献】特開2018-115306(JP,A)
【文献】国際公開第2011/043236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾールシランカップリング剤を含む金属の表面処理液であって、
(A)1分子中、1つ~3つの酸性基を有する有機酸イオン;
(B)無機酸イオン;
(C)アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン;ならびに
(D)銅イオン
をさらに含むことを特徴とする金属の表面処理液。
【請求項2】
前記表面処理液に含まれるケイ素の原子濃度が0.010~0.50重量%または0.0004~0.36モル/kgの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の金属の表面処理液。
【請求項3】
前記表面処理液に含まれる前記有機酸イオンの濃度が1.00~20.0重量%または0.0022~11.1モル/kgの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属の表面処理液。
【請求項4】
前記表面処理液に含まれる前記無機酸イオンの濃度が0.10~10.0重量%または0.010~1.04モル/kgの範囲であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項5】
前記表面処理液に含まれる前記アルカリ金属イオンおよび前記アンモニウムイオンの合計濃度が1.00~20.0重量%または0.43~8.70モル/kgの範囲であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項6】
前記表面処理液に含まれる前記銅イオンの濃度が0.001~0.200重量%または0.00002~0.16モル/kgの範囲であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項7】
前記表面処理液のpHが1.0~12.0の範囲であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項8】
前記アゾールシランカップリング剤は、モノアゾールシラン化合物、ジアゾールシラン化合物、トリアゾールシラン化合物およびテトラゾールシラン化合物からなる群から選択される1種以上のアゾールシラン化合物であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項9】
前記酸性基はカルボキシル基、スルホン酸基、またはそれらの混合基であり、
前記有機酸イオン(A)は、前記酸性基がアニオン化されている有機酸アニオンである、請求項1~8のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項10】
無機酸イオン(B)は、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、および塩化物イオンからなる群から選択される1種以上である、請求項1~9のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項11】
前記アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン(C)は、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種以上である、請求項1~10のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項12】
前記金属が銅または銅合金である、請求項1~11のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項13】
前記金属がプリント配線板の金属回路である、請求項1~12のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【請求項14】
アゾールシランカップリング剤を含む金属の表面処理液の濃縮液であって、
前記濃縮液は有機酸イオン、無機酸イオン、アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン、ならびに銅イオンをさらに含み、
前記濃縮液に含まれるケイ素の原子濃度が0.10~1.00重量%の範囲であることを特徴とする金属の表面処理液の濃縮液。
【請求項15】
前記金属の表面処理液の濃縮液は、水で希釈されることにより、前記請求項1~13のいずれかに記載の金属の表面処理液が製造される、請求項14に記載の金属の表面処理液の濃縮液。
【請求項16】
第1の液および第2の液からなり、該第1の液および該第2の液の相互の混合により、アゾールシランカップリング剤、有機酸イオン、無機酸イオン、アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン、ならびに銅イオンを含む金属の表面処理液を製造するための金属の表面処理液セットであって、
前記アゾールシランカップリング剤は前記第1の液に含まれ、
前記有機酸イオン、前記無機酸イオン、前記アルカリ金属イオンおよび/または前記アンモニウムイオン、ならびに前記銅イオンは、それぞれ独立して、前記第1の液および/または前記第2の液に含まれ、
前記第1の液に含まれるケイ素の原子濃度が0.033~1.00重量%の範囲であることを特徴とする金属の表面処理液セット。
【請求項17】
前記金属の表面処理液は前記請求項1~13のいずれかに記載の金属の表面処理液である、請求項16に記載の金属の表面処理液セット。
【請求項18】
請求項1~13のいずれかに記載の金属の表面処理液を、金属の表面に接触させることを特徴とする金属の表面処理方法。
【請求項19】
請求項1~13のいずれかに記載の金属の表面処理液を、プリント配線板の金属回路の表面に接触させて化成皮膜を形成する、プリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属(特に銅)の表面処理液およびその濃縮液、金属の表面処理液セットおよび表面処理方法ならびにプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の金属回路(例えば、銅回路)の表面と絶縁樹脂層を密着する際に、高速伝送に対応するために平滑な銅表面と絶縁樹脂を密着させることが求められている。このようなプリント配線板においては、金属回路と絶縁樹脂層との間の接着性の確保が課題となっている。
【0003】
このため、金属回路表面を粗化処理して、アンカー効果により、金属回路と絶縁樹脂層との間の接着性を向上させる試みがなされているが、このようなアンカー効果のみにより金属回路と絶縁樹脂層との間の接着性を確保すると、表皮効果により、電気特性の低下が見られている。
【0004】
そこで、金属回路表面に化成皮膜を形成して、金属回路と絶縁樹脂層との間の接着性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2018/186476A1
【文献】特開2004-363364号公報
【文献】WO2009/110364A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の発明者等は、上記のような従来の技術における表面処理液の造膜性(すなわち化成皮膜の造膜速度)が比較的低いため、所定の時間内に十分な厚みの化成皮膜を形成できず、この結果、金属回路と絶縁樹脂層との間の接着性を十分に確保できないことを見い出した。
【0007】
本発明は、造膜性がより十分に高い、金属の表面処理液を提供することを目的とする。
【0008】
本発明において、「造膜性」は化成皮膜の造膜速度に関する性能のことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
アゾールシランカップリング剤を含む金属の表面処理液であって、
(A)1分子中、1つ~3つの酸性基を有する有機酸イオン;
(B)無機酸(または鉱酸)イオン;
(C)アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン;ならびに
(D)銅イオン
をさらに含むことを特徴とする金属の表面処理液に関する。
【0010】
本発明はまた、
アゾールシランカップリング剤を含む金属の表面処理液の濃縮液であって、
前記濃縮液は有機酸イオン(A)、無機酸イオン(B)、アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン(C)、ならびに銅イオン(D)をさらに含み、
前記濃縮液に含まれるケイ素の原子濃度が0.10~1.00重量%の範囲であることを特徴とする金属の表面処理液の濃縮液に関する。
【0011】
本発明はまた、
第1の液および第2の液からなり、該第1の液および該第2の液の相互の混合により、アゾールシランカップリング剤、有機酸イオン(A)、無機酸イオン(B)、アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン(C)、ならびに銅イオン(D)を含む金属の表面処理液を製造するための金属の表面処理液セットであって、
前記アゾールシランカップリング剤は前記第1の液に含まれ、
前記有機酸イオン(A)、前記無機酸イオン(B)、前記アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン(C)、ならびに前記銅イオン(D)は、それぞれ独立して、前記第1の液および/または第2の液に含まれ、
前記第1の液に含まれるケイ素の原子濃度が0.033~1.00重量%の範囲であることを特徴とする金属の表面処理液セットに関する。
【0012】
本発明はまた、アゾールシランカップリング剤、有機酸化合物(a)、無機酸化合物(b)、アルカリ金属化合物(c1)および/またはアンモニウム化合物(c2)、銅化合物(d)(および所望により他の成分)ならびに水を組み合わせることを特徴する、金属の表面処理液の製造方法に関する。
【0013】
本発明はまた、上記した金属の表面処理液を、金属の表面に接触させることを特徴とする金属の表面処理方法に関する。
【0014】
本発明はまた、上記した金属の表面処理液を、プリント配線板の金属回路の表面に接触させて化成皮膜を形成する、プリント配線板の製造方法に関する。
【0015】
本発明の表面処理液に係る好ましい実施態様の具体的要旨は以下のとおりである。
<1>アゾールシランカップリング剤を含む金属の表面処理液であって、前記表面処理液はギ酸イオン、硫酸イオン、ナトリウムイオン、および銅イオンをさらに含むことを特徴とする金属の表面処理液。
<2>前記表面処理液に含まれるケイ素の原子濃度が0.030~0.10重量%(すなわち0.011~0.036モル/kg)の範囲であることを特徴とする<1>に記載の金属の表面処理液。
<3>前記表面処理液に含まれる前記ギ酸イオンの濃度が2.50~10.0重量%(すなわち0.56~2.22モル/kg)の範囲であることを特徴とする<1>または<2>に記載の金属の表面処理液。
<4>前記表面処理液に含まれる前記硫酸イオンの濃度が0.30~3.00重量%(すなわち0.031~0.31モル/kg)の範囲であることを特徴とする<1>~<3>のいずれかに記載の金属の表面処理液。
<5>前記表面処理液に含まれる前記ナトリウムイオンの濃度が1.50~6.00重量%(すなわち0.65~2.61モル/kg)の範囲であることを特徴とする<1>~<4>のいずれかに記載の金属の表面処理液。
<6>前記表面処理液に含まれる前記銅イオンの濃度が0.008~0.100重量%(すなわち0.0013~0.016モル/kg)の範囲であることを特徴とする<1>~<5>のいずれかに記載の金属の表面処理液。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る金属の表面処理液は造膜性がより十分に高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】表2Aおよび表2Bに示す実施例および比較例におけるケイ素の原子濃度と造膜速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[金属の表面処理液]
本発明に係る金属の表面処理液は、アゾールシランカップリング剤を含み、以下のイオンをさらに含む水溶液である:
(A)1分子中、1つ~3つの酸性基を有する有機酸イオン(本明細書中、「有機酸イオン(A)」ということがある);
(B)無機酸(または鉱酸)イオン(本明細書中、「無機酸イオン(B)」ということがある);
(C)アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン(本明細書中、「アルカリイオン(C)」ということがある);および
(D)銅イオン(本明細書中、「銅イオン(D)」ということがある)。
【0019】
本発明の表面処理液は、アゾールシランカップリング剤および上記(A)~(D)のイオンを含むことにより、十分に高い造膜性を示す。その現象の詳細は明らかではなく、特定の理論に拘束されるわけではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。詳しくは、本発明の表面処理液は、上記(A)~(C)のイオンの存在下で、化成皮膜を形成するアゾールシランカップリング剤および化成皮膜形成の補助的役割をする銅イオン(D)を含むことにより、以下の促進が達成される:
(1)有機酸イオン(A)によるアゾールシランカップリング剤の溶解が促進される;および
(2)アゾールシランカップリング剤による化成皮膜が形成される際に、無機酸イオン(B)およびアルカリイオン(C)による塩析効果により、化成皮膜の形成が促進される。
これらの結果、本発明の表面処理液を用いて金属(例えば銅)表面を処理(例えば浸漬処理)すると、化成皮膜の形成が相乗的に促進されて造膜性がより十分に高くなり、十分に厚い化成皮膜がより迅速に得られるようになる。化成皮膜の膜厚が厚くなると、金属表面においてアゾールシランカップリング剤の量が増えることで、化成皮膜が金属表面を均一かつ連続的に覆うようになる。これにより、化成皮膜の上にさらに樹脂層を形成した場合、化成皮膜において樹脂層と結合できる反応点が増えるため、金属表面と樹脂層との間でより強い密着性を得る効果が得られる。しかも、化成皮膜が厚くなることで、その後の工程で熱が付与される際に酸素の透過を抑える効果が高くなり、金属表面の酸化をより十分に抑制するため、耐熱性および耐酸化性を高くする効果も得られる。
【0020】
第1成分としてのアゾールシランカップリング剤
アゾールシランカップリング剤は、金属表面に化成皮膜を形成する主物質である。
【0021】
アゾールシランカップリング剤は、モノアゾールシラン化合物、ジアゾールシラン化合物、トリアゾールシラン化合物およびテトラゾールシラン化合物からなる群から選択される1種以上のアゾールシラン化合物である。本発明においては、造膜性のさらなる向上の観点から、アゾールシランカップリング剤は、好ましくはトリアゾールシラン化合物およびテトラゾールシラン化合物からなる群から選択される1種以上のアゾールシラン化合物を含み、より好ましくはトリアゾールシラン化合物を含む。
【0022】
(トリアゾールシラン化合物)
トリアゾールシラン化合物は、窒素原子を3つ含む複素5員環化合物(すなわちトリアゾール化合物)において、置換基として、1分子中、1つのシリル基含有アルキル基(例えば、後述の一般式(Ia)における-(CH-Si(OR)3-n(OH)基)を有する化合物である。シリル基含有アルキル基が結合している原子は、トリアゾール環を構成する原子であり、例えば、窒素原子であってもよいし、または炭素原子であってもよい。シリル基含有アルキル基が結合している原子は、造膜性のさらなる向上の観点から、窒素原子であることが好ましい。トリアゾールシラン化合物を構成するトリアゾール環は1,2,4-トリアゾール環であってもよいし、または1,2,3-トリアゾール環であってもよい。トリアゾール環は、造膜性のさらなる向上の観点から、1,2,4-トリアゾール環であることが好ましい。
【0023】
トリアゾールシラン化合物の具体例として、例えば、一般式(Ia)および(Ib)で表されるトリアゾールシラン化合物が挙げられる。一般式(Ia)および(Ib)で表される化合物をそれぞれトリアゾールシラン化合物(Ia)およびトリアゾールシラン化合物(Ib)ということがある。
【0024】
【化1】
【0025】
式(Ia)中、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基または炭素数1~6のアルキルチオ基を表す。アルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、およびn-ドデシル基等が挙げられる。アルキルチオ基の具体例として、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシル基チオ等が挙げられる。XおよびXは、同一であっても、または異なっていてもよく、好ましくは同一である。XおよびXは、造膜性のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して、好ましくは水素原子、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基(特に炭素数1~8の直鎖状または分岐状のアルキル基)、フェニル基、またはアミノ基を表し、より好ましくは水素原子、炭素数1~5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、またはアミノ基を表し、さらに好ましくはアミノ基を表す。
式(Ia)中、mは1~12の整数を表す。mは、アゾールシラン化合物の溶解性の向上および造膜性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、さらに好ましくは2~5の整数を表す。
式(Ia)中、nは0~3の整数を表す。
式(Ia)中、Rはメチル基またはエチル基を表す。Rは、作業環境の向上の観点から、好ましくはエチル基を表す。
【0026】
【化2】
【0027】
式(Ib)中、X、X、m、nおよびRはそれぞれ、式(Ia)におけるX、X、m、nおよびRと同様である。
式(Ib)中、XおよびXは、造膜性のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して、好ましくは水素原子、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基(特に炭素数1~8の直鎖状または分岐状のアルキル基)、フェニル基、またはアミノ基を表し、より好ましくは水素原子、炭素数1~5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、またはアミノ基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。
式(Ib)中、mは、アゾールシラン化合物の溶解性の向上および造膜性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、さらに好ましくは2~5の整数を表す。
式(Ib)中、nは0~3の整数を表す。
式(Ib)中、Rはメチル基またはエチル基を表す。Rは、作業環境の向上の観点から、好ましくはエチル基を表す。
【0028】
トリアゾールシラン化合物(Ia)は一般式(Ia-1)~(Ia-4)で表されるトリアゾールシラン化合物を包含する。一般式(Ia-1)~(Ia-4)で表される化合物をそれぞれトリアゾールシラン化合物(Ia-1)、トリアゾールシラン化合物(Ia-2)、トリアゾールシラン化合物(Ia-3)、およびトリアゾールシラン化合物(Ia-4)ということがある。
【0029】
【化3】
【0030】
式(Ia-1)~(Ia-4)中、X、X、mおよびRはそれぞれ、式(Ia)におけるX、X、mおよびRと同様である。式(Ia-1)~(Ia-4)中、好ましいX、X、mおよびRもまた、それぞれ、式(Ia)における好ましいX、X、mおよびRと同様である。
【0031】
トリアゾールシラン化合物(Ia-1)は、前記の一般式(Ia)においてnが0である場合のトリアゾールシラン化合物(トリアルコキシ体)である。
同様に、トリアゾールシラン化合物(Ia-2)は、nが1である場合のトリアゾールシラン化合物であり、トリアゾールシラン化合物(Ia-3)は、nが2である場合のトリアゾールシラン化合物であり、トリアゾールシラン化合物(Ia-4)は、nが3である場合のトリアゾールシラン化合物である。
【0032】
トリアゾールシラン化合物(Ia)の具体例として、例えば、以下に例示するトリアゾールシラン化合物(Ia-1)、および当該トリアゾールシラン化合物(Ia-1)において1つ~3つのアルコキシ基(例えばメトキシ基および/またはエトキシ基)がヒドロキシル基に加水分解(または変換)されてなるトリアゾールシラン化合物(Ia-2)~(Ia-4)が挙げられる:
1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-メチル-1-[2-(トリエトキシシリル)エチル]-1,2,4-トリアゾール、
5-メチル-1-[4-(トリメトキシシリル)ブチル]-1,2,4-トリアゾール、
3-エチル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-プロピル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-イソプロピル-1-[10-(トリメトキシシリル)デシル]-1,2,4-トリアゾール、
3-ブチル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-ヘキシル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
5-メチル-3-オクチル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-ドデシル-1-[6-(トリエトキシシリル)ヘキシル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジメチル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジイソプロピル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-フェニル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-メチル-5-フェニル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-エチル-5-フェニル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジフェニル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-ベンジル-1-[4-(トリエトキシシリル)ブチル]-1,2,4-トリアゾール、
3-ベンジル-5-フェニル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-ヘキシルチオ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-ベンジル-5-プロピル-1-[6-(トリエトキシシリル)ヘキシル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-1-(トリエトキシシリル)メチル-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-1-[2-(トリメトキシシリル)エチル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
5-アミノ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
5-アミノ-3-エチル-1-[6-(トリメトキシシリル)ヘキシル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-5-フェニル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-5-ベンジル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-1-[6-(トリメトキシシリル)ヘキシル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-1-[6-(トリエトキシシリル)ヘキシル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-1-[12-(トリメトキシシリル)ドデシル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジアミノ-1-[1-(トリメトキシシリル)メチル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジアミノ-1-[1-(トリエトキシシリル)メチル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジアミノ-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジアミノ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジアミノ-1-[6-(トリメトキシシリル)ヘキシル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ジアミノ-1-[12-(トリメトキシシリル)ドデシル]-1,2,4-トリアゾール、
3-メチルチオ-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-イソプロピルチオ-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-ヘキシルチオ-1-[10-(トリエトキシシリル)デシル]-1,2,4-トリアゾール、
3-エチルチオ-5-イソプロピル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3,5-ビス(メチルチオ)-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
5-ヘキシルチオ-3-メチルチオ-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-5-メチルチオ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
5-アミノ-3-メチルチオ-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
5-アミノ-3-メチルチオ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール、
5-アミノ-3-イソプロピルチオ-1-[6-(トリエトキシシリル)ヘキシル]-1,2,4-トリアゾール、
3-アミノ-5-ヘキシルチオ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,4-トリアゾール等。
【0033】
トリアゾールシラン化合物(Ia)のうち、トリアゾールシラン化合物(Ia-1)は、WO2018/186476号、米国特許出願公開第2012/0021232号明細書、WO2019/058773号に準拠して合成することができる。具体的には、以下の反応スキーム(E)に示すように、一般式(Ia-x)で示されるトリアゾール化合物(本明細書中、トリアゾール化合物(Ia-x)ということがある)と、一般式(Ia-y)で示されるハロゲン化アルキルシラン化合物(本明細書中、ハロゲン化アルキルシラン化合物(Ia-y)ということがある)を、脱ハロゲン化水素剤の存在下、適量の反応溶媒中において適宜の反応温度および反応時間にて反応させることにより、概ね高収率で合成することができる。
【0034】
【化4】
【0035】
反応スキーム(E)中、X、X、mおよびRはそれぞれ、式(Ia)におけるX、X、mおよびRと同様である。
【0036】
反応溶媒としては、トリアゾール化合物(Ia-x)とハロゲン化アルキルシラン化合物(Ia-y)に対して不活性な溶剤であれば特に限定されず、例えば、以下の溶剤が挙げられる:
ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;
ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶剤;
酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;
メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶剤;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;
アセトニトリル、ジメチルスルホキシドやヘキサメチルホスホロアミド等。
【0037】
脱ハロゲン化水素剤としては、以下の化合物が挙げられる:
ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;
炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸アルカリ塩;
ジアザビシクロウンデセン等の有機塩基や水素化ナトリウム。
【0038】
トリアゾール化合物(Ia-x)とハロゲン化アルキルシラン化合物(Ia-y)の反応は、前記の反応スキーム(E)に示される如く、化学量論的に進行するが、トリアゾール化合物(Ia-x)の使用量(仕込量)に対する、ハロゲン化アルキルシラン化合物(Ia-y)の使用量(仕込量)は、反応温度や反応時間の他、使用する原料や反応溶媒の種類、反応スケール等の要因を考慮して、0.8~1.2倍モルの範囲における適宜の割合とすることが好ましい。ハロゲン化アルキルシラン化合物(Ia-y)の仕込み量が1.2倍モルよりも多いと、該化合物が重合してゲル化する惧れがあり、0.8倍モルよりも少ないと、生成物の純度が低下したり、生成物の分離操作が煩雑になる等の惧れがある。
【0039】
脱ハロゲン化水素剤は、トリアゾール化合物(Ia-x)とハロゲン化アルキルシラン化合物(Ia-y)の反応により副生するハロゲン化水素を中和する為に使用されるので、その使用量(仕込量)は、ハロゲン化アルキルシラン化合物(Ia-y)の使用量に対して等モル以上であればよい。
【0040】
反応温度は、トリアゾール化合物(Ia-x)の1位NHと、ハロゲン化アルキルシラン化合物(Ia-y)が反応する温度範囲であれば特に限定されないが、0~150℃の範囲が好ましく、5~100℃の範囲がより好ましい。
反応時間は、設定した反応温度に応じて適宜決定されるが、30分~10時間の範囲が好ましく、1~8時間の範囲がより好ましい。
【0041】
トリアゾールシラン化合物(Ia)のうち、トリアゾールシラン化合物(Ia-2)~(Ia-4)は、トリアルコキシ体のトリアゾールシラン化合物(Ia-1)を適量の水と接触させて加水分解することにより、合成することができる。
【0042】
トリアゾールシラン化合物(Ia)は、トリアゾールシラン化合物(Ia-1)~(Ia-4)の混合物であってもよい。
【0043】
トリアゾールシラン化合物(Ib)は一般式(Ib-1)~(Ib-4)で表されるトリアゾールシラン化合物を包含する。一般式(Ib-1)~(Ib-4)で表される化合物をそれぞれトリアゾールシラン化合物(Ib-1)、トリアゾールシラン化合物(Ib-2)、トリアゾールシラン化合物(Ib-3)、およびトリアゾールシラン化合物(Ib-4)ということがある。
【0044】
【化5】
【0045】
式(Ib-1)~(Ib-4)中、X、X、mおよびRはそれぞれ、式(Ia)におけるX、X、mおよびRと同様である。式(Ib-1)~(Ib-4)中、好ましいX、X、mおよびRは、それぞれ、式(Ib)における好ましいX、X、mおよびRと同様である。
【0046】
トリアゾールシラン化合物(Ib-1)は、前記の一般式(Ib)においてnが0である場合のトリアゾールシラン化合物(トリアルコキシ体)である。
同様に、トリアゾールシラン化合物(Ib-2)は、nが1である場合のトリアゾールシラン化合物であり、トリアゾールシラン化合物(Ib-3)は、nが2である場合のトリアゾールシラン化合物であり、トリアゾールシラン化合物(Ib-4)は、nが3である場合のトリアゾールシラン化合物である。
【0047】
トリアゾールシラン化合物(Ib)の具体例として、例えば、以下に例示するトリアゾールシラン化合物(Ib-1)、および当該トリアゾールシラン化合物(Ib-1)において1つ~3つのアルコキシ基(例えばメトキシ基および/またはエトキシ基)がヒドロキシル基に加水分解(または変換)されてなるトリアゾールシラン化合物(Ib-2)~(Ib-4)が挙げられる:
1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル」-1,2,3-トリアゾール、
1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル」-1,2,3-トリアゾール、
4-メチル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-エチル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-プロピル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-イソプロピル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-ブチル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-ヘキシル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-ドデシル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4,5-ジメチル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-ベンジル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-フェニル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4,5-ジフェニル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-アセチル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-プロパノイル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-シアノ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-アミノ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-メチルチオ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-イソプロピルチオ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-ヘキシルチオ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-メチル-2-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-イソプロピル-2-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-フェニル-2-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-アミノ-2-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-メチル-3-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-ヘキシル-3-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-メチルチオ-3-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-アミノ-3-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-プロピル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-プロパノイル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-アミノ-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,3-トリアゾール、
4-アミノ-1-[6-(トリエトキシシリル)ヘキシル]-1,2,3-トリアゾール、
4-アミノ-1-[10-(トリエトキシシリル)デシル]-1,2,3-トリアゾール、
4-アミノ-1-[12-(トリエトキシシリル)ドデシル]-1,2,3-トリアゾール。
【0048】
トリアゾールシラン化合物(Ib)のうち、トリアゾールシラン化合物(Ib-1)は、トリアゾール化合物(Ia-x)の代わりに、一般式(Ib-x)で表されるトリアゾール化合物(本明細書中、トリアゾール化合物(Ib-x)ということがある)を用いること以外、前記した反応スキーム(E)と同様の方法により、概ね高収率で合成することができる。
【0049】
【化6】
【0050】
式(Ib-x)中、XおよびXはそれぞれ、式(Ia)におけるXおよびXと同様である。
【0051】
トリアゾールシラン化合物(Ib)のうち、トリアゾールシラン化合物(Ib-2)~(Ib-4)は、トリアルコキシ体のトリアゾールシラン化合物(Ib-1)を適量の水と接触させて加水分解することにより、合成することができる。
【0052】
トリアゾールシラン化合物(Ib)は、トリアゾールシラン化合物(Ib-1)~(Ib-4)の混合物であってもよい。
【0053】
(モノアゾールシラン化合物)
モノアゾールシラン化合物は、窒素原子を1つ含む複素5員環化合物(すなわちモノアゾール化合物)において、置換基として、1分子中、1つのシリル基含有アルキル基(例えば、前記一般式(Ia)における-(CH-Si(OR)3-n(OH)基と同様の基)を有する化合物である。シリル基含有アルキル基が結合している原子は、モノアゾール環を構成する原子であり、例えば、窒素原子であってもよいし、または炭素原子であってもよい。シリル基含有アルキル基が結合している原子は、造膜性のさらなる向上の観点から、窒素原子であることが好ましい。モノアゾールシラン化合物は、置換基(例えば、前記一般式(Ia)におけるXおよびXと同様の基)をさらに有していてもよい。当該置換基が結合している原子は、モノアゾール環を構成する原子であり、例えば、窒素原子であってもよいし、または炭素原子であってもよい。
【0054】
(ジアゾールシラン化合物)
ジアゾールシラン化合物は、窒素原子を2つ含む複素5員環化合物(すなわちジアゾール化合物)において、置換基として、1分子中、1つのシリル基含有アルキル基(例えば、前記一般式(Ia)における-(CH-Si(OR)3-n(OH)基と同様の基)を有する化合物である。シリル基含有アルキル基が結合している原子は、ジアゾール環を構成する原子であり、例えば、窒素原子であってもよいし、または炭素原子であってもよい。シリル基含有アルキル基が結合している原子は、造膜性のさらなる向上の観点から、窒素原子であることが好ましい。ジアゾールシラン化合物は、置換基(例えば、前記一般式(Ia)におけるXおよびXと同様の基)をさらに有していてもよい。当該置換基が結合している原子は、ジアゾール環を構成する原子であり、例えば、窒素原子であってもよいし、または炭素原子であってもよい。
【0055】
(テトラゾールシラン化合物)
テトラゾールシラン化合物は、窒素原子を4つ含む複素5員環化合物(すなわちテトラゾール化合物)において、置換基として、1分子中、1つのシリル基含有アルキル基(例えば、後述の一般式(Ic)における-(CH-Si(OR)3-n(OH)基と同様の基)を有する化合物である。シリル基含有アルキル基が結合している原子は、テトラゾール環を構成する原子であり、例えば、窒素原子であってもよいし、または炭素原子であってもよい。シリル基含有アルキル基が結合している原子は、造膜性のさらなる向上の観点から、窒素原子であることが好ましい。テトラゾールシラン化合物は、置換基(例えば、前記一般式(Ia)におけるXと同様の基)をさらに有していてもよい。当該置換基(例えば、前記一般式(Ia)におけるXと同様の基)が結合している原子は、テトラゾール環を構成する原子であり、例えば、窒素原子であってもよいし、または炭素原子であってもよい。当該置換基(例えば、前記一般式(Ia)におけるXと同様の基)が結合している原子は、造膜性のさらなる向上の観点から、炭素原子であることが好ましい。
【0056】
テトラゾールシラン化合物の具体例として、例えば、一般式(Ic)で表されるテトラゾールシラン化合物が挙げられる。一般式(Ic)で表される化合物をテトラゾールシラン化合物(Ic)ということがある。
【0057】
【化7】
【0058】
式(Ic)中、X、m、nおよびRはそれぞれ、式(Ia)におけるX、m、nおよびRと同様である。
式(Ic)中、Xは、造膜性のさらなる向上の観点から、好ましくは水素原子、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基(特に炭素数1~8の直鎖状または分岐状のアルキル基)、フェニル基、またはアミノ基を表し、より好ましくはフェニル基またはアミノ基を表し、さらに好ましくはアミノ基を表す。
式(Ic)中、mは、アゾールシラン化合物の溶解性の向上および造膜性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、さらに好ましくは2~5の整数を表す。
式(Ic)中、nは0~3の整数を表す。
式(Ic)中、Rはメチル基またはエチル基を表す。Rは、作業環境の向上および造膜性のさらなる向上の観点から、好ましくはエチル基を表す。
【0059】
式(Ic)中、シリル基含有アルキル基(すなわち-(CH-Si(OR)3-n(OH))は2位の窒素原子に結合しているが、1位の窒素原子に結合していてもよい。詳しくは、一般式(Ic)で表されるテトラゾールシラン化合物(Ic)は、一般式(Ic)においてシリル基含有アルキル基が2位の窒素原子の代わりに1位の窒素原子に結合しているテトラゾールシラン化合物を包含する。
【0060】
テトラゾールシラン化合物(Ic)は一般式(Ic-1)~(Ic-4)で表されるテトラゾールシラン化合物を包含する。一般式(Ic-1)~(Ic-4)で表される化合物をそれぞれテトラゾールシラン化合物(Ic-1)、テトラゾールシラン化合物(Ic-2)、テトラゾールシラン化合物(Ic-3)、およびテトラゾールシラン化合物(Ic-4)ということがある。一般式(Ic-1)~(Ic-4)中、シリル基含有アルキル基は2位の窒素原子に結合しているが、式(Ic)と同様に、1位の窒素原子に結合していてもよい。
【0061】
【化8】
【0062】
式(Ic-1)~(Ic-4)中、X、mおよびRはそれぞれ、式(Ia)におけるX、mおよびRと同様である。式(Ic-1)~(Ic-4)中、好ましいX、mおよびRは、それぞれ、式(Ic)における好ましいX、mおよびRと同様である。
【0063】
式(Ic-1)~(Ic-4)中、シリル基含有アルキル基(すなわち-(CH-Si(OR)3-n(OH))は2位の窒素原子に結合しているが、1位の窒素原子に結合していてもよい。詳しくは、一般式(Ic-1)~(Ic-4)で表されるテトラゾールシラン化合物(Ic-1)~(Ic-4)はそれぞれ、一般式(Ic-1)~(Ic-4)においてシリル基含有アルキル基が2位の窒素原子の代わりに1位の窒素原子に結合しているテトラゾールシラン化合物を包含する。
【0064】
テトラゾールシラン化合物(Ic-1)は、前記の一般式(Ic)においてnが0である場合のテトラゾールシラン化合物(トリアルコキシ体)である。
同様に、テトラゾールシラン化合物(Ic-2)は、nが1である場合のテトラゾールシラン化合物であり、テトラゾールシラン化合物(Ic-3)は、nが2である場合のテトラゾールシラン化合物であり、テトラゾールシラン化合物(Ic-4)は、nが3である場合のテトラゾールシラン化合物である。
【0065】
テトラゾールシラン化合物(Ic)の具体例として、例えば、以下に例示するテトラゾールシラン化合物(Ic-1)、および当該テトラゾールシラン化合物(Ic-1)において1つ~3つのアルコキシ基(例えばメトキシ基および/またはエトキシ基)がヒドロキシル基に加水分解(または変換)されてなるテトラゾールシラン化合物(Ic-2)~(Ic-4)が挙げられる:
5-アミノ-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2H-テトラゾール、
5-アミノ-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1H-テトラゾール、
5-アミノ-2-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-2H-テトラゾール、
5-アミノ-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1H-テトラゾール、
5-フェニル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2H-テトラゾール、
5-フェニル-1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1H-テトラゾール、
5-フェニル-2-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-2H-テトラゾール、
5-フェニル-1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1H-テトラゾール。
【0066】
テトラゾールシラン化合物(Ic)のうち、テトラゾールシラン化合物(Ic-1)は、トリアゾール化合物(Ia-x)の代わりに、一般式(Ic-x)で表されるテトラゾール化合物(本明細書中、テトラゾール化合物(Ic-x)ということがある)を用いること以外、前記した反応スキーム(E)と同様の方法により、概ね高収率で合成することができる。
【0067】
【化9】
【0068】
式(Ic-x)中、Xは、式(Ia)におけるXと同様である。
【0069】
テトラゾールシラン化合物(Ic)のうち、テトラゾールシラン化合物(Ic-2)~(Ic-4)は、トリアルコキシ体のテトラゾールシラン化合物(Ic-1)を適量の水と接触させて加水分解することにより、合成することができる。
【0070】
テトラゾールシラン化合物(Ic)は、テトラゾールシラン化合物(Ic-1)~(Ic-4)の混合物であってもよい。
【0071】
(アゾールシランカップリング剤の加水分解および濃度)
アゾールシランカップリング剤は、前述のとおり、水と接触すると加水分解される。この加水分解の態様をスキーム(F)に示す。このスキーム(F)においては、前記のアゾールシランカップリング剤の有するシリル基が加水分解される様、即ち、トリアルコキシシリル基(a)が、漸次、ジアルコキシヒドロキシシリル基(b)、ジヒドロキシアルコキシシリル基(c)、トリヒドロキシシリル基(d)に変化する様が示されている。なお、化学式(e)で示される基のXは、繰り返し単位の数を表す整数である。詳しくは、表面処理液中に生成したヒドロキシシリル基を有するアゾールシラン化合物(例えば前記したトリアゾールシラン化合物(Ia-2)~(Ia-4)、トリアゾールシラン化合物(Ib-2)~(Ib-4)およびテトラゾールシラン化合物(Ic-2)~(Ic-4))の一部は、表面処理液中において徐々に、互いに反応して脱水縮合し、ヒドロキシシリル基がシロキサン結合(Si-O-Si)を形成し(上記スキーム(F)における化学式(e)参照)、水に溶け難いシランオリゴマーに変換されてもよい。なお、表面処理液中におけるシランオリゴマーの生成量が多くなると、不溶解分が析出して、表面処理液が白濁し、処理品を汚染する恐れがある。このため、表面処理液はシランオリゴマーの生成量が抑制され、透明性を有することが好ましい。
【0072】
【化10】
【0073】
分子中にアルコキシシリル基を有する物質は、シランカップリング剤として作用することが知られている。従って、化成皮膜の生成に際し、アゾールシランカップリング剤は以下に示すような作用を発揮するものと考えられる:
例えば、銅と樹脂材料との接着を例に挙げると、本発明の実施において用いるアゾールシランカップリング剤は、分子中にアゾール環とアルコキシシリル基(-Si-OR)を有しており、アゾール環は、樹脂および金属(特に銅)と相互作用し、化学結合を形成する。
また、アルコキシシリル基は加水分解を受けて、ヒドロキシシリル基(-Si-OH)に変換され、このヒドロキシシリル基は金属(特に銅)の表面に点在する金属酸化物(特に酸化銅)と化学結合する。
従って、金属(特に銅)と本発明の表面処理液を接触させることにより、該金属(特に銅)の表面にはアゾール環やヒドロキシシリル基との結合により、アゾールシランカップリング剤に由来する化成皮膜が形成されて、この化成皮膜の表面に樹脂材料からなる絶縁樹脂層を形成させた場合には、金属(特に銅)の表面に直に絶縁樹脂層を形成させる場合に比べて、金属(特に銅)と樹脂材料との接着性を高めることができる。
【0074】
表面処理液中におけるアゾールシランカップリング剤の濃度は通常、表面処理液中に含まれるケイ素の原子濃度が0.001~1.0重量%となるような濃度である。表面処理液中におけるアゾールシランカップリング剤の濃度は、造膜性のさらなる向上の観点から、表面処理液中に含まれるケイ素の原子濃度が、好ましくは0.010~0.50重量%、より好ましくは0.030~0.10重量%、さらに好ましくは0.040~0.090重量%、特に好ましくは0.042~0.080重量%となるような濃度である。ケイ素の原子濃度は、表面処理液全重量に対する、表面処理液中に含まれるケイ素原子の重量の割合である。蒸留水、イオン交換水、精製水等の純水は通常、ケイ素原子を0.0001重量%以下の濃度で含む。このため、表面処理液がシランカップリング剤以外にケイ素原子を含有する化合物(または添加剤)を含まない場合、表面処理液中に含まれるケイ素原子はシランカップリング剤に由来のものと推定することができる。このような場合において、表面処理液中に含まれるケイ素の原子濃度が低すぎると、造膜性が低下する。当該ケイ素の原子濃度が高すぎると、溶解せずに沈殿し、造膜性の向上効果はほぼ頭打ちとなり、アゾールシランカップリング剤の使用量が増えるばかりで経済的ではない。本明細書中、数値範囲は、特記しない限り、その下限値および上限値を包括的に含む範囲として規定されているものとする。
【0075】
表面処理液中に含まれるケイ素の原子濃度は、モル/kg単位で表すと、通常は0.0004~0.36モル/kgであり、好ましくは0.0036~0.18モル/kg、より好ましくは0.011~0.036モル/kgである。なお、モル/kg単位は、表面処理液1kg中に含まれる当該物質のモル数を表す単位のことである。
【0076】
アゾールシランカップリング剤は、表面処理液中では、上記のように比較的低い濃度で存在し、しかも上記したようにシランオリゴマー(例えば二量体および三量体等)の形態で存在することがあるため、アゾールシランカップリング剤の濃度を厳密に測定することは困難であるが、アゾールシランカップリング剤の添加濃度(すなわち設定濃度)は、造膜性のさらなる向上の観点から、表面処理液全量に対して、好ましくは0.30~1.00重量%、より好ましくは0.45~0.95重量%、さらに好ましくは0.48~0.85重量%である。アゾールシランカップリング剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。アゾールシランカップリング剤を2種以上併用して用いる場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0077】
アゾールシランカップリング剤の添加濃度は、モル/kg単位で表すと、通常は0.0004~0.36モル/kgであり、好ましくは0.0036~0.18モル/kg、より好ましくは0.011~0.036モル/kgである。
【0078】
表面処理液中に含まれるケイ素の原子濃度は、ICP発光分光分析装置(iCAP6000シリーズ;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定された値を用いている。
【0079】
第2成分としての有機酸イオン(A)
本発明の表面処理液は、(A)1分子中、1つ~3つの酸性基を有する有機酸イオンを含む。有機酸イオン(A)は、1分子中、1つ~3つの酸性基を有する有機酸のイオンである。酸性基は、水中で酸性を示し得る基のことであり、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、またはそれらの混合基であってもよい。有機酸イオン(A)の酸性基は炭素原子と結合しており、詳しくは炭素原子とともに共有結合を形成している。有機酸イオン(A)は、表面処理液中においてアゾールシランカップリング剤の溶解を促進する作用、例えばアゾールシランカップリング剤の加水分解を促進する作用を有する。
【0080】
有機酸イオン(A)は、詳しくは、1分子中、1つ~3つの酸性基(例えば、カルボキシル基および/またはスルホン酸基)を有する有機酸化合物において、当該酸性基がイオン化(すなわちアニオン化)しているイオン(すなわち有機酸アニオン)のことであり、いわゆるカルボキシラートアニオン、スルホナートアニオンまたはそれらの混合アニオンのことである。例えば、有機酸イオン(A)のうち、1分子中、1つ~3つのカルボキシル基を有する有機酸化合物のイオンをそれぞれ、モノカルボン酸イオン、ジカルボン酸イオンおよびトリカルボン酸イオンということがある。また例えば、有機酸イオン(A)のうち、1分子中、1つ~3つのスルホン酸基を有する有機酸化合物のイオンをそれぞれ、モノスルホン酸イオン、ジスルホン酸イオンおよびトリスルホン酸イオンということがある。本発明の表面処理液は、造膜性のさらなる向上の観点から、有機酸イオン(A)のうち、モノカルボン酸イオンおよびモノスルホン酸イオンからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、より好ましくはモノカルボン酸イオンを含む。
【0081】
有機酸イオン(A)は、表面処理液(例えば、水)中で有機酸イオン(A)を提供し得る化合物(または添加剤)の形態で、表面処理液に添加および使用される。
表面処理液(例えば、水)中で有機酸イオン(A)を提供し得る化合物(本明細書中、有機酸化合物(a)ということがある)は、例えば、表面処理液(例えば、水)中でモノカルボン酸イオン、ジカルボン酸イオン、トリカルボン酸イオン、モノスルホン酸イオン、ジスルホン酸イオンまたはトリスルホン酸イオンを提供し得る化合物(本明細書中、それぞれモノカルボン酸化合物(a1)、ジカルボン酸化合物(a2)、トリカルボン酸化合物(a3)、モノスルホン酸化合物(a4)、ジスルホン酸化合物(a5)およびトリスルホン酸化合物(a6)ということがある)を包含する。有機酸化合物(a)は有機酸イオン(A)の供給源である。有機酸化合物(a)は、1分子中、1つ~3つの酸性基だけでなく、1つ以上(特に1つ~3つ)のヒドロキシル基および/または1つ以上(特に1つ~3つ)のアミノ基をさらに有していてもよい。
【0082】
モノカルボン酸化合物(a1)は、1分子中、1つのカルボキシル基を有する脂肪族または芳香族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であって、ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有していてもよい化合物である。モノカルボン酸化合物(a1)は、脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物である場合、飽和または不飽和脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物であってよく、溶解性の向上の観点から、飽和脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。モノカルボン酸化合物(a1)は、安価であることから、1分子中、1つのカルボキシル基を有する脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であって、ヒドロキシル基およびアミノ基を有さない化合物であることが好ましい。
【0083】
モノカルボン酸化合物(a1)の具体例として、例えば、以下の酸並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物が挙げられる:
ギ酸(飽和脂肪族、炭素数1、COOH=1、OH=0、NH=0);
酢酸(飽和脂肪族、炭素数2、COOH=1、OH=0、NH=0);
プロピオン酸(飽和脂肪族、炭素数3、COOH=1、OH=0、NH=0);
酪酸(飽和脂肪族、炭素数4、COOH=1、OH=0、NH=0);
吉草酸(飽和脂肪族、炭素数5、COOH=1、OH=0、NH=0);
2-エチル酪酸(飽和脂肪族、炭素数6、COOH=1、OH=0、NH=0);
カプロン酸(飽和脂肪族、炭素数6、COOH=1、OH=0、NH=0);
エナント酸(飽和脂肪族、炭素数7、COOH=1、OH=0、NH=0);
カプリル酸(飽和脂肪族、炭素数8、COOH=1、OH=0、NH=0);
ペラルゴン酸(脂肪族、炭素数9、COOH=1、OH=0、NH=0);
カプリン酸(飽和脂肪族、炭素数10、COOH=1、OH=0、NH=0);
ラウリン酸(飽和脂肪族、炭素数12、COOH=1、OH=0、NH=0);
ミリスチン酸(飽和脂肪族、炭素数14、COOH=1、OH=0、NH=0);
パルミチン酸(飽和脂肪族、炭素数16、COOH=1、OH=0、NH=0);
マルガリン酸(飽和脂肪族、炭素数17、COOH=1、OH=0、NH=0);
オレイン酸(不飽和脂肪族、炭素数18、COOH=1、OH=0、NH=0);
ステアリン酸(飽和脂肪族、炭素数18、COOH=1、OH=0、NH=0);
レブリン酸(脂肪族、炭素数5、COOH=1、OH=0、NH=0) グリコール酸(飽和脂肪族、炭素数2、COOH=1、OH=1、NH=0);
乳酸(飽和脂肪族、炭素数3、COOH=1、OH=1、NH=0);
リンゴ酸(飽和脂肪族、炭素数4、COOH=1、OH=1、NH=0);
グルコン酸(飽和脂肪族、炭素数6、COOH=1、OH=6、NH=0);
グリセリン酸(飽和脂肪族、炭素数3、COOH=1、OH=2、NH=0);
グリシン(飽和脂肪族、炭素数2、COOH=1、OH=0、NH=1);
安息香酸(芳香族、炭素数7、COOH=1、OH=0、NH=0)。
【0084】
ジカルボン酸化合物(a2)は、1分子中、2つのカルボキシル基を有する脂肪族または芳香族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であって、ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有していてもよい化合物である。ジカルボン酸化合物(a2)は、脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物である場合、飽和または不飽和脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0085】
ジカルボン酸化合物(a2)の具体例として、例えば、以下の酸並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物が挙げられる:
シュウ酸(飽和脂肪族、炭素数2、COOH=2、OH=0、NH=0);
マロン酸(飽和脂肪族、炭素数3、COOH=2、OH=0、NH=0);
コハク酸(飽和脂肪族、炭素数4、COOH=2、OH=0、NH=0);
酒石酸(飽和脂肪族、炭素数4、COOH=2、OH=2、NH=0);
フタル酸(芳香族、炭素数8、COOH=2、OH=0、NH=0)。
【0086】
トリカルボン酸化合物(a3)は、1分子中、3つのカルボキシル基を有する脂肪族または芳香族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であって、ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有していてもよい化合物である。トリカルボン酸化合物(a3)は、脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物である場合、飽和または不飽和脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0087】
トリカルボン酸化合物(a3)の具体例として、例えば、以下の酸並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物が挙げられる:
プロパン-1,2,3-トリカルボン酸(飽和脂肪族、炭素数6、COOH=3、OH=0、NH=0);
クエン酸(飽和脂肪族、炭素数6、COOH=3、OH=1、NH=0)。
【0088】
モノスルホン酸化合物(a4)は、1分子中、1つのスルホン酸基を有する脂肪族または芳香族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であって、ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有していてもよい化合物である。モノスルホン酸化合物(a4)は、脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物である場合、飽和または不飽和脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であってよい。モノスルホン酸化合物(a4)は、溶解性の向上の観点から、芳香族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。モノスルホン酸化合物(a4)は、安価であることから、1分子中、1つのスルホン酸基を有する芳香族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物から選択される1種以上であって、ヒドロキシル基およびアミノ基を有さない化合物であることが好ましい。
【0089】
モノスルホン酸化合物(a4)の具体例として、例えば、以下の酸並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物が挙げられる:
ベンゼンスルホン酸(芳香族、炭素数6、SOH=1、OH=0、NH=0);
トシル酸(芳香族、炭素数7、SOH=1、OH=0、NH=0);
メタンスルホン酸(脂肪族、炭素数1、SOH=1、OH=0、NH=0);
5-スルホサリチル酸(芳香族、炭素数7、SOH=1、OH=1、NH=0、COOH=1);
4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(芳香族、炭素数6、SOH=1、OH=1、NH=0);
3-メチル-4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(炭素数7、SOH=1、OH=1、NH=0);
4-アミノベンゼンスルホン酸(炭素数6、SOH=1、OH=0、NH=1)。
【0090】
ジスルホン酸化合物(a5)は、1分子中、2つのスルホン酸基を有する脂肪族または芳香族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であって、ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有していてもよい化合物である。ジスルホン酸化合物(a5)は、脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物である場合、飽和または不飽和脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0091】
ジスルホン酸化合物(a5)の具体例として、例えば、以下の酸並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物が挙げられる:
ベンゼンジスルホン酸(芳香族、炭素数6、SOH=2、OH=0、NH=0)。
【0092】
トリスルホン酸化合物(a6)は、1分子中、3つのスルホン酸基を有する脂肪族または芳香族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であって、ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有していてもよい化合物である。トリスルホン酸化合物(a6)は、脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物である場合、飽和または不飽和脂肪族有機化合物並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0093】
トリスルホン酸化合物(a6)の具体例として、例えば、以下の酸並びにそれらの酸無水物および金属塩化合物が挙げられる:
ベンゼントリスルホン酸(芳香族、炭素数6、SOH=3、OH=0、NH=0)。
【0094】
有機酸化合物(a)としての金属塩化合物を構成する金属は、特に限定されず、例えば、銅、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、チタン、ニッケル、錫、鉄、銀、または金であってもよい。有機酸化合物(a)の溶解性の向上の観点からナトリウムまたはカリウムであることが好ましい。有機酸化合物(a)は水和物であってもよい。
有機酸のアルカリ金属塩、例えばギ酸ナトリウムは、後述のアルカリ金属イオン(C1)の供給源としても有用である。
有機酸の銅塩、例えば、ギ酸銅は、後述の銅イオン(D)の供給源としても有用である。
【0095】
有機酸化合物(a)の炭素数は特に限定されないが、造膜性のさらなる向上の観点から、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下、最も好ましくは1である。なお、有機酸化合物(a)の炭素数は、カルボキシル基を構成する炭素原子の数も含む。
有機酸化合物(a)は、安価であることから、モノカルボン酸化合物(a1)であることが好ましい。さらに有機酸化合物(a)の溶解性の向上の観点から、モノカルボン酸化合物(a1)およびモノスルホン酸化合物(a4)からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、モノカルボン酸化合物(a1)であることがより好ましく、ギ酸であることがさらに好ましい。
有機酸化合物(a)は、有機酸化合物(a)の溶解性の向上の観点から、脂肪族または芳香族に属する化合物であることが好ましく、脂肪族に属する酸であることがより好ましい。
有機酸化合物(a)は、造膜性のさらなる向上の観点から、ヒドロキシル基を1つも有さず、かつアミノ基を1つも有さないことが好ましい。
【0096】
有機酸イオン(A)は、造膜性のさらなる向上の観点から、モノカルボン酸イオンおよびモノスルホン酸イオンから選択される1種以上であることが好ましく、モノカルボン酸イオンであることがより好ましく、ギ酸イオンであることがさらに好ましい。
【0097】
表面処理液中における有機酸イオン(A)の濃度は通常、表面処理液全量に対して、0.010~50.0重量%である。表面処理液中における有機酸イオン(A)の濃度は、造膜性のさらなる向上の観点から、表面処理液全量に対して、好ましくは1.00~20.0重量%であり、より好ましくは2.50~10.0重量%である。有機酸イオン(A)の濃度は、造膜性のさらなる向上と表面処理液の濁り防止の観点から、表面処理液全量に対して、好ましくは2.50~7.00重量%、より好ましくは3.50~7.00重量%、さらに好ましくは3.50~6.00重量%、特に好ましくは4.00~6.00重量%、より十分に好ましくは4.00~5.20重量%、最も好ましくは4.00~5.10重量%である。表面処理液が有機酸イオン(A)を含まない場合、造膜性が低下する。有機酸化合物(a)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。有機酸化合物(a)を1種で用いる場合、当該有機酸化合物(a)から供給される有機酸イオン(A)の濃度が上記範囲内になるような量で使用されればよい。有機酸化合物(a)を2種以上併用して用いる場合、それらの有機酸化合物(a)から供給される有機酸イオン(A)の合計濃度が上記範囲内になるような量で使用されればよい。
【0098】
表面処理液中に含まれる有機酸イオン(A)の濃度は、モル/kg単位で表すと、通常は0.0022~11.1モル/kgであり、好ましくは0.22~4.44モル/kg、より好ましくは0.56~2.22モル/kgである。
【0099】
有機酸イオン(A)の濃度は、イオンクロマトグラフィー(IC-2001;東ソー社製)により測定された値を用いている。このようなイオンクロマトグラフィーにより測定される濃度は、有機酸化合物(a)が完全に解離した時の有機酸イオン(A)の濃度である。
【0100】
第3成分としての無機酸イオン(B)
本発明の表面処理液は、(B)無機酸イオン(本明細書中、無機酸イオン(B)ということがある)を含む。無機酸イオン(B)は、アルカリイオン(C)とともに、液中の総イオン数を増やすことで、表面処理時において、塩析効果により、アゾールシランカップリング剤による化成皮膜の生成を促進する作用を有する。
【0101】
無機酸イオン(B)としては、例えば、硫酸イオン(SO 2-)、硝酸イオン(NO )、リン酸イオン(PO 3-)、塩化物イオン(Cl)等が挙げられる。塩析効果に基づく造膜性のさらなる向上および環境負荷の低減の観点から、硫酸イオンが好ましい。無機酸イオン(A)は炭素原子と結合しておらず、詳しくは表面処理液(または水)中において、単独で遊離している。
【0102】
無機酸イオン(B)は、表面処理液(例えば、水)中で無機酸イオン(B)を提供し得る化合物(または添加剤)(本明細書中、無機酸化合物(b)ということがある)の形態で、表面処理液に添加および使用される。無機酸化合物(b)は無機酸イオン(B)の供給源である。
【0103】
無機酸化合物(b)は、無機酸ならびにその金属塩化合物およびアンモニウム塩化合物であり、例えば、硫酸、硝酸、リン酸、および塩酸等の無機酸;当該無機酸の銅、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、チタン、ニッケル、錫、鉄、銀、金等の金属(それらの水和物を含む)による金属塩化合物;および当該無機酸のアンモニウム塩化合物が挙げられる。無機酸の金属塩化合物は無機酸化合物(b)の溶解性の観点から、ナトリウム塩、カリウム塩およびアンモニウム塩からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、ナトリウム塩およびカリウム塩からなる群から選択される1種以上であることがより好ましく、ナトリウム塩であることがさらに好ましい。
【0104】
無機酸のアルカリ金属塩(例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化ナトリウム、および塩化カリウム)は、後述のアルカリ金属イオン(C1)の供給源としても有用である。
無機酸のアンモニウム塩は、後述のアンモニウムイオン(C2)の供給源としても有用である。
無機酸の銅塩(例えば硫酸銅、硝酸銅、リン酸銅、および塩化銅)は、後述の銅イオン(D)の供給源としても有用である。
【0105】
無機酸化合物(b)は、塩析効果に基づく造膜性のさらなる向上の観点から、無機酸化合物(b)から供給される無機酸イオン(B)の嵩がより高い無機酸化合物であることが好ましい。このような観点から好ましい無機酸化合物(b)として、硫酸、硝酸、リン酸、ならびにそれらの金属塩化合物およびアンモニウム塩化合物が挙げられる。同様の観点からより好ましい無機酸化合物(b)として、硫酸、リン酸、ならびにそれらの金属塩化合物およびアンモニウム塩化合物が挙げられる。環境負荷の観点から、硫酸ならびにその金属塩化合物およびアンモニウム塩化合物がより好ましく、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸銅(およびその水和物(特に五水和物))、硫酸アンモニウムがさらに好ましく、硫酸ナトリウム、硫酸銅(およびその水和物(特に五水和物))が特に好ましい。
【0106】
無機酸化合物(b)の無機酸としては、酸解離定数(pKa1)の観点から、硫酸、硝酸、または塩酸であることが好ましい。さらに、環境負荷の観点から硫酸であることがより好ましい。
【0107】
表面処理液中における無機酸イオン(B)の濃度は通常、表面処理液全量に対して、0.10~10.0重量%であり、造膜性のさらなる向上と表面処理液の濁り防止の観点から、表面処理液全量に対して、好ましくは0.30~3.00重量%、より好ましくは0.50~3.00重量%、さらに好ましくは0.90~3.00重量%、特に好ましくは1.20~3.00重量%、より十分に好ましくは1.50~2.50重量%、最も好ましくは1.80~2.50重量%である。表面処理液が無機酸イオン(B)を含まない場合、造膜性が低下する。無機酸化合物(b)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。無機酸化合物(b)を1種で用いる場合、当該無機酸化合物(b)から供給される無機酸イオン(B)の濃度が上記範囲内になるような量で使用されればよい。無機酸化合物(b)を2種以上併用して用いる場合、それらの無機酸化合物(b)から供給される無機酸イオン(B)の合計濃度が上記範囲内になるような量で使用されればよい。
【0108】
表面処理液中に含まれる無機酸イオン(B)の濃度は、モル/kg単位で表すと、通常は0.010~1.04モル/kgであり、好ましくは0.031~0.31モル/kg、より好ましくは0.052~0.31モル/kgである。
【0109】
無機酸イオン(B)の濃度は、イオンクロマトグラフィー(IC-2001;東ソー社製)により測定された値を用いている。このようなイオンクロマトグラフィーにより、測定される濃度は、無機酸化合物(b)が完全に解離した時の無機酸イオン(B)の濃度である。
【0110】
第4成分としてのアルカリイオン(C)
本発明の表面処理液は、(C)アルカリイオン(本明細書中、アルカリイオン(C)ということがある)を含む。アルカリイオン(C)はアルカリ金属イオン(C1)およびアンモニウムイオン(C2)の両方のイオンを包含する概念で用いられ、アルカリ金属イオン(C1)および/またはアンモニウムイオン(C2)であってよい。詳しくは、アルカリイオン(C)は、アルカリ金属イオン(C1)またはアンモニウムイオン(C2)の一方であってもよいし、または両方であってもよい。アルカリイオン(C)は、無機酸イオン(B)とともに、液中の総イオン数を増やすことで、表面処理時において、塩析効果により、アゾールシランカップリング剤による化成皮膜の生成を促進する作用を有する。
【0111】
アルカリ金属イオン(C1)としては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
アンモニウムイオン(C2)はNH4+である。
アルカリイオン(C)としては、安価であること(すなわち経済性の観点)から、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンが好ましく、造膜性のさらなる向上、経済性の向上および表面処理液の濁り防止の観点から、ナトリウムイオン、アンモニウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオンがさらに好ましい。
【0112】
アルカリ金属イオン(C1)は、表面処理液(例えば、水)中でアルカリ金属イオン(C1)を提供し得る化合物(または添加剤)(本明細書中、アルカリ金属化合物(c1)ということがある)の形態で、表面処理液に添加および使用される。アルカリ金属化合物(c1)はアルカリ金属イオン(C1)の供給源である。
【0113】
アルカリ金属化合物(c1)として、例えば、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等など水溶性のものが挙げられる。
【0114】
アンモニウムイオン(C2)は、表面処理液(例えば、水)中でアンモニウムイオン(C2)を提供し得る化合物(または添加剤)(本明細書中、アンモニウム化合物(c2)ということがある)の形態で、表面処理液に添加および使用される。アンモニウム化合物(c2)はアンモニウムイオン(C2)の供給源である。
【0115】
アンモニウム化合物(c2)として、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等など水溶性のものが挙げられる。
【0116】
アルカリ金属化合物(c1)およびアンモニウム化合物(c2)は、造膜性のさらなる向上、経済性の向上および表面処理液の濁り防止の観点から、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、アンモニア、硫酸アンモニウムが好ましく、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0117】
有機酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(例えばギ酸ナトリウム)は、前記の有機酸イオン(A)の供給源としても有用である。
無機酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(例えば硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム)は、前記の無機酸イオン(B)の供給源としても有用である。
【0118】
表面処理液中におけるアルカリイオン(C)の濃度は、特に限定されず、通常は1.00~20.0重量%であり、造膜性のさらなる向上の観点から、表面処理液全量に対して、好ましくは1.00~15.0重量%、より好ましくは1.00~8.00重量%、さらに好ましくは1.50~6.00重量%である。アルカリイオン(C)の濃度は、アルカリ金属イオン(C1)およびアンモニウムイオン(C2)の合計濃度である。アルカリイオン(C)の濃度は、造膜性のさらなる向上と表面処理液の濁り防止の観点から、表面処理液全量に対して、好ましくは1.50~4.50重量%、より好ましくは2.10~4.00重量%、さらに好ましくは2.40~3.70重量%、特に好ましくは2.50~3.00重量%である。表面処理液がアルカリイオン(C)を含まない場合、造膜性が低下する。本発明においては、アルカリ金属化合物(c1)またはアンモニウム化合物(c2)の少なくとも一方が使用される。アルカリ金属化合物(c1)およびアンモニウム化合物(c2)は、それぞれ独立して、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。アルカリ金属化合物(c1)およびアンモニウム化合物(c2)のうち、1種のみの化合物を用いる場合、当該化合物から供給されるアルカリイオン(C)の濃度が上記範囲内になるような量で使用されればよい。アルカリ金属化合物(c1)およびアンモニウム化合物(c2)のうち、2種以上の化合物を併用して用いる場合、それらの化合物から供給されるアルカリイオン(C)の合計濃度が上記範囲内になるような量で使用されればよい。
【0119】
表面処理液中に含まれるアルカリイオン(C)の濃度は、モル/kg単位で表すと、通常は0.43~8.70モル/kgであり、好ましくは0.43~6.52モル/kg、より好ましくは0.43~3.48モル/kgである。
【0120】
アルカリ金属イオン(C1)の濃度は、ICP発光分光分析装置(iCAP6000シリーズ;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定された値を用いている。
アンモニウムイオン(C2)の濃度は、イオンクロマトグラフィー(IC-2001;東ソー社製)により測定された値を用いている。このようなイオンクロマトグラフィーにより測定される濃度は、アンモニウム化合物(c2)が完全に解離した時のアンモニウムイオン(C2)の濃度である。
【0121】
第5成分としての銅イオン(D)
本発明の表面処理液は、(D)銅イオン(本明細書中、銅イオン(D)ということがある)を含む。銅イオン(D)は、アゾールシランカップリング剤による化成皮膜形成の補助的役割をする。
【0122】
銅イオン(D)は、表面処理液(例えば、水)中で銅イオン(D)を提供し得る化合物(または添加剤)(本明細書中、銅化合物(d)ということがある)の形態で、表面処理液に添加および使用される。銅化合物(d)は銅イオン(D)の供給源である。
【0123】
銅化合物(d)として、例えば、硫酸銅(およびその水和物(特に五水和物))、ギ酸銅(およびその水和物(特に四水和物))、硝酸銅、塩化銅、酢酸銅、水酸化銅、酸化銅、硫化銅、炭酸銅、臭化銅、リン酸銅、安息香酸銅が挙げられる。銅化合物(d)の溶解性の観点から硫酸銅、ギ酸銅、硝酸銅、酢酸銅であることが好ましい。
有機酸の銅塩(例えばギ酸銅および酢酸銅)は、前記の有機酸イオン(A)の供給源としても有用である。
無機酸の銅塩(例えば硫酸銅および硝酸銅)は、前記の無機酸イオン(B)の供給源としても有用である。
【0124】
表面処理液中における銅イオン(D)の濃度は通常、表面処理液全量に対して、0.0001~1.00重量%である。表面処理液中における銅イオン(D)の濃度は、造膜性のさらなる向上の観点から、表面処理液全量に対して、好ましくは0.001~0.200重量%、より好ましくは0.008~0.100重量%である。銅イオン(D)の濃度は、造膜性のさらなる向上と表面処理液の濁り防止の観点から、表面処理液全量に対して、好ましくは0.012~0.060重量%、より好ましくは0.012~0.040重量%である。表面処理液が銅イオン(D)を含まない場合、造膜性が低下する。銅化合物(d)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。銅化合物(d)を1種で用いる場合、当該銅化合物(d)から供給される銅イオン(D)の濃度が上記範囲内になるような量で使用されればよい。銅化合物(d)を2種以上併用して用いる場合、それらの銅化合物(d)から供給される銅イオン(D)の合計濃度が上記範囲内になるような量で使用されればよい。
【0125】
表面処理液中に含まれる銅イオン(D)の濃度は、モル/kg単位で表すと、通常は0.00002~0.16モル/kgであり、好ましくは0.0002~0.031モル/kg、より好ましくは0.0013~0.016モル/kgである。
【0126】
銅イオン(D)の濃度は、ICP発光分光分析装置(iCAP6000シリーズ;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定された値を用いている。
【0127】
他の成分
本発明の表面処理液は、上記したアゾールシランカップリング剤、有機酸化合物(a)、無機酸化合物(b)、アルカリ金属化合物(c1)、アンモニウム化合物(c2)、および銅化合物(d)に分類されない他の成分、例えば、他のアルカリ成分、有機溶剤、他のシランカップリング剤、をさらに含んでもよい。
【0128】
他のアルカリ成分としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、アリルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、3-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-1-プロパノール、N,N-ジメチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピリジン等のアミン類等が挙げられる。これらのアルカリ成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0129】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブチルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコール、フルフリルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、2-ピロリドン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、炭酸ジメチル、エチレンカーボネート、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0130】
他のアルカリ成分および有機溶剤の合計含有量(合計濃度)としては、表面処理液全量に対して0.1~50重量%であることが好ましい。
【0131】
他のシランカップリング剤として、例えば、以下の化合物が挙げられる:
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプトシラン化合物;
ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン化合物;
p-スチリルトリメトキシシラン等のスチリルシラン化合物;
2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン化合物;
3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリロキシシラン化合物;
メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシシラン化合物;
N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物;
3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイドシラン化合物;
3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピルシラン化合物;
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィドシラン化合物;および
3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン等のイソシアナトシラン化合物等。
その他、アルミニウム系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等も挙げることができる。
他のシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0132】
表面処理液のpH
本発明の表面処理液は通常、1.0~12.0のpHで作製可能である。本発明の表面処理液は、造膜性のさらなる向上の観点から、2.0~6.5のpHを有することが好ましく、2.5~6.5のpHを有することがより好ましく、3.8~6.0のpHを有することがさらに好ましく、3.8~5.8のpHを有することが特に好ましい。
【0133】
本発明の表面処理液のpHは、造膜性のさらなる向上と表面処理液の濁り防止の観点から、好ましくは3.8~5.2、より好ましくは4.4~5.2、さらに好ましくは4.5~5.0、特に好ましくは4.6~5.0である。
【0134】
本発明の表面処理液のpHは、有機酸化合物(a)、無機酸化合物(b)、アルカリ金属化合物(c1)およびアンモニウム化合物(c2)の種類および含有量を調整することにより、制御可能である。
【0135】
[金属の表面処理液の製造方法]
本発明は上記した表面処理液の製造方法も提供する。
本発明の表面処理液の製造方法は、アゾールシランカップリング剤、有機酸化合物(a)、無機酸化合物(b)、アルカリ金属化合物(c1)および/またはアンモニウム化合物(c2)、銅化合物(d)(および所望により他の成分)ならびに水を組み合わせることを特徴する。「組み合わせる」とは、得られる表面処理液が最終的に上記の全成分を所定濃度で含む限り、全成分をあらゆる組み合わせで混合してもよいという意味である。例えば、全成分を一括して混合してもよいし(一括混合方式)、または全成分のうちの一部の成分を予め混合した後、残りの成分をさらに混合してもよい(分割混合方式)。
【0136】
特に分割混合方式においては、例えば、以下の実施態様が挙げられる:なお、以下においては、アゾールシランカップリング剤を「x」として、有機酸化合物(a)を「a」として、無機酸化合物(b)を「b」として、アルカリ金属化合物(c1)およびアンモニウム化合物(c2)を「c」として、銅化合物(d)を「d」として、他の成分を「e」として、水を「w」として示す。
【0137】
実施態様1:
aおよびwを混合する予備混合工程p1;
cおよびwを混合する予備混合工程p2;
予備混合工程p1で得られた混合物、予備混合工程p2で得られた混合物、x、b、d(および所望によりe)ならびにwを混合する予備混合工程p3;および
予備混合工程p3で得られた混合物およびwを混合する最終混合工程。
【0138】
実施態様2:
aおよびwを混合する予備混合工程p1;
予備混合工程p1で得られた混合物、x、b、d(および所望によりe)ならびにwを混合する予備混合工程p2;
c(および所望によりe)ならびにwを混合する予備混合工程p3;および
予備混合工程p2で得られた混合物、および予備混合工程p3で得られた混合物を混合する最終混合工程。
【0139】
実施態様3:
aおよびwを混合する予備混合工程p1;
cおよびwを混合する予備混合工程p2;
予備混合工程p1で得られた混合物、予備混合工程p2で得られた混合物、x、d(および所望によりe)ならびにwを混合する予備混合工程p3;および
予備混合工程p3で得られた混合物およびbを混合する最終混合工程。
【0140】
本発明の表面処理液の製造方法においては、混合される1つの成分が他の成分としても有用である場合、当該1つの成分の混合操作(または混合工程)を実施する限り、当該他の成分の混合操作(または混合工程)を省略することができる。
詳しくは、硫酸ナトリウムは無機酸化合物(b)としても、アルカリ金属化合物(c1)としても有用である。従って、例えば、硫酸ナトリウムを無機酸化合物(b)として混合する場合、アルカリ金属化合物(c1)の混合操作(または混合工程)を省略することができる。また例えば、硫酸ナトリウムをアルカリ金属化合物(c1)として混合する場合、無機酸化合物(b)の混合操作(または混合工程)を省略することができる。
より詳しくは、例えば、上記実施態様3において硫酸ナトリウムを「b」として最終混合工程で混合する場合、「c」を混合する予備混合工程p2を省略することができる。また例えば、上記実施態様3において硫酸ナトリウムを「c」として予備混合工程p2で混合する場合、「b」を混合する最終混合工程を省略することができる。
【0141】
本発明の表面処理液は、10~30℃の室温下においても、比較的短い撹拌時間で簡便に製造することができる。撹拌時間は通常、10分~30分である。表面処理液の製造に用いられる水としては、イオン交換水、蒸留水、精製水等の純水が挙げられる。
【0142】
[金属の表面処理液の濃縮液(金属の表面処理原液)]
本発明の表面処理液の濃縮液は、水(例えば水のみ)で希釈して使用されるための液体(例えば水溶液)(すなわち、希釈前の液体)のことであり、詳しくは水(例えば水のみ)による希釈により、上記した表面処理液が得られる液体(すなわち、希釈前の液体)である。本発明においてはこのような表面処理液の濃縮液を「表面処理原液」とも称する。
【0143】
一実施態様において、本発明の金属の表面処理液の濃縮液は、アゾールシランカップリング剤を含む金属の表面処理液の濃縮液(例えば濃縮された水溶液)であって、有機酸イオン(A)(例えばギ酸イオン)、無機酸イオン(B)(例えば硫酸イオン)、アルカリイオン(C)(例えばナトリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオン)、および銅イオン(D)をさらに含み、当該濃縮液に含まれるケイ素の原子濃度が0.10~1.00重量%の範囲である。
【0144】
本発明の金属の表面処理液の濃縮液は、水(例えば水のみ)で希釈されることにより、上記した金属の表面処理液を製造するための濃縮液である。本発明の金属の表面処理液の濃縮液における上記した各成分の濃度は、希釈により得られる表面処理液が最終的に上記の全成分を含む限り特に限定されないが、当該表面処理液が最終的に上記の全成分を所定濃度で含むことができるような濃度であることが好ましい。従って、本発明の表面処理液の濃縮液における各成分の濃度は、想定される希釈倍率に応じて、比較的高濃度に設定される。希釈倍率は、例えば、1.1~10倍、好ましくは1.1~8倍、より好ましくは1.1~5倍である。希釈倍率は、希釈後に得られる表面処理液の体積を、希釈前の濃縮液の体積で除算して得られる値で表される。
【0145】
本発明の表面処理液の濃縮液において、pHは特に限定されないが、水(例えば水のみ)による希釈により得られる表面処理液が最終的に上記したpHとなるようなpHであることが好ましい。
【0146】
本発明の表面処理液の濃縮液は通常、以下の要件のうち、少なくとも1つの要件を満たす:
要件(1):本発明の表面処理液の濃縮液は、水で希釈されることにより、ケイ素の原子濃度が前記した表面処理液中のケイ素の原子濃度範囲となる液体(すなわち、希釈前の液体)である;
要件(2):本発明の表面処理液の濃縮液は、水で希釈されることにより、有機酸イオン(A)の濃度が前記した表面処理液中の有機酸イオン(A)の濃度範囲となる液体(すなわち、希釈前の液体)である。
要件(3):本発明の表面処理液の濃縮液は、水で希釈されることにより、無機酸イオン(B)の濃度が前記した表面処理液中の無機酸イオン(B)の濃度範囲となる液体(すなわち、希釈前の液体)である。
要件(4):本発明の表面処理液の濃縮液は、水で希釈されることにより、アルカリイオン(C)の濃度が前記した表面処理液中のアルカリイオン(C)の濃度範囲となる液体(すなわち、希釈前の液体)である。
要件(5):本発明の表面処理液の濃縮液は、水で希釈されることにより、銅イオン(D)の濃度が前記した表面処理液中の銅イオン(D)の濃度範囲となる液体(すなわち、希釈前の液体)である。
要件(6):本発明の表面処理液の濃縮液は、水で希釈されることにより、pHが前記した表面処理液のpH範囲となる液体(すなわち、希釈前の液体)である。
なお、本発明の表面処理液の濃縮液が要件(1)~(6)のうち2つ以上の要件を満たす場合、当該2つ以上の要件の各々において規定される水による希釈倍率は共通する一定の倍率であることが好ましい。
【0147】
本発明の表面処理液の濃縮液は、上記した要件のうち、好ましくは少なくとも要件(1)を満たし、より好ましくは要件(1)だけでなく、要件(2)~(6)から選択される1つ以上の要件を満たし、さらに好ましくは全ての要件を満たす。
【0148】
希釈に使用される水としては、イオン交換水、蒸留水、精製水等の純水が好ましい。希釈に使用される水は、水のみであってもよいし、またはアゾールシランカップリング剤、有機酸化合物(a)(例えばギ酸イオンを提供し得る化合物)、無機酸化合物(b)(例えば硫酸イオンを提供し得る化合物)、アルカリ金属化合物(c1)(例えばナトリウムイオンを提供し得る化合物)、アンモニウム化合物(c2)(例えばアンモニウムイオンを提供し得る化合物)および銅化合物(d)(銅イオンを提供し得る化合物)(ならびに所望により他の成分)からなる群から選択される1種以上の化合物を含む水(例えば水溶液)であってもよい。希釈に使用される水が、アゾールシランカップリング剤、有機酸化合物(a)、無機酸化合物(b)、アルカリ金属化合物(c1)、アンモニウム化合物(c2)および銅化合物(d)(ならびに所望により他の成分)からなる群から選択される1種以上の化合物を含む場合、当該希釈に使用される水における当該化合物の濃度は、得られる表面処理液が最終的に上記の全成分を含む限り特に限定されないが、当該表面処理液が最終的に上記の全成分を所定濃度で含むことができるような濃度であることが好ましい。
【0149】
[金属の表面処理液セット]
本発明は、金属の表面処理液セットも提供する。
本発明の金属の表面処理液セットは第1の液および第2の液からなる。第1の液および第2の液は、例えば、別々の容器に収容されつつ、組み合わされて市場に流通される。第1の液および第2の液が組み合わされて市場に流通されるとは、第1の液および第2の液がセット販売されるなど、市場において一体的に取り扱われる場合だけでなく、第1の液および第2の液が別々に流通されているものの、取り扱い説明書等により、相互に組み合わされて使用されることが示唆されている場合も包含される。第1の液および第2の液が相互に混合されることにより、上記した金属の表面処理液が製造される。上記した金属の表面処理液とは、アゾールシランカップリング剤、有機酸イオン(A)(例えばギ酸イオン)、無機酸イオン(B)(例えば硫酸イオン)、アルカリイオン(C)(例えばナトリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオン)、および銅イオン(D)を含む金属の表面処理液のことである。
【0150】
本発明の金属の表面処理液セットの一実施態様においては、アゾールシランカップリング剤は第1の液に含まれ、例えば、第1の液に含まれるケイ素の原子濃度が0.033~1.00重量%の範囲である。有機酸イオン(A)(例えばギ酸イオン)、無機酸イオン(B)(例えば硫酸イオン)、アルカリイオン(C)(例えばナトリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオン)、および銅イオン(D)は、それぞれ独立して、第1の液および/または第2の液に含まれる。詳しくは、有機酸イオン(A)(例えばギ酸イオン)、無機酸イオン(B)(例えば硫酸イオン)、アルカリイオン(C)(例えばナトリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオン)、および銅イオン(D)は、それぞれ独立して、第1の液または第2の液の一方に含まれてもよいし、またはそれらの両方に含まれてもよい。
【0151】
第1の液および第2の液は通常、水溶液である。第1の液および第2の液における上記した各成分の濃度は、相互の混合により得られる表面処理液が最終的に上記の全成分を含む限り特に限定されないが、当該表面処理液が最終的に上記の全成分を所定濃度で含むことができるような濃度であることが好ましい。
【0152】
別の一実施態様においては、上記した実施態様における第2の液が、当該第2の液に含まれるべき各成分の供給源としての物質(乾燥物(すなわち固体)または液体)のみの形態(すなわち、水を含まない形態)を有していてもよい。このような別の一実施態様は、第2の液が水を含まないこと、および、それに伴い、第1の液が第2の液に含まれなくなった水をさらに含むか、または表面処理液セットが第2の液に含まれなくなった水を第3の液としてさらに含むこと以外、上記した実施態様と同様であってもよい。
【0153】
[表面処理液を用いた表面処理方法]
本発明の表面処理液を用いて金属を表面処理する方法としては、表面処理液と金属の表面を接触させることができれば特に制限はされない。表面処理液と金属の表面を接触させる方法としては、例えば、スプレー法、浸漬法、塗布法等の方法を採用することができる。
【0154】
本発明の表面処理液と金属の表面を接触させる時間(処理時間)は、所望の膜厚に応じて適宜、決定されてよい。本発明の表面処理液は、造膜速度が十分に速いため、所定の時間内でより厚い化成皮膜を形成することができる。
【0155】
造膜速度は、表面処理液中におけるアゾールシランカップリング剤の種類および含有量(例えばケイ素原子の濃度)、表面処理液の温度および処理時間等の因子に大きく依存するため、一概に規定できるものではないが、例えば、同じ種類のアゾールシランカップリング剤を用いた場合、アゾールシランカップリング剤の濃度が高いほど、化成皮膜の膜厚は厚くなる。
【0156】
例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-1を用い、かつ表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.037~0.046重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-1による膜厚98nm以上(特に100nm以上)の化成皮膜を形成することができる。
【0157】
また例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-1を用い、かつ表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.056~0.074重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-1による膜厚118nm以上の化成皮膜を形成することができる。
【0158】
また例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-2を用い、かつ表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.046重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-2による膜厚241nm以上の化成皮膜を形成することができる。
【0159】
また例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-3を用い、かつ表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.046重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-3による膜厚185nm以上の化成皮膜を形成することができる。
【0160】
また例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-4を用い、かつ表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.047重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-4による膜厚212nm以上の化成皮膜を形成することができる。
【0161】
また例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-5を用い、かつ表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.046重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-5による膜厚32nm以上の化成皮膜を形成することができる。
【0162】
また例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-6を用い、かつ表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.046重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-6による膜厚58nm以上の化成皮膜を形成することができる。
【0163】
また例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-7を用い、かつ表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.047重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-7による膜厚286nm以上の化成皮膜を形成することができる。
【0164】
また例えば、後述のアゾールシランカップリング剤AS-8を用い、かつ)表面処理液(30℃)中のケイ素原子濃度が0.046重量%の低濃度である場合であっても、60秒間の浸漬処理により、AS-8による膜厚98nm以上の化成皮膜を形成することができる。
【0165】
本発明の表面処理液と金属の表面を接触させる時間(処理時間)は、特に限定されず、1秒~10分とすることが好ましく、5秒~3分とすることがより好ましい。処理時間が1秒以上であれば、金属表面に化成皮膜を十分に形成させることができる。その結果、化成皮膜の表面に樹脂層(例えば絶縁樹脂層)を形成したとき、金属と樹脂層との十分に高い接着力を得ることができる。処理時間を10分より長くしても、化成皮膜の膜厚に大差はないため接着力の増加が期待できず、生産性の観点からも10分以下で処理することが好ましい。
【0166】
表面処理液を金属の表面に接着させる際の表面処理液の温度については、特に限定されず、5~50℃とすることが好ましいが、前記の処理時間および所望の膜厚との関係において、適宜設定すればよい。
【0167】
金属の表面に表面処理液を接触させた後は、必要により水洗を行い、その後は金属の表面を乾燥させることが好ましい。乾燥は、室温(例えば20℃)~150℃の温度、好ましくは60~120℃の温度で、1秒~10分、好ましくは10秒~3分程度の時間とすることが好ましい。なお、水洗に用いる水としては、イオン交換水、蒸留水、精製水等の純水が好ましい。水洗の方法や時間には特に制限はなく、スプレー法、浸漬法等の方法による適宜の時間で構わない。
【0168】
本発明において、乾燥後の化成皮膜に対し、プラズマ、レーザー、イオンビーム、オゾン、加熱、加湿等の処理を行い、化成皮膜の表面を改質させてもよい。あるいは、プラズマ、レーザー、イオンビーム、パーミス・ブラシなどの機械研磨やドリル等加工方法を用いて、金属表面の樹脂・イオン残渣除去を目的とした洗浄を行ってもよい。
【0169】
表面処理液を金属の表面に接触させる前に、銅イオンを含有する水溶液を前記金属の表面に接触させてもよい。この銅イオンを含む水溶液は、銅の表面に形成される化成被膜の厚みを均一にさせる機能を有する。銅イオンを含有する水溶液の銅イオン源としては、水に溶解する銅塩であれば特に限定されず、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、ギ酸銅、酢酸銅などの銅塩が挙げられる。銅塩を水に可溶化するために、アンモニアや塩酸などを添加してもよい。
【0170】
表面処理液を金属の表面に接触させる前および/または後に、酸性あるいはアルカリ性の水溶液を前記金属の表面に接触させてもよい。この酸性水溶液またはアルカリ水溶液も、前記の銅イオンを含む水溶液と同様に、銅の表面に形成される化成被膜の厚みを均一にさせる機能を有する。酸性水溶液およびアルカリ性水溶液は、特に限定されない。酸性水溶液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸を含有する水溶液や、ギ酸、酢酸、乳酸、グリコール酸、アミノ酸などの有機酸を含む水溶液等が挙げられる。アルカリ性水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や、アンモニア、エタノールアミン、モノプロパノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアミン類などを含有する水溶液が挙げられる。
【0171】
上記のように処理することにより、金属の表面に、アゾールシランカップリング剤に由来する化成皮膜を形成させることができ、化成皮膜上に形成された樹脂層と金属との接着性を十分に高めることができる。しかも、化成皮膜による保護により、金属の酸化を抑制することができる。よって、金属配線層と絶縁樹脂層とを備えたプリント配線板等において、特に粗化処理を行うことなく金属配線層(金属回路)と絶縁樹脂層(樹脂材料)との接着性を高めると共に、金属の酸化物の形成を低減させることができる。
【0172】
本発明の表面処理液により処理される金属としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、錫、鉄、銀、金およびこれらの合金等が挙げられる。合金の具体例としては、銅合金では、銅を含む合金であれば特に限定されず、例えば、Cu-Ag系、Cu-Te系、Cu-Mg系、Cu-Sn系、Cu-Si系、Cu-Mn系、Cu-Be-Co系、Cu-Ti系、Cu-Ni-Si系、Cu-Zn-Ni系、Cu-Cr系、Cu-Zr系、Cu-Fe系、Cu-Al系、Cu-Zn系、Cu-Co系等の合金が挙げられる。その他の合金では、アルミニウム合金(Al-Si合金)、ニッケル合金(Ni-Cr合金)、鉄合金(Fe-Ni合金、ステンレス、鋼)等が挙げられる。これらの金属の中では、銅および銅合金が好ましい。
【0173】
化成皮膜上に形成される樹脂層を構成する樹脂材料としては、例えば、ナイロン、アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、オレフィン樹脂、フッ素含有樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂等が挙げられる。当該樹脂材料は、これらの樹脂材料を混合したり、互いに変性したりして、組み合わせたものであってもよい。これらの樹脂材料の中では、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、液晶樹脂、アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、シリコーン樹脂およびポリイミド樹脂が好ましい。
【0174】
接着方法
金属と樹脂材料との接着方法としては、本発明の表面処理液を用いる限り特に限定されず、例えば、以下の方法により行うことができる。金属の表面に本発明の表面処理液を接触させて金属の表面に化成皮膜を形成し、次いで、該化成皮膜を介して、金属の表面に樹脂材料からなる樹脂層(例えば基材)を形成する。樹脂層の形成方法は、化成皮膜の一部または全体に、樹脂材料からなる樹脂層が形成される限り、特に限定されず、例えば、樹脂材料を塗布または圧着する方法、樹脂材料を接着剤または接着シート(フィルム)により接着する方法、およびこれらの手段を組み合わせる方法が挙げられる。
【0175】
プリント配線板の製造方法
本発明は、上記接着方法を用いたプリント配線板の製造方法も提供するものである。すなわち、本発明のプリント配線板の製造方法は、プリント配線板の金属回路の表面に、本発明の表面処理液を接触させて、化成皮膜を形成する工程を含む。プリント配線板の金属回路とは、プリント配線板において回路を構成する金属(すなわち配線)のことである。
【0176】
本発明の表面処理液を用いて金属の表面に化成皮膜を形成することで、樹脂材料との接着性を高めることができるので、金属と樹脂材料が複合化された各種電気・電子部品やプリント配線板等を備えた電子デバイスに好適に利用することができる。
【0177】
本発明においては、特に銅または銅合金から形成される基材に対して、本発明の表面処理液を好適に用いることができる。本発明の表面処理液は、例えば、銅回路(銅配線層)と、プリプレグやソルダーレジスト(絶縁樹脂層)との間の接着性(密着性)を高めることを目的とする銅または銅合金の表面処理に好適であり、銅配線層に接して絶縁樹脂層を有するプリント配線板において、銅配線層と絶縁樹脂層との間の接着性を高めることができる。
【0178】
具体的に、前記のプリント配線板は、本発明の表面処理液を銅配線層の表面に接触させて、その後必要により水洗し、続いて乾燥を行った後、銅配線層表面に絶縁樹脂層を形成させて、作製することができる。
接触の方法については、前述のとおりであり、表面処理液中への銅配線層の浸漬または該処理液による銅配線層へのスプレー等が簡便かつ確実であり好ましい。
水洗の方法についても特に制限はないが、洗浄水中への銅配線層の浸漬または洗浄水による銅配線層表面へのスプレーが簡便かつ確実であり好ましい。
絶縁樹脂層の形成には、公知の方法、例えば半硬化の樹脂材料を貼り付ける方法や溶剤を含む液状の樹脂材料を塗布する方法等を採用することができる。
【0179】
次いで、上下の配線を導通させる為に、ビアホールを形成する。このプロセスを繰り返すことにより、多層プリント配線板を作製できる。
【0180】
銅配線層については、無電解メッキ法、電解メッキ法、蒸着法、スパッタ法、ダマシン法等のような方法で作製されたものでもよく、インナービアホール、スルーホール、接続端子等を含んだものでもよい。
【0181】
本発明に係る「銅」とは、プリント配線板、リードフレーム等の電子デバイス、装飾品、建材等に用いられる箔(電解銅箔、圧延銅箔、樹脂付銅箔、極薄電解銅箔、無電解銅箔、スパッタ銅箔、薄銅箔)、めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)、蒸着法、スパッタ法、ダマシン法等により形成された薄膜や粒、針、繊維、線、棒、管、板等の用途・形態において用いられるものである。なお、近年の高周波の電気信号が流れる銅配線層の場合には、銅の表面は平均粗さが0.1μm以下の平滑面であることが好ましい。銅の表面に、前処理として、ニッケル、亜鉛、クロム、錫等のめっきを施してもよい。
また、本発明の表面処理液で処理される極薄電解銅箔とは、セミアディティブ法、サブトラクティブ法、パートリーアディティブ法、モディファイドセミアディティブ法、アドバンスモディファイドセミアディティブ法又はプライマーセミアディティブ法の何れかの方法によって回路を形成する工程を含む方法により得られる、プリント配線板に使用される極薄電解銅箔である。極薄電解銅箔は、銅箔キャリアと、銅箔キャリア上に積層された剥離層と、剥離層の上に積層された極薄銅層とを備えていてもよい。銅表面に、酸洗処理、粗化処理、耐熱処理、防錆処理または化成処理からなる群から選択させる少なくとも1つの前処理を施しても良い。
【0182】
本発明の金属の表面処理液の他の利用例を以下に示す。
【0183】
例えば、半導体ウェハにおける利用例では、本発明の金属の表面処理液は、半導体ウェハ上に形成された半導体回路と保護膜(例えば感光性ポジ型、感光性ネガ型、非感光性のバッファーコートやバンプ保護膜などの絶縁性保護膜)との間の接着性(密着性)を高めることを目的とする半導体回路の表面処理に好適である。
また例えば、本発明の金属の表面処理液は、半導体ウェハ上に再配線層を形成するパッケージ基板(WL-CSPやFO-WLP)や2.5次元(2.5D)インターポーザー基板において、銅回路再配線層と絶縁材料との接着性(密着性)を高めることを目的とする銅回路再配線層の表面処理に好適である。
【0184】
また例えば、ワイヤボンディング実装する際のリードフレームにおける利用例では、本発明の金属の表面処理液は、リードフレーム作成工程の金属表面もしくは、半導体チップをマウント(ダイボンディング・プレベーキング工程の前後)した後のフレーム金属表面、ワイヤボンディング実装した後のフレーム金属表面、樹脂封止(樹脂モールド、ベーキング工程の前後)するまでの工程のフレーム金属表面において封止樹脂や半導体チップマウント時の接着剤との接着性(密着性)を高めることを目的とするリードフレームの表面処理に好適である。
【0185】
また例えば、フリップチップ実装する際のリードフレームにおける利用例では、本発明の金属の表面処理液は、リードフレーム作成工程の金属表面もしくは、接合材料(はんだ、Auめっき、Snめっきなど)を仮置きした後のリードフレーム金属表面、半導体チップをマウント(位置合わせ、チップマウント・ベーキング工程の前後)した後のフレーム金属表面、本硬化後(リフロー加熱、熱圧着、超音波、プラズマなどの工程前後)のリードフレーム金属表面、樹脂封止するまでの工程のリードフレーム金属表面において、封止樹脂や半導体チップマウント時の接着剤との接着性(密着性)を高めることを目的とするリードフレームの表面処理に好適である。
【0186】
また例えば、半導体チップを近接配置するための集積技術を高めた微細配線基板における利用例では、本発明の金属の表面処理液は、2.1次元(2.1D)有機基板あるいはガラス基板、半導体を基板に内蔵した部品内蔵基板(EPS基板)、コアレス基板において、銅回路配線層と絶縁材料との接着性(密着性)を高めることを目的とする銅回路配線層の表面処理にも好適である。
また例えば、本発明の金属の表面処理液は、パターン配線を内蔵し上下層をレーザービア加工し、ビアフィルめっきを行う場合や、上下層の導通はめっきで形成した銅ピラーを使用し、絶縁層はモールド樹脂を使用するMISを用いた回路埋め込み基板(ETS基板)を用いる場合において、銅回路配線層と絶縁材料との接着性(密着性)を高めることを目的とする銅回路配線層の表面処理に好適である。
【実施例
【0187】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0188】
[使用材料]
・アゾールシランカップリング剤:
以下のアゾールシランカップリング剤AS-1~AS-8を用いた。
【0189】
【表1】
【0190】
(アゾールシランカップリング剤AS-1)
アゾールシランカップリング剤AS-1を以下の合成方法により合成した。
【0191】
合成方法はWO2018/186476号に準拠した。
詳しくは、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール15.6g(0.157mol)および脱水N,N-ジメチルホルムアミド100mLからなる懸濁液へ、室温にて20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液53.5g(0.157mol)を加え、55~60℃に加温して20分間攪拌した後、3-クロロプロピルトリエトキシシラン37.9g(0.157mol)を加え、87~90℃にて6時間攪拌した。懸濁状の反応液を3℃まで冷却した後、不溶物を濾去し、濾液の溶媒を減圧留去して、褐色粘稠物42.3g(0.139mol、収率88.8%)を得た。
得られた粘稠物のH-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
H-NMR(DMSO-d) δ:0.49(t,2H),1.14(t,9H),1.62(m,2H),3.56(t,2H),3.73(q,6H),4.67(s,2H),5.11(s,2H).
このH-NMRスペクトルデータより、得られた粘稠物は、上記構造式で示される標題のトリアゾールシラン化合物であるものと同定した。
【0192】
(アゾールシランカップリング剤AS-2)
アゾールシランカップリング剤AS-2を以下の合成方法により合成した。
合成方法はWO2018/186476号に準拠した。
詳しくは、3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール10.5g(0.108mol)および脱水N,N-ジメチルホルムアミド60mLからなる溶液へ、室温にて28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液20.7g(0.107mol)を加え、20分間攪拌した後、3-クロロプロピルトリメトキシシラン21.6g(0.109mol)を加え、90~93℃にて4時間攪拌した。懸濁状の反応液を2℃まで冷却した後、不溶物を濾去し、続いて、濾液の溶媒を減圧留去し、生じた少量の不溶物を濾去して、微褐色液体24.6g(0.095mol、収率87.8%)を得た。
得られた微桃色液体のH-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
H-NMR(DMSO-d)δ:0.54(t,2H),1.76(m,2H),2.15(s,3H),2.31(s,3H),3.47(s,9H),3.94(t,2H).
このH-NMRスペクトルデータより、得られた微桃色液体は、上記構造式で示される標題のアゾールシラン化合物であるものと同定した。
【0193】
(アゾールシランカップリング剤AS-3)
アゾールシランカップリング剤AS-3を以下の合成方法により合成した。
合成方法は米国特許出願公開第2012/0021232号明細書に準拠した。
詳しくは、1H-テトラゾール14.2g(0.203mol)および脱水N,N-ジメチルホルムアミド80mLからなる溶液に、室温下、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液39.2g(0.203mol)を加えて30分間攪拌した。続いて、3-クロロプロピルトリメトキシシラン40.3g(0.203mol)を30分間かけて滴下し、88~91℃にて4時間攪拌した懸濁状の反応液を3℃に冷却し、不溶物を濾去した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、無色液体44.2g(0.190mol、収率93.7%)を得た。
得られた無色液体のH-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
H-NMR(DMSO-d)δ:0.57(t,2H,J=6Hz,-CH2-Si),1.96(m,2H,-CH2CH2-Si),3.47(s,9H,SiOCH3),4.43(t,1.1H,J=6.8Hz,NCH2-),4.68(t,0.9H,J=6.8Hz,NCH2-),8.96(s,0.55H,テトラゾール環C-H),9.41(s,0.45H,テトラゾール環C-H).
このH-NMRスペクトルデータより、得られた無色液体は、上記構造式で示される標題のアゾールシラン化合物であるものと同定した。
【0194】
(アゾールシランカップリング剤AS-4)
アゾールシランカップリング剤AS-4を以下の合成方法により合成した。
合成方法はWO2019/058773号に準拠した。
詳しくは、5-アミノ-1H-テトラゾール23.0g(0.270mol)及び脱水N,N-ジメチルホルムアミド200mLからなる溶液に、室温下、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液51.9g(0.270mol)を加えて30分間攪拌した。続いて、3-クロロプロピルトリメトキシシラン53.7g(0.270mol)を加え、89~92℃にて22時間攪拌した。懸濁状の反応液を8℃に冷却し、不溶物を濾去した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、濃縮物100gを得た。この濃縮物を酢酸イソプロピル150mLで希釈して、飽和食塩水150mLで3回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、液状の濃縮物58.3gを得た。この濃縮物をヘキサン100mLで2回洗浄し、減圧濃縮し、白色ロウ状固体54.7g(0.221mol、収率81.9%)を得た。
得られた白色ロウ状固体のH-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
H-NMR(DMSO-d)δ:0.54(t,2H,J=8Hz,-CH2-Si),1.75(m,0.8H,-CH2CH2-Si),1.88(m,1.2H,-CH2CH2-Si),3.47(s,9H,SiOCH3),4.05(t,0.8H,J=7Hz,NCH2-),4.35(t,1.2H,J=7Hz,NCH2-),5.98(s,1.2H,NH2),6.66(s,0.8H,NH2).
このH-NMRスペクトルデータより、得られた白色ロウ状固体は、上記構造式で示される標題のアゾールシラン化合物であるものと同定した。
【0195】
(アゾールシランカップリング剤AS-5)
アゾールシランカップリング剤AS-5を以下の合成方法により合成した。
合成方法はWO2019/058773号に準拠した。
詳しくは、5-フェニル-1H-テトラゾール18.1g(0.124mol)及び脱水N,N-ジメチルホルムアミド100mLからなる溶液に、室温下、水素化ナトリウム(油性、63%)4.9g(0.129mol)を3回に分けて加えて30分間攪拌した。続いて、3-クロロプロピルトリエトキシシラン29.9g(0.124mol)を加え、88~90℃にて4時間攪拌した。懸濁状の反応液を3℃に冷却し、不溶物を濾去した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、濃縮物を得た。この濃縮物を酢酸イソプロピル150mLで希釈(分散・溶解)して、飽和食塩水100mLで3回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、淡黄褐色液体38.9g(0.111mol、収率89.7%)を得た。
得られた淡黄褐色液体のH-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
1H-NMR(DMSO-d) δ:0.59(t,2H,J=8Hz,-CH2-Si),1.14(t,9H,J=7Hz,CH3),2.05(m,2H,-CH2CH2-Si),3.75(q,6H,J=7Hz,Si-O-CH2-),4.52(t,0.2H,J=7Hz,NCH2-),4.73(t,1.8H,J=7Hz,NCH2-),7.56(m,3H,Ph),8.08(m,2H,Ph).
このH-NMRスペクトルデータより、得られた淡黄褐色液体は、上記構造式で示される標題のアゾールシラン化合物であるものと同定した。
【0196】
(アゾールシランカップリング剤AS-6)
アゾールシランカップリング剤AS-6を以下の合成方法により合成した。
詳しくは、脱水N,N-ジメチルアセトアミド90mL、20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液45.2g(0.118mol)次いで3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール11.7g(0.118mol)の順に仕込み、70℃に加熱して1時間攪拌した。次いで減圧下にエタノールのみを溜去した後、70~75℃にて(クロロメチル)トリエトキシシラン25.2g(0.119mol)を20分かけて滴下し、100~102℃にて18時間攪拌した。懸濁状の反応液を熱時に濾過し、不溶物を除き、濾液の溶媒を減圧留去して得られた褐色粘稠物をアセトニトリル150mLと加熱還流し結晶化した。懸濁液を冷却後濾過して、潮解性の固体を10.5g(0.038mol、収率32.2%)を得た。
得られた潮解性の固体のH-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
H-NMR(DMSO-d)δ:1.06(t,9H),2.24(s,2H),3.60(q,6H),5.18(s,2H),5.77(s,2H).
このH-NMRスペクトルデータより、得られた潮解性の固体は、上記式で示される標題のアゾールシラン化合物であるものと同定した。
【0197】
(アゾールシランカップリング剤AS-7)
アゾールシランカップリング剤AS-7を以下の合成方法により合成した。
詳しくは、脱水N,N-ジメチルアセトアミド100mL、20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液94.4g(0.277mol)次いで3-エチル-1,2,4-トリアゾール27.0g(0.278mol)の順に仕込み、70℃に加熱して1時間攪拌した。次いで減圧下にエタノールのみを溜去した後、70~75℃にて3-クロロプロピルトリエトキシシラン66.9g(0.278mol)を20分かけて滴下し、100~102℃にて20時間攪拌した。懸濁状の反応液を2℃まで冷却し、不溶物を濾去後、濾液の溶媒を減圧留去して淡褐色液体74.0g(0.257mol、収率92.8%)を得た。
得られた淡褐色液体のH-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
H-NMR(DMSO-d)δ:0.46(t,2H),1.14(t,9H),1.15(t,3H),1.78(m,2H),2.60(q,2H),3.73(q,6H),4.05(t,2H),8.31(s,1H).
このH-NMRスペクトルデータより、得られた淡褐色液体は、上記構造式で示される標題のアゾールシラン化合物であるものと同定した。
【0198】
(アゾールシランカップリング剤AS-8)
アゾールシランカップリング剤AS-8を以下の合成方法により合成した。
詳しくは、1,2,3-トリアゾール12.5g(0.181mol)及び脱水N,N-ジメチルホルムアミド100mLからなる溶液に、室温下、20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液62.1g(0.183mol)を加え、続いて、3-クロロプロピルトリエトキシシラン44.0g(0.183mol)を加え、89~92℃にて6時間攪拌した。懸濁状の反応液を室温に戻し、不溶物を濾去した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、濃縮物65gを得た。この濃縮物を酢酸イソプロピル150mLで希釈(分散・溶解)して、飽和食塩水150mLで2回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、褐色透明液44.4g(0.162mol、収率89.7%)を得た。
得られた褐色透明液のH-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
H-NMR(DMSO-d)δ:0.50(t,2H),1.16(t,9H),2.10(m,2H),3.73(q,6H),4.40(t,2H),7.49(s,1H),7.52(s,1H).
このH-NMRスペクトルデータより、得られた褐色透明液は、上記構造式で示される標題のアゾールシラン化合物であるものと同定した。
【0199】
表面処理液の添加剤成分として以下の酸、塩、アルカリ、銅化合物、および添加剤を用いた。
【0200】
・酸:
硫酸、ギ酸、酢酸、またはトシル酸を用いた。表面処理液の作成時には、硫酸は70%硫酸水溶液を、ギ酸は76%ギ酸水溶液を、酢酸は99%酢酸水溶液を、トシル酸はトシル酸一水和物を用いた。硫酸は無機酸化合物(b)であり、ギ酸、酢酸およびトシル酸一水和物は有機酸化合物(a)である。
【0201】
・塩:
無水硫酸ナトリウム(NaSO)、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウムを用いた。無水硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硫酸カリウムは無機酸化合物(b)かつアルカリ金属化合物(c1)である。硫酸アンモニウムは無機酸化合物(b)かつアンモニウム化合物(c2)である。硫酸カルシウムは無機酸化合物(b)である。
【0202】
・アルカリ:
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、および水酸化カルシウムを用いた。表面処理液の作成時には、水酸化ナトリウムは48%水酸化ナトリウム水溶液を用いた。水酸化カリウムおよび水酸化カルシウムは粒状物を用いた。アンモニアは25%アンモニア水を用いた。水酸化テトラメチルアンモニウムは25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いた。水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムはアルカリ金属化合物(c1)である。アンモニアはアンモニウム化合物(c2)である。
【0203】
・銅化合物:
ギ酸銅四水和物または硫酸銅五水和物を用いた。ギ酸銅四水和物は有機酸化合物(a)かつ銅化合物(d)であり、硫酸銅五水和物は無機酸化合物(b)かつ銅化合物(d)である。
【0204】
・添加剤:エチレングリコールモノブチルエーテル(EGBE)を用いた。エチレングリコールモノブチルエーテルは98%エチレングリコールモノブチルエーテルを用いた。
【0205】
[実施例1~45および比較例1~17]
(表面処理液の作成方法)
イオン交換水を入れたビーカーに、アゾールシランカップリング剤、およびアルカリを除く添加剤成分をそれぞれ、表2A~表12Aに示すように、所定量投入し、均一になるまで撹拌した。その後、アルカリを投入して均一になるまで撹拌することで所定のpHとなるように調整し、表面処理液を得た。
表面処理液中のケイ素の原子濃度、有機酸イオン濃度、無機酸イオン濃度、アルカリ金属イオンおよびアンモニウムイオンの合計濃度、銅イオン濃度、およびpHは表2B~表12Bに記載の通りであった。
表面処理液に濁りがある場合、表面処理液を珪藻土でろ過して、透明な表面処理液を得た。ろ過および1日の放置後、透明性を有する表面処理液には「A」と、放置後に濁りが生成する表面処理液には「B」と評価した。
【0206】
(表面処理方法)
銅板の表面を、前処理液として過硫酸カリウム系ソフトエッチング剤(GB-200;四国化成工業社製)を用いて清浄な状態にした。
銅板表面の水洗を行い、前処理液を充分に洗い流した。
エアナイフにより、銅板表面の水分を除去した。
恒温状態の表面処理液(30℃)に銅板を浸漬させた(表面処理)。処理時間(すなわち浸漬時間)は60秒間であった。
次いで、銅板の水洗を行い、銅板表面に付着した表面処理液を洗い流した。
エアナイフにより、銅板表面の水分を除去した。
乾燥機で銅板表面を乾燥し、水分を除去した。
【0207】
(膜厚の測定方法)
膜厚は紫外可視分光光度計(UV-1800;島津製作所社製)を用いて測定した。
詳しくは、表面処理液で処理を行った銅板を所定の面積に切断してビーカーに入れ、膜を溶解する抽出液(5%塩酸水溶液)を所定量添加し、ビーカーを揺らすことで銅表面に生成した膜を溶解させた。
膜を溶解させた液を紫外可視分光光度計で測定し、所定の波長の吸光度を読み取った。
吸光度の値より作成したサンプル液の膜濃度から膜厚を算出した。
同じ処理条件(例えば30℃/60秒)で処理したサンプルの膜厚を比較することで、造膜速度の違いを確認した。
【0208】
【表2A】
【0209】
【表2B】
【0210】
【表3A】
【0211】
【表3B】
【0212】
【表4A】
【0213】
【表4B】
【0214】
【表5A】
【0215】
【表5B】
【0216】
【表6A】
【0217】
【表6B】
【0218】
【表7A】
【0219】
【表7B】
【0220】
【表8A】
【0221】
【表8B】
【0222】
【表9A】
【0223】
【表9B】
【0224】
【表10A】
【0225】
【表10B】
【0226】
【表11A】
【0227】
【表11B】
【0228】
【表12A】
【0229】
【表12B】
【0230】
表2B~表12Bより、以下のことが明らかである:
同じアゾールシランカップリング剤を用い、かつケイ素の元素濃度が同程度である場合、アゾールシランカップリング剤の他に、有機酸イオン、無機酸イオン、アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン、ならびに銅イオンを含む実施例のほうが、有機酸イオンを含まない比較例、無機酸イオンを含まない比較例、アルカリ金属イオンおよびアンモニウムイオンを含まない比較例、ならびに銅イオンを含まない比較例よりも、造膜速度がより十分に大きい。
アゾールシランカップリング剤として、各種アゾールシランカップリング剤を用いても、造膜速度はより十分に向上する。
有機酸イオン、無機酸イオン、アルカリ金属イオンおよびアンモニウムイオンの各々として、各種イオンを用いても、造膜速度はより十分に向上する。
【0231】
表2Aおよび表2Bに示す実施例および比較例におけるケイ素の原子濃度と造膜速度との関係を示すグラフを図1に示す。
図1より、有機酸イオン(A)を含む表面処理液は、有機酸イオン(A)を含まない表面処理液よりも、造膜速度が有意に高いことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0232】
本発明の表面処理液は、プリント配線板の金属回路および電線やタイヤの金属芯材などのような金属と、その表面に形成される樹脂層(例えば絶縁樹脂層)との接着性を向上させるための、金属の表面処理液として有用である。
図1