(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】連結車両の許容可能な車両の状態空間を決定する方法
(51)【国際特許分類】
B60W 50/02 20120101AFI20240117BHJP
B60W 40/02 20060101ALI20240117BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20240117BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
B60W50/02
B60W40/02
B60W50/14
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021559911
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2019059530
(87)【国際公開番号】W WO2020207602
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ヨナソン,マッツ
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-530997(JP,A)
【文献】特許第5614055(JP,B2)
【文献】特開2007-331715(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0304884(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
停止操作、障害物回避操作又は緊急制動操作を安全に完了させるために連結車両(1)の許容可能な車両の状態空間を制御ユニット(900)が決定する方法であって、前記許容可能な車両の状態空間は、当該許容可能な車両の状態空間が前記操作を安全に完了させることができる状態のみを含むように車両の状態空間の一部を定義し、前記車両の状態空間は車両速度を含み、前記方法は、
前記連結車両(1)の前方の走行可能領域(31)を監視すること(S1)と、
前記連結車両(1)の初期の車両状態、前記連結車両(1)の幾何学的形状、及び前記連結車両(1)を位置決めするために使用される1つ以上のセンサ入力信号に関連付けられた誤差特性に基づいて、前記操作中の前記連結車両(1)が通過する可能性がある領域を確率で表す、前記連結車両(1)の前方の掃引される可能性がある領域(33)を予測すること(S2)と、
前記予測された掃引される可能性がある領域(33)が前記連結車両(1)の前方の前記走行可能領域(31)を超えて広がらないように、前記許容可能な車両の状態空間を決定すること(S3)と、
を含んでいる方法。
【請求項2】
前記1つ以上の
センサ入力信号は、正常な動作モードと比較して、センサ信号の不調又はセンサ信号処理の不調により少なくなったセンサ入力信号のセットに対応する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記監視することは、前記連結車両(1)の前方の交通インフラストラクチャに関連する情報を取得すること(S11)を含んでいる、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記監視することは、1つ以上のレーダセンサ、1つ以上のライダセンサ、1つ以上の視覚センサ、及び1つ以上のV2X通信トランシーバのいずれかから、前記連結車両(1)の前方の環境に関連するデータを取得すること(S12)を含んでいる、
請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記予測することは、前記操作に関連付けられた計画された経路(23)に基づいて、前記連結車両(1)の前方の前記掃引される可能性がある領域(33)を予測すること(S21)を含んでいる、
請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記予測することは、前記連結車両(1)に関連付けられた初期の車両状態の誤差の推定値を取得すること(S22)を含んでいる、
請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記予測することは、前記操作中に、前記連結車両(1)の位置決め誤差に関連付けられた共分散行列を推定すること(S23)を含んでいる、
請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記車両の状態空間はステアリングホイール角度を含み、
前記方法は、前記操作に関連付けられた前記連結車両(1)の前記計画された
経路(23)に関連付けられた横転のリスクにも基づいて、前記許容可能な車両の状態空間を決定すること(S31)を含んでいる、
請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記連結車両(1)に関連付けられた1つ以上の動的特性を取得すること(S32)を含み、
前記横転のリスクに基づいて前記許容可能な車両の状態空間を決定することは、前記車両の動的特性に基づく、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記操作中の制御のための前記連結車両(1)の制御ユニット(900)への出力として、前記決定された許容可能な車両の状態空間を提供すること(S4)を含んでいる、
請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記操作中の制御のための前記連結車両(1)の制御ユニット(900)への出力として、前記掃引される可能性がある領域、及び/又は前記操作中の横転の可能性の推定値を提供すること(S5)を含んでいる、
請求項1~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
異なるセットのセンサ入力信号、及び/又は異なる操作に対応する複数の掃引される可能性がある領域を決定すること(S51)を含んでいる、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
コンピュータ又は制御ユニット(1000)の処理回路(1010)で実行
するための、請求項1~12のいずれか1つに記載のステップ
を含んだコンピュータプログラム(1020)。
【請求項14】
コンピュータ又は制御ユニット(1000)の処理回路(1010)で実行
するための、請求項1~12のいずれか1つに記載のステップ
を含んだコンピュータプログラム(1020)を保持するコンピュータ可読媒体(1010)。
【請求項15】
連結車両(1)の許容可能な車両の状態空間を決定する制御ユニット(900)であって、
請求項1~12のいずれか1つに記載の方法のステップを実行するように構成された制御ユニット(900)。
【請求項16】
請求項15に記載の制御ユニット(900)を備えた車両(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トラックやセミトレーラなどの連結車両について、例えば、速度制限などの許容可能な車両の状態空間(state space)を決定する方法、制御ユニット、及び車両に関する。
【0002】
本発明は、トラックや建設機械などの大型車両に適用することができる。セミトレーラ車両について本発明を主に説明するが、本発明は、この特定の車両に限定されず、リクリエーション車両などの他のタイプの連結車両にも使用することができる。
【背景技術】
【0003】
自律走行車両及び半自律走行車両は、ナビゲーションや車両制御のために様々なタイプのセンサ入力信号を使用している。先進運転支援システム(ADAS)も、センサ入力信号に基づいている。車両の安全な動作に必要な特定の重要なセンサ信号が失われると、安全な停止操作(safe stop maneuver)が必要になる可能性がある。安全な停止操作は、例えば、制御された方法で、車両を巧みに操作して路側に導いて停止させることを含むことができる。車両は安全な停止操作中に少なくとも部分的に「ブラインド」になる可能性があるので、ときどき代替的な信号入力に基づいて制御を実行しなければならない。そのような代替的な入力信号の1つは、車輪回転を使用して、例えば、走行距離、速度、及び加速度を推定する推測航法(dead reckoning)である。
【0004】
米国特許出願公開第2018/0224851号明細書は、GPS信号が失われた場合に、安全な停止操作を実行する問題に言及している。主要な測位システムが不調である場合、推測航法に基づく位置推定が使用される。
【0005】
米国特許出願公開2010/0106356号明細書は、自律走行車両の制御、及び自律走行車両の制御のためのセンサシステムに言及している。例えば、障害物によりレーダ信号が失われた場合に、障害物の位置をシミュレートする機構が開示されている。この開示はまた、安全な動作が保証できない場合に、安全な停止操作を実行することに言及している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
安全な停止操作の実行に関する問題は、安全な方法で停止操作の実行を許可できない状態に車両があることである。例えば、車両の走行速度が速すぎる場合である。
【0007】
突然かつ重要な車両制御を必要とする他の操作は、突然の障害物回避、横滑りを考慮した操作などを含んでいる。安全な停止操作と同様に、速度が速すぎるために、例えば、安全な方法で横滑り補償の実行を許可できない状態に車両がある可能性がある。
【0008】
センサ信号が停止した場合に、安全な停止操作を常に安全に実行できるように、連結車両の許容可能な車両の状態空間を決定する方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の目的は、上述した問題を軽減又は克服する技術を提供することである。この目的は、操作を安全に完了させるために、連結車両の許容可能な車両の状態空間を決定する方法によって、少なくとも部分的に得られる。車両の状態空間は、車両速度を含んでいる。この方法は、連結車両の前方の走行可能領域を監視することを含んでいる。この方法はまた、連結車両の前方の掃引される可能性がある領域(potentially swept area)を予測することを含んでいる。掃引される可能性がある領域は、操作中に連結車両が通過する可能性がある領域を確率で表している。これは、初期の車両状態、連結車両の幾何学的形状、及び車両の位置決めのために使用される1つ以上の入力信号に関連付けられた誤差特性(error characteristic)に基づいて決定される。この方法はまた、操作中に予測された掃引される可能性がある領域が車両の前方の走行可能領域を超えて広がらないように、許容可能な車両の状態空間を決定することを含んでいる。
【0010】
このようにして、所定の現在の走行シナリオで、操作を安全に実行できることが保証される。例えば、一部のシナリオでは、比較的高速な走行が可能になる一方、他のシナリオでは、より高度の制御の課題が発生して車両速度が低下する可能性がある。連結車両の幾何学的形状は、掃引される可能性がある領域を決定するときに考慮される。このようにして、例えば、操作中にトレーラが走行可能領域から出ないことが保証される。異なるタイプのセンサ誤差特性は、この方法によって考慮される。これは、どのセンサシステムが停止するかを事前に知ることができないため有利である。
【0011】
いくつかの態様によれば、この操作は、安全な停止操作であり、1つ以上のセンサ信号は、正常な動作モードと比較して、少なくなったセンサ入力信号のセットに対応している。安全な停止操作を実行する可能性は、例えば、自律走行車両や先進運転支援システムにとってより重要である。
【0012】
いくつかの態様によれば、監視することは、車両の前方の交通インフラストラクチャに関連する情報を取得することを含んでいる。交通インフラストラクチャに関連する情報は、いくつかの異なる方法で取得でき、これについては以下で詳細に説明する。これによって、利点となる堅牢なシステムが提供される。例えば、オプションとして、監視することは、1つ以上のレーダセンサ、1つ以上のライダセンサ、1つ以上の視覚センサ、及び1つ以上のV2X通信トランシーバのいずれかから、車両の前方の環境に関連するデータを取得することを含んでいる。
【0013】
いくつかの態様によれば、予測することは、操作のために車両の計画された進路(track)に基づいて、連結車両の前方の掃引される可能性がある領域を予測することを含んでいる。計画された進路は、車両が交通インフラストラクチャを通過するときに維持及び更新することができる。掃引される可能性がある領域を現在の計画された操作進路に基礎付けることによって、掃引される可能性がある領域のより正確な推定値が取得される。また、有利なことには、連結車両によって掃引される領域は、操作中の車両速度及び旋回速度(turn rate)に依存することができるので、許容可能な車両の状態空間は、オプションとして、操作期間中の車両速度の上限値及び下限値の両方を含んでいる。
【0014】
いくつかの態様によれば、予測することは、車両に関連付けられた初期の車両状態誤差の推定値を取得することを含んでいる。状態誤差は、決定された掃引される可能性がある領域に影響を与える。従って、有利なことには、掃引される可能性がある領域のより正確な推定値が取得される。
【0015】
いくつかの態様によれば、予測することは、操作中の車両の位置決め誤差に関連付けられた共分散行列(covariance matrix)を推定することを含んでいる。この共分散行列は、利点となる、不確実性領域(uncertainty region)を表す複雑さの低い効率的な手段を提供する。
【0016】
いくつかの態様によれば、車両の状態空間は、ステアリングホイール角度を含み、この方法は、操作のために車両の計画された進路に関連付けられた横転のリスクにも基づいて、許容可能な車両の状態空間を決定することを含んでいる。従って、この方法は、連結車両が走行可能領域の外側を掃引するリスクを制限するだけでなく、操作中の横転(tip-over)のリスクも制限する。
【0017】
いくつかのそのような態様によれば、この方法は、車両に関連付けられた1つ以上の動的特性を取得することを含み、許容可能な車両の状態空間の決定もまた、車両の動的特性に基づいている。このようにして、異なる車両の動的特性がこの方法によって考慮されて、操作中のより正確な制御につながる。例えば、不安定な車両は、より安定した車両と比較して、ステアリングホイール角度に関してより厳格に制限することができる。
【0018】
いくつかの態様によれば、この方法は、操作中の制御のために、車両の制御ユニットへの出力として、決定された許容可能な車両の状態空間を提供することを含んでいる。従って、有利なことには、開示された方法からの新しい入力に基づいて、車両の制御を改善することができる。
【0019】
いくつかの態様によれば、この方法は、操作中の制御のために、車両の制御ユニットへの出力として、操作中の掃引される可能性がある領域、及び/又は横転の可能性の推定値を提供することを含んでいる。さらに、有利なことには、開示された方法からの新しい入力に基づいて、制御ユニットによる車両の制御を改善することができる。
【0020】
いくつかの態様によれば、この方法は、異なるセットのセンサ入力信号の組み合わせに応じて、複数の掃引される可能性がある領域を決定することを含んでいる。シナリオ及び状態が異なれば、異なる掃引される可能性がある領域をもたらす。例えば、利用可能なセンサ信号の特定の組み合わせは、他の精度の低いセンサ信号と比較して、より小さな掃引される可能性がある領域をもたらすことができる。この方法を使用して、関連付けられた確率でいくつかの異なる故障仮説(failure hypotheses)を維持するすることができ、これによって、連結車両のより先進的な安全システムへの入力を生成することができる。
【0021】
いくつかの態様によれば、この方法は、連結車両の推定された状態に関連付けられた推定された不確実性に基づいて、警告信号のきっかけとなることを含んでいる。いくつかのシナリオ及び掃引される可能性がある領域は、例えば、操作を安全に完了させることができないという重要なリスクに関連付けられていてもよい。そのような場合、車両は、衝突や他の重大な出来事に備えることができる。警告信号は、例えば、連結車両の制御ユニットに出力される警告信号、及び/又は近くの車両及びインフラストラクチャ物体にV2X通信を介して出力される警告信号であってもよい。
【0022】
本明細書には、上述した利点に関連付けられた、制御ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、及び車両も開示されている。
【0023】
一般的に、特許請求の範囲で使用されるすべての用語は、本明細書で別段の定めがない限り、本技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなど」へのすべての言及は、特に明記しない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなどの少なくとも1つ例(instance)に言及するものと広く解釈されるべきである。本明細書に開示される任意の方法のステップは、明記しない限り、開示される正確な順序で実行される必要はない。本発明のさらなる特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を検討すれば明確になるであろう。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下で説明するもの以外の実施形態を生み出せることを理解する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
添付の図面を参照して、以下、一例として挙げられる本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0025】
【
図1】貨物輸送のための車両を概略的に示している。
【
図3】操作中に掃引される可能性がある領域を概略的に示している。
【
図4】操作中に掃引される可能性がある領域を概略的に示している。
【
図5】掃引される可能性がある領域を決定する一例を示している。
【
図6】掃引される可能性がある領域を決定する一例を示している。
【
図7】掃引される可能性がある領域を決定する一例を示している。
【
図9】センサユニット及び/又は制御ユニットを概略的に示している。
【
図10】コンピュータプログラム製品の一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ここで、本発明の特定の態様が示されている添付の図面を参照して、以下、本発明をより十分に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施形態及び態様に限定されないことを理解されたい。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であって、本発明の範囲を本技術分野の当業者に十分に伝えるように、一例として提供されたものである。同様な符号は、説明の全体を通して同様な要素を指している。
【0027】
本発明は、本明細書に記載され、かつ図面に図示された実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で、多くの変更及び修正がなされ得ることを認識するであろう。
【0028】
図1は、1台の牽引車両2、及び2台の被牽引車両3,4を含む、概略的な連結車両1を示している。牽引車両は、商用高速道路での使用に適合した通常のトラック、又は第5輪を有するトラクタであってもよいが、オフロードトラック、バス、又はレクリエーション車両であってもよい。第1の被牽引車両又はトレーラ3は、図示の例では、トラックのトレーラ連結器に連結されるドローバーを有するドーリ(dolly)である。ドーリには、2つの車軸7が設けられている。第2の被牽引車両又はトレーラ4は、ドーリの第5輪に連結されるキングピン8が設けられたセミトレーラである。この一例は、より長い連結車両の一般的なタイプを示しているが、他のタイプの牽引車両、並びに他のタイプ及び台数の被牽引車両を有する、他のタイプの連結車両を使用することも可能である。異なる連結車両は、通常のトレーラを備えたトラック、センターアクスルトレーラを備えたトラック、ドーリ及びセミトレーラを備えたトラック、セミトレーラを備えたトラクタ、Bリンク及びセミトレーラを備えたトラクタ、セミトレーラ及び通常のトレーラを備えたトラクタ、又はセミトレーラドーリ及びセミトレーラを備えたトラクタを含むことができる。
【0029】
牽引車両には、連結車両の操舵が後進中に自動化されて、連結車両の速度を運転者が制御することができる、自動後進支援機能(automatic reverse assistance function)など、様々な自律走行機能又は半自律走行機能が設けられていてもよい。
【0030】
図示の連結車両において、牽引車両、即ち、トラックの有効ホイールベース(effective wheel base)Leq1は、トラックの前車軸12から仮想車軸13までの長さである。第1の被牽引車両、即ち、ドーリの有効ホイールベースLeq2は、ドーリのドローバー連結器から仮想車軸6までの長さである。第2の被牽引車両の有効ホイールベースLeq3は、トレーラ4のキングピン8から仮想後車軸9まで延びている。
【0031】
車両の幾何学的形状及び走行経路に基づいて、掃引領域を決定することができる。掃引領域は、連結車両が走行可能領域上を移動するときに通過する領域を表している。例えば、牽引車両が経路に沿って曲がるとき、トレーラはわずかに異なる経路に沿って移動する。異なるタイプの車両構成の掃引領域の決定に関する詳細及びいくつかの例は、米国特許第9,862,413号明細書に開示されているので、本明細書ではこれ以上詳細に説明しない。
【0032】
図2は、走行経路23の最後の部分に関して、修正された掃引領域20を伴う連結車両1を示している。
図2では、修正された掃引領域20は、掃引領域21、及び掃引領域21の両側にある許容帯(tolerance band)22を含んでいる。許容帯の目的は、ステアリングアクチュエータの誤差、並びに異なるセンサからの測定値の許容誤差及びノイズを補償するためである。
【0033】
自律走行型及び半自律走行型の連結車両は、運転者の有無にかかわらず、車両を制御するためのセンサ入力信号に依存している。自律走行機能をサポートするために車両に配置されたセンサシステムは、電波検知及び測距(レーダ)センサ、光検知及び測距(ライダ)センサ、カメラなどの視覚ベースのセンサ、並びに全地球測位システム(GPS)受信機のいずれかを含むことができる。これらのセンサは、車両の周囲を監視して、障害物を検知したり、例えば、車両の前方の走行可能領域の幾何学的形状を確認したりする。車両はまた、操舵角センサ、連結角度センサ、即ち、牽引トラックとトレーラとの間の角度を測定するセンサ、車輪速度センサ、及び慣性測定ユニット(IMU)など、いくつかの車載センサを含んでいてもよい。
【0034】
車両が1つ以上のセンサシステムからのセンサ入力を失った場合、重大な状況が発生するおそれがある。例えば、レーダデータセンサ及びライダデータセンサが故障したり、センサ信号データを処理する処理ユニットが不調になったりする場合である。重要なセンサ信号が失われるか、又は一部の重要な動作が妨げられると、安全な停止操作などの自動操作が必要になる場合がある。この操作は、車載センサシステムを使用した制御、即ち、車輪速度センサ及びことによるとステアリングホイール角度センサを使用した推測航法に基づいて実行することができる。
【0035】
しかしながら、例えば、車両速度が高すぎると、そのような操作を安全な方法で実行することができない場合がある。また、操作中には、車両状態を制限して、車両の横転や横滑りが起こらないようにする必要がある場合がある。
【0036】
これらの問題の解決策を提供するために、本明細書では、連結車両の前方の走行可能領域を連続的に監視、即ち、連結車両が向かっている道路がどのように見えるかを常に把握することを提案する。そして、連結車両の前方の掃引される可能性がある領域を予測することを提案する。この掃引される可能性がある領域は、センサの誤差などに応じて、将来の操作中に連結車両が通過する可能性がある領域を表している。以下で説明するように、掃引される可能性がある領域は、初期の車両状態、連結車両の幾何学的形状、及び車両を位置決めするために使用される1つ以上のセンサ入力信号に関連付けられた誤差特性に基づいて決定することができる。走行可能領域及び掃引される可能性がある領域が与えられると、許容可能な車両の状態空間を決定して、予測された掃引される可能性がある領域が車両の前方の走行可能領域を超えて広がらないようにしたり、十分な高確率で操作を完了したりすることができる。
【0037】
本明細書では、走行可能領域は、車両の損傷や運転者の負傷のリスクなしに、車両が位置することができる領域である。もちろん、道路自体は走行可能領域である。しかしながら、状況によっては路肩が走行可能領域に含まれてもよく、状況や車両のタイプによっては道路の側部の領域が走行可能領域に含まれていてもよい。例えば、比較的平坦な地面が中間に排水溝なしで、道路の側部に延びていれば、平坦な地面は走行可能領域であると見做すことができる。なぜならば、車両やその乗員に損傷を与える重大なリスクなしに、連結車両が地面の上を一時的に走行できるからである。ダンプトラックなどのオフロード車両は、通常の貨物輸送車両よりも広い走行可能領域に関連付けられる可能性がある。
【0038】
車両状態は、車両が現在どのような状態にあるかを全体として記述する変数の集合(collection)である。本明細書では、車両状態は、車両の位置(座標)及び方位(例えば、進行方向、操舵角度、連結角度など)に関連付けられた変数を含んでいる。車両状態はまた、車両の動的状態、即ち、車両速度、加速度、旋回速度などに関連付けられた情報を含んでいる。車両状態は、多くの場合、状態変数のベクトルとして表されている。以下でより詳細に説明するように、許容可能な車両の状態空間は、一般的に、操作期間中の速度など、状態変数の上限値及び下限値の両方を含んでいてもよい。また、いくつかの状態変数には、他の変数に応じた異なる制限値がある。例えば、いくつかの方向の速度には、他の方向の速度と比較して、異なる制限値があってもよい。
【0039】
状態空間は、車両状態の範囲を表すN次元の空間である。物理的現象は、例えば、達成可能な最大速度によって、車両のタイプに応じて状態空間を制限する。制御ユニットは、状態空間にさらなる制限を課すことができ、これによって、車両の状態空間をある範囲の値に制限する。
【0040】
車両状態は、車両状態の推定値によって推定することができる。この車両状態の推定値は、車両状態の推定値の精度を表す車両状態の不確実性に関連付けられる。完全な状態の推定値は、「真の」車両状態と完全に一致するが、より現実的な車両状態の推定値は、いくつかの誤差分布(error distribution)に応じて、真の車両状態とは異なっている。車両状態の不確実性を表す一般的な方法は、予想される誤差変動(error variation)を表す共分散行列によるものである。
【0041】
掃引される可能性がある領域は、ある程度の信頼性(confidence)に関連付けられた、統計的に決定された領域である。この信頼性の程度は、状況や操作のタイプに応じて決定することができる。掃引される可能性がある領域、及び掃引される可能性がある領域を決定する方法のいくつかの例を以下に示す。しかしながら、例えば、その掃引領域は、操作中の連結車両による掃引領域をある程度の確率、例えば、99.999%の確率で境界付ける、推定された領域に対応することができる。
【0042】
掃引される可能性がある領域のサイズは、いくつかの重要な要因に依存している。そのような重要な要因の1つは、操作開始時の連結車両の初速度である。例えば、安全な停止操作が開始されたときである。なぜならば、少なくとも部分的には、車両の初速度は操作中に従うべき目標速度プロファイルが与えられたときに車両を停止させるまでの時間を決定するためのものであり、少なくとも部分的には、ステアリングホイール角度誤差などのいくつかの誤差は速度によって増大されるからである。
【0043】
他の重要な要因は、操作中の実際の目標速度プロファイル、即ち、操作トラックの異なる部分の計画された速度である。なぜならば、トレーラは、異なる速度で掃引領域に関して異なる動作をするからである。結果として、計画された進路が同じままであっても、異なる速度プロファイルは、異なる掃引領域をもたらすことができるからである。
【0044】
車両速度は、操作中に追従する進行経路及び目標速度プロファイルの両方に応じて、異なる方法で掃引領域に影響を与える。低速走行している連結車両1の場合、トレーラ3,4は、米国特許第9,862,413号明細書に記載されるように、一定半径の旋回のために内側を通り、これによって、掃引領域を内側に、即ち、旋回を表す円の部分の中心に向けて拡大させる。より高速で走行している連結車両の場合、縦方向速度v
x及び一定の旋回半径Rに対してa
y=v
x
2/Rで与えられる横方向加速度又は向心加速度は、トレーラの横滑りを引き起こすのに十分な強さである可能性がある。その結果、掃引領域を外側に、即ち、旋回を表す円の部分の中心から離れるように拡大させる。横方向加速度a
y及び縦方向速度v
xは、
図3に概略的に示されている。
【0045】
旋回していない、又はRが非常に大きい(車両がジャックナイフ現象を起こさない)連結車両1の場合、掃引領域は、牽引車両が及ぶ領域を超えて拡大することはない。なぜならば、トレーラが、牽引車両と同じ進路をたどるからである。
【0046】
従って、連結車両1によって掃引される領域は、通常、低速で広がる。即ち、低速走行している連結車両は、より高速で走行している同じ車両と比較して、より広い領域を実際に掃引する可能性がある。掃引領域は、いくつかの「理想的な」又は「最適な」速度で最小になり、求心加速度の増加によって横滑りが発生する十分に高い速度で再び増加する。従って、いくつかの態様によれば、許容可能な車両の状態空間は、少なくともこれらの理由のために、車両速度の上限値及び下限値の両方を含んでいてもよい。さらに、車両速度の上限値及び下限値は、車両の向き、及び道路の摩擦状態などに依存することができる。
【0047】
要約すると、ゆっくり走行している連結車両の場合、トレーラは、一定半径の旋回中に内方を通る。いくつかの「損益分岐点(break-even)」の速度で、例えば、所定の旋回半径Rで横方向加速度が約ay=0.25Gm/s2に達したときに、トレーラは、牽引車両と同じ経路で追跡を開始する。縦方向速度が増加して損益分岐点を超えると、トレーラの掃引経路は、横方向加速度によって、進行経路の外側になる。
【0048】
これらの異なる状態(内方への掃引領域、外方への掃引領域、トレーラが牽引車両を追従する)はすべて、安全な停止操作などの操作の異なる部分で発生する可能性がある。従って、例えば、内側へのトレーラ追従を伴う操作の終わりに向かって、低速での掃引経路が走行可能領域内に収まることができるかを検証することは重要である。
【0049】
また、操作によっては、操作開始時の初期の車両状態では、計画された進路をたどることができない可能性があり、この場合には、掃引される可能性がある領域は、計画された進路の外側に広がる。連結車両の幾何学的形状はまた、米国特許第9,862,413号明細書に記載されるように、少なくとも、車両の幾何学的形状が牽引車両及びトレーラの組み合わせの掃引特性に影響を与えることによって、掃引される可能性がある領域を決定する。最後に、センサの誤差特性は、掃引される可能性がある領域の空間的な広がりに影響を与える。なぜならば、センサ誤差は、操作中の車両状態推定の不確実性を決定するからである。誤差なしに真の車両状態を直接与える、完全なセンサ情報が利用可能である場合、掃引される可能性がある領域は、少なくとも経路をたどるように車両を物理的に制御可能な場合、計画された進路を正確にたどる。センサ入力信号がいくつかの測定値又は検出誤差に関連付けられていれば、センサ誤差の誤差特性又は統計的分布は、掃引される可能性がある領域に影響を与える。大きなセンサ信号の誤差は、より正確なセンサ信号と比較して、大きな掃引される可能性がある領域をもたらす可能性がある。
【0050】
図3は、連結車両1が(A)から(B)を通過して(C)への操作を実行する、シナリオ30の一例を概略的に示している。連結車両1は、走行可能領域31に関連付けられた道路34の上を走行している。この走行可能領域は、例えば、操作のタイプ、車両、及び他の状況に応じた路肩を含んでいてもよい。走行可能領域の決定において不正確性(inaccuracy)を考慮した余裕32、例えば、地図データにおける誤差などを考慮した余裕32があってもよい。車両1は、車両の前方の走行可能領域31を監視するとともに、所定の操作、例えば、安全な停止操作のために掃引される可能性がある領域を推定する。位置(B)で推定された掃引される可能性がある領域33は、
図3に示されている。この推定された掃引される可能性がある領域は、走行可能領域内に含まれているため、位置(B)での車両状態は、安全な方法で操作を実行できるようになっている。例えば、車両速度vは、最大許容速度v
maxを下回る許容レベルにある。
【0051】
特に、掃引される可能性がある領域は、被牽引車両が牽引車両によって牽引されるときに、被牽引車両による上述した掃引を原因とした影響を含んでいる。
【0052】
図4は、同じ連結車両1が同じ道路34の上を走行しているが、現在ではより高い速度vで走行している、他のシナリオ40の一例を概略的に示している。同じ位置(B)において、掃引される可能性がある領域33が推定されて、走行可能領域31を超えて広がっていることが分かる。これは、例えば、位置(B)でセンサ不調が発生した場合、安全な停止操作を安全な方法で完了できないことを意味している。なぜならば、連結車両が道路から外れるリスクがあるからである。
【0053】
従って、掃引される可能性がある領域を推定して、これを対応する監視された走行可能領域と比較することによって、車両状態が、所定の操作を可能にする許容可能な車両の状態空間内にあるように制限される。例えば、車両速度が最高許容速度未満の速度に制限されて、例えば、センサ不調などの場合に、安全な停止操作の即時実行を可能にすることができる。
【0054】
また、オプションとして、操作中の車両の状態空間は、許容可能な状態空間内にあるように制限することができる。これは、例えば、操作中のステアリングホイール角度を制限して、車両の横転又は横滑りのリスクを低減することを含んでいてもよい。
【0055】
要約すると、
図3及び
図4は、操作を安全に完了させるために、連結車両1の許容可能な車両の状態空間を決定する方法の一例を示している。上述したように、操作は、安全な停止操作、緊急制動操作、又は障害物回避操作などであってもよい。この方法は、正常な動作モードと比較して、利用可能なセンサ入力信号のセットが少ない状況、即ち、センサ信号の不調やセンサ信号処理の不調に関連付けられた状況を処理するように車両を制御するのに特に有利である。
【0056】
車両の状態空間は、車両速度の制限値を含んでいる。この車両速度は、方向によらない速度の絶対値に関する車両速度、又は二次元若しくは三次元の速度ベクトルであってもよい。いくつかのシナリオは、車両の向きに応じて異なるように速度を制限してもよいことを理解されたい。いくつかの向きは、他の向きよりも強く制限されてもよい。
【0057】
図3及び
図4に示されるように、この方法は、連結車両1の前方の走行可能領域33を監視することを含んでいる。
【0058】
いくつかの態様によれば、この監視することは、車両1の前方の交通インフラストラクチャに関連する情報を取得することを含んでいる。この情報は、地図データ又は車両のデータ記憶装置から取得することができる。情報はまた、オプションとして、1つ以上のレーダセンサ、1つ以上のライダセンサ、1つ以上の視覚センサ、及び1つ以上のV2X通信トランシーバのいずれかから取得することができる。
【0059】
上述したように、この方法はまた、連結車両1の前方の掃引される可能性がある領域33を予測することを含んでいる。掃引される可能性がある領域33は、操作中に連結車両1によって掃引される可能性がある領域を表している。掃引される可能性がある領域は、例えば、領域の定義に利用可能な、ポリゴン又は他の幾何学的構造によって表すことができる。掃引される可能性がある領域は、ある程度の信頼区間(confidence interval)の確率で、連結車両を配置することができる領域であることを理解されたい。従って、いくつかの態様によれば、この方法はまた、掃引される可能性がある領域に関連付けられた、信頼区間又は確率を構成することを含んでいる。
【0060】
掃引される可能性がある領域の予測は、初期の車両状態、連結車両1の幾何学的形状、及び車両1を位置決めするために使用される1つ以上のセンサ入力信号に関連付けられた誤差特性に基づいている。初期の車両状態は、車両速度、及び車両状態を記述する他の状態変数を含んでいる。一般的に、車両速度が高いほど、掃引される可能性がある領域が広くなる。例えば、速度が高いほど、通常、車両を停止させる時間が長くなる。これは、車両の操作を完了するまでにより長い時間がかかることを意味している。車両の幾何学的形状は、
図1及び
図2に関連して上述したように、掃引領域に影響を与える。1つ以上のセンサ入力信号に関連付けられた誤差特性はまた、掃引される可能性がある領域に影響を与える。一般的に、不確実なセンサ入力信号データ、即ち、大きな誤差に関連付けられたセンサ入力信号データは、より多くの不確実性を与え、従って、より広い掃引される可能性がある領域を与えることになる。一方、より正確なセンサ入力信号は、多くの場合、より狭い掃引される可能性がある領域をもたらすことになる。
【0061】
いくつかの態様によれば、予測することは、操作のための車両1の計画された進路23に基づいて、連結車両1の前方の掃引される可能性がある領域33を予測することを含んでいる。例えば、偏りがない制御アルゴリズムは、多くの場合、いくつかの共分散行列を備えたガウス分布や正規誤差分布など、計画された進路23の周りに均等に分布されたいくつかの誤差を伴う、問題となる操作のための計画された進路をたどると推測することができる。そして、掃引される可能性がある領域は、ガウス誤差共分散行列によって決定される拡張の大きさで計画された進路23のいずれかの側部に延びるとともに、及び連結車両が掃引される可能性がある領域内に配置される確率を決定する信頼区間のパラメータに延びている。
【0062】
この方法はまた、予測された掃引される可能性がある領域33が車両1の前方の走行可能領域31を超えて延びないように、許容可能な車両の状態空間を決定することを含んでいる。従って、車両状態が許容可能な車両の状態空間の限度内に保持される限り、車両が走行可能領域から離れる重大なリスクなしで、操作を実行することができる。
【0063】
図5aを参照すると、一般的に、進路23など、開始位置(A)から目標位置(C)までの計画された進路は、時間tによって索引された、以下の状態ベクトルTの行列によって表すことができる。ここで、x
T(t)は位置ベクトルを示し、v
T(t)は速度ベクトルを示し、a
T(t)は時間tの関数としての加速度ベクトルを示している。
【数1】
【0064】
計画された進路はまた、ステアリングホイール角度、旋回速度、向きなどの他の量を含んでいてもよい。時間tでの誤差ベクトルは、以下に示すような、時間tでの車両状態ベクトルS(t)と時間tでの対応する計画進路行列e(t)との間の差分として定義することができる。
【数2】
【0065】
連結車両が計画された進路T(t)をたどる操作を実行する制御アルゴリズムは、例えば、二乗誤差e(t)Te(t)の最小化に基づくことができる。そのような制御アルゴリズムは、カルマンフィルタ、拡張カルマンフィルタ、ウィーナフィルタ、粒子フィルタの変形など、複数の既知の追跡フィルタ方法に基づくことができる。ある解釈によれば、掃引される可能性がある領域は、計画された操作を実行するために、即ち、計画された進路23をたどるために使用される場合、これらのアルゴリズムの1つが示す誤差をモデル化する。
【0066】
状態ベクトルTの行列における異なるコンポーネントは、アクションを決定して制御するときに、異なる優先順位又は重み付けを与えることができる。例えば、操作を計画するとき、横方向の位置は、例えば、縦方向の停止距離よりも重要であってもよい。
【0067】
計画された進路Tは、オプションとして、単純な位置より多くの変数を含んでいるので、操作はまた、計画された進路の速度プロファイル及び加速度プロファイルに従わなければならないことに留意されたい。従って、時間t1で進路座標に正確に位置する連結車両は、連結車両び速度の加速度が計画された進路Tと一致しなければ、依然として大きな誤差に関連付けられる可能性がある。
【0068】
計画された進路Tは、もちろん、空間的な進路T(t)=x
T(t)、又は以下のような空間的な進路及び速度プロファイルのみを含むこともできる。
【数3】
【0069】
時間t=0における初期の車両状態S(0)、及び誤差に関連付けられたその推定値Sハット(0)はまた、掃引される可能性がある領域33のサイズ及び形状に影響を与える可能性がある。例えば、不確実な開始点は、連結車両1のより正確な開始点と比較して、広い掃引される可能性がある領域を生成する可能性が高くなる。初期の車両状態は、二次元又は三次元の位置、速度ベクトル、加速度ベクトル、車両の向き、車両の旋回速度など、任意数の状態変数を含んでいてもよい。状態変数のそれぞれは、いくつかの統計的分布によって記述される誤差特性を有する誤差又は不確実性に関連付けられていてもよい。
【0070】
ガウス誤差とも呼ばれることがある正規分布誤差の一例を
図5bに示す。
図5bは、少なくとも位置に関して車両状態誤差が、計画された進路23に対して偏ってなく、かつ進路を中心としたガウス分布に従うと考えられる、シナリオ50の一例を示している。連結車両1は、真の位置p
S1、真の速度ベクトルV
S1、及び真の方位ベクトルh
S1に関連付けられた位置(A)にある。推定された状態ベクトルS=[p
A,V
A,h
A]は、関連付けられたガウス誤差又は正規分布誤差[n
p,n
V,n
h]を有している。推定された状態ベクトルの不確実性は、誤差変数に関連付けられた共分散行列によって記述されている。位置推定に関し、この共分散行列は、真値がある程度の確率でどこにあるかを示す楕円51aによって示すことができる。例えば、平均値uを持つガウス分布の場合、平均値uの1標準偏差内に現れる確率は約68.27%、平均値uの2標準偏差内に現れる確率は約95.45%、平均値uの3標準偏差内に現れる確率は約99.73%である。
【0071】
センサ信号が不調となった場合、正確なセンサ信号は利用可能ではなく、これは、不確実性が時間とともに大きくなることが予想されることを意味している。従って、位置(B)の誤差npを記述する誤差分布52bは、誤差分布52aよりも大きくなる可能性があり、不確実性の楕円51bは、不確実性の楕円51aと比較して、より広い領域を覆っている。
【0072】
掃引される可能性がある領域の決定は、
図7a及び
図7bに関連して、以下で詳細に説明する。
【0073】
図7aは、カルマンフィルタなどのフィルタの共分散行列の推定に基づいて、掃引される可能性がある領域を決定する一例70aを示している。
図7aは、連続した不確実性の楕円体72,74を示し、これはまた、文献では信頼領域(confidence region)とも呼ばれている。統計学では、信頼領域は、信頼区間(confidence interval)の多次元の一般化である。これは、n次元空間における点群であって、多くの場合、他の形状も可能であるが、問題の推定解である点の周りの楕円体として表されている。信頼領域は、測定のセットが何度も繰り返されて、信頼領域が各測定のセットで同じ方法で計算された場合、一定の割合の時間(例えば、95%)の信頼領域が計算されるように計算される。信頼領域は、推定される変数のセットの「真」値を表す点を含んでいる。不確実性の楕円体、又は信頼領域を決定することは既知であり、本明細書では詳細に説明しない。
【0074】
共分散行列は、時間kまでのデータ入力が与えられた場合、サンプルk(又は、これと同等な離散時間インデックスk)におけるカルマンフィルタアルゴリズムの推定値P
k|kを以下のようにして決定する。
【数4】
【0075】
ここで、Pk|k-1=FkPk-1|k-1Fk
T+Qk、Pk|k-1は時間k-1までのデータが与えられた場合の時間kにおける共分散行列の推定値、Iは単位行列、Kkは時間ステップkにおけるカルマンゲイン、Hkは時間ステップkにおける観測行列、Rkは推測された測定ノイズの共分散行列、即ち、入力センサ信号の不確実性を記述した共分散行列、Fkは時間ステップkにおける状態遷移行列、Qkは時間ステップkにおけるプロセスノイズである。
【0076】
共分散行列Pk|kの推定は、センサデータの実際の表現に依存せず、誤差分布及びプロセスの推測された統計にのみ依存している。従って、不確実性の楕円体72,74は、上記の方程式を単に繰り返すことによって決定することができる。
【0077】
図7aにおける一連の不確実性の楕円体は、位置(A)におけるP
0|0から決定された関連付けられた不確実性の楕円体72を持つ初期の車両状態71で開始され、車両状態73及び関連付けられた不確実性の楕円体74に関連付けられた計画された進路23の位置(C)まで決定される。ここで、掃引される可能性がある領域は、誤差の楕円体を境界付ける境界領域33aとして、又は単に不確実性の楕円体領域の結合として決定することができる。
【0078】
連結車両の掃引の計算は、様々な方法、例えば、不確実性の楕円体によって与えられる領域を一定量拡大することによって、又は不確実性の楕円体から決定される領域の境界に沿って走行するトラクタ車両を考慮することによって行うことができる。そして、連結車両の幾何学的形状を使用して、米国特許第9,862、413号明細書に記載されるように、牽引車両の進路に基づいて掃引領域を決定することができる。
【0079】
図6は、掃引される可能性がある領域を決定するための他のアプローチ60を示している。
図6において、多数の粒子61a,61b,61cが計画された進路23をたどろうとする牽引車両の可能な表現を表す場合、粒子フィルタが使用される。センサ入力データの表現は、想定された誤差分布に基づいて生成され、粒子に対応する連結車両の進化した状態の推定値を出力するシミュレートされた制御アルゴリズムに送られる。このタイプのアプローチは、多くの場合、モンテカルロシミュレーションアプローチと呼ばれる。
【0080】
図7bは、粒子の群れに基づいて、どのように掃引される可能性がある領域33bを決定することができるかを示している。各粒子の進路を使用して、米国特許第9,862,413号明細書に記載されたように、連結車両の幾何学的形状に関する情報を使用して、粒子に対応する掃引領域を決定する。そして、掃引される可能性がある領域は、すべての粒子のすべての掃引領域を含む境界領域33bによって与えられる。オプションとして、異常値を捨てて、掃引される可能性がある領域をより適切なサイズの領域に制限することができる。
【0081】
簡単にするために、掃引される可能性がある領域はまた、少なくとも粒子の所定割合、例えば、95%を含む最小領域として決定することができる。
【0082】
上述したように、本明細書に開示される技術を使用して、操舵角の変数なども含むいくつかの許容可能な状態空間内に車両状態があるように制限することによって、操作中の連結車両を安全に制御することもできる。いくつかのそのような態様によれば、車両の状態空間は、ステアリングホイール角度を含み、この方法は、操作のために車両の計画された進路に関連付けられた横転のリスクにも基づいて、許容可能な車両の状態空間を決定することを含んでいる。
【0083】
他のそのような態様によれば、この方法はまた、車両1に関連付けられた1つ以上の動的特性を取得することを含んでいる。そして、横転のリスクに基づく許容可能な車両の状態空間の決定は、車両の動的特性にも基づいている。車両の動的特性は、例えば、連結車両1に関連付けられた、慣性モーメント、質量重心値(mass center of gravity value)などを含んでいてもよい。
【0084】
本明細書に開示される方法の結果を車両の制御中に使用して、例えば、車両速度が許容可能な車両の状態空間の制限値よりも大きくなると、車両速度を自動的に制限することができる。従って、いくつかの態様によれば、本明細書に開示された方法は、操作中の制御のために、車両1の制御ユニット900への出力として、決定された許容可能な車両の状態空間を提供することを含んでいる。制御ユニットについては、
図9に関連して以下で詳細に説明する。
【0085】
掃引される可能性がある領域は、
図9に関連して以下で説明するような、車両コントローラにも使用することができる。従って、本明細書に開示の方法は、オプションとして、操作中の制御のために、車両1の制御ユニット900への出力として、掃引される可能性がある領域、及び/又は操作中の横転の可能性の推定値を提供することを含んでいる。
【0086】
オプションとして、この方法は、異なるセットのセンサ入力信号の組み合わせ、及び/又は異なる操作に対応した複数の掃引される可能性がある領域を決定することを含んでいる。従って、掃引される可能性がある領域及びその結果としての許容可能な車両の状態空間はまた、複数の異なる操作、即ち、安全な停止、障害物回避などについて決定することができる。また、掃引される可能性がある領域及び許容可能な車両の状態空間は、複数の異なるセンサ不調シナリオ、即ち、レーダ不調のみ、ライダ及びレーダ不調、外部センサ全体の不調などについて決定することができる。
【0087】
車両の状態空間に関連付けられた不確実性が高い場合、即ち、掃引される可能性がある領域が大きくなる場合、車両は衝突に対して備えることができ、及び/又は警告信号のきっかけとすることができる。
【0088】
図8は、本明細書に開示された方法を示すフローチャートであって、上記の説明を要約したものである。操作を安全に完了させるために、連結車両1の許容可能な車両の状態空間を決定する方法が示されている。車両の状態空間は、車両速度を含んでいる。この方法は、連結車両1の前方の走行可能領域33を監視すること(S1)、及び連結車両1の前方の掃引される可能性がある領域33を予測すること(S2)を含んでいる。掃引される可能性がある領域33は、操作中に、連結車両1が通過する可能性がある領域を表している。掃引される可能性がある領域は、初期の車両状態、連結車両1の幾何学的形状、及び車両1を位置決めするために使用される1つ以上のセンサ入力信号に関連付けられた誤差特性に基づいて決定される。この方法はまた、予測された掃引される可能性がある領域33が車両1の前方の走行可能領域31を超えて広がらないように、許容可能な車両の状態空間を決定すること(S3)を含んでいる。
【0089】
いくつかの態様によれば、操作は安全な停止操作であり、1つ以上のセンサ信号は、正常な動作モードと比較して、少なくなったセンサ入力信号のセットに対応している。
【0090】
いくつかの態様によれば、監視することは、車両1の前方の交通インフラストラクチャに関連する情報を取得すること(S11)を含んでいる。
【0091】
いくつかの態様によれば、監視することは、1つ以上のレーダセンサ、1つ以上のライダセンサ、1つ以上の視覚センサ、及び1つ以上のV2X通信トランシーバのいずれかから、車両1の前方の環境に関連するデータを取得すること(S12)を含んでいる。
【0092】
いくつかの態様によれば、予測することは、操作のために車両の計画された進路に基づいて、連結車両1の前方の掃引される可能性がある領域33を予測すること(S21)を含んでいる。
【0093】
いくつかの態様によれば、予測することは、車両1に関連付けられた初期の車両状態の誤差の推定値を取得すること(S22)を含んでいる。
【0094】
いくつかの態様によれば、予測することは、操作中の車両1の位置決め誤差に関連付けられた共分散行列を推定すること(S23)を含んでいる。
【0095】
いくつかの態様によれば、車両の状態空間はステアリングホイール角度を含み、この方法は、操作のために車両の計画された進路に関連付けられた横転のリスクにも基づいて、許容可能な車両の状態空間を決定すること(S31)を含んでいる。
【0096】
いくつかのそのような態様によれば、この方法は、車両1に関連付けられた1つ以上の動的特性を取得して、車両の動的特性に基づく横転のリスクに基づいて、許容可能な車両の状態空間を決定すること(S32)を含んでいる。
【0097】
いくつかの態様によれば、この方法は、操作中の制御のための車両1の制御ユニット900への出力として、決定された許容可能な車両の状態空間を提供すること(S4)を含んでいる。
【0098】
いくつかの態様によれば、この方法は、操作中の制御のための車両1の制御ユニット900への出力として、掃引される可能性がある領域、及び/又は操作中の横転の可能性の推定値を提供すること(S5)を含んでいる。
【0099】
いくつかのそのような態様によれば、この方法は、異なるセットのセンサ入力信号の組み合わせ、及び/又は異なる操作に対応する複数の掃引される可能性がある領域を決定すること(S51)を含んでいる。
【0100】
いくつかの態様によれば、この方法は、連結車両1の推定された状態に関連付けられた推定された不確実性に基づいて、警告信号のきっかけとすること(S6)を含んでいる。
【0101】
図9は、いくつかの機能ユニットに関して、本明細書に記載の実施形態による制御ユニット900の構成要素を概略的に示している。制御ユニット900は、連結車両1に含ませることができる。処理回路910は、例えば、記憶媒体930の形態をとる、コンピュータプログラム製品に格納されたソフトウェア命令を実行可能な、適切な中央処理装置CPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタルシグナルプロセッサDSPなどの1つ以上の任意の組み合わせを使用して提供される。処理回路910はさらに、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC、又はフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとして提供することができる。
【0102】
特に、処理回路910は、
図8に関連して説明した方法など、動作又はステップのセットを制御ユニット900に実行させるように構成されている。例えば、記憶媒体930は、動作のセットを記憶することができ、処理回路910は、記憶媒体930から動作のセットを検索して、動作のセットを制御ユニット900に実行させるように構成されていてもよい。動作のセットは、実行可能な命令のセットとして提供することができる。従って、処理回路910は、これによって、本明細書に開示されるような方法を実行するように配置されている。
【0103】
記憶媒体930はまた、永続的な記憶装置を含んでいてもよく、これは、例えば、磁気メモリ、光学メモリ、固体メモリ、又は遠隔的に取り付けられたメモリの中の任意の1つ又は組み合わせとすることができる。
【0104】
制御ユニット900はさらに、位相コントローラ及び機械的に回転可能なベースプレートを含むアンテナアレイなど、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインターフェース920を含んでいてもよい。そのようなものとして、インターフェース920は、アナログ及びデジタルの構成要素、並びに有線通信又は無線通信のための適切な数のポートを含む、1つ以上の送信機及び受信機を含んでいてもよい。
【0105】
処理回路910は、例えば、インターフェース920及び記憶媒体930にデータ及び制御信号を送信することによって、インターフェース920からデータ及び報告を受信することによって、記憶媒体930からデータ及び命令を検索することによって、制御ユニット900の一般的な動作を制御する。本明細書に提示された概念を不明瞭にしないために、制御ノードの他の構成要素及びこれに関連する機能は省略されている。
【0106】
制御ユニット340は、オプションとして、コンパス又はGPSモジュールなどの方位検出ユニット940を含んでいる。制御ユニットはまた、IMU950、車輪速度センサ960、及び連結角度センサ970のいずれかを含んでいてもよい。オプションとして、ホイールステアリング角度センサ980、及び/又は車両傾斜角度センサ990がまた設けられていてもよい。
【0107】
図10は、プログラム製品がコンピュータ上で実行されるとき、
図8に示す方法を実行するプログラムコード手段1020を含むコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体1010を示している。コンピュータ可読媒体及びコード手段は一緒になって、コンピュータプログラム製品100を形成することができる。