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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】生分解性球状粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20240117BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 8/85 20060101ALI20240117BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240117BHJP
   A61Q 1/06 20060101ALI20240117BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CEP
C08J3/12 Z CFD
A61K8/02
A61K8/73
A61K8/85
A61Q1/00
A61Q17/04
A61Q1/06
A61Q1/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022097945
(22)【出願日】2022-06-17
(65)【公開番号】P2023184047
(43)【公開日】2023-12-28
【審査請求日】2023-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 雅也
(72)【発明者】
【氏名】上野 瑞貴
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-162841(JP,A)
【文献】国際公開第2021/235352(WO,A1)
【文献】特開2022-022947(JP,A)
【文献】特開2022-007648(JP,A)
【文献】特開2018-172578(JP,A)
【文献】特開2015-187255(JP,A)
【文献】特開2020-152851(JP,A)
【文献】国際公開第2019/156116(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08J 99/00
A61K 8/02
A61K 8/73
A61K 8/85
A61Q 1/00
A61Q 17/04
A61Q 1/06
A61Q 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性高分子を主成分として含み、
前記生分解性高分子が、多糖類、多糖エステル及び脂肪族ポリエステルからなる群から選択され、
前記多糖エステルの総置換度が0.7未満であり、
粒子径変動係数CVが40%以下であり、
平均粒子径が0.08μm以上100μm以下であり、
OECD TG301Fに準拠した生分解性試験において、下記式により算出される5日目の生分解度が40%以下である、生分解性球状粒子。
生分解度(%)=(BOD-B)/TOD×100
(式中、BODは試験物質による生物化学的酸素消費量(mg)であり、Bはブランクの生物化学的酸素消費量(mg)であり、TODは試験物質による理論的酸素消費量(mg)である。)
【請求項2】
OECD TG301Fに準拠した生分解性試験により測定される5日目の生分解度BD5の、28日目の生分解度BD28に対する比BD5/BD28が、0.60以下である、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
【請求項3】
OECD TG301Fに準拠した生分解性試験により測定される5日目の生分解度BD5と、28日目の生分解度BD28と、が下記式を満たす、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
(BD28-BD5)/BD5 ≧ 0.50
【請求項4】
走査型電子顕微鏡を用いて、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、その表面にミクロンサイズの凹部が認められる粒子が実質的に存在しない、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
【請求項5】
走査型電子顕微鏡を用いて、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、その球状粒子の円弧に沿って描いた仮想円から突出するミクロンサイズの凸部が認められる粒子が実質的に存在しない、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
【請求項6】
前記多糖類が、セルロース及びデンプンから選択される1種又は2種である、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
【請求項7】
前記多糖エステルの総置換度が0を超えて0.7未満である、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
【請求項8】
前記多糖エステルが、炭素数2以上10以下のアシル基を有するセルロースアシレートであり、このセルロースアシレートの総置換度が0を超えて0.7未満である、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
【請求項9】
前記脂肪族ポリエステルが、ポリヒドロキシアルカン酸、又は、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重合体である、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
【請求項10】
前記脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸及びポリ乳酸からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の生分解性球状粒子。
【請求項11】
請求項1に記載の生分解性球状粒子を含む、化粧品組成物。
【請求項12】
生分解性高分子と、可塑剤と、水溶性高分子と、を混合して混合物を得ること、
前記混合物を200℃以上280℃以下で溶融混練して混練物を得ること、
及び
前記混練物から、前記水溶性高分子を除去すること、を含み、
前記生分解性高分子が、多糖類、多糖エステル及び脂肪族ポリエステルからなる群から選択され、
前記多糖エステルの総置換度が0.7未満である、請求項1に記載の生分解性球状粒子の製造方法。
【請求項13】
前記生分解性高分子が多糖エステルの場合、前記混練物から前記水溶性高分子を除去する工程において、この混練物を、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から選択される1種又は2種以上の金属化合物を含む溶媒と混合して、前記多糖エステルを加水分解することをさらに含む、請求項12に記載の生分解性球状粒子の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒が前記金属化合物の水溶液である、請求項13に記載の生分解性球状粒子の製造方法。
【請求項15】
前記金属化合物が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物である、請求項13に記載の生分解性球状粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生分解性球状粒子及びその製造方法に関する。詳細には、本開示は、化粧品組成物に用いる生分解性球状粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧品には、のびを向上する、触感に変化を与える、シワぼかし効果を付与する、またファンデーション等の滑り性を向上するとの目的で、種々の高分子の微粒子が配合されている。特に真球度が高い微粒子は、触感に優れ、また、その物性や形状によって光散乱(ソフトフォーカス)効果が得られる。そして、このような微粒子をファンデーション等に用いた場合には、肌の凹凸を埋めて滑らかにし、光を様々な方向に散乱させることでしわなどを目立ちにくくする(ソフトフォーカス)効果が期待できる。
【0003】
このような化粧品に配合する微粒子として、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成ポリマーからなる微粒子が用いられてきた。しかしながら、近年、環境への配慮から、これら合成ポリマーに代えて、必要な特性を有し、かつ、環境負荷の少ない生分解性の素材からなる微粒子が求められている。
【0004】
特許文献1(特許第6872068号公報)には、セルロースを主成分とする樹脂ビーズであって、体積基準の累積50%粒子径が50μm以下であり、真球度が0.7~1.0であり、表面平滑度が70~100%であり、中実度が50~100%であり、JIS K6950に準拠して測定された5日間の生分解率が20%以上であり、樹脂中のセルロース含有量が90~100質量%である樹脂ビーズが開示されている。
【0005】
特許文献2には、平均一次粒子径5μm以下で、全粒子の90体積%以上の粒子の一次粒子径が2~7μmの範囲にあり、球形の最長径と最短径の比率(最長径/最短径)が1.0~2.5の範囲にあり、20質量%のシリコンオイルペーストのヘイズ値が70%以上で、且つ全透過光率が95%以上である球状セルロース粉体が開示されている。
【0006】
特許文献3には、熱可塑性樹脂などの樹脂成分(A)と、水溶性助剤成分(B)とを混練して分散体を調製し、この分散体から助剤成分(B)を溶出し、樹脂成分(A)で構成された成形体(例えば、多孔体、球状粒子)を製造すること、また、樹脂成分(A)として、セルロース誘導体、ポリ乳酸等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6872068号公報
【文献】特開2013-221000号公報
【文献】特開2004-051942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に記載される製造方法により得られる粒子状の成形体は、真球度が低く、略球状という程度の粒子であり、その生分解性も十分ではない。
【0009】
特許文献1及び2に開示されたセルロースを主成分とする微粒子は、生分解性に優れている。しかし、特許文献2に記載された球状粒子は表面平滑性が低いため、良好な触感を得ることができない。また、生分解性に優れた微粒子を配合した化粧品では、使用後に微粒子が分解することによって、使用感が変化する場合がある。特に、使用者は、触感の変化に敏感である。化粧品組成物に配合した場合に、使用感の変化が少ない生分解性微粒子が求められている。特許文献1に開示された粒子では、使用感の変化を十分抑制することができない。
【0010】
本開示の目的は、良好な触感を有し、かつ、使用感が短期的には変動しない化粧品組成物を得ることができる生分解性球状粒子及びその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る生分解性球状粒子は、生分解性高分子を主成分として含む。この生分解性球状粒子は、粒子径変動係数CVが40%以下であり、OECD TG301Fに準拠した生分解性試験において、下記式により算出される5日目の生分解度が40%以下である。
生分解度(%)=(BOD-B)/TOD×100
(式中、BODは試験物質による生物化学的酸素消費量(mg)であり、Bはブランクの生物化学的酸素消費量(mg)であり、TODは試験物質による理論的酸素消費量(mg)である。)
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、生分解性球状粒子の粒度分布が狭く、略均一な粒子径を有していることにより、良好な触感が発揮される。この球状粒子は、所定の生分解性試験における初期分解速度が小さい。換言すれば、この球状粒子は、ゆっくりと緩やかに分解する。この球状粒子を配合した化粧品組成物では、球状粒子の急激な分解に起因する使用感の低下が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例A-1の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率:800倍)である。
図2図2は、実施例A-1の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率:5000倍以上)である。
図3図3は、比較例A-2の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率:800倍)である。
図4図4は、比較例A-2の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率:5000倍以上)である。
図5図5は、分解処理後の実施例A-1の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率:800倍)である。
図6図6は、分解処理後の実施例A-1の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率:15000倍)である。
図7図7は、分解処理後の比較例A-2の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率:800倍)である。
図8図8は、分解処理後の比較例A-2の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率:5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好ましい実施形態に基づいて本開示が詳細に説明される。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0015】
なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」の意味であり、「ppm」は「重量ppm」であり、特に注釈のない限り、試験温度は全て室温(20℃±5℃)である。
【0016】
[生分解性球状粒子]
本開示の生分解性球状粒子(以下、「球状粒子」と称する場合がある)は、生分解性高分子を主成分とする粒子である。ここで、「主成分」とは、粒子の構成成分中、最も多く含まれる成分が生分解性高分子であることを意味し、その含有量が少なくとも50重量%であることを意味する。また、「生分解性高分子」とは、土壌又は海水中、若しくは生体内で分解される高分子を意味する。本開示において、「高分子」とは、1種又は2種以上の構成単位が繰り返し結合することにより構成された化合物として定義される。所定の生分解性を示す限り、合成ポリマーであってもよく、天然由来のポリマーであってもよい。
【0017】
また、この球状粒子は、粒子径変動係数CVが40%以下であり、OECD TG301Fに準拠した生分解性試験において、下記式により算出される5日目の生分解度が40%以下である。
生分解度(%)=(BOD-B)/TOD×100
(式中、BODは試験物質による生物化学的酸素消費量(mg)であり、Bはブランクの生物化学的酸素消費量(mg)であり、TODは試験物質による理論的酸素消費量(mg)である。)
【0018】
本開示の球状粒子は生分解性の素材からなり、その形状及び狭い粒度分布によって極めて良好な触感を有している。この球状粒子を配合することにより、環境負荷が少なく、かつ、高品質の化粧品組成物をえることができる。しかも、本開示の球状粒子は、従来の生分解性素材からなる粒子と比較して、緩やかな分解性を示す。この球状粒子を配合した化粧品組成物では、使用感、特に触感が短期的には変動しない。なお、本明細書における「触感」とは、球状粒子に直接触れる場合の他、例えば、化粧品組成物に配合した場合の肌触りや触感も含む概念である。
【0019】
本開示の球状粒子は生分解性であって、その分解速度が制御されている。球状粒子の生分解性は、OECD TG301Fに準拠した生分解性試験により評価することができる。具体的には、試験物質(球状粒子)を培地(水)に分散させて、植種源(下水処理場の活性汚泥)を接種し、22℃±2℃で28日間培養し、微生物が試験物質の分解に消費した酸素量(生物化学的酸素消費量)を経時的に測定し、試験物質による理論的酸素消費量に対する比を、生分解度(%)として求める。本明細書における生分解度は、試験物質濃度:100mg/L、植種源濃度:30mg/L、試験液量:100mLとして求めたものである。この生分解度(%)は、下記式により算出される。
生分解度(%)=(BOD-B)/TOD×100
(式中、BODは試験物質による生物化学的酸素消費量(mg)であり、Bはブランクの生物化学的酸素消費量(mg)であり、TODは試験物質による理論的酸素消費量(mg)である。)
【0020】
OECD TG301Fによれば、通常、28日後の生分解度が60%を超える試験物質が、「易分解性」であると評価される。例えば、微結晶セルロースは、試験開始後の5日間で急激に分解反応が進行し、その後分解速度が低下して平衡に達する、所謂シグモイド型の分解挙動を示す。本開示者らは、この試験開始後5日間の急激な分解が、球状粒子を配合した化粧品組成物の短期的な触感の変動をもたらす原因であると考えた。そして、生分解性球状粒子の初期分解速度を低下して、前述のOECD TG301Fに準拠した生分解性試験において、5日目の生分解度を40%以下にすることで、短期的な使用感の変化が抑制されることを見出した。即ち、本開示の球状粒子は、初期の分解速度が小さく、マイルドな分解挙動を示すことにおいて、従来の生分解性樹脂粒子とは異なっている。使用感の安定性向上の観点から、球状粒子の5日目の生分解度は、35%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。環境への負荷が少ないとの観点から、5日目の生分解度は10%以上が好ましい。
【0021】
OECD TG301Fに準拠した生分解性試験により測定される5日目の生分解度をBD5(%)とし、28日目の生分解度をBD28(%)とするとき、使用感の変動を抑制しつつ、高い生分解性を備えるとの観点から、この球状粒子では、比BD5/BD28が0.60以下であってよく、0.55以下であってよく、0.50以下であってよく、0.45以下であってよい。生分解性向上の観点から、好ましい比BD5/BD28は0.10以上である。
【0022】
使用感の変動を抑制しつつ、高い生分解性を備えるとの観点から、OECD TG301Fに準拠した生分解性試験により測定される5日目の生分解度BD5と、28日目の生分解度BD28と、が下記式を満たすことが好ましい。
(BD28-BD5)/BD5 ≧ 0.50
【0023】
BD28とBD5との差(BD28-BD5)のBD5に対する比(BD28-BD5)/BD5が0.50以上の球状粒子では、生分解試験5日間の分解反応が抑制され、5~28日間に分解反応が進行する。生分解性向上の観点から、この比(BD28-BD5)/BD5は、0.60以上であってよく、0.70以上であってよく、0.80以上であってよい。使用初期の触感への影響が少ないとの観点から、好ましい比(BD28-BD5)/BD5は、2.0以下である。
【0024】
この球状粒子は、OECD TG301Fに準拠した生分解性試験により測定される5日目の生分解度BD5と、28日目の生分解度BD28と、が下記式を満たしてもよい。
(BD28-BD5)/BD28 ≧ 0.30
【0025】
BD28とBD5との差(BD28-BD5)のBD28に対する比(BD28-BD5)/BD28が0.30以上の球状粒子では、使用初期の触感の変動を抑制しつつ、高い生分解性が達成される。この観点から、この比(BD28-BD5)/BD28は、0.35以上であってよく、0.40以上であってよく、0.45以上であってよく、また、1.0以下であってよく、0.90以下であってよい。
【0026】
球状粒子の粒子径変動係数CVは、40%以下である。粒子径変動係数CVが40%以下である球状粒子では、粒子径のばらつきが少ない。この球状粒子は、良好な触感を有している。さらに、この球状粒子では、粒子径のばらつきが少ないことにより、各粒子において分解反応が略均一に進行する。そのため、分解反応が進行して小径化しても、狭い粒度分布が維持される。本開示の球状粒子の触感は、短期的には低下しない。物性安定化の観点から、球状粒子の粒子径変更係数CVは、38%以下が好ましく、35%以下が好ましい。製造容易との観点から、球状粒子の粒子径変動係数CVは0%以上であってよく、2%以上であってよい。なお、粒子径変動係数CVは、後述する球状粒子の平均粒子径と粒子径の標準偏差を用いて、下記式により算出される。
粒子径変動係数CV(%)=粒子径の標準偏差/平均粒子径×100
【0027】
球状粒子の平均粒子径は、0.08μm以上であってよく、0.1μm以上であってよく、1.0μm以上であってよく、2.0μm以上であってよく、4.0μm以上であってよい。また、100μm以下であってよく、80μm以下であってよく、40μm以下であってよく、20μm以下であってよく、10μm以下であってよい。平均粒子径が大きすぎると、その触感に劣る他、光散乱(ソフトフォーカス)効果が低減する。また、平均粒子径が小さすぎると、製造が困難となる。
【0028】
平均粒子径及び粒子径変動係数は、動的光散乱法を用いて測定することができる。具体的には、以下の通りである。まず、100ppm濃度となるように球状粒子を純水に添加し、超音波振動装置を用いて純水懸濁液とすることにより、試料を調製する。その後、レーザー回折法(株式会社堀場製作所「レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960」、超音波処理15分、屈折率(1.500、媒体(水;1.333))により、体積頻度粒度分布を測定する。この体積頻度粒度分布において、散乱強度の積算50%に対応する粒子径を、平均粒子径として求める。即ち、本願明細書における平均粒子径(μm)は、体積基準のメジアン径である。このメジアン径と粒子径の標準偏差とから、粒子径変動係数が算出される。
【0029】
本開示の球状粒子の真球度は、0.7以上1.0以下が好ましく、0.8以上1.0以下がより好ましく、0.9以上1.0以下がさらに好ましい。真球度が0.7未満であると、その触感に劣り、例えば、化粧品組成物に配合した場合にも、肌触り及びソフトフォーカス効果が低下する。
【0030】
真球度は、次の方法により測定できる。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子の画像を用いて、ランダムに選択した30個の粒子の長径及び短径を測定し、各粒子の短径/長径比を求め、その短径/長径比の平均値を真球度とする。なお、真球度が1に近いほど真球であると判断できる。測定方法の詳細については、実施例にて後述する。
【0031】
本開示の球状粒子の表面平滑度は、80%以上であるところ、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、98%以上が特に好ましく、上限値は100%である。表面平滑度80%未満では、所望の触感が得られないことに加えて、使用感が短期的に変動する場合がある。触感向上及び物性安定化の観点から、球状粒子の表面平滑度は、80~100%であってよく、85~100%であってよく、90~100%であってよく、95~100%であってよく、98%~100%であってよい。
【0032】
球状粒子の表面平滑度は、粒子の走査型電子顕微鏡写真を撮り、粒子表面の凹凸を観察し、凹部の面積に基づいて求めることができる。表面平滑度の測定方法の詳細は、実施例にて後述する。
【0033】
本開示の球状粒子の形状は特に限定されず、前述した真球度及び表面平滑度を有することが好ましいが、特に初期の分解速度を抑制して、触感に影響しないマイルドな分解挙動を付与する観点から、微細な凹凸が少ない表面形状であることがより好ましい。本開示者らは、表面平滑度が同じ粒子であっても、その表面形状の相違によって異なる分解挙動を示すことに着目し、前述した表面平滑度では評価することができない、粒子表面の微細な凹凸が、この粒子の分解性、特に初期の分解性に影響することを見出した。例えば、走査型電子顕微鏡を用いて、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、その表面にミクロンサイズの凹部が認められる粒子が実質的に存在しない場合、また、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、その球状粒子の円弧に沿って描いた仮想円から突出するミクロンサイズの凸部が認められる粒子が実質的に存在しない場合、初期の分解速度が抑制され、マイルドな分解挙動が達成される。ここで、ミクロンサイズとは0.5μm以上10μm未満の範囲を示し、略円形の凹部であれば、直径0.5~10μm程度であることを意味する。
【0034】
ここで、「実質的に存在しない」とは、詳細には、倍率5000倍以上の走査型電子顕微鏡画像において、無作為にサンプリングした30個の粒子を観察したときに、球状粒子の表面に認められるミクロンサイズの凹部の数の平均が3個以下、好ましくは1個以下であると定義される。また、倍率5000倍以上の走査型電子顕微鏡画像において、無作為にサンプリングした30個の粒子を観察したときに、球状粒子の円弧に沿って描いた仮想円から突出するミクロンサイズの凸部の数の平均が3個以下、好ましくは1個以下であると定義される。
【0035】
本開示における球状粒子の主成分は、多糖類、多糖エステル及び脂肪族ポリエステルからなる群から選択される生分解性高分子であってよい。本開示の効果が得られる範囲内で、球状粒子が、脂肪族ポリオール、脂肪族ポリカーボネート、ポリ酸無水物等の生分解性高分子をさらに含んでもよい。
【0036】
多糖類とは、単糖類がグリコシド結合により結合してなる高分子化合物を意味する。本開示の効果が得られる限り、多糖類は、α-グルコースの重合体であってもよく、β-グルコースの重合体であってもよい。セルロース、ヘミセルロース、プルラン、アミロース、アガロース、キチン、キトサン、カラギーナン、ペクチン、デキストリン、デンプン、コラーゲン、マンナン、アラビノガラクタン、グリコーゲン、イヌリン、ヒアルロン酸及びこれらの変性体が例示される。2種以上の多糖類を併用してもよい。セルロース及びデンプンから選択される1種又は2種の多糖類が好ましく、セルロースがより好ましい。本開示の効果が得られる限り、市販されている多糖類であってよく、後述する多糖エステルを加水分解して得られる多糖類であってよい。例えば、セルロースであれば、既知のセルロースジアセテートの完全けん化物であってよい。
【0037】
本開示の効果が得られる限り、セルロースの重量平均分子量は特に限定されない。セルロースの重量平均分子量は10,000以上であってよく、20,000以上であってよく、30,000以上であってよく、また、500,000以下であってよく、400,000以下であってよく、300,000以下であってよい。セルロースの重量平均分子量は、後述する脂肪族ポリエステルと同様に、サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)測定(GPC-光散乱法)により測定することができる。
【0038】
多糖エステルとは、前述した多糖類のカルボン酸エステルであり、分子鎖中の水酸基の一部がアシル基により置換された化合物として定義される。セルロース及びデンプンから選択される1種又は2種の多糖類のエステルが好ましく、セルロースエステルがより好ましい。2種以上の多糖エステルを併用してもよい。本開示の効果が得られる範囲で、本明細書に明記されない他の多糖類のカルボン酸エステルが用いられてもよい。
【0039】
本開示の球状粒子に用いられる多糖エステルの総置換度は、多糖類の種類及び置換基の種類に応じて、0を超えて3.0以下の範囲内で適宜選択される。多糖エステルの総置換度は0.05以上であってよく、0.1以上であってよく、0.2以上であってよく、0.3以上であってよく、0.5以上であってよく、また、2.95以下であってよく、2.80以下であってよく、2.65以下であってよく、2.00以下であってよく、1.50以下であってよく、1.0以下であってよく、0.7未満であってよい。多糖エステルの総置換度は、13C-NMR又はH-NMRを用いて、既知の方法で測定することができる。
【0040】
入手しやすく、かつ、生分解性に優れるとの観点から、好ましい多糖エステルはセルロースエステルであり、炭素数2以上のアシル基を有するセルロースアシレートがより好ましい。セルロースアシレートが有するアシル基の炭素数は、3以上であってよく、4以上であってよく、10以下であってよく、8以下であってよい。セルロースアシレートは、2種以上のアシル基を置換基として有してもよい。本開示において、炭素数が異なるアシル基を有する2種以上のセルロースアシレートを生分解性高分子として併用してもよい。
【0041】
本開示におけるセルロースアシレートの具体例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。生分解性及び入手容易との観点から、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートが好ましく、セルロースアセテートがより好ましい。
【0042】
セルロースアシレートの総置換度は、前述の多糖エステルと同様に、0を超えて3.0以下の範囲内で適宜選択されるが、良好な生分解性が得られるとの観点から、例えば炭素数2以上10以下のアシル基を有するセルロースアシレートの総置換度は、0を超えて1.0以下であることが好ましい。このセルロースアシレートの総置換度は、0.05以上であってよく、0.1以上であってよく、0.2以上であってよく、0.3以上であってよく、0.4以上であってよく、また、0.9以下であってよく、0.8以下であってよく、0.7未満であってよい。本開示の効果が得られる範囲内で、総置換度の異なるセルロースアシレートを併用してもよく、総置換度が1.0を超えて3.0以下であるセルロースアシレートを混合して用いてもよい。
【0043】
セルロースアシレートの置換度は、以下の方法により測定することができる。例えば、手塚(Tezuka, Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。即ち、セルロースアシレートの遊離水酸基をピリジン中でカルボン酸無水物によりアシル化する。ここで使用するカルボン酸無水物の種類は分析目的に応じて選択すべきであり、例えば、セルロースプロピオネートのプロピオニル置換度を分析する場合は無水酢酸がよい。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C-NMRスペクトルを測定する。プロピオニル基を有するセルロースアシレート、又は、プロピオニル基を有しないセルロースアシレートを無水プロピオン酸で処理してプロピオニル置換度を分析する場合、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で同じ順序で現れる。手塚の方法やそれに準じる方法により無水カルボン酸で処理したセルロースアシレートの総置換度は3.0なので、セルロースアシレートがもともと有するアシル基のカルボニル炭素シグナルと、無水カルボン酸処理で導入したアシル基のカルボニルシグナルの面積の総和を3.0と規格化し、それぞれ対応する位置での各アシル基の存在比(言い換えれば、各シグナルの面積比)を求めれば、これをセルロースエステルにおけるグルコース環の2位、3位、6位の各アシル置換度とできる。なお、言うまでもなく、この方法で分析できるアシル基を含む置換基は、分析目的の処理に用いる無水カルボン酸に対応しない置換基のみである。また、13C-NMRの他に、H-NMRで分析することもできる。
【0044】
本開示の効果が得られる限り、セルロースアシレートの重量平均分子量は特に限定されない。所望の形状が得られやすいとの観点から、セルロースアシレートの重量平均分子量は10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。生分解性が高く、また、所望の球状形状が得られやすいとの観点から、セルロースアシレートの重量平均分子量は500,000以下が好ましく、400,000以下がより好ましく、300,000以下がさらに好ましい。セルロースアシレートのの重量平均分子量は、後述する脂肪族ポリエステルと同様に、サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)測定(GPC-光散乱法)により測定することができる。
【0045】
脂肪族ポリエステルの種類は特に限定されないが、例えば、高分子構造の観点から、ヒドロキシアルカン酸が重縮合された構成単位を繰り返し単位として有するポリヒドロキシアルカン酸、及び、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとが脱水縮合された構成単位を繰り返し単位として有する重合体が挙げられる。
【0046】
ポリヒドロキシアルカン酸としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸-co-β-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(β-プロピオラクトン)、ポリ(ε-カプロラクトン)等が例示される。脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの重合体としては、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート-co-ブチレンアジペート)等が例示される。2種以上を併用してもよい。
【0047】
入手しやすく、かつ、生分解性に優れるとの観点から、好ましい脂肪族ポリエステルは、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸及びポリ乳酸からなる群から選択される1種又は2種以上である。本開示の効果が得られる範囲で、本明細書に明記されない他の脂肪族ポリエステルが用いられてもよい。
【0048】
所望の粒子形状が得られやすいとの観点から、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、50,000以上がさらに好ましい。生分解性に優れるとの観点から、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、5,000,000以下が好ましく、1,000,000以下がより好ましく、500,000以下がさらに好ましく、250,000以下が特に好ましい。
【0049】
脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、以下の装置及び条件でサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)測定を行うことにより決定される(GPC-光散乱法)。
装置:Shodex製 GPC 「SYSTEM-21H」
溶媒:アセトン
カラム:GMHxl(東ソー)2本、ガードカラム(東ソー製TSKgel guardcolumn HXL-H)
流速:0.8ml/min
温度:29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:MALLS(多角度光散乱検出器)(Wyatt製、「DAWN-EOS」)
MALLS補正用標準物質:PMMA(分子量27600)
【0050】
本開示の他の態様として、球状粒子が可塑剤を含有してもよい。本開示において可塑剤とは、前述した生分解性高分子の可塑性を増加させることができる化合物をいう。可塑剤の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソステアリル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジエチルヘキシルアジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジオクチルドデシル、アジピン酸ジカプリル、及びアジピン酸ジヘキシルデシル、アジピン酸ジ(エチレングリコールモノアルキルエーテル)、アジピン酸ジ(ジエチレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(テトラエチレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(ペンタエチレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(ヘキサエチレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(プロピレングリコールモノアルキルエーテル)、アジピン酸ジ(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(ペンタプロピレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(ヘキサプロピレングリコールモノメチルエーテル)、アジピン酸ジ(ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル)、アジピン酸ジ(ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル)、アジピン酸ジフェニル、アジピン酸ジナフチル、アジピン酸ジベンジル等のアジピン酸エステルを含むアジピン酸系可塑剤;クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸イソデシル、クエン酸イソプロピル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリエチルヘキシル、及びクエン酸トリブチル等のクエン酸エステルを含むクエン酸系可塑剤;グルタル酸ジイソブチル、グルタル酸ジオクチル、及びグルタル酸ジメチル等のグルタル酸エステルを含むグルタル酸系可塑剤;コハク酸ジイソブチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジエチルヘキシル、及びコハク酸ジオクチル等のコハク酸エステルを含むコハク酸系可塑剤;セバシン酸ジイソアミル、セバシン酸ジイソオクチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジエチルヘキシル、及びセバシン酸ジオクチル等のセバシン酸エステルを含むセバシン酸系可塑剤;フタル酸エチル、フタル酸メチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、及びフタル酸ジメチル等のフタル酸エステルを含むフタル酸系可塑剤、といった多価カルボン酸エステルが例示される。これらの多価カルボン酸エステルは、混基多塩基酸エステルであってもよい。
【0051】
また、本開示の球状粒子に含まれる可塑剤として、トリアセチン、ジアセチン、及びモノアセチン等のグリセリンアルキルエステルを含むグリセリン系可塑剤;ネオペンチルグリコール;リン酸トリオレイル、リン酸トリステアリル、及びリン酸トリセチル等のリン酸エステルを含むリン酸系可塑剤の他、フタル酸ジ-2-メトキシエチル酒石酸ジブチル0-ベンゾイル安息香酸エチル、エチルフタリル工チルグリコレート(EPEG)、メチルフタリルエチルグリコレート(MPEG)、N-エチルトルエンスルホンアミド、p-トルエンスルホン酸0-クレジルリン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリフェニル(TPP)、及びトリブ口ビオニン等も例示される。球状粒子が、1種又は2種以上の可塑剤を含有してもよい。
【0052】
生分解性高分子を可塑化する効果が高いとの観点から、多価カルボン酸系可塑剤又はグリセリン系可塑剤が好ましく、混基多塩基酸エステル又はグリセリンアルキルエステルから選択される1種又は2種以上がより好ましい。生分解性高分子用可塑剤として、大八化学工業株式会社製の商品名「DAIFATTY-10」等、理研ビタミン株式会社製の商品名「BIOCIZER」、「リケマールPL-004」、「ポエムG-002」等、DIC株式会社製の商品名「ポリサイザー」、「モノサイザー」等が挙げられる。
【0053】
本開示の球状粒子が可塑剤を含有する場合、球状粒子に含まれる可塑剤の含有量は特に限定されない。例えば、球状粒子中の可塑剤の含有量は、生分解性高分子100重量部に対し、0重量部を超え120重量部以下であってよく、2重量部以上100重量部以下であってよく、10重量部以上80重量部以下であってよく、15重量部以上50重量部以下であってよい。球状粒子中の可塑剤の含有量は、H-NMR測定によって求めることができる。
【0054】
本開示のさらに他の態様として、球状粒子の表面の一部又は全部が無機粉体及び/又は長鎖アルキル基を有する有機化合物に被覆されていてもよい。粒子表面に存在する無機粉体及び/又は長鎖アルキル基を有する有機化合物により、球状粒子は、化粧品組成物に用いられる溶剤及び製剤に適した表面物性を得ることができる。その表面に無機粉体及び/又は長鎖アルキル基を有する有機化合物を有する球状粒子によれば、種々の溶剤及び製剤中で高い粒子分散性が達成され、得られる化粧品組成物の触感が向上する。無機粉体及び/又は長鎖アルキル基を有する有機化合物と球状粒子とは、物理的に付着した状態であってよく、化学的に結合した状態であってよい。
【0055】
本開示の効果が得られる限り、無機粉体の粒子形状は特に限定されず、例えば、球状、板状、針状、粒状及び不定形状のいずれであってもよい。無機粉体の平均粒子径は、球状粒子の平均粒子径より小さいことが好ましく、例えば、球状粒子の平均粒子径に対して、1/3以下であってよく、1/10以下であってよい。ここで、無機粉体及び球状粒子の平均粒子径は、体積基準のメジアン径を意味する。
【0056】
無機粉体の種類は特に限定されないが、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、雲母、バーミキュライト、ハイジライト、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、カオリナイト、ゼオライト、セラミックスパウダー、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。2種以上を併用してもよい。球状粒子への付着性がよく、良好な触感が得られるとの観点から、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される1種又は2種以上が好ましい。
【0057】
長鎖アルキル基を有する有機化合物の種類は特に限定されないが、例えば、長鎖アルキル基の炭素数は5以上であってよく、7以上であってよく、8以上であってよく、また、22以下であってよい。長鎖アルキル基の炭素数は、5以上22以下であってよく、7以上22以下であってよく、8以上22以下であってよい。異なるアルキル基を有する2種以上の有機化合物を併用してもよい。
【0058】
本開示において、長鎖アルキル基を有する有機化合物は、アミノ酸誘導体であってよい。アミノ酸誘導体としては、Nε-ラウロイル-L-リジンが好ましい。
【0059】
また、本開示において、長鎖アルキル基を有する有機化合物は、カチオン性界面活性剤であってよい。カチオン性界面活性剤として、例えば第4級アンモニウム塩及び/又はアミン塩が挙げられる。触感及び分散性向上の観点から、下記一般式(1)で示される第4級アンモニウム塩が好ましい。
(1)
(式中、Xはハロゲンイオンであり、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~25のアルキル基であり、R、R、R及びRの少なくとも一つが炭素数12以上のアルキル基である。)
式(1)で示されるカチオン界面活性剤の具体例として、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジエチルアンモニウム、塩化デシルトリエチルアンモニウム、塩化デシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化ヤシ油トリメチルアンモニウム、塩化ヤシ油メチルジヒドロキシエチルアンモニウム、塩化ミリスチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ジステアリルジメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0060】
また長鎖アルキル基を有する有機化合物は、金属石鹸であってよい。金属石鹸とは、高級脂肪酸の非アルカリ金属塩として定義される。高級脂肪酸としては、炭素数12~25の脂肪酸が好ましく、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。このような脂肪酸石鹸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、エルカ酸等の、亜鉛塩、カルシウム塩、マグネシウム塩又はアルミニウム塩が例示される。炭素数12~25の脂肪酸のアルカリ土類金属塩が好ましく、亜鉛塩がより好ましく、ステアリン酸亜鉛が特に好ましい。
【0061】
化粧品組成物への配合に適した表面物性が得られるとの観点から、無機粉体及び/又は長鎖アルキル基を有する有機化合物の添加量は、1.0重量%以上が好ましく、3.0重量%以上がより好ましく、5.0重量%以上が特に好ましい。球状粒子の物性が阻害されないとの観点から、無機粉体及び/又は長鎖アルキル基を有する有機化合物の添加量は、50.0重量%以下が好ましく、30.0質量%以下がより好ましく、10.0重量%以下が特に好ましい。無機粉体及び/又は長鎖アルキル基を有する有機化合物を2種以上併用する場合、その合計量が前述の範囲を満たすことが好ましい。
【0062】
[化粧品組成物]
本開示の生分解性球状粒子は、種々の化粧品組成物に好適に用いることができる。この球状粒子を配合した化粧品組成物では、球状粒子の形状に起因して、肌の凹凸を埋めて滑らかにし、光を様々な方向に散乱させることでしわなどを目立ちにくくする(ソフトフォーカス)効果が奏される。また、本開示の球状粒子は、粒度分布が狭く、略均一な粒子径を有していることから、化粧品組成物に従来にない良好な触感が付与される。さらに、本開示の球状粒子は、生分解性高分子からなる従来の球状粒子と比較して、初期の分解速度が緩やかである。そのため、球状粒子の分解に伴う使用感の変化が回避される。また、たとえ使用中に球状粒子の分解反応が徐々に進行した場合も、球状粒子の狭い粒度分布が維持されるので、使用者は触感の変化を感じにくい。この化粧品組成物では、短期間で使用感が変動することなく、良好な触感が安定して発揮される。
【0063】
化粧品組成物としては、リキッドファンデーション及びパウダーファンデーション等のファンデーション;コンシーラー;日焼け止め;化粧下地;口紅及び口紅用下地;ボディーパウダー、固形白粉、及びフェイスパウダー等のおしろい:固形粉末アイシャドー;皺隠しクリーム;並びにスキンケアローション等の主に化粧を目的とした皮膚及び毛外用剤が含まれ、その剤型は限定されない。剤型としては、水溶液、乳液、懸濁液等の液剤;ゲル及びクリーム等の半固形剤;粉末、顆粒等の粉末固形剤;油性固形剤のいずれあってもよい。また、クリームや乳液等のエマルション剤型;口紅等のオイルゲル剤型;ファンデーション等のパウダー剤型;及びヘアスタイリング剤等のエアゾール剤型等であってもよい。本開示の球状粒子を含有する化粧品組成物、特に、リキッドファンデーションは、肌への伸び、毛穴口のカバー力、及び滑り性にも優れる。
【0064】
[生分解性球状粒子の製造方法]
本開示の球状粒子は、以下の工程を順次おこなうことにより得ることができる。
(1)生分解性高分子と、可塑剤と、水溶性高分子と、を混合して混合物を得ること
(2)得られた混合物を200℃以上280℃以下で溶融混練して混練物を得ること
及び
(3)得られた混練物から、水溶性高分子を除去すること
【0065】
従来、高分子材料を用いて球状粒子を得る方法として、エマルジョン法が一般的であった。例えば、O/Wエマルジョン法では、高分子材料を有機溶媒に溶解して油相とし、この油相を水相に乳化・分散させることにより、液滴状の油相から有機溶媒を溶出させて高分子粒子を形成する。このO/Wエマルジョン法によれば、必然的に有機溶媒の溶出経路に起因する凹凸が粒子表面に形成される。これに対し、本開示の球状粒子は有機溶媒を使用しない溶融混練法で得られるため、粒子表面に溶媒溶出に起因する凹凸が形成されることなく、極めて表面平滑性の高い球状粒子が得られる。ここで、粒子表面に凹凸が形成されないとは、走査型電子顕微鏡を用いて、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、その表面にミクロンサイズの凹部が認められる粒子が実質的に存在しないこと、また、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、その球状粒子の円弧に沿って描いた仮想円から突出するミクロンサイズの凸部が認められる粒子が実質的に存在しないことを意味する。なお、本開示において「実質的に存在しない」ことの定義は、前述した通りである。
【0066】
本開示の製造方法における生分解性高分子は、多糖類、多糖エステル及び脂肪族ポリエステルから選択される1種又は2種以上である。球状粒子に関して前述した多糖類、多糖エステル及び脂肪族ポリエステルが、適宜選択されて用いられる。多糖類、多糖エステル及び脂肪族ポリエステルは、既知の方法により製造することができる。本開示の効果が得られる限り、市販されている生分解性高分子を用いてもよい。また、多糖エステルを既知の方法で加水分解することにより、多糖類を得てもよい。例えば、生分解性高分子が多糖エステルの場合、混練物から水溶性高分子を除去する工程において、混練物をアルカリ処理することにより、多糖類エステルを完全けん化して、多糖類を主成分とする球状粒子を得ることができる。アルカリ処理の詳細については、後述する。
【0067】
多糖エステルとして、総置換度が0を超えて3.0以下のセルロースアシレートを用いる場合、このセルロースアシレートは、原料パルプ(セルロース)を活性化する工程;活性化されたセルロースをエステル化剤(アシル化剤)でアシル化する工程;アシル化反応の終了後、アシル化剤を失活させる工程;生成したセルロースアシレートを熟成(ケン化、加水分解)して、所望の総置換度に調整する工程を経て得られる。また、活性化する工程の前に、原料パルプを、離解・解砕後、酢酸を散布混合する前処理工程を有してよい。熟成(ケン化、加水分解)する工程の後、沈澱分離、精製、安定化、乾燥する後処理工程を有してよい。
【0068】
セルロースアシレートの総置換度の調整は、熟成工程の条件(時間、温度等の条件)を調整することにより可能となる。また、総置換度を実質的に0にして、完全けん化セルロースを得ることもできる。置換基の種類は、エステル化剤の選択によりなされうる。置換基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。用途に応じて、2種以上の置換基を所望の置換度で導入することもできる。
【0069】
本開示の製造方法で用いる可塑剤は、生分解性高分子の溶融押出において可塑効果を有するものであればよく、その種類は特に限定されない。使用する生分解性高分子の種類、物性等に応じて適宜選択することができる。具体的には、球状粒子に含有される可塑剤として前述した可塑剤を、単独で、又は、2種以上組み合せて使用することができる。生分解性高分子の可塑化効果が高いとの観点から、多価カルボン酸系可塑剤又はグリセリン系可塑剤が好ましく、混基多塩基酸エステル又はグリセリンアルキルエステルから選択される1種又は2種以上がより好ましい。
【0070】
可塑剤の配合量は、生分解性高分子100重量部に対し、0重量部を超え120重量部以下であってよく、2重量部以上100重量部以下であってよく、10重量部以上80重量部以下であってよく、15重量部以上50重量部以下であってよい。少なすぎると、得られる球状粒子の球状度が低下する傾向となり、多すぎると粒子形状を保つことができず、所望の球状粒子が得られない場合がある。
【0071】
本開示の製造方法で使用する水溶性高分子の種類は特に限定されない。ここで、「水溶性」とは、25℃において、高分子1gを100gの水に溶解した際に、不溶分が50重量%未満であることをいう。本開示において、好ましくは、水溶性高分子は、熱可塑性を有する。「熱可塑性」とは、加熱状態で軟化して流動性を示し、冷却により固化する性質を意味する。
【0072】
水溶性高分子の例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレンオキシド、ポリグリセリン、ポロエチレンオキシド、ポリ酢酸ビニル、変性デンプン、熱可塑性デンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。なお、熱可塑性デンプンは、公知の方法で得ることができる。例えば、特公平6-6307号、WO92/04408号等を参照して、タピオカデンプンに可塑剤としてグリセリンを20%程度混合した後、二軸押出機で混錬することにより製造することができる。
【0073】
本開示の製造方法において、水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン及び熱可塑性デンプンからなる群より選択される1種又は2種以上が好ましく、ポリビニルアルコール及び熱可塑性デンプンからなる群より選択される1種又は2種以上がより好ましい。ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、500以上50,000以下が好ましい。
【0074】
水溶性高分子の配合量は、生分解性高分子100重量部に対し、110重量部以上15000重量部以下が好ましく、180重量部以上1200重量部以下がより好ましく、200重量部以上800重量部以下がさらに好ましい。110重量部未満であると、表面平滑度が低く、異形の粒子が生成する場合がある。15000重量部を超えると、得られる球状粒子の粒子径が小さくなりすぎる場合がある。
【0075】
本開示の効果が得られる限り、生分解性高分子、可塑剤及び水溶性高分子の混合は、一段階でおこなってもよく、多段階でおこなってもよい。また、生分解性高分子、可塑剤及び水溶性高分子の混合は、溶融混練によっておこなってもよい。例えば、生分解性高分子と可塑剤とを混合又は溶融混練して第一の混合物を得た後、この第一の混合物に、水溶性高分子を配合して、混合又は溶融混練してもよい。
【0076】
生分解性高分子及び可塑剤の混合、又は、生分解性高分子、可塑剤及び水溶性高分子の混合は、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて乾式又は湿式でおこなうことができる。ヘンシェルミキサー等の混合機を用いる場合、混合機内の温度は、生分解性高分子が溶融又は分解しない温度、例えば、20℃以上200℃未満の範囲が好ましい。
【0077】
また、生分解性高分子及び可塑剤の混合、又は、生分解性高分子、可塑剤及び水溶性高分子の混合を溶融混練によっておこなう場合、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて、温度条件20℃以上200℃未満の範囲で混合した後に、溶融混練をおこなってもよい。生分解性高分子及び可塑剤、又は、生分解性高分子、可塑剤及び水溶性高分子がより均一に、また短時間で馴染むことで、最終的に調製できる球状粒子の表面平滑度が高くなり、触感、触り心地が向上する。
【0078】
また、溶融混練は、押出機で加熱混合することによりおこなってもよい。押出機の混練温度(シリンダー温度)は、200℃から230℃の範囲であってよい。この範囲の温度でも可塑化して均一な混練物を得ることができる。混練温度が低すぎると、得られる粒子の球状度及び表面平滑度が低下して、触感、光学的特性等が低下する場合がある。また、混練温度が高すぎると、混練物の熱による変質、着色等が生じる場合がある。また、高い混練温度によって溶融物の粘度が低下するため、二軸押出機内での樹脂の混錬が不足する場合がある。
【0079】
例えば、生分解性高分子としてセルロースアシレートを用いる場合、二軸押出機の混練温度(シリンダー温度)は200℃であってもよい。混練物をストランド状に押出した後カットして、ペレット状の形状にしてもよい。この場合のダイス温度は、220℃程度であってよい。
【0080】
本開示の製造方法では、生分解性高分子、可塑剤及び水溶性高分子を含む混合物を、200℃以上280℃以下で溶融混練して、混練物を得る。前述した生分解性高分子、可塑剤及び水溶性高分子の混合を、200℃以上280℃以下の溶融混練によりおこなった場合、混合により得られた混練物を、そのまま次の工程に供してもよい。
【0081】
混合物の溶融混練には、二軸押出機等の押出機を用いることができる。押出機を使用する場合の混練温度は、シリンダー温度を意味する。押出機の先端に取り付けたダイスから生分解性高分子等を含む混練物をひも状に押出した後、カットしてペレットにしてもよい。このときダイス温度は、220℃以上300℃以下であってよい。
【0082】
生分解性高分子、可塑剤及び水溶性高分子を含む混合物を、200℃以上280℃以下で溶融混練することにより、水溶性高分子を分散媒とし、生分解性高分子及び可塑剤の混合物を分散質とする、分散体が得られる。換言すれば、本開示の混練物は、水溶性高分子からなるマトリックスに、生分解性高分子及び可塑剤を含む略球状の粒子が分散した分散体である。
【0083】
この混練物から、水溶性高分子を除去することにより、生分解性高分子を主成分として含み、粒子径変動係数CVが40%以下であり、OECD TG301Fに準拠した生分解性試験の5日目の生分解度が40%以下である球状粒子が得られる。
【0084】
水溶性高分子を除去する方法としては、加圧後の混練物を、水溶性高分子の良溶媒と接触させて、水溶性高分子をこの溶媒に溶出させることにより除去する方法が挙げられる。この溶媒として、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール;又はそれらの混合溶媒が挙げられる。具体的には、加圧後の混練物と溶媒とを混合して、水溶性高分子を溶媒に溶出させた後、ろ過してろ物を取り出すことにより、加圧後の混練物から水溶性高分子を除去することができる。
【0085】
加圧後の混練物から水溶性高分子を除去する過程で、水溶性高分子と共に、可塑剤を除去してもよく、除去しなくてもよい。従って、得られる球状粒子は、可塑剤を含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0086】
水溶性高分子の除去効率が高いとの観点から、混練物と溶媒との混合比率は、混練物及び溶媒の合計重量に対し、混練物が0.01重量%以上20重量%以下であることが好ましく、2重量%以上15重量%以下であることがより好ましく、4重量%以上13重量%以下であることがさらに好ましい。混練物が20重量%よりも多いと、水溶性高分子を十分に除去できない場合がある。また、球状粒子を含む固体成分と、水溶性高分子が溶解した液体成分とを、ろ過、遠心分離等の操作で分離することが困難となる場合がある。
【0087】
水溶性高分子の除去効率が高いとの観点から、混練物と溶媒との混合温度は、0℃以上200℃以下が好ましく、20℃以上110℃以下がより好ましく、40℃以上80℃以下がさらに好ましい。0℃未満では、水溶性高分子の溶解が不十分となり、除去が困難となる場合がある。また、200℃を超える温度では、粒子の変形や凝集等により、所望の粒子形状を得ることが困難となる場合がある。
【0088】
混練物と溶媒との混合時間は、特に限定されるものではなく適宜調整すればよいが、例えば0.5時間以上、1時間以上、3時間以上、5時間以上であってよく、6時間以下であってよい。
【0089】
混練物と溶媒とを混合して、水溶性高分子を溶出させる方法として、例えば、超音波ホモジナイザー、スリーワンモータ等の攪拌装置を用いることができる。例えば、撹拌装置としてスリーワンモータを用いる場合、混練物と溶媒との混合時の回転数は、5rpm以上3000rpm以下であってよい。これにより、効率よく、混練物から水溶性高分子を除去することができる。また、混練物から可塑剤を効率よく除去することもできる。
【0090】
生分解性高分子が多糖エステルの場合、前述した通り、混練物から水溶性高分子を除去する工程において、混練物をアルカリ処理してもよい。このアルカリ処理によって、混練物中の多糖エステルがけん化され、所望の置換度の多糖エステルが得られる。また、完全けん化する条件でアルカリ処理することにより、置換度0の多糖類が得られうる。
【0091】
アルカリ処理は、混練物から水溶性高分子を除去する工程において、混練物を、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から選択される1種又は2種以上の金属化合物を含む溶媒と混合することによりおこなわれる。換言すれば、この製造方法は、生分解性高分子が多糖エステルの場合に、混練物を、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から選択される1種又は2種以上の金属化合物を含む溶媒と混合して、多糖エステルを加水分解することをさらに含む。この溶媒は、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から選択される1種又は2種以上の金属化合物の水溶液であってよい。この金属化合物を含む溶液で混練物を洗浄することにより、水溶性高分子を除去するとともに、多糖エステルを所望の置換度に調整することができる。
【0092】
アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属又はカルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の化合物が挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、水酸化物、酸化物又は炭酸塩が好ましく、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物がより好ましい。このような金属化合物として、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0093】
金属化合物の添加量は、多糖エステルの種類及び置換度等に応じて適宜選択される。また、混練物及び溶媒の撹拌混合とろ過とを、複数回繰り返して水溶性高分子を除去する場合、少なくとも1回、金属化合物を含む溶液で洗浄することが好ましく、除去工程の最後に、金属化合物を含む溶液で洗浄することがより好ましい。
【0094】
他の実施態様として、本開示の製造方法が、混練物から水溶性高分子を除去して得られる球状粒子に、無機粉体を添加して混合することを含んでもよい。これにより、その表面の一部又は全部が無機粉体に被覆された球状粒子が得られる。この球状粒子によれば、触感がさらに向上する。
【0095】
良好な触感が得られるとの観点から、無機粉体としては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される1種又は2種以上が好ましい。無機粉体の添加量としては、100重量部の生分解性ポリマーに対して、0.01重量部以上1.0重量部以下が好ましい。
【0096】
水溶性高分子を除去して得た球状粒子に無機粉体を添加して混合する方法としては特に限定はなく、既知の混合手段が適宜選択されて用いられる。乾式混合であってもよく、湿式混合であってもよい。例えば、乾式混合であれば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックス等の混合装置を用いることができる。また、球状粒子と無機粉体とを混合する順序も特に限定されない。球状粒子と無機粉体とを同時に混合装置に投入してもよく、所定量の無機粉体を混合装置に投入して撹拌(又は、撹拌と同時に粉砕)した後、球状粒子を投入して混合してもよい。
【0097】
必要に応じて、本開示の製造方法が、水溶性高分子を除去した後、及び/又は、無機粉体を添加混合した後、得られた球状粒子を乾燥する工程を有してもよい。この乾燥方法は特に限定されず、加熱乾燥、減圧乾燥、真空乾燥等既知の方法が用いられうる。乾燥効率が高いとの観点から、乾燥温度は室温以上が好ましく、50℃以上であってよく、60℃以上であってよい。熱劣化抑制の観点から、好ましい乾燥温度は120℃以下である。
【実施例
【0098】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示は、これらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0099】
(実施例A-1)
生分解性高分子としてセルロースアセテート(株式会社ダイセル製、総置換度=2.4)100重量部、可塑剤としてトリアセチン(株式会社ダイセル製)25重量部とを乾燥状態でブレンドし、80℃で12時間以上乾燥させ、さらに、ヘンシェルミキサーを用いて攪拌混合し、生分解性高分子と可塑剤との混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機(株式会社池貝製PCM30、シリンダー温度:200℃、ダイス温度:220℃)に供給し、溶融混練して押し出すことによりペレットを得た。
【0100】
得られたペレット30重量部に、水溶性高分子としてポリビニルアルコール(日本合成化学製、融点190℃、けん化度99.1%)70重量部を乾燥状態でブレンドした後、二軸押出機(株式会社池貝製PCM30、シリンダー温度220℃、ダイス温度220℃)に供給し、溶融混練して押し出すことにより、生分解性高分子、可塑剤並びに水溶性高分子を含む混練物を得た。
【0101】
別途、溶媒として、純水に水酸化ナトリウム(ナカライテスク社製)を溶解して、濃度4.7重量%の水酸化ナトリウム水溶液を調整した。
【0102】
次に、得られた混練物が、5重量%(=混練物の重量/(混練物の重量+溶媒の重量)×100)以下となるように、前述の水酸化ナトリウム水溶液(溶媒)と混合し、スリーワンモータ(新東科学社製BL-3000)を用いて、温度80℃、回転数100rpmで3時間攪拌した。攪拌後の溶液をろ紙(ADVANTEC製No.5A)でろ別し、ろ物を取り出した。取り出したろ物を再び純水と混合し、混練物が5重量%以下となるように調製して、さらに温度80℃、回転数100rpmで3時間攪拌した。ろ別後、ろ物を水中で撹拌する作業を3回以上繰り返して、実施例A-1の球状粒子を得た。
【0103】
得られた球状粒子のH-NMR分析をおこなったところ、アセチル置換度が0.01であり、実施例A-1の主成分が実質的にセルロースであることを確認した。また、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製の商品名「TM3000」)を使用して、実施例A-1の試料を観察した。図1は、実施例A-1を撮影した倍率800倍のSEM画像の一例である。図1中のスケールバーの長さは50.0μmである。また、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察し、その表面にミクロンサイズの凹部が認められる粒子、及び、その球状粒子の円弧に沿って描いた仮想円から突出するミクロンサイズの凸部が認められる粒子が実質的に存在しないことを確認した。その結果が、下表1に「SEM観察(倍率5000倍)」として示されている。さらに、無作為にサンプリングした30個の粒子について、倍率5000倍以上のSEM画像でミクロンサイズの凹部の数及びミクロンサイズの凸部の数を計測して平均値を求めた結果、それぞれ、0.50個及び0.47個であった。サンプリングした球状粒子のSEM画像の一部が、図2に示されている。図2の各画像中、○で囲まれている部位がミクロンサイズの凹部であり、矢印で示されている部位が、略球状の粒子の円弧に沿って描いた仮想円から突出するミクロンサイズの凸部である。
【0104】
実施例A-1の球状粒子の平均粒子径(μm)、粒子径変動係数(%)、真球度(%)、表面平滑度(%)を測定し、生分解性及び触感を評価した。触感は、製造直後の触感1と、分解処理後の触感2とを評価した。評価結果が表1に示されている。なお、平均粒子径、粒子径変動係数、真球度、表面平滑度、生分解性、触感1及び触感2の測定又は評価は、以下の方法でおこなった。
【0105】
<平均粒子径及び粒子径変動係数CV>
粒子を純水に添加して100ppm程度の濃度に調整し、超音波振動装置を用いて懸濁液とした。その後、レーザー回折法(株式会社堀場製作所「レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960」超音波処理15分、屈折率(1.500、媒体(水;1.333))により、体積頻度粒度分布を求め、平均粒子径を測定した。平均粒子径(μm)は、体積頻度粒度分布における散乱強度の積算50%に対応する粒子径の値(体積基準のメジアン径)とした。また、粒子径変動係数CV(%)は、粒子径の標準偏差/平均粒子径×100により算出した。得られた結果が、下表1に示されている。
【0106】
<真球度>
走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子の画像を用いて、ランダムに選択した30個の粒子の長径と短径を測定し、各粒子の短径/長径比を求め、その短径/長径比の平均値を真球度とした。得られた結果が、下表1に示されている。
【0107】
<表面平滑度>
走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子の画像を、画像処理装置Winroof(三谷商事社製)を用いて二値化した。二値化した画像から、粒子1個の中心及び/又は中心付近を含む領域を無作為に選択して、当該領域における凹凸の凹に当たる部分(陰の部分)の面積率を算出し、以下の式によりその粒子1個の表面平滑度(%)を算出した。
粒子1個の表面平滑度(%)=(1-凹の面積率)×100
凹の面積率=前記任意の領域における凹部の面積/前記任意の領域
ランダムに選択した10個の粒子サンプル(n1~n10)の表面平滑度の平均値を、表面平滑度(%)とした。この数値が大きいほど、粒子の表面平滑度は高い。なお、面積率の算出に用いる領域は、粒子1個の中心及び/又は中心付近を含む、粒子よりも小さい任意の領域であってよい。その領域の大きさは、粒子径が15μmのとき5μm四方であってよい。
【0108】
<生分解性>
OECD TG301Fに準拠して、以下の条件で粒子の生分解性試験をおこなった。
植種源:都市下水処理場の返送汚泥
対象物質:微結晶セルロース
試験物質濃度:100mg/L
対象物質濃度:100mg/L
植種源濃度:30mg/L
試験液量:100mL
試験温度:22℃±2℃
培養期間:28日
【0109】
その後、下記式により5日後の生分解度BD5(%)及び28日後の生分解度BD28(%)を算出した。得られた結果が、下表1に示されている。
生分解度(%)=(BOD-B)/TOD×100
(式中、BODは試験物質(粒子)による生物化学的酸素消費量(mg)であり、Bはブランクの生物化学的酸素消費量(mg)であり、TODは試験物質による理論的酸素消費量(mg)である。)
【0110】
<触感1>
製造直後の粒子の触感について、20人のパネルテストにより官能評価をおこなった。粒子に触れさせ、なめらかさ及びしっとり感を総合的に、5点満点として、以下の基準により触感を評価した。20人の平均点を算出した結果が、「触感1」として下表1に示されている。
良い:5、やや良い:4、普通:3、やや悪い:2、悪い:1
【0111】
<触感2>
粒子を含む化粧品組成物に何らかの要因で菌が混入した場合を想定して、模擬的にセルラーゼを混入して分解処理をおこない、分解前後の粒子の触感の変化を評価した。
【0112】
始めに、粒子3.0gを容量100mLのスクリュー管に採取し、0.0030gのセルラーゼ(MP Biomedicals社製)と30mLの緩衝液(pH5.0)を添加した。40℃に設定した恒温槽に24時間浸漬した後、上澄み液を除去して、真空乾燥機を用いて80℃で乾燥させることにより、分解処理後の粒子を得た。図5及び図6は、それぞれ、分解処理後の実施例A-1を撮影した倍率800倍及び15000倍のSEM画像の一例である。図5中のスケールバーの長さは50.0μmであり、図6中のスケールバーの長さは3.00μmである。
【0113】
分解処理前の粒子及び24時間分解処理後の粒子を、それぞれ5.0g採取して、水100mLに添加して撹拌することにより、懸濁液を調製した。この懸濁液を用いて、20人のパネルテストにより、分解処理前後の官能評価をおこなった。各懸濁液を使用させて、なめらかさ及びしっとり感の両方を総合的に、5点満点として、以下の基準により評価した。20人の平均点を算出した結果が「触感2(分解前/分解後)」として、下表1に示されている。
良い:5、やや良い:4、普通:3、やや悪い:2、悪い:1
【0114】
(実施例A-2~A-4)
水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、それぞれ、4.1重量%、3.7重量%及び3.2重量%に変更した以外は実施例A-1と同様にして、実施例A-2~A-4の球状粒子を得た。H-NMR分析により測定した総置換度DSと、前述した方法により評価した各粒子の物性及びSEM観察の結果が、下表1に示されている。表1中、「SEM観察(5000倍)」の「無」は、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、表面にミクロンサイズの凹部又は凸部が認められる粒子が実質的に存在しなかったことを意味する。
【0115】
(実施例A-5及びA-7)
生分解性高分子を下表2に示されるものに変更し、水酸化ナトリウム溶液に替えて、蒸留水を使用した以外は実施例A-1と同様にして、実施例A-5~A-7の球状粒子を得た。前述した方法により評価した各粒子の平均粒子径(μm)、粒子径変動係数(%)、真球度(%)、表面平滑度(%)、生分解性及び触感1と、SEM観察の結果とが、下表2に示されている。表2中、「SEM観察(5000倍)」の「無」は、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、表面にミクロンサイズの凹部又は凸部が認められる粒子が実質的に存在しなかったことを意味する。
【0116】
(比較例A-1)
市販の微結晶セルロース(旭化成社性の商品名「セオラス-PH-101」)を、比較例A-1の粒子とした。この比較例A-1の粒子を対象物質として、前述の生分解性試験に供した。前述した方法により評価した平均粒子径(μm)、粒子径変動係数(%)、真球度(%)、表面平滑度(%)、生分解性及び触感1と、SEM観察の結果とが、下表2に示されている。表2中、「SEM観察(5000倍)」の「測定不可」は、粒子形状が不定形であるため、表面形状の評価ができなかったことを意味する。
【0117】
(比較例A-2)
セルロースアセテート(株式会社ダイセル製、アセチル総置換度2.4)250重量部を、2250重量部のアセトン(ナカライテスク社製)に溶解して、セルロースアセテート溶解液を調製した。また、ポリビニルアルコール(クラレ社製)200重量部を、2300重量部のイオン交換水に溶解して、媒体相を調製した。得られた媒体相に、セルロースアセテート溶解液を全量加えて混合し、ホモディスパーを用いて3000rpmで3分間撹拌した後、さらに2000rpmで10分間撹拌して、セルロースアセテート溶解液が液滴状に均一に分散した懸濁液を得た。ホモディスパーを用いてこの懸濁液を500rpmで撹拌しながら、112500重量部のイオン交換水を75分間かけて注入して、セルロースアセテート樹脂粒子の分散液を得た。この樹脂粒子をろ過及び洗浄した後、2500重量部のイオン交換水に分散させた。この分散液に、水酸化ナトリウムを添加してpH13.0以下に調整するとともに、60℃に加熱して加水分解反応をおこなった。加水分解反応終了後、塩酸で中和して、生成物をろ過及び洗浄した後、イオン交換水で解膠した。さらに、ろ過及び洗浄した後、乾燥及び解砕処理することにより、比較例A-2の粒子を得た。
【0118】
得られた粒子のH-NMR分析をおこなって、比較例A-2の主成分が実質的にセルロースであることを確認した。また、前述した方法により評価した平均粒子径(μm)、粒子径変動係数(%)、真球度(%)、表面平滑度(%)、生分解性、触感1及び触感2と、SEM観察の結果とが、表2に示されている。図3は、比較例A-2を撮影した倍率800倍のSEM画像の一例である。図3中のスケールバーの長さは50.0μmである。表2中、「SEM観察(5000倍)」の「有」は、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、表面にミクロンサイズの凹部又は凸部が認められる粒子が複数存在したことを意味する。具体的には、無作為にサンプリングした30個の粒子について、倍率5000倍以上のSEM画像でミクロンサイズの凹部の数及びミクロンサイズの凸部の数を計測して平均値を求めた結果、それぞれ、3.47個及び3.87個であった。サンプリングした球状粒子のSEM画像の一部が、図4に示されている。図4の各画像中、○で囲まれている部位がミクロンサイズの凹部であり、矢印で示されている部位が、略球状の粒子の円弧に沿って描いた仮想円から突出するミクロンサイズの凸部である。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
表1-2中に示された化合物の詳細は、以下の通りである。
CA:株式会社ダイセル製のセルロースアセテート(総置換度2.4、重量平均分子量47,000)のけん化物
CA0:株式会社ダイセル製のセルロースアセテート(総置換度2.4、重量平均分子量47,000)の完全けん化物
CAP:セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製:CAP-482-0.5、アセチル置換度=0.18、プロピオニル置換度=2.40)のけん化物
PCL:株式会社ダイセル製のポリカプロラクトン(重量平均分子量50,000)
PHB:Good Fellow社製のポリヒドロキシ酪酸(重量平均分子量550,000)
【0122】
表1-2に示すとおり、実施例の球状粒子はいずれも良好な触感を有しており、比較例の粒子と比べて緩やかな生分解性を示すことを確認した。また、図1-8に示される通り、実施例では、球状粒子の表面からセルラーゼにより分解され、分解処理後も略球状を維持している結果、触感2の変化が0.3ポイントの低下に留まった。これに対し、比較例では、凹凸の顕著な部位から分解が進行し、粒子形状の不均一性が増大した結果、触感2がさらに0.6ポイント低下した。
【0123】
(実施例B-1)
リキッドファンデーションの調製
表3に示す各成分を混合後、よく攪拌し、容器に充填してリキッドファンデーションを調製した。得られたリキッドファンデーションの触感を下記の方法で評価した。また、結果は表11に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
<触感>
粒子を配合して調製した直後の組成物について、20人のパネルテストにより官能評価をおこなった。各組成物を使用させ、なめらかさ及びしっとり感の両方を総合的に、5点満点として、以下の基準により評価した。20人の平均点を算出した。
良い:5、やや良い:4、普通:3、やや悪い:2、悪い:1
【0126】
(実施例B-2)
日焼け止めの調製
表4に示す各成分を混合後、よく攪拌し、容器に充填して日焼け止めを調製した。得られた日焼け止めの触感を、前述の方法で評価した。結果は表11に示す。
【0127】
【表4】
【0128】
(実施例B-3)
パウダーファンデーションの調製
表5に示す成分Aをヘンシェルミキサーで粗混合した後、均一に溶解した成分Bを加えてよく撹拌した後、容器に充填してパウダーファンデーションを調製した。得られたパウダーファンデーションの触感を、前述の方法で評価した。結果は表11に示す。
【0129】
【表5】
【0130】
(実施例B-4~B-6及び比較例B-1~B-2)
表3における実施例A-1の球状粒子を、実施例A-4~A-6及び比較例A-1~A-2の粒子に変更した以外は、実施例B-1と同様にして、リキッドファンデーションを調製した。それぞれについて、触感を前述の方法で評価した。結果は表11に示す。
【0131】
(実施例B-7)
化粧下地の調製
表6に示す成分Cを成分Aに分散し、よく攪拌した。その後、成分Bを添加して、攪拌し、容器に充填して化粧下地を調製した。得られた化粧下地の触感を、前述の方法で評価した。結果は表11に示す。
【0132】
【表6】
【0133】
(実施例B-8)
口紅の調製
表7に示す成分Bを60℃に加熱し、よく混合した。ここに成分Cを加えてよく分散させた後、さらに成分Aを加えて、電子レンジを用いて溶解させた後、よく混合した。その後、再度電子レンジを用いて加熱溶解させ、金型に流し込み、冷却固化させた。これを口紅容器にセットして口紅を調製した。得られた口紅の触感を、前述の方法で評価した。結果は表11に示す。
【0134】
【表7】
【0135】
(実施例B-9)
フェイスパウダーの調製
表8に示す成分Aを、ミキサーを用いてよく混合した。得られた粉体を容器に充填して、フェイスパウダーを調製した。得られたフェイスパウダーの触感を、前述の方法で評価した。結果は表11に示す。
【0136】
【表8】
【0137】
(実施例B-10)
固形白粉の調製
表9に示すタルク及び着色顔料をブレンダーで混合した。また、実施例A-1の球状粒子(CA0球状粒子)と、先にブレンダーで混合した着色顔料及びタルクを含む全ての粉体部分とを、ヘンシェルミキサーを用いて攪拌した。その後、油分(結合剤)を添加して70℃に加温し、さらに攪拌をおこなった後、必要に応じて粉砕工程をおこなった。これを金皿の容器中に圧縮成形して、固形白粉を調製した。得られた固形白粉の触感を、前述の方法で評価した。結果は表11に示す。
【0138】
【表9】
【0139】
(実施例B-11)
固形粉末アイシャドーの調製
表10に示す粉体をよく混合した後、結合剤を均一に溶解して、粉末部に加えてさらに混合した。その後、圧縮成形して固形粉末アイシャドーを調製した。得られた固形粉末アイシャドーの触感を、前述の方法で評価した。結果は表11に示す。
【0140】
【表10】
【0141】
【表11】
【0142】
表11に示すように、本開示の球状粒子を含有する実施例B-1~B-11の化粧品組成物の触感はいずれも良好であった。表1-2の結果から、球状粒子の分解反応が進行した場合も、触感の急激な変化はないものと推定される。
【0143】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0144】
[項目1]
生分解性高分子を主成分として含み
粒子径変動係数CVが40%以下であり、
OECD TG301Fに準拠した生分解性試験において、下記式により算出される5日目の生分解度が40%以下である、生分解性球状粒子。
生分解度(%)=(BOD-B)/TOD×100
(式中、BODは試験物質による生物化学的酸素消費量(mg)であり、Bはブランクの生物化学的酸素消費量(mg)であり、TODは試験物質による理論的酸素消費量(mg)である。)
【0145】
[項目2]
OECD TG301Fに準拠した生分解性試験により測定される5日目の生分解度BD5の、28日目の生分解度BD28に対する比BD5/BD28が、0.60以下である、項目1に記載の生分解性球状粒子。
【0146】
[項目3]
OECD TG301Fに準拠した生分解性試験により測定される5日目の生分解度BD5と、28日目の生分解度BD28と、が下記式を満たす、項目1又は2に記載の生分解性球状粒子。
(BD28-BD5)/BD5 ≧ 0.50
【0147】
[項目4]
走査型電子顕微鏡を用いて、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、その表面にミクロンサイズの凹部が認められる粒子が実質的に存在しない、項目1から3のいずれかに記載の生分解性球状粒子。
【0148】
[項目5]
走査型電子顕微鏡を用いて、倍率5000倍で0.5mm×0.5mmの視野を観察したときに、その球状粒子の円弧に沿って描いた仮想円から突出するミクロンサイズの凸部が認められる粒子が実質的に存在しない、項目1から4のいずれかに記載の生分解性球状粒子。
【0149】
[項目6]
前記生分解性高分子が、多糖類、多糖エステル及び脂肪族ポリエステルからなる群から選択される、項目1から5のいずれかに記載の生分解性球状粒子。
【0150】
[項目7]
前記多糖類が、セルロース及びデンプンから選択される1種又は2種である、項目6に記載の生分解性球状粒子。
【0151】
[項目8]
前記多糖エステルの総置換度が0を超えて3.0以下である、項目6又は7に記載の生分解性球状粒子。
【0152】
[項目9]
前記多糖エステルが、炭素数2以上10以下のアシル基を有するセルロースアシレートであり、このセルロースアシレートの総置換度が0を超えて1.0以下である、項目6から8のいずれかに記載の生分解性球状粒子。
【0153】
[項目10]
前記脂肪族ポリエステルが、ポリヒドロキシアルカン酸、又は、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重合体である、項目6から9のいずれかに記載の生分解性球状粒子。
【0154】
[項目11]
前記脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸及びポリ乳酸からなる群から選択される1種又は2種以上である、項目6から10のいずれかに記載の生分解性球状粒子。
【0155】
[項目12]
項目1から11のいずれかに記載の生分解性球状粒子を含む、化粧品組成物。
【0156】
[項目13]
生分解性高分子と、可塑剤と、水溶性高分子と、を混合して混合物を得ること、
前記混合物を200℃以上280℃以下で溶融混練して混練物を得ること、
及び
前記混練物から、前記水溶性高分子を除去すること、を含む、項目1に記載の生分解性球状粒子の製造方法。
【0157】
[項目14]
前記生分解性高分子が多糖エステルの場合、前記混練物から前記水溶性高分子を除去する工程において、この混練物を、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から選択される1種又は2種以上の金属化合物を含む溶媒と混合して、前記多糖エステルを加水分解することをさらに含む、項目13に記載の生分解性球状粒子の製造方法。
【0158】
[項目15]
前記溶媒が前記金属化合物の水溶液である、項目14に記載の生分解性球状粒子の製造方法。
【0159】
[項目16]
前記金属化合物が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物である、項目14又は15に記載の生分解性球状粒子の製造方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8