(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】包装用紙
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240117BHJP
D21H 27/10 20060101ALI20240117BHJP
D21H 19/56 20060101ALI20240117BHJP
D21H 19/82 20060101ALI20240117BHJP
D21H 19/40 20060101ALI20240117BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20240117BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
B65D65/40 F
D21H27/10
D21H19/56
D21H19/82
D21H19/40
D21H19/20
B32B27/10
(21)【出願番号】P 2022184857
(22)【出願日】2022-11-18
(62)【分割の表示】P 2019171156の分割
【原出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】沓名 稔
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-158089(JP,A)
【文献】国際公開第2019/099787(WO,A1)
【文献】特開昭55-040835(JP,A)
【文献】特開平10-086993(JP,A)
【文献】特開2008-074028(JP,A)
【文献】特開2014-077212(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160706(WO,A1)
【文献】特開平01-118699(JP,A)
【文献】特開2018-053400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
D21H 27/10
D21H 19/00-19/84
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で0.1~10g/m
2であり、前記ヒートシール層と紙基材の間に少なくとも顔料とバインダーを含む1層以上のアンダー層を有し、
前記アンダー層に含まれるバインダーの含有量が、顔料100質量部に対して50~200質量部の範囲であり、
前記アンダー層の乾燥塗工量が全層で5~30g/m
2であ
り、
前記紙基材がパルプを主成分とし、パルプの叩解度が、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、450~600mlCSFであることを特徴とする前記包装用紙。
【請求項2】
前記アンダー層に含まれる顔料のうち、40~100質量%がカオリンクレーであることを特徴とする請求項
1に記載の包装用紙。
【請求項3】
前記バインダーがアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエン共重合体から選択されることを特徴とする請求項1
または2に記載の包装用紙。
【請求項4】
前記バインダーがスチレンブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1~
3の何れか一つに記載の包装用紙。
【請求項5】
アンダー層に含まれる顔料が、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリンクレー、カオリン、クレー、焼成クレー、タルク、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムから選択される無機顔料であるか、又は、アクリル、スチレン、塩化ビニル、ナイロン、及び、これらを共重合して得られる有機顔料から選択される有機顔料であることを特徴とする請求項1~
4の何れか一つに記載の包装用紙。
【請求項6】
アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を調製する工程と、顔料とバインダーを含有するアンダー層用塗工液を調製する工程と、紙基材の少なくとも一方の面に、前記アンダー層用塗工液を、前記アンダー層の乾燥塗工量が全層で5~30g/m
2となるように塗工する工程と、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で0.1~10g/m
2の範囲で塗工する工程とを有し、
前記アンダー層に含まれるバインダーの含有量が、顔料100質量部に対して50~200質量部の範囲であ
り、
前記紙基材がパルプを主成分とし、パルプの叩解度が、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、450~600mlCSFである包装用紙の製造方法。
【請求項7】
アンダー層に含まれる顔料が、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリンクレー、カオリン、クレー、焼成クレー、タルク、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムから選択される無機顔料であるか、又は、アクリル、スチレン、塩化ビニル、ナイロン、及び、これらを共重合して得られる有機顔料から選択される有機顔料であることを特徴とする請求項
6に記載の包装用紙の製造方法。
【請求項8】
食料カップ、飲料用コップ、食料容器、トレイ、箱、ケース、器、封筒に使用される、請求項1~
5の何れか一つに記載の包装用紙の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの使用量を低減した包装用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミ問題が深刻化している。世界のプラスチックの生産量は4億トン/年を超えると言われ、その中でも包装容器セクターでのプラスチック生産量が多く、プラスチックゴミの原因になっている。プラスチックは半永久的に分解せず、そのゴミは自然環境下でマイクロプラスチック化し、生態系に深刻な悪影響を与えている。包装容器に使用されるプラスチックとしては、飲料のボトル等に使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)、レジ袋、容器のラミネートに使用されるポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)が最も多く使用されている。特に海洋の汚染は著しく、そのプラスチックゴミは回収不可能と言われている。今後、プラスチックの使用を低減することが地球環境にとって必要である。
【0003】
一方で、プラスチックゴミ対策として微生物によって完全に分解され得る生分解性プラスチックの応用が世界中で提案されている。生分解プラスチックは自然界で一定期間の内に分解されるが、分解されるまではやはりゴミであり、それらの使用量及び廃棄量が低減されない限りにおいては、即効性のある対策とは言えない(特許文献1、2参照)。
【0004】
即効性のある対策手段として、プラスチックを紙に代替することが提案されているが、紙を袋や容器に加工する際には、ヒートシール剤として、ポリエチレンやポリプロピレンが多量にラミネートされて使用される。これらプラスチックのラミネート量は、商品コンセプトによって様々だが、概ね20~50g/m2であり、300g/m2と多量になる場合もある。従って、プラスチックを紙に代替した包装容器においても、依然としてプラスチックの使用量は十分に低減されないという問題があり、早急に、直接的にプラスチックの使用を低減する手段が必要である。特に、プラスチック使用量を削減するとともに、ヒートシール性、防湿性、撥水性、撥油性、折り曲げ部の耐油性に優れた包装用紙の需要が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-148444号公報
【文献】特開2013-141763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プラスチックの使用量を低減することができる包装用紙を提供することにある。特に、ヒートシール性と、防湿性、撥水性、撥油性、折り曲げ部の耐油性に優れた包装用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、従来のプラスチックラミネート紙(以降、ポリラミ紙と略称する場合がある)のポリエチレンやポリプロピレンの使用量を低減するために、アイオノマーを使用する。すなわち、本発明による包装用紙は、紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも一層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の塗工量が0.1~10g/m2であることを特徴とする。従来のポリラミ紙のヒートシール層に使用されているポリエチレンやポリプロピレンのラミネート量が20g/m2を超えることと比較すると、ヒートシール層用のプラスチックの使用量を従来の約10~50%にまで削減することができる。ここでアイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた合成樹脂である。例えば、アクリル系高分子とエチレンを、ナトリウムや亜鉛などの金属カチオンを加え分子間結合させて製造される。
【0008】
また、本発明においては前記ヒートシール層と紙基材の間に少なくとも顔料とバインダーを含む1層以上のアンダー層を有することが必要である。このような構成とすることで、より優れた撥水性と撥油性を有する包装用紙を得ることができる。
【0009】
また、本発明においては前記アンダー層に含まれるバインダーが、顔料100質量部に対して50~200質量部の範囲であることが好ましい。このような構成とすることで、より優れた撥水性と撥油性を有する包装用紙を得ることができる。
【0010】
また、本発明においては前記アンダー層に含まれる顔料のうち、40~100質量%がカオリンクレーであることが好ましい。このような構成とすることで、より優れた撥水性と撥油性を有する包装用紙を得ることができる。
【0011】
また、本発明においては前記バインダーがアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエン共重合体から選択され、さらに、スチレンブタジエン共重合体であることが好ましい。このような構成とすることで、より優れた撥水性と撥油性を有する包装用紙を得ることができる。
【0012】
また、本発明においては前記アンダー層の乾燥塗工量が全層で2~30g/m2であることが好ましい。このような構成とすることで、より優れた撥水性と撥油性を有する包装用紙を得ることができる。
【0013】
また、本発明においては前記包装用紙が、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を調製する工程と、顔料とバインダーを含有するアンダー層用塗工液を調製する工程と、紙基材の少なくとも一方の面に、前記アンダー層用塗工液を塗工する工程と、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で0.1~10g/m2の範囲で塗工する工程とを有する製造方法で製造されることが好ましい。このような構成とすることで、より優れた撥水性と撥油性を有する包装用紙を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、プラスチック使用量が低減された包装用紙を製造することが可能である。本発明の包装用紙を用いた容器製品であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。なお、ヒートシール性、防湿性、撥水性、撥油性、折り曲げ部の耐油性に優れた本発明の包装用紙は、例えば、袋、アイスクリーム等の食料カップ、コーヒー等の飲料用コップ、ホットスナック等の食料容器及びトレイ、箱、ケース、器、封筒等の包装容器全般に適切に加工し使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0016】
本実施形態において、アイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂の総称であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた樹脂である。すなわち、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、エチレン・アクリル系共重合物の金属塩、エチレン・ウレタン系共重合物の金属塩、エチレン・フッ素系高分子共重合物の金属塩、などは全てアイオノマーと呼ばれる。塩を形成する金属としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛の各イオンなどである。本発明においては、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。ヒートシール層の塗工量が比較的少なくとも、十分なヒートシール強度を有するヒートシール層を設けることができる。
【0017】
本実施形態においては、紙基材の少なくとも一方の面に、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を塗工し、乾燥することでヒートシール層を設けることができる。アイオノマーエマルジョンを用いることにより、塗工量を比較的低くコントロールすることが可能であり、更に水系のアイオノマーエマルジョンを用いることによりVOC排出が無くなり自然環境に対する負荷を小さくすることができる。ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり、固形分換算で0.1~10g/m2であり、好ましくは1~8g/m2である。0.1g/m2未満の場合は十分なヒートシール強度を満足できない。逆に10g/m2を超える場合は、ヒートシール強度の面からは過剰品質であり、かつプラスチック削減効果に乏しくなる。なお、本発明の包装用紙において、ヒートシール層は、紙基材の表面の一部分のみに設けられているのではなく、全面に設けられていることが通常である。すなわち、ヒートシール層は、例えば網状、島状、線状など、ヒートシールによる接着に必要な部分にのみ設けられているのではなく、紙基材の表面の全面を覆うように設けられていると良い。
【0018】
ヒートシール層用塗工液には、アイオノマーエマルジョンの他に、各種助剤を添加してもよい。例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤やアルコールなどのレベリング剤、着色顔料、着色染料などである。しかしながら、これらの助剤の添加は、ヒートシール強度の低下を招きやすいことから、添加する場合には少量であることが好ましい。本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい。
【0019】
ヒートシール層用塗工液を塗工する方式としては、特に限定するものではなく、一般に使用されている塗工装置が使用できる。例えばエアーナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、チャンプレックスコーター、メータリングブレード式のサイズプレスコーター、ショートドウェルコーター、スプレーコーター、ゲートロールコーター、リップコーター等の公知の各種塗工装置を用いることができる。
【0020】
本実施形態においては、前記ヒートシール層と紙基材の間に少なくとも顔料とバインダーを含む1層以上のアンダー層を設ける。アンダー層を設けることにより、アイオノマーエマルジョンの紙基材への浸透を防ぎ、ピンホールや欠点の少ないヒートシール層となり、撥水性と撥油性に優れる。また、アンダー層自体にも水や油の浸透を防ぐ効果があるため、ヒートシール層との相乗効果により、優れた撥水性と撥油性を得ることができる。
【0021】
本実施形態においては、前記アンダー層にバインダーの含有量が、顔料100質量部に対して50~200質量部の範囲であることが好ましい。この範囲内であればより優れた撥水性と撥油性を得ることができる。さらに好ましくは当該バインダーの含有量が60~150質量部の範囲であり、特に好ましくは70~130質量部の範囲である。50質量部未満である場合、アンダー層自体の水や油の浸透を防ぐ効果が低下するとともに、アイオノマーエマルジョンの紙基材への浸透するため、撥水性と撥油性に劣る場合がある。200質量部を超えると撥水性と撥油性がそれ以上向上しない。またバインダーはコストが高いため経済的に不利である。
【0022】
アンダー層中の顔料としては、一般の印刷用塗工紙の塗工層に使用される公知の顔料を用いることができ、例えば、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等)、カオリンクレー(カオリン、クレーを含む)、焼成クレー、タルク、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機顔料、又はアクリル、スチレン、塩化ビニル、ナイロンそのものや、これらを共重合して得られる有機顔料(いわゆるプラスチックピグメント)が挙げられる。好ましくは無機顔料であり、特に好ましくはカオリンクレー、特に微細カオリンクレーであることが好ましい。その中でも、特に粒子径2μM未満の粒子が90%以上、好ましくは95%以上の粒子分布を有する微細カオリンクレーを使用することが好ましい。
【0023】
本実施形態においては、前記アンダー層に含まれる顔料のうち、40~100質量%が上記のカオリンクレー、特に微細カオリンクレーであることが好ましい。この範囲であればより優れた撥水性と撥油性を得ることができる。カオリンクレーはアスペクト比の高い平板状の構造をしており、球状の顔料に比べて、迷路効果により水や油の浸透を防ぐ効果が高いと考えられる。さらに好ましくは前記アンダー層に含まれる顔料のうち、上記のカオリンクレーを50~100質量%とすればよく、特に好ましくは70~100質量%である。100質量%に近付くほど効果が大きい。40質量%を下回ると、撥水性と撥油性に劣る場合がある。本実施形態においては、前記アンダー層に含まれる顔料の構成としては、例えば、40~100質量%のカオリンクレーおよび0~60質量%の炭酸カルシウム、特に軽質炭酸カルシウムを組み合わせて使用すればよい。尚、ここでカオリンクレーとは、カオリンとクレーを含む平板状顔料の総称として用いており、カオリン又はクレー単独であってもよく、またそれらの混合物であってもよい。
【0024】
本実施形態においては、バインダーとしては、架橋剤変性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉などの澱粉類、ゼラチン、カゼイン、大豆タンパク、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、等の合成樹脂類等を例示できる。好ましくは、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエン共重合体から選択されるバインダーであればよい。さらには、バインダーがスチレンとブタジエンを含む共重合体であることが好ましい。いわゆるスチレンブタジエンラテックス(SBR)であり、アンダー層に柔軟性、水や油の浸透を防ぐ効果を与えることができる。
【0025】
アンダー層の塗工量としては、2~30g/m2であることが好ましい。ここの範囲であればより優れた撥水性と撥油性を得ることができる。より好ましくは5~15g/m2である。2g/m2を下回ると、撥水性と撥油性に劣る恐れがある。30g/m2を超えると、撥水性と撥油性がそれ以上向上しない。またコストが高くなり経済的に不利である。
【0026】
アンダー層用塗工液を塗工する方式としては、特に限定するものではなく、一般に使用されている塗工装置が使用できる。例えばエアーナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、チャンプレックスコーター、メータリングブレード式のサイズプレスコーター、ショートドウェルコーター、スプレーコーター、ゲートロールコーター、リップコーター等の公知の各種塗工装置を用いることができる。抄紙機と連続的につながっている所謂オンマシンコーターであっても良い。
【0027】
本実施形態において用いる紙基材としては特に限定するものではなく、パルプを主成分とする公知の紙基材を用いることができる。紙基材の主成分となるパルプとしては、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)、LUKP(広葉樹未さらしクラフトパルプ)、NUKP(針葉樹未さらしクラフトパルプ)などの化学パルプ、GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)などの木材パルプ及びケナフ、バガス、竹、コットン、マニラ麻などの非木材パルプを用いることができる。これらは、単独で使用するか、又は任意の割合で混合して使用することが可能である。また、本発明の目的とする効果を損なわない範囲において、合成繊維を更に配合することができる。環境保全の観点から、ECF(Elemental Chlorine Free)パルプ、TCF(Total Chlorine Free)パルプ、未さらしパルプ、古紙パルプ、植林木から得られるパルプが好ましい。また、例えば、適切なパルプの叩解度としては、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、300~750mlCSF、例えば、450~600mlCSFである。通常、全パルプ中、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)などの広葉樹パルプを85~100質量部と、針葉樹パルプを0~15質量部とを使用することが好ましい。さらには、広葉樹パルプに加えて、防湿性、撥水性、撥油性、折り曲げ部の耐油性を強化するために針葉樹パルプを配合することが好ましい。例えば、全パルプ中、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)やNUKP(針葉樹未さらしクラフトパルプ)などの針葉樹パルプを85~100質量部と、広葉樹パルプを0~15質量部とを使用することが好ましい。また、本発明においては、パルプとして針葉樹パルプのみを使用することが好ましい。
【0028】
紙基材としては填料を含有するものも使用できる。填料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、カオリンクレー(カオリン、クレーを含む)、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウムを例示できる。紙基材中の填料含有量は、パルプの乾燥質量100質量部に対して、例えば、1~30質量部である。例えば、パルプの乾燥質量100質量部に対して、軽質炭酸カルシウムを1~10質量部含むとよい。
【0029】
また、紙基材には、パルプと填料に加えて、各種公知の製紙用添加剤が含まれていてもよい。製紙用添加剤としては、例えば、サイズ剤、湿潤紙力増強剤などの内添紙力増強剤、嵩高剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤、ピッチコントロール剤などがある。また、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子が塗布されていてもよい。本発明においては、紙基材にパルプ100質量部に対して0.05~1.0質量部、さらには0.1~0.5質量部の中性ロジンサイズ剤を含有させることが好ましい。
【0030】
紙基材の抄紙方法は、特に限定されるものではなく、長網抄紙機、長網多層抄紙機、円網抄紙機、円網多層抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの各種抄紙機で製造できる。また、本発明においては、紙基材としては単層抄きでも多層抄きでも、複数層の貼合品であってもよい。
【0031】
本実施形態において、包装用紙の坪量は特に限定するものではないが、例えば10~1000g/m2である。バリア性、撥水性及び撥油性を高度に備え、軟包装にも使用できる包装用紙の坪量としては、10~500g/m2が好ましく、20~300g/m2がより好ましい。
【実施例】
【0032】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0033】
(実施例1)
(紙基材の作製)
カナディアンスタンダードフリーネス520mlcsfの針葉樹晒クラフトパルプ100部、軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-121、奥多摩工業社製)5部、カチオン化澱粉(商品名:ネオタック30T、日本食品加工社製)0.2部、中性ロジンサイズ剤(商品名:CC167、星光PMC社製)0.2部に水を加えて紙料を調製し、長網多筒式抄紙機を用いて坪量58g/m2の原紙を作製した。この原紙にゲートロールコーターによって、酸化澱粉(商品名:MS3800、日本食品化工社製)を両面あたりの乾燥塗布量が2g/m2となるように塗布し、乾燥して235g/m2の基紙を得た。
【0034】
(アンダー層用塗工液の調製)
顔料として微粒カオリンクレー(商品名:Hydragloss90、KaMin LLC製、粒子径2μM未満の粒子が96~100%)100部に分散剤(商品名:アロンT-50、東亜合成社製)0.2部を加え、加水してコーレス分散機を用いて水分散し、顔料スラリーを作製した。この顔料スラリーに、バインダーとしてスチレンブタジエンラテックス(商品名:L-1432、旭化成社製)80部、更に水を加えて分散させ、固形分濃度50%の顔料塗工層用塗工液を調製した。
【0035】
(アンダー層の塗工)
上記で得られた基紙の片面に、アンダー塗工層用塗工液を、片面当たりの乾燥塗工量が10g/m2になるようにブレードコーターを用いて塗工、乾燥した。坪量が245g/m2の紙基材(塗工紙)を作製した。
【0036】
(包装用紙の作製)
上記で得られた紙基材のアンダー層側の面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を乾燥塗工量が2g/m2になるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層を設け、包装用紙を作製した。
【0037】
(実施例2)
アンダー層用塗工液の顔料を微粒カオリンクレー(商品名:Hydragloss90、KaMin LLC製)40部と軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-121、奥多摩工業社製)60部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0038】
(実施例3)
アンダー層用塗工液の顔料を微粒カオリンクレー(商品名:Hydragloss90、KaMin LLC製)30部と軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-121、奥多摩工業社製)70部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0039】
(実施例4)
アンダー層用塗工液の顔料を微粒カオリンクレー(商品名:Hydragloss90、KaMin LLC製)0部と軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-121、奥多摩工業社製)100部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0040】
(実施例5)
アンダー層用塗工液のバインダーをスチレンブタジエンラテックス(商品名:L-1432、旭化成社製)50部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0041】
(実施例6)
アンダー層用塗工液のバインダーをスチレンブタジエンラテックス(商品名:L-1432、旭化成社製)150部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0042】
(実施例7)
アンダー層用塗工液のバインダーをスチレンブタジエンラテックス(商品名:L-1432、旭化成社製)200部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0043】
(実施例8)
アンダー層用塗工液のバインダーをアクリル系エマルジョン(商品名:AE-852、JSR社製)80部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0044】
(実施例9)
アンダー層用塗工液のバインダーをポリビニルアルコール(商品名:ポバール5-98、クラレ社製)80部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。。
【0045】
(実施例10)
基紙の作製においてパルプを針葉樹未晒クラフトパルプ100部にした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0046】
(比較例1)
基紙にアンダー層を設けないとした以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。
【0047】
各実施例及び比較例で得られた包装用紙について、以下に示す方法により評価を行った。得られた結果を表1~3に示す。
【0048】
(1)ヒートシール強度
得られた包装用紙を、幅8mm、長さ15cmのサイズに2枚カットし、包装用紙の表面と裏面とを重ね合わせ、ヒートシール装置(パルメック社製、型番:PTS-100)で、一定条件(接着幅:4mm、温度:180℃、圧力0.4MPa、押し当て時間0.5秒、ピッチ:4mm)にてヒートシールした。次いで、ヒートシールしたサンプルを、剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)にて、一定条件(剥離速度:100mm/分、剥離長さ:10cm)で剥離して、紙基材、ヒートシール層内、ヒートシール層-ヒートシール層界面のいずれの面で剥離しているか評価した。紙基材の内部で破壊が起こり剥離(一般的に材破と呼ばれる)するのが良い。
◎:紙基材から材破しており、実用レベル。
〇:紙基材から材破しているが、一部ヒートシール層から剥離が発生している。実用レベル。
△:ヒートシール層内で破壊され剥離している。実用不可レベル。
×:ヒートシール層-ヒートシール層界面で剥離している。実用不可レベル。
【0049】
(2)防湿性
JIS K 7129-1:2019(プラスチック-フィルム及びシート-水蒸気透過度の求め方)に準拠し、ヒートシール層表面の撥水性を評価した。数字が低い程撥水性が高い(濡れにくい)ことを示す。なお、両面にヒートシール層がある場合は、両面の平均値を用いた。
◎:50g/m2・24hr未満
〇:50~100g/m2・24hr
△:100~150g/m2・24hr
×:150~g/m2・24hr
【0050】
(3)撥水性
JIS K 6768:1999(プラスチック-フィルム及びシート-濡れ張力試験方法)に準拠し、ヒートシール層表面の撥水性を評価した。数字が低い程撥水性が高い(濡れにくい)ことを示す。なお、両面にヒートシール層がある場合は、両面の平均値を用いた。
【0051】
(4)撥油性
TAPPI T-559cm-02(キット法)に準拠し、ヒートシール層表面の撥油性を評価した。値(キット値)が高いほど撥油性が高いことを示す。なお、両面にヒートシール層がある場合は、両面の平均値を用いた。
【0052】
(5)折り曲げ部の耐油性
得られた包装用紙を、幅5cm、長さ10cmのサイズにカットし、ヒートシール層側を内側に二つ折りにして、折り目の上を5kgの金属製ロールを1往復通過させた。折り部は抄紙紙のMD方向(Machine Direction;抄紙機の進行方向)が折り目となるようにした。折り部を開いて、ヒートシール層側の折り部に、TAPPI T-559cm-02(キット法)に準拠したキット値8の試験液を滴下する。滴下15秒経過後に試験液を拭き取り、試験液の紙基材への浸透を評価した。
◎:浸透なく、実用レベル。
〇:僅かに浸透しているが、実用レベル。
△:浸透しており、実用不可レベル。
×:裏面へ浸透液が抜けており、実用不可レベル。
【0053】
【0054】
表1より明らかなように、実施例1~10による包装用紙は比較例1と比較して、少なくとも顔料とバインダーを含むアンダー層を含むので、ヒートシール性と、防湿性、撥水性、撥油性、折り曲げ部の耐油性に優れている。実験結果が示している様に、本発明であれば、従来のポリエチレンラミネート量と比較してヒートシール層の使用量を著しく軽減し、プラスチックゴミ削減に貢献しつつ、バリア性、撥水性及び撥油性に優れた包装用紙を提供することができる。