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特許7421632低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材及びその製造方法
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  • 特許-低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240117BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240117BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C21D8/02 B
C22C38/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022505529
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 KR2020011178
(87)【国際公開番号】W WO2021040332
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2019-0104016
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウ‐ギョム
(72)【発明者】
【氏名】キム,サン‐ホ
(72)【発明者】
【氏名】バン,キ‐ヒョン
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0097160(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0073090(KR,A)
【文献】国際公開第2019/124890(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.050~0.100%、シリコン(Si):0.05~0.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、アルミニウム(Sol.Al):0.005~0.04%、ニオブ(Nb):0.005~0.03%、チタン(Ti):0.005~0.02%、銅(Cu):0.05~0.4%、ニッケル(Ni):0.3~1.0%、窒素(N):0.001~0.008%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.003%以下、残部はFe及びその他の不可避な不純物からなり、
微細組織として、面積分率30~50%のアシキュラーフェライト(水冷フェライト)及び面積分率50~70%のフェライト(空冷フェライト)を含み、
前記アシキュラーフェライト(水冷フェライト)の、円相当径を基準とする、平均結晶粒サイズが20μm以下、前記フェライト(空冷フェライト)の、円相当径を基準とする、平均結晶粒サイズが20~35μmであり、
8~30mmの厚さを有することを特徴とする低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材。
【請求項2】
前記鋼材は、面積分率2%以下でベイナイト及びセメンタイトのうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は8~15mmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は、降伏強度460MPa以上、伸び率17%以上、-40℃での衝撃靭性100J以上、-20℃でのCTOD値が0.4mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材。
【請求項5】
低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材の製造方法であって、
重量%で、炭素(C):0.050~0.100%、シリコン(Si):0.05~0.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、アルミニウム(Sol.Al):0.005~0.04%、ニオブ(Nb):0.005~0.03%、チタン(Ti):0.005~0.02%、銅(Cu):0.05~0.4%、ニッケル(Ni):0.3~1.0%、窒素(N):0.001~0.008%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.003%以下、残部はFe及びその他の不可避な不純物からなる鋼スラブを1200℃以上で加熱する段階、
前記加熱された鋼スラブを1000℃以上で粗圧延する段階、
前記粗圧延後にAr3以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、
前記熱延鋼板を空冷する段階、及び
前記空冷後に前記熱延鋼板を10~30℃/sの冷却速度で冷却する段階を含み、
前記冷却は水冷で行い、660~690℃の温度範囲で開始して550~590℃の温度範囲で終了し、
前記低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材が、
微細組織として、面積分率30~50%のアシキュラーフェライト(水冷フェライト)及び面積分率50~70%のフェライト(空冷フェライト)を含み、前記フェライト(空冷フェライト)は、円相当径を基準とする、平均結晶粒サイズが20~35μmであり、前記アシキュラーフェライト(水冷フェライト)は、円相当径を基準とする、平均結晶粒サイズが20μm以下であり、
8~30mmの厚さを有することを特徴とする低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記仕上げ熱間圧延は850~900℃の温度範囲で行うものであることを特徴とする請求項に記載の低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記粗圧延は後段2パスで15~20%の圧下率で行い、前記仕上げ熱間圧延は累積圧下率70~90%で行うものであることを特徴とする請求項に記載の低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記鋼材は8~15mmの厚さを有することを特徴とする請求項に記載の低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、海洋構造物等に好ましく適用できる低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋エネルギーと資源の開発は、深海、寒冷地、極地などに拡大されており、スパー(SPAR)、TLP(Tension Leg Platform)、FPSO(Floating Processing Storage and Offloading)などの浮遊式海洋構造物の施工が活発に進められている。
また、陸上空間での開発が次第に難しくなるにつれて、近年では近寄り難い砂漠、熱帯雨林、凍土などの海洋沿岸地域に浮遊式構造物を駆使した海洋都市建設が試みられている。
【0003】
一方、海洋環境の保護のために海洋構造物の破損事故はほとんど許容されないため、絶対に安全である必要がある。
このような観点から、海洋構造物等に使用される鋼材は、高強度化及び厚物化が進んでいるが、薄物鋼材の使用可能性も台頭しているため、安全性の観点から薄物鋼材の高強度及び低温靭性の確保が重要となってきている。
特に、浮遊式構造物には、薄物鋼材の需要が高まると予想されることから、薄物鋼材の強度及び低温靭性を向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0067509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材及びその製造方法を提供することにある。
本発明において対象とする鋼材の用途は、海洋構造物に必ずしも限定される必要はなく、造船や一般構造物などにも十分に使用することができる。
本発明の課題は、上記の内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解する上で何らの困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材は、重量%で、炭素(C):0.05~0.1%、シリコン(Si):0.05~0.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、アルミニウム(Sol.Al):0.005~0.04%、ニオブ(Nb):0.005~0.03%、チタン(Ti):0.005~0.02%、銅(Cu):0.05~0.4%、ニッケル(Ni):0.3~1.0%、窒素(N):0.001~0.08%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.003%以下、残部はFe及びその他の不可避な不純物からなり、微細組織として、面積分率30~50%のアシキュラーフェライト(水冷フェライト)及び面積分率50~70%のフェライト(空冷フェライト)を含み、8~30mmの厚さを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材の製造方法は、上記合金組成を満たす鋼スラブを1200℃以上で加熱する段階、上記加熱された鋼スラブを1000℃以上で粗圧延する段階、上記粗圧延後にAr3以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、上記熱延鋼板を空冷する段階、及び上記空冷後に上記熱延鋼板を10~30℃/sの冷却速度で冷却する段階を含み、
上記冷却は水冷で行い、660~690℃の温度範囲で開始して550~590℃の温度範囲で終了し、8~30mmの厚さを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、厚さ8~30mmの薄物鋼材に対して高強度であり、極低温衝撃靭性に優れ、CTOD疲労特性に優れた薄物鋼材を提供する効果がある。
このような本発明の薄物鋼材は、-40℃付近での衝撃保証要求が予想される固定式または浮遊式海洋構造物の海洋構造用鋼材として適用可能であるだけでなく、低温靭性が要求される造船、一般の構造用鋼にも有利に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例による薄物鋼材の微細組織を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
これまで海洋構造用鋼材を開発するにあたり、主に一定以上の厚さを有する厚物材の強度と低温靭性を確保しようとする試みが続いてきた。これに対し、海洋構造用鋼材として薄物材を適用しようとする試みはほとんどなかった。
本発明の発明者らは、今後、海洋構造用などの鋼材としての薄物材の使用が増加することを予測し、そのような海洋構造用鋼材として使用するのに適した物性を有する薄物材を得るために鋭意研究を行った。
特に、本発明者らは、薄物材の強度と低温靭性(衝撃靭性)を向上させるためには、合金成分の組成及び含量の制御と母材の組織制御が重要であることを確認し、合金成分系と製造条件を最適化して降伏強度460MPa以上、-40℃での衝撃靭性が50J以上の薄物鋼材を提供することに技術的意義を見出した。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の一側面による低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材は、重量%で、炭素(C):0.05~0.1%、シリコン(Si):0.05~0.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、アルミニウム(Sol.Al):0.005~0.04%、ニオブ(Nb):0.005~0.03%、チタン(Ti):0.005~0.02%、銅(Cu):0.05~0.4%、ニッケル(Ni):0.3~1.0%、窒素(N):0.001~0.08%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.003%以下を含むことがよい。
【0012】
以下では、本発明で提供する鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
本発明で特に断りのない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0013】
炭素(C):0.05~0.1%
炭素(C)は固溶強化を引き起こし、鋼中のニオブ(Nb)などと結合して炭窒化物などの析出物を形成させ、引張強度を確保する上で有利な元素である。
このようなCの含量が0.1%を超えると、島状マルテンサイト(MA)相の形成を助長するだけでなく、パーライトが生成されて低温において鋼材の衝撃及び疲労特性が劣化するという問題がある。一方、その含量が0.05%未満であると、目標レベルの強度を確保できなくなる。
したがって、上記Cは0.05~0.1%含むことがよく、より有利には0.06%以上、さらに有利には0.07%以上含むことが好ましい。一方、上記Cのより好ましい上限は0.09%である。
【0014】
シリコン(Si):0.05~0.3%
シリコン(Si)は、アルミニウムと共に溶鋼を脱酸させる役割を果たし、本発明では、強度向上に加えて低温での衝撃及び疲労特性を確保する上で重要な元素である。
上記の効果を十分に確保するためには、Siを0.05%以上含有することが好ましいが、その含量が0.3%を超えると、Cの拡散を妨げてMA相の形成を助長するという問題がある。
したがって、上記Siは0.05~0.3%含むことがよい。
【0015】
マンガン(Mn):1.0~2.0%
マンガン(Mn)は、固溶強化による強度向上効果が大きい元素であり、1.0%以上添加することがよい。ただし、その含量が過度となり2.0%を超えると、MnS介在物を形成して鋼材の中心部に偏析して靭性の低下をもたらす虞がある。
したがって、上記Mnは1.0~2.0%含むことがよく、より有利には1.3%以上含むことが好ましい。一方、上記Mnのより好ましい上限は1.8%である。
【0016】
アルミニウム(Sol.Al):0.005~0.04%
アルミニウム(Sol.Al)は、鋼の主要な脱酸剤として0.005%以上含有することができる。ただし、その含量が0.04%を超えると、Al介在物が多量に形成され、その大きさが増大して鋼の低温靭性を低下させる原因となる。また、粗大なAlNが形成されて鋼の表面品質が悪くなる虞があり、母材及び溶接熱影響部においてMA相の生成を促進して低温靭性及び低温疲労特性が劣化する問題がある。
したがって、上記Alは0.005~0.04%含むことがよい。
【0017】
ニオブ(Nb):0.005~0.03%
ニオブ(Nb)は固溶され、又は炭窒化物として析出することにより、圧延または冷却中に再結晶を抑制して組織を微細化する上で有効であり、強度向上に有利な元素である。
上記の効果を十分に得るためには、0.005%以上添加することが好ましいが、その含量が0.03%を超えると、Cとの親和力によりCの集中、例えば、NbCなどの形成によりCが集まる現象が発生し、MA相の形成が促進され、低温での靭性及び破壊特性が低下する虞がある。
したがって、上記Nbは0.005~0.03%含むことが好ましい。
【0018】
チタン(Ti):0.005~0.02%
チタン(Ti)は、鋼中の酸素(O)または窒素(N)と結合して析出物を形成する元素である。これらの析出物は、組織の粗大化を抑制し、微細化に寄与して靭性を向上させる上で有利である。
上記の効果を十分に得るためには、0.005%以上のTiを添加することが好ましいが、その含量が0.02%を超えると、析出物が粗大化して破壊の原因となる虞がある。
したがって、上記Tiは0.005~0.02%含むことが好ましい。
【0019】
銅(Cu):0.05~0.4%
銅(Cu)は、衝撃特性を大きく阻害せずに、固溶強化及び析出強化により強度を向上させる上で有利な元素である。
このようなCuの含量が0.05%未満であると、上述の効果を十分に得ることが難しく、一方、その含量が0.4%を超えると、Cu熱衝撃により鋼板の表面にクラックが発生する虞がある。
したがって、上記Cuは0.05~0.4%含むことが好ましい。
【0020】
ニッケル(Ni):0.3~1.0%
ニッケル(Ni)は、鋼の強度と靭性を同時に向上させることができる元素である。この効果を十分に得るためには、0.3%以上含有することが好ましいが、その含量が1.0%を超えると、硬化能が増加してMA相の形成を助長し、鋼の衝撃靭性、CTOD特性を阻害する虞がある。
したがって、上記Niは0.3~1.0%含むことが好ましい。
【0021】
窒素(N):0.001~0.008%
窒素(N)は、Ti、Nb、Alなどと共に析出物を形成して再加熱時にオーステナイト組織を微細化させ、強度と靭性の向上に役立つ元素である。
上記の効果を十分に得るためには、0.001%以上添加することが好ましい。しかし、その含量が0.008%を超えると、高温で表面クラックを誘発し、析出物を形成し残留するNが原子状態で存在して靭性を低下させる虞がある。
したがって、上記Nは0.001~0.008%含むことが好ましい。
【0022】
リン(P):0.01%以下
リン(P)は、粒界偏析を引き起こす元素であり、鋼を脆化させる原因となる虞がある。したがって、上記Pの含量をできるだけ低く制御する必要がある。
本発明において上記Pは、最大0.01%で含有しても意図する物性の確保には無理がないことから、上記Pの含量を0.01%以下に制限する。ただし、不可避に添加されるレベルを考慮して0%は除くこととする。
【0023】
硫黄(S):0.003%以下
硫黄(S)は、主に鋼中のMnと結合してMnS介在物を形成し、これは低温靭性を阻害する要因となる。
したがって、本発明で目標とする低温靭性と低温疲労特性を確保するためには、上記Sの含量をできるだけ低く制御する必要があり、0.003%以下に制限することが好ましい。ただし、不可避に添加されるレベルを考慮して0%は除くこととする。
【0024】
本発明における残りの成分は鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容について特に言及しない。
但し一例として、本発明の鋼材は、モリブデン(Mo)またはクロム(Cr)をそれぞれ0.05%未満含有することができることを明らかにしておく。
【0025】
上記の合金成分系を有する本発明の薄物鋼材は、微細組織としてフェライト相を含み、好ましくは、水冷フェライト及び空冷フェライトを複合状態で含むことができる。
一方、本発明の薄物鋼材は、上記のフェライト相以外の組織として、ベイナイト及びセメンタイトのうち1種以上をさらに含むことができ、これらは面積分率2%以下で含むことができる。
本発明は、薄物鋼材の強度に加えて、低温靭性及び低温疲労特性を確保するために、バンドパーライト、ベイナイト相の形成は抑制する一方、空冷フェライトを形成して延性及び靭性を確保し、水冷フェライトの形成により強度及び靭性を確保する。
【0026】
具体的に、本発明の薄物鋼材は、面積分率30~50%のアシキュラーフェライト(acicular ferrite、水冷フェライト)及び面積分率50~70%のフェライト(polygonal ferrite、空冷フェライト)を含むことが好ましい。
上記水冷フェライトの分率が30%未満であるか、空冷フェライトの分率が70%を超えると、鋼材の延性は優れるものの、目標レベルの強度を確保することができなくなる。一方、上記水冷フェライトの分率が50%を超えると、強度が過度に増加して延性が低下するようになる。
【0027】
後に詳細に説明するが、本発明の薄物鋼材を製造するための圧延及び冷却工程を経るに際して、圧延を完了した後、冷却(水冷却)を開始する前までに形成されたフェライトは空冷フェライトであって、平均結晶粒サイズが20~35μmであることが好ましい。その後、加速冷却(水冷却)工程中に形成されたフェライトは、上記空冷フェライトよりも硬度の高い水冷フェライトであって、平均結晶粒サイズが20μm以下であることが好ましい。ここで、平均結晶粒サイズは円相当径を基準とする。
上記空冷フェライトの平均結晶粒サイズが35μmを超えるか、又は上記水冷フェライトの平均結晶粒サイズが20μmを超えると、粗大結晶粒により強度及び靭性が低下するという問題がある。
【0028】
本発明において、上記空冷フェライト及び水冷フェライトの適正分率と結晶粒サイズは、圧延後の冷却工程により決定される。
具体的に、本発明は、圧延後に特定の温度で水冷却を開始するが、上記水冷却が開始される温度が高いと、適正分率の空冷フェライト相を確保することができず、上記水冷却が開始される温度が低いと、空冷フェライトの結晶粒サイズが粗大となり、目標レベルの物性を確保することができなくなる。
したがって、本発明は、適正分率の空冷フェライト及び水冷フェライトを形成することができる工程条件の下で、各相(phase)の平均結晶粒サイズが上記のとおり形成されることにより、目標とする物性を確保する効果がある。
【0029】
本発明の薄物鋼材は、その厚さが8~30mm、好ましくは8~15mmであって、厚さ方向別の領域区分なしに全厚さにわたって上記の微細組織が形成されることができる。
上記の合金成分系に加えて、微細組織を有する本発明の薄物鋼材は降伏強度460MPa以上、伸び率17%以上であって強度及び延性に優れるだけでなく、-40℃での衝撃靭性が50J以上、-20℃でのCTOD値が0.4mm以上と、低温靭性及び低温疲労特性に優れた効果がある。
【0030】
以下では、本発明の他の一側面による低温靭性及びCTOD特性に優れた薄物鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
本発明で目標とする薄物鋼材は、本発明で提案する合金成分系を満たす鋼スラブを準備した後、これを[加熱-熱間圧延(粗圧延及び仕上げ圧延)-冷却]の工程を経て製造することができる。
以下では、各々の工程条件について詳細に説明する。
【0031】
鋼スラブ加熱
本発明では、熱間圧延を行う前に鋼スラブを加熱して均質化処理する工程を経ることが好ましく、このとき1200℃以上の温度で加熱工程を行うことがよい。
上記鋼スラブの加熱温度が1200℃未満であると、後続の圧延中に温度の低下が大きくなり、圧延工程を単相域(single phase region)で終了する上で困難がある。また、析出物が十分に再固溶されず、強度の低下が発生する虞がある。
一方、上記加熱温度が1300℃を超えると、粗大な結晶粒が形成される問題があり、部分的に溶解する虞があるため、上記加熱は1300℃以下で行うことがよい。
【0032】
熱間圧延
上記のとおり加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造することができる。
まず、上記で加熱されたスラブを1000℃以上で粗圧延、すなわち、再結晶域圧延を行ってオーステナイトを完全に再結晶することが好ましい。
このとき、後段2パスをそれぞれ15~20%の圧下率で行うことでオーステナイトの成長を抑制し、結晶粒微細化の効果を得ることができる。
【0033】
上記に従って粗圧延を完了した後、Ar3温度以上、好ましくは850~900℃の温度範囲で仕上げ圧延(仕上げ熱間圧延)、すなわち、未再結晶域圧延を行って目標厚さの熱延鋼板を得ることができる。
上記仕上げ圧延時の温度が850℃未満であると、後続の冷却工程のための冷却ゾーンへの移動中に冷却が過度に進み、熱延板の温度が著しく低下する虞があり、この場合、粗大な空冷フェライトが過度に形成されて目標強度の確保が難しくなる。一方、その温度が900℃を超えると、結晶粒が粗大化し、強度及び靭性が低下する虞がある。
上記仕上げ圧延時に累積圧下率(総圧下率)を70~90%にして行うことにより、厚さ8~30mm、好ましくは厚さ8~15mmの熱延鋼板を得ることができる。
【0034】
冷却
上記で得られた熱延鋼板を冷却し、本発明の目標とする物性を有する薄物鋼材を製造することができる。
特に、本発明では、上記熱延鋼板を水冷する前に特定の温度領域まで空冷を行った後、その温度領域で水冷却を開始することが好ましい。
より好ましくは、上記熱延鋼板の冷却はAr3以下で開始し、660~690℃の温度範囲まで空冷を行った後、その温度範囲において10~30℃/sの冷却速度で550~590℃の温度範囲まで水冷を行うことが好ましい。
【0035】
上記空冷は、本発明で目標とする分率の空冷フェライトが形成されるまで行うことができるが、その時間については特に限定しない。例えば、上記空冷は0.5~1.5℃/sの冷却速度で数秒間行うことができる。このとき、厚さが8mm以上15mm未満の熱延鋼板に比べて、厚さが15mm以上~30mm以下の熱延鋼板では冷却速度をより遅く適用することがよい。
なお、上記水冷を開始する温度が660℃未満であると、水冷却の間に十分な分率で水冷フェライト(アシキュラーフェライト)を形成することができず、一方、690℃を超えると、空冷フェライトの分率が過度となり目標レベルの強度、延性などが確保できなくなる。
【0036】
また、上記水冷を終了する温度が550℃未満であるか、又は冷却速度が30℃/sを超えると、ベイナイト、MA相などの硬質相が形成され、延性及び靭性が低下するという問題がある。一方、その温度が590℃を超えるか、又は冷却速度が10℃/s未満であると、結晶粒が粗大になるという問題がある。
上記のようにして冷却工程を完了した本発明の薄物鋼材は、意図する微細組織を形成することにより、厚さ8~30mmの薄物鋼材に対して強度と延性だけでなく、優れた低温靭性及びCTOD特性も確保することができる。
【0037】
以下では、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲が特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【実施例
【0038】
(実施例)
下記表1の合金組成を有する鋼スラブを準備した。このとき、上記合金組成の含量は重量%であり、残りはFe及び不可避な不純物からなる。
上記準備された鋼スラブを下記表2に示す条件で加熱、熱間圧延(粗圧延及び仕上げ圧延)及び冷却し、それぞれの熱延鋼材を製造した。このとき、粗圧延は1000℃以上で行い、後段2パスをそれぞれ15%、20%の圧下率で行った。
また、仕上げ圧延してから冷却(水冷却)を開始する前まで空冷を行った。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
(表2の試験番号9は、粗圧延後の仕上げ圧延開始温度を制御せず、冷却時に空冷を行った場合である。)
【0041】
上記に従って製造された各々の熱延鋼材について、微細組織と機械的物性を測定し、その結果を下記表3に示した。
各熱延鋼材の微細組織は、厚さ1/4t(ここで、tは厚さ(mm)を意味する)地点で採取された試験片を光学顕微鏡(OM)で観察し、同じ試験片に対して-40℃でシャルピー衝撃試験を実施して衝撃靭性を評価した。
また、JIS 5号規格に基づいて採取された試験片に対して万能引張試験機を用いて引張強度(TS)、降伏強度(YS)、伸び率(El)を測定した。
CTOD特性は、BS 7448規格に従って圧延方向に垂直に[鋼板の厚さ(T)×(2×鋼板の幅(W))×(2.25W×2鋼板の長さ(L))]のサイズで試験片を加工し、疲労亀裂長さが試験片の幅の50%となるように疲労亀裂を挿入した後、-20℃でCTOD試験を行った。各鋼板についてCTOD試験はそれぞれ3回ずつ行い、3回の試験値のうち、最小値を下記表3に示した。
【0042】
【表3】
(表3において、空冷フェライト及び水冷フェライト相の分率を除いた残りは、MA相及びベイナイト相のうち1種以上を含む。ただし、比較例6の場合にはパーライト相が多量に形成された。)
【0043】
上記表1~3に示したとおり、本発明で提案する合金組成及び製造条件を共に満たす発明例1~3は、降伏強度が460MPa以上であり、伸び率が17%以上であって、目標とする強度及び延性を有することが確認できる。また、-40℃での衝撃靭性が100J以上であり、-20℃でのCTOD値が0.4mm以上であって、低温靭性及び低温疲労特性に優れることが確認できる。
【0044】
図1は、発明例2の組織写真を示したものであって、空冷フェライトと水冷フェライトが適切に形成されたことが確認できる。
図1において相対的に粗大で且つ球状のフェライトは空冷フェライトと、アシキューラに近いフェライトは水冷フェライトと定義することができ、互いに適切な割合で形成されることにより目標とする強度及び靭性の確保が可能であった。
【0045】
これに対し、本発明で提案する合金成分系のうち、Cの含量が過度な比較例1は、伸び率が低いだけでなく、衝撃靭性及びCTOD特性が極めて劣化しており、Cの含量が不十分な比較例2の場合には目標レベルの強度を確保することができなかった。
一方、比較例3~6は、合金成分系は本発明を満たすものの、製造条件が本発明から外れた場合であって、これらの全てが目標とする機械的物性を満たすことができなかった。
【0046】
このうち、比較例3は、水冷却が単相域で開始されることにより空冷フェライトが十分に形成されず、ベイナイトとMA相などの硬質相が形成され、降伏強度、延性、低温靭性が劣化した。
比較例4は、水冷却時に冷却速度が過度となり水冷フェライトが十分に形成されず、硬質相が過度に形成されて伸び率が劣化した。
比較例5は、冷却終了温度が大幅に低くなり、フェライト相の代わりに硬質相が過度に形成されることにより、延性と共に衝撃靭性及びCTOD特性が劣化した。
比較例6は、従来の工程プロセスで薄物材を製造した場合であって、圧延後の冷却時に別途の水冷却なしに空冷のみを行うことにより、パーライトバンドが形成されて降伏強度が急激に低下した。
図1