(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
F16H1/32 C
(21)【出願番号】P 2022513276
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 CN2020000150
(87)【国際公開番号】W WO2021036148
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】201910804915.0
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518185598
【氏名又は名称】莫徳超
【氏名又は名称原語表記】MO, Dechao
【住所又は居所原語表記】No. 46,group 4, Datang Village, Dali Town, Beiliu City Yulin, Guangxi 537406(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】莫徳超
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-042240(JP,A)
【文献】米国特許第01616369(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻(1)、内殻(2)、駆動ディスク(3)、T型歯(4)、ギア(5)、T型歯ホルダー(6)、調整可能なナット(7)、ボール(8)、内軌道ボール(9)、外軌道ボール(10)、内保護ラック(11)、外保護ラック(12)、ローラー(13)、第1シールリング(14)、第2シールリング(15)、第3シールリング(16)を含み、
外殻(1)の上部には、調整可能なナット(7)に螺合されるネジ山が開設され、外殻(1)の中部は、T型歯ホルダー(6)と一体に剛性接続され、外殻(1)の下部には、ローラー(13)が配置されるローラー軌道が開設され、
内殻(2)の上部には、第2シールリング(15)が密着され、内殻(2)の下部は、ギア(5)に固定され、
駆動ディスク(3)の上部には、第1シールリング(14)、第2シールリング(15)が密着され、駆動ディスク(3)の中部の外面には、ボール(8)が配置されるボール軌道が開設され、駆動ディスク(3)の下部の底面には、ボール内軌道及びボール外軌道が開設され、ボール内軌道
の一部には、内保護ラック(11)が取り付けられ、ボール外軌道
の一部には、外保護ラック(12)が取り付けられ、この2つの保護ラックは、互いに対向して配置され、内軌道ボール(9)がボール内軌道に配置され、外軌道ボール(10)がボール外軌道に配置され、ボール内軌道及び外軌道における保護ラック非取付部分において、軌道の延在方向が円柱螺旋線であることを特徴とし、保護ラック取付部分は、ボールがT型歯(4)との接触から滑らかに離れるようにガイドされるように、前記螺旋線にその接線方向に沿って接続され、
T型歯(4)の上面には、内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)が配置されるボール軌道が開設され、T型歯(4)の中部は、T型歯ホルダー(6)を通過するようにT型歯ホルダー(6)に組み立てられ、T型歯(4)の下端部は、ギア(5)に噛み合う円柱螺旋面状歯であり、
ギア(5)の上面は、T型歯(4)に噛み合う円柱螺旋面状歯であり、ギア(5)の中部の外面には、ローラー(13)が配置されるローラー軌道が開設され、ギア(5)の下部の外面には、第3シールリング(16)が密着され、
調整可能なナット(7)は、外殻(1)、第1シールリング(14)、ボール(8)に接触し、ナットを回転させることで変速機の内部における全ての伝動部材の隙間を調整できるように構成される、変速機。
【請求項2】
内保護ラック(11)及び外保護ラック(12)は、駆動ディスク(3)に取り付けられ、ボールがT型歯(4)に接触しないように、内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)を保持する、請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
内軌道ボール(9)は、駆動ディスク(3)に配置され、保護ラックがない部分においてT型歯(4)に接触し、
外軌道ボール(10)は、駆動ディスク(3)に配置され、保護ラックがない部分においてT型歯(4)に接触する、請求項1に記載の変速機。
【請求項4】
駆動ディスク(3)のボール軌道における保護ラック非取付部分及びT型歯(4)の上面におけるボール軌道の特徴曲線は、円柱螺旋線であり、内軌道と外軌道の螺旋方向が異なり、ピッチが同じであり、
駆動ディスク(3)のボール軌道における保護ラック取付部分の位置が滑らかに上昇し、保護ラックと協働することにより、この部分にあるボールは滑らかに上昇してT型歯(4)との接触から離れる、請求項1に記載の変速機。
【請求項5】
T型歯(4)の数をnとすると、ギア(5)の歯数は2n+1又は2n-1となり、両方とも作動可能であり、出力方向、即ちギア(5)の回転方向は異なる、請求項1に記載の変速機。
【請求項6】
ギア(5)とT型歯(4)の歯形は同じであり、いずれも円柱螺旋面であり、
前記円柱螺旋面のピッチは、駆動ディスク(3)又はT型歯(4)の軌道特徴円柱螺旋線のピッチとギア(5)の歯数との積であり、変速機の変速倍数はギア(5)の歯数と等しい、請求項1に記載の変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に関し、特に歯間の隙間(バックラッシ)が小さく、使用寿命が長く、力学特性が高い変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットジョイント変速機や多軸CNC工作機械の分野では、バックラッシュが小さく機械的性能の高い変速機は重要な機器である。従来の機器の中で、RVサイクロイドギア変速機とハーモニック変速機が最も代表的である。しかし、RVサイクロイドギア変速機では、製造材料、精度などに対する要求が極めて高く、構造が複雑で、製造コストが高い。また、このような変速機は、伝動隙間(クリアランス)を調整できず、一定期間動作したら、磨耗により変速機のクリアランスが増大し、システムの許容範囲を超えるとシステムが廃棄される。ハーモニック変速機は、フレキシブルホイールにより伝動し、フレキシブル部材の使用寿命は短く、力学的特性は低い。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、使用寿命が長く、バックラッシが小さく、性能が高い変速機を提供することである。本発明は、以下の技術的手段を採用する。
【0004】
1、外殻(1)、内殻(2)、駆動ディスク(3)、T型歯(4)、ギア(5)、T型歯ホルダー(6)、調整可能なナット(7)、ボール(8)、内軌道ボール(9)、外軌道ボール(10)、内保護ラック(11)、外保護ラック(12)、ローラー(13)、第1シールリング(14)、第2シールリング(15)、第3シールリング(16)を含む、変速機。
【0005】
2、外殻(1)の上部には、調整可能なナット(7)に螺合されるネジ山が開設され、外殻(1)の中部は、T型歯ホルダー(6)と一体に剛性接続され、外殻(1)の下部には、ローラー(13)が配置されるためのローラー軌道が開設される。
【0006】
3、内殻(2)の上部には、第2シールリング(15)が密着され、内殻(2)の下部は、ギア(5)に固定される。
【0007】
4、駆動ディスク(3)の上部には、第1シールリング(14)、第2シールリング(15)が密着され、駆動ディスク(3)の中部の外面には、ボール(8)が配置されるボール軌道が開設され、駆動ディスク(3)の下部の底面には、ボール内軌道及びボール外軌道が開設され、ボール内軌道の上面の一部には、内保護ラック(11)が取り付けられ、ボール外軌道の上面の一部には、外保護ラック(12)が取り付けられ、この2つの保護ラックは、互いに対向して配置され、内軌道ボール(9)がボール内軌道に配置され、外軌道ボール(10)がボール外軌道に配置される。
【0008】
5、内保護ラック(11)及び外保護ラック(12)は、駆動ディスク(3)に取り付けられ、ボールがT型歯(4)に接触しないように、内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)を保持する。
【0009】
6、内軌道ボール(9)は、駆動ディスク(3)に配置され、保護ラックがない部分においてT型歯(4)に接触し、外軌道ボール(10)は、駆動ディスク(3)に配置され、保護ラックがない部分においてT型歯(4)に接触する。
【0010】
7、T型歯(4)の上面には、内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)が配置されるボール軌道が開設され、T型歯(4)の中部は、T型歯ホルダー(6)を通過するようにT型歯ホルダー(6)に組み立てられ、T型歯(4)の下端部は、ギア(5)に噛み合う円柱螺旋面状歯である。
【0011】
8、ギア(5)の上面は、T型歯(4)に噛み合う円柱螺旋面状歯であり、ギア(5)の中部の外面には、ローラー(13)が配置されるローラー軌道が開設され、ギア(5)の下部の外面には、第3シールリング(16)が密着される。
【0012】
9、調整可能なナット(7)は、外殻(1)、第1シールリング(14)、ボール(8)に接触し、ナットを回転させることで変速機の内部における全ての伝動部材の隙間を調整できるように構成される。
【0013】
10、駆動ディスク(3)のボール軌道における保護ラック非取付部分及びT型歯(4)の上面におけるボール軌道の特徴曲線は、円柱螺旋線であり、内軌道と外軌道の螺旋方向が異なり、ピッチが同じであり、駆動ディスク(3)のボール軌道における保護ラック取付部分の位置が滑らかに上昇し、保護ラックと協働することにより、この部分にあるボールは滑らかに上昇してT型歯(4)との接触から離れる。
【0014】
11、T型歯(4)の数をnとすると、ギア(5)の歯数は2n+1又は2n-1となり、両方とも作動可能であり、出力方向、即ちギア(5)の回転方向は異なる。
【0015】
12、ギア(5)とT型歯(4)の歯形は同じであり、いずれも円柱螺旋面であり、前記円柱螺旋面のピッチは、駆動ディスク(3)又はT型歯(4)の軌道特徴円柱螺旋線のピッチとギア(5)の歯数との積であり、変速機の変速倍数はギア(5)の歯数と等しい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】変速機の外殻が半透明処理された変速機の斜視外観図である。
【
図4】変速機の主な部材を示す図である。A、B、C、Dは、内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)が運動する際の空間曲線変換点を示す。
【
図5】変速機の主な部材を示す図である。この図により、変速機の動作原理がより容易に理解され得る。
【
図6】内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)の実際の配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を完全に理解するために、以下、図面を参照しながら詳しく説明する。以下の図面は、本発明を制限するものではなく、解釈及び理解を容易にするためのものである。
以下、図面により本発明をさらに説明する。
本発明の図面に示されるのは、典型的な構造である。
【0018】
1、外殻(1)、内殻(2)、駆動ディスク(3)、T型歯(4)、ギア(5)、T型歯ホルダー(6)、調整可能なナット(7)、ボール(8)、内軌道ボール(9)、外軌道ボール(10)、内保護ラック(11)、外保護ラック(12)、ローラー(13)、第1シールリング(14)、第2シールリング(15)、第3シールリング(16)を含む、変速機。
【0019】
2、外殻(1)の上部には、調整可能なナット(7)に螺合されるネジ山が開設され、外殻(1)の中部は、T型歯ホルダー(6)と一体に剛性接続され、外殻(1)の下部には、ローラー(13)が配置されるためのローラー軌道が開設される。
【0020】
3、内殻(2)の上部には、第2シールリング(15)が密着され、内殻(2)の下部は、ギア(5)に固定される。
【0021】
4、駆動ディスク(3)の上部には、第1シールリング(14)、第2シールリング(15)が密着され、駆動ディスク(3)の中部の外面には、ボール(8)が配置されるボール軌道が開設され、駆動ディスク(3)の下部の底面には、ボール内軌道及びボール外軌道が開設され、ボール内軌道の上面の一部には、内保護ラック(11)が取り付けられ、ボール外軌道の上面の一部には、外保護ラック(12)が取り付けられ、この2つの保護ラックは、互いに対向して配置され、内軌道ボール(9)がボール内軌道に配置され、外軌道ボール(10)がボール外軌道に配置される。
【0022】
5、内保護ラック(11)及び外保護ラック(12)は、駆動ディスク(3)に取り付けられ、ボールがT型歯(4)に接触しないように、内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)を保持する。
【0023】
6、内軌道ボール(9)は、駆動ディスク(3)に配置され、保護ラックがない部分においてT型歯(4)に接触し、外軌道ボール(10)は、駆動ディスク(3)に配置され、保護ラックがない部分においてT型歯(4)に接触する。
【0024】
7、T型歯(4)の上面には、内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)が配置されるボール軌道が開設され、T型歯(4)の中部は、T型歯ホルダー(6)を通過するようにT型歯ホルダー(6)に組み立てられ、T型歯(4)の下端部は、ギア(5)に噛み合う円柱螺旋面状歯である。
【0025】
8、ギア(5)の上面は、T型歯(4)に噛み合う円柱螺旋面状歯であり、ギア(5)の中部の外面には、ローラー(13)が配置されるローラー軌道が開設され、ギア(5)の下部の外面には、第3シールリング(16)が密着される。
【0026】
9、調整可能なナット(7)は、外殻(1)、第1シールリング(14)、ボール(8)に接触し、ナットを回転させることで変速機の内部における全ての伝動部材の隙間を調整できるように構成される。
【0027】
10、駆動ディスク(3)のボール軌道における保護ラック非取付部分及びT型歯(4)の上面におけるボール軌道の特徴曲線は、円柱螺旋線であり、内軌道と外軌道の螺旋方向が異なり、ピッチが同じであり、駆動ディスク(3)のボール軌道における保護ラック取付部分の位置が滑らかに上昇し、保護ラックと協働することにより、この部分にあるボールは滑らかに上昇してT型歯(4)との接触から離れる。
【0028】
11、T型歯(4)の数をnとすると、ギア(5)の歯数は2n+1又は2n-1となり、両方とも作動可能であり、出力方向、即ちギア(5)の回転方向は異なる。
【0029】
12、ギア(5)とT型歯(4)の歯形は同じであり、いずれも円柱螺旋面であり、前記円柱螺旋面のピッチは、駆動ディスク(3)又はT型歯(4)の軌道特徴円柱螺旋線のピッチとギア(5)の歯数との積であり、変速機の変速倍数はギア(5)の歯数と等しい。
【0030】
図5を主として全ての図面を観察すると、駆動ディスク(3)が反時計回りに回転する際に、正面の外軌道ボール(10)には下向きの動きがあり、この方向の動きがT型歯(4)に伝達されることで、T型歯(4)は下向きにギア(5)を反時計回りに回転させる。一方、背面の場合、ギア(5)が反時計回りに回転することでT型歯(4)は上向きに動き、内軌道ボール(9)を駆動ディスク(3)に接近するように移動させる。観察を容易にするために、
図5には1つのボールのみが示されている。
図6には、内外軌道における全てのボールが示されている。
【0031】
図1を主として全ての図面を観察すると、
図1における左側の内保護ラック(11)にある内軌道ボール(9)は、保護ラックによって保持され、T型歯(4)に接触しない。ここは、外軌道ボール(10)によって伝動される。右側の外保護ラック(12)では、内軌道ボール(9)によって伝動され、外軌道ボール(10)は保持される。
図4を観察すると、T型歯(4)がギア(5)に噛み合う場合、右側の外軌道では、両T型歯は互いに滑らかに段差がない一方、左側では段差がある。内軌道は、逆である。そのため、滑らかに整列する部分のみにおいてボールを動作させて伝動することができる。変速機の動作をよりスムーズにするために、外軌道のAB部分段及び内軌道のCD部分のみにより伝動し、保護ラック取付部分を伝動に関与させない。曲線AB、曲線CDは軌道の特徴曲線であり、両方とも円柱螺旋線であり、ピッチが同じ、螺旋方向が逆である。例えば、ABは右螺旋、CDは左螺旋である。保護ラック部分の軌道の曲線は、特に制限がないが、非保護ラック部分に滑らかに接続され、ボールをT型歯との接触から離れるようにガイドすればよい。T型歯(4)の上面にある2本の軌道の螺旋方向は逆であるため、いずれかの時点でも1本の軌道のみが伝動に関与する。T型歯(4)とギア(5)の噛合面は円柱螺旋面であり、T型歯とギアとの噛合は真の面噛合である(
図5)。この螺旋面のピッチは、T型歯(4)の上面にある軌道における円柱螺旋線のピッチとギア(5)の歯数との積に等しい。
【0032】
本発明の変速機は、調整可能なナット(7)を調整してボール(8)を締め付けることで駆動ディスク(3)を締め付け、これにより、内軌道ボール(9)及び外軌道ボール(10)を締め付け、ひいてはT型歯(4)を締め付け、さらにギア(5)及びT型歯ホルダー(6)を締め付け、さらにローラー(13)を締め付け、最後に外殻(1)を締め付け、これによって力の伝達が実現され、全ての部件間の伝動隙間(クリアランス)が解消される。変速機を製造した後、調整可能なナット(7)を段階的に調整して磨り減り、自己磨り減りにより自体の精度を向上させ、製造精度の要求を低減できる。使用過程において、必要に応じて隙間を調整して摩耗を制御することにより、従来の精密変速機よりも遥かに長い使用寿命が得られる。
【0033】
本発明の変速機では、全ての部材は、中心から遠い端に配置され、構造が簡単でコンパクトであり、力の伝達距離が短く、剛性が高く、大きな中空構造を実現することができ、ロボットの接合部での配線に非常に便利である。精密多軸工作機械の場合、より多くの形状のワークピース又は部材の取付を実現可能である。
【0034】
本発明の変速機では、全てのボール部材は、必要に応じてローラー部材に変更することができる。前記T型歯軌道及び駆動ディスク軌道は、必要な場合に他列の軌道に変更することができ、伝動原理には変わりがない。