(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20240117BHJP
F16J 15/06 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
F16J15/08 H
F16J15/06 P
(21)【出願番号】P 2022526602
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2021019926
(87)【国際公開番号】W WO2021241615
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020093376
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】相原 主弥
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156448(JP,A)
【文献】特開2002-195099(JP,A)
【文献】特開2013-061002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 - 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の金属基板と、前記金属基板の少なくとも一部を覆う弾性体によって形成された被覆層とを備え
、2つの部材の間に挟持されるガスケットであって、
前記金属基板は、互いに背向する一対の面を有しており、また、該一対の面の一方が面する側へ凸に突出する部分であるビード部と、該ビード部の内周側の縁から延びる部分である内周部と、
前記2つの部材の間に挟持されて取り付けられる前の自由状態において前記ビード部の外周側の縁から延びる外周部とを有しており、
前記外周部は、前記ガスケットが取付対象の
前記2つの部材の間に挟持されて取り付けられる前の自由状態において、前記ビード部の外周側の縁から外周側に向かって延び、前記ビード部が突出する方向
に対して反対となる前記一対の面の他方が面する側に
向かって斜めに延びていることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記外周部は、前記ビード部が突出する方向に対して直交する平面に沿って延びていることを特徴とする請求項1記載のガスケット。
【請求項3】
前記外周部は、前記他方の面の面する側に突出する、前記ビード部の曲率よりも曲率が小さい曲面に沿って延びていることを特徴とする請求項1記載のガスケット。
【請求項4】
前記内周部は、前記ビード部が突出する方向に対して前記一対の面の他方が面する側に向かって斜めに延びていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のガスケット。
【請求項5】
前記内周部の少なくとも一部は、前記ビード部に関して、前記外周部の少なくとも一部と対称に形成されていることを特徴とする請求項4記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットに関し、特に、車両や汎用機械等において用いられるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
車両や汎用機械、例えば自動車において、エンジンや、電子部品を内部に収容する装置等には、筐体を密封するためにガスケットが用いられている。ガスケットは、例えば組み合わされて筐体を形成する一対の部材の間に圧縮された状態で挟まれることによって弾塑性変形し、この一対の部材間の密封を図り、筐体の密閉を図る。自動車は海浜地帯や融雪剤が散布されている地帯を走行することがあり、このとき、自動車の部品に塩水や融雪剤が付着し、ガスケットを挟圧する部材間の隙間に塩水や融雪剤が進入し滞留することがある。この滞留した塩水又は融雪剤によってガスケットを挟圧する部材に腐食が発生することがある。ガスケットを挟圧する部材がアルミニウム合金から形成されている場合、アルミニウムはイオン化傾向が高いため、ガスケットを挟圧する部材は、滞留した塩水又は融雪剤によって腐食しやすい。この腐食された部分がガスケットのシールラインを超えた場合、ガスケットの密封機能は低下し又は消滅してしまう。このため、ガスケットが用いられている部品に対しては、予め塩水噴霧試験が行われて、耐腐食性能の評価がなされている。塩水噴霧試験においては、ガスケットが取り付けられた部品において、ガスケットを挟圧する部材間の隙間に塩水を滞留させ、この部品を乾燥状態と湿潤状態とに交互に繰り返しおき、塩水に対する耐腐食性能の評価が行われる。
【0003】
このように、塩水や融雪剤等の腐食性を有する異物によるガスケットの密封性能の低下を抑制するために、ガスケットを挟圧する部材が腐食性の異物によって腐食しないことが好ましく、ガスケットを挟圧する部材の腐食性の異物による腐食を抑制するためのガスケットの構造が従来から提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、
図9に示すように、2つの金属ガスケット101が互いに対向して一対の部材120,121間に挟圧されて使用されるガスケット構造100が開示されている。この金属ガスケット101は、挟圧されていない自由状態において、互いに平行に延びる内周部103及び外周部104と、内周部103及び外周部104の間に斜めに延びるビード部105とによって形成された金属基板102と、金属基板102の上面及び下面を覆うゴム層106とを有する。ガスケット構造100においては、
図9に示すように、上側の金属ガスケット101の外周部104が上側の部材120にゴム層106を介して接触し、下側の金属ガスケット101の外周部104が下側の部材121にゴム層106を介して接触して、一対の部材120,121の間において塩水等の腐食性の異物が滞留する空間を減少させ、部材120,121の腐食性の異物による腐食の抑制を図っている。
【0005】
また、特許文献2には、
図10に示すように、金属基板111と、金属基板111の上下面を覆うゴム層116とを備えるガスケット110が開示されている。ガスケット110において、金属基板111は、自由状態において互いに平行に延びる内周部112及び外周部113と、内周部112及び外周部113の間に延びる上方に突出するフルビード形状のビード部114と、外周部113の外周側端部が下方に折り曲げられて形成された曲げ加工部115とを有している。取付状態においてガスケット110は、
図11に示すように、一対の部材120,121の間に挟圧されて、外周部113の外周側端とビード部114とが上側の部材120にゴム層116を介して接触し、外周部113の内周側端、内周部112の外周側端、及び曲げ加工部115の外周側端が下側の部材121にゴム層116を介して接触する。このように、ガスケット110は、一対の部材120,121の間において塩水等の腐食性の異物が滞留する空間を減少させ、部材120,121の腐食の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-36607号公報
【文献】特開2013-61002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来のガスケット構造100やガスケット110によって、これらを挟圧する部材120,121の腐食の抑制を図ることはできる。しかしながら、ガスケット構造100は取付状態において、一対の金属ガスケット101が対向されて挟圧されるため、挟圧された一対の金属ガスケット101の反力は大きく、部材120,121を締結するために大きな締結力が必要であった。また、ガスケット110は取付状態において、フルビード形状のビード部114及び曲げ加工部115が圧縮されて挟圧されるため、挟圧されたガスケット110の反力は大きく、部材120,121を締結するために大きな締結力が必要であった。このように、従来のガスケットには取り付けられる部材の腐食の低減を図ることができるものはあるが、部材を締結するために大きな締結力を必要とするものであった。
【0008】
このため、従来のガスケットに対しては、取付状態における反力を低減させつつ、塩水や融雪剤等の腐食性を有する異物によるシール性能の低下を抑制することができる構造が求められていた。また、従来のガスケットに対しては、腐食性を有する異物が滞留し得るガスケットを挟圧する部材間の隙間を更に減少させることができる構造が求められていた。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、取付状態における反力を低減させつつ、塩水や融雪剤等の腐食性を有する異物によるシール性能の低下を防止することができるガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るガスケットは、金属製の金属基板と、前記金属基板の少なくとも一部を覆う弾性体によって形成された被覆層とを備えるガスケットであって、前記金属基板は、互いに背向する一対の面を有しており、また、該一対の面の一方が面する側に突出する部分であるビード部と、該ビード部の内周側の縁から延びる部分である内周部と、前記ビード部の外周側の縁から延びる外周部とを有しており、前記外周部は、前記ビード部が突出する方向に対して前記一対の面の他方が面する側に斜めに延びていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係るにガスケットにおいて、前記外周部は、平面に沿って延びている。
【0012】
本発明の一態様に係るにガスケットにおいて、前記外周部は、前記他方の面の面する側に突出する、前記ビード部の曲率よりも曲率が小さい曲面に沿って延びている。
【0013】
本発明の一態様に係るにガスケットにおいて、前記内周部は、前記ビード部が突出する方向に対して前記一対の面の他方が面する側に斜めに延びている。
【0014】
本発明の一態様に係るにガスケットにおいて、前記内周部の少なくとも一部は、前記ビード部に関して、前記外周部の少なくとも一部と対称に形成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るガスケットによれば、取付状態における反力を低減させつつ、塩水や融雪剤等の腐食性を有する異物によるシール性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るガスケットの概略構造を示すための平面図である。
【
図2】
図1に示すガスケットの線A-Aに沿う断面における断面図である。
【
図3】
図2に示すガスケットの外周部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図4】
図2に示すガスケットの内周部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図5】取付過程における
図1に示すガスケットの様子を示す断面図である。
【
図6】取付状態における
図1に示すガスケットの様子を示す断面図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態に係るガスケットの変形例を示す線A-Aに沿う断面図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係るガスケットの他の変形例を示す線A-Aに沿う断面図である。
【
図9】従来のガスケットの概略構造を示すための部分断面図である。
【
図10】従来の他のガスケットの概略構造を示すための部分断面図である。
【
図11】取付状態における従来の他のガスケットの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るガスケット1の概略構造を示すための平面図であり、
図2は、
図1に示すガスケット1の断面を示す断面図であり、ガスケット1の延び方向に直交する線A-Aに沿う断面(以下、単に断面ともいう。)を示している。ガスケット1は、車両や汎用の産業機械等に用いられ、2つの部材間において挟圧されて弾塑性変形し、2つの部材間を密封するために用いられる。ガスケット1は、例えば、自動車のエンジンルーム内等において、電子部品等を収容する筐体を形成する2つの部材間に挟圧されて、筐体を密封し、塩水や融雪剤等の腐食性を有する異物からの電子部品等の遮断を図る。
図1,2においては、部材間に挟圧されていない、自由状態におけるガスケット1が図示されている。
【0019】
図1,2に示すように、ガスケット1は、金属製の金属基板10と、金属基板10の少なくとも一部を覆う弾性体によって形成された被覆層20とを備えるガスケットである。金属基板10は、互いに背向する一対の面11,12を有しており、また、一対の面の一方(面11)が面する側に突出する部分であるビード部13と、ビード部13の内周側の縁から延びる部分である内周部14と、ビード部13の外周側の縁から延びる外周部15とを有している。外周部15は、ビード部13が突出する方向に対して一対の面の他方(面12)が面する側に斜めに延びている。以下、ガスケット1について具体的に説明する。
【0020】
なお、内周側とは、
図2に示すように、環状のガスケット1が囲む閉ざされた空間側(内部側)であり、外周側とは、
図2に示すように、環状のガスケット1によって閉ざされていない空間側であり、内部側とは反対側の外部側である。また、説明の便宜上、
図2において上側を上側とし、下側を下側とする。上側、下側は、説明の便宜上用いるものであり、ガスケット1の取付姿勢を特定するものではない。
【0021】
図1に示すように、ガスケット1は、環状に延びる平板状の部材であり、より具体的には、平面視において矩形の環状に延びるように形成されている。ガスケット1の平面視における形状は矩形に限られず、他の形状であってもよい。また、ガスケット1には、取付対象である2つの部材を締結してこの部材間においてガスケット1が挟持されるようにするためのボルトが挿通される貫通孔であるボルト孔30が形成されている。
【0022】
金属基板10は、具体的には、その厚さが一様又は略一様であり、弾性を有する金属材から形成された板状の部材である。金属基板10は、ガスケット1を形作っており、本実施の形態においては、平面視において矩形の環状に延びるように形成されている。金属基板10は、一枚の弾性を有する金属板から形成されていてもよく、または、複数枚の弾性を有する金属板が積層されて重ね合わされて形成されていてもよい。金属基板10の金属材としては、ステンレス鋼、冷間圧延鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム合金等が用いられる。ビード部13、内周部14、及び外周部15は、金属板がプレス加工や鍛造によって加工されることにより形成され、同一の金属材から互いに一体に形成されている。
【0023】
また、金属基板10は、上述の一対の面である上面11及び下面12を有している。上面11及び下面12は、
図2に示すように、金属基板10の厚さ方向において互いに背向しており、上面11は上側に面しており、下面12は下側に面している。また、断面において、上面11及び下面12の描く輪郭は、金属基板10の厚み方向の中央を結ぶ中心線に関して対称又は略対称となっている。
【0024】
ビード部13は、上面11が面する上側に突出する金属基板10の部分であり、ガスケット1においてビードを形成している。具体的には、
図2に示すように、ビード部13は、ビード部13の突出方向に延びる線である突出方向線xにおいて上側に向かって突出しており、上面11が上側に凸の曲面を形成しており、下面12が上側に凹の凹面を形成している。ビード部13は、断面において、例えば一様の曲率の円弧に沿って延びている。ビード部13は、断面において、一様の曲率の円弧に沿って延びていなくてもよい。
【0025】
図2に示すように、断面においてビード部13は、突出方向線xに関して対称又は略対称の形状となっている。断面においてビード部13は、突出方向線xに関して対称の形状となっていなくてもよい。断面においてビード部13が、突出方向線xに関して対称の形状となっていない場合は、突出方向線xは、ビード部13の頂部13cに直交する線(法線)とすることができる。なお、ビード部13の頂部13cは、ビード部13の突出方向において、ビード部13の最も上側に位置する部分、又はこの部分とその近傍の部分である。
【0026】
外周部15は、
図1,2に示すように、ビード部13の外周側の縁(外周縁13a)から外周側に向かって所定の幅延びている。外周部15は、上述のように、ビード部13が突出する方向(突出方向線x)に対して下側に斜めに延びている。つまり、外周部15は、テーパ部となっている。具体的には、
図2に示すように、外周部15は、平面に沿って延びており、例えば、断面において外周部15は、ビード部13の外周縁13aから直線状に延びている。また、断面において外周部15は、突出方向線xに対して下側に斜めに延びている。より具体的には、
図3に示すように、断面において外周部15の厚み方向の中央を結ぶ線である延び方向線l1は、直線であり、延び方向線l1と突出方向線xとの下側の挟角αは、90°よりも小さくなっている。
【0027】
外周部15は、上述のように直線状に延びていなくてもよい。具体的には、外周部15の延び方向に延びる延び方向線l1は、直線ではなく略直線となっていてもよい。この場合も、上述のように、外周部15は、ビード部13が突出する方向(突出方向線x)に対して下側に斜めに延びるようになっている。つまり、
図3に示すように断面において、外周部15の延び方向線l1と突出方向線xとの下側の挟角αは、90°よりも小さくなっている。
【0028】
内周部14は、外周部15と同様に、テーパ部を形成しており、
図1,2に示すように、ビード部13の内周側の縁(内周縁13b)から内周側に向かって所定の幅延びており、また、ビード部13が突出する方向(突出方向線x)に対して下側に斜めに延びている。具体的には、
図2に示すように、内周部14は、平面に沿って延びており、例えば、断面において内周部14は、ビード部13の内周縁13bから直線状に延びている。また、断面において内周部14は、突出方向線xに対して下側に斜めに延びている。より具体的には、
図4に示すように、断面において内周部14の厚み方向の中央を結ぶ線である延び方向線l2は、直線であり、延び方向線l2と突出方向線xとの下側の挟角βは、90°よりも小さくなっている。
【0029】
内周部14は、上述のように直線状に延びていなくてもよい。具体的には、内周部14の延び方向に延びる延び方向線l2は、直線ではなく略直線となっていてもよい。この場合も、上述のように、外周部15は、ビード部13が突出する方向(突出方向線x)に対して下側に斜めに延びるようになっている。つまり、
図4に示すように断面において、内周部14の延び方向線l2と突出方向線xとの下側の挟角βは、90°よりも小さくなっている。
【0030】
ガスケット1においては、内周部14の少なくとも一部は、ビード部13に関して、外周部15の少なくとも一部と対称に形成されている。具体的には、内周部14の延び方向(延び方向線l2方向)の長さは、外周部15の延び方向(延び方向線l1方向)の長さよりも長くなっており、
図2に示すように断面において、内周部14のビード部13側の一部が、突出方向線xに関して、外周部15の全体と対称になっている。また、外周部15と内周部14とは、互いに同様に突出方向線xに対して傾斜しており、外周部15の延び方向線l1と突出方向線xとの間の挟角αは、内周部14の延び方向線l2と突出方向線xとの間の挟角βと同じ角度になっている。
【0031】
内周部14の延び方向の長さと、外周部15の延び方向の長さとは同一の長さであってもよい。この場合、断面において、内周部14の全体と外周部15の全体とが、突出方向線xに関して対称となる。また、外周部15の延び方向の長さは、内周部14の延び方向の長さよりも長くなっており、断面において、外周部15のビード部13側の一部が、突出方向線xに関して、内周部14の全体と対称になっていてもよい。また、外周部15と内周部14とは、互いに同様に突出方向線xに対して傾斜していなくてもよく、外周部15の延び方向線l1と突出方向線xとの間の挟角αは、内周部14の延び方向線l2と突出方向線xとの間の挟角βと同じ角度になっていなくてもよい。例えば、外周部15の延び方向線l1と突出方向線xとの間の挟角αは、内周部14の延び方向線l2と突出方向線xとの間の挟角βよりも大きくても小さくてもよい。
【0032】
被覆層20は、上述のように、金属基板10の少なくとも一部を覆う弾性体である。本実施の形態においては、
図2に示すように、被覆層20は、金属基板10の上面11全体及び下面12全体を覆っている。つまり、被覆層20は、ビード部13、内周部14、及び外周部15を上側及び下側から夫々一体で覆っている。被覆層20は、内周部14の内周側の縁(内周縁14a)と、外周部15の外周側の縁(外周縁15a)とを覆っていない。なお、被覆層20は、内周部14の内周縁14aの一部を又は全部を覆っていてもよく、また、被覆層20は、外周部15の外周縁15aの一部を又は全部を覆っていてもよい。
【0033】
被覆層20を形成する弾性体としては、合成ゴムから作られた弾性体がある。合成ゴムとしては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、及びシリコンゴムのうちの少なくとも1つを含む合成ゴムがある。被覆層20は、
図2に示すように、断面における厚さが一様又は略一様であり、膜状又はシート状に形成されて金属基板10に取り付けられている。また、被覆層20の弾性体は発砲ゴムであってもよい。
【0034】
被覆層20は、例えば接着剤によって金属基板10に取り付けられている。金属基板10と接着剤の層との間には、金属基板10の表面が下地処理されて形成された下地処理層が形成されていてもよい。この下地処理としては、例えばリン酸亜鉛処理がある。
【0035】
ガスケット1において、ボルト孔30が形成されている部分の周辺は、
図1に示すように、その幅が他の部分よりも広くなっている。ボルト孔30は、外周部15の外周縁15aから外周側に延びる金属基板10の部分であるボルト孔片16に形成されている。ボルト孔片16は、
図1に示すように、ボルト孔30が形成可能な大きさに広がっている。ガスケット1は、ガスケット1の延び方向に直交する断面の形状が、ボルト孔片16が形成されている部分を除いて、ガスケット1の延び方向において一様又は略一様となるように形成されている。なお、ガスケット1は、ボルト孔片16が形成されていない部分において、ガスケット1の延び方向に直交する断面の形状がガスケット1の延び方向において一様となっていない部分があってもよい。
【0036】
次いで、ガスケット1の作用について説明する。
図5は、取付対象への取り付け過程におけるガスケット1の様子を示す断面図であり、
図6は、取付対象に取り付られた取付状態におけるガスケット1の様子を示す断面図である。取付状態において、ガスケット1は、取付対象の2つの部材70,71の間に挟持されており、部材70,71の間において挟圧されて弾塑性変形し、部材70,71の間を密封している。具体的には、部材70に形成された平面70aと部材71に形成された平面71aとが互いに対向した状態で部材70と部材71とが締結され、平面70aと平面71aとの間においてガスケット1は挟圧されて弾塑性変形する。部材70,71は、例えば、エンジンのシリンダブロック及びシリンダヘッド、シリンダブロック及びオイルパン、燃料電池スタックのケース、その他の装置の筐体を形成する部材等であり、平面70a,71aは、例えば、部材70,71に形成されたフランジ部に形成されている。
【0037】
ガスケット1は、部材70,71が締結されていく取付過程において、
図2に示す自由状態から弾塑性変形していき、部材70,71との接触部(シールライン)において所望の接触圧力が発生するまで締結が行われる。締結は、例えば、ボルトを螺合させることによって行われる。
【0038】
取付過程において、部材70,71が締結されていき、ビード部13が被覆層20を介して上側の部材70の平面70aに接触(面接触)して下方(
図5の矢印z1方向)に押圧される。また、外周部15の下面12における外周縁15a及びその近傍(以下、外周端部15bという。)が被覆層20を介して下側の部材71の平面71aに接触して上方(
図5の矢印z2方向)に押圧される。また、内周部14の下面12における内周縁14a及びその近傍(以下、内周端部14bという。)が被覆層20を介して部材71の平面71aに接触して上方(
図5の矢印z2方向)に押圧される。これにより、
図5に示すように、金属基板10が弾塑性変形していき、ビード部13が外周側及び内周側に延びていき、内周部14及び外周部15のビード部13に対する(突出方向線xに対する)傾斜が増えていき、つまり挟角α,βが増えていき、金属基板10の高さが減少していく。なお、金属基板10の高さとは、突出方向線x方向における金属基板10の高さである。
【0039】
締結過程において、部材70,71の締結力、即ちボルトの軸力が所定の設定値になるとガスケット1が所望の反力を発生した状態となり、部材70,71の締結が完了してガスケット1は取付状態となる。この取付状態の時、
図6に示すように、ビード部13の頂部13c及びその近傍における上側の被覆層20が平面70aに接触し、ビード部13の外周縁13a及びその近傍における下側の被覆層20と、ビード部13の内周縁13b及びその近傍における下側の被覆層20とが、平面71aに接触した状態(全圧縮状態)となっている。これにより、全圧縮状態においては、
図6に示すように、ビード部13によって3つのシールラインs1,s2,s3が形成される。シールラインs1は、ビード部13の頂部13c及びその近傍における上側の被覆層20と平面70aとの間の接触によって形成されるシールラインである。シールラインs2は、ビード部13の外周縁13a及びその近傍における下側の被覆層20と平面71aとの間の接触によって形成されるシールラインである。シールラインs3は、ビード部13の内周縁13b及びその近傍における下側の被覆層20と平面71aとの間の接触によって形成されるシールラインである。
【0040】
これにより、ガスケット1は、取付状態において、平面70aと平面71aとの間を密封し、内周側から平面70a,71a間の隙間を介して、部材70,71内部の物体、例えば潤滑油等が漏れ出ることを防止しており、外周側から平面70a,71a間の隙間を介して雨水やダスト等が侵入することを防止している。
【0041】
また、この全圧縮状態となった取付状態において、
図6に示すように、外周部15の外周端部15bにおける上側の被覆層20は、隙間を形成することなく平面70aに接触しており、また、外周部15の外周端部15bにおける下側の被覆層20は、隙間なく又はほとんど隙間を形成することなく平面71aと接触している。これは、ガスケット1の自由状態において、ビード部13に接続する外周部15が、ビード部13の突出方向線xに対して下側に傾斜しており、テーパ部を形成しているからである。このため、全圧縮状態の取付状態においても、外周端部15b特に外周縁15aにおける下側の被覆層20が平面71aから浮き上がる程に外周部15が突出方向線xに対して上側に傾斜することはなく、外周端部15b特に外周縁15aにおける下側の被覆層20が平面71aから浮き上がるガスケット1の跳ね上がりが抑制できる。
【0042】
より詳細には、自由状態において、外周部15は突出方向線xに対して下側に傾斜しており、このため、部材70,71の締結過程においてビード部13が圧縮されて高さが減少していっても、
図5に示すように、外周部15は下側に傾斜した状態を維持することができる。このため、部材70,71の締結過程において、外周部15の外周端部15bにおける下側の被覆層20が平面71aへの接触を維持し続けることができる。また、全圧縮状態の取付状態においても、外周部15は下側に傾斜した状態を維持し、または、外周部15は突出方向線xに対して直交する状態となり、または、外周端部15b特に外周縁15aにおける下側の被覆層20が平面71aから浮き上がない程に外周部15が突出方向線xに対して上側に傾斜した状態となり、外周部15の外周端部15bにおける下側の被覆層20が平面71aへの接触を維持し続ける。このように、外周端部15b特に外周縁15aにおける下側の被覆層20が平面71aから浮き上がるガスケット1の跳ね上がりが防止され、ガスケット1の外周側の端部(外周端部15b)と平面70a,71aとの間に隙間が形成されない。一方、全圧縮状態の取付状態において、ガスケット1の外周側の端部(外周端部15b)と上側の平面70aとの間に隙間が形成されることはない。このため、ガスケット1は、部材70,71の間の外周側に空間が形成されないようにすることができ、シールラインs1,s2の外周側に塩水や融雪剤等の腐食性の異物が進入することをなくすことができる。
【0043】
また、外周部15の延び方向の長さや、外周部15の傾斜角度(挟角α)、ビード部13の形状等によっては、全圧縮状態の取付状態において、外周部15が下側に傾斜した状態を維持することができず、又は外周部15が突出方向線xに対して直交する状態となることができず、外周部15が上側に傾斜した状態となることがある。しかしながら、上述のように、自由状態において外周部15は下側に傾斜したテーパ部を形成しているため、上述の場合と同様に圧縮過程における外周部15の跳ね上がりが抑制され、全圧縮状態の取付状態において、外周部15が上側に傾斜した状態となったとしても、外周部15を突出方向線xに対して大きく上側に傾斜しない状態に維持することができる。このため、ガスケット1の外周側の端部と平面71aとの間に隙間が形成されたとしても、この隙間は極微小な隙間となり、この隙間に腐食性の異物が進入することはなく、または、この隙間に腐食性の異物が進入したとしても滞留する異物を極少量とすることができる。一方、この場合も、全圧縮状態の取付状態において、ガスケット1の外周側の端部(外周端部15b)と上側の平面70aとの間に隙間が形成されることはない。このため、シールラインs1,s2の外周側に腐食性の異物が進入すること抑制することができる。また、シールラインs1,s2の外周側に腐食性の異物が滞留することを抑制することができ、または、腐食性の異物がシールラインs1,s2の外周側に滞留したとしても、滞留する異物の量を極めて少量にすることができる。
【0044】
このように、ガスケット1は、外周部15によって、外周側において部材70と部材71との間に形成される外部に連通する空間を減らすことができ、または、このような外部に連通する空間をなくすことができる。このため、ガスケット1によれば、外周部15によって、腐食性の異物がシールラインs1,s2の外周側において取付対象の部材70,71の平面70a,70bを腐食することを防止することができ、シールラインs1~s3が腐食によって断たれることを防止することできる。これにより、塩水や融雪剤等の腐食性を有する異物によるシール性能の低下を防止することができる。特に、部材70,71が塩水等により腐食されやすいADC12等のアルミニウム合金の場合、ガスケット1は好適である。
【0045】
また、自由状態において、外周部15は突出方向線xに対して下側に傾斜しているため、ガスケット1の高さは、ビード部13の高さと外周部15の傾斜に基づく高さとを加えたものとなっている。このため、従来の同じ高さを有するガスケットのビードの高さよりも、ガスケット1のビード部13の高さは低くなっている。このため、全圧縮状態の取付状態においてビード部13が発生する反力を小さくすることができ、取付対象の部材70,71を全圧縮状態にするための締結力を低減させることができる。
【0046】
また、内周部14も外周部15と同様に突出方向線xに対して下側に傾斜しているため、内周部14は、上述の外周部15と同様に取付過程及び取付状態において夫々作用し、外周部15の奏する効果と同様の効果を奏する。これにより、シールラインs1,s3の内周側において、平面70a,71aの間を密封することができ、内周側の密封対象物に対してもシール性能を向上させることができる。
【0047】
また、外周側のシールラインs2を超えて内部に腐食性を有する異物が進入することがあったとしても、内部のシールラインs3によって異物の更なる進入を防止することができ、部材71の塩水等による腐食の拡大を抑制することができる。同様に、たとえ内周部14によるシールラインs3を超えて外部に液体等が漏れ出たとしても、シールラインs2によって漏れ出した液体の更なる漏れの防止を図ることができる。
【0048】
このように、本発明の実施の形態に係るガスケット1によれば、取付状態におけるガスケット1の反力を低減させつつ、塩水や融雪剤等の腐食性を有する異物によるシール性能の低下を抑制することができる。
【0049】
上述のように、自由状態における、外周部15の延び方向の長さや、外周部15の傾斜角度(挟角α)、ビード部13の形状等によって、取付状態における、外周部15の姿勢が変わってくる。このため、取付状態において、外周部15が下側に傾斜した状態を維持するように、または、外周部15が突出方向線xに対して直交する状態となるように、または、外周端部15b特に外周縁15aにおける下側の被覆層20が平面71aから浮き上がない程に外周部15が突出方向線xに対して上側に傾斜した状態となるように、自由状態における、外周部15の延び方向の長さや、外周部15の傾斜角度、ビード部13の形状等を設定することが好ましい。内周部14においても同様である。
【0050】
次いで、上述の本発明の実施の形態に係るガスケット1の変形例について説明する。
図7は、ガスケット1の変形例を示す線A-Aに沿う断面図である。
図7に示すように、外周部15は、平面に沿って延びておらず、下側に突出するように曲がる曲面に沿って延びていてもよい。具体的には、外周部15は、下側に突出する、断面においてビード部13の曲率よりも曲率が小さい曲面に沿って延びていてもよい。つまり、
図7に示すように、外周部15の延び方向線l1は、下側に凸の曲線を描いていてもよい。但し、外周部15の曲がり具合は、例えば延び方向線l1の曲率は、上述のようにガスケット1の跳ね上がりが発生しないように設定される。また、
図7に示すように、内周部14も、この変形例における外周部15と同様に、下側に突出するように曲がる曲面に沿って延びていてもよい。この場合もガスケット1は上述の作用効果を奏する。
【0051】
また、外周部15は、平面に沿って延びておらず、
図7に示す外周部15の突出方向とは逆に、上側に突出するように曲がる曲面に沿って延びていてもよい。具体的には、外周部15は、上側に突出する、断面においてビード部13の曲率よりも曲率が小さい曲面に沿って延びていてもよい。この場合も、外周部15の曲がり具合は、例えば延び方向線l1の曲率は、上述のようにガスケット1の跳ね上がりが発生しないように設定される。また、内周部14も、同様に、上側に突出するように曲がる曲面に沿って延びていてもよい。この場合もガスケット1は上述の作用効果を奏する。また、内周部14及び外周部15のいずれか一方が上側に突出するように曲がる曲面に沿って延びており、他方が下側に突出するように曲がる曲面に沿って延びていてもよい。
【0052】
また、
図8に示すように、ガスケット1の内周部14は、自由状態において、テーパ部を形成しておらず、突出方向線xに対して直交又は略直交する平面に沿って延びていてもよい。つまり、自由状態におけるガスケット1において、内周部14の延び方向線l2と突出方向線xとの間の挟角βは90°又は略90°であってもよい。この場合もガスケット1の外周部15は上述の作用効果を奏する。また、内周部14及び外周部15のいずれか一方が上述のように平面状に延びており(
図2参照)、他方が上述のように曲面状に延びて(
図7参照)いてもよい。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ、製造法等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0054】
例えば、被覆層20は、上述のように、金属基板10の上面11及び下面12の各々の全体に設けられておらず、上面11又は下面12はその一部にのみ被覆層20が設けられていてもよく、また、上面11及び下面12夫々一部にのみ被覆層20が設けられていてもよい。この場合も、被覆層20は、外周部15の外周端部15b、及びシールラインs1~s3を形成する部分において、上面11及び下面12に設けられている。
【符号の説明】
【0055】
1,110…ガスケット、10,102,111…金属基板、11…上面(一対の面の一方)、12…下面(一対の面の他方)、13…ビード部、13a…外周縁、13b…内周縁、13c…頂部、14,103,112…内周部、14a…内周縁、14b…内周端部、15,104,113…外周部、15a…外周縁、15b…外周端部、16…ボルト孔片、20…被覆層、30…ボルト孔、70,71,120,121…部材、70a,71a…平面、100…ガスケット構造、101…金属ガスケット、105,114…ビード部、106,116…ゴム層、115…曲げ加工部、l1,l2…延び方向線、s1~s3…シールライン、x…突出方向線、α,β…挟角