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特許7421648ポリプロピレン組成物、その製造方法及び使用
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  • 特許-ポリプロピレン組成物、その製造方法及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ポリプロピレン組成物、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240117BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240117BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20240117BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240117BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20240117BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240117BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240117BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08L51/08
C08K3/22
C08K3/40
C08K3/34
C08K3/013
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022537111
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 CN2020124014
(87)【国際公開番号】W WO2021120864
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】201911303504.X
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520070792
【氏名又は名称】金発科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】KINGFA SCI. & TECH. CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.33 Kefeng Road, Science City, Hi-Tech Industrial Development Zone, Guangzhou, Guangdong 510663, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】蘇 娟霞
(72)【発明者】
【氏名】楊 波
(72)【発明者】
【氏名】黄 険波
(72)【発明者】
【氏名】葉 南▲ビャオ▼
(72)【発明者】
【氏名】雷 亮
(72)【発明者】
【氏名】彭 莉
(72)【発明者】
【氏名】盧 朝亮
(72)【発明者】
【氏名】陳 業中
(72)【発明者】
【氏名】羅 忠富
(72)【発明者】
【氏名】丁 正亜
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102020809(CN,A)
【文献】特開2018-111795(JP,A)
【文献】特開2000-232950(JP,A)
【文献】特開2005-35260(JP,A)
【文献】国際公開第2019/190068(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00- 23/36
C08L 51/00- 51/10
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分として、
ポリプロピレン樹脂40~99重量部と、
エチレン-αオレフィン共重合体15~30重量部と、
抗菌剤0.2~1重量部と、
ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサン1~3重量部と
を含む、ことを特徴とするポリプロピレン組成物。
【請求項2】
抗菌剤の使用量が0.2~0.4重量部である、ことを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項3】
前記エチレン-αオレフィン共重合体は、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体から選ばれる少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項4】
前記エチレン-αオレフィン共重合体の溶融指数が5~30g/10min(190℃、2.16kg)である、ことを特徴とする請求項3に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項5】
前記抗菌剤は酸化亜鉛、ゼオライトに担持された銀イオン又はガラス基材に担持された銀イオンから選ばれる少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項6】
前記ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンは、グラフト率60%~80%、分子量600,000~800,000である、ことを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項7】
フィラー0~30重量部をさらに含み、
前記フィラーはタルカムパウダ、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、硫酸バリウム、雲母、マイクロシリカ、シリカ、水酸化マグネシウム、モンモリロナイトから選ばれる少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項8】
助剤0~10重量部をさらに含み、
前記助剤は、潤滑剤、トナーから選ばれる少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項9】
各成分を重量比で秤量して、高速ミキサーに加えて、1000~2000回転/分で1~3分間混合し、プレミックスを得て、スクリューの各領域の温度を190~230℃とした二軸押出機でプレミックスを溶融して押出し、真空造粒してポリプロピレン組成物を得る、ことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
【請求項10】
ダッシュボード、サブダッシュボード、ピラー、グローブボックス、ドアパネル、シル、エアコンハウジング、及び他の自動車内装部品に用いられる、ことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のポリプロピレン組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子材料の技術分野に関し、特にポリプロピレン組成物、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは他の汎用プラスチックに比べて、機械的性能が良く、密度が小さく、剛性が良く、強度が高く、電気絶縁性能が良いなどの利点があり、家電や自動車製品に広く応用されている。変性ポリプロピレンを洗濯機や小型家電に応用する場合、長期間使用されると、ポリプロピレン材料が汚染されやすく、また細菌やカビなどが繁殖し、このため、ポリプロピレン材料の応用範囲が制限されてしまう。自動車の応用分野では、車両の使用中に、乗員の化粧品や食品などが内装材を汚染しやすく、汚れの一部が掃除しにくい。新しい移動手段(カーシェアリング/ネット配車)の普及に伴い、自動車素材の抗菌や防汚性能が求められている。
【0003】
中国特許出願CN106117802Bは、鉱物粉末強化ポリプロピレン組成物及びその製造方法を開示しており、特定の含有量の界面改質剤(エポキシシロキサンカップリング剤)、高疎水性助剤及び抗菌剤を、鉱石粉末強化ポリプロピレン組成物配合物に添加することにより、鉱石粉末強化ポリプロピレン組成物の表面の極性を変化させ、鉱石粉末強化ポリプロピレン組成物の疎水性を改善し、この鉱石粉末強化ポリプロピレン組成物の抗菌性や防カビ性を向上させる。中国特許出願CN109294149Aは、主にポリジメチルシロキサンを防汚剤として添加することにより長期間抗菌性を有するポリプロピレンプラスチックカップ及びその製造方法を開示しているが、ポリプロピレン樹脂マトリックス中での防汚剤の分散性が不足しているため、エチレンビスステアリルアミドを補助用として添加する必要がある。
【0004】
中国特許出願CN101591443Aは、ポリプロピレングラフト親水性生体親和性変性添加剤を開示しており、親水性生体親和性セグメントはポリジメチルシロキサンであってもよい。変性添加剤はポリプロピレンとは良好な付着性を有し、また、ポリプロピレン表面の抗凝固性などの生体適合性を改善することができる。しかし、ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンとポリプロピレンとの相溶性については議論されなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】中国特許出願CN106117802B
【文献】中国特許出願CN101591443A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好な抗菌効果及び防汚効果を有するポリプロピレン組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、上記のポリプロピレン組成物の製造方法及び使用を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の技術的解決手段によって達成される。
【0009】
ポリプロピレン組成物であって、成分として、
ポリプロピレン樹脂40~99重量部と、
エチレン-αオレフィン共重合体15~30重量部と、
抗菌剤0.2~1重量部と、
ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサン1~3重量部と
を含む。
【0010】
好ましくは、抗菌剤の使用量が0.2~0.4重量部である。本発明の樹脂マトリックスでは、抗菌剤の使用量を大幅に減少させることができる。
【0011】
前記エチレン-αオレフィン共重合体は、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体から選ばれる少なくとも1種である。
【0012】
一般的には、ポリプロピレンにおいて使用される熱可塑性エラストマーはスチレン類(SBS、SIS、SEBS、SEPSを含む)、ポリオレフィン類(主にエチレン-αオレフィン共重合体)、PP/EPDMブレンド、OBCなどを含む。スチレン類、PP/EPDMブレンド、OBCはいずれも本発明の目的を達成できない。
【0013】
好ましくは、前記エチレン-αオレフィン共重合体の溶融指数が5~30g/10min(190℃、2.16kg)である。
【0014】
前記抗菌剤は、酸化亜鉛、ゼオライトに担持された銀イオン又はガラス基材に担持された銀イオンから選ばれる少なくとも1種である。
【0015】
好ましくは、前記ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンは、グラフト率60%~80%、分子量600,000~800,000である。ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンは添加されると、材料の表面に集中し、防汚効果を果たし、残留水分を減少させるとともに細菌の成長環境を破壊し、抗菌効果を向上させる。
【0016】
ポリプロピレンは結晶性樹脂であり、抗菌剤はポリプロピレンの結晶化中に結晶領域外に排出されるので、主として非結晶領域に分布する。本発明では、ポリプロピレン樹脂に高溶融指数のエチレン-αオレフィン共重合体が所定量で添加されることにより、剪断作用で変形や破砕が発生しやすくなり、均一な分散が可能になることを見出した。特に表層では、射出成形中に高剪断により高度に配向した顕著な糸状網目構造が形成されており、これにより、表層への抗菌剤の露出を増加して抗菌効果を高めることができる。
【0017】
ポリシロキサンは、表面張力が低いので、優れた疎水性を有する。材料の表面に集中すると、表面の防汚性能、例えば本実験に記載の靴磨き拭き取り性を改善することができる。また、その疎水性能により、材料の表層が空気中の水分子を吸着して水膜を形成することが困難になり、このように、フローラの成長に対して一定の抑制作用がある。しかし、ポリシロキサンの表面への集中により糸状網目構造が破壊され、抗菌性能が低下する。したがって、本発明では、ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンが使用されることにより、糸状網目構造を破壊せずに表面に集中させ、これにより、良好な防汚効果及び滅菌効果が確保され、相乗作用により、優れた抗菌性能が得られる。
【0018】
本発明の組成物では、添加されて他の性能を改善するために所定量のフィラーを添加してもよく、フィラー0~30重量部をさらに含み、前記フィラーはタルカムパウダ(タルク)、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、硫酸バリウム、雲母、マイクロシリカ、シリカ、水酸化マグネシウム、モンモリロナイトから選ばれる少なくとも1種である。
【0019】
本発明では、フィラーの粒子径について特に限定はない。
【0020】
加工性能を高めたり他の性能を実現したりするために、助剤0~10重量部をさらに含み、前記助剤は、潤滑剤、トナーから選ばれる少なくとも1種である。
【0021】
前記潤滑剤は、ステアリン酸塩類やアミド類例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、エチレンビスステアリン酸アミドなどであってもよい。
【0022】
前記トナーは、二酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、酸化鉄赤、チタンイエローなどであってもよい。
【0023】
上記のポリプロピレン組成物の製造方法であって、各成分を重量比で秤量して、高速ミキサーに加えて、1000~2000回転/分の回転数で1~3分間混合し、プレミックスを得て、スクリューの各領域の温度を190~230℃とした二軸押出機にてプレミックスを溶融して押出し、真空造粒して製品を得る。
【0024】
前記ポリプロピレン組成物の使用であって、ダッシュボード、サブダッシュボード、ピラー、グローブボックス、ドアパネル、シル、エアコンハウジングなどの自動車内装部品に用いられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は下記有益な効果を有する。
本発明では、エチレン-αオレフィン共重合体およびポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンの抗菌系を使用することにより、射出成形中に高剪断により高度に配向した顕著な糸状網目構造が形成されており、これにより、表層への抗菌剤の露出を増加して抗菌効果を高めることができ、ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンが表面に集中することによる防汚性能と相まって、抗菌剤の低添加量では抗菌効果に優れたポリプロピレン組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】糸状網目構造を有する材料の表面の電子顕微鏡写真である。
図2】糸状網目構造を有さない材料の表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、具体的な実施形態によって本発明をさらに説明し、以下の実施例は本発明の好適な実施形態であるが、本発明の実施形態は下記実施例により限定されていない。
【0028】
本発明で使用される原料の由来は以下のとおりである。
ポリプロピレン:N-Z30S;
抗菌剤:銀イオン抗菌剤BM-502FA、ガラス担体;
エチレン-オクテン共重合体、溶融指数8g/10min(190℃、2.16kg)、POE 8137;
エチレン-ブテン共重合体、溶融指数5g/10min(190℃、2.16kg)、グレードPOE LC565;
SEBS、溶融指数10g/10min(230℃、2.16kg)、G1657 MS;
OBC、溶融指数5g/10min(190℃、2.16kg)、Infuse 9507;
ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンA:グラフト率63%、分子量約68万;
ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンB:グラフト率78%、分子量約76万;
ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンC:グラフト率43%、分子量約57万;
ポリジメチルシロキサン:TP-200、分子量約600,000;
タルカムパウダ:TYT-777A;
潤滑剤:ステアリン酸亜鉛、BS-2818;
トナー:カーボンブラック、M717;

実施例及び比較例のポリプロピレン組成物の製造方法:
各成分を重量比で秤量して、高速ミキサーに加えて、1000~2000回転/分の回転数で1~3分間混合し、プレミックスを得て;プレミックスを、スクリューの各領域の温度を190~230℃とした二軸押出機にて溶融して押出し、真空造粒してポリプロピレン組成物を得る。
【0029】
各性能のテスト方法
ポリプロピレン組成物を射出成形機で射出成形して100cm*100cm*3mm角の板材を得て、サンプル板材の表面の防汚性能及び抗菌性能をテストした。
(1)防汚性能テスト:サンプル板材の表面に老人頭(LAORENTOU)液体靴磨きを2滴滴下し、常温で24h乾燥後、ガーゼで拭き、以下のような基準で評価した:痕跡なしで完全に拭き取られる場合:3級、部分的に拭き取った場合:2級、まったく拭き取られない場合:1級。
(2)抗菌性能テスト:JIS Z 2801:2012に準じて、以下のような基準で評価した:明らかな静菌:A、一般的な静菌:B、静菌無し:C。
【0030】
表1:実施例のポリプロピレン組成物の各成分の配合比(重量部)及び各性能のテスト結果
【0031】
実施例1~3から分かるように、ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンのグラフト率も材料の表面の糸状網目構造の形成に影響を与え、好ましいグラフト率の範囲では、抗菌効果はより優れた。
【0032】
表2:比較例のポリプロピレン組成物の各成分の配合比(重量部)及び各性能のテスト結果
表2の続き
【0033】
比較例1、2、5から分かるように、他の種類のエラストマーは材料の表面に顕著な糸状網目構造を付与できないので、抗菌効果が劣る。
【0034】
比較例3、4から分かるように、ポリプロピレンでグラフトされていないポリジメチルシロキサンは、使用量を向上させることで良好な防汚性能を達成できるものの、抗菌性が極めて悪い。
【0035】
比較例6から分かるように、エチレン-αオレフィン共重合体の使用量も材料の表面の糸状網目構造の形成に影響を与え、抗菌剤の殺菌効果に影響を及ぼす。
【0036】
比較例7、8から分かるように、ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンの使用量が少なすぎると、材料の表面の防汚性能が劣り、細菌が繁殖しやすく、全体としては抗菌性能が低下し、一方、ポリプロピレングラフトポリジメチルシロキサンの使用量が多すぎると、材料の表面の糸状網目構造が破壊されやすく、抗菌性能の低下を招く。
図1
図2