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特許7421650クランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】クランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20240117BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240117BHJP
   C22C 38/24 20060101ALI20240117BHJP
   C22C 38/46 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C21D9/46 R
C22C38/00 302Z
C22C38/24
C22C38/46
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022537900
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 KR2020015781
(87)【国際公開番号】W WO2021125564
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】10-2019-0170065
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ス-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ミン,ヒョンウン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジェ-ソク
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-089814(JP,A)
【文献】特開2001-207244(JP,A)
【文献】特開2018-070921(JP,A)
【文献】特開2008-088534(JP,A)
【文献】特開2007-119847(JP,A)
【文献】特開2007-119848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.2~0.6%、Mn:0.01~1.5%、Cr:14.0~18.0%、Al:0.005~0.2%、V:0.005~0.2%、N:0.02~0.1%、及び、Ni:0.001~0.5%、P:0.05%以下及びS:0.005%以下からなる群から選ばれるいずれか1つ以上、残りFe及び不可避な不純物からなり、
下記[数(1)]及び[数(2)]を満たすスラブを1,000~1,200℃で再加熱して熱間圧延する段階と、
前記熱間圧延された熱延鋼板を700℃以上で巻き取る段階と、
前記巻き取られた熱延鋼板の焼鈍熱処理を省略し、60%以上の圧下率で冷間圧延する段階と、
前記冷間圧延された冷延鋼板を550~950℃で10分以下焼鈍熱処理する段階と、
前記焼鈍熱処理された冷延焼鈍鋼板を2~8%の圧下率で調質圧延する段階と、を含み、
前記冷延焼鈍鋼板は、平均直径0.5μm以下の(Cr、Fe)-炭窒化物析出物の数が2.5×10 個/mm 以上であり、
降伏強度320MPa以上、引張強度510MPa以上、及び延伸率20%以上であることを特徴とするクランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
[数(1)]0.35%≦Si+Al+V≦0.6%
[数(2)]0.09%≦C+N≦0.12%
(ここで、Si、Al、V、C、Nは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項2】
前記調質圧延された冷延焼鈍鋼板は、
降伏強度350MPa以上、引張強度510MPa以上及び延伸率20%以上である、ことを特徴とする請求項1に記載のクランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項3】
重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.2~0.6%、Mn:0.01~1.5%、Cr:14.0~18.0%、Al:0.005~0.2%、V:0.005~0.2%、N:0.02~0.1%、及び、Ni:0.001~0.5%、P:0.05%以下及びS:0.005%以下からなる群から選ばれるいずれか1つ以上、残りFe及び不可避な不純物からなり、
下記[数(1)]及び[数(2)]を満たし、
(Cr、Fe)-炭窒化物析出物を含み、
平均直径0.5μm以下の(Cr、Fe)-炭窒化物析出物が2.5×10 個/mm 以上分布しており、
降伏強度が350MPa以上、引張強度が510MPa以上、延伸率が20%以上であることを特徴とするクランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼。
[数(1)]0.35%≦Si+Al+V≦0.6%
[数(2)]0.09%≦C+N≦0.12%
(ここで、Si、Al、V、C、Nは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度フェライト系ステンレス鋼に係り、より詳細には、自動車や一般ホースのクランプに適用できる降伏強度350MPa以上の高強度フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて価格が安く、熱膨張率が低く、表面光沢、成形性及び耐酸化性が良好で、耐熱機構、シンクトッププレート、外装材、家電製品、電子部品などに広く使用されている。フェライト系ステンレス鋼冷延薄板の場合、熱間圧延工程、熱間圧延されたコイルの表面スケールを除去し、材料内部応力を除去する焼鈍酸洗工程、冷間圧延及び焼鈍工程を通じて製造される。
【0003】
図1は、自動車や一般的なホース用クランプを示す。クランプは、プラスチックホースやパイプを締結する役割を果たすため、高い強度を必要とし、ベンディング時にクラックの発生があってはならないため、優れた延性も同時に要求される。また、室内だけでなく自動車の屋外環境で使用されることにより耐食性が求められるため、最近、クランプ用ステンレス鋼の需要が増大している状況である。
【0004】
一般的に製造される410UFのようなUtility Ferriteの場合、Cr含有量が12%レベルで耐食性に劣り、延伸率が低いので、クランプ用として使用できない。したがって、相対的にCr含有量が高い16%Cr430系(一般430、430LX)を使用しようと試みているが、低い引張強度で市場の要求を満足させるのが難しいことが実状である。市場の要求事項(SPEC.)である圧延方向基準で0°、45°、90°の3方向全てにおける引張強度(TS)510MPa以上、降伏強度(YS)350MPa以上、延伸率(El)20%以上を満たすためには、成分系開発及び製造工程の最適化が先行されなければならない。
【0005】
STS430に代表されるフェライト系ステンレス鋼の主な品質イシューは、リジング(Ridging)の改善、オレンジピール(Orange Peel)の改善、成形時の面内異方性の改善に関連して先行特許技術が多数存在するが、自動車や一般ホースのクランプ用に適用できるように高強度を満たす成分系に対する検討と製造技術の最適化に対する研究は、殆どないのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、成分系のうちSi、Al、V、C、Nなどの含量、熱延無焼鈍による析出物のサイズ及び析出量の制御、調質圧延による降伏強度350MPa以上の高強度の具現が可能なSTS430フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施例によるクランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.2~0.6%、Mn:0.01~1.5%、Cr:14.0~18.0%、Al:0.005~0.2%、V:0.005~0.2%、N:0.02~0.1%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記[数(1)]及び[数(2)]を満たすスラブを1,000~1,200℃で再加熱して熱間圧延する段階、前記熱間圧延された熱延鋼板を700℃以上で巻き取る段階、前記巻き取られた熱延鋼板の焼鈍熱処理を省略し、60%以上の圧下率で冷間圧延する段階、前記冷間圧延された冷延鋼板を550~950℃で10分以下焼鈍熱処理する段階、及び前記焼鈍熱処理された冷延焼鈍鋼板を2~8%の圧下率で調質圧延する段階を含む。
【0008】
[数(1)]0.35%≦Si+Al+V≦0.6%
[数(2)]0.09%≦C+N≦0.12%
【0009】
ここで、Si、Al、V、C、Nは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0010】
また、本発明の一実施例によれば、前記冷延焼鈍鋼板は、平均直径0.5μm以下の(Cr、Fe)-炭窒化物析出物の数が2.5×10個/mm以上であってもよい。
【0011】
また、本発明の一実施例によれば、前記スラブは、重量%で、Ni:0.001~0.5%、P:0.05%以下及びS:0.005%以下からなる群から選ばれるいずれか1つ以上をさらに含んでもよい。
【0012】
また、本発明の一実施例によれば、前記冷延焼鈍鋼板は、降伏強度320MPa以上、引張強度510MPa以上及び延伸率20%以上であってもよい。
【0013】
また、本発明の一実施例によれば、前記調質圧延された冷延焼鈍鋼板は、降伏強度350MPa以上、引張強度510MPa以上及び延伸率20%以上であってもよい。
【0014】
本発明の一実施例によるクランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.2~0.6%、Mn:0.01~1.5%、Cr:14.0~18.0%、Al:0.005~0.2%、V:0.005~0.2%、N:0.02~0.1%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記[数(1)]及び[数(2)]を満たし、降伏強度が350MPa以上である。
【0015】
[数(1)]0.35%≦Si+Al+V≦0.6%
[数(2)]0.09%≦C+N≦0.12%
【0016】
また、本発明の一実施例によれば、重量%で、Ni:0.001~0.5%、P:0.05%以下及びS:0.005%以下からなる群から選ばれるいずれか1つ以上をさらに含んでもよい。
【0017】
また、本発明の一実施例によれば、平均直径0.5μm以下の(Cr、Fe)-炭窒化物析出物が2.5×10個/mm以上分布していてもよい。
【0018】
また、本発明の一実施例によれば、引張強度510MPa以上及び延伸率20%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施例による高強度フェライト系ステンレス鋼は、降伏強度350MPa以上、引張強度510MPa以上、延伸率20%以上を満たし、自動車などのクランプ用途で使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一般的なクランプ(Clamp)の形状を示す図である。
図2】本発明の調質圧延の実施前の[数(1)]の値による降伏強度(YS)を示すグラフである。
図3】本発明の調質圧延の実施前の[数(2)]の値による引張強度(TS)を示すグラフである。
図4】本発明の実施例による発明例と比較例の析出物を走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施例によるクランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.2~0.6%、Mn:0.01~1.5%、Cr:14.0~18.0%、Al:0.005~0.2%、V:0.005~0.2%、N:0.02~0.1%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記[数(1)]及び[数(2)]を満たすスラブを1,000~1,200℃で再加熱して熱間圧延する段階、前記熱延鋼板を700℃以上で巻き取る段階、前記巻き取られた熱延鋼板の焼鈍熱処理を省略し、60%以上の圧下率で冷間圧延する段階、前記冷延鋼板を550~950℃で10分以下焼鈍熱処理する段階、及び前記冷延焼鈍鋼板を2~8%の圧下率で調質圧延する段階を含む。
【0022】
[数(1)]0.35%≦Si+Al+V≦0.6%
[数(2)]0.09%≦C+N≦0.12%
【0023】
ここで、Si、Al、V、C、Nは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0024】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面は、本発明を明確にするために説明と関係のない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現してもよい。
【0025】
本発明の一実施例によるクランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.2~0.6%、Mn:0.01~1.5%、Cr:14.0~18.0%、Al:0.005~0.2%、V:0.005~0.2%、N:0.02~0.1%、残りのFe及び不可避な不純物からなる。
【0026】
以下、本発明の合金元素含量の数値限定理由について説明する。以下、特に言及のない限り、単位は、重量%である。
【0027】
Cの含量は、0.04~0.1%である。
【0028】
鋼中のCは、フェライト系ステンレス鋼に不可避に含まれる不純物で、(Cr、Fe)23、(Cr、Fe)炭化物として析出されて強度を向上させる役割を果たすので、0.04%以上含有する。但し、母材内に過剰に含まれる場合には延伸率を低下させて製品の加工性を著しく低下させるため、0.1%以下に制限する。
【0029】
Siの含量は、0.2~0.6%である。
【0030】
Siは、鋼中に含まれる不可避な不純物であるが、製鋼時に脱酸剤の役割として添加される元素で、フェライト安定化元素である。鋼中に多量含有されると、材質の硬化を起こして延性を低下させるため、通常、0.4%以下で管理する。しかし、クランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼を製造するためには、Siを最適に使用する必要がある。したがって、本発明では、Si含量を0.2~0.6%に制御して固溶強化効果により引張強度及び降伏強度を向上させ、延伸率を維持するためにSi含量を0.6%以下に制限する。
【0031】
Mnの含量は、0.01~1.5%である。
【0032】
Mnは、鋼中に不可避に含まれる不純物であるが、オーステナイト安定化元素であるため、ローピング及びリジングを抑制する役割を果たす。ただし、多量に含まれる場合、溶接時にマンガン系のフュームが発生し、MnS相析出の原因となって延伸率を低下させるため、その含量を0.01~1.5%に制限する。
【0033】
Crの含量は、14.0~18.0%である。
【0034】
Crは、鋼の耐食性を向上させるために添加する合金元素で、臨界含量は、12%である。ただし、C及びNを含むフェライト系ステンレス鋼は、粒界腐食が起こることがあり、粒界腐食の可能性及び製造単価の増加を考慮し、その含量を14.0~18.0%に制限する。
【0035】
Alの含量は、0.005~0.2%である。
【0036】
Alは、強力な脱酸剤として溶鋼中の酸素の含量を下げる役割を果たし、本発明では、0.005%以上添加する。ただし、その含量が過剰である場合、非金属介在物の増加により冷延ストリップのスリーブ欠陥が発生するとともに、溶接性を劣化させるため、0.2%以下に限定し、より好ましくは、0.1%以下に限定してもよい。
【0037】
Vの含量は、0.005~0.2%である。
【0038】
Vは、C及びNを固定して炭窒化物を形成する役割を果たし、炭窒化物の成長を抑制して微細化させるのに有効な元素で、本発明では、0.005%以上添加し、より好ましくは、0.03%以上添加する。ただし、その含量が過剰である場合、製造コストが急増するため、0.2%以下に限定し、より好ましくは、0.1%以下に限定してもよい。
【0039】
Nの含量は、0.02~0.1%である。
【0040】
鋼中のNは、Cと同等に不純物元素として存在し、製造過程でCrN窒化物として析出されて強度を向上させる役割を果たすので、0.02%以上添加する。しかし、多量の添加は、加工性を阻害させるだけでなく、冷延製品のストレッチャーストレインの原因となるため、その含有量を0.1%以下に制限する。
【0041】
また、本発明の一実施例によれば、重量%で、Ni:0.001~0.5%、P:0.05%以下及びS:0.005%以下からなる群から選ばれるいずれか1つ以上をさらに含んでもよい。
【0042】
Niの含量は、0.001~0.5%である。Niは、Cu、Mnとともにオーステナイト安定化元素でオーステナイト分率を増加させてローピング及びリジングを抑制する効果があり、微量添加により耐食性を向上させる役割を果たす。しかし、多量添加時の加工性の劣化及び製造単価の増加によりその含量を前述の範囲に制限する。
【0043】
Pの含量は、0.05%以下である。Pは、鋼中に含まれる不可避な不純物で、酸洗時に粒界腐食を起こしたり、熱間加工性を阻害させるため、その含有量を前述の範囲に調節する。
【0044】
Sの含量は、0.005%以下である。Sは、鋼中に含まれる不可避な不純物で結晶粒界に偏析されて熱間加工性を阻害するため、その含有量を前述の範囲に制限する。
【0045】
上述した合金元素を除いたステンレス鋼の残りは、Fe及びその他の不可避な不純物からなる。
【0046】
また、前記成分系組成とともに下記[数(1)]及び[数(2)]を満たす。
【0047】
[数(1)]0.35%≦Si+Al+V≦0.6%
[数(2)]0.09%≦C+N≦0.12%
【0048】
本発明では、高強度を具現するために置換型元素であるSi、Al、Vの含量増加による固溶強化効果により降伏強度(YS)を増加させて320MPa以上を示すことができる。Si+Al+V値が0.35%未満の場合、目的とする降伏強度を具現することが困難であり、0.6%超過の場合、延伸率が低下する。また、後述する製造方法のように、焼鈍熱処理された冷延鋼板に調質圧延を行うことにより、350MPa以上の降伏強度を達成しうる。調質圧延の実施前に降伏強度が320MPaに達しない場合、調質圧延時に高い圧下率が要求され、このような場合、延伸率の低下をもたらして好ましくない。したがって、調質圧延の実施前に前記[数(1)]を満たして降伏強度320MPa以上確保されることが重要である。
【0049】
C+N含量の増加により(Fe、Cr)炭窒化物析出量を増加させ、熱延焼鈍熱処理を省略して析出物の微細化効果により加工硬化量を増加させることにより、引張強度(TS)を510MPa以上で具現してもよい。C+N値が0.09%未満の場合、目的とする引張強度を具現することが困難であり、0.12%超過の場合、延伸率が低下する。
【0050】
上述した合金元素制御による本発明の微細組織は、平均直径0.5μm以下の(Fe、Cr)炭窒化物析出物を2.5×10個/mm以上含んでもよい。(Fe、Cr)炭窒化物析出物は、C+N含量の増大による(Cr、Fe)23、(Cr、Fe)炭化物またはCrN窒化物であってもよい。0.5μm以下の微細な析出物を多量析出させることにより、引張時の加工硬化量を増加させることができる。
【0051】
ただし、(Fe、Cr)炭窒化物の析出のためには、合金元素制御の他に熱延焼鈍熱処理の省略が求められる。
【0052】
ホースを連結するクランプの場合、ホースの直径が小さければ、厚さ1mm以下を主に使用し、降伏強度(YS)320MPa以上が要求され、ホースの直径が大きければ、厚さ1mm以上を使用することになるが、降伏強度(YS)350MPa以上が求められている。上述した合金元素及び炭窒化物析出物の制御を通じて320MPa以上を得ることができるが、350MPa以上を確保することは困難である。したがって、350MPa以上の降伏強度を具現するため、製造方法上の工程の修正が必要であった。
【0053】
本発明の一実施例によるクランプ用高強度フェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.2~0.6%、Mn:0.01~1.5%、Cr:14.0~18.0%、Al:0.005~0.2%、V:0.005~0.2%、N:0.02~0.1%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、前記[数(1)]及び[数(2)]を満たすスラブを1,000~1,200℃で再加熱して熱間圧延する段階と、前記熱延鋼板を700℃以上で巻き取る段階、前記巻き取られた熱延鋼板の焼鈍熱処理を省略し、60%以上の圧下率で冷間圧延する段階、前記冷延鋼板を550~950℃で10分以下焼鈍熱処理する段階、及び前記冷延焼鈍鋼板を2~8%の圧下率で調質圧延する段階を含む。
【0054】
熱間圧延仕上げ温度は、800℃以上であることが好ましい。800℃以上の仕上げ圧延温度及び700℃以上での巻き取りを通じて熱延コイル状態で微細析出物を形成させ、以後の熱延焼鈍熱処理を省略して析出物の粗大化を防止する。
【0055】
一般的にクランプ用として使用されるフェライト系ステンレス鋼は、熱間圧延後、熱延焼鈍熱処理によりバッチ焼鈍(Batch Annealing Furnace)を行うが、本発明では、熱延焼鈍熱処理を省略することを特徴とする。バッチ焼鈍(BAF)を行うときに熱延コイルの析出した微細析出物が粗大化され、総個数が少なくなり、高強度の確保が困難になる。
【0056】
冷延焼鈍鋼板を2~8%圧下率で冷延調質圧延することにより、降伏強度を350MPa以上確保しうる。圧下率が8%超過の場合、延伸率が低下する。
【0057】
以下、本発明の好ましい実施例を通じてより詳細に説明する。
【0058】
実施例
下記表1のC、N、Si、Al及びVを調節した成分系のフェライト系ステンレス鋼をLab.真空溶解を行ってスラブとして製造した。スラブを1,000~1,200℃で再加熱した後、粗圧延機と連続仕上げ圧延機により800℃以上の仕上げ圧延完了温度で圧延して熱延板を製造した。
【0059】
【表1】
【0060】
熱延板は、冷間圧延及び焼鈍熱処理後、一部鋼種に対して調質圧延を行い、最終冷延板を製造した。
【0061】
下記表2は、表1の合金成分を有する鋼について、Si+Al+V、C+Nで定義される[数(1)]及び[数(2)]の数値を示し、熱燃焼鈍条件及び冷延焼鈍材の析出物の数を示した。また、冷延焼鈍材の板面において圧延方向から0°方向に対して、常温でcrosshead speed 20mm/minで引張試験を行って得られた降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び延伸率(EL)を示した。
【0062】
【表2】
【0063】
発明例1、2
A、B鋼種は、フェライト系ステンレス鋼のC、N、Si、Al及びVを調節して真空溶解したもので、前記鋼を1,000~1,200℃の温度範囲で再加熱した後、粗圧延機と連続仕上げ圧延機により800℃以上の完成温度で圧延して熱延板を製造し、その後に熱延焼鈍を行わず、酸洗した後、冷間圧延、冷延焼鈍及び調質圧延を行った。
【0064】
前記A、B鋼種は、Si+Al+V≧0.35%を満たし、調質圧延を行うことにより降伏強度(YS)≧350MPaを満たすことが分かる。また、A、B鋼種は、C+N≧0.09%を満たすことにより、引張強度(TS)≧510MPaを満たすことが分かる。
【0065】
比較例1~3
C~E鋼種は、C+N数値が0.09%以上で本発明の[数(1)]は満たすが、Si+Al+V数値が0.35%以下で降伏強度(YS)値が300MPaレベルで調質圧延を行う前に320MPaにも及ばない低い値が現れたことが確認できた。
【0066】
比較例4、5
F鋼種及びG鋼種は、Si+Al+V数値が0.35%以下及びC+N数値が0.09%以下で、調質圧延したにもかかわらず、降伏強度(YS)と引張強度(TS)の両方が本発明の目標強度レベルを満足させることができないことが分かる。
【0067】
比較例6、7
H鋼種は、Si+Al+V数値が0.35%以上を満たし、C+N数値が0.09%以上を満たすが、熱延BAF焼鈍を行うことにより降伏強度(YS)≧320MPaと引張強度(TS)≧510MPaを満足させることができないことが分かる。
【0068】
また、I鋼種は、Si+Al+V数値が0.35以上を満足できず、C+N数値が0.09%以上を満足させることができないだけでなく、熱延BAF焼鈍を行うことにより降伏強度(YS)が280MPa以下と低く、引張強度(TS)も490MPa以下と低いので、本発明の目標強度を満足できないことが分かる。
【0069】
図2は、本発明の調質圧延の実施前の[数(1)]の値による降伏強度(YS)を示すグラフであり、図3は、本発明の調質圧延の実施前の[数(2)]の値による引張強度(TS)を示すグラフである。
【0070】
図2及び図3を参照すると、本発明において高強度を具現するために置換型元素の和Si+Al+Vと定義される[数(1)]の値を0.35%以上に制御することにより、母材の固溶強化効果により降伏強度を増加させて320MPa以上で具現することができた。さらに調質圧延を行うことにより、要求降伏強度である350MPa以上を確保できた。また、C+Nと定義される[数(2)]の値を0.09%以上に制御して(Fe、Cr)-炭窒化物析出量の増大とともに熱燃焼鈍工程の省略による析出物微細化効果により加工硬化量を増加させて引張強度を510MPa以上で具現することができた。
【0071】
図4は、本発明の実施例による発明例と比較例の析出物を走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真である。無焼鈍列は、発明例1のA鋼種写真であり、BAF列は、比較例7のI鋼種写真である。
【0072】
発明例1のA鋼種の場合、平均直径0.5μm以下のサイズを有する析出物が多量に形成されていることが確認できるが、比較例7のI鋼種の場合、0.5~2.0μmサイズの析出物が形成されていることが確認できた。すなわち、合金成分の制御とともに熱延無焼鈍がすべて満足されなければ、本発明の解決課題を達成できないことが分かる。
【0073】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、以下に記載する請求範囲の概念と範囲から逸脱しない範囲内で様々な変更及び変形が可能であることを理解できるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によるフェライト系ステンレス鋼は、降伏強度350MPa以上、引張強度510MPa以上及び延伸率20%以上を確保することができ、自動車や一般ホースのクランプに適用が可能である。
図1
図2
図3
図4