(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】膜構造体
(51)【国際特許分類】
H10N 30/00 20230101AFI20240118BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240118BHJP
H10N 30/079 20230101ALI20240118BHJP
【FI】
H10N30/00
H10N30/853
H10N30/079
(21)【出願番号】P 2019071072
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】522127678
【氏名又は名称】I-PEX Piezo Solutions株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100187388
【氏名又は名称】樋口 天光
(72)【発明者】
【氏名】木島 健
(72)【発明者】
【氏名】小西 晃雄
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-096969(JP,A)
【文献】特開2018-129402(JP,A)
【文献】特開2018-026980(JP,A)
【文献】特開2015-154014(JP,A)
【文献】特開平11-031857(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082049(WO,A1)
【文献】特開2001-260348(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221649(WO,A1)
【文献】特開2007-012867(JP,A)
【文献】特開平11-018445(JP,A)
【文献】特開2010-143205(JP,A)
【文献】特開2001-196652(JP,A)
【文献】特開2019-016793(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216227(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216226(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216225(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/021614(WO,A1)
【文献】特開2015-088521(JP,A)
【文献】特開2006-100622(JP,A)
【文献】特開2005-129670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/00
H10N 30/853
H10N 30/079
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第1圧電膜と、
前記第1圧電膜上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第2圧電膜と、
を有し、
前記基体は、圧縮応力を有し、
前記第1圧電膜及び前記第2圧電膜は、いずれも引っ張り応力を有し、
前記第1圧電膜の
ヤング率は、前記第2圧電膜の
ヤング率よりも大き
く、
前記第1圧電膜の圧電定数d
31
は、前記第2圧電膜の圧電定数d
31
よりも小さい、膜構造体。
【請求項2】
基体と、
前記基体上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第1圧電膜と、
前記第1圧電膜上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第2圧電膜と、
を有し、
前記基体は、圧縮応力を有し、
前記第1圧電膜及び前記第2圧電膜は、いずれも引っ張り応力を有し、
前記第1圧電膜の
ヤング率は、前記第2圧電膜の
ヤング率よりも大き
く、
前記第1圧電膜は、下記一般式(化1)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
Pb(Zr
1-a
Ti
a
)O
3
・・・(化1)
前記第2圧電膜は、下記一般式(化2)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
Pb(Zr
1-b
Ti
b
)O
3
・・・(化2)
前記aは、0.48<a≦0.78を満たし、
前記bは、0.28≦b≦0.48を満たす、膜構造体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の膜構造体において、
前記第1圧電膜の第1厚さと前記第2圧電膜の第2厚さとの和に対する前記第1厚さの比は、0.25~0.75である、膜構造体。
【請求項4】
請求項
1に記載の膜構造体において、
前記第1圧電膜は、下記一般式(化
3)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
Pb(Zr
1-aTi
a)O
3・・・(化
3)
前記第2圧電膜は、下記一般式(化
4)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
Pb(Zr
1-bTi
b)O
3・・・(化
4)
前記aは、0.48<a≦0.78を満たし、
前記bは、0.28≦b≦0.48を満たす、膜構造体。
【請求項5】
基体と、
前記基体上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第1圧電膜と、
前記第1圧電膜上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第2圧電膜と、
を有し、
前記基体は、圧縮応力を有し、
前記第1圧電膜及び前記第2圧電膜は、いずれも引っ張り応力を有し、
前記第1圧電膜の
ヤング率は、前記第2圧電膜の
ヤング率よりも小さく、
前記第1圧電膜の第1厚さと前記第2圧電膜の第2厚さとの和に対する前記第1厚さの比は、0.25~0.75であ
り、
前記第1圧電膜の圧電定数d
31
は、前記第2圧電膜の圧電定数d
31
よりも大きい、膜構造体。
【請求項6】
基体と、
前記基体上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第1圧電膜と、
前記第1圧電膜上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第2圧電膜と、
を有し、
前記基体は、圧縮応力を有し、
前記第1圧電膜及び前記第2圧電膜は、いずれも引っ張り応力を有し、
前記第1圧電膜の
ヤング率は、前記第2圧電膜の
ヤング率よりも小さく、
前記第1圧電膜の第1厚さと前記第2圧電膜の第2厚さとの和に対する前記第1厚さの比は、0.25~0.75であ
り、
前記第1圧電膜は、下記一般式(化5)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
Pb(Zr
1-c
Ti
c
)O
3
・・・(化5)
前記第2圧電膜は、下記一般式(化6)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
Pb(Zr
1-d
Ti
d
)O
3
・・・(化6)
前記cは、0.28≦c≦0.48を満たし、
前記dは、0.48<d≦0.78を満たす、膜構造体。
【請求項7】
請求項
5に記載の膜構造体において、
前記第1圧電膜は、下記一般式(化
7)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
Pb(Zr
1-cTi
c)O
3・・・(化
7)
前記第2圧電膜は、下記一般式(化
8)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
Pb(Zr
1-dTi
d)O
3・・・(化
8)
前記cは、0.28≦c≦0.48を満たし、
前記dは、0.48<d≦0.78を満たす、膜構造体。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の膜構造体において、
前記第1圧電膜の下層部は、引っ張り応力を有する、膜構造体。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の膜構造体において、
前記基体は、シリコンよりなる、膜構造体。
【請求項10】
請求項
9に記載の膜構造体において、
前記基体は、(100)配向したシリコンよりなり、
前記膜構造体は、更に、
前記基体上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した酸化ジルコニウムを含む第1膜と、
前記第1膜上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した白金を含む導電膜と、
を有し、
前記第1圧電膜は、前記導電膜上に形成され、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
前記第2圧電膜は、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチタン酸ジルコン酸鉛を含む、膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
基板と、基板上に形成された導電膜と、導電膜上に形成された圧電膜と、を有する膜構造体として、基板と、基板上に形成された白金を含む導電膜と、導電膜上に形成されたチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:PZT)を含む圧電膜と、を有する膜構造体が知られている。
【0003】
また、PZTを含む圧電膜として、例えばチタン(Ti)に対するジルコニウム(Zr)の組成比が相対的に大きいZrリッチ組成を有するPZTを含む第1膜上に、チタン(Ti)に対するジルコニウム(Zr)の組成比が相対的に小さいTiリッチ組成を有するPZTを含む第2膜が形成されてなる圧電膜が知られている。
【0004】
国際公開第2017/221649号(特許文献1)には、膜構造体において、基板と、基板上に形成され、且つ、組成式Pb(Zr1-xTix)O3で表される第1複合酸化物を含む第1膜と、第1膜上に形成され、且つ、組成式Pb(Zr1-yTiy)O3で表される第2複合酸化物を含む第2膜と、を有し、xは、0.10<x≦0.20を満たし、yは、0.35≦y≦0.55を満たし、第1膜は、引っ張り応力を有し、第2膜は、圧縮応力を有する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような基板上に形成されたPZTを含む圧電膜を例えば圧力センサとして用いる場合においては、基板の上面に垂直な方向の応力又は基板の上面に平行な方向の応力が印加されたときに、圧電膜の上面及び下面に発生する電荷を増加させることが望ましい。即ち、圧電膜の圧電特性(正圧電特性)を向上させることが望ましい。ところが、上記した基板上に形成されたPZTを含む圧電膜においては、例えば圧電膜が引っ張り応力を有する等の理由により圧電膜の圧電特性を向上させることが困難である。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、チタン酸ジルコン酸鉛を含む圧電膜を有する膜構造体において、圧電膜の圧電特性を向上させることができる膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0009】
本発明の一態様としての膜構造体は、基体と、基体上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第1圧電膜と、第1圧電膜上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第2圧電膜と、を有する。基体は、圧縮応力を有し、第1圧電膜及び第2圧電膜は、いずれも引っ張り応力を有する。第1圧電膜の第1弾性定数は、第2圧電膜の第2弾性定数よりも大きい。
【0010】
また、他の一態様として、第1圧電膜の第1厚さと第2圧電膜の第2厚さとの和に対する第1厚さの比は、0.25~0.75であってもよい。
【0011】
また、他の一態様として、第1圧電膜の第1圧電定数は、第2圧電膜の第2圧電定数よりも小さくてもよい。
【0012】
また、他の一態様として、第1圧電膜は、下記一般式(化1)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、第2圧電膜は、下記一般式(化2)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含んでもよい。
Pb(Zr1-aTia)O3・・・(化1)
Pb(Zr1-bTib)O3・・・(化2)
aは、0.48<a≦0.78を満たし、bは、0.28≦b≦0.48を満たしてもよい。
【0013】
本発明の一態様としての膜構造体は、基体と、基体上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第1圧電膜と、第1圧電膜上に形成され、且つ、チタン酸ジルコン酸鉛を含む第2圧電膜と、を有する。基体は、圧縮応力を有し、第1圧電膜及び第2圧電膜は、いずれも引っ張り応力を有する。記第1圧電膜の第1弾性定数は、第2圧電膜の第2弾性定数よりも小さい。第1圧電膜の第1厚さと第2圧電膜の第2厚さとの和に対する第1厚さの比は、0.25~0.75である。
【0014】
また、他の一態様として、第1圧電膜の第1圧電定数は、第2圧電膜の第2圧電定数よりも大きくてもよい。
【0015】
また、他の一態様として、第1圧電膜は、下記一般式(化3)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含み、第2圧電膜は、下記一般式(化4)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛を含んでもよい。
Pb(Zr1-cTic)O3・・・(化3)
Pb(Zr1-dTid)O3・・・(化4)
cは、0.28≦c≦0.48を満たし、dは、0.48<d≦0.78を満たしてもよい。
【0016】
また、他の一態様として、第1弾性定数と第1厚さとの第1積と、第2弾性定数と第2厚さとの第2積と、の和は、基体の第3弾性定数と基体の第3厚さとの第3積よりも小さくてもよい。
【0017】
また、他の一態様として、第1圧電膜の下層部は、引っ張り応力を有してもよい。
【0018】
また、他の一態様として、第1弾性定数は、第1圧電膜の弾性スティフネスC13であり、第2弾性定数は、第2圧電膜の弾性スティフネスC13であってもよい。
【0019】
また、他の一態様として、第1圧電定数は、第1圧電膜の圧電定数d31であり、第2圧電定数は、第2圧電膜の圧電定数d31であってもよい。
【0020】
また、他の一態様として、基体は、シリコンよりなるものでもよい。
【0021】
また、他の一態様として、基体は、(100)配向したシリコンよりなるものでもよい。当該膜構造体は、更に、基体上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した酸化ジルコニウムを含む第1膜と、第1膜上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した白金を含む導電膜と、を有してもよい。第1圧電膜は、導電膜上に形成され、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチタン酸ジルコン酸鉛を含み、第2圧電膜は、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチチタン酸ジルコン酸鉛を含んでもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様を適用することで、チタン酸ジルコン酸鉛を含む圧電膜を有する膜構造体において、圧電膜の圧電特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】実施の形態1の計算に用いた膜構造体の断面図である。
【
図3】実施の形態1の膜構造体における圧電膜部全体の厚さに対する下部圧電膜の厚さの比が発生電荷に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図5】実施の形態2の計算に用いた膜構造体の断面図である。
【
図6】実施の形態2の膜構造体における圧電膜部全体の厚さに対する下部圧電膜の厚さの比が発生電荷に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図7】比較例1の膜構造体の分極の電圧依存性を示すグラフである。
【
図8】比較例1の膜構造体の変位の電圧依存性を示すグラフである。
【
図9】比較例2の膜構造体の分極の電圧依存性を示すグラフである。
【
図10】比較例2の膜構造体の変位の電圧依存性を示すグラフである。
【
図11】比較例1の膜構造体における圧電膜部に上下から圧縮応力を印加したときの発生電荷量を測定した結果を示すグラフである。
【
図12】比較例2の膜構造体における圧電膜部に上下から圧縮応力を印加したときの発生電荷量を測定した結果を示すグラフである。
【
図13】実施例2の膜構造体における圧電膜部に上下から圧縮応力を印加したときの発生電荷量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0026】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0027】
更に、実施の形態で用いる図面においては、構造物を区別するために付したハッチング(網掛け)を図面に応じて省略する場合もある。
【0028】
なお、以下の実施の形態においてA~Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上B以下を示すものとする。
【0029】
(実施の形態1)
初めに、本発明の一実施形態である実施の形態1の膜構造体について説明する。
図1は、実施の形態1の膜構造体の断面図である。
【0030】
図1に示すように、本実施の形態1の膜構造体10は、基体11と、基体11の主面としての上面11a上に形成された圧電膜部12と、を有し、圧電膜部12は、下部圧電膜21と、下部圧電膜21上に形成された上部圧電膜22と、を有する。下部圧電膜21は、チタン酸ジルコン酸鉛を含む。上部圧電膜22は、チタン酸ジルコン酸鉛を含む。基体11は、基体11の上面11aに平行な方向に印加された、即ち上面11aに沿って印加された、圧縮応力(後述する
図2に示す圧縮応力CS1)を有する。下部圧電膜21及び上部圧電膜22は、いずれも、基体11の上面11aに平行な方向に印加された、即ち上面11aに沿って印加された、引っ張り応力(後述する
図2に示す引っ張り応力TS1及びTS2)を有する。
【0031】
下部圧電膜21の弾性定数は、上部圧電膜22の弾性定数よりも大きい。即ち、上部圧電膜22の弾性定数は、下部圧電膜21の弾性定数よりも小さい。言い換えれば、下部圧電膜21が含むチタン酸ジルコン酸鉛は、所謂ハード系PZTであり、上部圧電膜22が含むチタン酸ジルコン酸鉛は、所謂ソフト系PZTである。即ち、下部圧電膜21に一定の電圧を印加したときの歪量は、上部圧電膜22に同一の電圧を印加したときの歪量よりも小さい。
【0032】
後述する
図2を用いて説明するように、本実施の形態1の膜構造体10は、このような構造を有することにより、例えば圧電膜部12に、基体11の上面11a(
図1参照)に垂直な方向の応力又は基体11の上面11aに平行な方向の応力が印加されたときに、圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷を増加させることができる。即ち、圧電膜部12の圧電特性(正圧電特性)を向上させることができる。
【0033】
図1に示すように、本実施の形態1の膜構造体10は、好適には、配向膜13と、導電膜14と、導電膜15と、を有する。配向膜13は、基体11上に形成されている。導電膜14は、配向膜13上に形成されている。導電膜14は、下部電極である。圧電膜部12即ち下部圧電膜21は、導電膜14上に形成されている。導電膜15は、圧電膜部12上に、即ち上部圧電膜22上に形成されている。導電膜15は、上部電極である。
【0034】
図1に示すように、膜構造体10がSOI(Silicon On Insulator)基板16の上面側に形成される場合を考える。SOI基板16は、シリコン基板17と、シリコン基板17上に形成された埋め込み酸化膜であるBOX(Buried Oxide)層18と、BOX層18上に形成されたSOI(Silicon On Insulator)層19と、を含む。このような場合、シリコンよりなるSOI層19を、基体11として用いることができる。
【0035】
また、例えばフォトリソグラフィ技術及びアルカリ性のエッチング液を用いたエッチング技術を用いてシリコン基板17の一部をエッチングすることにより、
図1に示すように、シリコン基板17の下面からシリコン基板17を貫通してBOX層18に達する開口部17aを形成することができる。また、例えば開口部17aが形成されたシリコン基板17をマスクとし、フッ酸等のエッチング液を用いたエッチング技術を用いて、BOX層18のうち開口部17aに露出した部分をエッチングすることにより、
図1に示すように、BOX層18の下面からBOX層18を貫通してSOI層19に達し、且つ、開口部17aと連通した開口部18aを形成することができる。また、例えばフォトリソグラフィ技術及びエッチング技術により、
図1に示すように、上部電極としての導電膜15の一部をエッチングしてパターニングすることができる。
【0036】
これにより、
図1に示すように、平面視において、開口部17a内及び開口部18a内に、SOI層19よりなる基体11と、配向膜13と、導電膜14と、圧電膜部12と、導電膜15と、を有する膜構造体10よりなる圧電素子を形成することができる。そして、SOI基板16の上面側に形状精度良く形成された複数の圧電素子を有する微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems:MEMS)よりなる圧電アクチュエータを容易に形成することができる。
【0037】
なお、基体11として、例えば高い不純物濃度を有し、高い導電性を有するシリコンよりなるSOI層19を用いる場合には、配向膜13と、導電膜14とを省略することができる。また、基体11として、例えば、圧電膜部12の表面に導電性を有するプローブを接触させて用いる場合には、導電膜15を省略することもできる。また、基体11として、シリコン以外にも、酸化シリコン等の酸化膜等の各種の膜を用いることができる。
【0038】
また、基体11に代えて、各種の基板を用いることができる。即ち、圧電膜部12が、膜形状を有する基体11上に形成されなくてもよく、シリコン、ガラスその他の各種の基板上に形成されることができる。
【0039】
次に、本実施の形態1の膜構造体の技術思想について、圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜21の厚さの比が発生電荷に及ぼす影響を計算した結果を用いて説明する。
図2は、実施の形態1の計算に用いた膜構造体の断面図である。なお、
図2では、膜構造体10の圧電膜部12が有する引っ張り応力についての理解を簡単にするために、膜構造体10が湾曲即ち反っているときの膜構造体10の曲率半径を、実際の曲率半径よりも小さく誇張して示している。また、
図2では、基体11が有する圧縮応力を圧縮応力CS1と表示し、下部圧電膜21が有する引っ張り応力を引っ張り応力TS1と表示し、上部圧電膜22が有する引っ張り応力を引っ張り応力TS2と表示している。
図2に示すように、基体11が圧縮応力CS1を有し、下部圧電膜21が引っ張り応力TS1を有し、上部圧電膜22が引っ張り応力TS2を有する場合、膜構造体10は、下に凸の形状を有するように、湾曲即ち反ることになる。
【0040】
本実施の形態1の膜構造体について、本発明者らは、下部圧電膜21の厚さTH1と上部圧電膜22の厚さTH2との和、即ち圧電膜部12全体の厚さに対する、下部圧電膜21の厚さTH1の比RT1を変化させた場合に、比RT1が発生電荷に及ぼす影響を計算した。その結果、本発明者らは、下部圧電膜21が含むチタン酸ジルコン酸鉛がハード系PZTよりなり、上部圧電膜22が含むチタン酸ジルコン酸鉛がソフト系PZTよりなる場合、即ち、ハード系PZT上にソフト系PZTが積層された場合には、圧電膜部12全体がソフト系PZTのみからなる場合及び圧電膜部12全体がハード系PZTのみからなる場合のいずれに比べても、圧電特性が向上することを見出した。
【0041】
圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜21の厚さの比RT1が発生電荷に及ぼす影響を計算するためのモデルとして、
図2に示すように、配向膜13(
図1参照)と、導電膜14(
図1参照)と、導電膜15(
図1参照)とを省略して単純化した膜構造体のモデルを用いた。また、基体11をシリコンよりなるものとし、基体11の厚さTHBを1μmとし、圧電膜部12の全体の厚さを1μmとした。また、下部圧電膜21が含むチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、及び上部圧電膜22が含むチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の各々の比誘電率、圧電定数d
31、及び、ヤング率であって、計算に用いた数値を、表1に示す。
【0042】
【0043】
このような条件で、圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜21の厚さの比RT1を、0、0.25、0.5、0.75、1と変化させ、比RT1が発生電荷に及ぼす影響を計算した。その結果を、
図3に示す。
図3は、実施の形態1の膜構造体における圧電膜部全体の厚さに対する下部圧電膜の厚さの比が発生電荷に及ぼす影響を示すグラフである。
図3の横軸は、圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜21の厚さの比RT1を示し、
図3の縦軸は、圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷の量を示す指数である、発生電荷指数を示している。また、
図3では、圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜21の厚さの比RT1を、「下レイヤー割合」と表記し、比RT1に100を乗じて得た値を用いて示している。
【0044】
図3に示すように、比RT1が0.25~0.75の場合には、比RT1が0の場合及び比RT1が1の場合のいずれに比べても、発生電荷指数が増加している。即ち、ハード系PZT上にソフト系PZTが積層された場合であって、比RT1が0.25~0.75の場合には、圧電膜部12全体がソフト系PZTのみからなる場合(比RT1が0の場合)、及び、圧電膜部12全体がハード系PZTのみからなる場合(比RT1が1の場合)のいずれに比べても、圧電特性が向上することが明らかになった。
【0045】
好適には、下部圧電膜21の厚さTH1と上部圧電膜22の厚さTH2との和に対する厚さTH1の比RT1は、0.25~0.5である。
図3に示すように、比RT1が0.25以上の場合には、比RT1が0.25未満の場合に比べ、圧電膜部12に応力が印加された場合に、圧電膜部12の上層部が有する引っ張り応力が小さくなり、圧電膜部12の上面及び下面に電荷が発生しやすくなる。また、
図3に示すように、比RT1が0.5以下の場合には、比RT1が0.5を超える場合に比べ、圧電膜部12の上層部が有する圧電定数が大きくなり、圧電膜部12に応力が印加された場合に、圧電膜部12の上面及び下面に電荷が発生しやすくなる。更に、比RT1が0.5に近い場合には、比RT1が0.5から離れている場合に比べ、下部圧電膜21の厚さと上部圧電膜22の厚さとを略等しくすることができるので、単位膜厚当たりの圧電膜部12を成膜する時間を最も短縮することができ、膜構造体10の生産性を向上させ、膜構造体10の製造コストを低減することができる。
【0046】
好適には、下部圧電膜21の圧電定数は、上部圧電膜22の圧電定数よりも小さい。即ち、上部圧電膜22の圧電定数は、下部圧電膜21の圧電定数よりも大きい。このような場合であって、上記したように、下部圧電膜21の厚さTH1が上部圧電膜22の厚さTH2以下である場合には、例えば圧電膜部12に、基体11の上面に垂直な方向の応力又は基体11の上面に平行な方向の応力が印加されたときに圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷を確実に増加させることができる。即ち、圧電膜部12の圧電特性(正圧電特性)を確実に向上させることができる。
【0047】
好適には、下部圧電膜21は、下記一般式(化5)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物を含む。
Pb(Zr1-aTia)O3・・・(化5)
ここで、aは、0.48<a≦0.78を満たす。なお、上記一般式(化5)は、上記一般式(化1)と同一の複合酸化物を表す。
【0048】
このような場合、下部圧電膜21は、モルフォトロピック相境界(Morphotropic Phase Boundary:MPB)よりも大きいTi組成比を有する、即ちTiリッチ組成を有することになり、ハード系PZTになりやすくなる。
【0049】
なお、上記一般式(化5)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物において、チタン酸ジルコン酸鉛の絶縁性又は圧電特性を向上させるために、鉛(Pb)の一部が元素Aで置換されてもよい。元素Aは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択された一種以上よりなる。このような場合、下部圧電膜21は、上記一般式(化5)に代えて、下記一般式(化6)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物を含む。
(Pb1-xAx)(Zr1-aTia)O3・・・(化6)
ここで、xは、0<x≦0.04を満たし、aは、0.48<a≦0.78を満たす。
【0050】
また、好適には、上部圧電膜22は、下記一般式(化7)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物を含む。
Pb(Zr1-bTib)O3・・・(化7)
ここで、bは、0.28≦b≦0.48を満たす。なお、上記一般式(化7)は、上記一般式(化2)と同一の複合酸化物を表す。
【0051】
このような場合、上部圧電膜22は、MPBよりも大きいZr組成比を有する、即ちZrリッチ組成を有することになり、ソフト系PZTになりやすくなる。
【0052】
なお、上記一般式(化7)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物において、チタン酸ジルコン酸鉛の絶縁性又は圧電特性を向上させるために、Pbの一部が元素Bで置換されてもよい。元素Bは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択された一種以上よりなる。このような場合、上部圧電膜22は、上記一般式(化7)に代えて、下記一般式(化8)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物を含む。
(Pb1-yBy)(Zr1-bTib)O3・・・(化8)
ここで、yは、0<y≦0.04を満たし、bは、0.28≦b≦0.48を満たす。
【0053】
また、好適には、下部圧電膜21の弾性定数EL1と厚さTH1との積PR1と、上部圧電膜22の弾性定数EL2と厚さTH2との積PR2と、の和は、基体11の弾性定数ELBと基体11の厚さTHBとの積PRBよりも小さい。
【0054】
このような場合であって、且つ、例えば基体11の熱膨張係数が圧電膜部12の熱膨張係数よりも小さい場合には、基体11は、圧縮応力を有し、圧電膜部12は、引っ張り応力を有することになる。そして、更に、積PR1と積PR2との和が積PRBよりも小さい場合には、基体11及び圧電膜部12の厚さ方向において、基体11の下面から圧電膜部12の上面に向かって圧縮応力から引っ張り応力に切り替わる位置、即ち応力中心位置SCPが、基体11と圧電膜部12との境界面よりも基体11側、即ち基体11の内部に位置することになる。これにより、圧電膜部12は、下面から上面にかけて厚さ方向のいずれの位置でも引っ張り応力を有する。そのため、本実施の形態1の膜構造体を圧電素子として用いる場合に、例えば圧電膜部12が有する応力が圧電素子の実装状態に応じて変動しにくくなるので、圧電素子を容易に設計することができる。
【0055】
また、好適には、下部圧電膜21の下層部は、引っ張り応力を有する。基体11との配置関係により、下部圧電膜21の下層部が、最も圧縮応力を有しやすい。しかし、最も圧縮応力を有しやすい下部圧電膜21の下層部でさえも、引っ張り応力を有することにより、下部圧電膜21が、下面から上面にかけて厚さ方向のいずれの位置でも引っ張り応力を有することになる。そのため、応力中心位置SCPが、確実に、基体11と圧電膜部12との境界面よりも基体11側、即ち基体11の内部に位置することになる。従って、圧電素子を更に容易に設計することができる。
【0056】
また、好適には、下部圧電膜21の弾性定数は、下部圧電膜21の弾性スティフネスC
13であり、上部圧電膜22の弾性定数は、上部圧電膜22の弾性スティフネスC
13である。このような場合、下部圧電膜21及び上部圧電膜22の各々の弾性定数として、各層に対して基体11の厚さ方向に印加される応力と、各層において基体11の上面11a(
図1参照)に平行な方向の歪との関係を示す弾性スティフネスC
13が用いられる。そのため、圧電膜部12に対して、基体11の上面11aに垂直な方向の応力が印加されたときに、圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷をより正確に評価することができる。
【0057】
また、好適には、下部圧電膜21の圧電定数は、下部圧電膜21の圧電定数d
31であり、上部圧電膜22の圧電定数は、上部圧電膜22の圧電定数d
31である。これにより、下部圧電膜21及び上部圧電膜22の各々の圧電定数として、圧電膜部12に対して、基体11の上面11a(
図1参照)に垂直な方向に印加される電界、即ち圧電膜部12の厚さ方向に印加される電界と、圧電膜部12の、基体11の上面11aに平行な方向の歪、即ち圧電膜部12の上面に平行な方向の歪との関係を示す圧電定数d
31が用いられる。そのため、圧電膜部12に対して、基体11の上面11aに平行な方向の応力が印加されたときに発生する、圧電膜部12の厚さ方向の電圧を評価することができる。従って、圧電膜部12に対して、基体11の上面11aに平行な方向の応力が印加されたときに、圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷をより正確に評価することができる。
【0058】
好適には、基体11は、(100)配向したシリコンよりなる。配向膜13は、基体11上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した酸化ジルコニウムを含み、導電膜14は、配向膜13上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した白金を含む導電膜と、を有する。下部圧電膜21は、導電膜14上に形成され、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチタン酸ジルコン酸鉛を含む。上部圧電膜22は、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチタン酸ジルコン酸鉛を含む。正方晶の結晶構造を有するPZTが(001)配向している場合、[001]方向に平行な分極方向と、圧電膜部12の厚さ方向に平行な電界方向とが互いに平行になるので、圧電特性が向上する。
【0059】
ここで、配向膜13が(100)配向している、とは、立方晶の結晶構造を有する配向膜13の(100)面が、シリコンよりなる基体11の、(100)面よりなる主面としての上面11aに沿っていることを意味し、好適には、シリコンよりなる基体11の、(100)面よりなる上面11aに平行であることを意味する。また、配向膜13の(100)面が基体11の(100)面よりなる上面11aに平行であるとは、配向膜13の(100)面が基体11の上面11aに完全に平行な場合のみならず、基体11の上面11aに完全に平行な面と配向膜13の(100)面とのなす角度が20°以下であるような場合を含む。また、配向膜13のみならず、他の層の膜の配向についても同様である。
【0060】
好適には、配向膜13は、基体11上にエピタキシャル成長し、導電膜14は、配向膜13上にエピタキシャル成長している。これにより、下部圧電膜21が、正方晶の結晶構造を有する場合に、下部圧電膜21を導電膜14上にエピタキシャル成長させることができ、下部圧電膜21が、(001)配向しやすくなる。また、上部圧電膜22が、正方晶の結晶構造を有する場合に、上部圧電膜22を下部圧電膜21上にエピタキシャル成長させることができ、上部圧電膜22が、(001)配向しやすくなる。そして、正方晶の結晶構造を有するPZTが(001)配向している場合、[001]方向に平行な分極方向と、圧電膜部12の厚さ方向に平行な電界方向とが確実に互いに平行になるので、圧電特性が更に向上する。
【0061】
なお、
図1においては、基体11の主面としての上面11a内で互いに直交する2つの方向を、X軸方向及びY軸方向とし、上面11aに垂直な方向をZ軸方向としている。このような場合、ある膜がエピタキシャル成長しているとは、その膜が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のいずれの方向にも配向していることを意味する。
【0062】
また、
図1では図示を省略するが、好適には、膜構造体10は、導電膜14と圧電膜部12との間に形成され、ペロブスカイト構造を有し、且つ、下記一般式(化9)で表される複合酸化物を含む酸化膜を有する。
Sr(Ti
zRu
1-z)O
3・・・(化9)
【0063】
ここで、zは、0≦z≦0.4を満たすことが好ましく、0.05≦z≦0.2を満たすことがより好ましい。zが0.01未満の場合、上記一般式(化9)で表される複合酸化物の抵抗が高くなり、下部圧電膜21及び上部圧電膜22に十分に電界を印加できないおそれがある。一方、zが0.4を超える場合、上記一般式(化9)で表される複合酸化物が粉になり、十分に固まらないおそれがある。
【0064】
膜構造体10が導電膜14と圧電膜部12との間に上記したペロブスカイト構造を有する酸化膜を有することにより、圧電膜部12、特に、圧電膜部12のうち下部圧電膜21に含まれるチタン酸ジルコン酸鉛が、(001)配向しやすくなる。
【0065】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2の膜構造体について説明する。実施の形態2の膜構造体は、ソフト系PZT上にハード系PZTが積層されている点で、ハード系PZT上にソフト系PZTが積層された実施の形態1の膜構造体と異なる。
【0066】
図4は、実施の形態2の膜構造体の断面図である。
図4に示すように、本実施の形態2の膜構造体10は、基体11と、基体11の主面としての上面11a上に形成された圧電膜部12と、を有し、圧電膜部12は、下部圧電膜23と、下部圧電膜23上に形成された上部圧電膜24と、を有する。下部圧電膜23は、チタン酸ジルコン酸鉛を含む。上部圧電膜24は、チタン酸ジルコン酸鉛を含む。基体11は、基体11の上面11aに平行な方向に印加された、即ち上面11aに沿って印加された、圧縮応力(後述する
図5に示す圧縮応力CS2)を有する。下部圧電膜23及び上部圧電膜24は、いずれも、基体11の上面11aに平行な方向に印加された、即ち上面11aに沿って印加された、引っ張り応力(後述する
図5に示す引っ張り応力TS3及びTS4)を有する。
【0067】
本実施の形態2では、下部圧電膜21の弾性定数が上部圧電膜22の弾性定数よりも大きい実施の形態1と異なり、下部圧電膜23の弾性定数は、上部圧電膜24の弾性定数よりも小さい。即ち、上部圧電膜24の弾性定数は、下部圧電膜23の弾性定数よりも大きい。言い換えれば、本実施の形態2では、実施の形態1と異なり、下部圧電膜23が含むチタン酸ジルコン酸鉛は、所謂ソフト系PZTであり、上部圧電膜24が含むチタン酸ジルコン酸鉛は、所謂ハード系PZTであり、実施の形態1とは上下反転した状態で積層されている。また、下部圧電膜23が含むチタン酸ジルコン酸鉛に一定の電圧を印加したときの歪量は、上部圧電膜24が含むチタン酸ジルコン酸鉛に同一の電圧を印加したときの歪量よりも大きい。
【0068】
後述する
図5を用いて説明するように、本実施の形態2の膜構造体10は、このような構造を有することにより、例えば圧電膜部12に、基体11の上面11a(
図4参照)に垂直な方向の応力又は基体11の上面11aに平行な方向の応力が印加されたときに、圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷を増加させることができる。即ち、圧電膜部12の圧電特性(正圧電特性)を向上させることができる。
【0069】
図4に示すように、本実施の形態2の膜構造体10も、実施の形態1の膜構造体10と同様に、好適には、配向膜13と、導電膜14と、導電膜15と、を有する。配向膜13は、基体11上に形成されている。導電膜14は、配向膜13上に形成されている。導電膜14は、下部電極である。圧電膜部12即ち下部圧電膜23は、導電膜14上に形成されている。導電膜15は、圧電膜部12上に、即ち上部圧電膜24上に形成されている。導電膜15は、上部電極である。
【0070】
図4に示すように、本実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、膜構造体10がSOI基板16の上面側に形成される場合を考える。SOI基板16は、シリコン基板17と、シリコン基板17上に形成されたBOX層18と、BOX層18上に形成されたSOI層19と、を含む。このような場合、シリコンよりなるSOI層19を、基体11として用いることができる。
【0071】
また、本実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、
図2に示すように、シリコン基板17の下面からシリコン基板17を貫通してBOX層18に達する開口部17aを形成し、BOX層18の下面からBOX層18を貫通してSOI層19に達し、且つ、開口部17aと連通した開口部18aを形成し、上部電極としての導電膜15の一部をエッチングしてパターニングすることができる。これにより、平面視において、開口部17a内及び開口部18a内に、SOI層19よりなる基体11と、配向膜13と、導電膜14と、圧電膜部12と、導電膜15と、を有する膜構造体10よりなる圧電素子を形成することができる。
【0072】
なお、本実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、基体11として、例えば高い不純物濃度を有し、高い導電性を有するシリコンよりなるSOI層19を用いる場合には、配向膜13と、導電膜14とを省略することができる。また、基体11として、例えば、圧電膜部12の表面に導電性を有するプローブを接触させて用いる場合には、導電膜15を省略することもできる。また、基体11として、シリコン以外にも、酸化シリコン等の酸化膜等の各種の膜を用いることができる。
【0073】
また、基体11に代えて、各種の基板を用いることができる。即ち、圧電膜部12が、膜形状を有する基体11上に形成されなくてもよく、シリコン、ガラスその他の各種の基板上に形成されることができる。
【0074】
次に、本実施の形態2の膜構造体の技術思想について、圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜23の厚さの比が発生電荷に及ぼす影響を計算した結果を用いて説明する。
図5は、実施の形態2の計算に用いた膜構造体の断面図である。なお、
図5では、膜構造体10の圧電膜部12が有する引っ張り応力についての理解を簡単にするために、膜構造体10が湾曲即ち反っているときの膜構造体10の曲率半径を、実際の曲率半径よりも小さく誇張して示している。また、
図5では、基体11が有する圧縮応力を圧縮応力CS2と表示し、下部圧電膜23が有する引っ張り応力を引っ張り応力TS3と表示し、上部圧電膜24が有する引っ張り応力を引っ張り応力TS4と表示している。
図5に示すように、基体11が圧縮応力CS2を有し、下部圧電膜23が引っ張り応力TS3を有し、上部圧電膜24が引っ張り応力TS4を有する場合、膜構造体10は、下に凸の形状を有するように、湾曲即ち反ることになる。
【0075】
本実施の形態2の膜構造体についても、実施の形態1の膜構造体と同様に、本発明者らは、下部圧電膜23の厚さTH3と上部圧電膜24の厚さTH4との和、即ち圧電膜部12全体の厚さに対する、下部圧電膜23の厚さTH3の比RT2を変化させた場合に、比RT2が発生電荷に及ぼす影響を計算した。その結果、本発明者らは、下部圧電膜23が含むチタン酸ジルコン酸鉛がソフト系PZTよりなり、上部圧電膜24が含むチタン酸ジルコン酸鉛がハード系PZTよりなる場合、即ち、ソフト系PZT上にハード系PZTが積層された場合には、圧電膜部12全体がハード系PZTのみからなる場合及び圧電膜部12全体がソフト系PZTのみからなる場合のいずれに比べても、圧電特性が向上することを見出した。
【0076】
圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜23の厚さの比RT2が発生電荷に及ぼす影響を計算するためのモデルとして、
図5に示すように、配向膜13(
図4参照)と、導電膜14(
図4参照)と、導電膜15(
図4参照)とを省略して単純化した膜構造体のモデルを用いた。また、基体11をシリコンよりなるものとし、基体11の厚さTHB
を1μmとし、圧電膜部12の全体の厚さを1μmとした。また、下部圧電膜23が含むチタン酸ジルコン酸鉛の比誘電率、圧電定数d
31、ヤング率として、表1に示した上部圧電膜22が含むチタン酸ジルコン酸鉛の比誘電率、圧電定数d
31、ヤング率を用いた。また、上部圧電膜24が含むチタン酸ジルコン酸鉛の比誘電率、圧電定数d
31、ヤング率として、表1に示した下部圧電膜21が含むチタン酸ジルコン酸鉛の比誘電率、圧電定数d
31、ヤング率を用いた。
【0077】
このような条件で、圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜23の厚さの比RT2を、0、0.25、0.5、0.75、1と変化させ、比RT2が発生電荷に及ぼす影響を計算した。その結果を、
図6に示す。
図6は、実施の形態2の膜構造体における圧電膜部全体の厚さに対する下部圧電膜の厚さの比が発生電荷に及ぼす影響を示すグラフである。
図6の横軸は、圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜23の厚さの比RT2を示し、
図6の縦軸は、圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷の量を示す指数である、発生電荷指数を示している。また、
図6では、圧電膜部12全体の厚さに対する下部圧電膜23の厚さの比RT2を、「下レイヤー割合」と表記し、比RT2に100を乗じて得た値を用いて示している。
【0078】
図6に示すように、比RT2が0.25~0.75の場合には、比RT2が0の場合及び比RT2が1の場合のいずれに比べても、発生電荷指数が増加している。即ち、ソフト系PZT上にハード系PZTが積層された場合であって、比RT2が0.25~0.75の場合には、圧電膜部12全体がハード系PZTのみからなる場合(比RT2が0の場合)、及び、圧電膜部12全体がソフト系PZTのみからなる場合(比RT2が1の場合)のいずれに比べても、圧電特性が向上することが明らかになった。
【0079】
好適には、下部圧電膜23の厚さTH3と上部圧電膜24の厚さTH4との和に対する厚さTH3の比RT2は、0.5~0.75である。
図6に示すように、比RT2が0.5以上の場合には、比RT2が0.5未満の場合に比べ、圧電膜部12の下層部が有する圧電定数が大きくなり、圧電膜部12に応力が印加された場合に、圧電膜部12の上面及び下面に電荷が発生しやすくなる。また、
図6に示すように、比RT2が0.75以下の場合には、比RT2が0.75を超える場合に比べ、圧電膜部12に応力が印加された場合に、圧電膜部12の下層部が有する引っ張り応力が小さくなり、圧電膜部12の上面及び下面に電荷が発生しやすくなる。更に、比RT2が0.5に近い場合には、比RT2が0.5から離れている場合に比べ、下部圧電膜23の厚さと上部圧電膜24の厚さとを略等しくすることができるので、単位膜厚当たりの圧電膜部12を成膜する時間を最も短縮することができ、膜構造体10の生産性を向上させ、膜構造体10の製造コストを低減することができる。
【0080】
好適には、下部圧電膜23の圧電定数は、上部圧電膜24の圧電定数よりも大きい。即ち、上部圧電膜24の圧電定数は、下部圧電膜23の圧電定数よりも小さい。このような場合であって、上記したように、下部圧電膜23の厚さTH3が上部圧電膜24の厚さTH4以上である場合には、例えば圧電膜部12に、基体11の上面に垂直な方向の応力又は基体11の上面に平行な方向の応力が印加されたときに圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷を確実に増加させることができる。即ち、圧電膜部12の圧電特性(正圧電特性)を確実に向上させることができる。
【0081】
好適には、下部圧電膜23は、下記一般式(化10)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物を含む。
Pb(Zr1-cTic)O3・・・(化10)
ここで、cは、0.28≦c≦0.48を満たす。なお、上記一般式(化10)は、上記一般式(化3)と同一の複合酸化物を表す。
【0082】
このような場合、下部圧電膜23は、MPBよりも大きいZr組成比を有する、即ちZrリッチ組成を有することになり、ソフト系PZTになりやすくなる。
【0083】
なお、上記一般式(化10)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物において、チタン酸ジルコン酸鉛の絶縁性又は圧電特性を向上させるために、Pbの一部が元素Cで置換されてもよい。元素Cは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択された一種以上よりなる。このような場合、下部圧電膜23は、上記一般式(化10)に代えて、下記一般式(化11)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物を含む。
(Pb1-uCu)(Zr1-cTic)O3・・・(化11)
ここで、uは、0<u≦0.04を満たし、cは、0.28≦c≦0.48を満たす。
【0084】
好適には、上部圧電膜24は、下記一般式(化12)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物を含む。
Pb(Zr1-dTid)O3・・・(化12)
ここで、dは、0.48<d≦0.78を満たす。なお、上記一般式(化12)は、上記一般式(化4)と同一の複合酸化物を表す。
【0085】
このような場合、上部圧電膜24は、MPBよりも大きいTi組成比を有する、即ちTiリッチ組成を有することになり、ハード系PZTになりやすくなる。
【0086】
なお、上記一般式(化12)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物において、チタン酸ジルコン酸鉛の絶縁性又は圧電特性を向上させるために、Pbの一部が元素Dで置換されてもよい。Dは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択された一種以上よりなる。このような場合、上部圧電膜24は、上記一般式(化12)に代えて、下記一般式(化13)で表されるチタン酸ジルコン酸鉛よりなる複合酸化物を含む。
(Pb1-vDv)(Zr1-dTid)O3・・・(化8)
ここで、vは、0<y≦0.04を満たし、dは、0.48<d≦0.78を満たす。
【0087】
また、好適には、下部圧電膜23の弾性定数EL3と厚さTH3との積PR3と、上部圧電膜24の弾性定数EL4と厚さTH4との積PR4と、の和は、基体11の弾性定数ELBと基体11の厚さTHBとの積PRBよりも小さい。
【0088】
このような場合であって、且つ、例えば基体11の熱膨張係数が圧電膜部12の熱膨張係数よりも小さい場合には、基体11は、圧縮応力を有し、圧電膜部12は、引っ張り応力を有することになる。そして、更に、積PR3と積PR4との和が積PRBよりも小さい場合には、実施の形態1において上記したように、基体11及び圧電膜部12の厚さ方向において、応力中心位置SCPが、基体11と圧電膜部12との境界面よりも基体11側に位置することになる。これにより、圧電膜部12は、下面から上面にかけて厚さ方向のいずれの位置でも引っ張り応力を有する。そのため、本実施の形態2の膜構造体を圧電素子として用いる場合に、例えば圧電膜部12が有する応力が圧電素子の実装状態に応じて変動しにくくなるので、圧電素子を容易に設計することができる。
【0089】
また、好適には、下部圧電膜23の下層部は、引っ張り応力を有する。これにより、実施の形態1において上記したように、下部圧電膜23が、下面から上面にかけて厚さ方向のいずれの位置でも引っ張り応力を有することになる。そのため、応力中心位置SCPが、確実に、基体11の内部に位置することになる。従って、圧電素子を更に容易に設計することができる。
【0090】
また、好適には、下部圧電膜23の弾性定数は、下部圧電膜23の弾性スティフネスC
13であり、上部圧電膜24の弾性定数は、上部圧電膜24の弾性スティフネスC
13である。このような場合、下部圧電膜23及び上部圧電膜24の各々の弾性定数として、各層に対して基体11の厚さ方向に印加される応力と、各層において基体11の上面11a(
図4参照)に平行な方向の歪との関係を示す弾性スティフネスC
13が用いられる。そのため、圧電膜部12に対して、基体11の上面11aに垂直な方向の応力が印加されたときに、圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷をより正確に評価することができる。
【0091】
また、好適には、下部圧電膜23の圧電定数は、下部圧電膜23の圧電定数d
31であり、上部圧電膜24の圧電定数は、上部圧電膜24の圧電定数d
31である。これにより、下部圧電膜23及び上部圧電膜24の各々の圧電定数として、圧電膜部12に対して、基体11の上面11a(
図4参照)に垂直な方向に印加される電界、即ち圧電膜部12の厚さ方向に印加される電界と、圧電膜部12の、基体11の上面11aに平行な方向の歪、即ち圧電膜部12の上面に平行な方向の歪との関係を示す圧電定数d
31が用いられる。そのため、圧電膜部12に対して、基体11の上面11aに平行な方向の応力が印加されたときに発生する、圧電膜部12の厚さ方向の電圧を評価することができる。従って、圧電膜部12に対して、基体11の上面11aに平行な方向の応力が印加されたときに、圧電膜部12の上面及び下面に発生する電荷をより正確に評価することができる。
【0092】
本実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、好適には、基体11は、(100)配向したシリコンよりなる。配向膜13は、基体11上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した酸化ジルコニウムを含み、導電膜14は、配向膜13上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した白金を含む導電膜と、を有する。下部圧電膜23は、導電膜14上に形成され、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチタン酸ジルコン酸鉛を含む。上部圧電膜24は、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチタン酸ジルコン酸鉛を含む。これにより、実施の形態1と同様に、[001]方向に平行な分極方向と、圧電膜部12の厚さ方向に平行な電界方向とが互いに平行になるので、圧電特性が向上する。
【0093】
本実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、好適には、配向膜13は、基体11上にエピタキシャル成長し、導電膜14は、配向膜13上にエピタキシャル成長している。これにより、下部圧電膜23が、正方晶の結晶構造を有する場合に、下部圧電膜23を導電膜14上にエピタキシャル成長させることができ、下部圧電膜23が、(001)配向しやすくなる。また、上部圧電膜24が、正方晶の結晶構造を有する場合に、上部圧電膜24を下部圧電膜23上にエピタキシャル成長させることができ、上部圧電膜24が、(001)配向しやすくなる。そして、正方晶の結晶構造を有するPZTが(001)配向している場合、[001]方向に平行な分極方向と、圧電膜部12の厚さ方向に平行な電界方向とが確実に互いに平行になるので、圧電特性が更に向上する。
【0094】
また、
図4では図示を省略するが、本実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、好適には、膜構造体10は、導電膜14と圧電膜部12との間に形成され、ペロブスカイト構造を有し、且つ、上記一般式(化9)で表される複合酸化物を含む酸化膜を有する。
【実施例】
【0095】
以下、実施例に基づいて本実施の形態を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0096】
[測定パターン及びカンチレバーの作製]
(実施例1)
実施の形態1の膜構造体であって、下部圧電膜21の厚さが250nmであり、上部圧電膜22の厚さが750nmであり、
図3において比RT1が0.25の場合に相当する膜構造体、即ち圧電膜部12全体がハード系PZTとハード系PZT上のソフト系PZTとの積層体よりなる膜構造体を、実施例1の膜構造体として作製した。
【0097】
以下では、実施例1の膜構造体の形成方法について説明する。まず、SOI基板16(
図1参照)を用意した。SOI基板16は、シリコン基板17(
図1参照)と、シリコン基板17上に形成されたBOX層18と、BOX層18上に形成されたSOI層19よりなる基体11と、を含み、基体11は、(100)面よりなる主面としての上面を有していた。
【0098】
次に、基体11上に、配向膜13(
図1参照)として、酸化ジルコニウム(ZrO
2)膜を、電子ビーム蒸着法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : 電子ビーム蒸着装置
圧力 : 7.00×10
-3Pa
蒸着源 : Zr+O
2
加速電圧/エミッション電流 : 7.5kV/1.80mA
厚さ : 24nm
基板温度 : 500℃
【0099】
次に、配向膜13上に、導電膜14(
図1参照)として、白金(Pt)膜を、スパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : DCスパッタリング装置
圧力 : 1.20×10
-1Pa
蒸着源 : Pt
電力 : 100W
厚さ : 150nm
基板温度 : 450~600℃
【0100】
次に、導電膜14上に、下部圧電膜21(
図1参照)として、ハード系材料としてのPb(Zr
0.30Ti
0.70)O
3膜(PZT膜)を、スパッタリング法により形成した。下部圧電膜21の厚さは、250nmであった。この際の条件を、以下に示す。
装置 : RFマグネトロンスパッタリング装置
パワー : 1750W
ガス : Ar/O
2
圧力 : 1Pa
基板温度 : 380℃
【0101】
次に、下部圧電膜21上に、上部圧電膜22(
図1参照)として、ソフト系材料としての(Pb
0.98La
0.02)(Zr
0.58Ti
0.42)O
3膜(PLZT膜)を、スパッタリング法により形成した。上部圧電膜22の厚さは、750nmであった。この際の条件を、以下に示す。
装置 : RFマグネトロンスパッタリング装置
パワー : 1750W
ガス : Ar/O
2
圧力 : 1Pa
基板温度 : 380℃
【0102】
次に、上部圧電膜22上に、導電膜15(
図1参照)として、白金(Pt)膜を、スパッタリング法により形成した。
【0103】
次に、導電膜15のうち圧電膜部12を介してシリコン基板17直上に配置された部分をエッチングしてパターニングした。これにより、圧電定数d33を測定するための実施例1の測定パターンを作製した。
【0104】
なお、詳細な説明は省略するが、X線回折(X‐Ray Diffraction:XRD)法を用いて評価したところ、酸化ジルコニウム(ZrO2)膜は、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向しており、白金(Pt)膜は、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向していることが分かった。下部圧電膜21及び上部圧電膜22のいずれも、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向していることが分かった。
【0105】
また、シリコン基板17の下面からシリコン基板17を貫通してBOX層18に達する開口部17aを形成し、BOX層18の下面からBOX層18を貫通してSOI層19に達し、且つ、開口部17aと連通した開口部18aを形成し、導電膜15のうち平面視において開口部17a内及び開口部18a内に配置された部分をエッチングしてパターニングした。これにより、平面視における開口部17a内及び開口部18a内に、SOI層19よりなる基体11と、配向膜13と、導電膜14と、圧電膜部12と、導電膜15と、を有する膜構造体10よりなり、圧電定数d31を測定するための実施例1のカンチレバーを作製した。
【0106】
(実施例2)
下部圧電膜21及び上部圧電膜22を成膜する成膜時間を変えたこと以外は、実施例1と同様の手順により、下部圧電膜21の厚さが300nmであり、上部圧電膜22の厚さが700nmであり、且つ、
図3において比RT1が0.3の場合に相当する膜構造体を、実施例2の膜構造体として作製した。
【0107】
(実施例3)
下部圧電膜21及び上部圧電膜22を成膜する成膜時間を変えたこと以外は、実施例1と同様の手順により、下部圧電膜21の厚さが500nmであり、上部圧電膜22の厚さが1000nmであり、且つ、
図3において比RT1が0.33の場合に相当する膜構造体を、実施例3の膜構造体として作製した。
【0108】
(実施例4)
下部圧電膜21及び上部圧電膜22を成膜する成膜時間を変えたこと以外は、実施例1と同様の手順により、下部圧電膜21の厚さが500nmであり、上部圧電膜22の厚さが1500nmであり、且つ、
図3において比RT1が0.25の場合に相当する膜構造体を、実施例4の膜構造体として作製した。
【0109】
(比較例1)
上部圧電膜22を成膜せず、下部圧電膜21のみを成膜したこと以外は、実施例1と同様の手順により、下部圧電膜21の厚さが1000nmであり、且つ、
図3において比RT1が1の場合に相当する膜構造体、即ち圧電膜部12全体がハード系PZTのみからなる膜構造体を、比較例1の膜構造体として作製した。
【0110】
(比較例2)
下部圧電膜21を成膜せず、上部圧電膜22のみを成膜したこと以外は、実施例1と同様の手順により、上部圧電膜22の厚さが1000nmであり、且つ、
図3において比RT1が0の場合に相当する膜構造体、即ち圧電膜部12全体がソフト系PZTのみからなる膜構造体を、比較例2の膜構造体として作製した。
【0111】
[分極の電圧依存性及び変位の電圧依存性]
(比較例1)
比較例1の膜構造体について、作製された測定パターンを用いて、導電膜14と導電膜15との間に電圧を印加して分極の電圧依存性を測定した。
図7は、比較例1の膜構造体の分極の電圧依存性を示すグラフである。また、比較例1の膜構造体について、作製されたカンチレバーを用いて、膜構造体の変位の電圧依存性を測定した。
図8は、比較例1の膜構造体の変位の電圧依存性を示すグラフである。
【0112】
図7に示すように、残留分極P
rは、正側で50.5μC/cm
2であり、負側で-54.3μC/cm
2であり、抗電圧V
cは、正側で34.1Vであり、負側で-13.2Vであり、比誘電率ε
rは、126であった。また、
図8に示すように、圧電定数d
31は、-100pm/V(pC/N)であり、圧電定数g
31(圧電定数d
31/比誘電率ε
r)は、-79×10
-3Vm/N(m
2/C)であった。
【0113】
(比較例2)
比較例2の膜構造体について、作製された測定パターンを用いて、導電膜14と導電膜15との間に電圧を印加して分極の電圧依存性を測定した。
図9は、比較例2の膜構造体の分極の電圧依存性を示すグラフである。また、比較例2の膜構造体について、作製されたカンチレバーを用いて、膜構造体の変位の電圧依存性を測定した。
図10は、比較例2の膜構造体の変位の電圧依存性を示すグラフである。
【0114】
図9に示すように、残留分極P
rは、正側で19.1μC/cm
2であり、負側で-36.3μC/cm
2であり、抗電圧V
cは、正側で11.9Vであり、負側で-4.0Vであり、比誘電率ε
rは、268であった。また、
図10に示すように、圧電定数d
31は、-208pm/V(pC/N)であり、圧電定数g
31(圧電定数d
31/比誘電率ε
r)は、-78×10
-3Vm/N(m
2/C)であった。
【0115】
図7と
図9とを比べると、比較例1の方が、比較例2に比べて、分極の電圧依存性を示すヒステリシス曲線で囲まれた部分の面積が大きく、抗電圧付近でヒステリシス曲線が略縦軸に平行に変化する、所謂角形性に優れていた。これは、比較例1の膜構造体において圧電膜部12全体がハード系PZTのみからなり、比較例2の膜構造体において圧電膜部12全体がソフト系PZTのみからなることと、整合していた。
【0116】
[圧電定数]
実施例1乃至実施例4並びに比較例1及び比較例2の6種類の膜構造体についての測定パターン及びカンチレバーを用いて、圧電定数d33、圧電定数d31及び圧電定数g31を評価した。圧電定数d33、圧電定数d31及び圧電定数g31の評価結果を、表2に示す。なお、表2では、圧電定数d31及び圧電定数g31については、負の符号の表記を省略し、絶対値で示している。また、表2では、カンチレバーを作製する前のSOI基板16の反り量を合わせて示している。反り量の符号が負の場合、SOI基板16が下に凸の形状を有するように、湾曲即ち反っていることを意味する。
【0117】
【0118】
表2に示すように、圧電膜部12がハード系PZT上にソフト系PZTが積層されたものである場合(実施例1乃至実施例4)、圧電定数d33は255~298pC/Nとなり、圧電定数d33が199pC/Nの、圧電膜部12がハード系PZTのみからなる場合(比較例1)、及び、圧電定数d33が250pC/Nの、圧電膜部12がソフト系PZTのみからなる場合(比較例2)、のいずれに比べても、圧電定数d33が大きくなった。
【0119】
表2に示すように、圧電膜部12がハード系PZT上にソフト系PZTが積層されたものである場合(実施例1乃至実施例4)、圧電定数d31の絶対値は196~245pC/Nとなり、圧電定数d31の絶対値が145pC/Nの、圧電膜部12がハード系PZTのみからなる場合(比較例1)、及び、圧電定数d31の絶対値が173pC/Nの、圧電膜部12がソフト系PZTのみからなる場合(比較例2)、のいずれに比べても、圧電定数d31の絶対値が大きくなった。
【0120】
このように、圧電定数d
33及び圧電定数d
31の測定結果において、圧電膜部12がハード系PZT上にソフト系PZTが積層されたものである場合(実施例1乃至実施例4)には、圧電膜部12がハード系PZTのみからなる場合(比較例1)及び圧電膜部12がソフト系PZTのみからなる場合(比較例2)のいずれよりも、圧電特性(正圧電特性)が向上したことは、
図3の計算結果と整合していた。従って、ハード系PZT上にソフト系PZTが積層された場合には、圧電膜部12全体がハード系PZTのみからなる場合及び圧電膜部12全体がソフト系PZTのみからなる場合のいずれに比べても、圧電特性が向上することが明らかになった。
【0121】
また、比較例1、比較例2及び実施例2の各々の膜構造体についての測定パターン及びd
33メータを用いて圧電膜部12に上下から圧縮応力を印加したときの発生電荷量を測定した結果を
図11乃至
図13のグラフに示す。
図11は比較例1に対応し、
図12は比較例2に対応し、
図13は実施例2に対応している。
図11乃至
図13のグラフの横軸は、複数回行われる測定の測定回数をステップとして表示し、
図11乃至
図13のグラフの縦軸は、測定された電荷を規格化して表示している。また、
図11乃至
図13のグラフの縦軸に示す電荷は、
図3の発生電荷指数に相当し、表2に示す圧電定数d
33に相当する。
【0122】
比較例1、比較例2及び実施例2の各々の膜構造体において最初のステップで発生した電荷を、電荷CR1、電荷CR2及び電荷CR3とする。このとき、
図11乃至
図13に示すように、電荷CR3は、電荷CR1及び電荷CR2のいずれよりも大きかった。そのため、
図11乃至
図13により、圧電膜部12がハード系PZT上にソフト系PZTが積層されたものである場合(実施例2)には、圧電膜部12がハード系PZTのみからなる場合(比較例1)及び圧電膜部12がソフト系PZTのみからなる場合(比較例2)のいずれよりも、圧電特性(正圧電特性)が向上したことは、
図3の計算結果と整合していた。従って、ソフト系PZT上にハード系PZTが積層された場合には、圧電膜部12全体がハード系PZTのみからなる場合及び圧電膜部12全体がソフト系PZTのみからなる場合のいずれに比べても、圧電特性が向上することが明らかになった。
【0123】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0124】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0125】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0126】
10 膜構造体
11 基体
11a 上面
12 圧電膜部
13 配向膜
14、15 導電膜
16 SOI基板
17 シリコン基板
17a、18a 開口部
18 BOX層
19 SOI層
21、24 下部圧電膜
22、23 上部圧電膜
CR1~CR3 電荷
CS1、CS2 圧縮応力
SCP 応力中心位置
TH1~TH4、THB 厚さ
TS1~TS4 引っ張り応力