(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 14/46 20060101AFI20240118BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240118BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C07K14/46
G01N33/68
G01N33/50 T
(21)【出願番号】P 2020551154
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2019039565
(87)【国際公開番号】W WO2020075692
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018190904
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】仲 哲治
(72)【発明者】
【氏名】世良田 聡
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-116697(JP,A)
【文献】特開2012-092095(JP,A)
【文献】特開2016-079170(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125877(WO,A1)
【文献】SERADA, S., et al.,iTRAQ-based proteomic identification of leucine-rich α-2 glycoprotein as a novel inflammatory bioma,Annals of the Rheumatic Diseases,2010年,Vol.69,pp.770-774
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイシンリッチα2グリコプロテインを含む、
ロイシンリッチα2グリコプロテインを測定するための校正用試料溶液であって、pHが7.0~9.3であ
り、塩濃度が、200mM~800mMであり、前記塩が金属塩である、ロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物。
【請求項2】
保存容器に充填されている、請求項
1記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物。
【請求項3】
pHが7.8~9.0である、請求項
1又は2に記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を使用する、ロイシンリッチα2グリコプロテイン測定方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を含む、ロイシンリッチα2グリコプロテイン測定キット。
【請求項6】
pHが7.0~9.3である溶媒にロイシンリッチα2グリコプロテインを接触させる工程を含
み、前記溶媒の塩濃度が、200mM~800mMであり、前記塩が金属塩である、ロイシンリッチα2グリコプロテインの保存安定化方法。
【請求項7】
前記溶媒のpHが7.8~9.0である、請求項
6に記載のロイシンリッチα2グリコプロテインの保存安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物に関する。より詳細には、本発明は、ロイシンリッチα2グリコプロテインを長期間、安定に保存することが可能な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ロイシンリッチα2グリコプロテイン(以下、LRGと称することがある)は、血清タンパク質のひとつである。LRGは、約50kDaの糖タンパク質であり、好中球から分泌されることが報告されている(非特許文献1)。
近年では、特定の疾患と生体試料中のLRGとの関連性についての研究が行われている。例えば、特許文献1は、生体試料中のLRGを検出することが、ベーチェット病などの自己免疫疾患の検査に有用であることを報告している。
【0003】
生体試料中の測定対象成分定量を行うには、校正用試料を用いる必要がある。校正用試料は、内部標準又は濃度較正用基準(キャリブレータ)等の用途で用いられる、測定対象成分を含む試料である。正確な定量値を得るためには、時間経過や温度に対して安定した校正用試料が求められる。すなわち、校正用試料中の測定対象成分が保存中に分解及び/又は変性してしまえば、測定値もその影響を受けることが考えられる。LRGの定量においては、これまでに、酵素免疫定量法(ELISA法)などを用いた方法が知られているが、校正用試料についての検討はなされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J Leukoc Biol.2002 72(3):478-85.2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、LRGを含む校正用試料溶液を作製しようと試みた。すると、pH7未満の溶液にLRGを添加した場合、LRGの安定性が悪く、時間と共にLRGが徐々に分解され失われていくことが分かった。
本発明の目的は、ロイシンリッチα2グリコプロテインを含有する、保存安定性の高いロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが更に検討を加えた結果、LRGを含む溶液のpHを特定の範囲に調整すると、LRGの安定性が向上することを見出した。また、溶液を特定の塩濃度の範囲内にすると、LRGの安定性がさらに向上することが分かった。本発明は、このような知見に基づくものである。
具体的に、本発明は以下のとおりである。
<1>ロイシンリッチα2グリコプロテインを含む、pHが7.0~9.3であるロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物、
<2>ロイシンリッチα2グリコプロテインを測定するための校正用試料溶液である、<1>記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物、
<3>保存容器に充填されている、<1>又は<2>記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物、
<4>pHが7.8~9.0である、<1>~<3>のいずれかに記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物、
<5>塩濃度が、200mM~800mMである、<1>~<4>のいずれかに記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物、
<6>前記塩が、金属塩である、<5>に記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物、
<7><1>~<6>のいずれかに記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を使用する、ロイシンリッチα2グリコプロテイン測定方法、
<8><1>~<6>のいずれかに記載のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を含む、ロイシンリッチα2グリコプロテイン測定キット、
<9>pHが7.0~9.3である溶媒にロイシンリッチα2グリコプロテインを接触させる工程を含む、ロイシンリッチα2グリコプロテインの保存安定化方法、
<10>前記溶媒のpHが7.8~9.0である、<9>に記載のロイシンリッチα2グリコプロテインの保存安定化方法、
<11>前記溶媒の塩濃度が、200mM~800mMである、<9>又は<10>に記載のロイシンリッチα2グリコプロテインの保存安定化方法、並びに
<12>前記塩が、金属塩である、<11>に記載のロイシンリッチα2グリコプロテインの保存安定化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロイシンリッチα2グリコプロテインを含有する、保存安定性の高いLRG含有組成物、特に、LRG含有校正用試料を提供することができる。したがって、本発明によれば、生体試料中のLRGを正確に定量することができ、疾患の診断を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】初期値を100%とした場合の、種々のpHの溶液中におけるLRG量の経時変化を表すグラフである。
【
図2】初期値を100%とした場合の、種々の塩濃度の溶液中におけるLRG量の経時変化を表すグラフである。
【
図3】初期値を100%とした場合の、種々のpHの溶液中におけるLRG量の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ロイシンリッチα2グリコプロテイン)
ロイシンリッチα2グリコプロテイン又はLRGは、約50kDaの糖タンパク質である。LRGは、血清タンパク質の一種であり、健常人の血清には約3.0μg/mL含まれると言われている。LRGは、好中球から分泌されることが報告されている。体内におけるLRGの量的変化と様々な疾患、例えば、結核又は腫瘍との関連性が近年研究されており、これらの疾患を正確に診断するために、生体内のLRG量を正確に測定する必要がある。
【0011】
LRGの測定は、公知の手法、例えば、免疫学的手法を使用して行うことができる。免疫学的手法としては、ELISA、酵素免疫測定法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集免疫測定法(LTIA)、化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、イムノクロマトグラフ法、及び高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)等が挙げられる。
【0012】
本発明の組成物に含まれるLRGとしては、市販のものを使用してもよく、自ら作製又は精製したものを使用してもよい。本発明の組成物に含まれるLRGとしては、インビトロで作製したものを使用してもよく、生体から抽出したものを使用してもよい。
【0013】
(pH)
本発明のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物のpHは、LRGの安定性を考慮すると、7.0~9.3であり、好ましくは7.0~9.0であり、より好ましくは7.5~9.0であり、さらに好ましくは7.8~9.0であり、最も好ましくは8.0~9.0である。
pHの調整は、当業者に周知のpH調整用試薬、例えば水酸化ナトリウムを用いて行うことができる。
【0014】
(塩濃度)
本発明のLRG組成物における塩濃度は、好ましくは200mM~800mMであり、より好ましくは300mM~700mMであり、最も好ましくは300mM~600mMである。塩濃度を上記の範囲内とすることで、LRGの安定性をさらに向上させることができる。
【0015】
本発明のLRG組成物に含まれる塩の種類は、公知の任意の塩を用いることができ、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、及びマグネシウム塩等の金属塩、並びにアンモニウム塩、アミン塩等の非金属塩を使用することができる。金属塩を使用することが好ましく、ナトリウム塩を使用することがより好ましい。ナトリウム塩を供給するために、塩化ナトリウムを使用することが最も好ましい。また、複数の種類の塩を組み合わせて使用することもできる。
【0016】
(ロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物)
本明細書において、ロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物(以下、LRG組成物と称することがある)とは、LRGの測定において使用される、LRGを含む溶液を意味する。本発明のLRG組成物は、LRG測定において、校正用試料溶液として好適に用いられることができる。本明細書において、校正用試料溶液とは、測定対象物質の測定を正確に行うために使用する、測定対象物質を一定の濃度で含有する試料溶液を意味し、標準物質、キャリブレーター、コントロール、及び内部標準物質などが該当する。本発明のLRG組成物の供給の形態としては、LRGとpHが7.0~9.3の溶媒とを混合した、あらかじめ溶液状態にした形態が挙げられる。また、本発明のLRG組成物の別の供給の形態としては、それぞれを別個に用意し、使用時に両者を混合して溶液状態にする形態が挙げられる。
本発明のLRG組成物におけるLRGの濃度は、以下に限定されるものではないが、0.1~1000μg/mL、0.1~100μg/mL、1~100μg/mL、1~50μg/mL、又は1~30μg/mLであることができる。
なお、ロイシンリッチα2グリコプロテイン測定方法において「ロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を使用する」とは、ロイシンリッチα2グリコプロテイン測定を正確に行うためにロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を使用することを意味し、例えば、ロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を校正用試料溶液(標準物質、キャリブレーター、コントロール、及び内部標準物質など)として使用することを意味する。
【0017】
本発明のLRG組成物の組成は、LRGを含有し且つpHが7.0~9.3であること以外、本発明の効果を損なわないこと、及びLRGの用途に対して妨害的に作用しないことを限度として特に制限はない。LRGを免疫学的測定方法により測定するのであれば、本発明の効果を損なわず、かつ、抗原抗体反応、ビオチン・アビジンによる検出のための標識反応、酵素反応など、測定系を構成する反応の全部又は一部を妨害しなければよい。免疫学的測定方法において通常使用される各種成分、例えば、酢酸、クエン酸、リン酸、HEPES、MES、Tris、グリシン、ホウ酸、炭酸やグッドなどの各種緩衝液、非特異的な反応を抑制するための成分(Tween20、TritonX-100などの非イオン性界面活性剤など)、抗原抗体反応を促進する成分(ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、リン脂質ポリマーなどの高分子など)、LRG以外の糖タンパク質やペプチド(アルブミンやカゼインなど)、アミノ酸、糖類(ショ糖、シクロデキストリンなど)、防腐剤(アジ化ナトリウム、ProClin950など)などを目的に応じ、適宜選択して使用することができる。
【0018】
また、本発明のLRG組成物は、公知の容器に保存することができる。本発明のLRG組成物に使用できる保存容器の材質としては、これらに限定されないが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ガラスを挙げることができる。保存容器の形態としては、ハードタイプまたはソフトタイプのいずれでもよく、アンプル、バイアル、ソフトバッグ、注射型容器などが例示される。
【0019】
LRGは、LRG発現細胞により製造することができる。LRG発現細胞は、LRGをコードするDNAを含む発現ベクターで宿主を形質転換することにより得ることができる。宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞等を挙げることができる。哺乳動物細胞としては、例えば、HepG2細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、ヒトFL細胞、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞、マウスL細胞,マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞,ラットH4IIE-C3細胞、ラットGH3細胞などが用いられ得る。
前記のようにして得られたプラスミドは、通常の遺伝子工学的方法により前記宿主細胞に導入することができる。形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。LRGタンパク質の取得は、一般のタンパク質の単離・精製に通常使用される方法を組み合わせて実施すればよい。
【0020】
本明細書において「保存安定化」又は「安定性が向上する」とは、LRGを含む溶液中に含有されるLRGの大部分が長期間分解されずに又は構造を変化させずに維持されることにより、当該溶液中のLRGの初期値と保存後の測定値とにおいて、大きな差異がなくなることを意味する。より具体的には、例えば、LRGを含む溶液中に含有されるLRGの75%以上が29日間の間分解されずに又は構造を変化させずに維持されることにより、37℃で29日間保存後の当該溶液中のLRGの測定値が、初期値の75%以上となることを意味する。本発明のLRG組成物としては、37℃で29日保存後に、当初の量を基準としてLRG測定値が80%以上となるものが好ましく、90%以上となるものがより好ましく、95%以上となるものがさらに好ましく、96%以上となるものが最も好ましい。本発明のLRG組成物は、37℃の高温においても長期間安定性を有するが、低温や常温で保存するLRG組成物を本発明の範囲から除外するものではない。
【0021】
(LRGの測定を行うための生体試料)
LRGの測定を行うための生体試料としては、LRGの測定が可能であれば特に限定されることはないが、血液、血清、血漿、脳脊髄液(CSF)、尿、便等が挙げられ、血清又は血漿を用いることが好ましく、血清を用いることがさらに好ましい。生体又は対象は、哺乳動物であれば特に限定されることはなく、ヒト又は動物(例えば、サル、イヌ、ネコ、マウス、モルモット、ラット、ハムスター、ウマ、ウシ、及びブタ)を含み、好ましくはヒトである。生体試料には、必要に応じて適宜前処理を実施してもよい。
【0022】
(ロイシンリッチα2グリコプロテイン測定キット)
本発明のロイシンリッチα2グリコプロテイン測定キット(以下、LRG測定キットと称することがある)では、LRG組成物を使用することにより、LRGの測定を正確に行うことが可能である。LRG測定キットとしては、例えば免疫学的手法を用いたキットを挙げることができる。本発明のLRG測定キットは、免疫学的手法によりヒト体内のLRG濃度を測定するための試薬を含むことができる。免疫学的手法としては、ELISA、酵素免疫測定法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集免疫測定法(LTIA)、化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、イムノクロマトグラフ法、及び高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)等が挙げられる。免疫学的手法は、好ましくはラテックス凝集免疫測定法(LTIA)である。
本発明のLRG測定キットは、自己免疫疾患、結核、腫瘍、炎症性疾患、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎及びクローン病)の診断のために使用することができる。
【0023】
本発明のLRG測定キットには、他に使用説明書などを含むこともできる。キットは、任意の構成要素、例えば緩衝剤、安定化剤、検体希釈液、pH調整剤、反応容器等を含んでいてもよい。
【0024】
(LRG組成物の保存安定化方法)
本発明のLRG組成物の保存安定化方法は、pHが7.0~pH9.3である溶媒にロイシンリッチα2グリコプロテインを接触させる工程を含む。溶媒は、pHが7.0~pH9.3であれば特に限定されることはない。溶媒は、HEPES、MES、CHES及びTris等の緩衝液を含むことができ、緩衝液の濃度は、1~1000mMであることができる。「接触させる」には、溶媒にLRGを投入すること以外に、LRGを含むpHが7.0~9.3以外の溶液のpHを7.0~9.3に調整することも含む。
【0025】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、本明細書において特に説明のない限り、%は重量%を示す。
【実施例】
【0026】
〔実施例1〕種々のpHの溶液中におけるLRG量の経時変化の検討1
種々のpHのLRG標準抗原溶液を作製した後保存試験を行い、各々のLRG標準抗原溶液におけるLRG量の経時変化を調査することにより、LRG保存安定性に対するpHの影響を検討した。使用したLRGは、CHO(チャイニーズハムスター細胞)を用いて作製した。具体的には、CHO-K1細胞にヒトLRG遺伝子を、プラスミドを用いて導入し、無血清培地でLRG遺伝子導入CHO-K1細胞を培養し、培養上清からヒトLRGリコンビナントタンパクを回収することにより調製した。
下記表1の組成のLRG標準抗原溶液を作製し、4N水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを7.5又は8.0に調整した。各々のLRG標準抗原溶液を37℃で29日間保存し、LRG量の経時変化を確認した。サンプル組成と実験結果を表1及び2並びに
図1に示す。
【0027】
【0028】
【0029】
pHを8.0に調整したLRG標準抗原溶液では、37℃で29日保存後の測定値は、当初のLRG量の93%であった。pHを7.5に調整したLRG標準抗原溶液の測定値は、当初のLRG量の81%であった。したがって、LRG標準抗原溶液のpHが7.5であるよりも8.0である方が、LRGの保存安定性が良好であることが示された。
〔実施例2〕種々の塩濃度の溶液中におけるLRG量の経時変化の検討
【0030】
実施例1で作製したサンプルNo.2において、塩化ナトリウムの濃度を150mMから500mMに変更して保存試験を行い、LRG保存安定性に対する塩濃度の影響を検討した。サンプル組成と実験結果を表3及び
図2に示す。
【表3】
【0031】
塩濃度を500mMに上昇させたLRG標準抗原溶液では、塩濃度が150mMであるLRG標準抗原溶液に対して、LRGの保存安定性が向上することが示された。塩濃度が150mMであるLRG標準抗原溶液では、37℃で29日保存後の測定値は、当初のLRG量の93%であったが、塩濃度が500mMであるLRG標準抗原溶液では、37℃で29日保存後の測定値は、当初のLRG量の98%であった。
【0032】
〔実施例3〕種々のpHの溶液中におけるLRG量の経時変化の検討2
緩衝液として下記表4に記載のものを用いたこと及びpHを6.0、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、又は9.5に調整したこと以外は、実施例1で調製したサンプルと同じ組成のLRG標準抗原溶液を作製した。各々のLRG標準抗原溶液を37℃で29日間保存し、LRG量の経時変化を確認した。サンプル組成と実験結果を表4及び
図3に示す。
【0033】
【0034】
上記結果により、LRG標準抗原溶液のpHを7.0~9.3に調整することにより、LRGの保存安定性が向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物は、高い保存安定性を有する。したがって、本発明のロイシンリッチα2グリコプロテイン組成物を校正用試料として使用することにより、生体試料中のLRGを正確に定量することができ、疾患の診断を正確に行うことができる。