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特許7421717車輪状態検出装置、車輪状態検出方法、および車輪状態検出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】車輪状態検出装置、車輪状態検出方法、および車輪状態検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/10 20060101AFI20240118BHJP
   B61L 25/02 20060101ALI20240118BHJP
   B61K 9/12 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G01M17/10
B61L25/02 Z
B61K9/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020030433
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021135131
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩和
(72)【発明者】
【氏名】堀内 謙二
(72)【発明者】
【氏名】西田 博幸
(72)【発明者】
【氏名】波多江 和喜
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237348(JP,A)
【文献】特開2003-050187(JP,A)
【文献】特開平04-148839(JP,A)
【文献】特開2020-008364(JP,A)
【文献】特開2018-203024(JP,A)
【文献】特開2008-081102(JP,A)
【文献】特開2004-258007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/10
B61L 25/02
B61K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車が走行するレールの振動を検出する振動センサの出力信号から前記列車の車輪の回転周期で前記レールに生じる振動の周波数である特定周波数における振幅の時間変化を示す波形を抽出する抽出部と、
前記抽出部で抽出された前記波形に基づいて、前記車輪の踏面に偏摩耗が生じているか否かを判定する偏摩耗判定部と、
前記列車の複数の前記車輪のうち前記偏摩耗が生じたと前記偏摩耗判定部で判定された前記車輪の割合である偏摩耗車輪割合を算出する割合算出部と、
前記割合算出部で算出された前記偏摩耗車輪割合の情報を含む表示情報を生成する表示情報生成部と、を備える
ことを特徴とする車輪状態検出装置。
【請求項2】
前記抽出部は、
前記出力信号をウェーブレット変換することによって、前記波形を抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載の車輪状態検出装置。
【請求項3】
前記偏摩耗判定部は、
前記抽出部で抽出された前記波形の一部が閾値以上になる場合に、前記踏面に前記偏摩耗が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車輪状態検出装置。
【請求項4】
前記車輪の速度に応じて前記閾値を変更する閾値変更部を備える
ことを特徴とする請求項3に記載の車輪状態検出装置。
【請求項5】
前記割合算出部は、
複数の前記列車の各々について前記偏摩耗車輪割合を算出し、
前記表示情報生成部は、
前記割合算出部で算出された前記偏摩耗車輪割合が大きい順に複数の前記列車の情報を表示部に表示させる前記表示情報を生成す
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の車輪状態検出装置。
【請求項6】
列車が走行するレールの振動を振動センサで検出するステップと、
前記振動センサの出力信号から前記列車の車輪の回転周期で前記レールに生じる振動の周波数である特定周波数における振幅の時間変化を示す波形を抽出するステップと、
前記波形を抽出するステップで抽出された前記波形に基づいて、前記車輪の踏面に偏摩耗が生じているか否かを判定するステップと、
前記列車の複数の前記車輪のうち前記偏摩耗が生じたと判定された前記車輪の割合である偏摩耗車輪割合を算出するステップと、
算出された前記偏摩耗車輪割合の情報を含む表示情報を生成するステップと、を含む
ことを特徴とする車輪状態検出方法。
【請求項7】
前記出力信号をウェーブレット変換して、互いに異なる複数の周波数の各々における前記波形の情報を生成するステップと、
前記波形の情報を生成するステップで前記複数の周波数のうち前記列車の前記車輪の前記回転周期で前記波形にピークが生じている周波数を前記特定周波数として決定するステップと、を含む
ことを特徴とする請求項6に記載の車輪状態検出方法
【請求項8】
列車が走行するレールの振動を振動センサで検出するステップと、
前記振動センサの出力信号から前記列車の車輪の回転周期で前記レールに生じる振動の周波数である特定周波数における振幅の時間変化を示す波形を抽出するステップと、
前記波形を抽出するステップで抽出された前記波形に基づいて、前記車輪の踏面に偏摩耗が生じているか否かを判定するステップと、
前記列車の複数の前記車輪のうち前記偏摩耗が生じたと判定された前記車輪の割合である偏摩耗車輪割合を算出するステップと、
算出された前記偏摩耗車輪割合の情報を含む表示情報を生成するステップと、をコンピュータに実行させる
ことを特徴とする車輪状態検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、列車における車輪の踏面に生じる偏摩耗を検出する車輪状態検出装置、車輪状態検出方法、および車輪状態検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の列車がブレーキをかけて停止する場合、車輪に作用するブレーキが過大となると、車輪の回転が停止されたまま滑走し、車輪のうちレールに接触する面である踏面が摩耗して平面状に削られ、車輪の踏面に偏摩耗が生じる。車輪の踏面に偏摩耗が生じると、列車に振動または騒音などが発生して乗り心地が悪くなったり、鉄道沿線の環境が悪化したりするなどの問題が生じる。
【0003】
そこで、レールに振動センサを配置し、振動センサの出力信号から踏面の異状を検出する技術が知られている。例えば、特許文献1には、レールに振動センサを配置し、振動センサの出力信号に含まれるピーク波形から踏面の損傷を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-331263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、温度によるレールの伸張に対応するためにレールとレールとの継ぎ目には間隙が設けられており、かかる継ぎ目を車輪が通過する際に車輪に衝撃振動が生じる。そのため、振動センサによって検出される振動には、車輪の踏面のうち偏摩耗が生じている箇所によって生じる衝撃振動に加えて、例えば、車輪がレールの継ぎ目を通過する際に生じる衝撃振動が含まれてしまう。車輪がレールの継ぎ目を通過する際に生じる衝撃振動は、車輪の踏面のうち偏摩耗が生じている箇所によって生じる衝撃振動よりも大きい場合が多い。そのため、振動センサによって検出される振動波形において、車輪がレールの継ぎ目を通過する際に生じる衝撃振動の波形に、車輪の踏面のうち偏摩耗が生じている箇所によって生じる衝撃振動の波形が埋もれてしまい、踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することが難しい場合がある。また、車輪がレールの継ぎ目を通過する際に生じる衝撃振動以外の振動によっても、踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することが難しい場合がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することができる車輪状態検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の車輪状態検出装置は、抽出部と、偏摩耗判定部と、割合算出部と、表示情報生成部と、を備える。抽出部は、列車が走行するレールの振動を検出する振動センサの出力信号から列車の車輪の回転周期でレールに生じる振動の周波数である特定周波数における振幅の時間変化を示す波形を抽出する。偏摩耗判定部は、抽出部で抽出された波形に基づいて、車輪の踏面に偏摩耗が生じているか否かを判定する。割合算出部は、列車の複数の車輪のうち偏摩耗が生じたと偏摩耗判定部で判定された車輪の割合である偏摩耗車輪割合を算出する。表示情報生成部は、割合算出部で算出された偏摩耗車輪割合の情報を含む表示情報を生成する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1にかかる車輪状態検出方法を説明するための図
図2】実施の形態1にかかる車輪状態検出システムの構成の一例を示す図
図3】実施の形態1にかかる車輪状態検出装置の構成の一例を示す図
図4】実施の形態1にかかる端末装置の表示部に表示される表示情報の一例を示す図
図5図4に示す詳細ボタンが操作された場合に表示部に表示される表示情報の一例を示す図
図6】実施の形態1にかかる車輪状態検出装置の処理部による収集処理の一例を示すフローチャート
図7】実施の形態1にかかる車輪状態検出装置の処理部による偏摩耗検出処理の一例を示すフローチャート
図8】実施の形態1にかかる車輪状態検出装置の処理部による偏摩耗判定処理の一例を示すフローチャート
図9】実施の形態1にかかる車輪状態検出装置のハードウェア構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態にかかる車輪状態検出装置、車輪状態検出方法、および車輪状態検出プログラムを図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる車輪状態検出方法を説明するための図である。図1では、不図示の列車が走行するレールと、レールを走行する列車の車輪と、レールの振動を検出する振動センサとが示されている。なお、レールを走行する列車の車輪には、偏摩耗が生じている箇所が含まれているとする。
【0012】
図1において、振動センサの出力信号の波形を示すグラフは、縦軸が振動の大きさを示し、横軸が時間を示している。図1に示す振動センサの出力信号には、車輪の踏面のうち偏摩耗が生じている箇所によって生じる衝撃振動の波形に加えて、車輪がレールの継ぎ目を通過する際に生じる衝撃振動の波形が含まれている。以下、車輪の踏面のうち偏摩耗が生じている箇所を偏摩耗箇所と記載する場合がある。
【0013】
図1に示す例では、車輪がレールの継ぎ目を通過する際にレールに生じる衝撃振動は、車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動よりも大きい。そのため、振動センサの出力信号で示される振動の大きさから、車輪の偏摩耗箇所による衝撃振動がどの時刻に発生したかを把握することが難しい。また、車輪がレールの継ぎ目を通過する際に生じる衝撃振動以外の振動によっても、踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することが難しい場合がある。
【0014】
そこで、本発明者らは、踏面に偏摩耗が生じている車輪を有する列車にレールを走行させ、振動センサから出力される出力信号を取得し、取得した出力信号をウェーブレット変換することによって、振動センサの出力信号に含まれる各周波数の振幅の時間変化を解析した。かかる振幅は、振動の大きさを示し、振動強度またはパワーとも呼ばれる。以下、各周波数の振幅の時間変化を示す波形を、時間軸波形と記載する場合がある。
【0015】
ウェーブレット変換で振動センサの出力信号から得られる各周波数の振幅の時間変化を示す波形は、振動センサで検出可能な周波数帯域の周波数成分のうち対応する周波数成分の振幅の時間変化を示す波形であり、例えば、1Hz単位、数Hz単位、または数十Hz単位の周波数の振幅の時間変化を示す波形である。ウェーブレット変換で得られる各周波数の振幅の時間変化を解析すると、車輪がレールの継ぎ目を通過する際にレールに生じる衝撃振動の周波数と、車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動の周波数とが異なる周波数帯域に現われた。また、車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動の周波数は、列車の速度および車輪の偏摩耗の度合いによっては変化しないか変化してもその変化量はわずかであった。
【0016】
車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動は、車輪の偏摩耗箇所がレールに接触したときにレールに生じる振動であり、かかる振動の周波数が、車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動の周波数である。すなわち、車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動の周波数は、かかる衝撃振動が現われる周期に反比例する周波数ではなく、車輪の偏摩耗が生じた箇所がレールに接触する毎に生じる衝撃振動そのものの周波数である。
【0017】
そして、本発明者らは、振動センサから出力される出力信号から、車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動の周波数の時間軸波形をウェーブレット変換によって抽出することによって、車輪がレールの継ぎ目を通過する際にレールに生じる衝撃振動の時間軸波形などと車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動の周波数の時間軸波形とを分離することができた。そして、本発明者らは、このように抽出した周波数の時間軸波形から車輪の偏摩耗を検出することができた。以下、車輪の偏摩耗箇所によってレールに生じる衝撃振動の周波数を特定周波数と記載する場合がある。
【0018】
図1に示す例では、特定周波数の時間軸波形を示すグラフが示されており、かかるグラフでは、縦軸が振動の振幅を示し、横軸が時間を示している。図1に示すように、特定周波数の時間軸波形では、列車の車輪の回転周期TAで相対的に大きなピークが生じる。図1に示す例では、列車の車輪の回転周期TAで現われる相対的に大きなピークは、その他のピークに比べて2倍~3倍程度大きい。なお、図1に示す例では、出力信号の波形を示すグラフの縦軸は、-0.5~0.5[V]の範囲であり、特定周波数の時間軸波形を示すグラフの縦軸は、-0.02~0.02[V]の範囲である。
【0019】
ここで、ウェーブレット変換について説明する。ウェーブレット変換は、処理対象とする波形からマザーウェーブレットと呼ばれるある周波数成分をもつ持続時間が短い波形と相似な波形だけを抽出する一種のフィルタのようなものである。かかるウェーブレット変換では、マザーウェーブレットを伸縮したり平行移動したりすることによって、処理対象とする波形からマザーウェーブレットと相似な波形を、時間情報を失うことなく抽出することができる。
【0020】
ウェーブレット変換は、以下の式(1)で定義される。下記式(1)において、「ψ(x)」はマザーウェーブレットである。下記式(1)の「a」で周波数を伸縮させ、「b」で時間方向に平行移動させることができる。下記式(1)において、伸縮と平行移動とを行ったマザーウェーブレットと信号処理の対象となる波形f(t)の積を積分したものが結果となる。
T(a,b)=∫{1/√a×ψ((x-b)/a)×f(x)dx)} ・・(1)
【0021】
マザーウェーブレットが短時間の波形であることから、-∞から+∞まで計算する必要はなく、マザーウェーブレットの存在する時間範囲内だけを計算することで、短時間に効率よく結果を求めることができる。
【0022】
実施の形態1にかかる車輪状態検出方法では、特定周波数の時間軸波形を算出し、算出した特定周波数の時間軸波形における一部が閾値以上になる場合に、車輪の踏面に偏摩耗が生じていると判定する。これにより、本車輪状態検出方法では、車輪の踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することができる。なお、特定周波数の時間軸波形は、例えば、振動センサの出力信号をウェーブレット変換することによって算出することができる。
【0023】
また、本車輪状態検出方法では、列車の走行速度が10~25km/hなどのように低速である場合であっても、車輪の踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することができる。そのため、例えば、車両工場入区線に振動センサを配置することで、列車を車両工場に入場する際においても、偏摩耗の検出を行うことができる。
【0024】
また、特定周波数は、路線の構造および状態などによって変化する。例えば、特定周波数は、レール、枕木、道床、または路盤の構造および状態などによって変化する。そのため、線路毎に特定周波数を検出する必要がある。ここで、特定周波数を決定する周波数決定方法について説明する。
【0025】
実施の形態1にかかる周波数決定方法では、偏摩耗を検出するための特定周波数を決定するために、作業者が、偏摩耗が生じている車輪を有する列車にレールを走行させ、レールの振動を振動センサで検出させる。そして、作業者は、演算装置などを用いて振動センサの出力信号をウェーブレット変換することによって、周波数毎に振幅の時間変化を示す時間軸波形を算出する。ウェーブレット変換を用いることによって、多くの周波数の時間軸波形を精度よく算出することができる。なお、本周波数決定方法において、ウェーブレット変換に代えて例えば窓関数を用いたフーリエ変換によって周波数毎の時間軸波形を算出してもよい。
【0026】
そして、本周波数決定方法において、作業者は、算出されたこれらの時間軸波形のうち、車輪の回転周期で相対的に大きなピークが現われる時間軸波形に対応する周波数を特定周波数として決定する。例えば、周波数毎に算出されて得られる複数の時間軸波形のうち、f1[Hz]の時間軸波形に車輪の回転周期で相対的に大きなピークが現われる場合、特定周波数は、f1[Hz]である。このように、本周波数決定方法によって路線毎に特定周波数を決定することで、本車輪状態検出方法において車輪の踏面に生じた偏摩耗を精度よく検出することができる。
【0027】
以下、本車輪状態検出方法および本周波数決定方法を適用した車輪状態検出システムの構成および処理について具体的に説明する。図2は、実施の形態1にかかる車輪状態検出システムの構成の一例を示す図である。
【0028】
図2に示すように、実施の形態1にかかる車輪状態検出システム1は、振動センサ2,2,2,2と、車輪センサ3,3と、車輪状態検出装置4と、端末装置5とを備える。
【0029】
振動センサ2,2は、不図示の列車の走行方向と直交する方向で対向する一対のレール6の一方のレール6に取り付けられ、一方のレール6に生じる振動を検出し、検出結果を示す出力信号を出力する。また、振動センサ2,2は、一対のレール6の他方のレール6に取り付けられ、他方のレール6に生じる振動を検出し、検出結果を示す出力信号を出力する。レール6は、車両工場入区線のレールであり、車輪状態検出装置4は、列車が車両工場に入場する際に偏摩耗の検出を行うことができる。なお、レール6は、車両工場入区線のレール以外のレールであってもよい。また、レール6の長さは、例えば、25メートルであり、この場合、レール6の継ぎ目は、25メートル間隔で配置される。
【0030】
振動センサ2,2,2,2は、加速度ピックアップであるが、例えば、レーザドップラ式の振動センサなどであってもよい。以下、振動センサ2,2,2,2の各々を個別に区別せずに示す場合、振動センサ2と記載する場合がある。振動センサ2の出力信号には、レール6に生じた振動の大きさの時間変化を示す情報が含まれる。
【0031】
図2において、レール6の延在方向における振動センサ2,2と振動センサ2,2との間の距離D1は、振動センサ2による振動の計測範囲が1.5mである場合、例えば、3m以下である。例えば、車輪の踏面の周長が2.8mの場合、距離D1は1.5mに設定される。なお、距離D1は、振動センサ2,2,2,2によって偏摩耗によるレール6の振動を精度よく検出することができる距離に設定されていればよく、1.5mに限定されない。
【0032】
車輪センサ3,3の各々は、列車の走行方向と直交する方向を検出範囲とし、かかる検出範囲に車輪が進入している場合に、車輪を検出したことを示すオン信号を出力する。また、車輪センサ3,3の各々は、検出範囲に車輪が進入していない場合に、オン信号を出力しない。図2において、レール6の延在方向における車輪センサ3と車輪センサ3との間の距離D2は、例えば、5mに設定される。以下、車輪センサ3,3の各々を個別に区別せずに示す場合、車輪センサ3と記載する場合がある。
【0033】
車輪状態検出装置4は、振動センサ2,2,2,2の出力信号と、車輪センサ3,3の出力信号とに基づいて、上述した特定周波数を判定する処理である特定周波数決定処理と、列車における複数の車輪の各々の偏摩耗の有無を検出する処理である偏摩耗検出処理とを行う。また、車輪状態検出装置4は、偏摩耗検出処理の結果に基づいて不図示の表示部に表示させるための表示情報を生成する処理である表示情報生成処理も行うことができる。
【0034】
図3は、実施の形態1にかかる車輪状態検出装置の構成の一例を示す図である。図3に示すように、車輪状態検出装置4は、処理部11と、記憶部12と、表示部13と、通信部14とを備える。処理部11は、振動センサ2,2,2,2の各々の出力信号と車輪センサ3,3の各々の出力信号を受信する。
【0035】
処理部11は、振動センサ2,2,2,2の各々の出力信号の情報を振動検出情報として記憶部12に記憶させる。また、処理部11は、車輪センサ3,3の各々の出力信号の情報に基づいて、車輪検出情報を生成し、生成した車輪検出情報を記憶部12に記憶させる。車輪検出情報には、車輪の検出時刻とカウント値とを対応付けた情報が車輪毎に含まれる。車輪の検出時刻は、例えば、各車輪センサ3,3がオン信号を出力した時刻である。カウント値は、各車輪が車輪センサ3の検出範囲を通過する順番を示す。
【0036】
表示部13は、処理部11によって生成された表示情報を表示する。かかる表示部13は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)またはOELD(Organic Electro-Luminescent Display)を含む。通信部14は、例えば、LAN(Local Area Network)などのネットワークを介して端末装置5と情報の送受信を行う。処理部11は、生成した情報を端末装置5へ通信部14に送信させたり、端末装置5から通信部14で受信された情報を通信部14から取得したりすることができる。
【0037】
処理部11は、情報収集部20と、速度検出部21と、進入時間検出部22と、抽出部23と、閾値変更部24と、偏摩耗判定部25と、特定周波数検出部26と、割合算出部27と、表示情報生成部28と、表示情報出力部29とを備える。
【0038】
情報収集部20は、振動センサ2,2,2,2の各々の出力信号の情報を収集し、収集した振動センサ2,2,2,2の各々の出力信号の情報を振動検出情報として記憶部12に記憶させる。情報収集部20は、車輪センサ3,3の各々の出力信号の情報を収集し、収集した車輪センサ3,3の各々の出力信号の情報に基づいて、車輪検出情報を生成し、生成した車輪検出情報を記憶部12に記憶させる。
【0039】
速度検出部21は、記憶部12に記憶された車輪検出情報に基づいて、各車輪の速度を検出する。具体的には、速度検出部21は、車輪センサ3,3間の距離D2を、車輪センサ3がオン信号を出力した時刻と車輪センサ3がオン信号を出力した時刻との時間差TBで除算することによって、各車輪の速度を検出する。車輪の速度は、レールの延在方向への車輪の移動速度である。
【0040】
進入時間検出部22は、車輪センサ3,3がオン信号を出力した時刻と、車輪センサ3,3と振動センサ2,2,2,2との間の距離、および速度検出部21で検出された速度とに基づいて、振動センサ2,2,2,2の検出範囲への列車の各車輪の進入時間TCを検出する。各車輪の進入時間TCは、振動センサ2,2,2,2の検出範囲に車輪が進入した時刻から車輪が退出した時刻までの時間であり、車輪が進入した時刻と車輪が退出した時刻とで示される。
【0041】
抽出部23は、列車が走行するレール6の振動を検出する振動センサ2,2,2,2の出力信号をウェーブレット変換することによって、車輪の回転周期でレール6に生じる振動の周波数である特定周波数の振幅の時間変化を示す波形を抽出する。抽出部23は、進入時間検出部22で算出された各車輪の速度と車輪の踏面の周長とに基づいて、車輪の回転周期を算出することができる。なお、抽出部23は、ウェーブレット変換に代えて、例えば、窓関数を用いたフーリエ変換によって特定周波数の振幅の時間変化を示す波形を抽出することができる。また、抽出部23は、ウェーブレット変換に代えて、バンドパスフィルタを用いて、特定周波数の振幅の時間変化を示す波形を抽出することもできる。
【0042】
閾値変更部24は、速度検出部21によって検出された車輪の速度に応じて閾値Vthを車輪毎に変更する。閾値変更部24は、速度検出部21によって検出された車輪の速度が遅いほど、閾値Vthを小さい値に設定する。
【0043】
偏摩耗判定部25は、抽出部23で抽出された特定周波数の振幅の大きさに基づいて、偏摩耗が生じているか否かを判定する。例えば、偏摩耗判定部25は、抽出部23で抽出された特定周波数の振幅の時間変化を示す波形の一部が閾値Vth以上になる場合に、車輪の踏面に偏摩耗が生じていると判定する。
【0044】
例えば、偏摩耗判定部25は、進入時間検出部22によって検出された複数の車輪の各々の振動センサ2の検出範囲への進入時間TCと、抽出部23で抽出された特定周波数の振幅の大きさとに基づいて、複数の車輪の各々の踏面に偏摩耗が生じているか否かを判定する。具体的には、偏摩耗判定部25は、抽出部23で抽出された特定周波数の振幅のうち振動センサ2の検出範囲へ進入している時間における振幅の大きさの時間変化を示す波形の一部が閾値Vth以上になる車輪を、偏摩耗が生じている車輪と判定する。
【0045】
偏摩耗判定部25は、振動センサ2,2の出力信号から抽出部23で抽出された特定周波数の振幅の大きさに基づいて、振動センサ2,2が取り付けられたレール6上を回転する車輪の偏摩耗の有無を検出する。また、偏摩耗判定部25は、振動センサ2,2の出力信号から抽出部23で抽出された特定周波数の振幅の大きさに基づいて、振動センサ2,2が取り付けられたレール6上を回転する車輪の偏摩耗の有無を検出する。
【0046】
偏摩耗判定部25は、各車輪の偏摩耗の有無を示す情報を含む列車情報を生成し、生成した列車情報を記憶部12に記憶させる。これにより、記憶部12に記憶される判定履歴情報が更新される。判定履歴情報には、偏摩耗判定部25によって各車輪の偏摩耗の有無が判定された複数の列車の各々の列車情報が含まれる。列車情報には、各車輪の偏摩耗の有無を示す情報と、列車の編成名の情報とが含まれる。列車の編成名の情報は、例えば、レール6の通過スケジュールから抽出され、列車情報に追加される。なお、通過スケジュールでは、各列車のレール6の通過時間と列車の編成名とが紐付けられている。
【0047】
特定周波数検出部26は、列車が走行するレール6の振動を検出する振動センサ2,2,2,2の出力信号に対してウェーブレット変換を行うことによって、振動センサ2,2,2,2で検出可能な周波数帯における複数の周波数の振幅の各々の時間変化を示す波形である時間軸波形を抽出する。これにより、振動センサ2,2,2,2で検出可能な周波数帯における複数の周波数の各々の時間軸波形の情報である周波数解析情報が生成される。特定周波数検出部26は、生成した周波数解析情報を記憶部12に記憶させる。
【0048】
なお、特定周波数検出部26は、例えば、列車が走行するレール6の振動を検出する振動センサ2,2,2,2の出力信号に対して窓関数を用いたフーリエ変換を行うことによって、振動センサ2,2,2,2で検出可能な周波数帯における複数の周波数の各々の時間軸波形を抽出する構成であってもよい。
【0049】
特定周波数検出部26は、記憶部12に記憶させた周波数解析情報に基づき、複数の周波数のうち振幅の時間変化を示す波形に列車の車輪の回転周期で相対的に大きなピークが現われる周波数を、偏摩耗を検出するための特定周波数として判定する。
【0050】
なお、特定周波数は、上述したように路線の構造および状態などによって変化するが、変化する範囲は小さい場合がある。この場合、特定周波数検出部26は、振動センサ2で検出可能な周波数帯のうち特定周波数が変化する周波数帯における複数の周波数の各々の振幅の時間変化を示す波形の情報である周波数解析情報を生成する構成であってもよい。
【0051】
割合算出部27は、記憶部12に記憶された判定履歴情報に基づいて、複数の車輪のうち偏摩耗が生じたと偏摩耗判定部25で判定された車輪の割合である偏摩耗車輪割合を算出する。表示情報生成部28は、割合算出部27で算出された偏摩耗車輪割合が大きい順に複数の列車の情報を表示部13または端末装置5の表示部51に表示させる表示情報を生成する。
【0052】
表示情報生成部28は、記憶部12に記憶された振動検出情報に基づいて、振動センサ2の出力信号の波形を表示部13または端末装置5の表示部51に表示させる表示情報を列車毎に生成する。また、表示情報生成部28は、記憶部12に記憶された周波数解析情報に基づいて、各周波数の時間軸波形の情報を表示部13または端末装置5の表示部51に表示させる表示情報を列車毎に生成する。表示情報は、例えば、各周波数の時間軸波形の変化を示す情報を列車毎に含んでいてもよい。
【0053】
表示情報出力部29は、表示情報生成部28によって生成された表示情報を表示部13に表示させたり、通信部14から端末装置5へ送信させたりすることができる。端末装置5は、車輪状態検出装置4から表示情報を受信すると、受信した表示情報を表示部51に表示させることができる。
【0054】
図4は、実施の形態1にかかる端末装置の表示部に表示される表示情報の一例を示す図である。図4に示す表示情報60には、編成名と、偏摩耗車輪割合と、判定日時とが含まれている。編成名は、列車の編成名を示す情報であり、偏摩耗車輪割合は、複数の車輪のうち偏摩耗が生じたと偏摩耗判定部25で判定された車輪の割合を示す情報であり、判定日時は、車輪状態検出装置4によって偏摩耗の有無が判定された日時を示す情報である。
【0055】
また、図4に示す表示情報60は、GUI(Graphical User Interface)である詳細ボタン61,61を含む。詳細ボタン61は、編成名が「編成A」である列車において各車輪の偏摩耗の有無を示す表示情報を表示部51に表示させるためのボタンである。詳細ボタン61は、編成名が「編成B」である列車において各車輪の偏摩耗の有無を示す表示情報を表示部51表示させるためのボタンである。
【0056】
図5は、図4に示す詳細ボタンが操作された場合に表示部に表示される表示情報の一例を示す図である。図5に示す表示情報70では、複数の車輪の配列を示す画像71が含まれており、かかる画像71において一部の車輪が黒塗りされている。黒塗りされた車輪は、偏摩耗がある車輪を示す。図5に示す表示情報70によって、端末装置5の利用者は、列車のどの位置の車輪に偏摩耗があるかを容易に把握することができる。
【0057】
つづいて、フローチャートを用いて車輪状態検出装置4の処理部11による処理を説明する。図6は、実施の形態1にかかる車輪状態検出装置の処理部による収集処理の一例を示すフローチャートである。
【0058】
図6に示すように、処理部11の情報収集部20は、第1車輪センサである車輪センサ3が車輪を検出したか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1の処理において、情報収集部20は、車輪センサ3からオン信号が出力された場合に、車輪センサ3が車輪を検出したと判定する。
【0059】
情報収集部20は、車輪センサ3が車輪を検出したと判定した場合(ステップS1:Yes)、第1カウンタのカウント値が「0」であるか否かを判定する(ステップS2)。情報収集部20は、第1カウンタのカウント値が「0」であると判定した場合(ステップS2:Yes)、各振動センサ2から出力される出力信号の収集を開始する(ステップS3)。ステップS3の処理において、情報収集部20は、各振動センサ2から継続して出力される出力信号の情報を振動検出情報として記憶部12に記憶させる処理を開始する。
【0060】
情報収集部20は、ステップS3の処理が終了した場合、または第1カウンタのカウント値が「0」ではないと判定した場合(ステップS2:No)、第1カウンタをインクリメントする(ステップS4)。そして、情報収集部20は、車輪の検出時刻と第1カウンタのカウント値とを対応付けた車輪検出情報を記憶部12に記憶する(ステップS5)。第1カウンタのカウント値は、各車輪が車輪センサ3の検出範囲を通過する順番を示している。
【0061】
第1カウンタのカウント値は、デフォルト値が「0」であり、列車の先頭車両のうち先頭にある車輪が通過した場合に、「1」になる。図5に示す編成Aの列車の場合、第1カウンタのカウント値は、「1」から「32」までの値になる。
【0062】
情報収集部20は、ステップS5の処理が終了した場合、または車輪センサ3が車輪を検出していないと判定した場合(ステップS1:No)、第2車輪センサである車輪センサ3が車輪を検出したか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6の処理において、情報収集部20は、車輪センサ3からオン信号が出力された場合に、車輪センサ3が車輪を検出したと判定する。
【0063】
情報収集部20は、車輪センサ3が車輪を検出したと判定した場合(ステップS6:Yes)、第2カウンタをインクリメントする(ステップS7)。そして、情報収集部20は、車輪の検出時刻と第2カウンタのカウント値とを対応付けた車輪検出情報を記憶部12に記憶する(ステップS8)。第2カウンタのカウント値は、各車輪が車輪センサ3の検出範囲を通過する順番を示している。
【0064】
情報収集部20は、ステップS8の処理が終了した場合、または車輪センサ3が車輪を検出していないと判定した場合(ステップS6:No)、第2カウンタのカウント値が設定値m以上であるか否かを判定する(ステップS9)。図5に示す編成Aの列車の場合、m=32である。情報収集部20は、第2カウンタのカウント値が設定値m以上ではないと判定した場合(ステップS9:No)、処理をステップS1に移行する。
【0065】
情報収集部20は、第2カウンタのカウント値が設定値m以上であると判定した場合(ステップS9:Yes)、各振動センサ2の出力信号の収集を終了する(ステップS10)。ステップS10の処理において、情報収集部20は、各振動センサ2から継続して出力される出力信号の情報を振動検出情報として記憶部12に記憶させる処理を終了する。
【0066】
情報収集部20は、ステップS10の処理が終了した場合、第1カウンタと第2カウンタをリセットして(ステップS11)、図6に示す処理を終了する。なお、ステップS11の処理によって、第1カウンタのカウント値と第2カウンタのカウント値が共に「0」になる。
【0067】
図7は、実施の形態1にかかる車輪状態検出装置の処理部による偏摩耗検出処理の一例を示すフローチャートである。図7に示すように、処理部11の速度検出部21は、車輪センサ3,3間の距離D2と記憶部12に記憶された車輪検出情報とに基づいて、車輪毎の速度を算出する(ステップS20)。
【0068】
例えば、速度検出部21が先頭の車輪の速度を算出するとする。この場合、速度検出部21は、第1カウンタのカウント値が「1」である情報を含む車輪検出情報と、第2カウンタのカウント値が「1」である情報を含む車輪検出情報とを記憶部12から読み出す。そして、速度検出部21は、第1カウンタのカウント値「1」に対応付けられた車輪の検出時刻と、第1カウンタのカウント値「1」に対応付けられた車輪の検出時刻との時間差TBを算出する。速度検出部21は、距離D2を時間差TBで除算することで、先頭の車輪の速度を算出する。
【0069】
次に、処理部11の進入時間検出部22は、記憶部12に記憶された車輪検出情報と、車輪センサ3,3と振動センサ2,2,2,2との間の距離と、速度検出部21によって検出された車輪の速度とに基づいて、複数の車輪の進入時間TC1~TCmを算出する(ステップS21)。mは、列車に設けられた複数の車輪のうち一つのレール6を通過する車輪の数を示す。図5に示す編成Aの列車の場合、m=32である。
【0070】
進入時間TC1は、振動センサ2,2,2,2の検出範囲に先頭の車輪が進入した時刻から先頭の車輪が退出した時刻までの時間であり、先頭の車輪が進入した時刻と先頭の車輪が退出した時刻とで示される。また、進入時間TCmは、振動センサ2,2,2,2の検出範囲に最後尾の車輪が進入した時刻から最後尾の車輪が退出した時刻までの時間であり、最後尾の車輪が進入した時刻と最後尾の車輪が退出した時刻とで示される。
【0071】
次に、処理部11は、「i」を「0」に設定する(ステップS22)。そして、処理部11は、「i」に「1」を加算し(ステップS23)、偏摩耗判定処理を実行する(ステップS24)。ステップS24の偏摩耗判定処理は、図8に示すステップS30~S39の処理であり後で詳述する。「i」は、車輪が振動センサ2,2,2,2の検出範囲を通過する順番を示し、先頭の車輪は、i=1である。
【0072】
処理部11は、ステップS24の処理を終了した場合、i≧mであるか否かを判定する(ステップS25)。そして、処理部11は、i≧mではないと判定した場合(ステップS25:No)、処理をステップS23に移行する。また、処理部11は、i≧mであると判定した場合(ステップS25:Yes)、図7に示す処理を終了する。
【0073】
図8は、実施の形態1にかかる車輪状態検出装置の処理部による偏摩耗判定処理の一例を示すフローチャートである。図8に示すように、処理部11の特定周波数検出部26は、特定周波数が未検出であるか否かを判定する(ステップS30)。
【0074】
特定周波数検出部26は、特定周波数が未検出であると判定した場合(ステップS30:Yes)、振動検出情報に含まれる振動センサ2の出力信号をウェーブレット変換することによって、互いに異なる複数の周波数の各々の時間軸波形である周波数毎の時間軸波形を抽出する(ステップS31)。周波数毎の時間軸波形は、上述したように、振幅の時間変化を示す周波数毎の波形である。
【0075】
次に、特定周波数検出部26は、ステップS31で抽出した複数の周波数の時間軸波形のうち1つの周波数の時間軸波形を選択する(ステップS32)。特定周波数検出部26は、ステップS32で選択した周波数の時間軸波形に車輪の回転周期と同じ周期で相対的に大きなピークが発生しているか否かを判定する(ステップS33)。ステップS33の処理において、特定周波数検出部26は、速度検出部21で検出されたi番目の車輪の速度と車輪の踏面の周長とから、車輪の回転周期を算出する。そして、特定周波数検出部26は、例えば、ステップS32で選択した周波数の時間軸波形のうち、車輪の回転周期と同じ周期で発生した相対的に大きなピークの値が、その他のピークの値の最大値よりも、n倍大きい場合に、車輪の回転周期と同じ周期で相対的に大きなピークが発生していると判定することができる。nは、例えば、2以上の値である。
【0076】
特定周波数検出部26は、選択した時間軸波形に車輪の回転周期と同じ周期で相対的に大きなピークが発生していると判定した場合(ステップS33:Yes)、ステップS32で選択した周波数を特定周波数に決定する(ステップS34)。特定周波数検出部26は、ステップS34の処理が終了した場合、または選択した時間軸波形に車輪の回転周期と同じ周期で相対的に大きなピークが発生していないと判定した場合(ステップS33:No)、未処理の周波数があるか否かを判定する(ステップS35)。未処理の周波数は、ステップS31で変換した複数の周波数の時間軸波形のうちステップS32における選択がまだ行われていない周波数である。
【0077】
特定周波数検出部26は、未処理の周波数があると判定した場合(ステップS35:Yes)、処理をステップS32へ移行する。また、処理部11の閾値変更部24は、特定周波数検出部26が未処理の周波数がないと判定した場合(ステップS35:No)、または特定周波数が未検出ではないと判定した場合(ステップS30:No)、i番目の車輪の速度に応じた閾値Vthを決定する(ステップS36)。閾値変更部24は、車輪の速度が小さいほど、閾値Vthを小さい値に設定する。
【0078】
次に、処理部11の抽出部23は、進入時間TCiにおける振動センサ2の出力信号をウェーブレット変換することによって、特定周波数の時間軸波形を抽出する(ステップS37)。なお、ステップS37の処理において、抽出部23は、振動センサ2の出力信号を特定周波数についてウェーブレット変換することによって、特定周波数の時間軸波形を抽出する。また、抽出部23は、ステップS37の処理において、振動センサ2の出力信号をウェーブレット変換して得られる複数の周波数の時間軸波形から、特定周波数の時間軸波形を抽出することもできる。処理部11の偏摩耗判定部25は、特定周波数の時間軸波形の一部が閾値Vth以上になったか否かを判定する(ステップS38)。
【0079】
偏摩耗判定部25は、特定周波数の時間軸波形の一部が閾値Vth以上であると判定した場合(ステップS38:Yes)、i番目の車輪に偏摩耗が生じていると判定する(ステップS39)。処理部11は、ステップS39の処理が終了した場合、または特定周波数の時間軸波形の一部が閾値Vth以上ではないと判定した場合(ステップS38:No)、図8に示す処理を終了する。
【0080】
なお、特定周波数検出部26は、ステップS34で決定される複数の特定周波数がある場合、複数の特定周波数のうち時間軸波形に含まれ且つ車輪の回転周期で現われる振幅の相対的に大きなピークである回転周期ピークの値が最も大きい特定周波数を、ステップS37で時間軸波形を抽出する特定周波数として決定することができる。また、特定周波数検出部26は、ステップS34で決定される複数の特定周波数がある場合、複数の特定周波数のうち時間軸波形に含まれる振幅の平均値に対する回転周期ピークの値の比が最も大きい特定周波数を、ステップS37で時間軸波形を抽出する特定周波数として決定することもできる。
【0081】
また、特定周波数検出部26は、ステップS34で決定される複数の特定周波数がある場合、複数の特定周波数の各々をステップS37で時間軸波形を抽出する特定周波数として決定することもできる。この場合、抽出部23は、進入時間TCiにおける振動センサ2の出力信号をウェーブレット変換して、複数の特定周波数の各々の時間軸波形を抽出する。偏摩耗判定部25は、複数の特定周波数の各々の時間軸波形の一部が閾値Vth以上になる場合に、i番目の車輪に偏摩耗が生じていると判定する。
【0082】
図9は、実施の形態1にかかる車輪状態検出装置のハードウェア構成の一例を示す図である。図9に示すように、車輪状態検出装置4は、プロセッサ101と、メモリ102と、入出力インタフェイス回路103と、通信インタフェイス回路104と、ディスプレイ105とを備えるコンピュータを含む。
【0083】
プロセッサ101、メモリ102、入出力インタフェイス回路103、通信インタフェイス回路104、およびディスプレイ105は、例えば、バス106によって互いに情報の送受信が可能である。表示部13は、ディスプレイ105によって実現される。通信部14は、通信インタフェイス回路104によって実現される。記憶部12は、メモリ102によって実現される。プロセッサ101は、メモリ102に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、速度検出部21、進入時間検出部22、抽出部23、閾値変更部24、偏摩耗判定部25、特定周波数検出部26、割合算出部27、表示情報生成部28、および表示情報出力部29などの機能を実行する。プロセッサ101は、例えば、処理回路の一例であり、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、およびシステムLSI(Large Scale Integration)のうち一つ以上を含む。
【0084】
メモリ102は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、およびEEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)のうち一つ以上を含む。また、メモリ102は、コンピュータが読み取り可能なプログラムが記録された記録媒体を含む。かかる記録媒体は、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルメモリ、光ディスク、コンパクトディスク、およびDVD(Digital Versatile Disc)のうち一つ以上を含む。なお、処理部11は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路を含んでいてもよい。
【0085】
以上のように、実施の形態1にかかる車輪状態検出装置4は、抽出部23と、偏摩耗判定部25とを備える。抽出部23は、列車が走行するレール6の振動を検出する振動センサ2の出力信号から列車の車輪の回転周期でレール6に生じる振動の周波数である特定周波数における振幅の時間変化を示す波形である時間軸波形を抽出する。偏摩耗判定部25は、抽出部23で抽出された特定周波数の時間軸波形に基づいて、車輪の踏面に偏摩耗が生じているか否かを判定する。
【0086】
また、抽出部23は、振動センサ2の出力信号をウェーブレット変換して、特定周波数の時間軸波形を抽出する。これにより、車輪状態検出装置4は、踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することができる。また、車輪状態検出装置4は、列車の速度が10~25km/hなどのように低速である場合であっても、車輪の踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することができる。
【0087】
また、偏摩耗判定部25は、抽出部23で抽出された特定周波数の時間軸波形の一部が閾値Vth以上になる場合に、踏面に偏摩耗が生じていると判定する。これにより、車輪の踏面に生じる偏摩耗を容易に検出することができる。なお、偏摩耗判定部25は、例えば、抽出部23で抽出された特定周波数の時間軸波形と、偏摩耗を検出するための基準波形とを比較し、特定周波数の時間軸波形と基準波形との類似スコアが予め設定された値以上である場合に、踏面に偏摩耗が生じていると判定することもできる。また、偏摩耗判定部25は、特定周波数の時間軸波形を入力とし、踏面に偏摩耗が生じているか否かを出力とする学習モデルを用いて、踏面に偏摩耗が生じているか否かを判定することもできる。かかる学習モデルは、例えば、踏面に偏摩耗が生じている車輪についての特定周波数の時間軸波形と踏面に偏摩耗が生じていない車輪についての特定周波数の時間軸波形とを用いた機械学習によって生成される。また、かかる学習モデルは、例えば、畳み込みニューラルネットワークであるが、線形回帰またはロジスティック回帰などの学習アルゴリズムで生成される計算モデルであってもよい。
【0088】
また、車輪状態検出装置4は、車輪の速度に応じて閾値Vthを変更する閾値変更部24を備える。これにより、車輪状態検出装置4は、列車の速度が変化する場合であっても、車輪の踏面に生じる偏摩耗を精度よく検出することができる。
【0089】
また、車輪状態検出装置4は、割合算出部27と、表示情報生成部28とを備える。割合算出部27は、列車の複数の車輪のうち偏摩耗が生じたと偏摩耗判定部25で判定された車輪の割合である偏摩耗車輪割合を複数の列車の各々について算出する。表示情報生成部28は、割合算出部27で算出された偏摩耗車輪割合が大きい順に複数の列車の情報を表示部13,51に表示させる表示情報を生成する。これにより、車両工場の作業者は、例えば、車両工場内で管理する列車のうち偏摩耗が生じている車輪を多く含む列車を簡単に把握でき、修繕作業を計画的に行うことができる。
【0090】
また、実施の形態1にかかる周波数決定方法は、第1のステップと、第2のステップと、第3のステップと、を含む。第1のステップでは、列車が走行するレール6の振動を振動センサ2で検出する。第2のステップでは、振動センサ2からの出力信号をウェーブレット変換して、互いに異なる周波数の複数の周波数の各々の振幅の時間変化を示す波形である時間軸波形の情報を生成する。第3のステップでは、第2のステップで複数の周波数のうち列車の車輪の回転周期で時間軸波形にピークが生じている周波数を、偏摩耗を検出するための特定周波数として決定する。これにより、実施の形態1にかかる周波数決定方法では、列車が走行する線路の構造および状態などが異なる場合であっても、車輪の踏面に生じた偏摩耗を精度よく検出することができる特定周波数を精度よく判定することができる。
【0091】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 車輪状態検出システム、2,2,2,2,2 振動センサ、3,3,3 車輪センサ、4 車輪状態検出装置、5 端末装置、6 レール、11 処理部、12 記憶部、13,51 表示部、14 通信部、20 情報収集部、21 速度検出部、22 進入時間検出部、23 抽出部、24 閾値変更部、25 偏摩耗判定部、26 特定周波数検出部、27 割合算出部、28 表示情報生成部、29 表示情報出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9