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特許7421718核酸の対象塩基配列中における変異を検出するための方法、核酸の増幅を選択的に阻害する方法、およびこれらを実施するためのキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】核酸の対象塩基配列中における変異を検出するための方法、核酸の増幅を選択的に阻害する方法、およびこれらを実施するためのキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6858 20180101AFI20240118BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240118BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240118BHJP
   C08F 226/04 20060101ALN20240118BHJP
   C08G 75/22 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
C12Q1/6858 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
C08F226/04
C08G75/22
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023527796
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2022044359
(87)【国際公開番号】W WO2023106198
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2021201175
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】橘 亜美
(72)【発明者】
【氏名】内木 智朗
(72)【発明者】
【氏名】竹内 実
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晃司
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/051076(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/167320(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/033190(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/018841(WO,A1)
【文献】特開2005-060491(JP,A)
【文献】特開2007-204599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6858
C12Q 1/686
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出する方法であって、
前記標準塩基配列に相補的な塩基配列を含み、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化1】

(式中、Rは、炭素数1~10のアルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)と、
一般式(I-c)
【化2】

で表される構造を有する構成単位(B)とを含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体、を用いて、前記試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行い、
前記核酸増幅反応により得られた核酸増幅産物の総量、前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数、前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量、又は前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて、前記変異の存在を判定する、方法。
【請求項2】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又はジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項4】
前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、請求項1~3のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項5】
前記核酸増幅を、リアルタイムPCRで行う、請求項1~のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項6】
前記試料中の核酸が、ゲノムDNAである、請求項1~のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記核酸増幅反応を行う際に、さらに、前記標準塩基配列を有する核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行い、
前記試料中の核酸を鋳型に用いた場合の前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数が、前記標準塩基配列を有する核酸を鋳型に用いた場合の前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数と比較して少なかった場合に、前記試料中の核酸の対象塩基配列に前記変異が存在すると判定する、請求項1~のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項8】
試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出するためのキットであって、
前記標準塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化3】

(式中、Rは、炭素数1~10のアルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化4】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と、を含むキット。
【請求項9】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項に記載のキット。
【請求項11】
前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、請求項8~10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
核酸増幅反応において、所定の対象塩基配列を有する試料中の核酸の増幅を抑制する方法であって、
前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは(I-b)
【化5】

(式中、Rは、炭素数1~10のアルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化6】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と
を用いて、前記核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行う、方法。
【請求項13】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又はジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を抑制するためのキットであって、
前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化7】

(式中、Rは、炭素数1~10のアルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化8】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と、を含む、キット。
【請求項17】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、請求項16~18のいずれか1項に記載のキット。
【請求項20】
クランプ核酸により核酸増幅を阻害する効果を増強する核酸増幅阻害増強剤であって、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化9】

(式中、Rは、炭素数1~10のアルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)と、
一般式(I-c)
【化10】

で表される構造を有する構成単位(B)と、を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体を含む、核酸増幅阻害増強剤。
【請求項21】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項20に記載の核酸増幅阻害増強剤。
【請求項22】
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、請求項20に記載の核酸増幅阻害増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の核酸の対象塩基配列中における標準塩基配列に対する変異を検出するための方法、および核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を選択的に阻害する方法、ならびにこれらを実施するためのキットに関する。より具体的には、クランプ核酸(ブロッカー核酸と称されることもある)を用いる核酸増幅反応において、特定のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の存在下で核酸増幅を行うことより、対象塩基配列中における標準塩基配列に対する変異を検出する方法および対象塩基配列を有する核酸の増幅を選択的に阻害する方法、ならびにこれらを実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の突然変異が、がんの起因となる場合があり、そのような遺伝子の突然変異を早期に発見することで、がんの早期治療に繋がることが期待されている。また、ある特定の遺伝子の変異が、ある種の病気の罹りやすさ、薬の治療効果、副作用の強弱などに大きく関与することが分かってきている。例えば、上皮増殖因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は、特定の遺伝子変異を持つ一部の肺がん患者には大きな奏効性を示す一方、約0.5%程度の患者に重篤な間質性肺炎を引き起こすことが知られている(非特許文献1)。また、大腸癌においては、KRAS遺伝子に変異があると分子標的薬セツキシマブ(商品名:アービタックス)の奏効率は低く、変異がないと奏効率が高いことが知られている。このため、患者ごとに奏効性や副作用が予測できれば、奏効性が期待できない患者や重篤な副作用が予想される患者への投与を控えて、副作用の少ない効果的な治療を行うことが可能となる。
【0003】
このようなことから、遺伝子の変異を明らかにすることは、がんの早期発見、治療効率の向上などの面で重要であると認識され、このようなニーズに応えるべく、遺伝子の変異を検出する様々な技術開発がなされている。特に、PCR法のような遺伝子増幅技術、およびNGSなどの網羅的な遺伝子解析技術では、目覚ましい進展が見られる。
【0004】
もっとも、腫瘍検体から抽出した遺伝子では、大量の野生型遺伝子と微量の変異型遺伝子を含むが、従来の変異型遺伝子を検出する方法では、依然として、微量の変異型遺伝子を検出するには十分な感度を有しないことが多い。例えば、遺伝子の変異を検出する手法の一つとして、変異型遺伝子と野生型遺伝子を非選択的に増幅したのちに、電気泳動法またはハイブリダイゼーション法などで変異型遺伝子を野生型遺伝子と区別する方法があるが、この方法では、野生型遺伝子中に含まれるごく少量の変異型遺伝子を十分な感度および精度で検出することは困難である。
【0005】
これに対して、遺伝子増幅の段階において、野生型遺伝子の基準配列と相補的な塩基配列を有する人工的なオリゴヌクレオチドを用いて野生型遺伝子の増幅を阻害して変異型遺伝子を選択的に増幅する、いわゆる「クランプ法」が開発されている。この方法で用いられている人工核酸は、クランプ核酸と称され、核酸増幅過程で(i)野生型遺伝子と強くハイブリダイズするが、(ii)変異型遺伝子とは強くハイブリダイズせず、(iii)核酸増幅過程で分解されにくい、という特性を有し、これを利用してreal-time PCRを実施すると、変異型遺伝子の頻度が1%まで変異を検出でき、さらにreal-time PCRの増幅産物を鋳型にダイレクトシーケンス法を実施すると変異型遺伝子の頻度が0.1%まで変異を検出できるとされる(例えば、特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。クランプ核酸としては、peptide nucleic acid (PNA)、locked nucleic acid (LNA)および bridged nucleic acid (BNA)が開発され、PNA-LNA clamp PCR法、BNA clamp PCR法などの増幅法が開発されている(例えば、非特許文献2、3、6および特許文献1~9参照)。
【0006】
しかし、これらのクランプ法によっても、試料中の野生型遺伝子の比率に対して変異型遺伝子の比率が非常に低い場合には、real-time PCRを実施すると野生型遺伝子を増幅してしまい、野生型遺伝子と変異型遺伝子を区別できない場合がある。また、clamp PCRの増幅産物を鋳型にダイレクトシーケンス法を実施すると変異型遺伝子の検出感度を上げることはできるが、シーケンス決定は、膨大な検体を即座に処理することが求められる臨床の場には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6242336号
【文献】特許第5813263号
【文献】特許第4731324号
【文献】特許第4383178号
【文献】特許第5030998号
【文献】特許第4151751号
【文献】特開第2001-89496号公報
【文献】国際公開第2003/068795号パンフレット
【文献】国際公開第2005/021570号パンフレット
【文献】特許第3756313号
【文献】国際公開第2016/167320号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】Thomas J.,et.al.,2004,The NEW ENGLAND JURNAL of MEDICINE,350;21
【文献】Nagai K.,et.al.,2005,Cancer Research,65:7276-7282
【文献】Nishino K.et al.,2019,肺癌患者におけるEGFR遺伝子変異検査の手引き 第4.1版
【文献】Luming Z.et al.,2011 BioTechniques,50:311-318
【文献】Nagakubo Y.et al.,2019,BMC Medical Genomics,12:162
【文献】Murina F.F.et al., 2020, Molecules, 25(4):786
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、臨床や研究の現場において、試料中の野生型遺伝子の比率に対して変異型遺伝子の比率が非常に低い場合でも、変異型遺伝子を検出できる方法に対するニーズがあり、これに対応する手法の研究が進められている(特許文献2、非特許文献4、および非特許文献5)。しかし、従来の方法は、変異型遺伝子を高感度に検出するために高額な機器や2段階以上の複雑な解析ステップを必要とし(非特許文献2)、臨床の現場や研究の場では簡易な方法で試料中の変異型遺伝子を高感度で検出可能な方法が求められている。
従って、本発明は、従来のクランプ法による変異型遺伝子の検出限界より低い変異型遺伝子含有率で変異型遺伝子を検出できる簡便な方法およびそれを実施するためのキットを提供することを目的とする。
本発明はまた、核酸増幅反応において、対象とする塩基配列の増幅を選択的に阻害することができる簡便な方法およびそれを実施するためのキットを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、クランプ法による変異型遺伝子の検出感度を上げる手法について検討を重ねる中で、クランプ核酸と共に特定のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の存在下で核酸増幅反応を実施したところ、野生型遺伝子の増幅を選択的に阻害するクランプ核酸による効果が当該ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の存在により増強され、これにより変異型遺伝子の検出感度を高めることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の方法、キット、増強剤および使用を提供する。
[1] 試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出する方法であって、
前記標準塩基配列に相補的な塩基配列を含み、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化1】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)と、
一般式(I-c)
【化2】

で表される構造を有する構成単位(B)とを含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体、を用いて、前記試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行い、
前記核酸増幅反応により得られた核酸増幅産物の総量、前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数、前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量、又は前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて、前記変異の存在を判定する、方法。
[2] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又はジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[1]に記載の検出方法。
[3] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[1]に記載の検出方法。
[4] 前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の検出方法。
[5] 前記核酸増幅を、リアルタイムPCRで行う、[1]~[4]のいずれか1項に記載の検出方法。
[6] 前記試料中の核酸が、ゲノムDNAである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の検出方法。
[7] 前記核酸増幅反応を行う際に、さらに、前記標準塩基配列を有する核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行い、
前記試料中の核酸を鋳型に用いた場合の前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数が、前記標準塩基配列を有する核酸を鋳型に用いた場合の前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数と比較して少なかった場合に、前記試料中の核酸の対象塩基配列に前記変異が存在すると判定する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の検出方法。
[8] 試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出するためのキットであって、
前記標準塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化3】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化4】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と、を含むキット。
[9] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[8]に記載のキット。
[10] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[9]に記載のキット。
[11] 前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、[8]~[10]のいずれか1項に記載のキット。
[12] 核酸増幅反応において、所定の対象塩基配列を有する試料中の核酸の増幅を抑制する方法であって、
前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは(I-b)
【化5】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化6】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と
を用いて、前記核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行う、方法。
[13] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[12]に記載の方法。
[14] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又はジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[12]に記載の方法。
[15] 前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、[12]~[14]のいずれか1項に記載の方法。
[16] 核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を抑制するためのキットであって、
前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化7】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化8】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と、を含む、キット。
[17] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[16]に記載のキット。
[18] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[16]に記載のキット。
[19] 前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、[16]~[18]のいずれか1項に記載のキット。
[20] クランプ核酸による核酸増幅阻害効果を増強する核酸増幅阻害増強剤、より具体的には、対象塩基配列を有する核酸の核酸増幅を、前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸により阻害する効果を増強する核酸増幅阻害増強剤であって、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化9】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)と、
一般式(I-c)
【化10】

で表される構造を有する構成単位(B)と、を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体を含む、増強剤。
[21] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[20]に記載の増強剤。
[22] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[20]に記載の増強剤。
[23] クランプ核酸による核酸増幅阻害効果を増強する核酸増幅阻害増強剤を製造するためのジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の使用であって、
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体は、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化11】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)と、
一般式(I-c)
【化12】

で表される構造を有する構成単位(B)と、を含む、
使用。
[24] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[23]に記載の使用。
[25] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[23]に記載の使用。
[26] クランプ核酸による核酸増幅阻害効果を増強するためのジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の使用であって、
前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体は、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化13】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)と、
一般式(I-c)
【化14】

で表される構造を有する構成単位(B)と、を含む、
使用。
[27] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[26]に記載の使用。
[28] 前記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、又は、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体である、[26]に記載の使用。
【0012】
上記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体は、それ自体では核酸増幅反応を阻害しないが、クランプ核酸によるそれに相補的な配列を有する核酸の増幅を阻害する効果を選択的に増強することができる。このため、本発明の一の実施形態によれば、試料中において、クランプ核酸に相補的な標準塩基配列を有する核酸に対して、標準塩基配列に対する変異を有する核酸の比率が非常に低い場合でも(例えば、0.1%以下)、クランプ核酸により標準塩基配列を有する核酸の増幅が選択的に阻害される一方、標準塩基配列に対する変異を有する核酸が通常通り増幅され、非常に高感度で変異を有する核酸の検出を簡易な方法で可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】aは、試験1において、PCR反応を阻害しない場合の核酸増幅曲線の一例として、実施例1のポリマー(ジアリルメチルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体)を用いた場合の核酸増幅曲線を示す。bは、試験1において、PCR反応を阻害する場合の核酸増幅曲線の一例として、比較例1のポリマー(ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体)を用いた場合の核酸増幅曲線を示す。
図2】BNAを含むクランプ核酸(BNA clamp)の存在下、実施例1のポリマー(ジアリルメチルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体)を添加して、KRAS変異型遺伝子の含有率が10%、1%、0.10%、0.01%または0%(WT)の鋳型DNAを、リアルタイムPCR反応で増幅した際の核酸増幅曲線を示す。
図3】aは、BNA clampの存在下、ポリマー無添加条件で、BRAF変異型遺伝子由来のDNAの含有率が10%、1%、0.10%、0.01%または0%(WT)の鋳型DNAを、リアルタイムPCR反応で増幅した際の核酸増幅曲線を示す。bは、BNA clampの存在下、実施例1のポリマー(ジアリルメチルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体)を添加して、BRAF変異型遺伝子由来のDNAの含有率が10%、1%、0.10%、0.01%または0%(WT)の鋳型DNAを、リアルタイムPCR反応で増幅した際の核酸増幅曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定して理解されるべきものではない。
本発明は、一の実施形態において、クランプ核酸を用いる核酸増幅法において、特定のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の存在下で核酸増幅を行うことより、対象塩基配列中における標準塩基配列に対する変異を検出する方法に関する。本発明は、他の実施形態において、核酸増幅法において、クランプ核酸および特定のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の存在下で核酸増幅反応を行うことより、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法に関する。本発明はまた、更に他の実施形態において、これらの方法を実施するためのキットに関する。本発明はまた、更に他の実施形態において、クランプ核酸による核酸増幅阻害効果の増強剤に関する。以下、各実施形態について詳細に説明する。
【0015】
1.対象塩基配列中における標準塩基配列に対する変異を検出する方法
本発明の一実施形態は、試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出する方法に関する。この方法は、標準塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、特定のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体とを準備し、これらを用いて、試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行い、対象塩基配列が標準塩基配列に対して変異を有する場合に、対象塩基配列を含む領域を標準塩基配列より優先的に核酸増幅させることにより、変異の存在を検出するものである。
【0016】
試料
本発明の方法に供される試料は、実施形態に応じて、変異の検出が所望される核酸または増幅阻害対象と成り得る核酸を含むと想定される試料であり、本実施形態においては、変異の検出が所望される核酸を含むと想定される試料である。試料は、例えば、哺乳動物、典型的にはヒトから採取された検体から調製された試料である。例えば、血液、胸水、気管支洗浄液、骨髄液、リンパ液等の液体試料、またはリンパ節、血管、骨髄、脳、脾臓、皮膚等の固形試料から調製された試料が挙げられる。本発明の方法は非常に高い感度で核酸の変異を検出し得るため、例えば癌等の病変部位から採取された検体からの試料だけでなく、血液等の変異型遺伝子が微量しか含まれない検体からの試料を用いることができる。
【0017】
対象塩基配列
本願明細書において、「対象塩基配列」とは、本発明の実施形態による方法に応じて、変異検出または増幅阻害の対象となる一以上の塩基からなる塩基配列を意味する。また、「試料中の核酸」は、変異検出または増幅阻害の対象となる塩基配列を含み得る核酸である。但し、「対象塩基配列」が、実際に変異を有すること、または実際に増幅阻害される塩基配列を含むことまでは意味しないし、「試料中の核酸」が、実際に変異検出または増幅阻害の対象となる塩基配列を含むことまでは意味しない。
【0018】
本実施形態による方法においては、「対象塩基配列」は、変異の有無を検出する対象となる一以上の塩基からなる塩基配列であり、「試料中の核酸」は、変異の有無を検出する対象となる塩基配列を含む核酸である。また、「対象塩基配列を含む領域」は、本発明の方法によって、増幅対象となる領域である。
【0019】
試料中の核酸
核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、ゲノムDNA、cDNA、プラスミドDNA、無細胞DNA、循環DNA、RNA、miRNA、mRNAなどの天然型もしくは非天然型のあらゆる核酸を含み得る。哺乳動物、典型的にはヒトから採取された検体からの試料を用いる場合には、変異検出の対象となる核酸は、多くの場合DNAであり、典型的には、臨床上の意義が大きなゲノムDNAである。
ゲノムDNAとしては、例えば、その変異(先天的又は後天的な変異)が、特定の疾患の発症および/または治療感受性に関連するゲノムDNAが挙げられる。このような疾患は、多数知られており、その代表例は各種癌である。また、その変異が癌の発症および/または治療感受性に関連することが知られている遺伝子としては、例えば、ABL/BCR融合遺伝子(慢性骨髄性白血病)、HER2遺伝子(乳癌)、EGFR遺伝子(非小細胞肺癌)、c-KIT遺伝子(消化管間質腫瘍)、KRAS遺伝子(大腸癌、膵癌)、BRAF遺伝子(メラノーマ、大腸癌)、PI3KCA遺伝子(肺癌、大腸癌)、FLT3遺伝子(急性骨髄性白血病)、MYC遺伝子(種々の癌)、MYCN遺伝子(神経芽細胞腫)、MET遺伝子(肺癌、胃癌、メラノーマ)、BCL2遺伝子(濾胞性Bリンパ腫)、およびEML4/ALK融合遺伝子(肺癌)が挙げられる。
【0020】
標準塩基配列および変異
本願明細書において、「標準塩基配列」とは、「対象塩基配列」の変異を検出する方法において、「対象塩基配列」が変異を有しているかを判断する際の基準となる塩基配列を意味し、「変異」は、「対象塩基配列」が「標準塩基配列」に対して置換、挿入、欠失、逆位、重複、転座またはこれら2つ以上の組み合わせによって何らかの塩基配列の相違を有している状態を意味する。本願明細書において、この様な「変異」は、20%以下の塩基配列の相違、10%以下の塩基配列の相違、5%以下の塩基配列の相違、又は、1%以下の塩基配列の相違であってよい。
「標準塩基配列」は、検査目的に応じて種々の塩基配列を選択できるが、典型的には、野生型の核酸に由来する塩基配列であり、好ましくは特定の疾患の発症および/または治療感受性に関連することが知られている野生型遺伝子に由来する塩基配列である。従って、「変異型核酸」は、典型的には、野生型の核酸に由来する塩基配列に対して置換、挿入、欠失、逆位、重複、転座またはこれら2つ以上の組み合わせによって何らかの塩基配列の相違がある核酸であり、好ましくは、特定の疾患の発症および/または治療感受性に関連することが知られている野生型遺伝子に対してこのような塩基配列の相違がある核酸である。例えば、KRAS遺伝子の第2エクソンの12番目のコドンまたは13番目のコドンの変異は、分子標的薬セツキシマブの奏効率と関連することが知られている。また、BRAF遺伝子では、第15エクソンの600番目のコドンの変異は、分子標的薬セツキシマブやパニツムマブの奏効率と関連することが知られている。
特定のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果を特に増大することから、前記試料中の核酸に含まれる、変異を含まない対象配列(標準塩基配列)と、前記変異が含まれる対象配列との合計に対し、前記変異が含まれる対象塩基配列の割合の期待値は、0.1%未満であってもよい。また、好ましい実施形態では、0.05%以下であってもよく、更に好ましい実施形態では、0.01%以下であってもよい。ここで、変異が含まれる対象塩基配列の割合の期待値は、各変異について臨床的に求められる。
【0021】
クランプ核酸
本願明細書において、「クランプ核酸」とは、核酸増幅を阻害する対象とした「塩基配列」(実施形態に応じて「標準塩基配列」であることも「対象塩基配列」であることも有り得る)と相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドからなる人工的な核酸である。「クランプ核酸」は、核酸増幅を阻害する対象とした「塩基配列」とハイブリダイズして核酸増幅を阻害するが、その塩基配列と相補的でない塩基配列の核酸とは強くハイブリダイズせず核酸増幅を阻害しない。
【0022】
「対象塩基配列」の変異を検出する方法においては、「クランプ核酸」により核酸増幅を阻害する対象となる「塩基配列」は、「標準塩基配列」であり、「クランプ核酸」は、「標準塩基配列」にハイブリダイズしてその核酸増幅を阻害する。
非天然型ヌクレオチドとしては、例えば、Peptide Nucleic Acid(PNA)、Bridged nucleic acid (BNA)、ホスフェート基を有するペプチド核酸(PHONA)、モルホリノ核酸を挙げることができる。なお、第一世代のBNAは、Locked nucleic acid(LNA)とも称される(例えば、非特許文献2、3および特許文献1、2参照)。
【0023】
PNAを含むクランプ核酸(PNA clamp)は、核酸のリン酸結合に代えペプチド結合で骨格を形成している一以上のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドからなる完全修飾型人工核酸である。修飾ヌクレオチドは、典型的には、ヌクレオチドの糖-リン酸骨格を、N-(2-アミノエチル)グリシンを単位とする骨格に置き換え、メチレンカルボニル結合で塩基を結合させた構造を有する。PNAについての詳細は、非特許文献6に記載する通りである。PNA clampは、相補構造のDNA鎖とのハイブリダイズ能が天然DNAよりも強く、核酸分解酵素による分解を受けないことからクランプ核酸として望ましい特性を有している。
【0024】
BNAを含むクランプ核酸(BNA clamp)は、リボースの2’位の酸素原子と4’位の炭素原子を架橋した構造を有する一以上の非天然ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドからなる人工核酸であり、第一世代のBNAは、Locked nucleic acid(LNA)とも称される。BNA clampは、らせん構造が固定化され、相補鎖を有する核酸にハイブリダイズすると非常に安定な二本鎖を形成することができる。また、修飾されたヌクレオチドの数に比例して相補鎖を有する核酸に対する結合が強まるため、核酸の長さと修飾ヌクレオチドの数を調整することで適当なハイブリダイズ能を獲得することができ、比較的短いオリゴヌクレオチド鎖でクランプ効果を発揮させることが可能である。
【0025】
BNA clampの代表的な例は、以下の構造を有する修飾ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドである。
【化15】

第1世代BNA:2’,4’-BNA(LNA)(例えば、特許文献10)
【化16】

【化17】

【化18】

(式中、
Baseは、ピリミジンもしくはプリン核酸塩基、または水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1~5のアルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1~5のアルキルチオ基、アミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、炭素数1~5のアルキル基で置換されたアミノ基、炭素数1~5のアルキル基およびハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)からなる群から選択される置換基で置換されたピリミジンもしくはプリン核酸塩基を示し、
は、水素原子、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基、炭素数2~20の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数1~6のアルキル基が炭素数6~14のアリール基で置換されているアラルキル基、アシル基、スルホニル基、またはシリル基、または標識分子を示し、
mは0~2の整数であり、
nは、1~3の整数である。)
【0026】
式(IV)の修飾ヌクレオチドは、好ましくは、Baseが、ベンゾイルアミノプリン-9-イル、アデニニル、2-イソブチリルアミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル、グアニニル、2-オキソ-4-ベンゾイルアミノ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル、シトシニル、2-オキソ-5-メチル-4-ベンゾイルアミノ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル、5-メチルシトシニル、ウラシニル、およびチミニル基からなる群から選択され、Rがメチル基であり、mが0であり、nが1である。
【0027】
ただし、本発明で用いられるBNAは、上記に限定されるものではなく、他のBNA(例えば、5’-amino-2’、4’-BNA、2’,4’-BNACOC、2’,4’-BNANCなど)も使用し得る。また、BNA clampでは、修飾ヌクレオチドとヌクレオチド間、または修飾ヌクレオチド間の結合は、通常、リン酸ジエステル結合であるが、ホスホロチオアート結合を含み得る。BNAおよびBNA clampの詳細については、特許文献1~10に記載されており、本発明の属する技術分野の当業者は、これらの文献等の公知の技術的事項から如何なる人工核酸がBNA clampに該当するかは容易に理解し得る。
【0028】
クランプ核酸としては、比較的少ないヌクレオチドで相補的な配列の核酸と安定した二本鎖を形成して、当該核酸の核酸増幅を選択的に阻害できる(後述する、インターカレーター法のような野生型遺伝子の増幅サイクル数を基準とした変異検出法を用いた場合において、ΔΔΔCt値が大きい)点で、BNA clampが好ましく、特に式(IV)の構造の修飾ヌクレオチドを含むBNA clampが好ましい。
【0029】
クランプ核酸の長さおよび非天然型ヌクレオチドの数は、核酸増幅を阻害する対象となる核酸に対する結合力を決定する因子である。従って、これらの因子は、核酸増幅を阻害する対象となる核酸(変異を検出する方法では、標準塩基配列を有する核酸である)に強力に結合し、当該核酸の増幅を選択的に阻害できるよう適切に設定することが好ましい。この点から、クランプ核酸の長さは、通常、5~50merであり、好ましくは、6~30merであり、より好ましくは、7~25merであり、さらに好ましくは、8~20merであり、特に好ましくは、9~15merである。
また、クランプ核酸における非天然型核酸の割合は、同様の点から、通常、10~100%であり、好ましくは、30~95%であり、より好ましくは、40~90%であり、さらに好ましくは、50~85%であり、特に好ましくは、60~80%である。
【0030】
クランプ核酸の合成は、特許文献7~10等の文献に基づいて行うことができる。また、クランプ核酸の合成を受託する業者に委託してもよい。
【0031】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体
本発明の方法においては、試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行う際に、上記クランプ核酸と共に、特定の構造を有するジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が存在する状態で核酸増幅反応を行う。本発明で使用されるジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体は、自らは核酸増幅反応を阻害しないが、クランプ核酸による選択的な核酸増幅阻害効果を増強するものであり、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化19】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)と、
一般式(I-c)
【化20】

で表される構造を有する構成単位(B)とを含む、共重合体である。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体は、上記構成単位(A)と上記構成単位(B)とを含む共重合体であり、したがって構成単位(A)及び構成単位(B)のみで構成されていてもよく、構成単位(A)及び構成単位(B)に加えて、それ以外の構成単位を有していてもよい。それ以外の構成単位としては、構成単位(A)以外の各種カチオン性構成単位、構成単位(B)以外の各種ノニオン性構成単位、各種アニオン性構成単位等を挙げることができる。
【0032】
構成単位(A)と構成単位(B)との合計がジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の全構成単位に占める割合には特に制限は無いが、通常80モル%以上であり、好ましくは80~100モル%であり、より好ましくは90~100モル%であり、特に好ましくは95~100モル%である。
【0033】
構成単位(A)
本発明において用いられるジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体を構成する構成単位(A)は、上記特定の構造を有する、ジアリルアミン系の構成単位である。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体は、構成単位(A)1種類のみを含んでいてもよく、2種類以上の構成単位(A)を含んでいてもよい。2種類以上の構成単位(A)を含んでいる場合、上述の構成単位(A)と構成単位(B)との合計がジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の全構成単位に占める割合や、構成単位(A)と構成単位(B)との割合は、当該2種類以上の構成単位(A)の合計量に基づいて計算される。
【0034】
構成単位(A)は、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化21】

で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する。
一般式(I-a)及び一般式(I-b)中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。
いずれの選択肢であっても、Rは少なくとも1つの炭素原子を有する基となるので、構成単位(A)は、第三級のアミノ基を含む構造を有する構成単位となる。
は、炭素数5以下のアルキル基、又はベンジル基であることが好ましく、メチル基、又はエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0035】
構成単位(A)は、上記の構造式(1-a)、又は(1-b)で示される構造の無機酸塩、若しくは有機酸塩等である構造、すなわち酸付加塩である構造を有していてもよい。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の製造にあたっては、製造コスト等の観点からは、付加塩を有するジアリルアミンモノマーを用いて構成単位(A)を導入することが好ましい。重合体からHCl等の付加塩を除去するプロセスは煩雑であり、コスト増大の原因ともなることから、その様なプロセスを要さずして製造可能である、付加塩型の構成単位(A)を用いることは、コスト等の観点からも好ましい実施形態である。
入手の容易さや反応の制御性等の観点から、この実施形態の構成単位(A)における無機酸塩、又は有機酸塩は、塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、又はアルキルサルフェート塩であることが好ましく、塩酸塩であることが特に好ましい。
【0036】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体との名称にも現れている様に、構成単位(A)は、通常、ジアリルアミン系単量体から導かれるものである。
好適な構成単位(A)のより具体的な例として、ジアリルメチルアミンから導かれる構成単位及びその塩酸塩、ジアリルエチルアミンから導かれる構成単位及びその塩酸塩等を挙げることができる。
【0037】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の全構成単位に占める構成単位(A)の割合は、通常40モル%以上であり、好ましくは50~80モル%であり、特に好ましくは50~70モル%である。2種類以上の構成単位(A)を含む場合の上記割合は、当該2種類以上の構成単位(A)の合計量に基づいて定義される。
【0038】
構成単位(B)
本発明において用いられるジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体を構成する構成単位(B)は、一般式(I-c)
【化22】

で表される構造を有する構成単位である。
本発明の方法、キット、及びクランプ核酸による核酸増幅阻害に関し、構成単位(A)単独で構成される重合体では、その強力なカチオンチャージによりPCR反応が阻害されるほど、二本鎖を構成する核酸間の結合が強化されてしまうところ、上記構成単位(A)に加えて構成単位(B)を有するジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体では、構成単位(B)により構成単位(A)のカチオンチャージが適度に干渉される。このため、クランプ法による変異型遺伝子の検出限界より低い変異型遺伝子含有率で変異型遺伝子を検出でき、核酸増幅反応において対象とする塩基配列の増幅を選択的に阻害することができる。
【0039】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体との名称にも現れている様に、構成単位(B)は、通常、二酸化硫黄から導かれるものである。
構成単位(B)が、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の全構成単位に占める割合は、10モル%以上であることが好ましい。
構成単位(B)の割合は、20~50モル%であることがより好ましく、30~50モル%であることが特に好ましい。
【0040】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体における、構成単位(A)と構成単位(B)との割合にも特に制限はなく、本発明の目的との関係において適宜設定することができ、また共重合可能な限りにおいて、任意の割合とすることができる。ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の高分子量化の観点からは、両構成単位の割合は大きくは異ならないことが好ましく、例えば構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比が、90:10~40:60であることが好ましく、80:20~50:50であることがより好ましく、70:30~50:50であることが特に好ましい。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体における、構成単位(A)及び構成単位(B)のモル比は、構成単位(A)の構造が既知である場合、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体をイソプロピルアルコール又はアセトン等の有機溶媒で再沈し、再沈物について、Perkin Elmer 2400II CHNS/O全自動元素分析装置又は同等の性能の装置を用いて、前記構成単位の構造に応じた適宜のモードで分析することで特定することができる。なお、測定は、キャリアーガスとしてヘリウムガスを使用し、錫カプセルに固体試料を量りとり、燃焼管内に落下して純酸素ガス中で燃焼温度1800℃以上で試料を燃焼し、分離カラム及び熱伝導検出器によるフロンタルクロマトグラフィー方式で各測定成分を検出し、校正係数を用いて各元素の含有率を定量することで行うことができる。また、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体における構成単位(A)の構造が未知である場合、上記元素分析装置による測定の前に、1H-NMR又は13C-NMRを用いた公知の方法により、構成単位(A)の構造を特定する。また、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の製造(共重合)において供給した各単量体の量、及びジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体に取り込まれずに残留した各単量体の量から計算することもできる。なお、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体における各単量体から導かれる構成単位の割合(モル比)は、各構成単位の仕込み組成(モル比)とほぼ一致するため、本明細書では便宜的にモノマーの配合比を構成単位の割合(モル比)として取り扱う事がある。
【0041】
上記を総合すると、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体としては、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルエチルアミン・二酸化硫黄共重合体、及びジアリルエチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体が好ましく、ジアリルメチルアミン・二酸化硫黄共重合体、及びジアリルメチルアミン酸付加塩・二酸化硫黄共重合体が、特に好ましい。
【0042】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体は、上記構成単位(A)及び構成単位(B)に加えて、それ以外の構成単位を有していてもよい。
それ以外の構成単位としては、構成単位(A)以外の各種カチオン性構成単位、構成単位(B)以外の各種ノニオン性構成単位、各種アニオン性構成単位等を挙げることができる。
【0043】
(C)構成単位(A)以外のカチオン性構成単位
構成単位(A)以外の各種カチオン性構成単位(C)としては、構成単位(A)以外のジアリルアミン構成単位、例えば第二級又は第四級のアミノ基を有するジアリルアミン構成単位、若しくはその付加塩、各種のモノアリルアミン系構成単位若しくはその付加塩、カチオン性(メタ)アクリルアミド系構成単位等を挙げることができる。
中でも、第二級のアミノ基を有するジアリルアミン構成単位を好ましく用いることができる。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が構成単位(A)以外のカチオン性構成単位を有する場合の当該カチオン性構成単位の含有量には特に制限はなく、また当該カチオン性構成単位の種類によってもその好適な量は異なるが、20モル%以下であることが好ましく、0~10モル%であることが特に好ましい。
【0044】
(D)アニオン性構成単位
構成単位(A)及び(B)以外の構成単位として導入可能なアニオン性構成単位(D)としては、カルボキシル基等のアニオン性基を有する構成単位であればよく、特にそれ以外の制限は存在しないが、好ましい例としてマレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸系単量体から導かれる構成単位、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン系単量体から導かれる構成単位等を挙げることができる。中でも、マレイン酸、アクリル酸を好ましく用いることができる。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体がアニオン性構成単位を有する場合の構成単位(B)以外のアニオン性構成単位の含有量には特に制限はなく、またアニオン性構成単位の種類によってもその好適な量は異なるが、20モル%以下であることが好ましく、0~10モル%であることが特に好ましい。
アニオン性構成単位(D)は、構成単位(A)のカチオンチャージを調整するという観点から、構成単位(A)が有するカチオンチャージが過大な場合には、上記の範囲で含まれることが好ましいが、構成単位(A)が有するカチオンチャージが適度な場合には、含まれないことが好ましい。
【0045】
(E)構成単位(B)以外のノニオン性構成単位
本実施形態における構成単位(B)以外のノニオン性構成単位(E)は、構成単位(A)及びアニオン性構成単位(B)と共重合可能な、二酸化硫黄以外の非イオン性の単量体から導かれる構成単位であればよく、特にそれ以外の制限はないが、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、アクリルアミド系単量体等から導かれる構成単位を、好ましく用いることができる。より具体的な例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、アクリロイルモルフォリン、イソプロピルアクリルアミド、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート等から導かれる構成単位を挙げることができる。中でも、アクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド又はジメチルアクリルアミドから導かれる構成単位を使用することが特に好ましい。
構成単位(B)以外のノニオン性構成単位は、通常、単量体として非イオン性の単量体を用いることで、高分子中に導入することができる。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が構成単位(B)以外のノニオン性構成単位を有する場合の構成単位(B)以外の当該ノニオン性構成単位の含有量には特に制限はなく、また当該ノニオン性構成単位の種類によってもその好適な量は異なるが、20モル%以下であることが好ましく、0~10モル%であることが特に好ましい。
【0046】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の分子量には特に制限は無く、本発明の方法、キット等における使用形態や他の成分等との関係で適宜好適な分子量のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体を入手又は重合すればよい。
核酸等と反応液を形成する容易さや、実用上許容可能な時間及びコストで重合を行う観点からは、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の重量平均分子量(Mw)は300~30000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)は、1000~9000であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)は、1500~6000であることがさらに好ましく、2000~4000であることが特に好ましい。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば、液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定することができる。
具体的には、例えば、日立L-6000型高速液体クロマトグラフを使用し、以下の方法で、前記重量平均分子量を測定することができる。溶離液流路ポンプとして日立L-6000、検出器としてショーデックスRI-101示差屈折率検出器、カラムとしてショーデックスアサヒパックの水系ゲル濾過タイプのGS-220HQ(排除限界分子量3,000)とGS-620HQ(排除限界分子量200万)とを直列に接続したものを用いる。サンプルを溶離液で0.5g/100mlの濃度に調製し、20μlを用いる。溶離液には、0.4モル/リットルの塩化ナトリウム水溶液を使用する。カラム温度は30℃で、流速は1.0ml/分で実施する。標準物質として、分子量106、194、440、600、1470、4100、7100、10300、12600、23000などのポリエチレングリコールを用いて較正曲線を求め、その較正曲線を基に共重合体の重量平均分子量(Mw)を求める。
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の分子量は、重合に寄与するモノマーの種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤等の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0047】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の回転粘度[η]にも特に制限は無く、本発明の方法、キット等における使用形態や製造コスト等を考慮して適宜設定することができるが、25.0質量%水溶液の状態で、1.0~150.0mPa・s(25℃)であることが好ましく、1.5~30.0mPa・s(25℃)であることがより好ましく、2.0~20.0mPa・s(25℃)であることが特に好ましい。
回転粘度[η]は、当業界において慣用される方法により測定することができるが、例えば、AMETEK Brookfield製デジタルB型粘度計DV-3Tにより測定することができる。測定にあたっては、ULAアダプターを使用し、典型的には液量16mL、液温25℃で測定することができる。
回転粘度[η]も、重合時の希釈濃度、重合に寄与するモノマーの種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤等の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0048】
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の製造方法
ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の製造方法には特に制限はなく、従来当該技術分野において公知の方法で製造することができるが、例えば構成単位(A)に対応する構造のジアリルアミン系単量体、及び構成単位(A)に対応する通常は二酸化硫黄である単量体、並びに所望によりそれ以外の構成単位に対応する構造の単量体、を共重合することにより製造することができる。
【0049】
ジアリルアミン系単量体、及び二酸化硫黄等を共重合する場合の溶媒は特に限定されず、水系の溶媒であっても、アルコール、エーテル、スルホキシド、アミド等の有機系の溶媒であってもよいが、水系の溶媒であることが好ましい。
ジアリルアミン系単量体、及び二酸化硫黄等を共重合する場合の単量体濃度は単量体の種類により、また共重合を行う溶媒の種類により、異なるが、水系の溶媒の場合通常10~75質量%である。この共重合反応は、通常、ラジカル重合反応であり、ラジカル重合触媒の存在下に行なわれる。ラジカル重合触媒の種類は特に限定されるものでなく、その好ましい例として、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、アゾビス系、ジアゾ系などの水溶性アゾ化合物が挙げられる。
【0050】
ラジカル重合触媒の添加量は、一般的には全単量体に対して0.1~20モル%、好ましくは1.0~10モル%である。重合温度は一般的には0~100℃、好ましくは5~80℃であり、重合時間は一般的には1~150時間、好ましくは5~100時間である。重合雰囲気は、大気中でも重合性に大きな問題を生じないが、窒素などの不活性ガスの雰囲気で行なうこともできる。
【0051】
核酸増幅反応
本実施形態による方法では、クランプ核酸と、特定ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体とを用いて、試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行う。
【0052】
核酸増幅法としては、特に制限はないが、例えば、リアルタイムPCR法、デジタルPCR法、トラディショナルなPCR法、RT-PCR法等のPCR法、LAMP法、ICAN法、NASBA法、LCR法、SDA法、TRC法、TMA法を挙げることができる。核酸増幅法は、手法の汎用性・簡便性の観点から、PCR法が好ましく、核酸増幅物の定量が容易なことから、リアルタイムPCR法がより好ましい。
【0053】
核酸増幅用反応液の組成は、使用する核酸増幅法によって多少異なるが、通常は、上述したクランプ核酸、およびジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体に加え、プライマーセットと、基質としてのデオキシヌクレオシド三リン酸(例えば、dATP、dTTP、dCTPおよびdGTP:以下まとめてdNTPと称する)と、核酸合成酵素(例えば、DNAポリメラーゼ)とをバッファー中に含み、場合によっては、核酸合成酵素の補因子として、マグネシウムイオン(例えば、反応液中1~6mMの濃度で含む)を含んでもよい。
また、リアルタイムPCR法等の核酸増幅と増幅された核酸の検出を同時に行う核酸増幅法を用いる場合は、インターカレーター、蛍光標識プローブ、サイクリングプローブ等の適当な検出用試薬も核酸増幅用反応液中に含む。
【0054】
プライマーセットは、対象塩基配列を含む領域を核酸増幅法によって増幅可能であればよく、通常、増幅対象とする領域に隣接する所定の領域にハイブリダイズするように設計されるが、プライマーは対象塩基配列の一部にハイブリダイズする配列を含んでいてもよい。
プライマーは、DNA、RNA等の核酸よって構成することができる。プライマーの濃度は、通常、反応液中20nM~2μMの範囲で適切な濃度を選択すればよい。プライマーの長さは、通常5~40merであり、好ましくは12~35merであり、より好ましくは14~30merであり、さらに好ましくは15~25merである。プライマー間の距離、即ち増幅対象とする領域は通常50~5000塩基であり、好ましくは100~2000塩基である。プライマーの設計は、マニュアルで行ってもよいし、適当なプライマーデザイン用のソフトウェアを用いてもよい。このようなソフトとしては、例えば、Primer3ソフトウェア(http://frodo.wi.mit.edu)等が挙げられる。
【0055】
dNTPの濃度は、通常dATP、dTTP、dCTPおよびdGTPの反応液中のそれぞれの濃度が100~400μMの範囲となる濃度から選択すればよい。核酸合成酵素としては、例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等が挙げられ、用いる核酸増幅法に応じて、適する性質の酵素を使用すればよい。例えば、PCR法であれば、TaqDNAポリメラーゼ、PfuDNAポリメラーゼ、その他バイオサイエンス関連の各社により開発された各種耐熱性DNAポリメラーゼが好ましく使用される。
【0056】
バッファーは、使用するDNAポリメラーゼの至適pH、および至適塩濃度を有するものを選択することが好ましい。核酸増幅法によっては、更にリボヌクレアーゼH(RNaseH)や逆転写酵素(RT)等を含んでいてもよい。なお、各核酸増幅法について、様々なキットが市販されているので、核酸増幅用反応液は、そのような市販のキットに添付されたものを用いてもよい。
【0057】
核酸増幅反応の鋳型となる核酸、すなわち「試料中の核酸」の反応液中の濃度は、通常反応液100μlあたり0.3ng~3μgとすればよいが、鋳型となる核酸の量が多すぎると非特異的増幅の頻度が増すので、反応液100μlあたり0.5μg以下に抑えることが好ましい。
【0058】
反応液中のクランプ核酸の量としては、試料中の標準塩基配列を有する核酸(例えば、野生型核酸)の量に対する変異を有すると想定される対象塩基配列を有する核酸の量に応じて、対象塩基配列が変異を有する場合に、標準塩基配列を有する核酸の増幅が十分に阻害され、変異を有する対象塩基配列を含む核酸が優先的に増幅される量を選択することが好ましい。試料中では通常、変異型核酸に対して野生型核酸が大多数であるため、10nM~1μMとすることが好ましく、20nM~500nMがより好ましく、50nM~200nMが特に好ましい。
【0059】
反応液中のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の濃度は、核酸増幅反応に悪影響を及ぼさずに、クランプ核酸による核酸増幅反応の選択的阻害効果を増強し得るよう適切な濃度を選択することが好ましい。反応液中のジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の濃度は、重合体の種類によっても異なるが、この点から、通常、0.001~0.500質量%とすればよく、好ましくは、0.005~0.100質量%であり、より好ましくは、0.010~0.050質量%であり、特に好ましくは、0.020~0.030質量%である。
【0060】
上述したクランプ核酸と、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体とを用いて、試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行うと、クランプ核酸は標準塩基配列を有する核酸に強く結合し、増幅反応の間のプライマーのアニーリングおよび/またはプライマーの伸長を阻害し、共存するジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体はこの阻害効果を増強する。一方、クランプ核酸の結合力は標準塩基配列に対して変異を有する塩基配列に対しては大幅に低下するため、アニーリングおよびプライマーの伸長はほとんど阻害されず通常の核酸増幅反応を生じる。また、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体は、それ自体では核酸増幅反応を阻害しない。この結果、本実施形態の方法によれば、試料中の核酸中、変異を有する核酸が微量(例えば、0.1%以下または0.05%以下、特に0.02%以下の場合)で、標準塩基配列を有する核酸が支配的な場合であっても、標準塩基配列を有する核酸の増幅が選択的に阻害されて、変異を有する核酸が優先的に増幅されるため、ごく微量に含まれる変異を有する核酸の検出が可能となる。
【0061】
本実施形態の方法においては、上述した核酸増幅反応の特性を利用して変異の存在を検出する。すなわち、標準塩基配列を有する核酸の増幅が選択的に阻害される一方、対象塩基配列が標準塩基配列に対して変異を有する場合には、対象塩基配列を含む領域が優先的に増幅され、その結果、変異の有無により、核酸増幅反応の進行速度、反応産物の量等に差異を生じるため、これらを変異の検出に利用する。
本実施形態において、変異の検出は、増幅反応の最終産物に対して検出を行う方法と、増幅反応中に経時的に増幅を確認する方法があり、例えば、得られた核酸増幅産物の総量、前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数、前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量、又は前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて、変異を検出することができる。特に、実施の簡便さや適応範囲の広さの点で、核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて変異を検出する方法が好ましい。
また、ダイレクトシーケンス法等により増幅産物の塩基配列を確認することで、正確かつ高感度の検出ができる。ただし、後述する実施例で実証する通り、本発明の方法によれば、シーケンス決定に寄らずに、正確かつ高感度に変異の検出が可能である。
【0062】
核酸増幅産物の総量に基づいて変異を検出する方法としては、例えば、増幅反応後の溶液をフェノール・クロロホルム(1:1)溶液で除タンパク処理後、水層を直接、またはエタノール沈殿後に、適当な精製キットを用いて精製し、精製溶液の波長260nmの吸光度を、吸光光度計を用いて測定する方法;増幅産物を電気泳動によりアガロースゲル、またはポリアクリルアミドゲルで展開した後、適当なプローブを用いてサザンハイブリダイゼーション法によって検出する方法;金ナノ粒子を用いたクロマトハイブリダイゼーション法によって検出する方法;増幅した核酸による溶液の濁度を測定する方法;増幅プライマーの5’末端を予め蛍光標識しておき、増幅反応後にアガロースゲル、またはポリアクリルアミドゲルで電気泳動後、イメージングプレートに蛍光発光を取り込み、適当な検出装置を用いて検出する方法等が挙げられる。
【0063】
核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて変異を検出する方法としては、インターカレーター法、TaqManTMプローブ法、サイクリングプローブ法等のリアルタイムPCR法を挙げることができる。なお、前記閾値は、リアルタイムPCR装置(例えば、Step One Plus リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社製))によって、自動検出することが可能である。
【0064】
インターカレーター法は、インターカレーター性蛍光色素(インターカレーターということもある)を用いる方法である。インターカレーターは、二本鎖核酸の塩基対間に特異的に結合して蛍光を発する試薬であり、励起光を照射すると蛍光を発する。インターカレーターに由来する蛍光強度の検出に基づいて、プライマー伸長産物の量を知ることができる。本実施形態においては、この蛍光強度をリアルタイムにモニタリングすることにより、核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数を知ることができる。本実施形態においては、通常この分野で用いられる任意のインターカレーターを用いることができ、例えば、SYBRTM Green I(Molecular Probe社)、エチジウムブロマイド、フルオレン等が挙げられる。
【0065】
TaqManTMプローブ法は、一方の末端(通常、5’末端)を蛍光基(レポーター)で、他方の末端(通常、3’末端)を消光基で標識した、対象核酸の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブを用いたリアルタイムPCR法により、目的の微量な核酸を高感度かつ定量的に検出できる方法である。該プローブは、通常の状態では消光基によってレポーターの蛍光が阻害されている。この蛍光プローブを検出領域に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側からDNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。DNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブが加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。本実施形態においては、この蛍光強度をリアルタイムにモニタリングすることにより、核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数を知ることができる。
【0066】
サイクリングプローブ法は、RNAとDNAからなるキメラプローブとRNase Hの組み合わせによる高感度な検出方法である。該プローブは、RNA部分を挟んで一方が蛍光物質(リポーター)で、もう一方が蛍光を消光する物質(クエンチャー)で標識されている。このプローブは、インタクトな状態ではクエンチングにより蛍光を発しないが、配列が相補的な増幅産物とハイブリッドを形成した後にRNase HによりRNA部分が切断されると、強い蛍光を発するようになる。本実施形態においては、この蛍光強度を測定することにより核酸増幅産物の総量を知ることができ、蛍光強度をリアルタイムにモニタリングすることにより、核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数を知ることができる。
この方法は、サイクリングプローブのRNA付近にミスマッチが存在すると、RNase Hによる切断は起こらないため、一塩基の違いも認識できる非常に特異性の高い検出が可能である。サイクリングプローブについても、適当な業者に設計・合成を委託する等して取得することができる。
【0067】
核酸増幅産物中の塩基変異を有する核酸量に基づいて変異を検出する方法としては、サンガーシーケンシング法、融解曲線分析法等を挙げることができる。
【0068】
核酸増幅産物中の塩基変異を有する核酸量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて変異を検出する方法としては、塩基変異を有する核酸に特異的に結合するプローブを用いて、前記リアルタイムPCR法を適用することを挙げることができる。
【0069】
2.対象塩基配列中の変異を検出するためのキット
本発明は、他の実施形態において、上述した対象塩基配列中の変異を検出する方法を実施するためのキットを提供する。本実施形態によるキットは、
標準配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化23】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化24】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と、
場合によって、対象塩基配列を含む領域を核酸増幅法によって増幅可能なプライマーセットと、
場合によって、核酸増幅反応を実施するためのその他の試薬とを含む。
【0070】
クランプ核酸、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体、およびプライマーセットの詳細は、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。
【0071】
核酸増幅反応を実施するためのその他の試薬としては、ヌクレオシド三リン酸、核酸合成酵素、および増幅反応用緩衝液が挙げられる。ヌクレオシド三リン酸は、核酸合成酵素に応じた基質(dNTP、rNTP等)を含み得る。核酸合成酵素は、キットが対象とする核酸増幅法に応じた酵素であり、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等が挙げられる。増幅反応用の緩衝液としては、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等、通常の核酸増幅反応やハイブリダイゼーション反応を実施する場合に用いられる緩衝液が挙げられ、そのpHも特に限定されないが、通常5~9の範囲が好ましい。
【0072】
本実施形態によるキットはまた、上述した核酸増幅反応産物を検出するための試薬を含み得る。例えば、リアルタイムPCRのために用いられる、インターカレーター、蛍光標識プローブ、サイクリングプローブ等が挙げられる。
また、安定化剤、防腐剤等の、核酸増幅反応試薬で一般的に用いられる他の成分も含み得る。
【0073】
なお、プライマーセットおよび核酸増幅反応を実施するためのその他の試薬は、核酸増幅反応を実施するために必要であるが、キット中に含まれない場合もある。また、核酸増幅反応産物を検出するための試薬や、安定化剤、防腐剤等の他の成分は核酸増幅反応において任意成分であり、キット中に含まれない場合もある。
【0074】
3.核酸増幅反応において、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法
本発明は、更に他の実施形態において、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法を提供する。この方法では、
所定の対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは(I-b)
【化25】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化26】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と
を用いて、前記核酸を鋳型とした核酸増幅反応を実施する。
【0075】
この実施形態における方法では、「試料」は、増幅阻害対象と成る核酸を含み得ると想定される試料であり、「対象塩基配列」は、増幅阻害の対象となる塩基配列であり、「試料中の核酸」は、増幅阻害の対象となる塩基配列を含み得る核酸である。但し、これらの用語は、この方法に供される「試料中の核酸」が、実際に増幅阻害の対象となる塩基配列を含むことまでは意味しない。
また、この実施形態における「クランプ核酸」は、「対象塩基配列」に相補的な塩基配列を有し、このような「クランプ核酸」の存在により、当該「対象塩基配列」を有する核酸の増幅が阻害される。
【0076】
本実施形態においては、核酸増幅反応において、上記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体が、対象塩基配列に相補的な塩基配列を有するクランプ核酸と共存することにより、クランプ核酸の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する効果が増強され、試料中に当該対象塩基配列を有する核酸が大量に存在する場合でも当該核酸の増幅を選択的に阻害することができる。
【0077】
試料、および試料中の核酸のその他の点は、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。また、クランプ核酸、およびジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の詳細も、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。また、核酸増幅反応の実施および核酸増幅反応を実施するための試薬の詳細も、対象塩基配列中の変異を検出する方法およびキットで述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法およびキットと同様である。もっとも、本実施形態の方法では、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅阻害を検出することは必須では無く、この様な検出のために必要な工程および試薬は、必要に応じて実施若しくは使用する。
【0078】
4.核酸増幅反応において、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害するためのキット
本発明は、更に他の実施形態において、上述した、核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法を実施するためのキットを提供する。本実施形態によるキットは、
対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化27】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)、および
一般式(I-c)
【化28】

で表される構造を有する構成単位(B)を含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体と、
場合によって、対象塩基配列を含む領域を核酸増幅法によって増幅可能なプライマーセットと、
場合によって、核酸増幅反応を実施するためのその他の試薬とを含む。
【0079】
本実施形態における「試料」、「対象塩基配列」、「試料中の核酸」および「クランプ核酸」との用語の意義は、核酸増幅反応において対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法で述べたものと同様である。
また、試料、および試料中の核酸のその他の点は、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。また、クランプ核酸、およびジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体の詳細も、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。また、核酸増幅反応の実施および核酸増幅反応を実施するための試薬の詳細も、対象塩基配列中の変異を検出する方法およびキットで述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。
【0080】
5.クランプ核酸による核酸増幅阻害を増強する核酸増幅阻害増強剤
本発明は、更に他の実施形態において、核酸増幅反応において、クランプ核酸によるそれに相補的な塩基配列を有する核酸の増幅阻害効果を増強する核酸増幅阻害増強剤を提供する。
この増強剤は、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化29】

(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(A)と、
一般式(I-c)
【化30】

で表される構造を有する構成単位(B)とを含む、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体を含む。
この増強剤を用いて行う「核酸増幅」は、「前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸」を用いて行われるものであり、本実施形態における「試料」、「対象塩基配列」、「試料中の核酸」および「クランプ核酸」との用語の意義は、核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法で述べたものと同様である。
また、本実施形態による「核酸増幅阻害増強剤」は、上記ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体を含むが、これも対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。
【実施例
【0081】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
1.ポリマー添加によるPCR反応への影響
上記構成単位(A)および構成単位(B)を有するジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体(実施例)又は他の構成単位を有するポリマー(比較例)をPCR反応液中に添加して、PCR反応への影響を確認した。
1-1.使用したポリマー水溶液
以下の表に示されるポリマーを水に溶解し、pH7.0、10質量%のポリマー水溶液を調製した。なお、表中、製品名は全てニットーボーメディカル株式会社の製品名であり、重合体1~3の重合条件は以下の通りである。
重合体1:攪拌機、温度計、ガラス栓を備えた100mlの三口フラスコに希釈水19.32g(単量体濃度60質量%となる量)とジアリルエチルアミン塩酸塩水溶液0.25モルを仕込んだ。20℃以下の冷却下で二酸化硫黄0.25モルを仕込んだ後、28.5質量%の過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を、当該水溶液中の過硫酸アンモニウム量がモノマー全量に対して1.5質量%となる量だけ10分割して添加し、15~30℃で重合を行った。
重合体2:攪拌機、温度計、ガラス栓を備えた100mlの三口フラスコに希釈水4.29g(単量体濃度70質量%となる量)とジアリルプロピルアミン塩酸塩水溶液0.13モルと35質量%塩酸を0.27g仕込んだ。20℃以下の冷却下で二酸化硫黄0.13モルを仕込んだ後、28.5質量%の過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を過硫酸アンモニウム量がモノマー全量に対して1.5質量%となる量だけ10分割して添加し、15~30℃で重合を行った。
重合体3:撹拌機、温度計、冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに65.0%ジアリルジメチルアンモニウムクロリド248.74g(1.0モル)、無水マレイン酸49.03g(0.5モル)、蒸留水89.77g、二酸化硫黄を32.03g(0.5モル)仕込み、20℃まで冷却した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を過硫酸アンモニウム量がモノマー全量に対して1.5質量%となる量だけ9分割して添加した。内温を60℃に昇温させて、さらに前記過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を、過硫酸アンモニウム量がモノマー全量に対し5.0質量%となる量だけ5分割して添加し、72時間反応させた。
【表1】
【0083】
1-2.PCR反応液
下記の表に示す組成のPCR反応液を調製した。
【表2】
【0084】
1-3.プライマーおよび鋳型DNA
PCR反応で使用したフォワードプライマーおよびリバースプライマーの配列は下記表に示す通りである。
【表3】

各プライマーはKRAS遺伝子(塩基配列は、例えば、NCBI(DB名)で確認できる)をターゲットとして、Primer3(http://frodo.wi.mit.eduから入手)を使用して設計した。
鋳型DNAとして、以下の塩基配列(増幅対象配列)を含む、HCC70細胞から抽出したゲノムを使用した。
【化31】

なお、HCC70細胞ゲノム中、上記塩基配列を含み、これに隣接する塩基配列は以下の通りである。
【化32】
【0085】
1-4.リアルタイムPCRシステム
Step One Plus リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社製)を使用した。
【0086】
1-5.PCR反応
調製したPCR反応溶液20μLを、リアルタイムPCRシステムにセットし、下記表に記載のステップ(i)を行った後、ステップ(ii)~(iv)を40サイクル繰り返した。
【表4】

40サイクル終了後、ステップ(v)~(vii)を行い、反応を終了した。サイクル毎に反応液の蛍光強度を測定することで、DNA増幅量をモニターした。また、反応の終了後、蛍光強度がThreshold Lineに達しているか否かで、PCR反応の阻害の有無を判定した。Threshold Lineは、上記装置により自動算出した。一部、実験によりやむを得ず通常より低く設定されてしまう場合は、ほかの実験と同列に比較するため、手動にてΔRn値 0.7~1.2の間に設定した。
【0087】
1-5.結果
PCR反応の成否を下記の表に示す。
【表5】

また、PCR反応を阻害しない場合の核酸増幅曲線の例として実施例1のポリマー(ジアリルメチルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体)を添加した場合の核酸増幅曲線と、阻害する場合の核酸増幅曲線の例として、比較例1(ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体)を添加した場合の核酸増幅曲線をそれぞれ図1に示す。
【0088】
上記の通り、構造中に3級アミンを含むカチオン性構成単位と、二酸化硫黄の単量体から導かれる構成単位とを含むジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体である、実施例1~3のポリマーを添加した場合には、PCR反応は阻害されなかった。他方、2級アミンまたは4級アミンを含むカチオン性構成単位と、二酸化硫黄の単量体または二酸化硫黄およびマレイン酸から導かれる構成単位とを含む共重合体である、比較例1~3のポリマーを添加した場合には、PCR反応は阻害された。
【0089】
2.BNA clampによる野生型遺伝子の選択的な増幅阻害効果のポリマー若しくはモノマーによる増強
試験1でPCR反応を阻害しないことを確認した実施例1~3のポリマー及びその一部の構成単位が由来するモノマー(ジアリルメチルアミン塩酸塩)を、BNA clamp PCRにおける野生型KRAS遺伝子の増幅阻害効果の増強について評価した。
【0090】
2-1.使用したポリマー又はモノマー
本試験では、実施例1~3のポリマー及びジアリルメチルアミン塩酸塩(比較例4)を使用した。各ポリマー又はモノマーは水に溶解し、pH7.0、0.25質量%のポリマー水溶液又はモノマー水溶液を調製した。
【0091】
2-2.使用したキット
変異型KRAS遺伝子を検出するためのキットである、BNA Clamp KRAS Enrichment Kit(理研ジェネシス社)の付属物を使用した。詳細は、以下に記載するが、Primer set、及びBNA clampは、キット付属物を用いた。また、real-time PCRの反応条件はキットプロトコールに準拠した。
【0092】
2-3.プライマー、BNA clampおよび鋳型DNA
以下の表に示すフォワードプライマー、リバースプライマーおよびBNA clampを使用した。
【表6】

また、標準塩基配列を有する鋳型DNAとして、以下の塩基配列(増幅対象配列;後述する配列番号10の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)を含む、野生型KRAS遺伝子を有するHCC70細胞のゲノムを使用した。
【化33】

なお、HCC70細胞ゲノム中、上記塩基配列とそれに隣接する塩基配列は以下の通りである(後述する配列番号11の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)。
【化34】

他方、標準塩基配列に対する変異を有する鋳型DNAとして、以下の塩基配列(増幅対象配列;前述の配列番号8の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)を含む、変異型KRAS遺伝子を有するMDA-MB-231細胞のゲノムを使用した。
【化35】

なお、MDA-MB-231細胞ゲノム中、上記塩基配列およびそれに隣接する塩基配列は以下の通りである(前述の配列番号9の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)。
【化36】
【0093】
2-4.BNA clamp PCR反応液
下記の表に示す組成の反応液1~4を調製した。反応液1又は反応液2において、ポリマー又はモノマーの濃度は0.025質量%であった。
【表7】

【表8】

【表9】

【表10】
【0094】
2-5.リアルタイムPCRシステム
Step One Plus リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)を使用した。
【0095】
2-6.PCR反応
調製した各反応溶液20μLを、PCR用チューブに秤取し、PCR用チューブをリアルタイムPCRシステムにセットし、下記表に記載のステップ(i)を行った後、ステップ(ii)~(iv)を50サイクル繰り返した。50サイクル終了後、ステップ(v)~(vii)を行い、反応を終了した。サイクル毎に反応液の蛍光強度を測定することで、DNA増幅量をモニターし、各反応液の増殖曲線を得た。
【表11】
【0096】
2-7.ポリマー添加または無添加の場合のΔCt(WT)およびΔCt(Mutant)の算出、ポリマー添加または無添加の場合のΔΔCtの算出、ならびにΔΔΔCtの算出
反応液1(ポリマー添加、BNA clamp添加)、反応液2(ポリマー添加、BNA clamp無添加)、反応液3(ポリマー無添加、BNA clamp添加)、および反応液4(ポリマー無添加、BNA clamp無添加)を、鋳型DNAとして、野生型KRAS遺伝子又は変異型KRAS遺伝子を用いて、上記PCR反応を行って増幅曲線を得、各条件の増幅曲線から、設定したThreshold LineよりそれぞれのCt値を得た(ほとんどの実験区分において、Threshold Lineは、装置により自動算出した。一部、実験によりやむを得ず通常より低く設定されてしまう場合は、ほかの実験と同列に比較するため、手動にてΔRn値を0.7~1.2の間に設定した)。
【0097】
次いで、以下の式により、ポリマー無添加の場合のΔCt(WT)およびΔCt(Mutant)を算出した。
【数1】

【数2】
【0098】
更に、インターカレーター法における非特異的な増幅が無いことの確認のため、以下の式によりポリマー無添加の場合のΔΔCtを算出した。
【数3】

ポリマー無添加の場合のΔΔCt>0の場合、インターカレーター法における非特異的な増幅が無いことが理解される。
【0099】
次に、以下の式により、ポリマー添加の場合のΔCt(WT)およびΔCt(Mutant)を算出し、更に、インターカレーター法における非特異的な増幅が無いことの確認のため、ポリマー添加の場合のΔΔCtを算出した。
【数4】

【数5】

【数6】

ポリマー添加の場合のΔΔCt>0の場合、インターカレーター法における非特異的な増幅が無いことが理解される。
【0100】
最後に、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果のポリマー添加による増強を評価するための指標として、下記式によりΔΔΔCtを算出した。
【数7】

試験上起こり得る結果の揺らぎを考慮しても、インターカレーター法のような野生型遺伝子の増幅サイクル数を基準とした変異検出法を用いた場合において、ΔΔΔCt≧1.00であれば、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を十分に増強したと評価できる。また、インターカレーター法のような野生型遺伝子の増幅サイクル数を基準とした変異検出法を用いた場合において、ΔΔΔCt≧4.00であれば、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を著しく増強したと評価できる。さらに、インターカレーター法のような野生型遺伝子の増幅サイクル数を基準とした変異検出法を用いた場合において、ΔΔΔCt≧8.00であれば、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を極めて著しく増強したと評価できる。なお、ΔΔΔCt=3.20が、感度が約10倍向上する目安となる。
【0101】
2-8.結果
試験結果を以下に纏めて示す。
【表12】

上記の試験結果から、実施例1乃至3のポリマーを添加すると、変異型遺伝子の増幅は阻害せずに、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を増強することが明らかとなった。
一方で、比較例4のモノマーでもBNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を増強したものの、実施例1~3のポリマーほど十分な阻害増強効果は認められなかった。
また、モノマーを添加した場合、誤差(結果のばらつき)が大きく、効果が安定しないことが分かった。この誤差(結果のばらつき)については、モノマーは熱、光などによりラジカルを生じ得ることから、そのラジカル重合による可能性が考えられる。この試験により、再現性よくBNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果をより大きく増強することができる点で、モノマーよりもポリマー構造の方が有利であることが分かった。
【0102】
3.ポリマー添加によるBNA clamp PCRの高感度化
上記試験でBNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を増強する効果が確認された実施例1のポリマーを用いて、BNA clamp PCRの高感度化を試みた。
【0103】
3-1.使用ポリマー
実施例1のポリマーを水で溶解して、pH7.0、10質量%のポリマー水溶液を調製した。得られた10質量%のポリマー水溶液を更に水で希釈し、0.1質量%のポリマー水溶液を調製し、これを反応液の調製に使用した。
【0104】
3-2.使用したキット
試験2と同じキットの付属物を使用した。
【0105】
3-3.鋳型DNA
標準塩基配列を有する鋳型DNAとして、配列番号8の塩基配列を含む、野生型KRAS遺伝子を有するHCC70細胞のゲノムを使用した。また、標準塩基配列に対する変異を有する鋳型DNAとして、配列番号10の塩基配列を含む、変異型KRAS遺伝子を有するMDA-MB-231細胞のゲノムを使用した。
本試験では、鋳型DNA全体の量が、2.0μL中に50ngとなるようにしながら、全鋳型DNA中の変異型遺伝子の鋳型DNAの質量%が、以下の表となるように、野生型遺伝子の鋳型DNAと変異型遺伝子の鋳型DNAを混合し、得られた各鋳型DNA混合物と、野生型遺伝子の鋳型DNAをPCR反応に使用した。
【表13】
【0106】
3-4.プライマー、およびBNA clamp
試験2と同じプライマー、およびBNA clampを使用した。
【0107】
3-5.BNA clamp PCR反応液
下記の表に示す組成の反応液1および2を調製した。なお、反応液1において、ポリマー濃度は0.01質量%であった。
【表14】

【表15】
【0108】
3-6.リアルタイムPCRシステムおよびPCR反応
試験2と同じリアルタイムPCRシステムを使用して、試験2と同じ条件でPCR反応を実施した。
【0109】
3-7.ポリマー添加または無添加の場合のδCt(Mutant10%~0.01%)の決定、ならびにポリマー添加または無添加の場合のδδCt(Mutant10%~0.01%)の算出
反応液1(ポリマー添加、BNA clamp添加)、および反応液2(ポリマー無添加、BNA clamp添加)を、鋳型DNAまたは各鋳型DNA混合物を用いて、上記PCR反応に供して増幅曲線を得、各条件の増幅曲線から、試験2と同様にして、Ct(Mutant10%~0%)を決定し、以下の表に示すように、Ct(Mutant0%、WT)から各変異型遺伝子テンプレート濃度のCt(Mutant10%~0.01%)を引いて、ポリマー添加または無添加の場合の各δCt(Mutant10%~0.01%)を算出した。
【表16】

【表17】

最後に、それぞれ、ポリマー添加の場合のδCt(Mutant10%~0.01%)からポリマー無添加の場合のδCt(Mutant10%~0.01%)を引いて、δδCt(Mutant10%~0.01%)を算出した。
δδCt>0の場合、ポリマーを添加することで、変異型遺伝子が特異的に検出され、変異型遺伝子の増幅曲線が野生型遺伝子の増幅曲線から区別されていることを意味する(参考文献:特許文献11)。
【0110】
3-8.結果
試験結果を以下の表および図2に纏めて示す。
【表18】
【0111】
本試験の結果、ポリマー無添加の場合では、Mutant比率が0.01質量%で、δCtが0未満となり、変異型遺伝子の増幅曲線を野生型遺伝子の増幅曲線から区別できないが、実施例1のポリマーを添加した場合では、0.01%のMutant比率でも変異型遺伝子の増幅曲線を野生型遺伝子の増幅曲線から区別できることが明らかとなった。なお、本実験においては、BNA clamp無添加反応液について試験していないものの、試験2の結果から、BNA clamp無添加反応液においてもポリマー添加の有無に関わらず、非特異的な増幅が無いことは明らかである。
【0112】
4.KRAS以外の変異型遺伝子への適応可能性1(BNA clampによる野生型遺伝子の選択的な増幅阻害効果のポリマーによる増強)
4-1.使用したポリマー
実施例1のポリマーを水に溶解し、0.1質量%のポリマー溶液を調製し、これを反応液の調製に使用した。
【0113】
4-2.使用したキット
変異型BRAF遺伝子を検出するためのキットである、BNA Clamp BRAF Enrichment Kit(理研ジェネシス社)を使用した。Primer set及び、BNA clampは、キット付属物を用いた。また、real-time PCRの反応条件はキットプロトコールに準拠した。
【0114】
4-3.鋳型DNA
標準塩基配列を有する鋳型DNAとして、以下の塩基配列(後述する配列番号13の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)を含む、野生型BRAF遺伝子を有するHCC70細胞のゲノムを使用した。
【化37】

なお、上記配列は、増幅対象配列以外の塩基配列を含むと理解されることに留意すべきである。
他方、標準塩基配列に対する変異を有する鋳型DNAとして、以下の塩基配列(前述の配列番号12の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)を含む、変異型BRAF遺伝子を有するDU4475細胞のゲノムを使用した。
【化38】

なお、上記配列は、増幅対象配列以外の塩基配列を含むと理解されることに留意すべきである。
【0115】
4-4.BNA clamp PCR反応液
下記の表に示す組成の反応液1~4を調製した。なお、反応液1および2中のポリマー濃度は0.01質量%となった。
【表19】

【表20】

【表21】

【表22】
【0116】
4-5.リアルタイムPCRシステムおよびPCR反応
試験2と同じシステムを用い、試験2と同様にしてPCR反応を実施した。
4-6.ポリマー添加または無添加の場合のΔCt(WT)およびΔCt(Mutant)の算出、ポリマー添加または無添加の場合のΔΔCtの算出、ならびにΔΔΔCtの算出
試験2と同様に実施した。
【0117】
4-7.結果
試験結果を以下に纏めて示す。
【表23】
【0118】
上記の通り、実施例1のポリマーの添加により、KRAS遺伝子と同様にBNA clampによる野生型BRAF遺伝子の選択的増幅阻害効果が著しく増強された。
【0119】
5.KRAS以外の変異型遺伝子への適応可能性2(ポリマー添加によるBNA clamp PCRの高感度化)
5-1.使用したポリマー
実施例1のポリマーを水に溶解し、0.1質量%のポリマー溶液を調製し、これを反応液の調製に使用した。
5-2.使用したキット
試験4と同じキットを使用した。
【0120】
5-3.鋳型DNA
試験4と同じ鋳型DNAを使用した。
本試験では、鋳型DNA全体の量が、2.0μL中に50ngとなるようにしながら、全鋳型DNA中の変異型遺伝子の鋳型DNAの質量%が、以下の表となるように、野生型遺伝子の鋳型DNAと変異型遺伝子の鋳型DNAを混合し、得られた各鋳型DNA混合物と、野生型遺伝子の鋳型DNAをPCR反応に使用した。
【表24】

5-4.プライマーおよびBNA clamp
試験4と同じプライマーおよびBNA clampを使用した。
【0121】
5-5.BNA clamp PCR反応液
下記の表に示す組成の反応液1~4を調製した。なお、反応液1中のポリマー濃度は0.01質量%となった。
【表25】

【表26】
【0122】
5-6.リアルタイムPCRシステムおよびPCR反応
試験2と同じ装置を用い、試験2と同様にしてPCR反応を実施した。
5-7.ポリマー添加または無添加の場合のδCt(Mutant10%~0.01%)の決定、ならびにポリマー添加または無添加の場合のδδCt(Mutant10%~0.01%)の算出
試験3と同様に実施した。
【0123】
5-8.結果
試験結果を以下の表および図3に纏めて示す。
【表27】
【0124】
本試験の結果、ポリマー無添加の場合では、Mutant比率が0.01%で、δCtが0未満となり、変異型遺伝子の増幅曲線を野生型遺伝子の増幅曲線から区別できないが、実施例1のポリマーを添加した場合では、0.01%のMutant比率でも変異型遺伝子の増幅曲線を野生型遺伝子の増幅曲線から区別できることが明らかとなった。
図1
図2
図3
【配列表】
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