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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】水洗大便器装置
(51)【国際特許分類】
   E03D 5/10 20060101AFI20240118BHJP
   E03D 5/01 20060101ALI20240118BHJP
   E03D 11/08 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
E03D5/10
E03D5/01
E03D11/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020033006
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134604
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(72)【発明者】
【氏名】桃枝 理彰
(72)【発明者】
【氏名】頭島 周
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 泰三
(72)【発明者】
【氏名】両角 和美
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-211780(JP,A)
【文献】特開2008-214905(JP,A)
【文献】特開2006-057567(JP,A)
【文献】特開2008-190401(JP,A)
【文献】特開2009-084786(JP,A)
【文献】特開2014-167245(JP,A)
【文献】特開2019-086004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00-7/00;11/00-13/00
F04D 15/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水によって洗浄される水洗大便器装置であって、
便器本体と、
洗浄水を貯水する洗浄水タンクと、
前記洗浄水タンク内に貯水された洗浄水を前記便器本体に供給するポンプ装置と、
前記ポンプ装置の駆動を制御する駆動制御装置と、
前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定する電流検知手段と、
を備え、
前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置を、所定の回転数となる第1目標電流値に基づいて駆動し、その後、前記第1目標電流値より小さい第2目標電流値に基づいて駆動するようになっており、
前記電流検知手段は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に、前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定するようになっており、
前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に前記電流検知手段によって測定される前記電流値と、判定用の閾値と、を比較することによって、前記洗浄水タンク内の水の有無を判定するようになっており、
前記判定用の閾値は、当該水洗大便器装置において実施された洗浄動作の回数に応じて、更新されるようになっている
ことを特徴とする水洗大便器装置。
【請求項2】
洗浄水によって洗浄される水洗大便器装置であって、
便器本体と、
洗浄水を貯水する洗浄水タンクと、
前記洗浄水タンク内に貯水された洗浄水を前記便器本体に供給するポンプ装置と、
前記ポンプ装置の駆動を制御する駆動制御装置と、
前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定する電流検知手段と、
を備え、
前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置を、所定の回転数となる第1目標電流値に基づいて駆動し、その後、前記第1目標電流値より小さい第2目標電流値に基づいて駆動するようになっており、
前記電流検知手段は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に、前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定するようになっており、
前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に前記電流検知手段によって測定される前記電流値と、判定用の閾値と、を比較することによって、前記洗浄水タンク内の水の有無を判定するようになっており、
前記判定用の閾値は、当該水洗大便器装置の設置後の経過時間に応じて、更新されるようになっている
ことを特徴とする水洗大便器装置。
【請求項3】
前記便器本体は、リム吐水を行うリム吐水口を有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水洗大便器装置。
【請求項4】
前記第2目標電流値は、定格運転時の目標電流値に対応している
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水洗大便器装置。
【請求項5】
前記判定用の閾値は、前記洗浄水タンク内の水が無い状態で前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて実際に駆動された間に前記電流検知手段によって測定された前記ポンプ装置において実際に流れた電流値に基づいて、予め設定されている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水洗大便器装置。
【請求項6】
前記洗浄水タンク内に水がないという判定がなされた場合、その旨を報知する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の水洗大便器装置。
【請求項7】
前記洗浄水タンク内に水がないという判定が所定回数続いた場合、便器洗浄動作の受付が禁止される
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の水洗大便器装置。
【請求項8】
前記洗浄水タンク内に水がないという判定が所定回数続いた場合、前記洗浄水タンクへの給水が自動的に実施される
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の水洗大便器装置。
【請求項9】
洗浄水によって洗浄される水洗大便器装置であって、
便器本体と、
洗浄水を貯水する洗浄水タンクと、
前記洗浄水タンク内に貯水された洗浄水を前記便器本体に供給するポンプ装置と、
前記ポンプ装置の駆動を制御する駆動制御装置と、
前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定する電流検知手段と、
を備え、
前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置を、所定の回転数となる第1目標電流値に基づいて駆動し、その後、前記第1目標電流値より小さい第2目標電流値に基づいて駆動するようになっており、
前記電流検知手段は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に、前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定するようになっており、
前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に前記電流検知手段によって測定される前記電流値に基づいて、前記洗浄水タンク内の水の有無を判定するようになっており、
前記洗浄水タンク内に水がないという判定が所定回数続いた場合、便器洗浄動作の受付が禁止される
ことを特徴とする水洗大便器装置。
【請求項10】
洗浄水によって洗浄される水洗大便器装置であって、
便器本体と、
洗浄水を貯水する洗浄水タンクと、
前記洗浄水タンク内に貯水された洗浄水を前記便器本体に供給するポンプ装置と、
前記ポンプ装置の駆動を制御する駆動制御装置と、
前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定する電流検知手段と、
を備え、
前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置を、所定の回転数となる第1目標電流値に基づいて駆動し、その後、前記第1目標電流値より小さい第2目標電流値に基づいて駆動するようになっており、
前記電流検知手段は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に、前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定するようになっており、
前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に前記電流検知手段によって測定される前記電流値に基づいて、前記洗浄水タンク内の水の有無を判定するようになっており、
前記洗浄水タンク内に水がないという判定が所定回数続いた場合、前記洗浄水タンクへの給水が自動的に実施される
ことを特徴とする水洗大便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器装置に係り、特に、洗浄水タンク内に貯水された洗浄水をポンプ装置によって便器本体に供給する水洗大便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、洗浄水によって洗浄される水洗大便器装置であって、便器本体と、洗浄水を貯水する洗浄水タンクと、洗浄水タンク内に貯水された洗浄水を便器本体に供給するポンプ装置と、ポンプ装置を制御する制御装置と、を備えた水洗大便器装置は広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、そのような水洗大便器装置の一例が開示されている。ポンプ装置としては、モータ内蔵式のポンプ装置が用いられることが一般的である。
【0004】
また、ポンプ装置の駆動開始時にポンプ装置において実際に流れる電流値を用いて洗浄水タンクの水の有無を判定することも、実用化されている。ポンプ装置のモータにおいて実際に流れる電流値と、ポンプ装置を通過する(ポンプ装置によって供給される)水の量と、の間に相関関係があることは、例えば特許文献2に説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-163614号公報
【文献】特開2001-342989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件発明者は、所定の短時間に亘ってポンプ装置の駆動開始時の目標電流値を高めることにより、当該高められた目標電流値に基づく駆動開始時に電流検知手段によって測定される電流値も高められるため、当該電流値に基づく洗浄水タンク内の水の有無の判定精度が高められることを知見した。
【0007】
本発明は、以上のような背景に基づいて創案されたものである。本発明の目的は、洗浄水を供給するポンプ装置において、洗浄水タンクの水の有無をより高い精度で判定できる水洗大便器装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、洗浄水によって洗浄される水洗大便器装置であって、便器本体と、洗浄水を貯水する洗浄水タンクと、前記洗浄水タンク内に貯水された洗浄水を前記便器本体に供給するポンプ装置と、前記ポンプ装置の駆動を制御する駆動制御装置と、前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定する電流検知手段と、を備え、 前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置を、所定の回転数となる第1目標電流値に基づいて駆動し、その後、前記第1目標電流値より小さい第2目標電流値に基づいて駆動するようになっており、前記電流検知手段は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に、前記ポンプ装置において実際に流れる電流値を測定するようになっており、前記駆動制御装置は、前記ポンプ装置が前記第1目標電流値に基づいて駆動される間に前記電流検知手段によって測定される前記電流値に基づいて、前記洗浄水タンク内の水の有無を判定するようになっていることを特徴とする水洗大便器装置である。
【0009】
本発明によれば、所定の回転数に対応した比較的大きい第1目標電流値に基づいてポンプ装置を駆動する段階を設けたことにより、当該比較的大きい第1目標電流値に基づく駆動開始時に電流検知手段によって測定される電流値に基づいて洗浄水タンク内の水の有無が判定される際、有効な判定精度を保証することができる。
【0010】
ポンプ装置が第1目標電流値で運転する時間は、概ね1秒未満、例えば約0.3秒間である。この時間は、第1目標電流値に基づく駆動開始時に電流検知手段によって測定される電流値を判別(取得)するのに十分な時間である一方、洗浄水タンク内に水がない空転運転がなされてもポンプ装置に大きな悪影響が生じない程度の時間である必要がある。
【0011】
また、例えば、第1目標電流値は、所定の回転数に対応した電流値として設定される。この所定の回転数は、例えは3500rpmから5000rpm程度に設定され、定格回転数(例えば2000rpm程度)よりも大きく設定される。
【0012】
更に、ジェット吐水を行うジェット吐水口が設けられている場合には、第1目標電流値に基づくポンプ装置の駆動によって洗浄水が直ちにジェット吐水口からジェット吐水され、不所望のタイミングでサイホン作用が発生してしまうおそれがある。前記所定の短時間は、そのようなサイホン作用が発生しない程度の時間である必要がある。
【0013】
もっとも、いわゆるリム吐水タイプの水洗大便器装置、すなわち、リム吐水を行うリム吐水口を有しているがジェット吐水を行うジェット吐水口を有していない水洗大便器装置においては、前述のサイホン作用に関する検討の必要から開放される。
【0014】
また、例えば、第2目標電流値は、定格運転時の目標電流値に対応する。この場合、2段階の目標電流値が用いられることになる。
【0015】
また、駆動制御装置は、ポンプ装置が第1目標電流値に基づいて駆動される間に電流検知手段によって測定される電流値と、判定用の閾値と、を比較することによって、洗浄水タンク内の水の有無を判定するようになっていることが好ましい。
【0016】
これによれば、判定方法が簡単であるため、迅速な判定処理が容易である。
【0017】
この場合、判定用の閾値は、洗浄水タンク内の水がある状態、または、洗浄水タンク内の水が無い状態でポンプ装置が第1目標電流値に基づいて実際に駆動された間に電流検知手段によって測定された、ポンプ装置において実際に流れた電流値に基づいて、予め設定されることが好ましい。
【0018】
これによれば、個々のポンプ装置において特性上のバラツキが存在していても、対象のポンプ装置毎に適切な閾値を設定することができ、結果的に洗浄水タンク内の水の有無をより高精度に判定することができる。
【0019】
ここで、洗浄水タンク内の水が無い状態でポンプ装置が駆動される間にポンプ装置において実際に流れる電流値というのは、主として、モータの内部のメカニカルシールの摺動抵抗に基づくと考えられる。そして、モータの内部のメカニカルシールの摺動抵抗は、モータが駆動される度に(すなわち洗浄動作がなされる度に)僅かずつ減少していくと考えられる。判定用の閾値は、この現象を考慮に入れて更新されることが好ましい。すなわち、判定用の閾値は、当該水洗大便器装置において実施された洗浄動作の回数に応じて更新されるようになっていることが好ましい。あるいは、当該水洗大便器装置の設置後の経過時間が概ね洗浄動作の回数に比例すると仮定すると、判定用の閾値は、当該水洗大便器装置の設置後の経過時間に応じて更新されるようになっていることが好ましい。
【0020】
また、前記洗浄水タンク内に水がないという判定がなされた場合、その旨を報知するようになっていることが好ましい。
【0021】
これによれば、洗浄水タンク内に水がないという状態を、使用者に適切に知らせることができる。
【0022】
また、前記洗浄水タンク内に水がないという判定が所定回数続いた場合、便器洗浄動作の受付(操作受付)が禁止されるようになっていることが好ましい。
【0023】
これによれば、所定回数を超えてのポンプ装置の空転運転を回避することができ、ポンプ装置に不所望の不具合が生じることを効果的に抑制することができる。
【0024】
また、前記洗浄水タンク内に水がないという判定が所定回数続いた場合、前記洗浄水タンクへの給水が自動的に実施されるようになっていることが好ましい。
【0025】
これによれば、洗浄水タンク内に水がないという状態を自動的に解消することができ、ポンプ装置における空転運転の発生を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、所定の短時間に亘って比較的大きい第1目標電流値に基づいてポンプ装置を駆動する段階を設けたことにより、当該比較的大きい第1目標電流値に基づく駆動開始時に電流検知手段によって測定される電流値に基づいて洗浄水タンク内の水の有無が判定される際、有効な判定精度を保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態による水洗大便器装置の構成概略図である。
図2図1の洗浄水タンクの平面図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4図1の駆動制御部を含む回路構成の概略図である。
図5】ポンプ装置の駆動制御時のタイムチャートの例である。
図6】本実施形態の水洗大便器装置を設置する際の、閾値設定の動作フローを示す図である。
図7】本実施形態の水洗大便器装置の洗浄動作時のフローを示す図である。
図8】閾値の更新の根拠となる現象を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、添付図面を参照して、本発明の一実施形態による水洗大便器装置を説明する。
【0029】
(構成)
図1は、本発明の一実施形態による水洗大便器装置1の構成概略図であり、図2は、図1の洗浄水タンク20の平面図であり、図3は、図2のIII-III線断面図である。
【0030】
図1に示すように、本発明の一実施形態による水洗大便器装置1は、洗浄水によって洗浄される水洗大便器装置であり、便器本体2と、便器本体2の後方に配置された洗浄水タンク20、を備えている。
【0031】
便器本体2は、一般に、陶器製である。便器本体2は、汚物を受けるボウル部12と、ボウル部12の底部から延びる排水トラップ管路14と、ジェット吐水を行うジェット吐水口16と、リム吐水を行うリム吐水口18と、を有している。
【0032】
ジェット吐水口16は、ボウル部12の底部に形成されており、排水トラップ管路14の入口に指向してほぼ水平に配置され、洗浄水を排水トラップ管路14に向けて吐出するようになっている。
【0033】
リム吐水口18は、ボウル部12の左側上部後方に形成されており、ボウル部12の上縁に沿って洗浄水を吐出するようになっている。
【0034】
排水トラップ管路14は、入口部14aと、入口部14aから上昇するトラップ上昇管14bと、トラップ上昇管14bから下降するトラップ下降管14cと、を有している。トラップ上昇管14bとトラップ下降管14cとの間が、頂部14dとなっており、排水トラップ管路14のトラップ下降管14cの下端に、排水管8が接続されている。
【0035】
また、本実施形態の水洗大便器装置1は、水道に直結された給水装置4を備えている。給水装置4は、水道から洗浄水が供給される給水路24を有している。給水路24には、上流側から、止水栓26、ストレーナ28、分岐金具30、定流量弁32、及び、ダイヤフラム式の電磁開閉弁34が、順に設けられている。
【0036】
ダイヤフラム式の電磁開閉弁34の下流側には、洗浄水タンク20に洗浄水を供給するためのタンク側給水路40が接続されている。
【0037】
本実施形態の水洗大便器装置1においては、リム吐水に関しても、ジェット吐水に関しても、洗浄水タンク20に貯水された洗浄水がポンプ装置22によって加圧されつつ給水がなされる。
【0038】
タンク側給水路40には、逆止弁であるバキュームブレーカ42が設けられている。タンク側給水路40と洗浄水タンク20との接続部には、ボール式逆止弁43が設けられている。戻り管路50と洗浄水タンク20との接続部にも、ボール式逆止弁44が設けられている。
【0039】
また、本実施形態の水洗大便器装置1は、洗浄水タンク20内に貯水された洗浄水(具体的には洗浄水タンク20内の通水管45の取水口部45aから取り入れられる洗浄水)を便器本体2に供給するポンプ装置22を更に備えている。
【0040】
本実施形態のポンプ装置22は、モータ内蔵式のポンプ装置である。そして、本実施形態の水洗大便器装置1は、ポンプ装置22のモータ86の駆動を制御すると共にポンプ装置22のモータ86の電流値を測定できる駆動制御部85を更に備えている(駆動制御部85が、モータ86において実際に流れる電流値を測定する電流検知手段を兼ねている)。
【0041】
洗浄水タンク20は、その下部が便器本体2の後方上部に取付けられている。洗浄水タンク20は、便器本体2に取り付けられた状態で、自身の高さが比較的低く形成されている(ローシルエットタンクである)。洗浄水タンク20のタンク容量は、1.0L~6.0Lの範囲内に設定されている。
【0042】
ポンプ装置22は、洗浄水タンク20の側部から中に入ってその下部まで延びる通水管45と接続されている。また、ポンプ装置22は、リム吐水口18まで延びるリム側給水路38及びジェット吐水口16まで延びるジェット側給水路46と接続されている。これにより、ポンプ装置22は、洗浄水タンク20に貯水された洗浄水を吸引し、加圧して、リム吐水口18及びジェット吐水口16へ供給するようになっている。通水管45は、洗浄水タンク20の内部を通る態様に限定されず、洗浄水タンク20の外部から洗浄水タンク20の下部に設けられる取水口部45aに接続されてもよい。
【0043】
洗浄水タンク20とリム側給水路38及びジェット側給水路46との間には、オーバーフロー流路70が設けられている。オーバーフロー流路70の上端70aは、洗浄水タンク20内に開口しており、その下端70bは、リム側給水路38及びジェット側給水路46の分岐部の上流側に接続されている。オーバーフロー流路70には、逆止弁であるフラッパー弁72が取り付けられている。
【0044】
次に、図4は、駆動制御部85を含む回路構成の概略図である。図4に示すように、AC商用電源81に、整流部82を介して、1次側回路部83が接続されている。1次側回路部83は、100Vで駆動する回路である。
【0045】
1次側回路部83は、トランスを介して、2次側回路部87に接続されている。2次側回路部87は、24Vで駆動する回路である。ポンプ装置22のモータ86を駆動する駆動制御部85は、例えばFET回路であり、2次側回路部87の内部に設けられている。また、ポンプ装置22の各種部品を制御する制御部84も、2次側回路部87の内部に設けられている。
【0046】
制御部84と駆動制御部85とは、信号の送受信が可能となっている。具体的には、制御部84から駆動制御部85へ目標電流値や目標回転数の信号が伝達され、駆動制御部85から制御部84へフィードバック信号(実際のモータ電流値やモータ回転数)が伝達されるようになっている。
【0047】
本実施形態の駆動制御部85は、定格運転時の目標回転数に対応する電流値を第2目標電流値とし、当該目標回転数の165%の回転数に対応する電流値を第1目標電流値とし、これら目標電流値に基づいた駆動電圧を制御部84から受信すると、ポンプ装置22を、先ず第1目標電流値に基づいて駆動し、その後、第2目標電流値に基づいて駆動するようになっている。
【0048】
また、本実施形態の駆動制御部85は、電流検知手段として、ポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて駆動される間にポンプ装置22において実際に流れる電流値を測定するようになっており、測定された当該電流値に基づいて洗浄水タンク20内の水の有無を判定するようになっている
【0049】
具体的には、本実施形態の駆動制御部85は、ポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて駆動される間に測定される電流値と、判定用の閾値と、を比較することによって、洗浄水タンク20内の水の有無を判定するようになっている。
【0050】
本実施形態では、判定用の閾値(図5に破線で示す)は、洗浄水タンク20内の水が無い状態でポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて実際に駆動された際に、ポンプ装置22において実際に流れた電流値として測定された値(図5に一点鎖線で示す)に基づいて、予め設定されている。なお、詳細は省略するが、水がある状態を基準として閾値を設定することも好ましい。水がある場合には、図5に記載の一点鎖線よりも上方に位置することとなる。
【0051】
なお、本実施形態では、所定の短時間は、約0.3秒間となっている。この時間は、第1目標電流値に基づく駆動開始時に測定される電流値を判別(取得)するのに十分な時間である一方、洗浄水タンク20内に水がない空転運転がなされてもポンプ装置22に大きな悪影響が生じない程度の時間となっている。
【0052】
更に、本実施形態では、第1目標電流値に基づくポンプ装置22の駆動時間(所定の短時間)が長いと、洗浄水が直ちにジェット吐水口16からジェット吐水され、不所望のタイミングでサイホン作用が発生してしまうおそれがある。従って、所定の短時間は、そのようなサイホン作用が発生しない程度の時間となっている。
【0053】
一方、制御部84は、電磁開閉弁34等と電気的に接続されており、電気信号を相互に送受信して、これらを電気的に制御(操作)できるようになっている。例えば、制御部84は、電磁開閉弁34の開閉操作等を制御する機能を有する。
【0054】
(閾値の設定)
本実施形態の水洗大便器装置1は、設置時(施工時)において、洗浄水タンク20内の水の有無判定の閾値が設定される。
【0055】
図6は、本実施形態の水洗大便器装置1を設置する際の、閾値設定の動作フローを示す図である。
【0056】
閾値設定プログラムが開始されると(STEP01)、洗浄水タンク20内への給水が開始され、洗浄水タンク20が満水状態とされる(STEP02)。
【0057】
続いて、便器洗浄動作が自動実施され、すなわち、ポンプ装置22が自動駆動され、所定量の洗浄水が便器本体2に供給される(STEP03)。この時、駆動制御部85が、ポンプ装置22を、所定の短時間に亘って第1目標電流値に基づいて自動駆動し、その後、第2目標電流値に基づいて自動駆動する。そして、駆動制御部85は、電流検知手段として、ポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて駆動される間にポンプ装置22において実際に流れる電流値を測定する(STEP04)。
【0058】
続いて、便器洗浄動作が繰り返し自動実施され、洗浄水タンク20内が空の状態とされる。このような水なしの状態で、更に、駆動制御部85が、ポンプ装置22を、所定の短時間に亘って第1目標電流値に基づいて自動駆動する。そして、駆動制御部85は、電流検知手段として、ポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて駆動される間にポンプ装置22において実際に流れる電流値を測定する(STEP05)。
【0059】
駆動制御部85は、水あり時の電流値(STEP04による検出値)と水なし時の電流値(STEP05による検出値)とに基づいて、例えばそれらの中間値を閾値として設定する。
【0060】
なお、STEP04とSTEP05は、何れか一方のみを実施してもよい。具体的には、STEP04のみ実施する場合には、水あり時の電流値から所定値だけ低い値を閾値として設定することができる。また、STEP05のみ実施する場合には、水なし時の電流値から所定値だけ高い値を閾値として設定することができる。
【0061】
(作用)
次に、以上のような構成からなる本実施形態の水洗大便器装置1の作用について説明する。
【0062】
図7は、本実施形態の水洗大便器装置1の洗浄動作時のフローを示す図である。図3に示すように、待機状態においては、洗浄水タンク20内の水位は止水水位WL0(待機水位)となっている。便器本体2の洗浄動作時においては、制御部84からの制御指令を受けて、駆動制御部85がポンプ装置22のモータ86の駆動を開始させる(STEP11)。
【0063】
具体的には、駆動制御部85は、定格運転時(モータ86の回転数2300rpmに相当)の目標電流値を制御部84から受信し、当該目標電流値を第2目標電流値とし、その165%の電流値を第1目標電流値とし(モータ86の回転数3800rpmに相当)、ポンプ装置22を、先ず所定の短時間に亘って第1目標電流値に基づいて駆動し(第1目標電流値に対応する駆動電圧を供給する)、その後、第2目標電流値に基づいて駆動する(第2目標電流値に対応する駆動電圧を提供する)。この時のタイムチャートが、図5に示されている。
【0064】
駆動制御部85は、ポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて駆動される間にポンプ装置22において実際に流れる電流値を測定し、測定された当該電流値に基づいて洗浄水タンク20内の水の有無を判定する。
【0065】
具体的には、駆動制御部85は、ポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて駆動される間に測定される電流値と、判定用の閾値(図5に破線で示す)と、を比較することによって、洗浄水タンク20内の水の有無を判定する(STEP12)。
【0066】
洗浄水タンク20内に水があると判定された場合には、所定量の洗浄水が便器本体2に供給されるようにポンプ装置22のモータ86の駆動が継続される。ポンプ装置22は、図3において矢印F0に示すように、洗浄水タンク20に貯水された洗浄水を吸引して便器本体2に供給する。そして、後述するように必要な場合には閾値の更新がなされ(STEP13)、便器洗浄動作は完了する(STEP14)。
【0067】
洗浄水タンク20内に水がないと判定された場合には、モータ86のメカニカルシールの劣化を防ぐべく、直ちにモータ86の駆動が停止され、その旨がアラーム報知される(STEP15)。なお、報知の手段は、LED等の点滅等で行ってもよい。洗浄水タンク20内に水がないという判定がN回続いたら(例えば3回続いたら)、便器洗浄動作(の受付)を禁止し(STEP16)、洗浄水タンク20への給水が自動的に実施される(STEP17)。なお、「便器洗浄動作(の受付)を禁止」とは、ポンプ装置22の駆動の受付を禁止する意味であり、給水タンク20への給水信号は受信する。
【0068】
(閾値の更新)
洗浄水タンク20内の水が無い状態でポンプ装置22が駆動される間にポンプ装置22において実際に流れる電流値というのは、主として、モータ86の内部のメカニカルシールの摺動抵抗に基づくと考えられる。そして、モータ86の内部のメカニカルシールの摺動抵抗は、モータ86が駆動される度に(すなわち洗浄動作がなされる度に)僅かずつ減少していくと考えられる。
【0069】
判定用の閾値は、この現象を考慮に入れて更新されることが好ましい。すなわち、判定用の閾値は、水洗大便器装置1において実施された洗浄動作の回数に応じて更新されるようになっていることが好ましい。
【0070】
本実施形態では、水洗大便器装置1の設置後の経過時間が概ね洗浄動作の回数に比例すると仮定して、判定用の閾値を、当該水洗大便器装置1の設置後の経過時間に応じて更新するようになっている。
【0071】
具体的には、図8に示すような関係(現象)を考慮に入れて、水洗大便器装置1の設置後の経過時間に応じて、閾値が自動的に更新(低減)されるようになっている。
【0072】
(効果)
以上の通り、本実施形態の水洗大便器装置1によれば、所定の短時間に亘って比較的大きい第1目標電流値に基づいてポンプ装置22を駆動する段階を設けたことにより、当該比較的大きい第1目標電流値に基づく駆動開始時に駆動制御部85(電流検知手段)によって測定される電流値に基づいて洗浄水タンク20内の水の有無が判定される際、有効な判定精度を保証することができる。
【0073】
また、本実施形態の水洗大便器装置1によれば、所定の短時間は、約0.3秒間となっており、第1目標電流値に基づく駆動開始時に駆動制御部85(電流検知手段)によって測定される電流値を判別(取得)するのに十分な時間である一方、洗浄水タンク20内に水がない空転運転がなされてもポンプ装置22に大きな悪影響が生じない程度の時間となっている。
【0074】
更に、当該所定の短時間は、第1目標電流値に基づくポンプ装置22の駆動によって洗浄水が直ちにジェット吐水口16からジェット吐水され、不所望のタイミングでサイホン作用が発生してしまうことがない時間としても調整されている。
【0075】
また、本実施形態の水洗大便器装置1によれば、駆動制御部85が、ポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて駆動される間に測定される電流値と、判定用の閾値と、を比較することによって、洗浄水タンク20内の水の有無を判定するようになっているため、判定方法が簡単で、迅速な判定処理が容易である。
【0076】
また、本実施形態の水洗大便器装置1によれば、判定用の閾値は、洗浄水タンク20内の水が無い状態でポンプ装置22が第1目標電流値に基づいて実際に駆動された間に測定されたポンプ装置22において実際に流れた電流値に基づいて、予め設定されている。これにより、個々のポンプ装置22において特性上のバラツキが存在していても、対象のポンプ装置22毎に適切な閾値を設定することができ、結果的に洗浄水タンク20内の水の有無をより高精度に判定することができる。
【0077】
また、本実施形態の水洗大便器装置1によれば、判定用の閾値が、水洗大便器装置1の設置後の経過時間に応じて更新されるようになっているため、モータ86の内部のメカニカルシールの摺動抵抗の経年変化が考慮され、洗浄水タンク20内の水の有無についての有効な判定精度を長期間に亘って保証することができる。
【0078】
また、本実施形態の水洗大便器装置1によれば、洗浄水タンク20内に水がないという判定がなされた場合、その旨を報知するようになっているため、洗浄水タンク20内に水がないという状態を、使用者に適切に知らせることができる。
【0079】
また、本実施形態の水洗大便器装置1によれば、洗浄水タンク20内に水がないという判定が所定回数続いた場合、便器洗浄動作の受付(受付操作)が禁止されるようになっているため、所定回数を超えてのポンプ装置22の空転運転を回避することができ、ポンプ装置22に不所望の不具合が生じることを効果的に抑制することができる。
【0080】
また、本実施形態の水洗大便器装置1によれば、洗浄水タンク20内に水がないという判定が所定回数続いた場合、洗浄水タンク20への給水が自動的に実施されるようになっているため、洗浄水タンク20内に水がないという状態を自動的に解消することができ、ポンプ装置22における空転運転の発生を効果的に抑制することができる。なお、所定回数水なしの判定が続いた場合でなくとも、水なしの判定が出るごとに給水を実施してもよい。
【0081】
(変形例)
前述したように、ジェット吐水を行うジェット吐水口16が設けられている場合には、第1目標電流値に基づくポンプ装置22の駆動によって洗浄水が直ちにジェット吐水口16からジェット吐水され、不所望のタイミングでサイホン作用が発生してしまうおそれがある。所定の短時間は、そのようなサイホン作用が発生しない時間である必要がある。
【0082】
従って、本発明は、いわゆるリム吐水タイプの水洗大便器装置、すなわち、リム吐水を行うリム吐水口を有しているがジェット吐水を行うジェット吐水口を有していない水洗大便器装置において、より好適に適用される。この場合、前述のサイホン作用に関する検討の必要から開放される。
【符号の説明】
【0083】
1 水洗大便器装置
2 便器本体
4 給水装置
8 排水管
12 ボウル部
14 排水トラップ管路
14a 入口部
14b トラップ上昇管
14c トラップ下降管
14d 頂部
16 ジェット吐水口
18 リム吐水口
20 洗浄水タンク
22 ポンプ装置
24 給水路
26 止水栓
28 ストレーナ
30 分岐金具
32 定流量弁
34 電磁開閉弁
38 リム側給水路
40 タンク側給水路
42 バキュームブレーカ
43 ボール式逆止弁
44 ボール式逆止弁
45 通水管
45a 取水口部
46 ジェット側給水路
50 戻り管路
70 オーバーフロー流路
70a 上端
70b 下端
72 フラッパー弁
81 AC商用電源
82 整流部
83 1次側回路部
84 制御部
85 駆動制御部
86 モータ
87 2次側回路部
F0 矢印
WL0 止水水位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8