(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】香気成分の長期間保持シート
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20240118BHJP
D21H 19/34 20060101ALI20240118BHJP
D21H 21/54 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H19/34
D21H21/54
(21)【出願番号】P 2020033903
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】592134583
【氏名又は名称】愛媛県
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】續木 康広
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169512(JP,A)
【文献】特開2017-176684(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02865443(EP,A1)
【文献】国際公開第2015/076191(WO,A1)
【文献】特開2019-011442(JP,A)
【文献】特開2019-064734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
B01J 13/00 - 13/22
C11B 1/00 - 15/00
C11C 1/00 - 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香気成分を内包したシートであって、
香気成分及びセルロースナノファイバーを含み、
前記香気成分は、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で内包されている、シート。
【請求項2】
前記カプセルの直径が、10~1000μmである、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記シートが切断される、押される又は湿気を含むことにより香気成分が放出される、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシートを備えた香り付き紙製品。
【請求項5】
以下の工程を含む、香気成分を内包したシートの製造方法:
(1)セルロースナノファイバーを含む懸濁液中に香気成分を添加し、混合する工程、及び
(2)工程(1)で得られた混合液を乾燥させ、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で香気成分を内包したシートを形成する工程。
【請求項6】
以下の工程を含む、香り付き紙製品の製造方法:
(A)セルロースナノファイバーを含む懸濁液中に香気成分を添加し、混合する工程、
(B)工程(A)で得られた混合液を紙製の基材シート上に塗工する工程、及び
(C)工程(B)で基材シート上に塗工された混合液を乾燥させ、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で香気成分を内包したシートを備えた紙製品を形成する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気成分を内包したシート及び香り付き紙製品に関するものである。また、本発明は、香気成分を内包したシートの製造方法及び香り付き紙製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
祝儀袋や香典袋などの紙製品では、使用する場面に適した香りを付与することが行われているが、これら製品は、購入から使用までの期間に香りが抜けてしまうという問題がある。
【0003】
この問題の解決のために、香気成分を樹脂カプセルに封移入し、使用時に押しつぶす、引き裂く等の力を加えることによって、香気成分の長期保持を行うことが報告されている。
【0004】
このような香気成分を内包したカプセルの製造方法としては、特許文献1では、CLogP値が1.5以下である香料を含むマイクロカプセルの製造方法が報告されている。また、特許文献2には、カプセル化香料を界面重合法、in-situ重合法等の従来公知の方法により製造できることが記載されている。しかしながら、このような従来知られている樹脂カプセルの製造方法では、有機溶媒の使用やpH調整の必要があり、製造には専門の設備が必要となる。
【0005】
また、昨今、セルロースナノファイバー(CNF)は、軽量で、鋼鉄の5倍以上の強度を有しているとの研究報告などから、植物資源から得られる高性能ナノファイバーとして、その製造と利用について多くの研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-167455号公報
【文献】特開2019-108562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、香気成分を長期間保持することができる上、有機溶媒を使用せずpH調整無しで製造できる香気成分を内包したシート及び該シートを備えた香り付き紙製品を提供することを目的とする。また、本発明は、上記香気成分を内包したシートの製造方法及び上記香り付き紙製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
木質パルプや竹から作られるセルロースナノファイバーは、ガスバリア性を有することが報告されている。このことから、セルロースナノファイバーで香気成分を包み込みシート化することができれば、香気成分の長期間保持が可能となる。さらに、セルロースナノファイバーは、水とセルロースで構成されており、既存の紙加工の設備で生産が可能と考えられる。
【0009】
そこで、発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、セルロースナノファイバーを含む懸濁液中に香気成分を添加・混合し、当該混合液をパルプシート上に広げて乾燥させることで得られたシートが、シート内にセルロースナノファイバーが香気成分を覆ってできた油包を有しており、香気成分を長期間保持することができるという知見を得た。さらに、当該製造方法は、有機溶媒を使用せずpH調整を行うことなく実施可能である。また、当該製造方法で得られたシートは、香気成分の長期間の保持が可能な上、シートを破ることにより香気成分を放出させることが可能である。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものであり、次の香気成分を内包したシート、香り付き紙製品等を提供するものである。
【0011】
項1.香気成分を内包したシートであって、
香気成分及びセルロースナノファイバーを含み、
前記香気成分は、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で内包されている、シート。
項2.前記カプセルの直径が、10~1000μmである、項1に記載のシート。
項3.前記シートが切断される、押される又は湿気を含むことにより香気成分が放出される、項1又は2に記載のシート。
項4.項1~3のいずれか一項に記載のシートを備えた香り付き紙製品。
項5.以下の工程を含む、香気成分を内包したシートの製造方法:
(1)セルロースナノファイバーを含む懸濁液中に香気成分を添加し、混合する工程、及び
(2)工程(1)で得られた混合液を乾燥させ、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で香気成分を内包したシートを形成する工程。
項6.以下の工程を含む、香り付き紙製品の製造方法:
(A)セルロースナノファイバーを含む懸濁液中に香気成分を添加し、混合する工程、
(B)工程(A)で得られた混合液を紙製の基材シート上に塗工する工程、及び
(C)工程(B)で基材シート上に塗工された混合液を乾燥させ、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で香気成分を内包したシートを備えた紙製品を形成する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシート及び紙製品は、セルロースナノファイバーが香気成分を覆うため、内部に閉じ込めた香気成分を長期間保持することが可能であり、シートを破る等の力が働いた際などに香気成分を放出するという特性を有している。また、本発明のシート及び紙製品は、有機溶媒の使用やpH調整といった操作が必要なく製造することができ、更に既存の紙加工設備でも製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1におけるマイクロスコープで観察したシート表面を示す写真である。
【
図2】実施例1におけるマイクロスコープで観察した油包(破裂前)を示す写真である。
【
図3】実施例1におけるマイクロスコープで観察した油包(破裂後)を示す写真である。
【
図4】実施例2におけるマイクロスコープで観察したシート表面を示す写真である。
【
図5】実施例3におけるマイクロスコープで観察したシート表面を示す写真である。
【
図6】試験例1におけるシートを破る前と破った後のリモネン濃度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0016】
本発明の香気成分を内包したシートは、
香気成分及びセルロースナノファイバーを含み、
前記香気成分は、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で内包されていることを特徴とする。
【0017】
セルロースナノファイバーは、パルプ繊維を微細化(解繊)処理して得ることができる微細なセルロース繊維である。セルロースナノファイバーの原料としては、木材、竹などの植物や微生物由来のセルロースが挙げられ、好ましくは木材及び竹である。セルロースナノファイバーの原材料として用いるパルプ繊維としては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、ケミグランドパルプ(CGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、グランドパルプ(GP)、サーモグランドパルプ(TGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ;茶古紙、クラフト封筒古紙、新聞古紙、雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙、段ボール古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらのパルプ繊維は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
セルロースナノファイバーの製造方法としては、特に限定されず、各種公知の方法を使用することができる。例えば、水分散状態のパルプを機械的処理により解繊を行うこと、酵素処理、酸処理、TEMPO触媒酸化、リン酸エステル化等の化学的処理を施した後に解繊を行うことが挙げられる。
【0019】
機械的処理による解繊方法としては、例えば、パルプ繊維を回転する砥石間で磨砕するグラインダー法、高圧ホモジナイザーを用いた対向衝突法、ボールミル、ロールミル、カッターミル等を用いる粉砕法などが挙げられる。
【0020】
本発明の香気成分を内包したシート中のセルロースナノファイバーの含有量は、特に限定されず、通常50~99質量%、好ましくは75~90質量%である。
【0021】
香気成分としては、特に限定されず、例えば、天然香料、動物性香料、アルデヒド類、フェノール類、アルコール類、エーテル類、エステル類、ハイドロカーボン類、ケトン類、ラクトン類、ムスク類などが挙げられる。
【0022】
天然香料としては、例えば、オレンジ油、ライム油、レモン油、プチグレン油、ユズ油、ネロリ油、ベルガモット油、ラベンダー油、ラバンジン油、アビエス油、アニス油、ベイ油、ボアドローズ油、イランイラン油、ゼラニウム油、シトロネラ油、ペパーミント油、ハッカ油、スペアミント油、レモングラス油、ユーカリ油、パチュリ油、ジャスミン油、ローズ油、シダー油、ベチバー油、ガルバナム油、オークモス油、パイン油、樟脳油、白檀油、芳樟油、テレピン油、クローブ油、クローブリーフ油、カシア油、ナツメッグ油、カナンガ油、タイム油などの精油が挙げられる。
【0023】
動物性香料としては、例えば、じゃ香、海狸香、霊猫香、竜涎香などが挙げられる。
【0024】
アルデヒド類としては、例えば、ウンデシレンアルデヒド、ラウリルアルデヒド、アルデヒドC-12MNA、ミラックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、シクラメンアルデヒド、シトラール、シトロネラール、エチルバニリン、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、オクタナール、リグストラール、リリアール、リラール、トリプラール、バニリン、ヘリオナール等が挙げられる。
【0025】
フェノール類としては、例えば、オイゲノール、イソオイゲノール等が挙げられる。
【0026】
アルコール類としては、例えば、バクダノール、シトロネロール、ジハイドロミルセノール、ジハイドロリナロール、ゲラニオール、リナロール、ネロール、サンダロール、サンタレックス、ターピネオール、テトラハイドロリナロール、フェニルエチルアルコール等が挙げられる。
【0027】
エーテル類としては、例えば、セドランバー、グリサルバ、メチルオイゲノール、メチルイソオイゲノール等が挙げられる。
【0028】
エステル類としては、例えば、シス-3-ヘキセニルアセテート、シス-3-ヘキセニルプロピオネート、シス-3-ヘキセニルサリシレート、p-クレジルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、アミルアセテート、メチルジヒドロジャスモネート、アミルサリシレート、ベンジルサリシレート、ベンジルベンゾエート、ベンジルアセテート、セドリルアセテート、シトロネリルアセテート、デカハイドロ-β-ナフチルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、エリカプロピオネート、エチルアセトアセテート、エリカアセテート、ゲラニルアセテート、ゲラニルフォーメート、ヘディオン、リナリルアセテート、β-フェニルエチルアセテート、ヘキシルサリシレート、スチラリルアセテート、ターピニルアセテート、ベチベリルアセテート、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、マンザネート、アリルヘプタノエートなどが挙げられる。
【0029】
ハイドロカーボン類としては、例えば、d-リモネン、α-ピネン、β-ピネン、ミルセン等が挙げられる。
【0030】
ケトン類としては、例えば、α-イオノン、β-イオノン、メチル-β-ナフチルケトン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、δ-ダマスコン、シス-ジャスモン、メチルイオノン、アリルイオノン、カシュメラン、ジハイドロジャスモン、イソイースーパー、ベルトフィックス、イソロンジフォラノン、コアボン、ローズフェノン、ラズベリーケトン、ダイナスコン等が挙げられる。
【0031】
ラクトン類としては、例えば、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトン、γ-ノナラクトン、γ-ドデカラクトン、クマリン、アンブロキサン等が挙げられる。
【0032】
ムスク類としては、例えば、シクロペンタデカノライド、エチレンブラシレート、ガラキソライド、ムスクケトン、トナリッド、ニトロムスク類等が挙げられる。
【0033】
これら香気成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
本発明の香気成分を内包したシート中の香気成分の含有量は、特に限定されず、通常1~50質量%、好ましくは10~25質量%である。
【0035】
本発明のシートには香気成分及びセルロースナノファイバー以外にも他の成分が含まれていてもよく、そのような成分としては、例えば、バインダー、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
【0036】
香気成分は、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で内包されている。このように、本発明のシートでは香気成分が液体の状態を維持してカプセル中に内包されていることを特徴としている。香気成分がガスバリア性を有するセルロースナノファイバーのカプセル中に内包されていることで香気成分を長期間保持することが可能となる。また、当該カプセルの直径は、特に限定されず、例えば、10~1000μmであり、好ましくは100~500μmである。
【0037】
本発明のシートは、切断される、押される又は湿気を含むことにより、香気成分を含むカプセルが壊れ内包されている香気成分が放出されることで、香りが発生することになる。すなわち、香気成分を長期間保持した上、必要なときに、香りを発生させることができる。
【0038】
本発明の香気成分を内包したシートの厚みは、特に限定されず、通常10~1000μm、好ましくは200~500μmである。
【0039】
また、本発明の香り付き紙製品は、上記香気成分を内包したシートを備えたことを特徴とする。
【0040】
このような紙製品としては、特に限定されず、例えば、食品包装紙等の包装紙、封筒、祝儀袋、香典袋、熨斗、水引、グリーティングカード、メッセージカード、パンフレット、名刺、ブックカバー、合成紙、和紙、ラベル用紙、印刷用紙、脂取り紙、エアフィルタ、マスク、紙オムツなどが挙げられる。
【0041】
例えば、紙製品が、封筒、祝儀袋、香典袋、熨斗などである場合、開封した際に、香気成分を内包したシートが切断されるようにすることで、開封時に香りを発生させるようにすることができる。また、紙製品が、マスクなどである場合は、使用時に湿気を含むことにより、香気成分を含むカプセルが壊れ香りを発生させるようにすることができる。
【0042】
本発明のシート及び紙製品は、セルロースナノファイバーが香気成分を覆うため、内部に閉じ込めた香気成分を長期間保持することが可能である上、シートを破る等の力が働いた際などに香気成分を放出させて香りを発生させることができる。
【0043】
本発明の香気成分を内包したシートは、以下の工程を含む方法により製造することができる。
(1)セルロースナノファイバーを含む懸濁液中に香気成分を添加し、混合する工程、及び
(2)工程(1)で得られた混合液を乾燥させ、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で香気成分を内包したシートを形成する工程。
【0044】
また、本発明の香り付き紙製品は、以下の工程を含む方法により製造することができる。
(A)セルロースナノファイバーを含む懸濁液中に香気成分を添加し、混合する工程、
(B)工程(A)で得られた混合液を紙製の基材シート上に塗工する工程、及び
(C)工程(B)で基材シート上に塗工された混合液を乾燥させ、セルロースナノファイバーで液状の香気成分が覆われたカプセルの形態で香気成分を内包したシートを備えた紙製品を形成する工程。
【0045】
セルロースナノファイバーを含む懸濁液における溶媒としては、特に限定されず、通常、水である。混合液中におけるセルロースナノファイバーの含有量としては、例えば、0.05~5質量%であり、香気成分の含有量としては、例えば、0.05~5質量%である。
【0046】
混合液には香気成分及びセルロースナノファイバー以外にも他の成分が含まれていてもよく、そのような成分としては、例えば、バインダー、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
【0047】
セルロースナノファイバーを含む懸濁液中に香気成分を添加した後に混合する方法としては、特に限定されず、ミキサーや振とう機などの各種公知の混合方法を使用することができる。
【0048】
上記工程(B)で使用される基材シートは紙製のものであって、各種紙製品において香りを付与するために混合液が塗工される部分を意味する。基材シートは1層であっても、又は2層以上の多層であってもよい。
【0049】
混合液の塗工は、公知の塗工機を使用して行うことができる。そのような塗工機としては、例えば、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、バーコーター(クリアランスバー)、グラビアコーター、ディップコーター、コンマコーター等が挙げられる。
【0050】
混合液の塗工量は、特に限定されず、通常、形成される香気成分を内包したシートが10~1000μm、好ましくは200~500μmとなる量である。
【0051】
混合液を乾燥する方法は、特に限定されず各種公知の方法を使用することができる。そのような乾燥方法としては、例えば、オーブン中で乾燥を行う方法、風乾させる方法等が挙げられる。
【0052】
上記工程(2)では、工程(1)で得られた混合液を乾燥させる際には、混合液をシート状に成形した後に乾燥を行うことが望ましい。
【0053】
本発明の香気成分を内包したシート及び香り付き紙製品は、上記の製造方法によれば、有機溶媒の使用やpH調整といった操作が必要なく製造することができ、更には既存の紙加工設備でも製造が可能であるため、簡便な方法で製造することができ且つ製造コストの面においても優れている。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0055】
実施例1
実施例1では、固形分濃度を約1%に調製したCNF水分散液(中越パルプ社製 竹CNF 解繊度B) 40 gと柑橘精油(媛香蔵(登録商標) ゆず精油) 0.5 gを50 mlの遠沈管にとり、振とう機(アズワン社製 SRR-2)で10分間振とうした後、パルプシート上に広げ、50℃の乾燥機(AGCテクノグラス社製 AFO-82)で1晩乾燥させた。
【0056】
乾燥したシートを目視で観察した結果、シート内にセルロースナノファイバーで覆われた柑橘精油の油包を確認した。
【0057】
また、得られたシートをデジタルマイクロスコープ(ハイロックスジャパン社製 KH-8700)で観察した結果、油包の大きさは、直径約100μmから約1000μmであり(
図1)、ピンセットで破裂させたところ、液体が出てきたことから(
図2、3)、内部に精油を含んでいることが確認された。
【0058】
実施例2
実施例2では、CNF水分散液を中越パルプ社製 竹CNF 解繊度Bに替えて、固形分濃度を約1%に調整したスギノマシン社製CNF BiNFs BMaを用いたこと以外は、実施例1と同様の処理を行ってシートを作製した。作製したシートをデジタルマイクロスコープで観察した結果、シート内にセルロースナノファイバーで覆われた柑橘精油の存在を確認した(
図4)。
【0059】
実施例3
実施例3では、CNF水分散液を中越パルプ社製 竹CNF 解繊度Bに替えて、固形分濃度を約1%に調整した高圧ホモジナイザー処理パルプ由来CNFを用いたこと以外は、実施例1と同様の処理を行ってシートを作製した。作製したシートをデジタルマイクロスコープで観察した結果、シート内にセルロースナノファイバーで覆われた柑橘精油の存在を確認した(
図5)。
【0060】
実施例4
実施例4では、固形分濃度を約1%に調整したCNF水分散液(中越パルプ社製 竹CNF 解繊度B) 80 gと柑橘精油(媛香蔵(登録商標) ゆず精油) 0.5 gを200 mlのビーカーにはかりとり、ハンドミキサー(テスコム電機社製 THM250N)で1分間攪拌した後、半量をパルプシート上に広げ、50℃の乾燥機で1晩乾燥させた。
【0061】
乾燥したシートを目視で観察した結果、シート内にセルロースナノファイバーで覆われた柑橘精油の油包を確認した。
【0062】
試験例1
実施例4で得られたシートの香気成分の保存性について評価した。1ヶ月間、20℃の恒温槽で静置したシートを500 mlの三角フラスコに入れ、内部を窒素ガスで置換した。約25℃で15分静置した後、気相中に存在するリモネン濃度をガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製 JMS-AMSUN200)を用いて測定した。実施例4で得られたシートを16分に破り、同様の操作で、リモネン濃度を測定した。
【0063】
結果を
図6に示す。シートを破る前には、リモネン濃度が1 mg/L以下であったのに対し、破った後では約20 mg/Lのリモネンが存在し、シート内部に香気成分を保持できていたことが確認された。