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特許7421730ヘッドアップディスプレイ装置及びヘッドアップディスプレイシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置及びヘッドアップディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20240118BHJP
   B60K 35/23 20240101ALI20240118BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020063840
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162703
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】板垣 惇平
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-197239(JP,A)
【文献】特開2012-088562(JP,A)
【文献】特表2016-501387(JP,A)
【文献】特開2010-156720(JP,A)
【文献】特開2013-031051(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0109702(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0235238(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00
G02B 5/30
G02F 1/1335
G02F 1/13363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被投影部材(60)に表示光を投影することで、アイボックス(200)に目を配置する観察者に虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置(20)であって、
前記表示光を出射する画像生成部(21)と、
前記画像生成部(21)からの前記表示光を前記被投影部材(60)に向けるリレー光学(25)と、
前記画像生成部(21)からの前記表示光の光路上に配置され、前記被投影部材(60)の各領域それぞれで反射される前記表示光の偏光軸(E)の方位が、前記被投影部材(60)の各領域におけるP偏光の入射光に近づくように、前記表示光の入射領域に応じて、前記表示光の偏光軸(E)を連続的又は段階的に異ならせる偏光パターニング光学部材(50)と、
を備える、ヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項2】
前記偏光パターニング光学部材(50)は、
面内で遅相軸の方向が異なるパターン位相差板(51)、
面内で透過軸の方向が異なるパターン偏光板(52)、
又は、これらの組み合わせ、で構成される、
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項3】
前記偏光パターニング光学部材(50)は、
面内で遅相軸の方向が異なる複数の部分領域を有するパターン位相差板(51)、
面内で透過軸の方向が異なる複数の部分領域を有するパターン偏光板(52)、
又は、これらの組み合わせ、で構成される、
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項4】
前記パターン位相差板(51)の面内での遅相軸の方向のばらつき、及び前記パターン位相差板(51)の面内での遅相軸の方向のばらつきは、10度未満である、
請求項2又は3に記載のヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項5】
前記偏光パターニング光学部材(50)は、前記アイボックス(200)に目を配置する観察者から見た少なくとも左右方向に沿って、前記表示光の偏光軸(E)の方位を連続的に異ならせる、
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項6】
前記偏光パターニング光学部材(50)は、前記アイボックス(200)に目を配置する観察者から見た少なくとも左右方向に沿って配列される部分領域(W)毎に、前記表示光の偏光軸(E)の方位を段階的に異ならせる、
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項7】
前記偏光パターニング光学部材(50)は、前記被投影部材(60)に入射する前記表示光の偏光軸(E)の方位が、前記アイボックス(200)に目を配置する観察者から見て、
反時計回りに90度未満となる方位である第1の偏光軸(E1)と、
時計回りに90度未満となる方位である第2の偏光軸(E2)と、
を含むように、前記表示光の偏光軸(E)の方位を連続的又は段階的に異ならせる、
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項8】
前記第1の偏光軸(E1)を有する前記表示光は、前記アイボックス(200)に目を配置する観察者から見て、前記第2の偏光軸(E2)を有する前記表示光よりも前記被投
影部材(60)における左側に投射される、
請求項7に記載のヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項9】
前記偏光パターニング光学部材(50)は、最も上下方向に沿った方位を有する偏光軸(EA)が入射する特定の部分領域(WA)の近傍で、前記被投影部材(60)の左右方向の位置に応じた偏光軸(E)の方位の変化率が緩やかになるように、前記表示光の偏光軸(E)の方位を連続的又は段階的に異ならせる、
請求項5又は請求項6に記載のヘッドアップディスプレイ装置(20)。
【請求項10】
アイボックス(200)に目を配置する観察者に虚像を視認させるヘッドアップディスプレイシステム(10)であって、
反射型回折素子(80)を有する被投影部材(60)と、
示光を出射する画像生成部(21)と、
前記画像生成部(21)からの前記表示光を前記被投影部材(60)に向けるリレー光学(25)と、
前記画像生成部(21)からの前記表示光の光路上に配置され、前記被投影部材(60)の各領域それぞれで反射される前記表示光の偏光軸(E)の方位が、前記被投影部材(60)の各領域におけるP偏光の入射光に近づくように、前記表示光の入射領域に応じて、前記表示光の偏光軸(E)を連続的又は段階的に異ならせる偏光パターニング光学部材(50)と、
を備える、ヘッドアップディスプレイシステム(10)。
【請求項11】
前記反射型回折素子(80)は、ホログラフィック素子、及び回折光学素子(DOE)の少なくとも1つを含む、
請求項10に記載のヘッドアップディスプレイシステム(10)。
【請求項12】
前記リレー光学(25)は、前記被投影部材(60)に対する入射角がブリュースター角の近傍の角度で前記表示光を投射する、
請求項10に記載のヘッドアップディスプレイシステム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両などの移動体に用いられるヘッドアップディスプレイ装置及びヘッドアップディスプレイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のウインドシールドに、特定波長領域の光に対する回折効率(反射率)が高いホログラム素子を設け、これに内部で生成した表示画像の表示光を投影することで、虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置が記載されている。
【0003】
特許文献1には、ホログラム素子への光の入射角をブリュースター角に設定し、ホログラム素子を包含するウインドシールドにP偏光で入射させることで、ウインドシールドでの表面反射を低減しつつ、ウインドシールドを透過した光をホログラム素子で回折させて観察者に向ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-227281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被投影部材で反射されて観察者の所定の目位置に入射する光束に着目すると、ヘッドアップディスプレイ装置から出射される表示光が、所定の幅を有する出射角を有していること、ウインドシールド(被投影部材)が曲面であること、又はこれらの組み合わせに起因して、被投影部材の各領域で所定の1つの方向に反射される光束は、被投影部の一部に対してはP偏光で入射しても、他部ではP偏光で入射しない(換言すると、被投影部材の全域に対して、P偏光で入射しない)ため、例え、被投影部の各領域への入射角がブリュースター角であってもウインドシールドで表面反射されてしまうことも想定され、この観点で改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される特定の実施形態の要約を以下に示す。これらの態様が、これらの特定の実施形態の概要を読者に提供するためだけに提示され、この開示の範囲を限定するものではないことを理解されたい。実際に、本開示は、以下に記載されない種々の態様を包含し得る。
【0007】
本開示の概要は、虚像の表示品位を向上させる。より具体的には、被投影部材での表面反射を低減し、2重像の発生を抑制することに関する。
【0008】
したがって、本明細書に開示されるヘッドアップディスプレイシステムは、被投影部材に表示光を投影することで、アイボックスに目を配置する観察者に虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置を含み、表示光を出射する画像生成部と、画像生成部からの表示光を被投影部材に向けるリレー光学と、画像生成部からの表示光の光路上に配置され、被投影部材の各領域それぞれで反射される表示光の偏光軸の方位が、被投影部材の各領域におけるP偏光の入射光に近づくように、表示光の入射領域に応じて、表示光の偏光軸を連続的又は段階的に異ならせる偏光パターニング光学部材と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイシステムの構成を示す図であって、自動車に採用された態様を示す。
図2図2は、上記実施形態のHUD装置の構成を示す。
図3図3は、第1実施形態のHUD装置における画像生成部の構成の説明を提供する。
図4図4は、第2実施形態のHUD装置における画像生成部の構成の説明を提供する。
図5図5は、第3実施形態のHUD装置における画像生成部の構成の説明を提供する。
図6図6は、第4実施形態のHUD装置における画像生成部の構成の説明を提供する。
図7図7は、車両の前方を向いた観察者から見た、被投影部材に入射する表示光の偏光軸を示す概念図である。
図8図8は、図7の要部を拡大した図であり、被投影部材の部分領域毎に入射する表示光の偏光軸を示す図である。
図9図9は、被投影部材に入射する表示光の偏光軸の態様を示す図である。
図10図10は、被投影部材に入射する表示光の偏光軸の態様を示す図である。
図11図11は、被投影部材の位置に対する偏光軸の方位を段階的に変化させる第1の態様、及び連続的に変化させる第2の態様の説明を提供する図であり、被投影部材の左右方向の位置(横軸)に対する偏光軸の方位(縦軸)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下の実施形態(図面の内容も含む)によって限定されるものではない。以下の実施形態に変更(構成要素の削除も含む)を加えることができるのはもちろんである。また、以下の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略する。
【0011】
以下、図1乃至図11では、本実施形態におけるヘッドアップディスプレイシステム、ヘッドアップディスプレイ装置の説明を提供する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイシステムの構成を示す図であって、自動車に採用された態様が示されている。なお、本発明のヘッドアップディスプレイシステムは、自動車に限らず、移動体における表示装置に採用することが可能である。なお、本実施形態に用いる図面において、車両の左右方向をX軸方向(車両の前方を向いた際の左側がX軸正方向)とし、上下方向をY軸方向(路面を走行する車両の上側がY軸正方向)とし、車両の前後方向をZ軸方向(車両の前方がZ軸正方向)とする。
【0013】
図1のヘッドアップディスプレイシステム10は、車両1に搭載され、ヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置とも記載する。)20と、HUD装置20を制御する表示制御装置40と、後述する反射型回折素子80を含み、HUD装置20からの表示光20aを受ける被投影部材60と、から構成される。HUD装置20は、観察者(典型的には、車両の運転席に着座する運転者)の正面(前方、車両の進行方向とも言える。)に配置される車両のフロントウインドシールド(被投影部材60の一例。)に向けて表示光20aを投影する。
【0014】
HUD装置20(リレー光学(25))は、後述する反射型回折素子80を包含する被投影部材60に対する入射角がブリュースター角の近傍の角度で表示光20aを投射する。ブリュースター角(偏光角)は、屈折率の異なる物質の界面においてP偏光の反射率が0となる入射角を表し、被投影部材60の屈折率をNとしたとき、arctanNで求められる角度である。フロントウインドシールドは、例えば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂:Polymethyl Methacrylate)であり、PMMAの屈折率Nは1.49とされているため、ブリュースター角が56.3度とされている。なお、P偏光の光は、被投影部材60に対する入射角が、ブリュースター角から離れる(ブリュースター角より大きい、又は小さい)と、その反射率が再び大きくなる。P偏光は、入射面内で電界が振動する偏光である。前記入射面は、アイボックス200内の所定の点(例えば、中心点205)に向かう被投影部材60からの反射光及び入射光を含む面である。
【0015】
反射型回折素子80は、例えばホログラフィック素子、及び回折光学素子(DOE)の少なくとも1つを含み得る。ホログラフィック素子は、例えば,フォトポリマーや重クロム酸ゼラチンなどのホログラム材料などからなり、入射した光を所望の方向へ向けて回折する光学部材であり、物体光と参照光の干渉パターンを記録することで作成される。反射型回折素子80は、例えば、シート状であり、被投影部材60に内包され、HUD装置20が投影する表示光20aを車両1の内側の所定の領域であるアイボックス200へ回折する。例えば、後述する反射型回折素子80は、HUD装置20から受けた表示光20aを回折することで、観察者に視認される画像(虚像)のサイズを大きくすることができる。観察者は、アイボックス200内に目3を配置することで、被投影部材60より遠方側に、HUD装置20が表示する表示画像の虚像Vを視認することができる。なお、反射型回折素子80は、被投影部材60の表面(観察者側の表面)に形成されてもよい。
【0016】
本実施形態の説明で用いる「アイボックス」とは、(1)領域内では表示面30に表示される表示画像の全体が虚像Vとして視認でき、領域外では表示面30に表示される表示画像の少なくとも一部分が虚像Vとして視認されない領域、(2)領域内では後述する表示面30に表示される表示画像の少なくとも一部が虚像Vとして視認でき、領域外では表示面30に表示される表示画像の一部分も虚像Vとして視認されない領域、(3)領域内では表示画像の虚像Vが立体的に視認でき、領域外では虚像Vを立体的に視認されない領域、又は(4)領域内では表示面30に表示される少なくとも一部の表示画像の虚像Vが所定の輝度以上で視認でき、領域外では表示面30に表示される表示画像の虚像Vの全体が前記所定の輝度未満である領域である。すなわち、観察者が目(両目)3をアイボックス200外に配置すると、観察者は、表示画像の虚像Vの全体が正常に視認できない、又は表示画像の虚像Vの全体の視認性が非常に低く知覚しづらい。前記所定の輝度とは、例えば、アイボックスの中心での表示画像の輝度に対して1/50程度である。「アイボックス」は、HUD装置20が搭載される車両で観察者の視点位置の配置が想定されるエリア(アイリプスとも呼ぶ。)と同じ、又は前記アイリプスの大部分(例えば、80%以上。)を含むように設定される。
【0017】
虚像表示領域100は、平面、曲面、又は一部曲面の領域であり、結像面とも呼ばれる。虚像表示領域100は、HUD装置20の後述する表示装置(画像生成部)21の表示面30の虚像が結像される位置であり、すなわち、虚像表示領域100は、HUD装置20の後述する表示面30に対応し(言い換えると、虚像表示領域100は、後述する表示装置21の表示面30と、共役関係となる。)、虚像表示領域100で視認される虚像は、HUD装置20の後述する表示面30に表示される表示画像に対応している、と言える。虚像表示領域100自体は、実際に観察者に視認されない、又は視認されにくい程度に視認性が低いことが好ましい。
【0018】
図2は、本実施形態のHUD装置20の構成を示す図である。HUD装置20は、表示画像の表示光20aを出射する表示装置21と、表示装置21が出射する表示光20aを、被投影部材60に向けるリレー光学25と、で構成される。なお、後述する本実施形態の表示装置21は、2D画像生成部であるが、3D画像生成部であってもよい。すなわち、HUD装置20は、アイボックス200に配置された前記アイポイント(左右の目)に対応した視差画像(又はライトフィールド画像)を表示することで、虚像表示領域100を基準に立体画像の虚像を観察者に知覚させてもよい(なお、3D画像生成部は、両眼視差方式又はライトフィールド方式の3D画像生成部でなくてもよい。)。
【0019】
リレー光学25は、光学的パワーを有さない平面ミラーである第1のミラー26と、正の光学的パワーを有する凹面ミラーである第2のミラー28と、で構成される。第1のミラー26は、表示装置21からの表示光20aの光路上に配置され、表示光20aを反射する。第2のミラー28は、第1のミラー26が反射した表示光20aの光路上に配置され、表示光20aを反射する。リレー光学25は、被投影部材60とともに、表示画像の虚像Vを結像するための虚像光学系として機能する。虚像光学系は、複数の光学部材で構成され、複数の光学部材の配置を調整すること、及び/又は1つ(又はそれ以上)の光学部材の全体の(又は一部分の)光学的パワーを調整すること、で観察者に視認させる虚像Vの一部又は全体のサイズ(倍率)、配置、及び/又は形状などを調整し得る。
【0020】
また、本実施形態のリレー光学25は、表示装置21が生成した表示画像を拡大した虚像Vとして結像させるための画像拡大機能(光学機能の一例)と、歪みのない(歪の少ない)虚像として結像させるための画像歪み補正機能(光学機能の一例)と、を有していてもよい。リレー光学25に凹面鏡の機能(画像拡大機能、及び/又は画像歪み補正機能)を持たせることで、観察者に、大きな虚像、歪の少ない虚像を提供することができるとともに、HUD装置20内の表示装置21や他の光学系(リレー光学25も含んでもよい)の小型化を図り、延いてはHUD装置20全体の小型化を図ることも可能となる。なお、本実施形態のリレー光学25は、反射光学系のみで構成されるが、これらの代わりに(又はこれらに加えて)、レンズなどの屈折光学系、ホログラムなどの回折光学系、など公知の様々な光学系を含んでいてもよい。なお、リレー光学25は、省略され得る。
【0021】
(第1実施形態)
図3は、第1実施形態のHUD装置における画像生成部の構成の説明を提供する。図3に示す画像生成部は、液晶表示パネルを有する態様である。本実施形態のHUD装置では、偏光パターニング光学部材50としてのパターン位相差板51を有する。
【0022】
液晶表示パネル400(画像生成部21の一例。)は、互いの吸収軸を直交にして配置された一対の直線偏光膜411及び412と、その間に配置される液晶セル410と、光源420と、を有する。直線偏光膜411及び412と液晶セル410との間には、光学補償フィルム(不図示)がそれぞれ配置されていて、液晶セル410の視野角補償に寄与している。液晶セル410の液晶駆動モードによっては、前記光学補償フィルムは不要であり、例えば偏光膜411及び412を保護するための保護フィルムに置き換えられていてもよい。また前記光学補償フィルムは、液晶セル410の液晶駆動モードによっては、それぞれ2枚以上配置されていてもよい。
【0023】
液晶セル410の液晶駆動モードについては特に制限はなく、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti-ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)等、いずれの表示モードの態様であってもよい。
【0024】
直線偏光膜411の表面、即ち観察者側の表面には、偏光パターニング光学部材50の一例であるパターン位相差板51が配置されている。パターン位相差板51は、面内で遅相軸の方向が異なるパターン位相差フィルムである。液晶表示パネル400から入射される直線偏光画像は、パターン位相差板51を通過することで、領域毎に異なる偏光軸Eを有するパターニング偏光画像として出射される。パターニング偏光画像は、被投影部材60に投影され、被投影部材60の複数の部分領域W(図8参照。)でアイボックス200に向けて反射される。被投影部材60の部分領域Wで反射され、アイボックス200における所定の位置(前記所定の位置は、例えば、アイボックス200の中心205である。)に向かう各光が、被投影部材60の部分領域WにP偏光で入射するように、パターニング偏光画像の領域毎の偏光軸Eの方位が調整される。つまり、反射面(ウインドシールドの各領域W)に対して、パターニング偏光画像の光の電界成分が垂直になるように、パターン位相差板51は、パターニング偏光画像の領域毎の偏光軸Eの方位を調整する。直線偏光膜411の透過軸と、パターン位相差板51の進相軸とがなす角は、例えば、-5~+5[degree]に設定される(言い換えると、パターン位相差板51の面内での遅相軸の方向のばらつきは、10度未満である)。
【0025】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態のHUD装置における画像生成部の構成の説明を提供する。図4に示す画像生成部は、レーザー走査型表示パネルを有する態様である。本実施形態のHUD装置では、偏光パターニング光学部材50としてのパターン位相差板51を有する。
【0026】
レーザー走査型表示パネル500(画像生成部21の一例。)は、レーザーモジュール510と、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラーからなるスキャナ520と、スクリーン530(表示面30の一例)と、を備える。スキャナ520は、レーザーモジュール510から時分割的に変調されたレーザービーム570をスクリーン530に向けて二次元的に走査することで、スクリーン530上に2次元の表示画像を表示する。
【0027】
折返しミラー560は、レーザーモジュール510から出射されたレーザービーム570の光路上に配置され、レーザービーム570をスキャナ520へ反射する。なお、折返しミラー560は、省略されてもよい。
【0028】
スクリーン530の表面、即ち観察者側表面には、偏光パターニング光学部材50の一例であるパターン位相差板51が配置されている。パターン位相差板51は、第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0029】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態のHUD装置における画像生成部の構成の説明を提供する。図5に示す画像生成部は、液晶表示パネルを有する態様である。本実施形態のHUD装置では、偏光パターニング光学部材50としてのパターン偏光板52を有する。
【0030】
液晶表示パネル400(画像生成部21の一例。)は、直線偏光膜412と、その表面側に配置される液晶セル410と、光源420と、を有する。
【0031】
液晶セル410の表面、即ち観察者側表面には、偏光パターニング光学部材50の一例であるパターン偏光板52が配置されている。パターン偏光板52は、面内で透過軸の方向が異なるパターン偏光フィルムである。液晶表示パネル400から入射される直線偏光画像は、パターン偏光板52に入射すると、領域毎に設定された透過軸と平行な光が透過するので、領域毎に異なる偏光軸Eを有するパターニング偏光画像として出射される。パターン偏光板52の面内で設定される透過軸は、液晶表示パネル400の直線偏光膜412の透過軸に対して、80~100[degree]、又は260~280[degree](好ましくは、85~95[degree]、又は265~275[degree])異なるように配置される。
【0032】
パターン偏光板52の透過軸が、液晶表示パネル400の直線偏光膜412の透過軸に対して、90又は270[degree]以外に設定される場合、液晶セル410の画素が明状態と暗状態とで切り替えられるだけでは、パターン偏光板52の透過率が低下してしまうことが想定される。よって、この場合、液晶セル410の画素は、偏光状態を、明状態と暗状態との間の中間値に制御可能とし、パターン偏光板52の領域毎の透過軸の方向に合った中間値で、液晶セル410の面内の領域毎に、偏光状態を制御してもよい。
【0033】
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態のHUD装置における画像生成部の構成の説明を提供する。図5に示す画像生成部は、液晶表示パネルを有する態様である。本実施形態のHUD装置では、偏光パターニング光学部材50としてのパターン位相差板51、及びパターン偏光板52を有する。
【0034】
パターン位相差板51は、液晶セル410の表面、即ち観察者側表面に配置され、パターン偏光板52は、パターン位相差板51の表面に配置されている。図6の例では、画像生成部21として液晶表示パネル400が記載されているが、これに限らず、レーザー走査型表示パネル500であってもよい。画像生成部21から入射される直線偏光画像は、パターン位相差板51を通過することで、領域毎に異なる偏光軸Eを有するパターニング偏光画像として出射される。次に、パターン位相差板51からのパターニング偏光画像は、パターン偏光板52に入射すると、領域毎に設定された透過軸と平行な光が透過するので、領域毎に異なる偏光軸Eを有するパターニング偏光画像として出射される。言い換えると、パターン偏光板52は、領域毎に設定された透過軸と平行ではない、所望の偏光軸Eを有さない光を減衰(遮断も含む)する。
【0035】
上述した偏光パターニング光学部材50で領域毎に偏光軸Eの方位が異なるように調整されたパターニング偏光画像は、被投影部材60に投影され、被投影部材60の複数の部分領域W(図5参照。)でアイボックス200に向けて反射される。被投影部材60の部分領域Wで反射され、アイボックス200における所定の位置(例えば、中心205)に向かう各光が、被投影部材60の部分領域WにP偏光で入射するように、パターニング偏光画像の領域毎の偏光軸Eの方位が調整される。つまり、反射面(ウインドシールドの各領域W)に対して、パターニング偏光画像の光の電界成分が垂直になるように、パターン位相差板51は、パターニング偏光画像の領域毎の偏光軸Eの方位を調整する。
【0036】
図7は、被投影部材60に入射する表示光20aの偏光軸Eを、車両1の前方を向いた観察者(なお、前記観察者は、アイボックス200の中心205に目を配置している。)から見た概念図である。図8は、図7の要部(前記要部は、アイボックス200の中心205に目を配置した観察者から見て、虚像表示領域100と重なる被投影部材2の一部である。)を拡大した図であり、被投影部材60の部分領域W毎に入射する表示光20aの偏光軸Eを示す図である。図8では、被投影部材60は、縦(上下方向)の境界線で区画されたW11~W17の7個の部分領域が設けられ、縦長の長方形の外形を有する各部分領域W11~W17は、左から右に向かって、隣接して配置(配列)されている。HUD装置20は、これら部分領域W11~W17毎に、異なる偏光軸Eを有するパターニング偏光画像の表示光20aを投射する。すなわち、部分領域W11、W12、・・・W17には、それぞれ異なる偏光軸E11、E12、・・・E17を有する表示光20aが投影される。
【0037】
部分領域Wの左右方向の端部(部分領域Wの左右方向の前記端部は、図8では、W11とW17である。)の間の特定の部分領域WA(前記特定の部分領域は、図8では、W14である。)で反射される表示光20aの基準偏光軸EA(基準偏光軸EAは、図8では、E14である。)が、最も上下方向(Y軸方向)とのなす角が小さくなる(好ましくは、平行となる。)。
【0038】
偏光軸E(第2の偏光軸E2)は、特定の部分領域WAより右側に行くにつれて、上下方向に概ね平行な方向から徐々に時計方向に傾く。すなわち、図8の例では、部分領域W15での偏光軸E15、部分領域W16での偏光軸E16、部分領域W17での偏光軸E17は、この順で上下方向に概ね平行な方向(基準偏光軸EAの方向)から徐々に時計方向に傾く。
【0039】
また、偏光軸E(第1の偏光軸E1)は、特定の部分領域WAより左側に行くにつれて、上下方向に概ね平行な方向から徐々に反時計方向に傾く。すなわち、図8の例では、部分領域W13での偏光軸E13、部分領域W12での偏光軸E12、部分領域W11での偏光軸E11は、この順で上下方向に概ね平行な方向(基準偏光軸EAの方向)から徐々に反時計方向に傾く。
【0040】
すなわち、パターン位相差板51の第1の態様では、段階的に偏光軸Eの方位を変化させる3つ又はそれ以上の偏光領域を有する。(前記3つの偏光領域は、(1)特定の部分領域WAに投射される基準偏光軸EAを設定する領域と、観察者から見て、(2)特定の部分領域WAの右側の部分領域Wに投射され、基準偏光軸EAを時計方向に傾かせた偏光軸Eを設定する領域と、(3)特定の部分領域WAの左側の部分領域Wに投射され、基準偏光軸EAを反時計方向に傾かせた偏光軸Eを設定する領域と、を含む。
【0041】
いくつかの実施形態における偏光パターニング光学部材50は、透過軸(又は進相軸)の方位が段階的に異なる偏光領域の個数が、偏光領域の区切り方によって異なるために特に限定されないが、3~2000個であることが好ましい(図8の例では、7個)。つまり、HUD装置20は、被投影部材2の部分領域W毎に入射する表示光20aの偏光軸Eをそれぞれ調整することができる。
【0042】
また、いくつかの実施形態における偏光パターニング光学部材50は、観察者から見た左右方向に沿って配列される部分領域W毎に入射する表示光20aの偏光軸Eを調整するように配置される複数の偏光領域を有する。これによれば、HUD装置20は、被投影部材2に対する表示光20aの偏光軸Eの方位が変化しやすい左右方向で偏光軸Eを適切に調整することができる。
【0043】
また、いくつかの実施形態における偏光パターニング光学部材50は、観察者から見た左右方向に沿って配列される部分領域Wが、上下方向に平行な境界線で区画されるように配置される複数の偏光領域を有する。これによれば、1つの部分領域W内での被投影部材2に対する表示光20aの偏光軸Eの方位のばらつきを抑えることができる。
【0044】
なお、観察者から見た左右方向に沿って配列される部分領域Wは、上下方向に平行の境界線で区画されていなくてもよく、すなわち、図9のように複数の部分領域Wの境界線が上下方向に対して斜めに配置されてもよい。なお、複数の部分領域Wの境界線は、直線ではなく、曲線となり得る。
【0045】
また、いくつかの実施形態における偏光パターニング光学部材50は、複数の部分領域Wの観察者から見た左右方向に沿った幅Dが、不均一となるように区画されるように配置される複数の偏光領域を有していてもよい。
【0046】
具体的に、例えば、偏光パターニング光学部材50は、図10に示すように、表示領域100の左右方向の中央側の部分領域W14の幅D4を最大として、表示領域100の左右方向の端部側に向かうにつれて、徐々に幅が狭くなる(D4>D3>D2>D1、D4>D5>D6>D7)ように配置される複数の偏光領域を有する。すなわち、偏光パターニング光学部材50は、最も上下方向に沿った方位を有する基準偏光軸EAが入射する特定の部分領域WAの近傍で、被投影部材60の左右方向の位置に応じた偏光軸Eの方位の変化率が緩やかになるように偏光パターンを段階的に変化させてもよい。これによれば、1つの部分領域W内での被投影部材2に対する表示光20aの偏光軸Eの方位のばらつきを抑えることができる。
【0047】
なお、いくつかの実施形態では、左右方向の幅Dを最大とする部分領域Wは、上記の特定の部分領域WAであってもよい。これによれば、部分領域Wの数の増加を抑制しつつ、1つの部分領域W内での被投影部材2に対する表示光20aの偏光軸Eの方位のばらつきを抑えることができる。
【0048】
また、上記第1の態様の偏光パターニング光学部材50は、段階的に偏光軸Eの方位を変化させる3つ又はそれ以上の偏光領域を有していたが、これに限定されない。第2の態様の偏光パターニング光学部材50は、偏光軸Eの方位を連続的に変化させてもよい。
【0049】
図11は、被投影部材の位置に対する偏光軸の方位を段階的に変化させる第1の態様P10、及び連続的に変化させる第2の態様P20(P21,P22)の説明を提供する図であり、被投影部材の左右方向の位置(横軸)に対する偏光軸の方位(縦軸)を示す図である。第1の態様の偏光パターニング光学部材50は、被投影部材2の部分領域W11~W17毎に段階的に偏光軸Eを変化させる。一方、第2の態様の偏光パターニング光学部材50は、被投影部材2の左右方向の位置に応じて、偏光軸Eを連続的に変化させる。第2の態様の偏光パターニング光学部材50は、被投影部材2の左右方向の位置に応じた偏光軸Eの変化率を保持して変化させてもよく(態様P21)、偏光軸Eの変化率を動的に変化させてもよい(態様P22)。
【0050】
なお、偏光軸Eの変化率を動的に変化させる態様のいくつかの実施形態において、図11に示す態様P22のように、偏光パターニング光学部材50は、最も上下方向に沿った方位を有する基準偏光軸EAが入射する特定の部分領域WAの近傍で、被投影部材60の左右方向の位置に応じた偏光軸Eの方位の変化率が緩やかになるように偏光パターンを連続的に変化させてもよい。
【0051】
また、いくつかの実施形態において、偏光パターニング光学部材50は、画像生成部21の表示面30に配置されるのではなく、リレー光学系25の表面、画像生成部21とリレー光学系25までの表示光20aの光路上、又は複数のリレー光学系25の間での表示光20aの光路上に配置されてもよい。
【0052】
なお、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0053】
1 :車両
2 :被投影部材
10 :ヘッドアップディスプレイシステム
20 :画像表示部(ヘッドアップディスプレイ装置)
20a :表示光
21 :画像生成部
21a :表示光
25 :リレー光学
26 :第1のミラー
28 :第2のミラー
30 :表示面
37 :メモリ
40 :表示制御装置
41 :I/Oインタフェース
43 :プロセッサ
45 :画像処理回路
50 :偏光パターニング光学部材
60 :被投影部材
80 :反射型回折素子
100 :虚像表示領域
200 :アイボックス
205 :中心
400 :液晶表示パネル
410 :液晶セル
411 :直線偏光膜
412 :直線偏光膜
420 :光源
500 :レーザー走査型表示パネル
510 :レーザーモジュール
520 :スキャナ
530 :スクリーン
560 :折返しミラー
570 :レーザービーム
600 :偏光パターン
610 :第1偏光パターン
650 :第2偏光パターン
700 :目位置
700L :左目位置
700R :右目位置
E2 :第2の偏光軸
EA :基準偏光軸
V :虚像
W :部分領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11