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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ナノ結晶軟磁性材料
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240118BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20240118BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240118BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C22C45/02 A
C21D6/00 C
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F1/153 141
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019125477
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021011602
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】冨田 祐也
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102719746(CN,A)
【文献】特開2010-070852(JP,A)
【文献】特開2012-012699(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065500(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/150952(WO,A1)
【文献】特開2011-171612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C22C 45/02
H01F 1/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe基合金からなるアモルファス母相中に平均粒子径15nm以下の結晶粒子を分散させたナノ結晶軟磁性材料であって、
原子%で、
Si:1.0~5.0%、
B:10.0~12.0%、
C:1.2~5.0%、
P:2.0~6.0%、
Cu:x%(1.0<x<2.5)、
Cr:y%(1.0<y≦2.3)、但し、x+y>2.6、
残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有し、
結晶化度を60%以上とし、保磁力Hcが15[A/m]よりも小さく、且つ、飽和磁束密度B:sが1.40[T]よりも大きいことを特徴とするナノ結晶軟磁性材料。
【請求項2】
前記合金組成は、原子%で、
Si:1.0~3.0%、
B:10.0~12.0%、
C:1.2~3.0%、
P:3.0~5.0%、
Cu:x%(1.0<x<1.5)、
Cr:y%(1.0<y<2.0)、但し、x+y>2.6、
残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1記載のナノ結晶軟磁性材料。
【請求項3】
前記合金組成は、Feを80.0原子%以上で含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のナノ結晶軟磁性材料。
【請求項4】
前記結晶粒子の平均粒子径が5nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載のナノ結晶軟磁性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe基合金からなるアモルファス母相中に結晶粒子を分散させた軟磁性材料、及びその製造方法、これに用いられるFe基合金に関し、特に、加熱によりアモルファス母相中にナノ結晶粒子を分散晶出させたナノ結晶軟磁性材料、及びその製造方法、これに用いられるFe基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
車載リアクトルのような電子部品などに用いられる軟磁性材料において、使用周波数帯域が高周波数側に移行するに従って、高い飽和磁束密度と低い磁歪、低い保磁力が求められるようになってきた。しかしながら、一般的に、磁束密度と損失が互いにトレードオフの関係にあることから、その両立は容易でない。ここで、結晶性の軟磁性材料を非晶質化することで、保磁力を低く且つ飽和磁束密度を高くできることが見いだされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、原子%で、B:3.0~6.0%、Si:≦8.0%、P:4.0~8.0%、Cu:0.3~1.0%、C:8.0~12.0%、Cr:1.0~4.0%、残部をFeとした合金組成を有するFe基軟磁性合金からなるほぼアモルファス単相の軟磁性材料が開示されている。かかる軟磁性材料では、保磁力を低く、且つコアロスも低く出来るとしている。
【0004】
また、アモルファス母相中に結晶粒子を分散晶出させた二相組織を有する軟磁性材料も提案されている。特許文献1でも、アモルファス母相中にナノサイズの粒子径のbcc-Fe結晶粒子を晶出させた二相組織を有するナノ結晶軟磁性材料についての言及がある。
【0005】
特許文献2でも、アモルファス母相中に20nm以下の粒子径のbcc-Fe結晶粒子を晶出させた二相組織を有するナノ結晶軟磁性材料が開示されている。かかるナノ結晶軟磁性材料は、原子%で、P:6~10%、C:6~8%、B:2~6%、Cu:0.4~1%、Si:1~3%、Cr:2原子%以下、残部をFeとした合金組成を有するとしている。急冷凝固により得られたアモルファス粉末を熱処理し微細なbcc-Fe結晶粒子を晶出させて二相組織を得ている。これを圧粉成形することで所定形状の磁性体が製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-211017号公報
【文献】特開2016-23340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、アモルファス母相中に結晶粒子を分散させたナノ結晶軟磁性材料において、結晶磁気異方性は、RAM(ランダム磁気異方性)理論に基づくと、アモルファス母相中に晶出した結晶相粒子の粒子径の逆数に正比例する。そこで、保磁力を低くするには、結晶相粒子の粒子径を小さく且つ均一にすることが好ましい。一方、熱処理によって、より微細な結晶相粒子を得るには、高速加熱する方法が一般的に知られているが、その制御は難しく、生産性に乏しい。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、Fe基合金からなるアモルファス母相中に結晶粒子を分散させたナノ結晶軟磁性材料であって、軟磁気特性に優れるとともに、高い生産性を有するナノ結晶軟磁性材料、及びその製造方法、これに用いられるFe基合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるナノ結晶軟磁性材料は、Fe基合金からなるアモルファス母相中に平均粒子径15nm以下の結晶粒子を分散させたナノ結晶軟磁性材料であって、原子%で、Si:0.1~5.0%、B:5.0~12.0%、C:0.1~5.0%、P:2.0~6.0%、Cu:x%(1.0<x<2.5)、Cr:y%(1.0<y<3.0)、但し、x+y>2.6、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有し、保磁力Hcが15[A/m]よりも小さく、且つ、飽和磁束密度Bsが1.40[T]よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、軟磁気特性に優れるとともに、高い生産性を有する。
【0011】
上記した発明において、前記合金組成は、原子%で、Si:0.1~3.0%、B:10.0~12.0%、C:0.1~3.0%、P:3.0~5.0%、Cu:x%(1.0<x<1.5)、Cr:y%(1.0<y<2.0)、但し、x+y>2.6、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴としてもよい。また、前記合金組成は、Feを80.0原子%以上で含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、高い生産性を維持しつつ、比較的容易に優れた軟磁気特性を得ることができる。
【0012】
上記した発明において、前記結晶粒子の平均粒子径が5nm以下であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、さらに優れた軟磁気特性を得ることができる。
【0013】
また、本発明によるナノ結晶軟磁性材料の製造方法は、Fe基合金からなるアモルファス母相中に平均粒子径15nm以下の結晶粒子を分散させたナノ結晶軟磁性材料の製造方法であって、原子%で、Si:0.1~5.0%、B:5.0~12.0%、C:0.1~5.0%、P:2.0~6.0%、Cu:x%(1.0<x<2.5)、Cr:y%(1.0<y<3.0)、但し、x+y>2.6、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有する母合金を急冷凝固させて得られるアモルファス単相の合金リボンについて、保磁力Hcが15[A/m]よりも小さく、且つ、飽和磁束密度Bsが1.40[T]よりも大きくなるように、200℃/min以下の速度で加熱して前記結晶粒子を分散させることを特徴とする。
【0014】
かかる発明によれば、高い生産性で軟磁気特性に優れるナノ結晶軟磁性材料を得られる。
【0015】
上記した発明において、前記合金組成は、原子%で、Si:0.1~3.0%、B:10.0~12.0%、C:0.1~3.0%、P:3.0~5.0%、Cu:x%(1.0<x<1.5)、Cr:y%(1.0<y<2.0)、但し、x+y>2.6、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴としてもよい。また、前記合金組成は、Feを80.0原子%以上で含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、高い生産性を維持しつつ、比較的容易に優れた軟磁気特性を有するナノ結晶軟磁性材料を得ることができる。
【0016】
上記した発明において、前記結晶粒子の平均粒子径が5nm以下であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、さらに優れた軟磁気特性を有するナノ結晶軟磁性材料を得ることができる。
【0017】
さらに、本発明によるナノ結晶軟磁性材料用Fe基合金は、上記したナノ結晶軟磁性材料の製造方法に用いられる母合金としてのナノ結晶軟磁性材料用Fe基合金であって、原子%で、Si:0.1~5.0%、B:5.0~12.0%、C:0.1~5.0%、P:2.0~6.0%、Cu:x%(1.0<x<2.5)、Cr:y%(1.0<y<3.0)、但し、x+y>2.6、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする。
【0018】
かかる発明によれば、高い生産性で軟磁気特性に優れるナノ結晶軟磁性材料を製造するための合金を得ることができる。
【0019】
上記した発明において、前記合金組成は、原子%で、Si:0.1~3.0%、B:10.0~12.0%、C:0.1~3.0%、P:3.0~5.0%、Cu:x%(1.0<x<1.5)、Cr:y%(1.0<y<2.0)、但し、x+y>2.6、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴としてもよい。また、前記合金組成は、Feを80.0原子%以上で含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、高い生産性を維持しつつ、比較的容易に優れた軟磁気特性を有するナノ結晶軟磁性材料を製造するための合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明による1実施例におけるナノ結晶軟磁性材料の製造方法を示すフロー図である。
図2】製造試験に用いた合金の成分組成及び得られた合金リボンの特性の一覧表である。
図3】製造試験で得られた軟磁性材料の熱処理条件及び特性の一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による1つの実施例としてのナノ結晶軟磁性材料の製造方法について、図1に沿って図2を用いて説明する。
【0022】
図1に示すように、まず、Fe基合金からなるアモルファス単相の合金リボンを製造する(S1)。
【0023】
図2を併せて参照すると、このような合金リボンを得るためのFe基合金は、合金1、5~7に示す化学成分に代表されるような成分組成の合金である。詳細には、原子%で、Si:0.1~5.0%、B:5.0~12.0%、C:0.1~5.0%、P:2.0~6.0%、Cu:x%(1.0<x<2.5)、Cr:y%(1.0<y<3.0)で含有し、さらに、Cu及びCrの含有量に関し、x+y>2.6とするFe基合金である。特に、得られるナノ結晶軟磁性材料においてナノ結晶化を促進させる元素であるCu及びCrの含有量を多く含ませている。なお、ここで言うアモルファス単相の合金リボンとは、実質的にアモルファス単相であればよく、結晶化度が10%以下であると好ましい。
【0024】
このような成分組成を有するFe基合金を母合金として用い、例えば単ロール法によって合金リボンを製造する。すなわち、母合金を溶解し、高速回転する銅製の冷却ロールの表面に溶湯を抽出しつつ凝固させることでアモルファス単相のリボン状の急冷凝固薄体を得て、これを合金リボンとする。ここで、冷却ロールの周速は20~30m/sの範囲内として溶湯を急冷することが好ましく、これによって合金リボンをアモルファス単相とし得る。
【0025】
次に、得られた合金リボンを熱処理する(S2)。
【0026】
単ロール法で得た合金リボンは、上記したようにアモルファス単相であり、昇温速度と保持温度及び保持時間を制御した熱処理によって、α-Feによる結晶粒子をアモルファス母相中に所定形態で分散晶出させることができる。特に、分散晶出させる結晶粒子の平均粒子径を15nm以下に制御することで、得られるナノ結晶軟磁性材料の軟磁気特性として、保磁力Hcを15[A/m]よりも小さくでき、飽和磁束密度Bsを1.40[T]よりも大きくするようにできる。この熱処理によって、合金リボンの局所構造を緩和し、高い靭性を得る。ただし、保持時間を長くし過ぎるなどして高い靭性を有していた素地を脆化させてしまう場合もある。また、FeB等の化合物相の析出を抑制するには、保持時間を長くし過ぎないようにすべきである。そのため、上記した熱処理として、後述する昇温速度とともに保持時間を10~70min、保持温度を440~470℃の範囲で調整することが好ましい。
【0027】
このとき、熱処理の昇温速度が遅すぎるとα-Feの結晶粒子が粗大に成長してしまい、上記したような軟磁気特性を損なう。そのため、一般には加熱時の昇温速度を200℃/min以上とするが、このような昇温速度とする高速加熱では、大量にエネルギーを消費するばかりか、ロットを大きくするほど制御も難しく、生産性に乏しくなる。他方、ロットを小さくしても使用するエネルギーに対する生産量や時間当たりの生産量を小さくして、生産性を乏しくしてしまう。ところが、上記したような成分組成の合金によってアモルファス単相の合金リボンを得ておけば、200℃/min以下の昇温速度としても上記したような結晶粒子の分散晶出を得ることができる。ここで、昇温速度を95~200℃/minとすることが好ましい。例えば、100℃/minの昇温速度であっても、上記した軟磁性特性を得ることができる。
【0028】
さらに、上記したようなアモルファス単相の合金リボンに対して、200℃/min以下の昇温速度の範囲内でも比較的速い昇温速度で加熱することで晶出するα-Feの結晶粒子の平均結晶粒子径を小さくすることができる傾向にある。例えば、この平均粒子径を5nm以下とすることもできる。
【0029】
なお、Fe基合金の成分組成については、さらに、原子%で、Si:0.1~3.0%、B:10.0~12.0%、C:0.1~3.0%、P:3.0~5.0%、Cu:x%(1.0<x<1.5)、Cr:y%(1.0<y<2.0)、但し、x+y>2.6、とすることも好ましい。このような成分組成であれば、アモルファス単相の合金リボンをより容易に得ることができ、上記したような軟磁気特性を有するナノ結晶軟磁性材料の製造が容易になる。また、Feを80原子%以上で含むこともアモルファス単相の合金リボンを容易に得ることができて好ましい。
【0030】
[製造試験]
次に、ナノ結晶軟磁性材料を実際に製造した結果について、図2及び図3を用いて説明する。
【0031】
図2に示すように、まず、合金1~合金12のそれぞれに示す成分組成の合金から合金リボンを製造した。合金リボンの製造には単ロール法を用い、ロール周速、ノズルから出湯させる溶湯の出湯温度、及びノズル前後の差圧のそれぞれについては製造条件の欄に示す通りとした。
【0032】
得られた合金リボンについて、熱処理前の鋳放し状態での軟磁気特性として飽和磁束密度Bs及び保磁力Hcを測定し、さらに結晶化度、靭性について調査した。なお、飽和磁束密度Bsについては振動試料型磁力計を用い、保磁力HcについてはHcメータ(保磁力計)を用いてそれぞれ測定した。また、結晶化度については、XRDパターンにより算出した。詳細には、回折角20°<2θ<120°の範囲での全積分強度Iに対する結晶性ピーク(半値幅<5°)の面積強度Iの比率で算出した。つまり、結晶化度(%)=I/I×100である。靭性については、密着曲げ試験(180°曲げ試験)を実施して、破断するかどうかで評価した。
【0033】
合金1、合金5~合金7、合金10では、結晶化度の比較的小さいアモルファス単相の合金リボンを得ることができた。また、ナノ結晶化を促進させる元素であるCu及びCrの含有量も比較的多かったこともあって、続く熱処理によるナノ結晶化が見込まれた。
【0034】
合金2、合金4及び合金9については、結晶化度が20%以上と大きく、続く熱処理によってもナノ結晶化の見込みが小さかった。なお、この結果を受けて、合金4については続く熱処理をしなかった。合金3及び合金8については、結晶化度を比較的小さくしたものの、ナノ結晶化を促進させる元素であるCu及びCrの含有量が少なく、熱処理によるナノ結晶化の見込みが小さかった。このうち合金3については、続く熱処理をしなかった。
【0035】
次に合金リボンを熱処理した結果について説明する。
【0036】
図3に示すように、合金1、合金2、合金5~合12によって得た合金リボンをそれぞれ「熱処理条件」に示す昇温速度、保持温度及び保持時間によって熱処理した。その結果、実施例1~実施例8については、飽和磁束密度Bsが1.40[T]よりも大きく、保磁力Hcが15[A/m]よりも小さかった。なお、実施例6~実施例8はそれぞれ合金5~合金7を用いており、熱処理前(図2参照)に比べて保磁力Hcを低下させることができた。熱処理によってナノ結晶化させることができたものと考えられる。
【0037】
これに対して、比較例1及び比較例2では保磁力Hcが大きかった。熱処理の保持温度が低くα-Feの結晶粒子が粗大化したためと考えられる。
【0038】
比較例3では、保磁力Hcが大きかった。保持温度を450℃としたが、昇温速度が40℃/minと小さく、その結果、α-Feの結晶粒子が粗大に成長してしまったためと考えられる。
【0039】
比較例4では、保持温度を同じく450℃として昇温速度を100℃/minとしたが、これでも保磁力Hcが大きかった。実施例3では同じ昇温速度であっても保持温度を470℃と高くしたことで保磁力Hcを低く抑えることができていたので、比較例4では保持温度が低かったため、α-Feの結晶粒子が粗大化したものと考えられる。
【0040】
比較例5及び比較例6では、実施例3と同じ保持温度470℃としたが、保磁力Hcが大きかった。昇温速度がそれぞれ30℃/min及び40℃/minと小さく、その結果、α-Feの結晶粒子が粗大に成長してしまったためと考えられる。
【0041】
比較例7~比較例9では、合金2を使用し、いずれも熱処理の昇温速度を200℃/minと高くした。保持温度を430℃、450℃、470℃としたが、いずれも保磁力Hcを大きくしてしまった。合金2ではCuの含有量が少なく、Cu:x原子%、Cr:y原子%としたときのx+yの値も小さく、ナノ結晶化が充分ではなく、結晶粒子径が大きかったものと考えられる。
【0042】
比較例10では、合金8を用いたが、保磁力Hcが大きく、結晶粒子径が大きかった。x+yの値が小さかったためにナノ結晶化が充分ではなかったものと考えられる。
【0043】
比較例11~比較例13では、合金9を用いて保持温度を変えたが、いずれも保磁力Hcが大きかった。Crの含有量が少なく、x+yも小さかったことから、上記と同様にナノ結晶化が充分ではなく、結晶粒子径が大きかったものと考えられる。なお、熱処理の保持時間を10分と短くしたことによる影響は大きくなかったと考えられる。
【0044】
比較例14では、合金10を用いたが、飽和磁束密度Bsが小さかった。Crの含有量が多く、相対的にFeの含有量が少なくなったためと考えられる。
【0045】
ところで、上記した実施例を含むナノ結晶軟磁性材料とほぼ同等の軟磁気特性を与え得るFe基合金の組成範囲は以下のように定められる。
【0046】
Si、B、Cは、アモルファス形成元素であり、相互に協働して合金リボンにアモルファスを形成させる。他方、Siを過剰に含有させると、却ってアモルファス形成能を低下させ、得られるナノ結晶軟磁性材料の飽和磁束密度を低下させる。Bを過剰に含有させると結晶磁気異方性の高いFeBやFeBなどの化合物相を析出させ、またコスト増を招く。Cを過剰に含有させるとアモルファス相からの結晶化温度を低下させて晶出する結晶粒の粗大化を招く。これらと、それぞれの元素の含有量のバランスを考慮して以下のように含有量を定めた。すなわち、Siは、原子%で、0.1~5.0%の範囲内、好ましくは0.1~3.0%の範囲内である。また、Bは、原子%で、5.0~12.0%の範囲内、好ましくは10.0~12.0%の範囲内である。また、Cは、原子%で、0.1~5.0%の範囲内、好ましくは0.1~3.0%の範囲内である。
【0047】
Pは、アモルファス生成元素であるが、他のアモルファス形成元素との相互作用はあまりなく、単独の含有量増加でアモルファス形成能を高め得る。他方、Pを過剰に含有させると得られるナノ結晶軟磁性材料の飽和磁束密度を低下させる。これらを考慮して、Pは、原子%で、2.0~6.0%の範囲内、好ましくは3.0~5.0%の範囲内である。
【0048】
Cuは、Pと結合してナノヘテロ構造のクラスターを形成し、アモルファス母相中に微細に分散することでα-Fe結晶の粗大化を抑制する。他方、Cuを過剰に含有させると、得られるナノ結晶軟磁性材料の保磁力を増加させる。これらを考慮して、Cuは、原子%で、x%とし、1.0<x<2.5の範囲内、好ましくは1.0<x<1.5の範囲内である。
【0049】
Crは、ナノ結晶化熱処理時に残存アモルファス相中で濃化し安定化を促進する。これによりナノ結晶粒の粗大化が抑制され、微細で均一なナノ結晶化組織を得やすい。また、耐食性を向上させて錆の発生を抑制し、得られるナノ結晶軟磁性材料の保磁力を低く維持させる。他方、Crを過剰に含有させるとアモルファス形成能を低下させ、得られるナノ結晶軟磁性材料の保磁力を増加させる。これらを考慮して、Crは、原子%で、y%とし、1.0<y<3.0の範囲内、好ましくは1.0<y<2.0の範囲内である。
【0050】
また、x+yは、得られるナノ結晶軟磁性材料においてナノ結晶化を促進させる元素であるCu及びCrの含有量の指標となり、x+y>2.6の範囲内である。
【0051】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。例えば、本発明によるナノ結晶軟磁性材料は粉砕された粉末材料であってもよい。
図1
図2
図3