(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】変形性関節症の診断
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240118BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240118BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240118BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 V
G01N27/62 V
(21)【出願番号】P 2019155873
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2022-07-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年4月22日 http://square.umin.ac.jp/jsmbm2019/program.html「第51回日本結合組織学会学術大会 プログラム・抄録集第159頁」にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】000135151
【氏名又は名称】株式会社ニッピ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多賀 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】田中 智美
(72)【発明者】
【氏名】金子 晴香
(72)【発明者】
【氏名】楠畑 雅
(72)【発明者】
【氏名】町田 修一
(72)【発明者】
【氏名】平澤 恵理
(72)【発明者】
【氏名】水野 一乘
(72)【発明者】
【氏名】服部 俊治
(72)【発明者】
【氏名】石島 旨章
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-073274(JP,A)
【文献】特表2019-517007(JP,A)
【文献】ADAMCZYK, M. et al.,Synthesis of immunoreagents for measurement of galactosylhydroxylysine,Tetrahedron: Asymmetry,1999年,Vol.10, No.16,p.3157-3165,https://doi.org/10.1016/S0957-4166(99)00331-6
【文献】KUO, T.-R. et al.,Bone biomarker for the clinical assessment of osteoporosis: recent developments and future perspectives,Biomarker Research,2017年,Vol.5, No.18,p.1-9
【文献】WOITGE, H. W. et al.,Markers of Bone and Cartilage Turnover,Exp Clin Endocrinol Diabetes,2017年,Vol.125, No.7,p.454-469,DOI: 10.1055/s-0043-106438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/53
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトシルヒドロキシリシン及びグルコシルガラクトシルヒドロキシリシンの組み合わせからなる、変形性関節症のバイオマーカー。
【請求項2】
被験対象由来の試料
について請求項1記載の変形性関節症の
バイオマーカーを測定する測定方法。
【請求項3】
被験対象由来の試料が血液又は尿である請求項2記載の
測定方法。
【請求項4】
上記
測定方法が質量分析を用いて行われる請求項2又は3記載の
測定方法。
【請求項5】
上記
測定方法がガラクトシルヒドロキシリシン及びグルコシルガラクトシルヒドロキシリシンに同等の力価で反応する抗体を用いて行われる請求項2又は3記載の
測定方法。
【請求項6】
被験対象由来の試料中のガラクトシルヒドロキシリシン量及びグルコシルガラクトシルヒドロキシリシン量を測定する試薬を含む、変形性関節症の検査キット。
【請求項7】
試薬がガラクトシルヒドロキシリシン及びグルコシルガラクトシルヒドロキシリシンに特異的に結合する抗体を含む、請求項6記載の変形性関節症の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症の診断に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(Osteoarthritis:OA)は、遺伝的要因に加え、老化、肥満、外傷などが原因で引き起こされる関節疾患である。OAは、荷重関節である膝関節や股関節によくみられ、軟骨の変性及び摩耗や軟骨下骨の変化により関節の変形を生じ、歩行時に痛みを生じ移動機能が障害される。膝OAの国内患者数は2500万人に達すると推定されている。
【0003】
現在OAは問診、X線検査、CT、MRIなどにより診断されている。また、これまでに、尿や血液中の因子とOAとの関連について多く報告されている(非特許文献1)。例えば、特許文献1では、補体C4-A及び補体C3由来のペプチドフラグメントをOAの診断マーカーとして見出し、これらを質量分析または特異抗体で検出するOAの検査方法が報告されている。また、特許文献2では、IL6、MMP1、IL8などのタンパク質由来のポリペプチドを、質量分析や免疫測定法、その他の方法で検出するOA診断方法が報告されている。特に、骨、軟骨を構成する主要なタンパク質成分であるコラーゲンはOA疾患によって分解され、その分解産物であるコラーゲン由来のペプチドやアミノ酸が血液や尿中で増加するため、I型コラーゲンやII型コラーゲン由来のコラーゲン末端のペプチドはOAのバイオマーカーとしても利用されている。
しかし、これら既存の方法では初期段階で疾患を正確に検出することは難しく、より早期に、より正確にOAを診断するための技術が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-117813号公報
【文献】特開2015-79000号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Value of biomarkers in osteoarthritis: current status and perspectives. Ann. Rheum. Dis. 72(11), 1756-1763, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、OAの診断法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、尿や血液などの生体試料を対象とし、骨と軟骨の主成分であるコラーゲンの分解産物に焦点を当てて鋭意検討したところ、コラーゲンの翻訳後修飾アミノ酸であるヒドロキシプロリン(Hyp)とヒドロキシリシン(Hyl)の量は非OA患者とOA患者との間で有意な差は見られなかった一方、Hylの糖鎖付加体であるガラクトシルヒドロキシリシン(GHL)とグルコシルガラクトシルヒドロキシリシン(GGHL)の量がOA患者で顕著に増加しており、当該GHLとGGHLの合計値を指標にOAを精度良く診断できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の1)~3)を提供するものである。
1)GHL及びGGHLの組み合わせからなる、OAのバイオマーカー。
2)被験対象由来の試料中のGHL量及びGGHL量を指標とする、OAの検査方法。
3)被験対象由来の試料中のGHL量及びGGHL量を測定する試薬を含む、OAの検査キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、OAの正確な診断が可能となる。本発明により早期にOAを診断できれば、OA患者に対し適切な処置を早期に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】OA患者(OA;N = 8)及び膝前十字靭帯損傷患者(Control;N = 5)由来の尿検体中のHyp量、Hyl量、GHL量、GGHL量をLC-MSで測定した結果を示す。
【
図2】OA患者(OA;N = 7)及び膝前十字靭帯損傷患者(Control;N = 5)由来の血清検体中のHyp量、Hyl量、GHL量、GGHL量をLC-MSで測定した結果を示す。
【
図3】抗GHL・GGHL抗体(クローン1)とこれに対する2次抗体を用いた競合ELISA測定系における、Hyl、GHL及びGGHLによる反応阻害率を示す。
【
図4】OA患者(OA;N = 22)及び健常者(Control;N = 31)由来の尿検体による、抗GHL・GGHL抗体(クローン1)とこれに対する2次抗体を用いた競合ELISAの阻害率を示す。
【
図5】OA患者(OA;N = 22)及び健常者(Control;N = 31)由来の尿検体中のGHL+GGHL量をLC-MSで測定した結果を示す。
【
図6】抗GHL・GGHL抗体(HRP標識クローン2)を用いた競合ELISA測定系における、Hyl、GHL及びGGHLによる反応阻害率を示す。
【
図7】OA患者(OA;N = 31)及び健常者(Control;N = 43)由来の尿検体による、抗GHL・GGHL抗体(HRP標識クローン2)を用いた競合ELISAの阻害率を示す。
【
図8】OA患者(OA;N = 31)及び健常者(Control;N = 43)由来の尿検体中のGHL+GGHL量をLC-MSで測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のOAのバイオマーカーは、GHL及びGGHLの組み合わせからなる。ここで、GHLは、Hylにガラクトースが結合した分子式C12H24N2O8で表される化合物であり、GGHLはこれに更にグルコースが結合した分子式C18H34N2O13で表される化合物である。
斯かるバイオマーカーは、OAの検査に用いることができる。
【0012】
本発明のOAの検査方法は、被験対象由来の試料中のバイオマーカーの量、すなわち、GHL量及びGGHL量を指標として行われる。
本発明の検査方法の対象としては、ヒト又は非ヒト動物が挙げられる。非ヒト動物としては、例えば、類人猿、その他霊長類、マウス、ラット、ハムスター、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコなどの非ヒト哺乳動物が挙げられる。好ましくは、ヒトである。ヒトは、関節周囲の疼痛や違和感などの症状を有する者が好ましく挙げられる。
被験対象由来の試料は、例えば、血液(全血)、血液に由来する血漿や血清、尿、関節液などが挙げられる。好ましくは、血液、尿である。
【0013】
GHL量及びGGHL量の測定は、適宜公知の手法を用いることができる。測定方法は、必ずしも厳密な定量方法でなくともよい。例えば、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)や液体クロマトグラフィー(HPLC)などの機器分析法、ELISA法やRIA法などの免疫学的測定法が挙げられる。簡便性及び正確性の観点から、好ましくは、GHL及びGGHLに特異的に結合する抗体を用いたELISA法(例えば、直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法など)である。後記する実施例1に示すように、尿、血清中のHyl量はOA患者と非OA患者で有意な差がないため、いずれの分析方法であっても、GHL、GGHLの前駆体であり、かつ構造の類似したHylと識別してGHL及びGGHLを検出する必要がある。
【0014】
GHL及びGGHLに特異的に結合する抗体は、両者で共通する骨格構造を持つGHLを免疫原として用い、適宜公知の手法により得ることができる。抗体は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、IgYなど)、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、一本鎖抗体フラグメント(scFv)、シングルドメイン抗体、diabodyなどが挙げられ、これらはヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、マウス抗体、ラマ抗体、ニワトリ抗体などのモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体が挙げられる。好ましくは、マウスモノクローナル抗体である。また、GHL及びGGHLに同等の力価で反応する抗体が好ましい。
GHL及びGGHLに特異的に結合する抗体として、国際公開第2004/040971号に記載の方法に従って、GANP(登録商標)マウスで作製した抗体を例として挙げることができる。
【0015】
後述する実施例に示すように、GHLとGGHLはOA患者で顕著に増加している。そして、GHLとGGHLを足し合わせた合計値は、非OA患者に比べて、OA患者において有意に高い値を示す。従って、本発明の検査方法によるGHL量及びGGHL量の測定結果に基づけば、OAの診断が可能である。
OAの診断にあたっては、例えば、被験対象由来の試料中のGHL及びGGHLの合計量と予め設定された閾値を比較して、当該被験対象由来の試料中の合計量が閾値よりも多い場合、被験対象はOAであると判定することができる。閾値は、例えば、健常者又は非OA患者の平均値や中央値を基に、統計解析ソフトウェアを用いたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いて算出するなど、適宜設定することができる。
【0016】
また、被験対象由来の試料中のGHL量及びGGHL量を指標に、OAの治療効果判定や、OA治療薬のスクリーニングを行うこともできる。
【0017】
本発明のOAの検査キットは、被験対象由来の試料中のGHL量及びGGHL量を測定する試薬を含む。当該測定試薬としては、例えば、LC-MSに用いる試薬、HPLCに用いる試薬、免疫学的測定試薬などが挙げられる。本発明のOAの検査キットは、簡便性及び正確性の観点から、好ましくは免疫学的測定試薬を含み、より好ましくはELISA試薬を含む。
ELISA試薬は、GHL及びGGHLに特異的に結合する抗体を含む。抗体は、既に説明したとおりである。
検査キットには、上記測定試薬の他、必要に応じて測定用プロトコールなどを含めることができる。
【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0019】
実施例1
A.方法
(1)測定試料の調製
対象は、人工膝関節置換術を受けた膝OA患者(尿:男4名・女4名、平均71.5歳。血液:男4名・女3名、平均70.1歳)と、コントロール群として膝前十字靭帯再建術を受けた膝OAのない患者(男3名・女2名、平均26.6歳)である。手術日当日の朝に採血と採尿を行い、全血から血清試料を調製した。
尿サンプルは、安定同位体標識コラーゲンをアルカリまたは酸で加水分解して作製した各翻訳後修飾アミノ酸の内部標準(特許第6301298号に記載)を添加し、アセトニトリル及びギ酸をそれぞれ50%、0.1%となるように添加して希釈し測定試料とした。
血清サンプルは、同様に内部標準を添加してからエタノール及びギ酸をそれぞれ75%、0.1%となるように添加して除タンパク処理を行い、遠心分離後の上清を測定試料とした。調製した尿、血清試料について、以下の条件でHyp、Hyl、GHL、GGHLのLC-MS分析を行った。測定結果は、有意水準を0.05に設定したスチューデントのt検定で統計的に評価した。
【0020】
(2)LC-MS測定条件
高速液体クロマトグラフ:1200 Series(Agilent Technologies)、
質量分析装置:3200 QTRAP(AB Sciex)、
分析カラム:TSKgel Amide-80 5μm, 2.0mmi.d.×150mm(Tosoh)、
カラム温度:40℃
移動相:A液;0.1%ギ酸、B液;100%アセトニトリル、
グラジエント条件:0~3分:A液10%;B液90%、3~5分:A液10~30%;B液90~70%、5~15分:A液30~60%;B液70~40%、15~17分:A液90%;B液10%、17~20分:A液10%;B液90%、
流速:0.5mL/min、
イオン化:ESI、ポジティブ、
分析モード:Multiple Reaction Monitoring(MRM)モード、
イオンスプレー電圧:4kV、
イオンソース温度:500℃
【0021】
B.結果
尿サンプルの測定結果を
図1に示す。Hyp及びHylの尿検体中濃度は、OA患者と膝前十字靭帯損傷患者(Control)の間で有意な差は見られなかった一方、GHLの尿検体中濃度はOA検体で有意に増加していた。さらに、GHLとGGHLを足し合わせた合計値(GHL+GGHL)はOA検体において有意に高く、その値は2.7 μmol/mmol creatinineを境界としてControl検体とOA検体で完全に分離された。
同様に、
図2に示すように、血清サンプルでもGHL及びGHL+GGHL値がOA検体で有意に高く、GHL+GGHL値は0.34 nmol/mLを境界としてControl検体とOA検体で完全に分離された。
【0022】
実施例2
A.方法
(1)抗体作製
GHL及びGGHLに特異的に結合する抗体は、国際公開第2004/040971号に記載の方法に従って、GANP(登録商標)マウスを使って作製した(トランスジェニック社)。キャリアタンパク質Keyhole limpet hemocyanin(KLH)に結合させたGHL(KLH-GHL;糖鎖工学研究所社製)を免疫原として用い、GANPマウス3匹に対して背部皮下へカクテル免疫した。3回免疫後に抗血清力価の上昇を確認し、高力価マウス1匹から脾臓を摘出してミエローマ細胞(P3U1)と融合した。融合脾細胞の培養上清をサンプルとして、Hyl標準品(Sigma-Aldrich社製)、GHL標準品(糖鎖工学研究所社製)、GGHL標準品(糖鎖工学研究所社製)による競合ELISAスクリーニングを行った。その結果を元に、Hylに反応せず、GHL及びGGHLに同等の力価で反応する抗体を産生するクローンを選別した。得られたクローンの融合脾細胞を使ってマウス腹水を採取し(免疫生物研究所社)、HiTrap Protein A HPカラム(GE Healthcare社製)を用いて抗体(クローン1、クローン2)を精製した。
【0023】
(2)標準品による競合ELISA(クローン1)
96穴プレートに基質として0.01 μg/mL濃度のKLH-GHLを室温で1時間コートし、1% BSA/PBS-Tで4℃、一晩ブロッキングした。洗浄後、0.01% BSA/PBS-Tで64000倍希釈した抗GHL・GGHL抗体(クローン1)を添加し、そこに競合物質として0~1600 nmol/mLのHyl、GHL又はGGHLを加えて室温で1時間反応させた。洗浄後、0.01% BSA/PBS-Tで10000倍希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG二次抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を添加し、室温で1時間反応させて洗浄した後、TMB溶液(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)で発色させ、プレートリーダーで450 nmの波長で測定を行った。
【0024】
(3)尿検体の測定(クローン1)
人工膝関節置換術を受けた膝OA患者22名(男9名・女13名、平均69.3歳)と、コントロール群として年齢をマッチさせた膝OAのない31名(男11名・女20名、平均65.5歳)から尿検体を採取した。この尿検体を4 mmol/Lクレアチニン濃度に希釈し、抗GHL・GGHL抗体(クローン1)を用いて上記(2)と同様の方法で競合ELISAを行った。他方、同サンプルについて実施例1と同様に、LC-MSを用いてGHL及びGGHLの測定を行った。測定結果は、有意水準を0.05に設定したスチューデントのt検定で統計的に評価した。
【0025】
B.結果
抗GHL・GGHL抗体とこれに対する2次抗体を用いた競合ELISA測定系における、GHL、GGHL及びHylの標準品による反応阻害率を
図3に示す。Hylでは阻害反応が起こらなかった一方、濃度依存性はやや低かったが、GHL、GGHLによって顕著かつ両者でほぼ同等の競合阻害が観察され、この結果から、ここで樹立した競合ELISA測定系は検体中のGHL、GGHLを特異的に検出可能であることが確認された。
この競合ELISA測定系におけるOA患者及び健常者の尿検体による阻害率を
図4に示し、LC-MSで測定した同検体のGHL+GGHL濃度を
図5に示す。ELISA測定系において、健常者に比べてOA患者で有意に阻害率が上昇することが確認され、同様に、LC-MSで評価したGHL+GGHL量もOA患者で有意に上昇することが確認された。
【0026】
実施例3
A.方法
(1)標準品による競合ELISA(HRP標識クローン2)
96穴プレートに基質として0.01 μg/mL濃度のKLH-GHLを室温で1時間コートし、1% BSA/PBS-Tで4℃、一晩ブロッキングした。洗浄後、0.01% BSA/PBS-Tで32000倍希釈した抗GHL・GGHL抗体(HRP標識クローン2:Peroxidase Labeling kit-NH2(同仁化学研究所社製)を用いHRP標識した)を添加し、そこに競合物質として0~4000 nmol/mLのHyl、GHL又はGGHLを加えて25℃で2時間反応させた。洗浄後、TMB溶液で発色させ、プレートリーダーで450 nmの波長で測定を行った。
【0027】
(2)尿検体の測定(HRP標識クローン2)
人工膝関節置換術を受けた膝OA患者31名(男12名・女19名、平均68.9歳)と、コントロール群として年齢をマッチさせた膝OAのない43名(男17名・女26名、平均66.7歳)から尿検体を採取した。この尿検体を2 mmol/Lクレアチニン濃度に希釈し、抗GHL・GGHL抗体(HRP標識クローン2)を用いて上記(1)と同様の方法で競合ELISAを行った。他方、同サンプルについて実施例1と同様に、LC-MSを用いてGHL及びGGHLの測定を行った。測定結果は、有意水準を0.05に設定したスチューデントのt検定で統計的に評価した。
【0028】
B.結果
HRP標識抗GHL・GGHL抗体を用いた競合ELISA測定系における、GHL、GGHL及びHylの標準品による反応阻害率を
図6に示す。実施例2と同様に、GHL、GGHL特異的かつ両者でほぼ同等な反応阻害が確認され、このELISA測定系においてはGHL、GGHL濃度依存的な阻害率の上昇も示された。
この競合ELISA測定系におけるOA患者及び健常者の尿検体による阻害率を
図7に示し、LC-MSで測定した同検体のGHL+GGHL濃度を
図8に示す。HRP標識抗GHL・GGHL抗体を用いることで、実施例2で使用した4 mmol/Lクレアチニン濃度よりも低い、2 mmol/Lクレアチニン濃度の尿検体でも測定が可能となり、このELISA測定系においても、健常者に比べてOA患者で有意に阻害率が上昇することが確認された。また、LC-MSで評価したGHL+GGHL量もOA患者で有意に上昇することが確認された。
以上の結果から、GHLとGGHLの組み合わせはOAの検査用バイオマーカーとして有用であり、当該バイオマーカーを測定することでより精度の高いOAの診断が可能であることが確認された。