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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】イソプレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/333 20060101AFI20240118BHJP
   C07C 11/18 20060101ALI20240118BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
C07C5/333
C07C11/18
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019233257
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021102561
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】梅田 匡
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 敦司
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 泰之
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-117405(JP,A)
【文献】特公昭48-034566(JP,B1)
【文献】特開2019-193921(JP,A)
【文献】特表平03-501942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/333
C07C 11/18
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソペンテンを含む原料組成物をMFI構造のゼオライト触媒に接触させて、イソプレンを含む反応生成物を得る脱水素工程を備え、
前記ゼオライト触媒が、ゼオライト骨格中に、Zn原子を含み、ルイス酸性と強い固体塩基性を有し、CO -TPD分析によって500℃以上の高温域にゼオライト触媒由来のピークが検出される、
イソプレンの製造方法。
【請求項2】
Zn原子の含有量は、Si原子に対して1~15atom%である、請求項1に記載のイソプレンの製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライト触媒は、アルカリ金属を含有しないか又は前記ゼオライト骨格のSi原子に対して1atom%以下のアルカリ金属を含有する、請求項1又は請求項2に記載のイソプレンの製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライト触媒は、Pt原子が担持されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のイソプレンの製造方法。
【請求項5】
前記原料組成物は、分子状水素を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のイソプレンの製造方法。
【請求項6】
イソペンタンの脱水素反応により、イソペンテンを得る原料合成工程を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のイソプレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソプレンは、合成ゴムの原料として工業的に広く利用されている。イソプレンの製造方法としては、不活性ガス存在下、固体触媒を用いてイソアミレンを脱水素反応させる方法が知られている(特許文献1及び2)。
一方、ブタンの直接脱水素化反応に用いられる脱水素触媒としては、ゼオライト触媒等が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-208603号公報
【文献】特開2015-151391号公報
【文献】特開2019-193921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2のような従来のイソプレンの製造方法においては、原料の転化率は良好であるものの、高い収率で長時間に亘って安定的にイソプレンを製造することに関しては検討が十分とはいえず、未だ改善の余地が残されていた。
【0005】
本発明は、イソプレンの新規製造方法として、ゼオライト触媒を用いて高い収率で長時間に亘って安定的にイソプレンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定のゼオライト触媒を用いることで、イソペンテンを含む原料組成物から高い収率で長時間に亘って安定的にイソプレンを製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の一側面は、イソペンテンを含む原料組成物をMFI構造のゼオライト触媒に接触させて、イソプレンを含む反応生成物を得る脱水素工程を備えるイソプレンの製造方法に関する。この製造方法において、上記ゼオライト触媒は、当該ゼオライト骨格中に、遷移金属又はポスト遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属原子を含み、ルイス酸性と強い固体塩基性を有する。
【0008】
一態様において、上記金属原子は、Zn原子、Fe原子、Ni原子から選択される1種以上であり、上記金属原子の含有量は、Si原子に対して1~15atom%であってもよい。
【0009】
一態様において、上記ゼオライト触媒は、アルカリ金属を含有しないか又は上記ゼオライト骨格のSi原子に対して1atom%以下のアルカリ金属を含有していてもよい。
【0010】
一態様において、上記ゼオライト触媒は、Pt原子が担持されたものであってもよい。
【0011】
一態様において、上記原料組成物は、分子状水素を更に含んでいてもよい。
【0012】
一態様に係る製造方法は、イソペンタンの脱水素反応により、イソペンテンを得る原料合成工程を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イソプレンの新規製造方法として、ゼオライト触媒を用いて高い収率で長時間に亘って安定的にイソプレンを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例に係るゼオライト触媒及びZn含浸担持触媒のシンクロトロンXRD分析の結果を示す図である。
図2】実施例に係るゼオライト触媒の29Si MAS NMR測定の結果を示す図である。
図3】実施例に係るゼオライト触媒、ZnO結晶、及びZn含浸担持触媒のFT-IR分析の結果を示す図である。
図4】実施例に係るゼオライト触媒、ZnO結晶、及びZn含浸担持触媒にピリジンを吸着させたもののFT-IR分析の結果を示す図である。実施例に係るゼオライト触媒にブレンステッド酸がほとんど存在しないことがわかる。
図5】実施例に係るゼオライト触媒及びZn含浸担持触媒のCO-TPD分析の結果を示す図である。実施例に係るゼオライト触媒では、500℃以上の高温で脱離ピークが観測されており、強い塩基点が存在することがわかる。
図6】実施例に係るゼオライト触媒及びZn含浸担持触媒のNH-TPD分析の結果を示す図である。
図7】実施例に係るゼオライト触媒の塩基量とn-ブタンの脱水素反応で得られたブタジエン収率の相関を示す図である。CO-TPD分析で500℃以上の脱離温度で観測される塩基点量が多い(図の枠内)ほど活性が高いことがわかる。
図8】実施例に係るゼオライト触媒の酸量とn-ブタンの脱水素反応で得られたブタジエン収率の相関を示す図である。NH-TPD分析からルイス酸量が多い(図の枠内)ほど活性が高いことがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係るイソプレンの製造方法は、イソペンテンを含む原料組成物をMFI構造のゼオライト触媒に接触させて、イソプレンを含む反応生成物を得る脱水素工程を備える。
本実施形態に係る製造方法によれば、特定のゼオライト触媒を採用することで、高い収率で長時間に亘って安定的にイソプレンを製造することができる。
【0017】
(ゼオライト触媒)
本実施形態に係るゼオライト触媒は、ゼオライト骨格中に、遷移金属又はポスト遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属原子を含み、ルイス酸性と強い固体塩基性を有する。
【0018】
本実施形態に係るゼオライト触媒は、ゼオライト触媒中にはブレンステッド酸はほとんど存在しておらず、ルイス酸のみが存在している。一般的に、脱水素反応の副生成物はブレンステッド酸の存在により生成量が増減することが知られているが、本実施形態に係るゼオライト触媒ではブレンステッド酸がほとんど存在していないことから、副反応の制御が可能であり、副生成物の発生を抑制することができる。本実施形態に係るゼオライト触媒をイソプレンの製造に用いることで、例えば副反応が抑制されイソプレン選択率が向上する、分解副生成物の重合によるコークの発生が抑制されること等が考えられ、これにより長時間に亘って安定的にイソプレンを製造することができる。さらに、本実施形態に係るゼオライト触媒は脱水素反応の活性サイトが高分散に配置されていること等から、本実施形態に係るゼオライト触媒をイソプレンの製造に用いることで、イソプレンを高収率で製造することができる。
【0019】
ここで、ゼオライトとは、四面体構造をもつTO単位(Tは中心原子)がO原子を共有して三次元的に連結し、開かれた規則的なミクロ細孔を形成している結晶性物質を意味する。
【0020】
遷移金属とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期表における周期表第3族元素から第12族元素に属する金属を意味する。
ポスト遷移金属とは、周期表における周期表第4周期、第5周期、第6周期の遷移金属よりも後の原子番号の卑金属を意味する。
【0021】
ゼオライト骨格中に金属原子を含むとは、水熱合成の原料として金属原子を混合する方法等により、ゼオライト骨格中にケイ素(Si)と同様に金属原子が導入されていることを意味する。ゼオライト骨格中に金属原子を含んでいる状態は、例えば、XRD(X-ray Diffraction)、NMR(Nuclear Magnetic Resonance spectroscopy)、FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)及びESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)等の各種測定方法により把握することができる。
【0022】
ルイス酸性とは、非共有電子対を受容し得る性質を意味し、例えば、ゼオライト触媒にピリジンを吸着させてFT-IR分析した際に、1450cm-1付近に吸収バンドが検出されることを意味する。
【0023】
固体塩基性とは、ゼオライト触媒の表面が塩基性を示すことを意味する。固体塩基性が強いとは、ゼオライト触媒の表面の塩基性が強いことを意味し、例えば、TPD(Temperature Programmed Desorption)分析装置でCO-TPD分析した際に、500℃以上の高温域にゼオライト触媒由来のピークが検出されることをいう。
【0024】
本実施形態に係るゼオライト触媒は、10員環構造のゼオライトであり、MFI構造を有する。MFI構造のゼオライトは、特に限定されるものではないが、好ましくは結晶性メタロシリケートである。なお、MFI構造のゼオライトとは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)でデータベース化されている構造コ-ドでMFIに該当するゼオライトを意味する。
ゼオライトが10員環構造、特にMFI構造のゼオライトであることは、例えばX線回折等により確認することができる。
【0025】
ゼオライト骨格中に含まれる金属原子は、遷移金属原子、ポスト遷移金属原子であれば特に限定されず、例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、インジウム(In)等を用いることができる。これらの中でも、脱水素反応の反応性に優れる観点からは、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)を用いるのが好ましい。ゼオライト骨格中に含まれる金属原子は、1種単独でもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0026】
ゼオライト骨格中に含まれる金属原子の含有量は、特に限定されるものではないが、ケイ素(Si)原子に対して1~15atom%が好ましく、2~10atom%がより好ましい。ゼオライト骨格中に含まれる金属原子の含有量が上記範囲の下限値以上であれば、ゼオライト触媒の固体塩基性が強くなり、イソペンテンの脱水反応の反応性に優れる。ゼオライト骨格中に含まれる金属原子の含有量が上記範囲の上限値以下であれば、金属含有量に対するイソペンテンの脱水素反応の反応効率に優れる。
【0027】
ゼオライト触媒中に含まれるアルカリ金属の含有量は、アルカリ金属を含有しないか又はSi原子に対して1atom%以下であることが好ましく、0.1atom%以下であることがより好ましい。上記上限値以下であれば、ゼオライトの結晶化を促進しつつ、イソプレンの脱水素反応の反応性を高く維持することができる。
【0028】
ゼオライト触媒は、成形性を向上させる観点から、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、成形助剤を更に含有していてもよい。成型助剤は、例えば、増粘剤、界面活性剤、保水剤、可塑剤、バインダー原料等からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。ゼオライト触媒を成形する成形工程は、成形助剤の反応性を考慮してゼオライト触媒の製造工程の適切な段階で行ってよい。
【0029】
ゼオライト触媒は、白金(Pt)源を用いて、担体に白金を担持させたものであってよい。白金源としては、例えば、テトラアンミン白金(II)酸、テトラアンミン白金(II)酸塩(例えば、硝酸塩等)、テトラアンミン白金(II)酸水酸化物溶液、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸エタノールアミン溶液等が挙げられる。白金源としては、塩素原子を含まない金属源を用いることが好ましい。塩素原子を含まない金属源を用いることで、装置の腐食を抑制でき、より効率的にイソペンテンの脱水素を行うことができる。
【0030】
ゼオライト触媒に白金を担持させる場合、ゼオライト触媒における白金の含有量は、ゼオライト触媒の全量基準で通常0.05~2.5wt%である。白金の担持量は、ゼオライト触媒の全量基準で、好ましくは0.1wt%以上である。また、白金の担持量は、ゼオライト触媒の全量基準で、好ましくは2.0wt%以下である。このような担持量であると、単位白金重量あたりの白金表面積が大きくなるため、より効率的な反応系が実現できる。
【0031】
ゼオライト触媒は、前処理として還元処理が行われたものを用いてもよい。還元処理は、例えば、還元性ガスの雰囲気下、40~600℃でゼオライト触媒を保持することで行うことができる。保持時間は、例えば0.05~24時間であってよい。還元性ガスは、例えば、水素、一酸化炭素等を含むものであってよい。還元処理を行ったゼオライト触媒を用いることで、脱水素反応の初期の誘導期を短くすることができる。脱水素反応の初期の誘導期とは、ゼオライト触媒中の担持金属のうち、還元されて活性状態にあるものが非常に少なく、触媒の活性が低い状態を意味する。
【0032】
<ゼオライト触媒の調製方法>
本実施形態に係るゼオライト触媒は、シリカゲルの熟成工程、水熱合成工程、焼成工程を組み合わせて処理することにより調製することができる。これによりアルカリ金属、ホウ素又はアルミニウムを使用せずにゼオライト触媒を調製することができる。
【0033】
本実施形態に係るゼオライト触媒の好適な製造例の一例としては、例えば、シリカ源と有機構造規定剤(OSDA)と、水とを混合し、100℃以下で10時間以上熟成(攪拌)し、その後、遷移金属原子又はポスト遷移金属原子を金属源として混合した後に、100℃以上にて水熱合成し、その後、500℃以上で5時間以上焼成すること等が挙げられる。
ゼオライト触媒に白金を担持させる場合、白金の担持方法は特に限定されず、例えば、含浸法、沈着法、共沈法、混練法、イオン交換法、ポアフィリング法等を用いることができる。
【0034】
シリカ源としては、例えば、シリコンアルコラート、シラン、四塩化ケイ素、水ガラス等の加水分解するシリコン化合物等を用いることができる。
有機構造規定剤としては、MFI構造のゼオライトが得られれば特に制限されず、例えば、4級アルキルアンモニウム塩、アミン等を用いることができる。有機構造規定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
本実施形態に係るゼオライト触媒の好適な製造例の一例としては、水熱合成後に得られた合成反応物を500℃以上で5時間以上焼成する前に、合成反応物を水洗浄する工程を更に含むのが好ましい。水洗浄する工程を含むことにより、ゼオライト触媒に対するナトリウム等のアルカリの影響を小さくすることができる。
【0036】
上述した方法は、アルカリ金属、ホウ素又はアルミニウムを使用せずにゼオライト触媒を調製する好適な製造例の一例であるが、本実施形態の製造方法としては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、アルカリ金属、ホウ素又はアルミニウムの使用を制限するものではない。例えば、水熱合成する際に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、アルカリ金属を混合してもよい。アルカリ金属を混合することにより、ゼオライトの結晶化が促進され、遷移金属原子又はポスト遷移金属原子がゼオライト骨格中に導入されたMFI構造のゼオライト触媒を得られ易い傾向がある。
アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)等が挙げられる。これらの中でも、ナトリウム(Na)が好ましい。アルカリ金属の混合量としては、上述したように、ゼオライト触媒中のSi原子に対して1atom%以下となる量を混合するのが好ましい。
【0037】
上記方法により、遷移金属原子又はポスト遷移金属原子をゼオライトの骨格中に導入され、活性サイトが高分散されたゼオライト触媒を得ることができる。さらに、ブレンステッド酸がほとんど存在せず、ルイス酸のみが存在する、強い固体塩基性を有するゼオライト触媒を得ることができる。
【0038】
(イソプレンの製造方法)
本実施形態に係る製造方法では、脱水素工程において、イソペンテンを含む原料組成物を上記のゼオライト触媒に接触させる。これにより、イソペンテンの脱水素反応が生じ、イソプレンを含む反応生成物が得られる。
【0039】
<原料組成物>
原料組成物としては、少なくともイソペンテンを含有していればよい。イソペンテンは、炭素数5の分岐状炭化水素である、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン及び3-メチル-1-ブテンをいう。イソペンテンとしては、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン及び3-メチル-1-ブテンのうち1種単独であってよく、2種以上を含む混合物であってもよい。
本実施形態においてイソペンテンのモル分率は、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン及び3-メチル-1-ブテンの合計モル分率をいう。
【0040】
イソペンテンの製造由来は特に限定されない。例えば、ナフサ熱分解炉等で得られる炭素数5の炭化水素を主成分とする炭素数5の炭化水素を主成分とするC5留分を含むものであってよい。ナフサ熱分解炉又はナフサ接触分解炉で得られるC5留分からこのとき、製造方法に起因するイソプレン以外の化合物が任意に混合した状態のものをそのまま用いてもよいし、精製したものを用いてもよい。
【0041】
2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン及び3-メチル-1-ブテンの混合割合は特に限定されず、例えば、製造方法に起因する割合に依存したものであってよい。イソペンテンとして、2-メチル-1-ブテン及び2-メチル-2-ブテンから構成されている場合には、例えば、2-メチル-1-ブテンと2-メチル-2-ブテンとの混合割合(wt%)は、20:80~50:50が好ましい。
なお、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン及び3-メチル-1-ブテンの混合割合は、ガスクロマトグラフ分析装置を用いて測定することができる。
【0042】
原料組成物は、イソペンテン以外の他の化合物を更に含有していてもよい。例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスやスチーム、分子状水素、酸素、一酸化炭素、炭酸ガス、アルカン類、オレフィン類等を更に含有していてもよい。これらの中でも、イソペンテンの脱水素反応における反応効率を向上させる観点からは、分子状水素を含むのが好ましい。
一般的に、脱水素反応では、分子状水素を共存させると熱力学的平衡制約の観点から収率が低下することが知られている。しかし、本発明者らは、本実施形態のゼオライト触媒を用いた場合には、敢えて分子状水素を共存させることで、イソペンテンの脱水素反応における反応効率を向上させることができることを見出した。このため、原料組成物は、分子状水素を含むのが好ましい。
【0043】
原料組成物としてイソペンテン以外の成分を含有するとき、原料組成物におけるイソペンテンのモル分率は、0.1以上とすることが好ましく、0.2以上とすることがより好ましい。原料組成物におけるイソペンテンのモル分率の上限は、特に限定されないが、例えば0.95以下であってよく、好ましくは0.9以下である。イソペンテン以外の成分を含有させることにより、脱水素反応が進行し易くなり、触媒の活性低下が抑制される傾向がある。しかし、この成分を加熱するために多量のエネルギーを要するため、工業的には、適切な量とする必要がある。原料組成物におけるイソペンテンのモル分率が上記範囲であると、脱水素反応に必要となるエネルギーがより抑制され、イソペンテンを効率良く脱水素させることができる。
【0044】
原料組成物として分子状水素を含有する場合、原料組成物において、イソペンテンに対する分子状水素のモル比(分子状水素/イソペンテン)は、10.0以下であることが好ましく、7.0以下であることより好ましい。これにより、熱力学的平衡制約の影響が小さくなり、脱水素反応がより効率良く進行する傾向がある。また、原料組成物におけるイソペンテンに対する分子状水素のモル比(分子状水素/イソペンテン)は、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。分子状水素の存在によって、触媒上でのコーク生成を抑制することができ、触媒の耐久性が向上し、イソプレンを高収率で得ることができる。
【0045】
原料組成物として分子状水素を含有する場合、イソペンテン及び分子状水素以外の他の化合物の合計含有量は、例えば、イソペンテンに対して10.0倍モル以下であってよく、イソペンテンに対して5.0倍モル以下が好ましく、0であってもよい。
【0046】
<脱水素工程>
脱水素工程では、例えば、ゼオライト触媒が充填された反応器を用い、当該反応器に原料組成物を流通させることにより脱水素反応を実施してよい。反応器としては、固体触媒による気相反応に用いられる種々の反応器を用いることができる。反応器としては、例えば、固定床断熱型反応器、ラジアルフロー型反応器、管型反応器等が挙げられる。
【0047】
脱水素反応の反応形式は、例えば、固定床式、移動床式又は流動床式であってよい。これらのうち、設備コストの観点から固定床式が好ましい。
【0048】
原料組成物をゼオライト触媒に接触させる際の温度(脱水素反応の反応温度、又は、反応器内の温度ということもできる。)は、反応効率の観点から、例えば350~800℃であってよく、400~700℃であってよく、450℃~650℃であってよい。反応温度が350℃以上であれば、イソペンテンの平衡転化率が低くなりすぎないため、イソプレンの収率が一層向上する傾向がある。反応温度が800℃以下であれば、コークの生成速度が抑制され、ゼオライト触媒の高い活性をより長期にわたって維持することができる。
【0049】
原料組成物をゼオライト触媒に接触させる際の圧力(脱水素反応の反応圧力、又は、反応器内の圧力ということもできる。)は、例えば0.01~4.0MPaであってよく、0.03~0.5MPaであってよく、0.05~0.3MPaであってよい。反応圧力が上記範囲にあれば脱水素反応が進行し易くなり、一層優れた反応効率が得られる傾向がある。
【0050】
脱水素工程を、原料を連続的に供給する連続式の反応形式で行う場合、質量空間速度(以下、「WHSV」と称する場合がある。)は、0.01h-1以上であってよく、0.1h-1以上であってもよい。このようなWHSVであると、イソプレンの転化率をより高くすることができる。また、WHSVは100h-1以下であってよく、20h-1以下であってもよい。このようなWHSVであると、反応器サイズをより小さくできる。ここで、WHSVとは、連続式の反応装置における、ゼオライト触媒の質量Wに対する原料の供給速度(供給量/時間)Fの比(F/W)である。なお、原料及び触媒の使用量は、反応条件、触媒の活性等に応じて更に好ましい範囲を適宜選定してよく、WHSVは上記範囲に限定されるものではない。
【0051】
<イソペンタンの脱水素工程>
本実施形態に係る製造方法は、イソペンタンの脱水素反応により、イソペンテンを得る原料合成工程を更に備えていてもよい。
イソペンタンを脱水素反応によりイソペンテンを得る第1の脱水素工程と、得られたイソペンテンを脱水素反応によりイソプレンを得る第2の脱水素工程とを有する製造方法、つまり、イソペンタンを有する原料からイソプレンを製造する製造方法が、本実施形態に係る好ましい製造例として挙げられる。
【0052】
第1及び第2の脱水素工程における製造条件(温度、圧力等の条件)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜調整することができるが、例えば、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン及び3-メチル-1-ブテンが好適な割合で混合されているイソペンテンを第1の脱水素工程で得て、そのイソペンテンを用いて第2の脱水素工程でイソプレンを効率よくかつ高収率に製造しようとすると、第1の脱水素工程における製造条件は比較的温和な条件で、そして第2の脱水素工程における製造条件は第1の脱水素工程に比べると過酷な条件で製造することが好ましい。
第1の脱水素工程において、イソペンタンを含む原料を脱水素触媒に接触させる際の温度は、特に制限されるものではないが、例えば、350~800℃であるとよい。
第1の脱水素工程において、イソペンタンを含む原料を脱水素触媒に接触させる際の圧力は、特に制限されるものではないが、例えば、0.01~5MPaであるとよい。
第1の脱水素工程において、WHSVは、特に制限されるものではないが、例えば、0.1~20h-1であるとよい。
【0053】
第1の脱水素工程における脱水素反応は、例えば、C5留分を脱水素触媒に接触させることにより実施できる。より具体的には、例えば、脱水素触媒が充填された反応器にC5留分を流通させることで、脱水素反応を実施することができる。第1の脱水素工程における脱水素反応は、一つの反応器で実施してよく、連結された複数の反応器で実施してもよい。
【0054】
第1の脱水素工程で使用する脱水素触媒としては、イソペンタンの脱水素反応を触媒する固体触媒を特に制限なく用いることができる。例えば、脱水素触媒としては、脱水素反応の触媒として用いられるクロム/Al系触媒、白金/Al系触媒、Fe-K系触媒、白金/SnO-Al触媒、白金-スズ/マグネシアアルミナ触媒、酸化的脱水素反応の触媒としてよく用いられるBi-Mo系触媒等を用いることができるが、脱水素反応の反応性に優れる観点から、本実施形態のゼオライト触媒を用いるのが好ましい。
【0055】
第1の脱水素工程は、例えばC5留分中の全てのイソペンタンをイソペンテンに変換する必要はなく、イソペンタンの一部をイソペンテンに変換すればよい。第1の脱水素工程におけるイソペンタンの転化率は、第1の脱水素工程の反応条件を変更することで適宜調整することができる。
【0056】
第1の脱水素工程におけるイソペンタンの転化率は、例えば30wt%以上であってよく、好ましくは40wt%以上であり、より好ましくは50wt%以上である。このような転化率となるように反応条件を調整することで、第2の脱水素工程に供給されるイソペンテンの割合が増加して、1サイクルでのイソプレン収量が増加する傾向がある。
【0057】
上記第1及び第2の脱水素工程を有する製造方法によれば、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン及び3-メチル-1-ブテンが混合されているイソプレンを製造することができるため、イソペンタンからイソプレンを高効率かつ高収率に製造することができる。
【0058】
より具体的な製造方法としては、反応器の下流側に上述のゼオライト触媒を充填し、反応器の上流側にイソペンタンをイソプレンに変換するための脱水素触媒を充填することが挙げられる。本実施形態のゼオライト触媒は、イソペンテンからイソプレンへの脱水素反応の反応活性に優れるため、当該製造方法によれば、イソペンタンからイソプレンを効率良く製造することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る製造方法によれば、特定のゼオライト触媒を用いることで、イソペンテンを含む原料組成物から高い収率で長時間に亘って安定的にイソプレンを製造することができる。これにより、イソプレンを製造する際に必要となる触媒再生の回数を減少し、生産効率を向上させることができるため、工業的に非常に有用である。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0061】
[触媒合成例1]
<触媒Aの調製>
(1)熟成工程
ステンレス製耐圧容器の内部に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)4.0g、20~25wt%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TPAOH、有機構造規定剤)4.6gを加え、密閉し、80℃にて24時間撹拌(熟成)を行った。撹拌後の混合物の状態は液状であった。TPAOHは、ゼオライト構造を構築する規定剤として、また、水溶液を塩基性とするために加えられている。これにより、塩基性水溶液中でTEOSが縮重合された。
【0062】
(2)水熱合成工程
ゼオライト骨格中に導入する金属元素(本合成例では亜鉛)の金属塩(本合成例では硝酸亜鉛6水和物)をイオン交換水0.5gに溶解した。
その後、熟成工程で得られた混合物に加え、室温(25~30℃)で均一化するまで撹拌を行った。これにより、シリカと亜鉛イオンが共存するゲルが得られた。ゲル化した混合物をオーブンに投入し、20rpmで回転させながら175℃で24時間水熱合成を行った。
【0063】
(3)焼成工程
水熱合成工程後の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離によりゲル状のサンプルを得た。その後、このゲル状のサンプルを、イオン交換水を用いて洗浄した。
洗浄は、ゲル状のサンプルにイオン交換水を加えて洗浄した後、遠心分離を行った。遠心分離後の上澄み液のpHを測定し、pHが7~8の範囲に属するまで洗浄・遠心分離を繰り返した。
洗浄後のゲル状のサンプルを90℃のオーブンにて乾燥させた。
乾燥後のサンプルをマッフル炉に投入し、550℃で8時間、空気環境下で焼成を行い、ゼオライト触媒を得た。これにより、ゼオライト中の有機物であるテトラプロピルアンモニウムイオン(カチオン)が除去されたことになる。
【0064】
得られたゼオライト触媒について、次の測定を行った。
(a)シンクロトロンXRD分析
シンクロトロンXRD装置にてXRD分析を行った。
(b)固体NMR分析
NMR(日本電子株式会社製、ECA-600)にて29Si MAS NMR測定を行った。
(c)FT-IR分析
FT-IR(日本分光株式会社製、FT/IR-4600)にて構造解析を行った。このとき、前処理として、450℃で1時間真空排気を行った。
(d)CO-TPD分析
TPD分析装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELCAT II)にてCO-TPD分析を行った。ゼオライト触媒約30mgを、ヘリウムガスを流量50mL/minで流通させながら500℃1時間の前処理を行った。その後、40℃未満まで冷却し、1vol%CO/Heガスを流量50mL/minで流通させてゼオライト触媒にCOを吸着させた後、ヘリウムガスを流量50mL/minにて5分間流通させた。その後、ヘリウムガスを30mL/minにて流通させながら、800℃まで昇温速度10℃/minにて昇温させ、COの離脱をTCD(Thermal Conductivity Detector)とMASSにて分析を行った。MASSは、マイクロトラック・ベル株式会社製、BELMassを用いた。
塩基量の測定は、CO-TPDによるピーク面積から算出した。
(e)NH-TPD分析
TPD分析装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELCAT II)にてNH-TPD分析を行った。ゼオライト触媒約30mgを、ヘリウムガスを流量50mL/minで流通させながら500℃1時間の前処理を行った。その後、100℃まで冷却し、1vol%NH/Heガスを流量50mL/minで流通させてゼオライト触媒にNHを吸着させた後、ヘリウムガスを流量50mL/minにて15分間流通させた。その後、ヘリウムガスを30mL/minにて流通させながら、700℃まで昇温速度10℃/minにて昇温させ、NHの離脱をTCDとMASSにて分析を行った。MASSは、マイクロトラック・ベル株式会社製、BELMassを用いた。
ルイス酸量の測定は、NH-TPDによるピーク面積から算出した。
【0065】
(a)シンクロトロンXRD分析
シンクロトロンXRD分析の結果を図1に示す。Zn含浸担持触媒(金属が導入されていないMFI型ゼオライトにZnを含浸担持した触媒をいう。)では、点線で示す位置に、ZnO結晶に起因するピークが見られたが、本実施例におけるゼオライト触媒では、ZnO結晶に由来するピークは見られなかった。
(b)固体NMR分析
29Si MAS NMR分析の結果を図2に示す。Si、O、Znで構成されるゼオライトを29Si MAS NMRで測定すると、Si原子の4つの結合が-O-Siのみの場合には-110~-120ppmにピークが現れ、Si原子の4つの結合のうち少なくとも1つの結合が-O-Znである場合には-100ppm付近にピークが現れる(「Synthesis and Characterization OF Zincosilicates with the SOD Topology」M.A.Camblor,R.F.Lobe,H.Koller,M.E.Davis,Chemistry of Materials,6,P.2193-2199(1994))。本実施例におけるゼオライト触媒では、この-100ppmのピークが見られた。
(c)FT-IR分析
450℃で1時間真空排気して前処理を行った後、室温でのFT-IR分析の結果を図3に示す。Zn同士が近くに存在すれば、前処理によりZn-O-Znとなる。ZnO結晶やZn含浸担持触媒では、FT-IR分析において、3600~3700cm-1の領域に吸収バンドを有さない。しかし、本実施例におけるゼオライト触媒においては、ZnのZn-OH振動に由来する3640cm-1付近の吸収バンドが見られ、ゼオライト骨格内に取り込まれて、Zn同士は孤立しているとみられる。
また、前処理後に150℃まで冷却し、ピリジンを導入し、真空排気しながら250℃まで昇温させた後にFT-IR分析を行った。その結果を図4に示す。ブレンステッド酸が存在する場合、ゼオライト触媒にピリジンを吸着させてFT-IRで測定すると、1560cm-1付近にCN-Hの振動に由来する吸収バンドが見られることが知られている。しかしながら、本実施例におけるゼオライト触媒では、当該吸収バンドが見られなかった。
ルイス酸が存在する場合、ゼオライト触媒にピリジンを吸着させてFT-IRで測定すると、1450cm-1付近に吸収バンドが見られることが知られている。そして、本実施例におけるゼオライト触媒では、1450cm-1付近に吸収バンドが見られた。このことから、本実施例におけるゼオライト触媒は、ブレンステッド酸を有さず、ルイス酸のみを有することが判明した。
(d)CO-TPD分析
CO-TPD分析の結果を図5に示す。CO-TPD分析において、一般的なアルミニウムを含むゼオライト触媒では、100℃付近の低温域にピークは示すものの、500℃以上の高温域ではピークは見られない。また、Zn含浸担持触媒では、100℃付近にのみピークが見られる。しかしながら、本実施例におけるゼオライト触媒では、500℃以上の高温域においてもピークが見られ、このゼオライト触媒の固体塩基性が強いことが確認された。なお、CO-TPDによる500℃以上の高温域のピーク面積から算出した固体塩基量は、0~0.035mmol/gであった。
(e)NH-TPD分析
NH-TPD分析の結果を図6に示す。NH-TPD分析において、Zn含浸担持触媒では200℃付近にブロードなピークが見られた。また、本実施例におけるゼオライト触媒では、150℃~500℃までの大きいブロードのピークが見られた。FT-IR分析において、本実施例におけるゼオライト触媒には、ブレンステッド酸を有さず、ルイス酸のみを有することが確認されているため、このピークはルイス酸に吸着したNHの離脱に由来すると考えられる。また、ピーク面積から算出した酸量は、0.01~0.2mmol/gであった。
【0066】
以上の結果より、得られたゼオライト触媒は、ブレンステッド酸を有さずルイス酸のみを有し、固体塩基性が強い、MFI構造のゼオライト触媒であることが確認された。
【0067】
(4)白金担持工程
次に、焼成後のゼオライト触媒1gに対して、白金含有量4.557wt%のジニトロジアミン白金(II)硝酸溶液(田中貴金属工業製、[Pt(NH(NO]/HNO)0.22gを添加して、白金の担持量が1.0wt%になるよう白金を含浸担持した。その後130℃で一晩乾燥させ、550℃で3h、空気中で焼成し、白金が担持されたゼオライト触媒である、触媒A(1wt%Pt/[Zn]-MFI)を調製した。
【0068】
[触媒合成例2]
<触媒Bの調製>
水酸化ナトリウム、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、イオン交換水を混合(TEOS:TPAOH:イオン交換水=1:0.12:70(mol比))して調製したゲルを80℃で24h攪拌(熟成)を行った。得られた混合物を175℃で24時間水熱合成を行った後、繰り返し水で洗浄した。その後、130℃で一晩乾燥させ、550℃で3h焼成を行った。これにより、アルミニウムを含まないシリカライトを得た。なお、得られたシリカライトについてはX線回折測定(X線源:CuKα、装置:リガク社製、RINT 2500)により、MFI構造を有することを確認した。続いて1M硝酸亜鉛六水和物の水溶液を用いて亜鉛の担持量が10.0wt%になるよう亜鉛を含浸担持し、130℃で一晩乾燥させ、550℃で3h焼成を行った。
次いで、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(田中貴金属工業製、[Pt(NH(NO]/HNO)を用いて、白金の担持量が1.0wt%になるよう白金を含浸担持し、130℃で一晩乾燥させ、550℃で3h焼成し、触媒B(1wt%Pt/10wt%Zn/[Si]-MFI)を調製した。
【0069】
[イソペンテンの製造]
触媒合成例1で得られた触媒Aを用いて、イソペンテンの製造を行った。
【0070】
(参考例1)
0.1gの触媒Aを管型反応器に充填し、反応管を固定床流通式反応装置に接続した。分子状水素を30mL/minで流通させながら、反応管を600℃まで昇温した後、1.0h保持した。その後、原料であるイソペンタン及び窒素をそれぞれ反応器に供給し、反応温度500℃、常圧にてイソペンタンの脱水素反応を行った(第1の脱水素工程)。反応器に供給される組成を、イソペンタン:窒素(N)=14:86(モル比)とした。WHSVは、6.4h-1とした。
【0071】
反応開始時から1、2、3、4及び5時間が経過した時点で、脱水素反応の生成物を管型反応器から採取した。なお、反応開始時とは、原料の供給が開始された時間である。採取された生成物を、水素炎検出器を備えたガスクロマトグラフ(FID-GC)を用いて分析した。前記ガスクロマトグラフに基づき、採取された反応生成物の各成分(単位:wt%)を定量し、イソペンテン収率を算出した。反応開始時から1、2、3、4及び5時間が経過した時点におけるイソペンテン収率の結果を表1に示す。
【0072】
イソペンテン収率は、下記式(1)で定義される。
rY=(m/m)×100 (1)
式(1)におけるrYはイソペンテン収率(wt%)である。mは、原料中に存在するイソペンタンの質量である。mは、生成物に含まれるイソペンテンの質量である。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、ゼオライト骨格中に遷移金属が導入されたゼオライト触媒を用いてイソペンテンの製造を行ったところ、高い収率でイソペンテンが得られることが確認できた。
また、5h経過後も高いイソペンテン収率を維持しており、反応時間の経過に対して安定したイソペンテン生成を示すことが確認できた。
【0075】
[イソプレンの製造]
触媒合成例1及び2で得られた触媒A及びBを用いて、イソプレンの製造を行った。
【0076】
(実施例1)
0.1gの触媒Aを管型反応器に充填し、反応管を固定床流通式反応装置に接続した。分子状水素を30mL/minで流通させながら、反応管を500℃まで昇温した後、1.0h保持した。その後、原料であるイソペンテン(2-メチル-1-ブテン:2-メチル-2-ブテン=4.8:95.2(wt%))及び窒素をそれぞれ反応器に供給し、反応温度500℃、常圧にてイソペンテンの脱水素反応を行った。反応器に供給される組成を、イソペンテン:窒素(N)=7:93(モル比)とした。WHSVは、0.6h-1とした。
【0077】
反応開始時から1及び4時間が経過した時点で、脱水素反応の生成物を管型反応器から採取した。採取された生成物を、水素炎検出器を備えたガスクロマトグラフ(FID-GC)を用いて分析した。前記ガスクロマトグラフに基づき、採取された反応生成物の各成分(単位:wt%)を定量し、イソプレン収率を算出した。反応開始時から1及び4時間が経過した時点におけるイソプレン収率の結果を表1に示す。
【0078】
イソプレン収率は、下記式(2)で定義される。
rY=(m/m)×100 (2)
式(2)におけるrYはイソプレン収率(wt%)である。mは、原料中に存在するイソペンテンの質量である。mは、生成物に含まれるイソプレンの質量である。
【0079】
(比較例1)
触媒Aに代えて触媒Bを用いた以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0080】
なお、実施例1は、ゼオライト骨格中に遷移金属が導入されたゼオライト触媒を用いたイソプレン収率を示すものである。比較例1は、シリカライトを担体とした触媒に遷移金属を含浸担持した触媒を用いたイソプレン収率を示すものである。
【表2】
【0081】
表2に示すように、実施例1のゼオライト骨格中に遷移金属が導入されたゼオライト触媒を使用して反応を行ったところ、比較例1の骨格中に遷移金属が導入されていない、遷移金属を含浸担持した触媒と比較して、イソプレン収率が高かった。
さらに比較例1の触媒では4h経過後にイソプレン収率の低下が見られたが、実施例1の触媒では、4h経過後も高いイソプレン収率を維持しており、反応時間の経過に対して安定したイソプレン生成を示すことが確認できた。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8