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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】保存安定性に優れた医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/44 20060101AFI20240118BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240118BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240118BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240118BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20240118BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61K31/44
A61K9/08
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/44
A61K47/69
A61K47/20
A61K47/02
A61P1/16
A61P1/18
A61P1/00
A61P11/00
A61P9/00
A61P29/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020503545
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007425
(87)【国際公開番号】W WO2019167979
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018036837
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】尾上 誠良
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀行
(72)【発明者】
【氏名】新銅 猛
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/056570(WO,A1)
【文献】特開平06-263735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)の化合物またはその塩:
【化1】

水溶性添加剤と
水と
を含んでなる液状組成物であって、
前記水溶性添加剤が、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル、ポロキサマー、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、スルフォブチルエーテル-β-シクロデキストリン、システイン、およびアジ化ナトリウムからなる群から選択される一種以上のものであり、
前記組成物のpHが5~9であり、
40℃、2週間保存した後、前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の残存率が90質量%以上である、組成物。
【請求項2】
組成物中の式(1)の化合物またはその塩の含量が0.01~1w/v%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤との質量比[式(1)の化合物またはその塩:水溶性添加剤]が1:0.01~1:1500である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が水溶液であり、該水溶液は40℃、2週間保存した後に沈殿物を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物が、バイアルまたはシリンジに充填されている、製品。
【請求項6】
水溶性添加剤を含んでなる、請求項1に記載の式(1)の化合物またはその塩の分解抑制剤であって、
該水溶性添加剤が、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル、ポロキサマー、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、スルフォブチルエーテル-β-シクロデキストリン、システイン、およびアジ化ナトリウムからなる群から選択される一種以上のものである、剤。
【請求項7】
式(1)の化合物またはその塩からの分解生成物が、式(2)~式(4)の化合物から選択される少なくとも一種のものである、請求項6に記載の剤:
【化2】
(式中、Rは、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいアルコキシ基である)。
【請求項8】
水溶性添加剤と請求項1に記載の式(1)の化合物またはその塩とを、水を含有する液状組成物中で共存させることを含んでなる、前記式(1)の化合物またはその塩の分解を抑制する方法であって、
前記水溶性添加剤が、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル、ポロキサマー、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、スルフォブチルエーテル-β-シクロデキストリン、システイン、およびアジ化ナトリウムからなる群から選択される一種以上のものであり、
前記組成物のpHが5~9である、方法。
【請求項9】
水溶性添加剤と請求項1に記載の式(1)の化合物またはその塩と水とを液状組成物中で共存させることを含んでなる、液状組成物の安定化方法であって、
前記水溶性添加剤が、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル、ポロキサマー、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、スルフォブチルエーテル-β-シクロデキストリン、システイン、およびアジ化ナトリウムからなる群から選択される一種以上のものであり、
前記組成物のpHが5~9である、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2018年3月1日に出願された日本国特許出願2018-036837号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、優れた安定性を有するN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩を含んでなる液状組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩がホスホリパーゼA2阻害作用を有し、抗炎症剤または抗膵炎剤の有効成分として有用であることが知られている(特許文献1)。
【0004】
N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩を有効成分として含有する、消化器疾患、肝疾患、肺不全またはショックの治療剤または予防剤も知られている(特許文献2、3、4、5)。
【0005】
さらに、上記特許文献1~5には、上記有効成分を含んでなる、シロップ懸濁液のような液状組成物、注射剤等の製剤組成物も記載されている。しかしながら、本分野において慣用される方法に従い、水を含有する液状組成物を作成したところ、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩の安定性は十分といえるものではなかった。そこで、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩を含んでなる液状組成物の安定性を向上させうる技術的手段の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平06-263735号公報
【文献】国際公開2001/056568号
【文献】国際公開2001/056569号
【文献】国際公開2001/056570号
【文献】国際公開2010/137484号
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩および水を含んでなる液状組成物に水溶性添加剤を共に含むことにより、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩の安定性が向上することを見出した。
なお、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドは下記式(1)の構造式で表されるものであり、以下、式(1)の化合物と略記することもある。
【化1】
【0008】
したがって、本発明は、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩の安定性を高めたN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩および水を含んでなる液状組成物の提供を目的としている。
【0009】
本発明には、以下の発明が包含される。
[1] 式(1)の化合物またはその塩:
【化2】

水溶性添加剤と
水と
を含んでなる液状組成物であって、
40℃、2週間保存した後、前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の残存率が90質量%以上である、組成物。
[2] 前記水溶性添加剤が、界面活性剤、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体、および抗酸化剤からなる群から選択される一種以上のものである、[1]に記載の組成物。
[3] 前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、[2]に記載の組成物。
[4] 前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル、ポロキサマー、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油およびそれらの組合せからなる群から選択される、[3]に記載の組成物。
[5] 前記シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体が、α-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、スルフォブチルエーテル-β-シクロデキストリンおよびこれらの塩、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、[2]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[6] 前記抗酸化剤が、ラジカルスカベンジャー、一重項酸素スカベンジャーおよびそれらの組合せからなる群から選択される、[2]~[5]のいずれか一つに記載の組成物。
[7] 前記抗酸化剤が、ビタミンC、システイン、亜硫酸ナトリウム、アジ化ナトリウムおよびそれらの組合せからなる群から選択される、[6]に記載の組成物。
[8] pHが4~10である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の組成物。
[9] 組成物中の式(1)の化合物またはその塩の含量が0.01~1w/v%である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の組成物。
[10] 式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤との質量比[式(1)の化合物またはその塩:水溶性添加剤]が1:0.01~1:1500である、[1]~[9]のいずれか一つに記載の組成物。
[11] 前記組成物が水溶液であり、該水溶液は40℃、2週間保存した後に沈殿物を含まない、[1]~[10]のいずれか一つに記載の組成物。
[12] [1]~[11]のいずれか一つに記載の組成物が、バイアルまたはシリンジに充填されている、製品。
[13] 水溶性添加剤を含んでなる、式(1)の化合物またはその塩の分解抑制剤であって、
該水溶性添加剤が、界面活性剤、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体、および抗酸化剤からなる群から選択される一種以上のものである、剤。
[14] 式(1)の化合物またはその塩からの分解生成物が、式(2)~式(4)の化合物から選択される少なくとも一種のものである、[13]に記載の剤:
【化3】
(式中、Rは、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいアルコキシ基である)。
[15] 水溶性添加剤と式(1)の化合物またはその塩とを、水を含有する液状組成物中で共存させることを含んでなる、式(1)の化合物またはその塩の分解を抑制する方法。
[16] 水溶性添加剤と式(1)の化合物またはその塩と水とを液状組成物中で共存させることを含んでなる、液状組成物の安定化方法。
【0010】
本発明によれば、水を含有する液状組成物中での、式(1)の化合物またはその塩の安定性を効果的に高めることができる。かかる安定性としては以下の(i)および(ii)のうち少なくとも一つを満たすことが好ましい:
(i)40℃、2週間保存した後、前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の残存率が90質量%以上であるか、または、(ii)40℃、2週間保存して得られる前記組成物のHPLC分析による総ピーク面積に対する式(1)の化合物に由来する分解生成物のピーク面積の割合が10面積%以下である。
また、本発明の組成物は、水を含有する液状組成物における式(1)の化合物またはその塩の溶解性を効果的に高める上で有利である。
また、水溶性添加剤を含む本発明の液状組成物は、式(1)の化合物またはその塩の化学的な安定性が向上し、あわせて式(1)の化合物またはその塩の水に対する溶解性が向上することにより、化学的安定性と物理的安定性を兼ね備えたものとなり、特に実用場面での有用性が向上する。より具体的には、式(1)の化合物またはその塩が長期間(例えば、製品の保存期間)にわたり液状組成物中で分解せず、その有効量を維持することができ、また、式(1)の化合物またはその塩が液状組成物中で保管中に析出することがない、実用性を備えた液状組成物及び製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】熱分解の前後のN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩・一水和物(以下、化合物1ともいう)水溶液のHPLCクロマトグラムである。
図2】酸分解の前後の化合物1水溶液のHPLCクロマトグラムである。
図3】塩基分解の前後の化合物1水溶液のHPLCクロマトグラムである。
図4】酸化分解の前後の化合物1水溶液のHPLCクロマトグラムである。
図5】光分解の前後の化合物1水溶液のHPLCクロマトグラムである。
図6】抗酸化剤の存在下において、化合物1含有液状組成物を加熱下で保存した後のD1(式(2)の化合物)の含量を示すグラフである。抗酸化剤には、O スカベンジャーとしてビタミンC(以下、VCともいう)またはシステイン、スカベンジャーとしてアジ化ナトリウム(NaN)または亜硫酸ナトリウム(NaSO)を用いた。データは、平均±標準誤差(n=3)の値を示す。
図7】(A)各種濃度のVC(250、500、および2,500μM)を添加し加熱下で保存した化合物1含有液状組成物における、化合物1の残存率変化を示すグラフである。(B)各種濃度のVC(250、500、および2,500μM)を添加し加熱下で保存した化合物1含有液状組成物における、D1の含量変化を示すグラフである。
図8】化合物1単独投与群ならびに化合物1およびVC共投与群における、ラットの血漿中の化合物1の濃度変化を示すグラフである。データは、平均±標準誤差(n=6)の値を示す。
図9】化合物1原末投与群および化合物1含有液状組成物(ハイドロゲル化液状組成物)投与群における、ラットの血漿中の化合物1の濃度変化を示すグラフである。データは、平均±標準誤差(n=3~6)の値を示す。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明の液状組成物は、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩と水と共に、水溶性添加剤を含んでなることを一つの特徴としている。
【0013】
N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩
本発明におけるN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドは上記式(1)の構造式で表される。
式(1)の化合物の塩としては、薬学的に許容される塩であればよく、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機アミン塩等が挙げられる。さらに、式(1)の化合物の塩は、これら塩の中で結晶水をもつもの、すなわち、水和物であってもよい。
式(1)の化合物またはその塩は、例えば、特開平06-263735号公報に記載の方法により製造することができる。
【0014】
本発明の組成物における式(1)の化合物またはその塩の含量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全体に対し、例えば、0.001~30w/v(質量/体積)%が挙げられ、好ましくは0.005~10w/v%、より好ましくは0.01~1w/v%とすることができる。
【0015】
水溶性添加剤
本発明において使用される水溶性添加剤としては、特に限定されるものではなく、医薬品あるいは食品として使用され、または将来使用されるものが含まれる。
【0016】
本発明の水溶性添加剤としては、水溶性の添加剤であれば、本発明の効果を奏する限り特に限定されない。本発明において用いることのできる水溶性添加剤の「水溶性」とは、第17改正日本薬局方の通則による「極めて溶けやすい」、「溶けやすい」、「やや溶けやすい」または「やや溶けにくい」に属する性質である。本発明の水溶性添加剤は、例えば水への溶解度は、通常の取扱い温度、例えば、室温20℃付近において、約10mg/mL以上であり、好ましくは約33mg/mL以上であり、より好ましくは100mg/mL以上であり、さらに好ましくは1000mg/L以上である。
【0017】
また、本発明において水溶性添加剤としては、水を含有する液状組成物中での化合物1の安定性の向上および/または溶解性の向上の観点から、界面活性剤、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体、抗酸化剤が好ましい。
【0018】
上記界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびそれらの組合せが挙げられ、好ましくは、非イオン性界面活性剤である。上記非イオン性界面活性剤の好適な例としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル、ポロキサマー(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体)、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリエチレングリコールおよびそれらの組合せが挙げられる。ここで、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸がC8~C20脂肪酸であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5~100のものが挙げられ、より好ましくは、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンモノステアレートが挙げられる。ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステルとしては、脂肪酸がC8~C20脂肪酸であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5~100のものが挙げられ、より好ましくは、ポリオキシエチレンヒドロキシステアレート、ポリオキシエチレンヒドロキシラウレート、ポリオキシエチレンヒドロキシオレエートが挙げられる。ポロキサマーとしては、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの平均付加モル数が10~200のものが挙げられ、より好ましくは、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸がC8~C20脂肪酸であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5~100のものが挙げられ、より好ましくは、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート(例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレエート)、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレートが挙げられる。
【0019】
上記非イオン性界面活性剤は、市販のものを使用しても良い。例えば、商品名(以下同様)Kolliphor(登録商標) HS 15(BASF社製)等のポリオキシエチレンヒドロキシステアレート、Kolliphor(登録商標) P188(BASF社製)、Kolliphor(登録商標) P407等のポロキサマー、Kolliphor(登録商標) ELP(BASF社製)等のポリオキシエチレンひまし油、Tween(登録商標) 80 HP-LQ-(MH)(CRODA社製)、Tween(登録商標) 80(和光純薬株式会社製)等のポリオキシエチレンソルビタンオレエート、NIKKOL(登録商標) HCO-60(日本サーファクタント工業株式会社製)等のポリオキシエチレン硬化ひまし油が挙げられる。
【0020】
本発明において、非イオン性界面活性剤を使用することは、式(1)の化合物またはその塩の水に対する溶解性を向上させる上で有利である。また、非イオン性界面活性剤を使用することは、式(1)の化合物またはその塩の化学的な安定性を付与する上で有利である。かかる安定性の付与は、式(1)の化合物またはその塩のトリフルオロメチル基の加水分解を抑制することによるものと考えられる。
【0021】
上記シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体およびこれらの塩、ならびにそれらの組合せが挙げられ、好ましくは、シクロデキストリン誘導体である。シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。シクロデキストリン誘導体としては、メチル化、ヒドロキシプロピル化、スルフォブチルエーテル化、および/またはアセチル化された、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンならびにそれらの組合せが挙げられる。シクロデキストリン誘導体としては、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、スルフォブチルエーテル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンおよびそれらの組合せが好ましい。
【0022】
上記シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体は、市販のものを使用しても良い。例えば、商品名セルデックス(登録商標)HP-β-CD(日本食品化工株式会社製)等のヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン(純正化学株式会社製)、2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(Aldrich社製)、スルフォブチルエーテル-β-シクロデキストリン(ナカライテスク株式会社)が挙げられる。
【0023】
本発明において、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体を使用することは、式(1)の化合物またはその塩に化学的安定性を付与する上で有利である。かかる安定性の付与は、式(1)の化合物またはその塩のトリフルオロメチル基の加水分解を抑制することによるものと考えられる。また、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体を使用することは、式(1)の化合物またはその塩の血中での動態への悪影響を及ぼさない上で有利である。理論に拘束されるものではないが、式(1)の化合物またはその塩の少なくとも一部分、例えばトリフルオロメチル基がシクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体に包接されていることが上述の様な化学的安定性の付与や血中動態の悪影響の回避に寄与していると考えられる。また、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体を使用することは、式(1)の化合物またはその塩の水に対する溶解性を向上させる上で好ましい。
【0024】
上記抗酸化剤としては、ラジカルスカベンジャー、一重項酸素スカベンジャーおよびそれらの組合せが挙げられ、好ましくは、ラジカルスカベンジャー、一重項酸素スカベンジャーである。ラジカルスカベンジャーとして、具体的には、ビタミンC、システイン、マンニトール、ビタミンE、およびこれらの塩、ならびにそれらの組合せが挙げられ、好ましくは、ビタミンCである。一重項酸素スカベンジャーとしては、亜硫酸ナトリウム、アジ化ナトリウム、およびそれらの組合せが挙げられ、好ましくは、亜硫酸ナトリウムである。
【0025】
上記抗酸化剤は、市販のものを使用しても良い。例えば、L-アスコルビン酸(ナカライテスク株式会社)、L-システイン(Aldrich社製)等のシステイン、アジ化ナトリウム(NaN)(和光純薬株式会社)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)(和光純薬株式会社)が挙げられる。
【0026】
本発明において、特定の抗酸化剤を使用することは式(1)の化合物またはその塩の化学的な安定性を付与する上で有利である。かかる安定性の付与は、式(1)の化合物またはその塩のトリフルオロメチル基の加水分解を抑制することによるものと考えられる。また、特定の抗酸化剤を使用することは式(1)の化合物またはその塩の血中での動態に悪影響を及ぼさない上で有利である。
【0027】
上述の水溶性添加剤は、例えば、界面活性剤、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体および抗酸化剤を組み合わせて用いても良く、その組み合わせとして、例えば、界面活性剤とシクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体との組み合わせ、界面活性剤と抗酸化剤との組み合わせ、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体と抗酸化剤との組み合わせ、界面活性剤とシクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体と抗酸化剤との組み合わせが挙げられる。ここで、上記組み合わせにおける好ましい界面活性剤としては、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル、ポロキサマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられ、好ましいシクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体としては、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが挙げられ、好ましい抗酸化剤としては、ビタミンC、システイン、アジ化ナトリウム(NaN)が挙げられ、より好ましい抗酸化剤としては、ビタミンC、システインが挙げられる。具体例としては、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステルとヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの組み合わせ、ポロキサマーとヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの組み合わせ、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステルとビタミンCとの組み合わせ、ポロキサマーとビタミンCとの組み合わせ、ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステルとヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとビタミンCとの組み合わせ、ポロキサマーとヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとビタミンCとの組み合わせ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとビタミンCとの組み合わせ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとシステインとの組み合わせ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとアジ化ナトリウムとの組み合わせが挙げられる。
【0028】
本発明の組成物における水溶性添加剤の含量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全体に対し、例えば、0.0001~70w/v%が挙げられ、好ましくは0.001~60w/v%、より好ましくは0.5~50w/v%が挙げられる。
ここで、上記水溶性添加剤の含量は、2種類以上の水溶性添加剤を用いる場合、それら水溶性添加剤の総量であってよい。
【0029】
本発明の組成物における界面活性剤の含量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全体に対し、例えば、0.0001~70w/v%が挙げられ、好ましくは0.001~60w/v%、より好ましくは0.5~30w/v%が挙げられる。
【0030】
本発明の組成物におけるシクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体の含量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全体に対し、例えば、0.0001~70w/v%が挙げられ、好ましくは0.001~60w/v%、より好ましくは1~50w/v%が挙げられる。
【0031】
本発明の組成物における抗酸化剤の含量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全体に対し、例えば、0.0001~70w/v%が挙げられ、好ましくは0.001~30w/v%、より好ましくは0.01~20w/v%が挙げられる。
【0032】
また、本発明の組成物において、式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤との質量比[式(1)の化合物またはその塩:水溶性添加剤の質量比]は、好ましくは1:0.01~1:1500であり、より好ましくは1:0.01~1:1400であり、さらに好ましくは1:0.02~1:1300である。ここで、上記水溶性添加剤の質量は、2種類以上の水溶性添加剤を用いる場合、それら水溶性添加剤の合計であってよい。
【0033】
さらに、本発明の組成物は、後述の実施例に示す通り、式(1)の化合物またはその塩の徐放能を顕著に向上することができる。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、本発明の組成物は、式(1)の化合物またはその塩の徐放性組成物として提供される。徐放性組成物における水溶性添加剤としては、徐放性の向上の観点から、界面活性剤が挙げられ、好ましくは非イオン性界面活性剤、より好ましくはポロキサマーである。さらに、本発明の組成物中の水溶性添加剤の含量は、徐放性の観点から、20~40質量%が好ましい。さらに、本発明の組成物における式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤との質量比は、徐放性の観点から、1:10~1:200が好ましい。
【0034】

本発明において使用される水としては、特に限定されるものではなく、医薬品あるいは食品として使用され、または将来使用されるものが含まれる。例えば、精製水、イオン交換水、蒸留水、超ろ過水、超純水(例えば、ミリQ水)、注射用水、生理食塩水等が挙げられる。
【0035】
組成物
本発明の組成物は、本発明の式(1)の化合物またはその塩の液状組成物中での安定性を効果的に向上することができる。かかる安定性の向上としては、具体的には、(i)40℃、2週間保存した後、前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の残存率が90質量%以上であることが挙げられ、好ましくは92質量%以上、より好ましくは94質量%以上である。式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)の化合物が分離できる条件は、以下の測定条件により実施される。
【表1】
上記HPLCの具体的な測定条件は、後述する実施例1と同様の試験結果が得られるように調整されるものとする。より具体的には、各被測定化合物の保持時間が実施例1に記載の保持時間と同一の範囲となるように調整される。したがって、好ましい上記測定条件は実施例1による。また、残存率は、検量線を用いて、40℃で2週間保存する前と後における組成物中の式(1)の化合物またはその塩の含量を算出し、保存後の含量を保存前の含量(例えば、初期含量)で除することにより算出される。
【0036】
また、本発明の組成物の安定性向上は、式(1)の化合物またはその塩の分解抑制の向上であってもよい。式(1)の化合物を分解した際に生成される分解生成物として、例えば、下記式(2)~(4)の化合物(以下、式(2)、(4)の化合物についてそれぞれ分解生成物D1、D3ともいう)が挙げられる。
【化4】
(式中、Rは、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいアルコキシ基である)
【0037】
上記式(3)における置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいアルコキシ基としては、医薬分野において、一般に使用される、アミノ酸、アルコール類および/またはアミン類に由来する基、および本発明の水溶性添加剤に由来する基であれば、特に限定されない。アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンが挙げられる。アルコール類および/またはアミン類としては、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、マルトトリオース、マンニトール、スクロース、エリトリトール、グルコース、フルクトース、マルトース、キシリトース等の糖アルコール、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、グリコフロール、ベンジルアルコールおよび以下に示す化合物が挙げられる。
【0038】
【化5】
【0039】
上述のように本発明の組成物の安定性向上は、式(1)の化合物またはその塩の分解抑制の向上であってもよい。したがって、本発明の組成物によれば、(ii)40℃、2週間保存して得られる前記組成物のHPLC分析による総ピーク面積に対する式(1)の化合物に由来する分解生成物のピーク面積の割合が10面積%以下であることが挙げられ、好ましくは8面積%以下、より好ましくは6面積%以下である。ここで、上記HPLC分析は、上述の、(i)40℃、2週間保存した後の前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の残存率と同様の測定条件により行うことができる。また、式(1)の化合物に由来する分解生成物のピーク面積の割合は面積百分率法を用いて算出できる。
【0040】
さらに、本発明の別の態様によれば、式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤と水とを含んでなる液状組成物であって、以下の(i)および(ii)のうち少なくとも一つを満たす組成物が提供される:
(i)前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の含量が0.001~30w/v%であることが挙げられ、好ましくは0.005~10w/v%、より好ましくは0.01~1w/v%である、
(ii)前記組成物のHPLC分析による総ピーク面積に対する式(1)の化合物に由来する分解生成物のピーク面積の割合が10面積%以下であることが挙げられ、好ましくは8面積%以下、より好ましくは6面積%以下である。
【0041】
さらに、本発明の組成物には、必要に応じて、薬学的にまたは経口上許容可能な添加剤が含有され、特に限定されないが、水性媒体、溶剤、基剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、調整剤、キレート剤、pH調整剤、緩衝剤、賦形剤、増粘剤、着色剤、芳香剤、香料、抗酸化剤、分散剤、崩壊剤、可塑剤、乳化剤、可溶化剤、還元剤、甘味剤、矯味剤、結合剤等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。ここで、薬学的にまたは経口上許容可能な添加剤は、緩衝剤を水に溶解した態様であってもよく、例えば、リン酸緩衝液、Britton-Robinson緩衝液が挙げられる。
【0042】
本発明の組成物の形状は、液状が好ましい。ここで、本発明の液状組成物は調製直後、投与時または特定の温度(例えば、室温)で液状であればよい。したがって、本発明の液状組成物は、例えば、投与時に冷却等によりハイドロゲルとなっていてもよく、また、投与後に体内等インサイチュでハイドロゲルとなってもよく、本発明の液状組成物にはかかる態様も包含される(以下、ハイドロゲル化液状組成物ともいう)。本発明の組成物は、式(1)の化合物またはその塩、水溶性添加剤および水の組み合わせを含むものであるが、該組み合わせの特徴が保持されている限り、剤形は特に限定されず、埋め込み注射剤、持続性注射剤等の注射剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、ローション剤、シロップ剤、注腸剤等として提供することができる。上記剤形としては、好ましくは、注射剤である。ここで、注射剤には、本発明の組成物がバイアルまたはシリンジに充填されている製品を含む。
【0043】
本発明の組成物が水溶液である場合には、該水溶液は40℃、2週間保存した後に沈殿物を含まないことが好ましい。ここで、「沈殿物を含まない」とは、後述する実施例1に記載の方法により、組成物が人の目で見られ得るいかなる沈殿物も確認しないことを意味する。
【0044】
本発明の組成物のpHは、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されないが、pH4~10が挙げられ、溶解性を向上させるために、好ましくは5~10、より好ましくは6~10である。また、本発明の組成物のpHは、安定性の向上の観点から、好ましくは4~9、より好ましくは4~8である。本発明の組成物のpHは、4~9が好ましく、5~8がより好ましく、6~8がさらに好ましい。また、本発明の組成物のpHは、その測定時点に関し特に限定されないが、作製された組成物の初期pH、および/または40℃下で2週間保存後の組成物のpHが好ましい。
【0045】
本発明の組成物は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されないが、全身的または局所的に投与することができる。具体的な投与としては、点滴、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射等の注射、経口投与、経粘膜投与、経皮投与、鼻腔内投与、口腔内投与等が挙げられ、好ましくは、注射であり、より好ましくは、静脈内注射、皮下注射である。
【0046】
本発明の液状組成物がハイドロゲル化液状組成物である場合、上記組成物を局所投与して式(1)の化合物またはその塩を効率的に体内送達できる。
ここで、本発明の局所投与とは、式(1)の化合物またはその塩を局所(投与部位)に滞留させて体内に吸収させる投与形態をいう。本発明の組成物は、局所作用のみならず全身作用のために好適に用いることができる。
かかる局所投与としては、例えば、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経直腸等の経粘膜投与、経皮投与、鼻腔内投与、口腔内投与、腹腔内投与、関節内投与、眼内投与、腫瘍内投与、血管周囲投与、頭蓋内投与、眼周囲投与、眼瞼内投与、膀胱内投与、膣内投与、尿道内投与、直腸内投与、外膜投与、経鼻投与等の非経口投与等が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物は皮下投与用の組成物として提供される。
【0047】
本発明の組成物は、式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤と水とを、必要に応じて他の溶媒等と共に混合するなどの公知の方法により製造することができる。例えば、本発明の組成物は、式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤とを水および/または他の溶媒等に混合し溶解するなどの公知の方法により製造することができ、より具体的には、(A)式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤とを混合し、次いで水を添加する、(B)水と水溶性添加剤とを混合し、次いで式(1)の化合物またはその塩を添加する、(C)水と式(1)の化合物またはその塩と混合し、次いで水溶性添加剤を添加するなどの方法が挙げられる。また、本発明の組成物の製造においては、本発明の効果を妨げない限り、上記混合物等に、均質化処理や殺菌処理を施してもよい。
【0048】
上記混合物の調製に用いられる他の溶媒としては、特に限定されるものではなく、医薬品あるいは食品として使用され、または将来使用されるものが含まれる。上記他の溶媒は、具体的には、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等)、有機酸類(例えば、酢酸、プロピオン酸等)、ポリエチレングリコール、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0049】
本発明の組成物は、炎症性細胞(例えば、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、リンパ球(例えば、Tリンパ球、NK細胞)、単球、マクロファージ、形質細胞、肥満細胞、血小板)が関連する疾患、病態、または症状(例えば、膵炎、手術侵襲、播種性血管内凝固症候群(DIC)、腫瘍性疾患、子宮蓄膿症、熱中症、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)、敗血症、血管肉腫、胃捻転、虚血再灌流障害、紫斑、肝不全、肝炎、肺炎、全身性炎症反応症候群(SIRS)、外傷、変形性関節症、膀胱炎、椎間板疾患、アトピー/アレルギー、皮膚炎、免疫介在性疾患、耳炎、炎症性腸疾患、慢性疼痛、大腸炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、胆嚢炎、胆管炎など)に幅広く適用することができる。有利には、本発明の組成物は、膵炎、手術侵襲、播種性血管内凝固症候群(DIC)等に対して治療および予防作用を奏することが可能である。したがって、本発明の別の態様によれば、本発明の組成物は、炎症性細胞が関連する疾患、病態、または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲、または播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療または予防のための組成物として提供される。本発明の組成物は、ヒトまたは動物用の、医薬品、医薬部外品として用いることもできる。また、本発明の組成物は、必要に応じて、本技術分野において常用されている他の医薬品、医薬部外品と適宜併用してよい。
【0050】
一つの態様によれば、本発明の組成物を適用する対象としては、例えば動物が挙げられ、好ましくは、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類等の非ヒト動物であり、より好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマである。上記動物は、家畜、ペット、飼育用動物、野生動物、競争用動物であってよい。上記対象は健常者(健常動物)であっても患者(患者動物)であってもよい。
【0051】
また、本発明の別の態様によれば、有効量の式(1)の化合物またはその塩を含んでなる本発明の組成物を対象に投与することを含んでなる、対象の炎症性細胞が関連する疾患、病態、または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲、または播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療または予防方法が提供される。本発明のさらに別の態様によれば、上述の、対象の炎症性細胞が関連する疾患、病態、または症状の予防方法は、対象が健常者である場合、医療行為を除く非治療的方法とされる。本発明の対象の炎症性細胞が関連する疾患、病態、または症状等の治療または予防方法は、本発明の組成物について、本明細書に記載された内容に従って実施することができる。
【0052】
また、本発明の式(1)の化合物またはその塩の有効量および本発明の組成物の投与回数は、特に限定されず、式(1)の化合物またはその塩の種類、純度、組成物の剤形、対象の種類、性質、性別、年齢、症状等に応じて当業者によって、適宜決定される。例えば、式(1)の化合物またはその塩の有効量としては、0.01~1000mg/体重kg、好ましくは0.05~500mg/体重kgである。投与回数は、例えば、1日に1~5回、好ましくは1日に1~3回であり、より好ましくは、1日に1~2回である。投与期間は、例えば、1日~7日、好ましくは、1日~5日、より好ましくは、1日~3日である。
【0053】
また、本発明の別の態様によれば、液状組成物の製造における、式(1)の化合物またはその塩と水溶性添加剤と水との組合せの使用であって、前記液状組成物が以下の(i)および(ii)のうち少なくとも一つを満たす:(i)40℃、2週間保存した後、前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の残存率が90質量%以上であるか、または、(ii)40℃、2週間保存して得られる前記組成物のHPLC分析による総ピーク面積に対する式(1)の化合物に由来する分解生成物のピーク面積の割合が10面積%以下である、使用が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、上記組成物は、炎症性細胞が関連する疾患、病態、または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲、または播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療または予防のために用いられる。
【0054】
また、本発明の別の態様によれば、水溶性添加剤を含んでなる、式(1)の化合物またはその塩の分解抑制剤であって、該水溶性添加剤が、界面活性剤、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体、および抗酸化剤からなる群から選択される一種以上のものである、分解抑制剤が提供される。ここで、式(1)の化合物またはその塩に由来する分解生成物として、式(2)~(4)の化合物から選択される少なくとも一種のものが挙げられる。本発明の一つの態様によれば、式(1)の化合物またはその塩の分解抑制剤の製造における、界面活性剤、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体、および抗酸化剤からなる群から選択される一種以上の水溶性添加剤の使用が提供される。本発明の一つの態様によれば、式(1)の化合物またはその塩の分解抑制のための、界面活性剤、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体、および抗酸化剤からなる群から選択される一種以上の水溶性添加剤の使用が提供される。本発明の一つの態様によれば、式(1)の化合物またはその塩の分解抑制のための、界面活性剤、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体、および抗酸化剤からなる群から選択される一種以上の水溶性添加剤が提供される。上記態様において、上記分解抑制は、分解抑制剤と式(1)の化合物またはその塩とを、水を含有する液状組成物中で共存させた場合に以下の(i)および(ii)のうち少なくとも一つを満たすことが好ましい:(i)40℃、2週間保存した後、前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の残存率が90質量%以上であるか、または、(ii)40℃、2週間保存して得られる前記組成物のHPLC分析による総ピーク面積に対する式(1)の化合物に由来する分解生成物のピーク面積の割合が10面積%以下である。
【0055】
また、本発明の別の態様によれば、水溶性添加剤と式(1)の化合物またはその塩とを、水を含有する液状組成物中で共存させることを含んでなる、式(1)の化合物またはその塩の分解を抑制する方法が提供される。本発明の一つの態様によれば、水を含有する液状組成物中に、水溶性添加剤と式(1)の化合物またはその塩と共存させることを含んでなる、式(1)の化合物またはその塩の分解を抑制する方法であって、以下の(i)および(ii)のうち少なくとも一つを満たす:(i)40℃、2週間保存した後、前記組成物中の式(1)の化合物またはその塩の残存率が90質量%以上であるか、または、(ii)40℃、2週間保存して得られる前記組成物のHPLC分析による総ピーク面積に対する式(1)の化合物に由来する分解生成物のピーク面積の割合が10面積%以下である、方法が提供される。
【0056】
また、本発明の別の態様によれば、水溶性添加剤と式(1)の化合物またはその塩と水とを液状組成物中で共存させることを含んでなる、液状組成物の安定化方法が提供される。ここで、上記液状組成物の安定化の好適な例としては、可溶化(例えば、沈殿析出の抑制)、着色の抑制などが挙げられる。
【0057】
上記の使用、分解抑制剤、分解抑制のための水溶性添加剤、分解を抑制する方法、安定化方法の態様はいずれも、本発明の組成物や方法に関する記載に準じて実施することができる。
【実施例
【0058】
以下、実施例、試験例、参考例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術範囲は、これらの例示に限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本発明で用いられる全部のパーセンテージや比率は質量による。また、特に記載しない限り、本明細書に記載の単位や測定方法はJIS規格による。
【0059】
実施例、試験例、参考例で使用した物質は以下の通りである。
・化合物1:N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩・一水和物
・Kolliphor(登録商標) HS 15:BASF社製
・Kolliphor(登録商標) P188:BASF社製
・Kolliphor(登録商標) P407:BASF社製
・Kolliphor(登録商標) ELP:BASF社製
・Tween 80 HP-LQ-(MH):CRODA社製(以下、Tween 80
HPという)
・NIKKOL HCO-60:日本サーファクタント工業株式会社製
・セルデックス(登録商標)HP-β-CD:日本食品化工株式会社製(以下、HP-β-CDという)
・メチル-β-シクロデキストリン:純正化学株式会社製(以下、M-β-CDという)・2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン:Aldrich社製(以下、HP-α-CDという)
・スルフォブチルエーテル-β-シクロデキストリン:ナカライテスク株式会社(以下、SBE-β-CDという)
・リン酸緩衝液:0.025M リン酸二水素ナトリウム液+0.025M リン酸水素二ナトリウム液
・Britton-Robinson 緩衝液(以下、BR緩衝液という):0.04M
酸混合液(0.04M リン酸+0.04M 酢酸+0.04M ホウ酸)+0.2M
NaOH液
・ビタミンC(L-アスコルビン酸):ナカライテスク株式会社製
・L-システイン(実施例8において、システインともいう):Aldrich社製
・アジ化ナトリウム(NaN):和光純薬株式会社製
・亜硫酸ナトリウム(NaSO):和光純薬株式会社製
・Tween 80:和光純薬株式会社製
【0060】
実施例、試験例、参考例で使用した機器は以下の通りである。
・マグネティックスターラー:パソリナミニスターラー CT-1AT、アズワン株式会社
・pHメーター:LAQUA F-72、株式会社堀場製作所製
・滅菌フィルター:DISMIC-25AS、ADVANTEC社製
・インキュベーター:PIC-100、大洋株式会社製
・耐光性試験機:Atlas Suntest CPS+、Atlas Material Technology LCC製
【0061】
以下の実施例1(化合物1の分解抑制試験)における化合物1および分解生成物D1の含量測定はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて以下の条件で行った。
・分析機器:HPLC ACQUITY Arc システム、Waters社製
・化合物1の含量測定:絶対検量線法
・分解生成物D1の含量測定:面積百分率法
・測定条件
検出器:2998PDA Detector、Waters社製
カラム:XBridge C18 5μm(4.6×250mm)、Waters社製
詳細な条件を表2に示す。
【表2】
【0062】
実施例1:化合物1の分解抑制試験
(a)化合物1含有液状組成物(試験例1~18)の調製
水溶性添加剤を50mLねじ口瓶に秤量し、リン酸緩衝液またはBR緩衝液(30mL)を加え、マグネティックスターラーによって混合溶解した。リン酸緩衝液およびBR緩衝液の調製に用いた水は蒸留水であった。さらに、化合物1を量り入れて溶解し、必要に応じて、0.2M塩酸溶液または0.1M水酸化ナトリウム溶液を用いて、表3に記載のpHに調整した。得られた溶液を50mLメスフラスコに移し、上記で使用した緩衝液にて全量50mLとし、均一に撹拌した後、滅菌フィルターを通して、下記表3に示した含量の化合物1含有液状組成物を得た。
(b)化合物1含有液状組成物(試験例1~18)の安定性試験
(a)で作製した化合物1含有液状組成物について、pH(初期)を測定および外観(色調、溶解性)を観察した後、40℃下で2週間保存した。
作製した液状組成物中の化合物1の含量をHPLCにて測定し、その値を初期含量とした。保存後、外観(色調、溶解性)の確認およびpH測定を行い、液状組成物中の化合物1の残存率(質量%)および分解生成物D1の含量をHPLCにて測定した。液状組成物中の化合物1の残存率(質量%)は下記の数式(1)により算出した。D1の含量は、HPLCの面積百分率で表した。
化合物1の残存率(質量%)=(2週間後含量/初期含量)×100 (1)
得られた結果を表3に示す。
ここで、溶解性の確認は、健常な視力を有するパネル(視力0.7以上)により、照度300~2000ルクスの光の下で行われた。確認はパネル3名により行われた。その結果、試験例1~18において、初期および40℃、2週間後において沈殿物は認められなかった。
【0063】
参考例として、水溶性添加剤を含有しない化合物1含有液状組成物についても分解抑制試験を行った。
(a)化合物1含有液状組成物(参考例1~3)の調製
化合物1を50mLねじ口瓶に秤量し、リン酸緩衝液またはBR緩衝液(30mL)を加え、マグネティックスターラーによって混合溶解した。さらに、0.1M水酸化ナトリウム溶液を用いて、表3のpHに調整した。得られた溶液を上記で使用した緩衝液にて全量50mLとし、撹拌にて均一にした後、滅菌フィルターを通して、下記表3に示した含量の化合物1含有液状組成物を得た。
(b)化合物1含有液状組成物(参考例1~3)の安定性試験
(a)で作製した化合物1含有液状組成物についての安定性試験を試験例1と同様に行った。得られた結果を表3に示す。
なお、試験例1~18と同様に沈殿物の確認を行った。その結果、参考例1~3において、初期および40℃、2週間後において沈殿物は認められなかった。
【0064】
【表3】
【0065】
実施例2:化合物1含有液状組成物の調製
非イオン性界面活性剤(10g)を100mLガラスビーカーに秤量し、60℃に加熱した後、化合物1(0.42g)を秤量して加え、マグネティックスターラーによって混合溶解する。そこへ、60℃に加熱しpH7.0に調整したリン酸緩衝液(70mL)を加え、混合溶解する。室温まで放冷し、必要に応じて、0.2M塩酸溶液または0.1M水酸化ナトリウム溶液を用いて、pH7.0に調整する。得られた溶液を100mLメスフラスコに移し、室温状態のpH7.0に調整したリン酸緩衝液にて全量100mLとし、均一に撹拌した後、滅菌フィルターを通して化合物1含有液状組成物を得る。
【0066】
実施例3~8:化合物1の強制分解試験
化合物1を分解した際に生成される分解生成物D1およびD3の生成メカニズムは明らかになっていない。化合物1の強制分解試験を行うことでこれらの生成要因を解明し、分解抑制を指向した処方設計を試みた。
【0067】
化合物1の強制分解試験を熱、酸、塩基、酸化および光の過酷条件で行った。化合物1含有溶液を下記表4に示した条件で保存後、溶液中の化合物1および分解生成物の濃度を高速液体クロマトグラフィー-フォトダイオードアレイ検出器(High performance liquid chromatography-Photodiode array detector:HPLC-PDAシステム)を用いて測定した。加熱にはインキュベーターを用い、光分解試験における擬似太陽光照射には耐光性試験機を用いた。なお、作製した化合物1含有溶液中の化合物1の含量をHPLC-PDAシステムにて測定し、その値を初期含量とした。
溶液中のD1、D3の含量は、分解試験後に得られた組成物のHPLC分析の総ピーク面積に対する各化合物のピーク面積の割合(面積%)で表した。さらに、化合物1の残存率(質量%)は、絶対検量線法を用いて、保存後の含量を初期含量で除することにより求めた。
【0068】
【表4】
【0069】
以下の実施例3~9における化合物1の残存率および分解生成物の含量測定は以下の条件で行った。
・分析機器:HPLC-PDAシステム:CBM-20Avpシステムコントローラ、SIC-20ADvpオートサンプラー、LC-20ADvp送液ポンプ、DGU-20Aデガッサー、CTO-20Avpカラムオーブン、SPD-M10Avpフォトダイオードアレイ検出器、株式会社島津製作所製
・カラム:Kinetex(R)Biphenyl 2.6μm(50×4.6mm)、株式会社島津製作所製
詳細な条件を表5に示す。
【表5】
【0070】
実施例3:化合物1の強制分解試験(熱分解)
化合物1を秤量し、可溶化できるようにミリQ水を加え、化合物1の濃度が250μMとなるように、化合物1水溶液(250μM)を得た。
得られた化合物1水溶液(250μM)を60℃で加熱した後、HPLC-PDAシステムを用いて測定した。結果を図1に示す。化合物1の残存率は88.7質量%、D1の含量は8.08面積%であり、D3は検出限界以下であった。また、その他のピークは検出されなかった。
【0071】
実施例4:化合物1の強制分解試験(酸分解)
実施例3で得られた化合物1水溶液(250μM)を酸(0.1N HCl)条件下で加熱した後、HPLC-PDAシステムを用いて分解生成物を測定した。結果を図2に示す。化合物1の残存率は77.1質量%、D3の含量は16.18面積%であり、D1は検出限界以下であった。酸を加えることで、D1の生成が減少し、D3の生成が促進した。また、その他のピークを若干量(最大で1.36面積%)認めた。
【0072】
実施例5:化合物1の強制分解試験(塩基分解)
実施例3で得られた化合物1水溶液(250μM)を塩基条件下(0.1N NaOH)で加熱した後、HPLC-PDAシステムを用いて分解生成物を測定した。結果を図3に示す。化合物1の残存率は77.3質量%、D1の含量は17.62面積%であり、D3は0.50面積%であった。塩基を加えることで、D1の生成が促進した。また、その他のピーク(0.11面積%)を認めた。
【0073】
実施例6:化合物1の強制分解試験(酸化分解)
実施例3で得られた化合物1水溶液(250μM)を、常温、過酸化水素(3v/v%)の条件下で保存した後、HPLC-PDAシステムを用いて分解生成物を測定した。結果を図4に示す。化合物1の残存率は75.9質量%であり、D1の含量は0.30面積%であり、D3は検出限界以下であった。D1およびD3のピーク以外にも多くのピークが認められた(最大で1.79面積%)。
【0074】
実施例7:化合物1の強制分解試験(光分解)
実施例3で得られた化合物1水溶液(250μM)に擬似太陽光(250W/m、2時間)を照射した後、HPLC-PDAシステムで分解生成物を測定した。結果を図5に示す。分解生成物は検出されなかった。したがって、化合物1水溶液は光に対して安定であることが確認された。
【0075】
表6および表7に強制分解試験の結果を示す。主要分解生成物の中でD1は加熱のみの条件においても顕著な増加が確認され、D1の生成が溶液状態における化合物1の安定性に大きく関与すると考えられる。
【0076】
【表6】
【0077】
【表7】
【0078】
実施例8:抗酸化剤を添加した化合物1含有液状組成物の分解抑制の検討
本試験では活性酸素種(ROS)を捕捉する添加剤(抗酸化剤)を加え、化合物1水溶液の熱条件での分解抑制に対する有用性を検討した。化合物1、Tween 80および抗酸化剤を秤量し、化合物1、Tween 80の濃度がそれぞれ250μM、1.0v/v%となるように、ミリQ水を加えた。その後、抗酸化剤4種類をそれぞれ250μMとなるように添加し、抗酸化剤添加化合物1含有液状組成物を得た。前記組成物を60℃にて48時間加熱した後のD1の含量を評価した。結果を図6に示す。抗酸化剤にはO スカベンジャーであるビタミンC(以下、VCともいう)およびシステイン、スカベンジャーであるアジ化ナトリウム(NaN)および亜硫酸ナトリウム(NaSO)を選択した。添加剤を加えることにより化合物1の分解が抑制され、特にVC、システイン、NaNの添加によりD1の生成が顕著に抑えられた。また、VCとシステインの静注時最大投与量はそれぞれ2,800mgおよび8mgであり、VCが350倍多く投与可能であり臨床的に安全である。
【0079】
実施例9:VCを添加した化合物1含有液状組成物の溶液安定性の評価
VC添加量が化合物1の溶液安定性に与える影響を検討した。VCの濃度を250、500、または2,500μMとする以外は実施例8の化合物1含有液状組成物と同様に調製した。添加時における化合物1の分解およびD1の生成について評価した(平均値±標準誤差、n=3)。60℃に加熱し、化合物1残存率およびD1の含量を経時的に評価した結果を図7に示す。溶液中の化合物1の残存率(質量%)、およびD1の含量(面積%)は、実施例3~8と同様の算出方法で算出した。その結果、化合物1の残存率はVCの添加濃度依存的に増加し、D1の含量はVCの添加濃度依存的に減少したことからVCの添加が化合物1の溶液状態における安定性向上に有用であることを確認した。
【0080】
実施例10:VCを添加した化合物1含有液状組成物の薬物動態学的評価
VCの添加が化合物1の体内動態に与える影響を検討するために、化合物1(0.5mg/kg)に過剰量のVC(2.2mg/kg,化合物1とのモル比で10倍量)を添加した化合物1含有液状組成物および非添加化合物1含有液状組成物をラットに静注し、化合物1の体内動態を解析した。
【0081】
動物実験として9-10週齢のSprague-Dawley(SD)系雄性ラットを日本エスエルシー株式会社より購入した。本試験は、化合物1単独投与群ならびに化合物1およびVC共投与群の2群(n=6)に分けて実施した。化合物1単独投与群では、化合物1およびTween 80をそれぞれ250μM、1 v/v%となるように生理食塩水に溶解し、化合物1含有液状組成物を調製した。化合物1およびVC共投与群では、化合物1、VCおよびTween 80をそれぞれ250μM、2,500μM、1 v/v%となるように生理食塩水に溶解し、化合物1およびVC含有液状組成物を調製した。化合物1およびVC共投与群では、化合物1およびVC(化合物1-0.5mg/kg、VC-2.2mg/kg)含有液状組成物をそれぞれ、24時間前から絶食したラット(n=6)に、23G注射針および1mLシリンジを用いて尾静脈内投与を行った。化合物1単独投与群では、24時間前から絶食したラットに、化合物1(化合物1-0.5mg/kg)含有液状組成物をそれぞれ、23G注射針および1mLシリンジを用いて尾静脈内投与を行った。血液サンプル(約400μL)は化合物1含有液状組成物または化合物1およびVC含有液状組成物の尾静脈内投与直後、投与後5、15、30、60、180、360および720分にラット尾静脈から採取され、その後10,000×g、4°Cで10分間遠心分離され血漿が得られた。化合物1の濃度は、超高速液体クロマトグラフィー イオン化スプレー-質量分析法(UPLC/ESI-MS)により表8に記載した条件で測定された。
・分析機器:ACQUITY UPLC、Waters株式会社製
・検出器:ACQUITY SQD、Waters株式会社製
【表8】
【0082】
両群における化合物1の血中濃度推移を比較した結果、ほぼ同等の血中濃度推移を示した(図8)。また、薬物動態学的パラメーターによる詳細な解析のため、ノンコンパートメントモデル解析によってkおよびAUC0-inf.を算出した(表9)。化合物1単独投与群の消失速度定数(k)および血中濃度時間曲線下面積(AUC0-inf.)はそれぞれ1.43h-1、1,271ng・h/mLであった。一方で、化合物1/VC共投与群のkおよびAUC0-inf.はそれぞれ1.54h-1、1,122ng・h/mLであった。両群のkおよびAUC0-inf.についてFisher’s least significant difference procedure法によって統計学的処理を行ったところ、有意差をみとめず(P>0.05)、VC添加は化合物1の薬物動態に影響しないことを確認した。
【0083】
【表9】
表9中、各薬物動態学的パラメーターは、平均±標準誤差(n=6)で示した。
【0084】
実施例11:化合物1含有液状組成物(ハイドロゲル化液状組成物)の検討
(a)化合物1含有液状組成物(ハイドロゲル化液状組成物)の調製
化合物1(3.5mg)、Kolliphor(登録商標) P188(200mg)、Kolliphor(登録商標) P407(150mg)、および精製水(1.0mL)をボルテックスミキサーによって混合して液状組成物を得た。その後、上記液状組成物を4℃にて一晩保存しハイドロゲルを得た。
【0085】
(b):化合物1含有液状組成物(ハイドロゲル化液状組成物)の薬物動態学的評価
上記実施例11(a)で調製したハイドロゲル化液状組成物の徐放能を評価するため、ハイドロゲルまたは化合物1原末をラットに皮下投与後、経時的に薬物血中濃度測定を行った。具体的には、ハイドロゲルまたは化合物1原末を、化合物1の量として5mg/kgをSD系雄性ラットに対して単回皮下投与した。皮下投与後、経時的に尾静脈から経時的に採血し、ヘパリン処理をしたマイクロテストチューブに移して、直ちに氷冷した。氷冷後、速やかに血液を4℃、10,000gにて10分間遠心分離した。得られた血漿中の化合物1の濃度を、実施例10と同様に超高速液体クロマトグラフィー イオン化スプレー-質量分析法によって定量した。結果を図9に示す。下記表10には薬物血中濃度測定の結果から算出した薬物動態学的パラメーターを示す。
【表10】
表10中、薬物動態学的パラメーターは、平均±標準誤差(n=3-6)で示した。
【0086】
上記表10および図9の結果から、化合物1含有液状組成物(ハイドロゲル化液状組成物)は、化合物1原末に比べて化合物1の吸収および消失速度が減少した。ここで、ハイドロゲルのCmaxは化合物1原末と比較して73%減少した。また、ハイドロゲルのT1/2は化合物1原末と比較して1.44時間延長しており、実施例11のハイドロゲルは化合物1の血中滞留性の増大を示した。投与12時間後において、化合物1原末の血漿中濃度は検出限界以下である一方、ハイドロゲルの血漿中濃度は8ng/mLであった。これは実施例11(a)で調製したハイドロゲルが徐放性の薬物溶出特性を有することに起因すると推察する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9