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特許7421783内部異形筐体およびその製造方法並びに製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】内部異形筐体およびその製造方法並びに製造装置
(51)【国際特許分類】
   B21K 21/06 20060101AFI20240118BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20240118BHJP
   B21J 13/02 20060101ALI20240118BHJP
   B21J 1/06 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B21K21/06 Z
B21J5/00 D
B21J13/02 M
B21J1/06 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023097421
(22)【出願日】2023-06-14
【審査請求日】2023-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506317451
【氏名又は名称】株式会社寺方工作所
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】寺方 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 良一
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸治
(72)【発明者】
【氏名】大番 謙二
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-137284(JP,A)
【文献】特開2015-127064(JP,A)
【文献】特開2010-228279(JP,A)
【文献】特開2015-101756(JP,A)
【文献】特開2012-184505(JP,A)
【文献】特開2012-172176(JP,A)
【文献】特開2021-059763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 21/00 - 21/06
B21J 1/00 - 13/14
B30B 13/00
C22F 1/00
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部が粗大成長した再結晶粒がない結晶組織で構成され、かつ前記底部の硬度が100HV~120HVであるアルミニウム合金からなる内部異形筐体の製造方法であって、
熱処理型アルミニウム合金(O材)を溶体化処理後、自然時効処理(T4)または人工時効処理(T6)を施す熱処理工程と、
熱処理をしたアルミニウム合金から加工部品輪郭形状を成形するブランク体成形工程と、
ブランク体から内部異形筐体を成形する内部異形筐体成形工程と、
内部異形筐体の底部形状を整える内部異形筐体整形工程と、を備え、
前記内部異形筐体成形工程が上下金型を130℃~180℃に保持した温間鍛造加工工程であることを特徴とするアルミニウム合金からなる内部異形筐体の製造方法。
【請求項2】
前記内部異形筐体成形工程が底厚調整工程及び天面平面修正工程を含むことを特徴とする請求項1に記載するアルミニウム合金からなる内部異形筐体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鍛造加工されたアルミニウム合金からなる内部異形筐体およびその製造方法並びに製造装置に関する。特に、粗大成長した再結晶粒がない結晶組織を有する内部異形筐体およびその製造方法並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両(例えば、自動車)では、走行中の運転者の監視負担を軽減するために、各種の運転支援装置(例えば、クリアランスソナー)が搭載されている。クリアランスソナーは、車両の外面(バンパ)に距離を計測するセンサ(超音波を送信する送信機と、障害物に当たって反射した超音波を受信する受信機)を取り付け、車両から障害物までの距離を検知し、その距離が設定値以下になると警告音を発生し、運転者に注意を喚起するものである。これにより、運転者は、例えば車両を後退させるときに障害物までの距離を知覚できるため、車両の運転操作を容易に行うことができる。
特許文献1に開示されているように、クリアランスソナー用超音波センサは、センサ筐体の底部に圧電振動子を配置する構造であるため、センサ筐体の底部は、0.01mm以下の平面性、寸法精度及び素材強度も要求される。また、センサ筐体は、超音波センサの指向性を高めるため、中空部が長円形状となる側面の肉厚が異なる内部異形円筒筐体である。
【0003】
アルミニウムは比重が鉄の約1/3であることに加え、合金の種類や製造工程によっては極めて高い強度を実現することができ、自動車、航空機、自転車及び各種貯蔵容器等の軽量化に活用されている。アルミニウム合金を鍛造加工により複雑な形状とすることが可能であり、特許文献2には、有底の筒状素形材の成形方法が開示されている。
一般に、アルミニウム合金の鍛造加工においては、成形加工後に溶体化処理後に時効処理(T4,T6)を行って強度向上を図っている。しかしながら、溶体化処理後に時効処理(T4,T6)を行うことで、結晶粒の粗大化が起こり、寸法安定性が低下するという問題がある。
【0004】
特許文献3には、アルミニウム合金を480℃~540℃、1~48時間の均質化処理を施した後、鍛造前加熱を行い、成形加工後に溶体化処理後に時効処理を行って再結晶粒の粗大化を抑制したアルミ鍛造製品の製造方法が開示されている。しかしながら、均質化処理を行う必要があり、加工プロセスが増えるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002- 58091号公報
【文献】特開2007-152376号公報
【文献】特開平11-286758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、粗大成長した再結晶粒がない結晶組織を有し、底面の平面性、寸法精度に優れ、かつ底部が高硬度の内部異形筐体およびその製造方法並びに製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の課題は、以下の態様(1)乃至(5)により解決できる。具体的には、
【0010】
態様1) 底部が粗大成長した再結晶粒がない結晶組織で構成され、かつ前記底部の硬度が100HV~120HVであるアルミニウム合金からなる内部異形筐体の製造方法であって、熱処理型アルミニウム合金(O材)を溶体化処理後、自然時効処理(T4)または人工時効処理(T6)を施す熱処理工程と、熱処理をしたアルミニウム合金から加工部品輪郭形状を成形するブランク体成形工程と、ブランク体から内部異形筐体を成形する内部異形筐体成形工程と、内部異形筐体の底部形状を整える内部異形筐体整形工程と、を備え、前記内部異形筐体成形工程が上下金型を130℃~180℃に保持した温間鍛造加工工程であることを特徴とするアルミニウム合金からなる内部異形筐体の製造方法である。
【0011】
態様2) 前記内部異形筐体成形工程が底厚調整工程及び天面平面修正工程を含むことを特徴とする態様1に記載するアルミニウム合金からなる内部異形筐体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、底部が粗大成長した再結晶粒がない結晶組織で構成された100HV~120HVの硬度を有する内部異形筐体を製造することができる。底部が0.01mm以下の平面性、寸法精度及び素材強度も要求されるセンサ筐体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様を示す平面図及び側面図である。
図2】本願発明の内部異形筐体の他の実施態様を示す斜視図である。
図3】内部異形筐体底部の結晶組織形態を示す結晶方位解析(EBSD)画像である。
図4】内部異形筐体底部の平面性を示す画像及び計測データである。
図5】本願発明の内部異形筐体の成形加工方法を従来技術と比較した説明図である。
図6】本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様における成形加工工程ごとの加工形態を示すフロー図である。
図7】本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様における製造工程を示すフロー図である。
図8】本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様における板厚調整処理の説明図である。
図9】本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様における天面平面修正処理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明の実施形態について説明する。
【0016】
1.内部異形筐体
(1-1)内部異形筐体
本願発明は、底部が粗大成長した再結晶粒がない結晶組織で構成され、かつ前記底部の硬度が100HV~120HVであるアルミニウム合金からなる内部異形筐体である。
図1は、本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様を示す平面図、X側面図、Y側面図である。本願発明の内部異形筐体10は、底部4を備える円筒体で、内部(中空部)1を構成する壁面の肉厚がX軸方向とY軸方向で異なり、X軸壁面2がY軸壁面3に比べて厚い。
図2は、本願発明の内部異形筐体の他の実施態様を示す斜視図である。底面と内部(中空部)を有する筐体であれば外形は特に限定されない。
【0017】
図3は、内部異形筐体底部4の結晶組織形態を示す結晶方位解析(EBSD)画像である。図3(a)は、本願発明の熱処理型アルミニウム合金(O材)を溶体化処理後、自然時効処理(T4)または人工時効処理(T6)を施したアルミニウム合金を温間鍛造加工して成形した内部異形筐体(以下、「本願発明の内部異形筐体」という。)底部4の結晶組織形態を示す結晶方位解析(EBSD)画像である。一方、図3(b)は、熱処理型アルミニウム合金(O材)を冷間鍛造加工した後、溶体化処理後、人工時効処理(T6)を施した内部異形筐体(以下、「従来技術の内部異形筐体」という。)底部の結晶組織形態を示す結晶方位解析(EBSD)画像である。
図3(a)及び図3(b)を対比してわかるように、本願発明の内部異形筐体底部4は、粗大成長した再結晶粒がない結晶組織で構成され、従来技術の内部異形筐体底部4は、粗大成長した再結晶粒で構成される。
【0018】
図4は、高さ・平面度測定機(キーエンス社製 VR-6000)により計測した内部異形筐体底面の平面性を示す画像及び計測データである。図4(a)は、本願発明の内部異形筐体(加工前熱処理:T4)を計測したものであり、底面のX方向の高低差は0.004mm、Y方向の高低差は0.006mmである。また図4(b)は、本願発明の内部異形筐体(加工前熱処理:T4,T6)底面を計測したものであり、底面のX方向の高低差は0.003mm、Y方向の高低差は0.006mmである。一方、図4(c)は、O材から加工後、熱処理(T6)をした場合(加工後熱処理)の内部異形筐体底面を計測したものである。底面のX方向の高低差は0.009mm、Y方向の高低差は0.011mmと加工前熱処理に比べ高低差が拡大している。これは、加工後熱処理(T6)により内部異形筐体底部は熱処理により粗大成長した再結晶粒からなる結晶組織で構成されているからである。
図4(a)、図4(b)と図4(c)を対比してわかるように、本願発明の内部異形筐体底面は、底面の高低差が0.006mm以下である。これは、加工前熱処理(T4,T6)した後に温間鍛造加工をすることで、内部異形筐体底面に熱処理により粗大成長した再結晶粒からなる結晶組織を生じないからである。
【0019】
本願発明の内部異形筐体底部の硬度(ビッカース硬さ HV)は、100HV~120HVである。硬度は温間鍛造加工前の熱処理条件に依る。溶体化処理後自然時効処理(T4)であれば100HV、溶体化処理後人工時効処理(T6)であれば120HVである。
【0020】
(1-2)アルミニウム合金
本願発明のアルミニウム合金は、高強度かつ高靭性かつ耐食性に優れたJIS6000系合金(Al-Mg-Si系)を好適に用いることができる。具体的には、6061合金、6110合金、6111合金、6003合金、6151合金、6061合金、6N01合金、6063合金、6082合金、6182合金などが挙げられる。特に、A6061合金が好適である。
【0021】
2.内部異形筐体の製造方法
本願発明は、熱処理型アルミニウム合金(O材)を溶体化処理後、自然時効処理(T4)または人工時効処理(T6)を施す熱処理工程と、熱処理をしたアルミニウム合金から加工部品輪郭形状を成形するブランク体成形工程と、ブランク体から上下金型を130℃~180℃に保持した温間鍛造装置により内部異形筐体を成形する内部異形筐体成形工程と、内部異形筐体の底部形状を整える内部異形筐体整形工程とを備える。
図5は、本願発明の内部異形筐体の成形加工方法を従来技術と比較した説明図である。本願発明の内部異形筐体の製造方法では、熱処理型アルミニウム合金(O材)を溶体化処理後、自然時効処理(T4)または人工時効処理(T6)を施す熱処理工程を、温間鍛造装置により内部異形筐体を成形する内部異形筐体成形工程の前に設けたことにより、熱処理により粗大成長した再結晶粒からなる結晶組織を生じることなくT6熱処理相当の硬度を有し、かつ底面(天面)の平面性に優れる内部異形筐体を製造できる。一方、成形加工後に熱処理(T6)を行う従来技術では、硬度は十分であるが、底面(天面)の平面性、寸法精度が低い内部異形筐体の製造方法となる。
図6は、本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様における成形加工工程ごとの加工形態を示すフロー図であり、図7は、本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様における製造工程を示すフロー図である。以下に製造方法を説明する。
【0022】
(2-1)熱処理工程
本願発明熱処理工程は、溶体化処理後、自然時効処理(T4)または人工時効処理(T6)を施す。本願発明の温間鍛造加工工程に供する高強度のアルミニウム合金素材を作製する工程である。温間鍛造加工前に熱処理(事前熱処理)を行うことで、成形加工した内部異形筐体の底部に粗大化した結晶組織が生じないからである。
【0023】
(2-1-1)溶体化処理
溶体化処理は、アルミニウム合金を均一固溶体の範囲の温度まで加熱して十分な時間保持し、急冷して固溶体の状態を常温までもってくる処理であり、常温では溶質元素の多い過飽和固溶体となっている。これを常温以上の適当な温度に加熱する時効処理を行って時効硬化させる。
本願発明では、熱処理型アルミニウム合金(O材)を530℃で、4時間保持する熱処理を行い、常温水槽内で焼き入れ処理を行う。溶体化処理を施すことにより、熱処理型アルミニウム合金(O材)の均質化と溶質原子の溶入化が十分になされるため、その後の時効処理によって必要とされる十分な強度が得られる。
【0024】
(2-1-2)時効処理
時効処理は、溶体化処理したアルミニウム合金を比較的低温で加熱保持し過飽和に固溶した元素を析出させて、適度な硬さを付与するための熱処理である。
<自然時効処理:T4>
自然時効処理(T4)とは、溶体化処理後、室温で放置することをいう。
本願発明では、溶体化処理したアルミニウム合金の固溶状態を室温で放置して過飽和固溶体を形成する。自然時効処理(T4)により得られたアルムニウム合金の硬度は80HVである。
<人工時効処理:T6>
人工時効処理(T6)とは、溶体化処理したアルミニウム合金の過飽和固溶体から溶質原子の析出を起こさせる熱処理をいう。人工時効処理を施すと析出物によって転位の移動が抑制されるため、材料強度が上がる。
本願発明では、T4処理後のアルミニウム合金を170℃で1時間加熱して時効処理を行う。人工時効処理(T6)により得られたアルムニウム合金の硬度は100HVである。
【0025】
(2-2)ブランク体成形工程
本願発明のブランク体成形工程は、熱処理をしたアルミニウム合金を上下金型により常温で平つぶし加工して、内部異形筐体を成形する基材であるブランク体(円柱体)の輪郭形状、天面及び底面の平面化を行う工程である。
【0026】
(2-3)内部異形筐体成形工程
本願発明の内部異形筐体成形工程は、130℃~180℃に温度制御された上下金型によりブランク体(円柱体)を内部異形筐体に成形加工する工程である。上下金型の温度は、時効処理したブランク体(円柱体)の硬度により選択することができる。自然時効処理(T4)した場合は、130℃~150℃であり、好ましくは140℃~150℃である。また、人工時効処理(T6)した場合は、160℃~180℃である。
【0027】
(2-3-1)温度制御された温間鍛造金型
本願発明の内部異形筐体成形工程は温度制御された温間鍛造金型で行うことが好ましい。本願発明の温度制御された温間鍛造金型は上面金型と底面金型で構成され、上面金型(パンチ部)と底面金型(ダイス部)には、カートリッジ式加熱ヒータが側面及び底面に配置され、カートリッジ式加熱ヒータの側面及び底面には保温プレートが配置されている。また保温プレートには水冷パイプを循環させた冷却プレートが付設され装置の過熱を防いでいる。プレス可動部の温度上昇は、熱膨張による寸法精度の悪化、機構部の故障の原因となるからである。また、上面金型(パンチ部)と底面金型(ダイス部)には温度センサが接続されて金型温度がリアルタイムに測定される。
【0028】
(2-4)内部異形筐体整形工程
本願発明の内部異形筐体整形工程は、温間鍛造加工された内部異形筐体の底部形状を整える工程である。底部の板厚を調整する板厚調整処理、天面平面修正処理からなり、フランジトリミング処理を加えることができる。
(2-4-1)板厚調整処理
図8は、本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様における板厚調整処理の説明図である。底面の板厚を均一にすると同時に所定厚みとする処理である。
(2-4-2)天面平面修正処理
図9は、本願発明の内部異形筐体の1つの実施態様における天面平面修正処理の説明図である。底面に平面性を付与する処理である。
(2-4-3)フランジトリミング処理
内部異形筐体の鍔の縁取りを行う処理である。内部異形筐体の納品形態とする処理である。
【0029】
(2-5)トランスファ装置
ブランク体成形(冷間鍛造)加工装置、内部異形筐体成形(温間鍛造)加工装置、板厚調整加工装置、天面平面修正加工装置及びフランジトリミング加工装置をトランスファ装置を介して加工品を移送する。
【実施例
【0030】
本願発明の効果を奏する実施態様を実施例として示し、対比した実施態様を比較例として示す。また、対比のまとめを表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
<実施例1>
(1)内部異形筐体の製作
(1-1)事前熱処理
JIS6000系アルミニウム合金(A6061-O)コイル材から円柱体(Φ14mm×h4mm)を打ち抜き、加熱炉で加熱(530℃、4時間)した後、常温水槽内で焼き入れを行い、室温に放置して自然時効処理を行った。処理材(円柱体)の表面硬度(ビッカース硬さ(HV0.2))をマイクロビッカース硬さ試験機(明石製作所製 HM-124)により測定した。ビッカース硬さ(HV0.2)は、80HVであった。
(1-2)ブランク体成形
次いで、処理材(円柱体)を平つぶし冷間鍛造加工(ブランク体成形加工)して、内部異形筐体を成形する基材であるブランク体(円柱体)の輪郭形状、天面及び底面の平面化を行った。
(1-3)内部異形筐体成形
次いで、ブランク体(円柱体)を上下金型温度140℃で温間鍛造加工して内部異形筐体を成形した。
(1-4)内部異形筐体整形
内部異形筐体を板厚調整して底部の厚みを調整し、天面平面修正を行い内部異形筐体の底面(天面)の平面性を修正した。さらに、フランジトリミングして鍔の縁取りを行った。これにより、内部異形筐体(「実施例1品」)を得た。
【0033】
(2)内部異形筐体の評価
「実施例1品」について、底部の硬度及び結晶形態並びに底面(天面)の平面性を評価した。
(2-1)硬度
「実施例1品」の底部断面の表面硬度(ビッカース硬さ(HV0.2))をマイクロビッカース硬さ試験機(明石製作所製 HM-124)により測定した。ビッカース硬さ(HV0.2)は、100HVであった。
(2-2)結晶形態
「実施例1品」の底部断面を耐水ペーパーでバフ研磨後、研磨液(過塩素酸:エタノール=1:8)中で電解研磨(電解電圧10V)した。研磨後の「実施例1品」の底部断面について電解放出型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 SU5000型)により結晶方位解析(EBSD)画像を取得した(図3(a))。熱処理により粗大成長した再結晶粒からなる結晶組織を認めなかった。
(2-3)平面性
「実施例1品」の底面(天面)のX方向及びY方向の高低差を3D形状測定機(キーエンス社製 VR-6000)により計測した。高低差は、X方向(0.004mm)、Y方向(0.006mm)であった(図4(a))。
【0034】
<実施例2>
(1)内部異形筐体の製作
(1-1)熱処理
JIS6000系アルミニウム合金(A6061-O)コイル材から円柱体(Φ14mm×h4mm)を打ち抜き、加熱炉で加熱(530℃、4時間)した後、常温水槽内で焼き入れ処理を行い、人工時効処理(170℃、1時間)を行った。処理材(円柱体)の表面硬度(ビッカース硬さ(HV0.2))をマイクロビッカース硬さ試験機(明石製作所製 HM-124)により測定した。ビッカース硬さ(HV0.2)は、100HVであった。
(1-2)ブランク体成形
次いで、処理材(円柱体)を平つぶし冷間鍛造加工(ブランク体成形加工)して、内部異形筐体を成形する基材であるブランク体(円柱体)の輪郭形状、天面及び底面の平面化を行った。
(1-3)内部異形筐体成形
次いで、ブランク体(円柱体)を上下金型温度180℃で温間鍛造加工して内部異形筐体を成形した。
(1-4)内部異形筐体整形
内部異形筐体を板厚調整して底部の厚みを調整し、天面平面修正を行い内部異形筐体の底面(天面)の平面性を修正した。さらに、フランジトリミングして鍔の縁取りを行った。これにより、内部異形筐体(「実施例2品」)を得た。
【0035】
(2)内部異形筐体の評価
「実施例2品」について、底部の硬度及び結晶形態並びに底面(天面)の平面性を評価した。
(2-1)硬度
「実施例2品」の底部断面の表面硬度(ビッカース硬さ(HV0.2))をマイクロビッカース硬さ試験機(明石製作所製 HM-124)により測定した。ビッカース硬さ(HV0.2)は、120HVであった。
(2-2)結晶形態
「実施例2品」の底部断面を耐水ペーパーでバフ研磨後、研磨液(過塩素酸:エタノール=1:8)中で電解研磨(電解電圧10V)した。研磨後の「実施例2品」の底部断面について電解放出型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 SU5000型)により結晶方位解析(EBSD)画像を取得した。図3(a)と同様であり、熱処理により粗大成長した再結晶粒からなる結晶組織を認めなかった。
(2-3)平面性
「実施例2品」の底面(天面)のX方向及びY方向の高低差を3D形状測定機(キーエンス社製 VR-6000)により計測した。高低差は、X方向(0.003mm)、Y方向(0.006mm)であった(図4(b))。
【0036】
<比較例1>
(1)内部異形筐体の製作
(1-1)ブランク体成形
JIS6000系アルミニウム合金(A6061-O)コイル材から円柱体(Φ14mm×h4mm)を打ち抜き、処理材(円柱体)を平つぶし冷間鍛造加工(ブランク体成形加工)して、内部異形筐体を成形する基材であるブランク体(円柱体)の輪郭形状、天面及び底面の平面化を行った。
(1-2)内部異形筐体成形
次いで、ブランク体(円柱体)を上下金型温度を常温で冷間鍛造加工して内部異形筐体を成形した。
(1-3)内部異形筐体成形
内部異形筐体を板厚調整して底部の厚みを調整し、天面平面修正を行い内部異形筐体の底面(天面)の平面性を修正した。さらに、フランジトリミングして鍔の縁取りを行った。
(1-4)事後熱処理
内部異形円筒筐体を加熱炉で加熱(530℃、4時間)した後、常温水槽内で焼き入れを行い、人工時効処理(170℃、1時間)を行った。これにより、内部異形筐体(「比較例1品」)を得た。
熱処理後の内部異形筐体の表面硬度(ビッカース硬さ(HV0.2))をマイクロビッカース硬さ試験機(明石製作所製 HM-124)により測定した。ビッカース硬さ(HV0.2)は、100HVであった。
【0037】
(2)内部異形筐体の評価
「比較例1品」について、底部の硬度及び結晶形態並びに底面(天面)の平面性を評価した。
(2-1)硬度
「比較例1品」の底部断面の表面硬度(ビッカース硬さ(HV0.2))をマイクロビッカース硬さ試験機(明石製作所製 HM-124)により測定した。ビッカース硬さ(HV0.2)は、100HVであった。
(2-2)結晶形態
「比較例1品」の底部断面を耐水ペーパーでバフ研磨後、研磨液(過塩素酸:エタノール=1:8)中で電解研磨(電解電圧10V)した。研磨後の「比較例1品」の底部断面について電解放出型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 SU5000型)により結晶方位解析(EBSD)画像を取得した(図3(b))。熱処理により粗大成長した再結晶粒からなる結晶組織を認めた。
(2-3)平面性
「比較例1品」の底面(天面)のX方向及びY方向の高低差を3D形状測定機(キーエンス社製 VR-6000)により計測した。高低差は、X方向(0.009mm)、Y方向(0.011mm)であった(図4(c))。
【0038】
(3)まとめ
JIS6000系アルミニウム合金(A6061-O)を溶体化処理後自然時効処理(T4)または人工時効処理(T6)を施す事前熱処理を温間鍛造加工前に行った内部異形筐体(実施例1、実施例2)の底部は、温間鍛造加工後に溶体化処理後人工時効処理(T6)を熱処理施した内部異形筐体(比較例1)のように粗大成長した再結晶粒がない結晶組織である。
内部異形筐体(実施例1、実施例2)の底部の硬度は、内部異形筐体(比較例1)の底部の硬度と同等以上である。
内部異形筐体(実施例1、実施例2)の底面高低差は、内部異形筐体(比較例1)の底面高低差に比べて小さい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本願発明により、耐食性、機械的性質に優れた内部異形筐体を生産性よく提供できる。
【符号の説明】
【0040】
1 内部(中空部)
2 X軸壁面
3 Y軸壁面
4 底部
10 内部異形筐体
【要約】
【課題】 底面の平面性及び寸法精度に優れ、高硬度の内部異形筐体とその加工法を提供する。
【解決手段】 熱処理型アルミニウム合金(O材)を溶体化処理後、自然時効処理(T4)または人工時効処理(T6)を施す事前熱処理を行い、上下金型を130℃~180℃に保持した温間鍛造加工金型により内部異形円筒筐体を成形する。これにより、底部が粗大成長した再結晶粒がない結晶組織で構成され、かつ前記底部の硬度が100HV~120HVであるアルミニウム合金からなる内部異形筐体を成形加工できる。
【選択図】図6
図1
図2
図3
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図5
図6
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図9