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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】衝撃緩和機構
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
F16F7/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020033991
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134911
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【弁理士】
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌史
(72)【発明者】
【氏名】黒須 寛明
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-133495(JP,A)
【文献】特開2010-112404(JP,A)
【文献】特開2014-210572(JP,A)
【文献】特開2003-072693(JP,A)
【文献】特開2008-200819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触面への接触時に対象物への衝撃を緩和するための衝撃緩和機構であって、該衝撃緩和機構は、
衝撃を緩和する対象物が配置され、接触面へ接触可能な対象物用脚部を有する緩衝対象部と、
前記緩衝対象部に対する衝撃の運動エネルギを受け渡すための錘と、対象物用脚部と略同時に接触面へ接触可能な長さを有する錘用脚部とを有するリング状の錘部と、
前記対象物用脚部及び錘用脚部の接触面への接触の前に接触面へ接触可能に配置されると共に、その長手方向が接触面への接触方向であるZ軸に同軸に配置される初動脚部と、
前記初動脚部の接触面への接触時には初動脚部から緩衝対象部及び錘部への衝撃伝達率がゼロとなるように、且つ錘用脚部の接触面への接触時には錘部から緩衝対象部への衝撃伝達率がゼロとなるように、初動脚部に対してZ軸方向の1自由度で移動可能に緩衝対象部と錘部とを連結する、構造的特異性を有するリンク機構を2つ以上有し、各リンク機構が、
Z軸に垂直な軸を回転軸として回転可能に連結する第1回転対偶部を介して初動脚部に接続される第1リンク部と、
第1回転対偶部の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第2回転対偶部を介して第1リンク部に接続されると共に、第1回転対偶部の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第3回転対偶部を介して緩衝対象部に接続される第2リンク部と、
第1回転対偶部の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第4回転対偶部を介して錘部に接続されると共に、第2回転対偶部の回転軸と同軸を回転軸として回転可能に連結する第5回転対偶部を介して第1リンク部及び第2リンク部に接続される第3リンク部と、
を具備すると共に、
前記初動脚部の接触面への接触時には、第1リンク部の長手方向がZ軸に垂直且つ第1回転対偶部の回転軸に垂直な方向に平行に配置されると共に第2リンク部及び第3リンク部の長手方向の軸がそれぞれZ軸に平行に配置され、
前記初動脚部の接触面への接触後、錘用脚部の接触面への接触前に、第1リンク部の初動脚部への接続部がリング状の錘部の内側を通過し、
前記錘用脚部の接触面への接触時には、第3リンク部の長手方向がZ軸に垂直且つ第1回転対偶部の回転軸に垂直な方向に平行に配置されると共に第1リンク部及び第2リンク部の長手方向の軸が同軸となる、2つ以上のリンク機構と、
を具備することを特徴とする衝撃緩和機構。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃緩和機構において、前記リンク機構は、初動脚部が接触面へ接触すると、接触方向に緩衝対象部よりも速く錘部が移動し、対象物用脚部と錘用脚部が略同時に接触面へ接触するように構成されることを特徴とする衝撃緩和機構。
【請求項3】
請求項に記載の衝撃緩和機構において、前記リンク機構が2つの場合、それぞれの第1回転対偶部の回転軸同士が平行とならないように配置されることを特徴とする衝撃緩和機構。
【請求項4】
請求項に記載の衝撃緩和機構において、前記リンク機構が3つ以上の場合、これらが初動脚部の長手方向の軸を中心に均等に配置されることを特徴とする衝撃緩和機構。
【請求項5】
請求項1乃至請求項の何れかに記載の衝撃緩和機構において、前記初動脚部は、その先端に跳ね返り防止部材を有することを特徴とする衝撃緩和機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衝撃緩和機構に関し、特に、接触面への接触時に対象物への衝撃を緩和するための衝撃緩和機構に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙機の着地やロボットの歩行時の着地や自動車の衝突時等、機械本体が接触面へ接触するときには、非接触状態から接触状態へと変化した瞬間に極めて大きな衝撃が発生する。このような極めて大きな瞬間的な衝撃を撃力という。この撃力が機械本体に伝わると、部品の破損等に繋がるため問題となっていた。したがって、機械本体に伝わる撃力を軽減する衝撃緩和機構が種々開発されている。
【0003】
衝撃緩和機構としては、ばねを使ったものやダンパを使ったもの、プロテクタやエアバッグを使ったもの等、種々のものが存在する。しかしながら、ばねやダンパ等を用いるものは、これらの質量により、衝突時に無限大の加速度が発生してしまうため、これが撃力となって機械本体に伝わっていた。
【0004】
このような撃力を軽減するために、例えば特許文献1には、ねじりに対する撃力を緩和するために構造的特異性を利用したゼロ剛性の可変剛性機構が開示されている。これは、例えばロボットの関節に組み込み、衝突した際の撃力の伝達を軽減するものである。この構造は、衝撃を受けた際には剛性がゼロであるため関節の回転軸の回転方向に変位するので撃力は伝達しない。そして、角度変異が大きくなるにつれて剛性が徐々に上昇して剛体として機能するものである。
【0005】
また、特許文献2にも、直線的な撃力を緩和するための構造的特異性を利用したゼロ剛性の緩衝機構が開示されている。これも、衝撃を受けた際には剛性がゼロであるため撃力に対しては柔らかさを発揮する。そして、撃力を受けた直線方向に変位するにつれて剛性が徐々に上昇して剛体として機能するものである。
【0006】
さらに、機械本体が接触面へ接触するときの衝撃を緩和させるためには、衝撃エネルギを散逸させる必要もある。例えば、運動量保存則を用いて、対象物への衝撃エネルギをダンパ質量の運動エネルギに変換することで対象物への衝撃エネルギを散逸する運動量交換型衝撃吸収ダンパ(Momentum Exchange Impact Damper:MEID)が知られている(非特許文献1)。これは、衝突検知センサ等を用いて対象物が衝突する前に衝突方向に向かって対象物からダンパ質量を発射して対象物への衝撃エネルギを散逸させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-200819号公報
【文献】特開2010-133495号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】原進・三島直子・桑村航矢著「運動量交換を主体とした水平移動体の衝突リバウンド抑制制御」日本機械学会論文集、Vol.83、No.855、2017年11月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1や特許文献2の構造の場合、撃力を緩和可能な構造であったが、衝撃エネルギを散逸させるためには粘性の大きい構造が必要となる。しかしながら、これは撃力を緩和させることと矛盾するものであった。したがって、撃力を緩和させつつ衝撃エネルギを散逸可能な衝撃緩和機構が望まれていた。
【0010】
また、非特許文献1の構造の場合、対象物が衝突する前にダンパ質量を発射する必要があるため、運動量交換には衝突検知センサ等を用いた制御が必要となる。このため、電気的制御が必要となり装置が複雑化、高価化してしまっていた。さらに、センサ不良等が発生すると衝撃吸収ダンパが働かなくなるおそれもあった。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、撃力を低減すると共に衝撃エネルギを散逸可能な衝撃緩和機構を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による衝撃緩和機構は、衝撃を緩和する対象物が配置され、接触面へ接触可能な対象物用脚部を有する緩衝対象部と、緩衝対象部に対する衝撃の運動エネルギを受け渡すための錘と、対象物用脚部と略同時に接触面へ接触可能な長さを有する錘用脚部とを有する錘部と、対象物用脚部及び錘用脚部の接触面への接触の前に接触面へ接触可能に配置されると共に、その長手方向が接触面への接触方向であるZ軸に同軸に配置される初動脚部と、初動脚部の接触面への接触時には初動脚部から緩衝対象部及び錘部への衝撃伝達率がゼロとなるように、且つ錘用脚部の接触面への接触時には錘部から緩衝対象部への衝撃伝達率がゼロとなるように、初動脚部に対してZ軸方向の1自由度で移動可能に緩衝対象部と錘部とを連結する、構造的特異性を有するリンク機構と、を具備するものであれば良い。
【0013】
ここで、リンク機構は、初動脚部が接触面へ接触すると、接触方向に緩衝対象部よりも速く錘部が移動し、対象物用脚部と錘用脚部が略同時に接触面へ接触するように構成されれば良い。
【0014】
また、リンク機構は、Z軸に垂直な軸を回転軸として回転可能に連結する第1回転対偶部を介して初動脚部に接続される第1リンク部と、第1回転対偶部の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第2回転対偶部を介して第1リンク部に接続されると共に、第1回転対偶部の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第3回転対偶部を介して緩衝対象部に接続される第2リンク部と、第1回転対偶部の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第4回転対偶部を介して錘部に接続されると共に、第2回転対偶部の回転軸と同軸を回転軸として回転可能に連結する第5回転対偶部を介して第1リンク部及び第2リンク部に接続される第3リンク部と、を具備するものであれば良い。
【0015】
また、リンク機構は、初動脚部の接触面への接触時には、第1リンク部の長手方向がZ軸に垂直且つ第1回転対偶部の回転軸に垂直な方向に平行に配置されると共に第2リンク部及び第3リンク部の長手方向の軸がそれぞれZ軸に平行に配置され、錘用脚部の接触面への接触時には、第3リンク部の長手方向がZ軸に垂直且つ第1回転対偶部の回転軸に垂直な方向に平行に配置されると共に第1リンク部及び第2リンク部の長手方向の軸が同軸となる、ものであれば良い。
【0016】
また、緩衝対象部及び錘部は、Z軸方向にのみ移動可能に初動脚部に軸支されるものであれば良い。
【0017】
また、本発明の衝撃緩和機構は、リンク機構を2つ以上有するものであっても良い。
【0018】
ここで、リンク機構が2つの場合、それぞれの第1回転対偶部の回転軸同士が平行とならないように配置されるものであれば良い。
【0019】
また、リンク機構が3つ以上の場合、これらが初動脚部の長手方向の軸を中心に均等に配置されるものであれば良い。
【0020】
また、初動脚部は、その先端に跳ね返り防止部材を有するものであれば良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の衝撃緩和機構には、撃力を低減すると共に衝撃エネルギを散逸可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の衝撃緩和機構を説明するための概略モデルの側面図である。
図2図2は、本発明の衝撃緩和機構が衝撃を受けた際の動きを説明するための概略モデルの側面図である。
図3図3は、本発明の衝撃緩和機構においてリンク機構を2つ用いた場合の2次元における概略モデルの側面図である。
図4図4は、本発明の衝撃緩和機構においてリンク機構を2つ用いた場合の3次元における概略モデルの斜視図である。
図5図5は、本発明の衝撃緩和機構においてリンク機構を3つ用いた場合の3次元における概略モデルの斜視図である。
図6図6は、本発明の衝撃緩和機構を垂直落下させた際の緩衝対象部と錘部の速度の時間変化を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。本発明の衝撃緩和機構は、接触面への接触時に対象物への衝撃を緩和するために用いられるものである。例えば、宇宙機の着地やロボットの歩行時の着地における脚部に本発明の衝撃緩和機構が設けられれば良い。また、自動車が衝突した際にエネルギを吸収するサイドメンバ等に用いられても良い。
【0024】
図1は、本発明の衝撃緩和機構を説明するための概略モデルの側面図である。図示の通り、本発明の衝撃緩和機構は、緩衝対象部10と、錘部20と、初動脚部30と、リンク機構40とから主に構成されている。なお、本明細書中では、図中、接触面への接触方向をZ軸として説明する。
【0025】
緩衝対象部10は、衝撃を緩和する対象物11が配置されるものである。即ち、保護すべき機械本体にあたるものである。そして、緩衝対象部10は、接触面へ接触可能な対象物用脚部12を有している。対象物用脚部12は、接触面への接触方向であるZ軸方向に向いていれば良い。本発明の衝撃緩和機構は、最終的には対象物用脚部12が接触面へ接触する際に対象物用脚部12が受ける撃力を緩和させるものである。緩衝対象部10は、例えば、対象物11を載置可能な台座と、台座からZ軸方向に延在する対象物用脚部12とからなれば良い。
【0026】
錘部20は、錘21と、錘用脚部22とを有するものである。錘21は、緩衝対象部10に対する衝撃の運動エネルギを受け渡すためのものである。即ち、運動量交換型衝撃吸収ダンパでいうダンパ質量にあたるものである。錘用脚部22は、対象物用脚部12と略同時に接触面へ接触可能な長さを有している。錘用脚部22は、接触面への接触方向であるZ軸方向に向いていれば良い。錘部20は、例えば、所定の質量を有する錘21と、錘21からZ軸方向に延在する錘用脚部22とからなれば良い。なお、図示例では錘21を別体として示したが、本発明はこれに限定されず、錘部の台座自体が所定の質量を有するものであっても良い。
【0027】
初動脚部30は、接触面へ接触可能に配置されるものである。初動脚部30の長手方向は、接触面への接触方向であるZ軸に同軸に配置されれば良い。そして、初動脚部30は、対象物用脚部12及び錘用脚部22の接触面への接触の前に接触面へ接触可能に配置されるものである。初動脚部30は、運動量交換型衝撃吸収ダンパでいう衝突検知センサにあたるものである。本願発明では、初動脚部30は、メカニカルセンサとして機能するものであり、その先端が、衝撃を受ける際に最初に接触面へ接触する部位である。
【0028】
リンク機構40は、初動脚部30に対してZ軸方向の1自由度で移動可能に緩衝対象部10と錘部20とを連結するものである。そして、構造的特異性を有するものである。即ち、リンク機構40は、まず、初動脚部30の接触面への接触時には初動脚部30から緩衝対象部10及び錘部20への衝撃伝達率がゼロとなるように構成されている。さらに、リンク機構40は、錘用脚部22の接触面への接触時には錘部20から緩衝対象部10への衝撃伝達率がゼロとなるように構成されている。このように、リンク機構40は、初動脚部30が接触面へ接触した際と、その後、錘用脚部22が接触面へ接触した際の2度の場面で衝撃伝達率がゼロとなる構造的特異性を有している。
【0029】
このように動作させるために、図1に示される通り、本発明では、以下のような構成のリンク機構40を用いて緩衝対象部10と錘部20とが連結されている。即ち、リンク機構40は、具体的には、第1リンク部41と、第2リンク部42と、第3リンク部43とからなる。第1リンク部41は、Z軸に垂直な軸を回転軸として回転可能に連結する第1回転対偶部45を介して初動脚部30に接続される。また、第2リンク部42は、第1回転対偶部45の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第2回転対偶部46を介して第1リンク部41に接続されると共に、第1回転対偶部45の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第3回転対偶部47を介して緩衝対象部10に接続される。さらに、第3リンク部43は、第1回転対偶部45の回転軸に平行な軸を回転軸として回転可能に連結する第4回転対偶部48を介して錘部20に接続されると共に、第2回転対偶部46の回転軸と同軸を回転軸として回転可能に連結する第5回転対偶部49を介して第1リンク部41及び第2リンク部42に接続される。即ち、第2回転対偶部46と第5回転対偶部49は、2重の回転対偶である。
【0030】
このように、すべての回転対偶部の回転軸が平行となるように配置すれば良い。これにより、本発明の衝撃緩和機構を使用するときには、図面上奥行き方向への動きが拘束されるように2次元平面に配置すれば、緩衝対象部10と錘部20は、Z軸方向の1自由度でのみ移動可能に構成されることになる。なお、図示例では、緩衝対象部10と錘部20については、初動脚部30に対して直線運動するように、直動対偶31,32を用いて初動脚部30に接続されている。
【0031】
ここで、第1リンク部41と、第2リンク部42と、第3リンク部43の長さは、初動脚部30が接触面へ接触した際と、その後、錘用脚部22が接触面へ接触した際の2度の場面で衝撃伝達率がゼロとなる構造的特異性を有するように、以下のように設定されれば良い。まず、初動脚部30から第1回転対偶部45までの長さをlとし、初動脚部30から第4回転対偶部48までの長さ(錘部20の水平方向の長さ)をlとし、第1リンク部41の長さをlとし、初動脚部30から第3回転対偶部47までの長さ(緩衝対象部10の水平方向の長さ)をlとし、第2リンク部42の長さをlとし、第3リンク部43の長さをlとする。このとき、l=l=l+lの関係が成り立つと共に、l:l=l+l:lの関係が成り立つようなリンク長に設定されれば良い。
【0032】
以下、図2を用いて本発明の衝撃緩和機構の動作について詳細に説明する。図2は、本発明の衝撃緩和機構が衝撃を受けた際の動きを説明するための概略モデルの側面図であり、図2(a)が衝突の瞬間を、図2(b)、図2(c)が衝突後の変形途中を、図2(d)が緩衝対象部の対象物用脚部と錘部の錘用脚部が略同時に接触面へ接触した瞬間を、それぞれ表している。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図2に示される動きの流れからも分かる通り、本発明の衝撃緩和機構は、初動脚部30が接触面へ接触すると、接触方向に緩衝対象部10よりも速く錘部20がZ軸方向へ移動し、対象物用脚部12と錘用脚部22が略同時に接触面へ接触するように構成されている。
【0033】
まず、図2(a)に示される通り、衝突の瞬間(始点)は、最初に初動脚部30が接触面に接触する。この瞬間は、第1リンク部41の長手方向がZ軸に垂直且つ第1回転対偶部45の回転軸に垂直な方向に平行に配置されると共に第2リンク部42及び第3リンク部43の長手方向の軸がそれぞれZ軸に平行に配置された状態である。即ち、図面上、第1リンク部41は水平方向に配置されている状態である。したがって、初動脚部30から緩衝対象部10及び錘部20への衝撃伝達率はゼロとなっている。即ち、初動脚部30が接触面に接触した瞬間の撃力は、緩衝対象部10及び錘部20へは伝わらない。
【0034】
その後、図2(b)に示されるように、緩衝対象部10及び錘部20がZ軸方向にスライドする。このとき、第1リンク部41は第1回転対偶部45を介して初動脚部30に接続されているため、第1リンク部41の長手方向は、図面上水平に配置された状態から、斜め状態となる。そして、第2リンク部42及び第3リンク部43は、第2回転対偶部46及び第5回転対偶部49が第1リンク部41側に引っ張られるため、第2リンク部42及び第3リンク部43の長手方向の軸がそれぞれZ軸に平行に配置された状態から、くの字状態となる。
【0035】
図2(c)は、さらに緩衝対象部10及び錘部20がZ軸方向にスライドし、対象物用脚部12が接触面に接触する少し前の状態である。このときには、第1リンク部41はさらに斜めとなり、第3リンク部43は水平方向に近づく。第2リンク部42よりも第3リンク部43の長さが短いため、第3リンク部43に引っ張られる錘部20は、緩衝対象部10よりも速くZ軸方向に移動することになる。
【0036】
そして、図2(d)に示されるように、錘用脚部22の接触面への接触時(終点)には、対象物用脚部12と錘用脚部22が略同時に接触面へ接触する。このとき、第3リンク部43の長手方向がZ軸に垂直且つ第1回転対偶部45の回転軸に垂直な方向に平行に配置された状態となる。即ち、図面上、第3リンク部43は水平方向に配置されている状態となる。また、第1リンク部41及び第2リンク部42の長手方向の軸が同軸となる。即ち、第1リンク部41と第2リンク部42が一直線に並び、突っ張った状態となる。したがって、錘用脚部22が接触面へ接触するときには錘部20から緩衝対象部10への衝撃伝達率がゼロとなっている。即ち、錘用脚部22が接触面に接触した瞬間の撃力は、緩衝対象部10及び錘部20へは伝わらない。
【0037】
一方、接触方向に緩衝対象部10よりも速く錘部20がZ軸方向へ移動し、対象物用脚部12と錘用脚部22が略同時に接触面へ接触するように構成されるため、緩衝対象部10に対する衝撃エネルギを錘部20の運動エネルギに変換できることになる。その結果、緩衝対象部10に対する衝撃エネルギが散逸することになる。
【0038】
本発明の衝撃緩和機構は、このような構造により、撃力を低減すると共に衝撃エネルギを散逸することが可能となる。
【0039】
上述の図示例は、リンク機構40を1つ用いた構造を説明した。しかしながら、本発明の衝撃緩和機構は、複数のリンク機構を用いても良い。図3は、本発明の衝撃緩和機構においてリンク機構を2つ用いた場合の2次元における概略モデルの側面図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、この例は、平面上で初動脚部30の長手方向の軸を中心に線対称に左右にリンク機構40a,40bを設けたものである。リンク機構を2つ用いた場合であっても、上述の1つ用いた場合と同様に、緩衝対象部10及び錘部20は、Z軸方向にのみ移動可能に初動脚部30に軸支されるように構成されれば良い。
【0040】
さらに、本発明の衝撃緩和機構は、3次元モデルとして立体的にリンク機構を配置しても良い。図4は、本発明の衝撃緩和機構においてリンク機構を2つ用いた場合の3次元における概略モデルの斜視図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。3次元モデルの場合、何らかの支えがないと、緩衝対象部10と錘部20とは、Z軸方向以外にも移動してしまう。これを防止するために、2つのリンク機構を用いた3次元モデルの場合には、図示の通り、それぞれの第1回転対偶部45a,45bの回転軸同士が平行とならないように、リンク機構40a,40bが配置されれば良い。即ち、初動脚部30の長手方向の軸を中心にリンク機構40a,40bが180度の角度をもって配置されないようにすれば良い。例えば、図示例のように、90度となるように配置されれば良い。各リンク機構の各回転対偶部は、Z軸に垂直な軸を回転軸として回転可能に構成されるので、緩衝対象部10と錘部20とは、どちらのリンク機構にも拘束されていないZ軸方向の1自由度でのみ移動可能に構成されることになる。したがって、2つ以上のリンク機構を180度とならないように配置して用いた場合には、Z軸以外の移動は複数のリンク機構により拘束されるため、図1等に示される直動対偶は不要となる。
【0041】
図5に、本発明の衝撃緩和機構においてリンク機構を3つ用いた場合の3次元における概略モデルの斜視図を示す。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。本発明の衝撃緩和機構は、リンク機構は2つ以上用いることが可能であり、図示例はリンク機構を3つ用いた場合の具体例である。なお、この例では、重量バランスを考慮して、リンク機構40a,40b,40cが初動脚部30の長手方向の軸を中心に均等に配置されるものを示した。具体的には、図示例では、リンク機構がそれぞれ120度の角度をもって配置されている。このように構成されることで、緩衝対象部10と錘部20は、初動脚部30に対してZ軸方向の1自由度で移動可能に構成されることになると共に、均等に配置されることで、中心である初動脚部30に対する重量バランスを均等に保つことが可能となる。なお、本発明の衝撃緩和機構では、リンク機構の個数については上述の図示例には限定されない。例えば4つのリンク機構を用いる場合には、例えば90度の角度をもって配置されれば良い。
【0042】
以下、本発明の衝撃緩和機構の効果について、実験結果と共に説明する。図6は、本発明の衝撃緩和機構を垂直落下させた際の緩衝対象部と錘部の速度の時間変化を測定したグラフである。図中、黒線が緩衝対象部の速度であり、グレー線が錘部の速度である。なお、図示例は、実測値にフィルタを施した後のグラフである。実験で用いた衝撃緩和機構は、リンク機構を3つ均等に配置したものを用いた。図中、(A)が図2(a)に対応し、(B)が図2(b)に対応し、(C)が図2(c)に対応し、(D)が図2(d)に対応するタイミングにおける速度である。図示の通り、初動脚部30が接触面に接触した瞬間である(A)のタイミングまでは、緩衝対象部と錘部の速度差はない状態である。その後(B)のタイミングでは徐々に緩衝対象部と錘部の速度差が開いていく。即ち、緩衝対象部の速度が落ちていく一方、錘部の速度はより速くなっている。これにより、緩衝対象部から錘部へ運動量の交換がされていることが分かる。そして、(C)のタイミングで緩衝対象部がさらに速度が落ちていくところで、錘部の速度が急激に落ちる。その後、錘用脚部が接触面に接触した瞬間である(D)のタイミングで、緩衝対象部と錘部の速度が概ねゼロとなっている。ここで、(D)のタイミングでは、緩衝対象部は完全に速度がゼロとなっておらず、反対方向の速度を有している。これは、初動脚部が接触面に接触した後、跳ね返りが発生したためである。即ち、2回目の接触が発生し、その時に特異姿勢とならなかったために、緩衝対象部の速度がゼロとならなかった。したがって、緩衝対象部の速度を完全にゼロとするためには、例えば初動脚部の先端に跳ね返り防止部材を設ければ良い。
【0043】
なお、錘部は(D)のタイミングの後、跳ね返りにより逆方向の速度を有しているが、錘用脚部の接触面への接触時には錘部から緩衝対象部への衝撃伝達率がゼロとなっているため、錘部の跳ね返りの影響は緩衝対象部には及んでいないことが分かる。
【0044】
このように、本発明の衝撃緩和機構は、緩衝対象部が撃力を受けることなく、錘部に運動量を交換できており、その結果、緩衝対象部に対する衝撃エネルギも散逸できていることが分かる。
【0045】
なお、本発明の衝撃緩和機構は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
10 緩衝対象部
11 対象物
12 対象物用脚部
20 錘部
21 錘
22 錘用脚部
30 初動脚部
31,32 直動対偶
40 リンク機構
41 第1リンク部
42 第2リンク部
43 第3リンク部
45 第1回転対偶部
46 第2回転対偶部
47 第3回転対偶部
48 第4回転対偶部
49 第5回転対偶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6