(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】紫外線吸収剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20240118BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240118BHJP
A61K 8/27 20060101ALI20240118BHJP
A61K 8/26 20060101ALI20240118BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20240118BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20240118BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20240118BHJP
A61K 8/40 20060101ALI20240118BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20240118BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240118BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20240118BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240118BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240118BHJP
C08K 9/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C09K3/00 104Z
A61K8/19
A61K8/27
A61K8/26
A61Q17/04
A61K8/35
A61K8/37
A61K8/40
A61K8/36
A61K8/49
A61K8/46
C08L101/00
C08K3/26
C08K9/00
(21)【出願番号】P 2020074399
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】391001664
【氏名又は名称】株式会社海水化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】宮田 茂男
(72)【発明者】
【氏名】デイン フン クオン
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-114662(JP,A)
【文献】特開2002-167570(JP,A)
【文献】特開2017-178652(JP,A)
【文献】特開平06-009358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/
A61K
A61Q
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、M
2+は2価金属の少なくとも1
種、M
3+は3価金属の少なくとも1
種、A
n―は単位層厚さが10Å以上となるn価のアニオン、nは1~6の整数、Bは
t-ブチルメトキシベンゾイルメタン、メトキシケイヒ酸オクチル、オキシベンゾン、およびオクトクリレンの中から選ばれた少なくとも1種である、極性で非イオン性の有機系紫外線吸収剤、をそれぞれ示し、xとmはそれぞれ0.1<x<0.5,0<m<20の範囲にある)で表される、ハイドロタルサイト類の層間水が極性で非イオン性の有機系紫外線吸収剤で置換された構造を有する、有機無機複合紫外線吸収剤。
【請求項2】
前記ハイドロタルサイト類の結晶表面が、ヘキサメタリン酸、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリケイ酸、ポリカルボン酸、
およびアルギン
酸のポリアニオンの少なくとも
1種
で被覆された請求項1記載の複合紫外線吸収剤。
【請求項3】
前記ハイドロタルサイト類の結晶表
面が前記ポリスチレンスルホン酸
のポリアニオンで
被覆された請求項
2記載の複合紫外線吸収剤。
【請求項4】
前記M
2+がMgおよび/またはZnであり、
前記M
3+がAlであり、
前記xの範囲が
0.2≦x≦0.4である請求項1記載の複合紫外線吸収剤。
【請求項5】
前記Bがt-ブチルメトキシベンゾイルメタンである請求項1記載の複合紫外線吸収剤。
【請求項6】
前記A
n-が
、炭素数10以上の高級脂肪酸
、およ
びスルホン基
もしくはカルボキシル基含有有機紫外線吸収剤の中から選ばれた少なくとも1種以上である請求項1記載の複合紫外線吸収剤。
【請求項7】
前記複合紫外線吸収剤の横幅が1.0μm以上である請求項1記載の複合紫外線吸収剤。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項記載の複合紫外線吸収剤を有効成分として含有する化粧料。
【請求項9】
樹脂100重量部に対し、請求項1~
7のいずれか1項記載の複合紫外線吸収剤を0.001~20重量部含有する樹脂組成物。
【請求項10】
単位層厚さが10Å以上のハイドロタルサイト類を、極性で非イオン性の有機紫外線吸収剤を溶解したアルコール及び/又は有機溶媒に添加、加熱することを特徴とす
る複合紫外線吸収剤の製造方法
であって、前記複合紫外線吸収剤が、
下記式(1)
【化2】
(式中、M
2+
は2価金属の少なくとも1種、M
3+
は3価金属の少なくとも1種、A
n―
は単位層厚さが10Å以上となるn価のアニオン、nは1~6の整数、Bは極性で非イオン性の有機系紫外線吸収剤、をそれぞれ示し、xとmはそれぞれ0.1<x<0.5,0<m<20の範囲にある)で表される、ハイドロタルサイト類の層間水が極性で非イオン性の有機系紫外線吸収剤で置換された構造を有する、複合紫外線吸収剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合紫外線吸収剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機系紫外線吸収剤は酸化チタンとか酸化亜鉛等の紫外線散乱剤に比べて、紫外線吸収性と透明性に優れている。しかし、それ自体が紫外線で劣化し、経時的に初期性能が低下するものが多い。また、遷移金属とキレートを形成しやすいものが多く、その結果着色する問題が発生しやすい。更に、皮膚刺激及び皮膚を透過して人体に害を及ぼす可能性があり、安全性に問題がある。
【0003】
無機系化合物である紫外線散乱剤は皮膚刺激は低く、且つ皮膚から吸収される可能性が低いので、安全性のレベルは有機系紫外線吸収剤に比べて高い。しかし、ナノレベルの微粒子にしてもなお透明性が悪く、軋みがあり、のびが悪い欠点がある。また、UVA領域の紫外線吸収性が有機系に比べ劣っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、有機系紫外線吸収剤の優れた紫外線吸収性を保持しながら、光による劣化及び遷移金属との反応を防ぎ、且つ皮膚との接触も皮膚からの吸収もないことで安全な紫外線吸収剤を提供することである。更には透明性と延びが良い紫外線吸収剤を提供することである。
必須ミネラル剤が有効に働くためには、ミネラルごとにほぼ決まっている必要量を、毎日吸収されやすい化合物の形で摂取することが必要である。吸収されるためには、水に溶けた状態である必要がある。過剰の摂取は有害であり死に至ることもある。逆に摂取量が少なすぎるとミネラル不足による種々の問題が発生する。したがって、徐々に水に溶解し、各ミネラルに必要な量をイオンとして放出し、容易に吸収されるミネラル補給剤が理想である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は下記式(1)
【化1】
(式中、M
2+は2価金属の少なくとも1
種、M
3+は3価金属の少なくとも1
種、A
n―は、単位層厚さが10Å以上となるn価のアニオンを示し、nは1~6の整数、Bは
t-ブチルメトキシベンゾイルメタン、メトキシケイヒ酸オクチル、オキシベンゾン、およびオクトクリレンの中から選ばれた少なくとも1種である、極性で非イオン性の有機系紫外線吸収剤を示す。xとmはそれぞれ0.1<x<0.5,0<m<20、の範囲にある)で表される、ハイドロタルサイト類の層間水が極性を有する非イオン性の有機系紫外線吸収剤で置換された構造の、有機無機複合紫外線吸収剤を提供する。
【0006】
有機紫外線吸収剤を、光に安定で溶媒に溶けないハイドロタルサイト類の層状結晶内部に閉じ込め、更にはポリアニオンでハイドロタルサイト類結晶表面を被覆することにより、有機紫外線吸収剤の出口を塞ぐことができる。そうすることにより、有機紫外線吸収剤を光から守り、且つ遷移金属イオンと皮膚への接触を防ぎ、光安定性と安全性を実現できる。
【0007】
更に、ハイドロタルサイト類が六角形に近い板状結晶であることを利用して、適当な結晶の横幅を選択することによりタルクとかマイカに似た滑り性(延び)を付与できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合紫外線吸収剤は、有機系紫外線吸収剤と同等の優れた紫外線吸収性と、無機系紫外線散乱剤の特徴である光及び溶媒に対する安定性及び安全性(皮膚接触刺激性及び皮膚からの吸収による毒性が無い)を持ち、更に滑り性も付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は下記式(1)
【化2】
(式中、M
2+はMg、Ca、Zn、Ni、Cu等の2価金属の少なくとも1種以上、好ましくはMgおよび/またはZnを示し、M
3+はAl、Fe、In等の3価金属の少なくとも1種以上、好ましくはAlを示し、A
n-は、単位層の厚さが10Å以上となるn価のアニオンを示し、nは1~6の整数、好ましくはラウリン酸、ステアリン酸、べへン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸イオン及びフエニルベンズイミダゾールスルホン酸、テレフタリデンジカンフルスルホン酸等のスルホン酸基又はカルボキシル基含有有機紫外線吸収剤で、特に好ましくはステアリン酸及びフエニルベンズイミダゾールスルホン酸である。Bはケイ皮酸誘導体、サリチル酸誘導体、ベンゾフエノン誘導体、オクトクリレン、ジベンゾイルメタン誘導体、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル等の極性で非イオン性の有機系紫外線吸収剤を示す。好ましくはt-ブチルメトキシベンゾイルメタン、メトキシケイヒ酸オクチル、オキシベンゾン及びオクトクリレン、特に好ましくは、t-ブチルメトキシベンゾイルメタンである。xとmはそれぞれ0.1<x<0.5,好ましくは0.2≦x≦0.4、0<m<20、好ましくは0.1≦m≦10の範囲にある)で表される、ハイドロタルサイト類の層間水が極性で非イオン性の有機系紫外線吸収剤で置換された構造の、有機無機複合紫外線吸収剤を提供する。
【0010】
ハイドロタルサイト類は層状構造をしており、Mg(OH)2等の2価金属の水酸化物のMgの1部をAl等の3価金属イオンで置換した構造である基本層;[(M2+)1-x(M3+)x(OH)2]x+と、基本層で生じたプラス荷電x+を電気的に中和するn価のアニオンAn-と層間水(結晶水)から構成されている中間層;[(An-)x/n,H2O]x-とから成り立っている。
【0011】
本発明は、ハイドロタルサイト類の中間層の層間水は、同じく極性を有する有機系紫外線吸収剤で置換できるとの仮説をたて、鋭意研究した結果本発明を完成するに至った。この置換は、中間層の厚さが有機系紫外線吸収剤の分子径以上となった時に可能と考えられる。例えば比較的分子径の小さい有機系紫外線吸収剤であるt-ブチルメトキシベンゾイルメタンの分子径をXRDの最大面間隔と仮定すると約8.4Åとなる。これが層間に入るためには、単位層の厚さが基本層の厚さ4.6Åにこの8.4Åを足した合計13Å以上が必要となる。 中間層の厚さ8.4Åは、水分子の直径約3Åの約3倍に近いため、層間水と基本層との結合力が弱い。したがって、極性分子である有機系紫外線吸収剤は水分子を置換しやすい。単位層の厚さは、XRDで最低角度に出現する回折ピークの面間隔から決定できる。
【0012】
有機系紫外線吸収剤の分子径は約8.4Å以上あると考えられるので、単位層厚さに換算すると少なくとも10Å以上、好ましくは13Å以上、特に好ましくは20Å以上のハイドロタルサイト類を用い、アルコール又は有機溶媒に溶解した有機系紫外線吸収剤と混合、加熱することにより、層間水を置換できる。好ましい加熱温度は、50℃~80℃である。
【0013】
単位層厚さが約10Å以上、好ましくは13Å以上であるハイドロタルサイト類は、層間アニオンとして、例えば炭素数が10以上のデカン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸等の高級脂肪酸イオン、セバシン酸等のジカルボン酸イオン、p-メトキシケイ皮酸、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、2-ヒドロキシー4-メトキシベンゾフエノン―5-スルホン酸等のスルホン基又はカルボキシル基を有するアニオン性有機系紫外線吸収剤を好ましく用いることができる。層間距離が大きくなるほど、また、層間アニオン量が少なくなるほど、有機系紫外線吸収剤が占めることができる空間が増える。そのため、単位層厚さが約31Åと大きいステアリン酸イオン等は、特に好ましい。また、層間アニオン量を少なくする方法は、化式(1)の3価金属量xを少なくする方法と、層間アニオンの荷電を1から2以上に大きくする方法がある。
【0014】
上記以外の本発明複合紫外線吸収剤の紫外線吸収剤含有量を増加させる方法として、ハイドロタルサイト類の層間アニオンとして、アニオン性有機系紫外線吸収剤を使用する方法がある。アニオン性有機系紫外線吸収剤としては、例えば、UVB吸収剤であるp-メトキシケイ皮酸イオン、フエニルベンズイミダゾールスルホン酸イオン、サリチル酸イオン、UVB~UVA吸収剤として4-ヒドロキシ-2-メトキシ-5-ベンゾイルベンゼンスルホン酸イオン等がある。この方法により、層間にUVAとUVBの紫外線吸収剤を共存させることができるため、紫外線の全領域を吸収できる設計が可能である。勿論この方法以外に、UVAとUVBの吸収に優れた極性非イオン性有機系紫外線吸収剤を併用して、層間に閉じ込めることにより、紫外線全領域の吸収が可能である。
【0015】
(表面被覆)
本発明は、以上の考え方で、極性で非イオン性有機系紫外線吸収剤を、ハイドロタルサイト類の中間層(層間)に閉じ込めることにより、光による分解、着色の原因となる遷移金属との接触、そして、アレルギーの原因となる皮膚への接触及び皮膚からの吸収を避けることができる。したがって、有機系紫外線吸収剤の光による劣化、着色および安全性の問題が解決できる。この効果は、プラスに荷電しているハイドロタルサイト類の結晶の周りをポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、アルギン酸、ポリリン酸、ポリケイ酸(水ガラス)、カルボキシメチルセルロース等のポリアニオン(ポリマー性アニオン)、特に好ましくはポリスチレンスルホン酸で被覆することにより、強化される。ポリアニオンは、NaOH等のアルカリで中和して用いるのが好ましい。
【0016】
上記方法により、プラスに荷電しているハイドロタルサイト類の結晶表面を、ポリアニオンで化学吸着し、結晶全面を被覆することにより、中間層の開口部を塞ぐことができる。ここでアニオンがポリマーであることが重要である。中間層の開口部の被覆に使用するポリアニオンの量は、式(1)で表されるハイドロタルサイト類の重量に対して、0.01~20重量%、好ましくは0.5~10重量%である。表面被覆は、水等の極性溶媒中に分散させたハイドロタルサイト類にポリアニオンを溶解した水溶液を撹拌下添加混合することにより実施できる。溶媒を使用しない乾式法でも可能であるが前者の湿式法が好ましい。
【0017】
(透明性と滑り性)
本発明紫外線吸収剤の透明性と滑り性の良さは、ハイドロタルサイト類の屈折率と結晶外形の特徴に由来する。透明性の良さは、屈折率が約1.5と低く且つ結晶の厚さが薄いためである。透明性の悪い酸化チタンと酸化亜鉛の屈折率はそれぞれ2.5~2.7、2.0であり、且つ結晶の外形が立方体に近いため厚さが厚い。ハイドロタルサイト類は結晶外形が六角形に近い板状であり、横幅が大きいほど、滑り性が良い傾向にある。好ましい横幅は0.4μm以上、特に好ましくは1μm以上である。
【0018】
(樹脂組成物)
本発明紫外線吸収剤は、化粧料だけでなく、樹脂にも利用できる。本発明の樹脂組成物は、樹脂100重量部に対して、0.001~10重量部、好ましくは0.1~5重量部の本発明の複合紫外線吸収剤を含有する。従来の有機系紫外線吸収剤を本発明複合紫外線吸収剤に変換することにより、耐光性と耐熱性及び耐溶剤性が向上する。
【0019】
樹脂に使用する本発明複合紫外線吸収剤の層間に入れる有機系紫外線吸収剤として、例えば2-ヒドロキシー4-メトキシベンゾフエノン等のベンゾフエノン系、2―(2-ヒドロキシー5-メチルフエニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチルー4-ピペリデイル)セバケート等のヒンダードアミン系2,4-ビス(2,4-ジメチルフエニル)-6-(2-ヒドロキシー4-ンーオクチロキシフエニル)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン系、ユビナール3035、ユビナール3039等のシアノアクリレート系、アデカスタブLA-F70等のトリアジン系等の紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0020】
本発明で用いる樹脂とは、樹脂、ゴム、合成繊維および塗料を意味する。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ABS、ポリカーボネート、ポリフエニレンサルフアイド等の熱可塑性樹脂、フエノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。
また、ゴムとしては、例えばEPDM,SBR,NBR,ブチルゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。
更に、繊維としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン等の合成繊維を挙げることができる。
また更に、塗料としては、例えばエポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料等を挙げることができる。
【0021】
樹脂と本発明複合紫外線吸収剤との混合、混錬方法には特別の制約はないが、両者を均一に混合できる方法が好ましい。例えば、1軸又は2軸押出機、ロール、バンバリーミキサー等により混合、混錬できる。
【0022】
(製造方法)
本発明の紫外線吸収剤の製造は、次の2段階で実施できる。
〈第1段階〉
単位層の厚さが10Å以上、好ましくは13Å以上のハイドロタルサイト類を共沈法で製造する。
水溶性の2価と3価の金属塩(金属の塩化物、硝酸塩、臭化物、硫酸塩等、好ましくは塩化物、硝酸塩)の混合水溶液と、ほぼ等量のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム等)で共沈反応させる。好ましい2価金属はMgおよび/またはZnであり、好ましい3価金属はAlである。好ましい層間アニオンはCl-および/またはNO3-である。その理由は、第2段階で単位層が少なくとも10Å以上となる大きなアニオンでイオン交換されやすいためである。Cl-とかNO3
-等の層間アニオンが1価のハイドロタルサイト類を製造する。共沈反応後100~250℃、特に好ましくは150℃~250℃で5~20時間水熱処理することにより、凝集が少なく1次粒子の横幅が大きい、滑り性の良いハイドロタルサイト類を製造できる。好ましい1次粒子の横幅は0.4μm以上、特に好ましくは1μm以上である。
【0023】
〈第2段階〉
単位層厚さが13Å以上になるアニオン、例えば炭素数が12以上の高級脂肪酸イオンとか、p-メトキシケイ皮酸、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、2-ヒドロキシー4-メトキシベンゾフエノン―5-スルホン酸等でイオン交換することにより、少なくとも10Å以上、好ましくは13Å以上のハイドロタルサイト類を製造する。
【0024】
上記以外の第1段階の製造方法としては、層間アニオンが炭酸イオンCO3
2-のハイドロタルサイト類をほぼ等量の塩酸とか硝酸と撹拌下に反応させる方法がある。
さらに、第1段階の前述以外の製造方法として、ハイドロタルサイト類、好ましくは層間アニオンが炭酸イオンCO3
2-であるハイドロタルサイト類を約400℃~700℃で焼成して酸化物とした後、目的の層間アニオンの水溶液中でこの酸化物を水和反応させる方法がある。
【0025】
〈第3段階〉
単位層厚さが少なくとも10Å以上、好ましくは13Å以上のハイドロタルサイト類をエチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、n―ヘキサン、アセトン、ヘキサン等の炭化水素等の有機溶媒、好ましくはアルコール類に、極性非イオン性の有機系紫外線吸収剤を溶解し、撹拌下、有機溶媒の沸点以下で、好ましくは50~70℃で加熱することにより、層間水を有機系紫外線吸収剤で置換できる。この置換反応に用いるハイドロタルサイト類の重量に対して、1~100重量%、好ましくは10~50%重量%である。このあと、濾過、洗浄、乾燥、粉砕、分級等の慣用の工程を適宜選択して使用することにより、本発明の紫外線吸収剤を製造できる。
【0026】
以下実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。油剤への溶出性、金属とのキレート化合物生成による着色性、光安定性及び紫外線吸収性の試験は、以下の方法によりおこなった。
【0027】
[油剤への溶出性]
食用菜種油200mlに試料(紫外線吸収剤)を1.0g加え、マグネチックスターラーで24時間撹拌後、減圧濾過し、ろ液中の有機紫外線吸収剤濃度を吸光光度法で測定した。
【0028】
[着色性試験]
容量100mLのビーカーに20mLのエチルアルコールを入れ、これに試料を0.5g加え、30分間マグネチックスターラーで撹拌後、0.1M/Lの塩化アルミニウム水溶液を2mL加え、5分後の着色を目視した。
【0029】
[光安定性]
試料を時計皿に薄く広げ、これに波長325nm、紫外線強度0.96μW/cm2の紫外線を8時間照射した。色差計で黄変度(Yellow Index)を測定した。
【0030】
[紫外線吸収性]
スライドガラスに透明性の高い両面テープを貼る。試料粉末をエチルアルコール媒体中で超音波処理後、両面テープの露出面に塗布、乾燥。乾燥後、分光光度計で280nm~600nmの波長範囲の透過率を測定する。
【実施例1】
【0031】
塩化マグネシウムと塩化アルミニウムの混合水溶液(Mg=1.0M/L,Al=0.5M/L)2Lと4.0M/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、それぞれ100mL/分、約75mL/分の流速で、計量ポンプを用いて、容量5Lの反応槽(予め500mLの水を満たした)に撹拌下に供給し共沈反応した。pHを約9.4-9.6、温度を約35℃に保って反応させた。反応物を水洗後、水に分散させたのち、容量1Lのオートクレーブに入れ、160℃で15時間水熱処理した。約90℃まで冷却後2Lのビーカーに移し、撹拌下、Alの1モルに対し1.1モルのステアリン酸ナトリウム水溶液(約90℃)を加え、30分間約90℃で反応させ、層間の塩素イオンをステアリン酸イオンでイオン交換した。
この後、濾過、温水洗(約90℃)、乾燥(約120℃で3時間)し、100メッシュで篩過した。この粉末のXRDを2θ=3~70°の範囲で測定した結果を
図1-3に示す。
図1の2θ=5.59°にある最強回折が(002)と指数付けされるので、単位層厚さは31.57Åである。この粉末20gを化粧品のUVA吸収剤として代表的なt-ブチルメトキシジベンゾイルメタン(アボベンゾン)10gを溶解した50mLのエチルアルコールに加え、60℃で1時間加熱処理した。続いて、減圧濾過後、アルコールで洗浄し、120℃で2時間乾燥し、100メッシュで篩過した。この粉末のXRDを
図1-1に示す。アボベンゾンのXRDを
図1-2に示す。
篩過粉末のXRDは、層間アニオンがステアリン酸であるハイドロタルサイト類とほぼ同じ回折像とは別に、少し低角側にシフトしているがアボベンゾンとほぼ同じ回折像を示す。したがって、層間にステアリン酸とアボベンゾンが共存している。
篩過粉末を塩酸に溶解後、ジエチルエーテルを加え、アボベンゾンをエーテル層に抽出した。抽出物の一部を取り、分光光度計を使用し、波長357nmの吸収強度からアボベンゾン量を測定した。その結果アボベンゾンの含有量は14重量%であった。抽出物は別途乾燥し、ステアリン酸とアボベンゾンの合計量を測定した。また、塩酸に溶解した篩過粉末を用い、キレート滴定法でMgとAlを定量した。以上の分析から、化学組成を求めた結果は次の通りである。但し、ここでStはステアリン酸イオン、AVはアボベンゾンを示す。
[Mg
0.68Al
0.32(OH)
2][(St)
0.32(AV)
0.08]
篩過粉末のTG-DTA分析から、中間層に捕捉されたアボベンゾンの分解温度は490℃であり、同じ条件で測定したアボベンゾン単独の分解温度が458℃であることから、
耐熱性が約30℃向上している。SEMで1次粒子の横幅を測定した結果、0.6μmであり、滑り性がある。篩過粉末の油剤に対する溶出率、着色性、及び光安定性を表1に示す。
【実施例2】
【0032】
実施例1において、アボベンゾンとハイドロタルサイト類とのアルコール溶媒中での反応までは、実施例1と同様に行った後、濾過し取り出した反応物を水に分散後、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー製)の21重量%水溶液10gを加え30分撹拌し、表面被覆処理を行った。この後濾過し、アルコールで洗浄後、濾過、120℃で1時間乾燥した。乾燥物を100メッシュで篩過した。この粉末のアボベンゾン含有量を実施例1の方法で測定した結果、18重量%であった。アニオン系ポリマーでコーテイングすることにより、有機溶媒への溶出がコーテイングしない場合に比べて少なくなっていることが分かる。篩過粉末の紫外線吸収を
図2に、油剤に対する溶出率、着色性及び光安定性を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
アボベンゾンの紫外線吸収を
図2に、油剤に対する溶出率、着色性及び光安定性を表1に示す。
【0034】
【実施例3】
【0035】
実施例1において、原料を塩化亜鉛と塩化アルミニウムの混合水溶液(Zn=0.8M/L,Al=0.4M/L)に、水酸化ナトリムの流量を60mL/分、に変更する以外は実施例1と同様にして、共沈反応をした後、反応物の1/4を濾過、水洗し、それから、水に分散後、オートクレーブに入れ、120℃で12時間水熱処理した。約90℃に冷却後、オートクレーブから取り出し、撹拌下に0.3Mのフエニルベンズイミダゾールスルホン酸ナトリウム水溶液を添加し約90℃で30分間反応させ、塩素イオンをイオン交換した後、濾過、水洗、乾燥(約120℃で2時間)後、100メッシュで篩過した。この粉末20gを実施例1と同様に処理して、層間水をアボベンゾンで置換した後、実施例2と同様にして、ポリスチレンスルホン酸ソーダで表面処理をした。この後実施例1と同様にして、濾過、水洗、乾燥、篩過した。篩過後の粉末を塩酸に溶解後実施例1と同様の方法で分析した結果、アボベンゾン(AVと略称)が10.4%、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸(波長=302nm)(PBIと略称)が15.8%であり、化学組成は次の通りである。
[Zn0.76Al0.24(OH)2][(PBI)0.24(AV)0.06]
SEMで測定した1次粒子の横幅は0.6μmで、滑りがある。篩過粉末の紫外線吸収を
図3に示す。
【0036】
[比較例2]
フェニルベンズイミダゾールスルホン酸とアボベンゾンの1:1の混合物の紫外線吸収を
図3に示す。
【実施例4】
【0037】
実施例1において、原料を塩化マグネシウム、塩化亜鉛及び塩化アルミニウムの混合水溶液(Mg=1.2M/L,Zn=0.2M/L,Al=0.4M/L)に、水酸化ナトリウムの流量を約90mL/分、に変更する以外は実施例1と同様にして共沈反応後、0.2M/LのNa
2CO
3水溶液で洗浄し、イオン交換した。その一部を濾過水洗し、水に分散後、220℃で12時間水熱処理した。
この物に、0.2M/Lの塩酸水溶液をAlに対し1.1当量、撹拌下、約60℃で添加し、層間アニオンをCl
-に変換した。この後、80℃に加温し、Alに対し1.2当量のラウリン酸ソーダ(LAと略称)を添加し30分間反応させた。この後濾過水洗し、120℃で乾燥後、100メッシュで篩過した。この篩過物20gを、メトキシケイ皮酸オクチル(MCと略称)10gを溶解した200ccのイソプロピルアルコール(IPA)に添加し、撹拌下に60℃で30分反応させた。反応物を濾過し、IPAで洗浄後、水に分散し、ポリカルボン酸ナトリウム水溶液(日油製、マリアリムAWS-0851をNaOHで中和した5%濃度)を20g添加し、30分撹拌し表面処理後、濾過、水洗、乾燥、篩過した。MCの定量を吸光光度法で波長=308nmで行った。MCの含有量は20.9%であった。化学組成は次の通りである。
[Mg
0.67Zn
0.11Al
0.22(OH)
2][(LA)
0.11(MC)
0.08]
SEMで測定した1次粒子の横幅は1.5μmで、滑り性が良い。篩過粉末の紫外線吸収を
図4に、油剤に対する溶出率、着色性及び光安定性を表1に示す。
【0038】
[比較例3]
メトキシケイ皮酸オクチルの紫外線吸収を
図4に、油剤への溶出率、着色性及び光安定性を表1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1-1は実施例1で得られた生成物、
図1-2はアボベンゾン、
図1-3は層間アニオンがステアリン酸であるハイドロタルサイト類、それぞれのXRDチャート。
【
図2】実施例2で得られた生成物及びアボベンゾンの紫外線吸収スペクトル。
【
図3】実施例3および比較例2で得られた生成物の紫外線吸収スペクトル。
【
図4】実施例4および比較例3で得られた生成物の紫外線吸収スペクトル。