(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ブプレノルフィン誘導体の長時間作用性注射製剤および結晶形
(51)【国際特許分類】
C07D 489/02 20060101AFI20240118BHJP
A61K 31/485 20060101ALI20240118BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240118BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240118BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240118BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240118BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240118BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240118BHJP
A61P 25/36 20060101ALI20240118BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C07D489/02 CSP
A61K31/485
A61K9/107
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/42
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/22
A61K47/20
A61K47/18
A61P25/24
A61P25/36
A61P25/04
(21)【出願番号】P 2020561817
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(86)【国際出願番号】 CN2019086449
(87)【国際公開番号】W WO2019214726
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-05-10
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519087332
【氏名又は名称】▲ユ▼展新藥生技股分有限公司
【氏名又は名称原語表記】Alar Pharmaceuticals Inc.
【住所又は居所原語表記】Rm. 312, 3F., No. 19, Keyuan Rd. Xitun Dist. Taichung City 40763 TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100132193
【氏名又は名称】山中 裕子
(72)【発明者】
【氏名】リン、 トン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン、 ヨン-シュン
(72)【発明者】
【氏名】リァン、 ルュイ-ウェイ
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-175706(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103068387(CN,A)
【文献】国際公開第2018/050043(WO,A1)
【文献】特開2018-009031(JP,A)
【文献】Pharmaceutical Research,1995年,Vol.12, No.10,pp.1526-1529
【文献】平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック,2008年,p.17-23,37-40,45-51,57-65
【文献】川口洋子ら,医薬品と結晶多形,生活工学研究,2002年,Vol.4, No.2,p.310-317
【文献】堀岡正義ほか監修,注射剤-その基礎と調剤と適用-,株式会社南山堂,1995年,pp.20-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 489/02
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-アシル-ブプレノルフィンの結晶形であって、
前記の3-アシル-ブプレノルフィンの結晶形は、
下記
図1に示されるものと一致するX線粉末回折パターンを有する酢酸ブプレノルフィン結晶形、
下記
図9に示されるものと一致するX線粉末回折パターンを有するペンタン酸ブプレノルフィン結晶形、
または、
下記
図13に示されるものと一致するX線粉末回折パターンを有するヘキサン酸ブプレノルフィン結晶形、
である、結晶形。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶形およびその薬学的に許容される担体を含む持効性医薬組成物。
【請求項3】
懸濁水性希釈剤に、請求項1に記載の結晶形
を含み、有機溶媒、ポリ乳酸ポリマー、ポリグリコリドポリマー、またはポリ乳酸とポリグリコリドのコポリマーを含まず、患者または動物に注射されたときに少なくとも1週間続く安定した放出プロファイルを示す、水性注射可能な医薬懸濁液。
【請求項4】
80μm未満の平均粒径を有する、請求項3に記載の注射可能な医薬懸濁液。
【請求項5】
前記の懸濁水性希釈剤は、リン酸緩衝生理食塩水におけるポリエチレングリコールポリマーおよびポリソルベートを含む、請求項3に記載の注射可能な医薬懸濁液。
【請求項6】
請求項1に記載の結晶形
は5%~30%w/wの濃度で存在する、請求項3に記載の注射可能な医薬懸濁液。
【請求項7】
請求項3に記載の水性注射可能な医薬懸濁液であって、前記の水性注射可能な医薬懸濁液を必要とする対象の皮下または筋肉内に少なくとも1週間の治療上有効な期間で投与される、オピオイド中毒、疼痛またはうつ病を治療するための水性注射可能な医薬懸濁液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、ブプレノルフィン誘導体の結晶形および製剤に関する。特に、本開示は、ブプレノルフィン誘導体、またはその代謝産物もしくはプロドラッグを含む注射可能な組成物、その使用、ならびにオピオイド依存症、疼痛、およびうつ病のためにそれを使用する治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブプレノルフィン((5α、7α(s))-17-シクロプロピルメチル)-α-(1,1-ジメチルエチル)-4、5-エポキシ-18、19-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-6-メトキシ-α-メチル-6,14-エテノモルフィナン-7-メタノール)は、オピオイドアルカロイドのファミリーに属するテバインの誘導体である。ブプレノルフィンの構造は次の式(式I)で示され、分子量は467.64である。
【化1】
【0003】
部分的で強力なμ受容体アゴニストとするブプレノルフィンは、モルヒネ、メタドンのような他の完全アゴニストと競合するより高い親和性を有する。ブプレノルフィンは、モルヒネよりも25~40倍高い効力を有するので、いくつかの剤形で、中等度から重度の慢性疼痛、および術前鎮痛の治療に使用され、例えば、Buprenex(登録商標)(筋肉内または静脈内注射)、Norspan(登録商標)、Butrans(登録商標)(経皮パッチ)、Temgesic(登録商標)(舌下錠)、およびBelbuca(登録商標)(頬側フィルム)が挙げられる。健常者におけるButrans(登録商標)の治療濃度(Cmax)は、5~20μg/時間の用量に対して、0.1~0.5ng/mLの範囲である。なお、塩酸ブプレノルフィンのさまざまな製品は、オピオイド中毒のより高用量での治療が承認されて、例えば、Subutex(登録商標)(舌下錠)、SublocadeTM(皮下注射)、また、一部は塩酸ブプレノルフィンと塩酸ナロキソンとの組み合わせ製品であり、例えば、Suboxone(登録商標)(舌下フィルム、塩酸ブプレノルフィンと塩酸ナロキソンとの比率が4:1)、Zubsolv(登録商標)(舌下錠)、Bunavail(登録商標)(頬側フィルム)が挙げられる。Suboxoneの治療濃度(Cmax)は、2~16mgの舌下フィルムの用量に対して、1~6ng/mLの範囲である。
【0004】
さらに、ブプレノルフィンもκ-オピオイド受容体の強力な拮抗薬であり、耐性の低下をもたらし、抗うつ効果を有する。最近、ブプレノルフィンは、ブプレノルフィン(κ受容体拮抗薬)とサミドルファン(samidorphan、μ受容体アゴニスト)からなるALK-5461の併用製品に使用され、抗うつ効果が発表されている。
【0005】
従来の研究では様々なブプレノルフィン誘導体が開示された。それらの中で、エステル結合リンケージの形成によるフェノール基の修飾がより一般的である。これらのエステル誘導体は合成され、また、ブプレノルフィンおよびその塩酸塩と比較される。1995年に、Stinchcombらは、ブプレノルフィンの3-アルキルエステル誘導体(以下の式II、R=アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基)に関する論文を発表した(Pharm.Res.(1995)、12、1526-1529)。次の論文で、これらの誘導体はプロドラッグと見なされ、親化合物の生理化学的特性を改善して、皮膚を介したその相対的透過性を高めると視されていた(Biol.Pharm.Bull.(1996)、19、263-267及びPharm.Res.(1996)、13、1519-1523)。
【化2】
【0006】
その後、いくつかのC3-エステル化ブプレノルフィン誘導体およびそれらの用途は様々な特許に開示されている。例えば、Euro-Celtique S.A.が出願した米国特許第7,084,150号には、エステル結合またはエーテル結合で修飾した誘導体を含むブプレノルフィンのプロドラッグおよび類似体の巨大なファミリーが開示されている。Jhi-Joung Wangが出願した欧州特許第1422230号には、ブプレノルフィンの二量化誘導体および類似のアルキルカルボニル誘導体が開示されている。これらの誘導体のプロドラッグ戦略とオイルキャリアは、筋肉内または皮下注射で導入されることにより、5~96時間の鎮痛作用の延長が示される。
【0007】
一連のブプレノルフィンエステル誘導体は、Reckitt Benckiser Healthcare(UK)Limitedが出願した米国特許第7,964,610号にも記載されている。ブプレノルフィンはジカルボン酸またはエステルで修飾した。次に、これらの誘導体は、オピエートの乱用/依存症の治療、および中等度から重度の痛みの治療に使用された。
【0008】
オピオイド依存症および慢性疼痛の治療のために、ブプレノルフィンは様々な持効性設計がある。例えば、Titan Pharmaceuticals、Inc.は、エチレンビニルアセテート(EVA)と薬物原料との混合物から作られた新しいド薬物送達システムであるProNeuraTMを使用して、塩酸ブプレノルフィンの皮下インプラント製品であるProbuphine(登録商標)を開発した。Probuphine(登録商標)は、外科的移植により6ヶ月月に1回投与され、治療後に外科的処置で患者から取り出される。
【0009】
Camurusは、ホスファチジルコリンとジオレイン酸グリセロールから構成される脂質液晶に基づいて、新しい薬物送達システムであるFluidCrystal(登録商標)を確立した。米国特許出願公開第2013/0190341号に開示されている製剤は、オピオイド依存症および慢性疼痛を治療するための長時間作用性ブプレノルフィン製品として設計され、毎週または毎月皮下注射で投与される。
【0010】
Brookwood Pharmaceuticals,Inc.による米国特許出願公開第2003/0152638号には、ブプレノルフィンおよびポリ(D,L-乳酸)を含む注射可能な持効性ミクロスフェア製剤が開示されている。この製剤は、哺乳動物のヘロインおよびアルコール乱用を少なくとも28日間治療できる。
【0011】
米国特許出願公開第2014/0271869号(Oakwood Laboratories LLC)には、その独自技術であるChronijectTMを利用した生分解性製剤が開示されている。当該プラットフォームは、薬物送達のためのポリマーベースの注射可能なミクロスフェアシステムである。ブプレノルフィンミクロスフェアは、より高い薬物負荷で生成され、少なくとも1ヶ月から数ヶ月の持効性を達成できると主張した。
【0012】
Indivior PLC(WO 2011/154724)は、オピオイド依存症の治療のための注射可能な流動性製剤を製造するために、Atrigelシステムを採用して月次デポ(monthly depot)を開発した。組成物は、ブプレノルフィン遊離塩基、生分解性ポリマー、および生体適合性溶媒を含む。溶解した液体は注射されて、インサイチューで固体インプラントに変換して、1ヶ月および3ヶ月の放出プロファイルを提供できる。なお、懸濁液および溶液の設計は、それぞれWO2011/154725およびWO2015/136253に開示されている。懸濁液は、水性条件で、ブプレノルフィンとポリエチレングリコールポリマーで構成され、犬の筋肉内または皮下への単回注射後、7~30日の治療期間を提供する。開示された溶液として、組成物は、ブプレノルフィンまたはその塩形態、および生分解性ポリマーを含まない生体適合性有機溶媒からなる。製剤は、ビーグル犬に単回皮下注射した後、少なくとも1ヶ月の治療期間を提供することができる。
【0013】
上記の従来の医薬調製物は、ブプレノルフィンの持効性を提供することができるが、より良い特性を有する製剤、例えば、局所部位の刺激のリスクを低減するための有機溶媒を含まない製剤、または、より高いバイオアベイラビリティを有する、あるいは1回の注射後に変動が小さく、有意なバースト効果がない薬物動態プロファイルを有する製剤が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
本開示は、ブプレノルフィン誘導体の水性懸濁液と、ミクロスフェアの水性懸濁液、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)ベースの溶液、脂質ベースの製剤、およびスクロース酢酸イソブチルベースの製剤のような制御放出マトリックスとを含む、ブプレノルフィンまたはそのプロドラッグ、薬学的に許容される塩、およびその代謝産物の様々な持効性医薬組成物に関する。本開示の製剤は、少なくとも1週間から数ヶ月の治療有効期間を実行する。
【0015】
本開示の一態様は、有機溶媒を利用しない注射可能な懸濁液またはその組み合わせに関する。非経口製剤に有機溶媒を使用すると溶解性が高まるが、局所刺激のリスクは必然的に増加することが知られている。本開示の一実施形態による注射可能な医薬組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー、ポリソルベート、およびリン酸緩衝生理食塩水を含む希釈剤における結晶性3-アシル-ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩の懸濁液を含み、当該注射可能な医薬組成物は、少なくとも1週間にわたって安定した放出プロファイルを示し、単回注射後に局所部位の刺激のリスクが最小になる。
【0016】
本開示の実施形態によれば、長時間作用性懸濁製剤は、結晶性3-アシル-ブプレノルフィン誘導体から調製される。当該アシル基は、アルキルカルボニル基である。当該アルキルカルボニル基のアルキル部分は、1~17個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖である。
【0017】
1つの実施形態において、本開示は、以下のようなX線粉末回折パターンを有する結晶性3-アシル-ブプレノプリン誘導体を提供する。
【表A】
【0018】
本開示の実施形態によれば、3-アシル-ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩は、1~99%w/v,5~90%w/v,5~60%w/v,または10~30%w/vの濃度で存在する、水性懸濁液に関する。
【0019】
本開示の実施形態によれば、制御放出マトリックス製剤に関する。PLGAベースの製剤、脂質ベースの製剤、およびスクロース酢酸イソブチルベースの製剤で利用される生体適合性有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、グリセリン、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、ベンジルアルコール、エステル、エーテル、アミド、炭酸塩、ラクタム、スルホニル、またはそれらの任意の組み合わせ。
【0020】
本開示の実施形態によれば、注射可能な医薬組成物は、防腐剤をさらに含んでもよい。本開示の実施形態によれば、防腐剤は、メチルパラベン、プロピルパラベンおよびベンジルアルコールからなる群から選択される。
【0021】
本開示の実施形態によれば、注射可能な医薬組成物は、皮下、筋肉内または皮内注射用に処方される。
【0022】
本開示の別の態様は、オピオイド中毒、痛み、またはうつ病を治療するための方法に関する。本開示の一実施形態による方法は、上述の任意の実施形態による注射可能な医薬組成物の治療的有効量を必要とする対象に投与することを含む。
【0023】
本開示の実施形態によれば、前記の投与は、週に1回、月に1回、または3ヶ月に1回の頻度で行われる。
【0024】
本開示の他の態様は、添付の図面および以下の詳細な説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】酢酸ブプレノルフィン結晶形のX線粉末回折パターンを示す。
【0026】
【
図2】酢酸ブプレノルフィン結晶形の示差走査熱量測定(DSC)パターンを示す。
【0027】
【
図3】酢酸ブプレノルフィン結晶形の
1H核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【0028】
【
図4】酢酸ブプレノルフィン結晶形のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルを示す。
【0029】
【
図5】ピプレン酸ブプレノルフィン結晶形のX線粉末回折パターンを示す。
【0030】
【
図6】ピプレン酸ブプレノルフィン結晶形のDSCパターンを示す。
【0031】
【
図7】ピプレン酸ブプレノルフィン結晶形の
1H NMRスペクトルを示す。
【0032】
【
図8】ピプレン酸ブプレノルフィン結晶形のFTIRスペクトルを示す。
【0033】
【
図9】ペンタン酸ブプレノルフィン結晶形のX線粉末回折パターンを示す。
【0034】
【
図10】ペンタン酸ブプレノルフィン結晶形のDSCパターンを示す。
【0035】
【
図11】ペンタン酸ブプレノルフィン結晶形の
1H NMRスペクトルを示す。
【0036】
【
図12】ペンタン酸ブプレノルフィン結晶形のFTIRスペクトルを示す。
【0037】
【
図13】ヘキサン酸ブプレノルフィン結晶形のX線粉末回折パターンを示す。
【0038】
【
図14】ヘキサン酸ブプレノルフィン結晶形のDSCパターンを示す。
【0039】
【
図15】ヘキサン酸ブプレノルフィン結晶形の
1H NMRスペクトルを示す。
【0040】
【
図16】ヘキサン酸ブプレノルフィン結晶形のFTIRスペクトルを示す。
【0041】
【
図17】デカン酸ブプレノルフィン結晶形のX線粉末回折パターンを示す。
【0042】
【
図18】デカン酸ブプレノルフィン結晶形のDSCパターンを示す。
【0043】
【
図19】デカン酸ブプレノルフィン結晶形の
1H NMRスペクトルを示す。
【0044】
【
図20】デカン酸ブプレノルフィン結晶形のFTIRスペクトルを示す。
【0045】
【
図21】ドデカン酸ブプレノルフィン結晶形のX線粉末回折パターンを示す。
【0046】
【
図22】ドデカン酸ブプレノルフィン結晶形のDSCパターンを示す。
【0047】
【
図23】ドデカン酸ブプレノルフィン結晶形の
1H NMRスペクトルを示す。
【0048】
【
図24】ドデカン酸ブプレノルフィン結晶形のFTIRスペクトルを示す。
【0049】
【0050】
【0051】
【
図27】MSA02およびMSA05の体外溶解放出%を示す。
【0052】
【
図28】MSB01-05の体外溶解放出%を示す。
【0053】
【
図29】PS01、PS02、PS09、およびPS10の体外溶解放出%を示す。
【0054】
【0055】
【
図31】BDSB1およびLS01-04の体外溶解放出%を示す。
【0056】
【
図32】ラットにおけるAS01-04の薬物動態(PK)プロファイルを示す。
【0057】
【
図33】ラットにおけるAS05-07のPKプロファイルを示す。
【0058】
【
図34】ミニブタのAS08のPKプロファイルを示す。
【0059】
【
図35】ラットにおけるMSA02-05およびMSB01-02のPKプロファイルを示す。
【0060】
【
図36】イヌにおけるMSA01、MSA02、およびMSA05のPKプロファイルを示す。
【0061】
【
図37】ラットにおけるPS03およびPS10のPKプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本開示の実施形態は、ブプレノルフィン誘導体の製剤に関し、その形態は結晶性ブプレノルフィン誘導体の水性懸濁液、ミクロスフェアの水性懸濁液、PLGAベースの溶液、脂質ベースの製剤、およびスクロース酢酸イソブチルベースの製剤であり、単回投与後の持効性プロファイルを有し、また、オピオイド中毒、痛みまたはうつ病の治療のための最小限の初期バーストを表示する。本開示の実施形態によれば、前記のブプレノルフィン誘導体は、3-アルキルエステル誘導体、すなわち、ブプレノルフィンの3-ヒドロキシ(フェノール)基とアルキルカルボニル化(アシル化)試薬との間で形成されるエステルである。
【0063】
本開示の実施形態によれば、Rがアルキル残基であるアルキルカルボニル試薬(R-CO-X)は、アセチルクロリド、無水アシル、またはアシル活性エステルであってもよい。前記のアルキルカルボニル基のアルキル部分は、直鎖または分岐アルキル基であってもよい。前記のアルキル部分は、1~18(C1~C18)、1~16(C1~C16)、1~12(C1~C12)、1~10(C1~C10)、1-5(C1~C5)、または1-3(C1~C3)のような適切な炭素数を含んでもよい。アルキルカルボニル(アシル)基の例は、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタニル基、ヘキサニル基、デカニル基、ステアリル基、およびパルミチル基を含んでもよい。
【0064】
本開示の実施形態によれば、前記のブプレノルフィン誘導体は、従来の方法を使用して合成されてもよい。ブプレノルフィンまたはその塩は、Sigma-Aldrichのようないくつかの販売元から購入できる。ブプレノルフィン誘導体を調製するために、塩基(例えば、トリエチルアミン)の存在下で、ブプレノルフィン(またはその塩)をアセチルクロリドと反応させて、エステル結合を形成することができる。産物(3-アシル-ブプレノルフィンまたは3-アルキルカルボニル-ブプレノルフィン)は、従来の方法(例えば、カラムクロマトグラフィー)で精製することができる。
【0065】
本明細書で使用される場合、ブプレノルフィン誘導体は、3-アシル-ブプレノルフィン(3-アルキルカルボニル-ブプレノルフィン)またはその塩を指す。本開示のブプレノルフィン誘導体は、親化合物であるブプレノルフィンに変換されてもよいプロドラッグとして機能し得る。
【0066】
結晶性ブプレノルフィン誘導体は、X線回折(XRD)、示差走査熱量計(DSC)、核磁気共鳴分光法(NMR)、および赤外分光法(IR)によってさらに特定した。
【0067】
本開示の製剤は、PEGポリマー、ポリソルベート、およびリン酸緩衝生理食塩水を含有する水性希釈剤中に懸濁された3-アシル-ブプレノルフィン誘導体を含んでもよい。前記の水性懸濁製剤は、ブプレノルフィン誘導体またはその塩を、1~99%w/v、1~90%w/v、5~90%w/v、5~80%w/v、10~70%w/v、または10~60%w/vのような任意の適切な濃度で含んでもよい。この説明で数値範囲が開示されている場合、あたかもこれらの数値のそれぞれが個別に開示されているかのように、範囲内のすべての数値を含むことが意図されていることに注意される。
【0068】
本開示の製剤は、別の薬学的に許容される賦形剤、担体、希釈剤、または防腐剤をさらに含んでもよい。本開示の実施形態によれば、防腐剤は、メチルパラベン、プロピルパラベンおよびベンジルアルコールからなる群から選択されてもよい。
【0069】
本開示の製剤は、3-アシル-ブプレノルフィン誘導体またはその塩形態のミクロスフェア、ならびにリン酸緩衝生理食塩水、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびポリソルベートを含む水性希釈剤を含んでもよい。ミクロスフェアに利用される熱可塑性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコリド、または、カルボキシル末端グループまたはエステル末端グループを有する50/50、55/45、60/40、65/35、70/30、75/25、80/20、85/15、90/10または95/5のポリ(DL-乳酸-コ-グリコリド)またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0070】
本開示の製剤は、3-アシル-ブプレノルフィン誘導体またはその塩形態、熱可塑性ポリマー、および1つ以上の適切な生体適合性溶媒を含んでもよい。前記のブプレノルフィン誘導体は、遊離塩基またはその薬学的に許容される塩、例えば、HCLの塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸のような形態であってもよい。前記の熱可塑性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコリド、またはカルボキシル末端グループまたはエステル末端グループを有する50/50、55/45、60/40、65/35、70/30、75/25、80/20、85/15、90/10、または95/5ポリ(DL-乳酸-コ-グリコリド)またはそれらの組み合わせであってもより。前記の生体適合性溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、酢酸エチル(EtOAc)、エタノール(EtOH)、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、グリセリン、安息香酸ベンジル(BnBzO)、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、およびベンジルアルコールのような有機溶媒であってもよい。
【0071】
本開示の製剤は、レシチン、ジオレインおよび生体適合性溶媒を含む脂質ベースの溶液に溶解された3-アシル-ブプレノルフィン誘導体またはその塩形態を含んでもよい。前記の生体適合性溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、酢酸エチル(EtOAc)、エタノール(EtOH)、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、グリセリン、安息香酸ベンジル(BnBzO)、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、およびベンジルアルコールのような有機溶媒であってもよい。
【0072】
本開示の製剤は、3-アシル-ブプレノルフィン誘導体またはその塩形態のイオン複合体、生体適合性溶媒に溶解または懸濁されたスクロース酢酸イソブチル(SAIB)を含んでもよい。前記の生体適合性溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、酢酸エチル(EtOAc)、エタノール(EtOH)、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、グリセリン、安息香酸ベンジル(BnBzO)、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、およびベンジルアルコールのような有機溶媒であってもよい。
【0073】
本開示の様々な製剤は、望ましくない初期バーストを有さず、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月以上の持効性プロファイルを示し得る。ブプレノルフィンの有意なバースト放出を有しない製剤は、いくつかの全身性有害作用、例えば、ピンポイントの瞳孔、鎮静、低血圧、呼吸抑制のリスクを低減するだけでなく、医師が患者を頻繁に監視する負担を軽減することもできる。さらに、有機溶媒を含まないブプレノルフィン誘導体の水性懸濁液製剤は、高いバイオアベイラビリティ、少なくとも1週間の薬学的に有効な血漿濃度、および最小限の局所反応のリスクを有する。
【0074】
本開示の実施形態は、以下の実施例でさらに説明される。しかしながら、当業者は、これらの例が単に説明のためのものであり、本開示の範囲から逸脱することなく他の修正および変形が可能であることを理解される。
【実施例】
【0075】
実施例1:3-アシル-ブプレノルフィン誘導体の合成
以下の説明は、3-アシル-ブプレノルフィン誘導体の合成手順である。適切な三口丸底フラスコに、塩酸ブプレノルフィンおよびジクロロメタン(DCM)を加えて懸濁液とし、これを氷浴に入れて冷却した。その後、トリメチルアミン(TEA)を撹拌しながらゆっくりと加えた。次に、アセチルクロリドをフラスコに滴下した。すべての材料を追加した後、氷浴を取り消した。反応混合物を周囲温度で1~4時間実施した。反応混合物を飽和重炭酸ナトリウム水溶液で中和した。有機層を塩水で洗浄し、次に硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で濃縮した後、粗製のブプレノルフィン誘導体が得られた。
【表1】
【0076】
実施例2:3-アシル-ブプレノルフィン誘導体の結晶化
以下は3-アシル-ブプレノルフィン誘導体の結晶化手順である。周囲温度で、または加熱した油もしくはイーター浴において、粗製の3-アシル-ブプレノルフィン誘導体を表2に記載の溶媒に溶解した。次に、溶解した混合物を氷浴で冷却して、結晶性3-アシル-ブプレノルフィン誘導体を形成した。
【表2】
【0077】
得られた結晶性3-アシル-ブプレノルフィン誘導体は、XRD、DSC、NMRおよびIRにより特定した。
【0078】
酢酸ブプレノルフィンの結晶形は、X線回折パターン(Bruker、D8 DISCOVER SSS多目的薄膜X線回折計)で特定して、4.70、8.44、9.38、10.74、12.42、14.12、17.72、18.40、18.78、20.08、20.56、25.04、26.88、28.42、28.46度2θにピークを有し(
図1)、また、その融点は、示差走査熱量測定DSC(Mettler-Toledo、TGA/DSC 3+STAReシステム)により、167.69℃と測定された(
図2)。結晶性酢酸ブプレノルフィンの構造は、核磁気共鳴NMR(Bruker、Ascend TM 400MHz)、およびフーリエ変換赤外分光法FTIR(Thermo、Nicolet-IS10 Mattson Satellite-5000分光計)で確認された(
図3および
図4)。代表的な
1HNMR(400MHz,CDCl
3):6.81(d,1H,J=8.4Hz),6.62(d,1H,J=8.0Hz),5.93(s,1H),4.45(s,1H),3.49(s,3H),3.03(m,2H),2.94-2.81(m,1H),2.64(dd,1H,J=4.8,12.0Hz),2.40-2.24(m,7H),2.14(t,1H,J=10.0Hz),2.04-1.78(m,3H),1.77-1.68(dd,1H,J=2.8,13.2Hz),1.42-1.38(m,4H),1.15-1.01(m,10H),0.89-0.77(m,1H),0.77-0.65(m,1H),0.51(m,2H),0.14(m,2H)。FTIR吸収帯(cm
-1):3439、2928、1760、1610、1450、1399、1192、1136、1094、963、827、668(±1cm
-1)。
【0079】
ピプレン酸ブプレノルフィンの結晶形は、X線回折パターン(PHILIPSX’PERTPro、PHILIPS X’PERT Pro MPD)で特定して、5.93、6.03、9.08、9.18、9.33、9.58、9.68、10.83、125、10.93、11.03、12.18、12.28、12.78、12.88、12.98、15.58、15.73、15.83、15.98、17.38、17.53、18.18、18.28、18.38、19.43、27.73、27.83、29.18度2θにピークを有する(
図5)、また、その融点は、示差走査熱量測定DSC(Mettler-Toledo、TGA/DSC 3+ STAReシステム)により、145.43℃と測定された(
図6)。結晶性ブプレノルフィンピバル酸の構造は、核磁気共鳴NMR(Bruker、Ascend TM 400MHz)およびフーリエ変換赤外分光法FTIR(Thermo、Nicolet-IS10 Mattson Satellite-5000分光計)で同定された(
図7および8)。代表的な
1HNMR(400MHz,CDCl
3):6.78(d,1H,J=8.0Hz),6.61(d,1H,J=8.0Hz),5.94(s,1H),4.44(d,1H,J=1.6Hz),3.48(s,3H),3.04(m,2H),2.91(m,1H),2.64(dd,1H,J=4.8,12.0Hz),2.42-2.20(m,4H),2.13(t,1H,J=10.0Hz),2.05-1.89(m,2H),1.89-1.68(m,2H),1.37(s,3H),1.34(m,10H),1.06(m,10H),0.82(m,1H),0.69(m,1H),0.51(m,2H),0.14(m,2H)。FTIR吸収帯(cm
-1):3428、2954、2827、1753、1614、1478、1448、1407(±1cm
-1)。
【0080】
ペンタン酸ブプレノルフィンの結晶形は、X線回折パターン(PHILIPSX’PERTPro、PHILIPS X’PERT Pro MPD)で特定して、2.33、5.73、5.83、5.98、6.13、9.33、9.43、9.53、9.63、9.98、10.08、10.18、11.83、11.93、12.03、12.53、12.68、12.83、12.98、13.08、15.73、15.88、16.03、16.38、18.28、18.38、18.58、19.28、19.43、22.23度2θにピークを有し(
図9)、また、その融点は、示差走査熱量測定DSC(Mettler-Toledo、TGA/DSC 3+ STAReシステム)により、104.98~108.32℃であると測定された(
図10)。結晶性ペンタン酸ブプレノルフィンの構造は、核磁気共鳴NMR(Bruker、Ascend TM 400MHz)、およびフーリエ変換赤外分光法FTIR(Thermo、Nicolet-IS10 Mattson Satellite-5000分光計)で同定された(
図11および
図12)。代表的な
1HNMR(400MHz,CDCl
3):6.79(d,1H,J=8.0Hz),6.61(d,1H,J=8.0Hz),5.93(s,1H),4.44(d,1H,J=1.6Hz),3.48(s,3H),3.04(m,2H),2.91(m,1H),2.64(dd,1H,J=4.8,12.0Hz),2.55(t,2H,J=7.6Hz),2.40-2.20(m,4H),2.14(t,1H),2.07-1.78(m,3H),1.78-1.68(m,3H),1.48-1.28(m,6H),1.15-1.01(m,10H),0.94(t,3H,J=7.2Hz),0.83(m,1H),0.71(m,1H),0.51(m,2H),0.14(m,2H)。FTIR吸収帯(cm
-1):3438、2950、2926、2816、1760、1607、1492、1447、1401(±1cm
-1)。
【0081】
ヘキサン酸ブプレノルフィンの結晶形は、X線回折パターン(PHILIPSX’PERTPro、PHILIPS X’PERT Pro MPD)で特定して、2.33、7.53、8.13、9.05、10.93、11.08、12.93、13.13、13.38、13.48、15.88、16.03、17.18、17.28、17.73、17.93、21.13、21.23、21.33度2θにピークを有し(
図13)、また、その融点は、示差走査熱量測定DSC(Mettler-Toledo、TGA/DSC 3+ STAReシステム)により、80.3~84.31℃0と測定された(
図14)。結晶性ヘキサン酸ブプレノルフィンの構造は、核磁気共鳴NMR(Bruker、Ascend TM 400MHz)、およびフーリエ変換赤外分光法FTIR(Thermo、Nicolet-IS10 Mattson Satellite-5000分光計)で同定された(
図15および
図16)。代表的な
1HNMR(400MHz,CDCl
3):6.79(d,1H,J=8.0Hz),6.61(d,1H,J=8.0Hz),5.93(s,1H),4.44(d,1H,J=1.6Hz),3.48(s,3H),3.04(m,2H),2.91(m,1H),2.64(dd,1H,J=4.8,12.0Hz),2.54(t,2H,J=7.6Hz),2.45-2.20(m,4H),2.14(t,1H),2.08-1.65(m,6H),1.42-1.30(m,8H),1.16-1.02(m,10H),0.93(t,3H,J=6.8Hz),0.83(m,1H),0.71(m,1H),0.51(m,2H),0.14(m,2H)。FTIR吸収帯(cm
-1):3453、2944、2923、2865、1760、1610、1449、1398(±1cm
-1)。
【0082】
デカン酸ブプレノルフィンの結晶形は、X線回折パターン(Bruker、D8 DISCOVER SSS多目的薄膜X線回折計)で特定して、5.80、8.00、10.50、11.50、11.60、13.82、14.44、14.96、16.06、17.34、18.32、18.58、18.98、19.44、20.92、23.06、23.40、24.22、24.38、24.92度2θにピークを有し(
図17)、また、その結晶産物の融点は、示差走査熱量計DSC(Mettler-ToledoTGA/DSC 3+ STAReシステム)により、86.37℃であると測定された(
図18)。デカン酸ブプレノルフィンの構造は、核磁気共鳴NMR(Bruker、Ascend TM 400MHz)、およびフーリエ変換赤外分光法FTIR(Thermo、Nicolet-IS10 Mattson Satellite-5000分光計)で同定された(
図19および20)。代表的な
1HNMR(400MHz,CDCl
3):6.79(d,1H,J=8.0Hz),6.61(d,1H,J=8.0Hz),5.94(s,1H),4.44(d,1H,J=1.6Hz),3.48(s,3H),3.04(m,2H),2.91(m,1H),2.64(dd,1H,J=5.2,12.0Hz),2.54(t,2H,J=7.2Hz),2.40-2.25(m,4H),2.14(t,1H,J=9.6Hz),2.03-1.90(m,2H),1.87-1.80(m,1H),1.75-1.68(m,3H),1.42-1.29(m,17H),1.12-1.06(m,9H),0.94(t,3H,J=6.8Hz),0.83(m,1H),0.71(m,1H),0.51(m,2H),0.14(m,2H)。FTIR吸収帯(cm
-1):3439、2928、1760、1610、1450、1399、1192、1136、1094、963、827、および668(±1cm
-1)。
【0083】
ドデカン酸ブプレノルフィンの結晶形は、X線回折パターン(PHILIPS X’PERT Pro、PHILIPS X’PERT Pro MPD)で特定して、5.68、8.03、9.88、9.98、10.93、11.38、11.48、17.13、17.23、17.33、18.18、18.28、18.38、18.93、19.13、19.23、19.53、21.03度2θにピークを有し(
図21)、また、その融点は、示差走査熱量測定DSC(Mettler-Toledo、TGA/DSC 3+ STAReシステム)により、74.99~77.30℃であると決定された(
図22)。結晶性ドデカン酸ブプレノルフィンの構造は、核磁気共鳴NMR(Bruker、Ascend TM 400MHz)、およびフーリエ変換赤外分光法FTIR(Thermo、Nicolet-IS10 Mattson Satellite-5000分光計)で同定された(
図23および24)。代表的な
1HNMR(400MHz,CDCl
3):6.79(d,1H,J=8.0Hz),6.61(d,1H,J=8.0Hz),5.94(s,1H),4.44(d,1H,J=2.0Hz),3.48(s,3H),3.10-3.00(m,2H),2.97-2.87(m,1H),2.64(dd,1H,J=4.8,12.0Hz),2.54(t,2H,J=7.6Hz),2.42-2.22(m,4H),2.14(t,1H,J=9.6Hz),2.07-1.78(m,3H),1.77-1.66(m,3H),1.46-1.22(m,20H),1.14-1.01(m,10H),0.90(t,3H,J=6.8Hz),0.87-0.78(m,1H),0.77-0.65(m,1H),0.58-0.45(m,2H),0.19-0.08(m,2H)。FTIR吸収帯(cm
-1):3453、2944、2923、2865、1760、1610、1449、1398(±1cm
-1)。
【0084】
上記の例は、本開示の限られた数のエステル誘導体を示す。当業者は、他の同様のエステル誘導体が同様の方法で調製されてもよいことを理解するであろう。
【0085】
実施例3:溶解媒体におけるブプレノルフィン誘導体およびその塩形態の溶解度
ブプレノルフィン遊離塩基、ブプレノルフィン誘導体、またはそれらの塩形態を含む過剰量の化合物を、5mLの溶解媒体を含むガラス管に量り入れた。
媒体は前の例と同じだった。次に、管を密封し、55℃の水浴中、60rpmの速度で往復振とう機に入れた。溶液は0.45μMナイロンフィルターでろ過した。その後、濾液をさらにアセトニトリルで希釈した。各化合物の含有量は、HPLC法で測定した。
【表3】
【表4】
【0086】
表3は、ブプレノルフィン誘導体(結晶形)の溶解度がそれらの親化合物(ブプレノルフィン遊離塩基)よりも低いことを示している。結晶性デカン酸ブプレノルフィンの溶解度は、親化合物の溶解度よりも約10倍低かった。塩形態の調製後、ブプレノルフィン誘導体の塩形態の溶解度は、それらの遊離塩基および親化合物よりも優れていることがわかった(表4)。
【0087】
実施例4:ブプレノルフィン誘導体の水性懸濁液の調製
既知の量の3-アシル-ブプレノルフィン誘導体を秤量し、PBS緩衝液中のPEG4000(30mg/mL)およびTween 20(3から6mg/mL)からなる希釈剤でそれを懸濁した。超音波処理および振とうにより製剤を混合した。配合物をさらに粉砕した。組成およびプロセスを表5に示した。粒度分布の結果を表6に示した。
【表5】
【表6】
【0088】
実施例5:ミクロスフェアの調製
方法A
方法Aにおけるミクロスフェアの調製方法は、ダブルエマルションによって行われた。既知量のポリ(乳酸-コ-グリコリド)および医薬品有効成分をガラスバイアルに量り入れた。ジクロロメタン(3mL)を使用して混合物を溶解した。そこにポリビニルアルコール水溶液(1%、6mL)を加えた。氷浴中でホモジナイザーを使用して、混合物を5000rpmの速度で5分間懸濁した。次に、加熱条件下、40℃で、ポリビニルアルコール水溶液(1%、1000mL)を含むビーカーに、均質な懸濁液を攪拌(800rpm)しながら滴下した。3時間後、微粒子を遠心分離機で収集し、二重蒸留水で数回連続して洗浄した。微粒子中の残留水分は凍結乾燥により除去した。配合組成を以下の表7に示した。
【表7】
【0089】
方法B
方法Bは、T字型ループ(Western Analytical、Tee Asy Tefzel 1/16”0.020”thru)を使用して行われた。端末注入口には、分散相部品として1セットのシリンジとニードル(Hamilton 81520 5mL、Model 1005 TLLおよびHamiltonmetal Hub N726S NDL6/PK(26S/2”/3))が挿入された。側方注入口の1つは、連続相部品としてのチューブを備えたポンプに接続されていた。
【0090】
ミクロスフェアは、連続的な乳化/溶媒抽出手順を使用して調製された。APIを含むポリマー溶液が入ったシリンジに分散相を満たし、当該ポリマー溶液はPLGAとジクロロメタンで構成された。分散相の流量は、0.3mL/minの速度で注入シリンジポンプ(KDS 100、KD Scientific)によって制御された。同時に、1%ポリビニルアルコール水溶液を含む連続相を2mL/minの速度でポンプで送った。出口は、チューブを介して1%ポリビニルアルコール水溶液を含むビーカーに接続された。焼入れプロセスは、周囲条件または加熱条件で行われた。ミクロスフェアを0.45μmメンブレンで濾過し、二重蒸留水で数回洗浄した。その後、ミクロスフェアを周囲温度で真空乾燥した。配合組成を表8に示す。
【表8】
【0091】
実施例6:PLGAベースの製剤の調製
ブプレノルフィン誘導体、ポリ(乳酸-コ-グリコリド)、および生体適合性溶媒をガラスバイアルに加えた。すべての成分が溶解するまでに、混合物を50℃の水浴に入れて一定に攪拌した。混合物を水浴から取り外し、溶液は周囲温度で同時に撹拌しながら生成した。PLGAベースの製剤の組成を以下の表9に示した。
【表9】
【0092】
実施例7:脂質ベースの製剤の調製
脂質ベースの製剤は、ブプレノルフィン誘導体、レシチン、ジオレイン、および生体適合性溶媒を混合することにより調製された。脂質ベースの製剤の組成を以下の表10に示した。
【表10】
【0093】
実施例8:SAIBベースの液体製剤の調製
デカン酸ブプレノルフィン(203.1mg、1.0当量)をエタノール(2mL)に溶解した。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を蒸留脱イオン水(20mL)に溶解した。デカン酸ブプレノルフィン溶液をSDS溶液に滴下し、混合溶液中に小さな沈殿物を生成した。混合物を減圧下で濃縮して、デカン酸ブプレノルフィン-SDSイオン複合体を形成した。イオン複合体(6%w/w)をスクロース酢酸イソブチル(SAIB、38%w/w)およびNMP(56%w/w)とさらに混合して、製剤BDSB1を形成した。
【0094】
実施例9.製剤の体外溶解試験
実施例4~8の製剤は、それらの体外溶解プロファイルについてさらに調査された。リン酸緩衝生理食塩水中の1%ドデシル硫酸ナトリウムと0.02%アジ化ナトリウムで構成される溶解媒体。チューブは、37℃または55℃の水浴で、60rpmの速度で往復振とう機で同時にインキュベートされた。特定の時点でチューブを引き、1mL溶液としてサンプリングし、その後、1mLの新鮮な培地を再充填した。ブプレノルフィン誘導体およびそれらの親化合物、すなわち、ブプレノルフィン遊離塩基について、これらのサンプルをHPLCで分析した。体外放出プロファイルは、
図25~31および表11~18に示されている。
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【0095】
実施例10:ラットおよびミニブタにおけるブプレノルフィン誘導体の水性懸濁液の薬物動態プロファイル
実施例4におけるブプレノルフィン誘導体の水性懸濁製剤は、SD雄ラットに皮下または筋肉内に、60mg/kgのブプレノルフィン相当の用量で投与された。結果として得られたブプレノルフィンの平均血漿中濃度対時間プロファイルを
図32~33および表19~20に示した。製剤AS08をLanyu雄ミニブタに皮下注射した。ブプレノルフィンの平均血漿濃度対時間プロファイルを
図34および表21に示す。
【表19】
【表20】
【表21】
【0096】
実施例11:ラットおよびイヌにおけるブプレノルフィン誘導体を含むミクロスフェアの水性懸濁液の薬物動態プロファイル
実施例5に示される4つのデカン酸ブプレノルフィンクエン酸塩を含むミクロスフェア製剤は、100~150mg/mLの濃度で懸濁液として調製された。希釈剤は、10mMリン酸緩衝生理食塩水、1.25%ナトリウムカルボキシメチルセルロース、および0.05%Tween80で構成された。懸濁液の製剤は、筋肉内または皮下に、SDラットに60mg/kgのブプレノルフィン相当の用量で注射した。薬物動態プロファイルの結果を
図35および表22~23に示す。
【表22】
【表23】
【0097】
実施例5に示されるような3つのデカン酸ブプレノルフィンおよびそのクエン酸塩を含むミクロスフェア製剤は、300mg/mLの濃度で懸濁液として調製された。希釈剤は、10mMリン酸緩衝生理食塩水、1.25%ナトリウムカルボキシメチルセルロース、および0.05%Tween80で構成された。懸濁液製剤は、ビーグル犬に18.9mg/kgブプレノルフィン相当の用量で筋肉内注射された。薬物動態プロファイルの結果を
図36および表24に示す。
【表24】
【0098】
実施例12:ラットにおけるPLGAベースの製剤の薬物動態プロファイル
実施例6で調製したPLGAベースの製剤PS03およびPS10を、皮下またはSD雄性ラットに60mg/kgのブプレノルフィン相当の用量で注射した。薬物動態プロファイルの結果を
図37および表25に示す。
【表25】
【0099】
上記の実施形態は単なる例示であることが意図されており、当業者は、通常の実験のみを使用して、特定の化合物、材料、および手順の多数の同等物を認識し、または確認することができる。そのような同等物はすべて、本開示の範囲内であると見なされ、添付の特許請求の範囲に含まれる。