(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】下着
(51)【国際特許分類】
A41C 3/00 20060101AFI20240118BHJP
A41C 3/08 20060101ALI20240118BHJP
A41C 3/12 20060101ALI20240118BHJP
A41C 1/06 20060101ALI20240118BHJP
A41B 9/06 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A41C3/00 A
A41C3/08
A41C3/12 Z
A41C1/06
A41B9/06 C
(21)【出願番号】P 2021095353
(22)【出願日】2021-06-07
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】512133557
【氏名又は名称】anynext株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】森 倫大
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-144340(JP,A)
【文献】特開2019-049062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0272232(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0134922(US,A1)
【文献】国際公開第2014/069629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41C3/00-3/14
A41C1/00-1/20
A41B9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも胸回りに密着するフィット部を有する下着において、
該フィット部を形成する表布が脇部分でアーチ形状の端辺を備え、
該表布の裏側に重ねて配置され、該アーチ形状の端辺を含むと共に該アーチ形状の端辺からはみ出す部分を覆う裏布を有し、
該裏布の胸回り方向に略垂直な両端辺は表布に固定され、該裏布の胸回り方向に略平行な両端辺は表布に固定されていないことを特徴とする下着。
【請求項2】
請求項1に記載の下着において、前記アーチ形状の端辺は、該端辺に沿って縫製又は端辺に沿って紐状の伸縮部材が配置されていることを特徴とする下着。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の下着において、該裏布は伸縮性を有する生地が利用されることを特徴とする下着。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の下着において、該裏布は複数枚の生地を重ねて構成されることを特徴とする下着。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の下着において、該下着は、ブラジャー、タンクトップ、キャミソール、半袖又は長袖のインナーウェア、又はボディスーツのいずれかであることを特徴とする下着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下着に関し、特に、少なくとも胸回りに密着するフィット部を有する下着に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ブラジャー、キャミソール、ボディスーツなど、多種多様な下着が提供されている。その中でも、ブラジャーのような胸回りに密着する密着部(「フィット部」という。)を有する下着は、胸回りを中心とするボディラインの美しさを強調することができ、多くの下着に採用されている。一方、人の体には贅肉などの脂肪が付き易い部分があり、このような部分にフィット部が当たると、フィット部の端辺で体の輪郭に段差が形成され易くなる。しかも、フィット部の端辺がアーチ形状の場合は、アーチ形状からはみ出した贅肉の盛り上がり一層強調されることとなる。
【0003】
図1は、人体の背面を見た図であり、ボディスーツBSなど体の引き締め効果のある下着を着用した場合の体型の変化を示す図である。例えば、脇下から背中にかけてみられる凹凸部Aのように贅肉(脇肉)が盛り上がり、仮に下着の上から薄手の衣服を着用した場合には、下着で強調された凹凸部の輪郭の一部が外部からも確認できるという問題を生じていた。
【0004】
図2はブラジャーの脇部分に形成されるアーチ形状の端辺ARを示している。
図2(a)のように、アーチ部は矢印Bに示すようなカーブ(曲線)が形成されるのが理想であるが、下着のサイズが体型よりも小さい場合などでは、体の表面に沿ってアーチ部が引っ張られ、
図2(b)の矢印B’のように横方向に伸びた曲線となる。
図2(b)のように形状が変化することによって、贅肉を押さえる範囲が不安定になり、贅肉の盛り上がりをより強調する原因にもなる。
【0005】
これに対し、特許文献1では、ブラジャーのサイドパネルの締め付けによりはみ出した贅肉を押さえるため、サイドパネル全体を覆うカバー布を設けることが提案されている。しかしながら、カバー布は、上辺以外が全てサイドパネルに接続されており、サイドパネルの生地を二重に構成した場合と実質的に変わりがない。しかもサイドパネルとカバー布とを接続した接続部の機械的強度が増加し、贅肉を押さえる力も局所的に増加する。このため、接続部が新たな原因となり、贅肉がある部分の盛り上がり等を強調することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、胸回りに密着するフィット部を有する下着においても、贅肉の盛り上がりを抑制した下着を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の下着は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 少なくとも胸回りに密着するフィット部を有する下着において、該フィット部を形成する表布が脇部分でアーチ形状の端辺を備え、該表布の裏側に重ねて配置され、該アーチ形状の端辺を含むと共に該アーチ形状の端辺からはみ出す部分を覆う裏布を有し、該裏布の胸回り方向に略垂直な両端辺は表布に固定され、該裏布の胸回り方向に略平行な両端辺は表布に固定されていないことを特徴とする。
【0009】
(2) 上記(1)に記載の下着において、前記アーチ形状の端辺は、該端辺に沿って縫製又は端辺に沿って紐状の伸縮部材が配置されていることを特徴とする。
【0010】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の下着において、該裏布は伸縮性を有する生地が利用されることを特徴とする。
【0011】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の下着において、該裏布は複数枚の生地を重ねて構成されることを特徴とする。
【0012】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の下着において、該下着は、ブラジャー、タンクトップ、キャミソール、半袖又は長袖のインナーウェア、又はボディスーツのいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、少なくとも胸回りに密着するフィット部を有する下着において、該フィット部を形成する表布が脇部分でアーチ形状の端辺を備え、該表布の裏側に重ねて配置され、該アーチ形状の端辺を含むと共に該アーチ形状の端辺からはみ出す部分を覆う裏布を有し、該裏布の胸回り方向に略垂直な両端辺は表布に固定され、該裏布の胸回り方向に略平行な両端辺は表布に固定されていないため、裏布が贅肉を面状に抑え、しかも、アーチ形状の端辺による押圧力を裏布が緩和することができる。その結果、脇肉などの贅肉の偏りを抑制し、贅肉の盛り上がり目立たなくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ボディスーツを着用した人体の一例を示す背面図である。
【
図2】ブラジャーの脇下のアーチ部の形状変化を説明する図であり、(a)は理想形、(b)は胸回り方向に延びた様子を示す。
【
図3】従来の表布にアーチ形状の端辺がある場合に、贅肉の盛り上がる様子を説明する図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)の一点鎖線C-C’における断面図である。
【
図4】本発明の下着に使用される裏布の役割を説明する図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)の一点鎖線C-C’における断面図である。
【
図5】本発明を適用したブラジャーの例を示す図であり、(a)は表側、(b)は、裏側を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の下着について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、
図4に示すように、少なくとも胸回りに密着するフィット部を有する下着において、該フィット部を形成する表布(1)が脇部分でアーチ形状の端辺(10)を備え、該表布の裏側に重ねて配置され、該アーチ形状の端辺を含むと共に該アーチ形状の端辺からはみ出す部分を覆う裏布(2)を有し、該裏布の胸回り方向に略垂直な両端辺(20)は表布(1)に固定され、該裏布の胸回り方向に略平行な両端辺(20’)は表布(1)に固定されていないことを特徴とする。
【0016】
本発明の下着の主な構成について、従来例と比較しながら説明する。
図3は、下着が肌に密着するフィット部の一部を示したものであり、
図3(a)は平面図、
図3(b)は
図3(a)の一点鎖線C-C’における断面図である。また、フィット部の上辺にはアーチ形状の端辺10が形成されている。符号PFで囲む部分は、肌(SKN)の中で贅肉(PF)が付いた箇所を示している。
【0017】
この表布1に対し、胸回り方向、例えば、図の左右方向に張力Fを付加した場合は、
図3(b)に示すように、アーチ形状の端辺10の下側の贅肉は表布1によって抑えられるが、アーチ形状の端辺10の上側の贅肉は、表布1が無いため盛り上がった状態となる。
しかも、
図3(a)に示すアーチ形状の幅Dは、張力によりアーチ形状が崩れ、より広くなる傾向となる。このように、端辺10を含むアーチ形状が変化することによって、贅肉を押える範囲が不安定になり、贅肉の盛り上がりが一層強調されることとなる。
【0018】
さらに、アーチ形状の端辺10に沿って、縫製した部分(表布の折り返し部分や他の生地と重ね合わせた部分を縫製した箇所)や、ゴム等の紐状の伸縮部材が配置されている場合は、アーチ形状の端辺付近11が他の部分よりも機械的強度が高くなる。このため、贅肉を押えつける押圧力f1は、他の表布の押圧力f2よりも大きくなる。このため、贅肉の盛り上がりは、より一層強調されることとなる。
【0019】
本発明の下着では、
図4のように表布1の裏側(肌側)に裏布2を重なるように配置している。
図4も
図3と同様に、
図4(a)は平面図であり、
図4(b)は断面図を示す。
裏布は、伸縮性のある生地が使用され、例えば、表布と同じ生地を使用しても良い。また、裏布は一枚の生地で構成するだけでなく、複数枚の生地を重ね合わせて使用することも可能である。
より好ましくは、裏布2の伸縮性は,表布の伸縮性より低い(同じ張力でより伸び難い)ことが望ましい。これにより、表布に加わる張力を裏布の押さえる力に効率よく転換することが可能となる。
【0020】
裏布2の形状は、
図4に示すように、表布1のアーチ形状の端辺10を含むと共に、当該アーチ形状の端辺10からはみ出した部分を覆うように形成されている。特に、アーチ形状で表布1が無い部分を覆うため、アーチ形状の両側から橋渡しするように裏布2を配置している。
【0021】
裏布2の胸回り方向(
図4の左右方向)に略垂直な両端辺20は、表布1に縫製や貼り付けなどで固定(接着)され、裏布2の胸回り方向に略平行な両端辺20’は、表布1に固定されていない。
ここで、「略垂直」と表現しているのは、胸回り方向に垂直に延びるものだけでなく、該端辺が傾くものや該端辺が曲線であるものも含むという意味である。また、「略平行」の意味も同様に、胸回り方向に平行なものだけでなく、端辺が傾くものや端辺が曲線であるものも含むという意味である。
【0022】
裏布2の働きについて説明する。
図4(a)のように、表布1に張力Fが加わると、表布1は左右に伸びようとするが、裏布2の両端辺20が表布1に固定されているため、表布1の伸びに合わせて裏布2が左右に引っ張られる。しかも、
図4(a)の裏布2の上下の端辺は固定されていないため、張力が加わる方向に伸び易くなっている。
【0023】
裏布2は、張力Fにより胸回り方向に沿って引っ張られると、裏布2が贅肉PFを包み込むように伸張し、
図4(b)に示すように肌SKN(贅肉PF)の広い面積を押圧力f3で押さえる。しかも、表布1のアーチ形状の端辺からはみ出した部分も、裏布2が押え込むことで、贅肉の盛り上がりを目立たなくすることができる。
【0024】
さらに、表布1も肌側に押圧力を及ぼすが、表布1の張力が裏布2にも分散して加わるため、表布1自体の押圧力は弱くなっている。しかも、アーチ形状の端辺やその付近が肌側に加える押圧力は、裏布2によりさらに分散され、局所的に強い押圧力が発生することも抑制される。
【0025】
また、
図4(a)に示すように、裏布2と表布1との固定部分20がアーチ形状の窪みを跨ぐようにアーチ形状の両側に配置されている。この構成により、表布1が左右に引っ張られても、
図3(a)に示すアーチ形状の幅Dが広がることも抑制される。その結果、アーチ形状の端辺が直線状に伸びるなど形状が変化し、
図3(b)のように贅肉を押える範囲が不安定になり、場合によっては局所的に肌を押す(押圧力f1)が強くなるなどの不具合が発生することが抑制される。
【0026】
図4(a)では、裏布2の端の部分を固定部分20としている。しかしながら、本発明における「端辺」とは生地の端を意味するものではなく、裏布2の役割を果たす生地の領域があり、当該領域を形成する端の辺部分という意味である。したがって、
図4(a)の固定部分20よりも、さらに左右に広がる生地を裏布2として使用することも可能である。
【0027】
図5は、ブラジャーの脇部分に設けられるアーチ形状部分ARに本発明を適用した図である。
図5(a)はブラジャーの表側、
図5(b)はブラジャーの裏側を示す。ブラジャーの表側の生地が本発明の表布1に該当し、表布1の裏側に、表布1のアーチ形状部分ARの端辺を含むと共に、アーチ形状の端辺からはみ出した部分(
図5(a)の斜線部分)を覆うように裏布2が配置されている。
【0028】
図5のブラジャーでは、胸回り方向に張力が加わるため、例えば、ブラジャーの上下方向に向かう縫製ライン(直線又は曲線)21及び22に沿って、表布1と裏布2とを縫製し、裏布2の固定部分(21,22)を形成する。裏布2の上下の辺部分(
図5(b)の23及び24)は表布1には縫製されていない。
【0029】
アーチ形状部分ARを含むように裏布2を配置することで、表布1のアーチ形状の端辺及びその付近の局所的な押圧力を、裏布2で肌を面状に押さえる力に変化させることができる。また、アーチ形状の端辺からはみ出した部分を覆うように裏布2を配置しているため、表布1で押さえることができない贅肉を裏布2が押え、贅肉の盛り上がりを抑制することが可能となる。
【0030】
しかも、裏布2の固定部分(21,22)は、アーチ形状部分ARを挟むように構成されているため、アーチ形状部分ARの両側が左右に引っ張られ、
図2(b)のように変形することも抑制される。これにより、アーチ形状部分ARの端辺及びその付近が変形し、肌(贅肉)を押さえる範囲が不安定になり、贅肉の盛り上がりなどが発生することも抑制される。
【0031】
本発明の下着に関する構成は、贅肉が付き易い部分で、下着にアーチ形状部分が形成されている場所では、どこでも適用が可能である。特に、脇下や脇から背中の間の部分を含む脇部分などは、特に人目が気になる部位でもあることから、本発明を適用することが好ましい。
【0032】
また、本発明の下着は、ブラジャー、タンクトップ、キャミソール、半袖又は長袖のインナーウェア、又はボディスーツなどに適用でき、肌と密着する密着部分、特に胸回りに密着する部分(フィット部)を有する下着であれば様々な下着に適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、胸回りに密着するフィット部を有する下着においても、贅肉の盛り上がりを抑制した下着を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 表布
2 裏布
10 アーチ形状の端辺
20 固定部分