(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】心不全の治療のための17ベータ-複素環ジギタリス類似化合物
(51)【国際特許分類】
C07J 43/00 20060101AFI20240118BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20240118BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240118BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240118BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C07J43/00 CSP
A61K31/58
A61K45/00
A61P9/04
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021528481
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2019069283
(87)【国際公開番号】W WO2020020728
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-15
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521036399
【氏名又は名称】セヴィ・セラピューティクス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CVie Therapeutics Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト・チェッリ
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ・ビアンキ
(72)【発明者】
【氏名】パトリツィア・フェラーリ
(72)【発明者】
【氏名】マーラ・フェッランディ
(72)【発明者】
【氏名】パオロ・バラッシ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ・ザザ
(72)【発明者】
【氏名】マルチェッラ・ロッケッティ
(72)【発明者】
【氏名】カルロッタ・ロンキ
(72)【発明者】
【氏名】スー・シー-チェ
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00576915(EP,A1)
【文献】Can. J. Chem.,1981年,59,3241-3247
【文献】Steroids,1990年,55,65-68
【文献】J. Org. Chem.,1972年,37,569-572
【文献】KLAUS COURAULT; ET AL,PARTIALSYNTHESEN VON CARDENOLIDEN UND CARDENOLID-ANALOGEN. XIII[1] SYNTHESE 以下備考,JOURNAL FUR PRAKTISCHE CHEMIE,ドイツ,1988年,VOL:330, NR:3,PAGE(S):445 - 452,http://dx.doi.org/10.1002/prac.19883300316,SUBSTITUIERTER 14,21-EPOXY-5[BETA],14[BETA]-CARD-20(22)-ENOLIDE
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J
A61K 31/
A61P
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
X、Y、Zは、CH、NH、N、O、Sからなる群から選択される5
員複素環に含まれる環状原子であって;前記複素環は、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、ならびにこれらに対応するジヒドロおよびテトラヒドロ誘導体からなる群から選択されるものであって;前
記複素環は、アミノ(C
1-C
4)直鎖もしくは分岐アルキル、グアニジン、またはグアニジノ(C
1-C
4)直鎖もしくは分岐アルキルで適宜置換されていても
よく、
nは、0または1であり、
Rは、HまたはOHであり、
点線は、任意の二重結合C=Cを表し、太線は、β配置の結合を表し、波線は、α配置とβ配置の両方の結合を表す]
で示される化合物、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物。
【請求項2】
式(I)
【化2】
[式中、
X、Y、Zは、CH、NH、N、O、Sからなる群から選択される5
員複素環に含まれる環状原子であって、前
記複素環は、アミノ(C
1-C
4)直鎖もしくは分岐アルキル、グアニジン、またはグアニジノ(C
1-C
4)直鎖もしくは分岐アルキルで適宜置換されていてもよいが、但し、前記複素環はフリルではなく、
nは、1であり、アンドロスタン骨格と17β-複素
環との間に単結合または二重結合が存在し、
Rは、HまたはOHであり、
点線は、任意の二重結合C=Cを表し、太線は、β配置の結合を表し、波線は、α配置とβ配置の両方の結合を表す]
で示される化合物、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物。
【請求項3】
17β位における複素環が、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、これらに対応するジヒドロおよびテトラヒドロ誘導体からなる群から選択されるものであって、アミノ(C
1-C
4)直鎖もしくは分岐アルキル、グアニジン、またはグアニジノ(C
1-C
4)直鎖もしくは分岐アルキルで適宜置換されていてもよい、請求項2に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物。
【請求項4】
Rが、ベータOHである、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物。
【請求項5】
記号nが、0である、請求項1に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物。
【請求項6】
記号nが、1であり、アンドロスタン骨格と17β-複素
環との間に単結合または二重結合が存在する、請求項1に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物。
【請求項7】
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(イミダゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-12β-ヒドロキシ-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(イミダゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-12β-ヒドロキシ-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(N-(3-アミノプロピル)-イミダゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(ピラゾール-3-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-((5-(3-アミノプロピル)-イソオキサゾール-3-イル))アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-((5-(3-アミノプロピル)-イソオキサゾール-3-イル)-エチル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-
((5-(2-アミノエチル)-イソオキサゾール-3-イル)-エチル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-
((5-(2-アミノメチル)-イソオキサゾール-3-イル)-エテニル)アンドロスタン
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物。
【請求項8】
前記医薬的に許容される塩が、塩化物塩、臭化物塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、安息香酸塩から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物のうちの1つまたはそれ以上を、少なくとも1つの医薬的に許容されるベヒクルおよび/または賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項10】
経腸または非経口投与または吸入のために製剤化された、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
経口投与のために製剤化された、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
静脈内または筋肉内注射のために製剤化された、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
1つまたはそれ以上の治療上活性な成分をさらに含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記治療上活性な成分が、心不全を治療するための薬剤から選択される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記治療上活性な成分が、ACE阻害剤、
アンジオテンシンII受容体遮断薬、利尿薬、Caチャネル遮断薬、βブロッカー、ジギタリス、NOドナー、血管拡張薬、SERCA2a刺激薬、ネプリライシン(NEP)阻害剤、ミオシンフィラメント活性化因子、組換えリラキシン-2メディエーター、組換えNPタンパク質、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)の活性化因子、アンジオテンシンII受容体のベータアレスチンリガンドから選択される、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記
治療上活性な成分が、フロセミド、ブメタニド、トラセミド、メトラゾン、アルドステロンアンタゴニス
ト、チアジド系利尿薬
、バルサルタン、カンデサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、ロサルタン、リシノプリル、ラミプリル、サクビトリル、カルベジロール、メトプロロール、ヒドララジン、二硝酸イソソルビドと組み合わせたヒドララジン、硝酸塩、アムロジピン、フェロジピン、および非ジヒドロピリジンから選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記
治療上活性な成分が、
スピロノラクトン、エプレレノン、ヒドロクロロチアジド、メトラゾン、クロルタリドン、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ジルチアゼム、およびベラパミルから選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記心不全を治療するための薬剤が、ジゴキシン、エントレスト、オメカムチブ、セレラキシン、ウラリチド、レボシメンダンから選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
薬剤として使用するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物を含む、医薬組成物。
【請求項20】
心不全の治療に使用するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物
、あるいはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、または水和物を含む、医薬組成物。
【請求項21】
前記心不全が、急性または慢性である、請求項
20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
請求項
15~18のいずれか1項に記載される1つまたはそれ以上の治療上活性な薬剤と組み合わせた、請求項
20または
21に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の分野、特に、17β-複素環ジギタリス類似化合物および心不全の治療のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全(HF)の有病率は、年齢に依存し、60歳未満の人で2%未満から75歳以上の人で10%以上の範囲である(Metra M, Teerlink JR Lancet 2017; 390:1981-1995)。HFの大半の患者は、高血圧、冠状動脈疾患、心筋症、弁膜症、またはこれらの障害の組み合わせの病歴をもつ(Metra M, Teerlink JR Lancet 2017; 390:1981-1995)。HFを発症すると算出された生涯リスクは増加すると予想され、高血圧症の人はより高いリスクを有する(Lloyd-Jones DM et al. Circulation 2002;106:3068-3072)。HF患者は、高い入院率と死亡率とともに予後が悪い。
【0003】
HFの臨床症状は、収縮排除の減少を生じる変力性異常(収縮機能障害)と、心室が静脈系から血液を吸引する能力が損なわれ、それにより(左心室(LV)充満の障害である)収縮期収縮に利用できる血液量が減少するコンプライアンス異常(拡張機能障害)とからなる心臓の二重の病理学的特徴によって引き起こされる。収縮と弛緩の障害は、細胞内Ca2+を貯蔵する筋小胞体(SR)によるCa2+取り込みの減少に起因する、細胞内Ca2+の異常な分布の結果である(Bers D et al Ann N.T Acad Sci 2006 1080:165-177)。後者は、能動膜輸送体であるSR膜Ca2+-ATPアーゼ(SERCA2a)によって作動される。SERCA2a活性は、そのホスホランバン(PLN)との相互作用によって生理学的に制限され(Bers DM. Annu Rev Physiol 2008; 70:23-49; MacLennan DH, Kranias EG. Nat Rev Mol Cell Biol 2003; 4(7): 566-577);このような制限は、通常、HFリモデリングの結果として大きく抑制されたシグナル伝達経路であるプロテインキナーゼA(PKA)によるPLNのリン酸化によって解放される(Lohse M et al Circ Res 2003; 93:896-906)。よって、SERCA2a機能は、機能不全の心筋で損なわれ(Bers D et al Ann N.Y. Acad Sci 2006; 1080:165-177)、これは、SRによるCa2+取り込みの減少を主な原因とするものである。筋細胞の収縮と弛緩への影響に加えて、異常なCa2+分布はまた、心不整脈を助長し(Zaza & Rocchetti, Curr Pharm Des 2015; 21:1053-1061)、長期的には、アポトーシスによる筋細胞の喪失を加速する(Nakayama H et al., J Clin Invest 2007; 117:2431-44)。SERCA2a機能の低下は、エネルギー効率の低いNa-Ca交換体(NCX)を介したCa2+放出の代償的な増加を必要とするため、収縮のエネルギー消費も増加させる(Lipskaya L et al 2010 Expert Opin Biol Ther 2010; 10:29-41)。十分な証拠により、SERCA2a機能の正常化が細胞内Ca2+恒常性を回復させ、心筋細胞と生体内での心臓の収縮性と弛緩を改善することが示されている(Byrne MJ et al., Gene Therapy 2008;15:1550-1557; Sato et al., JBC 2001;276:9392-99)。すなわち、HFでのSERCA2a機能の回復は、不整脈、心筋の酸素消費、および筋細胞の死を最小限に抑えながら、心臓の弛緩と収縮を改善する可能性がある(Lipskaia L et al., Expert Opin Biol Ther. 2010; 10:29-41)。SERCA2aの活性化と並行して、Na、Kポンプを阻害すると、過剰な細胞質Ca2+蓄積を誘発することなく、細胞内Ca2+含有量をさらに増加させることができる。よって、Na、K-ATPアーゼ阻害とSERCA2a活性化の組み合わせは、不整脈源性Ca2+放出事象のリスクを低減しつつ、さらなる陽性変力作用をもたらしうる。SRのSERCA2aの増強をNa、Kポンプの阻害と組み合わせることができる新規分子は、収縮期および拡張期の機能を改善し、HFにおける変弛緩効果を改善できる可能性がある。これは、不整脈助長効果を最小限に抑え、Na、Kポンプを阻害できるが、SERCA2a刺激活性を欠いているジゴキシンよりも高い安全性プロファイルを有する新規の弛緩・収縮改善薬の探索に対する強い動機を提供する。
【0004】
HFの現在の長期治療は、初期の損傷を増幅し、疾患の進行を基礎とする収縮性の低下に対する慢性的な不適応反応である「心筋リモデリング」(βブロッカー、ACE阻害薬、アルドステロン拮抗薬)の予防に集中している(Heineke J & Molkentin D Nat Rev 2006; 7:589-600)。この方法は、議論の余地のないメリットを有するが、HFを定義付け、その症状の原因となる機能障害である「収縮」と「弛緩」の障害を対象とはしていない。実際、特に進行した病期では、心筋の収縮/弛緩を増加させる薬剤(「変力性/変弛緩剤」)が依然として広く使用されており、患者の管理に不可欠である(Metra M, Teerlink JR Lancet 2017; 390:1981-1995)。これらとして、強力な血管拡張作用とともにCa2+増感剤である、交感神経刺激アミン(ドブタミン)およびレボシメンダンが含まれる。残念なことに、これらの薬剤は、生命を脅かす不整脈の促進、心筋の酸素消費量の増加、および血管拡張によって引き起こされる血圧の低下によるすでに不十分な冠血流の障害等の潜在的に有害な要素を伴うメカニズムによって作用する(Ashkar H, Makaryus AN StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2018 Jan-2017 Dec 19 (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK470431/); Gong B. et al. J Cardiothorac Vasc Anesth 2015; 29: 1415-25; EDITORIAL)。これにより、変力剤の使用が病期後期に限定されるため、病期の早い段階で収縮性を高めるという潜在的な利点が失われている。さらに、これらの薬剤は患者の予後と生存を改善せず、それらの治療上の使用は、注意深く監視されなければならない(Ashkar H, Makaryus AN StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2018 Jan-.2017 Dec 19; Gong B. et al. J Cardiothorac Vasc Anesth 2015; 29: 1415-25; EDITORIAL)。
【0005】
陽性変力薬の中において、Na、K-ATPアーゼ酵素活性の阻害剤である強心配糖体ジゴキシンは、過去に最も一般的に処方された薬の1つである。しかし、ジゴキシンが主に不整脈による死亡リスクの増加が観察されている閾値レベルの0.9ng/mlに達することなく有益な効果を発揮するジゴキシン血清濃度範囲(0.5~0.7ng/ml)を維持することが困難なため、その使用は過去数十年を通して減少してきた(Packer M Journal of Cardiac Failure 2016; 22:726-730; Packer M Eur J Heart Failure 2018;20:851-852)
【0006】
陽性変力作用以外の作用機序を持つHF薬の開発についても集中的な研究が進行中である。それらの多くの中で、最も研究され、臨床開発中である薬剤は、セレラキシン(組み換えリラキシン2メディエーター)、ウラリチド(組み換えナトリウム利尿ペプチド)、オメカムチブメカルビル(心臓ミオシン活性化因子)、BMS986231(NOドナー)、アドレシズマブ(アドレノメデュリン阻害剤)、ANX-042(NPのスプライシング変異型)、TD1439(ネプリライシン(NEP)阻害剤)である。しかしながら、臨床第2~3相試験で評価した場合、これらの新しい薬剤はいずれも主要エンドポイントを満たしていない。
【0007】
慢性心不全(CHF)の患者の臨床経過と予後は、急性心不全(AHFS)のエピソード後にはるかに悪化する(Solomon SD et al. Circulation 2007;116: 1482-87)。AHFSは、心不全の症状と徴候の新たな発症または再発として定義でき、緊急の評価と治療を要し、予定外のケアまたは入院をもたらす。AHFSの患者の半数は、低下した収縮機能(HFrEF)を有しており、将来の治療法の標的となる可能性を示す(Braunwald E. Lancet 2015; 385:812-24)。駆出率が低下した患者のAHFSの治療法は、血管拡張薬、利尿薬、限外濾過によるうっ血の緩和、または陽性変力作用による心拍出量の増加に注目してきた。この治療戦略は心臓突然死のリスクを低減してきたが、退院後のイベント率はAHFSで入院した患者では容認できないほど高いままである。多くの望ましくない心血管副作用、例えば、特に冠状動脈疾患(CAD)の患者において、変力療法の結果としての心筋虚血、心臓損傷および不整脈(Abraham WT et al., J Am Coll Cardiol 2005; 46:57-64; Flaherty JD et al., J Am Coll Cardiol. 2009; 53(3):254-63)、特に低血圧のHF患者において血管拡張薬によって引き起こされる末梢器官(腎臓)の低血圧および低灌流等は、利用可能な療法によって引き起こされる可能性がある。よって、入院中の主な目標は、心臓および/または腎臓の損傷を引き起こすことなく心拍出量を改善することとなる。さらに、HF患者の残りの50%において、駆出率(EF)の維持がHFの症状の原因となっていることは、左心室(LV)拡張期弛緩障害の検査または治療にはほとんど注目されていない。また、EFが低下したAHFSの患者では、心室弛緩の障害が心機能の全体的な障害の一因となる。LV充満圧の高まった心エコーパラメータ(例えば、E/e’比)とともに、動物モデルとHF患者の両方の心臓弛緩能力(例えば、低下した初期僧帽弁輪組織速度[e’]および低下した初期僧帽弁流入[E]減速時間[DT])を測定するために、様々な心エコー指標が開発されている。1つの指標の変化の対応が動物モデルと患者の一部で完全に重ね合わせることができないとしても、心室弛緩障害の動物モデルの全体的な変化は、確実に人間の状態に翻訳可能であり、AHFSでの薬物効果の研究に用いられている(Shah SA et al. Am Heart J 2009;157:1035-41)。
【0008】
近年、SERCA2aの機能を高めるさまざまな治療法が研究されている。これらとして、遺伝子導入によるSERCA2aの過剰発現(Byrne et al., Gene Therapy 2008;15:1550-1557)、または劣性変異体の発現によるPLNの不活性化(Hoshijima M et al. Nat. Med. 2002;8: 864-871; Iwanaga Y et al. J Clin Investig 2004;113, 727-736)、AdV-shRNA(Suckau L et al. Circulation 2009; 119: 1241-1252)、マイクロRNA(Grobl et al. PLoS One 2014;9: e92188)、または抗体(Kaye DM et al J. Am. Coll. Cardiol. 2007;50:253-260)が挙げられる。HFにおけるSERCA2a遺伝子送達(CUPID2)を用いた最も大きな第2b相臨床試験の否定的な結果によって強調されるように、これらの方法は、課題解決には程遠い構築物送達(ウイルスベクター等)および用量調整における大きな問題に苦戦している(Hulot JS Eur Heart J 2016;19:1534-1541)。最近、イスタロキシムとは構造的に異なるPLNを阻害する小分子(ピリドン誘導体)が報告された(Kaneko M. et al. Eur J Pharmacol 2017;814:1-7)。
【0009】
よって、小分子SERCA2a活性化因子の開発はHF治療に利益的であり、さらに非常に有望な戦略である。
【0010】
イスタロキシムは、AHFS治療用の臨床開発中の新しい小分子薬であり、SERCA2aを活性化しながら(Rocchetti M et al. J Pharmacol Exp Ther 2005;313:207-15)、Na+/K+ポンプを阻害する(Micheletti et al J Pharmacol Exp Ther 2002; 303:592-600)という二重の作用機序を備えている。変力作用の同一レベルにおいて、イスタロキシムの催不整脈作用は、純粋なNa+/K+ポンプ阻害剤であるジゴキシンよりもかなり低い(Rocchetti M et al. J Pharmacol Exp Ther. 2005;313:207-15)。これは、細胞質からのCa2+クリアランスを改善することにより(Alemanni J Mol Cell Cardiol 2011;50:910-8)、SERCA2a刺激が、その変力効果を維持しながらNa+/K+ポンプ遮断の催不整脈作用も最小限に抑える可能性があることを示唆している(Rocchetti M et al. J Pharmacol Exp Ther 2005;313:207-15, Zaza & Rocchetti, Curr Parm Des 2015: 21:1053-1061)。イスタロキシムによる催不整脈作用の低下は、臨床研究で確認されている(Georghiade M et al J Am Coll Cardiol 2008; 51:2276-85)。
【0011】
HF患者では、イスタロキシム注入により収縮機能と拡張機能の両方が改善された。収縮機能の改善は、収縮組織速度(S’)および収縮末期エラスタンスの傾き(ESPVR勾配)の増加として検出され、拡張期コンプライアンスの増加は、拡張期組織速度(E’)の増加と終期拡張エラスタンス(EDPVR勾配)の減少によって明らかになった(Shah SA et al. Am Heart J 2009;157:1035-41)。イスタロキシムは、優れた薬力学的プロファイルを備えているが、GI吸収が低く、クリアランス率が高く、潜在的な遺伝毒性部分(オキシム)を含んでいるため、慢性投与には適しておらず、それゆえ、この薬剤は、AHFSの入院患者のみへの静脈内注入用に開発された(Dec GW J Am Coll Cardiol 2008;51:2286-88; Shah SA et al. Am Heart J 2009;157:1035-41)。
【0012】
イスタロキシムは、EP0825197およびS. De Munari, et al., J. Med. Chem. 2003, 64, 3644-3654に開示されており、化合物(3Z,5α)-3-[(2-アミノエトキシ)イミノ]アンドロスタン-6,17-ジオンである。
【0013】
イスタロキシムは、心不全の治療におけるその望ましい活性にもかかわらず、完全に欠点がないわけではない。
【0014】
前記分子のアミノエトキシイミノ部分は、代謝変換を経て遺伝毒性を引き起こす可能性がある。
【0015】
さらに、イスタロキシムは静脈内投与によってのみ活性があるため、病院および関連する環境でのみ投与できる。イスタロキシムの投与には、十分な訓練を受けた医療関係者が必要であり、慢性治療には適していない。
【0016】
したがって、遺伝毒性がなく、好ましくは経口経路で投与できる、陽性変力作用および陽性変弛緩作用を有する心不全の治療に使用するための化合物が長い間必要とされてきた。
【0017】
本発明は、上記の必要性を満たし、先行技術の課題を克服している。
【発明の概要】
【0018】
式(I)
【化1】
[式中、
X、Y、Zは、CH、NH、N、O、Sからなる群から選択される5員の炭素環または複素環に含まれる環状原子であって、前記炭素環または複素環は、アミノ(C
1-C
4)直鎖もしくは分岐アルキル、グアニジン、またはグアニジノ(C
1-C
4)直鎖もしくは分岐アルキルで適宜置換されていてもよいが、但し、前記複素環はフリルではなく、
nは、0または1であり、
Rは、HまたはOHであり、
点線は、任意の二重結合C=Cを表し、太線は、β配置の結合を表し、波線は、α配置とβ配置の両方の結合を表す]
で示される化合物、そのエナンチオマーおよび/またはジアステレオマー混合物、その医薬的に許容される塩、その溶媒和物、その水和物、その代謝物、またはその代謝前駆体が見出された。
【0019】
本発明の文脈において、代謝物および代謝前駆体は、代謝反応によって変換されるが、薬理学的活性を実質的に維持または増加させる活性な代謝物および代謝前駆体、すなわち、式(I)の化合物を意味する。
【0020】
代謝物または代謝前駆体の例は、式(I)の化合物のヒドロキシル化、カルボキシル化、スルホン化、グリコシル化、グリクロン酸化、メチル化または脱メチル化された酸化または還元誘導体である。
【0021】
式(I)のいくつかの化合物はまた、活性形態のプロドラッグであり得る。
【0022】
式(I)の化合物が互変異性を示しうる場合、式は、全ての互変異性体を網羅することを意図しており、本発明には、全ての可能な立体異性体、ZおよびE異性体、光学異性体、エナンチオマーおよびそれらの混合物がその範囲内に含まれる。
【0023】
また、医薬的に許容される塩は、本発明の範囲に含まれる。医薬的に許容される塩は、元となる化合物の生物学的活性を保持し、公知の医薬的に許容される酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸クエン酸、メタンスルホン酸または安息香酸に由来する塩、および当技術分野で一般的に使用される他の塩であり、例えば、Pharmaceutical Salts and Co-crystals; Editors: Johan Wouters, Luc Quere, RSC Publishingを参照のこと。
【0024】
C1-C4アルキル基は、分岐鎖もしくは直鎖または環状基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、シクロプロピル、メチルシクロプロピル、またはシクロブチルであり得る。
【0025】
式(I)のいくつかの化合物はまた、活性形態のプロドラッグであり得る。
【0026】
本発明のさらなる目的は、特に心不全の治療のための薬剤として使用するための一般式(I)の前記化合物である。
【0027】
本発明のさらなる目的は、適宜他の治療上活性な成分と組み合わせて、式(I)の化合物のうちの1つまたはそれ以上を含む医薬組成物である。
【0028】
本発明の上記および他の目的は、実施例および図によっても詳細に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、SR Ca
2+の取り込みに対するCVie101およびCVie102の効果を示す。データポイントは平均±SEである。CaTのCa
2+過渡(CaT)振幅および時定数(τ)におけるCVie101(A-B)およびCVie102(C-D)の効果は減衰する。CVie101またはCVie102とCTRL曲線との差異は、二元配置分散分析によると統計学的に有意であった(p<0.05)。全てのプロトコルにおいて、CVie101の場合はN≧13、CVie102の場合はN≧11であった。
【
図2】
図2は、様々な刺激速度(Hz)機能における活動電位(AP)に対するCVie101の効果を示す。A)拡張期膜電位(E
diast);B)活動電位立ち上がり最大速度(dV/dt
max);C)再分極の90%、50%および20%での活動電位持続時間(APD);D)刺激速度の段階的増加後のAPD適応(タウ)の時定数。CTRL=コントロール。CTRL N=12;CVie101 N=14。CTRLとCVieとの差異は、全てのパラメータで統計学的に有意ではなかった。
【
図3】
図3は、平均APDにおけるAPD短期変動(STV)の依存性に対するCVie101の効果を示す。A-D)4ヘルツ(Hz)での定常状態刺激中の平均APD90の関数としてプロットされたSTVであり、実線は、データポイントの線形適合である。E)全ての刺激速度でのSTV値がプールされる。CTRL=コントロール。CTRL N=10、CVie101 N=11。
【
図4】
図4は、ラットにおけるCVie101のバイオアベイラビリティを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の意味の範囲内において、式(I)の17β位における5員炭素環残基は、シクロペンタジエニル、シクロペンテニル、シクロペンチルから選択される。
【0031】
本発明の意味の範囲内において、式(I)の5員複素環残基は、ピロリル、チオフェニル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ジオキソラニル、ジチオラニル、トリアゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、ジオキサゾリル、ジチアゾリル、テトラゾリル、ジチオラニル、ジオキソラニル、ジオキソレニル、チアゾリル、イソチアゾリル、および全てのそれらの水素化または部分的に水素化された誘導体から選択される。複素環基は、芳香族または非芳香族の性質を有していてもよく、環上の利用可能な位置のいずれかにより17位に結合することができる。
【0032】
本発明の意味の範囲内において、式(I)のC1-C4アルキル基は、分岐鎖もしくは直鎖または環状基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、シクロプロピル、メチルシクロプロピル、またはシクロブチルを意味する。
【0033】
本発明の意味の範囲内において、医薬的に許容される塩は、式(I)の化合物の生物学的活性または薬物動態を保持し、または改善し、公知の医薬的に許容される酸に由来する塩である。
【0034】
本発明の第1の好ましい実施態様によれば、式(I)の化合物は、記号nが0である化合物である。
【0035】
本発明の第2の好ましい実施態様によれば、式(I)の化合物は、17β位の複素環基が、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、これらに対応するジヒドロおよびテトラヒドロ誘導体からなる基から選択される化合物である。
【0036】
本発明の第3の好ましい実施態様によれば、式(I)の化合物は、複素環基が、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリルからなる基から選択されるものであって、アミノ(C1-C4)直鎖もしくは分岐アルキルまたはグアニジンによって置換されている化合物である。
【0037】
本発明の第4の好ましい実施態様によれば、式(I)の化合物は、RがベータOHである化合物である。
【0038】
本発明の第5の好ましい実施態様によれば、式(I)の化合物は、記号nが1であり、二重結合が存在する化合物である。
【0039】
本発明の第6の好ましい実施態様によれば、式(I)の化合物は、記号nが1であり、単結合が存在する化合物である。
【0040】
本発明の好ましい実施態様によれば、式(I)の化合物は、
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(イミダゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-12β-ヒドロキシ-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(イミダゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-12β-ヒドロキシ-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(N-(3-アミノプロピル)-イミダゾール-4-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(ピラゾール-3-イル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-((5-(3-アミノプロピル)-イソオキサゾール-3-イル))アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-((5-(3-アミノプロピル)-イソオキサゾール-3-イル)-エチル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(5-(2-アミノエチル)-イソオキサゾール-3-イル)-エチル)アンドロスタン;
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(5-(2-アミノメチル)-イソオキサゾール-3-イル)-エテニル)アンドロスタン
からなる群から選択される。
【0041】
本発明はさらに、一般式(I)の化合物の製造方法を提供する。
【0042】
本発明のさらなる目的は、医薬組成物および製剤、ならびに急性または慢性心不全を治療し、緩和し、逆転させ、あるいはこれらの症状を軽減し、または減少させるためのそれらの使用に関する。異常な細胞内Ca2+分布は、心筋リモデリング過程に関連するため、SERCA2a活性によるその修正がそれに対抗しうる。よって、明白な心不全への収縮性の初期の補完された不全の進行を防ぐことができる。
【0043】
式(I)の化合物の製造
一般に、RがHである式(I)の化合物は、ジギトキシゲニンを出発物質として製造され、Rがβ-OHである式(I)の化合物は、ジゴキシゲニンを出発物質として製造される。
【0044】
ジギトキシゲニンおよびジゴキシゲニンの両方は、いずれも市販品であるか、周知の方法に従って製造することができる。例えば、ジゴキシゲニンは、ジゴキシンを出発物質として製造することができる。
【0045】
RがHである式(I)の化合物は、ジギトキシゲニンを出発物質として製造して、中間体(3)を生成することができる。
【化2】
【0046】
ジギトキシゲニンは、3位のヒドロキシ基を保護するために適切な試薬で処理される。適切な保護基は、当技術分野で周知であり、例えば、3-OHは、従来の反応であるアシル化、例えば、アセチル化によって保護することができる。例えば、ジギトキシゲニンは、好ましくは、不活雰囲気下、例えば、アルゴン雰囲気下において、有機溶媒中、好ましくは、ピリジン等の含窒素溶媒中で無水酢酸と反応させることができる。好ましくは、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)または他の従来の触媒等のエステル化触媒が使用される。前記反応温度を制御し、反応は、好ましくは、完了するのに十分な時間で室温において行う。その後、前記溶媒は、好ましくは、減圧下において蒸発によって留去される(他の溶媒との共蒸発が可能である)。前記反応物のワークアップ処理は、周知の方法に従って行われ、例えば、残渣を水と一緒に採取し、室温で適当な時間放置する。得られる固形物を、例えば、濾過によって収集し、水で洗浄し、好ましくは真空下で乾燥させうる。得られる生成物(1)は、さらに精製することなく次のステップで使用することができる。
【0047】
次に、中間体(1)を酸化反応させて、17-のラクトン環を開環して、中間体(2)を生成する。このタイプの反応は、当業者に周知であり、技術文献から検索可能である。一例として、中間体(2)をアセトン等の有機溶媒に溶解し、酸化剤を加える。例えば、NaIO4とRuO2水和物の溶液は利便的であるが、他の公知薬剤でも用いることができる。必要に応じて、酸化剤をさらに加えることができる。前記反応温度は限定されるものではなく、酸化剤の性質によって決定することができる。前記酸化反応が完了すると、過剰量の酸化剤は、公知の方法によりクエンチする。例えば、イソプロパノールは、NaIO4とRuO2水和物系を使用する場合、クエンチング剤(quenching agent)として使用することできる。固形物が、例えば、濾過によって前記反応混合物から分離され、前記反応物の体積は、好ましくは、蒸発により、利便的に減圧下で減少され、該残渣を酢酸エチル(AcOEt)等の適切な溶媒で抽出する。次いで、有機相を、好ましくは、ブラインで洗浄し、続いて、例えば、MgSO4等の従来の方法で乾燥させ、必要に応じて濾過し、該溶媒を、例えば、真空下で留去する。中間体(2)は、さらに精製することなく次のステップで使用することができる。
【0048】
中間体(3)は、化合物(2)を、適切な溶媒、例えば、メタノール等のアルコール中において、例えば、KHCO3溶液と共に、17位に第一級アルコールを回復させるのに十分な時間、穏やかな条件下で加水分解させることによって得られる。次に、該有機溶媒を、好ましくは減圧下で留去し、該残渣を、ジクロロメタン等の溶媒で抽出する。該有機相を、例えばブラインで洗浄し、続いて従来の方法で乾燥させ、必要に応じて濾過し、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去する。該残渣を、周知の方法、例えば、適切な溶離液(例えば、7:3のシクロヘキサン/AcOEt)で溶出するフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)により精製する。
【0049】
化合物(3)は、式(I)の多くの17β-複素環および炭素環化合物を製造するために用いられる中間体である。最終生成物、すなわち、式(I)の最終化合物で得られる複素環または炭素環のタイプに応じて、当業者は、一般的な知識に従って、適切な合成経路を見出すための共通の一般技術常識、例えば、Advanced Organic Chemistry Pt. B : Reactions and Synthesis by Francis A. Carey and Richard J. Sundberg and The Chemistry of Heterocycles: Structures, Reactions, Synthesis, and Applications, Edition 3 by Theophil Eicher, Siegfried Hauptmann, Andreas Speicherに従うことができる。
【0050】
一例として、XがNHであり、YがCHであり、ZがNである式(I)の化合物、すなわち、複素環がイミダゾリルである場合、化合物(3)は、下記スキームに従って中間体(4)に変換される。
【化3】
【0051】
一般に、化合物(3)は、有機溶媒、例えば、エタノール等のアルコールに溶解させ、ホルムアルデヒドで処理する。利便的なことに、水とアンモニウム中のCu(OAc)2溶液が加えられる。前記反応混合物は、加熱し、好ましくは、反応完了に十分な時間還流する。次に、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去し、該残渣をAcOEt等の有機溶媒に溶解し、ブラインで繰り返し洗浄する。有機相を収集し、水相を同一溶媒で抽出する。プールした有機相を、例えば、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、好ましくはセライトパッドで濾過し、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去して、化合物(4)の13.34g(96%)を固形物として得て、さらに精製することなく次のステップで使用する。
【0052】
最終的に、中間体(4)は、次のスキームに従って、従来の方法で3-ヒドロキシ基を回復することにより最終生成物に変換される。
【化4】
【0053】
一般に、化合物(4)は、アルコール(例えば、メタノール)等の有機溶媒に溶解させ、加水分解剤、例えば、NaOHを加える。前記反応が完了するまで放置する。反応時間および温度は、当業者により決定され、例えば、室温が利便的である。該溶媒を、好ましくは減圧下で留去し、該残渣を水で希釈し、ジクロロメタン等の有機溶媒で抽出する。有機相を、例えば、MgSO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を、好ましくは真空下で留去して、最終生成物(5)を得る。必要に応じて、最終化合物は、従来の方法で医薬的に許容される塩に変換することができる。
【0054】
一例として、XがNHであり、YがCHであり、ZがNである式(I)の化合物の場合、すなわち、複素環がアミノ(C
1-C
4)アルキルで置換されたイミダゾリルである場合、化合物(3)は、上記のスキームに従って、関連する中間体(4)に変換されるが、ホルムアミドの代わりに適切な反応試薬を選択し、それに応じて反応条件を変更することは、当業者に周知である。式(I)の最終化合物が、イミダゾリル残基の1-N窒素上にアミノ(C
1-C
4)アルキル基を有する場合であって、化合物(5)は、下記スキームに従って処理され、N-(3-アミノプロピル)誘導体:
【化5】
の例示的な場合について本明細書に示す。
【0055】
化合物(5)は、強塩基、例えば、K2CO3の存在下において、適切な有機溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解される。アクリロニトリルを加え、前記反応は、完了するのに十分な時間、適切な温度、例えば、室温で行われる。当業者は、アルキル鎖の長さに応じて、適切なε-不飽和ニトリルを容易に選択することができる。前記反応の完了時に、水を加え、該混合物を適切な有機溶媒、例えば、酢酸エチルで抽出し、有機相を、従来の手法、例えば、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、該溶媒を、好ましくは、減圧下で留去して、中間体(7)を得て、さらに精製することなく次のステップで使用する。最終的に、ニトリル基は、周知の方法に従ってアミノ基に還元させる。例えば、生成物(7)は、有機溶媒、例えば、テトラヒドロフラン(THF)中に溶解させ、好ましくは、前記溶媒は無水物である。LiAlH4等の還元剤を加え、該混合物を加熱し、好ましくは、該反応が完了するのに十分な時間還流する。続いて、冷却した溶液を同一の反応溶媒または他の利便的な溶媒と水で希釈し、NaOH等の塩基溶液を加えて、固形物を沈殿させる。該固形物は、例えば、濾過によって単離し、該溶媒で洗浄し、単離された固形生成物を、従来の方法、例えば、適切な溶出系、例えば、CHCl3/MeOH/NH3の9/1/0.1で溶出するフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)に従って精製して、生成物(8)を得る。
【0056】
一例として、XがCHであり、YがNHであり、ZがNである式(I)の化合物、すなわち、複素環がピラゾリルである場合、化合物(I)は、下記スキームに従って中間体(V)に変換される。
【化6】
【0057】
アルデヒド(I)は周知であり、その製造は、Gobbini et al. Synth Comm, 27(6), 1115-1122 (1997)に開示されている。
【0058】
アルデヒド(I)は、周知の方法に従って誘導体(III)に変換される。例えば、THF等の無水溶媒中のNaH懸濁液(通常、鉱油中に55%分散)に、ホスホノ酢酸トリメチル(II)を、不活雰囲気下において0℃で滴下して加える。該懸濁液を、室温で利便的な時間、例えば、30分間放置し、続いて0℃に冷却する。アルデヒド(I)を乾燥有機溶媒中、好ましくは前記混合物と同一の溶媒中に溶解させ、これを加え、該混合物を、例えば、室温で反応完了まで放置する。続いて、有機溶媒、例えば、EtOAcを加え、該混合物をNaH2PO4溶液(通常、水中で5%)に移し、同一の溶媒で抽出する。プールした有機相を、好ましくは減圧下で濃縮乾固する。該固形残渣を水中で懸濁させ、しばらく攪拌しつつ続け、濾過し、有機溶媒、例えば、AcOEtおよびジクロロメタン中に溶解させ、続いて従来の方法で乾燥させ、濾過し、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去して、中間体(III)を得る。さらに精製することなく、エステルをアルコールに還元する次のステップで使用する。エステルのアルコールへの還元は周知であり、多くの方法が当業者に利用可能である。例えば、不活雰囲気下において-78℃で乾燥有機溶媒、例えば、THF中の化合物(III)溶液に、無溶媒水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAH)を加え、反応を完了させる。-78℃で冷却し、弱酸性溶液(通常、水中で13%のクエン酸)を加えて十分な時間反応させ、次に相の分離を促進するためのさらなる中性無機塩、例えばNaClを加え、水相をEtOAc等の有機溶媒で洗浄する。プールした有機相を、例えば、NaHCO3溶液(例えば、5%)等の弱塩基性水溶液で洗浄し、従来の方法で乾燥させ、濾過し、溶媒を、好ましくは減圧下で留去して、中間体(IV)を得て、さらに精製することなく次のステップで使用される。次のステップは、アルコールからアルデヒドへの従来の酸化である。例えば、ジオキサン等の適切な有機溶媒中の化合物(IV)の溶液に、MnO2を加え、該懸濁液を、典型的には室温で十分な時間撹拌する。該混合物を、例えば、セライトパッド上で濾過して金属を除去し、これをAcOEt等の有機溶媒で洗浄する。該溶媒を、好ましくは減圧下で留去し、該残渣を適切な結晶化媒体、例えば、ジエチルエーテルで結晶化して、化合物(V)を得ることができる。
【0059】
下記に記載されるように、中間体(V)は、様々な複素環残基を有する式(I)の化合物を製造するための出発化合物として用いることができる。
【0060】
複素環がピラゾールである式(I)の化合物の製造については、下記の反応スキームに従うことができる。
【化7】
【0061】
適切な反応媒体、例えば、酢酸中の化合物(V)の溶液に、p-トルエンスルホニルヒドラジドを加える。該反応混合物を、適切な温度、例えば室温で十分な時間放置し、次にこれをNa2HPO4溶液(通常、水中で5%)で希釈する。該懸濁液を濾過し、該固形物を、好ましくは減圧下で乾燥させ、溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解させ、カリウム tert-ブトキシド等の立体障害のある強塩基を加える。該反応は、例えば、室温から開始し、次いで、例えば80℃まで加熱して完了させ、次いで、水に注ぎ入れ、適切な溶媒、例えば、ジエチルエーテルで抽出する。プールした有機相を、従来の方法で乾燥させ、濾過され、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去する。該残渣を、従来の方法、例えば、適切な溶出系(例えば、CH2Cl2/アセトンの7/3の溶離液)を用いるフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)により精製して最終生成物を得る。
【0062】
同一の化合物(V)は、他の複素環系、例えば、複素環がイソオキサゾールである式(I)の化合物、すなわち、XがCH、特に、アミノ(C
1-C
4)アルキルで置換されたCHであり、YがOであり、ZがNである式(I)の化合物を得るために用いることができる。例示的な方法が、下記スキームに従って本明細書で提供される。
【化8】
【化9】
【0063】
化合物(V)は、従来の方法に従って二重結合水素化に付される。例えば、適切な反応媒体、例えば、EtOAc中の生成物(V)の溶液に、水素化触媒、例えば、Pd/C(5%)を加え、該混合物を、典型的には、大気圧および室温で水素下に十分な時間保つ。反応完了後、該触媒を、例えばセライトパッド上で濾過して除去し、該濾液を、好ましくは減圧下で濃縮乾固して、生成物(VI)を得る。次に、アルデヒド(VI)を、従来の方法に従ってオキシム(VII)に変換する。例えば、反応媒体中の化合物(VI)の溶液に、例えば、ジオキサン、ヒドロキシルアミン塩酸塩およびNaOHを加える。該反応を完了させ、これを室温で行うことができ、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去し、該溶媒、例えばCHCl3で抽出する。有機相を、好ましくは減圧下で濃縮乾固して、生成物(VII)を得る。
【0064】
アルキン(XI)は、式(I)で供されるように、アルキル鎖の所望の長さに応じて製造される。アルキンが2つのメチレン基を有する上記のスキームで示される例示的な実施態様において、THF等の乾燥溶媒中の3-ブチン-1-オール溶液に、PPh3およびフタルイミドを0℃で加える。1,2-エトキシカルボニルジアゼン溶液(DEAD)を前記溶液に加え、該混合物を反応が完了するまで放置し、次に溶媒を、好ましくは減圧下で留去し、該残渣を、従来の方法、例えば、適切な溶離液(例えば、ヘプタン/ジエチルエーテルの9/1)におけるフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)により精製して、生成物(XI)を得る。アルキン(XI)をオキシム(VII)と反応させる。有機溶媒、例えば、0.5%のピリジンを含むクロロホルム中の化合物(VII)の懸濁液に、N-クロロスクシンイミドを加え、不活(N2)雰囲気下で反応させる。有機溶媒、例えばトリメチルアミン(TEA)を含むクロロホルム中のアルキン(XI)溶液を加え、該反応は、例えば、室温で、有機溶媒、好ましくは同一の溶媒で希釈し、水で洗浄して終了させる。該溶媒を、好ましくは減圧下で留去して乾固させ、該残渣を、従来の方法、例えば適切な溶出系(例えば、シクロヘキサン/アセトン/クロロホルムの7/2/2)でのフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)により精製して生成物(XII)を得る。最終的に、最終的な所望生成物は、化合物(XII)を、溶媒、例えば、エタノール中のヒドラジン塩酸塩と共に、好ましくは、反応が完了するまで還流下で処理して得られる。該混合物を水で希釈し、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去し、残りの水溶液部分を、有機溶媒、例えば、CH2Cl2で抽出する。有機相を、好ましくは減圧下で乾燥させ、該残渣を、従来の方法、例えば、フラッシュクロマトグラフィー(SiO2)(例として、希釈剤CHCl3/MeOH/NH3の95/5/0.5)により精製して最終生成物を得る。
【0065】
グアニジン基を有する式(I)の化合物の例示的な実施態様において、中間体(3)を出発物質として、下記スキームに従うことができる。
【化10】
【0066】
無水溶媒、例えば、ジクロロメタン中の生成物(3)に、トリエチルアミンまたは同等の薬剤を加える。該溶液を、例えば、5℃で冷却し、メタンスルホニルクロリドまたは別の公知の脱離基を加え、該溶液を、同一の冷却温度で十分な時間保持し、次いで室温で反応完了までさらなる時間保持する。該溶液を溶媒で希釈し、NaHCO3溶液または同等物で洗浄する。水相を、ジクロロメタン等の有機溶媒で抽出し、プールした有機相を水で洗浄する。水相を抽出溶媒で再度抽出し、プールした有機相を、従来の方法で乾燥させ、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去し、中間体(7)を得て、さらに精製することなく次のステップで使用する。中間体(7)の有機溶液、例えば、アセトンに、2-イミノ-4-チオビウレットを加える。該反応は、好ましくは還流下で反応が完了するまで行い、薄層クロマトグラフィー(TLC)等の従来の方法によって確認する。室温で冷却し、該反応物をさらにしばらく放置し、反応の完了を確認する。該固形物を濾過して除去し、該溶媒を、好ましくは減圧下で留去する。該固形残渣は、有機溶媒、例えば、ジクロロメタン、および水に取り込まれる。水相を抽出し、該溶媒およびプールした有機相を、従来の方法で乾燥させ、濾過し、該溶媒を、好ましくは真空下で留去して、中間体(8)を得て、これを従来の方法、例えば、フラッシュクロマトグラフィー(SiO2)(例えば、溶離液シクロヘキサン/酢酸エチルの1/1+1%のTEA-99%の酢酸エチル+1%のTEA)により精製して、生成物(8)を得る。NaOHまたは同等の薬剤を、例えば、MeOH等の溶媒中の化合物(8)の溶液に加える。該反応は、好ましくは室温で行われ、該溶媒を留去する。該残渣を水で洗浄し、濾過する。フィルター上の固形物をさらなる量の水でさらに洗浄し、続いて適切な結晶化媒体、例えばEtOH/水で結晶化することにより精製する。該固形物を、有機溶媒、例えば、EtOH中に、典型的には、室温で溶解させ、水を加え、該混合物を再結晶化させる。該固形物を濾過により回収して、生成物(9)を得る。
【0067】
Rがベータ-OHである式(I)の化合物について、上記に記載の合成スキームは、ジギトキシゲニンの代わりにジゴキシゲニンを出発物質として行う。この場合、OHのヒドロキシル保護のための最初の反応は3位と12位で行われる。
【0068】
式(I)の化合物は、有機合成の当業者の一般的な知識に基づいて製造することができる。全ての出発生成物、反応試薬、反応媒体、触媒および他の物質は、市販されているか、または文献に記載されている方法に従って製造することができる。知識の供給源は、周知であり、科学文献、教科書、マニュアル、データベース、サービス提供者が含まれ、例えば、www.cas.orgを参照のこと。
【0069】
別の合成方法を、式(I)の化合物の製造のために用いることができる。本明細書に開示される反応は、それらの反応試薬、材料、および条件、ならびに最終生成物を単離および精製するための方法において変更し、改変することができる。反応時間と温度は、当業者の経験と一般知識に応じて選択することができる。必要に応じて、Good Laboratory Practice(GLP)およびGood Manufacturing Practice(GMP)を、所望される純度の要件により用いることができる。材料は、好ましくは、純度、高純度、または医薬品グレードのものである。分析方法は、例えば、クロマトグラフィー、分光法および他の適切な技術等の有機化学で従来使用されている方法である。
【0070】
医薬組成物
医薬組成物および製剤は、本明細書に開示される式(I)の化合物の1つまたはそれ以上を、少なくとも1つの従来の医薬的に許容される担体および/またはベヒクルおよび/または賦形剤と混合して含む。
【0071】
医薬組成物は、非経口的に、局所的に、皮下に、筋肉内に、経口的に、またはエアロゾルもしくは経皮等による局所投与によって投与することができる。経腸、特に、経口投与可能な医薬組成物が好ましい。
【0072】
医薬組成物は、いずれの方法においても製剤化することができ、病気または疾患および疾患の程度、各患者の総体的な病状、結果として生じる好ましい投与方法等に応じて、様々な単位剤形で投与することができる。製剤および投与の技術の詳細は、科学および特許の文献に詳細に説明されている。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co, Easton PAの最新版(「レミントン」)を参照のこと。
【0073】
治療薬としての式(I)の化合物は、単独で、または医薬製剤(組成物)の1つの成分として投与することができる。化合物は、ヒトまたは獣医学における使用のためのいずれの利便的な方法で投与するために製剤化されてもよい。湿潤剤、乳化剤および滑沢剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム)、ならびに着色剤、放出剤(release agent)、コーティング剤、甘味料、香味料および芳香剤、緩衝剤、保存剤および抗酸化剤もまた、組成物中に存在しうる。
【0074】
本発明による組成物の製剤には、経口/鼻腔、舌下、局所、非経口(例えば、筋肉内または静脈内注射による)、直腸、および/または膣内投与に適した製剤が含まれる。製剤は、利便的に、単位剤形で供されてもよく、薬学分野で周知のいずれの方法により調製されてもよい。単一剤形を調製するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、治療される対象、特定の投与様式に応じて変動する。単一剤形を調製するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に、治療効果を生じる化合物の量である。
【0075】
本明細書で提供される医薬製剤は、医薬品の製造のための当技術分野で公知のいずれの方法によっても調製することができる。このような製剤は、甘味料、香味剤、着色剤および保存剤を含むことができる。製剤は、製造に適した毒性のない医薬的に許容される賦形剤と混合することができる。製剤は、1つまたはそれ以上の希釈剤、乳化剤、保存剤、緩衝剤、賦形剤等を含み、液体、粉末、乳濁液、凍結乾燥粉末、スプレー、クリーム、ローション、徐放性製剤、錠剤、ピル、ゲル、パッチ上、インプラント内等の形態で供されうる。
【0076】
経口投与用の医薬製剤は、適切で適した用量において当該技術分野で周知の医薬的に許容される担体を用いて製剤化することができる。このような担体は、患者による摂取に適した錠剤、ゲルタブ、ピル、粉末、糖衣錠、カプセル、液体、トローチ、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として単位剤形で医薬品を製剤化することを可能にする。経口使用のための医薬製剤は、固形賦形剤として製剤化することができ、必要に応じて、得られた混合物を粉砕し、必要に応じて適切なさらなる化合物を加え、次いで顆粒の混合物を処理して、錠剤または糖衣錠コアを得ることができる。適切な固形賦形剤は、炭水化物またはタンパク質増量剤であり、例えば、乳糖、ショ糖、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;トウモロコシ、小麦、米、ジャガイモ、または他の植物に由来するデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはナトリウムカルボキシメチルセルロース等のセルロース;アラビアゴムおよびトラガカントを含むゴム;ならびにタンパク質、例えば、ゼラチンおよびコラーゲンが挙げられる。架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、またはそれらの塩、例えば、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤または可溶化剤を添加することができる。
【0077】
糖衣錠コアは、濃縮糖溶液などの適切なコーティングとともに提供され、アラビアゴム、滑石、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含みうる。染料または顔料は、製品の識別または活性化合物の量(すなわち、投与量)の特徴付けのために錠剤または糖衣錠コーティングに加えることができる。本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられる医薬製剤は、例えば、ゼラチンから構成される押し込み型カプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどのコーティング剤から構成される柔らかく密封されたカプセルを使用して経口で用いられうる。押し込み型カプセルは、乳糖またはデンプンなどの充填剤または結合剤、滑石またはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤と混合され、および安定剤と適宜混合されてもよい活性薬剤を含むことができる。軟カプセルでは、活性薬剤は、適切な液体、例えば、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコール中に、安定剤を含むか、または含まずに溶解または懸濁させることができる。
【0078】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合して、活性薬剤(例えば、本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられる組成物)を含むことができる。このような賦形剤には、懸濁剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアカシアガムなど、ならびに分散剤または湿潤剤、例えば、天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドおよび脂肪酸とヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)、またはエチレンオキシドおよび脂肪酸とヘキシトール無水物から誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が含まれる。水性懸濁液はまた、1つまたはそれ以上の保存剤、例えば、エチルまたはn-プロピルp-ヒドロキシベンゾエートなど、1つまたはそれ以上の着色料、1つまたはそれ以上の香味料、および1つまたはそれ以上の甘味料、例えば、ショ糖、アスパルテームまたはサッカリン、またはエリスリトールもしくはレバウジオシドAを含みうる。製剤は浸透圧について調整することができる。
【0079】
油性医薬品は、本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられる疎水性活性薬剤の投与のために特に有用である。油性懸濁液は、活性薬剤を、植物油、例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、ココナッツ油など、または鉱油、例えば、液体パラフィンなど、あるいはこれらの混合物中に懸濁させることによって製剤化することができる。例えば、バイオアベイラビリティを高め、経口投与される疎水性医薬化合物の個体間および個体内変動を低減するための精油または精油成分の使用を記載している米国特許第5,716,928号を参照されたい(米国特許第5,858,401号も参照のこと)。油性懸濁液には、蜜蝋、固形パラフィン、またはセチルアルコールなどの増粘剤を含めることができる。口当たりの良い経口製剤を提供するために、甘味料、例えば、グリセロール、ソルビトールまたはショ糖、またはエリスリトールまたはレバウジオシドAなどを加えることができる。これらの製剤は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を添加することによって保存することができる。注射可能な油性ベヒクルの例として、Minto (1997) J. Pharmacol. Exp. Ther. 281:93-102を参照のこと。本明細書で提供される医薬製剤はまた、水中油型エマルジョンの形態であり得る。油相は、上記の植物油または鉱油、あるいはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤には、アカシアガムおよびトラガカンスガムなどの天然に存在するガム、大豆レシチンなどの天然に存在するホスファチド、脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来するエステルまたは部分エステル、例えば、ソルビタンモノオレエートなど、およびこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどが含まれる。乳濁液はまた、シロップおよびエリキシルの製剤の場合のように、甘味料および香味剤を含むことができる。このような製剤はまた、粘滑剤、保存剤、または着色剤を含むことができる。
【0080】
本発明によれば、医薬化合物はまた、座薬、吹送、粉末およびエアロゾル製剤を含む鼻腔内、眼内および膣内経路で投与することができる(ステロイド吸入剤の例については、Rohatagi (1995) J. Clin. Pharmacol. 35:1187-1193; Tjwa (1995) Ann. Allergy Asthma Immunol. 75:107-111)。座薬製剤は、常温では固体であるが、体温では液体であり、それゆえ体内で融解して薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤と薬物を混合することによって調製することができる。このような材料は、ココアバターとポリエチレングリコールである。
【0081】
本発明によれば、医薬化合物は、アプリケータースティック(applicator stick)、溶液、懸濁液、乳濁液、ゲル、クリーム、軟膏、ペースト、ゼリー、塗料剤、粉末、およびエアロゾルとして製剤化された局所経路によって経皮的に送達することができる。
【0082】
本発明によれば、式(I)の医薬化合物は、吸入によって送達することができ、例えば、別の実施態様において、吸入のための式(I)の化合物は、例えば、有効成分(すなわち、式(I)の化合物)を含む溶液を、例えば、米国特許第6,509,006号;第6,592,904号;第7,097,827号;および第6,358,530号に記載される方法を用いて噴霧乾燥することによって乾燥分散のために調製される。例示的な乾燥粉末賦形剤には、分散を補助するために、式(I)の化合物と混合される低分子量炭水化物またはポリペプチドが含まれる。別の実施態様において、乾燥粉末分散のための担体として有用な医薬賦形剤のタイプには、有用な分散剤でもあるヒト血清アルブミン(HSA)などの安定剤、増量剤、例えば、炭水化物、アミノ酸およびポリペプチドなど;pH調整剤または緩衝液;塩、例えば、塩化ナトリウムなどが含まれる。これらの担体は、結晶形態またはアモルファス形態であり得るか、または前記2種類の混合物であり得る。粉末またはエアロゾル製剤を送達するために使用できるデバイスには、例えば、米国特許第5,605,674号、第7,097,827号に記載されているものが含まれる。
【0083】
本発明によれば、医薬化合物はまた、体内で徐放するためのナノ粒子またはミクロスフェアとして送達することができる。例えば、ナノ粒子またはミクロスフェアは、ゆっくりと皮下に放出される薬物の皮内または皮下注射を介して投与することができ、Rao (1995) J. Biomater Sci. Polym. Ed. 7:623-645を参照のこと;生分解性および注射可能なゲル製剤として、例えば、Gao (1995) Pharm. Res. 12:857-863 (1995)を参照のこと;または、経口投与用のミクロスフェアとして、例えば、Eyles (1997) J. Pharm. Pharmacol. 49:669-674を参照のこと。
【0084】
本発明によれば、式(I)の医薬化合物は、筋肉内(IM)もしくは静脈内(IV)投与または体腔もしくは臓器の内腔への投与などによって非経口的に投与することができる。これらの製剤には、医薬的に許容される担体中に溶解された活性薬剤の溶液として含ませることができる。使用することができる許容可能なベヒクルおよび溶媒は、水、水中のデキストロース、および等張塩化ナトリウムであるリンゲル液である。さらに、無菌固定油は、溶媒または懸濁媒体として使用することができる。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含むいずれの無菌固定油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸もまた、同様に注射剤の調製に使用することができる。これらの溶液は無菌であり、一般に望ましくない物質が含まれていない。これらの製剤は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌することができる。製剤は、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどの生理学的条件を適正にするために必要とされる医薬的に許容される補助物質を含み得る。これらの製剤中の活性薬剤の濃度は、大きく変動する可能性があり、選択された特定の投与様式および患者のニーズに応じて、主に液量、粘度、体重などに基づいて選択される。静脈内投与の場合、製剤は、無菌の注射可能な水性または油性の懸濁液などの無菌の注射可能な調製物であり得る。この懸濁液は、これらの適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて製剤化することができる。無菌の注射可能な調製物はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒、例えば、1,3-ブタンジオールの溶液中の懸濁液であり得る。投与は、ボーラスまたは持続注入(例えば、一定期間の血管への実質的に連続した注入)によることができる。
【0085】
本明細書で提供される医薬化合物および製剤は、凍結乾燥することができる。本明細書で提供される組成物を含む安定な凍結乾燥製剤が提供され、これは、本明細書で提供される医薬品および増量剤、例えば、マンニトール、トレハロース、ラフィノース、およびショ糖またはこれらの混合物を含む溶液を凍結乾燥することによって調製することができる。他にも多くの従来の凍結乾燥剤がある。糖類の中で、乳糖が最も一般的である。クエン酸、炭酸ナトリウム、EDTA、ベンジルアルコール、グリシン、塩化ナトリウムなども使用される(例えば、Journal of Excipients and Food Chemistry Vol. 1, Issue 1 (2010) pp 41-54;米国特許出願第20040028670号を参照のこと)。
【0086】
本発明によれば、本明細書で提供される式(I)の化合物は、予防的および/または治療的処置のために投与することができる。治療用途において、組成物は、病気または疾患の臨床的症状、または疾患およびその合併症を治癒、緩和または部分的に阻止するのに十分な量(「治療有効量」)で病気または疾患にすでに罹患している対象に投与される。例えば、別の実施態様において、本明細書で提供される医薬組成物は、それを必要とする個体を治療し、予防し、または緩和するのに十分な量で投与される。これを達成するのに適切な医薬組成物の量は、「治療上有効な用量」として定義される。この用途に有効な投与スケジュールと量、すなわち「投薬計画」は、疾患または病気のステージ、疾患または病気の重症度、患者の総体的な状態、患者の体調、年齢などを含む様々な因子による。患者の投薬計画を算出する際には、投与様式も考慮される。
【0087】
投薬計画はまた、当該技術分野で周知の薬物動態パラメータ、すなわち、活性薬剤の吸収速度、バイオアベイラビリティ、代謝、クリアランスなどを考慮に入れる(例えば、Hidalgo-Aragones (1996) J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 58:611-617; Groning (1996) Pharmazie 51:337-341; Fotherby (1996) Contraception 54:59-69; Johnson (1995) J. Pharm. Sci. 84:1144-1146; Rohatagi (1995) Pharmazie 50:610-613; Brophy (1983) Eur. J. Clin. Pharmacol. 24:103-108; 最新の上記Remingtonの文献を参照のこと)。当該技術分野の一般知識により、臨床医は、個々の患者、活性薬剤、および治療される疾患または病気の投薬計画を決定することができる。医薬品として用いられる同様の組成物について提供されるガイドラインは、本明細書に提供される方法を実施して投与される投薬計画、すなわち、投薬スケジュールおよび投薬レベルを決定するための手引書として使用することができ、正確かつ適切である。
【0088】
製剤の単回投与または複数回投与は、必要に応じ、患者が許容できる用量および頻度に応じて行うことができる。製剤は、本明細書に記載の病気、疾患または症状を効果的に治療し、予防し、または緩和するために十分な量の活性薬剤を提供する必要がある。例えば、本明細書で提供される方法および使用を実施するために使用される組成物の経口投与のための例示的な医薬製剤は、1日につき体重1キログラムあたり約1~約20、50、100、または1000マイクログラムまたはそれ以上の1日量またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物の同等物であり得る。
【0089】
別の実施態様において、それを必要とする個体に投与される、式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物の同等物の有効量は、様々な投薬スケジュールの使用を含む。例えば、AHFSの場合、入院患者を助けるために、式(I)の化合物は、1分あたり体重1kgあたり0.1~0.5から約10、50、もしくは100マイクログラムまたはそれ以上の範囲の用量で24/48時間にわたる静脈内注入によって投与することができる。B)AHFSから助けられ、退院した患者では、治療効果を維持するための投与スケジュールは、体重1kgあたり1、10、50、100、または1000マイクログラムまたはそれ以上の1日量とすることができる。経口投与が好ましい実施態様である。
【0090】
別の実施態様において、それを必要とする個体に投与される、式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物の同等物の有効量は、肺動脈楔入圧(PCWP)、呼吸困難、末梢および肺静脈うっ血、尿量、運動能力、血清バイオマーカー、例えば、NT-proBNPおよび高感度心筋トロポニン(hs-cTnT)などのモニタリングに基づいて個別化される。
【0091】
別の実施態様において、それを必要とする個体に投与される、式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物の同等物は、息切れすることのない通常の運動耐性を維持するために十分な量である。
【0092】
別の実施態様において、有効量は、PCWP、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難の減少、運動耐性の増加、末梢および肺の静脈うっ血(例えば、肺の捻髪音またはラ音など)の減少、足首の腫れの減少、バイオマーカー(NT-proBNPや高感度心筋トロポニン(hs-cTnT)など)の尿量の減少によって示される。
【0093】
別の実施態様において、式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物の同等物のより低用量は、血流またはIVもしくはIMで投与される場合(例えば、経口、吸入または皮下投与とは対照的に)、例えば、IVまたはIM投与として、または体腔内または臓器の内腔への投与の場合に用いられる。実質的により高い用量は、局所、スプレー、吸入または経口投与、あるいは粉末、スプレーまたは吸入による投与で使用することができる。非経口的または非経口的ではない投与可能な製剤を調製するための実際の方法は、当業者に公知であるか、または明らかであり、上記のRemingtonの文献のような刊行物により詳細に記載されている。
【0094】
別の有利な実施態様において、式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物の同等物は、慢性的に、例えば、診断の日から患者の人生の最後の日まで、または疾患は寛解まで付与される。別の実施態様において、用量の調整は、疾患の特定の従来から公知のバイオマーカーまたは臨床徴候の定期的なモニタリングを通じて、治療段階から維持期間に移行するときに必要とされる。
【0095】
別の実施態様において、治療、治療計画、または特定の用量の有効性を評価する際、または治療と維持用量のいずれを与えるべきかどうかを決定する際、個体、例えば、急性または慢性心不全に罹っている患者は、臓器および組織の合併症または損傷の存在および程度、例えば、心臓(心室拡張、III音心肥大)、倦怠感、疲労感、運動耐性の低下、運動後の回復時間の増加、腎臓(腎不全、乏尿)、肺(起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、頻呼吸)、足首の腫れ、頸静脈圧の上昇についての周期的な定期スクリーニングにかけられる。心臓、肺、末梢循環機能に着目した心血管疾患、特に急性または慢性心不全の治療の専門家が選択した時間間隔で徹底的な身体検査を行う必要がある。よって、別の実施態様において、式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物の同等物による治療は、症状の急速な進展を防ぐために、可能な限り早期に、好ましくは緊急に開始され、患者の退院後何年もの間その後継続され、できれば患者の生涯を通じて、または少なくとも他の薬剤が心不全で使用される方法と一致する期間継続される。
【0096】
本発明によれば、本明細書で提供される使用および方法は、他の薬物または医薬品との同時投与をさらに含むことができる。実際、本発明は、低下した心臓生化学的機能(すなわち、SERCA2a活性)を選択的に修正する。このことは、利用可能な治療法よりも望ましくない副作用を少なくしつつ(上記の選択性のため)、既存のHF臨床症状の緩和に確かに寄与するものである。しかしながら、CHFおよびAHFは複雑な臨床症候群であるため、本発明は、a)薬物クラス、例えば、ACE阻害薬、AIRB、利尿薬、Caチャネル遮断薬、βブロッカー、ジギタリス、NOドナー、血管拡張薬、SERCA2a刺激因子、ネプリライシン(NEP)阻害剤、ミオシンフィラメント活性化因子、組換えリラキシン-2メディエーター、組換えNPタンパク質、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)の活性化因子、アンジオテンシンII受容体のベータアレスチンリガンド;b)特定の薬剤:ヒドロクロロチジド、フロセミド、ベラパミル、ジルチアゼム、カルベジロール、メトプロロール、ヒドララジン、エプレレノン、スピロノラクトン、リシノプリル、ラミプリル、ニトログリセリン、硝酸塩、ジゴキシン、バルサルタン、オルメサルタン、セルミサルタン、セルミサルタン、カンデス、ラリチド、レボシメンダン、シナシグアトなどの既存および将来の薬物クラスおよび/または以下のような特定の薬物と一緒に適用可能でありうる。
【0097】
特に心不全を治療するために使用される治療薬としての本発明の化合物は、同一疾患の治療に使用される他の治療薬と組み合わせることができる。例示的な他の治療薬は、利尿薬、例えば、フロセミド、ブメタニド、およびトラセミド、メトラゾン、アルドステロン拮抗薬、例えば、スピロノラクトンまたはエプレレノン、チアジド系利尿薬、例えば、ヒドロクロロチアジド、メトラゾン、クロルタリドンなどである。他の薬剤は、ACE阻害剤、例えば、リシノプリルおよびラミプリルである。また、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、例えば、バルサルタン、カンデサルタン、ロサルタンなども考慮に入れることができる。アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害剤(ARNI)、例えば、サクビトリルが含まれる。他の薬剤は、βブロッカー、例えば、カルベジロールおよびメトプロロールなど、または血管拡張薬、例えば、ヒドララジン(二硝酸イソソルビドと適宜組み合わされてもよい)、硝酸塩、例えば、ニトログリセリン、アムロジピンおよびフェロジピン、非ジヒドロピリジン、例えば、ジルチアゼムまたはベラパミルなどから選択することができる。本発明の化合物はまた、必要に応じて、ジゴキシンと組み合わせることができる。イバブラジンや他の抗凝固剤などの他の薬物も考慮されうる。
【0098】
本発明の化合物は、他の治療薬、特に心血管疾患の治療に有用な薬剤、より具体的には心不全の併用療法と組み合わせることができる。組み合わされる有効成分は、医師によって決定された異なるプロトコルに従って投与することができる。本発明の一実施態様によれば、併用療法は、式(I)の化合物を、1つまたはそれ以上さらなる治療上活性な成分と同時に、または異なる時間の両方で投与することによって行うことができる。併用投与の場合、本発明の化合物および1つまたはそれ以上のさらなる有効成分は、それぞれ、各々の医薬組成物または同一の単一製剤中に製剤化することができる。前者の場合、本発明は、特に、心不全の治療のための、本発明の化合物および1つまたはそれ以上のさらなる有効成分を含む別々の医薬組成物を含むキットを提供する。別の実施態様において、本発明は、特に、心不全の治療のための、本発明の化合物および1つまたはそれ以上のさらなる有効成分を同一の単位剤形中に含む、医薬単位剤形キットを提供する。本発明による併用療法は、本明細書に開示されるさらなる活性薬剤の周知の治療効果に加えて、または相乗的に組み合わされる、本明細書に開示される式(I)の化合物の変力性心筋弛緩効果による心不全の有効な治療を提供する。
【0099】
本明細書で提供される使用および方法を実施するために使用される化合物を含むナノ粒子、ナノリポ粒子、小胞およびリポソーム膜は、例えば、本明細書で提供される医薬的に活性な化合物および組成物(式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物(適宜、上記に記載されるさらなる治療上活性な薬剤と組み合わされてもよい))を、それを必要とする対象に送達するために提供される。別の実施態様において、これらの組成物は、例えば、筋細胞または心臓細胞、内皮細胞などの所望の細胞型を標的とするために、細胞表面ポリペプチドを含むポリペプチドなどの生物学的分子を含む特定の分子を標的とするように設計される。
【0100】
本明細書で提供される方法を実施するために使用される化合物を含む多層リポソームが提供され、例えば、Parkらの米国特許出願第20070082042号に記載される。多層リポソームは、スクアラン、ステロール、セラミド、中性脂質または油、脂肪酸およびレシチンを含む油相成分の混合物を用いて、本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられる組成物を閉じ込めるために、粒子サイズを約200~5000nmで調製することができる。
【0101】
リポソームは、例えば、本発明による活性薬剤(または活性薬剤の組み合わせ)をカプセル化することによってリポソームを調製する方法を含む、米国特許第4,534,899号またはParkらの米国特許出願第20070042031号に記載される方法を用いて調製することができ、この方法は、第1のリザーバーに水溶液を供し、第2のリザーバーに有機脂質溶液を供し、次いで前記水溶液を、第1の混合領域中で有機脂質溶液と混合してリポソーム溶液を生成することを含むものであって、有機脂質溶液を水溶液と混合して、実質的に瞬時に活性薬剤を生成し;続いて即座にリポソーム溶液を緩衝液と混合して、希釈されたリポソーム溶液を生成するものである。
【0102】
1の実施態様において、本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられるリポソーム組成物には、例えば、米国特許出願第2007010798号に記載されているように、所望の細胞型に本明細書で提供される方法を実施するために用いられる式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物の同等物の送達を標的とするために、置換アンモニウムおよび/またはポリアニオンが含まれる。
【0103】
例えば、米国特許出願第20070077286号に記載されるように、活性薬剤を含有するナノ粒子(例えば、二次ナノ粒子)の形態で本明細書に提供される使用および方法を実施するために用いられる本発明による化合物を含むナノ粒子が提供される。1の実施態様において、本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられる脂溶性活性薬剤、または二価または三価の金属塩と作用する脂溶性水溶性活性薬剤を含むナノ粒子が提供される。
【0104】
1の実施態様において、固体脂質懸濁液は、例えば、米国出願第20050136121号に記載されるように、インビボ、インビトロまたはエクスビボで哺乳動物細胞に本明細書で提供される使用および方法を実施するために使用される組成物を製剤化し、送達することができる。
【0105】
本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられる組成物および製剤は、リポソームまたはナノリポソームを使用することによって送達することができる。リポソームを使用することにより、特にリポソーム表面が標的細胞に特異的なリガンドを保有するか、あるいは特定の器官に優先的に向けられる場合、活性薬剤のインビボでの標的細胞への送達に着目することができる。例えば、米国特許第6,063,400号;米国特許第6,007,839号;Al-Muhammed (1996) J. Microencapsul. 13:293-306; Chonn (1995) Curr. Opin. Biotechnol. 6:698-708; Ostro (1989) Am. J. Hosp. Pharm. 46:1576-1587を参照のこと。
【0106】
送達ベヒクル
別の実施態様において、いずれの送達ベヒクルもまた、例えば、本明細書で提供される化合物を、それを必要とする対象に送達するために、本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いることができる。例えば、ポリカチオン、カチオン性ポリマー、および/またはカチオン性ペプチド、例えば、ポリエチレンイミン誘導体などを含む送達ベヒクルは、例えば、米国特許出願第20060008337号に記載されているように用いることができる。
【0107】
1の実施態様において、乾燥ポリペプチド-界面活性薬剤複合体は、例えば、米国特許出願第20040151766号に記載されるように、本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられる組成物を製剤化するために用いられる。
【0108】
1の実施態様において、本明細書で提供される使用および方法を実施するために用いられる組成物は、例えば、米国特許第7,306,783号;第6,589,503号に記載されるように、細胞膜透過性ペプチドコンジュゲートを有するベヒクルを用いて細胞に適用することができる。1の態様において、送達される組成物は、細胞膜透過性ペプチドに抱合されている。1の実施態様において、送達される組成物および/または送達ベヒクルは、例えば、高度に塩基性であり、ポリホスホイノシチドに結合する輸送介在ペプチドを記載する米国特許第5,846,743号に記載されるような輸送媒介ペプチドに抱合されている。
【0109】
1の実施態様において、電気透過性は、例えば、米国特許第7,109,034号;第6,261,815号;第5,874,268号に記載されるように、任意のエレクトロポレーション系を用いて、組成物を細胞に送達するための主要なまたは補助的な手段として用いられる。
【実施例】
【0110】
以下の実施例は、本発明をさらに例示する。
【0111】
式(I)の化合物の調製
下記の実施例において、特に明記しない限り、化合物、溶媒、反応試薬、およびその他の材料は、商業的供給源からのものである。
【0112】
実施例1
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(イミダゾール-4-イル)アンドロスタン(CVie101)
【化11】
-
ジギトキシゲニンから3-アセチル-ジギトキシゲニン
【化12】
1
アルゴン雰囲気下で118mlのピリジン中の25グラムのジギトキシゲニンの溶液に、41mgのDMAPおよび33.1mlの無水酢酸を、30℃以下の温度を保ちながら加えた。
【0113】
室温で20時間撹拌し、該溶媒を減圧下で留去した(トルエンと共蒸発)。該残渣を480mlの水で吸収させ、室温で1時間撹拌した。得られた固形物を濾過により収集し、240mlの水で洗浄し、真空下で乾燥させて、28.04g(定量的収率)の生成物1を淡黄色の固形物として得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0114】
-
3-アセチル-ジギトキシゲニンから17β-ラクトン環の開環
【化13】
740mLのアセトン中の26.33gの中間体1の撹拌溶液に、222mlの水中の33.8gのNaIO
4および105mgのRuO
2水和物の溶液を加えた。室温で30分間撹拌し、222mlの水中の33.8gのNaIO
4および105mgのRuO
2水和物の溶液を加えた。
【0115】
32mlのイソプロパノールを加え、室温で15分間撹拌し、該固形物を濾過して除去し、減圧下で容量を減らし、該残渣をAcOEtで抽出した。
【0116】
有機相をブラインで洗浄し、次いでMgSO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を真空下で除去して中間体2を得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0117】
-
アルコールへの還元
【化14】
685mlの水中の21.47gのKHCO
3溶液を、1080mlのMeOH中の28.18gの中間体2の溶液に加えた。該溶液を室温で16時間撹拌し続け、10.74gのKHCO
3を加えた。室温で5時間後、MeOHを減圧下で留去し、該残渣を500mlのジクロロメタンで2回抽出し、有機相を250mlのブラインで洗浄し、次にMgSO
4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去した。該残渣を、7:3のシクロヘキサン/AcOEtで溶出するフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)により精製して、14.78g(63%)の中間体3を白色固形物として得た。
【0118】
-
イミダゾール環の構築
【化15】
955mlのエタノール中の13.66gの生成物3の攪拌溶液に、68.3mlの37% ホルムアルデヒド、Cu(OAc)
2溶液(34mlの水中の13.27g)および205mlの28% 水酸化アンモニウムを加えた。該混合物を3時間加熱還流した。溶媒を減圧下で留去し、該固形残渣をAcOEt中に溶解し、ブラインで洗浄した。
【0119】
有機相を収集し、水相をAcOEtで抽出した。
【0120】
プールした有機相をMgSO4で乾燥させ、セライトパッドで濾過し、該溶媒を減圧下で留去して、13.34g(96%)の化合物4を緑がかった色の固形物として得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0121】
-
3-アセチル化合物の加水分解
【化16】
555mlのMeOH中の13.34gの中間体4の撹拌溶液に、166.5mlの1M NaOHを加え、該溶液を室温で16時間撹拌した。MeOHを減圧下で留去し、該残渣を水で希釈し、続いてジクロロメタンで抽出した。
【0122】
有機相をMgSO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を真空下で除去して、8.23g(69%)の中間体5をオフホワイト色の固形物として得て、これをさらに精製することなく次のステップで使用した。
【0123】
-
医薬的に許容される塩の調製
【化17】
EtOH中の18.1mlの1.25M HClを、400mlのMeOH中の8.11gの生成物5の溶液に加えた。該混合物を室温で5分間撹拌し、次に溶媒を留去した。該残渣をアセトン中に溶解させ、加熱還流し、冷却し、次いで固形物を濾過により収集して、6.03gの白色の固形物を得て、これをクロマトグラフィーにより精製した。
【0124】
該固形物を、7:3の水/ACNで溶出する複数のセミ分取C18カラムクロマトグラフィーの実行(3.0gの粗生成物をロード)により精製した。総収量:3.95g(44%)。
1H-NMR (d6-DMSO): 0.59 (s, 3H); 0.87 (s, 3H); 1.05-1.24 (m, 4H); 1.32-1.53 (m, 8H); 1.59-1.88 (m, 7H); 2.03-2.11 (m, 1H); 2.21-2.29 (m, 1H); 2.92 (dd, 1H); 3.89 (s, 1H); 4.25 (brs, 1H); 7.29 (d, 1H); 8.86 (d, 1H); 13.72 (s, 1H); 14.22 (s, 1H).
【0125】
実施例2
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル)アンドロスタン(Cvie102)
【化18】
-
ジギトキシゲニンから3-アセチル-ジギトキシゲニン
アルゴン雰囲気下で118mlのピリジン中の25グラムのジギトキシゲニンの溶液に、41mgのDMAPおよび33.1mlの無水酢酸を、温度を30℃以下に保ちながら加えた。
【0126】
室温で20時間撹拌し、溶媒を減圧下で留去した(トルエンと共蒸発)。該残渣を480mlの水に吸収させ、室温で1時間撹拌した。得られた固形物を濾過により収集し、240mlの水で洗浄し、真空下で乾燥させて、28.04g(定量的収率)の生成物1を淡黄色の固形物として得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0127】
-3-アセチル-ジギトキシゲニンから17β-ラクトン環の開環
740mLのアセトン中の26.33gの中間体1の撹拌溶液に、222mlの水中の33.8gのNaIO4および105mgのRuO2水和物の溶液を加えた。室温で30分間撹拌し、222mlの水中の33.8gのNaIO4および105mgのRuO2水和物の溶液を加えた。該混合物を、室温でさらに15分間撹拌し、続いて222mlの水中の33.8gのNaIO4および105mgのRuO2水和物の溶液を加えた。
【0128】
32mlのイソプロパノールを加え、15分間撹拌し、室温で固形物を濾過して除去し、減圧下で容量を減らし、残渣をAcOEtで抽出した。
【0129】
有機相をブラインで洗浄し、次にMgSO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を真空下で除去して、29.8gの淡褐色の固形物を得て、これを790mlのアセトン中に溶解した。
【0130】
222mlの水中の33.8gのNaIO4および105mgのRuO2水和物の溶液を加えた。室温で30分間撹拌し、222mlの水中の33.8gのNaIO4および105mgのRuO2水和物の溶液を加え、該混合物を室温で30分間撹拌し、次にイソプロパノール(32ml)を加えた。水(222ml)中のNaIO4(33.8g,158.0mmol,2.5当量)およびRuO2水和物(105mg,0.79mmol,2当量)の溶液を加え、該混合物を室温で30分間撹拌し、次に32mlのイソプロパノールを加えた。15分間攪拌し、室温で固形物を濾過して除去し、減圧下で容量を減らし、残渣をAcOEtで抽出した。有機相をブラインで洗浄し、次にMgSO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去して、28.25g(97%)の中間体2を得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0131】
-アルコールへの還元
685mlの水中の21.47gのKHCO3の溶液を、180mlのMeOH中の28.18gの中間体2の溶液に加えた。該溶液を、室温で16時間撹拌し続け、10.74gのKHCO3を加えた。室温で5時間後、MeOHを減圧下で留去し、残渣を500mlのジクロロメタンで2回抽出し、有機相を250mlのブラインで洗浄し、次にMgSO4で乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で留去した。該残渣を、7:3のシクロヘキサン/AcOEtで溶出するフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)で精製し、14.78g(63%)の中間体3を白色の固形物として得た。
【0132】
-
アルコールからメタンスルホネートへ
【化19】
205mlの無水ジクロロメタン中の10.2グラムの生成物3の撹拌溶液に、5.1mlのトリエチルアミンを加えた。該溶液を5℃に冷却し、2.5mlのメタンスルホニルクロリドを滴下し、溶液を5℃で10分間、そして室温でさらに2時間維持した。該溶液を200mlのジクロロメタンで希釈し、200mlのNaHCO
3溶液で洗浄した。
【0133】
水相を50mlのジクロロメタンで抽出し、プールした有機相を200mlの水で洗浄した。該水相を50mlのジクロロメタンで再度抽出し、プールした有機相をMgSO4で乾燥させ、該溶媒を減圧下で留去して、12.4g(99%)の化合物7を白色の固形物として得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0134】
-
グアニジン置換チアゾールの構築
【化20】
1120mlのアセトン中の12.4gの中間体7の撹拌溶液に、52.3グラムの2-イミノ-4-チオビウレットを加えた。該溶液を5時間還流し、室温まで冷まし、さらに16時間撹拌した。該懸濁液を濾過して固形物を捨て、アセトンを減圧下で留去した。
【0135】
該固形残渣を、500mlのジクロロメタンおよび500mlの水に吸収させた。水相を250mlのジクロロメタンで2回抽出し、プールした有機相をMgSO4で乾燥させ、濾過し、溶媒を真空下で除去して、15.3gの中間体8を黄色がかった固形物として得て、これをフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)(シクロヘキサン/酢酸エチルの1/1+1%のTEA-酢酸エチル99%+1%のTEAを溶離液)により精製して、8.95グラムの純粋な生成物8(73%)を得た。
【0136】
-
3β-ヒドロキシの回復
【化21】
93.3mlの1M NaOHを、900mlのMeOH中の8.86gの中間体8の溶液に加えた。該混合物を室温で48時間撹拌し、次に溶媒を留去した。残渣を250mlの水で洗浄し、濾過した。フィルター上の固形物をさらに100mlの水で洗浄すると、7.7グラムのオフホワイト色の固形物が得られ、これをEtOH/水による結晶化により精製した。該固形物を室温で770mlのEtOH中に溶解し、385mlの水を撹拌しながら加え、該混合物を4℃で16時間放置した。該固形物を濾過により回収して、6.24グラムの生成物9をオフホワイト色の粉末として得た。
1H-NMR (d
6-DMSO, 400 MHz): 0.59 (s, 3H); 0.89 (s, 3H); 1.05-1.24 (m, 4H); 1.32-1.53 (m, 8H); 1.59-1.88 (m, 7H); 2.04-2.09 (m, 2H); 2.72 (t, 1H); 3.90 (s, 1H); 4.20 (s, 1H); 4.89 (s, 1H); 6.59 (bs, 4H).
【0137】
-医薬的に許容される塩の調製
5.72グラムの生成物9を230mlのMeOH中に溶解し、濾過し、そして4.4mlのMeOH中の3M HClを前記濾過した溶液に加えた。該溶媒を減圧下で留去し、該残渣を130mlのアセトンでスラリーにし、室温で3時間撹拌した。4℃でさらに16時間後、該固形物を濾過により回収し、4.40グラムの白色の固形物を得た。
【0138】
実施例3
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-12β-ヒドロキシ-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(イミダゾール-4-イル)アンドロスタン(Cvie104)
【化22】
-
ジゴキシン(A)からジゴキシゲニンへ
【化23】
B
43mlのMeOH中の4.33グラムのジゴキシンの懸濁液に、12.3mlの0.2M H
2SO
4を加え、該混合物を1時間加熱還流し、そして室温に冷ました。該溶媒を減圧下で留去し、25mlの氷と水の混合物を該残渣に加え、30分間撹拌した。集めた固体を25mlの冷水で1時間撹拌しながら洗浄し、該懸濁液を濾過し、該固形物をフィルター上で水で洗浄して、2.238グラムの白色固体B(99%)を得た。
【0139】
-
3β,12β-ヒドロキシ基のアセチル化
【化24】
C
アルゴン雰囲気下で10mlのピリジン中の2.14グラムのジゴキシゲニンの溶液に、3mgのDMAPおよび2.5mlの無水酢酸を、温度を30℃以下に保ちながら加えた。室温で20時間撹拌し、該溶媒を減圧下で留去した(トルエンと共蒸発)。該残渣を25mlの水で処理し、室温で1時間撹拌した。得られた固形物を濾過により収集し、真空下で乾燥させて、1.92グラム(79%)の生成物Cを白色の固形物として得て、これをさらに精製することなく次のステップで使用した。
【0140】
-ラクトン環の開環
【化25】
C D
47mLのアセトン中の1.91グラムの中間体Cの撹拌溶液に、14mlの水中の2.15gのNaIO
4および7mgのRuO
2水和物の溶液を加えた。室温で30分間撹拌し、14mlの水中の2.15gのNaIO
4および7mgのRuO
2水和物の溶液を加えた。
【0141】
2.4mlのイソプロパノールを加え、室温で15分間撹拌し、該固形物をセライトパッド上で濾過して除去し、150mlのアセトンを用いてフィルター上で洗浄し、該溶媒を減圧下で留去し、該残渣をAcOEtおよび水で抽出した。
【0142】
有機相をブラインで洗浄し、次にMgSO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を真空下で除去して、2.25g(99%)の生成物Dを白色の固形物として得て、さらに精製することなく次のステップで使用する。
【0143】
-
エステルの加水分解
【化26】
D E
47mlの水中の1.42gのKHCO
3の溶液を、71mlのMeOH中の2.25gの中間体Dの溶液に加えた。該溶液を室温で72時間撹拌し、次にMeOHを減圧下で留去した。残りの水溶液をEtOAcで抽出し、有機相をMgSO
4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去した。粗残渣を、シクロヘキサン/AcOEtの6/4で溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、1.03グラム(57%)の中間体Eを白色の固形物として得た。
【0144】
-
イミダゾール環の構築
【化27】
E F
30mlのエタノール中の500mgの生成物Eの攪拌溶液に、2.2mlの37% ホルムアルデヒド、Cu(OAc)
2(2.6mlの水中の423g)および6.5mlの28% 水酸化アンモニウム溶液を加えた。該混合物を3時間加熱還流した。容量を減らし、該残渣をブラインおよびAcOEt中に入れた。
【0145】
有機相を収集し、水相をAcOEtで抽出した。プールした有機相をMgSO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去して、474mg(93%)の化合物Fを緑がかった固形物として得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0146】
-
アセチル基の加水分解
【化28】
F G
17mlのMeOH中の470mgの中間体Fの撹拌溶液に、5.1mlの1M NaOHを加え、該溶液を室温で24時間撹拌した。MeOHを減圧下で留去し、該残渣を水で希釈し、そしてジクロロメタンで抽出した。有機相をMgSO
4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を真空下で留去して、383mg(73%)の粗残渣を灰色/緑色の固形物として得て、これをDCM/MeOHの8/2で溶出するSiO
2ゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、152mgの純粋な生成物G(CVie104)を白色の固形物として得た。
1H-NMR (d
6-DMSO, 600 MHz): 0.40 (s, 3H); 0.83 (s, 3H); 1.08-1.24 (m, 4H); 1.30-1.58 (m, 6H);1.58-1.82 (m, 6H); 1.82-2.18 (m, 1H); 2.02-2.18 (m, 1H); 3.20 (m, 1H); 3.90 (s, 1H); 4.18 (s, 1H); 4.40 (s, 1H); 6.68 (s, 1H); 7.60 (s, 1H); 11.78 (s, 1H).
【0147】
実施例4
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-12β-ヒドロキシ-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル)アンドロスタン(Cvie105)
【化29】
実施例3は、中間体Eまでを繰り返す。
【0148】
-
アルコールからメタンスルホネートへ
【化30】
E H
10mlの無水ジクロロメタン中の0.55グラムの生成物Eの攪拌溶液に、0.24mlのトリエチルアミンを加えた。該溶液を5℃に冷まし、0.12mlのメタンスルホニルクロリドを滴下して加え、該溶液を5℃で10分間、次に室温でさらに2時間撹拌した。該溶液を10mlのジクロロメタンで希釈し、10μlの5% NaHCO
3溶液で洗浄した。
【0149】
水相を50mlのジクロロメタンで抽出し、プールした有機相を10mlの水で洗浄した。有機相をMgSO4で乾燥させ、該溶媒を減圧下で留去して、0.64g(99%)の化合物Hを白色の固形物として得て、これをさらに精製することなく次のステップで使用した。
【0150】
-
グアニジン置換イミダゾール環の構築
【化31】
H I
52mlのアセトン中の0.64gの中間体Hの撹拌溶液に、2.39グラムの2-イミノ-4-チオビウレット(アミジノチオ尿素,市販)を加えた。該溶液を5時間還流し、室温に冷まし、さらに16時間撹拌した。該懸濁液を濾過し、固形物を捨て、アセトンを減圧下で留去した。
【0151】
該固形残渣を20mlのジクロロメタン中に溶解し、水で洗浄した。有機相をMgSO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を真空下で留去して、0.59グラムの粗生成物を黄色の固形物として得て、これをフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)(酢酸エチル/シクロヘキサンの8/2+1%のTEA-99%の酢酸エチル+1%のTEAを溶離液)により精製して、0.40グラムの純粋な生成物I(62%)を得た。
【0152】
-
アセチル基の加水分解
【化32】
I L
1.9mlの1M NaOHを、6mlのMeOH中の200mgの中間体Iの溶液に加えた。該混合物を室温で24時間撹拌し、次に該溶媒を留去した。該残渣を5mlの水で洗浄し、濾過して、131mg(78%)の化合物L(CVie105)を白色の固形物として得た。
1H-NMR (d
6-DMSO, 600 MHz): 0.50 (s, 3H); 0.87 (s, 3H); 1.01-1.26 (m, 4H); 1.26-1.58 (m, 6H);1.58-1.62 (m, 2H); 1.62-1.98 (m, 6H); 1.98-2.06 (m, 1H); 3.20 (s, 1H); 3.30-3.38 (m, 1H); 3.90 (s, 1H); 6.19 (s, 1H).
【0153】
実施例6
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(N-(3-アミノプロピル)-イミダゾール-4-イル)アンドロスタン(CVie106)
【化33】
実施例1を、遊離塩基5としての最終生成物まで繰り返す。
【0154】
-
N-(アミノアルキル)誘導体の調製
【化34】
a)ニトリル誘導体
50mlのDMSO中の1.42グラムの生成物5の撹拌溶液に、55mgのK
2CO
3および1.31mlのアクリロニトリルを加え、該混合物を室温で24時間撹拌した。150mlの水を加え、該混合物を酢酸エチルで抽出し、有機相をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去して、1.71g(99%)の中間体7を得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。。
【0155】
b)ニトリル基の還元
【化35】
20mlの無水THF中の286mgの生成物7の撹拌溶液に、340mgのLiAlH
4を少しずつ加え、該混合物を80℃で加熱し、16時間還流し、次に冷却した溶液をTHFおよび水で希釈し、4N NaOHの溶液を白色の固形物が形成されるまで加えた。該懸濁液を濾過し、該固形物を酢酸エチルで洗浄し、CHCl
3/MeOH/NH
3の9/1/0.1で溶出するフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)により精製して、204mg(69%)の生成物8(Cvie106)を白色の固形物として得た。
1H-NMR (CDCl
3, 400 MHz): 0.59 (s, 3H); 0.98 (s, 3H); 1.25-1.35 (m, 4H); 1.35-1.75 (m, 11H); 1.85-2.02 (m, 7H); 2.19-2.24 (m, 2H); 2.69-2.74 (m, 3H); 3.98 (t, 2H); 4.15 (s, 1H); 6.58 (s, 1H); 7.37 (s, 1H).
【0156】
実施例6
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-((5-(3-アミノプロピル)-イソオキサゾール-3-イル)-エチル)アンドロスタン(Cvie108)
【化36】
-
アルデヒドIからα-不飽和エステルへ
【化37】
アルデヒドIは、Gobbini et al. Synth Comm, 27(6), 1115-1122 (1997)に従って調製した。
【0157】
73mlの乾燥THF中の2.43gのNaHの懸濁液(鉱油中に55%分散)に、8.57mlのトリメチルホスホノアセテートII(液体,市販)を窒素雰囲気下において0℃で滴下して加えた。
【0158】
該懸濁液を室温で30分間放置し、0℃で冷却した。146mlの乾燥THF中に溶解させた10グラムの化合物Iを滴下して加え、該混合物を室温で2時間撹拌させた。
【0159】
100mlのEtOAcを加え、該混合物を200mlのNaH2PO4の溶液(水中で5%)に移し、そして150mlのEtOAcで3回抽出した。プールした有機相を減圧下で濃縮乾固させた。該固形残渣を130mlの水中に懸濁させ、16時間撹拌し続け、濾過し、AcOEtおよびジクロロメタン中に溶解させ、次にNa2SO4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去して、11g(95%)の中間体IIIを得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0160】
-
エステルのアルコールへの還元
【化38】
N
2雰囲気下において-78℃で450mlの乾燥THF中の11グラムの化合物IIIの溶液に、35mlの無溶媒DIBAHを滴下して加え(内部温度は65℃まで上昇した)、該混合物を1時間撹拌した。-78℃に冷却し、500mlのクエン酸溶液(水中で13%)を30分間滴下して加え、室温で1時間撹拌し、50グラムのNaClを加え、水相を150mlのEtOAcで3回洗浄した。プールした有機相を5%のNaHCO
3の溶液で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、次いで該溶媒を減圧下で留去して、11.9g(98%)の中間体IVを得て、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0161】
-
アルコールのアルデヒドへの酸化
【化39】
140mlのジオキサン中の11.9グラムの化合物IVの撹拌溶液に、75グラムのMnO
2を加え、該懸濁液を室温で4時間撹拌した。該混合物をセライトパッドで濾過し、それをさらに150mlのAcOEtで洗浄した。該溶媒を減圧下で留去し、該残渣を150mlのジエチルエーテルで結晶化させて、8.4グラムの化合物V(83%)を得た。
【0162】
-
二重結合の水素化
【化40】
600mlのEtOAc中の2.95グラムの生成物Vの溶液に、55mgの触媒Pd/C(5%)を加え、該混合物を大気圧における水素下および室温で1時間維持した。該混合物をセライトパッドで濾過し、濾液を減圧下で濃縮乾固して、2.95グラム(99%)の生成物VIを得た。
【0163】
-
アルデヒドからオキシムへ
【化41】
90mlのジオキサン中の2.7gの化合物VIの攪拌溶液に、670mgのヒドロキシルアミン塩酸塩および22.5mlの1M NaOHを加えた。該混合物を室温で90分間撹拌し、該溶媒を減圧下で留去し、CHCl
3で抽出した。有機相を減圧下で濃縮乾固して、3.1g(99%)の生成物VIIを得た。
【0164】
-
アルキンの合成
【化42】
40mlの乾燥THF中の1mlの4-プロピン-1-オールの撹拌溶液に、0℃で5.63グラムのPPh
3および3.16グラムのフタルイミドを加えた。3.35mlの1,2-エトキシカルボニルジアゼン溶液(DEAD)を前記溶液に滴下して加え、該混合物を16時間撹拌し、次いでTHFを減圧下で留去し、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(ヘプタン/ジエチルエーテルの9/1を溶離液)により精製して、1.92グラムの純粋な生成物VIII(84%)を得た。
【0165】
-
アルキンとオキシムのカップリング
【化43】
0.5%のピリジンを含む8mlのクロロホルム中の600mgの生成物VIIの懸濁液に、220mgのN-クロロスクシンイミドを加え、該混合物をN
2雰囲気下で10分間撹拌した。
【0166】
0.24mlのTEAを含む4mlのクロロホルム中の240mgのアルキンVIIIの溶液を滴下して加え、該混合物を室温で6時間撹拌し、CHCl3で希釈し、水で洗浄した。該溶媒を減圧下で留去して乾固させ、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2)(ヘプタン/アセトン/酢酸エチルの7/2/2を溶離液)により精製して、260mgの純粋な生成物IX(35%)を得た。
【0167】
-
アミンの回復
【化44】
22mlのエタノール中の350mgの化合物IXおよび0.70mlのヒドラジン塩酸塩の混合物を1時間還流した。該混合物を水で希釈し、エタノールを減圧下で留去し、残りの水性部分をCH
2Cl
2で抽出した。有機相を減圧下で留去して乾固させ、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(CH
2Cl
2/MeOH/NH
3の9/1/0.1を溶離液)により精製して、125mg(44%)の純粋な生成物X(CVie108)を得た。
【0168】
実施例7
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(ピラゾール-3-イル)アンドロスタン(Cvie103)
【化45】
実施例6は、中間体Vまでを繰り返す。
【0169】
-
ピラゾール環の構築
【化46】
6mlの酢酸中の1グラムの生成物Vの攪拌溶液に、0.58グラムのp-トルエンスルホニルヒドラジドを加えた。該混合物を室温で1時間撹拌し、Na
2HPO
4溶液(水中で5%)で希釈した。該懸濁液を濾過し、該固形物を減圧下で乾燥させ、30mlのDMF中に溶解させ、400mgのカリウムtert-ブトキシドを加えた。該混合物を室温で1時間撹拌し、80℃に1.5時間加熱し、次いで水に注ぎ入れ、続いてジエチルエーテルで3回抽出した。プールした有機相をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去した。該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(CH
2Cl
2/アセトンの7/3を溶離液)で精製して、296mg(29%)の純粋な生成物(Cvie103)を得た。
【0170】
実施例8
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-((5-(3-アミノプロピル)-イソオキサゾール-3-イル))アンドロスタン(Cvie107)
【化47】
-
アルキンの調製
【化48】
VIII
40mlの乾燥THF中の1lの4-プロピン-1-オールの攪拌溶液に、0℃で5.63グラムのPPh
3および3.16グラムのフタルイミドを加えた。3.35mlの1,2-エトキシカルボニルジアゼン溶液(DEAD)を該溶液に滴下して加え、該混合物を16時間撹拌し、続いてTHFを減圧下で留去し、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(ヘプタン/ジエチルエーテルの9/1を溶離液)1.92グラムの純粋な生成物VIII(84%)を得た。
【0171】
-
アルデヒドからオキシムへ
【化49】
アルデヒドIは、上記の実施例6に記載されるように調製した。24mlの酢酸緩衝液(pH4.7)および24mlのジオキサンの攪拌溶液に、1.3グラムのヒドロキシルアミン塩酸塩を加え、1N HClでpHを調整した(5.75から4.8へ)。該溶液を15mlのジオキサンで希釈し、ジオキサンおよび水(それぞれ40mlおよび16ml)中の5グラムのアルデヒドIの溶液を滴下して加えた。30分後、固形NaHCO
3を、該溶液がpH7に達するまで加え、該溶液をEtOAcで抽出し、有機相を水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去して、5.4g(99%)の中間体XVIを得た。
【0172】
-
アルキンとオキシムのカップリング
【化50】
0.5%のピリジンを含む15mlのクロロホルム中の480mgのN-クロロスクシンイミドの撹拌溶液に、1.2グラムの固形生成物XVIを少しずつ加えた。0.5%のピリジンと0.53mlのTEAを含む12mlのクロロホルム中の780mgのアルキンVIIIの溶液を窒素雰囲気下で滴下して加え、45℃で加熱した。該混合物を18時間撹拌し、CHCl
3で希釈し、次いで水で洗浄した。該溶媒を減圧下で留去して乾固させ、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(CHCl
3/Et
2Oの8/2を溶離液)により精製して、900mgの純粋な生成物XVII(45%)を得た。
【0173】
-
ヒドラジンによる脱保護
【化51】
60mlのエタノール中の350mgの化合物XVIIおよび1.90mlのヒドラジン塩酸塩の混合物を7時間還流した。該混合物を水で希釈し、エタノールを減圧下で留去し、残りの水性部分をCH
2Cl
2で抽出した。有機相を減圧下で留去して乾固させ、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(CH
2Cl
2/MeOH/NH
3の9/1/0.1を溶離液)により精製して、400g(60%)の純粋な生成物XVIII(CVie107)を得た。
【0174】
実施例9
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(5-(2-アミノエチル)-イソオキサゾール-3-イル)-エチル)アンドロスタン(Cvie109)
【化52】
実施例6は、中間体VIIまでを繰り返す。
【0175】
-
アルキンの合成
【化53】
XI
34mlの乾燥THF中の0.70mlの3-ブチン-1-オールの攪拌溶液に、0℃で4.85グラムのPPh
3および2.72グラムのフタルイミドを加えた。2.89mlの1,2-エトキシカルボニルジアゼン溶液(DEAD)を該溶液に滴下して加え、該混合物を18時間撹拌し、次いでTHFを減圧下で留去し、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(ヘプタン/ジエチルエーテルの9/1を溶離液)により精製して、400mgの純粋な生成物XI(21%)を得た。
【0176】
-
アルキンとオキシムのカップリング
【化54】
0.5%のピリジンを含む12mlのクロロホルム中の950mgの生成物VIIの懸濁液に、348mgのN-クロロスクシンイミドを加え、該混合物をN
2雰囲気下で10分間撹拌した。0.38mlのTEAを含む6mlのクロロホルム中の600mgのアルキンXIの溶液を滴下して加え、該混合物を室温で6時間撹拌し、CHCl
3で希釈し、水で洗浄した。該溶媒を減圧下で留去して乾固させ、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(シクロヘキサン/アセトン/クロロホルムの7/2/2を溶離液)により精製して、330mgの純粋な生成物XII(35%)を得た。
【0177】
-
ヒドラジンによる脱保護
【化55】
27mlのエタノール中の480mgの化合物XIIと0.90mlのヒドラジン塩酸塩の混合物を1時間還流した。該混合物を水で希釈し、エタノールを減圧下で留去し、残りの水性部分をCH
2Cl
2で抽出した。有機相を減圧下で留去して乾固させ、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(CHCl
3/MeOH/NH
3の95/5/0.5を溶離液)により精製して、130mg(36%)の純粋な生成物XIII(CVie109)を得た。
【0178】
-医薬的に許容される塩の調製
1mlのEtOH中の36mgの生成物XIIIの攪拌溶液に、0.2mlのEtOH中の4.7mgのフマル酸の溶液を加えた。結晶化を3mlのジエチルエーテル中で行い、得られた固形物を濾過して25mgのフマル酸塩を得た。
【0179】
実施例10
3β-ヒドロキシ-5β-10β-メチル-13β-メチル-14β-ヒドロキシ-17β-(5-(2-アミノメチル)-イソオキサゾール-3-イル)-エテニル)アンドロスタン(Cvie110)
【化56】
-
ホスホネートの調製
【化57】
Iステップ:45mlのHCl(水中で2%)中のホスホネート(アセタール)の溶液を10分間還流し、次いで室温で冷ました。17グラムのNaClを加え、該混合物をCH
2Cl
2で抽出し、有機相をNaHCO
3(水中で5%)およびブラインで洗浄し、次いでNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、該溶媒を減圧下で留去して、10.6グラムのアルデヒドを得た。
【0180】
IIステップ:
【化58】
45mlの水中の5グラムのヒドロキシルアミン塩酸塩および5.8グラムのNa
2CO
3十水和物の溶液を0℃で撹拌し、30mlの水中の10グラムのアルデヒドの溶液を滴下して加えた。該混合物を室温で24時間撹拌し、次いでNaClで飽和させ、CH
2Cl
2で抽出した。有機相を10mlの水で洗浄し、該溶媒を減圧下で留去して、10グラムのオキシムを得た。
【0181】
-アルキンの調製
【化59】
250mlの乾燥THF中の4mlの2-プロピン-1-オールの撹拌溶液に、36.5グラムのPPh
3および20.5グラムのフタルイミドを、窒素雰囲気下で0℃にて加え、次いで22mlのDEADを滴下して加え、該混合物を16時間撹拌した。得られた固形物を濾過し、フラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(シクロヘキサン/AcOEtの95/5を溶離液)で精製し、さらにMeOHで結晶化して3.8グラム(30%)のアルキンを得た。
【0182】
-
オキシムとアルキンのカップリング
【化60】
15mlのCHCl
3中の1.26グラムのN-クロロスクシンイミドの懸濁液に、6マイクロリットルのピリジンおよび15mlのCHCl
3中のオキシムの溶液を加え、5分後、前もって調製した2グラムの固形アルキンを少しずつ加えた。該混合物を50℃に加熱し、5mlのCHCl
3中の1.4mlのTEAを1時間以内に滴下して加えた。8時間撹拌し、該反応物を水でクエンチし、有機相を分離し、該溶媒を減圧下で留去し、粗残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(CH
2Cl
2/ジエチルエーテルの1/1を溶離液)により精製して、1g(20%)の純粋な生成物ホスホネートを得た。
【0183】
-
アルデヒドIとホスホネートのカップリング
【化61】
14mlの乾燥THF中の290mgのNaHの懸濁液(鉱油中に55%分散)に、30mlの乾燥THF中の2.5グラムのホスホネートの溶液を、窒素雰囲気下において0℃で滴下して加えた。該懸濁液を室温で30分間放置し、0℃に冷却した。実施例6と同様に調製した1.0グラムの化合物Iを少しずつ加え、該混合物を室温で6時間撹拌させた。該溶液をNaH
2PO
4(水中で5%)で処理し、CHCl
3で抽出した。有機相を減圧下で留去して乾固させ、2.6グラムの粗残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(ヘプタン/ジエチルエーテル/アセトンの6/3/1を溶離液)により精製して、370mg(10%)の純粋な生成物XIVを得た。
【0184】
-
ヒドラジンによる脱保護
【化62】
22mlのエタノール中の370mgの化合物XIVおよび0.70mlのヒドラジン塩酸塩の混合物を90分間還流した。該混合物を水で希釈し、エタノールを減圧下で留去し、残りの水性部分をCH
2Cl
2で抽出した。有機相を減圧下で留去して乾固させ、該残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2)(CH
2Cl
2/MeOH/NH
3の95/5/0.5を溶離液)により精製して、150mg(54%)の純粋な生成物XV(Cvie110)を得た。
【0185】
-医薬的に許容される塩の調製
6mlのEtOH中の153mgの生成物XVの攪拌溶液に、1.5mlのEtOH中の21.5mgのフマル酸の溶液を加えた。10mlのヘキサンを加え、次に該溶媒を留去して、ガラス状固形物を定量的収率で得た。
【0186】
生物学的活性
実施例11
-手順
動物の世話
実験は、国立衛生研究所から発行された実験動物の管理と使用のガイド(NIH出版物番号85-23、1996年改訂)および参加機関によって承認された動物管理のガイドラインに従った。
【0187】
細胞を含まない製剤の生化学的測定
イヌ腎臓のNa、K-ATPアーゼの精製およびNa、K-ATPアーゼ活性アッセイ
腎臓Na、K-ATPアーゼの精製は、Jorgensenの方法(Methods Enzymol. 1988;156:29-43)に従って行った。腎臓は、ペントバルビタール麻酔下で1~3歳のオスのビーグル犬(WuXi AppTec, Suzhou Co., Ltd. 1318 Wuzhong Ave., Wuzhong District Suzhou, 215104 P.R. China)から切除した(イタリア保健省からの輸入許可0009171-2015年9月4日-DGSAF-COD_UO-P)。腎臓をスライスし、外側の髄質を解剖し、プールし、250mM ショ糖、30mM ヒスチジン、および5mM EDTA(pH7.2)を含むショ糖ヒスチジン溶液中に懸濁し(1g/10ml)、ホモジナイズした。ホモジナイズした物を6,000gで15分間遠心分離し、上澄み物をデカントし、48,000gで30分間遠心分離した。沈殿物をショ糖ヒスチジン緩衝液中に懸濁させ、25mM イミダゾールおよび1mM EDTA(pH7.5)を含む勾配緩衝液に溶解させたドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液とともに20分間インキュベートした。該試料をショ糖の不連続勾配(10、15、および29.4%)上に重層し、60,000gで115分間遠心分離した。該沈殿物を勾配緩衝液中に懸濁させた。
【0188】
Na、K-ATPアーゼ活性は、記載されるように(Ferrandi M. et al. Hypertension 1996;28(6):1018-25)、32P-ATPの放出を測定することによって「インビトロ」でアッセイした。標準物質ウワバインまたは試験化合物の濃度を上げながら、0.3μgの精製した犬腎臓酵素とともに最終容量120μlの培地(140mM NaCl、3mM MgCl2、50mM Hepes-Tris、3mM ATP(pH7.5)を含む)中で37℃にて10分間インキュベートした。次に、10mM KClと20nCiの32P-ATPを含む10μlのインキュベーション溶液(3~10Ci/mmol,Perkin Elmer)を加え、該反応を37℃で15分間継続し、20v/v%の氷冷過塩素酸で酸性化することにより停止した。32Pを、活性炭(Norit A,Serva)を用いた遠心分離により分離し、放射能を測定した。該阻害活性は、ウワバインまたは試験化合物の非存在下で実施した対照試料のパーセントとして表した。Na、K-ATPアーゼ活性の50%阻害を引き起こす化合物の濃度(IC50)は、複数パラメータの非線形回帰最適化プログラム(Kaleidagraph(登録商標),Sinergy Software)を使用して算出した。
【0189】
心臓小胞体(SR)ミクロソームにおけるSERCA2a活性測定
左心室組織を、公表されているように(Nediani C. et al. J Biol Chem. 1996;271:19066-73)、解剖し、4倍量の10mM NaHCO3、pH7、1mM PMSF、10μg/mlのアプロチニンおよびロイペプチンでホモジナイズし、12,000gで15分間遠心分離した。該上澄み物を濾過し、100,000gで30分間遠心分離した。該沈殿物を0.6M KCl、30mM ヒスチジン、pH7で懸濁させ、さらに100,000gで30分間遠心分離することにより、収縮タンパク質を抽出した。最終沈殿物を、0.3M ショ糖、30mM ヒスチジン、pH7で再構成した。
【0190】
SERCA2a活性は、記載されているように(Micheletti R.et al., AmJCard 2007; 99:24A-32A)、試験化合物の非存在下および存在下で異なるCa2+濃度(100~4000nM)における32P-ATP加水分解として「インビトロ」で測定した。各化合物の濃度を上げながら(1~100nM)、100mM KCl、5mM MgCl2、1μM A23187、20mM Tris(pH7.5)を含む80μlの溶液中で、2μgのミクロソームと4℃で5分間プレインキュベートした。次に、50nCiの32P-ATP(3~10Ci/mmol,Perkin Elmer)を含む20μlの5mM Tris-ATPを加えた。ATP加水分解を37℃で15分間継続し、100μlの20v/v% 氷冷過塩素酸で酸性にすることにより反応を停止させた。活性炭(Norit A,SERVA)を用いた遠心分離により、32Pを分離し、放射能を測定した。SERCA2a依存性活性は、10μMのシクロピアゾン酸によって阻害された総加水分解活性の一部として同定した(Seidler NW. et al. J Biol Chem. 1989;264:17816-23)。
【0191】
用量反応曲線は、シグモイドカーブフィッティングソフトウェアを使用して最適化し、最大速度(Vmax)活性とKd Ca2+を算出した(Synergy Software KaleidaGraph3.6)。
【0192】
単離した心室心筋細胞における測定
化合物は、(i)SR Ca2+取り込み機能、(ii)酵素溶液を用いた逆行性冠状動脈灌流によってモルモットの心室から新たに解離された筋細胞の活動電位(AP)における効果について特徴付けた(Rocchetti M et al. J Pharmacol Exper Therap 2005;313(1):207-215)。
【0193】
SR Ca
2+
取り込み機能(「負荷プロトコル」)
SR Ca2+取り込み速度における薬物の効果は、Na/Ca交換体(NCX)の寄与を排除し、低レベルのSR Ca2+負荷から開始する取り込み速度を評価するために特別に考え出されたSR「負荷プロトコル」で評価した。電圧クランプ条件下において、細胞内Ca2+濃度を落射蛍光(Fluo4-AM)によって動的に測定した。時間依存的成分が主にICaLを反映する膜電流を同時に記録した。SR負荷プロトコルは、SRを空にし(短いカフェインパルスによる)、次に筋細胞膜Ca2+チャネル(ICaL)を介したCa2+流入を活性化する電圧ステップによってSRを徐々に補充するように構成した。NCXを、細胞内および細胞外の溶液からのNa+の脱落により妨害した。前記方法は、わずかな変更を加えているが、公開されている方法と同様である(Rocchetti M et al. J Pharmacol Exper Therap 2005;313(1):207-215)。
【0194】
SR Ca2+取り込みにおける薬物の効果は、複数のパラメータを考慮して分析した:1)負荷プロトコル中にCa2+過渡(CaT)振幅が増加する速度(SR2+が補充される速度を反映)、2)各パルス内の細胞質内Ca2+崩壊の時定数(τ減衰)(SR膜を通過する正味のCa2+輸送速度(SERCA2aによる)を反映(τ減衰の減少は、SR Ca2+の取り込みの上昇に対応する))。
【0195】
SERCA2a活性化の検出における「負荷プロトコル」の特異性は、Na+/K+ポンプを妨害する変力剤であるジゴキシンの効果を検出しなかったが、SERCA2a刺激効果を欠くという観察によって裏付けられている(Rocchetti M et al. J Pharmacol Exp Ther 2005;313:207-215; Alemanni M et al. JMCC 2011; 50:910-918)。
【0196】
活動電位測定
活動電位(AP)曲線は、膜イオンチャネルの統合された機能の最初の推定値を提供し、その変化は、化合物の望ましくない効果を生じる可能性がある補助的な作用を明らかにしうる。レポーターとしてのAP曲線の感度を高めるために、APパラメータの速度依存性における効果も試験し、それによりマルチパラメトリックな(より厳密な)方法を供した。
【0197】
APは、36.5℃の通常のタイロード液で記録した。下記のパラメータは、4つの刺激速度(0.5-1-2-4Hz)で測定した:拡張膜電位(Ediast)、最大脱分極速度(dV/dtmax)、活動電位持続時間(APD再分極の90%、50%、20%)、刺激速度の段階的変化後のAPD適応の時定数(τ)。再分極安定性の指標である定常状態ペーシングの短期APD変動(STV)は、APDnfAPDn1プロット(ポアンカレプロット)の同一線からの絶対直交偏差の合計として測定した(Altomare C et al, Circulation A&E 2015; 8:1265-1275)。
【0198】
ラットにおける薬物バイオアベイラビリティ実験
バイオアベイラビリティは、中国のSundia MediTech Serviceによってラットで測定された。試験化合物CVie101を1mg/kgで静脈内注入し、10mg/kgで経口投与した。試験化合物の血漿中濃度を0時間から24時間の間隔で測定し、LC-MS法で検出した。F(%)を算出した。
【0199】
マウスにおける薬物毒性実験
急性毒性がマウス(アルビノスイスCD-1,体重30g)で確認された。マウスに経口投与するか、または静脈内注射し、50%の死亡率を引き起こす用量を特定するために、試験物質の用量を増加して単回投与した。死亡の場合、投与後30分以内に判断し、生存の場合、24時間後に判断した。次いで、急性毒性(LD50)を評価した。
【0200】
モルモットにおける変力および致死用量測定のための血行動態実験
モルモット(400~450g)をウレタン(1.5g/kg ip)で麻酔した。マイクロチップ圧力トランスデューサーを、右頸動脈を通して左心室に導入し、心室圧(LVP)を測定した。トランスデューサーをトランスデューサー増幅器に繋げた。記録をポリグラフに送り、分析した。薬物注入のために、ポリエチレンカニューレを頸静脈に挿入した。安定化期間の後、試験物質を0.16ml/分の速度で90分間注入した(Micheletti R et al. J Pharmacol Exp Ther 2002; 303:592-600)。
【0201】
下記のパラメータを得た:心拍数(HR)、左心室圧(LVP)、血圧上昇(+dP/dtmax)および減衰(-dP/dtmax)の最大速度、ECG。変力作用については、ED80(基礎dP/dtmaxを80%増加させる用量)を決定するために、dP/dtmaxが80%増加するまでの経過時間を特定した。最大有効量EDmaxを決定するために、dP/dtmaxが最大に増加するまでの時間も特定した。変弛緩効果は、-dP/dtmaxの最大の減少を誘発する用量(EDmax)によって特徴付けた。毒性の指標として、不整脈の発症までに投与された用量と死を誘発する用量(LD)を算出した。試験化合物の安全性比もまた、LDとED80の比率として算出した。
【0202】
CVie101は、0.016mg/kg/分で90分間投与した対照化合物ジゴキシンと比較して、0.2および0.4mg/kg/分で静脈内注入した。
【0203】
ストレプトゾトシン糖尿病ラットにおける血行動態実験(心エコー検査2M-ドップラー-組織ドップラー)
スプラーグドーリー雄ラット(150~175g)を、0.1M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で新たに調製したストレプトゾトシン(STZ,50mg/kg,Sigma-Aldrich)の溶液を尾静脈に1回注射することによって糖尿病にした。対照ラットにはクエン酸緩衝液を投与した。空腹時血糖値を1週間後に測定し、値が400mg/dlを超えるラットを糖尿病と見なした。
【0204】
STZ注射の89週間後、ラットをペントバルビタール麻酔下で経胸壁心エコー検査とドップラー評価に付した。米国心エコー図学会ガイドライン(Lang RM et al. Eur J Echocardiography 2006; 7:79-108)に従って、二次元誘導Mモード記録を用いて、左心室拡張末期径(LVEDD)、左心室収縮末期径(LVESD)、後部(PW)および中隔(SW)拡張期の壁の厚さの短軸測定値を取得した。短縮率は、FS=(LVEDD-LVESD)/LVEDDとして算出した。相対的な壁の厚さは、PWTd+IVSTd/LVEDDとして算出した。
【0205】
僧帽弁流入は、パルスドップラーによって僧帽弁尖の先端における心尖部四腔断層像から測定し、早期および後期充填速度(E、A)および早期充填速度の減速時間(DT)を取得した。減速勾配はE/DT比として算出した。僧帽弁減速指数はDT/E比として算出した。
【0206】
組織ドップラー画像(TDI)は、心尖部四腔断層像から評価して、中隔僧帽弁輪運動、すなわち、ピーク心筋収縮期(s’)および拡張期初期および後期速度(e’およびa’)を記録した。
【0207】
化合物CVie101を、STZ注射ラットに20mg/kgの用量で経口投与し、1時間後に心エコー検査パラメータを測定した。20mg/kg(os)でのジゴキシンを、対照薬物として使用した。
【0208】
統計学的解析
全ての動物実験:データは、平均±SDとして報告する。統計学的解析は、スチューデントt検定(対応のあるt検定)によって行った。
【0209】
単離した筋細胞実験:
データは、平均±SEとして報告する。複数の平均値を含む曲線は、反復測定のために二元配置分散分析によって比較した。全体的な曲線の急勾配における薬物誘発性の変化は、「因子X群」相互作用の有意性に従って定義した。Ca
2+減衰の単指数関数的適合が不十分なため、CaTデータが報告されているいくつかの細胞では、τ
減衰を推定しなかった。
図1で示される試料サイズ(N)(CVie101についてN≧13、CVie102についてN≧11)は、全てのパラメータが利用可能であった細胞を示す。平均APDにおけるSTV依存性は、線形回帰によって定量化した。
P<0.05は、全ての比較で統計学的に有意であると見なした。
【0210】
生物学的結果
-インビトロスクリーニング
犬の腎臓のNa、K-ATPアーゼ活性の阻害
試験化合物は、表1に示すように、μMで表されるIC
50値で精製されたNa、K-ATPアーゼの酵素活性を阻害した。前記化合物を、対照薬物のジゴキシンおよびジゴキシゲニンと比較した(表1)。
表1.犬の腎臓のNa、K-ATPアーゼの阻害
【表1】
【0211】
正常な犬の心臓由来のSRミクロソームにおけるSERCA2aのATPアーゼ活性
化合物を、1~100nMの濃度範囲でSERCA2a活性について試験した。通常の犬における測定について、化合物の効果は、化合物の非存在下で行った対照試料のSERCA2aのVmax活性の増加%として表す(表2)。データは、平均±SD、n=実験数、*少なくともp<0.05である。
【0212】
ナノモル濃度において、試験化合物は、正常な犬の心臓調製物のSERCA2aのVmax活性を刺激した(表2)。これらの結果により、試験化合物の変弛緩作用が示される。これらとは異なり、ジゴキシンは、SERCA2a活性を刺激できなかった(Rocchetti M et al. J Pharmacol Exp Ther 2005;313:207-215; Ferrandi M et al. Br J Pharmacol 2013;169:1849-61)。
表2.正常な犬の心臓由来SRミクロソームにおけるSERCA2aATPアーゼ活性
【表2】
【0213】
-無傷の心筋細胞における実験
モルモットから単離した心筋細胞における機能評価
SR Ca
2+
取り込み機能(「負荷プロトコル」)
CVie101(100nM)は、SR再負荷中にCa
2+過渡(CaT)速度を徐々に増加させ(
図1A)、CaT振幅が閾値に達すると(5番目のパルスで)、各パルス内の細胞質内Ca
2+減衰の時定数を減少させた(τ
減衰、
図1B)。
【0214】
同様に、CVie102(100nM)は、このプロトコル中にCaT増加率を徐々に増加させ(
図1C)、各パルス内のτ
減衰を減少させた(
図1D)。
【0215】
これらの結果をまとめると、CVie101およびCVie102は、SRによるCa2+の取り込みを大幅に増加させたことが示される。適用された実験条件下において、SRのCa2+取り込みは、SERCA2aによって完全に裏付けられ、これらの結果により、前記2つの薬物によるSERCA2a活性化に一致する。
【0216】
活動電位測定
活動電位(AP)曲線は、膜イオンチャネルの統合された機能の推定値を提供し、その変化は、化合物の望ましくない効果を生じる可能性がある補助的な作用を明らかにしうる。この目的のために、APパラメータにおける薬物の効果を評価した。SERCA2a(100nM)に顕著な効果を生じる同一の濃度において、CVie101は、拡張膜電位(E
diast,
図2A)、最大脱分極速度(dV/dt
max,
図2B)、定常状態における活動電位持続(APD再分極の90%、50%、20%)およびその周期長依存性(
図2C)に影響を与えなかった。周期長の段階的変化後のAPD適応の時定数(τ)は、薬剤によって短縮されなかった(
図2D)。短期APD変動(STV)を、4つの異なる周波数(0.5-1-2-4Hz)(
図3A、B、C、D)で別々に測定し、または一緒にプールして測定したが(
図3E)、CVie101によって影響を受けなかった。これらの結果により、CVie101は、筋細胞の電気的活性に影響を与えなかったことが示される。
【0217】
Cvie102は、CVie101に構造的に関連する化合物であり、不活性であることが予想されたため、CVie102はAPパラメータについて試験しなかった。
【0218】
以上より、AP分析のために用いたマルチパラメトリックな方法により、心臓の電気的活性についてCVie101の望ましくない薬物の効果が存在しないことが明確に示される。同一のことがCVie102にも当てはまる。よって、これら2つの分子は、SERCA2a調節(陽性変弛緩薬)選択的化合物である。
【0219】
-インビボ実験
ラットにおけるバイオアベイラビリティ
CVie101のバイオアベイラビリティは、中国のSundia MediTech Serviceによる1mg/kgの静脈内注射(i.v.)および10mg/kgの経口投与(os)後のラットで測定した。試験化合物CVie101の血漿中濃度を、0時間から24時間の間隔で測定し、LC-MS法で検出した(
図4)。F値(%)を算出すると、66.3%であった(表3)。
表3.ラットにおけるCVie101のバイオアベイラビリティのパラメータ
【表3】
【0220】
マウスにおける急性毒性
試験化合物CVie101の急性毒性は、マウス(アルビノスミスCD-1,体重30g)で測定した。CVie101は、50%の死亡率を引き起こす用量を特定するために、用量を増加させながら経口投与または静脈内注射した。死亡の場合、投与後30分以内に判断し、生存の場合、24時間後に判断した。
【0221】
CVie101の急性毒性の結果を表4に報告する。比較として、対照化合物ジゴキシンについての急性毒性もまた、文献データ(www.lookchem.com、ジゴキシン静脈内注射についての参考文献: Afifi AM, Ammar EM. Pharmacological Research Communications. Vol. 6, Pg. 417, 1974; ジゴキシン経口投与についての参考文献: Archives Internationales de Pharmacodynamie et de Therapie. Vol. 153, Pg. 436, 1965)に従って含まれる(表4)。
表4.マウスにおけるジゴキシンおよびCVie101の急性毒性(LD
50)
【表4】
【0222】
モルモットにおける変力および致死用量
血行動態パラメータは、ジゴキシンを0.016mg/kg/分、CVie101を0.2および0.5mg/kg/分、およびCVie102を0.3mg/kg/分のゆっくりした静脈内投与の90分後にモルモットで測定した。表5はパラメータをまとめたものである。CVie101は、、累積用量1.6および2.34mg/kgで80%(ED80)に達したdP/dtmaxの増加、ならびに3.73および7.49mg/kgの用量(EDmax)でそれぞれ基準値より163.6%および278.7%のピークとなった。CVie102は、累積用量3.8mg/kgでED80であるdP/dtmaxの増加、ならびに8.6mg/kgの用量(EDmax)で基準値を超えた138.3%のピークとなった。ジゴキシンは、0.96mg/kgの累積用量(EDmax)でえ128%の増加および0.69mg/kgのED80を生じた。CVie101およびCVie102の安全性プロファイルは、致死用量(LD)、死亡/治療動物数、およびLD/ED80比の点でジゴキシンよりも一貫して良好であり得た(表5)。
表5.モルモットにおけるジゴキシン、CVie101およびCVie102の血行動態
【表5】
【0223】
ストレプトゾトシン糖尿病ラットの血行動態(心エコー検査2M-ドップラー-組織ドップラー)
表6は、STZ糖尿病ラットの血行動態パラメータにおける1時間の経口治療前後のベヒクル(生理食塩水)、CVie101およびジゴキシン(両方20mg/kg)で比較したものである。データは、平均±SDであり、アスタリスクの付いた値は、少なくともp<0.05で統計学的に有意である。
【0224】
データは、ストレプトゾトシン糖尿病ラットなどの拡張機能障害を特徴とする動物モデルにおいて、CVie101が、心拍数を全く変化させず、E/e’比を大幅に低下し、SVの増加を伴うe’の増加を伴い、拡張機能を改善することを示す(表6)。逆に、ジゴキシンは、反対の効果を誘発した;すなわち、E/e’比を増加させ、心拍数を増加させ、そして一回拍出量に影響を与えなかった。STZラットの心機能障害におけるCVie101とジゴキシンの異なる効果は、CVie101のSERCA2a刺激活性と一致しており、心臓の弛緩の抑制を修正することにより、収縮に利用できる血液量を増加させ、その結果、SVはCVie101によって生成されるが、Digoxinによっては生成されない。
表6.STZ糖尿病ラットのジゴキシンおよびCVie101経口治療後の血行動態パラメータ
【表6】
凡例:FS%:短縮率(収縮機能);E m/s:僧帽弁流入の初期充填速度;A m/s:僧帽弁流入の後期充填速度;E/A:LV機能の指標;DT ms:E波の減速時間;DT/E s
2/m:僧帽弁減速指数;E/DT m/s2:減速勾配;s’cm/s TDI:収縮速度;e’cm/s TDI:初期弛緩速度;a’cm/s TDI:後期弛緩速度;e’/a’:拡張機能障害の有病率の指標;E/e’:左心室充満圧の指標;CO ml/分:心拍出量;HR 拍動/分:心拍数;SV ml/拍動:1回拍出量。
【0225】
受容体結合アッセイ
受容体パネルへの放射性リガンドの結合は、公開された手順に従って、適切な対照標準物を用いて粗膜調製物においてEurofinsによって行った(Eurofins,CVie101化合物コードPT番号1207859,実験番号AB76416,引用番号68407-1,台湾のCvie Therapeutics Limited(R.OC.),2017年3月5日付け)。CVie101を10μMの濃度で試験した。顕著な反応(≧50%)が認められたラットの部位2(カタログ番号279510)のナトリウムチャネルを除き、有意な結合は記録されなかった(表7)。
表7.CVie101の受容体結合アッセイ
【表7】
注:バッチは同一アッセイで同時に試験した化合物を表す;bov=ウシ;ham=ハムスター;hum=人間