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特許7421828風力発電機の監視システム、風力発電設備及び風力発電機の監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】風力発電機の監視システム、風力発電設備及び風力発電機の監視方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 17/00 20160101AFI20240118BHJP
   F03D 80/30 20160101ALI20240118BHJP
【FI】
F03D17/00
F03D80/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023033192
(22)【出願日】2023-03-03
【審査請求日】2023-03-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 WIND JOURNAL vol.03 2022 AUTUMN、第28~29頁、2022年8月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520332427
【氏名又は名称】有限会社讃宝住設
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 武
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0363975(US,A1)
【文献】特開平09-218100(JP,A)
【文献】特開2023-083021(JP,A)
【文献】特開2022-041822(JP,A)
【文献】特開2020-118141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/00-80/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電機を含む周辺画像を撮影する赤外線カメラと、該赤外線カメラが撮影した周辺画像に基づいて温度を推定する処理部を有する解析装置と、を備える風力発電機の監視システムであって、
前記処理部は、
周辺画像に基づいて推定される前記風力発電機において落雷が発生したと推定される落雷推定位置の推定温度と前記風力発電機に落雷が発生したことを判断する基準温度とを比較して、推定温度が基準温度よりも高い場合に前記風力発電機への落雷が生じたと判断する
ことを特徴とする風力発電機の監視システム。
【請求項2】
前記処理部は、
前記基準温度を、前記落雷推定位置の周囲の温度に対して所定の温度以上の温度に設定し、
前記推定温度が前記基準温度以上となったときに前記風力発電機に落雷が発生したと判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の風力発電機の監視システム。
【請求項3】
前記処理部は、
前記風力発電機に落雷が発生した際に、落雷の発生したことを通知する落雷情報を発報する機能を有している
ことを特徴とする請求項2に記載の風力発電機の監視システム。
【請求項4】
前記基準温度は、
前記落雷推定位置の周囲の温度より30度以上高い温度である、
ことを特徴とする請求項2に記載の風力発電機の監視システム。
【請求項5】
前記解析装置は、
前記赤外線カメラが撮影した周辺画像に関する画像情報を記憶する記憶部と、
前記画像情報に基づいて、温度分布画像を生成する画像生成機能と、
該画像生成機能によって生成された画像を表示する表示部と、をさらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載の風力発電機の監視システム。
【請求項6】
前記処理部は、
前記推定温度が前記基準温度以上となったときに、前記風力発電機に落雷が発生したことを通知する落雷情報を発報する機能と、
該落雷情報を前記表示部に送信する機能と、を有しており、
前記表示部は、
前記落雷情報に基づいてアラートを画像表示する機能を有している
ことを特徴とする請求項5に記載の風力発電機の監視システム。
【請求項7】
風力発電機と、請求項1から6のいずれかに記載の風力発電機の監視システムと、を含む
ことを特徴とする風力発電設備。
【請求項8】
赤外線カメラが撮影した風力発電機を含む周辺画像に基づいて風力発電機の温度を推定するステップと、
推定された推定温度と前記風力発電機に落雷が発生したことを判断する基準温度とを比較して前記風力発電機への落雷を判断するステップと、を備える
ことを特徴とする風力発電機の監視方法。
【請求項9】
前記推定温度が前記基準温度以上となったときに前記風力発電機に落雷が発生したことを通知するステップと、をさらに備える
ことを特徴とする請求項8に記載の風力発電機の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電機の監視システム、風力発電設備及び風力発電機の監視方法に関する。さらに詳しくは、風力発電機に落雷が発生したことを検知する風力発電機の監視システム、風力発電設備及び風力発電機の監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電は、風の運動エネルギーを風車の回転エネルギーに変換し、その回転エネルギーを発電機によって電気エネルギーに変換する発電システムである。風の運動エネルギーは、風を受ける面積に比例し、また風速の3乗に比例することから、風力発電機は、大きい風車で風の強い上空において、効率良く風を受けることが重要となる。
【0003】
一方、風力発電機の大型化、高度化に伴って、風力発電機が落雷を受ける危険性が高まることになる。風力発電機が落雷を受けて稼働停止となる事例においては、落雷による被害が判明する前に、繰り返し落雷を受けて損傷が拡大していることがある。このため、例えば特許文献1には、可視光から近赤外線までを検出するカメラ2台を用いて、1台のカメラからは雷を撮影して雷の軌跡を求め、もう1台のカメラからは風車を撮影して落雷があっとときの風車(特に回転するブレード)の位置を推定することにより、風力発電機に落雷が発生したことを検知する雷検知システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-178068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の雷検知システムは、2台のカメラを用いるものであり、また風車の環境条件(風の向き、風の強さなど)によっては、ブレードの位置を推定することが困難な場合がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、風力発電機に落雷が発生したことを簡便に、かつ確実に検出する風力発電機の監視システム、風力発電設備及び風力発電機の監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の風力発電機の監視システムは、風力発電機を監視する赤外線カメラと、赤外線カメラが撮影した画像に基づいて温度を推定する処理部を有する解析装置と、を備える風力発電機の監視システムであって、処理部は、画像に基づいて推定される風力発電機において落雷が発生したと推定される落雷推定位置の温度と風力発電機に落雷が発生したことを判断する基準温度とを比較して、風力発電機への落雷を判断することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、1台のカメラだけでも風力発電機に落雷が発生したことを検出することができるため、簡便といえる。また、風力発電機に落雷が発生した場合、風力発電機の雷撃点は落雷による温度変化が見られるため、処理部が、赤外線カメラが撮影した画像に基づく落雷推定位置の推定温度と、風力発電機に落雷が発生したことを判断する基準温度とを比較することで、風力発電機に落雷が発生したことを確実に検出することができる。
【0009】
また、第1発明の風力発電機の監視システムは、処理部が、基準温度を、落雷推定位置の周囲の温度に対して所定の温度以上の温度に設定し、推定温度が基準温度以上となったときに風力発電機に落雷が発生したと判断するようにすることができる。この構成によれば、風力発電機の雷撃点は落雷により加熱されて温度が上昇するため、処理部が、推定温度と、落雷推定位置の周囲の温度に対して所定の温度以上に設定された基準温度とを比較することで、風力発電機に落雷が発生したことを確実に検出することができる。
【0010】
さらに、第1発明の風力発電機の監視システムは、処理部が、風力発電機に落雷が発生した際に、落雷の発生したことを通知する落雷情報を発報する機能を有するようにすることができる。この構成によれば、風力発電機に落雷が発生したことをオペレーターに確実に知らせることができる。
【0011】
そして、第1発明の風力発電機の監視システムは、基準温度を、落雷推定位置の周囲の温度より30度以上高い温度となるようにすることができる。この構成によれば、雷撃点は落雷により加熱されて落雷推定位置の周囲の温度より30度以上高くなるため、風力発電機に落雷が発生したことを確実に検出することができる。
【0012】
また、第1発明の風力発電機の監視システムは、解析装置が、赤外線カメラが撮影した画像に関する画像情報を記憶する記憶部と、画像情報に基づいて、温度分布画像を生成する画像生成機能と、画像生成機能によって生成された画像を表示する表示部と、をさらに有するようにすることができる。この構成によれば、オペレーターが、温度分布画像に基づき、風力発電機への落雷の様子を視覚的に確認することができるため、風力発電機に落雷が発生したことを確実に検知することができる。また、風力発電機の温度分布の状況から、風力発電機の雷撃点における損傷を検査することができる。
【0013】
さらに、第1発明の風力発電機の監視システムは、処理部が、推定温度が基準温度以上となったときに、風力発電機に落雷が発生したことを通知する落雷情報を発報する機能と、落雷情報を表示部に送信する機能とを有するようにし、表示部が、落雷情報に基づいてアラートを画像表示する機能を有するようにすることができる。この構成によれば、オペレーターが、風力発電機に落雷が発生したことを確実に検知することができる。
【0014】
第2発明の風力発電設備は、風力発電機と、第1発明の風力発電機の監視システムと、を含む、ことを特徴とする。
【0015】
第3発明の風力発電機の監視方法は、風力発電機を監視する赤外線カメラが撮影した画像に基づいて風力発電機の温度を推定するステップと、推定された推定温度と風力発電機に落雷が発生したことを判断する基準温度とを比較して風力発電機への落雷を判断するステップと、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、第3発明の風力発電機の監視方法は、推定温度が基準温度以上となったときに風力発電機に落雷が発生したことを通知するステップと、をさらに備えるようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、風力発電機に落雷が発生したことを簡便に、かつ確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の風力発電設備の概略図である。
図2】本実施形態の風力発電機1の概略図である。
図3】本実施形態の風力発電機1の監視システム2の概略図である。
図4】本実施形態の解析装置21によって得られる落雷画像である。
図5】本実施形態の風力発電機1の監視方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本実施形態の風力発電設備について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の風力発電設備は、図1に示すとおり、風力発電機1と、風力発電機1の監視システム2とを含む。
【0020】
<風力発電機>
風力発電機1は、図2に示すとおり、風を受ける風車100と、風車100の回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機11と、を備える。
【0021】
<風車>
図2で示すように、風車100は、ロータと、ナセル101と、タワー102と、を備える。ロータは、風を受ける3枚のブレード1000と、3枚のブレード1000の付け根を連結するハブ1001と、ハブ1001に連結されてブレード1000とともに回転するロータ軸(図示せず)と、ロータの回転数を発電機11に必要な回転数に増速する増速機(図示せず)と、増速された回転を発電機11に伝達する主軸(図示せず)と、から構成される。ナセル101は、増速機、主軸、発電機11を内部に収納する。タワー102は、上部にロータとナセル101が組み上げられて、ロータ及びナセル101を支える。タワー102内には、電力ケーブル、メンテンナンス用の昇降機やはしごなどが設置される。
【0022】
なお、図2では、回転軸が水平であるアップウィンド方式のプロペラ式風車を風車100に採用した場合を例示しているが、本実施形態の風力発電設備に採用される風車はとくに限定されない。風車は、回転軸の方向の点から、水平軸風車や、垂直軸風車などがあるが、いずれの風車も本実施形態の風力発電設備に採用される風車として採用することができる。また、風車は作動原理の点から、翼の揚力を利用して高速回転を得る揚力形や、風が押す力で低速回転する抗力形の風車があるが、本実施形態の風力発電設備に採用される風車の作動原理はとくに限定されない。なお、風車を大型化するのであれば、水平軸風車で揚力形であるプロペラ式が好ましい。
【0023】
また、水平軸風車で揚力形であるプロペラ式風車を採用する場合、風車はアップウィンド方式とダウンウィンド方式のいずれを採用してもよい。アップウィンド方式とはロータの回転面が風上側に位置するものであり、ダウンウィンド方式とはロータの回転面が風下側に位置するものである。風車の大型化の観点からすれば、タワーによる風の乱れの影響を受けにくい、アップウィンド方式が好ましい。アップウィンド方式では、ロータの回転面を風上に向けるためのヨー駆動装置や、出力を制御するピッチ駆動装置をナセル101に備えさせることによって、安定した出力が得られるようにすることができる。
【0024】
ロータを構成するブレード1000の材料はとくに限定されないが、例えば、鉄鋼、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチックが挙げられる。ナセル101の材料もとくに限定されないが、例えば、鉄鋼、アルミニウム、銅が挙げられる。タワー102の材料の材料はとくに限定されないが、鉄鋼、コンクリートが挙げられる。
【0025】
上記例では、風車100が3枚のブレード1000を有する場合を示しているが、ブレード1000の数は限定されるものではない。プロペラ式の風車100であれば、ロータの安定性の観点から、ブレード1000の枚数は3枚が好ましい。
【0026】
<発電機>
発電機11としては、ロータの回転を電力に変換できる機構を有する種々の発電機を採用することができる。例えば、誘導発電機、同期発電機、増速機なしでロータに直接連結されるダイレクトドライブ発電機などが挙げられる。
【0027】
<風力発電機の監視システム>
風力発電機1の監視システム2は、図3に示すとおり、風力発電機1を監視し、風力発電機1とその周囲(空や周辺の建物や山など)を含む周辺画像を撮影することができる赤外線カメラ20と、赤外線カメラ20が撮影した画像を解析する解析装置21と、を備える。
【0028】
<赤外線カメラ>
赤外線カメラ20は、落雷を画像として撮影できる機能を有するものであり、撮影した画像に関する情報(以下画像情報という)を解析装置21に供給する機能を有するものである。
【0029】
この赤外線カメラ20は、赤外線レンズ200と、赤外線検出器201と、増幅器(図示せず)と、A/D変換器(図示せず)と、を有する。赤外線は、波長が0.78~2.5μmの近赤外線と、波長が2.5~8μmの中赤外線と、波長が8~100μmの遠赤外線からなる。本実施形態の風力発電設備では、風力発電機1に落雷が発生したこと画像として検出することが必要になるため、赤外線カメラ20は、遠赤外線の感度領域を有するものが好ましい。
【0030】
赤外線レンズ200は、受光した赤外線を結像するものであって、赤外線カメラ20の感度波長域に合わせて選定される。赤外線レンズ200の材料としては、近赤外線では、例えば石英ガラス、中・遠赤外線では、例えばゲルマニウム、シリコン、カルコゲナイドが挙げられる。
【0031】
赤外線検出器201は、受光した赤外線をアナログの電気信号に変換するものである。赤外線検出器201は、赤外線カメラ20の感度波長領域に合わせて選定され、量子型素子と熱型素子が挙げられる。量子型素子としては、例えば、感度波長領域が0.6~1.7μmである受光面材料がInGaAsのものや、感度波長領域が1.5~5.1μmである受光面材料がInSbのものが挙げられる。熱型素子としては、例えば、感度波長領域が1~18μmのサーモパイルアレイ素子や、感度波長領域が3~18μmのマイクロボロメータ素子が挙げられる。
【0032】
増幅器は、赤外線から変換されたアナログの電気信号を増幅するものである。A/D変換器は、増幅されたアナログの電気信号をデジタルの電気信号に変換するものである。
【0033】
上述した画像情報には、増幅器が増幅したデジタルの電気信号が含まれる。もちろん、デジタルの電気信号に加えて、赤外線検出器201が変換したアナログの電気信号が画像情報に含まれていてもよい。また、増幅器を有しない場合や増幅器を有している場合でも、デジタルの電気信号に代えて、赤外線検出器201が変換したアナログの電気信号が画像情報に含まれるようにしてもよい。また、赤外線カメラ20が、撮影した画像に基づいて画像内に撮影されている対象物(つまり撮影されている位置)の温度を推定(または算出する)取得する温度情報取得機能等を有する場合には、画像情報には推定(または算出する)した温度に関する情報等が含まれていてもよい。
【0034】
<解析装置>
解析装置21は、処理部210と、記憶部211と、表示部212と、を有する。解析装置21は、例えば、風力発電機1から離れた監視施設に設置され、遠隔で風力発電機1を監視することができる。
【0035】
処理部210は、風力発電機1に落雷が発生したか否かを判断し、風力発電機1に落雷が発生した場合に落雷の情報を通知する機能を有するものである。
【0036】
この処理部210は、画像情報に基づいて風力発電機1に落雷があったか否かを判断する落雷判断機能を有している。具体的には、処理部210は、画像情報に基づいて、風力発電機1において落雷が発生したと推定される位置(以下、落雷推定位置という場合がある)を推定し、推定された落雷推定位置の温度である推定温度を基準温度と比較して、推定温度が基準温度以上の場合に落雷が発生したと判断する落雷判断機能を有している。
【0037】
この落雷判断機能は、落雷を判断する機能の前提となる、落雷推定位置を推定する落雷位置推定機能と、基準温度を決定する基準温度決定機能と、を有している。
【0038】
落雷位置推定機能は、画像情報から得られる風力発電機1の画像と、画像情報から得られる落雷画像とを重ね合わせることによって落雷推定位置を推定することができる。つまり、落雷の軌跡と風力発電機1の画像とを重ねて両者が重なる位置から落雷位置推定機能は落雷推定位置を推定することができる。例えば、落雷画像としては図5に示されるような画像を得ることができるので、この落雷画像と、この落雷画像が得られたタイミングにおける風力発電機1の画像を重ねることによって、落雷推定位置を推定することができる。
【0039】
なお、落雷位置推定機能が使用する風力発電機1の画像は、赤外線カメラ20の画像だけを利用してもよいし、赤外線カメラ20の画像に加えてまたは赤外線カメラ20の画像に代えて赤外線カメラ20と同じ位置を撮影するカメラ(可視光カメラ)の画像を利用してもよい。
【0040】
基準温度決定機能は、落雷推定位置の周囲の温度に基づいて、落雷の有無を判断する基準となる基準温度を決定する機能を有している。具体的には、基準温度決定機能は、落雷位置推定機能によって落雷推定位置が決定されると、画像情報に基づいて、落雷推定位置の周囲の温度(つまり、落雷推定位置の周囲の風力発電機1の温度)を推定する。そして、推定される周囲の温度から平均温度を求めて、この平均温度より高い温度(例えば平均温度より30度以上高い温度)を基準温度とする機能を有している。
【0041】
なお、基準温度を決定する基準となる周囲の温度は、上述したように落雷推定位置の周囲の風力発電機1の温度の平均温度を採用することができるが、必ずしもこのような平均温度に限られない。例えば、落雷推定位置から所定の位置だけ離れた数点の温度の平均値としてもよいし、落雷推定位置から所定の位置だけ離れた一点や数点の温度のうち、いずれか一つの温度(例えば、最も高い温度や最も低い温度、中央値となる温度等)を基準温度を決定する基準となる周囲の温度としてもよい。
【0042】
また、落雷推定位置の周囲の平均温度を算出する際に使用する周囲の範囲、つまり、平均温度を算出する周囲の面積や、落雷推定位置からの距離はとくに限定されない。例えば、落雷推定位置を中心とする半径500mm以上~5000mm以下の範囲の温度を周囲の平均温度を算出する領域とすることができる。
【0043】
そして、落雷判断機能は、基準温度決定機能が基準温度を決定すると、この基準温度と落雷推定位置の推定温度とを比較して、推定温度が基準温度以上となったときに、落雷判断機能は風力発電機1に落雷が発生したと判断する。
【0044】
落雷判断機能が上記の方法で落雷を判断ができる理由は以下のとおりである。
まず、雷は、雷が通過する経路の周囲の温度(空気や蒸気、雨の水滴など)の温度を急激に高くするので、赤外線カメラ20によって風力発電機1やその周囲の画像を撮影すれば、雷の軌跡を把握できる。すると、雷の軌跡の画像と、雷の軌跡を撮影したタイミングでの風力発電機1の画像(または落雷が発生していない状態での風力発電機1の画像)とを重ね合わせることによって、風力発電機1に落雷が発生した可能性のある個所を推定することができる。一方、風力発電機1に落雷が発生した場合、風力発電機1において落雷が発生した箇所(例えばロータのブレード1000やナセル101等)は落雷によって加熱されるため、落雷箇所はそれ以外の箇所に比べて大幅に温度が上昇する。したがって、画像情報と画像情報から得られる温度情報を利用すれば、風力発電機1において風力発電機1に落雷が発生したか、また、風力発電機1に落雷が発生した場合には落雷推定位置の推定が可能になる。つまり、落雷推定位置の推定温度が基準温度以上となると、風力発電機1における落雷推定位置に落雷が発生したと判断することができる。
【0045】
また、処理部210は、落雷推定位置の推定温度が基準温度以上となり、落雷判断機能が風力発電機1に落雷が発生したと判断した場合には、落雷が発生したことを作業者や管理者、その他の外部の者に通知する落雷発報機能を有している。落雷発報機能が落雷の発生を通知する方法はとくに限定されない。例えば、落雷判断機能が落雷を判断すると、警報機を鳴らして落雷の発生を作業者や管理者に通報したり、落雷発生の情報をメールやSNSなどを利用して業者や管理者に連絡する方法などを採用したりすることができる。
【0046】
解析装置21は、上記処理部210に加えて、記憶部211を有している。この記憶部211は、赤外線カメラ20から供給される画像情報を記憶する機能を有している。また、記憶部211は、風力発電機1に落雷が発生したことの基準となる基準温度や基準温度を算出する際に採用した周囲の温度、推定した落雷推定位置や推定温度、また、落雷が発生した時刻などの情報を記憶することができる。
【0047】
表示部212は、赤外線カメラ20から供給される画像情報に基づいて画像を生成する画像生成機能を有している。また、表示部212は、処理部210の落雷発報機能からの発報(落雷情報)を受けて、アラームを画像表示することができる。これにより、例えば監視施設のオペレーターが、風力発電機1に落雷が発生したことを視覚的に検知することができる。この場合、温度分布画像と共にアラームを画像表示すれば、落雷の状況を管理者等が把握しやすくなるし、アラームとともに落雷が発生した時刻前後の温度分布画像とを表示すれば、管理者等が落雷をより認識しやすくなる。
【0048】
また、記憶部211と表示部212を設ければ、風力発電機1に落雷が発生したことを検出した後に、例えば監視施設のオペレーターが風力発電機1に落雷が発生したことを作業者等が把握しやすくなる。つまり、記憶部211に記憶されている画像情報に基づき、風力発電機1への落雷の様子を表示部212により視覚的に確認することができるため、風力発電機1に落雷が発生したことを作業者等が確実に検知することができる。また、風力発電機1の温度分布の状況から、風力発電機1の雷撃点に損傷が発生しているか否かを推定することができる。すると、落雷に起因する損傷が大きいと判断した場合には、落雷個所を検査を迅速に実施することができ、迅速に損傷を修理することも可能となる。
【0049】
<風力発電機の監視方法>
次に、本実施形態の風力発電機1の監視方法について、図面を参照しながら説明する。
【0050】
図5は、本実施形態の風力発電機1の監視方法を示すフローチャートである。図5に示すとおり、まず、赤外線カメラ20で風力発電機1を監視する(ステップS1)。なお、他のカメラを使用する場合には、他のカメラでの監視も同時に行う。
【0051】
そして、処理部210において、赤外線カメラ20が撮影した画像に基づいて風力発電機1の温度を推定する(ステップS2)。
【0052】
次に、表示部212において雷の軌跡(つまり雷と判断できる高温領域尾存在)が把握できるかどうか判断する(ステップS3)。雷の軌跡が把握出来なかった場合(ステップS3のNO)、赤外線カメラ20による風力発電機1の監視に戻る(ステップS1)。雷の軌跡が把握出来た場合(ステップS3のYES)、落雷推定位置を推定する(ステップS4)。
【0053】
次いで、落雷推定位置の周囲の温度に基づいて、基準温度を設定する。例えば、落雷推定位置の周囲の平均温度より30度以上高い温度を基準温度に設定する(ステップS5)。
【0054】
そして、処理部210において、落雷推定位置における推定温度と基準温度とを比較する(ステップS6)。推定温度が基準温度より低い場合(ステップS6のNO)、赤外線カメラ20による風力発電機1の監視に戻る(ステップS1)。推定温度が基準温度以上となった場合(ステップS6のYES)、風力発電機1に落雷が発生したと判断する(ステップS7)。最後に、表示部212にアラームを表示して、風力発電機1に落雷が発生したことを通知する(ステップS8)。通知が終わると再び、赤外線カメラ20で風力発電機1を監視する(ステップS1)。
【0055】
以上、本実施形態の風力発電設備及び風力発電機1の監視方法について説明したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、風力発電機1の監視システム2においてはさらに、赤外線カメラ20の撮影領域(つまり赤外線カメラ20の姿勢や位置等)を固定してもよいし、赤外線カメラ20の向きを変更できるようにしてもよい。例えば、赤外線カメラ20の姿勢を調整する雲台を備えさせることができる。かかる雲台を設ければ、赤外線カメラ20が撮影する方向を、例えば、水平方向や垂直方向、斜め上方、斜め下方に変更することが可能になる。これによれば、処理部210からの信号に基づき、赤外線カメラ20の向きを変動するブレード1000に合わせて、風力発電機1を監視することができる。なお、他のカメラでの監視も同時に行う場合には、他のカメラも雲台に設置して、赤外線カメラ20と同じ位置を他のカメラが撮影するようにする。
【0056】
また、本実施形態の風力発電設備においては、一台の風力発電機1に一つの風力発電機1の監視システム2を設ける構成としたが、例えば、複数台の風力発電機1と、風力発電機1をそれぞれ監視する複数台の赤外線カメラ20(および/または複数台の他のカメラ)とから構成することができ、この場合、解析装置21を複数台備える必要はなく、1台に集約することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の風力発電機の監視システム、風力発電設備及び風力発電機の監視方法は、アクセスやメンテナンス作業が困難な洋上ウィンドファームに適している。
【符号の説明】
【0058】
1 風力発電機
2 風力発電機の監視システム
20 赤外線カメラ
21 解析装置
210 処理部
211 記憶部
212 表示部
【要約】
【課題】風力発電機に落雷が発生したことを簡便に、かつ確実に検出する風力発電機の監視システム、風力発電設備及び風力発電機の監視方法を提供することを目的とする。
【解決手段】風力発電機1を監視する赤外線カメラ20と、赤外線カメラ20が撮影した画像に基づいて温度を推定する処理部210を有する解析装置21と、を備える風力発電機1の監視システム2であって、処理部210は、画像に基づいて推定される風力発電機1において落雷が発生したと推定される落雷推定位置の推定温度と風力発電機1に落雷が発生したことを判断する基準温度とを比較して、風力発電機1への落雷を判断する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5