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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】防護柵
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
E01F7/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023172799
(22)【出願日】2023-10-04
【審査請求日】2023-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398054845
【氏名又は名称】株式会社プロテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】西田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】山本 満明
(72)【発明者】
【氏名】石井 太一
(72)【発明者】
【氏名】清野 雄貴
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-052359(JP,A)
【文献】特開2011-047245(JP,A)
【文献】登録実用新案第3013220(JP,U)
【文献】特開2014-101699(JP,A)
【文献】特開2005-351047(JP,A)
【文献】特開2010-222936(JP,A)
【文献】特開2017-193857(JP,A)
【文献】実公昭45-025067(JP,Y1)
【文献】特公昭48-003410(JP,B1)
【文献】特開2017-095893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を隔てて支柱の埋設部を設置面に埋設して立設した複数の支柱と、隣り合う支柱の地上部の間に設けた撓み変形量が非常に少ない剛性阻止面と、該剛性阻止面の上位に設けた可撓性を有する塑性阻止面とを備え、前記剛性阻止面および塑性阻止面を通じて崩落土砂、雪崩、落石等の崩落物を捕捉する防護柵であって、
前記剛性阻止面に崩落物の一部の透過を許容する複数の横向きスリットを設けて透過型の剛性阻止面として形成したことを特徴とする、
防護柵。
【請求項2】
前記透過型の剛性阻止面を複数の横梁で構成し、該横梁の側面に連続した帯面を形成したことを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【請求項3】
前記支柱の地上部に連結装置を回動可能に外装し、前記連結装置と前記横梁の端部との間を横向きの支軸で枢支してピン接合としたことを特徴とする、請求項2に記載の防護柵。
【請求項4】
隣り合う支柱の地上部の間に前記複数の横梁を着脱自在に横架したことを特徴とする、請求項2に記載の防護柵。
【請求項5】
前記横梁がコンクリート充填鋼管製であることを特徴とする、請求項2に記載の防護柵。
【請求項6】
前記塑性阻止面がロープ製またはネット製またはロープとネットを組み合わせた防護ネットであることを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は崩落土砂、雪崩、落石等の崩落物を捕捉する防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の支柱と、隣り合う支柱間に横架したロープ製の防護ネットとを具備した崩落土砂用の防護柵が開示されている。
この防護柵は、防護ネットの撓み変形により崩落土砂の衝撃力を吸収しつつ、土砂を捕捉する構造になっている。
【0003】
特許文献2には、防護面の下半部における崩落土砂の捕捉性を高める防護柵が開示されている。
この防護柵は、地上部に帯状を呈するコンクリート製の壁体を設け、支柱の下部をこの壁体に貫通させつつ、地中にも貫入させて支柱を立設し、壁体から上方に突出した支柱の地上部に防護ネットを取り付けた構造になっている。
この防護柵は、防護面の下半部に形成した壁体で以て崩落土砂を受け止めて捕捉する際に、支柱を支持杭として機能させる。
さらに防護面の上半部に形成した防護ネットで以て落石等を捕捉し得るようになっている。
【0004】
特許文献3には、壁体を複数の土塊ブロックで構成することが開示されている。
土塊ブロックは、袋体に土砂等の中詰材を充満させて立方形に製作した土塊物である。
施工方法としては、地面に複数の土塊ブロックを積み上げて壁体を形成した後に、支柱の下部を複数の土塊ブロックを貫通させつつ、地中にも貫入させて支柱を立設し、壁体から上方に突出した支柱の地上部に防護ネットを取り付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-105948号公報
【文献】特開2014-101699号公報
【文献】特開2008-121264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロープ製の防護ネットを具備した防護柵にはつぎのような改善すべき点がある。
<1>崩落土砂等を捕捉する際に、ロープ製の防護ネットが斜面谷側へ向けて大きく撓み変形をする。
そのため、近隣に道路、鉄道、住宅等の保護対象物が存在する場合は、保護対象物から離隔した位置に防護柵を設置しなければならない。
<2>防護ネットの変形範囲を含めた用地の確保が必要となり、用地の取得コストが高くなる。
<3>防護ネットの変形範囲を含めた用地確保が困難な現場では、ロープ製の防護ネットを具備した防護柵の設置が見送られる。
【0007】
壁体を具備した防護柵にはつぎのような改善すべき点がある。
<1>コンクリート製の壁体を構築するためには、重機類を使用しなければならず、施工コストが高くつく。
<2>壁体の設置面に勾配や不均一の傾斜がある現場では、コンクリート製の壁体が設置面の勾配や傾斜に追従できない。
そのため、設置面を平らに整地する必要があるため、壁体の構築に多くの時間と労力を要する。
<3>壁体が遮水機能を有するため、防護柵の裾部に大量の水が溜まる問題と捕捉土砂の排出がし難いといった問題を内包する。
<4>壁体がコンクリート製であるため、受撃によって壁体が亀裂や損傷が生じると、壁体の交換コストが高くつく。
【0008】
本発明の目的は以上の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、受撃時に崩落物の透過を許容しつつ、曲げ変形量が小さな阻止面を形成した防護柵を提供することにある。
さらに本発明の目的は、既述した問題点を解消できる防護柵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、間隔を隔てて支柱の埋設部を設置面に埋設して立設した複数の支柱と、隣り合う支柱の地上部の間に設けた撓み変形量が非常に少ない剛性阻止面と、該剛性阻止面の上位に設けた可撓性を有する塑性阻止面とを備え、前記剛性阻止面および塑性阻止面を通じて崩落土砂、雪崩、落石等の崩落物を捕捉する防護柵であって、前記剛性阻止面に崩落物の一部の透過を許容する複数の横向きスリットを設けて透過型の剛性阻止面として形成したものである。
本発明の他の形態において、前記透過型の剛性阻止面を複数の横梁で構成し、該横梁の側面に連続した帯面を形成してある。
本発明の他の形態において、前記支柱の地上部に連結装置を回動可能に外装し、前記連結装置と前記横梁の端部との間を横向きの支軸で枢支してピン接合としてある。
本発明の他の形態において、隣り合う支柱の地上部の間に前記複数の横梁を着脱自在に横架してもよい。
本発明の他の形態において、前記横梁がコンクリート充填鋼管製である。
本発明の他の形態において、前記塑性阻止面がロープ製またはネット製またはロープとネットを組み合わせた防護ネットである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は少なくとも次の一つの効果を奏する。
<1>隣り合う支柱の地上部の間に複数の横梁を、間隔を隔てて横架することで、受撃時に曲げ変形量が小さな剛性阻止面を形成することができる。
そのため、防護柵の近隣に道路、鉄道、住宅等の保護対象物が存在する現場であっても、保護対象物に近い位置に防護柵を設置することが可能となる。
<2>剛性阻止面が複数の横スリットを有する透過構造を呈するため、受撃時に崩落物が横スリットを透過する際に崩落物の運動エネルギーを効率よく減衰できる。
そのため、透過型の剛性阻止面の荷重負担が軽減されるだけでなく、透過型の剛性阻止面を支持する支柱の荷重負担も軽減することができる。
<3>剛性阻止面の横スリットの開口寸法を選択することで、透過型の剛性阻止面による緩衝性能を調整することができる。
<4>剛性阻止面が透過構造を呈するため、阻止面の上流側に崩落物が堆積しても雨水を下流側に自然排水することができる。
そのため、防護柵に特別な排水処理施設を設ける必要がない。
<5>横梁の端部と支柱との間を、支柱を中心として回動可能で、かつ、ピン接合として、支柱に対して横梁を横方向および上下方向へ向けて回動可能に連結できる。
そのため、防護柵を任意の曲率でカーブさせて設置したり、防護柵の設置面に不均一の勾配や傾斜があっても、設置面の勾配や傾斜の影響を受けずに横梁を設置したりすることができる。
<6>透過型の剛性阻止面を構成する横梁を着脱可能に構成することで、透過型の剛性阻止面の上流側に堆積した崩落土砂等の崩落物を効率よく撤去できるだけでなく、受撃により損傷した横梁のみを新たなものと交換できて補修が容易である。
<7>横梁は作業員が運搬可能であるので、重機類用いずに横梁を人力だけで組み付けて透過型の剛性阻止面を容易に構築することができる。
<8>透過型の剛性阻止面の上位に塑性阻止面を設けると、透過型の剛性阻止面で崩落土砂を効率よく捕捉できると共に、塑性阻止面で以て落石を効率よく捕捉することがたできて、一つの防護柵で以て複数種類の崩落物の捕捉に対応することができる。
<9>透過型の剛性阻止面の設置高さを越えて落石等の崩落物が落下した場合には、透過型の剛性阻止面の上位に設けた塑性阻止面が落石等の捕捉機能を発揮する。

【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一部を省略した本発明の実施例1に係る防護柵の正面図
図2】防護柵を構成する透過型の剛性阻止面の組立図
図3】透過型の剛性阻止面を構成する横梁と連結装置の斜視図
図4】塑性阻止面の説明図で、(A)は横ロープと支柱の連結部の平面図、(B)は横ロープと支柱の連結部の側面図
図5】防護柵の施工方法の説明図
図6】透過型の剛性阻止面および塑性阻止面における受撃作用の説明図
図7】一部を省略した本発明の実施例2に係る防護柵の正面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0013】
[実施例1]
<1>防護柵の概要
本発明に係る防護柵は、雪崩対策用、崩落土砂対策用または落石対策用の防護柵である。
図1に例示した防護柵について説明すると、この防護柵は、所定の間隔を隔てて設置面Gに立設した複数の支柱10と、複数の支柱10間に横架した透過型の剛性阻止面30と、剛性阻止面30の上位に位置し、複数の支柱10間に横架した塑性阻止面40とを具備する。
剛性阻止面30は塑性阻止面40に対して剛性が高く、曲げ変形が生じ難い。
本例では、塑性阻止面40を防護ネットで構成する形態について説明する。
【0014】
<2>支柱
支柱10は中間支柱と端末支柱を含む。
支柱10は設置面Gに埋設する埋設部11と、地表に突出する地上部12とを有する。
埋設部11と地上部12の長さは、設置現場や各阻止面30,40の高さ寸法等に応じて適宜の寸法を選択する。
【0015】
<2.1>支柱の例示
支柱10としては、例えば、鋼管、H鋼、コラム、モルタル充填鋼管等の公知の支柱構造体を使用できる。
本例では、支柱10の断面形が円形を呈する形態について説明する。
【0016】
<2.2>支柱の埋設部
本例では、支柱10の埋設部11を地盤に削孔した建込孔14に建て込み、モルタル等の固結材15を充填する形態を示しているが、支柱10の埋設部11をコンクリート基礎に埋設して立設してもよい。
【0017】
<2.3>支柱の地上部
【0018】
本例では、支柱10の地上部12の下層側に透過型の剛性阻止面30を形成し、透過型の剛性阻止面30の上位であって、地上部12の上層側に塑性阻止面40を形成して形態について説明する。
【0019】
以降の説明に際し、地上部12のうち、剛性阻止面30を取り付ける範囲を下層部12aと定義し、塑性阻止面40を取り付ける範囲を上層部12bと定義して説明する。
【0020】
<2.3.1>支柱の下層部
地上部12の下層部12aは、透過型の剛性阻止面30を設ける部位であり、その外周面は突起物のない平滑面として形成してある。
【0021】
<2.3.2>支柱の上層部
地上部12の上層部12bは、塑性阻止面40を設ける部位であり、その外周面には複数のネット取付要素(例えばブラケット等)が設けてある。
防護ネットの構成部材に応じたネット取付要素は公知であり、上層部12bに公知のネット取付要素を設ける。
【0022】
<3>透過型の剛性阻止面
透過型の剛性阻止面30は、主に崩落土砂を対象とした撓み変形量が非常に少ない高剛性の阻止面であり、阻止面の一部には複数の横向きスリット32が多段的に形成してある。
剛性阻止面30の全体の高さは、予想される崩落土砂の崩落量等に応じて適宜選択する。
【0023】
図2,3を参照して透過型の剛性阻止面30の一例について説明する。
透過型の剛性阻止面30は、所定の間隔を隔てて横列した高剛性の横梁31の集合体で構成する。
本例では、連結装置20を介して横梁31の端部を支柱10の地上部11に対して着脱自在で、且つ上下方向に向けて回動可能に連結する形態について説明する。
【0024】
本例では、隣り合う支柱10,10の内側中央に横梁31を横架する形態について説明するが、横梁31は隣り合う支柱10,10の斜面山側または斜面谷側に横架してもよい。
【0025】
<3.1>連結装置
連結装置20は支柱10と横梁31との間を連結するための連結具である。
図3に例示した連結装置20について説明すると、連結装置20は、支柱10の下層部12aに連結可能な環状のソケット部21と、ソケット部21の外周面に横向きに突設した受筒23とを具備する。
【0026】
<3.1.1>ソケット部
ソケット部21は上下に貫通した連結孔22を有する。連結孔22は、支柱10の地上部12を構成する下層部12aに外装して係留可能な径を有する。
ソケット部21の連結孔22を支柱10の下層部12aに外装可能な寸法にするのは、支柱10を中心として横梁31を横方向に向けて回動自在に連結するためである。
【0027】
ソケット部21は無端構造でもよいが、ソケット部21を複数の分割体で構成し、円弧状を呈する各分割体の両端をボルト等で連結して環状に組み立ててもよい。
ソケット部21を複数の分割体で構成した場合は、先行して立設した支柱10の周面に連結装置20を後付けできる。
【0028】
<3.1.2>受筒
ソケット部21の外周面には、溶接等により横向きの受筒23を突設する。
受筒23は横梁31の端部を回動可能にピン結合するための受材であり、縦向きの板面には支軸25を貫挿するための横長の長孔24が設けてある。
【0029】
本例では、受筒23とソケット部21との高さに高低差を設けて、連結装置20の側面形状を略L字形に形成した形態について説明するが、受筒23とソケット部21との高さを同一寸法に揃えてもよい。
【0030】
本例のように、ソケット部21の高さを受筒23の高さのほぼ1/2にすることで、複数の連結装置20を多段的に積み上げる際に連結装置20の上下の向き交互に変えること、隣り合うスパンにおける横梁31を同一レベルに揃えて横架することができる。
【0031】
連結装置30は既述した例示の形態に限定されず、要は支柱10の地上部12に多段的に取り付けできて、連結装置30を介して隣り合う支柱10の間に20の間に複数の横梁31を着脱可能で、且つ上下に向けて揺動可能に横架できる構造であればよい。
【0032】
<3.2>横梁
横梁31は隣り合う支柱10間(1スパン間)に横架可能な全長を有する曲げ耐力の大きな高剛性の部材である。
横梁31の側面には連続した帯面31aを形成している。帯面31aが各種の崩落物の捕捉面(受撃面)として機能する。
帯面31aの縦幅(高さ)寸法は、崩落物の種類や崩落量等に応じて適宜選択する。
具体的には、斜面の高さ、斜面の勾配、支柱間距離等を基に算出した崩落物による衝撃力に耐え得るように、横梁31の強度や帯面31aの縦幅(高さ)寸法を設計する。
横梁31の端部近くには、横梁31を貫通した横孔33が形成してある。
【0033】
横梁31としては、例えば、H鋼、鋼管、コラム、モルタル充填鋼管等を使用できる。
実用上は、コラム内にH鋼を挿入した後にモルタル等の充填材を充填したモルタル充填鋼管が望ましい。
【0034】
<3.3>連結装置と横梁との間のピン接合
横梁31の端部と連結装置20の間は、受筒23の長穴24と横梁31の横孔33に支軸25を挿通して枢支する。
横梁31の端部と連結装置20との間を支軸35で枢支するのは、連結装置20に対して横梁31を上下方向へ向けた傾倒(回動)を可能にするためである。
【0035】
<3.4>横向きスリット
上下に隣り合う横梁31の間には横向きスリット32を形成する。
横向きスリット32は、排水機能だけでなく、崩落物の緩衝機能を併有する。
横向きスリット32の幅寸法(間隔)は、斜面の勾配角度や崩落物の種類等の現場環境を考慮して適宜選択する。
【0036】
実用上、横向きスリット32の幅寸法は、横梁31の幅寸法(帯面31aの縦幅寸法)の約0.5~2倍程度が好ましい。
横梁31の幅寸法が横梁31の幅寸法の0.5より狭いと、崩落物の透過性が極端に悪く何って緩衝効果が悪化し、横梁31の幅寸法が横梁31の幅寸法の2倍を超えると
崩落物が透過し易くなって緩衝効果が著しく低下する。
【0037】
<4>塑性阻止面
塑性阻止面40は、主に落石を対象とした可撓性を有する阻止面であり、ロープ製の防護ネットにより構成する。
塑性阻止面40の高さは現場の状況に応じて適宜選択する。
【0038】
塑性阻止面40を構成する防護ネットは、隣り合う一対の支柱10の間にスパン単位で横架する形態、または複数スパンに亘って連続して横架する形態を含む。
【0039】
<4.1>塑性阻止面の例示
図1に例示した塑性阻止面40を構成する防護ネットは、複数の支柱10の間に多段的に横架した複数の横ロープ41と、阻止面全面を覆う金網製のネット材45とを具備する。
図4に拡大して示すように、横ロープ41の両端は、例えばボルト式の連結素子42とUボルトセット43を介して支柱10の周面に突設した取付ブラケット13に連結する。
【0040】
防護ネットは本例に限定されず、ワイヤロープまたは金網等のネット材の何れかひとつ、またはワイヤロープとネット材を組み合わせたものでもよい。
さらに防護ネットは、緩衝金具を具備する形態でもよいし、緩衝具を具備しない形態でもよい。
【0041】
[防護柵の構築方法]
つぎに防護柵の構築方法について説明する。
【0042】
<1>支柱の立設
図5を参照して説明すると、設置面Gに建込孔14を削孔した後、立設予定の支柱10の埋設部11を建込孔14に建て込んで立設する。
モルタル等の固結材15は、支柱10の建込前に予め建込孔14に充填しておいてもよいし、支柱10の建込後に充填してもよい。
【0043】
連結装置20が無端構造である場合は、支柱10の埋設部11に予め複数の連結装置20を装着した状態で支柱10を立設する。
必要に応じて、隣り合う支柱10の頭部間に上弦材13を横架する。
【0044】
<2>透過型の剛性阻止面の形成
図1~3を参照して説明すると、支柱10の下層部12aに設けた隣り合う連結装置20,20の間に横梁31を配置し、横梁31の両端部を連結装置20の受筒21に挿し込み、支軸25を介して回動可能に枢支する。
隣り合う支柱10の間に複数の横梁31を積み重ねて横架する際に、上下の横梁31の間に横向きスリット32を形成しながら、透過型の剛性阻止面30を構築する。
【0045】
本発明では、隣り合う支柱10の地上部12の間に複数の横梁31を高さ方向に間隔を隔てて横架することで、透過性の剛性阻止面30を形成することができる。
【0046】
また、横梁31の端部と支柱10との間が連結装置20を介して支柱10を中心として回動自在に連結してあるので、防護柵を構成する複数の横梁31を任意の曲率にカーブさせて設置することができる。
さらに、横梁31の端部と支柱10との連結部を上下方向へ向けて回動可能に枢支してあるため、設置面Gに不均一の勾配や傾斜があっても、設置面Gの勾配や傾斜に追従させて横梁31を設置することができる。
そのため、設置面Gを事前に整地する必要がなくなる。
さらに、横梁31は作業員が運搬可能であることから、重機類用いずに横梁31を人力だけで設置して透過型の剛性阻止面30を容易に構築することができる。
【0047】
<3>塑性阻止面の形成
図1,4を参照して説明すると、支柱10の上層部12bの間に複数の横ロープ41を多段的に横架すると共に、阻止面全面をネット材45で覆って塑性阻止面40を形成する。
必要に応じて、隣り合う横ロープ41の間に公知の間隔保持材44を設置する。
【0048】
<4>その他の防護柵の構築方法
既述したように本例では、先行して支柱10を立設した後に複数の横梁31を後付けして透過型の剛性阻止面30を構築する形態について説明したが、透過型の剛性阻止面30の構築方法はこの形態に限定されるものではなく、支柱10の立設作業と横梁31の横架作業を逆にしてもよい。
【0049】
すなわち、複数の連結装置20を段積みしつつ、隣り合う連結装置20の間に横梁31を横架して透過型の剛性阻止面30を先行して構築する。
先行して段積みした複数の連結装置20に後から支柱10の埋設部11を挿し込んで立設して支柱10と横梁31を一体化する。
【0050】
[防護柵の捕捉機能]
つぎに防護柵の捕捉機能について説明する。
【0051】
1.透過型の剛性阻止面による機能
【0052】
<1>透過型の剛性阻止面による崩落物の捕捉作用
図6を参照して透過型の剛性阻止面30による崩落土砂等の崩落物Wの捕捉作用について説明する。
崩落土砂等の崩落物Wが防護柵へ向けて滑落すると、防護柵の地表部に近い透過型の剛性阻止面30に衝突する。
剛性阻止面30に作用した崩落物Wの衝撃力は、複数の横梁31の強度により支持され、剛性阻止面30の上流側の帯面31aに崩落物Wが捕捉される。
【0053】
<2>透過型の剛性阻止面の変形性
透過型の剛性阻止面30は、曲げ耐力の大きな高剛性の横梁31で構成されている。
そのため、各横梁31の帯面31aに大きな衝撃力が作用しても、横梁31に下流側へ向けた大きな曲げ変形が生じない。
このように本発明では、剛性阻止面30の変形量を小さく抑制できるので、近隣に道路、鉄道、住宅等の保護対象物が存在する場合であっても、保護対象物から過大に離隔して防護柵を設置する必要がなくなる。
【0054】
<3>透過型の剛性阻止面による緩衝作用
透過型の剛性阻止面30には、緩衝機能を有する複数の横向きスリット32が開設してあることから、崩落土砂等の崩落物Wが横向きスリット32を透過する際に運動エネルギーが減衰される。
そのため、透過型の剛性阻止面30を構成する横梁31の荷重負担が軽減されるだけでなく、横梁31を支持する支柱10の荷重負担も軽減される。
【0055】
<4>透過型の剛性阻止面による排水作用
剛性阻止面30が複数の横向きスリット32を具備した透過構造を呈するので、崩落物Wの崩落前においては、横向きスリット32を通じて雨水が流下して防護柵の上流側に水が溜まることがない。
また、透過型の剛性阻止面30の上流側に崩落物Wを捕捉した状態であっても、横向きスリット32を通じて下流側へ向けて自然に排水できるので、防護柵に特別な排水処理を施す必要がない。
【0056】
<5>崩落物の撤去作業
透過型の剛性阻止面30を構成する各横梁31は着脱可能な構造になっているため、支軸25を抜き取ることで、スパン単位で横梁31を簡単に撤去することができる。
そのため、透過型の剛性阻止面30の上流側に堆積した崩落土砂等の崩落物Wを容易に撤去することができる。
【0057】
<6>透過型の剛性阻止面の補修性について
透過型の剛性阻止面30はスパン単位で着脱可能な複数の横梁31で構成されている。
そのため、受撃により、一部の横梁31に変形や損傷が発生した場合は、必要最低限の横梁31を新たなものと交換することで、剛性阻止面30の補修を行うことができる。
【0058】
以上は透過型の剛性阻止面30に崩落土砂等の崩落物W が衝突した形態について説明したが、透過型の剛性阻止面30に落石等の崩落物Wが衝突した場合も既述した捕捉機能を発揮する。
【0059】
2.塑性阻止面による機能
図6に示すように、透過型の剛性阻止面30の設置高さを越えて、落石等の崩落物Wが落下した場合は、防護柵の塑性阻止面40が捕捉機能を発揮する。
塑性阻止面40による落石等の崩落物Wの捕捉作用は、公知であるので詳しい説明を省略する。
【0060】
[実施例2]
<1>他の防護柵
先の実施例1では、防護柵の阻止面を透過型の剛性阻止面30と塑性阻止面40との組み合わせで構成する形態について説明したが、防護柵の阻止面を透過型の剛性阻止面30のみで構成してもよい。
図7に示すように、本例では、支柱10の地上部12の全長に亘って透過型の剛性阻止面30を形成する。
【0061】
<2>本例の効果
本実施例にあっては、防護柵の地上部の全面を透過型の剛性阻止面30で構成することで、同一の防護柵で以て崩落土砂等の崩落物Wだけでなく、落石等の崩落物Wについても効率的に捕捉することができる。
【符号の説明】
【0062】
G・・・・・支持面
10・・・・支柱
11・・・・支柱の埋設部
12・・・・支柱の地上部
12a・・・支柱の上層部
12b・・・支柱の下層部
13・・・・上弦材
14・・・・建込孔
20・・・・連結装置
21・・・・ソケット部
22・・・・連結孔
23・・・・受筒
24・・・・長孔
25・・・・支軸
30・・・・透過型の剛性阻止面
31・・・・横梁
31a・・・帯面
32・・・・横向きスリット
33・・・・横孔
40・・・・塑性阻止面(防護ネット)
41・・・・横ロープ
44・・・・間隔保持材
45・・・・ネット材
【要約】
【課題】受撃時に崩落物の透過を許容しつつ、曲げ変形量が小さな阻止面を形成した防護柵を提供すること。
【解決手段】複数の支柱と隣り合う支柱の地上部の間に設けた阻止面とを備えた防護柵であって、隣り合う支柱の地上部の間に剛性の高い透過型の剛性阻止面を形成し、剛性阻止面で崩落物を捕捉すると共に、剛性阻止面に開設した横向きスリットを通じて崩落物の一部を透過可能に構成する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7