(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電極活物質の製造方法、電極活物質及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/60 20060101AFI20240118BHJP
C07C 63/38 20060101ALI20240118BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240118BHJP
【FI】
H01M4/60
C07C63/38
H01G11/30
(21)【出願番号】P 2018181430
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-07-13
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】須原 宏光
【審判官】岩間 直純
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098439(JP,A)
【文献】特開2013-055000(JP,A)
【文献】特開2015-159044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/30
H01M 4/60
C07C 63/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイス用の電極活物質の製造方法であって、
2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、縮合芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を析出させる析出工程、
を含む電極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記析出工程では、ナフタレン骨格を有する前記縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを用いる、請求項1に記載の電極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記析出工程では、150℃以上250℃以下の温度範囲で前記調整溶液を噴霧乾燥する、請求項1又は2に記載の電極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記析出工程では、0.02L/分以上0.2L/分以下の供給速度で前記調整溶液を噴霧乾燥する、請求項1~3のいずれか1項に記載の電極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記析出工程では、前記縮合芳香族ジカルボン酸アニオンに対する前記アルカリ金属カチオンのモル比が2.0以上である前記調製溶液を用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の電極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記析出工程では、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上の前記アルカリ金属カチオンを含む前記調製溶液を用いる、請求項1~5のいずれか1項に記載の電極活物質の製造方法。
【請求項7】
蓄電デバイス用の電極活物質であって、
2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を含み、
下記(1)~(3)のうち1以上を満たす、電極活物質。
(1)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(002)のピーク強度比P(002)/P(011)が0.25以上を示す。
(2)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(102)のピーク強度比P(102)/P(011)が0.50以上を示す。
(3)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(112)のピーク強度比P(112)/P(011)が0.60以上を示す。
【請求項8】
下記(4)~(8)のうち1以上を満たす、請求項7に記載の電極活物質。
(4)X線回折測定での(002)面の面間隔が0.42400nm以上0.42700nm以下の範囲である。
(5)X線回折測定での(102)面の面間隔が0.37000nm以上0.37350nm以下の範囲である。
(6)X線回折測定での(112)面の面間隔が0.30400nm以上0.30600nm以下の範囲である。
(7)X線回折測定での(211)面の面間隔が0.32250nm以上0.32520nm以下の範囲である。
(8)X線回折測定での(200)面の面間隔が0.50500nm以上0.50900nm以下の範囲である。
【請求項9】
前記層状構造体は、ナフタレン骨格を有する前記縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む、請求項7又は8に記載の電極活物
質。
【請求項10】
前記層状構造体は、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上の前記アルカリ金属カチオンを含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の電極活物質。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか1項に記載の電極活物質を含む負極と、
正極活物質を含む正極と、
正極と負極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、電極活物質の製造方法、電極活物質及び蓄電デバイスを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスとしては、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を負極活物質に用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この蓄電デバイスは、ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの層状構造体と導電材とを含む電極合材を集電体上に形成したのち、不活性雰囲気中で250℃以上450℃以下の温度範囲で焼成処理することにより、層状構造体の結晶構造をより良好にすることができる。このため、この蓄電デバイスでは、充放電特性をより高めることができる。また、従来のリチウム二次電池などでは、活物質と導電材と結着材とを噴霧乾燥させて造粒粒子を作製することが行われていた(例えば、特許文献2~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-225413号公報
【文献】特開2003-173777号公報
【文献】特開2005-093192号公報
【文献】特開2005-135925号公報
【文献】特開2013-235682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、電極を熱処理することにより、電極活物質の結晶構造をより良好とすることができるが、層状構造体を製造したのち、熱処理が必要であり、製造工程が煩雑であった。また、特許文献2~5では、電極活物質自体の製造方法ではなく、また、層状構造体を電極活物質として利用することを考慮していなかった。このように、層状構造体の電極活物質をより簡便な製造工程により作製することが求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、より簡便な製造工程により層状構造体を作製することができる電極活物質の製造方法、電極活物質及び蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸金属塩溶液を噴霧乾燥すると、より好ましい結晶状態の層状構造体を作製することができることを見いだし、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する電極活物質の製造方法は、
蓄電デバイス用の電極活物質の製造方法であって、
2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、縮合芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を析出させる析出工程、
を含むものである。
【0008】
本明細書で開示する電極活物質は、
蓄電デバイス用の電極活物質であって、
2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を含み、
下記(1)~(3)のうち1以上を満たす、電極活物質。
(1)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(002)のピーク強度比P(002)/P(011)が0.25以上を示す。
(2)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(102)のピーク強度比P(102)/P(011)が0.50以上を示す。
(3)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(112)のピーク強度比P(112)/P(011)が0.60以上を示す。
【0009】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、
上述の電極活物質を含む負極と、
正極活物質を含む正極と、
正極と負極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本明細書で開示する電極活物質の製造方法、電極活物質及び蓄電デバイスでは、より簡便な製造工程によって層状構造体を作製することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、従来、芳香族ジカルボン酸とアルカリ金属とを溶解させ、溶媒を除去する溶液混合法により縮合芳香族ジカルボン酸ジアルカリ金属塩の層状構造体を得ることができる。しかしながら、溶液混合法により作製された縮合芳香族ジカルボン酸ジアルカリ金属塩の層状構造体は、結晶性が高くないため、例えば、不活性雰囲気中で加熱処理を行うなど、結晶性をより高める工程が更に必要であった。本開示の電極活物質の製造方法は、縮合芳香族ジカルボン酸とアルカリ金属を溶解させた溶液を使い噴霧乾燥することにより活物質粒子を作製することができる。更に、この手法で作製すると、より高い結晶性を有した状態で層状構造体が形成される。このため、本開示では、より簡便な製造工程により層状構造体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】縮合芳香族ジカルボン酸ジアルカリ金属塩の層状構造体を示す説明図。
【
図4】実験例1~4の電極活物質のXRD測定結果。
【
図5】(011)面のピーク強度を100としたX線回折プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(電極活物質)
本明細書で開示する電極活物質は、蓄電デバイス用の電極活物質である。電極活物質は、キャリアである金属イオンを吸蔵放出するものである。キャリアである金属イオンは、アルカリ金属イオンであることが好ましく、LiイオンやNaイオン、Kイオンなどのうち1以上が挙げられる。電極活物質は、2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を含む。
図1は、縮合芳香族ジカルボン酸ジアルカリ金属塩の層状構造体を示す説明図である。この電極活物質は、下記(1)~(3)のうち1以上を満たす。このような電極活物質は、縮合芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを含む溶液を噴霧乾燥することにより得ることができる。
(1)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(002)のピーク強度比P(002)/P(011)が0.25以上を示す。
(2)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(102)のピーク強度比P(102)/P(011)が0.50以上を示す。
(3)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(112)のピーク強度比P(112)/P(011)が0.60以上を示す。
【0013】
図2は、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の各結晶面の説明図であり、
図2Aが(002)面の説明図、
図2Bが(102)面の説明図、
図2Cが(112)面の説明図、
図2Dが(211)面の説明図、
図2Eが(200)面の説明図である。ピーク強度比P(002)/P(011)は、0.30以上を示すことが好ましく、0.32以上を示すことがより好ましい。ピーク強度比P(111)/P(011)は、0.65以上を示すことが好ましい。ピーク強度比P(102)/P(011)は、0.60以上を示すことが好ましく、0.75以上を示すことがより好ましい。ピーク強度比P(112)/P(011)は、0.65以上を示すことが好ましく、0.70以上を示すことがより好ましい。また、X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(110)のピーク強度比P(110)/P(011)は、0.30以下を示すことが好ましく、0.28以下を示すことがより好ましく、0.25以下を示すことが更に好ましい。このようなピーク強度比を示すものは、例えば、電極活物質や電極活物質を含む電極を加熱処理したものとは異なる結晶が得られる。
【0014】
この電極活物質は、下記(4)~(8)のうち1以上を満たすことが好ましい。
図2に示すように、層状構造体において、(002)面、(102)面、(211)面及び(112)面の面間隔は、有機骨格層における、ナフタレン骨格とナフタレン骨格との層状構造に基づく間隔である。また、(200)面の面間隔は、アルカリ金属元素層とアルカリ金属元素層との間における有機骨格層に基づく間隔である。そして、この面間隔が下記範囲にあると、結晶性が良好な層状構造体であるといえる。
(4)X線回折測定での(002)面(
図2A参照)の面間隔が0.42400nm以上0.42700nm以下の範囲であることが好ましく、0.42550nm以上0.42650nm以下の範囲であることがより好ましい。
(5)X線回折測定での(102)面(
図2B参照)の面間隔が0.37000nm以上0.37350nm以下の範囲であることが好ましく、0.37250nm以上0.37320nm以下の範囲であることがより好ましい。
(6)X線回折測定での(112)面(
図2C参照)の面間隔が0.30400nm以上0.30600nm以下の範囲であることが好ましく、0.30500nm以上0.30580nm以下の範囲であることがより好ましい。
(7)X線回折測定での(211)面(
図2D参照)の面間隔が0.32250nm以上0.32520nm以下の範囲であることが好ましく、0.32408nm以上0.32500nm以下の範囲であることがより好ましい。
(8)X線回折測定での(200)面(
図2E参照)の面間隔が0.50500nm以上0.50900nm以下の範囲であることが好ましく、0.50600nm以上0.50800nm以下の範囲であることがより好ましい。
【0015】
この層状構造体は、縮合芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。この層状構造体は、式(1)で表される構造を有するものとしてもよい。但し、この式(1)において、aは0以上3以下の整数であり、この縮合芳香族化合物は、この構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、縮合芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。より具体的には、この層状構造体は、式(2)に示す縮合芳香族化合物としてもよい。なお、式(1)、(2)において、Aはアルカリ金属である。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する次式(3)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(3)において、Rは縮合芳香環構造であり、複数あるRのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、Aはアルカリ金属である。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
この層状構造体において、有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが芳香環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香環構造がナフタレンであれば2,6位が挙げられる。
【0020】
アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。なお、蓄電デバイスのキャリアであり、充放電により層状構造体に吸蔵・放出される金属イオンは、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。この層状構造体は、例えば、2、6-ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0021】
(電極活物質の製造方法)
本開示の電極活物質の製造方法は、上述した蓄電デバイス用の電極活物質の製造方法である。この製造方法は、溶液調製工程と、析出工程とを含むものとしてもよい。なお、調製溶液を別途調製するものとして、溶液調製工程を省略してもよい。
【0022】
溶液調製工程では、2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を調製する。この調製溶液の溶媒は、特に限定されないが、水系溶媒としてもよいし、有機系溶媒としてもよいが、水であることが好ましい。この工程では、縮合芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が0.1mol/L以上、より好ましくは、0.2mol/L以上である調製溶液を調製することが好ましい。また、この工程では、縮合芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が5mol/L以下である調製溶液を調製することが好ましい。このような濃度範囲では、次工程の噴霧乾燥をより行いやすい。また、この工程では、ナフタレン骨格を有する縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを用いるものとしてもよい。更に、この工程では、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上のアルカリ金属カチオンを含む調製溶液を調製することが好ましい。この工程では、例えば、縮合芳香族ジカルボン酸アニオンのモル数A(mol)に対するアルカリ金属カチオンのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.0以上、より好ましくは2.2以上である調製溶液を得ることが好ましい。このように、アルカリ金属カチオンを過剰とすることにより、層状構造体を作製しやすい。このモル比B/Aは、2.5以上であるものとしてもよい。また、このモル比B/Aは、3.0以下であるものとしてもよい。
【0023】
析出工程では、調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、層状構造体を析出させる。この層状構造体は、上記電極活物質で説明したものであり、縮合芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備えるものである。この析出工程では、上記溶液調製工程で調製した調製溶液を用いる。噴霧乾燥は、スプレードライヤーにより行うものとしてもよい。噴霧乾燥条件は、例えば、装置の規模や作製する電極活物質の量によって適宜調整すればよい。乾燥温度は、例えば、150℃以上250℃以下の範囲とすることが好ましい。150℃以上では、溶媒を十分に除去することができ、250℃以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。乾燥温度は、180℃以上がより好ましく、225℃以下がより好ましい。また、調製溶液の供給速度(供給液量)は、電極活物質を作製する規模にもよるが、例えば、0.02L/分以上0.2L/分以下の範囲としてもよい。この範囲では、調製溶液を噴霧乾燥しやすい。このように噴霧乾燥して層状構造体を作製すると結晶構造がより好ましい層状構造体の電極活物質が得られる。
【0024】
(蓄電デバイス)
この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムイオン電池などとしてもよい。蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、イオン伝導媒体とを備えている。正極は、キャリアイオンを吸蔵放出する正極活物質を含むものとしてもよい。負極は、キャリアである金属イオンを吸蔵放出する上述した層状構造体の電極活物質を含むものとしてもよい。上述した電極活物質は、対極の電位に応じて正極活物質としてもよいし負極活物質としてもよいが、電極活物質の電位がリチウム金属基準で0.5~1.0V程度であるため、負極活物質とすることが好ましい。イオン伝導媒体は、正極と負極との間に介在しキャリアイオン(カチオン及びアニオン)を伝導するものである。
【0025】
負極は、上述した電極活物質である層状構造体と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。この負極において、上記電極活物質は、できるだけ多く含まれることが好ましく、例えば、電極合材中に60質量%以上95質量%以下の範囲で含まれるものとしてもよい。導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0026】
正極は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、例えば、正極活物質として炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着・脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入・脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0027】
あるいは、正極は、一般的なリチウムイオン電池に用いられる正極としてもよい。この場合、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、正極活物質は、リン酸鉄リチウムなどとしてもよい。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/3などが好ましい。なお「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0028】
正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に用いる導電材、結着材、溶剤、集電体は、例えば、負極で例示したものなどを適宜用いることができる。
【0029】
この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、キャリアをリチウムイオンとした場合、公知のリチウム塩を含むものとしてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(CF3SO2)2N,LiN(C2F5SO2)2などが挙げられ、このうちLiPF6やLiBF4などが好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。また、このイオン伝導媒体は、例えば、固体電解質としてもよい。
【0030】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0031】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図3は、蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。また、この負極23は、上述した縮合芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を負極活物質として有する。
【0032】
以上詳述した電極活物質、電極活物質の製造方法及び蓄電デバイスでは、より簡便な製造工程によって層状構造体を作製することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、従来、芳香族ジカルボン酸とアルカリ金属とを溶解させ、溶媒を除去する溶液混合法により縮合芳香族ジカルボン酸ジアルカリ金属塩の層状構造体を得ることができる。しかしながら、溶液混合法により作製された縮合芳香族ジカルボン酸ジアルカリ金属塩の層状構造体は、結晶性が高くないため、例えば、不活性雰囲気中で加熱処理を行うなど、結晶性をより高める工程が更に必要であった。本開示の電極活物質の製造方法は、縮合芳香族ジカルボン酸とアルカリ金属を溶解させた溶液を噴霧乾燥することにより活物質粒子を作製することができる。更に、この手法で作製すると、より高い結晶性を有した状態で層状構造体が形成される。このため、本開示では、より簡便な製造工程により層状構造体を作製することができる。
【0033】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0034】
以下には、電極活物質及び蓄電デバイスを具体的に実施した例を実験例として説明する。なお、実験例1、2が実施例に相当し、実験例3が参考例に相当し、実験例4が比較例に相当する。
【0035】
[実験例1,2]
(電極活物質:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの合成には、出発原料として2,6-ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。2,6-ナフタレンジカルボン酸が0.2mol/L、水酸化リチウムが0.44mol/Lとなるように水に水酸化リチウムを加え撹拌し、調製溶液(水溶液)を調製した。この調製溶液をスプレードライヤー(マイクロミストスプレードライヤーMDL-050、藤崎電機製)を用いて噴霧乾燥させ、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの粉末を析出させた。調製溶液の噴霧量(供給量)は0.04L/分、乾燥温度は200℃とした。回収部として、前段にサイクロン、後段にバグフィルタを直列に配置し、前段で回収した粉末を実験例1、後段で回収した粉末を実験例2とした。実験例2の方が実験例1に比して微粉末であった。
【0036】
[実験例3,4]
出発原料として2,6-ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物を用い、水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え撹拌した後に2,6-ナフタレンジカルボン酸を1.0g加え、1時間撹拌した。撹拌したのち溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより、白色の粉末試料の2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを得た。この得られた白色粉末を350℃、Ar下で加熱処理を行い、得られた粉末を実験例3とした。また、実験例3の加熱処理を行う前の粉末を実験例4とした。
【0037】
(X線回折測定)
実験例1~4の電極活物質のX線回折測定を行った。測定は、放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用し、X線回折装置(リガク製UltimaIV)を用いて行った。また、測定は、X線の単色化にはグラファイトの単結晶モノクロメーターを用い、印加電圧を40kV、電流40mAに設定し、20°/分の走査速度で、2θ=5°~60°の角度範囲で行った。
【0038】
(結果と考察)
表1に実験例1~4の製造方法、(200)面、(002)面、(102)面 、(211)面及び(112)面の面間隔(nm)、(011)面に対する、(110)面、(002)面、(102)面 、(211)面及び(112)面のそれぞれのピーク強度比を示す。
図4は、実験例1~4の電極活物質のXRD測定結果である。
図5は、(011)面のピーク強度を100として規格化した実験例1,3のX線回折プロファイルである。表1及び
図4に示すように、実験例1、2のスプレードライ法で作製した層状構造体の電極活物質は、同じ面間隔及びピーク強度比を示し、結晶構造が同じであった。また、実験例1,2の層状構造体は、従来の溶液混合法で作製した層状構造体をAr中350℃で加熱処理した実験例3とピーク位置が同じ、即ち、結晶構造が同じであることがわかった。特に、実験例1~3は、実験例4とは異なり(200)面、(102)面、(211)面及び(112)面でのピーク位置が同じであった。
【0039】
また、従来の溶液混合法で合成した熱処理未実施の実験例4のXRDパターンでは、「*」を付した(102)面と(112)面のピークが熱処理を実施した実験例3と大きく異なっており、熱処理により高結晶化することがわかった。また、実験例1、2の各ピーク強度比は、実験例3に比して高く、より結晶性が良好であることがわかった。実験例1,2によれば、ピーク強度比P(002)/P(011)が0.25以上、ピーク強度比P(111)/P(011)が0.64以上、ピーク強度比P(102)/P(011)が0.50以上、ピーク強度比P(112)/P(011)が0.60以上、のうちいずれかを満たすと結晶が良好であると推察された。このように、スプレードライ法で合成した実験例1,2では、熱処理不要で結晶性を高めた電極活物質を1つの工程で合成できることがわかった。
【0040】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本開示の電極活物質の製造方法、電極活物質及び蓄電デバイスは、電池産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
20 蓄電デバイス、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。