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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】免震建物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
E04H9/02 331A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019156218
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021032025
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-02-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】内田 健一
(72)【発明者】
【氏名】明間 祐作
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-091065(JP,A)
【文献】特開2011-058330(JP,A)
【文献】特許第4047915(JP,B1)
【文献】特開2015-175172(JP,A)
【文献】特開2007-016433(JP,A)
【文献】特開2018-111970(JP,A)
【文献】特開平09-053248(JP,A)
【文献】特開2008-267074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/36
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤と、当該基盤の上に免震装置を介して支持された上部構造体と、を備える免震建物の構築方法であって、
前記基盤上を摺動可能なすべり板と、当該すべり板の上に設けられた上下に伸縮可能なジャッキと、を備えるすべり支承装置を用意し、
当該ジャッキは、前記すべり板にボルトで固定されて、前記上部構造体の下端面を支持しており、
前記ボルトは、前記すべり板の下面から突出しておらず、
前記基盤の上面に、前記免震装置を設置するとともに、前記すべり支承装置を設置する工程と、
前記免震装置に支持させて前記上部構造体を構築するとともに、前記上部構造体の角部で片持ち支持される張り出し部の柱の両脇の梁の下面を前記すべり支承装置で支持する工程と、を備えることを特徴とする免震建物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基盤に対して上部構造体を水平移動可能に支持するすべり支承装置、および、このすべり支承装置を用いて免震建物を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、上部構造体を免震装置で支持した免震建物が知られている(特許文献1、2参照)。
特許文献1には、免震建築物のせり出し部の施工方法が示されている。具体的には、基礎上に、せり出し部の床梁を支持する支保工を仮設するとともに、その支保工に地震動を吸収可能な滑り支承を設置した状態で、床梁から上のせり出し部を施工する。
【0003】
特許文献2には、免震建物の上部構造体を基礎より水平方向に変位可能に支承する免震建物用滑り支承装置が示されている。免震建物用滑り支承装置は、基礎の上面に設けられたレジンコンクリートによる滑り面と、上部構造体に取り付けられて下底面にて滑り面に摺動可能に当接する支柱と、を備える。
特許文献3には、支柱の振動を減衰させる支柱用制振装置が示されている。この支柱用制振装置は、支柱に取り付けられる取付部と、取付部から径方向外側に延びたフランジ部を有するブラケットと、フランジ部の上に取り付けられたゴムと、ゴムの上に取り付けられた錘とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-175172号公報
【文献】特開2001-115682号公報
【文献】特開2013-148207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上部構造体の高さ位置に応じて容易に設置できるすべり支承装置を用いた免震建物の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、基盤と、基盤の上に免震装置で支持されて張り出し部を有する上部構造体と、を有する免震建物の構築方法として、上部構造体の張り出し部を仮設用のすべり支承装置で支持することで、免震建物を施工中に地震が発生しても、張り出し部を含む上部構造体を円滑に水平移動させることが可能である点に着眼して、すべり支承装置と、このすべり支承装置を使用した免震建物の構築方法を発明するに至った。
本発明のすべり支承装置(例えば、後述のすべり支承装置50)は、基盤(例えば、後述のマットスラブ20上の鋼板51、床スラブ60上の鋼板51)に対して上部構造体(例えば、後述の建物本体40、上階の床スラブ62)を水平移動可能に支持するすべり支承装置であって、前記基盤上を摺動可能なすべり板(例えば、後述のすべり板52)と、当該すべり板の上に設けられた上下に伸縮可能なジャッキ(例えば、後述の油圧ジャッキ54)と、を備え、当該ジャッキは、前記すべり板にボルト固定され、前記上部構造体の下端面を支持することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、すべり支承装置にジャッキを設けた。よって、上部構造体の直下にすべり支承装置を配置し、その後、ジャッキを適宜伸長させて、このジャッキの上端面を上部構造体の下面に当接させることで、上部構造体の高さ位置に応じて、すべり支承装置を設置できる。
【0008】
本発明の免震建物の構築方法は、基盤(例えば、後述のマットスラブ20)と、当該基盤の上に免震装置(例えば、後述の免震装置30)を介して支持された上部構造体(例えば、後述の建物本体40)と、を備える免震建物(例えば、後述の免震建物1)の構築方法であって、前記基盤の上面に、前記免震装置を設置するとともに、上述のすべり支承装置を設置する工程(例えば、後述のステップS2)と、前記免震装置に支持させて前記上部構造体を構築するとともに、前記上部構造体張り出し部(例えば、後述の張り出し部41)を前記すべり支承装置に支持させる工程(例えば、後述のステップS3)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、免震建物の施工中、本設の免震装置により上部構造体を水平移動可能に支持する。このとき、上部構造体の張り出し部については、本発明のすべり支承装置により水平移動可能に支持する。よって、免震建物の施工中に地震が発生しても、上部構造体が円滑に水平移動するので、上部構造体の変形や損傷を防止できる。
【0010】
本発明の免震建物の構築方法は、前記張り出し部を前記すべり支承装置に支持させる工程では、前記すべり支承装置を前記上部構造体の柱(例えば、後述の柱61)の近傍に複数設けることを特徴とする。
【0011】
本発明のすべり支承装置は、高さ調整のためのジャッキを備えているので、せん断剛性が低い。よって、すべり支承装置を1台のみ設けた場合、張り出し部をピン支持することとなり、構造的な安定性が低くなる。そこで、この発明によれば、すべり支承装置を複数配置したので、上部構造体を複数箇所で支持することとなり、せん断剛性が向上し、構造的な安定性を確保できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上部構造体の高さ位置に応じて容易に設置できるすべり支承装置を用いた免震建物の構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係るすべり支承装置を用いて構築された新築の免震建物の断面図である。
図2図1に示す免震建物の構築方法のフローチャートである。
図3図1に示す免震建物の構築方法の説明図(その1)である。
図4図1に示す免震建物の構築方法の説明図(その2)である。
図5図4の破線Aで囲んだ部分の拡大図である。
図6図5のB-B断面図である。
図7】第1実施形態に係るすべり支承装置の側面図である。
図8】第1実施形態に係るすべり支承装置の底面の見上げ図である。
図9】本発明の第2実施形態に係るすべり支承装置を用いて免震化された既存建物の免震層の断面図である。
図10図9に示す既存建物の免震化方法のフローチャートである。
図11図9に示す既存建物の免震化方法の説明図である。
図12図11のC-C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ジャッキにすべり板を取り付けた仮設用のすべり支承装置、及び当該すべり支承装置を使用した免震建物の張り出し部、または柱免震化工事を対象とする施工方法である。すべり支承装置の主な特徴は、高さ調整手段(ジャッキ)付きのすべり支承装置である点である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るすべり支承装置50を用いて構築された新築の免震建物1の断面図である。
免震建物1は、基礎免震構造であり、地下階に設けられた基盤としての鉄筋コンクリート造のマットスラブ20と、このマットスラブ20の上に免震装置30を介して支持された鉄骨造の上部構造体としての建物本体40と、を備える。
マットスラブ20の周囲には、建物本体40を囲んで擁壁21が構築されている。この擁壁21と建物本体40との隙間は、免震クリアランスSとなっている。
この建物本体40の角部(図1中左側部分)は、片持ち支持される張り出し部41となっており、この張り出し部41は、免震装置で下から支持されていない。
建物本体40は、免震装置30により支持されつつ、免震クリアランスSの範囲で水平移動可能となっている。
【0015】
以下、この免震建物1を構築する手順について、図2のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、図3に示すように、マットスラブ20および擁壁21を構築する。
ステップS2では、図4に示すように、マットスラブ20の上面に、免震装置30およびすべり支承装置50を設置する。
ステップS3では、図4に示すように、免震装置30およびすべり支承装置上に建物本体40を構築する。このとき、建物本体40の張り出し部41を、すべり支承装置50に支持させる。
ステップS4では、すべり支承装置50を撤去する。
【0016】
以下、すべり支承装置50の詳細な構成について説明する。
図5は、図4の破線Aで囲んだ部分の拡大図である。図6は、図5のB-B断面図である。
すべり支承装置50は、張り出し部41の各柱42について一対ずつ設けられている。具体的には、すべり支承装置50は、柱42の直下の近傍ここでは柱42の両脇の梁43の下面に配置されている。
このすべり支承装置50は、マットスラブ20の上に載置された基盤としての矩形状の鋼板51と、鋼板51上を摺動可能なすべり板52と、マットスラブ20に固定されて鋼板51を固定するとともにすべり板52の水平移動を規制する水平移動規制部材53と、すべり板52の上に設けられた上下に伸縮可能な油圧ジャッキ54と、油圧ジャッキ54の上に設けられた立方体形状の山留め材55およびH形鋼56と、を備える。
【0017】
すべり板52は、例えば、三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ株式会社製のMCナイロン(登録商標)であり、図7および図8に示すように、油圧ジャッキ54の下端面にボルト57で固定されている。このボルト57は、すべり板52の下端面から突出しないように、すべり板52の板厚内に収まっている。
また、鋼板51とすべり板52との間には、グリスが塗布されている。
水平移動規制部材53は、矩形状の鋼板51の各辺に設けられている。各水平移動規制部材53は、山形鋼であり、一片が壁部となり、他片がアンカーボルト58でマットスラブ20に固定されている。
【0018】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)すべり支承装置50に油圧ジャッキ54を設けた。よって、免震建物1内の張り出し部41の直下にすべり支承装置50を配置し、その後、油圧ジャッキ54を適宜伸長させて、この油圧ジャッキ54の上端面を張り出し部41の下面に当接させることで、建物本体40の高さに応じて、すべり支承装置50を設置できる。
【0019】
(2)各柱42につきすべり支承装置50を一対ずつ配置したので、建物本体40を複数箇所で支持することとなり、せん断剛性が向上し、構造的な安定性を確保できる。
(3)免震建物1の施工中、本設の免震装置30により建物本体40を水平移動可能に支持する。このとき、建物本体40の張り出し部41については、すべり支承装置50により水平移動可能に支持する。よって、免震建物1の施工中に地震が発生しても、建物本体40が円滑に水平移動するので、建物本体40の変形や損傷を防止できる。
【0020】
(4)水平移動規制部材53を設けたので、すべり板52が大きく水平移動した場合でも、すべり板52の端縁が水平移動規制部材53の壁部に係止し、すべり板52が鋼板51の上面から外れるのを防止できる。
【0021】
〔第2実施形態〕
図9は、本発明の第2実施形態に係るすべり支承装置50Aを用いて免震化された既存建物1Aの免震層の断面図である。
既存建物1Aは、鉄筋コンクリート造であり、既存建物1Aの免震層は、基盤としての床スラブ60、柱61、上部構造体としての上階の床スラブ62を備える。この既存建物1Aは、柱61の一部を撤去し、この撤去した部分に免震装置30を設置することで、免震化されている。
【0022】
以下、この既存建物1Aを免震化する手順について、図10のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS11では、図11に示すように、各柱61の両脇にすべり支承装置50Aを設ける。これにより柱61に作用する鉛直荷重をすべり支承装置50Aで支持する。
ここで、すべり支承装置50Aは、柱61について一対ずつ設けられている。具体的には、すべり支承装置50Aは、柱61の近傍ここでは柱61の両脇に配置されている。このすべり支承装置50Aは、すべり支承装置50の山留め材55およびH形鋼56の代わりに、油圧ジャッキ54の上に上下方向に延びる所定長さを有する山留め材59を設けたものである。
【0023】
ステップS12では、図11に示すように、柱61の中間高さに位置する所定部分Pを切断して撤去し、この撤去した所定部分Pに免震装置30を設置する。
ステップS13では、すべり支承装置50Aで支持していた鉛直荷重を、再度、柱61に支持させる。
ステップS14では、すべり支承装置50Aを撤去する。
本実施形態によれば、上述の(1)~(4)に加えて、以下のような効果がある。
(5)既存建物1Aを免震化する際、当階の床スラブ60の上にすべり支承装置50Aを設置し、油圧ジャッキ54を上下に伸縮させてすべり支承装置50Aの高さを調整することで、上階の床スラブ62と当階の床スラブ60の間に、すべり支承装置50Aを容易に設置可能である。
【0024】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の各実施形態では、すべり支承装置50、50Aを、鋼板51、すべり板52、水平移動規制部材53、および油圧ジャッキ54を含んで構成したが、これに限らず、すべり支承装置に鋼板や水平移動規制部材を設けず、基盤上を摺動可能なすべり板と、すべり板の上に設ける上下に伸縮可能なジャッキと、を含んで構成してもよい。
また、上述の第1実施形態では、すべり支承装置50を柱42の直下の近傍に一対配置したが、これに限らない。すなわち、すべり支承装置50を構成する山留め材55およびH形鋼56の剛性が高い場合には、すべり支承装置50を柱42の直下に配置してもよい。
【符号の説明】
【0025】
1…免震建物 1A…既存建物
20…マットスラブ(基盤) 21…擁壁 30…免震装置
40…建物本体(上部構造体) 41…張り出し部 42…柱 43…梁
50、50A…すべり支承装置 51…鋼板(基盤) 52…すべり板
53…水平移動規制部材 54…油圧ジャッキ 55…山留め材 56…H形鋼
57…ボルト 58…アンカーボルト 59…山留め材
60…床スラブ(基盤) 61…柱 62…上階の床スラブ(上部構造体)
S…免震クリアランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12