(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】対象物を表面に吸着させるための樹脂シート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240118BHJP
B25J 15/06 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01L21/68 P
B25J15/06 A
(21)【出願番号】P 2019180148
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】小池 堅一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基文
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真治
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-171728(JP,A)
【文献】特開2010-274240(JP,A)
【文献】特開2008-225417(JP,A)
【文献】特開2005-199380(JP,A)
【文献】特開2013-108066(JP,A)
【文献】特開2019-016700(JP,A)
【文献】特開2008-205416(JP,A)
【文献】特開平11-019838(JP,A)
【文献】特開2018-074150(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0264567(US,A1)
【文献】特開2015-017008(JP,A)
【文献】特開2004-317725(JP,A)
【文献】特開2016-043516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
B25J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を真空吸着装置の保持定盤上に保持するのに用いるための樹脂シートであって、
前記樹脂シートは、前記保持定盤と前記吸着対象物の間に配置され、負圧により前記対象物を前記樹脂シート表面に吸着させることができ、これにより前記対象物を真空吸着装置の保持定盤上に保持させるものであり、
前記樹脂シートは、感光性樹脂及び/又は感光性樹脂を光硬化させた樹脂を含み、
前記樹脂シートは、厚み方向に孔径
100~500μmの複数の貫通孔を有し、且つ
前記樹脂シートは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの全面積に対する
孔径100~500μmの貫通孔の占める面積の割合である貫通孔面積率が5~40%であ
り、
樹脂シートの全面積に対する孔径100~500μmの貫通孔以外の開孔の占める面積の割合である空隙率が1%以下である、前記樹脂シート。
【請求項2】
感光性樹脂が、ポリアミド系の感光性樹脂である、請求項1
に記載の樹脂シート。
【請求項3】
接着層を有さない、請求項1
又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、前記樹脂シートの外周部1mm幅の領域に貫通孔を有さない、請求項1~
3のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項5】
厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、前記樹脂シートの外周部15mm幅の領域を除いた全面積に対する孔径
100~500μmの貫通孔の占める面積の割合が10~40%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項6】
対象物と接する側の表面が硬膜剤でコーティングされている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項7】
10
~500μmの厚みを有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項8】
感光性樹脂を露光する工程、及び露光後の感光性樹脂を現像処理する工程を有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項9】
現像処理後、感光性樹脂を100~200℃で1~10時間の加熱乾燥処理する工程を有する、請求項
8に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の樹脂シートを真空吸着装置の保持定盤上に配置し、前記樹脂シート上に対象物を配置して、減圧下又は真空下で対象物を樹脂シートに吸着させる、対象物の吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象物(保持対象物、吸着対象物)を表面に吸着させるための樹脂シートに関する。より詳しくは、本発明は、減圧下又は真空下で対象物を表面に吸着させるための樹脂シートに関する。さらにより詳しくは、本発明は、半導体ウエハの搬送や物理的な加工の際に半導体ウエハが動かないよう、真空吸着装置の保持定盤(吸着用定盤ともいう)上に配置して減圧下又は真空下で対象物をその表面に吸着させるための樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハや液晶用ガラス板、ハードディスク基板、半導体デバイス、光学材料、化合物系ウェア、フォトマスク等を固定、加工又は搬送する手段として、真空吸着装置を用いて、減圧吸引により対象物を真空吸着装置の保持定盤上に吸着させて保持することが知られている。通常、保持定盤は、減圧吸引を介して保持定盤表面に半導体ウエハなどを吸着させることができるよう、多孔質な材料が用いられているか、或いは貫通穴(吸引穴)が設けられている。
これまで、真空吸着装置の保持定盤には、セラミックや樹脂焼結体、金属等の硬質部材が用いられてきた。例えば、特許文献1には、アルミナとガラスを焼成した多孔質部材からなる載置定盤(載置部)が開示されている。
しかしながら、このように硬質な保持定盤に吸着対象物を載置すると、真空吸引時に吸着対象物が破損する恐れがあった。また、保持定盤の成分(特に金属成分)が吸着対象物(特に、半導体素材)を汚染する恐れがあった。そのため、吸着対象物と保持定盤の間に緩衝用のシートを挟む方法が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献2には、薄板と薄板保持部表面との間に、空気などの流体を厚み方向に通過させる機能を備えた多孔質のプラスチックフィルムを介在させて、薄板を真空吸着保持する薄板保持装置が開示されている。
特許文献3には、無機焼結体及び/又は金属焼結体上に、通気性を有し表面粗さが0.1~20μmのシートが積層されてなる、吸着緩衝材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-205507号公報
【文献】特開昭63-312035号公報
【文献】特許第6275405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の薄板保持装置は、フィルム自体が多孔質であるため、真空吸引しても吸着対象物が載置されていないフィルム表面から通気してしまい、吸着力が低下するという問題がある。また、プラスチックフィルムや薄板(吸着対象物)の外周部を別途封止することにより通気を防ぐことはできるものの、多孔質フィルムと吸着対象物のサイズの違いに合わせて封止物を調整しなければならない等、非常に煩雑な手間を要するという問題がある。外周部を封止しない場合には、低下する吸着力を補うためにより大きな負圧をかける必要があり、エネルギー消費が大きく、環境的にも望ましくない。
特許文献3の吸着緩衝材は、無機焼結体又は金属焼結体という比較的硬質な焼結体と表面粗さが0.1~20μmのシートとの積層体であるため、ハンドリング性が悪いことに加え、製造コストがかさむ。また、特許文献3では、パンチ加工(打ち抜き加工)等によりシートに細孔を設けるか多孔質の樹脂を用いることにより通気性を確保しているが、樹脂シートにパンチ加工をするとバリやシートの変形が発生し、特に半導体分野においては吸着対象物に無視できない悪影響を与える。多孔質の樹脂を用いる場合には、特許文献2と同様に吸着力が低下するという問題がある。
シートに貫通孔を設ける方法として薬品やプラズマによるエッチングも考えられるが、製造コストが増加するため好ましくない。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、吸着対象物への汚染のリスクが少なく、吸着対象物を吸着保持する性能に優れた樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に対し鋭意検討した結果、従来の多孔質フィルムではなく、感光性樹脂を用いることにより、吸着対象物への汚染のリスクが少なく、吸着対象物を吸着保持する性能に優れた樹脂シートが得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下を提供する。
【0008】
〔1〕
対象物を真空吸着装置の保持定盤上に保持するのに用いるための樹脂シートであって、
前記樹脂シートは、前記保持定盤と前記吸着対象物の間に配置され、負圧により前記対象物を前記樹脂シート表面に吸着させることができ、これにより前記対象物を真空吸着装置の保持定盤上に保持させるものであり、
前記樹脂シートは、感光性樹脂及び/又は感光性樹脂を光硬化させた樹脂を含み、
前記樹脂シートは、厚み方向に孔径10~500μmの複数の貫通孔を有し、且つ
前記樹脂シートは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの全面積に対する前記貫通孔の占める面積の割合である貫通孔面積率が5~40%である、前記樹脂シート。
〔2〕
厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの全面積に対する孔径10~500μmの貫通孔以外の開孔の占める面積の割合である空隙率が1%以下である、〔1〕に記載の樹脂シート。
〔3〕
感光性樹脂が、ポリアミド系の感光性樹脂である、〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂シート。
〔4〕
接着層を有さない、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の樹脂シート。
〔5〕
厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、前記樹脂シートの外周部1mm幅の領域に貫通孔を有さない、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の樹脂シート。
〔6〕
厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、前記樹脂シートの外周部15mm幅の領域を除いた全面積に対する孔径10~500μmの貫通孔の占める面積の割合が10~40%である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の樹脂シート。
〔7〕
対象物と接する側の表面が硬膜剤でコーティングされている、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の樹脂シート。
〔8〕
10μ~500μmの厚みを有する、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の樹脂シート。
〔9〕
感光性樹脂を露光する工程、及び露光後の感光性樹脂を現像処理する工程を有する、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
〔10〕
現像処理後、感光性樹脂を100~200℃で1~10時間の加熱乾燥処理する工程を有する、〔9〕に記載の樹脂シートの製造方法。
〔11〕
〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の樹脂シートを真空吸着装置の保持定盤上に配置し、前記樹脂シート上に対象物を配置して、減圧下又は真空下で対象物を樹脂シートに吸着させる、対象物の吸着方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸着対象物への汚染のリスクが少なく、吸着対象物を吸着保持する性能に優れた樹脂シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、真空吸着装置の保持定盤1と対象物2との間に配置された本発明の樹脂シート3を示す模式断面図である。
図1中の矢印は、真空吸着装置が減圧又は真空条件下で対象物を吸引した時の空気の流れを表す。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1の樹脂シート表面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
<<樹脂シート>>
本発明の樹脂シートは、対象物を真空吸着装置の保持定盤上に保持するのに用いるための樹脂シートであって、前記樹脂シートは、前記保持定盤と前記吸着対象物の間に配置され、負圧により前記対象物を前記樹脂シート表面に吸着させることができ、これにより前記対象物を真空吸着装置の保持定盤上に(樹脂シートを介して)保持させるものであり、前記樹脂シートは、感光性樹脂及び/又は感光性樹脂を光硬化させた樹脂を含み、前記樹脂シートは、厚み方向に孔径10~500μmの複数の貫通孔を有し、且つ前記樹脂シートは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの全面積に対する前記貫通孔の占める面積の割合が5~40%である、前記樹脂シートである。本発明の樹脂シートは、真空吸着装置の対象物を保持するための保持定盤上に配置され、樹脂シート上に配置した対象物を負圧により(減圧下又は真空下で)樹脂シートの表面に吸着させるために好適に用いることができる。
また、本発明の樹脂シートは、感光性樹脂及び/又は感光性樹脂を光硬化させた樹脂を含み、厚み方向に孔径10~500μmの複数の貫通孔を有し、且つ厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの全面積に対する前記貫通孔の占める面積の割合である貫通孔面積率が5~40%である、前記樹脂シートである。本発明の樹脂シートは、対象物を樹脂シートの表面に吸着させるために好適に用いることができる。
なお、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面とは、樹脂シートの対象物と接触する面をいう。
【0013】
<真空吸着装置>
真空吸着装置は、半導体ウエハなどの対象物を搬送、加工、検査などする場合に、真空吸引力を利用して真空吸着装置の保持定盤上に吸着させるための装置である。これにより、半導体ウエハなどの対象物を破損させることなく、搬送、加工、検査することができる。
真空吸着装置としては、半導体ウエハなどの対象物を、真空吸引力を利用して吸着させるための装置であれば特に制限はなく、従来知られている装置を用いることができる。例えば、特許文献1(特開2005-205507号)や特開平11-243135号に記載の真空吸着装置を挙げることができる。
真空吸着装置は、半導体ウエハなどの対象物を保持するための保持定盤を有する。保持定盤は吸着定盤、吸着ステージと言い換えることができる。保持定盤は1又は複数の貫通孔、凹部、連通多孔などの通気路を有しており、この通気路を介して対象物を吸引し、真空吸着装置の保持定盤に吸着させる(
図1参照)。本発明の樹脂シートは、真空吸着装置の対象物を保持するための保持定盤上に配置され、保持定盤の通気路と樹脂シートの貫通孔を介して対象物と真空吸着装置との間に真空吸引力(負圧)を生じさせ、対象物を樹脂シートに吸着させる(対象物を、樹脂シートを介して真空吸着装置の保持定盤に吸着させる)。
【0014】
<感光性樹脂>
本明細書及び特許請求の範囲において、「感光性樹脂」は、光によって化学的または構造的な変化を生じる樹脂をいう。感光性樹脂は、紫外線や可視光線などの光によって硬化する光硬化性樹脂であることが好ましく、紫外線硬化性樹脂であることがより好ましい。
本明細書及び特許請求の範囲において、「感光性樹脂を光硬化させた樹脂」は、感光性樹脂(特に光硬化性樹脂)が紫外線や可視光線などの光によって硬化した樹脂をいう。好ましくは、「感光性樹脂を光硬化させた樹脂」は、紫外線や可視光線などの光によって、現像処理液に対する溶解性が低下した樹脂である。
【0015】
本発明の樹脂シートは、感光性樹脂及び/又は感光性樹脂を光硬化させた樹脂を含む。感光性樹脂としては、特に制限はなく、既に公知の感光性樹脂の中から適宜選択して用いればよい。また、感光性樹脂及び/又は感光性樹脂を光硬化させた樹脂における感光性樹脂は、ポジ型の感光性樹脂であっても、ネガ型の感光性樹脂であってもよいが、ネガ型の感光性樹脂であることが好ましい。感光性樹脂の例としては、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂、感光性エポキシ系樹脂、感光性ウレタン系樹脂、感光性ウレア系樹脂、感光性フェノール系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、感光性ポリアミド系樹脂又は感光性ポリイミド系樹脂が好ましく、感光性ポリアミド系樹脂がより好ましい。感光性ポリアミド系樹脂の例としては、感光性のナイロン系樹脂(例えば、感光性のナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)が挙げられる。感光性のナイロン系樹脂としては、例えば、東洋紡株式会社製の商品名コスモマスク(登録商標)などを用いることができる。
本発明の樹脂シートは、感光性樹脂及び/又は感光性樹脂を光硬化させた樹脂の中でも、感光性樹脂を光硬化させた樹脂を含むことが好ましい。
ネガ型感光性樹脂の場合には、樹脂シートの原料中に光重合開始剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤などを含んでいてもよい。ポジ型感光性樹脂の場合には、樹脂シートの原料中に光酸発生剤などを含んでいてもよい。光重合開始剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、光さん発生剤の種類に特に制限はなく、樹脂の種類や露光の種類などに応じて既に公知の光重合開始剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、光酸発生剤の中からそれぞれ適宜選択すればよい。
感光性樹脂を含むことで、フォトマスクを介する等の公知の手段により、貫通孔を安価且つバリやシートの変形無く製造できる。また、吸着対象物を載置する領域にのみ貫通孔を形成して吸着対象物の外周からの通気を抑制するなど、貫通孔を所望の配列で設置することができる。
【0016】
<貫通孔及びその孔径>
本発明の樹脂シートは、厚み方向に孔径10~500μmの複数の貫通孔を有する。貫通孔の孔径は、例えば、レーザー顕微鏡により画像を撮影し解析することにより測定することができる。貫通孔は、樹脂シートの厚み方向に、対象物と接する樹脂シート表面に対して略垂直(好ましくは70~110度の角度、より好ましくは80~100度の角度、さらにより好ましくは85~95度の角度、最も好ましくは90度の角度)に貫通している孔であることが好ましい。
樹脂シートが貫通孔を有することにより、真空吸着機は、減圧下又は真空下で対象物を樹脂シート表面に吸着保持させることができる。
貫通孔は、厚み方向上部からみて円形であっても、楕円形であっても、(略)正方形であっても、(略)長方形であっても、それ以外の形状であってもよいが、円形であることが好ましい。貫通孔の形状が円形であることで、貫通孔のふちに対する圧力等が均一にかかるため、樹脂シートの破損等の悪影響を防ぐことができる。すなわち、貫通孔は厚み方向上部からみて直径10~500μmの円が略垂直に貫通した円柱形状であることが好ましい。なお、貫通孔が厚み方向上部からみて円形以外の形状の場合、その孔径とは、当該形状の円相当径を指すものとする。
本発明の樹脂シートは、貫通孔の孔径が、10~500μmである。貫通孔の孔径は、100~450μmであることが好ましく、200~400μmであることがより好ましい。貫通孔の孔径が上記範囲内であると、安定して貫通孔が形成でき、樹脂シート表面の貫通孔による凹凸が吸着対象物に悪影響を与えるということがなく、また通気路が確保され十分な吸着力が得られる。
また、複数の貫通孔は対象物を面内で均一に吸引する観点から一定のパターン且つ同径で形成されていることが好ましく、樹脂シートの厚み方向上部から見た場合に、貫通孔が複数段に渡って存在し、1段目の複数の貫通孔が一定間隔で横方向に配置され、2段目の貫通孔の各々が1段目のある貫通孔とその次の貫通孔の中間に位置するように横方向に一定間隔で配置される千鳥配列が好ましい(すなわち、1段目のある貫通孔と、その次の貫通孔と、それらの間に配置された2段目の貫通孔とで正三角形の形状をとることが好ましい)。2段目と3段目及びそれ以降の貫通孔の配置関係は、上記1段目と2段目の貫通孔の配置関係と同様であることが好ましい。
また、貫通孔の個数に特に制限はなく、貫通孔面積率が下記の範囲内となるように適宜個数を設定すればよい。
【0017】
<貫通孔面積率>
本発明において、貫通孔面積率とは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの全面積に対する貫通孔の占める面積(貫通孔部分の面積の合計)の割合(%)を意味する。貫通孔面積率は、レーザー顕微鏡により平坦なステージ(下敷き)の上に載置した樹脂シートの表面画像を撮影し、貫通孔から観察できるステージ(下敷き)の面積を解析することにより測定することができる。例えば、樹脂シートの面積、貫通孔の個数及び画像解析から得られた貫通孔の面積から貫通孔面積率を算出できる。貫通孔が一定のパターンで形成されている場合は、その繰り返し単位の面積に対する貫通孔の面積を参照してもよい。樹脂シートが透明な場合は、樹脂シート表面及び裏面を塗料等で着色してもよい。
なお、樹脂シートの「全面積」とは、樹脂シート表面の、樹脂が存在する領域の面積、貫通孔部分の面積及びそれ以外の空隙部分の面積の全てを含めた面積をいう。
本発明の樹脂シートは、貫通孔面積率が5~40%である。貫通孔面積率は、10~35%であることが好ましく、10~30%であることがより好ましく、15~20%であることがさらにより好ましい。貫通孔面積率が上記範囲内であると、樹脂シート表面の貫通孔による凹凸が対象物に悪影響を与えるということがなく、また通気路が確保され十分な吸着力が得られる。
【0018】
<空隙率>
本発明において、空隙率とは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの全面積に対する孔径10~500μmの貫通孔以外の開孔の占める面積(当該開孔部分の面積の合計)の割合である。孔径10~500μmの貫通孔以外の開孔としては、孔径10μm未満の貫通した孔、孔径500μmを超える貫通した孔、及び樹脂シートの厚さ方向(表面から裏面)に貫通していない開孔が挙げられる。ここでの空隙は前記貫通孔とは区別され、前記貫通孔を除外した開孔を算出する。空隙率は、樹脂シートの表面画像を画像解析ソフト(例えば三谷商事株式会社製商品名「WinRoof」)により二値化処理することで、開孔とそれ以外の部分とを区別することにより測定することができる。樹脂シートが透明な場合は、樹脂シート表面を塗料等で着色することで開孔を判別してもよい。
本発明の樹脂シートは、空隙率が1%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0%であってもよい。空隙率が上記範囲内であることにより、対象物を吸着させる際に外周部からの望まない通気を抑制することができる。これにより、対象物への吸着力が向上し、接着剤や接着層等の固定手段を別途用いずとも負圧のみで樹脂シートを保持定盤に固定できる傾向にある。
また、本発明の樹脂シートは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの全面積に対する樹脂シートの厚さ方向(表面から裏面)に貫通していない開孔の割合が、1%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0%であってもよい。
多孔質の樹脂で構成される樹脂シートは、シートの表面から裏面に連通した連通孔以外に連通していない孔を非常に多く含むため空隙率や貫通していない開孔の割合が非常に大きい。これに対し、本発明の樹脂シートは多孔質の樹脂で構成される樹脂シートではなく、非多孔質の感光性樹脂を露光して貫通孔を設けた樹脂シートであるため、空隙率や貫通していない開孔の割合が非常に小さい。これにより、負圧で対象物を吸着させる際に生じ得る外周部からの通気を抑えることができ、封止材を別途用いなくとも対象物を表面に容易に吸着させることができる。
【0019】
また、本発明の樹脂シートは、空隙率が1%以下の樹脂シートに貫通孔面積率が5~40%となるように孔径10~500μmの貫通孔が設けられていることが好ましい。空隙率、貫通孔面積率、孔径のより好ましい範囲は、それぞれ上記の通りである。
【0020】
<厚み>
本発明の樹脂シートの厚みは、対象物を表面に吸着保持できる限り特に制限はないが、ハンドリング性や耐久性の観点から10~500μmであることが好ましく、20~400μmであることがより好ましく、50~300μmであることがさらに好ましく、100~200μmであることがさらにより好ましい。
【0021】
<接着層>
本発明の樹脂シートは、接着層を有していても有していなくてもよいが、接着層を有さないことが好ましい。接着層は、樹脂シートと保持定盤とを貼り合わせて樹脂シートを保持定盤に固定するための層や、多層構造とするために樹脂シートと下層シートとを貼り合せるための層が含まれる。従って、保持定盤と貼り合わされることなく単に保持定盤表面と接する層は接着層には含まれない。本発明の樹脂シートは、多孔質の樹脂ではないため、減圧下又は真空下で対象物を吸着させている際の外周部からの通気が少なく、接着層を有さなくとも負圧のみで樹脂シートを保持定盤に固定させることができる。
また、接着層を有すると、接着剤由来の薬物汚染やアウトガスの発生の問題が生じ得るが、本発明の樹脂シートは特に接着層を有する必要がないため、これらの問題が生じない。さらに、接着層を有さないと、取り外しが容易であり、必要に応じて容易に交換が可能である。
【0022】
<封止材>
本発明の樹脂シートは、従来のシートと異なり、封止材を用いることなく減圧下又は真空下で対象物を表面に吸着させることができる。ここで、封止材とは、対象物と保持定盤との間に設置されたシートの少なくとも外周部を覆う通気性の低い材料であり、真空吸着時に多孔性のシートの外周部からの通気を防ぐためのものである。
本発明の樹脂シートは、多孔質の樹脂ではないため、減圧下又は真空下で対象物を吸着させている際の外周部からの通気が少なく、封止材を設けなくとも負圧のみで樹脂シートを保持定盤に固定させることができる。
【0023】
<外周部1mm幅の領域>
本発明の樹脂シートは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの外周部1mm幅の領域に貫通孔を有さないことが好ましく、樹脂シートの外周部10mm幅の領域に貫通孔を有さないことがより好ましく、樹脂シートの外周部15mm幅の領域に貫通孔を有さないことがさらにより好ましい。樹脂シートの外周部1mm幅とは、樹脂シートの外周から内側に1mmの幅の領域をいう。例えば、樹脂シートが半径100mmの円形状を有している場合、外周部1mm幅は、円の中心から半径99mmの円と円の中心から半径100mmとの間の領域(すなわち、半径100mmの円から半径99mmの円の内部を除いた領域)をいう。外周部1mm幅の領域に貫通孔を有さないことにより、樹脂シートが接着層等の固定手段を別途用いずとも負圧のみで樹脂シートを保持定盤に強固に固定できる(
図1)。
また、本発明の樹脂シートの形状に特に制限はないが、直径10~50cm(好ましくは20~40)程度の円であるか、一辺の長さが10~50cm程度の正方形又は長方形であることが好ましい。
【0024】
本発明の樹脂シートは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの外周部1mm幅の領域を除いた全面積に対する孔径10~500μm(好ましくは孔径100~450μm、より好ましくは孔径200~400μm)の貫通孔の占める面積の割合(%)が10~40%であることが好ましく、15~35%であることがより好ましく、20~30%であることがさらにより好ましい。前記樹脂シートの外周部1mm幅の領域を除いた全面積に対する貫通孔の占める面積の割合は、前記樹脂シートの外周部1mm幅の領域を除いた全面積、貫通孔の面積及び貫通孔の個数から算出することができる。
また、本発明の樹脂シートは、厚み方向上部から見た場合の樹脂シート表面における、樹脂シートの外周部15mm幅の領域を除いた全面積に対する孔径10~500μm(好ましくは孔径100~450μm、より好ましくは孔径200~400μm)の貫通孔の占める面積の割合(%)が10~40%であることが好ましく、15~35%であることがより好ましく、20~30%であることがさらにより好ましい。
本発明の樹脂シートは感光性樹脂及び/又は感光性樹脂を光硬化させた樹脂を含むため、対象物を配置する樹脂シート領域にのみ貫通孔を形成して樹脂シートの外周部からの通気を抑制するなど、貫通孔を所望の配列で設置することができる。前記樹脂シートの外周部1mm幅の領域を除いた全面積に対する貫通孔の占める面積の割合が上記範囲内であると、樹脂シート表面の貫通孔による凹凸が対象物に悪影響を与えるということがなく、また通気路が確保され十分な吸着力が得られる。
【0025】
<硬膜剤>
本発明の樹脂シートは、対象物と接する側の表面が硬膜剤でコーティングされていることが好ましい。また、保持定盤と接する側の表面が硬膜剤でコーティングされていてもよい。硬膜剤でコーティングされていることにより、樹脂シートの耐久性が向上する。
硬膜剤の種類に特に制限はなく、公知の硬膜剤の中から適宜選択して用いることができる。硬膜剤の例としては、ウレタン系やアルデヒド系、フッ素系などの高分子コーティング用材料が挙げられる。具体的には、栗田化学研究所製、ニューハードナーが挙げられる。
【0026】
本発明の樹脂シートは、薄膜、板状又はフィルム状のシートであり、織布や不織布ではない。本発明の樹脂シートは、パンチ加工により開けられた穴を有さないことが好ましい。パンチ加工によって穴を開けると、バリの発生やシートの変形が起こりやすく、これらは対象物の吸着力低下や対象物の吸着面に傷を生じさせる恐れがある。本発明は感光性樹脂を露光して貫通孔を設けるため、バリの発生やシートの変形が起こりにくい。従って、吸着力を向上させることができる。
また、本発明の樹脂シートは、無機焼結体及び/又は金属焼結体を含む焼結体で構成される層を有さないことが好ましい。無機焼結体を構成する材質としては、例えば、セラミックスやガラスなどが挙げられる。金属焼結体を構成する材質としてはアルミニウム、ジルコニア、コージライト、イットリア、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミ、ムライト、チタニア、サーメット等が挙げられる。これらの層を含まないことにより、対象物の吸引時に外周部からの通気を防ぐことができる。
【0027】
<対象物>
対象物(吸着対象物)としては、例えば、半導体ウエハ、や液晶用ガラス板、ハードディスク基板、半導体デバイス、光学材料、化合物系ウェア、フォトマスクなどが挙げられる。これらの中でも、対象物としては、半導体ウエハが好ましい。
【0028】
(用途)
本発明の樹脂シートは、半導体ウエハや液晶用ガラス板、ハードディスク基板、半導体デバイス、光学材料、化合物系ウェア、フォトマスクなどの対象物を保持する際の樹脂シートとして好適に用いることができる。これらの中でも、本発明の樹脂シートは、半導体ウエハの樹脂シートとして、好適に用いることが出来る。
本発明の樹脂シートは、例えば、下記の方法により製造することができる。
【0029】
<<樹脂シートの製造方法>>
本発明の樹脂シートの製造方法は、感光性樹脂を露光する工程、及び露光後の感光性樹脂を現像処理する工程を有する、樹脂シートの製造方法である。
本発明の樹脂シートの製造方法は、感光性樹脂を露光、現像する工程を有する。感光性樹脂としては、上記のものが挙げられる。
本発明の感光性樹脂は、ポジ型の感光性樹脂であってもよく、ネガ型の感光性樹脂(すなわち、光硬化性樹脂)であってもよいが、ネガ型の感光性樹脂であることが好ましい。
ポジ型感光性樹脂では光に当たった部分が溶けやすくなるのに対し、ネガ型感光性樹脂では光に当たった部分が溶けにくくなる。従って、ポジ型感光性樹脂を用いる場合には、孔径10~500μmの複数の円形孔(光が通過する孔)を有するフォトマスクを介して当該感光性樹脂を露光すれば、現像処理後に、孔径10~500μmの複数の貫通孔を有する感光性樹脂を得ることができる。他方、ネガ型感光性樹脂を用いる場合には、孔径10~500μmの円形の遮光部を有するフォトマスクを介して当該感光性樹脂を露光すれば、現像処理後に、円形の遮光部を有するフォトマスクの存在により露光されなかった部分が溶解し、孔径10~500μmの複数の孔を有する感光性樹脂を得ることができる。
フォトマスクとしては、現像処理後の感光性樹脂に10~500μmの貫通孔が設けられるものであれば特に制限されない。フォトマスクは、現像処理後の感光性樹脂の貫通孔面積率が5~40%となるように設計されることが好ましい。
露光方法に特に制限はなく、従来知られている露光方法を用いることができる。例えば、UVランプ、レーザー光などが挙げられる。
現像処理方法に特に制限はなく、従来知られている現像処理方法を用いることができる。例えば、露光後に水などの溶媒で未硬化の感光性樹脂を洗浄してもよい。
現像後、感光性樹脂を乾燥処理する工程を有していてもよい。
また、現像処理後又は乾燥処理後、感光性樹脂に硬膜剤を塗布する工程を有していてもよく、感光性樹脂を100~200℃で1~10時間(好ましくは120~180℃で2~6時間)加熱乾燥処理してもよい。これにより、樹脂シートの耐久性を向上させることができる。
【0030】
<<対象物の吸着方法>>
本発明の吸着方法は、上記本発明の樹脂シートを用いて対象物を樹脂シート上に吸着させる工程を有する、対象物の吸着方法である。
本発明の吸着方法は、樹脂シートを真空吸着装置の保持定盤の吸着面上に配置し、前記樹脂シート上に対象物を配置して、減圧下又は真空下で対象物を樹脂シートに吸着させることが好ましい。
対象物、真空吸着装置、保持定盤としては、それぞれ上記と同様のものが挙げられる。
【0031】
<利点>
本発明の樹脂シートは、金属やセラミックなどを用いないため、対象物への汚染のリスクが少ない。また、従来の多孔質プラスチックフィルムや金属焼結体シートに比べて、対象物を吸着保持する性能に優れる。また、切削やパンチング、成形により貫通孔を形成するとバリの発生やシートの変形が起こるが、本発明の樹脂シートはそのような作業が不要であるため、バリの発生やシートの変形が生じにくい。薬品やプラズマによるエッチングと比較しても安価且つ容易に所望の配列で貫通孔を設置することができる。さらに、本発明の樹脂シートは、接着層等の固定手段を別途用意しなくても減圧又は真空条件下で(対象物とともに)保持定盤に吸着することができるため、取り外しが容易であり、交換容易である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0033】
[実施例1~4]
感光性樹脂を原料として、スクリーン印刷、より具体的には直間法により製造した。
まず、PET基材に感光性樹脂を均一に塗布したフィルム(東洋紡社製、商品名コスモマスク(ナイロン系感光性樹脂)、構成はPET基材-感光性樹脂-保護フィルム)と、感光用ネガパターンを形成したマスクフィルムを用意した。
直間法フィルムの樹脂面を保護する保護フィルムを剥離し、樹脂面にマスクフィルムに重ね、UV露光機を用いて、UVランプを照射して感光性樹脂を硬化させた。
次に、マスクフィルムを剥がし、未露光部分の感光性樹脂を洗浄除去(現像)、乾燥して、貫通孔を有する樹脂シート(実施例1、実施例2、実施例3、実施例4)を得た。
実施例1と実施例3の樹脂シートは、得られた樹脂シートの耐久性をアップさせるため、硬膜剤(栗田化学研究所製、ニューハードナー)を樹脂シートの対象物と接する表面に塗布、ろ紙上に15分静置して室温乾燥後、50℃の乾燥機内で30分加熱させた。
最後に、実施例1及び2の樹脂シートについては、揮発性成分を除去するため、150℃、4時間エージング(加熱乾燥処理)を行った。
以上により、実施例1~4それぞれについて、外周15mm幅の領域に貫通孔を有さない領域を有する、直径330mmの円形状の樹脂シートを得た(
図2)。
【0034】
【0035】
空隙率、貫通孔面積率、貫通孔の平均孔径は、それぞれ以下の方法にて測定を行った。
<空隙率>
樹脂シートが透明であったため、樹脂シート表面に着色処理をしたのち、同様の色で着色した下敷きの上に載置した状態で樹脂シートの表面画像を画像解析ソフト(三谷商事株式会社製商品名「WinRoof」)により二値化処理したが、いずれの樹脂シートも貫通孔以外の開孔は検出されなかった。
<貫通孔の孔径>
レーザー顕微鏡(キーエンス社製、「VK-X105」)により画像を撮影し解析することで貫通孔の孔径を算出した。
<貫通孔面積率>
貫通孔は正三角形状に規則的に配置されているため(1段目のある貫通孔及びその次の貫通孔と、それらの中間に位置する2段目の貫通孔とが正三角形の形となるように配置されている)、繰り返し単位と貫通孔を有する領域の面積、樹脂シートの面積から貫通孔面積率を求めた。
実施例1~4の樹脂シートのいずれも、貫通孔の直径は300μmであり、貫通孔の中心同士の間隔は600μmであり、外周15mm幅の領域に貫通孔を有さない領域を設けてあったため、貫通孔面積率(厚み方向上部から見た場合に、樹脂シートの全面積に対する貫通孔の占める面積の割合)は、18.7%であった。また、前記樹脂シートの外周部15mm幅の領域を除いた全面積に対する貫通孔の占める面積の割合は、22.7%であった。
【0036】
<真空吸着試験>
以下の方法により、実施例1~4について、実際に真空吸着装置の定盤に樹脂シートを載置し、ガラス板を吸着させることで真空吸着試験を行った。いずれの樹脂シートについても、支障なく吸着できることが確認できた。
【0037】
<アウトガス成分評価>
下記条件にて熱分解GC/MS分析を用い、実施例1~4の樹脂シートについて、50℃で5分保持した後、10℃/分で昇温し、320℃で5分保持したときの、ピーク面積の合計(アウトガスの発生量に相当)を算出し比較することでアウトガス成分の確認を行った。比較は、実施例4のピーク面積を100%として、実施例4のピーク面積に対する実施例1~3各々のピーク面積の割合を算出することで行った。
サンプル量:0.005g
熱分解装置:フロンティアラボ PY2020iD
熱分解温度 150℃、10min保持
インターフェイス 250℃
GC:Agilent Technologies 6890N
カラム フロンティアラボ製、UltraALLOY-5(MT/HT)-30M-0.25F
注入口温度 280℃
He流量 1ml/min
スプリット比 1:100
昇温条件 50℃、5min保持→10℃/minで昇温→320℃、5min保持
MS:日本電子(株) JMS-Q1000GC K9
イオン源温度 250℃
インターフェイス 320℃
検出器電圧 -900v
【0038】
(結果)
実施例1~4の樹脂シートはいずれも、接着層や固定具等を用いずに真空吸着装置の保持定盤に真空吸着にて固定可能であった。また、貫通孔を通じて保持対象物を真空吸着することが可能なものであった。
以上より、実施例1~4の樹脂シートはいずれも真空吸着装置の保持定盤に用いる緩衝シートとして有用であることが判明した。
また、エージング処理をせず、硬膜剤を塗布しなかった実施例4のピーク面積の合計を100%としたときに、エージング処理をした実施例1~2の樹脂シートのピーク面積の合計は10%以下まで低下している。つまり、エージング処理により90%以上のアウトガスが削減できた。
以上より、アウトガスの発生を抑制する観点からは、実施例1~2のようにエージング処理をしたものが好ましいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の樹脂シートは、対象物への汚染のリスクが少なく、対象物を保持する性能に優れる。よって、本発明の樹脂シートは、産業上極めて有用である。