(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】位置推定装置、及び位置推定方法
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
G01C21/28
(21)【出願番号】P 2019231769
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001487
【氏名又は名称】フォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田川 晋也
(72)【発明者】
【氏名】伊原 有仁
【審査官】西畑 智道
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/037753(WO,A1)
【文献】特開2017-138282(JP,A)
【文献】特開2017-009553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標の位置を第1座標系の座標によって示した第1座標系データを取得する第1座標系データ取得部と、
位置推定対象物の所定の起点タイミングにおける位置、及び姿勢に基づいて設定された第2座標系の座標によって、当該位置推定対象物の周囲に存在する物標の位置を示した第2座標系データを取得する第2座標系データ取得部と、
前記第1座標系データと前記第2座標系データの各々の前記物標同士を照合し、照合結果に基づいて、前記第1座標系における前記位置推定対象物の位置を推定する位置推定部と、
前記位置推定対象物が旋回中である場合に、前記第2座標系データにおいて前記位置推定部による照合に用いる座標の範囲を狭める照合範囲変更部と、を備え、
前記照合範囲変更部は、
前記座標の範囲を、前記位置推定対象物よりも当該位置推定対象物の進行方向の前方に制限する
ことを特徴とする位置推定装置。
【請求項2】
前記照合範囲変更部は、
前記旋回終了後に前記座標の範囲を戻す場合、当該座標の範囲を漸次に拡張する
ことを特徴とする請求項
1記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記照合範囲変更部は、
前記位置推定対象物の速さに応じた度合いで前記座標の範囲を漸次に拡張する
ことを特徴とする請求項
2に記載の位置推定装置。
【請求項4】
位置推定対象物の位置を推定する位置推定装置による位置推定方法であって、
物標の位置を第1座標系の座標によって示した第1座標系データを取得する第1ステップと、
位置推定対象物の所定の起点タイミングにおける位置、及び姿勢に基づいて設定された第2座標系の座標によって、当該位置推定対象物の周囲に存在する物標の位置を示した第2座標系データを取得する第2ステップと、
前記第1座標系データ、及び前記第2座標系データの各々の前記物標同士を照合し、照合結果に基づいて、前記第1座標系における前記位置推定対象物の位置を推定する第3ステップと、を備え、
前記第3ステップでは、
前記位置推定対象物が旋回中である場合に、前記位置推定装置は、前記第2座標系データにおいて照合に用いる座標の範囲を狭め
、
前記座標の範囲を、前記位置推定対象物よりも当該位置推定対象物の進行方向の前方に制限する
ことを特徴とする位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置推定装置、及び位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自己位置を推定する技術として特許文献1がある。特許文献1には、「車両の周囲に存在する物標の位置を検出すると共に、車両の移動量を検出し、物標の位置を移動量に基づいて物標位置データとして蓄積する。また、物標位置データの一部を、車両の旋回状態に応じてグループ化し、物標位置データを検出した際の車両の移動量に基づいて、グループの調整範囲を設定する。そして、物標の位置を含む地図情報を取得し、物標位置データ、及び地図情報における物標の位置を、設定された調整範囲に基づいて照合することにより、車両の自己位置を推定する。」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の手法では、グループごとの調整範囲が厳密に設定されなければ、自己位置の推定精度の低下を招くことになる。また、車両の旋回時には、グループ分けや調整範囲の設定などの処理が発生するため、処理負荷が大きくなる。
【0005】
本発明は、旋回時における位置推定精度の低下を、より簡単に抑えることができる位置推定装置、及び位置推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、物標の位置を第1座標系の座標によって示した第1座標系データを取得する第1座標系データ取得部と、位置推定対象物の所定の起点タイミングにおける位置、及び姿勢に基づいて設定された第2座標系の座標によって、当該位置推定対象物の周囲に存在する物標の位置を示した第2座標系データを取得する第2座標系データ取得部と、前記第1座標系データと前記第2座標系データの各々の前記物標同士を照合し、照合結果に基づいて、前記第1座標系における前記位置推定対象物の位置を推定する位置推定部と、前記位置推定対象物が旋回中である場合に、前記第2座標系データにおいて前記位置推定部による照合に用いる座標の範囲を狭める照合範囲変更部と、を備え、前記照合範囲変更部は、前記座標の範囲を、前記位置推定対象物よりも当該位置推定対象物の進行方向の前方に制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、旋回時の位置推定精度の低下を、より簡単に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る車載システムの機能的構成を示す図である。
【
図2】基準座標系、車両座標系、及びローカル座標系の説明図である。
【
図4】車両位置推定装置が実行する車両位置推定処理のフローチャートである。
【
図5】学習済地図データ、及びローカル座標系地図データの一例を模式的に示す図である。
【
図6】照合座標範囲が制限されたローカル座標系地図データの一例を模式的に示す図である。
【
図7】ローカル座標系地図データにおける照合座標範囲の拡張動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る車載システム1の機能的構成を示す図である。
車載システム1は、車両2(
図2)に搭載されるシステムであり、物標検出デバイス群4と、移動状態検出デバイス群6と、車両位置推定装置10と、を備える。
物標検出デバイス群4は車両2の周囲に存在する物標を検出する1又は複数の物標検出デバイスを有し、移動状態検出デバイス群6は車両2の移動状態を検出する1又は複数の移動状態検出デバイスを有する。また車両位置推定装置10は、自身が搭載された車両2の位置(以下、「自己位置」という)を推定する車載装置である。
【0010】
物標検出デバイス群4が検出する物標は、他車両や歩行者などの移動体を除き、検出デバイスによって検出可能な任意の物体である。かかる物標の例としては、路面にペイントされた各種の線(例えば、車両通行帯を標示する区画線や駐車枠線など)や、車両2の走行の妨げとなる障害物(例えば、縁石やガードレール、建物の壁など)などが挙げられる。
【0011】
物標検出デバイス群4は、物標検出デバイスとして、カメラ12、ソナー14、及びレーダ16を備える。
カメラ12は、車両2の周囲を撮影するデバイスであり、撮影して得られた画像(以下、「撮影画像」という)を車両位置推定装置10に出力する。車両2には、少なくとも前方、後方、左側方、及び右側方の各景色(すなわち、全周囲の景色)を撮影可能に、1または複数のカメラ12が設置される。
ソナー14は音波を用いて車両周囲の物標を探査するデバイスであり、レーダ16は電波を用いて車両2の周囲の物標を探査するデバイスである。ソナー14、及びレーダ16は、探査によって得られた物標の位置を車両位置推定装置10に出力する。
なお、物標検出デバイスには、上述したデバイスに限らず、例えばレーザレンジスキャナなどの任意の外界センサを用いることができる。
【0012】
移動状態検出デバイス群6が検出する移動状態は、少なくとも車両2の旋回状態、及び車速を含み、移動状態検出デバイスとして、車速センサ20、及び舵角センサ22を備える。
車速センサ20は車両2の車速を検出し、それを車両位置推定装置10に出力し、舵角センサ22は車両2の舵角を検出し、それを車両位置推定装置10に出力する。
【0013】
車両位置推定装置10は、例えばECU(Electronic Control Unit)などのコンピュータユニットを備える。かかるコンピュータユニットは、CPUやMPUなどのプロセッサと、ROMやRAMなどのメモリデバイス(主記憶装置とも呼ばれる)と、HDDやSSDなどのストレージ装置(補助記憶装置とも呼ばれる)と、各種センサや周辺機器が接続されるインタフェース回路と、を備える。プロセッサがメモリデバイス、又はストレージ装置に記憶されているコンピュータプログラムを実行することで、車両位置推定装置10において各種の機能的構成が実現される。
具体的には、車両位置推定装置10は、コンピュータプログラムの実行により、
図1に示すように、学習済地図記憶部30、学習済地図取得部31、車両座標系物標位置特定部32、ローカル座標系地図取得部34、オドメトリ部36、位置推定部38、移動状態判定部40、及び照合範囲変更部42として機能する。
【0014】
図2は、基準座標系Ca、車両座標系Cb、及びローカル座標系Ccの説明図である。
本実施形態の車両位置推定装置10では、物標や車両2の自己位置を示す座標系として、
図2に示すように、基準座標系Ca(第1座標系)、車両座標系Cb、及びローカル座標系Cc(第2座標系)の3つの座標系が用いられる。
基準座標系Caは、位置を特定するための基準の二次元座標系であり、原点Oa、Xa軸、及びYa軸が適宜に設定され、基準座標系座標Paによって物標や車両2の位置が表される。
【0015】
車両座標系Cbは、あるタイミングにおける車両2の位置、及び姿勢(車体の向き)を基準にして物標の位置(相対位置)を表現する二次元座標系である。
すなわち、車両座標系Cbでは、
図2に示すように、あるタイミングでの車両2の位置が原点Obに設定され、車両2の前後方向がXb軸に設定され、また車両2の左右方向がYb軸に設定される。車両座標系Cbは、基準座標系Caの中で、その原点Obが車両2に張り付いたように移動し、またXb軸、及びYb軸の方向が車体の向きに応じた回転角θGLで回転する。なお、以下では、車両座標系Cbの座標を車両座標系座標Pbと言う。
【0016】
ローカル座標系Ccは、車両座標系Cbとは異なり、車両2の移動、及び姿勢(車体の向き)にかかわらず、原点Ocの位置、並びに、Xc軸及びYc軸の方向が、基準座標系Caの中で不変な二次元座標系である。すなわち、ローカル座標系Ccは、基準座標系Caにおいて、その原点Ocが一定の座標点に位置し、またXc軸、及びYc軸が一定の回転角θCL(θCL=0でもよい)で回転した座標系でもある。
本実施形態では、所定の起点タイミングT0における車両2の位置、及び姿勢に基づいてローカル座標系Ccが設定される。起点タイミングT0は、少なくとも最初の物標検出タイミングTa以前の適宜のタイミングであり、本実施形態では、車両2のエンジン始動時のタイミングが起点タイミングT0に用いられる。なお、以下では、ローカル座標系Ccの座標をローカル座標系座標Pcと言う。
【0017】
前掲
図1に戻り、学習済地図記憶部30は、学習済地図データ50を予め記憶する。学習済地図データ50は、車両2の走行経路上、及び、その周辺に存在する物標(縁石や、車両通行帯を標示する区画線など)の基準座標系Caにおける位置を予め記録した既成のデータであり、位置推定において基準となる地図データである。かかる学習済地図データ50は、後述するローカル座標系地図データ58に基づいて生成される。
【0018】
学習済地図取得部31は、かかる学習済地図データ50を学習済地図記憶部30から読み出して取得し、位置推定部38に出力する。なお、学習済地図取得部31は、学習済地図データ50を、車両位置推定装置10とは異なる他の装置から取得してもよい。他の装置としては、車載システム1に設けられた適宜の記憶装置や、電気通信回線を通じて通信可能に接続された車両2の外のコンピュータなどが挙げられる。
【0019】
車両座標系物標位置特定部32は、所定の物標検出タイミングTaごとに、物標検出デバイス群4からの入力信号に基づいて、そのときに車両2の周囲に存在する物標の位置を特定する。この位置には、上述の車両座標系Cbが用いられる。
車両座標系物標位置特定部32は、画像認識処理部52と、探査結果取得部54と、を備えており、画像認識処理部52は、カメラ12の撮影画像を画像認識することで物標の位置を示す車両座標系座標Pbを特定し、また探査結果取得部54は、ソナー14、及びレーダ16の探査結果に基づいて物標の位置を示す車両座標系座標Pbを特定する。
【0020】
なお、画像認識処理部52の画像認識には、撮影画像に映った物標を認識可能な公知、又は周知の適宜の認識手法を用いることができる。また、カメラ12の焦点距離や撮像素子サイズなどの内部パラメータ、及び、車両2へのカメラ12の取付位置や取付姿勢である外部パラメータは、ROMなどのメモリデバイスに予め保存されており、画像認識処理部52は、これら内部パラメータ、及び外部パラメータを用いて、撮影画像に写った物標とカメラ12との位置関係(すなわち、車両2に対する物標の相対位置)を算出する。
また、ソナー14、及びレーダ16の探査結果が示す物標の位置を、車両座標系Cbにおける車両座標系座標Pbに変換する変換式が予め求められており、探査結果取得部54は、当該変換式を用いて物標の車両座標系座標Pbを特定する。
車両座標系物標位置特定部32によって特定された物標の車両座標系座標Pbは例えばRAMなどのメモリデバイスに逐次に蓄積される。
【0021】
ローカル座標系地図取得部34は、車両座標系物標位置特定部32によって特定された物標の車両座標系座標Pbと、車両2のオドメトリ情報Qと、に基づいて、ローカル座標系地図データ58(
図5)を生成することで、当該ローカル座標系地図データ58を取得する。
ローカル座標系地図データ58は、その時点までの1又は複数回の物標検出タイミングTaに亘って車両座標系物標位置特定部32によって特定された物標の各々の位置を含むデータである。この位置はローカル座標系Ccのローカル座標系座標Pcによって表されている。すなわち、ローカル座標系地図データ58は、ローカル座標系Ccが設定される上記起点タイミングT0を起点として生成されるテンポラリーなデータである。
【0022】
図3はオドメトリ情報Qの説明図である。
オドメトリ情報Qは、
図3に示すように、ローカル座標系Ccを用いて、あるタイミングTnでの車両2の位置Qp、及び回転角Qθを表した情報である。
車両2の位置Qpは、あるタイミングTnでの車両座標系Cbの原点Obに対応し、また、回転角Qθは、ローカル座標系Ccにおける車両座標系CbのXb軸、及びYb軸の回転角に対応する。すなわち、物標検出タイミングTaごとに異なる車両座標系Cbの各車両座標系座標Pbは、対応する物標検出タイミングTaでのオドメトリ情報Qを用いることで、ローカル座標系Ccのローカル座標系座標Pcに変換可能となる。
ローカル座標系地図取得部34は、ローカル座標系地図データ58を生成によって取得する際、車両座標系物標位置特定部32によって特定されている物標の車両座標系座標Pbごとに、その物標が特定されたときのオドメトリ情報Qを用いて、車両座標系座標Pbをローカル座標系座標Pcに変換する。この変換により、互いに異なる車両座標系Cbの各物標を、車両2にとって固有のローカル座標系Ccにマッピングしたローカル座標系地図データ58が得られる。
【0023】
なお、ローカル座標系地図データ58の生成は、車両座標系物標位置特定部32によって物標の車両座標系座標Pbが特定されるごと(すなわち、物標検出タイミングTaごと)に行われてもよいし、複数回に亘る物標検出タイミングTaの後に、それぞれの物標検出タイミングTaで特定された物標を対象に纏めて行われてもよい。
【0024】
図1に戻り、オドメトリ部36は、物標検出タイミングTaに同期して上述のオドメトリ情報Qを特定し、ローカル座標系地図取得部34に出力する。
具体的には、オドメトリ部36は、車速センサ20によって順次に検出される車速、及び、舵角センサ22によって順次に検出される舵角のそれぞれを、上記起点タイミングT0から現時点まで累積演算することで、ローカル座標系Ccにおける現時点での車両2の位置Qp、及び車体の回転角Qθを求める。
なお、車速、及び舵角からオドメトリ情報Qを求める手法には、
周知または公知の適宜のデッドレコニング技術を用いることができる。
【0025】
位置推定部38は、ローカル座標系地図取得部34によって取得されたローカル座標系地図データ58と、学習済地図取得部31によって取得された学習済地図データ50と、のそれぞれに記録されている共通の物標同士を照合(「マッチング」とも呼ばれる)する。そして位置推定部38は、照合結果を用いて、学習済地図データ50の基準座標系Caにおいて車両2の現在の位置(すなわち原点Ob)に対応する基準座標系座標Paを特定する。かかる基準座標系座標Paが車両2の自己位置の推定結果となる。
【0026】
移動状態判定部40、及び照合範囲変更部42は、車両2の旋回時における位置推定部38による位置推定の精度を高めるために設けられた機能的構成部である。
移動状態判定部40は、移動状態検出デバイス群6の検出結果に基づいて、車両2の旋回、及び車速を判定する。車両2の旋回は舵角に基づいて判定されており、舵角が所定角度(例えば90度)以上である場合、車両2が旋回状態であると判定される。
【0027】
照合範囲変更部42は、ローカル座標系地図データ58において学習済地図データ50との照合に用いる座標範囲(以下、「照合座標範囲」と言い、符号Gfを付す)を車両2の移動状態に基づいて変更する。
具体的には、照合範囲変更部42は、車両2が旋回中である場合、ローカル座標系地図データ58に記録された座標範囲において照合座標範囲Gfを車両2の進行方向D(
図5、
図6)の前方に制限して狭める。また照合範囲変更部42は、車両2の旋回終了時に、照合座標範囲Gfの制限を解除して制限前に戻す。この解除の際、照合範囲変更部42は、車両2の車速に応じた度合いで照合座標範囲Gfを漸次に拡張する。
【0028】
図4は、車両位置推定装置10が実行する自己位置推定処理のフローチャートである。
自己位置推定処理は、車両2の自己位置を推定するための処理であり、デッドレコニング技術を用いた自己位置推定を要する適宜のタイミングで、1回又は複数回に亘って実行される。かかるタイミングとしては、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)の電波が届きにくいトンネル内を車両2が走行する際にデッドレコニング技術を用いて自己位置を推定するタイミング、また例えばGNSSの測位分解能よりも高い分解能での車両制御(例えば自動運転制御)を要する際にデッドレコニング技術を用いて自己位置を推定するタイミングなどが挙げられる。
【0029】
また、上述の通り、車両位置推定装置10は、起点タイミングT0(本実施形態では車両2のエンジン始動時)からローカル座標系地図取得部34がローカル座標系地図データ58を逐次に生成することで取得し、かかるローカル座標系地図データ58がRAMなどのメモリデバイスに逐次に更新記録されている。
【0030】
図4に示すように、車両位置推定装置10は車両2の自己位置を推定する場合、学習済地図データ50が位置推定部38に読み込まれ(ステップS1)、位置推定部38が学習済地図データ50とローカル座標系地図データ58との照合(マッチング)を行う。この照合の際、先ず、照合範囲変更部42が、その時点での車両2の移動状態に基づいて、ローカル座標系地図データ58の照合座標範囲Gfを変更する。
【0031】
具体的には、車両2が旋回中であると移動状態判定部40が判定した場合(ステップS2:Yes)、照合範囲変更部42は、ローカル座標系地図データ58の照合座標範囲Gfを、現時点の車両2よりも進行方向Dの前方に制限することで、当該照合座標範囲Gfを狭める(ステップS3)。
そして、位置推定部38は、ローカル座標系地図データ58の照合座標範囲Gfと、学習済地図データ50と、のそれぞれに記録されている共通の物標同士を照合し(ステップS4)、照合結果に基づいて、基準座標系Caでの車両2の自己位置を推定する(ステップS5)。
【0032】
図5は、学習済地図データ50、及びローカル座標系地図データ58の一例を模式的に示す図である。同図には、T字路周辺の物標(例えば縁石や白線など)の位置を記録した学習済地図データ50、及びローカル座標系地図データ58が示されている。また同図において、T字路の路面の軸Kを示す線、及び、車両2を示す矩形はそれぞれ、理解を容易にするために便宜的に示したものであり、学習済地図データ50、及びローカル座標系地図データ58に記録されるものではない。
【0033】
本実施形態の車両位置推定装置10には、舵角と回転角Qθとの関係を予め規定した参照データがメモリデバイス、或いはストレージ装置に格納されており、移動状態判定部40によって車両2が旋回中であると判定された場合、オドメトリ部36は、この参照データを参照し、車両2の舵角に基づいて車両2の回転角Qθを特定している。
しかしながら、参照データの精度や車両2の個体差、旋回時の車体の滑り等の様々な要因により、
デッドレコニングによる旋回時のオドメトリ情報Qには、回転角Qθや車両2の位置に誤差が生じ易い。かかる誤差が生じることで、ローカル座標系地図データ58に記録された物標の位置に誤差が生じ、学習済地図データ50の物標の位置との間に齟齬が生じる。例えば
図5の例では、Y字路の周囲の物標に誤差が生じ、Y字路の各路面の軸Kが成す角度αに齟齬が生じている。そして、かかる齟齬が生じた状態において、上記ステップS4の照合を行うと、照合精度が低下し、結果として、ステップS5における自己位置の推定精度の低下を招く。
【0034】
本実施形態では、上述の通り、車両2が旋回中であると移動状態判定部40によって判定された場合(ステップS2:Yes)、
図6に示すように、ローカル座標系地図データ58の照合座標範囲Gfが車両2よりも進行方向Dの前方の範囲に制限されて狭められる。この制限により、ローカル座標系地図データ58において、車両2よりも進行方向Dの前方の座標範囲に存在する物標のみが、学習済地図データ50との照合に用いられるため、両者の照合時の誤差を生じ難くすることができ、自己位置推定の精度低下を抑制することができる。
また、ローカル座標系地図データ58の照合座標範囲Gfが、車両2の進行方向Dとは逆方向の範囲、すなわち車両2が既に通過した範囲ではなく、車両2がこれから進入する範囲(進行方向Dの前方の範囲)に設定されることで、照合座標範囲Gfが狭められた場合でも、進入先に対する自己位置の推定精度を維持できる。
【0035】
なお、照合座標範囲Gfが制限される際、その制限の境界M(
図6)は、車両2を基準に定められる。この場合において、境界Mは、車両2を横断するように定められてもよいし、車両2の外を延在するように定められてもよい。
【0036】
前掲
図4に戻り、車両2が旋回中ではないものの(ステップS2:No)、旋回終了直後であると移動状態判定部40によって判定されている場合(ステップS6:Yes)、すなわち、ローカル座標系地図データ58における照合座標範囲Gfが制限前よりも狭められている場合、照合範囲変更部42は、その照合座標範囲Gfを、車速に応じた度合いで、制限前の照合座標範囲Gfの広さを限度に、車両2の進行方向Dと逆方向に拡張する(ステップS7)。
より具体的には、照合範囲変更部42は、
図7に示すように、車速に応じた距離Lだけ旋回終了直後の位置から進行方向Dと反対方向に境界Mを移動して照合座標範囲Gfを拡張する。
【0037】
そして、位置推定部38が、ローカル座標系地図データ58における拡張後の照合座標範囲Gfと、学習済地図データ50と、のそれぞれに記録されている共通の物標同士を照合し(ステップS4)、照合結果に基づいて、基準座標系Caでの車両2の自己位置を推定する(ステップS5)。
【0038】
このように、照合座標範囲Gfが旋回終了直後に当初の範囲まで一度に戻される事がないため、旋回終了直後において、旋回時のオドメトリ情報Qに含まれる誤差に起因した自己位置推定精度の低下を招くことがない。
ここで、旋回終了後の車速が速いほど、単位時間当たりの車両2の走行距離が大きくなる。この場合、車両2を基準に一定量ずつ照合座標範囲Gfを拡張する構成であると、車両2の走行距離に対し、照合座標範囲Gfの大きさが十分でないことがある。
これに対し、本実施形態では車両2の旋回後に、車速に応じた度合いで照合座標範囲Gfが漸次に拡張されるので、車両2の速さや走行距離に見合った十分な大きさの照合座標範囲Gfを確保でき、自己位置推定精度の低下を防止できる。なお、照合座標範囲Gfを拡張する際には、車速に代えて走行距離を用いてもよい。
【0039】
なお、
図4に示す自己位置推定処理において、車両2が旋回中でなく(ステップS2:No)、旋回終了直後でもないと移動状態判定部40によって判定されたときは(ステップS6:Yes)、照合範囲変更部42による照合座標範囲Gfの制限を受けない状態で、位置推定部38がローカル座標系地図データ58と、学習済地図データ50とを照合し(ステップS4)、自己位置を推定する(ステップS5)。
【0040】
車両位置推定装置10は、ローカル座標系地図データ58に基づいて学習済地図データ50を学習する処理を、自己位置推定処理の後の適宜のタイミングで行う。
具体的には、車両位置推定装置10は、学習済地図データ50を学習する地図学習部56(
図1)を備え、地図学習部56が適宜のタイミングでローカル座標系地図データ58に基づいて学習済地図データ50を更新することで学習する。かかる学習において、地図学習部56は、ローカル座標系地図データ58と、学習済地図データ50との照合の結果、両者の一致性が所定値以上の場合、ローカル座標系地図データ58によって学習済地図データ50を更新する。また、地図学習部56は、ローカル座標系地図データ58が示すエリアの学習済地図データ50が学習済地図記憶部30に記憶されていない場合には、そのエリアのローカル座標系地図データ58を学習済地図データ50に加えることで、そのエリアの地図を学習する。
【0041】
上述の実施形態によれば、次の効果を奏する。
【0042】
本実施形態では、車両位置推定装置10が、車両2が旋回中である場合に、ローカル座標系地図データ58において位置推定部38による照合に用いる照合座標範囲Gfを狭める照合範囲変更部42を備える。
これにより、ローカル座標系地図データ58において、狭められた座標範囲に存在する物標のみが、学習済地図データ50との照合に用いられるため、照合時の誤差を生じ難くすることができ、自己位置推定の精度低下を抑制することができる。
【0043】
本実施形態では、照合範囲変更部42は、照合座標範囲Gfを車両2よりも進行方向Dの前方に制限することで、当該照合座標範囲Gfを狭める。
これにより、照合座標範囲Gfが狭められた場合でも、車両2の進入先に対する自己位置の推定精度を維持できる。
【0044】
本実施形態では、照合範囲変更部42は、旋回終了後に照合座標範囲Gfを戻す場合、当該照合座標範囲Gfを漸次に拡張する。これにより、旋回終了直後に照合座標範囲Gfが制限前の範囲まで一度に戻され、旋回時のオドメトリ情報Qに含まれる誤差の影響が大きくなってしまうことがないので、自己位置推定精度の低下が抑えられる。
【0045】
本実施形態では、照合範囲変更部42は、車両2の速さに応じた度合いで照合座標範囲Gfを漸次に拡張する。車両2の速さに見合った十分な大きさの照合座標範囲Gfを確保でき、自己位置推定精度の低下を防止できる。
【0046】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、及び応用が可能である。
【0047】
上述した実施形態では、ローカル座標系地図取得部34は、ローカル座標系地図データ58を生成することで取得したが、これに限らない。すなわち、ローカル座標系地図取得部34は、ローカル座標系地図データ58を、車両位置推定装置10とは異なる他の装置から取得してもよい。
【0048】
上述した実施形態では、基準座標系Caとして、車両2に設定された座標系を用いたが、これに限らず、地理座標系などの座標系(すなわち、車両2に依存しない座標系)でもよい。
【0049】
図1に示す機能ブロックは、本願発明を理解容易にするために、車載システムや車両位置推定装置の構成要素を主な処理内容に応じて分類して示した概略図であり、これらの構成要素は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0050】
本発明は、車両に限らず、任意の移動体を位置推定対象物とした自己位置推定に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 車載システム
2 車両
4 物標検出デバイス群
6 移動状態検出デバイス群
10 車両位置推定装置(位置推定装置)
20 車速センサ
22 舵角センサ
31 学習済地図取得部(第1座標系データ取得部)
34 ローカル座標系地図取得部(第2座標系データ取得部)
36 オドメトリ部
38 位置推定部
40 移動状態判定部
42 照合範囲変更部
50 学習済地図データ(第1座標系データ)
58 ローカル座標系地図データ(第2座標系データ)
Ca 基準座標系(第1座標系)
Cb 車両座標系
Cc ローカル座標系(第2座標系)
D 進行方向
Gf 照合座標範囲(座標の範囲)
Q オドメトリ情報