(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ製造方法および眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/08 20060101AFI20240118BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20240118BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G02C7/08
G02C7/02
B29C33/12
(21)【出願番号】P 2019561099
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2018046520
(87)【国際公開番号】W WO2019124352
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2017242804
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017242805
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】星 雄治
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0068095(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0131567(US,A1)
【文献】特開2007-256923(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030207(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
B29C 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料で形成され凸状の物体側面および凹状の眼球側面によって構成された基部と、前記基部を構成する材料とは異なる材料で形成され前記基部に埋設された光学素子とを備えている眼鏡レンズ製造方法であって、
開閉可能な第1のモールドと第2のモールドとを含む成形型のキャビティ内に配置されるように光学素子を設けるステップと、
前記成形型のキャビティ内に前記眼鏡レンズの基部を構成する樹脂材料を導入するステップと、
前記基部を構成する樹脂の樹脂材料を硬化させ前記眼鏡レンズを得るステップと、
前記成形型を分解するステップと、
前記眼鏡レンズを成形型から取り外すステップと、を備え、
前記光学素子が、前記基部を構成する樹脂とは異なる樹脂で形成され、一部分が前記基部から露出した状態で前記基部内に埋設された複数の小玉部であり、
前記光学素子を設けるステップが、
前記凸状の物体側面をモールドするための凹状の成形面を備えた前記第1のモールドを準備するステップと、
前記複数の小玉部を構成するために、所定粘度に設定された樹脂材料を、前記凹状の成形面の所定位置に所定量ずつ滴下することにより
凹状の成形面上に略半球状の形態で配置するステップと、
前記小玉部を構成する樹脂の樹脂材料を硬化させるステップと、
前記所定位置に前記樹脂材料が硬化している前記第1のモールドの成形面が、前記キャビティの一部を構成するように、成形型を組み立てるステップと、
を有している、
眼鏡レンズ製造方法。
【請求項2】
前記各小玉部は、前記基部より大きな屈折力を有している、
請求項1に記載の眼鏡レンズ
製造方法。
【請求項3】
前記小玉部の直径rが0.8乃至2.0mmである、
請求項1または2に記載の眼鏡レンズ
製造方法。
【請求項4】
前記小玉部が、チオウレタン材料で構成されている、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ
製造方法。
【請求項5】
前記小玉部の屈折力は、前記基部の屈折力より2.00から5.00ディオプター大きい、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ
製造方法。
【請求項6】
隣接する前記小玉部の間隔は、該小玉部の半径(r/2)と等しい距離に設定されている、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ
製造方法。
【請求項7】
前記眼鏡レンズは、近視進行抑制用のレンズである、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、眼鏡レンズ製造方法および眼鏡レンズに関し、詳細には、光学要素が内部に埋設されている眼鏡レンズ製造方法および眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の付加的な機能を眼鏡レンズに付与するため、眼鏡レンズの内部に光学素子を埋設したレンズが提案されている。
例えば、近視等の屈折異常の進行を抑制するために、眼鏡レンズの所定部分に、例えば、直径1mm程度の半球(平凸)状の多数の小玉部(光学素子)を配置したプラスチック製の眼鏡レンズが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、多数の小玉部が眼鏡レンズの凸面上に配置されている構成に加え、多数の小玉部が眼鏡レンズ内に埋設された状態で配置されている構成も提案されている。
さらに、特許文献2では、ウエアラブル端末用の眼鏡レンズとして利用するために、光学素子としての導光部材(回折格子)を、外部に露出させることなく内部に埋設した眼鏡レンズ(光学デバイス)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国出願公開第2017/131567号
【文献】国際公開WO2017/030207号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学素子である多数の小玉部が凸面上に配置された眼鏡レンズを大量に生産する場合には、一方の成形面に多数の微小な凹部が形成された成形型にレンズ材料を流し込む、あるいは注入する製造方法が採用される。しかしながら、多数の小玉部が眼鏡レンズ内に埋設された状態で配置されている眼鏡レンズは、上記のような製造方法を採用することができないため、大量に生産することが容易ではないという課題を有していた。
【0005】
また、引用文献2で提案されているような、光学素子が外部に露出することなく内部に埋設された眼鏡レンズは、光学素子を内部の所定位置に配置することが容易ではないため、大量に生産することが困難であるという課題を有していた。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、内部に光学素子が埋設された状態で配置されている眼鏡レンズを、容易かつ大量に生産することができる眼鏡レンズ製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
さらに、本発明は、このような眼鏡レンズ製造方法で製造された眼鏡レンズを提供することも目的とする。
また、そのような眼鏡レンズ製造方法によって製造された眼鏡レンズが提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
樹脂材料で形成され凸状の物体側面および凹状の眼球側面によって構成された基部と、前記基部を構成する材料とは異なる材料で形成され前記基部に埋設された光学素子とを備えている眼鏡レンズ製造方法であって、
開閉可能な第1のモールドと第2のモールドとを含む成形型のキャビティ内に配置されるように光学素子を設けるステップと、
前記成形型のキャビティ内に前記眼鏡レンズの基部を構成する樹脂材料を導入するステップと、
前記基部を構成する樹脂の樹脂材料を硬化させ前記眼鏡レンズを得るステップと、
前記成型型を分解するステップと、
前記眼鏡レンズを成形型から取り外すステップと、を備えている、
ことを特徴とするレンズ製造方法。
【0009】
このような構成によれば、光学素子が埋設された眼鏡レンズを容易かつ大量に生産することができる。
【0010】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光学素子が、前記基部を構成する樹脂とは異なる樹脂で形成され一部分が前記基部から露出した状態で前記基部内に埋設された複数の小玉部であり、
前記光学素子を設けるステップが、
前記小玉部を構成する樹脂の樹脂材料を、前記成形型の第1のモールドの表面の所定位置に配置するステップと、
前記小玉部を構成する樹脂の樹脂材料を硬化させるステップと、を有している。
【0011】
このような構成によれば、基部を構成する樹脂の樹脂材料が成形型のキャビティ内に導入されたとき、成形型の第1のモールドの表面の所定位置で硬化され小玉部が、基部を構成する樹脂材料内に取り込まれるため、モールド等に特別な加工等を施すことなく、小玉部が基部内に埋設状態で配置された眼鏡レンズを製造することが可能となる。
【0012】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記各小玉部は、前記基部より大きな屈折力を有している。
【0013】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記小玉部の直径rが0.8乃至2.0mmである。
【0014】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記小玉部が、チオウレタン材料で構成されている。
【0015】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記小玉部の屈折力は、前記基部の屈折力より2.00から5.00ディオプター大きい。
【0016】
本発明の他の好ましい態様によれば、
隣接する前記小玉部の間隔は、該小玉部の半径(r/2)と等しい距離に設定されている。
【0017】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光学素子を設けるステップが、
成形型の第1のモールドの表面の所定位置に前記光学素子のための台座を配置するステップと、
前記台座上に前記光学素子を載置するステップと、を有している。
【0018】
このような構成によれば、第1のモールドの表面に配置する台座上に光学素子を載置するという簡単な作業で、キャビティ内の所定位置に光学素子を配置することができるので、眼鏡レンズ内の所定位置に光学素子が配置された樹脂製の眼鏡レンズを容易に製造することができる。
【0019】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記台座が、前記眼鏡レンズを構成する樹脂と同一の樹脂で構成され、
前記台座上に前記光学素子を載置するステップの後、前記台座を構成する樹脂を硬化させるステップを有している。
【0020】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光学素子が、短冊状の導光素子である。
【0021】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記基部は近視を矯正する屈折力を有している。
【0022】
本発明の他の態様によれば、
樹脂材料で形成された基部と、
前記基部を構成する樹脂とは異なる樹脂で形成され、前記基部の内部に完全に埋設された複数の小玉部と、を備えている、
ことを特徴とする眼鏡レンズが提供される。
【0023】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記基部は近視を矯正する屈折力を有し、
前記各小玉部は、前記基部より大きな屈折力を有している。
【0024】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記小玉部の屈折力は、前記基部の屈折力より2.00から5.00ディオプター大きい。
【0025】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記小玉部の直径rは0.8乃至2.0mmである。
【0026】
本発明の他の好ましい態様によれば、
隣接する前記小玉部の間隔は、該小玉部の半径(r/2)と等しい距離に設定されている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、内部に光学素子が埋設された状態で配置されている眼鏡レンズを、容易かつ大量に生産することができる眼鏡レンズ製造方法を提供することができる。
また、そのような眼鏡レンズ製造方法によって製造された眼鏡レンズが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態の眼鏡レンズ製造方法により製造される眼鏡レンズの模式的な平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の眼鏡レンズ製造方法により製造される眼鏡レンズの模式的な断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の眼鏡レンズ製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図4】
図3に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図3に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図6】
図3に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図7】
図3に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図8】
図3に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態の眼鏡レンズ製造方法により製造された眼鏡レンズの模式的な斜視図である。
【
図11】本発明の第2の眼鏡レンズ製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図12】
図11に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図13】
図11に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図14】
図11に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図15】
図11に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図16】
図11に示す眼鏡レンズ製造方法を説明するための模式図である。
【
図17】本発明の第3の実施形態の眼鏡レンズ製造方法により製造された眼鏡レンズの模式的な断面図である。
【
図18】
図17に示す眼鏡レンズを製造する方法を説明するための模式図である。
【
図19】
図17に示す眼鏡レンズを製造する方法を説明するための模式図である。
【
図20】
図17に示す眼鏡レンズの作用を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態の眼鏡レンズ製造方法を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の眼鏡レンズ製造方法により製造される眼鏡レンズ1の模式的な平面図であり、
図2は、眼鏡レンズ1の模式的な断面図である。
【0030】
図1および
図2に示されているように、眼鏡レンズ1は、眼鏡レンズ本体(基部)2を備えている。眼鏡レンズ本体(基部)2は、凸状の物体側面(外側面)4、および凹状の眼球側面(内側面)6を備えている。さらに、本実施態様では、物体側面4上に、ハードコート層8と、反射防止膜(AR膜)10とが設けられている。
【0031】
眼鏡レンズ本体2の物体側面4側には、多数の半球状の小玉部(光学素子)12が、眼鏡レンズ本体2内に埋設された状態で配置されている。小玉部12は、
図1に示されているように、平面視において眼鏡レンズ本体2の中心部の環状領域に規則的に配置されている。さらに、各小玉部12は、
図1に示されているように、断面視においては、一部分、詳細には平面部12aが眼鏡レンズ本体2の凸状の物体側面4と面一となって外部に露出するように配置されている。
【0032】
上述した特許文献1にも記載されているように、多数の小玉部が眼鏡レンズ内に埋設された状態で配置された眼鏡レンズを使用することで、眼鏡装着者の近視等の屈折異常の進行を抑制できることが知られている。その原理は、下記で詳細に説明するが、近視を矯正する眼鏡レンズの基部より大きな屈折力を有する小玉部により、網膜の手前にも像を結ばせ、近視の進行が抑制するというものである。ここで、小玉部の屈折力は、眼鏡レンズの基部の屈折力より2.00から5.00ディオプター大きいことが好適である。
【0033】
本実施態様においては、眼鏡レンズ本体2は、例えば屈折率が1.590ないし1.578程度のチオウレタン系の樹脂(熱硬化性樹脂)で形成されている。また、小玉部12は、例えば屈折率が1.5955程度で、眼鏡レンズ本体2を形成する樹脂との密着性に優れたチオウレタン系の樹脂(熱硬化性樹脂)で形成されている。眼鏡レンズ本体2を形成する樹脂および小玉部12を形成する樹脂の種類は、屈折率も考慮し適宜、選択された他の熱硬化性樹脂でもよい。
【0034】
また、本実施態様では、半球状の小玉部12は、直径rが0.8乃至2.0mm程度、厚さが0.1乃至1.15mm程度に設定されている。また、小玉部12の間隔は、小玉部12の半径(r/2)程度に設定されているのが好ましい。
【0035】
次に、眼鏡レンズ1の製造方法について説明する。
まず、眼鏡レンズ1の製造に使用する第1のモールド20を準備する(S1)。第1のモールド20は、プラスチック製の眼鏡レンズを製造するために使用される公知のモールドと同様にガラス等の材料で構成され、
図4に示されているように、眼鏡レンズ1の凸状の物体側面4をモールドするための凹状の成形面22を備えている。
【0036】
次いで、
図5に示されているように、第1のモールド20の凹状の成形面22の所定位置に、小玉部12を構成する樹脂の樹脂材料(原料モノマーM2)を、ディスペンサを用いて、所定量ずつ所定位置に配置(滴下)していく(S2)。滴下された原料モノマーM2は、表面張力等によって、成形面22上で略半球状(平凸レンズ状)の形態をとる。成形面22に配置される原料モノマーM2の粘度、量等は、配置した原料モノマーM2が硬化後に、所望の寸法形状の小玉部12となるように設定される。
【0037】
次いで、成形面22上に滴下された半球状の原料モノマーM2を硬化させる(S3)。本実施形態の製造方法では、滴下された原料モノマーM2を、室温下で所定時間、放置することによって硬化させた。しかしながら、原料モノマーの種類、作業環境等に応じ、熱等によって、原料モノマーM2を硬化させても良い。
【0038】
さらに、
図6に示されているように、成形面22上の所定位置で滴下された原料モノマーM2が硬化している第1のモールド20を、他のモールド24、25等と組み合わせて成形型26を組み立て、成形型26の内部のキャビティ28を閉鎖する(S4)。このとき、第1のモールド20の成形面22は、キャビティ28の一部を構成することになる(
図6)。
【0039】
次いで、
図7に示されているように、キャビティ28内に、眼鏡レンズ本体2を構成する原料モノマー(樹脂材料)M1を流し込む即ち導入する(S5)。このとき、第1のモールド20の成形面22の所定位置では、小玉部12を構成する原料モノマーM2は硬化し小玉部12となっているので、この小玉部12は、キャビティ28内に導入された眼鏡レンズ本体2を構成する原料モノマーM1内に取り込まれる。
【0040】
さらに、キャビティ28内に導入された眼鏡レンズ本体2を構成する原料モノマー(樹脂材料)M1を、所定温度まで加熱することによってキャビティ28内で硬化させる(S6)。この結果、小玉部12が眼鏡レンズ本体2の内部に埋設された構造を有している眼鏡レンズが、キャビティ内28に形成される。成形面22と接触している小玉部12の面は、成形面22と接触している眼鏡レンズ本体2の物体側面4と面一となり、小玉部12は、この部分(平面部22a)で眼鏡レンズ本体2から外部に露出することになる。
【0041】
最後に、成形型26を分解し、キャビティ28内で成形された眼鏡レンズ1を成形型26から取り外す即ち離型させる(S7)。
【0042】
その後、眼鏡レンズ本体2の凸面3上にハードコート層8、および反射防止膜10を形成し、眼鏡レンズ1が、最終的に完成する。
【0043】
上記第1の本実施形態では、眼鏡レンズ本体および小玉部を形成する樹脂として、熱硬化性樹脂が使用されたが、熱硬化性樹脂に代えて、眼鏡レンズに使用される一般的な熱可塑性樹脂を使用してもよい。
【0044】
また、上記第1の実施形態では、第1のモールド20が眼鏡レンズ1の凸状の物体側面4をモールドするための凹状の成形面22を備え、この凹状の成形面22で眼鏡レンズの凸状の物体側面4を成形する構成であったが、第1のモールドが眼鏡レンズの凹状の眼球側面をモールドする凸状の成形面を備え、この凸状の成形面で眼鏡レンズの凹状の眼球側面を成形する構成でもよい。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態の眼鏡レンズ製造方法を詳細に説明する。
まず、本発明の第2の実施形態の眼鏡レンズ製造方法によって製造された眼鏡レンズの構成を説明する。
図9は、本発明の第2の実施形態の眼鏡レンズ製造方法により製造された眼鏡レンズ1の模式的な斜視図であり、
図10は、
図9のX-X線に沿った断面図である。
【0046】
図9および
図10に示されているように、眼鏡レンズ1は、眼鏡レンズ本体202を備えている。眼鏡レンズ本体202は、熱硬化性樹脂によって形成され、凸状の物体側面204および凹状の眼球側面206を備えている。
【0047】
眼鏡レンズ本体202の内部には、光学素子である短冊状の回折格子208が、眼鏡レンズ本体202内に埋設された状態で配置されている。回折格子208は、
図9に示されているように、平面視において眼鏡レンズ本体202の中心からオフセットした位置で、径方向に延びるように配置されている。さらに、回折格子8は、
図2に示されているように、断面視においては、眼鏡レンズ本体202の物体側面(外側面)204および眼球側面(内側面)206から外部に露出しないように、即ち、眼鏡レンズ本体202を形成する樹脂で完全に包囲された状態で配置されている。
【0048】
次に、眼鏡レンズ201の製造方法について説明する。
まず、眼鏡レンズ201の製造に使用する第1のモールド220を準備する(S21)。第1のモールド220は、プラスチック製の眼鏡レンズを製造するために使用される公知のモールドと同様にガラス等の材料で構成され、
図12に示されているように、眼鏡レンズ201の凸状の物体側面204をモールドするための凹状の成形面222を備えている。
【0049】
次いで、
図13に示されているように、第1のモールド220の凹状の成形面222上の所定位置に、回折格子(光学素子)208を載置するための台座224を配置する(S22)。本実施態様の眼鏡レンズ製造方法では、台座224は、眼鏡レンズ本体202を構成する熱硬化性樹脂と同一種類の熱硬化性樹脂で形成されている。したがって、このステップでは、第1のモールド220の成形面222上に、眼鏡レンズ本体202を構成する樹脂の樹脂材料(モノマー)を頂部が水平面となる略直方体状に配置し、台座224を形成する。
【0050】
次いで、
図14に示されているように、台座224の頂部に、光学素子である回折格子208を載置する(S23)。この結果、回折格子208は、第1のモールド220の成形面222から離間した状態で保持されることになる。本実施態様の眼鏡レンズ製造方法では、台座224を形成する樹脂が未硬化の状態で、回折格子208が台座224上に載置される。
【0051】
次いで、台座224を構成する樹脂を硬化させる(S24)。樹脂の硬化は、室温下での放置、あるいは加熱等によって行なわれる。
【0052】
さらに、
図15に示されているように、回折格子208が載置された台座224が成形面222に設けられている第1のモールド220を、他のモールド226、228等と組み合わせて成形型230を組み立て、成形型230の内部のキャビティ232を閉鎖する(S25)。第1のモールド220の成形面222上の台座224の頂部に載置されている回折格子208は、他のモールド226の成形面234等からも離間した位置に配置されることになる。
【0053】
次いで、
図16に示されているように、キャビティ232内に、眼鏡レンズ本体202を構成する樹脂の樹脂材料(原料モノマー)Mを充填する(S26)。回折格子208は、キャビティ232内で、第1のモールド220の成形面222、および他のモールド226の成形面234等のキャビティ232の内面から離間した状態であるので、充填された樹脂材料Mに包囲された状態、即ち樹脂材料Mから外部に露出しない状態となる。
【0054】
さらに、キャビティ232内に導入された眼鏡レンズ本体202を構成する樹脂材料Mを、所定温度まで加熱することによってキャビティ232内で硬化させる(S27)。この結果、光学素子である回折格子208が、眼鏡レンズ本体202内で樹脂に包囲されている眼鏡レンズが、キャビティ内232に形成される。
【0055】
最後に、成形型230を分解し、キャビティ232内で成形された眼鏡レンズ201を成形型230から取り外す即ち離型させる(S28)。
【0056】
本発明の前記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【0057】
上記実施形態では、樹脂として熱硬化性樹脂を使用したが、熱可塑性樹脂を使用してもよい。
【0058】
上記実施形態では、埋設される光学素子として回折格子が採用された眼鏡レンズ製造方法であったが、本発明は、他の光学素子を埋設した眼鏡レンズ製造方法にも適用できる。
【0059】
例えば、
図17に示されているような、眼鏡レンズ340の本体即ち基部342内に、基部342を構成する樹脂と異なった屈折率を有する樹脂で形成された小玉部344が埋設(即ち、外部に露出することなく配置)された眼鏡レンズ製造方法にも適用できる。尚、この眼鏡レンズでは、基部が近視を矯正する屈折力を備え、小玉部は基部より高い屈折力を有する。小玉部は基部より高い屈折力を有するため、焦点ずれを発生させて、眼鏡の装用者の近視等の屈折異常の進行を抑制できる。
【0060】
このような眼鏡レンズ340を製造する場合には、
図18に示されているように、第1のモールド320の成形面322の所定位置に、眼鏡レンズの本体(基部)342を構成する熱硬化性樹脂の樹脂材料と同一の樹脂材料で所定の寸法形状で形成された台座346を設ける。
【0061】
次いで、この台座346上に、眼鏡レンズの基部342を構成する熱硬化性樹脂とは異なる屈折率を有する熱硬化性樹脂の樹脂材料M2を、複数の所定位置にディスペンサ等で滴下していく。この樹脂材料M2は、表面張力で半球状となり、硬化後には小玉部344となる。
【0062】
さらに、樹脂材料M2を硬化させた後、
図19に示されるように、上記実施形態の製造方法と同様に、第1のモールド320を、他のモールド326、328等と組み合わせて成形型330を組み立て、成形型330の内部のキャビティ332を閉鎖する。
【0063】
さらに、上記実施形態のS26と同様に、キャビティ332内に、眼鏡レンズの基部342を構成する熱硬化性樹脂の樹脂材料を充填し、小玉部344が埋設即ち外部に露出することなく基部242の内部に配置された眼鏡レンズ340を得る。
【0064】
半球状の小玉部344は、直径rが0.8乃至2.0mm程度、厚さが0.1乃至1.15mm程度に設定されているのが好ましい。また、隣接する小玉部344の間隔は、小玉部244の半径(r/2)程度 に設定されているのが好ましい。さらに、小玉部244の屈折率は、基部42の屈折力より2.00から5.00ディオプター大きいことが好ましい。
【0065】
眼鏡レンズ340の基部342は、例えば屈折率が1.590ないし1.578程度のチオウレタン系の樹脂(熱硬化性樹脂)で形成され、小玉部344は、例えば屈折率が1.5955程度で、眼鏡レンズ340の基部342を形成する樹脂との密着性に優れたチオウレタン系の樹脂(熱硬化性樹脂)によって形成されている。眼鏡レンズ340の基部342を形成する樹脂および小玉部344を形成する樹脂の種類は、屈折率も考慮し適宜、選択された他の熱硬化性樹脂、あるいは熱可塑性樹脂でもよい。
【0066】
また、
図17に示されるような、眼鏡レンズの基部342を構成する樹脂と異なった屈折率を有する樹脂で形成された複数の小玉部344が埋設された眼鏡レンズは、焦点ずれを発生させて、眼鏡の装用者の近視等の屈折異常の進行を抑制できることが知られている。
【0067】
図20は、眼鏡レンズ340を通過して眼球に入射する光線、詳細には、基部342を通過する光線の軌跡と小玉部344を通過する光線の軌跡を示す図面である。
【0068】
図20に示されるように、近視を矯正する屈折力を有する眼鏡レンズ340の基部342を通過する光線は、網膜R上の位置fに合焦され、基部342より大きな屈折力を有する小玉部344を通過する光線は網膜Rの手前の位置f’に合焦される。即ち、眼鏡レンズ340を通過する光線は、網膜R上に像を結び、複数の小玉部344を通過する光線は、網膜Rの手前(レンズ側)に複数の像を結ぶ。この結果、眼鏡レンズ340を用いた眼鏡の装用者は物体の像を視認しながら、近視の進行が抑制されることになる。
【0069】
上記実施形態では、樹脂として熱硬化性樹脂を使用したが、熱可塑性樹脂を使用してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1:眼鏡レンズ
2:眼鏡レンズ本体(基部)
4:眼鏡レンズ本体(基部)の物体側面
6:眼鏡レンズ本体(基部)の眼球側面
8:ハードコート層
10:反射防止膜(AR膜)
12:小玉部
12a:小玉部の平面部
20:第1のモールド
22:第1のモールドの成形面
24:他のモールド
26:成形型
28:キャビティ
M1:眼鏡レンズ本体を構成する原料モノマー(樹脂材料)
M2:小玉部を構成する原料モノマー(樹脂材料)
201:眼鏡レンズ
202:眼鏡レンズ本体
204:眼鏡レンズ本体の物体側面
206:眼鏡レンズ本体の眼球側面
208:光学素子
220:第1のモールド
222:第1のモールドの成形面
224:台座
226:他のモールド
230:成形型
232:キャビティ