(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】構造体への補強部材の固定構造、構造体への補強部材の固定方法及び固定部材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
E04B1/24 F
(21)【出願番号】P 2020004397
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】323005120
【氏名又は名称】センクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 周平
(72)【発明者】
【氏名】林 郁実
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-031890(JP,A)
【文献】特開2013-057219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体への補強部材の固定構造であって、
前記構造体
は、一対のフランジがウェブで連結されたH型形状の構造体であり、
前記ウェブの一方の側に配置され、補強部材が固定されるガセットプレートが接合された第1の固定部材と、
前記
ウェブの他方の側に配置され、前記
ウェブを挟み込んで前記第1の固定部材とボルトで固定される第2の固定部材と、
を具備し、
一対の前記第2の固定部材が
、一対の前記フランジのそれぞれの側に分離されて配置されることを特徴とする構造体への補強部材の固定構造。
【請求項2】
一対の前記フランジの対向方向に対する前記第2の固定部材の前記ウェブとの接触面の中心線に対して、前記第2の固定部材に形成されるボルト孔が、前記中心線よりも、それぞれの前記フランジ側にずれていることを特徴とする請求項
1記載の構造体への補強部材の固定構造。
【請求項3】
一対の前記フランジのそれぞれの側に配置された前記第2の固定部材同士の対向方向において、前記第2の固定部材の一部に切欠き部が形成され、前記切欠き部以外が前記第2の固定部材同士の対向方向に突出する突部となることを特徴とする請求項
1又は請求項
2に記載の構造体への補強部材の固定構造。
【請求項4】
一対のそれぞれの前記第2の固定部材が、前記H型形状の構造体の長手方向に対して複数の分割片に分割されていることを特徴とする請求項
1から請求項
3のいずれかに記載の構造体への補強部材の固定構造。
【請求項5】
少なくとも前記H型形状の構造体の長手方向のそれぞれ端部に配置される前記分割片には、一対の前記フランジの対向方向に突出する、突部が形成されることを特徴とする請求項
4記載の構造体への補強部材の固定構造。
【請求項6】
前記第2の固定部材の前記フランジ側の端部において、前記ウェブとの接触面側の一部が切り欠かれ、前記ウェブと前記フランジとの接合部近傍のフィレットとの干渉を抑制する逃げ部が形成されることを特徴とする請求項
1から請求項
5のいずれかに記載の構造体への補強部材の固定構造。
【請求項7】
請求項
1から請求項
6のいずれかに記載の構造体への補強部材の固定構造の施工方法であって、
前記H型形状の構造体の一方の側に前記第1の固定部材を配置するとともに、前記H型形状の構造体の他方の側に、一対の前記第2の固定部材を配置し、前記第1の固定部材とそれぞれの前記第2の固定部材とで前記H型形状の構造体の前記ウェブを挟み込んで固定する工程と、
前記第1の固定部材に前記補強部材を固定する工程と、
を具備することを特徴とする構造体への補強部材の固定方法。
【請求項8】
ガセットプレート付固定部材を固定するための固定部材であって、
板状の本体部と、
前記本体部の一方の側に形成される切欠き部と、
前記本体部に形成されるボルト孔と、
を具備し、
前記本体部の前記一方の側において、前記切欠き部以外が突部となり、前記突部は、複数形成され、
前記本体部の前記一方の側に形成される前記突部の先端と、前記一方の側とは逆側の他方の側のウェブとの接触面の端部との中心線に対して、前記ボルト孔が、前記他方の側にずれて形成されることを特徴とする固定部材。
【請求項9】
前記固定部材が、複数の分割片に分割されていることを特徴とする請求項
8に記載の固定部材。
【請求項10】
少なくとも前記分割片には、一方の側に突出する突部が形成されることを特徴とする請求項
9記載の固定部材。
【請求項11】
前記固定部材の端部において、前記ウェブとの接触面側の一部が切り欠かれ、ウェブとフランジとの接合部近傍のフィレットとの干渉を抑制する逃げ部が形成されることを特徴とする請求項
10に記載の固定部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体を補強する補強部材が接合されるガセットプレート付固定部材を固定するための固定部材及びこれを用いた構造体への補強部材の固定構造及びその固定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既存の構造体に対して、ブレース等の補強部材を配置することで耐震補強を行う方法が行われている。この際、溶接ではなく、柱に固定部材を用いてブレース等を固定する方法がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図13は、一般的な補強部材固定構造100を示す図である。構造体111は、柱と梁とからなる。柱と梁は、例えば、一対のフランジ113がウェブ115で接合されたH形鋼からなる。補強部材固定構造100では、既存の構造体111に対して、補強部材107a、107bが新たに固定される。図示した例では、補強部材107aは、柱と梁との間の対角線上に配置され、補強部材107bは、隣り合う柱同士を梁に略平行に配置される。
【0005】
このような補強部材107a、107bを構造体111に固定するためには、固定部材101、103が用いられる。固定部材101は、ガセットプレート105が接合された部材である。ガセットプレート105は、補強部材107a、107bと接合可能である。
【0006】
固定部材101と固定部材103は、柱のウェブ115の両側に配置され、ウェブ115を貫通するボルトで固定される。すなわち、固定部材101と固定部材103とでウェブ115を挟み込み、両者がボルトで固定される。
【0007】
図14は、固定部材103側から見た図である。ガセットプレートが接合された固定部材101は、ウェブ115の背面側から、固定部材103によって柱に固定される。この際、ガセットプレートが接合された固定部材101は、補強部材107a、107bからの引張力を受け、ボルト117を介して力が固定部材103に伝達される。このため、これに耐えうるように、固定部材103には、リブ109が配置される。なお、固定用のボルト117は、リブ109の部位を避けて配置される。
【0008】
ボルト117から伝達される固定部材101からの引張力は、固定部材103を介してウェブ115に伝達される。この際、リブ109によって固定部材103の剛性が向上するため、仮にこれを一体化した剛体とすると、固定部材103とウェブ115との接触面の全面で均一な応力伝達が行われる。このため、固定部材103とウェブ115との接触面積を広くすることで、局所的な応力集中を避け、ウェブ115の変形を抑制することができる。
【0009】
一方、ガセットプレート105が接合された固定部材101は重いため、扱いづらい。このため、固定部材101を小型化する方法が考えられる。この場合でも、固定部材103のサイズが十分に大きければ、固定部材103からウェブ115へ伝達される接触面積を確保することができるため、ウェブ115の変形を抑制することが可能である。なお、この場合には、固定部材101の小型化に伴い、ボルト117の配置が、ウェブ115の中心側にずれることとなるが、前述したように、固定部材103が一体化した剛体であれば、接触面の全体に均一に力が付与されるため問題ない。
【0010】
これに対し、固定部材103側を小型化しても、作業性は向上する。しかし、固定部材103側を小型化しようとすると、前述したように、ウェブ115との接触面積が減少するため、ウェブ115への応力が大きくなり、ウェブ115の変形の恐れがある。このため、補強部材107a、107bからの引張力をウェブ115の背面側で受ける固定部材103については、剛性を高めて一体の剛体に近づけるとともに、ウェブ115への応力伝達面積を増やすことが望ましいとされてきた。
【0011】
しかし、通常は、補強部材107a、107bの接合や、より重量のある固定部材101を取り扱う必要があるため、柱の前面側で作業を行うことが多い。このため、柱の背面側への固定部材103の設置や固定作業を行う作業はやりにくい。このため、固定部材101のサイズはそのままであっても、固定部材103の取り扱いを容易にしたいという要望がある。しかし、前述したように、固定部材103をそのまま小型軽量化すると、剛性が低下するだけでなく、ウェブ115への応力伝達面積が低下するという問題がある。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、作業性に優れ、効率よく構造体を補強することが可能な構造体への補強部材の固定構造とその固定方法及びこれに用いられる固定部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、構造体への補強部材の固定構造であって、前記構造体は、一対のフランジがウェブで連結されたH型形状の構造体であり、前記ウェブの一方の側に配置され、補強部材が固定されるガセットプレートが接合された第1の固定部材と、前記ウェブの他方の側に配置され、前記ウェブを挟み込んで前記第1の固定部材とボルトで固定される第2の固定部材と、
を具備し、一対の前記第2の固定部材が、一対の前記フランジのそれぞれの側に分離されて配置されることを特徴とする構造体への補強部材の固定構造である。
【0015】
一対の前記フランジの対向方向に対する前記第2の固定部材の前記ウェブとの接触面の中心線に対して、前記第2の固定部材に形成されるボルト孔が、前記中心線よりも、それぞれの前記フランジ側にずれていることが望ましい。
【0016】
一対の前記フランジのそれぞれの側に配置された前記第2の固定部材同士の対向方向において、前記第2の固定部材の一部に切欠き部が形成され、前記切欠き部以外が前記第2の固定部材同士の対向方向に突出する突部となってもよい。
【0017】
一対のそれぞれの前記第2の固定部材が、前記H型形状の構造体の長手方向に対して複数の分割片に分割されていてもよい。
【0018】
少なくとも前記H型形状の構造体の長手方向のそれぞれ端部に配置される前記第2の固定部材の分割片には、一対の前記フランジの対向方向に突出する、突部が形成されてもよい。
【0019】
前記第2の固定部材の前記フランジ側の端部において、前記ウェブとの接触面側の一部が切り欠かれ、前記ウェブと前記フランジとの接合部近傍のフィレットとの干渉を抑制する逃げ部が形成されてもよい。
【0020】
第1の発明によれば、一対の第2の固定部材が、一対のフランジのそれぞれの側に分離されて配置されるため、個々の部材が小型化され軽量である。このため、取り扱いが容易である。また、第2の固定部材からの応力を、フランジ近傍のウェブにのみ優先的に伝達することで、ウェブの変形を最小限に抑制することができる。
【0021】
特に、第2の固定部材のボルト孔を、中心線よりもフランジ側にずらして配置することで、より効率良くフランジとウェブとの境界部近傍へ、応力を伝達することができる。
【0022】
また、分離された一対の第2の固定部材同士の対向側の一部に切欠きを形成することで、応力伝達への寄与の小さい部位の体積を減らし、軽量化することができる。この際、一部を突部として残すことで、第2の固定部材同士の対向方向への第2の固定部材の倒れ込みを抑制し、ボルトから伝達された応力を、効率良くフランジとウェブとの境界部近傍へ伝達することができる。
【0023】
また、一対のそれぞれの第2の固定部材を、H形鋼の長手方向に対してさらに複数の分割片に分割して配置することで、個々の部材をさらに小型化することができる。
【0024】
この場合には、H形鋼の長手方向のそれぞれ端部に配置される分割片に、一対のフランジの対向方向に突出する突部を形成することで、効率良くフランジとウェブとの境界部近傍へ応力を伝達することができる。
【0025】
また、第2の固定部材のフランジ側の端部において、ウェブとの接触面側の一部を切り欠き、ウェブとフランジとの接合部近傍のフィレットとの干渉を避ける逃げ部を形成することで、第2の固定部材をフランジに近接して配置することができる。このため、位置決めが容易である。
【0026】
第2の発明は、第1の発明にかかる補強部材の固定構造の施工方法であって、前記H型形状の構造体の一方の側に前記第1の固定部材を配置するとともに、前記H型形状の構造体の他方の側に、一対の前記第2の固定部材を配置し、前記第1の固定部材とそれぞれの前記第2の固定部材とで前記H型形状の構造体の前記ウェブを挟み込んで固定する工程と、前記第1の固定部材に前記補強部材を固定する工程と、を具備することを特徴とする構造体への補強部材の固定方法である。
【0027】
第3の発明は、ガセットプレート付固定部材を固定するための固定部材であって、板状の本体部と、前記本体部の一方の側に形成される切欠き部と、前記本体部に形成されるボルト孔と、を具備し、前記本体部の前記一方の側において、前記切欠き部以外が突部となり、前記突部は、複数形成され、前記本体部の前記一方の側に形成される前記突部の先端と、前記一方の側とは逆側の他方の側のウェブとの接触面の端部との中心線に対して、前記ボルト孔が、前記他方の側にずれて形成されることを特徴とする固定部材である。
【0028】
前記固定部材が、複数の分割片に分割されていてもよい。
【0029】
少なくとも前記分割片には、一方の側に突出する突部が形成されてもよい。
【0030】
前記固定部材の端部において、前記ウェブとの接触面側の一部が切り欠かれ、ウェブとフランジとの接合部近傍のフィレットとの干渉を抑制する逃げ部が形成されてもよい。
【0031】
第2、第3の発明によれば、容易に補強部材の固定構造を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、作業性に優れ、効率よく構造体を補強することが可能な構造体への補強部材の固定構造とその固定方法及びこれに用いられる固定部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】(a)は、補強部材固定構造10を示す図、(b)は(a)のD-D線断面図。
【
図3】補強部材固定構造10のボルト16近傍の拡大図。
【
図4】(a)、(b)は、固定部材1からの力の伝達状態の模式図。
【
図5】(a)は、固定部材1aの平面図、(b)は(a)のI-I線断面図。
【
図6】補強部材固定構造10aのボルト16近傍の拡大図。
【
図7】(a)~(d)は、固定部材1b~1eの平面図。
【
図8】(a)~(b)は、固定部材1f~1gの平面図。
【
図9】(a)は、固定部材1hの平面図、(b)は(a)のJ-J線断面図、(c)は(a)のK-K線断面図。
【
図10】(a)は、固定部材1iの平面図、(b)は(a)のL-L線断面図、(c)は、固定部材1jの平面図、(d)は(c)のM-M線断面図、(e)は、(c)の他のM-M線断面図。
【
図11】(a)は、補強部材固定構造10bを示す図、(b)は、補強部材固定構造10cを示す図。
【
図12】(a)は、補強部材固定構造10dを示す図、(b)は、補強部材固定構造10eを示す図。
【
図14】補強部材固定構造100の固定部材103側からみた図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施の形態にかかる補強部材固定構造10について説明する。
図1(a)は、固定部材1を用いた補強部材固定構造10を示す図、
図1(b)は、
図1(a)D-D線断面図である。
【0035】
補強部材固定構造10は、柱や梁などからなる構造体11への補強部材の固定構造である。構造体11を構成する柱等は、一対のフランジ13がウェブ15で連結されたH形鋼(H型形状の構造体)からなる。ウェブ15の一方の側には、第1の固定部材である固定部材17が配置され、ウェブ15の他方の側には、第2の固定部材である固定部材1が配置される。なお、構造体としては、H型形状の構造体でなくてもよい。
【0036】
固定部材17は、例えば鋼製であり、一体の板状部材に対して、補強部材が固定されるガセットプレート19と、リブとが接合される。なお、以下の図面において、補強部材の図示は省略するが、例えば、
図13に示した補強部材107a、107bがガセットプレート19へボルト等で固定される。
【0037】
一対の固定部材1は、一対のフランジ13のそれぞれの側に分離されて配置される。固定部材1と固定部材17とは、ウェブ15を挟み込んでボルト16で固定される。すなわち、固定部材1は、ガセットプレート付の固定部材17を固定するための部材である。
【0038】
図2は、固定部材1の平面図である。固定部材1は、全体として板状の部材であり、例えば鋼製である。固定部材1は、板状の本体部3と、本体部3に形成されるボルト孔5と、本体部3の一方の端部側の一部に形成される切欠き部9等から構成される。
【0039】
図2に示すように、切欠き部9は、略矩形の基準形状に対して形成されるものであり、切欠き部9以外の部位は、相対的に突出する突部7となる。図示した例では、固定部材1の長手方向(H形鋼の長手方向に対応する方向)の中央部の所定の範囲に略台形の切欠き部9が形成され、両端部に一対の突部7が形成される。突部7は、端部に行くにつれて幅が狭くなる台形である。なお、本体部3の突部7とは逆側の辺は、切欠き等が形成されず、一直線状に形成される。
【0040】
図1(a)に示すように、一対のフランジ13のそれぞれの側に配置された一対の固定部材1は、固定部材1同士の対向方向(図中左右方向)に切欠き部9が向くように配置される。したがって、それぞれの固定部材1の突部7は、固定部材1同士の対向方向に突出する向きとなる。また、突部7とは逆側の直線状の辺が、フランジ13に沿って配置される。なお、切欠き部9は、必ずしも必要ではなく、この場合には、本体部3は略矩形となる。
【0041】
ここで、
図2に示すように、本体部3の幅(一対のフランジ13の対向方向に対応する突部7の先端から本体部3の逆側の辺までの長さ)Aの中心線をCとする。すなわち、本体部3のウェブ15との接触面の中心線がCとなる。この場合、固定部材1に形成されるボルト孔5は、この中心線Cに対して、切欠き部9(突部7)の形成方向とは逆側にずれて配置される。すなわち、固定部材1をウェブ15に配置した際に、ボルト孔5は、中心線Cよりも、それぞれに近接するフランジ13側にずれて配置される。
【0042】
例えば、
図1(a)において、図中右側の固定部材1は、図中右側のフランジ13に沿って配置され、この固定部材1のボルト孔5は、固定部材1の中心線(図示せず)に対して右側のフランジ13側にずれて配置される。同様に、
図1(a)において、図中左側の固定部材1は、図中左側のフランジ13に沿って配置され、この固定部材1のボルト孔5は、固定部材1の中心線(図示せず)に対して左側のフランジ13側にずれて配置される。すなわち、ウェブ15のボルト孔は、フランジ13の近傍に配置される。
【0043】
ここで、従来のような一体の固定部材に対して、一対の固定部材1に分離して使用することで、個々の固定部材1を小型化することができる。しかし、前述したように、固定部材1が小型化することによって、ウェブ15との接触面積は小さくなり、力の伝達面積が小さくなる。しかし、発明者らは、鋭意研究の結果、固定部材1をあえて小型化し、フランジ13近傍のウェブ15にのみ力を優先的に伝達することで、効率良く固定部材1からの力をH形鋼へ伝達し、ウェブ15の変形を最小限に抑制することができることを見出した。すなわち、従来のように、全接触面積に均一に力を加えるのとは逆の発想により、フランジ13近傍の部位にのみ力を優先的に加えることで、結果的にウェブ15の変形を抑制することができることを見出した。
【0044】
図3は、
図1(b)において、ボルト16近傍の拡大図であり、
図4(a)は、力の伝達を示す模式図である。前述したように、ウェブ15の前面側(図中上方であって固定部材17側を前面とする)に配置された固定部材17には、ガセットプレート19を介して補強部材が接続される。この補強部材は、引張力を受け持つため、固定部材17は、補強部材方向へ力を受ける(図中上方であって矢印E)。固定部材17が受けた力は、ボルト16を介して固定部材1に伝達され、固定部材1はウェブ15へ力を伝達する。
【0045】
この際、ボルト16からの力を受ける部位が、固定部材1の中心線Cよりもフランジ13側にずれていると、ボルト16から近いフランジ13近傍への力の伝達が大きくなる(図中矢印F)。これは、以下の原理による。
【0046】
図4(a)に示すように、固定部材1からの力によってウェブ15はわずかに変形するが、この変形量はフランジ13から離れた方が大きくなる傾向にある。また、ウェブ15にわずかに変形が生じた状態では、固定部材1がウェブ15に面接触しているとすると、力の向きと接触面の向きがわずかに変わる。このような状態となると、固定部材1自身のわずかな変形も相まって、面接触の全面に均一に力がウェブ15へ伝達されず、固定部材1の位置により、力の伝達量に分布が生じる。
【0047】
この際、ボルト16が、固定部材1の中心線Cよりもフランジ13側にずらすことで、ウェブ15の変形量が少なくなり、ボルト16から近く、また、変形量の小さなフランジ13側への力の伝達が優先的となる。特に、固定部材1のフランジ13とは逆側には、突部7が形成される。すなわち、ボルト16から離れた位置でウェブ15と接触させることで、この部位での力の伝達量(図中矢印G)は相対的に少なくすることができるとともに、固定部材1の倒れ込み(図中矢印H)を最小限に抑制することができる。
【0048】
一方、
図4(b)は、対比のため、ボルト16からの力をあえてフランジ13から離れた方向にずらしたものであるが、この場合には、ウェブ15の変形がさらに大きくなるため、ボルト16から近い側の力の伝達(図中矢印G)が優先的となる。これにより、固定部材1の倒れ込みHがさらに大きくなる傾向となる。すなわち、仮に、固定部材1の中心線C上にボルト孔5を形成した場合と比較したとしても、
図4(a)に示すように、ボルト孔5をフランジ13側にずらして配置した方が、相対的にフランジ13側へ優先的に力を伝達させることができ、固定部材1を小型化しても、ウェブ15の変形量を最小限に抑制することができる。
【0049】
なお、
図14に示すように、リブ109を有し、一体で構成された固定部材103は、このような倒れ込みや力の伝達分布を考慮するものではなく、本発明とは、そもそも思想が異なるものである。
【0050】
なお、このような補強部材固定構造10は、以下の方法で施工される。まず、H形鋼の一方の側に固定部材17を配置するとともに、H形鋼の他方の側に、固定部材1を配置する。固定部材17と固定部材1とでH形鋼のウェブ15を挟み込んだ状態で、ボルト16によって固定する。以上の作業を、一対の固定部材1に対してそれぞれ行う。次に、固定部材17のガセットプレート19に、補強部材を固定する。以上の方法により、構造体11へ補強部材を固定することができる。
【0051】
以上、本実施の形態によれば、従来のように、一体で高剛性の固定部材を用いるのではなく、あえて固定部材を小型化し、それらを各フランジ13側に分離して配置することで、作業性の向上と、材料コスト等を低減させることができる。この際、ウェブ15のフランジ13との境界部近傍の最もウェブの変形量が小さく、フランジ13への応力伝達を効率良く行うことが可能な部位に選択的に力を伝達するため、ウェブ15の変形を最小限に抑えることが可能である。
【0052】
特に、固定部材1の中心線Cに対して、ボルト孔5が近傍のフランジ13側にずれているため、より効率良くフランジ13とウェブ15との境界部近傍へ力を伝達することができる。
【0053】
また、フランジ13とは逆側において、切欠き部9を形成し、突部7を形成することで、固定部材1の軽量化と、固定部材1の倒れ込みを抑制することができる。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態にかかる固定部材について説明する。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同一の機能を奏する構成については、
図1~
図4と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0055】
図5(a)は、第2の実施形態にかかる固定部材1aを示す平面図であり、
図5(b)は、
図5(a)のI-I線断面図である。固定部材1aは、固定部材1と略同様の構成であるが、逃げ部21が形成される点で異なる。逃げ部21は、本体部3の切欠き部9(突部7)が形成される側とは逆側の辺に沿って、裏面側(ウェブ15との接触面側)の角部が切りかかれて形成される。
【0056】
図6は、固定部材1aをウェブ15に配置して固定した状態を示す断面図である。前述したように、固定部材1aをウェブ15に配置した際に、逃げ部21は、フランジ13側の端部において、ウェブ15との接触面側の角部の一部が切り欠かれて形成される。ウェブ15とフランジ13との接合部近傍には、フィレット22が形成されるが、逃げ部21は、フィレット22との干渉を抑制するためのものである。
【0057】
なお、
図6に示すように、逃げ部21は、ウェブ15との接触面とはならない。ここで、
図5(b)に示すように、固定部材1aにおける本体部3の幅Aを、ウェブ15との接触面の長さとすると、固定部材1aにおける中心線Cは、逃げ部21を除く部分における中心線となる。したがって、固定部材1aにおいては、逃げ部21を除く部位における中心線Cよりも、ボルト孔5がフランジ13側(切欠き部9(突部7)とは逆側)にずれて配置される。
【0058】
なお、逃げ部21の大きさは、フィレット22との干渉をわずかでも抑制できればよく、特に限定されないが、単なる一般的な部材の面取り加工よりも大きくする必要がある。したがって、固定部材1aの上面側に形成される面取り加工よりも、逃げ部21は大きいものとする。例えば、フィレット22との干渉を確実に抑制するために、逃げ部21を固定部材1aの肉厚の半分以上に形成することができる。
【0059】
また、逃げ部21の形状を、フィレット22の形状に対応させてもよい。この場合、逃げ部21の一部または全部が、フィレット22と接触する場合もあるが、本体部3の中心線Cとしては、前述したように、逃げ部21を除く本体部3の長さと定義する。また、逃げ部21によって確実にフィレット22との干渉を回避できれば、固定部材1aの端部(切欠き部9(突部7)とは逆側の辺)をフランジ13へ接触させることもできる。
【0060】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、ウェブ15との接触面側の端部に逃げ部21を形成することで、ウェブ15とフランジ13との間に形成されるフィレット22と、固定部材1aとの干渉を避けることができる。このため、固定部材1aをフランジ13に近づけて配置することができるため、固定部材1aの位置や向きを合わせることが容易となる。
【0061】
なお、固定部材に形成される切欠き部9(突部7)の形状は、前述した例には限られず、他のあらゆる形状が適用可能である。例えば、切欠き部9の形状は台形ではなく、
図7(a)に示す固定部材1bのように、略長方形とすることもできる。この場合には、突部7も略長方形となり、先端までの幅が略一定に形成される。
【0062】
また、
図7(b)に示す固定部材1cのように、切欠き部9を台形として、本体部3の略全幅にわたって切欠き部9を形成してもよい。この場合には、突部7は、先端に行くにつれて幅が狭くなる略三角形に形成される。
【0063】
また、
図7(c)に示す固定部材1dのように、切欠き部9を円弧状としてもよい。この場合にも、突部7は、先端に行くにつれて幅が狭くなるように形成される。なお。この場合には、必ずしも突部7の基部は明確ではないが、最も切欠き量の多くなる部位(図中長手方向の略中央)の本体部3の長さを基部位置として、それよりも端部側(図中左側)を全て突部7とする。このように、突部7の幅が、先端に行くにつれて狭くなるように切欠き部9を形成することで、効率良く軽量化を行うことができる。
【0064】
また、
図7(d)に示す固定部材1eのように、切欠き部9を複数個所に形成してもよい。この場合には、突部7は、本体部3の端部近傍に形成されずに、本体部3の長手方向の中央に寄った位置に形成される。例えば、突部7を、ボルト孔5に重なる位置に配置してもよい。このように、突部7とボルト孔5の位置を合わせることで、固定部材1eの倒れ込みを効率良く行うことができる。なお、この場合でも、切欠き部9の形状は、台形ではなく長方形や円弧状などとすることができる。
【0065】
また、
図8(a)に示す固定部材1fのように、切欠き部9を階段状に形成してもよい。図示した例では、本体部3の一方の側に1段目の切欠き部9を形成し、そのほぼ中央部に、さらに深く、一段目よりも短い切欠き部9を形成してもよい。このようにすることで、突部7を階段状にすることができる。このようにしても、突部7の幅が、先端側において狭くなるようにすることができる。
【0066】
また、
図8(b)に示す固定部材1gのように、切欠き部9は台形であるが、突部7のテーパ形状がより浅くなるようにしてもよい。すなわち、突部7の幅が、先端に向かって急激に狭くなるようにしてもよい。このように、切欠き部9の形状は、固定部材を使用した際に、力の伝達への寄与の少ない部位に応じて形成することで、効率良く軽量化することができる。また、本体部3からの突出量に応じて、突部7に必要な剛性も小さくなるため、先端に向かって幅が狭くなるように設計することで、効率良く軽量化することができる。
【0067】
また、前述した例では、固定部材の厚みは略一定の例を示したが、これには限られない。
図9(a)は、固定部材1hを示す平面図、
図9(b)は、
図9(a)のJ-J線断面図、
図9(c)は、
図9(a)のK-K線断面図である。固定部材1hは、本体部3の縁部近傍において、厚みが徐々に薄くなるテーパ形状で形成される。固定部材1hでは、ウェブ15との接触面積に対して、本体部3の上面平坦部(テーパ部除く)の面積が小さくなる。このように、ウェブ15との接触面に向かって、縁部を徐々に拡径するように形成することで、力の伝達への寄与が小さな部位を除肉することができ、効率良く軽量化することができる。
【0068】
このような本体部3の上面側を除肉して薄肉部を形成する方法としては、縁部を均一にテーパ形状とすることには限られない。
図10(a)は、固定部材1iを示す平面図であり、
図10(b)は、
図10(a)のL-L線断面図である。固定部材1iでは、突部7が、本体部3の長手方向の端部近傍に形成される。また、突部7及び突部7を本体部3へ延長した部位において、テーパ状に薄肉部23が形成される。すなわち、突部7及び本体部3の長手方向の端部近傍が、外周側に向かって肉厚が薄くなるテーパ形状を有する。
【0069】
固定部材1iも、固定部材1hと同様に、ウェブ15との接触面積に対して、本体部3の上面平坦部(テーパ部除く)の面積が小さくなる。このように、ウェブ15との接触面に向かって、端部を徐々に拡径するように形成することで、力の伝達への寄与が小さな部位を除肉することができ、効率良く軽量化することができる。
【0070】
図10(c)は、
図10(d)は、
図10(c)のM-M線断面図である。固定部材1jも、固定部材1i等と同様に、突部7及び突部7を本体部3へ延長した部位において、テーパ状に薄肉部23が形成される。さらに、ボルト孔5同士の間(本体部3の長手方向の略中央部近傍)にも薄肉部23が形成される。なお、本体部3の長手方向中央部の薄肉部23は、
図10(d)に示すような円弧状であってもよく、
図10(e)に示すように、断面略矩形であってもよい。このように、力の伝達への寄与が小さな部位を除肉することで、効率良く軽量化することができる。
【0071】
また、前述した実施形態では、一対の固定部材1等を対向させて配置したが、各固定部材1等をさらに分割してもよい。
図11(a)は、補強部材固定構造10bを示す図である。固定部材1kは、固定部材1の長手方向の略中央を切断して2分割した形状である。すなわち、補強部材固定構造10bでは、一対のそれぞれの固定部材1が、H形鋼の長手方向に対して複数の分割片25に分割されて固定される。
【0072】
なお、分割する固定部材の形態は固定部材1でなくてもよい。例えば、
図11(b)に示す補強部材固定構造10cでは、固定部材1lは、固定部材1eを長手方向の略中央で切断したものである。このように、H形鋼の長手方向に対して固定部材は一体で形成されなくてもよい。ボルト16から伝達される力をフランジ13近傍に優先的に伝達可能であれば、各固定部材を長手方向に複数の分割片25に分割されても同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、前述した各固定部材を切断するのではなく、最初から分割された形状の分割片25であってもよい。例えば、
図12(a)に示す補強部材固定構造10cでは、固定部材1mが用いられる。固定部材1mは、略台形(又は略三角形)の1対の板状部材の分割片25からなる。固定部材1mは、それぞれの分割片25の幅(フランジ13の対向方向の長さ)が狭い側同士を突き合わせるようにして、H形鋼の長手方向に併設される。この場合、最も分割片25の幅が広く、対向する固定部材1m同士の方向に突出する部位が突部7となる。このように、H形鋼の長手方向に分割される分割片25の形状は、特に限定されない。
【0074】
また、
図12(b)に示す補強部材固定構造10cのように、H形鋼の長手方向に対して、3分割以上に分割してもよい。固定部材1nは、固定部材1と略同様の本体部の形状を、3分割した形態である。なお、分割された各分割片25には、少なくとも1つのボルト孔5が形成される。このように、固定部材は、H形鋼の長手方向に3分割以上に分割してもよい。
【0075】
なお、固定部材をH形鋼の長手方向に2分割した場合には、各分割片25において、突部7が形成されることが望ましい。一方、固定部材をH形鋼の長手方向に3分割以上に分割した場合には、少なくともH形鋼の長手方向のそれぞれ端部に配置される分割片25においてのみ、フランジ13の対向方向に突出する突部7が形成されればよい。すなわち、全ての分割片25に突部7を形成しなくてもよい。
【0076】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0077】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k、1l、1m、1n………固定部材
3………本体部
5………ボルト孔
7………突部
9………切欠き部
10、10a、10b、10c………補強部材固定構造
11………構造体
13………フランジ
15………ウェブ
16………ボルト
17………固定部材
19………ガセットプレート
21………逃げ部
22………フィレット
23………薄肉部
25………分割片
100………補強部材固定構造
101、103………固定部材
105………ガセットプレート
107a、107b………補強部材
109………リブ
111………構造体
113………フランジ
115………ウェブ
117………ボルト