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特許7421938ガス吸放出量演算方法、焼結炉の運転制御方法、焼結体の製造方法及びガス吸放出量演算システム。
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  • 特許-ガス吸放出量演算方法、焼結炉の運転制御方法、焼結体の製造方法及びガス吸放出量演算システム。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ガス吸放出量演算方法、焼結炉の運転制御方法、焼結体の製造方法及びガス吸放出量演算システム。
(51)【国際特許分類】
   G21C 21/02 20060101AFI20240118BHJP
   G21C 3/62 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G21C21/02 220
G21C3/62 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020007280
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021113771
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 秀一
(72)【発明者】
【氏名】大脇 理夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲志
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05641435(US,A)
【文献】特開平09-127290(JP,A)
【文献】特開2010-190842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 21/02
G21C 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレイに収容された被焼結体成分を含むペレットを、処理気体が供給される焼結炉で焼結する際に発生する前記ペレットから放出されるガスの放出量又はペレットに吸収されるガス吸収量を演算するガス吸放出量演算方法であって、
前記焼結炉の構成材質及び寸法形状を含む三次元モデルであり前記処理気体の供給位置を含むモデルデータと、前記トレイの構成材質、形状及び配置を含むトレイモデルデータと、前記ペレットの構成材質、形状を含むペレットモデルデータと、前記焼結炉のヒータ出力と、前記処理気体の種類、水分量、流量と、を少なくとも含む焼結炉運転データと、この焼結炉運転データを取得するデータ取得ステップと、
前記モデルデータと、前記トレイモデルデータと、前記ペレットモデルデータと、前記焼結炉運転データとに基づいて、前記三次元モデルにおける温度分布及び処理気体濃度分布を演算し、温度分布データ及び処理気体濃度分布データを出力する演算結果出力ステップと、
前記温度分布データと、前記処理気体濃度分布データとに基づいて、前記ペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットに吸収されるガスの吸収量を演算し、ガス放出量データを出力するガス放出量出力ステップと、をコンピュータに実行させる、
ことを特徴とするガス吸放出量演算方法。
【請求項2】
前記データ取得ステップは、前記ガス放出量データに基づいて補正された前記焼結炉運転データを取得し、
前記演算結果出力ステップ及びガス放出量出力ステップは、前記取得された焼結炉運転データを用いて演算及びデータ出力を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス吸放出量演算方法。
【請求項3】
前記ガス放出量出力ステップは、対象とする前記ペレットから放出されるガスの放出量又は対象とする前記ペレットに吸収されるガスの吸収量と、前記ペレットと異なる位置に配置されたペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットと異なる位置に配置されたペレットに吸収されるガスの吸収量と、を算出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガス吸放出量演算方法。
【請求項4】
前記焼結炉運転データは、トレイの移動速度を含み、
前記演算結果出力ステップは、前記ペレットの特定位置毎に、前記温度分布データ及び前記処理気体濃度分布データに、時間を含めてそれぞれ出力する、
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載のガス吸放出量演算方法。
【請求項5】
被焼結体成分は、ウラン酸化物及びプルトニウム酸化物の粉末又はガドリニウム酸化物の粉末若しくは再処理で随伴する元素を含む化合物と、を含み、
前記処理気体濃度分布データと、平衡定数に基づいて、前記ペレット周囲の焼結雰囲気中の酸素分圧比を演算し、前記ペレット周囲の焼結雰囲気中の酸素分圧比データを出力する酸素分圧比出力ステップと、
前記酸素分圧比データと、焼結雰囲気中の酸素分圧比とペレットの酸素/金属比との相関テーブルと、に基づいて、前記ペレットの酸素/金属比を演算し、前記ペレットの酸素/金属比データを出力する酸素/金属比出力ステップと、を更にコンピュータに実行させる、
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載のガス吸放出量演算方法。
【請求項6】
前記ガス放出量出力ステップは、前記酸素/金属比データに基づいて、前記ペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットに吸収されるガスの吸収量を演算し、前記ガス放出量データを出力する、
ことを特徴とする請求項5に記載のガス吸放出量演算方法。
【請求項7】
前記被焼結体成分は、有機物を含み、
前記有機物の種類及び量に応じて前記有機物の分解特性に基づく分解組成及びガス放出量演算する、
ことを特徴とする請求項5に記載のガス吸放出量演算方法。
【請求項8】
前記温度分布データと、前記酸素分圧比データと、被焼結体成分の拡散係数と、に基づいて、前記ペレットの結晶粒子径、気孔率(嵩密度)、被焼結体成分の濃度分布を含むペレット組織変化を演算し、ペレット性能データを出力するペレット性能出力ステップと、を更にコンピュータに実行させる、
ことを特徴とする請求項5から7までのいずれか1項に記載のガス吸放出量演算方法。
【請求項9】
請求項8に記載のガス吸放出量演算方法で得られた前記ペレット性能データに基づき、焼結炉のヒータ出力と、前記処理気体の種類、流量、濃度及び焼結炉の焼結条件データを決定する
ことを特徴とする焼結炉の運転制御方法。
【請求項10】
請求項8に記載のガス吸放出量演算方法で得られた焼結条件データを、焼結炉の制御装置に入力し、被焼結体成分を含むペレットを焼結する
ことを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項11】
トレイに収容された被焼結体成分を含むペレットを、処理気体が供給される焼結炉で焼結する際に前記ペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットに吸収されるガスの吸収量を演算するガス放出量演算システムであって、
前記焼結炉の構成材質及び寸法形状を含む三次元モデルであり前記処理気体の供給位置を含むモデルデータと、前記トレイの構成材質、形状及び配置を含むトレイモデルデータと、前記ペレットの構成材質、形状を含むペレットモデルデータと、前記焼結炉のヒータ出力と、前記処理気体の種類、水分量、流量と、を少なくとも含む焼結炉運転データと、この焼結炉運転データを取得するデータ取得手段と、
前記モデルデータと、前記トレイモデルデータと、前記ペレットモデルデータと、前記焼結炉運転データとに基づいて、前記三次元モデルにおける温度分布及び処理気体濃度分布を演算し、温度分布データ及び処理気体濃度分布データを出力する演算結果出力手段と、
前記温度分布データと、前記処理気体濃度分布データとに基づいて、前記ペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットに吸収されるガスの吸収量を演算し、ガス放出量データを出力するガス放出量出力手段と、を備える、
ことを特徴とするガス吸放出量演算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸放出量演算方法、焼結炉の運転制御方法、焼結体の製造方法及びガス吸放出量演算システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の核燃料として、例えば、二元系酸化物混合体である、ウラン酸化物(UO)及びプルトニウム酸化物(PuO)の混合酸化物からなるMOX燃料やガドリニウム酸化物(Gd)入りUO燃料が使用されている。このMOX燃料は、通常、UO粉末とPuO粉末とを混合して、円柱状に圧粉成形した後、焼結炉において、不活性ガス又は還元ガスの処理ガス雰囲気の高温で焼結することにより、ペレットとして製造されている(特許文献1~3参照)。
【0003】
このペレットは、燃料集合体に複数収容されるが、密度や熱伝導率にバラツキがあると、燃料温度等にもバラツキが発生するため、できる限り均一なペレット性能であることが要求されている。
【0004】
ペレットを焼結する焼結炉における焼結条件のうち炉内温度(又は処理ガス温度)については、経験的に目安となる範囲(1000℃~1800℃)が知られているが、特に二元系酸化物混合体の焼結では、炉内温度を適切に管理しても、ペレット性能のバラツキを小さくすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平05-080174号公報
【文献】特開平07-035895号公報
【文献】特開平08-062363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペレット性能のバラツキについて原因を究明したところ、ペレットを焼結炉で焼結した際に、圧粉成形したペレットから放出されるガス(ガス種類・ガス量)により、焼結炉内の処理ガス雰囲気、すなわちガス濃度分布や温度分布が変化することがわかった。
【0007】
しかしながら、ペレットから放出されるガスは、焼結炉内の構成材質及び寸法形状(含むペレット配置)、処理ガス雰囲気(温度分布・ガス濃度分布・水分量)にも影響を受けるため、正確なガス放出量を把握することができなかった。そのため、ペレット性能のバラツキも改善することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ペレットから放出されるガス放出量又はペレットに吸収されるガス吸収量を演算するガス吸放出量演算方法、焼結炉の運転制御方法、及びガス吸放出量演算システムを提供することを目的とする。
また、ペレット性能のバラツキの少ない焼結体の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る1つの態様は、トレイに収容された被焼結体成分を含むペレットを、処理気体が供給される焼結炉で焼結する際に発生する前記ペレットから放出されるガスの放出量又はペレットに吸収されるガス吸収量を演算するガス吸放出量演算方法であって、前記焼結炉の構成材質及び寸法形状を含む三次元モデルであり前記処理気体の供給位置を含むモデルデータと、前記トレイの構成材質、形状及び配置を含むトレイモデルデータと、前記ペレットの構成材質、形状を含むペレットモデルデータと、前記焼結炉のヒータ出力と、前記処理気体の種類、水分量、流量と、を少なくとも含む焼結炉運転データと、この焼結炉運転データを取得するデータ取得ステップと、前記モデルデータと、前記トレイモデルデータと、前記ペレットモデルデータと、前記焼結炉運転データとに基づいて、前記三次元モデルにおける温度分布及び処理気体濃度分布を演算し、温度分布データ及び処理気体濃度分布データを出力する演算結果出力ステップと、前記温度分布データと、前記処理気体濃度分布データとに基づいて、前記ペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットに吸収されるガスの吸収量を演算し、ガス放出量データを出力するガス放出量出力ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0010】
(2)上記(1)の態様において、前記データ取得ステップは、前記ガス放出量データに基づいて補正された前記焼結炉運転データを取得し、前記演算結果出力ステップ及びガス放出量出力ステップは、前記取得された焼結炉運転データを用いて演算及びデータ出力を行うにしてもよい。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)の態様において、前記ガス放出量出力ステップは、対象とする前記ペレットから放出されるガスの放出量又は対象とする前記ペレットに吸収されるガスの吸収量と、前記ペレットと異なる位置に配置されたペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットと異なる位置に配置されたペレットに吸収されるガスの吸収量と、を算出してもよい。
【0012】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つの態様において、前記焼結炉運転データは、トレイの移動速度を含み、前記演算結果出力ステップは、前記ペレットの特定位置毎に、前記温度分布データ及び前記処理気体濃度分布データに、時間を含めてそれぞれ出力してもよい。
【0013】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つの態様において、被焼結体成分は、ウラン酸化物及びプルトニウム酸化物の粉末又はガドリニウム酸化物の粉末若しくは再処理で随伴する元素を含む化合物と、を含み、前記処理気体濃度分布データと、平衡定数に基づいて、前記ペレット周囲の焼結雰囲気中の酸素分圧比を演算し、前記ペレット周囲の焼結雰囲気中の酸素分圧比データを出力する酸素分圧比出力ステップと、前記酸素分圧比データと、焼結雰囲気中の酸素分圧比とペレットの酸素/金属比との相関テーブルと、に基づいて、前記ペレットの酸素/金属比を演算し、前記ペレットの酸素/金属比データを出力する酸素/金属比出力ステップと、、を更にコンピュータに実行させるようにしてもよい。
【0014】
(6)上記(5)の態様において、前記ガス放出量出力ステップは、前記酸素/金属比データに基づいて、前記ペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットに吸収されるガスの吸収量を演算し、前記ガス放出量データを出力してもよい。
【0015】
(7)上記(5)の態様において、前記被焼結体成分は、有機物を含み、前記有機物の種類及び量に応じて前記有機物の分解特性に基づく分解組成及び前記ガスの放出量演算してもよい。
【0016】
(8)上記(5)から(7)のいずれか1つの態様において、前記温度分布データと、前記酸素分圧比データと、被焼結体成分の拡散係数と、に基づいて、前記ペレットの結晶粒子径、気孔率(嵩密度)、被焼結体成分の濃度分布を含むペレット組織変化を演算し、ペレット性能データを出力するペレット性能出力ステップと、を更にコンピュータに実行させるようにしてもよい。
【0017】
(9)本発明に係る別の1つの態様は、上記(8)に記載のガス吸放出量演算方法で得られた前記ペレット性能データに基づき、焼結炉のヒータ出力と、前記処理気体の種類、流量、濃度及び焼結炉の焼結条件データを決定することを特徴とする焼結炉の運転制御方法である。
【0018】
(10)本発明に係る別の1つの態様は、上記(8)に記載のガス吸放出量演算方法で得られた焼結条件データを、焼結炉の制御装置に入力し、被焼結体成分を含むペレットを焼結することを特徴とする焼結体の製造方法である。
【0019】
(11)本発明に係る別の1つの態様は、トレイに収容された被焼結体成分を含むペレットを、処理気体が供給される焼結炉で焼結する際に前記ペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットに吸収されるガスの吸収量を演算するガス放出量演算システムであって、前記焼結炉の構成材質及び寸法形状を含む三次元モデルであり前記処理気体の供給位置を含むモデルデータと、前記トレイの構成材質、形状及び配置を含むトレイモデルデータと、前記ペレットの構成材質、形状を含むペレットモデルデータと、前記焼結炉のヒータ出力と、前記処理気体の種類、水分量、流量と、を少なくとも含む焼結炉運転データと、この焼結炉運転データを取得するデータ取得手段と、前記モデルデータと、前記トレイモデルデータと、前記ペレットモデルデータと、前記焼結炉運転データとに基づいて、前記三次元モデルにおける温度分布及び処理気体濃度分布を演算し、温度分布データ及び処理気体濃度分布データを出力する演算結果出力手段と、前記温度分布データと、前記処理気体濃度分布データとに基づいて、前記ペレットから放出されるガスの放出量又は前記ペレットに吸収されるガスの吸収量を演算し、ガス放出量データを出力するガス放出量出力手段と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ペレットから放出されるガス放出量又はペレットに吸収されるガス吸収量を演算するガス吸放出量演算方法、焼結炉の運転制御方法、及びガス吸放出量演算システムを提供することができる。
また、他の発明によれば、ペレット性能のバラツキの少ない焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る第1実施形態の演算システムを示すブロック図である。
図2】本発明に係る第1実施形態の焼結条件の演算方法を示すフロー図である。
図3】本発明に係る第2実施形態の焼結条件の演算方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付して説明する。
【0023】
ペレットから放出されるガス放出量を演算する演算方法及び演算システムを説明する前に、その前提である、ペレット、ペレットを焼結する焼結炉及びペレット焼結体の製造方法について、簡単に説明する。
【0024】
原子炉の核燃料として使用されるペレットは、略円柱状の形状であり、例えば、二元系酸化物混合体である、ウラン酸化物(UO)及びプルトニウム酸化物(PuO)の混合酸化物からなるMOX燃料やガドリニウム酸化物(Gd)入りUO燃料で形成されている。より正確には、混合酸化物以外にも、再処理で随伴する元素、その他金属元素を含む化合物や焼結剤(結合剤)などが含まれている。
また、被焼結成分には、潤滑剤として高分子系の有機物が含まれている。有機物としては、例えば、アミド系有機物やステアリン酸系有機物等が用いられる。
【0025】
UO粉末及びPuO粉末やGd入りUO燃料の粉末の被焼結成分が圧粉成形されたペレットは、焼結炉において、不活性ガス又は還元ガスの処理ガス雰囲気の高温で焼結されて、ペレット焼結体として製造される。
【0026】
焼結炉は、例えば、断面略円形又は略矩形の処理空間を有する、いわゆるトンネル炉である。また、焼結炉は、処理空間内のペレットの移動方向(X軸方向)に沿って複数のヒータが設けられており、処理空間は断熱材で覆われている。
【0027】
また、焼結炉は、例えば、アルゴンなどの不活性ガス、水素や水蒸気などの還元性ガスなどの処理気体を供給する処理気体供給口が複数箇所に設けられている。
【0028】
更に、焼結炉は、複数のトレイをX軸方向に沿って配置可能なように、複数のコンベアプレートを有している。そして焼結炉は、最上流のコンベアプレートをプッシャーにより押し出すことで、コンベアプレートの1枚分の長さだけ下流側に移動させるようになっているプッシャー炉や焼結ボートを乗せた台座が動いて焼結ボートを順送りにするウォーキングビーム炉等である。なお、焼結炉から出た最下流のコンベアプレートは、別の装置により回収される。
【0029】
各コンベアプレートは、焼結炉の上下方向(Z軸方向)に沿って複数段のペレット収容トレイが載置可能になっている。
【0030】
トレイは、複数のペレットが配置可能な皿状のものであり、複数のペレットをX軸方向及びX軸方向に直交するY軸方向(焼結炉の幅方向)に配置可能である。
したがって、ペレットは、焼結炉(処理空間)内では、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の三次元的に配置されることになる。
【0031】
このような焼結炉の構成により、ペレットはある搬送タイミングでタクト搬送されながら、焼結される。ただし、焼結炉は、タクト搬送でなく、ある搬送速度で連続搬送するようなものであってもよい。
【0032】
図1は、本発明に係る第1実施形態の演算システム1を示すブロック図である。
図1を用いて、本実施形態の構成について説明する。
演算システム1は、CPU2、入力手段3、記憶手段4、出力手段5、通信手段6、各種データ及び各種処理手段とから構成されている。演算に用いる各種データは、入力手段3により入力され、CPU2で処理されて記憶手段4に保存される。CPU2は必要なデータを記憶手段4から抽出して各種処理手段に伝送するとともに処理命令を発し、各種処理手段はCPU2の処理命令に応じた処理を実行して結果をCPU2に送る。CPU2はこの結果を記憶手段4に保存する。また、CPU2は記憶手段4に保存されたデータや処理結果を出力手段5に出力させることができる。
【0033】
演算システム1は通信手段6により焼結炉100の通信手段101と接続されており、焼結炉100からその運転データを入手し、演算システム1から焼結炉100に対して焼結条件データを送信することができる。焼結炉100では、焼結炉制御装置102が焼結を行う処理空間103と接続され、焼結処理に必要な焼結条件データを処理空間103に指示するとともに、処理空間103からその運転データを入手することができる。
【0034】
各種データは、炉モデルデータ110、トレイモデルデータ120、ペレットモデルデータ130、焼結炉運転データ140、ペレット性能の基準閾値データ201、等である。
【0035】
各種処理手段は、データ取得手段21、演算結果出力手段22、水素分圧比出力手段23、酸素分圧比出力手段24、酸素/金属比出力手段25、ガス放出量出力手段26、ペレット性能出力手段27、ペレット性能比較手段28、焼結条件出力手段29、等である。
【0036】
図2は、本発明に係る第1実施形態の焼結条件の演算方法を示すフロー図である。
図2を用いて、本実施形態における焼結条件の演算方法について説明する。
本実施形態は、あるトレイのある位置に収容された被焼結体成分を含むペレットPを、気体が供給される円筒状の焼結炉で焼結する際の焼結条件を演算する演算方法である。
【0037】
データ取得ステップS1では、データ取得手段21が焼結炉の構成材質及び寸法形状を含む三次元モデルであり気体の供給位置を含むモデルデータである炉モデルデータ110と、トレイの形状及び配置を含むトレイモデルデータ120と、ペレットの形状を含むペレットモデルデータ130と、焼結炉のヒータ出力、処理気体の種類、水分量、流量及び供給位置を少なくとも含む焼結炉運転データ140と、を取得する。
【0038】
炉モデルデータ110は、寸法や形状だけでなく、材料(材質)の種類に応じて変化する、密度(kg/m)、比熱容量(J/kg・K)、熱伝導率(W/m・K)を更に含む。
【0039】
トレイモデルデータ120は、寸法、形状、及び材料(材質)の種類に応じて変化する、密度(kg/m)、比熱容量(J/kg・K)、熱伝導率(W/m・K)を更に含む。
【0040】
ペレットモデルデータ130は、寸法や形状だけでなく、材料(材質)の種類に応じて変化する、密度(kg/m)、比熱容量(J/kg・K)、熱伝導率(W/m・K)(又は材料の種類)を更に含んでいる。
【0041】
焼結炉運転データ140は、少なくとも焼結炉のヒータ出力に関する熱条件と、処理気体の種類、水分量、濃度、流量及び流入場所等の気体の流入条件と、を含むデータである。
【0042】
演算結果出力ステップS2は、演算するステップS21と、演算結果をデータとして出力する結果出力ステップS22と、からなる。
【0043】
演算結果出力ステップS2では、演算結果出力手段22が、炉モデルデータ110と、トレイモデルデータ120と、ペレットモデルデータ130と、焼結炉運転データ140とに基づいて、例えば、有限要素法を用いた熱伝導解析により、三次元モデルにおける温度分布及び処理気体濃度分布を演算し、ペレットの特定位置毎に、温度分布データ150及び処理気体濃度分布データである気体濃度分布データ160を算出し、出力する。
【0044】
これらの温度分布データ150及び気体濃度分布データ160から、ある位置のトレイにおけるある位置のペレットの周囲の温度及び気体濃度を抽出することができる。
【0045】
水素分圧比出力ステップS31では、水素分圧比出力手段23が、温度分布データ150と、気体濃度分布データ160と、平衡定数Bに基づいて、水素/水蒸気分圧比を演算し、水素分圧比データ170を出力する。
【0046】
酸素分圧比出力ステップS32では、酸素分圧比出力手段24が、水素分圧比データ170に基づいて、炉中のペレット周囲の酸素分圧比を演算し、酸素分圧比データ175を出力する。酸素分圧比出力ステップS32は、水素分圧比出力ステップS31と同時並行して演算及び出力の処理が行われる。
【0047】
水素分圧比出力ステップS31及び酸素分圧比出力ステップS32により出力される水素分圧比データ170及び酸素分圧比データ175から、ある位置のトレイにおけるある位置のペレットの周囲の水素分圧比及び酸素分圧比を抽出することができる。
【0048】
酸素/金属比出力ステップS4では、酸素/金属比出力手段25が、酸素分圧比データ175と、酸素分圧比と温度とペレット組成と酸素/金属比との相関テーブルTBに基づいて、酸素/金属比を演算し、酸素/金属比データ180を出力する。酸素/金属比出力ステップS4は、水素分圧比出力ステップS31及び酸素分圧比出力ステップS32と並行して演算及び出力の処理が行われる。
【0049】
この酸素/金属比データ180から、ある位置のトレイにおけるある位置のペレットの酸素/金属比を抽出することができる。
【0050】
ガス放出量出力ステップS5では、ガス放出量出力手段26が、酸素/金属比データ180に基づいて、ペレットから放出されるガスの放出量又はペレットに吸収されるガス吸収量を演算し、ガス放出量データ190を出力する。
さらに、ペレットの被焼結体成分は、潤滑剤としてアミド系有機物やステアリン酸系有機物等からなる有機物を含み、ペレットを焼結炉で焼結する際にこの有機物がガスを放出する。被焼結体成分に含まれる有機物の種類及び量に応じて、有機物の分解特性に基づく分解組成及び有機物分解ガス放出量データ185を演算し、ガス放出量データ190に演算結果を反映する。
【0051】
このようにして、ある位置のトレイにおけるある位置のペレットのガス放出量を演算することができる。
【0052】
このようにして、ガス放出量出力ステップS5では、ガス放出量出力手段26が、温度分布データ150と、気体濃度分布データ160とに基づいて、ペレットから放出されるガスの放出量又はペレットに吸収されるガス吸収量を演算し、ガス放出量データ190を出力する。
【0053】
これらの各ステップを再度繰り返し実行することで、ガス放出量出力ステップS5では、ガス放出量出力手段26が、対象とするペレットと異なる位置に配置されたペレットPi+1から放出されるガスの放出量を演算する。
そして、演算システム1は、すべてのペレットについてガスの放出量を演算するまで、各ステップを繰り返し実行する。
【0054】
データ取得ステップS1では、データ取得手段21が、ガス放出量データ190に基づいて補正された焼結炉運転データ140(14n)を取得する。
演算結果出力ステップS2及びガス放出量出力ステップS5では、演算結果出力手段22及びガス放出量出力手段26が、取得された焼結炉運転データ140(14n)を用いて演算及びデータ出力を行う。
【0055】
ただし、補正された焼結炉運転データ140(14n)の取得は、ペレット性能を演算した後に行ってもよい。
【0056】
ペレット性能出力ステップS6では、ペレット性能出力手段27が、温度分布データ150と、酸素分圧比データ175と、被焼結体成分の拡散係数Kと、に基づいて、ペレットの結晶粒子径、気孔率(嵩密度)、被焼結体成分の濃度分布を含むペレット組織変化を演算し、ペレット性能データ200を出力する。
【0057】
ペレット性能比較ステップS7では、ペレット性能比較手段28が、ペレット性能の基準閾値データ201を更に取得し、演算されたペレット性能と基準閾値とを比較し、比較結果を比較データ210として出力する。
【0058】
焼結条件出力ステップS8では、焼結条件出力手段29が、演算されたペレット性能が基準閾値の範囲内である場合、焼結炉のヒータ出力と、気体の種類、水分量、流量、濃度及び焼結炉の処理気体の流入場所等の気体の流入条件を含む焼結炉運転データ140を決定し、焼結条件データ145として出力する。
【0059】
本実施形態により、焼結条件を出力する演算方法で得られた焼結条件データ145を、焼結炉の制御装置に入力し、被焼結体成分を含むペレットを焼結する、焼結炉の運転制御方法及び焼結体の製造方法が提供される。
【0060】
以上説明したとおり、本発明に係る第1実施形態の演算システム1は、トレイに収容された被焼結体成分を含むペレットを、処理気体が供給される円筒状の焼結炉で焼結する際にペレットから発生するガスの放出量又はペレットに吸収されるガスの吸収量を演算するガス放出量演算システムであって、焼結炉の三次元モデルの炉モデルデータ110と、トレイの形状及び配置を含むトレイモデルデータ120と、ペレットの形状を含むペレットモデルデータ130と、焼結炉のヒータ出力、処理気体の種類、水分量、流量及び供給位置を少なくとも含む焼結炉運転データ140と、を取得するデータ取得手段21と、炉モデルデータ110と、トレイモデルデータ120と、ペレットモデルデータ130と、焼結炉運転データ140とに基づいて、三次元モデルにおける温度分布及び気体濃度分布を演算し、温度分布データ150及び気体濃度分布データ160を出力する演算結果出力手段22と、温度分布データ150と、気体濃度分布データ160とに基づいて、ペレットから放出されるガスの放出量を演算し、ガス放出量データ190を出力するガス放出量出力手段26と、を備える、ガス吸放出量演算方法であり、ガス吸放出量演算システムを構成するものである。
【0061】
バッチ式焼結炉での焼結条件の演算に有効であるが、連続式やタクト式の焼結炉でも、簡易に計算する場合(例えば、次に説明する非定常時における焼結条件を、予備的に演算する場合など。)であれば、適用可能である。
【0062】
(第2実施形態)
図3は、本発明に係る第2実施形態の焼結条件の演算方法を示すフロー図である。
図3を用いて、本実施形態における焼結条件の演算方法について説明する。
上記第1実施形態の演算方法は、時間の変化を考慮しない定常時のものであったが、第2実施形態の演算方法は、時間の変化を考慮した非定常時のものである。
【0063】
そのため、焼結炉運転データ140は、更にトレイの移動速度Vtを含むことになる。
演算結果出力ステップS2は、ペレットの特定位置毎に、温度分布データ150及び気体濃度分布データ160に、時間tを含めてそれぞれ出力する。
これらの温度分布データ150及び気体濃度分布データ160から、ある時刻tsについて、ある位置のトレイにおける、ある位置のペレットの周囲の温度及び気体濃度を抽出することができる。
【0064】
連続式やタクト式の焼結炉に演算に有効であるが、もちろんバッチ式焼結炉にも適用可能である。
【0065】
上記各実施形態の演算方法は、コンピュータ(パソコン)上で実行するものであるから、プログラムと言い換えることができる。コンピュータは、1台に限らず、例えば、ペレット性能を演算するルーチンを別のコンピュータで実行するようにしてもよい。このとき、各コンピュータは、各種データをネットワークや記録媒体を介して授受すればよい。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 演算システム
2 CPU
3 入力手段
4 記憶手段
5 出力手段
6 通信手段
21 データ取得手段
22 演算結果出力手段
23 水素分圧比出力手段
24 酸素分圧比出力手段
25 酸素/金属比出力手段
26 ガス放出量出力手段
27 ペレット性能出力手段
28 ペレット性能比較出力手段
29 焼結条件出力手段
100 焼結炉
101 通信手段
102 焼結炉制御装置
103 処理空間
図1
図2
図3