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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】射出成形機およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/77 20060101AFI20240118BHJP
   B29C 45/47 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B29C45/77
B29C45/47
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020043900
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021142719
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000222587
【氏名又は名称】東洋機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 靖丈
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-007798(JP,A)
【文献】特開平10-128811(JP,A)
【文献】特開2015-013467(JP,A)
【文献】特開2018-069627(JP,A)
【文献】特開2011-183704(JP,A)
【文献】特開平03-030926(JP,A)
【文献】特開2011-245794(JP,A)
【文献】特開平07-112462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱シリンダと、前記加熱シリンダ内に収容されたスクリューと、前記スクリューを前後進させる駆動装置と、前記スクリューに加わる圧力を測定する測定器と、前記駆動装置を制御する制御装置と、を有する射出成形機であって、
前記制御装置は、射出動作において、
前記測定器によって測定された前記スクリューに加わる圧力の測定値が圧力上限値以下のとき、前記スクリューの移動速度が速度目標値となるように前記駆動装置を制御し、
前記測定値が前記圧力上限値を超えかつ前記測定値の上昇速度が制限判定値以下のとき、前記測定値が前記圧力上限値以下となるように前記駆動装置を制御し、
前記測定値が前記圧力上限値を超えかつ前記測定値の上昇速度が制限判定値を超えたとき、圧力許容期間にわたって、前記スクリューの移動速度が前記速度目標値となるように前記駆動装置を制御することを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記制御装置は、射出動作において、前記測定値が前記圧力上限値を超えかつ前記測定値の上昇速度が制限判定値を超えたとき、圧力許容期間にわたって、前記測定値が前記圧力上限値だったものとみなして前記駆動装置を制御する、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記制御装置は、保圧動作において、
前記測定値が保圧目標値となるように前記駆動装置を制御し、
前記測定値が前記保圧目標値を超えかつ前記測定値の上昇速度が修正判定値を超えたとき、変動制限期間にわたって、修正測定値を前記測定値として用いて前記駆動装置を制御し、
前記制御装置は、
(a)前記測定値の上昇速度が前記修正判定値を超えたときの当該測定値を前記修正測定値として取得し、または、
(b)前記測定値の上昇速度が前記修正判定値を超えたときの当該測定値を基準測定値として、前記測定値から前記基準測定値を差し引いた差分値に1より小さい係数を乗じて得た値を前記基準測定値に加えた値を前記修正測定値として取得し、または、
(c)前記保圧目標値を前記修正測定値として取得する、請求項1または請求項2に記載の射出成形機。
【請求項4】
加熱シリンダと、前記加熱シリンダ内に収容されたスクリューと、前記スクリューに加わる圧力を測定する測定器と、を有する射出成形機の制御方法であって、
射出動作において、
前記測定器によって測定された前記スクリューに加わる圧力の測定値が圧力上限値以下のとき、前記スクリューの移動速度が速度目標値となるように前記スクリューを前進させ、
前記測定値が前記圧力上限値を超えかつ前記測定値の上昇速度が制限判定値以下のとき、前記測定値が前記圧力上限値以下となるように前記スクリューを前進させ、
前記測定値が前記圧力上限値を超えかつ前記測定値の上昇速度が制限判定値を超えたとき、圧力許容期間にわたって、前記スクリューの移動速度が前記速度目標値となるように前記スクリューを前進させることを特徴とする射出成形機の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維と樹脂を混合した材料を用いて射出成形を行う射出成形機が特許文献1に開示されている。図7に、このような射出成形機の構成の一部を示す。
【0003】
図7に示す射出成形機101は、射出動作において、移動速度が速度目標値となるようにスクリュー112を前進させる。射出成形機101は、スクリュー112に加わる圧力を加熱シリンダ111内の樹脂に加わる圧力(樹脂圧力)として測定する。射出成形機101は、加熱シリンダ111のノズル詰まりなどの異常を検出するために、樹脂圧力の上限値(圧力上限値)を設けている。射出成形機101は、樹脂圧力が圧力上限値を超えると、スクリューを前進させるモータの出力を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-012221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出動作においてスクリュー112が前進した際、図7に示すように、ホッパ111bから加熱シリンダ111に供給された材料Sが加熱シリンダ111とスクリュー112との間に挟まることがある。このとき、射出成形機101は、スクリュー112の移動速度を維持するために、スクリュー112を前進させる力を強くするようモータを制御する。これにより、加熱シリンダ111とスクリュー112との間に挟まれた材料Sが切断されることがある。
【0006】
しかしながら、材料Sを切断する力がスクリュー112に加わるため、スクリュー112に加わる圧力が一時的に上昇して圧力上限値を超えてしまうことがある。このとき、射出成形機101はモータの出力を制限し、スクリュー112の移動速度が一時的に低下するとともに加熱シリンダ111内の樹脂に加わる圧力も一時的に低下する。そのため、射出動作時のスクリュー112の移動速度、樹脂圧力にばらつきが生じてしまうことがあった。そして、これらのばらつきは、成形品の品質に影響を及ぼすおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明は、射出動作時のスクリューの移動速度、樹脂圧力のばらつきを抑制できる射出成形機およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る射出成形機は、加熱シリンダと、前記加熱シリンダ内に収容されたスクリューと、前記スクリューを前後進させる駆動装置と、前記スクリューに加わる圧力を測定する測定器と、前記駆動装置を制御する制御装置と、を有する射出成形機であって、前記制御装置は、射出動作において、前記測定器によって測定された前記スクリューに加わる圧力の測定値が圧力上限値以下のとき、前記スクリューの移動速度が速度目標値となるように前記駆動装置を制御し、前記測定値が前記圧力上限値を超えかつ前記測定値の上昇速度が制限判定値以下のとき、前記測定値が前記圧力上限値以下となるように前記駆動装置を制御し、前記測定値が前記圧力上限値を超えかつ前記測定値の上昇速度が制限判定値を超えたとき、圧力許容期間にわたって、前記スクリューの移動速度が前記速度目標値となるように前記駆動装置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、射出動作時のスクリューの移動速度、樹脂圧力のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る射出成形機の概略構成を示す図である。
図2図1の射出成形機における射出動作時のスクリューの位置とスクリューの移動速度および樹脂圧力との関係の例を模式的に示すグラフである(材料の挟み込みがない場合)。
図3図1の射出成形機における射出動作時のスクリューの位置とスクリューの移動速度および樹脂圧力との関係の例を模式的に示すグラフである(材料の挟み込みがなく、樹脂圧力が緩やかに圧力上限値を超えた場合)。
図4図1の射出成形機における射出動作時のスクリューの位置とスクリューの移動速度および樹脂圧力との関係の例を模式的に示すグラフである(材料の挟み込みによって樹脂圧力が急上昇して圧力上限値を超えた場合)。
図5】従来の射出成形機における射出動作時のスクリューの位置とスクリューの移動速度および樹脂圧力との関係の例を模式的に示すグラフである(材料の挟み込みによって樹脂圧力が急上昇して圧力上限値を超えた場合)。
図6図1の射出成形機における射出動作時のスクリューの位置とスクリューの移動速度および樹脂圧力との関係の例を模式的に示すグラフである(異常発生によって樹脂圧力が急上昇して圧力上限値を超えた場合)。
図7】従来の射出成形機の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る射出成形機について、図1図6を参照して説明する。
【0012】
本実施形態の射出成形機は、繊維と樹脂とを混合した材料を用いて射出成形を行う。この射出成形機は、射出成形サイクルにおいて、射出動作、保圧動作、冷却動作(計量動作を含む)、型開閉動作などの各種動作を行う。
【0013】
図1に示すように、射出成形機1は、射出装置10と、制御装置30と、を有している。
【0014】
射出装置10は、加熱シリンダ11と、スクリュー12と、計量用サーボモータ13と、計量用タイミングベルト14と、計量プーリ15と、射出用サーボモータ16と、射出用タイミングベルト17と、ボールねじ機構18と、計量用エンコーダ19と、射出用エンコーダ20と、測定器としてのロードセル21と、を有している。
【0015】
加熱シリンダ11は、筒状に形成されている。加熱シリンダ11は、外周面に図示しないヒータを備えている。加熱シリンダ11は、一端にノズル11aが設けられており、他端寄りの箇所にホッパ11bが設けられている。ホッパ11bは、グラスファイバーやカーボンファイバーなどの繊維と樹脂とが混合された材料を加熱シリンダ11に供給する。なお、繊維と樹脂とを別々の箇所から加熱シリンダ11に供給するようにしてもよい。スクリュー12は、加熱シリンダ11内に回転および前後方向に移動可能に収容されている。なお、本明細書において、図1の加熱シリンダ11のノズル11a側を前側、その反対側を後側としている。
【0016】
計量用サーボモータ13は、スクリュー12を回転させる駆動装置である。計量用サーボモータ13は、その出力プーリ13aの回転が計量用タイミングベルト14を介して計量プーリ15に伝達される。計量プーリ15は、スクリュー12に同軸に固定されている。計量プーリ15の回転により、スクリュー12は軸を中心に回転される。
【0017】
射出用サーボモータ16は、スクリュー12を前進および後退させる駆動装置である。射出用サーボモータ16は、その出力プーリ16aの回転が射出用タイミングベルト17を介してボールねじ機構18のねじ軸18aに同軸に固定された射出プーリ18bに伝達される。射出プーリ18bの回転により、ねじ軸18aは軸を中心に回転される。そして、ねじ軸18aの回転により、ねじ軸18aに螺合されているボールねじ機構18のナット部18cが軸方向(すなわち前後方向)に移動する。このナット部18cの移動に伴って当該ナット部18cに接続されたスクリュー12が前後方向に移動される。
【0018】
計量用エンコーダ19は、計量用サーボモータ13の回転位置を測定して回転位置出力A1として出力する。この回転位置出力A1に基づいて制御装置30の制御部33がスクリュー12の回転速度Rを取得する。
【0019】
射出用エンコーダ20は、射出用サーボモータ16の回転位置を測定して回転位置出力A2として出力する。この回転位置出力A2に基づいて制御装置30の制御部33がスクリュー12の前後方向の位置Lおよび移動速度Vを取得する。
【0020】
ロードセル21は、スクリュー12に加わる圧力を測定して圧力出力A3として出力する。この圧力出力A3に基づいて制御装置30の制御部33が、スクリュー12に加わる圧力を取得する。このスクリュー12の圧力の測定値は、加熱シリンダ11内におけるスクリュー12の前方空間Eに溜められている樹脂に加わる圧力(以下、単に「樹脂圧力P」という。)を示す。また、制御部33は、樹脂圧力Pの上昇速度Vpも取得する。上昇速度Vpは、単位時間当たりの樹脂圧力Pの増加量(Vp=ΔP/Δt)である。
【0021】
制御装置30は、設定格納部31と、表示操作部32と、制御部33と、計量用サーボアンプ34と、射出用サーボアンプ35と、を有している。
【0022】
設定格納部31は、例えばハードディスク装置や不揮発性メモリ等の書き換え可能な記憶媒体などを含んで構成されている。設定格納部31には、射出成形サイクルに含まれる各種動作のための条件値などが格納されている。
【0023】
設定格納部31には、例えば、射出開始位置Lsおよび速度目標値Vsが格納されている。射出開始位置Lsは、射出動作開始時のスクリュー12の位置である。速度目標値Vsは、射出動作におけるスクリュー12の移動速度Vの目標値である。
【0024】
設定格納部31には、射出動作における樹脂圧力Pの上限値である圧力上限値Psが格納されている。圧力上限値Psは、例えば、射出用サーボモータ16の定格出力などに基づいて設定される(例えば、定格出力の90%など)。
【0025】
設定格納部31には、射出動作における樹脂圧力Pの上昇速度Vpの制限判定値Vps、および、圧力許容期間Tpsが格納されている。制限判定値Vpsは、射出動作において材料を加熱シリンダ11とスクリュー12との間に実際に挟んだとき、すなわち、材料の挟み込みが生じたときの樹脂圧力Pの上昇速度Vpに基づいて(例えば、当該上昇速度Vpより少し低い速度に)設定される。圧力許容期間Tpsは、材料の挟み込みが生じたときの樹脂圧力Pの一時的な上昇期間に基づいて(例えば、当該上昇期間より少し長い期間に)設定される。
【0026】
設定格納部31には、保圧動作における樹脂圧力Pの目標値である保圧目標値Phが格納されている。保圧目標値Phは、射出成形機1の構成、成形品の形状、樹脂の種類などに応じて適宜設定される。
【0027】
設定格納部31には、保圧動作における樹脂圧力Pの上昇速度Vpの修正判定値Vph、および、変動制限期間Tphが格納されている。修正判定値Vphは、保圧動作において材料を加熱シリンダ11とスクリュー12との間に実際に挟んだときの樹脂圧力Pの上昇速度Vpに基づいて(例えば、当該上昇速度Vpより少し低い速度に)設定される。変動制限期間Tphは、保圧動作において材料を加熱シリンダ11とスクリュー12との間に実際に挟んだときの樹脂圧力Pの一時的な上昇期間に基づいて(例えば、当該上昇期間より少し長い期間に)設定される。
【0028】
表示操作部32は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイで構成された表示部32aと、この表示部32aの表示面に重ねて配置されたタッチパネルおよびハードウェアキーを備えた操作部32bとを有している。表示操作部32は、射出成形機1の状態確認、および、各種操作の入力に用いられる。また、表示操作部32は、設定格納部31への条件値の格納などにも用いられる。
【0029】
制御部33は、マイクロコンピュータ等により構成されている。制御部33は、各種動作において制御信号を生成し、この制御信号を計量用サーボアンプ34および射出用サーボアンプ35に出力して、計量用サーボモータ13および射出用サーボモータ16の制御を行う。また、制御部33は、制御信号を生成して図示しない型開閉機構の制御も行う。
【0030】
制御部33は、上述した各種動作において、計量用エンコーダ19の回転位置出力A1、射出用エンコーダ20の回転位置出力A2およびロードセル21の圧力出力A3、ならびに、設定格納部31に格納された条件値などに基づいて、上述したスクリュー12の回転速度R、移動速度Vおよび位置L、ならびに樹脂圧力Pを調整する。
【0031】
次に、上述した射出成形機1が射出成形サイクルで行う動作の一例について説明する。
【0032】
射出成形サイクルにおいて、制御部33は、スクリュー12を前進させることにより加熱シリンダ11内の前方空間Eに溜められた樹脂を金型内に射出する(射出動作)。射出動作に続いて、制御部33は、スクリュー12の前後方向の位置を調整することにより前方空間Eに溜められた樹脂を保圧する(保圧動作)。保圧動作に続いて、金型内の樹脂を固化させる(冷却動作)。冷却動作中に、制御部33は、前方空間Eに樹脂を計量して溜める計量動作を行う。冷却動作に続いて、制御部33は、図示しない型開閉機構によって金型を開いて成形品を取り出したのち金型を閉じる(型開閉動作)。
【0033】
射出動作における制御部33の動作(制御方法)について詳細に説明する。
【0034】
射出動作において、制御部33は、射出開始位置Lsにあるスクリュー12が速度目標値Vsで位置0に向かって移動するように、射出用エンコーダ20の回転位置出力A2に基づいて射出用サーボモータ16のフィードバック制御(例えばPID制御)を行う。このとき、制御部33は、ロードセル21の圧力出力A3に基づいて樹脂圧力P(スクリュー12に加わる圧力の測定値)および樹脂圧力Pの上昇速度Vpを取得する。
【0035】
制御部33は、射出動作において、樹脂圧力Pが圧力上限値Ps以下の場合(P≦Ps)、スクリュー12の移動速度Vが速度目標値Vsとなるように射出用サーボモータ16のフィードバック制御を行う。以下の説明では、このフィードバック制御のことを単に「移動速度Vに基づくフィードバック制御」という。
【0036】
制御部33は、射出動作において、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超え、かつ、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたときの上昇速度Vpが制限判定値Vps以下の場合(P>PsかつVp≦Vps)、移動速度Vに基づくフィードバック制御に優先して、樹脂圧力Pが圧力上限値Psとなるように射出用サーボモータ16の制御を行う。以下の説明では、この制御のことを単に「樹脂圧力Pに基づく制御」という。この制御では、射出用サーボモータ16の出力を制限して、樹脂圧力Pが圧力上限値Ps(または圧力上限値Ps以下の値でもよい)となるようにする。樹脂圧力Pと釣り合うように、移動速度Vが速度目標値Vsより低下する。その後、スクリュー12に加わる圧力が低下して、樹脂圧力Pと釣り合うように移動速度Vが速度目標値Vsに復帰すると、移動速度Vに基づくフィードバック制御に戻る。なお、上記「樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたとき」とは、文言通りのタイミングに加えて、当該タイミングから樹脂圧力Pの測定時間間隔程度ずれたタイミングも含む。
【0037】
制御部33は、射出動作において、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超え、かつ、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたときの上昇速度Vpが制限判定値Vpsを超えた場合(P>PsかつVp>Vps)、圧力許容期間Tpsにわたって、移動速度Vに基づくフィードバック制御を行う。具体的には、制御部33は、圧力許容期間Tpsにわたって、樹脂圧力Pが圧力上限値Psだったものとみなす(P=Ps)。これにより、制御部33は、圧力許容期間Tpsにわたって、樹脂圧力Pが圧力上限値Ps以下(P≦Ps)のときと同じく、移動速度Vに基づくフィードバック制御を行う。
【0038】
図2図6に、射出動作時のスクリューの位置Lとスクリューの移動速度Vおよび樹脂圧力Pとの関係の例を模式的に示す。図2図6では、射出動作を開始すると、移動速度Vに基づくフィードバック制御を行う。樹脂圧力Pは、スクリューの位置Lが位置0に近づくにしたがって傾き(上昇速度Vp)が徐々に小さくなるように変化しながら上昇する。図2図6において、実線は、制御部33が取得した移動速度Vおよび樹脂圧力Pを示し、一点鎖線は、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたときに樹脂圧力Pに基づく制御を行うところを、仮にそのまま移動速度Vに基づくフィードバック制御を行った場合の樹脂圧力Pを示す。
【0039】
図2は、射出成形機1において、材料が加熱シリンダ11とスクリュー12との間に挟まらず、樹脂圧力Pが圧力上限値Ps以下で推移した場合(材料の挟み込みがない場合)を示す。この場合、制御部33は、移動速度Vに基づくフィードバック制御を射出動作の最後まで行う。樹脂圧力Pは、傾き(上昇速度Vp)を徐々に小さくしながら圧力上限値Psに近づくように変化する。
【0040】
図3は、射出成形機1において、材料が加熱シリンダ11とスクリュー12との間に挟まらなかったものの、樹脂の粘度が高いために樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えてしまった場合(材料の挟み込みがなく、樹脂圧力Pが緩やかに圧力上限値Psを超えた場合)を示す。この場合では、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたときの上昇速度Vpは比較的低く、当該上昇速度Vpは制限判定値Vps以下である。そのため、制御部33は、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたとき、移動速度Vに基づくフィードバック制御より樹脂圧力Pに基づく制御を優先して行う。図3に示す例では、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたあと、樹脂圧力Pが圧力上限値Psで推移し、スクリュー12の移動速度Vが速度目標値Vsより低い速度となる。
【0041】
図4は、射出成形機1において、材料が加熱シリンダ11とスクリュー12との間に挟まり、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えてしまった場合(材料の挟み込みによって樹脂圧力Pが急上昇して圧力上限値Psを超えた場合)を示す。この場合では、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたときの上昇速度Vpは比較的高く、当該上昇速度Vpは制限判定値Vpsを超える。そのため、制御部33は、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたときから圧力許容期間Tpsにわたって、樹脂圧力Pが圧力上限値Psだったものとみなす。これにより、制御部33は、継続して、圧力許容期間Tpsにわたって移動速度Vに基づくフィードバック制御を行い、スクリュー12の移動速度Vが速度目標値Vsのまま維持される。そして、圧力許容期間Tpsを経過した時点で、樹脂圧力Pが圧力上限値Ps以下となり、引き続き、移動速度Vに基づくフィードバック制御を行う。なお、圧力許容期間Tpsを経過した時点で、樹脂圧力Pが圧力上限値以下に低下しない場合は、上昇速度Vpに応じて、図3に示すような樹脂圧力Pに基づく制御(Vp≦Vps)や、図6に示すような異常発生時の制御(Vp>Vps)を行う。
【0042】
図5は、従来の射出成形機において、材料が加熱シリンダとスクリューとの間に挟まり、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えてしまった場合(材料の挟み込みによって樹脂圧力Pが急上昇して圧力上限値Psを超えた場合)を示す。この場合、従来の射出成形機は、移動速度Vに基づくフィードバック制御より樹脂圧力Pに基づく制御を優先して行う。図5に示す例では、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたあと、射出用サーボモータ16の出力が一時的に制限されて樹脂圧力Pが圧力上限値Psとなり、スクリュー12の移動速度Vが一時的に速度目標値Vsより低い速度となる。そのため、加熱シリンダ11内の前方空間Eに溜められている樹脂に加わる圧力が一時的に低下する。
【0043】
図6は、射出成形機1において、何らかの原因によって樹脂圧力Pが急上昇して圧力上限値Psを超えてしまった場合(異常発生によって樹脂圧力Pが急上昇して圧力上限値Psを超えた場合)を示す。この場合では、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたときの上昇速度Vpは比較的高く、当該上昇速度Vpは制限判定値Vpsを超える。そのため、図4に示す場合と同様に、制御部33は、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えたときから圧力許容期間Tpsにわたって、樹脂圧力Pが圧力上限値Psだったものとみなす。これにより、制御部33は、継続して、圧力許容期間Tpsにわたって移動速度Vに基づくフィードバック制御を行い、スクリュー12の移動速度Vが速度目標値Vsのまま維持される。そして、圧力許容期間Tpsを経過した時点で、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えかつ上昇速度Vpが制限判定値Vpsを超えていたとき、異常が発生したものとして、制御部33は、射出用サーボモータ16を停止する。なお、射出成形機1では、設定格納部31に、圧力上限値Psより高い異常停止判定値Peを格納しておき、樹脂圧力Pが異常停止判定値Peを超えたときに、制御部33が射出用サーボモータ16を停止するようにしてもよい。
【0044】
次に、保圧動作における制御部33の動作(制御方法)について詳細に説明する。
【0045】
保圧動作において、制御部33は、ロードセル21の圧力出力A3に基づいて樹脂圧力Pおよび樹脂圧力Pの上昇速度Vpを取得する。そして、制御部33は、スクリュー12を前進または後退させて樹脂圧力Pが保圧目標値Phとなるように射出用サーボモータ16をフィードバック制御する。
【0046】
保圧動作において、樹脂圧力Pが保圧目標値Phより小さいとき(P<Ph)、樹脂圧力Pを上昇させるために、制御部33は、スクリュー12が前進するように射出用サーボモータ16をフィードバック制御する。
【0047】
スクリュー12の前進によって、樹脂圧力Pが保圧目標値Phを超え、かつ、樹脂圧力Pが保圧目標値Phを超えたときの上昇速度Vpが修正判定値Vph以下の場合(P>PhかつVp≦Vph)、制御部33は、樹脂圧力Pを低下させるために、スクリュー12が停止するようにまたはスクリュー12が後退するように射出用サーボモータ16をフィードバック制御する。なお、上記「樹脂圧力Pが保圧目標値Phを超えたとき」とは、文言通りのタイミングに加えて、当該タイミングから樹脂圧力Pの測定時間間隔程度ずれたタイミングも含む。
【0048】
スクリュー12の前進によって、樹脂圧力Pが保圧目標値Phを超え、かつ、樹脂圧力Pが保圧目標値Phを超えたときの上昇速度Vpが修正判定値Vphを超えた場合、修正測定値である修正樹脂圧力Paを取得する。そして、制御部33は、変動制限期間Tphにわたって、修正樹脂圧力Paを樹脂圧力Pとして用いて射出用サーボモータ16のフィードバック制御を行う。このようにすることで、樹脂圧力Pが急上昇した場合であっても、樹脂圧力Pの変動を鈍らせてフィードバック制御を行うことができる。
【0049】
制御部33は、次の(a)~(c)の方法により、修正樹脂圧力Paを取得する。
【0050】
(a)制御部33は、上昇速度Vpが修正判定値Vphを超えたときの樹脂圧力Pを修正樹脂圧力Paとして取得する。
【0051】
(b)制御部33は、上昇速度Vpが修正判定値Vphを超えたときの樹脂圧力Pを基準測定値Pcとして、樹脂圧力Pから基準測定値Pcを差し引いた差分値に1より小さい係数(例えば、0.2~0.8)を乗じて得た値を基準測定値Pcに加えた値を修正樹脂圧力Paとして取得する。
(c)制御部33は、保圧目標値Phを修正樹脂圧力Paとして出力する。
【0052】
従来の射出成形機では、保圧動作において、スクリュー12を前進させた際に材料が加熱シリンダ11とスクリュー12との間に挟まると、スクリュー12に後退方向の力が働いて、樹脂圧力Pが急上昇することがある。そのため、加熱シリンダ11内の前方空間Eの樹脂に加わる圧力が上昇していないにもかかわらず、樹脂圧力Pを下げるようにフィードバック制御を行ってしまい、これにより、加熱シリンダ11内の前方空間Eの樹脂に加わる圧力が一時的に低下してしまう。そして、本実施形態の射出成形機1では、上述した制御を行うので、保圧動作において、スクリュー12を前進させた際に材料が加熱シリンダ11とスクリュー12との間に挟まった場合でも、樹脂圧力Pの変動を鈍らせてフィードバック制御を行うことができる。
【0053】
以上説明したように、射出成形機1は、加熱シリンダ11と、加熱シリンダ11内に収容されたスクリュー12と、スクリュー12を前後進させる射出用サーボモータ16と、スクリュー12に加わる圧力(樹脂圧力P)を測定するロードセル21と、射出用サーボモータ16を制御する制御装置30と、を有する。制御装置30は、射出動作において、ロードセル21によって測定された樹脂圧力Pが圧力上限値Ps以下のとき、スクリュー12の移動速度Vが速度目標値Vsとなるように射出用サーボモータ16を制御する。制御装置30は、射出動作において、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えかつ樹脂圧力Pの上昇速度Vpが制限判定値Vps以下のとき、樹脂圧力Pが圧力上限値Ps以下となるように射出用サーボモータ16を制御する。そして、制御装置30は、射出動作において、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えかつ樹脂圧力Pの上昇速度Vpが制限判定値Vpsを超えたとき、圧力許容期間Tpsにわたって、スクリュー12の移動速度Vが速度目標値Vsとなるように射出用サーボモータ16を制御する。このようにしたことから、制御装置30は、材料を加熱シリンダ11とスクリュー12との間に挟んだときに、射出用サーボモータ16の出力を制限することなく、スクリュー12の移動速度Vが速度目標値Vsとなるように射出用サーボモータ16を制御する。そのため、射出成形機1は、射出動作時にスクリュー12の移動速度Vが一時的に低下することを抑制でき、加熱シリンダ11内の前方空間Eに溜められている樹脂に加わる圧力が一時的に低下することを抑制できる。
【0054】
また、制御装置30は、射出動作において、樹脂圧力Pが圧力上限値Psを超えかつ樹脂圧力Pの上昇速度Vpが制限判定値Vpsを超えたとき、圧力許容期間Tpsにわたって、樹脂圧力Pが圧力上限値Psだったものとみなして射出用サーボモータ16を制御する。このようにすることで、射出成形機1は、簡易な処理で射出動作時にスクリュー12の移動速度Vが一時的に低下することを抑制でき、加熱シリンダ11内の前方空間Eに溜められている樹脂に加わる圧力が一時的に低下することを抑制できる。
【0055】
また、制御装置30は、保圧動作において、樹脂圧力Pが保圧目標値Phとなるように射出用サーボモータ16を制御する。制御装置30は、保圧動作において、樹脂圧力Pが保圧目標値Phを超えかつ樹脂圧力Pの上昇速度Vpが修正判定値Vphを超えたとき、変動制限期間Tphにわたって、修正樹脂圧力Paを樹脂圧力Pとして用いて射出用サーボモータ16を制御する。(a)制御装置30は、樹脂圧力Pの上昇速度Vpが修正判定値Vphを超えたときの当該樹脂圧力Pを修正樹脂圧力Paとして取得する。または、(b)制御装置30は、樹脂圧力Pの上昇速度Vpが修正判定値Vphを超えたときの当該樹脂圧力Pを基準測定値Pcとして、樹脂圧力Pから基準測定値Pcを差し引いた差分値に1より小さい係数を乗じて得た値を基準測定値Pcに加えた値を修正樹脂圧力Paとして取得する。または、(c)制御装置30は、保圧目標値Phを修正樹脂圧力Paとして取得する。このようにすることで、射出成形機1は、保圧動作において、材料を加熱シリンダ11とスクリュー12との間に挟んだことにより樹脂圧力Pが急上昇した場合であっても、樹脂圧力Pの変動を鈍らせてフィードバック制御を行うことができる。そのため、不適切なフィードバック制御を抑制できる。
【0056】
上記に本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…射出成形機、10…射出装置、11…加熱シリンダ、11a…ノズル、11b…ホッパ、12…スクリュー、13…計量用サーボモータ、13a…出力プーリ、14…計量用タイミングベルト、15…計量プーリ、16…射出用サーボモータ、16a…出力プーリ、17…射出用タイミングベルト、18…ボールねじ機構、18a…ねじ軸、18b…射出プーリ、18c…ナット部、19…計量用エンコーダ、20…射出用エンコーダ、21…ロードセル、30…制御装置、32…表示操作部、32a…表示部、32b…操作部、33…制御部、34…計量用サーボアンプ、35…射出用サーボアンプ、Ls…射出開始位置、P…樹脂圧力、Ps…圧力上限値、Ph…保圧目標値、Vp…上昇速度、Vps…制限判定値、Vph…修正判定値、V…移動速度、Vs…速度目標値、Tps…圧力許容期間、Tph…変動制限期間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7